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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1325845
異議申立番号 異議2016-700023  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-14 
確定日 2017-01-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5748012号発明「透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5748012号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5748012号の特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第5748012号は、平成20年12月24日に出願された特願2008-328500号(以下、「親出願」という。)の一部を平成26年3月6日に新たな出願とした特願2014-43903号の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明について、平成27年5月22日に設定登録がされたものである。
これに対し、当該特許について、平成28年1月14日付けの特許異議の申立てがされて、同年3月17日付けの取消理由を通知したところ、特許権者より同年5月23日付けの意見書が提出され、さらに同年8月4日付けの取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者より同年10月11日付けの意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、特許異議申立人より同年11月10日付けの意見書が提出されたものである。

第2.訂正請求について

平成28年10月11日付けの訂正請求は、【請求項1】に「BET比表面積10?16m^(2)/g」と記載されているのを、「BET比表面積12.1?14.8m^(2)/g」(下線は訂正箇所)に訂正するものであって、請求項1に記載された透光性ジルコニア焼結体用粉末の発明において、その発明特定事項であるBET比表面積の範囲をより限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

なお、本件訂正請求において、【表1】の訂正がなされた訂正明細書も提出されたが、該訂正は、訂正請求書に記載のない訂正事項なので採用しない(平成29年1月19日作成の応対記録参照)。

第3.本件発明の認定

本件特許の発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

「安定化剤として2?4mol%のイットリアを含み、アルミナを含有しないジルコニア粉末が、BET比表面積12.1?14.8m^(2)/g、平均粒径0.4?0.7μm、及び、常圧焼結(大気中、昇温速度300℃/時)における相対密度70%から90%までの焼結収縮速度(△ρ/△T:g/cm^(3)・℃)が0.0120以上0.0135以下である透光性ジルコニア焼結体用粉末。」

第4.取消理由について

当審にて訂正前に取消理由として通知した申立理由の一つは、
「本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」(以下、「サポート要件違反」という。)であり、
他の一つは、
「本件発明は、本件特許に係る親出願の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。」(以下、「新規性要件違反」という。)というものである。
そこで、訂正後にこれらの取消理由が解消したか否かについて検討する。

第5.サポート要件違反について

本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0007】には、本件発明の透光性ジルコニア焼結体用粉末の解決しようとする課題が、「焼結体密度及び強度が高く、透光感に優れるジルコニア焼結体を常圧焼結による簡易なプロセスにより製造すること」と記載されているところ、【表1】には、BET比表面積が12.1?14.8m^(2)/gで、焼結収縮速度が0.0120以上0.0135以下である透光性ジルコニア焼結体用粉末によって、相対密度99.8%以上の透光性ジルコニア焼結体が常圧焼結により得られたことが実施例として記載されている。
したがって、請求項1の記載は、当業者が発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、サポート要件違反とはいえない。

第6.新規性要件違反について

特許異議申立人が提出した下記甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、3モル%のイットリアを含み、アルミナを含有しないイットリア安定化ジルコニア多結晶体粉末である東ソー製「TZ-3Y」を出発原料として用い、大気中にて焼結をしたこと及び、当該TZ-3Yの比表面積が15m^(2)/gであったことが記載されている。
すなわち、甲1には、
「安定化のため3モル%のイットリアを含み、アルミナを含有しないジルコニア粉末であって、比表面積が15m^(2)/gであるジルコニア焼結体用粉末。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本件発明と引用発明とを対比すると、少なくとも比表面積において、引用発明が15m^(2)/gであるのに対し、本件発明が12.1?14.8m^(2)/gである点で相違する。
したがって、本件発明は、甲1に記載された発明ではないから、新規性要件違反とはいえない。

なお、特許異議申立人は意見書で、下記甲第2号証(以下、「甲2」という。)に、東ソー製「TZ-3Y」の比表面積が「16.2m^(2)/g」と記載されていることを根拠に、同一製品であっても比表面積の測定値はバラつくから、上記相違点は実質的な差異でないと主張しているが、甲2の記載を考慮しても、引用発明の比表面積の測定値が15?16.2m^(2)/gにバラつくことが推認されるにすぎず、14.8m^(2)/g以下になることを推認できるわけではないから、当該主張は採用できない。

甲1:松井光二「3mol%イットリアドープジルコニア粉末の初期焼結
メカニズム:アルミナの効果」、東ソー研究・技術報告第51巻、
平成19年12月31日、東ソー株式会社発行、9-18頁
甲2:橋本八郎 奥野正充「ジルコニア強化セラミックスの合成に関する
研究-正方晶ジルコニア強化ムライトの合成-」、
福井工業大学研究紀要第31号、平成13年3月20日、
福井工業大学発行、285-291頁

第7.その余の申立理由について

特許異議申立人は特許異議申立書にて、上記甲1,2に加え、下記甲第3?8号証(以下、「甲3?8」という。)も提出し、
「本件発明は、本件特許に係る親出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」とも主張している。

そこで検討するに、「第6.」にて指摘した相違点に係る「安定化のためのイットリアを含み、アルミナを含有しないジルコニア焼結体用粉末の比表面積」について、甲3,5,7には記載も示唆もない。一方、甲4(請求項2等)には、当該粉末の比表面積を5?16m^(2)/gとすること、甲8(124頁等)には、6?14m^(2)/gとすることが記載されているが、これらの粉末の焼結収縮速度は不明である。
してみると、甲4,8の記載により、引用発明の比表面積を変更しても、本件発明が特定する焼結収縮速度が得られるとはいえない。
したがって、本件発明は、甲1?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

甲3:甲1記載の図3(B)に基づく分析結果
甲4:特開2002-255556号公報
甲5:守吉祐介外6名共著「セラミックスの焼結」、内田老鶴圃
1998.8.25、120-121頁,128-131頁
甲6:特開平8-117248号公報
甲7:宮内克己外1名著「オプトセラミックス」技報堂出版株式会社
1984.12.14、76-77頁,112-113頁
甲8:宗宮重行外1名編「ジルコニアセラミックス10」、内田老鶴圃
1989.5.15、123-135頁

第8.むすび

以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤として2?4mol%のイットリアを含み、アルミナを含有しないジルコニア粉末が、BET比表面積12.1?14.8m^(2)/g、平均粒径0.4?0.7μm、及び、常圧焼結(大気中、昇温速度300℃/時)における相対密度70%から90%までの焼結収縮速度(Δρ/ΔT:g/cm^(3)・℃)が0.0120以上0.0135以下である透光性ジルコニア焼結体用粉末。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-19 
出願番号 特願2014-43903(P2014-43903)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原田 隆興末松 佳記正 知晃  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 永田 史泰
大橋 賢一
登録日 2015-05-22 
登録番号 特許第5748012号(P5748012)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法及びその用途  

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