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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D03D 審判 全部申し立て 2項進歩性 D03D |
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管理番号 | 1325831 |
異議申立番号 | 異議2016-700279 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-06 |
確定日 | 2017-01-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5792206号発明「縫合した多軸の布帛」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5792206号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第5792206号の請求項1?4、6?13に係る特許を維持する。 特許第5792206号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5792206号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成23年3月11日(パリ条約による優先権主張 平成22年3月18日 欧州特許庁)に出願され、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がされたものである。その後、その特許について、特許異議申立人東レ株式会社により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年6月29日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年9月23日(受付日)に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、特許異議申立人より平成28年11月8日(受付日)に、本件訂正請求について意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「前記縫い糸は、10?35dtexの範囲の繊度を有し、」とあるのを、 「前記縫い糸は、10?30dtexの範囲の繊度を有し、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に、 「請求項1から5までのいずれか1項記載の」とあるのを、 「請求項1から4までのいずれか1項記載の」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項 (1)訂正事項1について 訂正前の請求項1では、縫い糸の繊度について、10?35dtexの範囲であったものを、10?30dtexの範囲に狭めて限定するものであるから、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、縫い糸の繊度として10?30dtexの範囲は、訂正前の請求項5に記載された事項であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書」という。)に記載された事項の範囲内においてするものである。 そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、訂正前の請求項5の記載を削除するものであり、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2に係る訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項5の記載を削除する上記訂正事項2に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3に係る訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (4)一群の請求項について 上記訂正事項1?3に係る各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.請求項1?13に係る発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 層内において互いに平行に、かつ互いに接触するように隣り合って配置されたマルチフィラメント補強糸の、上下に配置された少なくとも2つの層からなる多軸の布帛であって、1つの層内及び隣接する層内の補強糸が、互いに平行に延びる、互いにステッチ幅wでもって間隔を置いた縫い糸により互いに結合されて、互いに固定されており、該縫い糸がステッチ長sを有するループを形成しており、該縫い糸によって前記布帛の零度方向が規定され、前記層の補強糸が、前記布帛の零度方向に関して対称的に配置されており、かつ前記補強糸の延在方向に関して、前記零度方向に対して角度αを形成し、該角度αが90°及び0°に等しくない多軸の布帛において、 前記縫い糸は、10?30dtexの範囲の繊度を有し、かつ 前記縫い糸のステッチ長sは、前記ステッチ幅及び補強糸の角度α1に基づいて下記関係式(I)及び(II)を充足することを特徴とする、多軸の布帛。 【数1】 及び 【数2】 ここで、 w=ステッチ幅(mm) 0.9≦B≦1.1及び n=0.5;1;1.5;2;3又は4 であり、前記角度α1は、補強糸が前記零度方向に対して90°及び0°とは異なる角度を有する、多軸布帛の平面図で見て第1の層の補強糸が配置されている、前記零度方向に対する角度αを示す。 【請求項2】 前記零度方向に対する角度αの値は、15°?75°の範囲にある、請求項1記載の多軸の布帛。 【請求項3】 前記布帛はさらに、補強糸が前記零度方向に対して0°の角度を形成するマルチフィラメント補強糸の層及び/又は補強糸が前記零度方向に対して90°の角度を形成する層を有している、請求項1又は2記載の多軸の布帛。 【請求項4】 前記縫い糸は、室温で≧50%の破断伸びを有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項5】(削除) 【請求項6】 前記縫い糸は、ポリエステル、ポリアミド若しくはポリヒドロキシエーテル又はこれらのポリマーのコポリマーからなるマルチフィラメント糸である、請求項1から4までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項7】 前記マルチフィラメント補強糸は、炭素繊維糸、ガラス繊維糸又はアラミド糸又は高延伸UHMW‐ポリエチレン糸である、請求項1から6までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項8】 前記少なくとも2つの層上及び/又は前記少なくとも2つの層間にフリースが配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項9】 前記フリースは、5?25g/m2の範囲の単位面積当たり質量を有している、請求項8記載の多軸の布帛。 【請求項10】 前記フリースは、それぞれ異なる溶融温度を有する熱可塑性のポリマー成分からなる、請求項8又は9記載の多軸の布帛。 【請求項11】 低い方の溶融温度を有するポリマー成分は、80?135℃の範囲の溶融温度を有している、請求項10記載の多軸の布帛。 【請求項12】 高い方の溶融温度を有するポリマー成分は、140?250℃の範囲の溶融温度を有している、請求項10又は11記載の多軸の布帛。 【請求項13】 複合材料構成部材を製造するためのプリフォームにおいて、請求項1から12までのいずれか1項記載の多軸の布帛を備えることを特徴とする、複合材料構成部材を製造するためのプリフォーム。」 2.取消理由(新規性)の概要 訂正前の請求項1?13に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 甲第1号証:特開2009-19202号公報 甲第5号証:「東レエルダー糸(熱接着性繊維)」、東レ株式会社、昭和58年 請求項1?4、6?9、13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。 3.取消理由(新規性)に対する判断 (1)甲第1号証(特に段落【0056】、【0089】、【0090】の記載参照)には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「多数本の強化繊維糸条を並行に引き揃えてなるシートの複数層からなり、強化繊維糸条を0°に並行に引き揃えたシートからなる第1層と、強化繊維糸条を90°に並行に引き揃えたシートからなる第2層と、強化繊維糸条をα°に並行に引き揃えたシートからなる第3層と、強化繊維糸条を-α°に並行に引き揃えたシートからなる第4層(最表層)との計4層が積層されて、それぞれの層間には帛体(不織布)がそれぞれ配置され、厚み方向に貫通して存在するステッチ糸により一体化された積層体であって、 強化繊維糸条は、12,000フィラメントのPAN系炭素繊維糸条からなり、 ステッチ糸は繊度33dtexであり、ステッチ糸による貫通孔が長手方向に8.3列/25mm、幅方向に5列/25mmとなるように規則的に配列された、積層体。」 (2)本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、下記の相違点で少なくとも相違する。 《相違点》 縫い糸の繊度について、本件訂正発明1が「10?30dtexの範囲」であるのに対し、甲1発明は「33dtex」であり、 この縫い糸のステッチ長とステッチ幅について、本件訂正発明1が、縫い糸のステッチ長は、ステッチ幅及び補強糸の角度α1に基づいて前記関係式(I)及び(II)を充足するのに対し、甲1発明は、ステッチ糸による貫通孔が長手方向に8.3列/25mm、幅方向に5列/25mmとなるように規則的に配列されたものである点。 そして、縫い糸の繊度について、甲1発明の「33dtex」は、本件訂正発明1の「10?30dtexの範囲」外であって、この縫い糸の繊度に係る相違は実質的なものであるから、本件訂正発明1は甲1発明ではない。 (3)また、本件訂正発明2?4、6?9、13は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであり、本件訂正発明1は、上記のように甲1発明ではないから、本件訂正発明2?4、6?9、13も甲1発明ではない。 (4)特許異議申立人は、意見書において、参考資料1?4として、特開2007-39867号公報、特開2008-95211号公報、特開2009-127169号公報、特開2010-17934号公報を提出して、本件訂正請求に係る縫い糸の繊度を10?30dtex程度とすることは周知慣用技術にすぎず、本件訂正発明1は、この周知慣用技術を参酌すれば、甲第1号証または甲第2号証に実質的に記載されているに等しい発明である旨主張する。 しかし、縫い糸の繊度と、縫い糸のステッチ長やステッチ幅とは、積層体の強度に対して、相互に連関して影響することは明らかであり、甲1発明のステッチ長とステッチ幅と必ずしも一致しない上記参考資料1?4に、縫い糸の繊度を10?30dtex程度とすることが記載されているからといって、甲1発明の積層体において、ステッチ糸の繊度として10?30dtexが周知慣用技術であるとまではいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許異議申立人は、訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲1発明及び甲第3?5号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。 しかし、甲1発明において、上記《相違点》に係る構成を備えようとする動機付けがなく、しかも、甲第3?5号証には、この相違点に係る構成について、記載も示唆もされていない。 よって、特許異議申立人の、甲第1号証に基づく進歩性に係る主張は採用できない。 (2)また、特許異議申立人は、訂正前の請求項1?3、6?9、13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1?3、5?13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3?5号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。 ここで、甲第2号証には、ステッチ糸の繊度として56dtexと33dtex、ステッチ糸による貫通孔が長手方向に5列/25mm、幅方向に8.3列/25mm(換算するとステッチ長5.0mm、ステッチ幅4.2mm)とした積層体の実施例が記載(段落【0053】?【0058】)されている。 そうすると、甲第2号証に記載された発明の積層体のステッチ糸の繊度は56dtex又は33dtex、ステッチ長は5.0mmであり、本件訂正発明1の、縫い糸の繊度は10?30dtexの範囲、ステッチ長sは2?4mmであることと、それぞれ相違する。 そして、甲第2号証に記載された発明の積層体のステッチ糸の繊度とステッチ長を、それぞれステッチ糸の繊度を10?30dtexの範囲、ステッチ長を2?4mmに換えようとする動機付けがなく、しかも、甲第3?5号証に、これらの点について、記載も示唆もされていない。 よって、特許異議申立人の、甲第2号証に基づく新規性及び進歩性に係る主張も採用できない。 5.むすび 以上のとおり、本件訂正発明1?4、6?13に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1?4、6?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項5は、本件訂正請求により削除された。 よって結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 層内において互いに平行に、かつ互いに接触するように隣り合って配置されたマルチフィラメント補強糸の、上下に配置された少なくとも2つの層からなる多軸の布帛であって、1つの層内及び隣接する層内の補強糸が、互いに平行に延びる、互いにステッチ幅wでもって間隔を置いた縫い糸により互いに結合されて、互いに固定されており、該縫い糸がステッチ長sを有するループを形成しており、該縫い糸によって前記布帛の零度方向が規定され、前記層の補強糸が、前記布帛の零度方向に関して対称的に配置されており、かつ前記補強糸の延在方向に関して、前記零度方向に対して角度αを形成し、該角度αが90°及び0°に等しくない多軸の布帛において、 前記縫い糸は、10?30dtexの範囲の繊度を有し、かつ 前記縫い糸のステッチ長sは、前記ステッチ幅及び補強糸の角度α_(1)に基づいて下記関係式(I)及び(II)を充足することを特徴とする、多軸の布帛。 【数1】 及び 【数2】 ここで、 w=ステッチ幅(mm) 0.9≦B≦1.1及び n=0.5;1;1.5;2;3又は4 であり、前記角度α_(1)は、補強糸が前記零度方向に対して90°及び0°とは異なる角度を有する、多軸布帛の平面図で見て第1の層の補強糸が配置されている、前記零度方向に対する角度αを示す。 【請求項2】 前記零度方向に対する角度αの値は、15°?75°の範囲にある、請求項1記載の多軸の布帛。 【請求項3】 前記布帛はさらに、補強糸が前記零度方向に対して0°の角度を形成するマルチフィラメント補強糸の層及び/又は補強糸が前記零度方向に対して90°の角度を形成する層を有している、請求項1又は2記載の多軸の布帛。 【請求項4】 前記縫い糸は、室温で≧50%の破断伸びを有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記縫い糸は、ポリエステル、ポリアミド若しくはポリヒドロキシエーテル又はこれらのポリマーのコポリマーからなるマルチフィラメント糸である、請求項1から4までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項7】 前記マルチフィラメント補強糸は、炭素繊維糸、ガラス繊維糸又はアラミド糸又は高延伸UHMW‐ポリエチレン糸である、請求項1から6までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項8】 前記少なくとも2つの層上及び/又は前記少なくとも2つの層間にフリースが配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の多軸の布帛。 【請求項9】 前記フリースは、5?25g/m^(2)の範囲の単位面積当たり質量を有している、請求項8記載の多軸の布帛。 【請求項10】 前記フリースは、それぞれ異なる溶融温度を有する熱可塑性のポリマー成分からなる、請求項8又は9記載の多軸の布帛。 【請求項11】 低い方の溶融温度を有するポリマー成分は、80?135℃の範囲の溶融温度を有している、請求項10記載の多軸の布帛。 【請求項12】 高い方の溶融温度を有するポリマー成分は、140?250℃の範囲の溶融温度を有している、請求項10又は11記載の多軸の布帛。 【請求項13】 複合材料構成部材を製造するためのプリフォームにおいて、請求項1から12までのいずれか1項記載の多軸の布帛を備えることを特徴とする、複合材料構成部材を製造するためのプリフォーム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-01-05 |
出願番号 | 特願2012-557493(P2012-557493) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D03D)
P 1 651・ 113- YAA (D03D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松岡 美和 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 高橋 祐介 |
登録日 | 2015-08-14 |
登録番号 | 特許第5792206号(P5792206) |
権利者 | トウホウ テナックス ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング |
発明の名称 | 縫合した多軸の布帛 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 伴 俊光 |
代理人 | 細田 浩一 |
代理人 | 久野 琢也 |