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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1325665
審判番号 不服2016-9078  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-20 
確定日 2017-03-28 
事件の表示 f「」 特願2012- 3757「液冷一体型基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月23日出願公開、特開2012-160722、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年1月12日(優先権主張 平成23年1月14日)の出願であって、平成27年7月24日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月1日付けで手続補正がなされたが、平成28年3月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月20日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成28年3月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1,3,4,6?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.国際公開第2009/116439号
2.特開2008-192705号公報
3.特開2006-240955号公報
4.特開2001-300762号公報
5.特開2009-215595号公報
6.特開2010-268008号公報

第3 平成28年6月20日付けの手続補正の適否

1.補正の内容
平成28年6月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、
「【請求項1】
セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には一体的に押出し成形された一つの押出し材で構成される液冷式のA6063合金製放熱器が接合された液冷一体型基板の製造方法であって、
前記放熱器は多孔管からなり、前記多孔管の冷媒の流路は断面視矩形を呈し、該流路の溝幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が、
3.3W<D<10W
を満たし、
前記金属回路板および前記金属ベース板と前記セラミックス基板との接合は溶湯接合法によって行われ、
前記金属ベース板と前記放熱器との接合はろう接合法によって行われ、
前記ろう接合法において、Al-Si-Mg合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートを、前記金属ベース板と前記放熱器との間に挟みこみ面接触させた状態で、前記金属ベース板と前記放熱器とを、(1)式以上、かつ前記多孔管の仕切り板に負荷される仕切り板面圧が、-0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下となる面圧で加圧した後に加熱して、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、無フラックスでろう付け接合することを特徴とする、液冷一体型基板の製造方法。
面圧(MPa)=-1.25×10^(-3)×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0
・・・(1)
【請求項2】
前記金属ベース板の放熱器接合側の面の表面粗さがRa1.0?2.0μmであることを特徴とする、請求項1に記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項3】
前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と仕切り板の幅T(mm)との関係が、
-W+1.4<T/W<-1.5W+3.3 (0.4≦W≦1.0の場合)
-0.2W+0.7<T/W<-1.5W+3.3 (1.0<W<2.0の場合)
を満たすことを特徴とする、請求項2に記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項4】
前記溝幅Wが0.4mm以上であることを特徴とする、請求項2または3に記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属回路板の表面粗さがRa0.3?2.0μmであることを特徴とする、請求項2?4のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項6】
前記放熱器は熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる、請求項1?5のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項7】
前記金属ベース板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項1?6のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項8】
前記金属回路板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項1?7のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項9】
前記金属回路板の厚さt1と前記金属ベース板の厚さt2の関係はt2/t1≧2を満たす厚さに形成される、請求項1?8のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項10】
前記金属回路板の厚さt1は0.4?3mmであり、前記金属ベース板の厚さt2は0.8?6mmである、請求項1?9のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項11】
前記単層ブレージングシートの厚さが10?200μmであることを特徴とする、請求項1?10のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。」
と補正する補正事項を含むものである。

2.補正の適否
上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、多孔管からなる「放熱器」について、「A6063合金製」であるとの限定を付加するとともに、その流路が「断面視矩形」を呈するとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
(1-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2009/116439号(以下、「引用例1」という。)には、「ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[3] ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
第1面及び第2面を有する絶縁基板と、ヒートシンクとを準備し、
前記絶縁基板の前記第1面に回路層を接合し、前記絶縁基板の前記第2面に金属層を接合することによって、パワーモジュール用基板を形成し、
前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを積層させ、積層方向に0.15?3MPaで加圧することにより、前記パワーモジュール用基板の前記金属層と前記ヒートシンクとを接合することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。」

イ.「[0023] ヒートシンク17は、前述のパワーモジュール用基板11を冷却するための部材であり、パワーモジュール用基板11に接合される天板部18と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路19とを備えている。
ヒートシンク17のうち少なくとも天板部18は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましい。本実施形態においては、A6063のアルミニウム材で構成されている。
また、天板部18の厚さDは、1mm≦D≦10mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、D=1.7mmに設定されている。
[0024] そして、パワーモジュール用基板11の金属層14とヒートシンク17の天板部18とが、ろう付けによって直接接合されている。
本実施形態においてはAl-Si系のろう材箔28を用いてろう付けしており、ろう材のSiが金属板24に拡散することで金属層14にはSiの濃度分布が生じている。
前述のように、金属層14は、絶縁基板12とろう材箔27を用いてろう付けされ、ヒートシンク17の天板部18とろう材箔28を用いてろう付けされている。そのため、金属層14においては、図2に示すように、Siの濃度分布によってビッカース硬度が厚さ方向で変化している。」

ウ.「[0025] このようなヒートシンク付パワーモジュール用基板10は、以下のようにして製造される。
図3(a)に示すように、まず、AlNからなる絶縁基板12を準備する。次に、絶縁基板12の第1面12aに、回路層13となる金属板23(4Nアルミニウム)をろう材箔26を介在させて積層する。ろう材箔26の厚さは、0.02mmである。また、絶縁基板12の第2面12bに、金属層14となる金属板24(4Nアルミニウム)をろう材箔27を介在させて積層する。ろう材箔27の厚さは、ろう材箔26と同じである。
次に、このようにして形成された積層体をその積層方向に加圧した状態で真空炉内に装入し、ろう付けを行う。これによって絶縁基板12,回路層13,及び金属層14によって構成されたパワーモジュール用基板11が形成される(1次接合工程S1)。
[0026] 次に、図3(b)に示すように、パワーモジュール用基板11の金属層14の表面に、ろう材箔28を介してヒートシンク17の天板部18が積層される。ろう材箔28の厚さは、厚さ0.05mmである。
このように積層した状態で積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行うことで、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10が製造される(2次接合工程S2)。
ここで、2次接合工程S2においては、0.15?3MPaの圧力でパワーモジュール用基板11とヒートシンク17とが積層方向に加圧される。」

エ.「[0030] また、金属層14が、接合する前の状態において純度99.99%以上のアルミニウム、いわゆる4Nアルミニウムで構成されている。これにより、金属層14の変形抵抗が小さく、金属層14とヒートシンク17の天板部18とを接合する2次接合工程S2において、積層方向に加圧した際に金属層14を十分に変形させることが可能となり、反りの発生を確実に抑制することができる。
[0031] さらに、金属層14とヒートシンク17の天板部18とを接合する2次接合工程S2においては、0.15?3MPaの圧力でパワーモジュール用基板11とヒートシンク17とが積層方向に加圧されるので、金属層14を確実に変形させて、反りを抑制することができる。」

オ.「また、回路層及び金属層が純度99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)によって構成された例を説明したが、本発明はこれに限定されない。純度99%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)又はアルミニウム合金によって回路層及び金属層が構成されてもよい。
ただし、金属層の変形抵抗が小さくなって反りを抑制する効果を確実に得ることができるので、純度99.99%以上のアルミニウムを用いることが好ましい。
さらに、ヒートシンクがA6063のアルミニウム材によって構成された例を説明したが、本発明はこれに限定されない。純アルミニウムによってヒートシンクが構成されてもよい。
さらに、冷却媒体の流路を有するヒートシンクを説明したが、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、例えば空冷方式のヒートシンクであってもよい。」

・上記引用例1に記載の「ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法」は、上記「ア.」、「ウ.」の記載事項、及び図3によれば、絶縁基板12の一方の面(第1面12a)に回路層13を接合し、絶縁基板12の他方の面(第2面12b)に金属層14の一方の面を接合するとともに、金属層14の他方の面にヒートシンク17を接合してなるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。
・上記「ウ.」?「オ.」の記載事項によれば、絶縁基板12はAlNかからなり、回路層13及び金属層14はいわゆる4Nアルミニウム(純度99.99%以上のアルミニウム)で構成されてなるものである。
・上記「イ.」、「オ.」の記載事項、及び図3によれば、ヒートシンク17は、A6063のアルミニウム材で構成され、金属層14の他方の面に接合される天板部18と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための複数の流路19とを備えるものである。なお、図3等では各流路の下面部分が示されていないが、何らかの部材の面で塞がれるのは自明なことであり、その断面形状は矩形と見てとることができるといえる。
・上記「ウ.」の記載事項によれば、絶縁基板12と回路層13との接合、及び絶縁基板12と金属層13との接合は、ろう付けによって行われる。
・上記「ア.」?「エ.」の記載事項、及び図3によれば、金属層14とヒートシンク17の天板部18との接合は、Al-Si系のろう材箔28を金属層14とヒートシンク17の天板部18との間に介在させて積層した状態で、積層方向に0.15?3MPaの圧力で加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行うようにしてなるものである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「AlNからなる絶縁基板の一方の面に4Nアルミニウムで構成された回路層を接合し、前記絶縁基板の他方の面に4Nアルミニウムで構成された金属層の一方の面を接合するとともに、前記金属層の他方の面にA6063のアルミニウム材で構成され、天板部と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための断面視矩形といえる複数の流路とを備えるヒートシンクを接合してなるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記絶縁基板と前記回路層との接合、及び前記絶縁基板と前記金属層との接合は、ろう付けによって行われ、
前記金属層と前記ヒートシンクの天板部との接合は、Al-Si系のろう材箔を前記金属層と前記ヒートシンクの天板部との間に介在させて積層した状態で、積層方向に0.15?3MPaの圧力で加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行うようにした、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。」

(1-2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-192705号公報(以下、「引用例2」という。)には、「パワーモジュール用基板、その製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0013】
以下、本発明に係るパワーモジュール用基板及びパワーモジュールの一実施形態を図面を参照しながら説明する。
この実施形態におけるパワーモジュール1は、セラミックス基板2を有するパワーモジュール用基板3と、該パワーモジュール用基板3の表面に搭載された半導体チップ等の電子部品4と、パワーモジュール用基板3の裏面に接合されたヒートシンク5とから構成されている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0016】
なお、前記ヒートシンク5は、Al合金の押し出し成形によって形成された扁平な筒体9内に、長さ方向に沿う多数のフィン10が幅方向に並べて形成されていることにより、各フィンの間に多数の小流路11が形成された構成とされている。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「パワーモジュール用基板3の裏面に接合される、扁平な筒体内に、長さ方向に沿う多数のフィンが幅方向に並べて形成され、各フィンの間に多数の小流路が形成されてなる構成のヒートシンクを、Al合金の押し出し成形によって形成すること。」

(1-3)引用例3
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-240955号公報(以下、「引用例3」という。)には、「セラミック回路基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0040】
セラミック板とアルミニウム板又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金板の接合は、一般に、接合材を用いない溶湯法、活性金属ろう付け法のいずれをも採用することができるが、生産性が良く、しかも比較的低温で接合ができる活性金属ろう付け法が好ましい。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例3には、次の技術事項が記載されている。
「セラミック板とアルミニウム板又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金板との接合には、接合材を用いない溶湯法、活性金属ろう付け法のいずれをも採用することができること。」

(1-4)引用例4ないし6
・同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-300762号公報(以下、「引用例4」という。)には、「アルミニウム合金ブレ-ジングシート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】 薄皮材と芯材との中間材にAl-Si-Mg系合金ろう材を用い、薄皮材及び芯材にはそれより融点の高いアルミニウム合金を用いる事を特徴とした非酸化性雰囲気中で無フラックスで使用するアルミニウム合金ブレ-ジングシ-ト。」

イ.「【0007】
【発明の実施の形態】ここで、薄皮材と芯材との中間材にAl-Si-Mg系合金ろう材を用いるのは以下の理由による。Siはアルミニウム合金ろう材として必須の合金元素であって、ろう材の融点を低下させ、溶融ろうの流動性を良好にする作用を有する。その添加量は6.0%?13.0%が望ましい。Mgは非酸化性雰囲気でのろうの濡れ広がり性を促進し、その添加量は0.1%から5%が好ましい。0.1%未満ではろうの濡れ広がり性の促進効果が無く、5%を超えると促進効果が飽和し無意味になる。・・・(以下、略)」

ウ.「【0012】非酸化性雰囲気中の酸素の濃度は特に限定はないが通常工業的に容易に使用可能な30?1000ppmが良い。また、主たる非酸化性雰囲気ガスとしては通常窒素が好ましいが、Ar等の不活性ガスでも良い。アルミニウム板のろう付け加熱温度はろう材が溶融し、皮材が溶融しない温度であれば良く、通常560?620℃が良い。」

・同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-215595号公報(以下、「引用例5」という。)には、「ブレ-ジングシート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
エ.「【0039】
この発明のろう付け用母材と組合されて使用されるブレージングシートの構成は、基本的には特に限定されるものではないが、請求項3の発明の場合、アルミニウム合金からなる芯材の片面もしくは両面に、Si5?15%、Mg0.05?2.0%、Bi0.02?0.2%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるろう材合金をクラッドしたものを用いる。
【0040】
ここで、上記のブレージングシートのろう材合金に関しては、Si量が5%よりも少なければろう流れ性が不良となり、一方Si量が15%よりも多ければ、工業的な鋳造工程において粗大なSi粒子が形成されてしまって、ろう材としての性能にばらつきが生じてしまう。またMgは、不活性ガス雰囲気中での溶融ろうの濡れ拡がり性を促進するとともに強度向上に寄与する元素であって、Mg量が0.05%未満では、溶融ろうの濡れ拡がりの効果が充分に得られず、また強度向上への寄与も少ない。一方Mgが2.0%を越えれば、Mg添加の効果が飽和して経済性を損なうとともに、Mg酸化物が多くなってろう付け性が低下してしまう。・・・(以下、略)」

オ.「【0045】
以上のようなろう付け用母材およびブレージングシートを用いてのろう付け接合は、不活性ガス雰囲気中で加熱することを特徴とする無フラックスろう付法で行われる。不活性ガスとしては通常は窒素がコストの点から好ましいが、Ar等の希ガスでも良い。ろう付炉は、工業的に多用されるノコロックブレージング炉と同様の炉で実施することができ、当然のことながらフラックス自体とフラックス塗布作業は省くことができる。ろう付温度は特に規定するものではないが585℃から615℃が好適である。」

・同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-268008号公報(以下、「引用例6」という。)には、「放熱装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
カ.「【0049】
応力緩和部材(4)と、パワーモジュール用基板(8)の金属層(7)およびヒートシンク(5)とのろう付は、たとえば次のようにして行われる。すなわち、応力緩和部材(4)を上記純アルミニウムからなる芯材と、芯材の両面を被覆するアルミニウムろう材製皮材とからなるアルミニウムブレージングシートにより形成する。なお、アルミニウムろう材としては、たとえばAl-Si系合金、Al-Si-Mg系合金などが用いられる。また、皮材の厚みは10?200μm程度であることが好ましい。この厚みが薄すぎるとろう材の供給不足となってろう付不良を起こすおそれがあり、この厚みが厚すぎるとろう材過多となってボイドの発生や熱伝導性の低下を招くおそれがある。
【0050】
ついで、パワーモジュール用基板(8)、応力緩和部材(4)およびヒートシンク(5)を積層状に配置するとともに適当な治具により拘束し、接合面に適当な荷重を加えながら、真空雰囲気中または不活性ガス雰囲気中において、570?600℃に加熱する。こうして、応力緩和部材(4)と、パワーモジュール用基板(8)の金属層(7)およびヒートシンク(5)とが同時にろう付される。」

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例4ないし6には、次の技術事項が記載されているといえる。
「ブレ-ジングシートに用いられるろう材としてMgを添加したAl-Si-Mg系合金を用い、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度585?600℃程度で行うこと。」

(2)対比
本願補正発明1と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「AlNからなる絶縁基板の一方の面に4Nアルミニウムで構成された回路層を接合し、前記絶縁基板の他方の面に4Nアルミニウムで構成された金属層の一方の面を接合するとともに、前記金属層の他方の面にA6063のアルミニウム材で構成され、天板部と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための断面視矩形といえる複数の流路とを備えるヒートシンクを接合してなるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって」によれば、
(a)引用発明における、AlNからなる「絶縁基板」、4Nアルミニウムで構成された「回路層」、4Nアルミニウムで構成された「金属層」は、それぞれ本願補正発明1における「セラミックス基板」、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる「金属回路板」、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の「金属ベース板」に相当し、
(b)引用発明における「ヒートシンク」にあっても、A6063のアルミニウム材で構成されたもの、すなわちA6063合金製であり、また、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための断面視矩形といえる複数の流路を備えるものであるから、液冷式であって、多孔管からなるものであるといえ、本願補正発明1でいう多孔管からなり、液冷式のA6063合金製「放熱器」に相当し、
(c)そして、引用発明における「ヒートシンク付パワーモジュール用基板」にあっても、絶縁基板の一方の面に回路層が接合されるとともに、絶縁基板の他方の面に金属層の一方の面が接合され、金属層の他方の面にはヒートシンクが接合されてなるものであることから、本願補正発明1でいう「液冷一体型基板」に相当するといえる。
したがって、本願補正発明1と引用発明とは、「セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には液冷式のA6063合金製放熱器が接合された液冷一体型基板の製造方法」である点で共通するということができる。
ただし、
・放熱器について、本願補正発明1では、「一体的に押出し成形された一つの押出し材で構成される」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点、
・本願補正発明1では、放熱器(多孔管)の流路の溝幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が「3.3W<D<10W」を満たす旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点、
で相違している。

イ.引用発明における「前記絶縁基板と前記回路層との接合、及び前記絶縁基板と前記金属層との接合は、ろう付けによって行われ」によれば、
本願補正発明1と引用発明とは、「前記金属回路板および前記金属ベース板と前記セラミックス基板との接合は所定の接合法によって行われ」るものである点で共通する。
ただし、所定の接合法が、本願補正発明1では、「溶湯接合法」であるのに対し、引用発明では、ろう付けである点で相違している。

ウ.引用発明における「前記金属層と前記ヒートシンクの天板部との接合は、Al-Si系のろう材箔を前記金属層と前記ヒートシンクの天板部との間に介在させて積層した状態で、積層方向に0.15?3MPaの圧力で加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行うようにした・・」によれば、
(a)引用発明における「ろう材箔」は、本願補正発明1でいう、ろう材のみからなる「単層ブレ-ジングシート」に相当するといえ、
(b)引用発明にあっても、「ろう材箔」を金属層とヒートシンクの間に挟みこみ面接触させた状態で、所定の面圧で加圧し、所定の雰囲気下で、当然、ろう付け温度以上に加熱してろう付け接合するものであるといえるから、
本願補正発明1と引用発明とは、「前記金属ベース板と前記放熱器との接合はろう接合法によって行われ、前記ろう接合法において、所定の合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートを、前記金属ベース板と前記放熱器との間に挟みこみ面接触させた状態で、前記金属ベース板と前記放熱器とを、所定の面圧で加圧した後に加熱して、所定の雰囲気下で、ろう付け温度以上に保持しつつ、ろう付け接合する」ものである点で共通するということができる。
ただし、
・本願補正発明1では、ろう材の組成が「Al-Si-Mg合金」であり、「不活性ガス雰囲気」下、ろう付け温度が「570℃」以上で、「無フラックス」で行う旨特定するのに対し、引用発明では、ろう材の組成が「Al-Si系」であり、「真空」炉内で行うものであり、具体的なろう付け温度や、無フラックスか否かの特定はない点、
・所定の面圧が、本願補正発明1では、「(1)式以上、かつ前記多孔管の仕切り板に負荷される仕切り板面圧が、-0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下」、ここで(1)式は「面圧(MPa)=-1.25×10^(-3)×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0」である旨特定するのに対し、引用発明では、0.15?3MPaである点、
で相違している。

よって、本願補正発明1と引用発明とは、
「セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には液冷式のA6063合金製放熱器が接合された液冷一体型基板の製造方法であって、
前記放熱器は多孔管からなり、前記多孔管の冷媒の流路は断面視矩形を呈し、
前記金属回路板および前記金属ベース板と前記セラミックス基板との接合は所定の接合法によって行われ、
前記金属ベース板と前記放熱器との接合はろう接合法によって行われ、
前記ろう接合法において、所定の合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートを、前記金属ベース板と前記放熱器との間に挟みこみ面接触させた状態で、前記金属ベース板と前記放熱器とを、所定の面圧で加圧した後に加熱して、所定の雰囲気下で、ろう付け温度以上に保持しつつ、ろう付け接合することを特徴とする、液冷一体型基板の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
放熱器について、本願補正発明1では、「一体的に押出し成形された一つの押出し材で構成される」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
本願補正発明1では、放熱器(多孔管)の流路の溝幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が「3.3W<D<10W」を満たす旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点3]
金属回路板および金属ベース板とセラミックス基板との所定の接合法について、本願補正発明1では、「溶湯接合法」であるのに対し、引用発明では、ろう付けである点。

[相違点4]
金属ベース板と放熱器とのろう付け接合について、本願補正発明1では、ろう材の組成が「Al-Si-Mg合金」であり、「不活性ガス雰囲気」下、ろう付け温度が「570℃」以上で、「無フラックス」で行う旨特定するのに対し、引用発明では、ろう材の組成が「Al-Si系」であり、「真空」炉内で行うものであり、具体的なろう付け温度や、無フラックスか否かの特定はない点。

[相違点5]
金属ベース板と放熱器とのろう付け接合の際に加圧される所定の面圧について、本願補正発明1では、「(1)式以上、かつ前記多孔管の仕切り板に負荷される仕切り板面圧が、-0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下」、ここで(1)式は「面圧(MPa)=-1.25×10^(-3)×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0」である旨特定するのに対し、引用発明では、0.15?3MPaである点。

(3)判断
まず、上記[相違点5]について検討する。
本願補正発明1において、ろう付け接合の際に加圧される面圧のうち、特に下限値(MPa)を「(1)式」、つまり「-1.25×10^(-3)×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0 」とするのは、その式からも明らかなように、放熱器の断面2次モーメントに着目して定められてなるものであるのに対し、引用発明における、ろう付け接合の際に加圧される面圧である「0.15?3MPa」は、引用例の段落[0030]?[0031]の記載(上記「(1-1)エ.」を参照)によれば、金属層の材質を踏まえ、当該金属層を十分に変形させることが可能な圧力としていることからも明らかなように、金属層に着目して定められてなるものである。ましてや、引用例には、放熱器の断面2次モーメントの値についての記載も示唆もないことを考慮すると、引用発明の「0.15?3MPa」が、本願補正発明1で特定する「(1)式以上、かつ前記多孔管の仕切り板に負荷される仕切り板面圧が、-0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下」という範囲を満たしているとは直ちに言えないし、特に面圧の下限値を、放熱器の断面2次モーメントを考慮して「-1.25×10^(-3)×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0 」と定めるようにした発明特定事項については導き出すこともできない。
また、原査定の拒絶の理由に引用された他の引用例である引用例2?6(上記「(1-2)?(1-4)」を参照)のいずれからも、上記発明特定事項を導き出すことはできない。

よって、特に本願補正発明1における、ろう付け接合の際に加圧される面圧の下限値(MPa)を「-1.25×10^(-3)×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0」とする発明特定事項については、引用発明及び引用例2ないし6に記載の技術事項に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、他の相違点(相違点1?4)について検討するまでもなく、本願補正発明1は、引用発明及び引用例2ないし6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本件補正後の請求項2ないし11に係る発明について
請求項2ないし11は、請求項1に従属する請求項であり、請求項2ないし11に係る発明は、本願補正発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び引用例2ないし6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正(特許請求の範囲についての補正)は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

また、本件補正のその余の補正事項(明細書の段落【0012】についての補正)についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第4 本願発明

本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし11に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、上記「第3 1.(3)(4)」で検討したとおり、本願の請求項1ないし11に係る発明は、引用発明及び引用例2ないし6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから、原査定の理由を維持することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-13 
出願番号 特願2012-3757(P2012-3757)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H05K)
P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 信小金井 匠中島 昭浩  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 液冷一体型基板の製造方法  
代理人 金本 哲男  
代理人 亀谷 美明  
代理人 亀谷 美明  
代理人 萩原 康司  
代理人 萩原 康司  
代理人 金本 哲男  

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