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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1325822
異議申立番号 異議2015-700344  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-24 
確定日 2016-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5747951号発明「インクジェット記録用インクセット、インクジェット記録方法、記録物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5747951号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5747951号の請求項に係る特許を維持する。 
理由
1 手続の経緯

特許第5747951号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成19年12月20日(優先権主張 平成19年3月22日、日本国)を出願日とする出願である特願2007-329045号の一部を平成25年6月21日に新たな特許出願としたものであって、平成27年5月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人大野裕子により特許異議の申立てがなされ、平成28年3月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月23日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。

2 訂正の適否についての判断

(1) 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?オのとおりである。(当審注:下線は、補正箇所を示すものであり、被請求人が付したものである。)

ア 請求項1に係る「前記イエローインク組成物が、着色剤として、前記イエローインク組成物は、C.I.ピグメントイエロー213を含むイエローインク組成物であり」を、「前記イエローインク組成物が、着色剤としてC.I.ピグメントイエロー213を含むイエローインク組成物であり」に訂正する。

イ 請求項1に係る「イエローインク組成物であり、」を、「イエローインク組成物であり、前記イエローインク組成物に含まれる前記C.I.ピグメントイエロー213の含有量が2?8重量%であり、」に訂正する。

ウ 請求項1に係る「前記シアンインク組成物がフタロシアニン顔料を含み、」を、「前記シアンインク組成物がフタロシアニン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を含み、」に訂正する。

エ 請求項1に係る「前記マゼンタインク組成物がキナクリドン顔料を含み、」を、「前記マゼンタインク組成物がキナクリドン顔料としてC.I.ピグメントレッド122を含み、」に訂正する。

オ 請求項2に係る「顔料の含有量が2?8重量%である」を、「顔料の含有量が4?8重量%である」に訂正する。

(2) 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 上記(1)アの訂正は、明らかに主語が重複するため、そのうちの一つを削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 上記(1)イの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明には、イエローインク組成物に含まれる「C.I.ピグメントイエロー213」などの顔料の含有量について、「2?8重量%であることが更に好ましい」旨記載されている(【0016】?【0018】)ことから、「イエローインク組成物に含まれるC.I.ピグメントイエロー213の含有量」として「2?8重量%」とする発明は、特許明細書に記載されているものと認められる。
また、上記(1)イの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、イエローインク組成物に含まれるC.I.ピグメントイエロー213の含有量を具体的に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 上記(1)ウの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明には、「フタロシアニン顔料」について、「例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60及びC.I.バットブルー4、60等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を併用して用いることができる。」(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)旨記載されている(【0049】)ことから、「フタロシアニン顔料」として「C.I.ピグメントブルー15:3」とする発明は、特許明細書に記載されているものと認められる。
また、上記(1)ウの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、シアンインク組成物に含まれるフタロシアニン顔料の種類を具体的に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記(1)エの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明には、「キナクリドン顔料」について、「例えば、C.I.ピグメントレッド、5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、15:1、112、122、123、168、184、202、209及びC.I.ピグメントバイオレット19等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を併用して用いることができる。」旨記載されている(【0050】)ことから、「キナクリドン顔料」として「C.I.ピグメントレッド122」とする発明は、特許明細書に記載されているものと認められる。
また、上記(1)エの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、マゼンタインク組成物に含まれるキナクリドン顔料の種類を具体的に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 上記(1)オの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明には、イエローインク組成物に含まれる「C.I.ピグメントイエロー213」などの顔料の含有量について、「2?8重量%であることが更に好ましい」旨記載されている(【0016】?【0018】)こと、また、イエローインク組成物である実施例1の「イエローインクY1」は、C.I.ピグメントイエロー213(P.Y.213)を4重量%含むこと(【0063】【表1】)から、「イエローインク組成物に含まれる顔料の含有量」として「4?8重量%」とする発明は、特許明細書に記載されているものと認められる。
また、上記(1)オの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、イエローインク組成物に含まれるC.I.ピグメントイエロー213の含有量の数値範囲をさらに狭く限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

カ そして、これらの訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3) 小括

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?7について、訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて

(1)本件発明

本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
イエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物を備えたインクジェット記録用インクセットであって、
前記イエローインク組成物が、着色剤としてC.I.ピグメントイエロー213を含むイエローインク組成物であり、前記イエローインク組成物に含まれる前記C.I.ピグメントイエロー213の含有量が2?8重量%であり、
前記シアンインク組成物がフタロシアニン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を含み、
前記マゼンタインク組成物がキナクリドン顔料としてC.I.ピグメントレッド122を含み、
前記ブラックインク組成物がカーボンブラックを含む、インクセット。
【請求項2】
前記イエローインク組成物に含まれる顔料の含有量が4?8重量%である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記イエローインク組成物、前記シアンインク組成物、前記マゼンダインク組成物及び前記ブラックインク組成物は、放射線非硬化型のインク組成物である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記シアンインク組成物の前記フタロシアニン顔料の含有量は0.1?1.3重量%であり、前記マゼンダインク組成物の前記キナクリドン顔料の含有量は0.1?1.3重量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記ブラックインク組成物が、そのカーボンブラックの濃度が、1.5重量%以上であるブラックインク組成物、1.5重量%未満?0.6重量%以上であるブラックインク組成物および0.6重量%未満であるブラックインク組成物からなる群から選択された1種以上を備えた、請求項1?4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、該インク組成物として、請求項1?5のいずれか1項に記載のインクセットに備えられるインク組成物を用いるインクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット記録方法によって記録が行われた記録物。」

(2) 取消理由の概要

訂正前の請求項1?7に係る特許に対して平成28年3月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

ア 請求項1?7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第1号証の記載事項、甲第5号証、引用文献A、B、C、及びDに記載された周知の技術事項、引用文献Dに記載された公知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同項に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 引用文献一覧

甲第1号証:特表2004-535508号公報
甲第5号証:Industrial Organic Pigments, Third Edition, Willy Herbst, Klaus Hunger, WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim, 2004, pp.572-573、及び抄訳
引用文献A:特開2006-117931号公報
引用文献B:特表2007-505177号公報
引用文献C:再公表特許第01/048100号公報
引用文献D:特開2005-96194号公報

(3) 甲号証及び引用文献の記載

ア 甲第1号証(特表2004-535508号公報)には、以下の記載が認められる。

「【請求項1】
アクリレート樹脂が、本質的に50から80モル%のモノアルケニル芳香族化合物および20から50モル%のアクリレートからなる共重合体であって、1,000と50,000g/モルの間の平均モル質量M_(v)を有しており、分散助剤が、式(I)
R-O-(CH_(2)-CH_(2)-O)_(m)-CH_(2)-COOM (I)
(式中、
Rは、C_(10)?C_(20)のアルキル基またはC_(10)?C_(20)のアルケニル基であり、
mは、1から15の数字であり、そして
Mは、1価のカチオンである)の化合物である、前記アクリレート樹脂の溶液および前記分散助剤中に分散した有機および/または無機顔料を含む水性顔料調製物。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
いずれの場合も、前記顔料調製物の全体の重量を基準として、
a)5から50重量%、好ましくは、15から25重量%の顔料と、
b)0.25から20重量%、好ましくは、1から10重量%のアクリレート樹脂と、
c)1から12重量%、好ましくは、2から8重量%の式(I)の化合物と、
d)5から60重量%、好ましくは、10から40重量%の水と、
e)0から10重量%、好ましくは、0.1から5重量%の有機溶媒と、
f)0から15重量%、好ましくは、5から9重量%の水親和性物質と、
g)0から10重量%、好ましくは、0.5から9.5重量%のさらなる通例の添加剤とからなる請求項1から8の少なくとも一項に記載の顔料調製物。
・・・(中略)・・・
【請求項12】
少なくとも1つの調製物が、請求項1から9の一項または複数項に記載の水性顔料調製物である、黒、シアン、マゼンタ、および黄の前記各色の着色料調製物の少なくとも1つを含む着色料調製物のセット。
【請求項13】
黒の着色料調製物の着色料が、カーボンブラック、好ましくは、ガスブラックまたはファーネスブラックであり、
シアンの着色料調製物の着色料が、フタロシアニン顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Blue 15、P.Blue 15:3またはP.Blue 15:4の群からの顔料であり、
マゼンタの着色料調製物の着色料が、キナクリドン顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Red 122またはP.Violet 19の群からの顔料であるか、または、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Red 57:1、P.Red 146、P.Red 176、P.Red 184、P.Red 185またはP.Red 269の群からの顔料であり、
黄色の着色料調製物の着色料が、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Yellow 17、P.Yellow 74、P.Yellow 83、P.Yellow 97、P.Yellow 120、P.Yellow 128、P.Yellow 139、P.Yellow 151、P.Yellow 155、P.Yellow 180またはP.Yellow 213の群からの顔料である請求項12に記載の着色料調製物のセット。
【請求項14】
それぞれの着色料調製物が、各々印刷インク、特にインクジェットインクである請求項12または13に記載の着色料調製物のセット。」

「【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、非接触印刷法であって、記録用液体の液滴が1つまたは複数のノズルから印刷すべき基体上に導かれる。高い鮮明度および解像度の印刷を得るために、そこに存在する記録用液体および着色料は、特に、純度、粒子の細かさ、貯蔵安定性、粘度、表面張力、伝導度等の厳密な要求を満たすことが必要である。非常に厳密な要求は、特に、色強度、色調、光沢、および、たとえば、耐光性、耐水性、耐摩性等の堅ろう度特性に課せられる。特に高い耐光性は、屋外でのインクジェットの適用および写真画質を有するインクジェット印刷物の作製にとって重要である。
【0003】
色調、光沢、色強度、耐光性、および耐水性の必要な組合せを発揮する染料の開発が非常に困難であることがこれまでに証明された結果として、興味の高まりは顔料インクに集中しつつある。
【0004】
今日までに知られている顔料着色のインクジェット用調製物は、微細分散化、熱安定性および貯蔵安定性の不足、ならびに、特にサーマルプリンタにおける不十分な印刷適性を示すことが多く、インクジェット業界が課す要求を満たさないことが多い。
【0005】
インクジェット用調製物の1つの重要な品質基準は、その凝集に対する安定性である。ノズルを詰まらせないために、顔料粒子は、0.5μm未満、好ましくは0.1μm未満の大きさでなければならない。さらに、結晶成長または粒子のアグロメレーションを効果的に避けなければならない。これは、一般に一定の分散助剤を使用することによって達成される。インクジェットインクを印刷するとき、インクは高速でノズルの中を流れる。せん断および温度の影響の結果、安定化分散助剤は、しばしば顔料表面から除去される。顔料は凝集してプリンタのノズルを詰まらせる。もうひとつのインクジェットインクの品質の要点は、その貯蔵安定性であって、顔料粒子は貯蔵の過程でアグロメレートしてより大きな粒子を形成してはならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、微細分散化、熱安定性、貯蔵安定性、印刷適性、彩色等に関する上記の要求を満足させる顔料調製物を提供することである。」

「【0024】
使用する顔料は、顔料粒子の好ましくは95%、特に好ましくは99%が、粒径≦500nmを有するように非常に細かく粉砕されているべきである。平均粒径は、好ましくは<200nmである。使用する顔料によって顔料粒子の形態は広く変化し得るので、顔料調製物の粘度挙動は粒子の形状が作用して幅広く変化する場合がある。調製物の好ましい粘度挙動を得るために、粒子は、好ましくは、立方形または球形の形状を有するべきである。精製した顔料を好ましくは使用する。特に好ましい有機顔料の選択は、カーボンブラック顔料、たとえば、ガスブラックまたはファーネスブラック;モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料およびベンゾイミダゾロン顔料、特に、カラーインデックス顔料Pigment Yellow 17、Pigment Yellow 74、Pigment Yellow 83、Pigment Yellow 97、Pigment Yellow 120、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 139、Pigment Yellow 151、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 180、Pigment Yellow 213、Pigment Red 57:1、Pigment Red 146、Pigment Red 176、Pigment Red 184、Pigment Red 185またはPigment Red 269;フタロシアニン顔料、特にカラーインデックス顔料Pigment Blue 15、Pigment Blue 15:3またはPigment Blue 15:4およびキナクリドン顔料、特にカラーインデックス顔料Pigment Red 122またはPigment Violet 19である。」

「【0037】
粉体塗料材料としては、一般に、エポキシ樹脂、カルボキシル基および水酸基含有ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂が通例の硬化剤と共に使用される。樹脂の組合せも使用される。たとえば、エポキシ樹脂は、カルボキシル基および水酸基含有ポリエステル樹脂との組合せで頻繁に使用される。一般的な硬化剤成分は、たとえば、酸無水物、イミダゾールならびにジシアンジアミドおよびそれらの誘導体、キャップしたイソシアナート、ビスアシルウレタン、フェノールおよびメラミン樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、オキサゾリン、ジカルボン酸等である。」

「【0046】
本発明は、さらに、少なくとも1つの調製物が、本発明の調製物に相当する、黒、シアン、マゼンタ、および黄の各色の着色料調製物の少なくとも1つを含む顔料調製物のセットを提供する。
【0047】
これに関連して、好ましい顔料調製物のセットとしては、黒の調製物が、着色料としてカーボンブラック、特に、ガスブラックまたはファーネスブラックを含み、シアンの調製物が、フタロシアニン顔料群からの顔料、特に、カラーインデックス顔料のPigment Blue 15、Pigment Blue 15:3またはPigment Blue 15:4を含み、マゼンタの分散物が、キナクリドン顔料の群、好ましくは、カラーインデックスのPigment Red 122またはカラーインデックスのPigment Violet 19から、または、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料の群、特に、カラーインデックス顔料のPigment Red 57:1、Pigment Red 146、Pigment Red 176、Pigment Red 184、Pigment Red 185またはPigment Red 269からの顔料を含み、そして黄の調製物が、好ましくは、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料の群、特に、カラーインデックス顔料の、Pigment Yellow 17、Pigment Yellow 74、Pigment Yellow 83、Pigment Yellow 97、Pigment Yellow 120、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 139、Pigment Yellow 151、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 180またはPigment Yellow 213からの顔料を含む調製物のセットが好ましい。」

イ 甲第5号証〔Industrial Organic Pigments, Third Edition, Willy Herbst, Klaus Hunger, WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim, 2004, pp.572-573(「抄訳」参照。〕には、以下の記載が認められる。

「ピグメントイエロー213
P.Y.213の化学的構造は、構造番号11875でカラーインデックス中にリストされている。
(・・・中略・・・)
新たに掲載されたP.Y.213は、少なくともP.Y.154と同等の、良好な隠蔽力と際だった耐光性及び耐候性を備えた緑色帯びたイエロー顔料である。この製品は、塗料用途に使用される主要な溶剤に対して完全な耐性を持っている。P.Y.213は主に塗料に使用される。これは、ブチルグリコールまたはNMPのような共溶剤に対する耐性に関して、水系のベースコート系中においてP.Y.154に対して明らかな利点を示す。淡い色調(1:50TiO_(2))でフロリダで2年間暴露した後でさえ、グレースケールのステップ5同等であることが確認された。濃度とは無関係に、P.Y.213は、自動車の塗装を初めとした溶剤系及び水系の両方のハイグレード工業用塗料の全てに推奨される。180℃の焼き付け温度まで、上塗りに対する耐性も優れている。熱安定性も優れているため、この顔料は、屋外使用などの制限はなく、粉体塗料及びコイル塗装の用途に使用できる。また、使用分野には、被覆及び塗装工業全体の他の通常の媒体、例えば建築用塗料及びエマルションペイントなども含まれる。 P.Y.213は、高い耐光性及び耐候性が必要などのような場合でも使用される。」

ウ 引用文献A(特開2006-117931号公報)には、以下の記載が認められる。

「【請求項1】
低減された示差的光褪色と低減された粒状度をもたらすインクセットであって、
高色度且つ低耐光性の少なくとも1つの顔料を含んで成る少なくとも1つの濃色インクジェットインクと、
高耐光性且つ低彩度の少なくとも1つの顔料を含んで成る少なくとも1つの淡色インクジェットインクと、
を含み、前記少なくとも1つの濃色インクジェットインク中の前記少なくとも1つの顔料が、前記少なくとも1つの淡色インクジェットインク中の前記少なくとも1つの顔料と、結晶形態、粒径、発色団、及び化学分散剤のうちの1つにおいて異なる、インクセット。
(・・・中略・・・)
【請求項5】
前記少なくとも1つの濃色インクジェットインク中の前記少なくとも1つの顔料が、Pigment Yellow 3、Pigment Yellow 16、Pigment Yellow 73、Pigment Yellow 74、Pigment Yellow 81、Pigment Yellow 83、Pigment Yellow 93、Pigment Yellow 97、Pigment Yellow 110、Pigment Yellow 180、Pigment Yellow 194、Pigment Red 112、Pigment Red 170、Pigment Red 175、Pigment Red 188、Pigment Red 209、Pigment Red 253、Pigment Red 256、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 213、Pigment Violet 19(γ-修飾)、Pigment Red 122、Pigment Red 254、Pigment Blue 15:3、及びPigment Blue 15:4から成る群から選択される、請求項1?4の何れか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記少なくとも1つの淡色インクジェットインク中の前記少なくとも1つの顔料が、Pigment Yellow 120、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 150、Pigment Yellow 151、Pigment Yellow 154、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 173、Pigment Yellow 213、Pigment Red 177、Pigment Red 202、Pigment Red 206、Pigment Red 207、Pigment Red 214、Pigment Red 242、Pigment Red 257、Pigment Red 122、Pigment Violet 19(β-修飾)、Pigment Violet 23、Pigment Blue 15:3、Pigment Blue 15:4、Pigment Green 7、Pigment Green 36、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 155、Pigment Violet 19(γ-修飾)、及びPigment Red 254から成る群から選択される、請求項1?4の何れか1項に記載のインクセット。」

「【0036】
淡色インクジェットインクに使用される顔料は、光褪色及びがス褪色に対して十分な耐性を示すことができる。典型的に、褪色耐性である顔料は、色彩がそれ程高くない。淡色インクジェットインク中の顔料の耐光性は、ブルーウールスケール上で7?8の値とし得る。この範囲内の顔料の例としては、限定するものではないが、Pigment Yellow 120、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 150、Pigment Yellow 151、Pigment Yellow 154、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 173、Pigment Yellow 213、Pigment Red 168、Pigment Red 177、Pigment Red 202、Pigment Red 206、Pigment Red 207、Pigment Red 214、Pigment Red 242、Pigment Red 257、Pigment Red 122、Pigment Violet 19(β-修飾)、Pigment Violet 23、Pigment Blue 15:3、Pigment Blue 15:4、Pigment Blue 60、Pigment Green 7、及びPigment Green 36が挙げられる。イエロー顔料の各々は、異なる発色団を有し且つ約150nm未満の粒径を有する。
【0037】
幾つかの顔料は、顔料の結晶形態又は粒径に依存して、濃色又は淡色インクジェットインクのいずれかに使用することができる。例えば、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 213、Pigment Violet 19(γ-修飾)、Pigment Red 122、Pigment Red 254、Pigment Blue 15:3、又はPigment Blue 15:4の適切な形態のものを濃色及び淡色インクジェットインクに用いることができる。Pigment Blue 15:3及びPigment Blue 15:4は、熱力学的に最も安定な結晶形態であるβ修飾の銅フタロシアニンブルーである。Pigment Blue 15:4は、凝集に対する安定性を改善するべく表面処理されている。これらの顔料の粒径が約50nm以下のように小さい場合、これらの顔料のほとんどの耐光性は、ブルーウールスケール上で約1単位ほど低くなる。Pigment Violet 19の耐光性の場合には、γ-修飾のものは粒径の影響を受けるが、β-修飾のものは相対的に粒径に無感応である。これらの顔料の適切な形態を用いる場合は、それらを、濃色インクジェットインク又は淡色インクジェットインクにおける使用に関して先に規定し且つ説明した顔料と共に使用することができる。換言すれば、耐光性が比較的低く且つ6?7の範囲のブルーウールスケール値を有するこれらの顔料の小粒径のものを、7?8の範囲のブルーウールスケール値を有する比較的高い耐光性の顔料と組み合わせて濃色インクジェットインクに用いることができる。同様に、7?8の範囲のブルーウールスケール値を有するこれらの顔料の比較的大粒径且つ高耐光性の形態のものを、6?7の範囲のブルーウールスケール値を有する高色彩且つ耐光性の比較的低い顔料と組み合わせて淡色インクジェットインクに用いることができる。
【0038】
単に例を挙げると、約80nmの粒径とブルーウールスケール上で6?7の範囲の耐光性値を有するモノアゾタイプのPigment Yellow 74を濃色インクジェットインクに用い,一方、約80nmの粒径とブルーウールスケール上で8という耐光性値を有するベンズイミダゾロンタイプのPigment Yellow 213を淡色インクジェットインクに用いることができる。他の例では、約100nmの粒径とブルーウールスケール上で7という耐光性値を有するPigment Yellow 93を濃色インクジェットインクに用い、そして約80nmの粒径とブルーウールスケール上で8という耐光性値を有するPigment Yellow 128を淡色インクジェットインクに用いることができる。他の例では、約100nmの粒径とブルーウールスケール上で8という耐光性値を有するPigment Red 202を淡色インクジェットインクに用い、そして約60nmの粒径とブルーウールスケール上で7という耐光性値を有するPigment Red 209を濃色インクジェットインクに用いることができる。」

「【0040】
また、濃色インクジェットインクを希釈することによって淡色インクジェットインクを生成することができる。あるいはまた、インクビヒクル中に比較的少量の顔料を分散させることによって淡色インクジェットインクを生成することもできる。顔料は、淡色インクジェットインク全重量の約0.05wt%?約5wt%の範囲の量又は濃度で淡色インクジェットインク中に存在し得る。」

「【0043】
印刷画像において耐光性のイエローの色調を生成できるように、濃色イエローインクジェットインクと淡色イエローインクジェットインクを印刷媒体上に適用することができる。一実施形態では、淡色イエローインクジェットインクは、Pigment Yellow 128、Pigment Yellow 155、Pigment Yellow 213、又はそれらの混合物を含み、そして濃色イエローインクジェットインクは、Pigment Yellow 74を含む。これらのイエロー顔料の各々は、それらの発色団が異なるものである。濃色インクジェットインクは、約4.0%のPigment Yellow 74を含み、一方、淡色インクジェットインクは、約2.0%のPigment Yellow 128及びPigment Yellow 213を含む。印刷された画像が、在来の屋内照明条件のような、可視光に曝される場合、濃色イエローインクジェットインクで印刷された領域では約20年で感知し得る褪色が起こり得るが、一方、淡色イエローインクジェットインクで印刷された領域は約50年で感知し得る褪色を呈し得る。従って、印刷画像は、20年後に褪色し得る。」

「【実施例1】
【0051】
濃色及び淡色インクジェットインクの調製
表1?表4記載の顔料の組合せを利用して、濃色及び淡色インクジェットインクを調製する。
【0052】
【表1】(略)
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
表1?表4に記載したインクジェットインクは、当分野で周知のように調合される。
【0057】
実施例1記載の濃色及び淡色インクジェットインクは、HP Premium Plus Photo用紙に印刷する。得られた印刷画像は、示差的光褪色及び粒状性の低減を示し、且つ、写真品質に近い印刷品質を有する印刷画像を実現するであろう。」

エ 引用文献B(特表2007-505177号公報)には、以下の記載が認められる。

「【請求項1】
C.I.Pigment Yellow 213、Pigment Yellow 214及び式(I)
【化1】(略)
のジスアゾ顔料の群から得られる、一又は複数の有機黄色顔料と、一又は複数の無機顔料とを含む顔料組成物。」

「【0014】
本発明の顔料組成物では、前記有機黄色顔料は、好ましくは、C.I.Pigment Yellow 213又は式(I)のジスアゾ顔料であり、特にC.I.Pigment Yellow 213である。」

「【0033】
本発明の顔料組成物は、傑出した色及び流動特性、特に高い凝集安定性、分散のし易さ、流動性及び優れた色度が注目に値する。本発明の顔料組成物は、容易に分散することができ、多くの塗布媒体中で高レベルの精細さまで分散することができる。このような顔料分散物は、塗料濃縮物の高レベルの着色においても、傑出した流動特性を示す。優れた上塗り堅牢度、溶媒堅牢度、耐アルカリ性、耐光堅牢度及び耐候性特性、並びに極めて美しい色合いなど、他の上記特性も極めて優れている。さらに、本発明の顔料組成物には、特にこれらの顔料で着色された基材が焼却される場合に、塩素化された分解産物から有害物質が発生しないというさらなる利点を有する無塩素顔料組成物も含まれる。」

オ 引用文献C(再公表特許第01/048100号公報)には、以下の記載が認められる。

「【請求項1】 相互に同一色であるが色の濃度の異なる濃インク組成物及び淡インク組成物を含有するインクセットであって、
前記濃インク組成物及び前記淡インク組成物が何れも、着色剤としての顔料及び分散剤としての樹脂を少なくとも含み、
前記濃インク組成物中の樹脂の重量割合B1と顔料の重量割合P1との比(B1/P1)が、前記淡インク組成物中の樹脂の重量割合B2と顔料の重量割合P2との比(B2/P2)よりも低く、かつ、
前記濃インク組成物中の樹脂の重量割合B1と前記淡インク組成物中の樹脂の重量割合B2とは異なることを特徴とするインクセット。
(・・・中略・・・)
【請求項23】 インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、
前記インク組成物として、請求の範囲1?22のいずれか記載のインクセットのインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項24】 請求の範囲1?22のいずれか記載のインクセットを用いて、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法によって、記録されたことを特徴とする記録物。」

「技術分野
本発明は、インクセット及びこれを用いたインクジェット記録方法並びに記録物に関し、詳しくは、インクの浸透性及び定着性が良好で、ザラツキのない高品質な画像を得ることのできるインクセット、若しくは耐光性に優れた文字及び/又は画像を得ることのできるインクセットに関する。また、当該インクセットを用いたインクジェット記録方法並びに記録物に関する。
なお、本発明のインクセットは特にインクジェットによる記録に適用可能であるが、それのみに限定されない。」(第6頁第2?9行)

「顔料の添加量は、前記濃インク組成物中には、好ましくは1.0?5.0重量%、更に好ましくは1.5?4.5重量%であり、前記淡インク組成物中には、好ましくは0.1?1.5重量%、更に好ましくは0.2?1.2重量%である。」(第12頁下から第7?4行)

カ 引用文献D(特開2005-96194号公報)には、以下の記載が認められる。

「【0085】
C.インクセット
本発明のインクセットは、前記の通り、カーボンブラック濃度の異なる少なくとも2種の無彩色インク、並びにシアンインク、マゼンタインク、及びイエロインクを含む。また、前記無彩色インクは、淡灰色インクを含む。この淡灰色インクとは、無彩色インクの中でカーボンブラック濃度が最も薄いインクである。
【0086】
C-1.無彩色インク
本発明のインクセットは、無彩色インクとして、少なくとも、
(イ)カーボンブラック濃度が最も低い淡灰色インクと、
(ロ)カーボンブラック濃度が最も高い黒色インクと
を含む。また、本発明の好ましい態様のインクセットは、少なくとも、
(イ)カーボンブラック濃度が最も低い淡灰色インクと、
(ロ)カーボンブラック濃度が中間的な灰色インク(1種又はそれ以上)と、
(ハ)カーボンブラック濃度が最も高い黒色インクと
を含む。
【0087】
カーボンブラック濃度が最も低い前記淡灰色インクにおけるカーボンブラック含有量は、その淡灰色インクの全重量に対して、好ましくは0.4重量%以下、特には、0.01重量%?0.4重量%以下、好ましくは0.05重量%?0.3重量%、より好ましくは、0.1重量%?0.25重量%である。
【0088】
また、カーボンブラック濃度が中間的な前記灰色インクにおけるカーボンブラック含有量は、その灰色インクの全重量に対して、好ましくは0.4重量%?1.5重量%、より好ましくは、0.5重量%?1.2重量%、特には0.6重量%?1.0重量%である。なお、前記の灰色インクとしては、カーボンブラック含有量0.4重量%?1重量%の灰色インク及び/又はカーボンブラック含有量1重量%?1.5重量%の灰色インクを組み合わせて用いることができる。
【0089】
カーボンブラック濃度が最も高い前記黒色インクにおけるカーボンブラック含有量は、その黒色インクの全重量に対して、好ましくは1.5重量%?10重量%、より好ましくは、1.5重量%?8重量%である。」

「【0095】
C-3.シアンインク及び淡シアンインク
本発明のインクセットは、シアン着色剤を含むシアンインクを含み、好ましくは更に淡シアンインクを含む。「シアンインク」のシアン着色剤の濃度は、そのインクの全重量に対して好ましくは1.5?10重量%、より好ましくは2?6重量%である。「淡シアンインク」のシアン着色剤の濃度は、そのインクの全重量に対して好ましくは0.01?2重量%、より好ましくは0.2?1.5重量%である。前記シアンインク及び淡シアンインクに含まれることのできるシアン着色剤は、特に限定されるものではないが、例えば、水溶性染料又は水不溶性顔料である。画像の濃度や耐光性及び耐水性に優れる点で、水不溶性の顔料が好ましい。前記シアン着色剤として用いることのできる水溶性染料は、従来のインクに使用されている水溶性染料で他のインク成分添加により、色調の変化や、沈殿物を生成しないものである限り、任意の染料を使用することができる。」

「【0098】
C-4.マゼンタインク及び淡マゼンタインク
本発明のインクセットは、マゼンタ着色剤を含むマゼンタインクを含み、好ましくは更に淡マゼンタインクを含む。「マゼンタインク」のマゼンタ着色剤の濃度は、そのインクの全重量に対して好ましくは1.5?10重量%、より好ましくは2?8重量%である。「淡マゼンタインク」のシアン着色剤の濃度は、そのインクの全重量に対して好ましくは0.01?2重量%、より好ましくは0.2?1.5重量%である。前記マゼンタインク及び淡マゼンタインクに含まれることのできるマゼンタ着色剤は、特に限定されるものではないが、例えば、水溶性染料又は水不溶性顔料である。画像の濃度や耐光性及び耐水性に優れる点で、水不溶性の顔料が好ましい。前記マゼンタ着色剤として用いることのできる水溶性染料は、従来のインクに使用されている水溶性染料で他のインク成分添加により、色調の変化や、沈殿物を生成しないものである限り、任意の染料を使用することができる。」

「【0103】
本発明のインクセットで用いるイエロインクにおけるイエロ着色剤の濃度は、そのインクの全重量に対して約0.5?8重量%、好ましくは約1?6重量%であることができる。更に、イエロインクにおけるイエロ着色剤の濃度は、好ましくは前記灰色インクの濃度よりも高い濃度であり、より好ましくは前記黒色インクにおけるカーボンブラック濃度よりも高いか、又は前記黒色インクにおけるカーボンブラック濃度よりも低く、しかも前記灰色インクにおけるカーボンブラック濃度よりも高い濃度である。イエロ着色剤の濃度が、前記灰色インクにおけるカーボンブラック濃度以下の濃度である場合には、必要とするインク量が多くなり、にじみとなってしまうことがある。」

(4) 判断

ア 特許法第29条第2項について

(ア) 本件発明1について

a 甲第1号証に記載された発明について

上記(3)アの記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「黄色の着色料調製物、シアンの着色料調製物、マゼンタの着色料調製物及び黒の着色料調製物を備えたインクジェットインクのセットであって、
黄色の着色料調製物が、着色料として、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Yellow 17、P.Yellow 74、P.Yellow 83、P.Yellow 97、P.Yellow 120、P.Yellow 128、P.Yellow 139、P.Yellow 151、P.Yellow 155、P.Yellow 180またはP.Yellow 213の群からの顔料である着色料調製物であり、
シアンの着色料調製物の着色料が、フタロシアニン顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Blue 15、P.Blue 15:3またはP.Blue 15:4の群からの顔料であり、
マゼンタの着色料調製物の着色料が、キナクリドン顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Red 122またはP.Violet 19の群からの顔料であるか、または、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Red 57:1、P.Red 146、P.Red 176、P.Red 184、P.Red 185またはP.Red 269の群からの顔料であり、
黒の着色料調製物がカーボンブラックを含み
黄色の着色料調製物に含まれる顔料の含有量が5から50重量%であり、
シアンの着色料調製物のフタロシアニン顔料の含有量が5から50重量%であり、
マゼンタの着色料調製物のキナクリドン顔料の含有量が5から50重量%であり、
黒の着色料調製物のカーボンブラックの含有量が5から50重量%である、
インクジェットインクのセット」

b 甲第5号証に記載された事項について

上記(3)イの記載によれば、甲第5号証には以下の技術事項(以下「甲第5号証に記載された周知の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「P.Y.213(C.I.ピグメントイエロー213)は、良好な隠蔽力と際だった耐光性及び耐候性を備えた緑色帯びたイエロー顔料であり、高い耐光性及び耐候性が必要などのような場合でも使用される。」

c 引用文献Aに記載された事項について

上記(3)ウの記載によれば、引用文献Aには以下の技術事項(以下「引用文献Aに記載された周知の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「印刷画像において耐光性のイエローの色調を生成できるように、濃色イエローインクジェットインクと淡色イエローインクジェットインクを印刷媒体上に適用することができ、一実施形態では、淡色イエローインクジェットインクは、Pigment Yellow 213(C.I.ピグメントイエロー213)を含む。」

d 引用文献Bに記載された事項について

上記(3)エの記載によれば、引用文献Bには以下の技術事項(以下「引用文献Bに記載された周知の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「本発明の顔料組成物は、特に、C.I.Pigment Yellow 213(C.I.ピグメントイエロー213)を含んでいるので、耐光堅牢度が極めて優れている。」

e 引用文献Cに記載された事項について

上記(3)オの記載によれば、引用文献Cには以下の技術事項(以下「引用文献Cに記載された周知の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「顔料の添加量は、濃インク組成物中には、好ましくは1.0?5.0重量%、更に好ましくは1.5?4.5重量%であり、淡インク組成物中には、好ましくは0.1?1.5重量%、更に好ましくは0.2?1.2重量%である。」

f 引用文献Dに記載された事項について

上記(3)カの記載によれば、引用文献Dには以下の技術事項(以下「引用文献Dに記載された周知の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「イエロインクにおけるイエロ着色剤の濃度は、そのインクの全重量に対して約0.5?8重量%、好ましくは約1?6重量%であることができる。」

また、上記(3)カの記載によれば、引用文献Dには以下の技術事項(以下「引用文献Dに記載された公知の技術事項」という。)も記載されていると認められる。

「カーボンブラック含有量を、0.4重量%以下、0.4?1.5重量%、または、1.5?10重量%とすること。」

g 本件発明1と引用発明との対比・判断

本件発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「黄色の着色料調製物」、「シアンの着色料調製物」、「マゼンタの着色料調製物」、「黒の着色料調製物」、「着色料」、「インクジェットインクのセット」は、それぞれ本件発明1の「イエローインク組成物」、「シアンインク組成物」、「マゼンタインク組成物」、「ブラックインク組成物」、「着色剤」、「インクジェット記録用インクセット」に相当する。

してみると、本件発明1と引用発明とは、

「イエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物を備えたインクジェット記録用インクセットであって、
前記シアンインク組成物がC.I.ピグメントブルー15:3を含み、
前記マゼンタインク組成物がC.I.ピグメントレッド122を含み、
前記ブラックインク組成物がカーボンブラックを含む、インクセット。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)

イエローインク組成物における着色剤について、本件発明1が、「C.I.ピグメントイエロー213を含む」のに対して、引用発明は、「モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Yellow 17、P.Yellow 74、P.Yellow 83、P.Yellow 97、P.Yellow 120、P.Yellow 128、P.Yellow 139、P.Yellow 151、P.Yellow 155、P.Yellow 180またはP.Yellow 213の群からの顔料」である点。

(相違点2)

イエローインク組成物に含まれるC.I.ピグメントイエロー213の含有量について、本件発明1が、「2?8重量%」のに対して、引用発明は特定されていない点。

(相違点3) シアンインク組成物について、本件発明1が、「フタロシアニン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を含」むのに対して、引用発明は、「フタロシアニン顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Blue 15、P.Blue 15:3またはP.Blue 15:4の群からの顔料」である点。

(相違点4)マゼンタインク組成物について、本件発明1が、「キナクリドン顔料としてC.I.ピグメントレッド122を含を含」むのに対して、引用発明は、「キナクリドン顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Red 122またはP.Violet 19の群からの顔料であるか、または、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、イソインドリン顔料またはベンゾイミダゾール顔料、好ましくは、カラーインデックスP.Red 57:1、P.Red 146、P.Red 176、P.Red 184、P.Red 185またはP.Red 269の群からの顔料」である点。

そこで、まず、上記相違点1について検討する。

上記取消理由に使用した甲第1号証において、上記「C.I.ピグメントイエロー213(P.Yellow 213)」に着目してみると、上記(3)アの【請求項13】、【0024】、【0047】に記載されているように、イエローインク組成物における着色剤(顔料)として列挙されているものの一つであり、その中から選択し得るものといえる。
しかしながら、甲第1号証の実施例の記載をみても、他の顔料〔P.Yellow 155、P.Yellow 180、P.Yellow 74、P.Yellow 151)を使用していることもあり、C.I.ピグメントイエロー213(P.Yellow 213)が他のイエローの顔料より特に優れているなどの開示、または示唆は見当たらないものである。
これに対して、本件発明1の「C.I.ピグメントイエロー213」について、本件特許明細書を参酌すると、当該C.I.ピグメントイエロー213(P.Y.213)を含むイエローインク組成物である実施例1の「イエローインクY1」についての総合評価が「評価点243」であり、これは、例えば、甲第1号証に、イエローの着色剤として列記されている、P.Yellow 155(C.I.ピグメントイエロー155)を含むイエローインク組成物である実施例3の「イエローインクY3」についての総合評価が「評価点27」、同じくP.Yellow 74(C.I.ピグメントイエロー74)を含むイエローインク組成物である参考例1の「イエローインクY4」についての総合評価が「評価点0」、同じくP.Yellow 128(C.I.ピグメントイエロー128)を含むイエローインク組成物である参考例2の「イエローインクY5」についての総合評価が「評価点9」であるものと比較すると、いずれも評価点で9倍以上であることが理解でき、以上のことから、本件発明1は、イエローインク組成物が、C.I.ピグメントイエロー213(P.Y.213)を含んでいることによって、耐光性、発色性、及び保存安定性の面で総合的に優れるという顕著な効果を奏するものである。
そして、甲第1号証においては、上記のとおりの開示にとどまり、また、同じく上記取消理由に使用した引用文献5、引用文献A、及び引用文献Bにおいても、C.I.ピグメントイエロー128が耐光性に優れることのみ記載されているだけであって、上記本件発明1が有する効果である耐光性、発色性、及び保存安定性の面で総合的に優れる点についての開示も示唆も認められない。さらに、同じく上記取消理由に使用した引用文献C、引用文献Dにおいても同様に開示も示唆も認められない。
したがって、本件発明1は、上記相違点2?4を検討するまでもなく、引用発明、甲第1号証の記載事項、甲第5号証、引用文献A、B、C、及びDに記載された周知の技術事項、並びに引用文献Dに記載された公知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

h 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、平成28年7月1日に提出された意見書第12頁において、既知のイエロー系顔料+C.I.ピグメントレッド122+C.I.ピグメントブルー15:3+カーボンブラックの系の四色セットにおいて、C.I.ピグメントイエロー213を使用した場合には、これらの特性(耐光性、発色性、及び保存安定性)に優れたインクセットが得られることは予測の範囲内であるし、また異質の効果でもない旨述べ、また、新たな証拠として参考資料1?9を提示しているが、それらの証拠を併せても、耐光性、発色性、及び保存安定性の面で総合的に優れる点についての新たな開示も示唆も認められないことから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ) 本件発明2?7について

a 本件発明2は「前記イエローインク組成物に含まれる顔料の含有量が4?8重量%である」として上記本件発明1をさらに限定した発明であり、本件発明3は「前記イエローインク組成物、前記シアンインク組成物、前記マゼンダインク組成物及び前記ブラックインク組成物は、放射線非硬化型のインク組成物である」として本件発明1または2をさらに限定した発明であり、本件発明4は「前記シアンインク組成物の前記フタロシアニン顔料の含有量は0.1?1.3重量%であり、前記マゼンダインク組成物の前記キナクリドン顔料の含有量は0.1?1.3重量%である」として本件発明1?3のいずれかをさらに限定した発明であり、また、本件発明5は「前記ブラックインク組成物が、そのカーボンブラックの濃度が、1.5重量%以上であるブラックインク組成物、1.5重量%未満?0.6重量%以上であるブラックインク組成物および0.6重量%未満であるブラックインク組成物からなる群から選択された1種以上を備えた」として本件発明1?4のいずれかをさらに限定した発明であり、本件発明6は「インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法」として本件発明1?5のいずれかのインクセットに備えられるインク組成物を用いた発明であり、本件発明7は「記録が行われた記録物」の「インクジェット記録方法」として本件発明6を用いた発明である。

b よって、本件発明2?7は、いずれも、本件発明1を直接的または間接的に、さらに限定もしくは引用したものであるから、本件発明1についての理由と同様の理由により、引用発明、甲第1号証の記載事項、甲第5号証、引用文献A、B、C、及びDに記載された周知の技術事項、並びに引用文献Dに記載された公知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 むすび

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物を備えたインクジェット記録用インクセットであって、
前記イエローインク組成物が、着色剤としてC.I.ピグメントイエロー213を含むイエローインク組成物であり、前記イエローインク組成物に含まれる前記C.I.ピグメントイエロー213の含有量は2?8重量%であり、
前記シアンインク組成物がフタロシアニン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を含み、
前記マゼンタインク組成物がキナクリドン顔料としてC.I.ピグメントレッド122を含み、
前記ブラックインク組成物がカーボンブラックを含む、インクセット。
【請求項2】
前記イエローインク組成物に含まれる顔料の含有量が4?8重量%である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記イエローインク組成物、前記シアンインク組成物、前記マゼンダインク組成物及び前記ブラックインク組成物は、放射線非硬化型のインク組成物である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記シアンインク組成物の前記フタロシアニン顔料の含有量は0.1?1.3重量%であり、前記マゼンダインク組成物の前記キナクリドン顔料の含有量は0.1?1.3重量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記ブラックインク組成物が、そのカーボンブラックの濃度が、1.5重量%以上であるブラックインク組成物、1.5重量%未満?0.6重量%以上であるブラックインク組成物および0.6重量%未満であるブラックインク組成物からなる群から選択された1種以上を備えた、請求項1?4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、該インク組成物として、請求項1?5のいずれか1項に記載のインクセットに備えられるインク組成物を用いるインクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット記録方法によって記録が行われた記録物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-27 
出願番号 特願2013-130334(P2013-130334)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
國島 明弘
登録日 2015-05-22 
登録番号 特許第5747951号(P5747951)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェット記録用インクセット、インクジェット記録方法、記録物  
代理人 田中 克郎  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  

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