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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1325706
審判番号 不服2015-12717  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-03 
確定日 2017-03-29 
事件の表示 特願2014-522012「多層圧電デバイスの製造方法、助剤を含む多層圧電デバイス、および多層圧電デバイスの破壊応力抑制のための助剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日国際公開、WO2013/017342、平成26年10月16日国内公表、特表2014-527712、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)6月26日(パリ条約による優先権主張2011年7月29日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月18日付で審査請求がなされ、平成26年11月5日付で拒絶理由が通知され、平成27年2月3日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたが、同年3月10日付で拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成27年7月3日付で審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされ、当審において平成28年8月12日付で拒絶理由が通知され、同年12月16日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年12月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲1ないし8に記載される事項により特定されるとおりであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。
「多層圧電デバイスの製造方法であって、
A)電極材料と、圧電材料を含むグリーンシートとを準備するステップと、
B)少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備するステップと、
C)圧電性のグリーンシートと、前記助剤を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップと、
D)前記積層体(1)を焼結するステップと、
を備え、
前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され、
前記電極材料および前記助剤は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記助剤におけるよりも少ない分量となるように選択されており、
前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり、
前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される、
ことを特徴とする方法。」

第3 査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
「この出願については、平成26年11月 5日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項 1
・引用文献等 1-2
出願人は、平成27年 2月 3日付け意見書において『しかしながら、補正後の本願請求項1に記載の多層圧電デバイスの製造方法で、上記の構成(F1)の内容「前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、脆弱層(21)が形成されること」は、引用文献1および2には、開示も示唆もされておらず、したがってこの構成(F1)の内容を含む補正後の請求項1に係る発明も引用文献1および2には開示も示唆もされておらず、これらの引用文献からは容易に想到されるものではないと思料いたします。』と、主張している。
出願人の主張について検討すると、平成26年11月 5日付け拒絶理由通知書の理由2における、請求項1に係る発明についての判断に記載した通り、引用文献1の段落0027-0029,0033及び図3a,3bには、脆弱化した犠牲層4にひび割れを発生させることで、圧電アクチュエータにおける短絡回路の発生を回避できることが記載されている。よって、引用文献1に記載された発明の「犠牲層4」は、平成27年 2月 3日付け手続補正書によって補正が行われた請求項1に係る発明の「脆弱層(21)」に相当し、ともに「脆弱層」が形成されている点で、両者に差異は認められない。
したがって、出願人の主張は、採用できない。

・請求項 2-13
・引用文献等 1-3
請求項2-13に係る発明については、平成26年11月 5日付け拒絶理由通知書に記載した通りである。

よって、請求項1-13に係る発明は、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特表2011-510505号公報
2.特開2002-260950号公報
3.特開2011-082534号公報」

2 拒絶理由通知の概要
平成26年11月5日付拒絶理由通知の概要は、次のとおりである。
「理由2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
備考
・請求項1に係る発明について
引用文献1の段落0059及び図8には、圧電セラミック層2中に、第1の電極層3a、第2の電極層3b及び犠牲層4が交互に重なって設けられた積層体1が記載されている。また、引用文献1の段落0006及び0033には、前記犠牲層4が純銅からなり、焼結時において、前記犠牲層4中の銅が前記第1の電極層3aへと一方的に拡散することで、前記犠牲層4において空洞が形成され、前記犠牲層4と周辺の圧電セラミック層2との間の境界面が脆弱化することが記載されている。また、引用文献1の段落0027?0029、0033、図3a及び図3bには、脆弱化した犠牲層4にひび割れを発生させることで、圧電アクチュエータにおける短絡回路の発生を回避できることが記載されている。
次に、請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明の「(犠牲層4中の)純銅」「犠牲層4」「積層体」は、それぞれ請求項1に係る発明の「助剤」「薄層」「積層体(1)」に相当し、引用文献1に記載された発明の「第1の電極層3a」「第2の電極層3b」は、請求項1に係る発明の「電極材料を含む層」に相当する。
すると、請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、請求項1に係る発明では、薄層中の助剤に第1及び第2の成分が含まれ、焼結時にこれらの成分が反応することで薄層が分解されるのに対し、引用文献1に記載された発明では、犠牲層4が純銅のみを含む点で相違する。
上記相違点について検討する。
引用文献2の段落0080?0083、0089及び図4には、電極用ペースト材料にCuO粉(第1の成分に相当)とCu粉(第2の成分に相当)を含有させて焼結等を行い、積層型誘電素子を作製すると、試料27のように、CuOとCuの合計含有量によっては、電極層2に空洞81が形成されることが記載されている。空洞形成の原因としては、引用文献2の段落0010に、焼成又は還元処理工程において、CuOを金属銅に還元する際に大きな体積収縮を生じることが記載されている。引用文献2には、焼成又は還元処理工程における、電極ペースト材料中のCu及びCuOの化学反応プロセスについては詳細には記述されていないが、CuとCuOの共存下で焼成又は還元処理工程のような熱処理が行われると、請求項1に記載の化学反応と同様の反応が発生し、電極用ペースト材料の一部が分解されるものと認められる。
そして、引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とは、積層型圧電素子という同一の技術分野に属し、電極への電圧の印加によって駆動するという共通の機能を有するものである。
そうすると、引用文献1に記載された犠牲層4の材料を、引用文献2に記載された、CuOとCuを含む電極用ペースト材料とし、かつ、CuOとCuの合計含有量を、焼成又は還元処理工程後において前記犠牲層4中に空洞ができるように調整することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項2に係る発明について
引用文献1の段落0033には、第1の電極層3a及び犠牲層4が、銅を含むことが記載されており、段落0012?0014の記載から、前記第1の電極層3aはCu合金であると認められる。また、引用文献1の段落0038には、第1の電極層3aに含まれる銅の濃度が、犠牲層4内よりも低いことが記載されている。
よって、請求項2に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、請求項3に係る発明では、薄層中の助剤に第1及び第2の成分が含まれるのに対し、引用文献1に記載された発明では、犠牲層4が純銅のみを含む点で相違する。
上記相違点について検討する。
請求項1に係る発明についての判断に記述した通り、引用文献2にはCuOとCuを含む電極用ペースト材料が記載されており、熱処理時においては、請求項3に記載の化学反応と同様の反応が発生するものと認められる。
よって、請求項3に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項4、5に係る発明について
引用文献1の段落0033には、犠牲層4から第1の電極層3aへの方向に銅が拡散し、第1の電極層3aが銅シンクとして作用することと、犠牲層4に空洞が形成され、周辺のセラミック層2との間の境界面が脆弱化することが記載されている。
よって、請求項4、5に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項6に係る発明について
請求項6に係る発明については、請求項1、2に係る発明についての判断に記述した通りである。
よって、請求項6に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項7?10に係る発明について
請求項7?10に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、請求項7?10に係る発明では、薄層中の助剤に第5の成分が含まれるのに対し、引用文献1に記載された発明では、犠牲層4が純銅のみを含む点で相違する。
上記相違点について検討する。
引用文献2の段落0016及び0080?0089には、電極用ペースト材料に、セラミック層を構成する主成分からなる共材を含有させることが記載されている。引用文献2の段落0085、0089及び図8(b)の記載から、試料32は電極用ペースト材料にCu粉、CuO粉及び共材を含み、電極層2には空洞が形成されているものと認められる。
また、引用文献2の段落0047には、前記セラミック層としてPZTを採用することが記載されており、段落0053には、前記セラミック層の原料として、酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の粉末を所望の組成となるように秤量することが記載されている。
よって、請求項7?10に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項11に係る発明について
請求項11に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、請求項11に係る発明では、第5の成分が最大で100ppmのケイ素含有量を有するのに対し、引用文献1に記載された発明では、犠牲層4が純銅のみを含む点で相違する。
上記相違点について検討する。
請求項7?10に係る発明についての判断に記述した通り、引用文献2には、電極用ペースト材料に、Cu粉、CuO粉及びセラミック層を構成する主成分からなる共材を含有することが記載されている。
また、引用文献3の段落0016には、Siを5ppm以上100ppm未満有した圧電セラミックスを有する積層型圧電素子が記載されている。
そして、引用文献1に記載された発明と引用文献2、3に記載された発明とは、積層型圧電素子という同一の技術分野に属し、電極への電圧の印加によって駆動するという共通の機能を有するものである。
そうすると、引用文献1に記載された犠牲層4を、引用文献2に記載された電極用ペースト材料として、引用文献1に記載された圧電セラミック層2を、引用文献3に記載された圧電セラミックスとすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、請求項11に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項12、13に係る発明について
請求項12、13に係る発明については、請求項1、2、7?10に係る発明についての判断に記述した通りである。
よって、請求項12、13に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項14に係る発明について
引用文献1に記載された発明に引用文献2、3に記載された発明を適用した構成は、請求項14に記載された多層圧電デバイスの構成と同様であるから、同様の物理的性質を有すると認められる。
よって、請求項14に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

・請求項15に係る発明について
請求項15に係る発明については、請求項7?10に係る発明についての判断に記述した通りである。
よって、請求項15に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願の請求項1?15に係る発明の効果は、引用文献1?3に記載された発明から当業者が容易に予測し得る程度のものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特表2011-510505号公報
2.特開2002-260950号公報
3.特開2011-082534号公報」

第4 原査定の理由についての当審の判断
1 引用文献
(1)引用例1について
ア 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、特表2011-510505号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。(なお、下線は、当審において付与した。以下、同じ。)

(ア)「【0031】
図4は今や、圧電アクチュエータの積層体1の概略的に示された断面を通る長手方向断面を示す。犠牲層4は圧電セラミック層2に置かれ、該犠牲層は第1の電極層3aと第2の電極層3bとの間に置かれ、これらの電極層は異なる極性のものが積層方向に隣接している。この文脈では、積層方向に隣接しているとは、第1の電極層3aと第2の電極層3bとの間にさらなる機能的電極層がないことを意味する。
【0032】
例として、銅のみを使用する代わりに、組成(1-x)Cu/xPdの材料を特定の個数の第1の電極層3aに使用することができ、ここで0<x<1である。この材料は、銅粉末とパラジウム粉末の混合物であることも、これら2つの金属の合金であることもできる。第1の電極層3aは、したがって、銅とパラジウムの混合物を含み、犠牲層4が金属として好ましくは銅のみを含むこととは対照的である。これの代替例として、銅の代わりに銀などの他の金属を用いることも可能である。第1の電極層3aは、例えば、銀とパラジウムの混合物または合金を含んでもよい。犠牲層4は好ましくは銀のみからなる。
【0033】
第1の電極層3aおよび犠牲層4の組成の相違が、比較的高い温度における拡散過程を促進する。銅はパラジウムよりも、PZTを主成分とする圧電セラミック内において大きい移動性を有することがわかっている。このことは、拡散が一方向のみに、特に、純銅からなる犠牲層4から銅およびパラジウムを含む第1の電極層3aへの方向に発生することにつながる。銅およびパラジウムを含む第1の電極層3aは、したがって銅シンクとして作用する。銅-パラジウムからなる第1の電極層3aの直近の犠牲層4における材料の損失は空洞の形成につながり、以前に存在する犠牲層と周辺の圧電セラミック層2との間の境界面を脆弱化する。したがって、図3bで示されたような、境界面に実質的に沿って走り、したがって圧電セラミック層2に平行に走る、制御されたひび割れが形成されて伝わっていくように、状態がつくられる。
【0034】
犠牲層4における空洞の比率は、第1の電極層3aおよび犠牲層4の組成、各層の厚さ、および犠牲層4の三次元的構造によって制御されることができる。
【0035】
犠牲層4は、好ましくは、金属の島のパターンまたは切り抜きのパターンを有する金属層として圧電セラミック層2に置かれる。このような、構造体化された犠牲層4の1つまたは複数の金属領域は、好ましくは第1の金属、この例では銅のみを含む。
【0036】
構造体化された犠牲層4は、好ましくは圧電セラミック層へのスクリーン印刷、スパッタリング、または噴霧によって置かれる。」
(イ)「【0043】
第1の電極層3aは好ましくは圧電セラミック層2へのスクリーン印刷、スパッタリング、または噴霧によっても置かれる。犠牲層4を生成するために用いられるものと同一の印刷過程が、この場合には有利に用いられうる。」
(ウ)「【0053】
図7aから図7dは、積層方向において第2の電極層3bによってそれぞれ囲まれている、第1の電極層3aおよび犠牲層4の配置の選択肢が様々な、圧電アクチュエータの積層体1の断面図を含む長手方向断面図を示す。ここで示した第1の電極層3aと犠牲層4の組み合わせには、積層体において要求されるのと同じ数が存在し、第2の電極層3bによって囲まれる必要はない。
【0054】
図7aは、含まれる第1の金属の濃度が犠牲層4の第1の金属の濃度よりも低い、第1の電極層3aが、積層方向において隣接した、図5aから図6dの1つに示されたような構造をそれぞれ有することができる、2つの犠牲層4の間に置かれる、配置を示す。この場合には、2つの第1の電極層3aは積層方向において隣接する。各第1の電極層3aは積層方向において2つの犠牲層4によって取り囲まれる。「内側の」犠牲層は積層方向において2つの第1の電極層3aに隣接する。2つの「外側の」犠牲層はそれぞれ1つの第1の電極層3aと1つの第2の電極層3bとに隣接し、その金属成分は完全に第1の金属からなる。例として、犠牲層、第1の電極層、犠牲層、第1の電極層、犠牲層などといった配置が積層方向において連続する。
【0055】
この場合、第1の電極層3aは好ましくは第1の金属、例えば銅と、第2の金属、例えばパラジウムとの混合物を含む。第1の電極層3aが間に置かれる2つの犠牲層4中の銅は、過程の間にこの第1の電極層へと拡散して空洞を残すことができる。第1の電極層3aは、したがって、第1の金属のための2つの犠牲層からのシンクとして用いられる。」
(エ)「【0061】
図10は、空洞7が2つの圧電セラミック層2の間の境界面に形成される、焼結された圧電多層構成要素の積層体1の断面図を示す。犠牲層の第1の金属は焼結の前に空洞7の位置に存在する。焼結の間、第1の金属は、拡散によって犠牲層から、第1の金属の濃度がより低い第1の電極層3aへと移動した。空洞7は、犠牲層の構造体化によって、境界面における特別な位置、例えば図5bから図5fおよび図6aから図6dに示したような位置において、意図的に形成されうる。
【0062】
一方では、拡散過程は、犠牲層4と、第1の金属の濃度がより低い隣接する第1の電極層3aとの間の濃度差の適切な選択によって達成されうる。」

イ 引用例1発明について
上記アの記載から、引用例1には、実質的に次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「銅粉末とパラジウム粉末の混合物を、圧電セラミック層2へのスクリーン印刷することにより生成される第1の電極層3aと、
銅を、圧電セラミック層2へのスクリーン印刷することにより生成される犠牲層4と、
を備え、
圧電セラミック層2を介して、犠牲層、第1の電極層、犠牲層、第1の電極層、犠牲層、と積層方向において連続して配置し、
焼結の間、犠牲層4中の銅が、銅の濃度がより低い第1の電極層3aへ拡散し、空洞を形成し、犠牲層と周辺の圧電セラミック層2との間の界面を脆弱化する、
圧電アクチュエータの積層体1の製造方法。」

(2)引用例2について
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-260950号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。
ア 引用例2の記載について
(ア)「【0001】
【技術分野】本発明は,例えば積層型セラミックコンデンサ,積層型圧電アクチュエータ等の,積層型誘電素子の製造方法,並びにその電極層を形成するための電極用ペースト材料に関する。」
(イ)「【0008】セラミック層の主成分の少なくとも一種またはセラミック層と略同一組成の材料(以下,セラミック層の生地もしくは共材と記す)の添加については,Cu電極又はCu系ペースト材料に関わる例として特開平5-275263号公報に示されたものがある。この例では,指定されている共材は電極用金属粉末と同質の金属で表面を被覆した無機質粉末を添加するという,言わば特殊な加工処理を施したものである。かつ目的も金属の焼結を阻害することにより電極の不連続や抵抗増大防止を狙いとしている。そして,この例では,Cuの焼結がセラミック材料の焼結よりも急速に進むという根本的問題を解決するにあたり,金属の焼結を阻害する事による焼結の遅延を図り,これにより電極の不連続の回避を試みている。」
(ウ)「【0014】
【解決しようとする課題】実際,セラミック材料にCuOペースト材料を塗布して積層し,脱脂・メタライズ(電極材料のCuOをCuへ還元)・焼成すると,電極部とセラミック層の間での剥がれは生じないものの,電極部に空洞ができる。また,上記問題を解決するためにCuOペースト材料中のCuO含有量を増加させると,電極部の空洞はなくなり連続な電極層が形成できるが,一方でセラミック層に空洞が生ずる。」
(エ)「【0080】実施形態例6
本例では,電極用ペースト材料にCuO粉だけではなくCu粉をも含有させた例を示す。本例では,表2に示すごとく,20種類の試料(試料21?40)を準備した。各試料は,それぞれ実施形態例1,5における試料1?20におけるCuO粉のおよそ半分をCu粉に置き換えた構成にした。出発原料を構成している物質の性状は,試料1?20を構成している物質と同一のものを使用した。
【0081】試料21?33及び試料37?40に含有されるCu粉としては,平均粒径0.5μmの粒子をつぶして板状にした粉末を用いた。また,試料34?36においては,平均粒径2.0μmの球形粒子を用いた。また,各試料の製造条件は,メタライズ工程以外は実施形態例1と同様とした。メタライズ工程の条件は,実施形態例1では温度326℃直下で10時間保持としたが,本例では,326℃直下で5時間保持とした。得られた三層積層品(試料21?40)に対して,実施形態例1と同様の断面観察を実施した。
【0082】試料21?26の観察結果は,図3に示した試料1と同様である。同図に示すごとく,試料21?26は,いずれも電極層2,セラミック層11共に空洞や亀裂がなく,また,両者の境界部においても剥離はなく良好な接合状態が得られていた。ここで考察すると,試料21?24は,表2に示すごとく,CuO粉とCu粉及び共材の総添加重を69wt%に固定し(Cu粉量は,CuO粉量への分子量の比による換算後の数値にて表す。以下すべて同様),共材の添加量を1?8wt%の範囲で変化させたものである。このような広い範囲でCuO及びCuと共材の添加割合を変化させても良好である。さらに試料22,25,26は,表2に示すごとく,共材の添加量を4wt%に固定し,CuO粉及びCu粉の含有量を合計65?69wt%の範囲で変化させたものである。このような広い範囲でCuO及びCuの添加割合を変化させても良好である。
【0083】一方,図4?図7に示した試料7?10(実施形態例1)と同様に,本例の試料27?30は共材を含有していない場合であるが,この場合には,空洞81や亀裂82等が生じやすくなる。図5に示した試料8(実施形態例1)の場合と同様に,試料28は,共材を入れなくても良好な積層型誘電素子が得られるが,これと少しでもCuOとCuのの合計含有量が変化すれば不具合が生じてしまう。即ち,上記試料27の場合には,CuOとCuの合計含有量が1wt%減るだけで電極層2に空洞81が生じ(図4参照),試料29場合にはCuOとCuの合計含有量が1.5wt%増えるだけでセラミック層に亀裂82が生じてしまう(図6参照)。そして,試料30のようにCuOとCuの合計含有量が4wt%増えると,図7と同様に,亀裂82の発生が多くなる。
【0084】上記試料21?26と試料27?30の比較により,共材を含有させる場合には,CuOとCuの合計含有量変化を4wt%以上とっても良好な状態で積層型誘電素子を得ることができるのに対し,共材を含有しない場合には,わずか1wt%のCuOとCuの合計含有量の変化により悪影響が出てくることがわかる。
【0085】次に,試料31は,CuOとCuの合計含有量を50wt%に減らし,共材の添加を無くしたものである。この場合には,前述した図8(a)に示す例と同様に,多くの空洞81が見られた。これに対し,試料32は,CuOとCuの合計含有量を50wt%で共材を6wt%加えたものである。この場合には,前述した図8(b)に示す例と同様に,共材を加えない場合の電極層2よりも厚みが薄くなっており,その結果空洞81は少なくなった。しかし,試料33のようにさらに共材の含有量をさらに増加させると,前述した図9に示す例と同様に,電極層2が消滅する部分85も生じた。この結果より,共材の添加だけでは問題解決できないことが示された。
【0086】次に試料34及び試料35は,表2に示すごとく,共材添加量:3wt%,有機ビヒクルと樹脂を19.5wt%,CuO粉(8μm)を35wt%と,Cu粉(2μm)をCuO換算で42.5wt%相当として混ぜ合わせたペースト材料と,共材添加量:3wt%,有機ビヒクルと樹脂を14.5wt%,CuO粉(8μm)を40wt%とCu粉(2μm)をCuO換算で42.5wt%相当として混ぜ合わせたものである。
【0087】試料34では,前述した図10に示す例と同様に,セラミック層11に大きな亀裂は見られない。一方,前述した図11に示す例と同様に,試料35では一部亀裂82が見られる。このことから,試料34のCuOとCuの合計含有量が,CuOとCuの合計含有量の違いによる変化でみられた,電極部での空洞形成からセラミック層での亀裂発生に転じるCuOとCuの合計含有量の境目付近であると考えられる。しかし,試料34は電極部が連続でありかつセラミック層に亀裂はないものの,前述した図10に示すごとく,電極部とセラミック層の境界部で剥離83が生じている。
【0088】また,前述した図12に示す例と同様に,共材を添加せずに,有機ビヒクルと樹脂を17.5wt%,CuO粉とCu粉を分子量に基づきCuO粉量に換算した値で82.5wt%として混ぜ合わせた,試料36の電極用ペースト材料で作製した場合も,さらに大きな剥離83が生じた。なお,上記試料21?23との違いは含有されるCuO及びCuの粒径と調整されたCuO及びCuの合計含有量であり,CuO及びCuの合計含有量は電極部の空洞形成及びセラミック層の亀裂発生を防止するために調整されているので,本実施形態例に示した作製工程では,粒径は8μm未満が好ましい。」

イ 引用例2記載事項について
上記アの記載から、引用例2には、実質的に次の事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「積層型圧電アクチュエータ等の、積層型誘電素子の製造方法において、
セラミック材料にCuOペースト材料を塗布して積層し、脱脂・メタライズ(電極材料のCuOをCuへ還元)・焼成する際に、
電極用ペースト材料にCuO粉だけではなくCu粉をも含有させ、
セラミック層の主成分の少なくとも一種またはセラミック層と略同一組成の材料を添加した場合、添加しなかった場合に比べ、電極層2、セラミック層11共に空洞や亀裂がなく、また、両者の境界部においても剥離はなく良好な接合状態が得られること。」

(3)引用例3について
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2011-082534号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。
ア 引用例3の記載について
(ア)「【0016】
本発明の積層型圧電素子によれば、これを構成する圧電セラミックスがSiを5ppm以上100ppm未満含有したことにより、粒界にガラス相を形成せず、体積固有抵抗の経時変化を小さくすることができ、そのため、積層型圧電素子およびこれを用いた噴射装置を、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合でも、外部電極と内部電極とが断線することがなく、耐久性に優れた積層型圧電素子、噴射装置を提供することが可能となる。」
(イ)「【0035】
本発明の積層型圧電素子の製法について説明する。まず、柱状積層体1aを作製する。先ず、PZTの原料粉末として高純度のPbO、ZrO_(2)、TiO_(2)、ZnO、Nb_(2)O_(5)、WO_(3),BaCO_(3),SrCO_(3)、Yb_(2)O_(3)およびSiO_(2)などの各原料粉末を所定量秤量し、ボールミル等で10?24時間湿式混合し、次いで、この混合物を脱水、乾燥した後、800?900℃で1?3時間仮焼した後、当該仮焼物を再びボールミル等で粒度分布がD50で0.5±0.2μm、D90で0.8μm未満となるように湿式粉砕する。粉砕したPZT等の圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系、ブチラール系等の有機高分子から成るバインダーと、DBP(フタル酸ジオチル)、DOP(フタル酸ジブチル)等の可塑剤とを混合してスラリーを作製し、該スラリーを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成型法により圧電体1となるセラミックグリーンシートを作製する。
【0036】
次に、Ag-PdあるいはPt粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して導電性ペーストを作製し、これを前記各グリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1?40μmの厚みに印刷する。
【0037】
そして、上面に導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを積層し、この積層体について所定の温度で脱バインダーを行なった後、900?1200℃で焼成することによって柱状積層体1aが作製される。」
(ウ)「【0039】
その後、ダイシング装置等により柱状積層体1aの側面に一層おきに溝を形成する。
【0040】
その後、銀ガラス導電性ペースト等を550?700℃で焼き付け、外部電極4を形成することができる。
【0041】
次に、外部電極4を形成した柱状積層体1aをシリコーンゴム溶液に浸漬するとともに、シリコーンゴム溶液を真空脱気することにより、柱状積層体1aの溝内部にシリコーンゴムを充填し、その後シリコーンゴム溶液から柱状積層体1aを引き上げ、柱状積層体1aの側面にシリコーンゴムをコーティングする。その後、溝内部に充填、及び柱状積層体1aの側面にコーティングした前記シリコーンゴムを硬化させる。
【0042】
その後、外部電極4にリード線6を接続することにより本発明の積層型圧電素子が完成する。」

イ 引用例3記載事項について
上記アの記載から、引用例3には、実質的に次の事項(以下、「引用例3記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「積層型圧電素子の製法であって、
PZTの原料粉末として高純度のPbO、ZrO_(2)、TiO_(2)、ZnO、Nb_(2)O_(5)、WO_(3),BaCO_(3),SrCO_(3)、Yb_(2)O_(3)およびSiO_(2)などの各原料粉末を所定量秤量し、ボールミル等で10?24時間湿式混合し、次いで、この混合物を脱水、乾燥した後、800?900℃で1?3時間仮焼した後、当該仮焼物を再びボールミル等で粒度分布がD50で0.5±0.2μm、D90で0.8μm未満となるように湿式粉砕する。粉砕したPZT等の圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系、ブチラール系等の有機高分子から成るバインダーと、DBP(フタル酸ジオチル)、DOP(フタル酸ジブチル)等の可塑剤とを混合してスラリーを作製し、該スラリーを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成型法により圧電体1となるセラミックグリーンシートを作製し、
Ag-PdあるいはPt粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して導電性ペーストを作製し、これを前記各グリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1?40μmの厚みに印刷し、
上面に導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを積層し、この積層体について所定の温度で脱バインダーを行なった後、900?1200℃で焼成し柱状積層体1aを作製し、
ダイシング装置等により柱状積層体1aの側面に一層おきに溝を形成し、
銀ガラス導電性ペースト等を550?700℃で焼き付け、外部電極4を形成し、
外部電極4を形成した柱状積層体1aをシリコーンゴム溶液に浸漬するとともに、シリコーンゴム溶液を真空脱気することにより、柱状積層体1aの溝内部にシリコーンゴムを充填し、
シリコーンゴム溶液から柱状積層体1aを引き上げ、柱状積層体1aの側面にシリコーンゴムをコーティングし、
溝内部に充填、及び柱状積層体1aの側面にコーティングした前記シリコーンゴムを硬化させ、
外部電極4にリード線6を接続する、積層型圧電素子において、
構成する圧電セラミックスがSiを5ppm以上100ppm未満含有したことにより、粒界にガラス相を形成せず、体積固有抵抗の経時変化を小さくすることができる、圧電素子の製法。」

2 対比・判断
(1)本願発明と引用例1発明とを対比する。
ア 引用例1発明の「圧電アクチュエータの積層体1」は、本願発明の「多層圧電デバイス」に相当する。
イ 引用例1発明は「銅粉末とパラジウム粉末の混合物を、圧電セラミック層2へスクリーン印刷することにより」「第1の電極層3a」を生成しているから、引用例1発明は、「銅粉末とパラジウム粉末の混合物」を準備しており、このことは、本願発明の「電極材料」「を準備する」ことに対応する。
また、引用例1発明の「銅粉末とパラジウム粉末の混合物を」スクリーン印刷する「圧電セラミック層2」は、その後、焼結されることから、「グリーンシート」であると言える。そうすると、引用例1発明においても、本願発明の「圧電材料を含むグリーンシートを準備する」ことを行っていると言える。
してみれば、引用例1発明は、本願発明の「A)電極材料と、圧電材料を含むグリーンシートとを準備するステップ」を有していると認められる。
ウ 引用例1発明は「銅を、圧電セラミック層2へのスクリーン印刷することにより生成される犠牲層4」としているが、引用例1発明において「銅」を準備することは当然行われていると認められる。そして、この「銅」は、「犠牲層4中の銅が、銅の濃度がより低い第1の電極層3aへ拡散し、空洞を形成し、犠牲層と周辺の圧電セラミック層2との間の界面を脆弱化する」ためにもちいられているから、「脆弱層を作るための材料」であると認められる。
また、本願発明の「助剤」は、「前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され」ているから、やはり、「脆弱層を作るための材料」であると認められる。
そうすると、引用例1発明の「銅」を準備することと、本願発明の「B)少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備するステップ」は、脆弱層を作るための材料を「準備するステップ」を有する点で共通する。
エ 引用例1発明の「圧電セラミック層2を介して、犠牲層、第1の電極層、犠牲層、第1の電極層、犠牲層、と積層方向において連続して配置」することと、本願発明の「C)圧電性のグリーンシートと、前記助剤を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップ」は、「圧電性のグリーンシートと、」脆弱層を作るための材料「を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップ」を有する点で共通する。
オ 引用例1発明の「焼結」は、本願発明の「D)前記積層体(1)を焼結するステップ」に相当する。
カ 引用例1発明の「焼結の間、犠牲層4中の銅が、銅の濃度がより低い第1の電極層3aへ拡散し、空洞を形成し、犠牲層と周辺の圧電セラミック層2との間の界面を脆弱化する、」ことと、本願発明の「前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され」ることは、「ステップD)」が「前記積層体(1)を焼結するステップ」であることから、「前記方法ステップD)において、」脆弱層を作るための材料により、「前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され」る点で共通する。
キ 引用例1発明の「犠牲層4中の銅が、銅の濃度がより低い第1の電極層3aへ拡散」するために、「犠牲層4中の銅」の濃度より「銅の濃度がより低い第1の電極層3a」とすることは、本願発明の、「前記電極材料および前記助剤は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記助剤におけるよりも少ない分量となるように選択されて」いることと、「前記電極材料および」脆弱層を作るための材料「は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記」脆弱層を作るための材料「におけるよりも少ない分量となるように選択され」ている点で共通する。
ク 引用例1発明の「焼結の間、犠牲層4中の銅が、銅の濃度がより低い第1の電極層3aへ拡散し、空洞を形成し、犠牲層と周辺の圧電セラミック層2との間の界面を脆弱化する」ことと、本願発明の「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される」こととは、「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、」「前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される」点で共通する。

そうすると、本願発明と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「多層圧電デバイスの製造方法であって、
A)電極材料と、圧電材料を含むグリーンシートとを準備するステップと、
B)脆弱層を作るための材料を準備するステップと、
C)圧電性のグリーンシートと、前記脆弱層を作るための材料を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップと、
D)前記積層体(1)を焼結するステップと、
を備え、
前記方法ステップD)において、前記脆弱層を作るため材料の前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され、
前記電極材料および前記脆弱層を作るための材料は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記脆弱層を作るための材料におけるよりも少ない分量となるように選択されており、
前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される、
ことを特徴とする方法。」

[相違点]
本願発明は、「少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備」し、「前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解され」、「前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり」、「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成され」ているのに対して、引用例1発明は、そうなっていない点。

(2)当審の判断
[相違点]について検討する。
引用例1発明は、「銅を、圧電セラミック層2へのスクリーン印刷することにより」「犠牲層4」を生成しているから、引用例1発明の記載から、本願発明の「少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備」し、「前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解され」、「前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり」、「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成」することを、当業者が容易に想起することができたとは認められない。
また、引用例2および3には、「少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備」し、「前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解され」、「前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり」、「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成」することは記載されていない。
そうすると、引用例2および3の記載から、引用例1発明において、上記[相違点]について、本願発明の方法を採用することが容易であるとも言えない。
そして、本願発明は、特に[相違点]を有することによって、「そこで本発明の課題は、高い信頼性を備えた多層圧電デバイスの製造方法を提供することである。」(【0004】)という格別の効果を有するものであから、[相違点]に係る方法は、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであるとは言えない。
したがって、本願発明は、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本願の請求項2ないし8に係る発明の進歩性について
本願の請求項2ないし8は、請求項1を引用しており、本願の請求項2ないし8に係る発明は本願発明1の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本願発明1が引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願の請求項2ないし8に係る発明も、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 原査定の理由についてのまとめ
以上のとおり、本願の請求項1ないし8に係る発明は、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 当審の拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
平成28年8月12日付で当審より通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「A.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項12に係る発明は「多層圧電デバイス」(物の発明)であるが、当該請求項12に
「電極材料および圧電セラミックからなる交互に重ねられた複数の層と、電極材料からなる他の層に対して破壊負荷が低下された、助剤からなる少なくとも1つの層とを備えた多層圧電デバイスであって、
前記助剤は、請求項6乃至10のいずれか1項に記載の助剤であることを特徴とする多層圧電デバイス。」
と記載されているように、請求項12に係る発明は「請求項6乃至10のいずれか1項に記載」された、(多層圧電デバイスの製造)方法を引用していることから、請求項12に係る発明は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当する。そのため、請求項12にはその物の製造方法が記載されているといえる。

ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、補正後の請求項12に係る発明は明確でない。また、請求項12を引用する請求項13に係る発明も、同様の理由から明確でない。

なお、理由C.およびD.で述べるように、請求項12および13に係る発明は、引用例1に記載された発明および、請求項1に記載された発明に引用例2に記載された公知技術を適用した発明と、その構造又は特性に格別の差異があるとは認められないから、当該請求項を削除することを検討されたい。


B.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



1.本願明細書の発明の詳細な説明の記載より、本願に係る発明は、
「【背景技術】
【0003】
多層圧電デバイスの信頼性は、その製造の際に生じ得る亀裂の克服に依存している。このような亀裂は、たとえば焼結、メタライズ化、およびはんだ付け等の熱処理、または分極の際に生じるが、これは素子の様々な領域での異なる膨張によって弾性張力が発生するからである。このようないわゆる開放亀裂または分極亀裂は、さらに曲り、電極に対し垂直に走り、そして2つの電極間を渡り、これら2つの電極の短絡をもたらし、この素子の故障となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、高い信頼性を備えた多層圧電デバイスの製造方法を提供することである。」
との課題を
「【0049】
積層体1の形成のために、少なくとも1つのグリーンシートの上に助剤を含む薄層が設けられる。電極材料としてCuPdのペーストが、グリーンシートの上に印刷される。この助剤は、第1の成分としてCuOを含み、第2の成分としてCuを含むが、この際助剤に存在するCuOの分量は10?90重量%であり、好ましくは25?75重量%であり、とりわけ好ましくは50重量%である。
【0050】
焼結の際に約800℃の温度に到達すると、この温度ではまだ積層体の高密度化が行われておらず、Cu_(2)O(第3の成分)中のCuOとO_(2)(第4の成分)とが反応し、同時にCuとCuOが反応してCu_(2)Oとなる。解離によって生成された酸素O_(2)は、金属のCuをCuOに、今度はまたCu_(2)Oとなるように、さらに反応させることができる。この酸化は、所望のように薄層の領域で行われるが、この際CuPdのペーストにおけるCuはほとんど変化しないままである。
【0051】
これらの反応が行われる間および/または起こったあとで、生成されたCu_(2)Oおよび、まだ残っているCuOが場所的にすぐ隣にある電極層20に拡散侵入する。これにより、助剤を含む薄層が分解され、これにより脆弱層21が形成される。この脆弱層の気孔率は、たとえば用いられるCuOの粒子サイズにより調整すなわち影響される。
【0052】
このCuOおよびCu_(2)Oの拡散は、圧電層を貫通して行われるが、これは極めて良好におこなわれる。これはCuカチオンは純粋なCuよりも良好に拡散するためである。この拡散は、Cuの濃度差によって促進される。Cuは助剤に含まれるか、あるいは助剤から生成された成分に含まれ、電極材料に存在している。拡散は、最高焼結温度、たとえば1200℃で行われる。
【0053】
このようにして、焼結の前に助剤が含んでいる、薄層におけるCuは完全に分解される。電極層に拡散された酸化銅は、最初そこで吸収され、次に酸素を再度解離して純粋なCuが残され、このCuは電極材料のCuPd合金に堆積される。」
「【0059】
図2bは、圧電層10および内部電極20からなる積層体1の一部を示し、ここでも同様に亀裂25が発生している。ここで亀裂25は内部電極20に平行に延伸している。このような亀裂25の延伸は、短絡の虞れを低減する。
【0060】
このような亀裂25の延伸を促進するために、多層デバイスが上記の方法によって製造され、亀裂25が狙い通りに、破断部位が存在する脆弱層21の領域に形成される。」
と記載されているように、グリーンシートの上にCuOおよびCuを含む助剤を含む薄層を設けるとともに、電極材料としてCuPdのペーストをグリーンシート上に印刷し、焼結の際に化学反応により生成されたCu_(2)OおよびCuOがCuの濃度差によって、Cuを含む電極層に拡散侵入することにより、助剤を含む薄層が分解され脆弱層が形成され、亀裂が発生した際に、脆弱層に形成されることにより、電極の短絡を防止いている。
これに対して、請求項1に記載された発明は、
「多層圧電デバイスの製造方法であって、
A)電極材料と、圧電材料を含むグリーンシートとを準備するステップと、
B)少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備するステップと、
C)圧電性のグリーンシートと、前記助剤を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップと、
D)前記積層体(1)を焼結するステップと、
を備え、
前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成されることを特徴とする方法。」
であって、電極材料と助剤が同じ金属(具体的には「Cu」)を含まないものも含み、また、脆弱層が拡散侵入以外の方法で生成されるものも含んでおり、発明の詳細な説明に記載された発明以外を含むものとなっている。
従って、請求項1および、請求項2-13に記載された発明(請求項2に記載された発明を引用し、且つ、請求項4に記載された発明を引用する発明および、前記引用関係を有する発明を引用する発明を除く。)は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは言えない。
なお、上記拒絶理由は例えば、請求項1に記載された発明に、請求項2乃至4に記載された方法を含むことにより、解消される。


C.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



・請求項1
・引用例 1
・備考
引用例1に
「【0030】
次に、上記実施形態にかかる素子の製法について説明する。まず、PbZrO_(3)-PbTiO_(3)等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電性セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系、ブチラール系等の有機高分子から成るバインダーと、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)等の可塑剤と、を混合してスラリーを作製する。ついで、このスラリーを周知のドクターブレード法、カレンダーロール法等のテープ成型法を用いることにより、複数のセラミックグリーンシートを作製する。
【0031】
次に、銀-パラジウム等の内部電極5を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して内部電極用の導電性ペーストを作製する。作製した導電性ペーストを上記したグリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1?40μm程度の厚みで印刷する。
【0032】
多孔質部19となる部位は次のようにして作製される。まず、銀-パラジウム等の金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合することにより導電性ペーストを作製する。この導電性ペーストを、セラミックグリーンシートの上面のうち多孔質部19を形成したい領域に1?10μm程度の厚みで印刷する。ついで、この印刷面の上面に、金属チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または金属チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1?10μm程度の厚みで印刷する。さらに、この印刷面の上面に、上記した導電性ペーストを1?10μm程度の厚みで印刷する。
【0033】
樹脂ビーズ等を混合した上記ペーストを印刷した部分は、焼成プロセスにおいて、アクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失するとともに、周囲の金属粉末が焼結する。このとき、周囲の金属とアクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失した空間との界面に、チタン金属、チタン酸化物等の金属チタン成分が存在し、焼失した空間を保持する。さらに、その後、上記金属チタン成分が金属中や圧電体層中に拡散することで、多孔質部19が形成される。チタン金属の代わりに酸化チタン、水素化チタン等のチタン化合物を用いても良い。焼成後に拡散して空隙と金属との界面にチタン化合物が残りにくくするという点で、チタン金属を用いるのがよい。」
と記載されており、引用例1に記載された発明は、燃焼プロセスにより樹脂ビーズ等が消失すると共に(請求項1に記載された発明の「第1の成分」の化学反応に対応する。)、チタン化合物が還元反応等をおこし(請求項1に記載された発明の「第2の成分」の化学反応に対応する。)チタン金属となり、金属中や圧電体層中に拡散することにより、多孔質の脆弱層が形成されていると認められる。
そうすると、上記記載の「内部電極用の導電ペースト」「圧電性セラミックの仮焼粉末を含むセラミックグリーンシート」「樹脂ビーズ」「チタン化合物」「グリーンシートの上面に導電性ペーストを印刷し、印刷面の上面に、チタン化合物の粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを印刷したもの」「焼成プロセス」は、請求項1に記載された発明の「電極材料」「圧電材料を含むグリーンシート」「第1の成分」「第2の成分」「積層体」「焼結」に相当する。
してみれば、請求項1に記載された発明と、引用例1に記載された発明との格別の相違は認められない。

・請求項2
・引用例 1
・備考
引用例1に記載された発明も、「内部電極用の導電ペースト」および「チタン化合物の粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト」は同じ金属(具体的には、「チタン」。)を含んでいるから、請求項2に記載された発明と格別の相違は認められない。

・請求項6,7
・引用例 1
・備考
引用例1に「【0034】
樹脂ビーズ等を混合した上記ペーストには、PbZrO_(3)-PbTiO_(3)等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電セラミックスの仮焼粉末を加えてもよい。圧電セラミックスの仮焼粉末を加えることで、多孔質部19を金属部とセラミック部で構成することができる。また、チタン金属の代わりに、上記圧電セラミックスの仮焼粉末を加えた場合には、セラミック部を含む多孔質部19を形成することができる。」
と記載されているように、引用例1に記載された発明においても「セラミック」材料を、本願の「補助剤」に相当する構成に、加えることが記載されている。
してみれば、請求項6および7に記載された発明と、引用例1に記載された発明との格別の相違は認められない。


・請求項12
・引用例 1
・備考
上記請求項6および7に記載された発明で述べたように、引用例1に記載された発明も補助剤にセラミック材料を含んでいるから、引用例1に記載された発明と請求項12に記載された発明との格別の相違は認められない。

D.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1,2,6,7,12
・引用文献等 1
・備考
上記理由C.を参照されたい。

・請求項 8,9,12
・引用文献等 1,2
・備考
引用例2【0055】【0072】に記載されているように、積層圧電素子においてペロブスカイト型酸化物を含む焼結体の材料として、二酸化ジルコニウムやチタン酸バリウムおよびこれらの混合物を採用することは適宜行われている公知技術である。
そして、引用例1に記載され発明の「PbZrO_(3)-PbTiO_(3)等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電セラミックス」に代えて、上記公知技術を採用し、請求項8,9と同様の材料とすることは、当業者が適宜為し得る事項である。
また、引用例1に記載された発明のセラミックスの材料として、二酸化ジルコニウムやチタン酸バリウムおよびこれらの混合物を採用した際に、引用例1に記載された積層型圧電素子も、請求項8および9を引用する請求項12に記載された発明と同様の多層圧電デバイスにとなると認められる。

・請求項 13
・引用文献等 1,2
・備考
最大破壊応力をどのような値とするかは、多層圧電デバイスに使用された材料等で決まることであり、上記請求項6-9および12で述べたように、引用例1に記載された発明を、本願に記載された発明と同様の多層圧電デバイスとすることは、当業者が適宜為し得たことであるから、その物理的特性である、多層圧電デバイスの、最大破壊応力を20Mpa、好ましくは10Mpa、とりわけ好ましくは8Mpaであるようにすることは、当業者が適宜為し得た事項である。


引 用 文 献 等 一 覧

引用例1:再公表特許第2008/072746号
引用例2:特開2011-29272号公報」

2 当審拒絶理由についての判断
(1)理由Aについて
補正前の請求項12および13に記載された「多層圧電デバイス」の発明は、補正により削除された。
したがって、当審拒絶理由のAに示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)理由Bについて
請求項1は補正により、
「多層圧電デバイスの製造方法であって、
A)電極材料と、圧電材料を含むグリーンシートとを準備するステップと、
B)少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備するステップと、
C)圧電性のグリーンシートと、前記助剤を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップと、
D)前記積層体(1)を焼結するステップと、
を備え、
前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され、
前記電極材料および前記助剤は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記助剤におけるよりも少ない分量となるように選択されており、
前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり、
前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される、
ことを特徴とする方法。」
となり、電極材料と助剤が同じ金属を含み、また、脆弱層が拡散侵入により生成される方法となったから、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された方法である。
また、請求項1に記載された発明を引用する請求項2ないし8に記載された発明も、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された方法である。
したがって、当審拒絶理由のBに示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。

(3)理由CおよびDについて
ア 引用例4(当審の拒絶理由において引用例1として引用した文献)について
(ア)当審の拒絶の理由に引用され、再公表特許第2008/072746号(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

「【0006】
以下、本発明の一実施形態にかかる積層型圧電素子(以下、素子という)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0007】
<第1の実施形態>
図1に示すように、本実施形態にかかる素子1は、複数の圧電体層3と複数の内部電極5が交互に積層された積層構造体7を備えている。
・・・ 中 略 ・・・
【0030】
次に、上記実施形態にかかる素子の製法について説明する。まず、PbZrO_(3)-PbTiO_(3)等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電性セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系、ブチラール系等の有機高分子から成るバインダーと、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)等の可塑剤と、を混合してスラリーを作製する。ついで、このスラリーを周知のドクターブレード法、カレンダーロール法等のテープ成型法を用いることにより、複数のセラミックグリーンシートを作製する。
【0031】
次に、銀-パラジウム等の内部電極5を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して内部電極用の導電性ペーストを作製する。作製した導電性ペーストを上記したグリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1?40μm程度の厚みで印刷する。
【0032】
多孔質部19となる部位は次のようにして作製される。まず、銀-パラジウム等の金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合することにより導電性ペーストを作製する。この導電性ペーストを、セラミックグリーンシートの上面のうち多孔質部19を形成したい領域に1?10μm程度の厚みで印刷する。ついで、この印刷面の上面に、金属チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または金属チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1?10μm程度の厚みで印刷する。さらに、この印刷面の上面に、上記した導電性ペーストを1?10μm程度の厚みで印刷する。
【0033】
樹脂ビーズ等を混合した上記ペーストを印刷した部分は、焼成プロセスにおいて、アクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失するとともに、周囲の金属粉末が焼結する。このとき、周囲の金属とアクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失した空間との界面に、チタン金属、チタン酸化物等の金属チタン成分が存在し、焼失した空間を保持する。さらに、その後、上記金属チタン成分が金属中や圧電体層中に拡散することで、多孔質部19が形成される。チタン金属の代わりに酸化チタン、水素化チタン等のチタン化合物を用いても良い。焼成後に拡散して空隙と金属との界面にチタン化合物が残りにくくするという点で、チタン金属を用いるのがよい。」

(イ) 引用例4発明について
上記(ア)の記載から、引用例4には、実質的に次の発明(以下、「引用例4発明」という。)が記載されているものと認められる。

「積層型圧電素子の製法であって
PbZrO_(3)-PbTiO_(3)等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電性セラミックスの仮焼粉末を含むセラミックグリーンシートを作製し、
銀-パラジウム等の内部電極5を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して内部電極用の導電性ペーストを作製し、
酸化チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または酸化チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを作製し、
導電性ペーストを上記したグリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって印刷し、
セラミックグリーンシートの上面のうち多孔質部19を形成したい領域に、酸化チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または酸化チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを印刷し、この印刷面の上面に、導電性ペーストを印刷し、
樹脂ビーズ等を混合した上記ペーストを印刷した部分は、焼成プロセスにおいて、アクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失するとともに、周囲の金属粉末が焼結し、周囲の金属とアクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失した空間との界面に、チタン金属、チタン酸化物等の金属チタン成分が存在し、焼失した空間を保持し、さらに、その後、上記酸化チタン成分が金属中や圧電体層中に拡散することで、多孔質部19が形成される
ことを特徴とする方法。」

イ 引用例5(当審の拒絶理由において引用例2として引用した文献)について
(ア)当審の拒絶の理由に引用され、特開2011-29272号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

「【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では積層セラミックコンデンサについて説明したが、例えば、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体からなる圧電磁器と電極とを備える積層圧電素子であってもよい。すなわち、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを備える電子部品であれば、本発明の製造方法又は検査方法を適用することによって、本発明の効果を享受することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1,2)
<素体の作製>
原料として、BaTiO_(3)系セラミック粉末に、表1に示す添加物、有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)、及び溶媒としてメタノールを準備した。次に、該セラミック粉末100質量部に対して、10質量部の有機バインダと、130質量部の溶媒とを、ボールミルで混練してスラリー化することによって誘電体スラリーを得た。」
「【0072】
(実施例5)
<圧電素子の作製>
出発原料として、酸化鉛(PbO)、酸化チタン(TiO_(2))、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))、酸化ニオブ(Nb_(2)O_(5))の各粉末原料を準備した。これらの原料を、焼成後にPb[(Zn_(1/3)Nb_(2/3))_(0.1)(Ti_(0.5)Zr_(0.5))_(0.9)]O_(3)の組成を有する圧電磁器組成物となるように、各出発原料を秤量して配合し、混合原料を調製した。」

(イ)引用例5記載事項について
上記(ア)の記載から、引用例5には、実質的に次の事項(以下、「引用例5記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体からなる圧電磁器と電極とを備える積層圧電素子であって、原料として、BaTiO_(3)系セラミック粉末や酸化チタン(TiO_(2))を使うこと。」

ウ 対比
(ア)本願発明と引用例4発明とを対比する。
a 引用例4発明の「積層型圧電素子」「導電性ペースト」「PbZrO_(3)-PbTiO_(3)等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電性セラミックスの仮焼粉末を含むセラミックグリーンシート」「酸化チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または酸化チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペースト」「焼成プロセス」は、本願発明の「多層圧電デバイス」「電極材料」「圧電材料を含むグリーンシート」「少なくとも第1および第2の成分を含む助剤」「前記積層体(1)を焼結するステップ」に相当する。
b 引用例4発明は、「導電性ペーストを上記したグリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって印刷し、
セラミックグリーンシートの上面のうち多孔質部19を形成したい領域に、酸化チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または酸化チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを印刷し、この印刷面の上面に、導電性ペーストを印刷」することは、本願発明の「圧電性のグリーンシートと、前記助剤を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップ」に相当する。
c 引用例4発明の「樹脂ビーズ等を混合した上記ペーストを印刷した部分は、焼成プロセスにおいて、アクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失するとともに、周囲の金属粉末が焼結し、周囲の金属とアクリルビーズまたはカーボン粉末が焼失した空間との界面に、チタン金属、チタン酸化物等の金属チタン成分が存在し、焼失した空間を保持し、さらに、その後、上記酸化チタン成分が金属中や圧電体層中に拡散することで、多孔質部19が形成される」ことは、本願発明の「前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され」ることに相当する。
d 引用例4発明の「上記酸化チタン成分が金属中や圧電体層中に拡散することで、多孔質部19が形成される」ことと、本願発明の「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される」こととは、「前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、」「前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される、」点で共通する。

そうすると、本願発明と引用例4発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「多層圧電デバイスの製造方法であって、
A)電極材料と、圧電材料を含むグリーンシートとを準備するステップと、
B)少なくとも第1および第2の成分を含む助剤を準備するステップと、
C)圧電性のグリーンシートと、前記助剤を含む少なくとも1つの薄層および前記電極材料を含む層とが交互に重なって設けられた積層体(1)を形成するステップと、
D)前記積層体(1)を焼結するステップと、
を備え、
前記方法ステップD)において、前記助剤の前記第1および第2の成分が化学的に反応して、前記少なくとも1つの薄層が分解されて、多孔質の脆弱層(21)が形成され、
前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される、
ことを特徴とする方法。」

[相違点]
本願発明は「前記電極材料および前記助剤は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記助剤におけるよりも少ない分量となるように選択されており、
前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり、
前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成される」のに対して、引用例4発明は、そのようになっていない点。

エ 当審の判断
[相違点]について検討する。
引用例4発明は、「導電性ペースト」と「酸化チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または酸化チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペースト」は同じ金属を含んでおらず、また、「酸化チタン粉末を混合したアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、バインダー、可塑剤等を添加混合したペースト、または酸化チタン粉末を混合したカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペースト」に含まれた、「酸化チタン粉末」および「アクリルビーズ等の樹脂ビーズ」もしくは「カーボン粉末」は反応していないから、本願発明と引用例4発明は、同一であるとは言えない。
また、引用例4の記載から、「前記電極材料および前記助剤は、これらが同じ金属を含み、当該金属が前記電極材料に存在する分量が、前記助剤におけるよりも少ない分量となるように選択されており、
前記方法ステップD)において、前記第1および第2の成分は反応して第3の成分となり、および/または前記第1の成分は第3の成分および第4の成分に分解し、前記第4の成分が前記第2の成分と反応して前記第1の成分となり、
前記脆弱層(21)は、前記方法ステップD)における、前記第3の成分および/または前記第1の成分の前記電極材料(20)を含む層への拡散侵入(hindiffundieren)によって形成」することを、当業者が容易に想起することができたとは認められない。
また、引用例5には、[相違点]に係る方法は、記載されていない。
そうすると、引用例5の記載から、引用例4発明において、上記[相違点]について、本願発明の方法を採用することが容易であるとも言えない。
そして、本願発明は、特に[相違点]を有することによって、「そこで本発明の課題は、高い信頼性を備えた多層圧電デバイスの製造方法を提供することである。」(【0004】)という格別の効果を有するものであるから、[相違点]に係る方法は、引用例4および5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであるとは言えない。
したがって、本願発明は、引用例4に記載された発明と同一であるとは言えず、また、引用例4および5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本願の請求項2ないし8に係る発明の新規性進歩性について
本願の請求項2ないし8は、請求項1を引用しており、本願の請求項2ないし8に係る発明は本願発明の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本願発明が引用例4に記載された発明と同一であるとは言えず、また、引用例4および5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願の請求項2ないし8に係る発明も、引用例4に記載された発明と同一であるとは言えず、また、引用例4および5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)当審拒絶理由についてのまとめ
以上のとおり、当審拒絶理由のAないしDに示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
そすると、もはや、当審の拒絶理由によっては本願を拒絶することはできない。

第6 結語
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-14 
出願番号 特願2014-522012(P2014-522012)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齊田 寛史正山 旭加藤 俊哉小山 満  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
河口 雅英
発明の名称 多層圧電デバイスの製造方法、助剤を含む多層圧電デバイス、および多層圧電デバイスの破壊応力抑制のための助剤の使用  
代理人 長門 侃二  

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