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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1325903
異議申立番号 異議2016-701001  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-20 
確定日 2017-03-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5906840号発明「積層シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5906840号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5906840号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成24年3月14日に出願され、平成28年4月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人小松一枝及び前田知子(以下、「申立人」という。)により本件特許異議の申立てがされ、当審において平成28年11月29日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年1月30日に特許権者より意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1ないし11には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂基材(A)層の少なくとも片側に、樹脂(B)層を有し、
25℃における前記熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層との剥離強度が、0.005N/10mm以上2N/10mm以下であり、
100℃における前記熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層との剥離強度が、0.005N/10mm以上2N/10mm以下であり、
前記熱可塑性樹脂基材(A)層が、環状オレフィン系樹脂を主成分とし、かつa1層とa2層とを有し、
環状オレフィン系樹脂を主成分とする環状オレフィン層(a1層)の少なくとも片面に、環状オレフィン系樹脂を主成分とする環状オレフィン層(a2層)を有する、積層シート。
【請求項2】
下記(I)式を満たす、請求項1に記載の積層シート。
0.5≦{(M_(1)-M_(0))-M_(2)}/(M_(1)-M_(0))×100≦10・・・(I)
ただし、M_(0):熱可塑性樹脂基材(A)層の質量
M_(1):積層シートの質量
M_(2):積層シートから熱可塑性樹脂基材(A)層を剥離し、140℃で30分保管した後の樹脂(B)層を含むシートの質量
【請求項3】
樹脂(B)層が硬化性樹脂を主成分とする、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
熱可塑性樹脂基材(A)層のガラス転移温度が80℃以上であり、
熱可塑性樹脂基材(A)層のガラス転移温度-20℃における破断伸度が200%以下であり、
熱可塑性樹脂基材(A)層のガラス転移温度+20℃における破断伸度が500%以上である、請求項1?3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
積層シートから熱可塑性樹脂基材(A)層を剥離した樹脂(B)層を含むシートの、熱可塑性樹脂基材(A)層のガラス転移温度+20℃における、100%伸長時応力(F100値)が、3MPa以下である、請求項1?4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
X線光電子分光法によって測定される、前記熱可塑性樹脂基材(A)層の少なくとも片面の酸素原子と炭素原子のモル比(酸素原子/炭素原子)が、0.03以上0.15以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の積層シート。
【請求項7】
前記a1層は、環状オレフィン共重合樹脂(以下、COCという)を主成分とし、
前記a2層は、環状オレフィン樹脂(以下、COPという)を主成分とする、請求項1?6のいずれかに記載の積層シート。
【請求項8】
a2層、a1層、a2層が、この順に直接積層された、請求項1?7のいずれかに記載の積層シート。
【請求項9】
前記a1層は、a1層全体100質量%に対して、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂を1?40質量%含むことを特徴とする、請求項1?8のいずれかに記載の積層シート。
【請求項10】
熱可塑性樹脂基材(A)層の少なくとも片側に、樹脂(B)層、装飾(C)層、接着(D)層を、この順に有する、請求項1?9のいずれかに記載の積層シート。
【請求項11】
成型用途に用いられる請求項1?10のいずれかに記載の積層シート。」

第3 取消理由の概要
当審において、本件特許発明1ないし11に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。当該通知で、本件特許異議申立ての全ての取消理由が通知された。
<取消理由>
本件特許の請求項1に記載された「熱可塑性樹脂基材(A)層」が有する「環状オレフィン層(a1層)」は、環状オレフィン系樹脂を100質量%含有するものも含まれると解される。しかし、本件特許の発明の詳細な説明に記載された積層シートは、環状オレフィン層(a1層)が環状オレフィン系樹脂を100質量%含有する場合には、靱性が低く、加熱成形及び加飾層の転写において、所望の加熱成形が円滑に実施できないために、工程中の自然剥離抑制と、成型後の易剥離性を両立した、積層シートを提供するという本件特許発明の課題を解決することができると当業者が認識することができない。
したがって、本件特許の請求項1と、請求項1を直接・間接に引用する請求項2ないし11の記載は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したもの以外の発明を包含しているから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。

第4 判断
本件特許の特許請求の範囲には、上記第2に示したとおりの記載があり、同明細書には以下の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、建材、自動車部品や携帯電話、電機製品などで、溶剤レス塗装、メッキ代替などの要望が高まり、フィルムを使用した加飾方法の導入が進んでおり、三次元形状基材を加飾する方法として、熱可塑性樹脂フィルムに、加飾層を積層し、成型と同時に基材に転写させる方法が知られている。この転写による加飾方法は、成型後に熱可塑性樹脂フィルムを剥離するため、熱可塑性樹脂フィルムと加飾層との剥離性が重要である。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の積層シート、成型用加飾フィルムは、成型後の易剥離性は良好であるが、加熱成型時の自然剥離抑制については不充分であり、成型時に剥離性フィルム層と、硬化性樹脂層とが剥離してしまう場合があり、歩留まりの低下、品位の低下が問題となっていた。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記した問題点を解消することにある。すなわち、工程中の自然剥離抑制と、成型後の易剥離性を両立した、積層シートを提供することにある。」
「【発明の効果】
【0008】
本発明は、積層シートに関するものであり、熱可塑性樹脂基材(A)層の少なくとも片側に、樹脂(B)層が積層されてなり、25℃における前記熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層との剥離強度が、0.005N/10mm以上2N/10mm以下であり、100℃における前記熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層との剥離強度が、0.005N/10mm以上2N/10mm以下であることから、熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層とが成型時の各工程中は自然剥離せず、成型後に容易に剥離することができる積層シートに関する。」
「【0018】
・・・また、本発明の熱可塑性樹脂基材(A)層が環状オレフィン系樹脂を含有する場合、熱可塑性樹脂基材(A)層において環状オレフィン系樹脂が主成分であることが好ましい。ここで主成分とは、熱可塑性樹脂基材(A)層の全成分の合計を100質量%とした際に、環状オレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含有することを意味する。そして熱可塑性樹脂基材(A)層において環状オレフィン系樹脂が主成分の場合には、熱可塑性樹脂基材(A)層は、環状オレフィン系樹脂のみから構成されても、その他のオレフィン系樹脂を含有しても、またオレフィン系樹脂以外の樹脂を含有してもよい。」
「【0020】
本発明において、環状オレフィン系樹脂を含む熱可塑性樹脂基材(A)層は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を含有させることで、押出工程でのせん断応力を低下させることができ、架橋による異物の発生を抑制させることが可能となり、さらに靱性も向上させることができるため好ましい。一方、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の含有量が多くなると、自己保持性が低下傾向となる。品位、靱性、自己保持性の観点から、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂基材(A)層の全成分の合計100質量%に対して、1?40質量%とすることが好ましく、1?30質量%であればさらに好ましく、1?20質量%であれば最も好ましい。・・・」
「【0043】
本発明において、熱可塑性樹脂基材(A)層が、環状オレフィン系樹脂を主成分とする場合、熱可塑性樹脂基材(A)層がa1層とa2層とを有し、環状オレフィン系樹脂を主成分とする環状オレフィン層(a1層)の少なくとも片面に、環状オレフィン系樹脂を主成分とする環状オレフィン層(a2層)を有することが好ましい。」
「【0045】
a2層について、環状オレフィン系樹脂を主成分とするとは、a2層の全成分の合計を100質量%として、環状オレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含有することを意味する。
・・・
【0046】
また、靱性と自己保持性の観点からは、(a1層)中のポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂は、(a1層)全体を100質量%として、1?30質量%であれば好ましく、1?20質量%であれば最も好ましい。」

以上の記載から、本件特許発明は、熱可塑性樹脂フィルムに、加飾層を積層し、成型と同時に基材に転写させることで、三次元形状基材を加飾する方法に用いられる積層シートに関する発明である。(段落【0002】)
そのような積層シートにおいては、成型後の易剥離性は良好であるが、加熱成型時の自然剥離抑制については不充分であり、成型時に剥離性フィルム層と、硬化性樹脂層とが剥離してしまう場合があり、歩留まりの低下、品位の低下が問題となっていた。(段落【0005】)
そこで、本件発明は、「工程中の自然剥離抑制と、成型後の易剥離性を両立した、積層シートを提供する」ことを課題とするものである。(段落【0006】)
そのために、上記第2に示した本件特許発明1ないし11とすることで、本件特許発明1ないし11は、「積層シートに関するものであり、熱可塑性樹脂基材(A)層の少なくとも片側に、樹脂(B)層が積層されてなり、25℃における前記熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層との剥離強度が、0.005N/10mm以上2N/10mm以下であり、100℃における前記熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層との剥離強度が、0.005N/10mm以上2N/10mm以下であることから、熱可塑性樹脂基材(A)層と樹脂(B)層とが成型時の各工程中は自然剥離せず、成型後に容易に剥離することができる」、との効果を奏するものである。(段落【0008】)
ここで、「本発明の熱可塑性樹脂基材(A)層が環状オレフィン系樹脂を含有する場合、熱可塑性樹脂基材(A)層において環状オレフィン系樹脂が主成分であることが好ましい。」(段落【0018】)さらに、「熱可塑性樹脂基材(A)層において環状オレフィン系樹脂が主成分の場合には、熱可塑性樹脂基材(A)層は、環状オレフィン系樹脂のみから構成されても、その他のオレフィン系樹脂を含有しても、またオレフィン系樹脂以外の樹脂を含有してもよい」(段落【0018】)ところ、「環状オレフィン系樹脂を含む熱可塑性樹脂基材(A)層は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を含有させることで、押出工程でのせん断応力を低下させることができ、架橋による異物の発生を抑制させることが可能となり、さらに靱性も向上させることができるため好ましい。」(段落【0020】)

以上をまとめると、本件特許の積層シートを構成する熱可塑性樹脂基材(A)層について、環状オレフィン系樹脂のみから構成することが可能であり、熱可塑性樹脂基材(A)層を、a1層とa2層と二層から構成した場合、a1層は、環状オレフィン系樹脂のみから構成されることが、上記本件特許明細書の記載から、当業者は理解できる。
また、環状オレフィン系樹脂に加えて、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を含有させると、押出工程でのせん断応力を低下させることができ、架橋による異物の発生を抑制させることが可能となり、さらに靱性も向上させることができるために「好ましい」ことが、上記本件特許明細書の記載から、当業者は理解できる。
しかし、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を含有させずに、環状オレフィン系樹脂を100質量%含有する場合に、架橋による異物の発生や靱性が向上しないことにより上記本件発明の課題が達成できないことが、本件特許明細書に記載のものではなく、この点が技術常識であるとすることもできない。
そうすると、上記第3で示した取消理由である「環状オレフィン系樹脂を100質量%含有する場合」においても、本件特許発明の課題を解決できることが、本件特許の発明の詳細な説明の記載から理解できるから、当該取消理由によって、本件特許発明1ないし11が、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではない、ということはできず、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものではない。

第5 むすび
上記第4に示したとおり、本件特許1ないし11は、通知した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1ないし11を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-16 
出願番号 特願2012-56692(P2012-56692)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 高橋 祐介
久保 克彦
登録日 2016-04-01 
登録番号 特許第5906840号(P5906840)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 積層シート  

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