• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1325902
異議申立番号 異議2016-701126  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-08 
確定日 2017-03-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5931672号発明「ポリイミド積層体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5931672号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5931672号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年9月24日に出願され、平成28年5月13日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人磯瑠里子により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5931672号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
ポリイミド層の背面側に支持基材を備えたポリイミド積層体であって、ポリイミド層が単層又は複数層からなり、少なくとも支持基材と接する層が含フッ素ポリイミドであると共に、該ポリイミド層の440nmから780nmの波長領域での透過率が70%以上であり、また、ポリイミド層と支持基材との界面における支持基材の表面は、ガラス転移温度Tgが300℃以上の耐熱性ポリイミドにより形成されると共に、表面粗さRaが100nm以下であり、支持基材とポリイミド層との接着強度が1N/m以上500N/m以下であって、支持基材から前記ポリイミド層からなるポリイミドフィルムを分離可能にしたことを特徴とするポリイミド積層体。
【請求項2】
支持基材とポリイミド層との接着強度が5N/m以上300N/m以下である請求項1に記載のポリイミド積層体。
【請求項3】
支持基材における耐熱性ポリイミドが、下記構造単位を有するポリイミドである請求項1又は2に記載のポリイミド積層体。

【請求項4】
ポリイミド層の熱膨張係数が15ppm/K以下である請求項1?3のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項5】
ポリイミド層の厚さが3μm以上50μm以下であり、また、支持基材の厚さが10μm以上100μm以下である請求項1?4のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項6】
支持基材から剥離した後のポリイミドフィルムの剥離面は、表面粗さRaが100nm以下である請求項1?5のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項7】
ポリイミド層の表面側に所定の機能層を形成した後、背面側の支持基材を分離して用いる請求項1?6のいずれかに記載のポリイミド積層体。」(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の甲1?甲7を提出し、請求項1?3、5?7に係る発明は甲1に記載された発明であり、請求項1?7に係る発明は甲1?7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものである旨主張している。
甲1:特開2011-56825号公報
甲2:今井淑夫、「材料基礎講座第2回 ポリイミドの構造と物性」、
エレクトロニクス実装学会誌、2001、Vol.4、No.7、
P.640-646
甲3:特開2009-269988号公報
甲4:特開2007-46054号公報
甲5:国際公開第2010/071145号
甲6:「超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルム カプトン」パンフレット、東レ・デュポン株式会社
甲7:「ユーピレックス」パンフレット、宇部興産株式会社

4.当審の判断
(1)甲1(特に、実施例1、実施例3の記載参照。)には、以下の発明が記載されている(特許異議申立書19頁下から10行?20頁1行)。
「厚さ25μmでTgが336℃のユーピレックスSを支持基材とし、この支持基材上に塗布した、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と無水ピロメリット酸(PMDA)とから調製されたポリアミド酸溶液を、イミド化してポリイミド層を形成してなる積層体であって、積層体からのポリイミド層の剥離強度が3.7N/m以下である積層体、
あるいは、
厚さ75μmでTgが411℃のカプトンHを支持基材とし、この支持基材上に塗布した、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と無水ピロメリット酸(PMDA)とから調製されたポリアミド酸溶液を、イミド化してポリイミド層を形成してなる積層体であって、積層体からのポリイミド層の剥離強度が8.2N/m以下である積層体。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)また、甲1には、以下の事項も記載されている。
「【0019】
ポリイミド樹脂は、公知のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で反応させて製造することができる。用いられるジアミンとしては、例えば、・・・2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、・・・等が挙げられる。
【0020】
また、上記以外のジアミンとして、例えば、・・・2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、・・・等を使用することもできる。」
「【0021】
また、酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、・・・等が挙げられる。
【0022】
また、上記以外の酸無水物として、例えば、・・・2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、・・・等を使用することもできる。」

(3)本件特許発明1と、甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ポリイミド層」の原料の「2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)」と「無水ピロメリット酸(PMDA)」のいずれもフッ素を含有しないから、本件特許発明1と甲1発明は、少なくとも、ポリイミド層の支持基材と接する層が含フッ素ポリイミドであるか否かで相違する。
よって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。

また、本件特許発明1において、ポリイミド層の支持基材と接する層を含フッ素ポリイミドとするのは、「より分離を容易にしたい場合には、支持基材2と接する層に含フッ素ポリイミドを適用することが好ましい。」(本件特許明細書段落【0028】)ためであり、支持基材表面を「ガラス転移温度Tgが300℃以上の耐熱性ポリイミドにより形成されると共に、表面粗さRaが100nm以下」とすることと相まって、本件特許発明1は、「ポリイミド層1との分離が容易である」(同段落【0019】)とされる「支持基材とポリイミド層との接着強度が1N/m以上500N/m以下」とするものである。
一方、甲1には、上記(2)に述べたように、ポリイミド樹脂の原料のジアミンと酸無水物として、それぞれ、フッ素を含有した原料が例示されており、それらの原料を用いてポリイミド樹脂を製造した場合には、ポリイミド層が、含フッ素ポリイミドとなり得るものともいえる。
しかし、甲1には、ポリイミド樹脂の原料のジアミンと酸無水物として、多数のジアミンと酸無水物が例示されており、上記のフッ素を含有するジアミンと酸無水物は、それらの一部にすぎず、それらの多数のジアミンと酸無水物の中から、上記のフッ素を含有した原料を特に選択する理由も記載ないし示唆されていない。
しかも、甲1において、積層体からのポリイミド層の剥離強度が記載されているものの、いずれもフッ素を含有しない原料から製造されたポリイミド層についてのものであり、含フッ素ポリイミドからなるポリイミド層の支持基材からの剥離強度について記載されたものではない。すなわち、甲1は、含フッ素ポリイミドであるポリイミド層と、表面がガラス転移温度Tgが300℃以上の耐熱性ポリイミドにより形成されると共に、表面粗さRaが100nm以下の支持基材とにより、両者の接着強度を1N/m以上500N/m以下とすることができることを、記載ないし示唆するものではない。
さらに、甲2?甲7のいずれにも、含フッ素ポリイミドであるポリイミド層と、表面がガラス転移温度Tgが300℃以上の耐熱性ポリイミドにより形成されると共に、表面粗さRaが100nm以下の支持基材とにより、両者の接着強度を1N/m以上500N/m以下とすることができることについて、記載ないし示唆されていない。
したがって、本件特許発明1は甲1?7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものではない。

(4)本件特許発明2?7は、いずれも本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記のように本件特許発明1は甲1発明ではなく、甲1?7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許発明2、3、5?7は甲1発明ではなく、本件特許発明2?7は甲1?7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものでもない。

5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-14 
出願番号 特願2012-209667(P2012-209667)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B32B)
P 1 652・ 113- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
渡邊 豊英
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5931672号(P5931672)
権利者 新日鉄住金化学株式会社
発明の名称 ポリイミド積層体及びその製造方法  
代理人 佐野 英一  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 佐々木 一也  
代理人 中村 智廣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ