• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1325892
異議申立番号 異議2016-700900  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-21 
確定日 2017-03-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5891587号発明「レトルト冷やし粥」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5891587号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5891587号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成23年2月16日(優先権主張 平成23年1月11日 日本国)を出願日とする出願であって、平成28年3月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 和爾由紀により特許異議の申立てがなされ、平成28年12月6日付けで取消理由が通知され、その指定期間内に平成29年2月1日付けの意見書が提出されたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明
特許第5891587号の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
レトルト粥類を製造するにあたり、少なくとも米と水または調味液とを、耐熱性があるレトルト容器へ充填し密封した後に行なわれる加圧加熱殺菌処理を、123?135℃で5?20分間行なうことを特徴とする、レトルト粥類の製造方法であって、米とともに容器に充填する水または調味液が事前に加熱されていない、方法。
【請求項2】
米が精米である、請求項1記載の方法。」

2 取消理由の概要
本件特許に対し、平成28年12月6日付けで通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。

(1) 取消理由1
ア 本件特許明細書には、レトルト粥類のダマの生成に影響を及ぼすpHおよび粘度について一切記載されておらず、請求項1の記載は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 上記アと同様の理由により、本件発明を実施することができないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2) 取消理由2
ア 本件発明1及び2は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に係る発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 本件発明1及び2は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された甲第5号証ないし甲第9号証に係る発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(3) 甲号証
甲第1号証:特許第5891587号公報(本件特許公報)
甲第2号証:「“お粥並びに雑炊飲料”缶詰の開発」、東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書、1996年、第21号、pp.15-27
甲第3号証:特開平8-231414号公報
甲第4号証:特開2009-207363号公報
甲第5号証:特開2001-149028号公報
甲第6号証:「図解 食品加工プロセス」、株式会社工業調査会、pp.285-287
甲第7号証:「飲料缶詰の製造 III.飲料缶詰の加熱殺菌」、ビバリッジジャパン、1988年11月、No.83、pp.54-57
甲第8号証:「レトルト食品の加熱殺菌におけるレトルト温度プロフィールと品質の変化」、日本包装学会誌、1994年、Vol.3、No.3、pp.152-163
甲第9号証:「最新・ソフトドリンクス」、株式会社光琳、平成15年9月30日、pp.1051

なお、以下、甲各号証を証拠の番号に従って「甲1」などという。

3 各甲号証の記載事項
(1) 甲2に記載された事項
ア 「2.米の塊の生成防止
1)米の塊が出来ないようにする方法
J200グラム缶に洗米10gを詰め,90℃の注液を加えて全量190gにし,直ちに巻締める.殺菌はレトルトで121℃,30分行った.
(1)静置殺菌・冷却後,缶詰に振動,回転を与える方法
静置レトルトで殺菌・冷却を行い,その殺菌後の処理条件を,冷却温度を40℃と60℃に,振動をバイブレータで,回転を缶が天地方向に360度回転する3mのツイスターにかけて行った.
(2)回転殺菌・冷却法
熱水回転殺菌機を用い,レトルト内で缶を天地方向に回転させながら殺菌後,回転させながら冷却した.また,その回転殺菌・冷却中に容器の中で米がどのような挙動を示すか,190g入りの瓶に米と熱水を入れ,殺菌条件を121℃,30分にし,瓶を天地方向に時計回りで5rpmで回転させたときの殺菌・冷却中の米の移動をレトルトの覗き窓から観察し,それを写真撮影した.
2)最適回転数の検討
お粥飲料缶詰を回転殺菌・冷却するときの,最適な回転数を調べる目的で,121℃,30分殺菌し,その時の回転数を2,5,10及び20rpmにして検討した.」(16頁5?19行)

イ 「4.米のデンプンに及ぼすpHの影響
J200グラム缶に洗米10gを入れ,クエン酸を0,0.06,0.045,0.035,0.025,0.02,0.01%添加した熱水で全量を190gにし,巻締後,121℃,30分,5rpmで殺菌・冷却してお粥飲料缶詰を製造した.そのpHは,各々pH6.5,4.0,4.3,4.5,4.7,4.9,5.3であった.
1)お粥飲料の粘度に及ぼすpHの影響
各pHのお粥飲料缶詰を室温で貯蔵し,2ヶ月後までの粘度をB型粘度計(東機産業製DVL-BII形)で測定した.測定条件は,ローターはBLアダプターを付けたNo.5,回転数は1.5rpm,温度は30℃で行った.
2)お粥飲料の米粒の沈降速度に及ぼすpHの影響
米粒の沈降速度は,各pHのお粥飲料缶詰の内容物を200ml入りのガラスコップにあけ,攪拌後,米粒が沈む時間を測定した.」(16頁下から6行?17頁5行)

ウ 「5.雑炊飲料缶詰の貯蔵中の変化
梅入り雑炊飲料缶詰は,J200グラム缶に洗米10g,乾燥梅フレーク1gを入れ,調味料0.7%,食塩0.4%,クエン酸ナトリウム0.08%添加した注液で全量を190gにする.それを巻締め,121℃,30分,2rpmで回転殺菌・冷却して製造した.それを60℃に貯蔵して経時変化を調べた.
鮭入り雑炊飲料缶詰は,J200グラム缶に洗米10g,乾燥鮭フレーク1g,昆布0.5gを入れ,調味料0.7%,食塩0.4%添加した注液で全量を190gにする.それを巻締め,121℃,30分,2rpmで回転殺菌・冷却して製造した.それを60℃に貯蔵して経時変化を調べた.
明太子入り入り雑炊飲料缶詰は,J200グラム缶に洗米10g,乾燥明太子0.7g,昆布0.5gを入れ,調味料0.7%,食塩0.4%添加した注液で全量を190gにする.それを巻締め,121℃,30分,2rpmで回転殺菌・冷却して製造した.それを60℃に貯蔵して経時変化を調べた.」(17頁20?29行)

エ 「2.米の塊の生成防止
成形容器に固形物の比重が注液より高く,粘性を持ったものを詰めたとき,殺菌・冷却工程中に固形物が沈降し,お互いに付着し合い,塊状となって液と分離する.お粥飲料缶詰の場合も静置で殺菌・冷却すると米が塊状になり液と分離する.そのため,その塊が出来ないようにする方法について検討した.」(18頁1行?5行)

オ 「4.米のデンプンに及ぼすpHの影響
1)お粥飲料の粘度に及ぼすpHの影響
お粥の具材として梅等を使用するとpHが低くなる.そのため,pHの違いによるお粥の粘度の経時変化をTable8に示した.粘度は,pH5.3以上では高く,pH4.5以下では低かった.pH4.7,4.9ではその中間の粘度を示した.
また,室温で貯蔵したときは,貯蔵中に粘度は上昇の傾向を示した.


2)お粥飲料の米粒の沈降速度に及ぼすpHの影響
お粥飲料の米粒の沈降速度はTable9に示した.米粒の沈降速度もpHが低くなるに従って速くなり,粘度の場合と同様にpH5.3以上では遅く,pH4.5以下では速く,pH4.7,4,9ではその中間と3段階に分かれた.そのときの米の状態をFig.5に示した.pH4.5以下のものは米の膨


潤が小さく,pHが高くなるに従って大きくなっていった.このことは,pHが低いと米が充分に膨潤していないためと考えられた.」(22頁5行?23頁2行)

カ 以上のような甲2の記載からすると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

「J200グラム缶に洗米10gを詰め、90℃の注液又はクエン酸を添加した熱水で全量190gにし、巻締め後、殺菌をレトルトで121℃、30分行ったお粥の製造方法。」

(2) 甲3に記載された事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記1?5の工程からなることを特徴とする、微量金属を高濃度に含有する魚介類エキスの製造方法。
1.魚介類を採取後急速冷凍処理を施し、
2.該冷凍魚介類をエキス抽出時に冷凍粉砕し、得られた冷凍状のスラリーを熱水中に投入し、75℃以上に加熱後、
3.50?60℃、pH5.0以上9.0未満において、中性領域耐性蛋白分解酵素を添加し、蛋白質をプロテオースにまで分解後、75℃以上に加熱した後、
4.30?60℃に冷却し、任意の酸によりpH2.0以上5.0未満になる様に調整し、酸性領域耐性蛋白分解酵素を反応させ、微量金属結合を多く有するペプタイドアミノ酸に分解し、75℃以上に加熱後、
5.得られた分解液を分離濃縮する。」

イ 「【0017】(実施例1)
アコヤガイエキスの調製
冷凍アコヤガイ4tを冷凍粉砕機によりスラリー状として、攪拌機つき反応缶中の95?100℃の熱水4t中に投入し、80℃、15分間保持する。
【0018】次に55℃に温度を下げ、pH6.2において枯草菌産生蛋白分解酵素3kgを添加し、1.0時間反応させた。
【0019】次いで80℃に昇温し15分間保持した後、40℃になるまで冷却し、食酢によりpH3.5に調整し、枯草菌産生蛋白分解酵素1.5kgを添加し1.0時間反応させる。その後80℃に昇温して、再び酵素を不活化させた。
【0020】この反応液を遠心分離機でエキス層、油層、粉解層に分離し、エキス層をろ過後60℃以下で減圧濃縮してアコヤガイエキスを得た。」

(3) 甲4に記載された事項
ア 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項13】
魚介類成分に乳酸菌を増殖させたものに、酸性培地条件で良好に増殖可能な麹菌を生育させて成ることを特徴とする、一般汚染細菌の少なく高プロテアーゼ活性の高い麹。
【請求項14】
請求項13に記載の麹を魚調味料原料魚介類に少なくとも10?20%添加して成ることを特徴とする魚調味料。
【請求項15】
鰹節生産時に副生する鰹頭、内臓、中骨、尾、鰭等を粉砕し、これに水、食塩及び請求項13に記載の麹を加えて、半分解熟成し、固液分離して得た濾液を加熱殺菌することから成ることを特徴とする魚調味料の製造方法。」

イ 「【実施例4】
【0053】
鰹節を熱水抽出して鰹節出汁を生産する際に副生する鰹節抽出残渣を熱風乾燥して水分を約10%にしたもの5kgと鰹エキス(鰹節生産時の煮汁を減圧濃縮してBRIX値で約60にしたもの)を水で2倍希釈した液0.3l 及び、70%精白麦5kgを一晩水に浸漬した後、4時間水切りをしたものをステンレス容器内で充分攪拌後、120℃、15分加熱殺菌した。30℃迄放冷した後これに乳酸菌Lactococcus lactisの種培養液100mlを接種して充分混合し、30℃で1日培養した。比較例として乳酸菌を接種しないで、後は同様に操作した。1日後Aspergillus saitoi R-3813の胞子を1g接種した。尚、胞子は(株)フジワラテクノ製無菌製麹装置を用いて調製した。3日間培養後、得られた麹に10倍量の緩衝液を添加して5時間抽出し、次いで固液分離を行い、得られた濾過液の酵素活性を測定した。乳酸菌を培養した麹の酵素活性は麹1g当たり45000万単位であった。一方、比較例で得られた麹のプロテアーゼ活性は46000単位であり、両者はほぼ同等の酵素活性を示した。麹の一般汚染細菌数は乳酸菌培養を行った麹では1g麹当たり30であった。一方比較例の麹の場合、一般汚染細菌数は1g麹当たり80000であった。
【実施例5】
【0054】
鰹節生産時に副生する鰹頭、内臓、中骨、尾、鰭等をボーンカッターで粉砕した。この粉砕物2kgに水2L、食塩430g及び実施例4で得られた麹の一部500gを加えて、45℃で1ヶ月半分解熟成を行った。諸味を固液分離して濾過液3Lを得た。濾液を80℃、30分加熱殺菌して魚調味料を得た。 得られた魚調味料の分析値はpH4.3、全窒素1.7%、フォールモール窒素0.8%、食塩17%であり、風味良好な魚調味料であった。」

(4) 甲5に記載された事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 容器の器壁全面がアルミニウム箔層を有している酸素バリア層を含む多層構造からなり、少なくともその一部が該酸素バリア層の内側に配した酸素吸収剤を含有する層を有するレトルト処理可能な耐熱性容器へ米と水を充填して密封した後、レトルト処理せしめるに際し、該レトルト処理可能な耐熱性容器のレトルト処理条件下における酸素吸収可能量が、該耐熱性容器内の米、水及びヘッドスペースに含まれる総酸素量より大きく、レトルト処理後の該容器ヘッドスペース中に酸素が実質的に含まれていないことを特徴とする、レトルト粥食品。
【請求項2】 容器の器壁全面がアルミニウム箔層を有している酸素バリア層を含む多層構造からなり、少なくともその一部が該酸素バリア層の内側に配した酸素吸収剤を含有する層を有するレトルト処理可能な耐熱性容器へ米と水を充填して密封した後、118℃以上に加熱してレトルト処理したことを特徴とする、レトルト粥食品。
【請求項3】 前記レトルト処理可能な耐熱性容器が、容器の器壁全面がアルミニウム箔層を有しているバリア層を含む多層構造からなり、かつ、少なくともその一部が該酸素バリア層の内側に配した鉄粉を主成分とする酸素吸収剤を含有するポリプロピレン又はプロピレン含量が70%以上であるポリプロピレン共重合体からなる層及びポリプロピレン又はプロピレン含量が70%以上であるポリプロピレン共重合体からなるシーラント層を有する多層構造よりなる耐熱性容器であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレトルト粥食品。
【請求項4】米と水の比率が1:5以上であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載のいずれかに記載のレトルト粥食品。
【請求項5】水及びヘッドスペースに含まれる総酸素量が米100g当たり2?10mgとなるように調整した後レトルト処理されていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のレトルト粥食品。」

イ 「【0016】本発明はレトルト粥食品に関する。お粥は通常の精米粥の他に玄米粥を含み、更にこれらは白粥(白米だけの粥)に限られず、調味料やさけ、梅、シソ、卵等の具材が加えられているものも含む。本発明のレトルト粥食品の場合、米と水の比率が米:水=1:5?8のものが好ましい。」

ウ 「【0020】本発明のレトルト粥食品のレトルト処理においては、殺菌のレベル、加熱調理としての食品品質の保持、生産効率及び酸素吸収能力の効果的な発現等を考えると、118℃以上の高温で加熱することが好ましい。」

エ 「【0032】実施例1(白粥レトルトパウチ食品の製造)
次に、以下に示す方法により、250g容量の白粥レトルトパウチ食品を製造した。すなわち、原料精米を丁寧に3回洗米した後、30分間ざる上で自然脱水した。洗米により吸水した精米は1.1倍に増加したので、増加した重量分を水で調整することにした。水は溶存酸素量を0?1.0mg/lとなるように脱気水を調製した。このように調製した米と水を米:水=1:8となるように計量して容器へ充填し、ヘッドスペースが0ccとなるように密封シールした。密封シール後容器の端を少し切り取り、容器内へ空気などの気体が入らない様にシリンジにて空気を20cc注入して再度密封シールした。密封シール品は初期品温(加熱開始)から121℃までの昇温時間を8?12分間とし、ついで121℃にて8分間保持した。これにより米は適度に炊けて加熱調理され、同時に本殺菌された。殺菌終了後冷却してレトルトパウチ製品を得た。」

オ 「【0057】参考例3(レトルト赤飯の製造)
次に、以下に示す方法により、200gのレトルト赤飯を製造した。すなわち、ささげ5gに20gの水を加え、20分間100℃で加熱蒸煮し、水30g、洗米して水切りしたもち米140g、及び食塩0.5gを加えたものをトレー容器1に投入し、ふた材1をかぶせ、ヘッドスペースが約20mlとなるようにふた材を押さえつけながらトレー容器とふた材を熱シール・密封した。密封後125℃で10分間レトルト加熱処理を行い、赤飯Pを得た。」

カ 以上のような甲5の記載からすると、甲5には次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

「耐熱性容器へ米と水を充填して密封した後、118℃以上に加熱してレトルト処理したレトルト粥の製造方法。」

(5) 甲6に記載された事項
ア 「レトルト食品は500種類以上あり,カレー,パスタソース,麻婆豆腐,干焼蝦仁,青椒肉絲など中華合わせ調味料,牛丼,海鮮丼などどんぶりの素,赤飯など米飯類,スープ類,ハンバーグ類,等々,非常に種類が多い。」(285頁左欄18?22行)

イ 「フローシートにレトルトカレーの製造工程を示した。図12.3.1はレトルトカレーの製造工程を概略図で示した。
図12.3.1のようにソースの調合と,野菜および肉の選別,切断,ボイルを並行して行い,パウチに充填する。まず,肉や野菜を別の容器に1袋分ずつ計量して充填,その後,カレーソースをパウチに直接充填する。中味が詰められたパウチは密封する前にできるだけ空気を抜き取り,ヒートシールして密封する。その後殺菌工程に移る。殺菌は高温高圧釜(図12.3.1)を用い通常115?125℃で10?30分程度加熱する。カレーではここで煮込み工程も兼ねており,この時,具材に味を馴染ませる操作も兼ねている。加熱条件は食中毒菌のボツリヌス菌の殺菌条件を指標にしている。最近ではできるだけ殺菌時間を短くして,殺菌効率を上げ,かつ品質向上を目的に120?125℃と高温で10分前後の条件が採用されている。」(285頁右欄28行?287頁左欄2行)

(6) 甲7に記載された事項
ア 55頁右上の<表10 砂糖の汚染とコーヒー缶詰の変敗(55℃,3週間恒温試験)>には、「内容物」が「ミルクコーヒー(250g缶)」に対し、「殺菌条件」が「118℃,20分間(Fo=10)」、「120℃,20分間(Fo=16)」、「121℃,20分間(Fo=20)」、「121℃,30分間(Fo=30)」、「125℃,25分間(Fo=60)」、「125℃,40分間(Fo=100)」、「130℃,25分間(Fo=200)」であることが記載されている。

イ 「この変敗原因菌の耐熱性は極端に大きく,細菌胞子数を10分の1に減少させるのに121℃で40?60分の加熱を要するという報告がある。コーヒー缶詰などの殺菌条件は,120℃で20分の比較的軽いものから,125℃で40分くらいまでのかなり厳しいものまでの種々の条件がとられている。これは121℃で16?100分(Fo=16?100)の加熱殺菌処理に相当する。」(56頁左欄下から4行?中央欄6行)

ウ 「●レトルトによる加熱殺菌効果
レトルトによる適切な加熱殺菌は,レトルト温度と缶内容液が受ける熱効果により決定される。殺菌中における熱伝達に影響する要因としては,○1(注:原文は丸付き数字。以下同様。)内容液の濃度,固形物○2缶の大きさ○3殺菌開始時の液温○4レトルトの種類,構造○5レトルト温度,などが挙げられる。
加熱殺菌のこれらの点を留意すると同時に,製品のpHを考慮して加熱殺菌条件を設定しなければならない。
コーヒー缶詰の殺菌条件は,120?125℃で20?40分,ウーロン茶缶詰は110?120℃で10?30分の加熱殺菌が施されており,その殺菌効果の評価にはF値が使用されている。以下にF値について若干説明する。」(56頁右欄8行?57頁3行)

オ 「いまある飲料缶詰を殺菌する場合,115℃で30分間と120℃で20分間のどちらが殺菌効果が大きいかを比較するのは困難であるので,殺菌効果を比較するための基準とすべき温度を決める必要がある。通常レトルト殺菌する場合は121.1℃(250°F)を基準温度としている。
F値とは食品が基準温度で加熱されたのに相当する時間(分)を表わす。F値は基準温度及び微生物の耐熱性のパラメータZ値により変わるため,一般には基準温度121.1℃,Z値10℃の時のF値をFo値と表示し,殺菌の評価に用いている。」(57頁20行?57頁34行)

(7) 甲8に記載された事項
ア 「加熱殺菌の最適化の研究を最初に行ったのはTeixeiraらであり、Teixeiraらは缶に詰められた伝導食品を一定のレトルト温度で殺菌したときの最適温度は、栄養素などの品質面の物性値であるz値(反応速度を10倍にするのに必要な温度変化)の影響を受けるが、一般に120?140℃の範囲にあることをコンピュータを用いて計算している。」(153頁左欄17?24行)

イ 「一方、レトルトパウチ詰食品については、Yamaguchi、Kishimotoは12?15mmの厚みの伝導食品について、種々のレトルト温度で殺菌を行い、栄養素やテクスチュアは135℃のときに最もよく保存されたと報告している」(153頁左欄下から5行?右欄1行)

ウ 「本報では、Fig.1に示した5種類のレトルト温度プロフィール、すなわち、1)標準型(プロフィール1)、2)上昇傾斜型(プロフィール2)、3)下降傾斜型(プロフィール3)、4)三角型(プロフィール4)、5)台形型(プロフィール5)について、各プロフィールごとに最適な諸条件を検討した。」(155頁左欄7行?右欄5行)

エ 「最適温度は、体積平均を対象にした場合、標準型、上昇傾斜型、下降傾斜型、三角型、台形型の順に、135℃、139℃、135℃、145℃、140℃であり、表面の場合は、124℃、128℃、125℃、135℃、130℃であった。」(163頁左欄2?6行)

(8) 甲9に記載された事項
ア 1051頁の表には、基準温度と同等な効力を有する殺菌温度及び殺菌時間の組合せが記載されている。

4 取消理由1(特許法第36条第6項第1号第36条第4項第1号)について
(1) 特許法第36条第6項第1号について
ア 本件発明は、加圧加熱殺菌処理中において、最適な加熱温度及び加熱時間を設定することにより、温めずにそのまま、あるいは冷やして食べる場合であっても、米同士の結着や容器への付着が解消されている、すなわちダマのないレトルト粥類及びそれを製造する方法を提供することを解決しようとする課題とするものであって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る実施例として、ダマの生成を抑制する加熱温度と加熱時間を特定した実施例1ないし4が具体的に記載されている。また、本件発明は、pHと粘度の最適化を発明の課題とするものではないので、特許請求の範囲に、pHや粘度が特定されていないことを根拠に本件発明1及び2がサポート要件を満たさないとすることはできない。
すると、本件発明1及び2は、当業者が本件発明の課題が解決できることを認識し得るものといえるから、サポート要件に違反するものではない。

イ 申立人は、甲2には、1)「2.米の塊の生成防止」において、粘性を有する固形物が殺菌・冷却工程中に沈降し、お互いに付着し合い、塊状となって液と分離すること(上記3(1)エの記載事項参照)、2)「4.米のデンプンに及ぼすpHの影響」において、pHが低いほど粘度は低く、pHが低いほど米粒の沈降速度が速くなること(上記3(1)オの記載事項参照)が記載されていることから、ダマの生成にpHや粘度が影響を及ぼすこと、pHまたは粘度が低いと、米の沈降・塊状物が生じやすくなるとの技術常識が存在するから、本件発明は、ダマの生じる条件であるpHが低い態様や粘度の低い態様、すなわち本件発明の課題を解決し得ない態様を包含する旨主張している。
しかしながら、上記1)では、pHに関する記載はなくpHがダマの生成に影響を及ぼすことが示されていない。また、固形物の粘性によって、殺菌・冷却工程中に沈降しお互いに付着し合い塊状となることは記載されているが、この粘性がpHによって影響を受けることは示されていない。
上記2)では、pHが低くなると粘度が低下して米の沈降速度が速くなることが示されているが、この粘度は液体の粘度を指していると認められ、固形物である米の粘度を指しているとは認められない。すると、pHと液体の粘度との相関関係、及びpHと沈降速度との相関関係は示されているが、pH及び粘度がダマの生成に影響を及ぼすことが示されたものではない。
そして、上記1)及び2)は別々に行われた試験であることから、その結果が関連付けられるものとは認められない。
そうすると、甲2の記載を以て、お粥飲料缶詰におけるダマの生成にpH及び粘度が影響を及ぼすことが技術常識であるとまではいえず、また、他の証拠をみても米のダマの生成にpH及び粘度が影響を及ぼすことが技術常識であるとはいえないから、申立人の主張は採用できない。

(2) 特許法第36条第4項第1号について
ア 本件特許明細書には、本件発明に係るレトルト粥類の製造方法の実施例が記載されているから、本件発明を当業者がどのように実施するかを理解することができるといえる。

イ 申立人は、魚介のエキスによって調味液のpHが影響されるところ、本件特許明細書には用いた魚介エキスの詳細について一切記載されていないから、このような性状の不明な調味液を用いて製造されるレトルト粥は、ダマの生成の有無が予測できず、表2または表3に示された結果を得るためには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ず、よって、本件発明1及び2を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張している。
しかしながら、上記(1)イで述べたとおり、米のダマの生成にpHが影響を及ぼすことが技術常識であるとはいえないし、また、本件特許明細書の実施例に用いられた魚介エキスの濃度は1.5%であって、さらに水で約2倍に希釈されることから、当該魚介エキスがpHに与える影響が大きいともいえないから、申立人の主張は採用できない。

(3) 上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

5 取消理由2(特許法第29条第2項)について
(1) 本件発明1について
(1-1) 甲2発明を主発明とした場合
ア 対比及び判断
(ア) 本件発明1と甲2発明とを、その用語及び機能に照らして対比すると、甲2発明の「J200グラム缶」、「洗米」、「巻締め」は、それぞれ、本件発明1の「耐熱性のあるレトルト容器」、「米」、「密封」に相当する。
本件発明1の「レトルト粥類」は、粥と雑炊を含むものであるから、甲2発明の「レトルト」処理した「お粥」は、本件発明の「レトルト粥類」に含まれる。
甲2発明の「注液」は、少なくとも水または調味液を含むことは明らかである。
甲2発明の「殺菌をレトルトで」行うことは、本件発明1の「加圧加熱殺菌処理」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「加圧加熱殺菌処理」を「123?135℃で5?20分間行なう」のに対し、甲2発明は、「121℃、30分」行う点。

(イ) 上記相違点1について検討する。
a 本件発明1は、「温めずにそのまま、あるいは冷やして食べる場合であっても、米同士の結着や容器への付着が解消されている、すなわちダマのないレトルト粥類及びそれを製造する方法を提供することを目的とする。」(本件特許明細書【0011】)ことを解決しようとする課題とし、請求項1に記載された事項を構成として含むことにより、「加圧加熱殺菌処理によるレトルト容器内のダマの発生が抑えられた、本発明のレトルト粥類は、温めないで、さらには冷やして食する場合であっても、容器への付着や、ダマの不快な食感がない。従って、冷やし粥として提供することが可能となる」(同【0014】)といった効果を奏するものである。

b これに対し、甲2発明は、加圧加熱殺菌処理によるレトルト容器内のダマの発生を抑制するために、加熱温度及び加熱時間を調整することを想定したものではない。
甲5には、125℃で10分間レトルト加熱処理を行うこと、甲6には、殺菌は高温高圧を用いて115℃?125℃で10?30分程度加熱することが記載されてはいるものの、その対象は前者は赤飯、後者はレトルトカレーであり、レトルト粥類を対象としたものではない。また、甲5及び甲6は、レトルト粥類のレトルト容器内のダマの発生を抑制するために、加熱温度及び加熱時間を調整することを想定したものではない。
また、甲7ないし甲9をみても、レトルト粥類のレトルト容器内のダマの発生を抑制するために、加圧加熱殺菌処理における加熱温度及び加熱時間を調整することの特段の記載はない。

c 本件発明1は、加圧加熱殺菌処理を、123?135℃で5?20分間行なうことによって、既に述べたように格別な効果を奏するものであるから(上記a)、上記相違点1に係る事項を単なる設計的事項とすることはできない。

d そうすると、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できた事項とは認められない。

(ウ) よって、本件発明1は、甲2発明及び各証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1-2) 甲5発明を主発明とした場合
ア 判断及び対比
(ア) 本件発明1の「レトルト粥類」は、粥と雑炊を含むものであるから、甲5発明の「レトルト粥」は、本件発明の「レトルト粥類」に含まれるものである。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2>
本件発明1は、「加圧加熱殺菌処理」を「123?135℃で5?20分間行なう」のに対し、甲5発明は、「118℃以上」で行う点。

(イ) 上記相違点2について検討する。
a 甲5発明は、加熱温度を118℃以上としているが、その具体的な温度及び加熱時間については、121℃で8分間としており(【0032】)、また、レトルト粥のダマの発生の抑制を目的として加熱時間及び加熱温度を調整することを想定したものではない。
また、甲5には、125℃で10分間加熱を行うこと(【0057】)が記載されてはいるものの、その対象は赤飯であり、レトルト粥ではない。

b 上記「(イ) 上記相違点1について検討する。」の「b」で述べたとおり、甲6ないし甲9をみても、レトルト粥類のレトルト容器内のダマの発生を抑制するために、加熱温度及び加熱時間を調整することの特段の記載はない。

c 本件発明1は、加圧加熱殺菌処理を、123?135℃で5?20分間行なうことによって、上記「(イ) 上記相違点1について検討する。」の「a」で述べたように格別な効果を奏するものであるから、上記相違点2に係る事項を単なる設計的事項とすることはできない。

d そうすると、甲5発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できた事項とは認められない。

(ウ) よって、本件発明1は、甲5発明及び各証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件発明2について
上記(1)で述べたとおり、本件発明1は、甲2発明又は甲5発明、及び各証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1を特定するための事項をすべて含む本件発明2は、その余の事項を検討するまでもなく、同様に、甲2発明又は甲5発明、及び各証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1及び2を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-08 
出願番号 特願2011-31177(P2011-31177)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂崎 恵美子  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 窪田 治彦
大山 広人
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5891587号(P5891587)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 レトルト冷やし粥  
代理人 高島 一  
代理人 小池 順造  
代理人 當麻 博文  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 中 正道  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ