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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
管理番号 1325842
異議申立番号 異議2015-700051  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-01 
確定日 2017-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5691518号発明「含フッ素化合物の精製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5691518号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第5691518号の請求項1、7ないし10に係る特許を取り消す。 同請求項2ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5691518号の請求項1?6に係る特許についての出願は,2009年6月22日(優先権主張 2008年6月24日 日本国(JP))を国際出願日として特許出願され,平成27年2月13日に旭硝子株式会社を特許権者として特許の設定登録がされ,同年4月1日にその特許公報が発行され,同年10月1日に,その請求項1?6に係る発明の特許に対し,特許異議申立人ダイキン工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年10月 1日 特許異議申立書
同年10月28日 上申書(特許権者)
同年12月25日 取消理由通知
平成28年 3月 7日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 3月28日 訂正拒絶理由通知
同年 4月20日 意見書・手続補正書(特許権者)
同年 5月25日 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 1日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 7月 8日 通知書
同年 8月10日 意見書(特許異議申立人)
同年 9月 1日 取消理由通知(決定の予告)
同年11月 2日 意見書・訂正請求書(特許権者)

第2 訂正の適否
特許権者は,特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成28年11月2日に訂正請求書を提出し,本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?10について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
なお,平成28年3月7日付けでなされた訂正請求並びに同年7月1日付けでなされた訂正請求は,いずれも特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1が
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、または、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表す。」であるところ,
訂正後の請求項1である
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」と訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2が
「前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物である請求項1に記載の含フッ素化合物の精製方法。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表し、Xはm価の金属イオン、アンモニウムイオン、またはアルキル置換アンモニウムイオンを表し、mは1?3の整数、を表す。」であるところ,
訂正後の請求項2である
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表さる、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、有機溶媒で抽出後に蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、式(3)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。」と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3が,
「前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項1又は2に記載の含フッ素化合物の精製方法。」であるところ,
訂正後の請求項3である
「前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項2に記載の含フッ素化合物の精製方法。」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4が,
「前記加熱温度が、130℃以下である請求項1?3のいずれかに記載の含フッ素化合物の精製方法。」であるところ,
訂正後の請求項4である
「前記釜の内温が、130℃以下である請求項2又は3に記載の含フッ素化合物の精製方法。」と訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5が,
「前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項1?4のいずれかに記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。」とあるところ,
訂正後の請求項5である
「前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項2?4のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。」と訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6が
「請求項1?5のいずれかに記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」とあるところ,
訂正後の請求項6である
「請求項2?5のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」と訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項3が,
「前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項1又は2に記載の含フッ素化合物の精製方法。」であるところ,
新たな請求項7である
「前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項1に記載の含フッ素化合物の精製方法。」と訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項4が,
「前記加熱温度が、130℃以下である請求項1?3のいずれかに記載の含フッ素化合物の精製方法。」であるところ,
新たな請求項8である
「前記釜の内温が、130℃以下である請求項1又は7に記載の含フッ素化合物の精製方法。」と訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項5が,
「前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項1?4のいずれかに記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。」とあるところ,
新たな請求項9である
「前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項1、7、8のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。」と訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項6が
「請求項1?5のいずれかに記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」とあるところ,
新たな請求項10である
「請求項1、7?9のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」と訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は,訂正前の「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、または、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体」との発明特定事項を,訂正後の「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体」とする訂正事項(以下「訂正事項1-1」という。訂正部分を下線で示す。以下同じである。)を含むものである。
この訂正事項1-1は,訂正前の液体が,「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液」,「分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体」,「前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体」の「何れからの液体」であって,「酸を加える工程を経て得られる液体」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
次に,訂正事項1は,訂正前の「蒸留して、前記含フッ素化合物を回収する」との発明特定事項を,「蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収する」とする訂正事項(以下「訂正事項1-2」という。)を含むものである。
この訂正事項1-2は,訂正前の「蒸留して、前記含フッ素化合物を回収する」ものが,「留出液として」「フッ素化合物を回収する」ものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
さらに,訂正事項1は,訂正前の
「R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表す。」を訂正後の
「R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」とする訂正事項(以下「訂正事項1-3」という。)を含むものである。
この訂正事項1-3は,式(1)における「総炭素数」を「5?10」に限定し,「R^(1)」を「直鎖状または分岐状の2価有機基」から「アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基」に限定し,さらに,「R^(F)」を「直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基」から「直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基」と訂正するものであるから,式(1)の含フッ素化合物を限定し,特許請求の範囲を減縮するものといえる。
したがって,訂正事項1は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲を減縮するものに該当する。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項1-1については,訂正前の請求項2に,「前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物である」との記載があり,また,本件特許明細書には,「そして、含フッ素化合物(3)を含む該廃液、該洗浄液または該濃縮液に酸を加えることにより、含フッ素化合物(3)を含フッ素化合物(1)に変換し、含フッ素化合物(1)を含む液体を得ることができる。」と記載されている(段落【0037】参照)。そして,本件特許明細書の実施例(段落【0053】,【0054】等)にも,式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物である式(1)で表される含フッ素化合物を蒸留することが記載されているといえる。
次に,上記訂正事項1-2については,本件特許明細書の実施例において,「釜の圧力を、常圧から5Torr(1Torrはおよそ133.322Pa。以下同じ。)へと徐々に下げ、釜の内温を92℃以下に保持しながらCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHを留出させた。沸点は74℃(30Torr)であった。得られたCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH精製品は、純度99.7%の無色透明の液体であり、その収量は786gであった。」と記載されており(段落【0054】参照),「蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収する」ことも記載されているといえる。
上記訂正事項1-3について,本件特許明細書には,「本発明において、含フッ素化合物(1)は、総炭素数が、5?10であることが好ましく」と記載され(段落【0023】参照),また,「R^(1)の具体例としては、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-等のアルキレン基;-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、-CHFCHF-、-CHFCF_(2)-、-CF_(2)CHF-等のポリフルオロアルキレン基;-CF_(2)CF_(2)-、-CF(CF_(3))-、-CF(CF_(3))CF_(2)-、-CF_(2)CF(CF_(3))-、-CF(CF_(3))CF_(2)CF_(2)-、-CF_(2)CF(CF_(3))CF_(2)-、-CF_(2)CF_(2)CF(CF_(3))-、-(CF_(2))_(d)-(dは1以上の整数であり、1?8の整数が好ましい。)等のペルフルオロアルキレン基が挙げられる。」と記載されている(段落【0022】参照)。
さらに,R^(F)は「直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでもよい1価含フッ素有機基を表し」と,本件特許明細書(段落【0009】参照)に記載され,「1価の含フッ素有機基としては、含フッ素飽和有機基が好ましく」,「1価の含フッ素飽和有機基としては、含フッ素飽和炭化水素基、エーテル性酸素原子含有含フッ素飽和炭化水素基・・・が挙げられ」,「1価の含フッ素飽和炭化水素基としては、含フッ素アルキル基・・・が挙げられ」,「エーテル性酸素原子含有含フッ素飽和炭化水素基としては、炭素数2以上の含フッ素アルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基・・・が挙げられる」ことが記載されている(【0016】?【0019】参照)。
そうすると,訂正事項1-1,訂正事項1-2,訂正事項1-3はいずれも,願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載されていたものであるから,これらを含む訂正事項1は願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
上記アで述べたとおり,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮に当たるから,特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は,訂正前の請求項2が請求項1を引用して記載されていたところ,これを他の請求項の記載を引用しないものとするものであって,かつ,請求項1を引用していた発明特定事項を,上記訂正事項1-1,訂正事項1-2,訂正事項1-3に対応する訂正事項(以下「訂正事項2-1」という。)によって訂正するとともに,式(3)において,「総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。」とする訂正事項(以下「訂正事項2-2」という。)を含むものである。
そして,式(3)においても,上記(1)アで検討したとおり,「総炭素数」を「5?10」に限定し,「R^(1)」を「直鎖状または分岐状の2価有機基」から「アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基」に限定し,さらに,「R^(F)」を「直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基」から「直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基」に限定し,さらに,「X」も「金属イオン、アンモニウムイオン、またはアルキル置換アンモニウムイオン」から「アルキル置換アンモニウムイオン」を削除し,「m」は「1?3の整数」から「1」に限定するものであるから,式(3)の含フッ素化合物を限定するものといえる。
そうすると,訂正事項2は,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。

イ 新規事項の有無
上記(1)イで検討したとおり,訂正事項1-1,1-2,1-3に対応する訂正事項2-1については,願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内においてなされたものといえる。
また,訂正事項2-2についても,式(3)の「R^(F)」,「R^(1)」の定義は,式(1)と同じであり,「X」,「m」はすべて訂正前の請求項2に記載されていたから,同様に願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内においてなされたものといえる。
したがって,訂正事項2-1,2-2を含む訂正事項2は願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
上記アで述べたとおり,訂正事項2-1,訂正事項2-2とも特許請求の範囲を減縮するものであるから,訂正事項2は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は,訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたところ,請求項2のみを引用するように訂正するものであって,引用する請求項2は上記(2)で述べたとおり,訂正事項2で訂正がされたものであるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項3は,上記アのとおり,引用する請求項を請求項2のみにするものであり,訂正事項2で訂正された請求項2も上記(2)イで述べたとおり,願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえるから,訂正事項3も願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
上記アで述べたとおり,訂正事項3は特許請求の範囲を減縮するものであるから,特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は,訂正前の請求項4の「前記加熱温度」を「前記釜の内温」とする訂正事項(以下「訂正事項4-1」という。)を含むものであるが,訂正前の「前記加熱温度」が訂正前の請求項1の「釜の内温を150℃以下に保持して、加熱する」場合の加熱温度であることは明らかで,その加熱の対象を「釜の内温」であることを明確にしたものといえるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また,訂正事項4は,訂正前の「請求項1?3のいずれかに記載」を「請求項2又は3に記載」とする訂正事項(以下「訂正事項4-2」という。)を含むものであるが,引用する請求項を,請求項2,3のみにしたものであって,引用する請求項2,3も訂正事項2,3によって訂正されたものであるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。
そうすると,訂正事項4は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとともに,同法同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,同条同項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものにも該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項4-1については,訂正前の請求項1に「釜の内温を150℃以下に保持して、加熱する」ことが記載され,本件特許明細書に,「ここで加熱温度とは、蒸留塔の釜の内温を意味する。」と記載されている(段落【0043】参照)ことから,訂正前の「加熱温度」が「釜の内温」であることは明らかな事項であるといえる。
また,訂正事項4-2については,引用する請求項を請求項2,3のみにするものである。
よって,訂正事項4は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
訂正事項4-1は上記アで検討したとおり,明瞭でない記載の釈明であって,その本来の意味に明確にするものであり,訂正事項4-2は特許請求の範囲を減縮するものであるから,訂正事項4は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は,訂正前の請求項5の式(4)において,「総炭素数は5?10であり」と限定する訂正事項(以下「訂正事項5-1」という。)を含むものであって,明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5は,訂正前の「請求項1?4のいずれかに記載」を「請求項2?4のいずれか一項に記載」とする訂正事項(以下「訂正事項5-2」という。)を含むものであるが,引用する請求項を2?4に限定するとともに,それらのいずれかを択一的に引用することを明確にしたものといえる。
そして,引用する請求項2?4は,それぞれ,訂正事項2?4によって訂正されるものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,同時に,同条同項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするもの,同条同項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするにも該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項5-1については,本件特許明細書に,「本発明において、含フッ素化合物(1)は、総炭素数が、5?10であることが好ましく」と記載され(段落【0023】参照)ている。
また,訂正事項5-2については,訂正前の「請求項1?4のいずれか」とは,「請求項1?4のいずれか一項」であることは明らかであって,さらに請求項2?4に限定したものである。
よって,訂正事項5は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
訂正事項5-1,5-2は上記アで検討したとおり,特許請求の範囲の減縮または明瞭でない記載の釈明であって,その本来の意味に明確にするものであるから,訂正事項5は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は,請求項6の式(5)において,「R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」を,「総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」とする訂正事項(以下「訂正事項6-1」という。)を含むものである。
そして,式(5)においても,上記(1)アで検討したとおり,「総炭素数」を「5?10」に限定し,「R^(1)」を「直鎖状または分岐状の2価有機基」から「アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基」に限定し,さらに,「R^(F)」を「直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基」から「直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基」と訂正するものであるから,式(5)の含フッ素化合物を限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,訂正事項6は,訂正前の「請求項1?5のいずれかに記載」を「請求項2?5のいずれか一項に記載」とする訂正事項(以下「訂正事項6-2」という。)を含むものであるが,引用する請求項を2?5に限定するとともに,それらのいずれかを択一的に引用することを明確にしたものといえる。
そして,引用する請求項2?5は,それぞれ,訂正事項2?5によって訂正されるものであるから,訂正事項6は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,同時に,同条同項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするもの,同条同項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするにも該当する。

イ 新規事項の有無
上記(1)イで検討したとおり,訂正事項6-1については,式(5)の「R^(F)」,「R^(1)」の定義は,式(1)と同じであるから,同様に願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内においてなされたものといえる。
また,訂正事項6-2については,訂正前の「請求項1?5のいずれか」とは,「請求項1?5のいずれか一項」であることは明らかであって,さらに請求項2?5に限定したものである。
したがって,訂正事項6-1,6-2を含む訂正事項6は願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
上記アで述べたとおり,訂正事項6-1,6-2は特許請求の範囲を減縮または明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,その本来の意味に明確にするものであるから,訂正事項6は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7に係る請求項7は,訂正前に存在せず,形式的に増項訂正になるが,訂正前の請求項3は,請求項1又は2を引用するものであるところ,訂正前の請求項3に含まれていた請求項1のみを引用するように訂正するものであって,引用する請求項1は上記(1)で述べたとおり,訂正事項1で訂正がされたものであるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項7は,上記アのとおり,引用する請求項を請求項1のみにするものであり,訂正事項1で訂正された請求項1も上記(1)イで述べたとおり,願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえるから,訂正事項7も願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
上記アで述べたとおり,訂正事項7は特許請求の範囲を減縮するものであるから,特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(8)訂正事項8
ア 訂正の目的
訂正事項8に係る請求項8は,訂正前に存在せず,形式的に増項訂正になるが,訂正前の請求項4は,「請求項1?3のいずれかに記載」とされていたところ,訂正前の請求項4に含まれていた請求項1と請求項1を引用していた請求項3である請求項7のみを引用する「請求項1又は7に記載」(以下「訂正事項8-2」という。)としたものであって,引用する請求項1,7は上記(1),(7)で述べたとおり,訂正事項1,7で訂正がされたものであるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。
訂正事項8は,訂正前の請求項4の「前記加熱温度」を「前記釜の内温」とする訂正事項(以下「訂正事項8-1」という。)を含むものであるが,上記(4)アで述べたとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
そうすると,訂正事項8は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとともに,同法同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,同条同項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものにも該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項8-1については,訂正前の請求項1に「釜の内温を150℃以下に保持して、加熱する」ことが記載され,本件特許明細書に,「ここで加熱温度とは、蒸留塔の釜の内温を意味する。」と記載されている(段落【0043】参照)ことから,訂正前の「加熱温度」が「釜の内温」であることは明らかな事項であるといえる。
また,訂正事項8-2については,引用する請求項を請求項1,7のみにするものである。
よって,訂正事項8は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
訂正事項8-1は上記アで検討したとおり,明瞭でない記載の釈明であって,その本来の意味に明確にするものであり,訂正事項8-2は特許請求の範囲を減縮するものであるから,訂正事項8は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(9)訂正事項9
ア 訂正の目的
訂正事項9に係る請求項9は,訂正前に存在せず,形式的に増項訂正になるが,訂正前の請求項5は,「請求項1?4のいずれかに記載」とされていたところ,訂正前の請求項5に含まれていた請求項1と請求項1を引用していた請求項3,4である請求項7,8を択一的に引用することを明確にした「請求項1、7、8のいずれか一項に記載」(以下「訂正事項9-2」という。)とするものであって,引用する請求項1,7,8は上記(1),(7),(8)で述べたとおり,訂正事項1,7,8で訂正がされたものであるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮,同条同項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものにも該当する。
訂正事項9は,訂正前の請求項5の式(4)において,「総炭素数は5?10であり」と限定する訂正事項(以下「訂正事項9-1」という。)を含むものであって,明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そうすると,訂正事項9は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,同時に,同条同項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするもの,同条同項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするにも該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項9-1については,本件特許明細書に,「本発明において、含フッ素化合物(1)は、総炭素数が、5?10であることが好ましく」と記載され(段落【0023】参照)ている。
また,訂正事項9-2については,訂正前の「請求項1?4のいずれか」とは,「請求項1?4のいずれか一項」であることは明らかであって,引用する請求項を請求項1,7,8に限定したものである。
よって,訂正事項9は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
訂正事項9-1,9-2は上記アで検討したとおり,特許請求の範囲の減縮または明瞭でない記載の釈明であって,その本来の意味に明確にするものであるから,訂正事項9は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(10)訂正事項10
ア 訂正の目的
訂正事項10に係る請求項10は,訂正前に存在せず,形式的に増項訂正になるが,訂正前の請求項6は,「請求項1?5のいずれかに記載」とされていたところ,訂正前の請求項6に含まれていた請求項1と請求項1を引用していた請求項3?5である請求項7?9を択一的に引用することを明確にした「請求項1、7?9のいずれか一項に記載」(以下「訂正事項10-2」という。)とするものであって,引用する請求項1,7?9は上記(1),(7),(8),(9)で述べたとおり,訂正事項1,7,8,9で訂正がされたものであるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって,同時に,同条同項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮,同条同項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものにも該当する。
訂正事項10は,訂正前の請求項6の式(5)において,「R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」を,「総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」とする訂正事項(以下「訂正事項10-1」という。)を含むものであるが,上記(6)アで述べたとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そうすると,訂正事項10は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,同時に,同条同項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするもの,同条同項第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするにも該当する。

イ 新規事項の有無
上記(1)イで検討したとおり,訂正事項10-1については,式(5)の「R^(F)」,「R^(1)」の定義は,式(1)と同じであるから,同様に願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内においてなされたものといえる。
また,訂正事項10-2については,訂正前の「請求項1?5のいずれか」とは,「請求項1?5のいずれか一項」であることは明らかであって,引用する請求項を請求項1,7?9に限定したものである。
よって,訂正事項10は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載した範囲内でなされたものといえる。

ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について
上記アで述べたとおり,訂正事項10-1,10-2は特許請求の範囲を減縮または明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,その本来の意味に明確にするものであるから,訂正事項10は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものとはいえない。

(11)一群の請求項
訂正前の請求項1?6は,請求項1を請求項2?5が直接又は間接的に引用するものであるから,特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であり,それを訂正事項1?10によって訂正した訂正後の請求項1?10に係る一群の訂正は,特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおり,訂正事項1?10は,いずれも,特許法第120条の5第2項,第4項の規定に適合するととともに,同法第9項において準用する同法第126条第5項,6項の規定に適合する。
よって,訂正後の請求項1?10に係る本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正は認められるから,訂正後の本件特許の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」という。)は,平成28年11月2日付けの訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
【請求項2】
含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表さる、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、有機溶媒で抽出後に蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、式(3)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。
【請求項3】
前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項2に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項4】
前記釜の内温が、130℃以下である請求項2又は3に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項5】
前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項2?4のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。
【請求項6】
請求項2?5のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。
【請求項7】
前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項1に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項8】
前記釜の内温が、130℃以下である請求項1又は7に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項9】
前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項1、7、8のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。
【請求項10】
請求項1、7?9のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。

第4 取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
特許異議申立人が特許異議申立書で申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

[理由1]本件発明1?5は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
よって,本件発明1?5に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2007-283224号公報
甲第2号証:特開2007-99624号公報

[理由2]本件発明1?6は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1?4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1?6に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2007-283224号公報
甲第2号証:特開2007-99624号公報
甲第3号証:特開平6-128189号公報
甲第4号証:国際公開2007/46345号

[理由3]本件発明1?6は,以下(i)?(iv)の点で,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?6に係る特許は,同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)本件の請求項1?6に記載される「式(1)」には多種多様な構造が含まれるが,発明の詳細な説明で,実際に150℃以下で分解されず,150℃より高い温度で分解することが確認されているのはCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHである場合のみであって,式(1)で特定される全ての場合にわたって本件発明の課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。

(ii)本件特許明細書の段落【0008】には,「含フッ素ポリマーの製造工程から混入する夾雑物や不純物が,含フッ素カルボン酸の精製を阻害したり、分解を促進」したりするとされているところ,発明の詳細な説明には,実施例も含めて具体的にどのような夾雑物や不純物がどのような量で存在するのか記載されていないので,本件の請求項1?6に記載される事項で特定される全ての場合について本件発明の課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。

(iii)本件の請求項1?6には,廃液を蒸留する前に前処理を行うことが記載されていないが,発明の詳細な説明には,実施例として前処理を行った場合しか記載されておらず,前処理を行わない場合でも本件発明の課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。

(iv)本件の請求項1?6には,蒸留圧力が規定されていないが,化合物が蒸発する温度,分離性能は蒸留圧力に影響され,実施例の蒸留圧力は5torrの場合のみであるから,本件の請求項1?5に記載される事項で特定される全ての場合について本件発明の課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。

[理由4]本件の発明の詳細な説明の記載は,上記[理由3]の(i)?(iv)で指摘したように,どのような場合に本件発明の効果を得られるか把握することができないから,本件発明を実施するには当業者が過度の試行錯誤を強いられる。
したがって,本件の発明の詳細な説明は,当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?6に係る特許は,同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

2 平成27年12月25日付け取消理由通知及び平成28年5月25日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由
当審が平成27年12月25日付け取消理由通知及び平成28年5月25日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は,以下の理由2,3に示すとおりである。

[理由2]本件発明1?6は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1?4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1?6に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2007-283224号公報
甲第2号証:特開2007-99624号公報
甲第3号証:特開平6-128189号公報
甲第4号証:国際公開2007/46345号

[理由3]本件発明1?6は,以下ア,イの点で,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?6に係る特許は,同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

ア 含フッ素化合物の「有機基」について
本件の請求項1,2に記載される「式(1)」及び「式(3)」において,「R^(F)」は「直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価フッ素有機基」と,「R^(1)」は「直鎖状または分岐状の2価有機基」と規定されているが,そのすべての範囲について,本件発明1?4,6の課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。
よって,本件特許の請求項1,2及び請求項1,2を引用する請求項3,4,6に記載された特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものということができない。

イ 廃液等について
本件の請求項1は,「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、または、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体(以下「廃液等」という。)であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体から、蒸留して前記含フッ素化合物を回収する」ことを発明特定事項としているが,発明の詳細な説明には,「廃液等」であって,「式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体」が記載されているとはいえない。
よって,本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項3?6に記載された特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものということができない。

3 当審が平成28年9月1日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由
当審が平成28年9月1日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は,以下の理由2Aに示すとおりである。

[理由2A]本件発明1,3?6は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1?5号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1,3?6に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2007-283224号公報
甲第2号証:特開2007-99624号公報
甲第3号証:特開平6-128189号公報
甲第4号証:国際公開2007/46345号
甲第5号証:米国特許公開2007/15864号

第5 平成28年9月1日付けの取消理由通知(決定の予告)についての当審の判断
当審は,本件発明1,7?10に係る特許は,以下に示すとおり,理由2Aによって取り消すべきものと判断する。
なお,本件発明7?10は,上記「第2」で検討したとおり,訂正前の請求項3?6において,請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3?6に対応するものであるから,特許異議申立の対象となっていた請求項であり,かつ,平成28年9月1日付けの取消理由通知(決定の予告)の対象となっていた請求項でもある。

1 甲第1?6号証,参考文献の記載について
ア 甲第1号証
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】
一般式(1):R^(f)O(CF_(2)CF_(2)O)_(m)CF_(2)COOA
(式中、R^(f)は炭素原子数2?4のパーフルオロアルキル基であり、Aは水素原子、アルカリ金属またはNH_(4)であり、mは1?3の整数である。)で表される含フッ素乳化剤の濃度が1質量ppm以上1質量%以下である水性液(A)を、圧力100kPa以下、かつ、該水性液(A)の温度100℃以下で減圧濃縮して、該含フッ素乳化剤の濃度が高濃度化された水性液(B)とし、該水性液(B)から該含フッ素乳化剤を回収することを特徴とする含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項2】
前記減圧濃縮が、1段目がヒートポンプを備えた加熱管面蒸発型濃縮装置を用いて行われ、かつ、2段目以降がヒートポンプを備えた加熱管面蒸発型濃縮装置またはフラッシュ型濃縮装置を用いて行われる請求項1に記載の含フッ素乳化剤の回収方法。」
(1b)「【請求項6】
前記水性液(B)および/または(D)からの含フッ素乳化剤の回収が、非水溶性含フッ素有機溶媒を用いる抽出法によって行われる請求項1?5のいずれかに記載の含フッ素乳化剤の回収方法。」
(1c)「【0017】
本発明における水性液(A)としては、該含フッ素乳化剤を含む水性媒体中で少なくとも1種の含フッ素モノマーを乳化重合または懸濁重合して得られる含フッ素ポリマーの製造工程における、該含フッ素ポリマーを分離した後の排水(A1)、および該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを水性液で洗浄して得られる該含フッ素乳化剤を含む水性液(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の水性液であることが好ましい。」
(1d)「【0032】
本発明において、水性液(B)中の高濃度化された該含フッ素乳化剤は、該水性液(B)をpH4以下の酸性にすることによって、遊離酸の形で析出させることができる。析出した遊離酸はろ過によって回収することができる。また、該含フッ素乳化剤の精製のために該水性液(B)を酸性にし、析出した遊離酸などの沈殿を生成させた状態でろ過せずに、非水溶性有機溶剤で容易に抽出することもできる。
【0033】
該非水溶性有機溶剤としては、クロロホルム、ジクロロエチレン、塩化メチレン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、R-113、R-225ca、R-225cb、R-123、R-141b、C_(6)F_(13)H、C_(8)F_(18)、CF_(3)CF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2)CH_(3)、CF_(3)CF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2)CH_(2)CH_(3)、CF_(3)CF_(2)CH_(2)CF_(2)H、CF_(3)CF_(2)CF_(2)CF_(2)OCH_(3)、CF_(3)CF_(2)CF_(2)CF_(2)OCH_(2)CH_(3)、CF_(3)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)H、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)およびパーフルオロ(2-プロピルテトラヒドロピラン)からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒が好ましい。
【0034】
該溶媒に抽出された遊離酸は、該溶媒と共に蒸留することによって、フッ素を含有しない不純物を除去して精製することができる。」
(1e)「【0035】
・・・
精製された該含フッ素乳化剤は、含フッ素ポリマー重合用の乳化剤として再使用できる。」
(1f)「【0046】
本発明において、含フッ素ポリマーとしては特に限定されないが、好ましくはTFE重合体(以下、PTFEという。)、TFE/P共重合体、TFE/P/VdF共重合体、TFE/HFP共重合体、TFE/PMVE共重合体、TFE/PPVE共重合体、E/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体およびポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。より好ましくは、PTFE、TFE/P共重合体、TFE/P/VdF共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体またはTFE/PMVE共重合体である。」
(1g)「【0049】
[実施例1]
C_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COONH_(4)(以下、EEAという。)を乳化剤としたPTFEの乳化重合後の凝集排水(SS分2300ppm含有。以下、凝集排水1と記す。)について、該含フッ素乳化剤の濃度を測定したところ608ppmであった。凝集排水1の1000L(リットル)に、撹拌しながら、65.0gの塩化アルミニウム六水和物を添加し、未凝集PTFE粒子を凝集させ、10分間撹拌した。続いて2N水酸化ナトリウムを用いて、該凝集排水1のpHを10.0に調整し、30分間撹拌した。撹拌を停止し、15時間静置後の、該排水の上澄みは無色透明であり、SS分は20ppmであった。また、該排水の上澄み中のEEA濃度は596ppmであった。
【0050】
このようにPTFE粒子を除去して得た該含フッ素乳化剤含有排水(以下、単に該排水と記す。)を、ヒートポンプを備えた加熱管面蒸発型濃縮装置(ササクラ社製、商品名:EVCC濃縮装置)を用いて減圧濃縮した。該排水の供給量は50L/時とし、EVCC濃縮装置内部を20kPaに保った。また、EVCC濃縮装置内部の循環液の温度を55±2℃に保った。12時間かけて該排水の500LをEVCC濃縮装置に導入し、37.5倍濃縮水の20Lを得た。蒸発した水は凝縮させて全量採取し、分析したところ、該含フッ素乳化剤濃度は1.3ppmであった。
【0051】
このEVCC濃縮装置によって濃縮した37.5倍濃縮水を、エジェクターを備えたフラッシュ型濃縮装置(ササクラ社製、商品名:FTC濃縮装置)を用いてさらに濃縮した。濃縮操作中、FTC濃縮装置内部の圧力を20kPaに保った。また、温度は45±2℃に保った。20時間かけて20Lの37.5倍濃縮水を500倍濃縮水の1.0Lまで濃縮した。このFTC濃縮装置から排出された凝縮水の全てを回収し、該含フッ素乳化剤濃度を測定したところ、1ppmであった。また、この500倍濃縮水中の該含フッ素乳化剤濃度は29.5質量%であった。
【0052】
この500倍濃縮水のpHは10.5であった。この500倍濃縮水に濃硫酸を加えて、pHを1に調整した。硫酸添加中はアンカー翼で撹拌した。pHが4を下回った時点から、該濃縮水中に無色透明の浮遊物が多く発生し始めた。pHを1に調整後30分間撹拌した。このpH1に調整した濃縮水にR-225cbの100gを添加した。濃縮水中に発生した沈殿はR-225cb相に溶解した。R-225cb相を分液し、R-225cbの全量を40℃で24時間加熱し、白色固体の290.1gを得た。13C-NMRでの分析の結果、この白色固体はC_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOHであった。このEVCC濃縮装置とFTC濃縮装置による濃縮操作でのEEAの回収率は99.0%であった。」

イ 甲第2号証
甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】
含フッ素カルボン酸塩乳化剤を含有する、含フッ素共重合体の水性重合乳化液を低級アルコール中に加えて含フッ素共重合体を凝析させ、それを分離した後、液相から水および低級アルコールを留去し、初期容積の30%以下迄濃縮しあるいは完全に蒸発乾固させた後、無機強酸を加え、含フッ素カルボン酸塩に対応する含フッ素カルボン酸として回収することを特徴とする含フッ素カルボン酸の回収方法。
【請求項2】
一般式
RfO〔CF(CF_(3))CF_(2)O〕_(n)CF(CF_(3))COOM
(ここで、Rfはパーフルオロ低級アルキル基であり、Mは1価金属またはアンモニウム基であり、nは0、1または2である)で表わされる含フッ素カルボン酸塩を、一般式
RfO〔CF(CF_(3))CF_(2)O〕_(n)CF(CF_(3))COOH
(ここで、Rf、Mおよびnは上記定義と同じである)で表わされる含フッ素カルボン酸として回収する請求項1記載の含フッ素カルボン酸の回収方法。」
(2b)「【0002】
含フッ素共重合体エラストマーを水性乳化重合法により製造する際には、共重合反応の乳化剤として含フッ素乳化剤が使用される。特に、連鎖移動反応を極力避ける必要のある重合系では、しばしばパーフルオロカルボン酸塩が用いられ、例えばパーフルオロオクタン酸アンモニウムがその代表的な例である。
【0003】
この化合物は、通常の炭化水素系カルボン酸塩と比べて難分解性のため、環境中に放出された場合長期間そこにとどまることとなり、生態系に影響を及ぼす可能性がある。また、資源の有効活用の面からも、化学的に安定な化合物は回収して、再利用することが望まれる。さらに、水資源の有限性の点からも、製造活動に伴って排出される排水の再利用が必要とされる。」
(2c)「【0007】
本発明の目的は、含フッ素共重合体水性重合乳化液から、共重合反応の乳化剤として用いられた含フッ素カルボン酸塩を非常に効率良く含フッ素カルボン酸として回収する方法を提供することにある。」
(2d)「【0011】
このような含フッ素乳化剤が回収される水性重合乳化液を形成する含フッ素共重合体としては、エラストマー状のものあるいは樹脂状のもののいずれであってもよいが、好ましくはエラストマー状の
VdF/TFE/FMVE共重合体
VdF/TFE/FMPVE共重合体
VdF/TFE/FMVE/FMPVE共重合体
VdF/TFE/FPEVE共重合体
VdF/TFE/FMVE/FPEVE共重合体
TFE/FMVE共重合体
TFE/FMPVE共重合体
TFE/FMVE/FMPVE共重合体
TFE/FPEVE共重合体
TFE/FMVE/FPEVE共重合体
VdF:フッ化ビニリデン
TFE:テトラフルオロエチレン
FMVE:パーフルオロ(メチルビニルエーテル)
FMPVE:CF_(2)=CFO(CF_(2))_(3)OCF_(3)
FPEVE:CF_(2)=CFO(CF_(2)CF_(2)O)_(n)(CF_(2)O)_(m)Rf
(ここで、Rfはパーフルオロ低級アルキル基であり、
nは1?4、mは1?3の整数である)
の如き含フッ素共重合体が挙げられるが、好ましくは次のような共重合組成を有する含フッ素共重合体が挙げられる。
フッ化ビニリデン〔VdF〕 50?85%
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 0?25%
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕 7?20%
CF_(2)=CFO〔CF_(2)CF(CF_(3))O〕_(n)CF_(3)〔FPOVE;n=2?6〕 3?15%」
(2e)「【0018】
含フッ素共重合体を分離した液相は、常圧または減圧下で水および低級アルコールを留去し、初期容積の約30%以下迄濃縮し、好ましくは完全に蒸発乾固させる。含フッ素カルボン酸塩の熱分解を避けるためには減圧下での留去が好ましく、また蒸発乾固させて残留モノマー等の揮発性物質を除去しておいた方が、最後の蒸留工程が非常に容易なものとなる。濃縮前の液相のpHが7以下の場合には、Na_(2)CO_(3)、K_(2)CO_(3)、NaOH、KOH等のアルカリ性物質を加えて、pHを7以上とした上で濃縮することが好ましい。
【0019】
濃縮液には、そこに無機強度、好ましくは硫酸が添加される。硫酸としては、例えば濃縮率が約20?10%の場合には濃硫酸が、また蒸発乾固させた場合には70?80%硫酸が用いられる。無機強酸としては、他に濃塩酸、濃硝酸等が用いられる。これを添加した後、固形物をロ別し、ロ液を静置すると2層に分れるので、その下層を抜取り、それを蒸留することにより、高純度の含フッ素カルボン酸を高回収率で回収することができる。」
(2f)「【0021】
実施例1
VdF/FMVE/FPOVE(n=3)共重合体(共重合モル比 82/12/6.ηsp/c (MEK 1重量%溶液)0.35dl/g) 39.5重量%、CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4) 8.0重量%および水、重合安定剤等 52.5重量%よりなる水性重合乳化液A(エラストマー状共重合体を含む) 2.0kgを、メタノール4.0kg中に攪拌しながら30分間かけて加えた。始め含フッ素共重合体粒子が凝集し、粒子が数cm程度の大きさとなるが、攪拌をさらに2時間継続すると、含フッ素共重合体はざらめ状となる。この状態でロ別した後、さらに4.0kgのメタノールを加えて5時間攪拌洗浄した。含フッ素共重合体をロ別し、ロ液を最初のロ液を合せ、そこにKOH 17gを加えてpHを7以上とした。
【0022】
減圧下で水およびメタノールを留去し、初期容積の20%迄濃縮した後濃硫酸90gを加え、1日間放置した。固形物をロ別し、ロ液を静置すると2層に分れるのでその下層を分離し、減圧蒸留して、目的のCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOH 116g(回収率75%)を得た。
【0023】
実施例2
実施例1において、水およびメタノールを完全に留去し、蒸発乾固させると共に75重量%硫酸を用いると、目的の含フッ素カルボン酸が141g(回収率91%)得られた。」

ウ 甲第3号証
甲第3号証には,以下の事項が記載されている。
(3a)「【0001】
【発明の産業上の利用分野】本発明は、式(I)
R_(f )-COOH
〔式中、R_(f )はC_(m) F_(2m+1)-O-(C_(3) F_(6 )O)_(n) -CF(CF_(3 ))-であり、但し、mは1?8でありそしてnは0?8である。〕で表されるペルフルオロエーテルカルボン酸を式(II)
R_(f )-COF
〔式中、R_(f)は上記と同じ。〕で表されるペルフルオロエーテルアシルフルオライドから製造する方法に関する。」
(3b)「【0034】実施例7
ヘキサフルオロプロペン-オキサイドをオリゴマー化しそして次に本発明に従って加水分解することによって得られそしてトリクロルトリフルオロエタンおよび440ppmの弗化物含有量および3.5% の水含有量を有する式C_(3 )F_(7 )-O-(C_(3) F_(6) O)_(n) -CF(CF_(3 ))-COOH(組成:8% のn=0のカルボン酸、28% のn=1のカルボン酸、8.7% のn=2のカルボン酸、54%のトリクロロトリフルオロエタン)のペルフルオロエーテルカルボン酸で構成されている360gの混合物(有機相)を、弗化物抽出の為の水120gにて10分間、攪拌式容器中で混合する。これを薄膜式蒸発器(ガラス製、スチール製羽根;加熱温度80℃、圧力1008mbar)によって179gの蒸留液(トリクロルトリフルオロエタン)と162gのボトム生成物とに分離する。ボトム生成物は130℃、10mbarのもとで同じ薄膜式蒸発器を通して2.2gの固体残留物、2.9gの残留トリクロルトリフルオロエタン(冷却トラップ中)および154gの蒸留液に分離される。この蒸留液は充填式カラムにおいて分別減圧蒸留によって25gのC_(3 )F_(7 )-O-CF(CF_(3 ))-COOH(沸点:65℃/40mbar、純度99.1% 、弗化物含有量14ppm)、94g のC_(3)F_(7) -O-(C_(3 )F_(6) O)-CF(CF_(3 ))-COOH(沸点:87℃/20mbar、純度99.6% 、弗化物含有量4ppm)および27gのC_(3) F_(7 )-O-(C_(3) F_(6 )O)_(2) -CF(CF_(3) )-COOH(沸点:129℃/20mbar、純度99.4% 、弗化物含有量1.5ppm)。」

エ 甲第4号証
甲第4号証には,以下の事項が記載されている。
(4a)「[0016] 一般式(1)の含フッ素乳化剤のうち特に好ましい例は、CF_(3)CF_(2)CF_(2)CF_(2)OCF_(2)COONH_(4)、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COONH_(4)(以下、EEAという。)等であり、EEAがより好ましい。
一般式(1)の含フッ素乳化剤は、相当する非含フッ素乳化剤または部分フッ素化合物エステルを用い、液相中でフッ素と反応させる液相フッ素化法、フッ化コバルトを用いるフッ素化法、または電気化学的フッ素化法等の公知のフッ素化法によりフッ素化し、得られたフッ素化エステル結合を加水分解し、精製後にアンモニアで中和して得ることができる。」

オ 甲第5号証
甲第5号証には日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(5a)「化合物16の調製:C_(3)F_(7)-O-C_(2)HF_(3)-O-CH_(2)-COONH_(4)
テトラヒドロフラン320mL、ヒドロキシ酢酸メチルエステル40g、及びPPVE118gの混合物を0℃に冷却し、KOH粉末27gを少しずつ添加する-KOHの添加の間、反応混合物は60℃まで温度上昇した。KOHの添加後、反応混合物全体を25℃で6時間攪拌する。沈殿した塩を濾過により分離し、水300mLに溶解した後、(濃)H_(2)SO_(4)57gで処理する。得られた混合物は、二層に分離する;下相は、C_(3)F_(7)-O-C_(2)HF_(3)-O-CH_(2)-COOH、86g(56%)である。蒸留した酸(沸点125℃、2kPa(20ミリバール))を、25%水性アンモニア溶液で中和し、30%水溶液を得る。」(第13頁左欄[0190]-[0191]参照)

カ 甲第6号証
甲第6号証:化学実験操作法(改訂第33版), 緒方章ら, 第318?319頁, 株式会社南江堂, 昭和47年9月1日
本件優先日当時の技術常識を示すための甲第6号証には,以下の事項が記載されている。
(6a)「有機中性の物質,有機酸,有機塩基など,異なった性質のものの2種あるいはそれ以上の混合物(酸と塩基は無論塩類となり,過量にある方だけが遊離の状態で存在する)であって,溶剤に対するそれらの溶解度が,あまり違わない場合は,つぎのようにする.まず上記3物質の混合物が完全に溶ける適当な溶剤を見出し^(*1),それに溶解させる.この仕方を,わかりよく説明するために,抽出の手順を次の表で示すから,それを見ながら以下の記述を読むとよい.
溶剤がエーテルであると仮定すれば,このエーテル溶液を分液漏斗に入れ,それにまず炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,あるいは,水酸化ナトリウムなどの水溶液を加えて振ると^(*2),有機酸は塩類となって水層に移る(A).
これを分液して得たエーテル層(B)の方を一応水で洗ってから,今度は塩酸その他の酸の水溶液を加えて振る^(*3).エーテル中の有機塩基は,酸と塩類を形成して水層(C)に移る.
これを分液すると,エーテル中には中性物質だけが残る(D).
こうして3物質を分離させてから,最初のアルカリ性水層(A)には,塩酸などを加えて有機酸を遊離させ(E),これを再びエーテルと振って^(*4)エーテル中に有機酸を移行させ(F),水洗し乾燥後エーテルを留去すると,有機酸が得られる.」(第318頁下から第2行?第319頁第14行参照)

キ 参考文献1
参考文献1:化学大辞典 縮刷版, 化学大辞典編集委員会, 第4巻, 第821?822頁, 共立出版株式会社, 1997年9月20日, 「蒸留」の項
本件優先日当時の技術常識を示す以下の参考文献1には,以下の事項が記載されている。
(7a)「この欠点を補うために考案されたのが蒸留塔であって,蒸留フラスコ(工業的には蒸留カン)の上に細長い塔を設け,その中に蒸気および液が適当に接触しながら流れることができるようなタナ段を適当な間隔で設置したり(タナ段塔^(*)),または塔内に充テン物を詰めたり(充テン塔^(*))し,塔頂から出た蒸気を凝縮させたのちに一部を塔頂にもどし(還流^(*)という)て塔内を流れ落ちるようにしたものである.この際還流されない凝縮液は留出液として取り出される.蒸留塔を用いると,塔内で再蒸留が繰り返されると同時に蒸気は流下する液と接触して凝縮するが,ほぼ等モルの液を蒸発させるので蒸気の量が減少することなく,原理的には望む濃度の純粋成分を一時に多量に得ることができるのである.」(第822頁左欄第10?26行)
(7b)「蒸留の方式には連続蒸留と回分蒸留とがあって,前者(図参照)では原料を連続的に蒸留カンまたは蒸留塔の中央付近に供給し,頂部およびカン底から連続的に軽い成分と重い成分とを抜き出し,また回分蒸留では蒸留カンに初めに一度に原料を仕込んで蒸留を行ない,ある程度まで軽い成分を留出させてしまえば蒸留を停止するのである.この場合には蒸留が進むに従い留出する液の沸点は上昇していくのが普通であって,適当な温度間隔をもって留出液をいくつかに分けて採取することもある.このような蒸留法を分留といい,そのときのそれぞれの採取液をカット^(*)という.」(第822頁左欄第36?52行)
(7c)「また最近では高分子物質の蒸留も多く,その際には常圧で蒸留を行なうと温度が高いために変質分解のおそれが多いので,真空蒸留(数mmHgから10^(-2)mmHgぐらいまで)や分子蒸留^(*)(10^(-3)mmHg以下)も盛んに利用されている.」(第822頁右欄第1?6行)
(7d)「

」(第822頁左欄)

ク 参考文献2
参考文献2:化学実験操作法(改訂第33版), 緒方章ら, 第420頁, 株式会社南江堂, 昭和47年9月1日
本件優先日当時の技術常識を示す以下の参考文献2には,以下の事項が記載されている。
(8a)「減圧(真空)蒸留
ある物質は,常圧で蒸留しようとすると,分解を始めるものがあり,またそれに含まれる不純物が熱のために分解し,これが触媒になって物質の分解を促す場合もある.このような物質を蒸留によって精製するには,その沸点を物質の安全程度にまで,引下げなければならない.また物質自体は,熱に対して割合に安全なものでも,沸点が高いと,無色であるはずの留液が着色することがある.留液が無色にならないときには,沸点を下げさせて蒸留する.このような蒸留の仕方を減圧蒸留または真空蒸留(Vacuum distillation, Vakuumdestillation)という.
沸点を下げるには液面に加わる圧力,すなわち蒸留器内を低圧にすればよい.
減圧蒸留は原液が少量の場合の分留に適する.混合物をその各成分に分離するときに強く減圧にすると,分離は一般に常圧の場合よりも一層完全で遠くなる(Lauk)^(1)).化学的性質が非常に違っており,またその解離度も著しく違っている二つの化合物では,たとえ,その沸点が常圧付近では接近していても,減圧にすれば,大きく違ってくることがあるから,減圧蒸留は,分留が目的の場合には好都合である.」(第420頁第1?14行)

2 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には,その実施例1,2の記載(摘記2f参照)からみて,
「VdF/FMVE/FPOVE(n=3)共重合体(共重合体モル比 82/12/6)、CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)、水、重合安定剤等よりなる水性重合乳化液をメタノール中に撹拌しながら加えて、含フッ素共重合体粒子を凝集させ、含フッ素共重合体をロ別し、ロ液にKOHを加えてpH7.0以上とし、減圧下で水とメタノールを留去し、初期容積の20%まで濃縮して濃硫酸を加えるか、又は蒸発乾固した後、75重量%濃硫酸を加え、放置し、固形物をロ別し、ロ液を静置して2層に分かれたその下層を分離して減圧蒸留し、CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを回収する方法。」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
甲2発明の「VdF/FMVE/FPOVE(n=3)共重合体(共重合体モル比 82/12/6)、CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)、水、重合安定剤等よりなる水性重合乳化液をメタノール中に撹拌しながら加えて、含フッ素共重合体粒子を凝集させ、含フッ素共重合体をロ別し、ロ液にKOHを加えてpH7.0以上とし、減圧下で水とメタノールを留去し、初期容積の20%まで濃縮した後濃硫酸を加えるか、蒸発乾固した後75%硫酸を加え、放置し、固形物をロ別し、ロ液を静置して2層に分かれたその下層」には,「硫酸」を加えて,総炭素数が9である「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOH」とされたものが含まれているので,
本件発明1の「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲2発明とは,
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、蒸留して、前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i)本件発明1では,含フッ素化合物を含む液体を,「蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収する」のに対して,
甲2発明では,「減圧蒸留でCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを回収する」点

イ 相違点の検討
甲第2号証には減圧蒸留に当たってどのような装置を使用するかは記載されていないが,蒸留においては,蒸留カンを有する蒸留塔を使用することは本件優先日当時の技術常識(摘記7a,7d参照)であったといえる。また,本件発明1における「蒸留塔の釜」とは,本件特許明細書の記載(【0054】参照)などからみて,蒸留塔の底部にある加熱される蒸留カンの部分を意味するものと解される。そして,原料の供給場所については,蒸留方式や回収成分などに応じて当業者が適宜設定し得るものであるから,原料を蒸留塔の釜に供給することは,必要に応じて当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
次に,甲2発明においては,メタノール及び水に含フッ素カルボン酸塩が含まれる濃縮液を濃硫酸で処理するか,含フッ素カルボン酸塩を75%硫酸(水溶液)で処理することで,含フッ素カルボン酸が生じ,含フッ素カルボン酸を含む相が生じるものと解される。
そして,この含フッ素カルボン酸を含む相から減圧蒸留をして,含フッ素カルボン酸を回収する際して,留出液として回収するか残留液として回収するかは分離対象の性質等を考慮して当業者が当然に決定する設計事項であるといえる。
ところで,甲第5号証には,甲2発明のような含フッ素カルボン酸塩を濃硫酸を使用してカルボン酸に変換させて含フッ素カルボン酸を含む相から蒸留で回収するにあたって,蒸留した酸の温度(125℃)及び圧力(20mbar)が記載されている(摘記5a参照)ので,カルボン酸は留出液として回収しているものと解され,甲2発明のような含フッ素カルボン酸塩を酸処理して得た含フッ素カルボン酸を含む液体から含フッ素カルボン酸を回収するにあたっては留出液として回収する態様が一般的であることが理解できる。
さらに,甲2発明は,高純度の含フッ素カルボン酸を高回収率で効率よく得ることを目的とする(摘記2c,2f参照)ものであるから,甲2発明の含フッ素カルボン酸を含む相に含まれる不純物が残留液にもそのまま存在する可能性を考慮し,留出液として含フッ素カルボン酸を回収してその純度を高めるほうが当業者の技術常識に沿うものといえる。
そうすると,甲2発明における減圧蒸留においては,含フッ素カルボン酸を留出液,残留液のいずれとしても回収する態様が考えられるところ,甲第5号証に記載されるように含フッ素カルボン酸を減圧蒸留の留出液として回収する態様を当業者が通常選択するものといえるから,甲2発明における減圧蒸留において,CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを留出液として回収することは当業者が容易になし得たことと認められる。
また,甲2発明においては,常圧蒸留ではなく,減圧蒸留によって含フッ素カルボン酸の回収しているが,減圧蒸留は,蒸留対象に含まれる不純物が熱のために分解し,これが触媒になって物質の分解を促す場合もあるので,このような物質を蒸留によって精製するには,その沸点を物質の安全程度にまで,引下げなければならないために行われることは本件優先日当時における技術常識であった(摘記8a参照)ことを考慮すれば,少なくとも,甲2発明の減圧蒸留は,含フッ素カルボン酸を含む相が高温になり,熱分解することを避ける目的を有することは当業者であれば容易に理解し得たといえる。
一方,CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHの常圧における沸点は不明であるが,総炭素数9のこれと類似の構造を有する含フッ素カルボン酸であるCF_(3)OCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)COOHの沸点が193℃である(乙第3号証参照)ことからすれば,ほぼ同様の沸点を有していると推定できるところ,上記技術常識を踏まえれば,甲2発明における減圧蒸留するに際しては,このような高い温度での蒸留を避けて,CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを留出液として回収可能な蒸留温度と蒸留圧力を採用することは当業者にとって当然の選択であるといえる。
そして,甲第3号証には,複数のペルフルオロカルボン酸が含まれる液体を分別蒸留することが記載されており,そのなかで,甲2発明のCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHと総炭素数が一致するC_(3)F_(7)-O-(C_(3)F_(6)O)-O-CF(CF_(3))-COOHが沸点87℃/20mbarで得られることが記載されている(摘記3b参照)ことからすれば,甲2発明におけるCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを留出液として回収する減圧蒸留の圧力や温度として,このような条件を採用し得ることは当業者であれば十分理解できるものといえる。
してみると,蒸留塔における留出温度と釜の内温とが一致しないとしても,上述の蒸留温度,蒸留圧力からみて,甲2発明において,蒸留塔を使用し,その釜の内温を,含フッ素カルボン酸が熱分解しないように,150℃未満の温度範囲を設定して減圧蒸留をすることに格別の困難性が認められない。
したがって,甲2発明の減圧蒸留において,CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを留出液として回収するにあたって,蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持することも当業者が容易になし得たことと認められる。

ウ 効果について
本件発明1の効果は,本件特許明細書の記載(【0010】参照)からみて,含フッ素ポリマーの製造工程から混入した夾雑物や不純物による含フッ素カルボン酸の分解を抑制しつつ,含フッ素化合物を効率よく生成することができることにあるものと認める。
本件優先日当時の技術常識及び甲第2号証の記載から,甲2発明において,その原因は特定できないとしても,回収する含フッ素化合物の熱分解を避けるために適する蒸留塔の釜の内温(150℃以下)を見出すことが当業者にとって容易になし得たことは上記イで述べたとおりであり,そのような温度とすることにより本件発明1の効果は必然的に得られるものと認められる。
そうすると,本件発明1の効果は格別顕著なものと認めることができない。

エ まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲2発明及び甲第2,3,5号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(2)本件発明7について
本件発明7は,本件発明1において,「含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である」との限定がなされたものである。

甲2発明においては,「VdF/FMVE/FPOVE(n=3)共重合体(共重合体モル比 82/12/6)」を含フッ素ポリマーとしているが,甲第2号証には,含フッ素ポリマーとして,
「フッ化ビニリデン[VdF] 50?85%
テトラフルオロエチレン[TFE] 0?25%
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[FMVE] 7?20%
CF_(2)=CFO[CF_(2)(CF_(3))O]_(n)CF_(3)[FPOVE;n=2?6]
3?15%」の共重合組成物から選択し得ることが記載されている(摘記2d参照)し,この際にも同じ「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)」を乳化剤として使用するから,「VdF/FMVE/FPOVE(n=3)共重合体(共重合体モル比 82/12/6)」に代えて,「テトラフルオロエチレン(TFE)」を含む共重合体を用いることは当業者が容易になし得たことと認められる。

(3)本件発明8について
本件発明8は,本件発明1において,「加熱温度が130℃以下である」との限定がなされたものである。
上記(3-1)イで述べたように,甲2発明においては,130℃以下で含フッ素カルボン酸を留出液として回収することができるから,加熱温度を130℃以下とすることも当業者が容易になし得たことと認められる。

(4)本件発明9について
本件発明9は,本件発明1において,「式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。」との発明特定事項で限定されたものである。
甲2発明の「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOH」は本件発明5の式(4)には含まれないものであるが,甲第2号証には,「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOH」のみならず,「含フッ素塩乳化剤」からの含フッ素カルボン酸の回収を行うもので(摘記2a参照),その他の含フッ素カルボン酸にも適用可能であることが理解できる。
そうすると,例えば,甲第1号証に記載される「C_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOH(EEA)」など(摘記1g参照)にも同様に適用し得ることは当業者であれば容易に想到し得ることと認められる。

(5)本件発明10について
本件発明10の「請求項1、7?9のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法」とは,少なくとも,本件発明1の「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」との発明特定事項を含むものである。

ア 対比
本件発明10は,本件発明1の上記発明特定事項を含むものであって,上記(3-1)アで述べた本件発明1と甲2発明との対応関係を考慮すると,
本件発明10と甲2発明とは,
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、または、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体から、蒸留して前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法によって含フッ素化合物を得る方法
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i’)本件発明10では,含フッ素化合物を含む液体を,「蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として含フッ素化合物を回収する」のに対して,
甲2発明では,「減圧蒸留でCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを回収する」点
(2-ii)本件発明10では,「含フッ素化合物とY^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表されるフッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とするフッ素モノマーの乳化重合方法
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。」であるのに対して,甲2発明はこのような乳化重合の工程を有さない点

イ 相違点の検討
相違点(2-i’)については,上記(3-1)イで検討した相違点(2-i)と同じであるから,同様に理由により当業者が容易になし得たことと認められる。
また,相違点(2-ii)については,甲第2号証に乳化剤の化合物は再利用が望まれることが記載され(摘記2b参照),さらに甲第1号証に「精製された含フッ素乳化剤は、含フッ素ポリマー重合用の乳化剤として再使用できる。」と記載され(摘記1e参照)ていること,具体的な実施例において乳化剤としてアンモニウム塩が記載されている(摘記2f参照)ところ,このようなアンモニウム塩の乳化剤の製造方法としてアンモニアとの中和方法があることは甲第4,5号証に記載される(摘記4a,5a参照)ように技術常識であるから,甲2発明において,得られた含フッ素乳化剤を、含フッ素ポリマー重合用の乳化剤として再使用することを想起し,カルボン酸をアンモニアと中和してアンモニウム塩とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると,甲2発明において相違点(2-ii)を構成することは当業者が容易になし得たことと認められる。

4 特許権者の主張について
(1)特許権者の主張の概要
ア 甲2発明の減圧蒸留の意義
参考文献2は,物質の種類によっては,常圧の蒸留により熱分解することがあることを述べているにすぎず,甲2発明の含フッ素カルボン酸が不純物の存在下,常圧蒸留で熱分解し得ることは,本件優先日当時,技術常識でも公知でもなかった。
甲2発明で減圧蒸留が行われているが,減圧蒸留が常に熱分解を避ける目的で行われているわけではない。減圧蒸留には,蒸留塔を加熱する熱量を少なくすること,蒸留塔の構成材料を耐熱性にしなくてもよいというメリットがあるので,減圧蒸留が熱分解を避ける目的で行われることが周知であるからといって,減圧していれば,その目的が熱分解を避ける目的であると結論づけるのは短絡的すぎる。

イ 留出温度と釜の内温について
上記アで述べたように,甲2発明の減圧蒸留は熱分解を避ける目的を有すると当業者が理解することは容易でない。
仮に,そのような理解ができるとしても,留出温度だけでなく,釜の内温に着目すべきことは特許権者が見出したことであり,釜の内温に着目した公知技術に基づかず,釜の内温の範囲を設定することが容易と判断することは後知恵である。
回分式(バッチ)蒸留の場合,蒸留が進むほど不純物の割合が高くなり,釜の内温は上昇する。また,途中段階で蒸留を止めると蒸留収率が低下して非効率となるため,充分な収率を得ようとして蒸留を進めれば,最終的に釜の内温は高沸点の不純物が主成分になるので不純物の沸点に近づくことは明らかである。
本件優先日当時の当業者には,釜の内温を制御すべきとの認識はなかった。

(2)検討
ア 甲2発明の減圧蒸留の意義
特許権者は,甲2発明の減圧蒸留は,含フッ素カルボン酸の熱分解を避ける目的で行われることを当業者が容易に理解できないと主張し,その根拠として,減圧蒸留は加熱エネルギーの低減や装置構成材料の耐熱性の回避ができることを述べている。
しかしながら,上記(3)イで述べたとおり,蒸留対象となる物質に含まれる不純物が熱のために分解し,これが触媒になって物質の分解をさせることがあるために,減圧蒸留をすることは本件優先日当時の技術常識であること,参考資料1にも高分子物質ではあるが,常圧で蒸留を行なうと温度が高いために変質分解のおそれが多いので,真空蒸留(数mmHgから10^(-2)mmHgぐらいまで)や分子蒸留^(*)(10^(-3)mmHg以下)も盛んに利用されていることが記載されていること(摘記7c参照)からすれば,減圧蒸留は通常は蒸留対象物の常圧蒸留による熱分解を避けることを目的に行われるものと解するのが自然である。
確かに,実際の操業に用いる大型の蒸留装置であれば,蒸留塔を加熱する熱量を少なくすることや蒸留塔の構成材料を耐熱性にしなくてもよいというメリットを考慮することがあるかもしれないが,甲2発明で行われている減圧蒸留は蒸留回収物がわずか116gの実験レベルもの(摘記2f参照)であって,そのようなメリットを考慮して減圧蒸留を採用したと解するのは不自然である。
そうすると,甲第2号証に含フッ素カルボン酸が不純物の存在下,常圧蒸留で熱分解し得ることについて明記されていないとしても,甲2発明の減圧蒸留が,その通常の目的である蒸留対象物の熱分解を避けるために行われることを当業者が理解することは容易であったといわざるを得ない。
よって,特許権者の主張は採用できない。

イ 留出温度と釜の内温について
回分式(バッチ)蒸留の場合,蒸留が進むほど不純物の割合が高くなり,釜の内温は上昇することは,技術常識といえる(摘記7b参照)が,甲2発明において,その減圧蒸留が蒸留対象である含フッ素カルボン酸の熱分解を避けるには,蒸留塔内のどの部分においても,その温度を熱分解しない温度以下としなければならないことは明らかであって,蒸留釜も当然その例外でない。
そして,蒸留塔の蒸留釜に当たる蒸留カンが加熱場所であることは参考文献1の記載(摘記7d参照)からも明らかであって,当該部分が留出部分よりも高温になり易いことは当業者であれば当然理解することといえる。
してみると,釜の内温を熱分解が生じない温度範囲に設定することに当業者にとって格別の困難性があるとはいえない。
なお.特許権者は,回分式蒸留の場合,途中段階で蒸留を止めると蒸留収率が低下して非効率となるため,充分な収率を得ようとして蒸留を進めれば,最終的には高沸点の不純物が主成分になるので釜の内温は不純物の沸点に近づくと述べているが,回分式蒸留の場合,このような前提で,目的とする成分を留出させた段階で蒸留を停止するものであって(摘記7b参照),蒸留が進むに従い留出する液の沸点や釜の内温が上昇するからといって,熱分解が生じないような温度設定ができないわけではない。
すなわち,蒸留対象物の沸点は圧力によって変化し,圧力を下げることで沸点を低下させることができるのであるから,含フッ素カルボン酸の熱分解が生じない圧力と温度を蒸留釜も含め蒸留装置全体において設定することで,回収対象の含フッ素カルボン酸を熱分解させることなく,より高い沸点を有する不純物と分離できることは,当業者が容易に想到し得たことといえる。
したがって,釜の内温に着目した公知技術がないとしても,本件優先日当時の技術常識に照らして釜の内温の範囲を150℃以下に設定することが当業者にとって困難であったとはいえない。
よって,特許権者の主張は採用できない。

5 小括
以上のとおりであるから,本件発明1,7?10は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1?5号証に記載された発明及び優先日当時の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 本件発明2?6についての当審の判断
当審は,特許異議申立人が申し立てた理由及び当審が平成27年12月25日付けの取消理由通知(以下「第1回取消理由通知」という。)及び平成28年5月25日付けの取消理由通知(決定の予告)(以下「第2回取消理由通知」という。)で通知した理由によっては,本件発明2?6を取り消すことができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 理由1,2について
特許異議申立人が申し立てた理由1,2及び第1,2回取消理由通知で通知した理由2についてまとめて検討する。

(1)甲第1?6号証,参考文献の記載
上記「第5 1」に記載のとおりである。

(2)刊行物に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証には,
「一般式(1):R^(f)O(CF_(2)CF_(2)O)_(m)CF_(2)COOA
(式中、R^(f)は炭素原子数2?4のパーフルオロアルキル基であり、Aは水素原子、アルカリ金属またはNH_(4)であり、mは1?3の整数である。)で表される含フッ素乳化剤の濃度が1質量ppm以上1質量%以下である水性液(A)を、圧力100kPa以下、かつ、該水性液(A)の温度100℃以下で減圧濃縮して、該含フッ素乳化剤の濃度が高濃度化された水性液(B)とし、該水性液(B)から該含フッ素乳化剤を回収することを特徴とする含フッ素乳化剤の回収方法。」(摘記1a参照)であって,
該水性液(A)が「該含フッ素乳化剤を含む水性媒体中で少なくとも1種の含フッ素モノマーを乳化重合または懸濁重合して得られる含フッ素ポリマーの製造工程における、該含フッ素ポリマーを分離した後の排水(A1)、および該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを水性液で洗浄して得られる該含フッ素乳化剤を含む水性液(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の水性液」であること(摘記1c参照),
「前記減圧濃縮が、1段目がヒートポンプを備えた加熱管面蒸発型濃縮装置を用いて行われ」ること(摘記1a参照),
「前記水性液(B)・・・からの含フッ素乳化剤の回収が、非水溶性含フッ素有機溶媒を用いる抽出法によって行われ」(摘記1b参照),具体的には,「水性液(B)中の高濃度化された該含フッ素乳化剤は、該水性液(B)をpH4以下の酸性にすることによって、遊離酸の形で析出させ・・・析出した遊離酸などの沈殿を生成させた状態でろ過せずに、非水溶性有機溶剤で容易に抽出」し,「該溶媒に抽出された遊離酸は、該溶媒と共に蒸留することによって、フッ素を含有しない不純物を除去して精製する」こと(摘記1d参照)が記載されている。
そうすると,甲第1号証には,
「含フッ素乳化剤を含む水性媒体中で少なくとも1種の含フッ素モノマーを乳化重合または懸濁重合して得られる含フッ素ポリマーの製造工程における、含フッ素ポリマーを分離した後の排水、および含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを水性液で洗浄して得られる含フッ素乳化剤を含む水性液よりなる群から選ばれる少なくとも1種の水性液(A)であって、
一般式(1):R^(f)O(CF_(2)CF_(2)O)_(m)CF_(2)COOA
(式中、R^(f)は炭素数2?4のパーフルオロアルキル基であり、Aは水素原子、アルカリ金属またはNH_(4)であり、mは1?3の整数である。)で表される含フッ素乳化剤を含む水性液(A)を、
ヒートポンプを備えた加熱管面蒸発型濃縮装置を用いて、該水性液(A)の温度100℃以下で減圧濃縮して、含フッ素乳化剤の濃度が高濃度化された水性液(B)とし、
該水性液(B)をpH4以下の酸性にして含フッ素乳化剤の遊離酸を析出させ、非水性有機溶媒で抽出し,非水性有機溶媒と共に蒸留することによって,フッ素を含有しない不純物を除去して遊離酸を精製する含フッ素乳化剤の回収方法。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
上記「第5 2」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明2について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)対比
甲1発明では,「一般式(1):R^(f)O(CF_(2)CF_(2)O)_(m)CF_(2)COOA
(式中、R^(f)は炭素数2?4のパーフルオロアルキル基であり、Aは水素原子、アルカリ金属塩、アンモニウムイオンで表される含フッ素乳化剤を含む水性液(A)」を濃縮した「水性液(B)をpH4以下の酸性にして含フッ素乳化剤の遊離酸を析出させ」ているが,pH4以下とするために,具体的には硫酸が使用されている(摘記1g参照)から,甲1発明の当該「遊離酸」を含む液体を「非水性有機溶媒で抽出」することは,
本件発明2の「下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表さる、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、有機溶媒で抽出する
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、式(3)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。」ことに相当する。
そして,甲1発明も,抽出後に蒸留して遊離酸を回収している。
そうすると,本件発明2と甲1発明とは,
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表される、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、有機溶媒で抽出後に蒸留して、前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、式(3)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。」点で一致し,以下の点で相違している。
(1-i)本件発明2では,有機溶媒で抽出後に含フッ素化合物を含む液体を,「蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収する」のに対して,
甲1発明では,「蒸留で遊離酸を回収する」点

(イ)相違点の検討
甲第1号証には,実施例として,R-225cb(非水性有機溶媒)で抽出された遊離酸を含む相を分液し,それを40℃で24時間加熱して,遊離酸であるC_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOHが固体として得られることが記載されている(摘記1g参照)。ただし,C_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOH(EEA)は融点/凝固点が-35?-40℃であり,沸点が159℃である(乙第2号証参照)ので,甲第1号証ではC_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOHが「固体」として得られると記載されているものの,技術常識を踏まえれば,この実施例ではR-255cbが,40℃で加熱により蒸発し,C_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOHが残留液として残る蒸留操作が行われているものと理解できる。
そして,甲第1号証には,抽出に使用される非水性有機溶媒が列挙されている(摘記1d参照)が,これらの非水性溶媒が遊離酸よりも高い沸点を有することは記載されておらず,また,非水性有機溶媒以外の成分と遊離酸を蒸留で分離する必要があることについても記載がない。さらに,抽出に用いた非水性有機溶媒が先に蒸発し,遊離酸が残留する蒸留の実施態様のみが記載されている(摘記1g参照)ことからすれば,甲1発明は,非水性有機溶媒が遊離酸よりも先に留出して残留液として遊離酸(含フッ素カルボン酸)を得ることを前提としたものと解され,この場合に,すでに残留液として得られた遊離酸をさらに蒸留して,わざわざ留出液として回収する動機付けがあるとはいえない。
次に,甲第2号証には,「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)」を含む水とメタノールの液体から,「水とメタノールを留去し、初期容積の20%まで濃縮して濃硫酸を加えて、放置し、固形物をロ別し、ロ液を静置して2層に分かれたその下層を分離して減圧蒸留し、CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを回収する方法」が記載されている(摘記2f参照)が,蒸留で含フッ素カルボン酸である「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOH」と分離する対象が甲1発明のように「非水性有機溶媒」ではないから,非水性有機溶媒と遊離酸(含フッ素カルボン酸)を蒸留で分離する甲1発明に,甲第2号証に記載された含フッ素カルボン酸を含む相の減圧蒸留の手法を適用することができるとはいえない。
さらに,甲第3号証には,複数のペルフルオロカルボン酸が含まれる液体を分別蒸留することが記載されており,そのなかで,C_(3)F_(7)-O-(C_(3)F_(6)O)-O-CF(CF_(3))-COOHが沸点87℃/20mbarで得られることが記載されている(摘記3b参照)ので,種類の異なる含フッ素カルボン酸相互を分離対象とするものであるから,これも,非水性有機溶媒と遊離酸(含フッ素カルボン酸)を蒸留で分離する甲1発明に,甲第3号証に記載された蒸留の手法を適用することができるとはいえない。
なお,甲第4号証には,含フッ素カルボン酸の蒸留による精製については記載されておらず,甲第5号証には,含フッ素カルボン酸の蒸留による分離精製について記載されてはいる(摘記5a参照)が,分離対象が非水性有機溶媒ではないので甲1発明に適用できない。さらに,甲第6号証には遊離酸を有機溶媒であるエーテルで抽出しエーテルを留去することで有機酸を得ることが記載されている(摘記6a参照)が,これも有機酸が残留液となるもので,留出液として回収することを示唆するものではない。
そうすると,相違点(1-i)は実質的な相違点であり,かつ,甲1発明において,甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識を参酌しても,「留出液として前記含フッ素化合物を回収する」ことを含む相違点(1-i)を構成することは当業者が容易になし得たことということはできない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明2は,甲第1号証に記載された発明であるとも,甲1発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

イ 甲2発明との対比・判断
(ア)対比
上記「第2 3(1)ア」で述べたとおり.甲2発明の「VdF/FMVE/FPOVE(n=3)共重合体(共重合体モル比 82/12/6)、CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COONH_(4)、水、重合安定剤等よりなる水性重合乳化液をメタノール中に撹拌しながら加えて、含フッ素共重合体粒子を凝集させ、含フッ素共重合体をロ別し、ロ液にKOHを加えてpH7.0以上とし、減圧下で水とメタノールを留去し、初期容積の20%まで濃縮した後濃硫酸を加えるか、蒸発乾固した後75%硫酸を加え、放置し、固形物をロ別し、ロ液を静置して2層に分かれたその下層」には,「硫酸」を加えて,総炭素数が9である「CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOH」とされたものが含まれているので,
本件発明2の「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表される、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、R^(F)は直鎖状または分岐状で、主鎖にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい1価含フッ素有機基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の2価有機基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。」ことに相当する。
そうすると,本件発明2と甲2発明とは,
「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表される、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を蒸留して、前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、式(3)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。」点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i’’)本件発明2では,含フッ素化合物を含む液体を,「蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収する」のに対して,
甲2発明では,「減圧蒸留でCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを回収する」点
(2-iii)本件発明2では,含フッ素化合物を含む液体を,「有機溶媒で抽出後に蒸留して」いるのに対して,
甲2発明では,有機溶媒で抽出せずに蒸留している点

(イ)相違点の検討
相違点(2-i’’)と(2-iii)について合わせて検討する。
甲第1号証には,含フッ素カルボン酸を非水性有機溶媒で抽出後に蒸留して含フッ素カルボン酸を回収することが記載されており(摘記1d,1g参照),また,このように有機酸に不純物が含まれる際に,有機溶媒であるエーテルを使用して抽出して分離精製することは甲第6号証に記載されている(摘記6a参照)ことからみて,本件優先日当時において,不純物を含む有機酸を有機溶媒で抽出して精製回収することは当業者の技術常識であったということはできる。
そうすると,甲2発明において,減圧蒸留で回収する前にCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを有機溶媒で抽出することは,一応,当業者が容易になし得たことと認められる。
その一方,甲2発明において,減圧蒸留で回収する前にCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを有機溶媒で抽出する工程を採用すれば,その後の減圧蒸留においては,甲第1号証に記載されるように,有機溶媒とCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHとを含む液体を分離することになるのであるから,上記ア(イ)で述べたとおり,含フッ素カルボン酸であるCF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))CF_(2)OCF(CF_(3))COOHを留出液として回収する動機付けがない。
なお,甲第6号証には,有機溶媒の抽出後,エーテルを留去して有機酸を回収すること,すなわち,有機酸は残留液として回収することが記載され(摘記6a参照)のみであって,その他の甲号証をみても,抽出に使用した有機溶媒と含フッ素カルボン酸を減圧蒸留で分離するにあたって,含フッ素カルボン酸を留出液として回収する記載は見当たらない。
よって,上記相違点(2-i’’),(2-iii)はいずれも実質的な相違点であって,かつ,甲2発明において,上記相違点(2-i’’),(2-iii)を構成することが当業者にとって容易になし得たということはできない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明2は,甲第2号証に記載された発明であるとも,甲2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

(3-2)本件発明3について
本件発明3は,本件発明2を限定したものであるから,甲第1号証にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とすることが記載されている(摘記1e,1g参照)としても,本件発明2が甲第1,2号証に記載された発明であるとも,甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上,本件発明3も甲第1,2号証に記載された発明であるとも甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-3)本件発明4について
本件発明4は,本件発明2,3を限定したものであるから,本件発明2,3が甲第1,2号証に記載された発明であるとも,甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上,本件発明4も甲第1,2号証に記載された発明であるとも,甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-4)本件発明5について
本件発明5は,本件発明2?4を限定したものであるから,本件発明2?4が甲第1,2号証に記載された発明であるとも,甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明5も甲第1,2号証に記載された発明であるとも,甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-5)本件発明6について
ア 対比
本件発明6は,本件発明2?5の発明特定事項を含むものであって,本件発明2?4が甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明6も甲1,2発明並びに甲第1?6号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人の主張の概要
(ア)甲1発明を主引用例とする場合
蒸留操作において,混合物から目的化合物を,残留物として回収するか留出液として回収するかは,その目的化合物の種類及び混合物の内容に応じて適宜選択されるものであって,混合物中に高沸点の不純物が多いのであれば留出液として回収するのは当然である。すなわち,廃液から含フッ素カルボン酸の回収については,含フッ素カルボン酸の種類および廃液に含まれる不純物の種類に応じて,残留物として回収するか留出液として回収するかは適宜選択されるので,本件発明2の「留出液として回収すること」は単なる設計事項にすぎない。
また,甲第2号証には,含フッ素カルボン酸を留出液として廃液から回収することが記載され,甲1発明と廃液からの含フッ素カルボン酸の回収に関するもので技術分野が同一であるから,甲1発明において,甲第2号証に基づいて含フッ素カルボン酸を留出液として回収することは当業者が容易になし得ることである。

(イ)甲2発明を主引用例とする場合
蒸留に先立ち溶媒抽出を行うことは,例えば甲第1号証に記載されており,当業者が容易に想到し得ることである。

イ 検討
(ア)甲1発明を引用発明とする場合
蒸留操作において,混合物から目的化合物を,残留物として回収するか留出液として回収するかは,その目的化合物の種類及び混合物の内容に応じて適宜選択されるものであることは,特許異議申立人の主張のとおりであるが,甲1発明は,非水性有機溶媒と遊離酸(含フッ素カルボン酸)の混合物から目的化合物である遊離酸を得るものであるから,上記(3)(3-1)ア(イ)で検討したとおり,両者の沸点を考慮すれば,非水性有機溶媒が先に留出して遊離酸(含フッ素カルボン酸)を残留液として回収する態様を選択するのが自然であって,甲1発明において,本件発明1の「含フッ素化合物を留出液として回収すること」を選択する動機付けがあるとはいえない。
さらに,甲1発明と甲第2号証の廃液からの含フッ素カルボン酸の蒸留による分離方法は,回収成分が含フッ素カルボン酸である点で共通するものの,その分離対象が異なるから,甲1発明において,甲第2号証に基づいて含フッ素カルボン酸を留出液として回収することが容易であるということはできない。
よって,特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)甲2発明を主引用例とする場合
上記(3)(3-1)イ(イ)で述べたとおり,甲2発明において,甲第1号証の記載に基づいて,減圧蒸留に先立ち有機溶媒による抽出を行うと,含フッ素カルボン酸の蒸留による分離対象は有機溶媒となるから,甲2発明において,留出液として含フッ素カルボン酸を回収することを当業者が容易に想到し得たものということはできない。
よって,特許異議申立人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明2?5は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるということはできず,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また,本件発明2?6は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明(主引用例)並びに甲第1?4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

2 理由3について
特許異議申立人が申し立てた理由3の(i)?(iv)及び第1,2回取消理由通知の理由3のアについて検討する。なお,第1,2回取消理由通知の理由3のイは,本件発明2を対象としていない。

(1)特許法第36条第6項第1号の解釈について
特許法第36条第6項は,「第二項の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下,この観点に立って,判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は,上記「第3」で記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(a)「【0005】
しかし、APFOに有効であった従来方法を、そのまま、エーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸の回収に適用した場合、得られるエーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸には、多量の有機不純物が含まれている。そして、該有機不純物は、含フッ素カルボン酸塩に変換した後には除去することが困難であり、含フッ素カルボン酸塩の表面張力低下特性に影響し、含フッ素モノマーの乳化剤として使用すると、重合安定性が充分でなく、含フッ素ポリマーが着色し、品質が低下するという問題があった。
・・・
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記問題を解決し、工業的および経済的に有利な、エーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸及びその誘導体の精製方法を提供することである。」
(b)「【0011】
本明細書において、「式(n)で表される含フッ素化合物(nは任意の符号。)」を単に「含フッ素化合物(n)」と記載する場合がある。また、「有機基」とは、炭素原子と、炭素原子以外の少なくとも1種の原子とを含有する基を意味する。「含フッ素有機基」とは、フッ素原子で置換され得る部位の一部または全部がフッ素原子で置換された有機基をいう。「フッ素原子で置換され得る部位」とは、炭素原子に結合した水素原子である。
「ポリフルオロ」とは、前記炭素原子に結合した水素原子の2個以上がフッ素原子で置換されていることを、また、「ペルフルオロ」とは、前記炭素原子に結合した全ての水素原子がフッ素原子で置換されていることを、意味する。
【0012】
「エーテル性酸素原子」とは、エーテル結合(C-O-C)を形成する酸素原子を意味し、「エーテル性酸素原子含有飽和炭化水素基」とは、炭素数2以上の飽和炭化水素基において、その炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基を意味する。」
(c)「【0050】
[実施例1](CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの精製例)
【0051】
(工程1-1):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)からの未凝集PTFE粒子の除去工程
特開2006-321797号公報に記載の方法に従い、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)を、乳化剤として用いてテトラフルオロエチレンの乳化重合を実施した。得られたPTFEの水性乳化液からPTFEを凝集し分離後、廃液を分析した。該廃液は、未凝集PTFE粒子(以下、SSという。)の2100ppm、およびCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)の1055ppmを含有していた。該廃液(1776kg)に、塩化アルミニウム六水和物の204gを水に溶解させ8質量%水溶液に調製したものを添加し、10分間撹拌して、SSを凝集させた。次いで、廃液に30質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、該廃液のpHを8.55に調整し、30分間の撹拌を行い、含まれるCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)をCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)に変換した。さらに、該廃液を、420メッシュのフィルターで濾過し、凝集したSSを除去した。得られた廃液は、SSが10ppmの無色透明の液体(1792kg)であった。
【0052】
(工程1-2):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)の濃縮工程
(工程1-1)で得られた廃液の1792kgを、ヒートポンプを備えた加熱管面蒸発型濃縮装置(ササクラ社製、商品名:EVCC濃縮装置)を用いて、EVCC濃縮装置内部の圧力を20kPa(ゲージ圧、以下も同じである。)、EVCC濃縮装置内部の循環液の温度を55±2℃に保持して、減圧濃縮し、37.3kgの濃縮液(CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)の濃度5.03質量%)を得た。
【0053】
(工程1-3):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHへの変換工程
(工程1-2)で得られた濃縮液の20.2kgを、攪拌機および還流コンデンサーを備えたガラス製反応器に仕込んで攪拌し、常圧下、25℃で、濃塩酸を滴下してpH=0に調整し、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)をCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHに変換した。次いで、常圧下、25℃で、抽出溶媒としてCF_(3)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)Hの21.1kgを加えて、30分間攪拌し、さらに、30分間静置した後、2層分離を行った。下層であるCF_(3)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)H層(22.1kg)をGC(ガスクロマトグラフ)分析により分析したところ、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの含有量は956gであった。また、(工程1-2)で得られた濃縮液からの抽出率は、94.1%であった。
【0054】
(工程1-4):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの蒸留精製工程
(工程1-3)で得られた下層の内20.0kg(CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの含有量は865g)を、10℃の還流器を備えたガラス製蒸留塔の釜(2L)に、常圧下、釜の内温を70℃以下に保持しながら、連続供給し、CF_(3)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)Hを留去し、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHを濃縮した。CF_(3)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)Hが留出しなくなったところで、釜の圧力を、常圧から5Torr(1Torrはおよそ133.322Pa。以下同じ。)へと徐々に下げ、釜の内温を92℃以下に保持しながらCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHを留出させた。沸点は74℃(30Torr)であった。得られたCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH精製品は、純度99.7%の無色透明の液体であり、その収量は786gであった。
また、蒸留収率は91%であった。」
(d)「【0056】
[実施例2](CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOCH_(3)の精製例)
(工程2-1):エステル化工程
実施例1の(工程1-4)において、その前工程である(工程1-3)で得られた下層のCF_(3)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)Hを留去して得られたCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH(純度=95.0%、500g)を、撹拌機および還流コンデンサーを備えたガラス製反応器(2L)に仕込み、撹拌下、内温が30℃以下に保たれるようにゆっくりとCH_(3)OHの140gを導入した。全量を導入後、さらに70℃で8時間の撹拌を行うことで生成物を得た。該生成物のガスクロマトグラフィー分析を行った結果、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOCH_(3)の含有量は432gであり、過剰分のCH_(3)OHと、未反応分のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHも検出された。
【0057】
(工程2-2):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOCH_(3)の蒸留精製工程
(工程2-1)で得られた生成物を、10℃の還流器を備えたガラス製蒸留塔の釜(1L)に仕込み、釜の圧力を、常圧から5Torrへと徐々に下げ、釜の内温を120℃以下に保持しながら蒸留精製を行った。得られたCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOCH_(3)精製品は、純度=99.5%の無色透明の液体であり、その収量は400gであった。また、蒸留収率は92%であった。」
(e)「【0062】
[実施例4](CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの精製例)
(工程4-1):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)水溶液に含まれる未凝集テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体粒子の除去工程
乳化剤としてCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)を用いてテトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体を製造して得たテトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体の水性乳化液からテトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体を凝集し分離した後の廃液には、未凝集テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体粒子(以下、共重合体SSという。)が60ppm含有されていた。また、該廃液中のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)濃度は868ppmであり、pHは8.6であった。フルゾーン翼をセットした2Lのガラス製ビーカーに該廃液の1Lを入れ、撹拌しながら10質量%の塩酸水溶液を添加し、pHを2に調整した。pH調整後、フルゾーン翼で撹拌下に塩化アルミニウム六水和物の0.1gを添加した。塩化アルミニウム六水和物の添加量は、全廃液量に対して100ppmに相当した。塩化アルミニウム六水和物の添加直後から共重合体SSの凝集が始まり、白色のゲル状沈殿物が生成した。そのまま10分間撹拌した後、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、該水溶液のpHを10.0に調整して、含まれるCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)をCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)に変換した。凝集物はビーカー底部に沈降し、上澄み液は無色透明となった。
上澄み液を、平均口径10μmのろ紙を使用してろ過した後、ろ液中の共重合体SSを測定したところ、5ppmであった。また、該ろ液中のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)濃度は850ppmであった。
【0063】
(工程4-2):イオン交換樹脂への乳化剤CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)の吸脱着工程
(工程4-1)で得られたろ液の1Lを弱塩基性イオン交換樹脂(三菱化学社製WA30、以下、IERWA30という。)の10mLを充填した容積100mLの充填塔にSV(space velocity)=5/hrの空間速度で通液させ吸着操作を実施した。該ろ液の温度は、25℃であった。該ろ液の1Lを通液させるために20時間を要した。この間、充填塔は閉塞しなかった。通液後の水溶液中のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)濃度は5ppmであった。ついで、該充填塔に0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を、23℃で、20mL/時の流速で1時間通液させ、吸着された乳化剤の脱着操作を実施した。乳化剤は、吸着時には、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)のイオンとして、イオン交換樹脂中の塩基に結合するものと推定される。得られた脱着液のpHは10で、20mL中のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)の濃度は4.1質量%であった。CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)の回収率は、94.5%であった。
【0064】
(工程4-3):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHへの変換工程
(工程1-3)に記載の方法に従い、(工程4-2)で得られた脱着液から、99%の収率で、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH濃縮液が得られた。
(工程4-4):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの蒸留精製工程
(工程1-4)に記載の方法に従い、(工程4-3)で得られた濃縮液から、95%の収率で、無色透明のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH精製品(純度99.7%)が得られた。」
(f)「【0065】
[実施例5](CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの精製例)
(工程5-1):PTFE水性分散液の作製
邪魔板、撹拌機を備えた、100Lのステンレス製オートクレーブに、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)36g、パラフィンワックス(融点55℃)555g、および脱イオン水61.3リットルを仕込んだ。オートクレーブ内部を窒素置換後、減圧にした後TFEモノマーを導入し、撹拌しながら62℃まで昇温した。さらに内圧が1.765MPaになるまでTFEモノマーを圧入し、ジコハク酸パーオキシド(濃度80質量%、残りは水分)26.3gを約70℃の温水1リットルに溶解して注入した。約3分後にオートクレーブ内圧が1.716MPaまで降下したため、内圧を1.765MPaに保つようにTFEモノマーを圧入し重合を進行させた。重合途中にCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)を温水に溶解してCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)として合計53gを2回に分けて注入した。オートクレーブ温度を徐々に72℃まで上げ、TFEモノマーの圧入量が22kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ中のTFEを大気放出した。重合時間は105分間であった。冷却後、上部に固化したパラフィンワックスを除去し、PTFE水性乳化液が得られた。PTFE水性乳化液中のPTFE濃度は約25.0質量%であり、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)濃度はPTFE質量に対して0.40質量%であり、PTFE微粒子の平均粒子径は0.26μmであり、PTFEの平均分子量は76万であり、PTFEの標準比重は2.21であった。
このPTFE水性乳化液10kgを用い、PTFE質量に対して3.0質量%の非イオン系界面活性剤(日本乳化剤社製、商品名「Newcol(登録商標)1308FA」、分子式はC_(13)H_(27)-(OC_(2)H_(4))_(8)-OCH(CH_(3))CH_(2)-OH、分子量は610)およびイオン交換水(255g)を添加し、PTFE濃度が24.2質量%であるPTFE低濃度水性分散液を製造した。
【0066】
(工程5-2):イオン交換樹脂への乳化剤CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)NH_(4)^(+)の吸脱着工程
弱塩基型陰イオン交換樹脂(ランクセス社製Lewatit(登録商標)、商品名:MP62WS)を充填した長さ80cm、内径0.9cmのカラム(内容積51cc)を2本直列に接続した連結カラムを準備し、チューブ式ポンプにより非イオン系界面活性剤(Newcol(登録商標)1308FA)の1.5質量%水溶液を毎時50ccで100mL通液した後、(工程5-1)で得られたPTFE低濃度水性分散液を毎時120ccで約85時間かけて通液した。PTFE低濃度水性分散液中のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)濃度は、PTFE質量に対して0.004質量%に低減されていた。
通液前のPTFE低濃度水性分散液には計算により10gのCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)が含有され、通液後のPTFE低濃度水性分散液には計算により約0.1gのCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)が含有されているため、陰イオン交換樹脂には、9.9gの乳化剤が吸着されたことになる。乳化剤は、吸着時には、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)のイオンとして、イオン交換樹脂中の塩基に結合するものと推定される。
【0067】
得られたPTFE低濃度水性分散液に、非フッ素系陰イオン界面活性剤(ラウリル硫酸アンモ二ウム、商品名「花王製エマールAD25R」、有効成分25質量%)をPTFE質量に対して0.2質量%添加し、電気泳動法により、200V/mの電圧を印加して濃縮を行ない、PTFE濃度が約66.2質量%であり、界面活性剤濃度がPTFE質量に対して2.3質量%であるPTFE高濃度水性分散液を得た。
このPTFE高濃度水性分散液に、Newcol(登録商標)1308FAをPTFE質量に対して2.5質量%、PTFE質量に対して0.1質量%のポリエチレンオキシド(f)(分子量50万、和光純薬社製)、PTFE質量に対して0.05質量%の割合の28質量%アンモニア水(2.5g)、およびイオン交換水(272g)を加え、PTFE濃度が約60.8質量%、界面活性剤濃度がPTFE質量に対して4.9質量%であり、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)(NH_(4))^(+)濃度がPTFE質量に対して0.004質量%であり、pHが9.7であり、粘度が22mPa・sであるPTFE水性分散液を得た。乳化剤は、吸着時には、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)のイオンとして、イオン交換樹脂中の塩基に結合したものと推定される。
【0068】
次に、カラムから陰イオン交換樹脂を取り出し、乳化剤の脱着操作を行なった。
陰イオン交換樹脂に、濃度2.0質量%の水酸化ナトリウム水溶液100gを加え、温度60℃に加熱し、4時間ゆるやかに攪拌した後陰イオン交換樹脂を濾別し、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)を含有する水酸化ナトリウム水溶液108gを得た。この水溶液中のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COO^(-)Na^(+)濃度は7.8質量%であり、乳化剤の85%が脱着したことになる。
【0069】
(工程5-3):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHへの変換工程
(工程1-3)に記載の方法に従い、(工程5-2)で得られた脱着液から、99%の収率で、CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH濃縮液が得られた。
(工程5-4):CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの蒸留精製工程
(工程1-4)に記載の方法に従い、(工程5-3)で得られた濃縮液から、98%の収率で、無色透明のCF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH精製品(純度99.9%)が得られた。」

(4)本件発明の課題について
本件発明2?5が解決しようとする課題は,発明の詳細な説明の記載(摘記a参照)からみて,得られるエーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸に多量の有機不純物を含まないようにした,工業的および経済的に有利な,エーテル性酸素原子を有する含フッ素カルボン酸の精製方法を提供することにあるものと認める。
また,本件発明6が解決しようとする課題は,そのような精製方法で得られた含フッ素カルボン酸を乳化剤とし,その乳化剤を用いる含フッ素モノマーの乳化重合方法を提供することにあるものと認める。

(5)判断
ア 「式(1)」の含フッ素化合物の範囲について(特許異議申立人が申し立てた理由3の(i)及び第1,2回取消理由通知の理由3のア)
本件の請求項2に記載される含フッ素化合物である「式(3)」と酸を加えて得られる「式(1)」の含フッ素カルボン酸は,「総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」とされている。
発明の詳細な説明では,式(1)に対応する化合物として,CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOHの精製方法の実施例が記載され(摘記c?f参照),これは総炭素数が6であり,R^(F)は直鎖状で,炭素数4の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基であり,R^(1)は直鎖状の、ペルフルオロアルキレン基である。
そして,総炭素数が6のC_(2)F_(5)OC_(2)F_(4)OCF_(2)COOH(EEA)は,沸点が159℃である一方,総炭素数9のCF_(3)OCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)CF(CF_(3))OCF_(2)COOHは,沸点が193℃であり,総炭素数がこの範囲で異なったとしても沸点が大きく異なるものではなく,また,本件出願前に頒布された甲第3号証には,総炭素数6の「C_(3)F_(7)-O-CF(CF_(3))-COOH」が沸点:65℃/40mbarで留出する一方,総炭素数9の「C_(3)F_(7)-O-(C_(3)F_(6)O)-CF(CF_(3))-COOH」が沸点:87℃/20mbarで留出することが記載されている(摘記3b参照)ことからすれば,「式(1)」において,「総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。」範囲のものであれば,圧力を適切に設定することで,式(1)で表されるフッ素化合物の範囲にわたって,実施例の「CF_(3)CF_(2)OCF_(2)CF_(2)OCF_(2)COOH」と同様に,150℃以下で蒸留して留出液として回収することでその精製ができることが当業者に理解できるものといえる。
そうすると,本件発明2の課題を解決することができると当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明に記載されているということができ,本件特許の請求項2及び請求項2を引用する請求項3?6に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。

イ 廃液等の前処理について(特許異議申立人が申し立てた理由3の(iii))
本件の請求項2は,「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表さる、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、有機溶媒で抽出後に蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。」と記載されるように,廃液等を前処理をしてから蒸留することをその発明特定事項とするものである。
そして,発明の詳細な説明には,「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、または、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体」(以下「廃液等」という。)を,酸で処理して一般式(1)のカルボン酸とした後,一般式(1)のカルボン酸を有機溶媒で抽出し,これを蒸留釜に供給して留出物として一般式(1)のカルボン酸を回収した態様が記載されている(摘記c?f参照)。
そうすると,発明の詳細な説明には,廃液等に酸を加えて一般式(1)のカルボン酸のフッ素化合物を得た後,有機溶媒で抽出して蒸留によって留出物として回収することで,精製できることを当業者が理解できるように記載されていると認められる。
よって,本件特許の請求項2及び請求項2を引用する請求項3?6に記載された特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。

ウ 不純物について(特許異議申立人が申し立てた理由3の(ii))
発明の詳細な説明には,「含フッ素ポリマーの製造工程から混入する夾雑物や不純物が,含フッ素カルボン酸の精製を阻害したり,分解を促進したりする」と記載されているが,夾雑物や不純物が何か不明で,その含有量が不明であっても,本件発明2?6は,「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れからの液体(廃液等)から酸を加える工程を経て得られる液体」から式(1)で表されるフッ素化合物を精製することを発明特定事項とし,夾雑物や不純物は発明特定事項にはなっていないのであるから,少なくとも,廃液等から酸を加える工程を経て得られる液体を,有機溶媒で抽出し,その後150℃以下で蒸留することで,式(1)で表されるフッ素化合物を留出物として回収することで精製ができると当業者が理解できるように記載されていれば,本件発明の課題を解決できないことにはならない。
そして,発明の詳細な説明には,本件発明2?6における「廃液等」に何らかの夾雑物や不純物が含まれ,この廃液等を150℃以下で蒸留することで,式(1)で表されるフッ素化合物を留出物として回収し,それによって精製できることが具体的に記載されているのであるから,本件発明2?5の課題を解決できる程度に記載されているといえる。
また,特許異議申立人は平成28年8月10日付けの意見書で,含フッ素カルボン酸の分解は,蒸留の前処理のために混入したNa^(+)やエーテル系溶剤により生じたものであり,廃液等に含まれる夾雑物や不純物によって生じるものではないことを新たに主張している。
しかしながら,Na^(+)やエーテル系溶剤が含フッ素カルボン酸の脱炭酸反応を進行させるものであるとしても,そのことが直ちに本件発明2?6の廃液等に不純物を含んでいないことにはならない。そして,発明の詳細な説明には,比較例1が記載され,常圧蒸留をして釜の内温が155℃となると含フッ素化合物が熱分解が生じることが記載されているのであるから,釜の内温を150℃以下とした実施例で熱分解が生じないことと合わせみて,少なくとも本件発明2?6の廃液等にどのような不純物が含まれているかが不明でも,釜の内温を150℃以下にすることで熱分解を防ぐことができると当業者が理解できるといえる。
さらに,廃液等に含まれる不純物の含有量によって分解の程度が異なるから,本件発明2?6のすべての範囲にわたって解決できないことも新たに主張しているが,上記廃液等に含まれる不純物等の量は,当該廃液等に応じて決まるものであって,また,実施例では,濃縮して不純物の濃度が高くなった場合において,実際に蒸留による含フッ素カルボン酸の精製ができているのであるから,不純物の含有量が廃液等に通常含まれる範囲であれば,同様に精製ができると当業者であれば理解できるといえる。
よって,特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 蒸留圧力について(特許異議申立人が申し立てた理由3の(iv))
式(1)で表されるフッ素化合物を150℃以下で蒸留により留出物として得るには,式(1)で表されるフッ素化合物の沸点が150℃以上のものの場合は大気圧以下にしなければならないのは当業者にとって,自明の事項であって,本件発明2?6において,「釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収する」との発明特定事項を含んでいれば,含フッ素化合物に応じて必然的に蒸留圧力の範囲も定まるから,蒸留圧力を本件発明2?6に発明特定事項として含まなくても,本件発明の課題が解決できないことにはならない。
よって,特許異議申立人の主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおり,本件発明2?6は,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法第36条第6項第1号の要件に適合しないとはいえない。

3 理由4について
特許異議申立人の理由4についての主張は,本件の発明の詳細な説明の記載は,理由3の(i)?(iv)で指摘したように,どのような場合に本件発明の効果を得られるか把握することができないから,本件発明を実施するには当業者が過度の試行錯誤を強いられるというものである。
しかしながら,発明の詳細な説明には,上記2(5)ア?エで述べたとおり,理由3の(i)?(iv)で指摘するような記載不備はない。
そして,発明の詳細な説明には,本件発明2の発明特定事項である「含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、または、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体」を,酸で処理して一般式(1)のカルボン酸とした後,一般式(1)のカルボン酸を有機溶媒で抽出し,これを蒸留釜に供給して留出物として一般式(1)のカルボン酸を回収した態様が実施例として具体的に記載されている(摘記c?f参照)のであるから,この記載に基づいて当業者が本件発明2?6を実施するにあたって過度の試行錯誤を要するものと認めることはできない。
したがって,本件の発明の詳細な説明は,当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり,本件発明1,7?10に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから,同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
本件発明2?6に係る特許は,特許異議申立人が申し立てた理由及び当審が通知した取消理由によっては,取り消されるべきものとはいえない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れかの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(1)で表され、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
【請求項2】
含フッ素ポリマーの水性乳化液から該含フッ素ポリマーを凝集し分離した後の廃液、分離された該含フッ素ポリマーの乾燥工程および/または熱処理工程の排ガスを洗浄した水性液体、および、前記廃液または含フッ素ポリマーの水性乳化液から得られた水性分散液と接触させた陰イオン交換樹脂をアルカリ水溶液で洗浄して得た液体の何れかの液体から酸を加える工程を経て得られる液体であって、下記式(3)で表される含フッ素化合物に酸を加えて得られる含フッ素化合物であり、下記式(1)で表される、エーテル結合を有する含フッ素化合物からなる群から選ばれる1種以上を含む液体を、有機溶媒で抽出後に蒸留塔の釜に供給し、釜の内温を150℃以下に保持して、加熱することにより、蒸留して、留出液として前記含フッ素化合物を回収することを特徴とする含フッ素化合物の精製方法。
R^(F)OR^(1)COOH (1)
ここで、式(1)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表す。
[R^(F)OR^(1)COO^(-)]_(m)X^(m+) (3)
ここで、式(3)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Xはm価の金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、mは1である。
【請求項3】
前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項2に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項4】
前記釜の内温が、130℃以下である請求項2又は3に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項5】
前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項2?4のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。
【請求項6】
請求項2?5のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。
【請求項7】
前記含フッ素ポリマーが、テトラフルオロエチレンの、単独重合体または共重合体である請求項1に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項8】
前記釜の内温が、130℃以下である請求項1又は7に記載の含フッ素化合物の精製方法。
【請求項9】
前記式(1)で表される含フッ素化合物が、下記式(4)で表される含フッ素化合物である請求項1、7、8のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法。
R^(F2)(O(CF_(2))_(p))_(n)OCF_(2)COOH (4)
ここで、式(4)における総炭素数は5?10であり、R^(F2)は直鎖状または分岐状の炭素数1?6のペルフルオロアルキル基を表し、pは1?5の整数であり、nは0?5の整数、である。
【請求項10】
請求項1、7?9のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の精製方法で精製された前記式(1)で表される含フッ素化合物と、Y^(+)で表されるイオンを生じる化合物とを反応させて得た下記式(5)で表される含フッ素化合物を、乳化剤として用いることを特徴とする含フッ素モノマーの乳化重合方法。
R^(F)OR^(1)COO^(-)Y^(+) (5)
ここで、式(5)における総炭素数は5?10であり、R^(F)は直鎖状または分岐状で、含フッ素アルキル基、または炭素数2以上の含フッ素アルキル基の主鎖の炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基を表し、R^(1)は直鎖状または分岐状の、アルキレン基、-CHF-、-CH_(2)CHF-、-CHFCH_(2)-、ポリフルオロアルキレン基、またはペルフルオロアルキレン基を表し、Y^(+)は、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、またはNH_(4)^(+)を表す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-30 
出願番号 特願2010-518009(P2010-518009)
審決分類 P 1 651・ 536- ZDA (C07C)
P 1 651・ 537- ZDA (C07C)
P 1 651・ 113- ZDA (C07C)
P 1 651・ 121- ZDA (C07C)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 天野 宏樹瀬下 浩一  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 瀬良 聡機
井上 雅博
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5691518号(P5691518)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 含フッ素化合物の精製方法  
代理人 小椋 正幸  
代理人 柳井 則子  
代理人 柳井 則子  
代理人 鮫島 睦  
代理人 小椋 正幸  
代理人 吉田 環  
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