• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1325840
異議申立番号 異議2016-700423  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-13 
確定日 2017-01-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5815215号発明「拡散剤組成物、および不純物拡散層の形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5815215号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5815215号の請求項1ないし4、6ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5815215号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成22年8月4日(優先権主張平成21年8月27日)に特許出願され、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1ないし4及び請求項6ないし8に係る特許について、特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所 により特許異議の申立てがされ、平成28年7月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年9月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所 から平成28年11月29日に意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成28年9月14日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は特許請求の範囲及び明細書を訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の、訂正前の
「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、
SiO_(2)微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有し、
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、
前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする拡散剤組成物。」
との記載を、
訂正後の
「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)と、
SiO_(2)微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有し、
水を含まず、
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、
前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする拡散剤組成物。」
と訂正し、また、請求項1を引用する請求項2?8も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7の、訂正前の
「半導体基板に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。」
との記載を、
訂正後の
「半導体基板に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を印刷して単層の塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。」
と訂正し、また、請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0010】及び【0012】の記載を、訂正前の
「【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は拡散剤組成物であり、この拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、SiO_(2)微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有することを特徴とする。」
及び
「【0012】
本発明の他の態様は不純物拡散層の形成方法であり、この不純物拡散層の形成方法は、上記態様の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する塗膜形成工程と、拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含むことを特徴とする。」
との記載を、
訂正後の
「【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は拡散剤組成物であり、この拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)と、SiO2微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有し、水を含まず、前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする」及び
「【0012】
本発明の他の態様は不純物拡散層の形成方法であり、この不純物拡散層の形成方法は、上記態様の拡散剤組成物を印刷して単層の塗膜を形成する塗膜形成工程と、拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含むことを特徴とする。」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更、及び、独立特許要件違反の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
(ア)訂正事項1は、請求項1を、訂正前の「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)」が、訂正後はさらに「メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含む」ものであること、及び、訂正前の「拡散剤組成物」が、訂正後は「水を含ま」ないものであることを、それぞれ限定するように訂正するものである。
(イ)そして、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?8についても、同様の限定をするように訂正するものである。
(ウ)したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1のうち、「バインダー樹脂(B)」に関する訂正は、明細書の段落【0026】の記載に基づくものと認められる。
(イ)また、訂正事項1のうち、「拡散剤組成物」が「水を含ま」ないという訂正は、明細書の段落【0049】?【0051】に記載された表1?3の実施例1?17のすべてにおいて、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、SiO_(2)微粒子(C)、及び有機溶剤(D)の質量%の総和が100%であることに基づくものと認められる。
(ウ)したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1は、上記アで述べたとおり特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、発明の課題や目的を変更する訂正でもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件
(ア)訂正前の請求項5に対しては特許異議の申立てはなされていないので、訂正前の請求項1を引用する請求項5に係る訂正事項1については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正後の請求項1を引用する請求項5に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
(イ)訂正後の請求項5に係る発明は、訂正後の請求項1を引用する「前記バインダー樹脂(B)は、アクリル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。」という請求項4をさらに引用する、「前記アクリル系樹脂は、ブチラール基を有することを特徴とする請求項4に記載の拡散剤組成物。」というものである。
すなわち、訂正後の請求項5に係る発明は、訂正後の請求項1を引用して、「前記バインダー樹脂(B)」がブチラール基を有するアクリル系樹脂を含むことを発明特定事項とするものである。
そして、訂正後の請求項5に係る発明における上記の発明特定事項は、異議申立人が提出した甲第1ないし4号証のいずれにも記載も示唆もされていないから、訂正後の請求項5に係る発明は、甲第1ないし4号証のいずれかに記載された発明であるということはできないし、また、甲第1ないし4号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるということもできない。
さらに、他に、訂正後の請求項5に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由があるとは認められない。
(ウ)したがって、訂正後の請求項5に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を見出すことができない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、請求項7及び請求項7を引用する請求項8を、訂正前の「拡散剤組成物を印刷」して「形成」する「塗膜」が、訂正後は「単層の塗膜」であることを限定するように訂正するものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

イ 新規事項の有無
訂正事項2は、明細書の段落【0035】及び【0036】の記載、図1(C)において、1層の拡散剤組成物2が図示されていることに基づくものと認められる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、上記アで述べたとおり特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、発明の課題や目的を変更する訂正でもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、明細書の記載を、訂正事項1及び訂正事項2の訂正により訂正される特許請求の範囲の記載に整合させることを目的としていると認められる。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。

イ 新規事項の有無
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項1及び訂正事項2で指摘したと同じ理由により、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項1及び訂正事項2で指摘したと同じ理由により、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項について
訂正事項1、2に係る各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
したがって、訂正事項1、2に係る各訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定、及び、同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし8に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)と、
SiO_(2)微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有し、
水を含まず、
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、
前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする拡散剤組成物。」
「【請求項2】
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が、前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満であることを特徴とする請求項1に記載の拡散剤組成物。」
「【請求項3】
前記バインダー樹脂(B)は、非シリコン系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の拡散剤組成物。」
「【請求項4】
前記バインダー樹脂(B)は、アクリル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。」
「【請求項5】
前記アクリル系樹脂は、ブチラール基を有することを特徴とする請求項4に記載の拡散剤組成物。」
「【請求項6】
前記有機溶剤(D)は、前記有機溶剤(D1)を、有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。」
「【請求項7】
半導体基板に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を印刷して単層の塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。」
「【請求項8】
前記塗膜形成工程において、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により、半導体基板に拡散剤組成物を印刷することを特徴とする請求項7に記載の不純物拡散層の形成方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4及び請求項6ないし8に係る特許に対して平成28年7月15日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



甲第1号証:特開2007-53353号公報
甲第2号証:鶴田四郎、外2名、(261?262)熱天秤による高分子物質の研究(第1?2報)、工業化学雑誌、昭和26年8月、第54巻、第8冊、第524?527頁
甲第3号証:特開2006-310373号公報
甲第4号証:特開平9-181009号公報

A 甲1に基づく取消理由
本件発明1ないし4、及び、本件発明6ないし8は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
仮にそうでないとしても、本件発明1ないし4、及び、本件発明6ないし8は、甲2の記載を参酌すれば、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

B 甲3に基づく取消理由
本件発明1ないし4、及び、本件発明6ないし8は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 甲第1号証に基づく取消理由について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開2007-53353号公報)には、「リン拡散用塗布液」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている(下線は参考のため当審において付したもの。以下同様。)。
(ア)課題と課題解決手段
・「【0003】
拡散用塗布液としては、基本的にリン化合物などのドーパント発生源、水溶性高分子および水を含有する拡散用塗布液が知られている(たとえば、特許文献1?5参照)。ところが、この従来の拡散用塗布液をそのままスクリーン印刷法に適用しても、粘度が著しく低いため印刷面が安定せず、かつ速乾性が高く連続印刷が不可能であり、均一な拡散膜を形成させることが困難であるという問題を有している。
……(中略)……
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記実情に鑑み、検討した結果、塗布液の粘度を特定範囲に調節することにより、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、(A)リン化合物、(B)水溶性高分子化合物、および(C)水を含み、20℃での粘度が500?100000mPa・sであることを特徴とするリン拡散用塗布液に存する。」

(イ)リン拡散用塗布液について
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リン化合物、(B)水溶性高分子化合物、(C)水を含み、20℃での粘度が500?100000mPa・sであることを特徴とするリン拡散用塗布液。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリン拡散用塗布液、さらに詳しくはシリコン半導体の表面にリンを拡散するための新規なリン拡散用塗布液に関する。」
・「【0052】
工程1におけるリン拡散用塗布液の塗布法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、平版印刷法、スピンコータ-法、コンマコーター法、ダイへッドコーター法、ダイリップコーター法およびグラビア印刷法のいずれを適用してもよいが、本発明の塗布液はスクリーン印刷に適用するのが好ましい。その結果、4インチ以上、とくに4?6インチ以上のウェーハを対象とし、各種膜厚の塗膜を均一に印刷することができる。」
・「【0096】
<シリコン半導体ウェーハへの塗布、拡散>
13インチサイズのガラス上に仮止めした10?20Ω・cmの比抵抗値を有するN型シリコンウェーハ(厚み:200μm、大きさ:4インチ)上にスクリーン印刷機およびポリエステル製#380メッシュを使用して実施例1?5のリン拡散用塗布液を用い、塗膜厚さが3.0?3.5μmになるようにスクリーン印刷を行った。」

(ウ)リン化合物について
・「【0009】
本発明のリン拡散用塗布液は、(A)リン化合物、(B)水溶性高分子化合物、および(C)水を含有し、20℃での粘度が500?100000mPa・sである。」
・段落【0065】、【0069】、【0073】、【0077】及び【0081】には、「実施例2」ないし「実施例6」において、前記「リン拡散用塗布液」が含む「リン化合物」がリン酸(H_(3)PO_(4))であることが記載されている。
・「【0055】
工程3の拡散工程は工程2後のウェーハを枚葉、または複数枚を重ね合わせた状態にて電気炉等において高温(800?1400℃)で所望の時間維持することによりリンをウェーハの所望の面に拡散させることをいう。」
・「【0096】
<シリコン半導体ウェーハへの塗布、拡散>
13インチサイズのガラス上に仮止めした10?20Ω・cmの比抵抗値を有するN型シリコンウェーハ(厚み:200μm、大きさ:4インチ)上にスクリーン印刷機およびポリエステル製#380メッシュを使用して実施例1?5のリン拡散用塗布液を用い、塗膜厚さが3.0?3.5μmになるようにスクリーン印刷を行った。
【0097】
次いで、ウェーハを100℃設定の乾燥機中で30分間乾燥した後、最高温度が580℃で380?400℃にて脱灰工程を経る温度プロファイルとなる連続焼成炉にて焼成した。その後、電気炉に入れ、室温から1200℃まで昇温させ、1200℃で12時間維持した後、室温まで温度を下げてリンを拡散した。」

(エ)水溶性高分子化合物について
・「【請求項3】
水溶性高分子化合物(B)が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1または2記載のリン拡散用塗布液。」
・「【0021】
リン拡散用塗布液中の水溶性高分子化合物(B)の含有量は、塗布液中、3?25重量%が好ましく、5?20重量%がより好ましい。水溶性高分子化合物(B)の含有量が3重量%未満では、塗布液の粘度が低くなり、よってリンの供給量不足となる傾向がある。また、水溶性高分子化合物(B)の含有量が25重量%をこえると、粘度が高くなりすぎ塗布時に気泡が発生したり、レベリング不足に伴う半導体デバイスの抵抗値のバラツキの原因となり好ましくない傾向がある。」
・段落【0066】、【0070】、【0074】、【0078】及び【0082】には、「実施例2」ないし「実施例6」において、前記「リン拡散用塗布液」が含む「水溶性高分子化合物」が「PVA」(ポリビニルアルコール)であることが記載されている。

(オ)シリカについて
・「【0044】
本発明のリン拡散用塗布液は、さらに、シリカ(F)を含有することができる。本発明に用いられるシリカ(F)としては、コロイダルシリカ、非晶質シリカ、フュームドシリカ等を挙げることができ、好適にはコロイダルシリカが用いられる。シリカ(F)を配合することにより、リン拡散用塗布液中のリンの拡散濃度を向上させることができる。かかるシリカ(F)の形状としては、球状、粒状、パウダー状、数珠状等が挙げられる。
【0045】
また、シリカ(F)の平均粒子径は、0.001?50μmが好ましく、0.005?30μmがより好ましく、0.005?20μmがさらに好ましい。かかる粒子径が0.001μm未満では、塗工液の流動性が低下することがあり、また、逆に50μmをこえると、塗布液の安定性が低下する傾向がある。」

(カ)水混和性有機溶剤について
・「【請求項4】
さらに、沸点が100℃以上の水混和性有機溶剤(D)を含有することを特徴とする請求項1、2または3記載のリン拡散用塗布液。
【請求項5】
水混和性有機溶剤(D)が、ジエチレングリコール誘導体であることを特徴とする請求項4記載のリン拡散用塗布液。」
・段落【0064】、【0068】、【0072】、【0076】及び【0080】には、「実施例2」ないし「実施例6」において、前記「リン拡散用塗布液」が含む「水混和性有機溶剤」が、所定重量の「ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:192℃)」に所定重量の「2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体(一般式(1)中、m+n≒1.3)」を添加したものであることが記載されている。

(キ)リン拡散塗布液の成分割合について
・「【0063】
実施例2
……(中略)……
【0066】
作製したリン拡散塗布液中のリン酸(H_(3)PO_(4))の含有量は30.7重量%、PVAの含有量は7.2重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの含有量は10.8重量%、水の含有量は41.6重量%、シリカの含有量は7.2重量%および2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体の含有量は2.5重量%であった。」
・「【0067】
実施例3
……(中略)……
【0070】
作製したリン拡散塗布液中のリン酸(H_(3)PO_(4))の含有量は23.8重量%、PVAの含有量は14.0重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの含有量は8.4重量%、水の含有量は46.2重量%、シリカの含有量は5.6重量%、および2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体の含有量は2.0重量%であった。」
・【0071】
実施例4
……(中略)……
【0074】
作製したリン拡散塗布液中のリン酸(H_(3)PO_(4))の含有量は34.0重量%、PVAの含有量は5.0重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの含有量は5.0重量%、水の含有量は51.0重量%、シリカの含有量は3.3重量%、および2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体の含有量は1.7重量%であった。」
・「【0075】
実施例5
……(中略)……
【0078】
作製したリン拡散塗布液中のリン酸(H_(3)PO_(4))の含有量は18.8重量%、PVAの含有量は8.8重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの含有量は22.1重量%、水の含有量は38.8重量%、シリカの含有量は8.8重量%、および2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体の含有量は2.7重量%であった。」
・「【0079】
実施例6
……(中略)……
【0082】
作製したリン拡散塗布液中のリン酸(H_(3)PO_(4))の含有量は29.3重量%、PVAの含有量は6.9重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの含有量は10.3重量%、水の含有量は39.7重量%、シリカの含有量は6.9重量%および2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体の含有量は6.9重量%であった。」

イ 甲第1号証に記載された発明
上記(キ)から、甲第1号証の実施例2?実施例6における「リン拡散用塗布液」中の固形成分である「リン酸(H_(3)PO_(4))」、「PVA」及び「シリカ」の全質量に占める前記「PVA」の含有量は、実施例2が7.2/(30.7+7.2+7.2)=16.0%、同様に、実施例3が32.3%、実施例4が11.8%、実施例5が24.2%、実施例6が16.0%である。
そうすると、以上の(ア)?(キ)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「シリコン半導体の表面へリンを拡散させるためのリン拡散用塗布液の印刷に用いられ、20℃での粘度が500?100000mPa・sであるリン拡散用塗布液であって、
ドーパントとしての前記リンの発生源であるリン酸と、
前記塗布液の粘度を調整するための水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコールと、
平均粒径が0.001?50μmのシリカの粒子と、
沸点が192℃のジエチレングリコールモノメチルエーテルに、所定重量の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体を添加した水混和性有機溶剤と、
水と、
を含有し、
前記リン拡散用塗布液の固形成分である前記リン酸、前記ポリビニルアルコール及び前記シリカの粒子の全質量に占める前記ポリビニルアルコールの含有量は、11.8質量%以上32.3質量%以下であるリン拡散用塗布液。」

ウ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証(鶴田四郎、外2名、(261?262)熱天秤による高分子物質の研究(第1?2報)、工業化学雑誌、昭和26年8月、第54巻、第8冊、第524?527頁)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「ポリ塩化ビニル(P.V.C”.)とポリ醋酸ビニル(P.V.Ac.)
P.V.C.の熱分解曲線を第1図に,P.V.Ac.のそれを第2図に示す。試料は何れも市販品をそのまゝ使用した(文献(2)の)P.V.C.として示した図はスチロール83%,メタクリルメチル17%共重合体の図につき訂正する)。P.V.C.は比較的多くの市販品に就て実験したが変曲点Mに於ける減量率は大体等しく58?60%となった。P.V.Ac.では69?70%となり…(中略)…分解反応が完了する場合の理論減量率58.4%(P.V.C.),69.8%(P.V.Ac.)とよく一致する。」(第524頁左欄第10?21行)
(イ)横軸が「加熱温度(℃)」であり、縦軸が「減量率(%)」である第2図(第524頁右欄)に記載された、ポリ醋酸ビニルの熱分解曲線から、同図には、ポリ醋酸ビニルは、加熱温度が約50℃で減量を開始すること、その後減量率が比較的緩やかに増加した後、加熱温度が約220℃を超えると減量率が急激に立ち上がること、加熱温度が約280℃で上記の変曲点Mに達すること、が記載されている。
(ウ)「第3図にポリメタクリルメチル(実線)とポリスチロール(点線)の結果をしめす。これらは熱分解により単量体を殆んど定量的に與える重合体であって熱分解曲線もその事実を裏書きしている。以下P.V.C.又はP.V.Ac.のような熱分解曲線を分解型,第3図のような曲線を解重合型の曲線と呼ぶことゝする。」(第524頁左欄第23行?右欄第4行)
(エ)横軸が「加熱温度(℃)」であり、縦軸が「減量率(%)」である第3図(第524頁右欄)に記載された、ポリメタクリルメチルの熱分解曲線を示す実線の曲線から、同図には、ポリメタクリルメチルは、加熱温度が約140℃で減量を開始すること、その後減量率が急激に立ち上がること、約250℃を超えると約95%を超える範囲で減量率は緩やかにが増加すること、が記載されている。
(オ)「ポリビニルアルコール(P.V.A.)とポリビニルホルマール(P.F.A.)
第5図はP.V.A.(実線)とP.F.A.(点線)の熱分解曲線であるが,何れも解重合型となっている。P.V.A.の熱分解に関しては野間氏^(3))の研究があり,100gのP.V.A.から26gのH_(2)O,26gのクロトンアルデヒド,24gのアセタルデヒドが採れた。同氏は,はじめに脱水が起りその際主鎖中に出来る二重結合のため主鎖が切断されてクロトンアルデヒドを生じ,また新たに生じた主鎖端のカルボニルのため主鎖が切断されてアセタルデヒドが出来るという分解機構が提案された。第5図の熱分解曲線によれば野間氏によって提案されたような複雑な分解が極めて急激に進行し,あたかもP.V.A.→ビニルアルコールという完全解重合が起っているような印象を与える。擬解重合曲線とでも呼ぶべき場合であろう。」(第525頁左欄第17?30行)
(カ)横軸が「加熱温度(℃)」であり、縦軸が「減量率(%)」である第5図(第525頁右欄)に記載された、ポリビニルアルコールの熱分解曲線を示す実線の曲線から、同図には、ポリビニルアルコールは、加熱温度が約80℃で減量を開始すること、その後約200℃までは減量率が緩やかに増加すること、約200℃では減量率が約5%程度であること、約200℃を超えると減量率が急激に立ち上がること、約250℃を超えると減量率は約95%以上となること、が記載されている。

(2)本件発明1についての対比・判断
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「シリコン半導体の表面へリンを拡散させるためのリン拡散用塗布液の印刷に用いられ、20℃での粘度が500?100000mPa・sであるリン拡散用塗布液」は、本件発明1の「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物」に相当する。
(イ)引用発明1の「ドーパントとしての前記リンの発生源であるリン酸」は、本件発明1の「不純物拡散成分(A)」に相当する。
(ウ)引用発明1の「前記塗布液の粘度を調整するための水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコール」は、引用発明1の「リン拡散用塗布液」において、「前記塗布液」に所要の粘性を与えるためのバインダー樹脂として機能していると認められる。
さて、甲第1号証における、段落【0055】の「工程3の拡散工程は工程2後のウェーハを枚葉、または複数枚を重ね合わせた状態にて電気炉等において高温(800?1400℃)で所望の時間維持することによりリンをウェーハの所望の面に拡散させる」、段落【0097】の「1200℃で12時間維持した後、室温まで温度を下げてリンを拡散した。」という記載から、引用発明1の「リン酸」を「発生源」とする「リン」は、少なくとも800℃で「シリコン半導体の表面」への「拡散」を開始すると認められる。
そして、上記ウ(オ)?(カ)の甲第2号証の記載から、引用発明1の前記「ポリビニルアルコール」は、上記の、「リン」が「拡散」を開始する温度である少なくとも800℃未満の温度で熱分解して消失することは、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるといい得るほど、当業者には周知慣用の事項であると認められる。
そうすると、引用発明1の「前記塗布液の粘度を調整するための水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコール」と、本件発明1の「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)」とは、「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)」である点で共通する。
(エ)引用発明1の「平均粒径が0.001?50μmのシリカの粒子」は、本件発明1の「SiO_(2)微粒子(C)」に相当する。
(オ)引用発明1の「沸点が192℃のジエチレングリコールモノメチルエーテル」に「所定重量の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシル化体を添加した水混和性有機溶剤」は、本件発明1の「沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)」に相当する。
(カ)上記ウの甲第2号証の記載から、引用発明1の前記「ポリビニルアルコール」は、400℃未満の温度で熱分解して消失することは、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるといい得るほど、当業者には周知慣用の事項であると認められる。
(キ)引用発明1において「前記リン拡散用塗布液の固形成分である前記リン酸、前記ポリビニルアルコール及び前記シリカの粒子の全質量に占める前記ポリビニルアルコールの含有量は、11.8質量%以上32.3質量%以下である」ことは、本件発明1において「前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下である」ことに包含される。

イ 一致点及び相違点
以上から、本件発明1と引用発明1とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<一致点>
「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、
SiO_(2)微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有し、
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、
前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする拡散剤組成物。」

<相違点>
<相違点1>
本件発明1の「バインダー樹脂(B)」は「メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含む」のに対して、引用発明1の「水溶性高分子化合物」は「ポリビニルアルコール」である点。
<相違点2>
本件発明1の「拡散剤組成物」は「水を含ま」ないのに対して、引用発明1の「リン拡散用塗布液」は「水」を「含有」する点。

ウ 判断
ウ-1 特許法第29条第1項第3号について
本件発明1と引用発明1とは、上記の相違点1及び相違点2の点で実質的に相違しており、同一の発明ではなくなった。
したがって、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

ウ-2 特許法第29条第2項について
(ア)相違点2について検討する。
(イ)第3の3(1)ア(ア)で摘記したように、甲第1号証には、「基本的にリン化合物などのドーパント発生源、水溶性高分子および水を含有」する「従来の拡散用塗布液」が「粘度が著しく低いため印刷面が安定せず、かつ速乾性が高く連続印刷が不可能であり、均一な拡散膜を形成させることが困難であるという問題」を解決すべき課題としていること、「リン拡散用塗布液」が「(A)リン化合物、(B)水溶性高分子化合物、および(C)水を含み、20℃での粘度が500?100000mPa・sである」ことが、前記課題を解決するための「発明の要旨」であること、が記載されている。
そして、引用発明1は、「前記塗布液の粘度を調整するための水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコール」を「含有」している。
(ウ)したがって、引用発明1において、前記「粘度を調整するための水溶性高分子化合物」の溶媒となる「水」を「含有」することは、発明の課題を解決するための前提として必要な必須の構成である。
そうすると、引用発明1の「リン拡散用塗布液」に「水」を含ませないことは、前記課題解決手段の前提を欠くこととなるので、当業者が想起したとは認められない。
(エ)よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証の記載を参酌したとしても、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2ないし4及び本件発明6ないし8についての判断
ア 特許法第29条第1項第3号について
本件発明2ないし4及び本件発明6ないし8は、訂正後の請求項1を直接又は間接に引用する発明であるから、本件発明1をさらに限定した発明である。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2ないし4及び本件発明6ないし8は、いずれも、引用発明1と同一の発明ではないから、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

イ 特許法第29条第2項について
本件発明2ないし4及び本件発明6ないし8は、いずれも、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲第2号証の記載を参酌したとしても、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)甲第1号証に基づく取消理由のまとめ
以上のとおりであるから、甲第1号証に基づく取消理由によっては、もはや、本件発明1ないし4及び本件発明6ないし8を取り消すことはできない。

4 甲第3号証に基づく取消理由について
(1)甲号証の記載
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証の記載事項については、第3の3(1)ウ(ア)ないし(カ)で摘記したとおりである。

イ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証(特開2006-310373号公報)には、「太陽電池の製造方法及び太陽電池並びに半導体装置の製造方法」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている
(ア)課題と課題解決手段
・「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであり、オーミックコンタクトを得ながら、受光面の電極以外の部分での表面再結合およびエミッタ内の再結合を抑制することにより、光電変換効率を向上させた太陽電池を、簡便かつ容易な方法により安価に製造することができる太陽電池の製造方法及び太陽電池、並びに半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的達成のため、本発明は、第1導電型の半導体基板にpn接合を形成して太陽電池を製造する方法であって、少なくとも、前記第1導電型の半導体基板上にドーパントとドーパント飛散防止剤とを含む第1塗布剤と少なくとも第1塗布剤に接するようにドーパントを含む第2塗布剤とを塗布した後、拡散熱処理により、第1塗布剤の塗布により形成される第1拡散層と、第2塗布剤の塗布により形成され、第1拡散層より導電率が低い第2拡散層とを同時に形成することを特徴とする太陽電池の製造方法を提供する(請求項1)。」

(イ)第1塗布剤としての拡散ペーストについて
・「【請求項1】
第1導電型の半導体基板にpn接合を形成して太陽電池を製造する方法であって、少なくとも、前記第1導電型の半導体基板上にドーパントとドーパント飛散防止剤とを含む第1塗布剤と少なくとも第1塗布剤に接するようにドーパントを含む第2塗布剤とを塗布した後、拡散熱処理により、第1塗布剤の塗布により形成される第1拡散層と、第2塗布剤の塗布により形成され、第1拡散層より導電率が低い第2拡散層とを同時に形成することを特徴とする太陽電池の製造方法。」
・「【0047】
引き続き、基板を洗浄した後、基板の受光面1aに第1塗布剤としてリン酸等のドーパント及びこのドーパントの飛散防止剤を含有した拡散ペースト8をスクリーン印刷装置によって印刷し、塗布する。このとき拡散ペースト8がスクリーン印刷用であれば、スクリーン印刷装置で容易に塗布できる。またこのようにドーパントとドーパント飛散防止剤とを含む拡散ペーストであれば、これを半導体基板に塗布してドーパントの熱拡散を行う際に、ドーパントのアウトディフュージョンを防止できるものとなる。このときの印刷はストライプ状のラインパターンやドットパターンとすることができ、例えばラインパターンの場合の印刷パターンは2mmピッチ、150μm幅ラインとできる。ドーパント飛散防止剤は、珪素化合物を含むものとすることができ、特に好ましくは珪素化合物をSiO_(2)とし、例えばシリカゲルとして配合すれば、拡散ペーストの粘度を高濃度拡散層の形成のために効果的に制御できる。すなわち、高粘度であるため、ドーパントを高濃度に保持でき、アウトディフュージョンを確実に防止できる。
【0048】
そして、このように拡散ペースト8を印刷した基板を700℃で30分間ベークし、その後、第2塗布剤として五酸化二リン等のドーパントおよびオートドープ防止剤として好ましくはアルコキシシラン等の珪素化合物前駆体をはじめとする珪素化合物を含有した塗布剤9を、拡散ペースト8と接するように同一面上に塗布する。このような塗布は、例えば3000rpm、15秒の条件でスピン塗布することで行うことができるが、スクリーン印刷により行なってもよい。その後、このように作製したサンプル基板を熱処理炉に入れ、880℃で30分間保持して拡散熱処理を行ない、取り出す。これにより第1拡散層2(高濃度拡散層又は高濃度エミッタ層ともいう)と、第1拡散層より導電率が低い第2拡散層3(低濃度拡散層又は低濃度エミッタ層ともいう)とを同時に形成することができ、pn接合が形成される。低濃度エミッタ層である拡散ペースト印刷部以外の箇所、すなわち塗布剤9のみが塗布された箇所のシート抵抗は、80から110Ω/□とできる。また、拡散ペーストを印刷した部分のドーパントの表面濃度は2×10^(20)cm^(-2)程度とできる。
【0049】
上記においては、第1塗布剤はスクリーン印刷により塗布される高粘度のペーストであり、高濃度のドーパントを含むことができるし、塗布厚を厚くできるので、高濃度拡散層を形成できる。しかも、このときドーパント飛散防止剤が配合されているので、より高粘度とできるし、アウトディフュージョンも防止される。一方、第2塗布剤は、スピンコートで塗布される低粘度のものであり、塗布厚は薄くなる。従って、低濃度拡散層を形成できる。このとき、オートドープ防止剤が配合されていれば、表面に膜が形成され、オートドープが防止される。」
・「【0068】
これまで同種類のドーパントを用い濃度差を発現させる方法を述べてきたが、他の方法としては拡散係数の異なる元素をドーパントとして利用すれば、同一温度の熱処理でも確実に濃度差を生み出すことが可能である。例えば、900℃近傍のリンの拡散係数はアンチモンの拡散係数から2桁高い。どちらもn型ドーパントであり、p型基板に対しドナーとなるため、ドーパントがリンである塗布剤とアンチモンである塗布剤を用意することで二段エミッタを容易に作製することが可能である。
なお、上記において、シリカゲル等の珪素化合物を含む第3塗布剤を、第1塗布剤及び/又は第2塗布剤の上部を覆うように塗布し、その後前記拡散熱処理を行えば、さらにアウトディフュージョンやオートドープを防止でき、これによって二段エミッタにおける高濃度拡散層と低濃度拡散層との表面濃度差を極めて確実に形成できる。」
・「【0095】
引き続き、基板を洗浄した後、基板の受光面にリン酸およびシリカゲルを含有した拡散ペーストをスクリーン印刷機によって印刷し、塗布した。このときの印刷パターンは2mmピッチ、150μm幅ラインのラインパターンとした。印刷した基板を700℃で30分間ベークし、その後、五酸化二リンおよびアルコキシシランを含有した塗布剤を、拡散ペーストと接するように同一面上に塗布した。この塗布は、3000rpm、15秒の条件でスピン塗布することで行った。その後、このように作製したサンプル基板を熱処理炉に入れ、880℃で30分間保持して拡散熱処理を行ない、取り出した。塗布剤のみが塗布された箇所のシート抵抗を測定したところ、80から110Ω/□であった。また、スプレディングレジスタンス(SR)法で拡散プロファイルを確認したところ、ストライプ状に拡散ペーストを印刷した部分では、ドーパントの表面濃度として2×10^(20)cm^(-2)を得た。」

(ウ)第1塗布剤及び第2塗布剤の粘度調整について
・「【0061】
次に本発明の製造方法における高濃度拡散層と低濃度拡散層を形成させる方法の詳細についてさらに説明する。すなわち、塗布拡散法で同一面内に二種類の濃度の拡散層を形成するために、第1塗布剤及び第2塗布剤として少なくともドーパントの含有率、粘度、ドーパント飛散防止剤及びオートドープ防止剤の含有量、ドーパントの種類のいずれか1つ以上が異なるものを用いる、及び/又は第1塗布剤と第2塗布剤との塗布の際に塗布膜厚を異なるものとする方法である。さらには、半導体基板上に溝を形成し、ドーパントとドーパント飛散防止剤とを含む第1塗布剤を全面に塗布した後、拡散熱処理により、前記半導体基板上の溝下部に形成される第1拡散層と、前記溝下部以外の部分に形成され、第1拡散層より導電率が低い第2拡散層とを同時に形成する方法もある。このように、濃度や粘度が異なる塗布剤を用いる方法及び塗布剤の塗布膜厚を変えたり溝を形成する方法により、拡散濃度を変更できる。以下、具体的に説明する。
……(中略)……
【0064】
粘度の高い塗布剤を使用するのであれば、スクリーン製版のメッシュ粗さを変えれば、塗布膜厚を変化させることが可能である。この場合、粘度を調整するには、例えば塗布剤のメチルセルソルブの含有量を変化させればよい。一方、溝を形成する方法は構造的に膜厚を変化させることになる。
【0065】
塗布膜厚を大きく変化させる方法として、塗布剤の粘度を変える方法があるが、塗布剤の粘度を大きく変化させる方法として、塗布剤の含有物を変更する方法がある。例えば、メチルセルソルブに塗布剤のバインダとして増粘剤を添加すると粘度が高まるので好ましい。この増粘剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル及びこれらの共重合体、もしくはセルロース誘導体、もしくはポリアクリレートが好ましいが、特に限定されない。この場合、塗布剤の粘度を制御し、かつドーパントのアウトディフュージョンを制御するためにSiO_(2)の粒、例えばシリカゲルを添加することが特に好ましい。このようにすれば塗布膜厚を厚くでき、高濃度拡散層を形成する塗布剤として適するものとなる。なお、拡散熱処理時はこのバインダは不必要なため、400℃以上でベークし、大気中に飛ばす必要がある。
【0066】
一方、極端に粘度を下げ、ドーパントのオートドープをコントロールするためにはアルコキシド類にドーパントを混入させるのが好ましく、ライフタイムキラーの混入を避けるためには珪素酸化物前駆体である珪素を含むアルコキシド類にドーパントを混入させるのが好ましい。このようにすれば低濃度拡散層を形成する塗布剤として適するものとなる。この場合、150℃程度の熱を加えると、アルコキシドが加水分解し、部分縮合するのでSiO_(2)すなわちガラスが生成し、ドーパントのオートドープを阻止する役割を果たす。このような塗布剤は、厚く形成することができず、またにじみ易いので、第1塗布剤としては適当でない。」

(エ)飛散防止剤について
・「【0047】
引き続き、基板を洗浄した後、基板の受光面1aに第1塗布剤としてリン酸等のドーパント及びこのドーパントの飛散防止剤を含有した拡散ペースト8をスクリーン印刷装置によって印刷し、塗布する。このとき拡散ペースト8がスクリーン印刷用であれば、スクリーン印刷装置で容易に塗布できる。またこのようにドーパントとドーパント飛散防止剤とを含む拡散ペーストであれば、これを半導体基板に塗布してドーパントの熱拡散を行う際に、ドーパントのアウトディフュージョンを防止できるものとなる。このときの印刷はストライプ状のラインパターンやドットパターンとすることができ、例えばラインパターンの場合の印刷パターンは2mmピッチ、150μm幅ラインとできる。ドーパント飛散防止剤は、珪素化合物を含むものとすることができ、特に好ましくは珪素化合物をSiO_(2)とし、例えばシリカゲルとして配合すれば、拡散ペーストの粘度を高濃度拡散層の形成のために効果的に制御できる。すなわち、高粘度であるため、ドーパントを高濃度に保持でき、アウトディフュージョンを確実に防止できる。」

(オ)実施例
・「【0094】
以下に本発明の実施例および比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1、比較例1)
……(中略)……
【0095】
引き続き、基板を洗浄した後、基板の受光面にリン酸およびシリカゲルを含有した拡散ペーストをスクリーン印刷機によって印刷し、塗布した。このときの印刷パターンは2mmピッチ、150μm幅ラインのラインパターンとした。印刷した基板を700℃で30分間ベークし、その後、五酸化二リンおよびアルコキシシランを含有した塗布剤を、拡散ペーストと接するように同一面上に塗布した。この塗布は、3000rpm、15秒の条件でスピン塗布することで行った。その後、このように作製したサンプル基板を熱処理炉に入れ、880℃で30分間保持して拡散熱処理を行ない、取り出した。塗布剤のみが塗布された箇所のシート抵抗を測定したところ、80から110Ω/□であった。また、スプレディングレジスタンス(SR)法で拡散プロファイルを確認したところ、ストライプ状に拡散ペーストを印刷した部分では、ドーパントの表面濃度として2×10^(20)cm^(-2)を得た。」
・「【0102】
(実施例2)
実施例2として、本発明の種々の二段エミッタ作製方法によって太陽電池を作製した。このとき形成された高濃度層、低濃度層のシート抵抗を表2に示す。併せてそれらの太陽電池特性を表3に示す。
本実施例では、表2に示すように、塗布拡散法で同一面内に二種類の濃度の拡散層を形成するために塗布剤に含まれるドーパント含有量、塗布膜厚、ガラス含有量(珪素化合物含有量)、元素等の変更を利用した。特に、塗布膜厚の変更に関しては粘度の変更を利用するか、もしくは溝を利用した。
以下に簡単に二段エミッタの製法を説明する。なお、テクスチャ形成や拡散後から電極形成までの一連のプロセスについては実施例1と同様である。
【0103】
まず、サンプルA、C、D、Eに対しては、表2に示した項目を変更することにより、高濃度層と低濃度層を形成した。例えばサンプルAではドーパント含有量を変化させた2種類の塗布剤を用意し、例えば高濃度層を形成する際には、リン酸を100ml中10g含んだ拡散ペーストを用いた。またサンプルCでは、塗布剤中のメチルセルソルブの含有量を変化させて粘度を変更し、サンプルDでは、含有する珪素化合物をシリカゲルとアルコキシシランとし、サンプルEでは、ガラスの含有量を変化させた。また本プロセスでは、高濃度層は200μm幅、2.0mmピッチのラインとし、スクリーン印刷により塗布剤を印刷し、一方で低濃度層はスピンで塗布剤を塗布することにより形成した。また、サンプルB、Fに対しては高濃度層および低濃度層ともにスクリーン印刷を利用し、塗布剤を印刷した。また、サンプルBでは高濃度層を形成する塗布剤にポリビニルアルコールを添加し、サンプルFでは各塗布剤に含有するドーパントを拡散係数の異なるリンとアンチモンとした。このとき、高濃度層は200μm幅、2.0mmピッチのラインとした。一方、サンプルGに対しては実施例1で用いた一種類の塗布剤のみをスピン塗布した。これらA?Gにわたるサンプルのうち半数は880℃で30分間熱処理を施し、拡散を済ませた。残りの半数は熱処理をする前にシリカゲルを含有させた塗布剤を同一面上に3000rpm、15秒の条件で塗布し、上記と同様の条件で拡散熱処理を済ませた。表2内、「カバー」はこの膜のことを示す。なお、シート抵抗の測定はガラスエッチング後に四探針法によって実施した。なお、表3に示した太陽電池の諸特性は、この「カバー」を形成したものである。」

ウ 甲第3号証に記載された発明
以上の(ア)?(オ)を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「基板の受光面へリンを熱拡散させるために第1塗布剤としてスクリーン印刷され、少なくともリン酸等のドーパント及びこのドーパントの飛散防止剤を含有し、スクリーン印刷用の拡散ペーストであって、
その含有量により前記第1塗布剤としての拡散ペーストの粘度を調整するメチルセルソルブと、
前記リン酸と、
前記メチルセルソルブにバインダとして添加され、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル及びこれらの共重合体、もしくはセルロース誘導体、もしくはポリアクリレートからなる増粘剤と、
前記ドーパントの飛散防止剤であり、好ましくは、シリカゲルとして前記拡散ペーストの粘度を制御できるSiO_(2)の粒と、
を含有する拡散ペースト。」

エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証(特開平9-181009号公報)には、「ホウ素拡散用塗布液」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なホウ素拡散用塗布液、さらに詳しくはシリコン半導体の表面にホウ素を拡散するための新規なホウ素拡散用塗布液に関する。」
・「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明は、(a)ホウ素化合物、(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物、(c)多価アルコール、及び(d)フッ素系界面活性剤を又は、(a)ホウ素化合物と(b)アルコール性水酸基含有高分子化合物及び(c)多価アルコールとの反応生成物、並びに(d)フッ素系界面活性剤を含有することを特徴とするホウ素拡散用塗布液に係る。
【0006】上記(a)成分としては、ホウ酸、無水ホウ酸、アルキル基がメチル、エチル、プロピル、ブチル等であるアルキルホウ酸エステル及び塩化ホウ素が挙げられ、それらの単独又は2種以上の混合物が使用できる。(a)成分の配合割合は、本発明の塗布液の固形分中20?50重量%、好ましくは、30?40重量%となるように配合すればよい。
【0007】(b)成分としては、ポリエチレンオキシド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシプロピルアクリレート又はこれに相当するメタクリレートなどのポリヒドロキシアルキルアクリレート又はメタクリレート類、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等を挙げることができ、それらの単独又は2種以上の混合物が使用できる。中でもホウ素化合物との錯体の形成性及び形成した錯体の安定性からポリビニルアルコールが好ましい。(b)成分の配合割合は、本発明の塗布液の固形分中5?70重量%、好ましくは、5?60重量%となるように配合すればよい。」
・「【0021】
【実施例】
実施例1
ポリビニルアルコール(重合度300) 61g
マンニトール 38g
三酸化二ホウ素(B_(2)O_(3)) 31g
フッ素系界面活性剤(EF-122A) 0.05g
水 252g
エチレングリコールモノメチルエーテル 587g
を90℃で5時間攪拌しホウ素拡散用塗布液を調製した。」

(2)本件発明1についての対比・判断
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「基板の受光面へリンを熱拡散させるために第1塗布剤としてスクリーン印刷され、少なくともリン酸等のドーパント及びこのドーパントの飛散防止剤を含有し、スクリーン印刷用の拡散ペースト」は、本件発明1の「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物」に相当する。
(イ)引用発明2の「リンを熱拡散させるため」の「ドーパント」である「リン酸」は、本件発明1の「不純物拡散成分(A)」に相当する。
(ウ)引用発明2の「好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル及びこれらの共重合体、もしくはセルロース誘導体、もしくはポリアクリレートからなる増粘剤」は、「バインダ」樹脂である。
ここで、甲第3号証における、段落【0048】の「このように作製したサンプル基板を熱処理炉に入れ、880℃で30分間保持して拡散熱処理を行ない」、段落【0095】の「その後、このように作製したサンプル基板を熱処理炉に入れ、880℃で30分間保持して拡散熱処理を行ない」という記載から、「リン酸」を「ドーパント」とする「リン」は「880℃」の温度で熱拡散するから、甲第3号証において、「880℃」は、「リン」が拡散を開始するとともに終了する温度であると認められる。
さて、第3の3(1)ウ(ア)?(イ)、(オ)?(カ)で摘記した甲第2号証の記載から、引用発明2の「増粘剤」のうち、「ポリビニルアルコール」又は「ポリ酢酸ビニル」からなる樹脂は、上記の「リン」が「拡散」を開始し終了する温度である880℃より低い温度で熱分解して消失することは、甲第3号証に記載されているに等しい事項であるといい得るほど、当業者には周知慣用の事項であると認められる。
一方、第3の3(1)ウ(ウ)?(エ)で摘記した甲第2号証の記載から、ポリメタクリルメチルが前記880℃より低い温度で熱分解して消失することは当業者には周知慣用の事項であると認められるが、前記ポリメタクリルメチルは引用発明2の「ポリアクリレート」の一種にすぎない。また、引用発明2の「ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール」が、前記880℃より低い温度で熱分解して消失するかどうかは、甲第2号証の記載を参照しても不明である。
そうすると、引用発明2の「前記メチルセルソルブにバインダとして添加され、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル及びこれらの共重合体、もしくはセルロース誘導体、もしくはポリアクリレートからなる増粘剤」のうち少なくとも「ポリビニルアルコール」又は「ポリ酢酸ビニル」と、本件発明1の「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)」とは、「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)」である点で共通する。
(エ)引用発明2の「前記ドーパントの飛散防止剤であり、好ましくは、シリカゲルとして前記拡散ペーストの粘度を制御できるSiO_(2)の粒」は、本件発明1の「SiO_(2)微粒子(C)」に相当する。
(オ)引用発明2の「その含有量により前記第1塗布剤としての拡散ペーストの粘度を調整するメチルセルソルブ」は、「拡散ペースト」において有機溶剤であることは、明らかである。
ここで、「メチルセルソルブ」の沸点は約124℃であることは、当業者の技術常識である。
したがって、引用発明2の「その含有量により前記第1塗布剤としての拡散ペーストの粘度を調整するメチルセルソルブ」は、本件発明1の「沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)」に相当する。
(カ)第3の3(1)ウ(ア)?(カ)で摘記した甲第2号証の記載から、引用発明2の前記「バインダ」樹脂のうち少なくとも「ポリビニルアルコール」又は「ポリ酢酸ビニル」が、400℃未満の温度で熱分解して消失することは、甲第3号証に記載されているに等しい事項であるといい得るほど、当業者には周知慣用の事項であると認められる。
したがって、引用発明2の「バインダとして添加され、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル及びこれらの共重合体、もしくはセルロース誘導体、もしくはポリアクリレートからなる増粘剤」と、本件発明1の「前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満」であることとは、「前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満」ものを含む点で共通する。

イ 一致点及び相違点
以上から、本件発明1と引用発明2とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<一致点>
「半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、
SiO_(2)微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有し、
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であるものを含む、
ことを特徴とする拡散剤組成物。」

<相違点>
<相違点1>
本件発明1の「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失する」とともに「その熱分解温度が400℃未満」である「バインダー樹脂(B)」は「メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含む」のに対して、引用発明2の「リン」が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するとともに熱分解温度が400℃未満である「バインダ」樹脂は、少なくとも「ポリビニルアルコール」又は「ポリ酢酸ビニル」である点。
<相違点2>
本件発明1の「拡散剤組成物」は「水を含ま」ないのに対して、引用発明2の「拡散ペースト」が「水」を含むかどうか特定されていない点。
<相違点3>
本件発明1の「前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下である」のに対して、引用発明2において、固形成分である「リン酸」、「バインダとして添加」された「増粘剤」及び「SiO_(2)の粒」の全質量に対する「バインダとして添加」された「増粘剤」の割合が不明である点。

ウ 判断
(ア)相違点2について検討する。
(イ)第3の4(1)イで摘記したように、甲第3号証には、引用発明2の「第1塗布剤」としての「拡散ペースト」の成分である「メチルセルソルブ」、「リン酸」、「増粘剤」及び「シリカゲルとして前記拡散ペーストの粘度を制御できるSiO_(2)の粒」の具体的な質量割合に関する記載はなく、前記「拡散ペースト」が、「メチルセルソルブ」、「リン酸」、「増粘剤」及び「シリカゲルとして前記拡散ペーストの粘度を制御できるSiO_(2)の粒」の他に、水を含まないことを裏付ける記載はない。
そして、甲第3号証には、引用発明2の「第1塗布剤」としての「拡散ペースト」に、「メチルセルソルブ」、「リン酸」、「増粘剤」及び「シリカゲルとして前記拡散ペーストの粘度を制御できるSiO_(2)の粒」の他に水を含ませないことについての、動機付けとなる記載も見受けられない。
すなわち、甲第3号証の記載からは、引用発明2の前記「拡散ペースト」が、「メチルセルソルブ」、「リン酸」、「増粘剤」及び「シリカゲルとして前記拡散ペーストの粘度を制御できるSiO_(2)の粒」の他には、水を含まないとすることはできない。
ただし、前記「SiO_(2)の粒」は「シリカゲル」であるところ、当該「シリカゲル」の成分は「SiO_(2)・nH_(2)O」で表されることは当業者の技術常識であるから、引用発明2の「第1塗布剤」としての「拡散ペースト」は、前記「SiO_(2)の粒」に取り込まれた形で水を含んでいると認められる。
(ウ)一方、第3の4(1)エで摘記したように、甲第4号証には、「ホウ素拡散用塗布液」に水を含ませることが段落【0021】に記載されている。
そして、甲第2号証は、第3の3(1)ウで摘記したように、「高分子物質」の熱分解特性について記載したものにすぎない。
(エ)したがって、平成28年7月15日付けで特許権者に通知した取消理由で示した各甲号証の記載からでは、引用発明2の「第1塗布剤」としての「拡散ペースト」に水を含ませないことを、当業者が容易に想到できたとすることはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2と甲第2号証及び甲第4号証の記載とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(3)本件発明2ないし4及び本件発明6ないし8についての判断
本件発明2ないし4及び本件発明6ないし8は、いずれも、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様に、引用発明2と甲第2号証及び甲第4号証の記載とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(4)甲第3号証に基づく取消理由のまとめ
以上のとおりであるから、甲第3号証に基づく取消理由によっては、もはや、本件発明1ないし4及び本件発明6ないし8を取り消すことはできない。

5 特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人の意見
特許異議申立人 特許業務法人朝比奈特許事務所 は、平成28年11月29日に提出した意見書で、以下のように主張している。
(ア)本件発明1は、特許を受けようとする発明が明確でない。
本件発明1は「バインダー樹脂(B)」が「メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含む」という特徴を備えるところ、前記「アクリル酸」は水に混和性を示すし、前記「メタクリル酸」は温水に可溶である。
したがって、本件発明1の「バインダー樹脂(B)」は、「疎水性アクリル樹脂」だけでなく、「水溶性アクリル樹脂」も含むから、本件発明1には、特許権者がいう「疎水性アクリル樹脂」であるための必須の発明特定事項が規定されておらず、発明の外延が不明確である。
(イ)本件発明1の進歩性について
甲第3号証には、メチルセルソルブを用いた例が開示されているところ、取消理由通知書の「C 甲3に基づく取消理由」の「(5)本件特許発明6について」で認定したとおり、メチルセルソルブが水を含んでいないことは自明である。
したがって、甲第3号証には、引用発明2として水を含ませないことが開示されているのであり、本件発明1は、このような引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(ウ)本件発明7の進歩性について
拡散剤組成物を用いて単層の塗膜を形成することは、甲第5号証ないし甲第7号証にみられるように周知技術であり、かつ、当業者の設計的事項に他ならない。
そうすると、本件発明7は、引用発明2において、適宜周知技術を適用することにより容易想到である。

イ (ア)の主張について
訂正後の特許請求の範囲の請求項1には、「バインダー樹脂(B)」が含む「アクリル系樹脂」の具体例が列記されているが、前記「バインダー樹脂(B)」が、「疎水性アクリル樹脂」を含むことも、「水溶性アクリル樹脂」を含むことも記載されていない。
したがって、前記列記された「アクリル系樹脂」が「水溶性アクリル樹脂」を含むとしても、「疎水性アクリル樹脂」であるための必須の発明特定事項が規定されておらず発明の外延が不明確であるという、特許異議申立人の主張は、訂正後の特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
そして、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の「前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)」という発明特定事項は明確であり、当該発明特定事項を有する本件発明1の外延は明確である。
したがって、特許異議申立人の前記(ア)の主張は、採用することはできない。

ウ (イ)の主張について
取消理由通知書の「C 甲3に基づく取消理由」の「(5)本件特許発明6について」で認定したのは、「引用発明2の「溶剤」中の「沸点が約124℃であるメチルセルソルブ」の質量割合は100%である。」ということである。すなわち、引用発明2は、「拡散ペースト」の「溶剤」として「メチルセルソルブ」のみを有するということを指摘したに止まるものであって、前記「拡散ペースト」が水を含まないことを指摘したものではない。
そして、「拡散ペースト」の「溶剤」である「メチルセルソルブ」が水を含まないことが、直ちに、「拡散ペースト」が水を含まないことを意味するものでないことは、明らかである。
したがって、特許異議申立人の前記(イ)の主張は、採用することはできない。

エ (ウ)の主張について
特許異議申立人は、拡散剤組成物を用いて単層の塗膜を形成することが周知技術であったと主張している。
しかし、本件発明7及び本件発明8は、いずれも、本件発明1をさらに限定した発明である。
したがって、第3の4(2)ウ(エ)で指摘したように、本件発明1が引用発明2と甲第2号証及び甲第4号証の記載とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない以上、仮に引用発明2に前記周知技術を適用できたとしても、第3の4(3)で指摘したように、本件発明7及び本件発明8が引用発明2から容易想到であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の前記(ウ)の主張は、採用することはできない。

オ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
なお、平成28年7月15日付けの取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4及び本件請求項6ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4及び本件請求項6ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
拡散剤組成物、および不純物拡散層の形成方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散剤組成物、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の製造において、半導体基板中にP型やN型の不純物拡散層を形成する場合には、不純物拡散成分を含む拡散剤を用いて半導体基板表面に塗膜形成し、この拡散剤の塗膜から不純物拡散成分を半導体基板中に拡散させて、不純物拡散層を形成していた。
【0003】
太陽電池の製造において、拡散剤を半導体基板表面に塗布する方法としては、スピンコート法が多く用いられているが、スクリーン印刷法やロールコート印刷法などを採用する試みもなされている。スクリーン印刷法では、まずメッシュ状の絹、合成樹脂、ステンレスなどのスクリーン(印刷版)を枠に張り、スクリーンに拡散剤が通過する部分と、通過しない部分とを形成する。次いでスクリーンに拡散剤を塗布して、塗布された拡散剤をスキージで半導体基板表面に押し出す。すると、拡散剤が半導体基板表面に転写されて、これにより半導体基板表面に所定のパターンやラインを含む、拡散剤の塗膜が形成される。
【0004】
また、ロールコート印刷法では、まず円周に沿って溝が形成された印刷ローラ(印刷版)と、印刷ローラに半導体基板を押し付けるための押圧ローラとを、わずかな距離を隔てて対向配置する。続いて、溝に拡散剤を補給しながら印刷ローラと押圧ローラとを互いに反対方向へと回転させ、それらの間に半導体基板を通過させる。すると、印刷ローラと半導体基板とが互いに圧力をもって接触し、印刷ローラの溝に充填されていた拡散剤が半導体基板表面に転写されて、これにより半導体基板表面に所定のパターンやラインを含む、拡散剤の塗膜が形成される。
【0005】
また、例えば特許文献1には、これらの印刷法に使用することを目的としたドーパントペースト(拡散剤組成物)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002-539615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、現在、太陽電池の製造においてスクリーン印刷法やロールコート印刷法を採用しようとする試みはなされているが、これらの方法では実用に耐えるレベルの塗膜形成が困難であった。その原因の一つとして、これらの方法に好適に採用可能な拡散剤が知られていなかったことが挙げられる。すなわち、上述したスクリーン印刷法やロールコート印刷法ではメッシュ状やロール状の印刷版に拡散剤を塗布するため、拡散剤は所定の粘性を有している必要があった。拡散剤に粘性を付与するために、従来の拡散剤はその固形分濃度がある程度高く設定されていたが、これにより拡散剤は乾燥しやすかった。印刷版に塗布された拡散剤が乾燥すると、半導体基板に印刷カスレが生じ、良好な塗膜を形成することができない。
【0008】
そのため、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に用いられる拡散剤には、所定の粘性を有しつつも乾燥しにくいことが求められていた。また一方で、拡散剤には、半導体基板表面に塗布された際に正確な塗膜形状(パターン)を形成できること、すなわち塗膜形成性や、半導体基板の所定の領域に均一に拡散して拡散領域の抵抗値を所望の値まで低減できること、すなわち拡散性を向上させたいという要求は常に存在している。
【0009】
本発明は、発明者によるこうした認識に基づいてなされたものであり、その目的は、優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は拡散剤組成物であり、この拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)と、SiO_(2)微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有し、水を含まず、前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする。
【0011】
この態様によれば、優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物を得ることができる。
【0012】
本発明の他の態様は不純物拡散層の形成方法であり、この不純物拡散層の形成方法は、上記態様の拡散剤組成物を印刷して単層の塗膜を形成する塗膜形成工程と、拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
この態様によれば、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。
【0014】
本発明のさらに他の態様は太陽電池であり、この太陽電池は、上記態様の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えたことを特徴とする。
【0015】
この態様によれば、より信頼性の高い太陽電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 図1(A)?図1(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図2】 図2(A)?図2(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
本実施の形態に係る拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であり、不純物拡散成分(A)と、バインダー樹脂(B)と、SiO_(2)微粒子(C)と、有機溶剤(D)と、を含有する。以下、本実施の形態に係る拡散剤組成物の各成分について詳細に説明する。
【0020】
《不純物拡散成分(A)》
不純物拡散成分(A)は、一般にドーパントとして太陽電池の製造に用いられる化合物である。不純物拡散成分(A)は、V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分、またはIII族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分であり、太陽電池における電極を形成する工程において、半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができる。V族元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分は、太陽電池における電極を形成する工程において、P型の半導体基板内にN型の不純物拡散層を形成することができ、N型の半導体基板内にN^(+)型(高濃度N型)の不純物拡散層を形成することができる。不純物拡散成分(A)に含まれるV族元素の化合物としては、例えば、P_(2)O_(5)、Bi_(2)O_(3)、Sb(OCH_(2)CH_(3))_(3)、SbCl_(3)、As(OC_(4)H_(9))_(3)などが挙げられ、不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる。また、III族元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分は、太陽電池における電極を形成する工程において、N型の半導体基板内にP型の不純物拡散層を形成することができ、P型の半導体基板内にP^(+)型(高濃度P型)の不純物拡散層を形成することができる。不純物拡散成分(A)に含まれるIII族元素の化合物としては、例えば、B_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)などが挙げられ、不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる。
【0021】
不純物拡散成分(A)の添加量は、半導体基板に形成される不純物拡散層の層厚などに応じて適宜調整される。また、不純物拡散成分(A)の添加量は、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、およびSiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して(固形成分を100とした場合に)、好ましくは5?60質量%であり、より好ましくは15?50質量%である。不純物拡散成分(A)の添加量が5質量%以上であると、より良好な拡散性が得られ、不純物拡散成分(A)の添加量が60質量%以下であると、より安定な溶液と良好な塗膜形成性が得られる。
【0022】
《バインダー樹脂(B)》
バインダー樹脂(B)は、不純物拡散成分(A)が良好に分散する特性を有する。そのため、バインダー樹脂(B)は、不純物拡散成分(A)を拡散剤組成物中に均一に分散させ、これにより不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たす。バインダー樹脂(B)は、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失する樹脂である。そのため、不純物拡散成分(A)の熱拡散時に、半導体基板表面にカーボンが残らず、これにより不純物拡散成分(A)の熱拡散とともにカーボンが半導体基板内に拡散して所望の抵抗値が得られなくなったり、抵抗値のばらつきが生じるといった事態を回避することができる。
【0023】
すなわち、このようなバインダー樹脂(B)によれば、拡散剤組成物の拡散性を向上させることができ、半導体基板の拡散剤組成物が拡散した領域における抵抗値を所望の値に精度よく調整することができる。ここで、前記「熱拡散を開始する温度」とは、半導体基板表面から半導体基板内への不純物拡散成分の進入が始まったときの温度であり、例えば、不純物拡散成分が半導体基板と拡散剤組成物との界面から約10nm、好ましくは約1nm進入したときの温度である。また、前記「熱分解して消失する」とは、例えば、バインダー樹脂がバインダー樹脂全質量の約95%、好ましくは約99%、さらに好ましくは100%消失することをいう。
【0024】
バインダー樹脂(B)としては、その熱分解温度が、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満である樹脂、あるいは、熱分解温度が400℃未満である樹脂が好ましい。また、バインダー樹脂(B)としては、加熱温度500℃で80質量%以上が熱分解する樹脂が好ましい。これらによれば、不純物拡散成分(A)の熱拡散時にカーボン残渣がある状態をより確実に回避することができる。ここで、前記「熱分解温度」は、バインダー樹脂の質量減少が始まったときの温度であり、例えば、バインダー樹脂の質量がバインダー樹脂全質量の約5%、好ましくは約1%減少したときの温度である。
【0025】
また、バインダー樹脂(B)は、非シリコン系樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂(B)がシリコン系樹脂であった場合には、スクリーン印刷機やロールコーターの印刷版に付着した拡散剤組成物が乾燥した際に、拡散剤組成物が印刷版に固着してしまう場合がある。印刷版に固着した拡散剤組成物を取り除くためには、印刷版をフッ酸(HF)を用いて洗浄する必要があり、この場合、印刷版に付着したフッ酸が印刷機の金属部品などに付着してこれらの金属部品を腐食してしまうおそれがある。また、フッ酸は劇物であるため、拡散剤組成物の除去作業にともなう危険性が増大してしまう。これに対し、バインダー樹脂(B)を非シリコン系樹脂で構成することで、印刷版上で乾燥した拡散剤組成物を、アセトン、イソブタノールなどの有機溶剤で洗浄することができる。したがって、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、取り扱いが容易である。
【0026】
好ましくは、バインダー樹脂(B)はアクリル系樹脂を含む。また、バインダー樹脂(B)に含まれるアクリル系樹脂は、ブチラール基を有するものであることが好ましい。バインダー樹脂(B)の具体例としては、メチルメタクリレート(MMA)、メタクリル酸(MAA)、イソブチルメタクリレート(i-BMA)、ターシャリーブチルメタクリレート(t-BMA)、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの重合性モノマーで構成されるアクリル樹脂などが挙げられる。
【0027】
バインダー樹脂(B)の添加量は、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、およびSiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して、好ましくは5?60質量%であり、より好ましくは15?50質量%である。バインダー樹脂(B)の添加量が5質量%以上であると、塗膜形成性がより良好となって均一な塗膜(印刷膜)を形成でき、これにより良好な拡散性が得られる。バインダー樹脂(B)の添加量が60質量%以下であると、より安定な溶液と良好な拡散性が得られる。
【0028】
《SiO_(2)微粒子(C)》
SiO_(2)微粒子(C)はフィラーとして添加され、SiO_(2)微粒子(C)の添加によって不純物拡散成分(A)とバインダー樹脂(B)との相溶性を向上させることができる。不純物拡散成分(A)とバインダー樹脂(B)との相溶性が向上すると、不純物拡散成分(A)を半導体基板表面により均一に塗布でき、その結果、不純物拡散成分(A)を半導体基板により均一に拡散させることができる。そのため、SiO_(2)微粒子(C)によって、拡散剤組成物の拡散性を向上させることができる。SiO_(2)微粒子(C)の大きさは、平均粒径が約1μm以下であることが好ましい。
【0029】
SiO_(2)微粒子(C)の具体例としては、ヒュームドシリカなどが挙げられる。SiO_(2)微粒子(C)の添加量は、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、およびSiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して、好ましくは5?60質量%であり、より好ましくは15?50質量%である。SiO_(2)微粒子(C)の添加量が5質量%以上であると、より安定な溶液が得られ、より良好な拡散性が得られる。SiO_(2)微粒子(C)の添加量が60質量%以下であると、より良好な塗膜形成性が得られ、より良好な拡散性が得られる。なお、SiO_(2)微粒子(C)が添加されない場合は、溶液が安定しにくく、また塗膜が斑模様になって良好な拡散性が得られにくい。
【0030】
《有機溶剤(D)》
有機溶剤(D)は、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含有する。有機溶剤(D1)の沸点が100℃以上であるため、拡散剤組成物の乾燥を抑制することができる。そのため、ロールコート印刷法やスクリーン印刷法で用いられる印刷版に拡散剤組成物を塗布した際に、拡散剤組成物が印刷版上で乾燥して固着してしまうのを回避することができる。したがって、有機溶剤(D)を含有することで、半導体基板に印刷された塗膜に印刷カスレが生じるのを防ぐことができる。すなわち、有機溶剤(D)によって拡散剤組成物の塗膜形成性が向上する。有機溶剤(D)は、有機溶剤(D1)を、有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含むことが好ましい。有機溶剤(D)に対する有機溶剤(D1)の含有量が10質量%未満の場合には、得られる乾燥抑制効果が小さく、半導体基板表面に形成した塗膜に印刷カスレが生じる可能性がある。
【0031】
有機溶剤(D1)としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、2-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテート、3-メトキシペンチルアセテート、4-メトキシペンチルアセテート、2-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、4-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネート、エチル-3-プロポキシプロピオネート、プロピル-3-メトキシプロピオネート、イソプロピル-3-メトキシプロピオネート、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸エチルヘキシル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、酢酸ベンジル、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、γ-ブチロラクトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、ブタノール、イソブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、テルピネオール、ターピネオール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。また、有機溶剤(D)としては、上述の有機溶剤(D1)と、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、メタノール、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどとの混合物が挙げられる。
【0032】
拡散剤組成物中に含まれる金属不純物の濃度は、500ppm以下であることが好ましい。これにより、金属不純物の含有によって生じる光起電力効果の効率の低下を抑えることができる。また、本実施形態の拡散剤組成物は、その他の添加剤として一般的な界面活性剤や消泡剤などを含有してもよい。なお、拡散剤組成物の全質量に対する固形成分の割合(固形分濃度)は、印刷方法により適宜変更することができるが、好ましくは5?90質量%である。
【0033】
《不純物拡散層の形成方法、および太陽電池の製造方法》
図1および図2を参照して、半導体基板にロールコート印刷法またはスクリーン印刷法を用いて不純物拡散層を形成する方法と、これにより不純物拡散層が形成された半導体基板を備えた太陽電池の製造方法について説明する。図1(A)?図1(D)、および図2(A)?図2(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。なお、ここではP型の半導体基板にN型の不純物拡散層を形成する方法を例として説明するが、特にこれに限定されず、例えばN型の半導体基板にP型の不純物拡散層を形成することもできる。
【0034】
本実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法は、半導体基板に不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する工程と、拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる工程と、を含む。
【0035】
まず、図1(A)に示すように、シリコン基板などのP型の半導体基板1を用意する。そして、図1(B)に示すように、周知のウェットエッチング法を用いて、半導体基板1の一方の主表面に、微細な凹凸構造を有するテクスチャ部1aを形成する。このテクスチャ部1aによって、半導体基板1表面の光の反射が防止される。続いて、図1(C)に示すように、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、N型の不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物2を塗布する。
【0036】
拡散剤組成物2は、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により半導体基板1の表面に塗布される。すなわち、ロールコート印刷法の場合には、周知のロールコーターに設けられた印刷ローラに拡散剤組成物2を充填し、印刷ローラと、印刷ローラに対向配置されたローラとの間に半導体基板1を通過させることで、半導体基板1上に拡散剤組成物2を印刷する。また、スクリーン印刷法の場合には、周知のスクリーン印刷機に設けられたスクリーンに拡散剤組成物2を塗布し、拡散剤組成物2をスキージで半導体基板1の表面に押し出すことで、半導体基板1上に拡散剤組成物2を印刷する。このようにして塗膜を形成した後は、塗布した拡散剤組成物2をオーブンなどの周知の手段を用いて乾燥させる。
【0037】
次に、図1(D)に示すように、拡散剤組成物2が塗布された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成する。焼成の後、電気炉内で拡散剤組成物2中のN型の不純物拡散成分(A)を半導体基板1の表面から半導体基板1内に拡散させる。なお、電気炉に代えて、慣用のレーザーの照射により半導体基板1を加熱してもよい。このようにして、N型の不純物拡散成分(A)が半導体基板1内に拡散してN型不純物拡散層3が形成される。
【0038】
次に、図2(A)に示すように、周知のエッチング法により、拡散剤組成物2を除去する。そして、図2(B)に示すように、周知の化学気相成長法(CVD法)、例えばプラズマCVD法を用いて、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、シリコン窒化膜(SiN膜)からなるパッシベーション膜4を形成する。このパッシベーション膜4は、反射防止膜としても機能する。
【0039】
次に、図2(C)に示すように、銀(Ag)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1のパッシベーション膜4側の主表面に表面電極5をパターニングする。表面電極5は、太陽電池の効率を高めるために、例えばくし形パターン等に形成される。また、アルミニウム(Al)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1の他方の主表面に裏面電極6を形成する。
【0040】
次に、図2(D)に示すように、裏面電極6が形成された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成した後、裏面電極6を形成しているアルミニウムを半導体基板1内に拡散させる。これにより、裏面電極6側の電気抵抗を低減することができる。以上の工程により、本実施形態に係る太陽電池10を製造することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、SiO_(2)微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有する。そのため、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)の熱拡散時にカーボン残渣がほとんどなく、高い拡散性を有するとともに、乾燥しにくいため印刷カスレも少なく高い塗膜形成性を有する。また、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、乾燥しても洗浄用の有機溶剤で簡単に除去することができるため、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用することができる。また、この拡散剤組成物を用いて不純物拡散層を形成した場合には、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。さらに、この拡散剤組成物を用いることでより精度の高い塗膜形成が可能となるため、太陽電池の信頼性を向上させることができる。
【0042】
また、バインダー樹脂(B)として、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満の熱分解温度を有する樹脂を用いるか、あるいは、400℃未満の熱分解温度を有する樹脂を用いた場合には、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する際にカーボン残渣が存在する可能性をより低減することができ、拡散剤組成物の拡散性をより向上させることができる。また、バインダー樹脂(B)が非シリコン系樹脂であった場合には、毒性の低い有機溶剤で容易に洗浄除去できること、すなわち装置洗浄性を向上させることができる。
【0043】
さらに、有機溶剤(D)が有機溶剤(D1)を有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含む場合には、印刷カスレが生じる可能性をより低減することができ、したがって拡散剤組成物の塗膜形成性をより向上させることができる。
【0044】
また、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池の製造方法において、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法を使用した場合には、不純物の拡散領域を所望の場所に選択的に設けることができる。そのため、従来の方法と比較して、複雑な工程を必要とすることなく、また、拡散剤組成物の消費を抑えることができる。これにより、太陽電池の製造コストを抑えることができる。
【0045】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれるものである。上述の実施の形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0046】
上述の実施の形態では、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により半導体基板に拡散剤組成物を印刷したが、スピンオン法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの他の印刷法を採用してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0048】
(拡散剤組成物の作成)
下記表1?4に記載の成分および含有比に従って、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、SiO_(2)微粒子(C)、および有機溶剤(D)を混合して各成分を均一に分散させて、実施例1?17、および比較例1?5に係る拡散剤組成物を得た。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
注):
MMA:メチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
i-BMA:イソブチルメタクリレート
ACA 200M:アクリル樹脂(ダイセルサイテック社製)
マクロメルトOM652:ポリアミド樹脂(ヘンケル社製)
マクロメルト6900:ポリアミド樹脂(ヘンケル社製)
AEROSIL200:ヒュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製)
各構成成分の割合(質量%)は、拡散剤組成物の全質量に対する割合である。
【0054】
(不純物拡散層の形成)
実施例1?3、7、8、12?17、比較例3?5の拡散剤組成物は、スクリーン印刷機(MT2030型(ムラカミテクノ株式会社製))を用いてP型半導体基板にスクリーン印刷した。また、実施例9?11の拡散剤組成物は、同じスクリーン印刷機を用いてN型半導体基板にスクリーン印刷した。印刷条件は、印圧を4.2kgf/cm^(2)、スキージ速度を3.52cm/sec、スキージ硬度を70°とした。また、実施例1?7、比較例1、2、4の拡散剤組成物は、ロールコーター(RC-353-P(大日本スクリーン製造社製))を用いてP型半導体基板にロールコート印刷した。各拡散剤組成物の印刷後、半導体基板をホットプレート上に載置して、150℃で3分間乾燥させた。続いて、半導体基板を電気炉内に載置し、O_(2)雰囲気下、600℃で30分間加熱して半導体基板を焼成した。その後、この半導体基板を、実施例1?8、12?17、比較例1?5についてはN_(2)雰囲気下、900℃で30分間加熱し、実施例9?11についてはN_(2)雰囲気下、950℃で30分間加熱して、不純物拡散成分(A)を熱拡散させた。そして、熱拡散によって半導体基板表面に形成されたリンシリケートガラス膜(PSG膜)をフッ酸(フッ化水素)で剥離した。なお、ここでは、熱分解温度が400℃未満のバインダー樹脂(B)が、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂に相当し、また、熱分解温度が不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満であるバインダー樹脂に相当する。
【0055】
(装置洗浄性の評価)
スクリーン印刷に使用されたスクリーン、あるいはロールコート印刷に使用された印刷ロールに付着した拡散剤組成物を、印刷機の金属部品を腐食させない有機溶剤を用いて洗浄し、付着した拡散剤組成物が除去されたか否かを目視で評価した(○:除去された、×:除去されずに残渣が残った)。使用した有機溶剤は、表1?4の通りである。実施例1?7の結果を表1に、実施例8?14の結果を表2に、実施例15?17の結果を表3に、比較例1?5の結果を表4に示す。
【0056】
(乾燥性の評価)
拡散剤組成物が印刷機上で乾燥した場合には、印刷した塗膜に印刷カスレが生じる。そこで、半導体基板に形成された塗膜に印刷カスレが見られるか否かを目視で確認して、拡散剤組成物の印刷機上での乾燥性を評価した(◎:印刷カスレがない、○:わずかに印刷カスレが見られるが太陽電池の製造において許容できる程度である、×:許容できない程度の印刷カスレがある)。実施例1?7、比較例1、2、4は、ロールコーター上での乾燥性を、実施例8?17、比較例3、5は、スクリーン印刷機上での乾燥性を評価した。実施例1?7の結果を表1に、実施例8?14の結果を表2に、実施例15?17の結果を表3に、比較例1?5の結果を表4に示す。なお、前記「太陽電池の製造において許容できる程度」、および「許容できない程度」は、当業者が実験等によって適宜設定することができる。
【0057】
(カーボン残渣の評価)
不純物拡散成分(A)を熱拡散させた後、半導体基板表面にカーボン残渣が見られるか、目視で評価した。評価は、カーボン残渣が見られた場合を「有り」、カーボン残渣が見られなかった場合を「無し」とした。実施例1?7の結果を表1に、実施例8?14の結果を表2に、実施例15?17の結果を表3に、比較例1?5の結果を表4に示す。
【0058】
(拡散性の評価)
半導体基板に形成された不純物拡散層のシート抵抗値を、シート抵抗測定器(VR-70(国際電気株式会社製))を用いて四探針法により測定した。実施例1?7の結果を表1に、実施例8?14の結果を表2に、実施例15?17の結果を表3に、比較例1?5の結果を表4に示す。
【0059】
表1?3に示すように、全実施例のいずれもが、カーボン残渣がなく、低いシート抵抗値を示し、乾燥性、装置洗浄性がともに良好であった。また、表4に示すように、バインダー樹脂(B)として熱分解温度が400℃の樹脂を含有する比較例1、2では、カーボン残渣が見られ、シート抵抗値が各実施例と比較して著しく高かった。また、SiO_(2)微粒子(C)を含まない比較例3、5では、各実施例と比べてシート抵抗値が高かった。また、有機溶剤(D1)を含まない比較例3、4では、印刷カスレが見られた。さらに、バインダー樹脂(B)がシラン系樹脂からなる比較例3では、装置洗浄性が不良であった。
【0060】
有機溶剤(D1)を有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上含有する実施例1?6、8?17の拡散剤組成物では、有機溶剤(D1)の含有量が10質量%未満(8%)である実施例7の拡散剤組成物に比べて、乾燥性についてより良好な結果が得られた。なお、比較例3のバインダー樹脂(B)は、シラン化合物であるためにカーボン残渣が見られなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 半導体基板、 1a テクスチャ部、 2 拡散剤組成物、 3 N型不純物拡散層、 4 パッシベーション膜、 5 表面電極、 6 裏面電極、 10 太陽電池。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)であって、メチルメタクリレート、メタクリル酸、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選択される重合性モノマーの少なくとも1つで構成されるアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂(B)と、
SiO_(2)微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有し、
水を含まず、
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であり、
前記バインダー樹脂(B)の含有量は、前記不純物拡散成分(A)、前記バインダー樹脂(B)、および前記SiO_(2)微粒子(C)の固形成分の全質量に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする拡散剤組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が、前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満であることを特徴とする請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂(B)は、非シリコン系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の拡散剤組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂(B)は、アクリル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂は、ブチラール基を有することを特徴とする請求項4に記載の拡散剤組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤(D)は、前記有機溶剤(D1)を、有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項7】
半導体基板に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を印刷して単層の塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。
【請求項8】
前記塗膜形成工程において、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により、半導体基板に拡散剤組成物を印刷することを特徴とする請求項7に記載の不純物拡散層の形成方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-18 
出願番号 特願2010-175565(P2010-175565)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (H01L)
P 1 652・ 121- YAA (H01L)
P 1 652・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小田 浩右田 勝則  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5815215号(P5815215)
権利者 東京応化工業株式会社
発明の名称 拡散剤組成物、および不純物拡散層の形成方法  
代理人 森下 賢樹  
代理人 青木 武司  
代理人 青木 武司  
代理人 森下 賢樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ