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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29D
管理番号 1326191
審判番号 不服2015-8911  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-13 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2013-552519号「異形タイヤインナーライナー及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日国際公開、WO2012/106027、平成26年 4月17日国内公表、特表2014-509274号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2011年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月1日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月31日付けで手続補正書が提出され、平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月4日付けで意見書が提出されたが、平成27年1月6日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年5月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、平成28年4月13日付けで拒絶理由が通知され、同年9月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?7に係る発明は、平成28年9月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項4】
タイヤインナーライナーの製造方法であって、
エラストマーとエンジニアリング樹脂の動的加硫アロイの押し出しフィルムを提供する工程であって、前記フィルムは実質的に一様なゲージを有する工程、次いで、押し出されたフィルムをカレンダー掛けして異形タイヤインナーライナーを提供する工程を含み、
前記タイヤインナーライナーは、タイヤ構築方法の前のインナーライナーの最も厚い部分及び最も薄い部分における厚さが25%より大きく異なるように異形形態であることを特徴とする、製造方法。」

2.引用文献
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
当審の拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-220460号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。以下同様。

「【0005】
本発明の目的は、インナーライナー用シート材として、特に、クラックが入りにくいことから空気漏れ防止効果が大きく、かつ剥がれにくいという優れた特性を持つ空気入りタイヤ用インナー材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤ用インナー材料の製造方法は、以下の(1)の構成からなる。
【0007】
(1)熱可塑性樹脂が海成分、ゴムが島成分である熱可塑性エラストマー組成物を押出口金からシート状に押出成形して空気入りタイヤ用インナーライナーを製造する方法であって、口金スリットの断面形状を、該スリットのセンター部からスリット両端部の間に厚肉押出部を有するとともに、スリット長さ方向の厚み変化部分長さΔlに対する厚み増加分Δtの比率(%)を0.01?10%とした押出口金を用いて押出成形することを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー材料の製造方法。
【0008】
また、かかる本発明の空気入りタイヤ用インナーライナー材料の製造方法において、より具体的に好ましくは、以下の(2)の構成を有するものである。
【0009】
(2)前記熱可塑性樹脂がナイロン系樹脂であり、ゴムがブチル系ゴムであることを特徴とする上記(1)記載の空気入りタイヤ用インナーライナー材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インナーライナー用シート材として、シート成形方向をタイヤの周方向に一致させてインナーライナーとして用いることにより、タイヤ子午線方向断面の特定位置のインナーライナー部を厚肉の構造とすることができるインナーライナー用シート材を製造できる。
【0011】
本発明によれば、インナーライナーにしたときに、クラックが入りにくいことから空気漏れ防止効果が大きく、かつ剥がれにくいという優れた特性を持つ空気入りタイヤ用インナー材料を製造でき、空気漏れ性能が向上し耐久性に優れ、かつ、タイヤ内表面との接着性能にも優れているインナーライナーを有するタイヤが提供される。」

「【0018】
本発明において使用される熱可塑性樹脂が海成分、ゴムが島成分である熱可塑性エラストマー組成物について、該海成分の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、・・・ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)などが好ましく使用できる。
【0019】
島成分であるゴムとしては、例えば、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、含ハロゲンゴム〔例えば、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)などを好ましく使用できる。」

「【0023】
以下の実施例と比較例において熱可塑性エラストマー組成物は、表1に記載したとおりの配合としたものであり、その製造は、ゴムおよび架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。一方、樹脂と可塑剤を2軸混練機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間、最大剪断速度1200s^(-1)で混練してペレット化し、得られた樹脂組成物と前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練機(日本製鋼所製)にて270℃で3分間混練して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
【0024】
このペレットを共通に使用し以下に示した各例のようにして、それぞれ空気入りタイヤのインナーライナー材料としてシート状物を作製した。」

【0025】の【表1】には、ゴムとしてBr-IPMS、樹脂としてナイロン6(N6)とナイロン66(N66)が示されている。

「【0027】
実施例1
T-ダイのリップクリアランスを図3の形状および寸法にした幅400mmのダイに、押出機口径D=40mmとし、押出機長さLmmをL/D=28とした押出機を接続し、250℃で熱可塑性エラストマー組成物をシート状に成形した。リップクリアランスにおけるΔlに対する厚み増加分Δtの比率(%)は、4箇所の厚み変化部のそれぞれが全て(Δt/Δl)=0.5%であった。
成形後、両端の12.5mmをカッターで落とし、得られた総幅375mmのシートをインナーライナーとして使用した。薄肉部の平均厚みは90μm、厚肉部の平均厚みは180μmであった。」

「【0030】
以上の参考例1、実施例1、比較例1、2の各インナーライナー用シート材を用いて、各シートに下記組成の接着剤を塗布し、所定長さでカットしシート成形方向がタイヤの周方向と一致するようにしてタイヤ内表面に貼り合わせ、195/65R15の空気入りタイヤを製造した。加硫時間は180℃、10分であった。」

以上の記載事項及び【図3】の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「Br-IPMSのゴム、架橋剤、ナイロン6(N6)とナイロン66(N66)の樹脂、可塑剤及び変性ポリオレフィンからなる空気入りタイヤ用インナーライナーの製造方法であって、
ゴムおよび架橋剤を密閉型バンバリーミキサーにて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製しペレット状に加工し、
樹脂と可塑剤を2軸混練機にて混練してペレット化し、得られた樹脂組成物と前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練機にて270℃で3分間混練して得られた熱可塑性エラストマー組成物を、
口金スリットの断面形状が、スリットのセンター部からスリット両端部の間に厚肉押出部を有する押出口金からシート状に押出成形し、薄肉部の平均厚みを90μm、厚肉部の平均厚みを180μmとしたシート材とし、
当該シート材を所定長さでカットし、シート成形方向がタイヤの周方向と一致するようにしてタイヤ内表面に貼り合わせたときに、タイヤ子午線方向断面の特定位置のインナーライナー部を厚肉の構造とした、
空気入りタイヤ用インナーライナーの製造方法。」

(2)引用文献2に記載された事項
当審の拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特表2009-513436号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0094】
用語「動的加硫」は、本明細書に於いて、エンジニアリング樹脂及びゴムを、硬化剤の存在下で、高い剪断及び上昇した温度の条件下で混合する加硫方法を示すために使用される。その結果、ゴムは、同時に架橋され、微細な粒子として、例えばミクロゲルの形で、連続マトリックスを形成するエンジニアリング樹脂の中に分散され、得られる組成物は、「動的に加硫されたアロイ」又はDVAとして当前記技術分野で知られている。動的加硫は、成分を、ロールミル、バンバリー(登録商標)ミキサー、連続ミキサー、ニーダー又は混合押出機(例えば二軸スクリュー押出機)のような装置を使用して、ゴムの硬化温度又はそれ以上である温度で混合することによって実施される。・・・
【0095】
動的加硫プロセスは、エラストマー性ハロゲン含有コポリマーを、少なくとも部分的に、好ましくは完全に加硫するための条件で実施される。これを達成するために、熱可塑性エンジニアリング樹脂、エラストマー性コポリマー及び任意の他のポリマーを、樹脂を軟化させるために十分な温度で又は更に一般的に、結晶性若しくは半結晶性樹脂の融点よりも高い温度で、一緒に混合する。好ましくは、硬化系を、エラストマー成分中に予備混合する。加硫温度での加熱及び混練は、一般的に、約0.5?約10分間以内に加硫を完結するために適切である。加硫の温度を上昇させることによって、加硫時間を短縮することができる。加硫温度の適切な範囲は、典型的には、熱可塑性樹脂のほぼ融点から約300℃までであり、例えばこの温度はマトリックス樹脂のほぼ融点から約275℃までの範囲であってよい。好ましくは、加硫はマトリックス樹脂の溶融温度よりも約10℃?約50℃高い温度範囲で実施する。」

【0115】の【表2】には、DVAのインナーライナー層の例が示されている。

「【0116】
「DVA」はエンジニアリング樹脂、例えばナイロン及びハロゲン化した、好ましくは臭素化した、イソブチレン-パラメチルスチレンエラストマーを含む、動的に加硫された組成物を指し、・・・」

「【0128】
表2に列挙した組成物又は配合物に従って、実施例7の熱可塑性エラストマー性インナーライナー層を、動的加硫混合方法及び二軸スクリュー押出機を使用して、230℃で製造した。DVAは、欧州特許出願公開第0 969 039号に記載された手順に従って、「熱可塑性エラストマー組成物の製造(Production of Thermoplastic Elastomer Composition)」と題するセクションを特に参照して製造した。エラストマー成分及び加硫システムをニーダーの中に装入し、約3.5分間混合し、約90℃で取り出して、加硫システムを含有するエラストマー成分を製造した。次いで、この混合物を、ゴムペレタイザーによってペレットにした。次に、このエラストマー成分及び樹脂成分を、二軸スクリュー混合押出機の中に装入し、そして動的に加硫して、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。」

(3)引用文献3に記載された事項
当審の拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-239861号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤ内側にインナーライナーを設けた空気入りタイヤの製造方法に関わり、更に詳しくは、不必要にインナーライナーを厚することなく、リフト後におけるインナーライナーの厚さを充填される空気の内圧を保持可能な所定の最小厚さとなるように均一的にすることができる空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】タイヤ内側に配設されるインナーライナーは、充填される空気の内圧を保持するため、所定の最小厚さを確保するようになっている。この未加硫ゴムからなるインナーライナーは、グリーンタイヤ成型時、成形ドラムのリフトに応じて伸長される。特に、クラウン部での伸びが大きく、リフト後におけるインナーライナーの厚さがそのクラウン部で最も薄くなる。
【0003】そこで、従来、クラウン部が伸長して薄くなっても所定の最小厚さを確保することができるように、その変動を考慮してインナーライナー全体の肉厚が設定されていた。そのため、リフトが殆ど加わらないビード部や、伸びの小さい他の部分では、不必要にインナーライナーが厚くなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、不必要にインナーライナーが厚くなることがなく、リフト後におけるインナーライナーの厚さを所定の最小厚さで均一的にすることができ、軽量化及び低コスト化を図ることが可能な空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明は、タイヤ内側に空気不透過性の未加硫ゴムからなるインナーライナーを設けて空気入りタイヤを製造する際に、該インナーライナーを、そのクラウン部における肉厚よりもビード部側における肉厚を薄く構成し、かつ前記クラウン部の肉厚G_(C)とビード部の肉厚G_(B)との比G_(C)/G_(B)を1.3?2.3にしたことを特徴とするものである。
【0006】このようにインナーライナーのクラウン部の肉厚をリフト時の伸長に応じて厚くする一方、伸びの少ないビード部側の肉厚をそれに応じて薄くし、それらの肉厚の比G_(C)/G_(B)を上記のように設定することにより、クラウン部がリフトにより伸長して薄くなっても所定の最小厚さを確保することができ、リフトが殆ど加わらないビード部や、伸びの小さい他の部分では、それに応じて始めから肉厚を薄く形成しているため、不必要にインナーライナーが厚くなることがない。
【0007】そのため、リフト後におけるインナーライナーの厚さを均一的にし、充填される空気の内圧を保持可能な所定の最小厚さにすることができる。従って、重量を軽減して軽量化に寄与することができ、かつインナーライナーを構成する材料も少なくて済むので、コストを低下させることができる。」

「【0010】・・・本発明では、上記成形ドラム上に巻付けられる空気不透過性の未加硫ゴムからなるインナーライナー6’が図2に示すようなタイヤ径方向断面形状になっている。
【0011】即ち、従来のインナーライナーは、そのクラウン部が伸長して薄くなっても所定の最小厚さを確保することができるよう、それに合わせた厚さにインナーライナー全体が形成され、その断面形状が矩形状になっていたが、本発明では、リフト時に特に伸長するインナーライナー6’のクラウン部6'aにおける肉厚を従来同様厚くする一方、それよりも伸びが少ない箇所では、その肉厚を薄くし、従来よりも伸びの少ない箇所でその肉厚を薄くした分だけ軽量にし、かつ使用材料を減らした分だけ低コストにすることができるようになっている。図2では、カーカス層が貼り合わされるインナーライナー6’の面6'_(A)が、曲面状に形成され、クラウン部6'cの中央部を最も肉厚を大きくし、そこから両端部のビート部6'bに向けて次第に肉厚が薄くなるようにしている。成形ドラム側の面6'Bは平面状である。
【0012】上記クラウン部6'cの肉厚G_(C) とビード部6'bの(エッジでの)肉厚G_(B)との比G_(C)/G_(B)は、1.3?2.3の範囲(タイヤ仕様により異なるため、その範囲内で適宜選択)に設定され、そのビード部6'bにおける肉厚G_(B) を充填される空気の内圧を保持可能な最小厚さにした時に、伸長して薄くなったリフト後のクラウン部6'cもその空気圧を保持可能な最小厚さとなるようにしている。なお、6'dはインナーライナー6’のショルダー部、6'eはインナーライナー6’のバットレス部、6'fはインナーライナー6’のサイドウォール部である。
【0013】このように本発明は、タイヤ内側に空気不透過性の未加硫ゴムからなるインナーライナー6’を設けて空気入りタイヤを製造する際に、そのインナーライナー6’のクラウン部6'cの肉厚をリフト時の伸長に応じて厚くする一方、伸びの少ないビード部側の肉厚をそれに応じて薄くし、それらの肉厚の比G_(C)/G_(B)を上記の範囲に設定することにより、クラウン部がリフトにより伸長して薄くなっても所定の最小厚さを確保することができる一方、リフトが殆ど加わらないビード部や、伸びの小さい他の部分では、それに応じて始めから肉厚を薄くしているので、不必要にインナーライナーが厚くなることがなく、リフト後におけるインナーライナーの厚さを充填される空気の内圧を保持可能な所定の最小厚さで、均一的にすることができる。従って、タイヤの軽量化及び低コスト化を図ることができる。」

「【0014】上記のように肉厚の異なるインナーライナー6'aは、予め押し出されたシート状材料xを、図3のように、近接配置した上下一対のローラーR1,R2の間を通過させてカレンダー処理をし、それをローラーR1,R2の左右に配設されたカッターC1,C2により所定幅に切断することにより得ることができる。上記上側のローラーR1は、その外周面が上記インナーライナー6'aのカーカス層側の曲面を形成するように、それに沿って内側に窪んだ曲面状に形成されている。このようにカレンダー処理により形成したシート材x' をカッターC1,C2で切断してインナーライナー6'aとすることにより、タイヤ仕様によりインナーライナー6'aの幅が異なっても、切断する位置を変えるだけで、上記ローラーR1,R2により容易に得ることができる。
【0015】また、タイヤ仕様により厚さの異なるインナーライナー6'aを成形する場合には、上記ローラーR1,R2間の間隙を調整することにより、容易に対応することができる。本発明では、上記インナーライナー6'aをクラウン部6'aの中央部から両ビート部6'cに向けて次第に肉厚を小さくする構成にしたが、それに限定されず、例えば、クラウン部6'aの肉圧を同一の厚さにし、そのクラウン部6'aの両端からビード部側に向けて次第に薄くなるようにしてもよく、また、必要に応じて、クラウン部6'aから両ショルダー部6'bにかけての肉圧を上記肉厚G_(C)のように形成し、そのショルダー部6'bからビード部側に向けて次第に薄くなるようにしてもよい。」

3.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

本願の明細書には次の記載がある。
「【0007】
定義
現在記載される発明に適用し得る定義は以下に記載されるとおりである。
“ゴム”はASTM D1566 定義:“大きい変形から回復でき、かつそれが沸騰溶媒に本質的に不溶性である(が膨潤し得る)状態に変性でき、又は既に変性されている材料”と合致するあらゆるポリマー又はポリマーの組成物を表す。更に、ゴムは無定形材料である。エラストマーはゴムという用語と互換可能に使用し得る用語である。エラストマー組成物は先に定義された少なくとも一種のエラストマーを含むあらゆる組成物を表す。
ASTM D1566により定義される、加硫ゴムコンパウンドは、“変形力の除去後にほぼその初期の寸法及び形状に迅速に、力強く回復し得る小さい力による大きい変形を受け易い、エラストマーから配合された架橋弾性材料”を表す。硬化エラストマー組成物は硬化プロセスを受け、かつ/又は有効量の硬化剤もしくは硬化パッケージを含み、もしくはこれらを使用して製造されるあらゆるエラストマー組成物を表し、加硫ゴムコンパウンドという用語と互換可能に使用される用語である。」
「【実施例】
【0057】
この実施例に使用したタイヤインナーライナーは63 phrのナイロン6/66(UBE 5033B)及び100 phr の臭素化ポリ(イソブチレン-コ-p-メチルスチレン)(0.75モル%のBr、そのコポリマー中の5質量%のパラメチルスチレン)と27 phrのブチル-ベンジルスルホンアミド(“BBSA”)と10 phrのマレイン化エチレン-エチルアクリレート、2.5 phr のSG2000タルク及び1 phr未満のイルガノックスTM1098、チヌビンTM 622LD、ヨウ化銅、酸化亜鉛、ステアリン酸Zn、及びステアリン酸の夫々の異形キャストDVA インナーライナーであった。・・・」
上記記載によれば、本願発明においては、「エラストマーはゴムという用語と互換可能に使用し得る用語」であり、実施例に用いられるエラストマーは「臭素化ポリ(イソブチレン-コ-p-メチルスチレン)」であることに鑑みれば、後者の「Br-IPMSのゴム」は、前者の「エラストマー」に相当する。

後者の「ナイロン6(N6)とナイロン66(N66)の樹脂」は、本願の明細書の段落【0057】(上記アを参照)の記載に鑑みれば、前者の「エンジニアリング樹脂」に相当する。

後者の「Br-IPMSのゴム」と「ナイロン6(N6)とナイロン66(N66)の樹脂」とを含んだ「熱可塑性エラストマー組成物」は、前者の「エラストマーとエンジニアリング樹脂の動的加硫アロイ」と、「エラストマーとエンジニアリング樹脂の組成物」である限りにおいて一致する。

後者の「熱可塑性エラストマー組成物を、口金スリットの断面形状が、該スリットのセンター部からスリット両端部の間に厚肉押出部を有する押出口金からシート状に押出成形し」、「当該シート材を所定長さでカット」することは、出来上がったシートを「シート成形方向がタイヤの周方向と一致するようにしてタイヤ内表面に貼り合わせたときに、タイヤ子午線方向断面の特定位置のインナーライナー部を厚肉の構造と」するものであるので、異形のインナーライナーを作成する工程といえ、前者の「エラストマーとエンジニアリング樹脂の動的加硫アロイの押し出しフィルムを提供する工程であって、前記フィルムは実質的に一様なゲージを有する工程、次いで、押し出されたフィルムをカレンダー掛けして異形タイヤインナーライナーを提供する工程」と、「エラストマーとエンジニアリング樹脂の組成物の異形タイヤインナーライナーを提供する工程」である限りにおいて一致する。

後者の押出口金からシート状に押出成形したものを「薄肉部の平均厚みを90μm、厚肉部の平均厚みを180μmとしたシート材と」することは、当該シート材がタイヤ加硫前にタイヤ内表面に張り合わされるものであるのでタイヤ構築前のものといえ、薄肉部の平均厚み90μmと、厚肉部の平均厚み180μmとは、どちらを基準にしても25%より大きく異なるので、前者の「タイヤインナーライナーは、タイヤ構築方法の前のインナーライナーの最も厚い部分及び最も薄い部分における厚さが25%より大きく異なるように異形形態であること」に相当する。

後者の「空気入りタイヤ用インナーライナーの製造方法」は、前者の「タイヤインナーライナーの製造方法」に相当する。

そうすると両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「タイヤインナーライナーの製造方法であって、
エラストマーとエンジニアリング樹脂の組成物の異形タイヤインナーライナーを提供する工程を含み、
前記タイヤインナーライナーは、タイヤ構築方法の前のインナーライナーの最も厚い部分及び最も薄い部分における厚さが25%より大きく異なるように異形形態である、製造方法。」
〔相違点1〕
本願発明は、インナーライナーが、エラストマー及びエンジニアリング樹脂の「動的加硫アロイ」を含むものであるのに対して、引用発明は、空気入りタイヤ用インナーライナーが、「ゴムおよび架橋剤を密閉型バンバリーミキサーにて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製しペレット状に加工し、樹脂と可塑剤を2軸混練機にて混練してペレット化し、得られた樹脂組成物と前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練機にて270℃で3分間混練して得られた熱可塑性エラストマー組成物をシート材としたもの」からなる点。
〔相違点2〕
本願発明は、エラストマーとエンジニアリング樹脂の動的加硫アロイの押し出しフィルムを「提供する工程であって、前記フィルムは実質的に一様なゲージを有する工程、次いで、押し出されたフィルムをカレンダー掛けして異形タイヤインナーライナーを提供する工程を含」むものであるのに対して、引用発明は、「口金スリットの断面形状が、スリットのセンター部からスリット両端部の間に厚肉押出部を有する押出口金からシート状に押出成形し」、「当該シート材を所定長さでカット」するものである点。

(2)判断
上記各相違点について以下検討する。
ア 相違点1について
引用文献2には、
記載事項(ア):「動的に加硫されたアロイ」又は「DVA」として知られている組成物は、バンバリーミキサーと混合押出機(例えば二軸スクリュー押出機)のような装置を使用して、熱可塑性エンジニアリング樹脂、エラストマー性コポリマー及び任意の他のポリマーを、樹脂を軟化させるために十分な温度で又は更に一般的に、結晶性若しくは半結晶性樹脂の融点よりも高い温度、典型的には熱可塑性樹脂のほぼ融点から約300℃までで、約0.5?約10分間一緒に混合する加硫方法で得られること(上記2.(2)キを参照)、
記載事項(イ):「DVA」は「エンジニアリング樹脂、例えばナイロン」と「ハロゲン化した、好ましくは臭素化した、イソブチレン-パラメチルスチレンエラストマー」とを含むものであること(上記2.(2)ケを参照)、
が記載されている。
引用文献2の上記記載事項(イ)によれば、引用発明の「ナイロン」と「Br-IPMSのゴム」とは、「DVA」を構成しうる材料であるといえる。
また、引用文献2の上記記載事項(ア)によれば、引用発明の「ゴムおよび架橋剤を密閉型バンバリーミキサーにて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製しペレット状に加工し、樹脂と可塑剤を2軸混練機にて混練してペレット化し、得られた樹脂組成物と前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練機にて270℃で3分間混練」することは、「動的に加硫されたアロイ」又は「DVA」を得るための製造方法といえる。
そうすると、引用発明の「ゴムおよび架橋剤を密閉型バンバリーミキサーにて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製しペレット状に加工し、樹脂と可塑剤を2軸混練機にて混練してペレット化し、得られた樹脂組成物と前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練機にて270℃で3分間混練して得られた熱可塑性エラストマー組成物」からなる空気入りタイヤ用インナーライナーは、エラストマー及びエンジニアリング樹脂の動的加硫アロイを含むタイヤインナーライナーであるといえ、引用発明は、相違点1に係る本願発明の構成を備えているといえる。

仮に、引用発明の空気入りタイヤ用インナーライナーが動的加硫アロイを含むものでないとしても、引用文献2には、DVAからなるタイヤインナーライナー層が記載されており(上記2.(2)コを参照)、同様の材料からなる引用発明の空気入りタイヤ用インナーライナーに適用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

イ 相違点2について
引用文献3には、
記載事項(ウ):カーカス層が貼り合わされる面6'_(A)が、曲面状に形成され、クラウン部6'cの中央部を最も肉厚を大きくし、そこから両端部のビート部6'bに向けて次第に肉厚が薄くなるようにしたインナーライナー6’を(上記2.(3)シを参照)、
記載事項(エ):予め押し出されたシート状材料xを、外周面が内側に窪んだ曲面状に形成されている上側のローラーR1と、近接配置された下側のローラーR2の間を通過させてカレンダー処理をし、それをローラーR1,R2の左右に配設されたカッターC1,C2により所定幅に切断することにより得る(上記2.(3)スを参照)、
ことが記載されている。
引用文献3の、クラウン部6'cの中央部の肉厚を大きくし、両端部のビート部6'bに向けて次第に肉厚が薄くなるようにしたインナーライナー6’は、厚さが一様ではないので、異形のインナーライナーといえる。
また、引用文献3の、予め押し出されたシート状材料xは、カレンダー処理により異形形状とする工程に提供されるものであり、通常、カレンダー処理にかけられるシート状材料は概ね一様な厚さのものであるので、前記シート状材料xも概ね一様な厚さのものと認められる。
そうすると、引用文献3には、上記記載事項(ウ)、(エ)によれば、「概ね一様な厚さのシート状材料を押し出す工程と、そのシート状材料を、近接配置した上下一対のローラーの間を通過させてカレンダー処理をし、異形のインナーライナーを得る工程」が記載されているといえる。
カレンダー処理により、部分的に厚さの異なるシート状物を得ることは、特に例示するまでもなく周知の事項であり、また、引用文献3にも記載されているように、タイヤのインナーライナーの製造に用いられることも周知であるといえる。
断面形状が異形形状のシート状物を得るための方法として、押出成形による方法、カレンダー処理による方法はいずれも周知慣用の方法であり、どの方法を採用するかは、当業者が適宜に選択しうる設計事項といえる。
そうしてみると、引用発明の押出成形による方法に代えて、引用文献3に記載されているような周知のカレンダー処理による方法を採用し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえる。

そして、本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものとは認められない。

よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項4に係る発明(本願発明)は、引用発明、引用文献2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-12 
結審通知日 2016-10-17 
審決日 2016-10-31 
出願番号 特願2013-552519(P2013-552519)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 誠水野 治彦  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 氏原 康宏
平田 信勝
発明の名称 異形タイヤインナーライナー及びその製造方法  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 田代 玄  
代理人 市川 さつき  
代理人 辻居 幸一  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 山崎 一夫  

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