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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1326198
審判番号 不服2015-22505  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-22 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2011- 40449「医学的な超音波診断におけるボリューム定量化方法および医学的な超音波診断におけるボリューム定量化のためにプログラミングされたプロセッサによって実行される命令を表すデータが記憶されているコンピュータ読取り可能記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 8日出願公開、特開2011-172933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年2月25日(パリ条約による優先権主張:2010年2月25日(US)米国)を出願日とする特許出願であって、平成26年10月31日付けで拒絶理由が通知され、平成27年4月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月13日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同月24日に請求人に送達された。
これに対し、同年12月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、それと同時に手続補正書が提出された。
その後、平成28年3月11日に前置報告書が作成されたものである。


第2 平成27年12月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月22日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおりに補正する補正事項をその一部に含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
医学的な超音波診断におけるボリューム定量化方法において、
患者のボリュームを表すBモード超音波データおよびフロー超音波データを実質的に同時に取得(30)し、
前記ボリューム内に存在する、フロー領域である少なくとも2つの関心領域を、前記Bモード超音波データに応じて、前記フロー超音波データに応じて、または前記Bモード超音波データおよび前記フロー超音波データに応じて識別(32)し、
前記フロー超音波データに応じて、前記少なくとも2つの関心領域に関してフロー量を計算(38)することを特徴とする、ボリューム定量化方法。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
医学的な超音波診断におけるボリューム定量化方法において、
患者のボリュームを表すBモード超音波データおよびフロー超音波データを実質的に同時に取得(30)し、
前記ボリューム内に存在する、フロー領域である少なくとも2つの関心領域を、前記Bモード超音波データに応じて、または、前記Bモード超音波データおよび前記フロー超音波データに応じて識別(32)し、
前記フロー超音波データに応じて、前記少なくとも2つの関心領域に関してフロー量を計算(38)することを特徴とする、ボリューム定量化方法。」(以下、「本件補正発明」という。)(下線は、本件補正による補正箇所を示す。)

(2)本件補正の目的について
上記請求項1についての補正事項は、本件補正前の請求項1において「前記フロー超音波データに応じて、」との択一的記載の要素を削除することにより、特許請求の範囲を減縮するとともに、「関心領域の識別」に関する発明特定事項を限定するものであって、それらにより、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないから、当該補正事項による補正の目的は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2 独立特許要件についての検討
(1)特許法第29条第2項違反について
ア 引用例及びその記載事項
(ア)引用例1
本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-80106号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加した。)。

a 「【0022】
超音波診断装置1は、送信回路2、2次元(2D: two-dimensional)アレイプローブ(2Dアレイ探触子)3、受信回路4、カラードプラ演算部5、3次元デジタルスキャンコンバータ(3D-DSC: three-dimensional-digital scan converter)座標変換部6、関心領域(ROI: region of interest)入力部7、流量演算部8、流量-時間グラフ処理部9、心拍出量演算部10、入力装置11および表示部12を備えている。各構成要素は、回路により、またはコンピュータにプログラムを読み込ませて構築することができる。」

b 「【0024】
2Dアレイプローブ3は、超音波を送受信するための複数の超音波振動子を備えている。各超音波振動子は、2次元に配列される。そして2Dアレイプローブ3は、各超音波振動子を用いた遅延時間の制御による電子走査によって3次元走査を行うことができるように構成されている。そして、2Dアレイプローブ3は、送信回路2から電気信号として与えられた送信信号を超音波として被検体内に送信する一方、被検体内において生じた超音波エコーを受信して電気信号としてのエコー信号に変換し、受信回路4に与えるように構成される。特に超音波断層像であるBモード画像用のエコー信号の他、超音波ドプラ法による血流像を生成するための3次元のドプラ信号が2Dアレイプローブ3により受信され、受信されたドプラ信号は受信回路4に出力される。
【0025】
受信回路4は、2Dアレイプローブ3からドプラ信号およびBモード画像用のエコー信号を取得してBモード画像用のエコー信号を図示しないBモード画像処理系に与える一方、ドプラ信号をカラードプラ演算部5に与える機能を有する。」

c 「【0028】
すなわち、3D-DSC座標変換部6から表示部12にテレビ走査方式にカラードプラ速度情報が出力されることによって、表示部12には、カラードプラ像が表示される。また、図示しないBモード画像処理系において生成されたBモード画像情報が表示部12に与えられる場合には、表示部12においてBモード画像上にカラードプラ像を重畳表示させることができる。」

d 「【0035】
次に超音波診断装置1の動作および作用について説明する。
【0036】
図2は、図1に示す超音波診断装置1により超音波画像とともに血流量の時間変化を取得して表示させる手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0037】
まずステップS1において、3次元走査により被検体からのドプラ信号が収集される。すなわち、送信回路2は、送信信号としてパルス信号を生成し、生成した送信信号を2Dアレイプローブ3に印加する。そうすると、2Dアレイプローブ3は、電気信号である送信信号を超音波に変換し、走査線に沿って被検体内の所定の深さの位置に送信する。そして、被検体内において生じたドプラ信号が2Dアレイプローブ3により受信され、受信されたドプラ信号は電気信号に変換されて受信回路4に出力される。受信回路4は、2Dアレイプローブ3から受けたドプラ信号をカラードプラ演算部5に与える。
【0038】
このようなドプラ信号の収集は、3次元走査によって3次元的に行われる。3次元走査で得られる超音波画像用のデータの1単位は、Volumeと呼ばれる。1つのVolumeを得るためには2Dアレイプローブ3を血流像の生成対象となる部位へ向けて同一走査線上において必要な回数だけ超音波信号の送受信が行われ、複数回に亘って走査が行われる。そして、カラードプラ演算部5には被検体内の3次元空間の各位置からの複数のドプラ信号が蓄積される。」

e 「【0039】
次にステップS2において、カラードプラ演算部5において、収集されたドプラ信号から3次元のカラードプラ速度情報が求められる。カラードプラ速度情報は3次元空間の各位置においてある空間的な大きさの単位を持ち、カラードプラ速度情報の各位置において単位となる大きさはピクセル(画素)と呼ばれる。一般的には血流像の表示用に求められるピクセルは全て均一な大きさとして扱われる。」

f 「【0043】
3D-DSC座標変換部6において生成された座標変換後のカラードプラ速度情報は、流量演算部8および表示部12に与えられる。これにより、表示部12には、カラードプラ像が表示される。また、図示しないBモード画像処理系において生成されたBモード画像情報が表示部12に与えられる場合には、表示部12においてBモード画像上にカラードプラ像を重畳表示させることができる。」

g 「【0044】
カラードプラ像は、前述のように1Volume分のドプラ信号から生成される。1Volumeのカラードプラ像の構成を完了させるために必要な時間は、超音波の被検体内における伝播速度、超音波信号の送信時間の間隔、1Volume分の3次元のドプラ信号を収集するための走査線の本数(超音波の送信回数)等の条件により決定される。これらの条件によって定まる1秒間に構成可能なVolume数はVolumeレートと呼ばれる。Volumeレートの単位は、Volume/秒である。」

h 「【0046】
次に、ステップS3において、入力装置11の操作によって指示情報がROI入力部7に入力され、ROI入力部7において血流量を求めるための所望の領域がROIとして設定される。このとき表示部12には、ROIを設定するための画面が表示される。ROIを設定するための画面情報は、ROI入力部7において作成することができる。そして、GUI(Graphical User Interface)技術により表示部12に表示された画面を参照しつつマウス等の入力装置11の操作によってROIを容易に設定することができる。」

i 「【0049】
さらに、入力装置11の操作によって一旦作成したROIを任意の倍率で拡大あるいは縮小することが可能であり、任意方向へのROIの並行移動や任意に選択された軸を中心とするROIの回転移動を行うことができる。また、ROIは、1つのみならず、複数設定することもできる。また、データ収集が行われる全範囲をROIとして設定することもできる。」

j 「【0051】
次に、ステップS4において、流量演算部8により、設定されたROI内におけるカラードプラ速度情報から血流の瞬時流量が求められる。すなわち、流量演算部8は、3次元走査によって得られたカラードプラ速度情報を1Volumeごとに積分(加算)し、積分(加算)の結果にカラーピクセルの大きさを乗算する。これにより、3次元の血流の瞬時流量が得られる。図3に示す断面A上における3次元カラードプラ速度情報から血流の瞬時流量を求める場合には、式(2)に示す演算が流量演算部8において行われる。」

k 「【0065】
次に、ステップS5において、流量-時間グラフ処理部9は、流量演算部8から取得したROI内における血流の瞬時流量値から血流の流量の時間変化を示すグラフ情報を作成する。すなわち、流量-時間グラフ処理部9は、流量演算部8から順次取得した1Volumeごとの血流の瞬時流量の時間変化をプロットする。これにより血流の瞬時流量と時間を軸とするグラフを作成することができる。そして、流量-時間グラフ処理部9は、作成したグラフ情報を表示部12に与えることによりグラフを表示させる。」

l 「【0083】
すなわち、ステップS6において、心拍出量演算部10において、血流量の時間変化を示すグラフ情報から心拍出量が求められる。心拍出量は、心臓における1心拍分の拍出量に相当する1心拍分の流量の総和であり、心機能の診断に用いられる。一般的に被検体内の血流は、心臓が拍動することで周期的に移動している。このため、ドプラ信号から得られるカラードプラ速度情報や、血流の瞬時流量は心拍に同期して周期的に変化している。」

m 「【0093】
さらに、上述したような1心周期の区間における血流の瞬時流量の積算による心拍出量の算出方法以外の方法で心拍出量を算出することもできる。例えば、複数周期分の区間に含まれる血流の瞬時流量を加算し、加算の対象となった区間に含まれる心拍数で除算することにより心拍平均をとれば、より安定した心拍出量を算出することができる。」

n 図1


o 図2


p 図10


q 図20


(イ)引用発明1
上記(ア)aないしqの記載内容を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「超音波診断装置による心拍出量の算出方法において、
3次元走査により被検体からのドプラ信号及びBモード画像用のエコー信号を収集し、
前記ドプラ信号から3次元のカラードプラ速度情報及びカラードプラ像を生成し、
前記Bモード画像用のエコー信号からBモード画像を生成し、
表示部において、関心領域(ROI: region of interest)を設定するための画面として、前記Bモード画像上に前記カラードプラ像を重畳表示し、血流量を求めるための所望の領域を関心領域(ROI: region of interest)として複数設定し、
前記複数設定された関心領域(ROI: region of interest)内における前記カラードプラ速度情報から血流の瞬時流量を求め、前記瞬時流量値から血流の流量の時間変化を示すグラフ情報を作成し、前記グラフ情報から心拍出量を算出する方法。」

(ウ)引用例2
本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-142335号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。

a 「【0034】
超音波診断装置10で、Bモード画像及びMモード画像やDモード画像を時分割で同時に収集する場合、表示部16の画面には、Bモード画像が順次に表示される。図2は、時間的な変化をtで示し、時刻がt1,t2…tnのときに収集したBモード画像B1,B2…Bnを示している。」

(エ)引用例3
本願の優先権主張日前に頒布され、特開2005-58332号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。

a 【0022】
次に、本発明の複合モード計測に係る特徴部を説明する。複合モード計測は、例えば、表示モニタ7に表示されるBモード断層像により関心部位における生体組織の動きを観察すると同時に、ドップラモード計測によって計測された血流速度などのドップラ像を見て、総合的な診断を行うのに好適な計測である。このような対比観察は、図2に表示画像例のように、リアルタイムでBモード断層像11とドップラ像12を表示モニタ7に表示する必要がある。この表示を実現するため、例えば、図3(a)に示すように、ドップラ計測とBモード計測とを一定周期Tpごとに交互に実行して、生体組織の観察部位の動きを同一時に計測するのが一般である。図3(a)は、図2の超音波ビームライン13に沿う深度方向に設定された複数のサンプリング点の反射エコー信号をサンプリングしてBモード像の画像データを取得するBモード計測と、超音波ビームライン13に設定されたサンプリングゲート14の部位の血流データを取得するドップラモード計測とを同一時に実行するタイムチャートの一例である。図示のように、ドップラ計測は、送信区間21においてドップラ計測用の超音波を探触子1に送信し、サンプリングゲート14の部位からの反射エコー信号(ドップラ信号)をサンプリング区間22においてサンプリングする。また、Bモード計測は、次の送信区間21においてBモード計測用の超音波を探触子1に送信し、超音波ビームライン13上に設定された深度方向の複数(例えば、128個)のサンプリング点から反射エコー信号をサンプリングする。そして、超音波ビームライン13を方位方向に走査(スキャン)しながら、ドップラ計測とBモード計測とを一定周期Tpごとに交互に実行して、Bモード断層像を取得する。この場合において、ドップラ計測は設定された同一位置のサンプリングゲート14について実行する。

b 図3


(オ)引用例4
本願の優先権主張日前に頒布され、特開2008-272033号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。

a 「【0047】
図5は、取得時間制御手段12から送受信部102、Bモード処理部103およびドップラ処理部109に送信される、初期設定により指定されるBモード走査およびCFMモード走査の切り換え動作を示すタイムチャート(timechart)の一例である。図5の上部には、Bモード走査が示されており、一枚のBモード画像情報を取得する第1の取得時間であるON状態の時間が、繰り返し実行される様子が示されている。ここで、図5は、横軸が時間軸、縦軸がBモード走査またはCFMモード走査のON/OFF状態を示している。図5の下部には、CFMモード走査が示されており、一枚のCFMモード画像情報を取得する第2の取得時間であるON状態の時間が、繰り返し実行される様子が示されている。」

b 図5


(カ)周知技術
a 上記(ウ)ないし(オ)の記載内容を総合すると、引用例2ないし4には、以下の周知技術が記載されている。

「超音波診断方法において、Bモードとドップラモードは、ほぼ同時に計測が行われること」


イ 対比及び判断
(ア)対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「心拍出量の算出」は、「心拍出量」との「体積の次元」を持つパラメータについて、その「数値を算出」するものであるから、本件補正発明の「ボリューム定量化」に相当するといえる。
また、引用発明1の「超音波診断装置」は、医学的な診断を行うものである。
してみると、引用発明1の「超音波診断装置による心拍出量の算出方法」は、
本件補正発明の「医学的な超音波診断におけるボリューム定量化方法」に相当する。

b 引用発明1の「被検体」は、本件補正発明の「患者」に相当する。
引用発明1の「ドプラ信号」と「Bモード画像用のエコー信号」は、いずれも「3次元走査により被検体から」「収集」されるものであり、被検体内部の組織の空間的な構造を表すものであるから、それぞれ、本件補正発明の「患者のボリュームを表す」「フロー超音波データ」と「患者のボリュームを表すBモード超音波データ」に相当するといえる。
してみると、引用発明1の「3次元走査により被検体からのドプラ信号及びBモード画像用のエコー信号を収集」することと、
本件補正発明の「患者のボリュームを表すBモード超音波データおよびフロー超音波データを実質的に同時に取得(30)」することとは、
「患者のボリュームを表すBモード超音波データおよびフロー超音波データを取得」するという点で共通する。

c 引用発明1の「関心領域(ROI: region of interest)」は、本件補正発明の「関心領域」に相当する。
また、引用発明1の「関心領域(ROI: region of interest)を設定する」ことと、本件補正発明の「関心領域を、」「識別」することとは、いずれも関心領域を選択するとの意味合いであるから、引用発明1の「関心領域(ROI: region of interest)を設定する」ことは、本件補正発明の「関心領域を、」「識別」することに相当する。
さらに、引用発明1の「血流量を求めるための所望の領域」は、主に血管、心臓等の循環器部分であり、当然に被検体の内部に存在するものであるから、本件補正発明の「前記ボリューム内に存在する、フロー領域」に相当する。
そして、引用発明1は、「前記Bモード画像上に前記カラードプラ像を重畳表示し」た画面に基づき、「関心領域(ROI: region of interest)」を「設定」するものであるが、「Bモード画像」及び「カラードプラ像」は、それぞれ、「Bモード画像用のエコー信号」及び「ドプラ信号」に由来するものであるので、「関心領域(ROI: region of interest)」は、「Bモード画像用のエコー信号」及び「ドプラ信号」に基づいて「設定」されるものであるといえる。
してみると、引用発明1の「前記ドプラ信号から3次元のカラードプラ速度情報及びカラードプラ像を生成し、前記Bモード画像用のエコー信号からBモード画像を生成し、表示部において、関心領域(ROI: region of interest)を設定するための画面として、前記Bモード画像上に前記カラードプラ像を重畳表示し、血流量を求めるための所望の領域を関心領域(ROI: region of interest)として複数設定」することは、
本件補正発明の「前記ボリューム内に存在する、フロー領域である少なくとも2つの関心領域を、前記Bモード超音波データおよび前記フロー超音波データに応じて識別」することに相当する。

d 引用発明1の「心拍出量を算出する」ことは、本件補正発明の「フロー量を計算」「する」ことに相当する。
ここで、引用発明1は、「前記カラードプラ速度情報から血流の瞬時流量を求め、前記瞬時流量値から血流の流量の時間変化を示すグラフ情報を作成し、前記グラフ情報から心拍出量を算出する」ものであるが、「カラードプラ速度情報」は、「ドプラ信号」に由来するものであるので、「心拍出量」は、「ドプラ信号」に基づいて「算出」されるものであるといえる。
してみると、引用発明1の「前記複数設定された関心領域(ROI: region of interest)内における前記カラードプラ速度情報から血流の瞬時流量を求め、前記瞬時流量値から血流の流量の時間変化を示すグラフ情報を作成し、前記グラフ情報から心拍出量を算出する」ことは、
本件補正発明の「前記フロー超音波データに応じて、前記少なくとも2つの関心領域に関してフロー量を計算(38)する」ことに相当する。

e 以上のことから、本件補正発明と引用発明1とは、つぎの一致点で一致し、つぎの相違点で相違する。

(一致点)
「医学的な超音波診断におけるボリューム定量化方法において、
患者のボリュームを表すBモード超音波データおよびフロー超音波データを取得し、
前記ボリューム内に存在する、フロー領域である少なくとも2つの関心領域を、前記Bモード超音波データおよび前記フロー超音波データに応じて識別し、
前記フロー超音波データに応じて、前記少なくとも2つの関心領域に関してフロー量を計算することを特徴とする、ボリューム定量化方法。」

(相違点)
「Bモード超音波データ」と「フロー超音波データ」の取得タイミングに関し、
本件補正発明では、「実質的に同時に」「取得(30)してい」るのに対して、
引用発明1では、「Bモード画像用のエコー信号」と「ドプラ信号」のそれぞれの取得タイミングの関係が明らかでない点。

(イ)判断
a 相違点について
(a) 引用発明1は、「関心領域(ROI: region of interest)」の設定時に、「Bモード画像」と「カラードプラ像」を「重畳表示」するものである。
仮に、「重畳表示」される「Bモード画像」と「カラードプラ像」とが全く異なるタイミングで測定した画像であるとすると、心臓のような拍動する組織はその構造位置が常に変化するものであるところ、タイミングのズレにより、例えば、血流量を観察する部位である「弁」の「Bモード画像」における位置と、「カラードプラ像」で生じるフロー発生位置に著しいズレが生じることになり、「関心領域(ROI: region of interest)」の設定者を混乱せしめることは明らかである。
そうすると、「特段の事情」がない限り、「重畳表示」される「Bモード画像」と「カラードプラ像」をできる限り同一タイミングで測定した画像とすることは、むしろ技術的に当然のことである。
そして、引用例1には、異なるタイミングで各画像を得るべき「特段の事情」は記載されていないから、引用発明1において、「重畳表示」される「Bモード画像」と「カラードプラ像」をできる限り同一タイミングで測定した画像とすることは、当業者が当然になすべきことに過ぎない。

(b) さらに言えば、上記ア(カ)で説示した「超音波診断方法において、Bモードとドップラモードは、ほぼ同時に計測が行われること」が周知技術であることに鑑みると、引用発明1において、複数モードの計測を行い重畳表示を行う超音波診断方法という点で技術分野、機能が共通する周知技術を参考にして、「Bモード画像」と「カラードプラ像」を同一タイミングで測定するようにすることも、やはり当業者が適宜なし得たことであると言わざるを得ない。

b また、本件補正発明の奏する効果は、引用発明1及び周知技術から予測される範囲内であって、格別なものでない。

(2)上記(1)とおりであるから、本件補正発明は、引用発明1、または、引用発明1及び周知技術、に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のまとめ
よって、本件補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成27年4月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるものであって、そのうちの請求項1に係る発明は、上記第2の1(1)アで示したとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

2 引用例及びその記載事項
原査定の拒絶理由で引用された引用例1及び2並びにその記載事項は、上記第2の2(1)アに記載したとおりである。

3 対比及び判断
本願発明は、「前記フロー超音波データに応じて、」との択一的記載の要素を、上記第2で検討した本件補正発明に追加したものである。
そうすると、本願発明の択一的記載の要素うちの「前記フロー超音波データに応じて」以外の要素と、択一的記載以外の発明特定事項を全て含むものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(1)イで検討したとおり、引用発明1、または、引用発明1及び周知技術、に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、または、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-12 
結審通知日 2016-10-17 
審決日 2016-10-28 
出願番号 特願2011-40449(P2011-40449)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
小川 亮
発明の名称 医学的な超音波診断におけるボリューム定量化方法および医学的な超音波診断におけるボリューム定量化のためにプログラミングされたプロセッサによって実行される命令を表すデータが記憶されているコンピュータ読取り可能記憶媒体  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 星 公弘  

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