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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1325618
審判番号 不服2015-6662  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-08 
確定日 2017-02-28 
事件の表示 特願2013-97「骨インプラントに用いるための多孔構造上の酸化ジルコニウム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年4月4日出願公開、特開2013-59673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年12月16日(パリ条約による優先権主張 2003年12月16日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2006-545374号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成25年1月4日に新たな特許出願としたものであって、平成26年4月1日付けで拒絶理由が通知され、同年10月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年4月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、同年5月26日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 平成27年4月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
補正前(平成26年10月7日付けの手続補正によるもの)の
「【請求項1】
発泡体材料で形成され、相互接続された連続的な通路を有する相互接続網状組織を備える、網状オープンセル基材と、
前記相互接続網状組織を覆っている暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面と、
を備えた複合材料であって、
前記発泡体材料は、炭素質材料、ポリマー材料、セラミック、金属、及び金属合金で構成される群から選択されることを特徴とする複合材料。」を、
補正後の
「【請求項1】
発泡体材料で形成され、相互接続された連続的な通路を有する相互接続網状組織を備える、網状オープンセル基材と、
前記相互接続網状組織を覆っている暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面と、
を備えた複合材料であって、
前記網状オープンセル基材は、その全体が前記相互接続網状組織からなり、
前記発泡体材料は、炭素質材料、ポリマー材料、セラミック、金属、及び金属合金で構成される群から選択されることを特徴とする複合材料。」(下線は、原文のとおり)
とするものである。

2 本件補正についての検討
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「網状オープンセル基材」について、「前記網状オープンセル基材は、その全体が前記相互接続網状組織からなり」との限定を付すことでその形態を減縮したものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用例及びそれらの記載事項
(1)本願の優先権主張の日前である昭和62年11月11日に頒布された刊行物である「特開昭62-258668号公報」(原査定の引用文献6。以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下の下線は当審で付したものである。

(1a)「2.特許請求の範囲
(1)連続気孔を有する多孔質体よりなるインプラント用人工骨において、連続気孔内壁にCVD反応により被覆膜を形成したことを特徴とするインプラント用人工骨。」(1頁左欄4?8行)

(1b)「従来、インプラント用人工骨は金属製のものが殆どであったが、近年、金属製に代る優れた人工骨として各種セラミックス製の人工骨が開発、使用されている。
・・・
[発明が解決しようとする問題点]
セラミックス製人工骨は生体に対するなじみが良い等の利点を有する反面、本来、セラミックスは脆性材料であることから、機械的特性に関しては信頼性に欠けるという問題があった。
特に、インプラント人工骨は、通常、できるだけ自然に生体の骨肉に固定させるために多孔質体とされており、しかも、多孔質体として十分な固定効果を奏するためには、孔径の大きい、例えば0.1mmあるいはそれ以上の孔径の、連続気孔からなる多孔質体とする必要があることから、その機械的強度は大幅に低下し、クラックやピンホールが入り易く、著しい場合には人工骨が損傷するおそれがある。
[問題点を解決するための手段]
本発明は上記従来の問題点を解決し、生体とのなじみも良く、しかも機械的強度にも優れたインプラント用人工骨を提供する・・・ものである。」(1頁右欄8行?2頁右上欄14行)

(1c)「CVD反応により形成する被覆膜の材質としては、生体とのなじみ、生体への影響を考慮した場合、セラミックスが好ましく、セラミックスのなかでも、強度等の面からジルコニアが最適である。
被覆膜3の厚さには特に制限はないが、膜厚が薄過ぎると、被覆膜による十分な強度向上効果が得られず、逆に厚過ぎると被覆膜剥離の問題が起こる可能性が生じるため、これらを勘案して適当な厚さに形成するのが良い。」(2頁左下欄4?13行)

(1d)「実施例1
第3図(a)、(b)に示す方法により、連続気孔(気孔率80%、平均気孔径150μm)を有するジルコニアセラミック多孔質体2にCVD反応ガスを送給し、連続気孔内壁に平均膜厚10μmのジルコニアCVD被覆膜を形成して、本発明のインプラント人工骨を製造した。
この人工骨を所定寸法に切り出してサンプルとなし、曲げ強度測定試験を行った。結果を第1表に示す。
なお、比較例として、CVD被覆処理を行ってないジルコニア多孔質焼結体よりなるインプラント用人工骨についても同様に試験し、その結果を第1表に併記した。

第1表より、本発明のインプラント用人工骨は従来のものに比し、強度が著しく高いことが明らかである。」(3頁右下欄8行?4頁左上欄4行)

(2)本願の優先権主張の日前である2003年1月30日に頒布された刊行物である「国際公開第03/008008号」(原査定の引用文献1。以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、引用例2は英文のためその記載事項は翻訳文で示す。翻訳文は、特表2005-506858号公報(以下、「対応公表公報」という。)を参考にしたので、対応箇所も併記する。

(2a)「1.ジルコニウム又はジルコニウム合金で形成され患者の身体の組織に挿入するための移植部分を備える人工装具本体と、支持面と、前記支持面と共働するように適合した対向支持面とを備え、前記支持面が、暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウム被膜を有し、対向支持面が架橋ポリエチレンからなる人工装具。」(17頁2?7行:対応公表公報【請求項1】)

(2b)「[0010]金属人工装具は人体において必ずしも不活性ではないということも見出された。体液は金属に作用し、それをイオン化作用によりゆっくりと腐食させ、それによって金属イオンを体内に放出する。人工装具から放出された金属イオンも関節と負荷支持面の摩耗速度に関連する。それは、予想されるように、金属大腿部ヘッドが、例えば、UHMWPEと関節でつながるとき、大腿部ヘッド上に形成される不動態の酸化フィルムが常に除去されるからである。その再不動態化作用がその作用中に常に金属イオンを放出する。さらに、第三摩耗物質(セメントや骨のくず)の存在がこの作用を加速し、微細な摩損金属粒子が摩擦を増加する。結果的に、寛骨臼カップ内のUHMWPEの裏打ちは、大腿部ヘッドに対して関節でつながれて、増大したレベルのクリープ,摩耗およびトルクにさらされる。これらの有害な影響を減らすことによって、金属イオン放出の問題が改善される。」(対応公表公報【0010】)

(2c)「[0016]この発明において、XLPEの性能における改良は、XLPE組成物における改良を通じてではなく、むしろ、XLPE要素が関節でつながる対向支持面としての酸化ジルコニウム又は他の耐摩損表面の使用を通じて実現される。この発明の利点は、負の特性の一部を同時に除去することによって、XLPEの所望の特性を保護することである。‘438特許は、XLPEの表面に直接接触する酸化ジルコニウム表面の使用について検討も開示もしていない。発明者らは、酸化ジルコニウムの新しい特性が対向支持面としてのXLPEの本来の利点を目立たせるということを発見した。暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの優れた強度と硬度、低摩擦、耐摩耗性、熱伝導度及び生体適合性は、従来技術の人工装具がさらされてきた摩耗を著しく減速させ、可能な限り防止するのに十分である。酸化ジルコニウムの新しい特性は対向支持面としてのXLPEの性能を改良するように作用するので、明らかでない共同作用が十分に理解される。これらの予期しない利点はまた、他の耐摩耗性表面が使用される場合にも、ある程度まで存在する。」(対応公表公報【0016】)

(2d)「[0031]上記特徴のいずれかを備える他の実施態様において、人工装具は、酸化ジルコニウムの表面と架橋ポリエチレンの表面とを備え、酸化ジルコニウムの表面が、架橋ポリエチレンの表面に直接接触する非関節面によって特徴付けられる。
[0032]ある特定の実施態様において、非関節人工装具は、骨板、骨ねじ、頭骨板、下顎インプラント、歯科インプラント、内部固定具、外部固定具、空間フレーム、ピン、くぎ、ワイヤ及びステイプルを含むグループから選択される。」(対応公表公報【0031】?【0032】)

(2e)「[0037]この発明は、低摩擦の、耐摩耗性及び耐クリープ性の、人工装具用関節、界面支持面を提供する。好ましくは、この発明は、一方の接触面が暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムから形成され他方の接触面がXLPEから形成される人工装具を提供する。また、一方の接触面は耐摩耗材料から形成され、他方の接触面はXLPEから形成される。」(対応公表公報【0037】)

(2f)「[0038]酸化ジルコニウムはそれ自体が多様であり、白、ベージュ、及び黒色を含む。白色の種類は、基体を容易に分離及び分裂させる傾向があるので、この発明では特に好まれない。従来の酸化ジルコニウム表面は、例えば単純な空気酸化によって形成され、暗藍色又は黒色変化したものではない。」(対応公表公報【0038】)

(2g)「[0053]酸化ジルコニウムは、それが従来の人工装具材料に対して有する優れた熱伝導度に関して、新しい。それは、優れた表面粗さ特性と、非常に高い熱伝導度とを併用する。このようにして、それは、金属とセラミックスの(XLPEに特有の)関連した有役な特性を有し、前者の関連する欠点を排除して後者より性能が優れる。従って、ジルコニア又はアルミナのような全ての耐摩耗性表面は、XLPEの減少した摩耗と、耐クリープにおける少なくとも多少の改良との恩恵を享受し、また、酸化ジルコニウムは、著しく減少した摩耗と、著しく減少したクリープ感受性との両方を享受する。以下の表1に、これらの特徴を概略的に示す。
表1:種々の特性に関する人工装具表面の相対的な性能及び対向支持面上の総合的な低下効果


」(対応公表公報【0053】、【表1】)

(2h)「[0056]ジルコニウム又はジルコニウム合金はまた、周囲の骨や他の組織と一体化して酸化ジルコニウム・オン・酸化ジルコニウムの人工装具を安定化させる多孔性ビーズ又は金網表面を提供するために使用することができる。これらの多孔性被膜は、金属イオンの放出を排除又は低減させるベース人工装具の酸化と同様の酸化処理によって同時に処理できる。さらに、ジルコニウム又はジルコニウム合金もまた、酸化ジルコニウムの被膜が自然酸化で形成される前に、従来のインプラント材料に適用される表面層として使用できる。」(対応公表公報【0056】)

4 引用例に記載の発明
(1)引用例1の上記(1a)の特許請求の範囲には、「連続気孔を有する多孔質体よりなるインプラント用人工骨において、連続気孔内壁にCVD反応により被覆膜を形成したことを特徴とするインプラント用人工骨。」が記載されている。
そして、前記特許請求の範囲に記載の発明の具体例を示す実施例として、上記(1d)の実施例1には、「連続気孔(気孔率80%、平均気孔径150μm)を有するジルコニアセラミック多孔質体2にCVD反応ガスを送給し、連続気孔内壁に平均膜厚10μmのジルコニアCVD被覆膜を形成して、本発明のインプラント人工骨を製造した」ことが記載されている。

(2)これらの記載からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「連続気孔を有するジルコニアセラミック多孔質体よりなるインプラント用人工骨において、連続気孔内壁にCVD反応によりジルコニア被覆膜を形成したことを特徴とするインプラント用人工骨。」

5 対比
そこで、以下に本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「連続気孔を有するジルコニアセラミック多孔質体」は、「インプラント用人工骨」の本体をなすものであり基材といえるから、本願補正発明の「発泡体材料で形成され、相互接続された連続的な通路を有する相互接続網状組織を備える、網状オープンセル基材」であって、「前記網状オープンセル基材は、その全体が前記相互接続網状組織からな」るものに相当する。
また、引用発明の「ジルコニアセラミック多孔質体」は、本願補正発明の「前記発泡体材料は、炭素質材料、ポリマー材料、セラミック、金属、及び金属合金で構成される群から選択される」なる発明特定事項と、「セラミック」からなる「発泡体材料」である点で一致するから、該発明特定事項に相当する。

(2)引用発明における「ジルコニア」は、「酸化ジルコニウム」と同義であることは技術常識であるから、引用発明の「連続気孔内壁にCVD反応によりジルコニア被覆膜を形成した」ことと、本願補正発明の「前記相互接続網状組織を覆っている暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面」とは、「前記相互接続網状組織を覆っている酸化ジルコニウムの表面」である点で共通する。

(3)引用発明の「インプラント用人工骨」は、「連続気孔を有するジルコニアセラミック多孔質体」と、その「連続気孔内壁」の「ジルコニア被覆膜」を備えたものである。
一方、本願補正発明の「複合材料」は、「相互接続網状組織を備える、網状オープンセル基材」と「相互接続網状組織を覆っている」「酸化ジルコニウムの表面」とを備えたものである。そして、本願明細書の段落【0001】に、「この発明は、1又は2以上の材料が堆積されているオープンセル構造を有する複合材料に関する。この複合材料は、特に、骨インプラントの使用に適用可能であるが、他の応用にも使用できる。」と記載されていることから、本願補正発明の「複合材料」は「骨インプラント」も包含する。
よって、引用発明の「インプラント用人工骨」は、本願補正発明の「複合材料」に相当する。

(4)以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

一致点:
「発泡体材料で形成され、相互接続された連続的な通路を有する相互接続網状組織を備える、網状オープンセル基材と、
前記相互接続網状組織を覆っている酸化ジルコニウムの表面と、
を備えた複合材料であって、
前記網状オープンセル基材は、その全体が前記相互接続網状組織からなり、
前記発泡体材料は、炭素質材料、ポリマー材料、セラミック、金属、及び金属合金で構成される群から選択されることを特徴とする複合材料。」である点

相違点:
「酸化ジルコニウムの表面」が、本願補正発明では、「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面」であるのに対し、引用発明では、「ジルコニア被覆膜」である点

6 判断
そこで、以下に上記相違点について検討する。

(1)引用例1の上記(1b)には、「従来、インプラント用人工骨は金属製のものが殆どであったが、近年、金属製に代る優れた人工骨として各種セラミックス製の人工骨が開発、使用されている」こと、「セラミックス製人工骨は生体に対するなじみが良い等の利点を有する反面、本来、セラミックスは脆性材料であることから、機械的特性に関しては信頼性に欠けるという問題があった」ことから、「本発明は上記従来の問題点を解決し、生体とのなじみも良く、しかも機械的強度にも優れたインプラント用人工骨を提供する」と記載されている。
また、上記(1c)には、「CVD反応により形成する被覆膜の材質としては、・・・強度等の面からジルコニアが最適である。被覆膜3の厚さには特に制限はないが、膜厚が薄過ぎると、被覆膜による十分な強度向上効果が得られず・・・」と記載されている。
そして、上記(1d)の実施例1では、「比較例として、CVD被覆処理を行ってないジルコニア多孔質焼結体よりなるインプラント用人工骨」を用い、曲げ強度測定試験を行った結果について、「第1表より、本発明のインプラント用人工骨は従来のものに比し、強度が著しく高いことが明らかである。」と記載されている。

(2)以上のことから、引用発明は、ジルコニアセラミック多孔質体よりなるインプラント用人工骨の機械的強度を高める目的で、連続気孔内壁にCVD反応によりジルコニア被覆膜を形成したものであることが理解できる。

(3)一方、引用例2には、「ジルコニウム又はジルコニウム合金で形成され患者の身体の組織に挿入するための移植部分を備える人工装具本体と、支持面と、前記支持面と共働するように適合した対向支持面とを備え、前記支持面が、暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウム被膜を有し、対向支持面が架橋ポリエチレンからなる人工装具。」(上記(2a))、すなわち、「一方の接触面が暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムから形成され他方の接触面がXLPEから形成される人工装具」(上記(2e))が記載されている。

(4)そして、「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウム」について、「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの優れた強度と硬度、低摩擦、耐摩耗性、熱伝導度及び生体適合性は、従来技術の人工装具がさらされてきた摩耗を著しく減速させ、可能な限り防止するのに十分である」(上記(2c))ことや、「酸化ジルコニウムはそれ自体が多様であり、白、ベージュ、及び黒色を含む。白色の種類は、基体を容易に分離及び分裂させる傾向があるので、この発明では特に好まれない。従来の酸化ジルコニウム表面は、例えば単純な空気酸化によって形成され、暗藍色又は黒色変化したものではない」(上記(2f))ことが記載されている。
さらに、「酸化ジルコニウムは、それが従来の人工装具材料に対して有する優れた熱伝導度に関して、新しい。それは、優れた表面粗さ特性と、非常に高い熱伝導度とを併用する。・・・従って、ジルコニア又はアルミナのような全ての耐摩耗性表面は、XLPEの減少した摩耗と、耐クリープにおける少なくとも多少の改良との恩恵を享受し、また、酸化ジルコニウムは、著しく減少した摩耗と、著しく減少したクリープ感受性との両方を享受する」との説明に続き、「種々の特性に関する人工装具表面の相対的な性能及び対向支持面上の総合的な低下効果」を示した表1には、「酸化ジルコニウム」が「ジルコニア」に比べて、「強度」において優れていることが示されている(上記(2g))。
(なお、この表1における「酸化ジルコニウム」が、引用例2における「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウム」であって、「ジルコニア」が「暗藍色又は黒色変化したものではない」「従来の酸化ジルコニウム」を意味することは、引用例2の記載全体からみて明らかである。)

(5)また、引用例2には、「人工装具は、酸化ジルコニウムの表面と架橋ポリエチレンの表面とを備え、酸化ジルコニウムの表面が、架橋ポリエチレンの表面に直接接触する非関節面によって特徴付けられる。ある特定の実施態様において、非関節人工装具は、骨板、骨ねじ、頭骨板、下顎インプラント、歯科インプラント、内部固定具、外部固定具、空間フレーム、ピン、くぎ、ワイヤ及びステイプルを含むグループから選択される。」(上記(2d))と記載されているように、引用例2は、身体の組織に挿入するための移植部分を備える様々な人工装具を対象とするものである。

(6)そうすると、引用例1及び引用例2は、いずれも身体の組織に挿入するための物品という点で共通し、いずれも酸化ジルコニウム被膜を有するものである点でも共通するところ、引用例2には、酸化ジルコニウムの中でも特に「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウム」が優れた強度を有することが示されていることから、引用発明において、連続気孔内壁に形成するジルコニア被覆膜を、暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムとして、本願補正発明の相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(7)本願補正発明の効果について
本願明細書には、本願補正発明の「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面」を備えた複合材料に関する実施例の記載はない。したがって、具体的な数値などを伴う複合材料に関する効果を示した結果はない。
そこで、他の記載を検討するに、「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面」を備えた複合材料としたことについて次のような記載がある。

「酸化ジルコニウムは、高い強度と高い耐摩耗性のため、表面材料として選択される。本発明の主題である組成物の酸化ジルコニウムの表面は、これがなければ基材材料と接触するおそれのある基材と任意の体液との間の生体適合性のある内部セラミック障壁の提供にも有用である。それ故、酸化ジルコニウム表面が、イオン化及び誘導摩耗の腐食されることなく、インプラント組成物の寿命及び生体適合性のいずれもが増大する。」(【0034】)

これについて検討するに、引用例2にも、上記(2c)に、「暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの優れた強度と硬度、低摩擦、耐摩耗性、熱伝導度及び生体適合性は、従来技術の人工装具がさらされてきた摩耗を著しく減速させ、可能な限り防止するのに十分である。」と記載されている。
また、引用例2の「体液は金属に作用し、それをイオン化作用によりゆっくりと腐食させ、それによって金属イオンを体内に放出する。人工装具から放出された金属イオンも関節と負荷支持面の摩耗速度に関連する。」(上記(2b))との記載や、「これらの多孔性被膜は、金属イオンの放出を排除又は低減させるベース人工装具の酸化と同様の酸化処理によって同時に処理できる。」(上記(2h))との記載から、基材と体液との間の障壁の提供にも有用であることは、当業者が予測し得た事項である。

(8)まとめ
以上より、本願補正発明は、引用例1及び2の記載に基づき当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

7 むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年4月8日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年10月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
発泡体材料で形成され、相互接続された連続的な通路を有する相互接続網状組織を備える、網状オープンセル基材と、
前記相互接続網状組織を覆っている暗藍色又は黒色の酸化ジルコニウムの表面と、
を備えた複合材料であって、
前記発泡体材料は、炭素質材料、ポリマー材料、セラミック、金属、及び金属合金で構成される群から選択されることを特徴とする複合材料。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、引用文献6、及び引用文献1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということを含むものである。

引用文献6:特開昭62-258668号公報(先の引用例1と同じ)
引用文献1:国際公開第03/008008号(先の引用例2と同じ)

3 引用例及びそれらの記載事項、及び引用例に記載の発明
拒絶査定の理由に引用された引用例の記載事項及び引用例に記載の発明は、前記「第2 3 引用例及びそれらの記載事項」及び「第2 4 引用例に記載の発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2 5 対比」で検討した本願補正発明から、「前記網状オープンセル基材は、その全体が前記相互接続網状組織からなり、」との発明特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記「第2 6 判断」に記載したとおり、引用例1及び2の記載に基づき当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様に特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-28 
結審通知日 2016-10-03 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2013-97(P2013-97)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 小久保 勝伊
関 美祝
発明の名称 骨インプラントに用いるための多孔構造上の酸化ジルコニウム  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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