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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1325768
審判番号 不服2015-21052  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-27 
確定日 2017-03-09 
事件の表示 特願2011-537148「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月28日国際公開、WO2011/048822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2010年10月22日(優先権主張2009年10月23日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月24日に手続補正書が提出され、平成26年4月21日付けで拒絶理由が通知され、平成26年6月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年9月30日付で拒絶理由が通知され、平成26年12月9日に意見書が提出され、平成27年1月30日付で拒絶理由が通知され、平成27年4月6日に意見書が提出されたが、平成27年8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成27年11月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成26年6月26日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、下記一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物が、該正孔輸送層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(1)
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は互いに同一でも異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、r1、r4、r5は0または1?4の整数を表し、r2、r3、r6は0または1?3の整数を表し、nは1を表し、Ar1、Ar2、Ar3は互いに同一でも異なっていても良く、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された韓国公開特許第10-2009-0028943号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)
















(日本語訳:
特許請求の範囲
請求項1
下記化学式1で表示される化合物。

[化学式1]
(上記化学式1で、Ar_(1)?Ar_(5)は、それぞれ単独にS、N、O、P及びSiのうちいずれか一つ以上のヘテロ原子を含むか、含んでいないC_(1-30)アルキル基で置換されたC_(3-30)アリール基、又はS、N、O、P及びSiのうちいずれか一つ以上のヘテロ原子を含むC_(3-30)アリール基であり、任意にAr_(1)?Ar_(5)の中から選ばれた2つ以上は、互いに結合して環を形成することができ、R_(1)?R_(12)は、それぞれ単独に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基、アルコキシ基、置換もしくは非置換のC_(1-30)アルキル基又はC_(3-30)アリール基、S、N、O 、P及びSiのうちいずれか一つ以上のヘテロ原子を含むC_(1-30)アルキル基又はC_(3-30)アリール基であり、任意にR_(1)?R_(12)の中から選ばれた2つ以上は、互いに結合して環を形成することができる。)
請求項2
請求項1において、上記化学式1の化合物が、下記の化合物1?41の中から選ばれたものであることを特徴とする化合物。
・・・(化合物1?28省略)・・・

[化合物29]
・・・(化合物30?41省略)・・・
請求項3
陽極、陰極、及び両方の電極の間に、発光層及び請求項1の化合物を含む正孔注入層、正孔輸送層、又はこれらの両方を含む、有機電界発光素子。
請求項4
請求項3において、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び陰極が順次積層された構造を有することを特徴とする、有機電界発光素子。)

(2)

(日本語訳:
明細書
発明の詳細な説明
技術分野
<1>本発明は、正孔注入層及び/又は正孔輸送層の材料として使用可能な新規物質、及びこれを正孔注入層及び/又は正孔輸送層に含む有機電界発光素子に関するものである。
背景技術
<2>最近、自己発光型で低電圧駆動が可能な有機電界発光素子は、平板表示素子の主流である液晶ディスプレイ(LCD、liquid crystal display)に比べて、視野角、コントラスト比等に優れ、バックライトが不要で軽量及び薄型が可能であり、消費電力の面でも有利で、色再現範囲が広く、次世代の表示素子として注目を浴びている。
<3>一般的に、有機電界発光素子は、陰極(電子注入電極)と陽極(正孔注入電極)、及び上記二つの電極の間に有機層を含む構造を有する。このとき、有機層は、発光層(EML、light emitting layer)に加えて、正孔注入層(HIL、hole injection layer)、正孔輸送層(HTL、hole transport layer)、電子輸送層(ETL、electron transport layer)又は電子注入層(EIL、electron injection layer)を含み、発光層の発光特性上、電子ブロック層(EBL、electron blocking layer)又は正孔ブロック層(HBL、hole blocking layer)を追加で含むことができる。陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極の順に積層された構造を有する一般的な有機電界発光素子の構造を、図1に示した。
<4>このような構造の有機電界発光素子に電界が加わると、陽極から正孔が注入され、陰極から電子が注入されて、正孔と電子は、それぞれ正孔輸送層と電子輸送層を経て発光層で再結合(recombination)するようになり、発光励起子(exitons)を形成する。形成された発光励起子は、基底状態(ground states)に転移しながら光を放出する。発光状態の効率と安定性を増加させるために、発光色素(ドーパント)を発光層(ホスト)にドーピングすることもある。
<5>有機電界発光素子の正孔注入層及び/又は正孔輸送層に使用される物質として、カルバゾール誘導体が多様に知られている(米国特許第6979414号、第6670054号、第6660410号、第5591554号及び第4521605号、及び大韓民国特許第0351234号及び第0346984号を参照)。
<6>しかし、これまで知られているカルバゾール誘導体を含む正孔注入層又は正孔輸送層を用いた有機電界発光素子の場合、高い駆動電圧、低効率、及び短い寿命のために、実用化する上で難しい面が多かった。したがって、カルバゾール誘導体を用いた様々な種類の正孔注入層又は正孔輸送層材料を利用して、低電圧駆動、高効率、長寿命を有する有機電界発光素子を開発しようとする努力が続けられてきた。)

(3)

(日本語訳:
発明の内容
解決しようとする課題
<14>したがって、本発明の目的は、優れた正孔注入機能及び正孔輸送能を有し、有機電界発光素子の駆動電圧、発光効率及び寿命特性を大幅に改善することができる正孔注入層/正孔輸送層材料、及びこれを含む有機電界発光素子を提供することである。
課題解決手段
<15>上記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で表示される化合物を提供する:
化学式1
<16>
・・・(化学式省略)・・・
<17>上記化学式1で、
<18>Ar_(1)?Ar_(5)は、それぞれ単独にS、N、O、P及びSiのうちいずれか一つ以上のヘテロ原子を含むか、含んでいないC_(1-30)アルキル基で置換されたC_(3-30)アリール基、又はS、N、O、P、及びSiのうちいずれか一つ以上のヘテロ原子を含むC_(3-30)アリール基であり、任意にAr_(1)?Ar_(5)の中から選ばれた2つ以上は、互いに結合して環を形成することができ、
<19>R_(1)?R_(12)は、それぞれ単独に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基、アルコキシ基、置換もしくは非置換のC_(1-30)アルキル基又はC_(3-30)アリール基、S、N、O、P及びSiのうちいずれか一つ以上のヘテロ原子を含むC_(1-30)アルキル基又はC_(3-30)アリール基であり、任意にR_(1)?R_(12)の中で選ばれた2つ以上は、互いに結合して環を形成することができる。
<20>また、本発明は、上記化学式1の化合物が正孔注入層、正孔輸送層、又はこれらの両方に含まれる有機電界発光素子を提供する。
効果
<21>本発明の化合物は、従来の物質に比べて優れた正孔注入機能及び正孔輸送能を有するため、有機電界発光素子の正孔注入層/正孔輸送層材料として使用され、有機電界発光素子の駆動電圧、発光効率及び寿命特性を著しく改善させることができる。
発明の実施のための具体的な内容
<22>上記化学式1で表されるアルキル-及びアリール-置換されたカルバゾール誘導体の具体例として、下記の化合物1?41で表される化合物がある。)

(4)





(日本語訳:
<29>本発明による化学式1の化合物は、芳香族ホウ素化合物と芳香族ハロゲン化合物を、炭素-炭素カップリング反応のうち広く知られている鈴木カップリング(Suzuki-coupling)反応を通じて製造することができる。たとえば、下記反応式1に示すように、本発明の化学式1の化合物を製造することができる。
反応式1
<30>・・・(化学式省略)・・・
<31>上記式において、
<32>Ar_(1)?Ar_(5)及びR_(1)?R_(12)は、上記定義したとおりであり、
<33>Xがハロゲン原子である場合、YはB(OH)_(2)であり、
<34>XがB(OH)_(2)である場合、Yはハロゲン原子である。
<35>また、本発明は、上記化学式1の化合物を正孔注入層、正孔輸送層、又はこれらの両方に含まれる有機電界発光素子を提供する。このとき、化学式1の化合物は、電子注入層及び/又は電子輸送層形成用材料としても使用することができる。
<36>本発明の有機電界発光素子は、陽極(正孔注入電極)、上記化学式1の化合物を含む正孔注入層(HIL)及び/又は正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)及び陰極(電子注入電極)が順次積層された構造を有し、望ましくは、陽極と発光層の間に電子ブロック層(EBL)を、そして陰極と発光層の間に電子輸送層(ETL)、電子注入層(EIL)又は正孔ブロック層(HBL)を追加で含むことができる。
<37>陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極の順に、基板上に積層された有機電界発光素子の構造を図1に示した。
<38>まず、基板表面に陽極用物質を通常の方法でコーティングして陽極を形成する。このとき、使用される基板は、透明性、表面平滑性、取扱い容易性及び防水性に優れたガラス基板又は透明プラスチック基板が望ましい。また、陽極用物質としては、透明で導電性に優れた酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ(SnO_(2))、酸化亜鉛(ZnO)等が使用可能である。
<39>次に、上記陽極表面に正孔注入層(HIL)材料を通常の方法で真空熱蒸着又はスピンコーティングし、正孔注入層を形成する。このとき、正孔注入層材料として上記化学式1の化合物を使用するが、化学式1の化合物と共に使用できる正孔注入層材料としては、特に制限されず、銅フタロシアニン(CuPc)、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルアミノ)フェノキシベンゼン(m-MTDAPB)、スターバースト(starburst)型アミン類である4,4’,4”-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)、4,4’,4”-トリス(N-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ)-トリフェニルアミン(2-TNATA)、又は出光興産株式会社(Idemitsu)で購入可能なIDE406を、正孔注入層材料として使用することができる。
<40>上記正孔注入層の表面に正孔輸送層(HTL)材料を通常の方法で真空熱蒸着又はスピンコーティングし、正孔輸送層を形成する。このとき、正孔輸送層材料として上記化学式1の化合物を使用するが、化学式1の化合物と共に使用できる正孔輸送層材料としては、特に制限されず、ビス(N-(1-ナフチル-n-フェニル))ベンジジン(α-NPD)、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン(NPB)、又はN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ジフェニル-4,4’ジアミン(TPD)を正孔輸送層材料として使用することができる。
<41>上記正孔輸送層の表面に発光層(EML)材料を通常の方法で真空熱蒸着又はスピンコーティングし、発光層を形成する。このとき、使用される発光層材料のうちホスト材料の場合、特に制限されず、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3))を使用することができる。発光層材料のうち発光ホストと共に使用されるドーパント(dopent)の場合、特に制限されず、蛍光ドーパントとしては、出光興産株式会社(Idemitsu)で購入可能なIDE102、IDE105、又はC-545T(緑色蛍光ドーパントで、「2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン」)を、燐光ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)_(3))、イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C-2’]ピコリン酸塩(FIrpic)(参照文献[Chihaya Adachi etc. Appl. Phys. Lett.,2001,79,3082-3084])、プラチナム(II)オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、TBE002(コビオン社)等を使用することができる。
<42>上記発光層の表面に電子輸送層(ETL)材料を通常の方法で真空熱蒸着又はスピンコーティングし、電子輸送層を形成する。このとき、使用される電子輸送層材料の場合、特に制限されず、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3))を使用することができる。必要に応じては、(8-キノリノラト)リチウム(Liq)、ビス(8-ヒドロキシ-2-メチルキノリノラト)-アルミニウムビフェノキシド(BAlq)、バソクプロイン(Bathocuproine、BCP)及びLiFのような正孔ブロック層(HBL)材料を、通常の方法で真空熱蒸着及びスピンコーティングして、発光層と電子輸送層の間に正孔ブロック層を形成し、発光層に燐光ドーパントを共に使用することにより、三重項励起子又は正孔が電子輸送層に拡散される現象を防止することができる。このとき、使用される正孔ブロック層材料の場合、特に限定されない。
<43>上記電子輸送層の表面に電子注入層(EIL)材料を通常の方法で真空熱蒸着又はスピンコーティングし、電子注入層を形成する。このとき、使用される電子注入層材料の場合、特に制限されず、LiF、Liq、Li_(2)O、BaO、NaCl、CsF等の物質を使用することができる。
<44>最後に、上記電子注入層の表面に陰極用物質を通常の方法で真空熱蒸着して陰極を形成する。このとき、使用される陰極用物質としては、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、アルミニウム-リチウム(Al-Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、マグネシウム-インジウム(Mg-In)、マグネシウム-銀(Mg-Ag)等を使用することができる。又、全面発光有機電界素子の場合、ITO又はIZOを使用して、光が透過できる透明な陰極を形成することもできる。
<45>本発明による有機電界発光素子は、上述したような順序、すなわち陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極の順に製造してもよく、その逆に陰極/電子注入層/電子輸送層/正孔ブロック層/発光層/正孔伝達層/正孔注入層/陽極の順に製造しても構わない。
<46>本発明のカルバゾール誘導体は、優れた正孔注入能及び正孔輸送能を有し、有機電界発光素子の正孔注入層/正孔輸送層材料として有用である。
<47>以下、本発明を下記の実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであり、限定されるものではない。)

(5)

(日本語訳:
<53>実施例2:本発明の化合物29(9-フェニル-3,6-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-9H-カルバゾール)の合成
<54>・・・(化学式省略)・・・
<55>500mLの丸底フラスコに窒素を充填した後、3,6-ジヨード-9-フェニル-9H-カルバゾール(6.9mmol、3.4g)、9フェニル-9H-カルバゾール-3-イル-3-ボロン酸(17.4mmol、5g)、Pd(PPh_(3))_(4)(0.7mmol、0.8g)及び炭酸カリウム(27.6mmol、3.8g)を入れた。ここに溶媒として300mlのテトラヒドロフラン(THF)/H_(2)O(2/1)を入れ、80℃で12時間撹拌した。反応溶液の温度を常温に下げてジクロロメタンで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、分別蒸留して溶媒を除去した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液-ジクロロメタン:n-ヘキサン=1:5)で分離し、白色固体の標題化合物3.0gを得た。
<56>収率:60%
<57>^(1)H-NMR(CDCl_(3))δ8.56(s,2H),8.49(s,2H),8.25(d,J=7.6Hz,2H),7.81(d,J=8.4Hz,4H),7.67-7.63(m,11H),7.56-7.44(m,10H),7.33-7.31(m,2H),7.25(s,2H).
<58>試験例:本発明の化合物及びこれを含む有機電界発光素子の物性測定
<59>上記実施例1及び2で得られた化合物1及び29のそれぞれに対して、核磁気共鳴(NMR)スペクトルを図2及び3に、UV-Visスペクトルを図4及び5に、光ルミネセンス(PL、photoluminescence)スペクトルを図6及び7に、熱重量分析(TGA、thermogravimetric analysis)のグラフを図8及び9に、示差走査熱量計(DSC、differential scanning calorimeter)のグラフを図10及び11にそれぞれ示した。
<60>一方、これらの化合物1及び29のそれぞれを、正孔注入層及び正孔輸送層材料として使用し、通常の方法によって、有機電界発光素子を作製した。まず、ガラス基板に形成されたITO層(陽極)上に600Åの厚さの正孔注入層、300Åの厚さの正孔輸送層、450Åの厚さのC-545Tが1%ドープされた発光層(このとき、C-545Tは緑色蛍光ドーパントで、「2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン」であり、発光ホスト物質としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3))を使用した)、250Åの厚さの電子輸送層(電子輸送層材料:トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3)))、10Åの厚さの電子注入層(電子注入層材料:LiF)及び1500Åの厚さのアルミニウム陰極を順次蒸着させ、有機電界発光素子を作製した。比較のために、本発明の化合物の代わりに、4,4’,4”-トリス(N-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ)-トリフェニルアミン(2-TNATA)を正孔注入層及び正孔輸送層材料として使用し、上記と同じ構造の有機電界発光素子を作製した。
<61>製造された有機電界発光素子に対して、電圧-輝度、電流密度-輝度、発光効率-輝度、及び量子効率-輝度曲線をそれぞれ図12?15に、X及びYの色座標-輝度曲線を図16a及び16bに、電気発光スペクトルを図17に示した。
<62>上記試験結果から分かるように、本発明の化合物は、有機電界発光素子の正孔注入層/正孔輸送層材料として使用され、有機電界発光素子の駆動電圧、発光効率及び寿命を大幅に向上させることができる。)

(6)上記(1)ないし(5)の記載からみて、引用文献1には(特に、<60>の有機電界発光素子の作製例として)、次の発明が記載されているものと認められる。

「下記化合物29を正孔注入層及び正孔輸送層材料として使用した有機電界発光素子であって、
ガラス基板に形成されたITO層(陽極)上に600Åの厚さの正孔注入層、300Åの厚さの正孔輸送層、450Åの厚さのC-545Tが1%ドープされた発光層(C-545Tは緑色蛍光ドーパントで、「2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン」であり、発光ホスト物質としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3))を使用)、250Åの厚さの電子輸送層(電子輸送層材料:トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3)))、10Åの厚さの電子注入層(電子注入層材料:LiF)及び1500Åの厚さのアルミニウム陰極を順次蒸着させて作製したものである、
有機電界発光素子。
[化合物29]

」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ITO層(陽極)」、「アルミニウム陰極」、「発光層」、「正孔輸送層」及び「有機電界発光素子」は、それぞれ、本願発明の「一対の電極」のうちの一方、「一対の電極」のうちの他方、「発光層」、「正孔輸送層」及び「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

(2)本願発明の「下記一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物

(1)
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は互いに同一でも異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、r1、r4、r5は0または1?4の整数を表し、r2、r3、r6は0または1?3の整数を表し、nは1を表し、Ar1、Ar2、Ar3は互いに同一でも異なっていても良く、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)」は、r1ないしr6がいずれも0で、Ar1、Ar2、Ar3がいずれもフェニル基であるとき、引用発明において、正孔注入層及び「正孔輸送層」材料として使用された「化合物29」(「化合物29」は、9-フェニル-3,6-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-9H-カルバゾールであり、上記3(1)及び(6)に[化合物29]として摘記したとおりの構造を有し、これは、本願明細書の段落【0068】、【0069】において、「一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例」として挙げられている下記化合物5とまったく同じ構造である。)となる。

(化合物5)
そうすると、引用発明は、本願発明の「一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物」が「正孔輸送層の構成材料として用いられている」との構成要件を充たす。

(3)引用発明の「有機電界発光素子」(本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当。)は、「ITO層(陽極)」(本願発明の「一対の電極」のうちの一方に相当。)上に、化合物29をその材料とする正孔注入層及び「正孔輸送層」(本願発明の「正孔輸送層」に相当。)、「発光層」(本願発明の「発光層」に相当。)及び「アルミニウム陰極」(本願発明の「一対の電極」のうちの他方に相当。)が順次積層された構造を有し、上記「発光層」が発光材料を含有することは明らかであるから、引用発明は、本願発明の「一対の電極とその間に挟まれた、燐光性の発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する」のうち、「一対の電極とその間に挟まれた、発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する」との構成要件を充たす。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「一対の電極とその間に挟まれた、発光材料を含有する発光層と正孔輸送層を含む複数層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、下記一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物が、該正孔輸送層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(1)
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は互いに同一でも異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、r1、r4、r5は0または1?4の整数を表し、r2、r3、r6は0または1?3の整数を表し、nは1を表し、Ar1、Ar2、Ar3は互いに同一でも異なっていても良く、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
「発光層」が含有する「発光材料」が、
本願発明では、「燐光性」の発光材料と特定されているのに対し、
引用発明では、発光ホスト物質としてAlq_(3)を使用し、当該発光ホスト物質であるAlq_(3)に、緑色蛍光ドーパントC-545T(2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-10-(2-ベンゾチアゾリル)キノリジノ-[9,9a,1gh]クマリン)を1%ドープしたものであり、燐光性の発光材料とは特定されていない点。

5 判断
相違点について検討する。
(1)引用文献1の段落<41>(上記3(4)参照。)には、発光ホストと共に使用されるドーパントは、特に制限されず、蛍光ドーパントとしてはIDE102、IDE105、又はC-545Tを、燐光ドーパントとしてはIr(ppy)_(3)、FIrpic、PtOEP、TBE002等を使用することができることが記載されているのであるから、引用発明において、発光層材料のうち燐光ドーパントとしてIr(ppy)_(3)、FIrpic、PtOEP又はTBE002を適宜の発光ホスト材料と共に使用することは、引用文献1の記載に接した当業者が容易に想到し得ることである。

(2)請求人は、審判請求書において、「引用文献1には、発光層に燐光材料を用いた有機EL素子について具体的な開示はありません。なお、段落[0041]の記載は、発光層に使われる発光材料一般について蛍光材料も燐光材料も含めて例示列挙したものに過ぎません」(14頁1?4行)と主張している。
しかしながら、引用文献1の段落<41>には、列挙された各蛍光及び燐光ドーパント材料が発光ホスト材料と共に使用することができることが記載されており、また、当該段落<41>を含む引用文献1の全記載をみても、列挙された燐光ドーパント材料の使用に何らかの制約があることはどこにも記載されていないから、引用文献1の記載に接した当業者が、引用発明において、列挙された燐光ドーパント材料のいずれかを用いようとすることを妨げる要因があるとはいえない。
また、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層において、ホスト材料としてのAlq_(3)に、PtOEP、Ir(ppy)_(3)等の燐光ドーパントを組み合わせて用いることは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。周知例として、特開2009-45622号公報の段落【0124】、【0125】の「ゲスト材料としては燐光材料も使用することができる。例えば、化学式(7)に示すIr(ppy)_(3)、Pt(thpy)_(2)、PtOEPなどが好適に用いられる・・・化学式(7)に示した燐光物質をゲスト材料とした場合、ホスト材料としては、・・・Alq_(3)などが好適に用いられる」との記載、特開2008-182164号公報の段落【0067】の「PtOEPやIr(ppy)_(3)などをゲスト材料として用いる場合、ホスト材料として、Alq_(3)・・・などを用いることができる」との記載、国際公開第2009/125518号の段落[0118]、[0119]の「図25は、発光材料としてPtOEPを用いた場合・・・図25に示す一例においては、陽極46、ホール注入層47、光取り出し向上層99、ホール輸送層48、発光層49、電子輸送層50、電子注入層51及び陰極52は、・・・それぞれITO/HIL/Ag(Xnm)/MoO(3nm)/NPB/9%PtOEP:Alq_(3)(40nm)/Alq_(3)(37.5nm)/Li_(2)O(10nm)/Al(80nm)であるものとする」との記載を参照。)から、引用発明において、発光層のホスト材料としてのAlq_(3)に、PtOEP、Ir(ppy)_(3)等の燐光ドーパントを組み合わせて使用することは、当業者であれば容易に想到し得ることであるといえる。

(3)また、請求人は、審判請求書において、「引用文献1の発明では、T_(1)については何ら測定されていないため、引用文献1に開示されている化合物が燐光性の有機EL素子においても使用できるとはいえず、あくまでも引用文献1の段落[0041]に列挙された発光材料は、発光材料一般について蛍光材料も燐光材料も含めて例示列挙したものに過ぎないと思料します」(14頁16?20行)とも主張している。
しかしながら、引用発明では、本願発明の「一般式(1)で表されるカルバゾール環構造を有する化合物」に該当する化合物29を正孔輸送層材料として使用しており、引用発明において、緑色蛍光ドーパントC-545TをPtOEP、Ir(ppy)_(3)等の燐光ドーパントに替えることは、上記(2)において検討したとおり、当業者が容易になし得たことであるといえるから、請求人の上記主張は採用することができない。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(5)まとめ
本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-28 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-23 
出願番号 特願2011-537148(P2011-537148)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 西村 仁志
鉄 豊郎
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 清水 善廣  
代理人 小松 悠有子  
代理人 阿部 伸一  
代理人 辻田 幸史  
代理人 水木 佐綾子  

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