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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1325767
審判番号 不服2015-20763  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-24 
確定日 2017-03-09 
事件の表示 特願2012- 30112「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月29日出願公開、特開2013-168457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年2月15日の出願であって、平成27年2月19日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月24日付けで手続補正がなされたが、同年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月24日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成27年11月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
(補正却下の決定の結論)
平成27年11月24日付けの手続補正を却下する。

(理由)
(1)補正後の本願発明
平成27年11月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、請求項1については、本件補正前(平成27年4月24日付け手続補正)に、
「【請求項1】
半導体と、
前記半導体を駆動する回路を有する主回路基板と、
前記主回路基板を格納するケーシングと、
前記主回路基板の熱を放熱する冷却フィンと、を有し、
前記ケーシングは、前記ケーシングの設置面と対向する上面壁が複数の開口部を有する2層構造で形成され、
電力変換装置の設置状態において、前記2層構造の上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状であることを特徴とする電力変換装置。」
とあったところを、

「【請求項1】
半導体と、
前記半導体を駆動する回路を有する主回路基板と、
前記主回路基板を格納するケーシングと、
前記主回路基板の熱を放熱する冷却フィンと、を有し、
前記ケーシングは、前記ケーシングの設置面と対向する上面壁が複数の開口部を有する2層構造で形成され、
電力変換装置の設置状態において、前記2層構造の上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状であり、
さらに、前記2層構造は、前記ケーシングの設置面に対して側面の壁または底面の壁にも形成されており、
前記上面壁、および、前記側面の壁または前記底面の壁は、着脱可能なカバーで形成されていることを特徴とする電力変換装置。」
と補正するものである。

上記補正は、実質的に、複数の開口部を有する「2層構造」の配置箇所について、「側面の壁または底面の壁にも形成され」るとの限定を付加するものであり、また、ケーシングの「壁」について、本件補正前の請求項4に係る「着脱可能なカバーで形成されている」との構成を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-165423号公報(以下、「引用例1」という。)には、「電子機器装置」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は、ケース本体に、各種の発熱部品を実装した複数の機能の異なる回路基板を、同一のケース内に各々の回路基板の間に空間を介して階層構造にして収納すると共に、例えば直流を交流に変換するインバータなどの高圧電源で動作する電力変換装置などの電子機器装置に関し、特に電子機器装置の冷却能力を向上させるための放熱構造に関するものである。」

イ.「【背景技術】【0002】従来、ケース本体に、各種の発熱部品を実装した複数の機能の異なる回路基板を、同一のケース内に各々の回路基板の間に空間を介して階層構造にして収納すると共に、直流を交流に変換するインバータなどの高圧電源で動作する電力変換装置などの電子機器装置が用いられている。近年、産業機械設備の分野における省エネあるいは小型化やコストダウン志向を背景として、電子機器装置の小型化の要求がますます強くなってきている。以下、インバータの例を用いて説明する。
この電子機器装置には、高熱を発するIGBT素子等の半導体素子を含むパワーモジュールが用いられており、該パワーモジュールをヒートシンクに密着固定させてパワーモジュールを直接的に冷却する放熱構造、あるいはパワーモジュールに隣接して、複数の機能の異なる回路基板の間にある空間を利用して通風路を形成することによりパワーモジュールを間接的に冷却する放熱構造、また、ファンによる冷却風を回路基板上の風上に実装された第1の発熱部品に対向するヒートシンクに強制的に当てた後、冷却風の向きをガイドにより強制的に変更することで、該冷却風により回路基板上の風下に実装された第2の発熱部品を冷却する構造が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平3-16299号公報(第1頁?第2頁、図2)
【特許文献2】特開平11-097872号公報(第4頁、図1)」

ウ.「【0003】図4は、第1従来技術を示す電子機器装置の分解斜視図で、特許文献1の技術に相当する。
図において、1は電子機器、2はヒートシンク、21はパワーモジュール、22はスタッド、23は取り付けねじ、3はパワー基板、32は高発熱の第1発熱部品、31は第1発熱部品32に比べて立設部分の長さが大きい第2発熱部品、4は制御基板、6はケース本体、61、62は通気孔である。
ケース本体6の内部には、機能の異なるパワー回路部分と制御回路部分とが収納されている。このパワー回路部分と制御回路部分としては、それぞれ各種の第2発熱部品31や第1発熱部品32を実装したパワー基板3および制御基板4からなる回路基板が用いられており、両基板3、4は同一のケース内に各々の基板の間に空間を介して階層構造的にして配置されている。
また、パワー基板3の背面には電力変換を行うための高発熱のパワーモジュール21が電極を介して接続されている。該パワーモジュール21の背面に放熱用のヒートシンク2を密着するように固定している。さらに、ヒートシンク2の四隅にスタッド22などの固定部材が取り付けられており、パワー基板3および制御基板4の四隅に設けた穴部に取り付けねじ23を挿入して、該スタッド22に取り付けねじ23をねじ込むことにより、各基板3、4およびヒートシンク2が固定される。それから、ケース本体6にはパワー基板3および制御基板4の長手方向と互いに対向する面に開口するようにスリット状をした通気孔61、62が形成されている。
このような電子機器装置において、一方のパワーモジュール21で発生した熱はヒートシンク2により放熱が行われる。また、他方、ケース本体6の下部の面に設けた通気孔61から上部の面に設けた通気孔62に沿って外気を取り入れると、パワー基板3と制御基板4の間の空間に外気が流入し、各基板に実装された発熱部品から発生する熱を該流入した外気の自然対流によってケース本体6の外部に放出し、熱交換が行われる。」

・上記「ア.」の記載によれば、引用例1は、ケース本体に、各種の発熱部品を実装した回路基板を、ケース内に収納すると共に、例えば直流を交流に変換するインバータなどの高圧電源で動作する電力変換装置などの電子機器装置に関し、特に電子機器装置の冷却能力を向上させるための放熱構造に関する発明である。

・上記「イ.」の記載によれば、背景技術として、ケース本体内に、複数の機能の異なる回路基板を、階層構造にして収納すると共に、インバータなどの高圧電源で動作する電力変換装置などの電子機器装置が用いられているが、近年、産業機械設備の分野における省エネあるいは小型化やコストダウン志向を背景として、電子機器装置の小型化の要求がますます強くなってきていることが記載されている。
また、インバータの例として、電子機器装置には、高熱を発するIGBT素子等の半導体素子を含むパワーモジュールが用いられ、パワーモジュールをヒートシンクに密着固定させてパワーモジュールを直接的に冷却する放熱構造、あるいはパワーモジュールに隣接して、複数の機能の異なる回路基板の間にある空間を利用して通風路を形成することによりパワーモジュールを間接的に冷却する放熱構造等が、提案されていることが記載されている。

・上記「ウ.」の記載及び図4によれば、従来技術として、図4において、1は電子機器、2はヒートシンク、21はパワーモジュール、22はスタッド、23は取り付けねじ、3はパワー基板、4は制御基板、6はケース本体、61、62は通気孔であり、ケース本体6の内部に、機能の異なるパワー回路部分と制御回路部分とが回路基板を用いて収納配置され、パワー基板3の背面には電力変換を行うための高発熱のパワーモジュール21が電極を介して接続され、該パワーモジュール21の背面に放熱用のヒートシンク2を密着するように固定し、ヒートシンク2の四隅にスタッド22などの固定部材が取り付けられており、パワー基板3および制御基板4の四隅に設けた穴部に取り付けねじ23を挿入して、スタッド22に取り付けねじ23をねじ込むことにより、各基板3、4およびヒートシンク2が固定され、ケース本体6にはパワー基板3および制御基板4の長手方向と互いに対向する面に開口するようにスリット状をした通気孔61、62が形成されている構成が記載されている。
また、このような電子機器装置において、一方のパワーモジュール21で発生した熱はヒートシンク2により放熱が行われ、他方、ケース本体6の下部の面に設けた通気孔61から上部の面に設けた通気孔62に沿って外気を取り入れると、各基板に実装された発熱部品から発生する熱を該流入した外気の自然対流によってケース本体6の外部に放出し、熱交換が行われることが記載されている。

そうすると、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、従来技術として次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「IGBT素子等の半導体素子を含むパワーモジュール21と、
パワーモジュール21に接続されたパワー基板3および制御基板4からなる回路基板と、
回路基板を収納するケース本体6と、
パワーモジュール21の熱を放熱するヒートシンク2と、を有し、
ケース本体6には、回路基板の長手方向と互いに対向する面に開口するようにスリット状をした通気孔61、62が形成され、
ケース本体6の下部の面に設けた通気孔61から、対向する上部の面に設けた通気孔62に沿って外気を取り入れ、回路基板に実装された発熱部品から発生する熱を流入した外気の自然対流によってケース本体6の外部に放出し、熱交換を行う電子機器装置。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「パワーモジュール21」は、IGBT素子等の半導体素子を含むものであるから、本願補正発明の「半導体」に相当し、引用発明の「パワーモジュール21に接続されたパワー基板3および制御基板4からなる回路基板」は、パワーモジュールを駆動する制御回路部分とパワー回路部分とが搭載された回路基板であるから、本願補正発明の「半導体を駆動する回路を有する主回路基板」に相当する。
また、引用発明の「ケース本体6」は、その内部に回路基板を収納配置するものであるから、本願補正発明の「ケーシング」に相当し、引用発明の「ヒートシンク2」は、パワーモジュールで発生した熱を放熱するためのものであるから、本願補正発明の「冷却フィン」に相当する。
ただし、本願補正発明の冷却フィンは、「主回路基板の熱を放熱する」のに対し、引用発明のヒートシンクは、パワーモジュールの熱は放熱するものの、回路基板の熱の放熱については特定はなされていない。

b.引用発明のケース本体6は、ケース本体6の下部の面に設けた通気孔61から、対向する上部の面に設けた通気孔62に沿って外気を取り入れ、回路基板に実装された発熱部品から発生する熱を、流入した外気の自然対流によってケース本体6の外部に放出するものであるから、引用発明のケース本体6の「下部の面」に対向する「上部の面」は、本願補正発明のケーシングの接地面に対して「底面の壁」と対向する「上面壁」にそれぞれ相当する。また、引用発明の「通気孔61、62」は、ケース本体6に、回路基板の長手方向と互いに対向する面に開口するように形成された複数のスリット状をした通気孔であるから、本願補正発明の「複数の開口部」に相当する。
ただし、本願補正発明の上面壁は、複数の開口部を有する「2層」構造で形成され、「2層」構造の「上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状であ」るのに対し、引用発明の上部の面は、複数の開口部(複数のスリット状をした通気孔)を有する構造であるものの、「2層」構造で形成されるとの特定はなされていない。

c.引用発明の「電子機器装置」は、直流を交流に変換するインバータなどの高圧電源で動作する電力変換装置などの電子機器装置であるから、本願補正発明の「電力変換装置」に相当する。
ただし、本願補正発明は、複数の開口部を有する「2層」構造が、ケーシングの設置面に対して側面の壁または底面の壁にも形成されているのに対し、引用発明のケース本体6は、下部の面に複数の開口部(複数のスリット状をした通気孔)を備えるものの、2層構造は有していない。
さらに、本願補正発明の上面壁、および、側面の壁または底面の壁は、「着脱可能なカバーで形成されている」のに対し、引用発明のケース本体6の上部の面および下部の面は、そのような構成を備えていない。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「半導体と、
前記半導体を駆動する回路を有する主回路基板と、
前記主回路基板を格納するケーシングと、
前記半導体の熱を放熱する冷却フィンと、を有し、
前記ケーシングは、前記ケーシングの設置面と対向する上面壁が複数の開口部を有する構造で形成されていることを特徴とする電力変換装置。」

(相違点1)
本願補正発明は、主回路基板(及び半導体)に隣接して冷却フィンが取付けられて、主回路基板(及び半導体)で発生した熱を冷却する構造であるのに対し、引用発明は、パワーモジュールの熱は放熱するものの、回路基板の熱の放熱については特定はなされていない点。

(相違点2)
本願補正発明の上面壁は、複数の開口部を有する「2層」構造で形成され、「2層」構造の「上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状であ」るのに対し、引用発明の上部の面は、複数の開口部(複数のスリット状をした通気孔)を有する構造であるものの、「2層」構造で形成されるとの特定はなされていない点。

(相違点3)
本願補正発明は、複数の開口部を有する「2層」構造が、ケーシングの設置面に対して側面の壁または底面の壁にも形成されているのに対し、引用発明のケース本体は、下部の面に複数の開口部(複数のスリット状をした通気孔)を備えるものの、2層構造は有していない点。

(相違点4)
本願補正発明の上面壁、および、側面の壁または底面の壁は、「着脱可能なカバーで形成されている」のに対し、引用発明のケース本体の上部の面および下部の面は、そのような構成を備えていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
インバータなどの電力変換装置において、主回路基板に隣接して冷却フィンを取付け、主回路基板で発生した熱を放熱して冷却する構成は、例えば、特開2010-68670号公報の図1や段落【0032】、特開2011-83152号公報の図2や段落【0024】に記載されているように周知の技術事項である。
したがって、引用発明において、パワーモジュールに加えて主回路基板の熱も放熱するために、周知技術を適用して、主回路基板を冷却フィンに隣接して取付けて、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-103429号(実開平3-20489号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、「電気機器の容器」について、第1図?第5図とともに、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
エ.「〔従来の技術〕第3図は樹脂モールド製容器の斜視図で、取付け座1aを備えた上面開口のケース1にカバー2を被せたもので、ケース1の内部に電気部品が収納される。この電気部品が発熱性のものである場合は通風放熱のためケース1の側面とカバー2の上面に二重構造の格子の通風孔3,4が設けられる。この容器の取付け状態では、通風孔3は容器外部の空気の流入口として、通風孔4は容器内部の空気の流出口として機能する。このような通風孔3,4はともに二重構造になっており、たとえば通風孔4のA-A矢視断面斜視図を第4図に、断面図を第5図に示す。この通風孔4は、横断面形状が正方形なる複数本の細棒4aを隙間5aを介して格子状に並べ、隙間5aの寸法が細棒4aの幅寸法と同一になるように細棒4aを容器の外側に設け、さらに容器の内側には細棒4aと同一形状,同一寸法の細棒4bを隙間5bを介して格子状に並べ、外側の格子と内側の格子とは細棒4a,4bと隙間5a,5bが互い違いになるように二重に構成されている。このように構成した通風孔4における空気の流通経路は矢印で示すごとく内側の格子の隙間5bから流入する空気は外側の格子の細棒4aの下面に当たって90度曲折し、さらに90度曲折したのち外側の格子の隙間5aより容器外部へ流出する。もし容器外部より外側の格子の隙間5aから塵埃が侵入しても内側の格子の細棒4bの上面に溜まり容器の内部に侵入するのは少ない。(明細書第1頁第17行目から第3頁第4行目)」
(中略)
「〔考案の効果〕この考案では通風孔の二重格子構造の細棒の横断面形状をホームベース形またはT字形とし、対向させて互い違いになるように配列することにより空気の通路部分が広くなり通風抵抗が減少し、さらに空気の流れは浅い角度で2回のみ湾曲して流れるので空気の流通は極めて円滑となる。従って、通風孔からの塵埃の侵入を防止すると共に発熱部品の放熱を効果的に行うことができる。(明細書第8頁第8行目から第16行目)」

そうすると、引用例2には、発熱性の電気部品を収納した電気機器の容器において、電気部品の通風放熱のためケースの側面と、上面開口のケースに被せたカバー上面に、通風孔を上方とした容器の設置状態において、上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状の二重構造の格子の通風孔を設けることで、通風孔からの塵埃の侵入を防止すると共に発熱部品の放熱を効果的に行うことができる技術事項が記載されている。
そして、引用発明の発熱部品から発生する熱を流入した外気の自然対流によってケーシング(ケース本体)の外部に放出し、熱交換を行う電力変換装置(電子機器装置)のケーシングの設置面と対向する上面壁の「複数の開口部」に、引用例2の通風孔からの塵埃の侵入を防止すると共に発熱部品の放熱を効果的に行うことができる「二重構造の格子の通風孔」を適用して、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点3について)
引用例2には、上記(相違点2について)に既述したように、発熱性の電気部品を収納した電気機器の容器において、電気部品の通風放熱のためケースの側面に二重構造の格子の通風孔を設けることが記載されている。
したがって、引用発明の側面の壁や底面の壁(下部の面の複数の開口部)に引用例2の「二重構造の格子の通風孔」を適用して、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点4について)
引用例2には、上記(相違点2について)に既述したように、上面開口のケース1にカバー2を被せたものとの記載があり、通風放熱のためケース1の側面とカバー2の上面に二重構造の格子の通風孔が設けられているから、カバー2は二重構造の格子の通風孔を備えた着脱可能なカバーで形成されているものと認められる(引用例2の第3図も参照)。
また、インバータ機器や電気機器において、点検や交換等のメンテナンス性を向上するため、通気口(開口)を有するカバーを上面や側面において着脱可能な構成とすることは、特開平9-68375号公報(特に段落【0012】?【0014】、図2を参照)や、特開2002-340380号公報(特に段落【0007】?【0008】、図1、図2を参照)に記載されているように周知の技術事項である。
そうすると、引用発明の上面壁や底面の壁の「複数の開口部」に引用例2の二重構造の格子の通風孔を備えた着脱可能なカバーや上記周知の技術事項を適用して、相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は、審判請求書において、本願補正発明により「電力変換装置の上面、側面、底面において空気対流を可能とし、冷却性能を向上させることができる。また、2層構造により電力変換装置の運転中に外部からの塵埃等が電力変換装置内部に侵入することを防ぐことができるのに加えて、上面壁等が着脱可能なカバーで形成されていることにより、非運転中に2層構造部分に堆積した塵埃等をお客様自身で洗浄する際に塵埃等が電力変換装置内に侵入することを防ぐことができるという効果をも奏する」旨主張している。
しかしながら、上記「2.(4)」に既述したように、引用例2の発熱性の電気部品を収納した電気機器容器においても、電気部品の通風放熱のため、ケースの側面と、上面開口のケースに被せたカバー上面に、容器の設置状態において、上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状の二重構造の格子の通風孔を設けることで、通風孔からの塵埃の侵入を防止すると共に発熱部品の放熱を効果的に行うことができる技術事項が記載されており、引用例2の上面開口のケースに被せたカバーを取り除けば、非運転中に2層構造部分に堆積した塵埃等をお客様自身で洗浄する際に塵埃等が電気機器容器内に侵入することを防ぐことができるものである。そして、電子機器装置のケース本体に流入した外気の自然対流による放熱構造(複数の開口部を有する構造)という同じ技術分野である引用例1の複数の開口部に、引用例2の技術事項や周知の着脱可能なカバーを適用することに特段の阻害要因も認められない。よって請求人の主張は認められない。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載された技術事項及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成27年11月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年4月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
半導体と、
前記半導体を駆動する回路を有する主回路基板と、
前記主回路基板を格納するケーシングと、
前記主回路基板の熱を放熱する冷却フィンと、を有し、
前記ケーシングは、前記ケーシングの設置面と対向する上面壁が複数の開口部を有する2層構造で形成され、
電力変換装置の設置状態において、前記2層構造の上部層と下部層とは縦方向よりも横方向に長い平板形状であることを特徴とする電力変換装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及びその記載事項は、前記「2.(2-1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「複数の開口部を有する2層構造(で形成された壁)」について、「2層構造は、前記ケーシングの設置面に対して側面の壁または底面の壁にも形成されており、前記上面壁、および、前記側面の壁または前記底面の壁は、着脱可能なカバーで形成されている」との限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項(上記相違点3及び4に係る構成)を付加したものに相当する本願補正発明が前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から他の限定事項(上記相違点3及び4に係る構成)を省いたものである本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-08 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2017-01-25 
出願番号 特願2012-30112(P2012-30112)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩井上 信小金井 匠  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 森川 幸俊
関谷 隆一
発明の名称 電力変換装置  
代理人 戸田 裕二  

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