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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1326199
審判番号 不服2016-6886  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-11 
確定日 2017-03-13 
事件の表示 特願2012-200305「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日出願公開、特開2014- 56920〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年9月12日の出願であって、平成27年12月21日付けで拒絶理由通知がなされたのに対して、平成28年1月29日付けで手続補正がなされたが、同年2月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成28年5月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年5月11日付の手続補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明
平成28年5月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであって、本件補正前(すなわち、平成28年1月29日付け手続補正による補正後)に、

「【請求項1】
上アームにおける複数の第1パワー素子及び複数の第1整流素子と、
前記第1パワー素子及び前記第1整流素子が配置された正極側導体パターンと、
下アームにおける複数の第2パワー素子及び複数の第2整流素子と、
前記第2パワー素子及び前記第2整流素子が配置された出力極側導体パターンと、
負極側導体パターンと、
隣り合う前記第1パワー素子と前記第1整流素子のペアごとに前記出力極側導体パターンに接続した複数の第1ビームリードと、
隣り合う前記第2パワー素子と前記第2整流素子のペアごとに前記負極側導体パターンに接続した複数の第2ビームリードと、備えた
ことを特徴とする半導体装置。

【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記第1ビームリード及び前記第2ビームリードは、平面視において略T字に形成されていることを特徴とする半導体装置。 」

とあったところを、

「【請求項1】
上アームにおける複数の第1パワー素子及び複数の第1整流素子と、
前記第1パワー素子と前記第1整流素子が交互一列に配置された正極側導体パターンと、
下アームにおける複数の第2パワー素子及び複数の第2整流素子と、
前記第2パワー素子と前記第2整流素子が交互一列に配置された出力極側導体パターンと、
負極側導体パターンと、
隣り合う前記第1パワー素子と前記第1整流素子のペアごとに前記出力極側導体パターンに接続した複数の第1ビームリードと、
隣り合う前記第2パワー素子と前記第2整流素子のペアごとに前記負極側導体パターンに接続した複数の第2ビームリードと、備えた、
ことを特徴とする半導体装置。

【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記第1ビームリード及び前記第2ビームリードは、平面視において略T字に形成されて
おり、
前記正極側導体パターン、前記出力極側導体パターン及び前記負極側導体パターンは同一平面上に配置され、
前記出力極側導体パターンにおいて前記第1ビームリードと接合される箇所と、前記負極側導体パターンにおいて前記第2ビームリードと接合される箇所と、は隣り合って配置されていることを特徴とする半導体装置。 」

とするものである。なお、下線は請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

2.新規事項の有無、特別な技術的特徴の変更の有無及び補正の目的要件について

本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められ、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。
また、特許法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するものでもない。

補正された請求項1に係る発明は、補正前の請求項1の「パワー素子」と「整流素子」の「配置」について限定を付加したものであり、また、補正された請求項2に係る発明は、補正前の請求項2に記載された「正極側導体パターン」、「出力極側導体パターン」、「負極側導体パターン」、「第1ビームリード」、「第2ビームリード」の「配置」について限定を付加して、特許請求の範囲を減縮するものである。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項および第4項の規定に適合するものであり、また、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

3.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された文献である特開2006-109576号公報(平成18年4月20日公開。以下、「引用例1」という。)には、「インバータ装置およびそれを用いた車両駆動装置」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0025】
図2は、図1に示すインバータ装置200の回路図である。インバータ装置200のパワーモジュール100は6つのアームから構成され、車載用直流電源であるバッテリー310から供給される直流を交流に変換して回転機であるモータ300に電力を供給する。なおこの実施の形態では、モータ300は回転子に永久磁石を有する同期モータである。パワーモジュールの上記6つのアームは、U相の上アーム100UH、U相の下アーム100UL、V相の上アーム100VH、V相の下アーム100VL、W相の上アーム100WH、W相の下アーム100WLである。なお図2に示す実施の形態では上記各相の各アームは半導体のスイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使用している。半導体のスイッチング素子としてはIGBT以外に電力用MOS‐FET(Metal Oxide Semiconductor ‐ Field Effect Transistor)を使用することができる。
【0026】
IGBTは動作速度が速いメリットがある。昔は、電力用MOS‐FETが使用できる電圧が低かったので、高電圧用のインバータはIGBTで作られていた。しかし最近は電力用MOS‐FETの使用できる電圧が高くなり、車両用インバータではどちらも半導体スイッチング素子として使用可能である。電力用MOS‐FETの場合は半導体の構造がIGBTに比べてシンプルであり、半導体の製造工程がIGBTに比べ少なくなるメリットがある。
【0027】
図2において相UVWの各相の上アームと下アームとはそれぞれ直列に接続されている。U相とV相とW相の各上アーム100UH、100VH、100WHのそれぞれのコレクタ端子(電力用MOS‐FET使用の場合はドレーン端子)は直流電源の正極側の配線LHに接続される。一方U相とV相とW相の各下アーム100UL、100VL、100WLのそれぞれのエミッタ端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)は、直流電源の負極側の配線LLに接続される。配線LHと配線LLの間には、図1で説明の如く、車載に搭載されたバッテリー310あるいは電圧変換機であるDC/DCコンバータ330のごとき直流電源が接続され、直流電圧がインバータ装置のパワーモジュール100に供給される。」

イ.「【0031】
インバータの各アーム100UH、100UL、100VH、100VL、100WH、100WLを構成する半導体のスイッチング素子はそれぞれ複数のスイッチング素子の並列接続で構成される。この様子を図3に示す。図3はアーム100UHとアーム100ULの詳細を示す。それぞれのアームは、アーム100UHで代表して示すように、IGBTの如きスイッチング素子SWUH1とこれに並列接続されたダイオードDUH1とから構成された回路が複数個、この実施の形態では4組並列に接続されている。すなわちスイッチング素子SWUH1とダイオードDUH1からなるスイッチング回路、スイッチング素子SWUH2とダイオードDUH2からなるスイッチング回路、スイッチング素子SWUH3とダイオードDUH3からなるスイッチング回路、スイッチング素子SWUH4とダイオードDUH4からなるスイッチング回路で示される4組のスイッチング回路がさらに並列接続されている。IGBTの代わりに電力用MOS‐FETを使用した場合は、各電力用MOS‐FETは既にダイオードの機能を備えているので、ダイオードDUH1?DUH4は不要である。」

ウ.「【0034】
図2や図3に示すパワーモジュール100の実装構造を図4と図5に示す。図4はパワーモジュール100の外観を示す斜視図、図5はアーム部の拡大図である。図4と図5で、樹脂製の枠体190の内部にはインバータのパワーモジュール100を構成する各アームが配置されており、、U相,V相,W相の各相の上アームのコレクタ端子TUHC、TVHC、TWHCと、各相の下アームコレクタ端子TULC、TVLC、TWLCと、各相の上アームのエミッタ端子TUHE、TVHE、TWHEと、各相の下アームエミッタ端子TULE、TVLE、TWLEと、各相の上アームゲート端子TUHG、TVHG、TWHGと、各相の下アームゲート端子TULG、TVLG、TWLGとが、枠体190の側壁に設けられている。なお、この例では、各アーム100UH、100UL、100VH、100VL、100WH、100WLは、並列接続された4個のIGBTである半導体スイッチング素子SWと、これらの各半導体スイッチング素子にそれぞれ並列接続されるダイオードから構成されている。前記各相の上アームゲート端子TUHG、TVHG、TWHGと、前記各相の下アームゲート端子TULG、TVLG、TWLGとは、上記並列接続された4個の各半導体スイッチング素子に対応する4個のゲート端子を有している。上アーム100UHを6個のアームの代表例として説明する。」

エ.「【0036】
各アーム100UH、100VH、100WH、100UL、100VL、100WLはそれぞれ並列接続された4個の半導体のスイッチング素子を有しており、上記4個のスイッチング素子SWの上側電極(この例では、IGBTのエミッタ電極)は、リード状導体LCによって接続される。リード状導体LCとしては、例えば、銅やアルミニウムの薄板状コア材の表面にニッケルめっきおよび金めっきを施したもの、あるいは同様なコア材の表面にニッケルめっきおよびスズめっきを施したもの、あるいは「銅」と「鉄-ニッケル合金」を複合化したコア材としこれにニッケルめっきおよび金あるいはスズめっきを施したものが使用可能である。」

オ.「【0041】
上アーム100UHは、4個の半導体スイッチング素子SWUH1,SWUH2,SWUH3,SWUH4を有している。スイッチング素子SWUHはそれぞれ例えば、12mm×12mm、厚さ550μmのIGBT素子のチップである。絶縁基板180は窒化アルミニウムからなり、その下面は水あるいは空気により冷却される構造である。絶縁基板180の上には、厚さ0.3mmの銅配線182が層として形成されている。銅配線182の表面(図示の上側の面)には、ニッケルめっき膜が形成されている。スイッチング素子SWUHの一方の電極は、スズおよび鉛からなる融点約330℃のハンダ184によって、銅配線182に固定されている。この動配線は端子TUHCに電気的につながっている。この実施の形態では、スイッチング素子SWUH1?SWUH4のチップの下面側はコレクタ電極、上面側がエミッタ電極である。しかし上記チップを逆に取り付け、下側をエミッタ、上側をコレクタとしても良い。
【0042】
図4と図5の例ではスイッチング素子のシリコンチップの下側にコレクタを配置しているため、4個のスイッチング素子のコレクタ電極が共通に使用される銅配線182である配線層に並列に配置、接続されている。前記銅配線182は、U相上アームコレクタ端子TUHCに樹脂製の枠体190の内部で電気的につながっている。また、前記銅配線182には、上アーム100UHを構成する4個のダイオードDUH1,DUH2,DUH3,DUH4が並列に配置され,接続されている。ここでダイオードDUH1,DUH2,DUH3,DUHはそれぞれ、5mm×5mm×0.4mmtの大きさのチップで、ダイオードのカソード極(陰極)が銅配線182側となるように設けられている。スイッチング素子のシリコンチップを逆向き配線層に固定した場合、すなわちエミッタを前記銅配線182の側にして接続した場合は、上記ダイオードはアノード極(陽極)が前記銅配線182の側となるようにそれぞれ配置し、接続される。」

カ.「【0044】
絶縁基板180の上には、板状(層であれば良い)の導体186が固定されている。この板状導体186は、U相上アームエミッタ端子TUHEと樹脂製の枠体190の内部で電気的に接続されている。並列接続されたスイッチング素子SWUH1?SWUH4の上面にそれぞれ設けられたエミッタ電極EE及びダイオードDUH1?DUH4のアノード極(陽極)と、導体186とは、リード状導体LCによって接続されている。リード状導体LCは、図示の如く板状導体であり、スイッチング素子SWUH1?SWUH4およびダイオードDUH1?DUH4、その他接続用端子の位置および高さに合わせて予め切断され、プレスにより折り曲げられており、その途中に曲げ部LC-Cを有している。この実施の形態では、リード状導体LCは、導体186との接続部側は一体的に形成され、4個のスイッチング素子SWUHとの接続部側は、スイッチング素子SWUHのそれぞれに対応して先端が分割され、分割された先端部毎に個別にスイッチング素子SWUH1、SWUH2、SWUH3、SWUH4と接続されている。後述するように、リード状導体LCの端子170の下面側には、予め多数の突起が形成されている。端子170の突起は、スズ,銀および銅からなる融点約230℃のハンダからなる。ハンダの溶融により、スイッチング素子SWUHの上面に設けられたエミッタ電極及びダイオードDUHの上側電極と、導体186とは、板形状のリード状導体LCによって接続される。」

キ.「【0046】
アーム100ULの共通電極182(図示せず)には4個の半導体スイッチング素子のコレクタ側が固定されており、この共通電極182(図示せず)は2個の端子TULC1とTULC2とにそれぞれ電気的に接続されている。またアームモジュール100ULの共通電極186は、板状導体であるリード状導体LCによりアームモジュール100ULの半導体スイッチング素子のエミッタ側に電気的に接続されるとともに、端子TULEに接続されている。」

ク.「【0052】
図6を用いてパワーモジュール100の配線状態を説明する。図6は配線盤であり、図4および図5に示す枠体の上面を覆うように配置することにより、図4と5に示すアームの端子TUHC、TVHC、TWHCはそれぞれ銅板からなる配線LHに設けられた穴を突き抜ける構造となり、配線LHと上記各端子は溶接により接続される。また図5や図6に示す回路部品の保護のため、枠体190の内部に防湿用のゲルを入れ、枠体190の上面を図6の配線盤で塞ぐ構造となる。
【0053】
前記配線HLはコネクタである正端子につながっている。また銅版からなる配線LLに上記配線LHと同様、穴があけられている。図6の配線盤を図4のモジュールの上に配置することにより、前記穴から3個の端子TULE、TVLE、TWLEの先端がそれぞれ突き出るようになる。前記突き出した端子と前記配線LLとを溶接で接続することで電気的に接続される。前記配線LLは負端子につながる。前記正端子および前記負端子は直流電源の正端子および負端子につながる。
【0054】
図6に示す配線盤には銅板からなる配線612U、612V、612Wが設けられており、前記板状の配線612Uは2つの穴から端子TUHEとTULC1との先端がそれぞれ突き出し、これら先端と上記配線612Uとが溶接により固定される。同様に配線612Vや配線612Wの穴から端子TVHEやTVLC1の先端、あるいは端子TWHETWLC1の先端がそれぞれ突き出し、溶接により固定される。図6において、端子TULC1とTULC2、TVLC1とTVLC2、TWLC1とTWLC2とはそれぞれ図5で説明した共通電極182で電気的に互いに接続されており、TULC2とTVLC2とTWLC2が端子TU、TV、TWに電気的につながっている。端子TU、TV、TWは配線盤に固定されており、これら端子からインバータの出力である三相交流電力がモータ300に供給される。」

ケ.「【0064】
上記導体LCは素子側が素子に対応して分割され、導体186側は分割されていないが、素子毎に分割されていてもよい。素子毎に分割されていると素子毎に位置合わせが可能である。ただし部品数が増えるので作業工数が増える。素子2個毎に分けることにより位置ずれを調整しやすくまた部品数もあまり増えないようにすることも可能である。」

コ.「【0069】
以上説明したようにリード状導体LCを使用すると、一つのアームモジュールで考えると、4対のスイッチング素子とダイオードのペアを、一度に接続することができ、作業性を向上することができる。また、半導体スイッチング素子SWのゲート端子に入力する制御信号以外の接続部の断面積をボンディングワイヤを用いた場合に比べて広くすることにより、自動車用のインバータの如く、大電流量を流すインバータに適している。また熱を流すことができ、この点でも自動車のごとく過酷な使用条件に優れた効果がある。」

上記アないしコの記載から、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記アによれば、インバータ装置のパワーモジュールは、上アームと下アームから構成され、上アームと下アームは直列に接続され、上アームのコレクタ端子は直流電源の正極側の配線LHに接続され、下アームのエミッタ端子は、直流電源の負極側の配線LLに接続されるものである。

・上記イによれば、インバータの各アームは、IGBTの如きスイッチング素子SWUH1とこれに並列接続されたダイオードDUH1とから構成された回路が4組並列に接続されたものである。

・上記ウによれば、樹脂製の枠体190の内部にインバータのパワーモジュール100を構成する各アームが配置され、上アームのコレクタ端子TUHCと、下アームコレクタ端子TULCと、上アームのエミッタ端子TUHEと、下アームエミッタ端子TULEと、上アームゲート端子TUHGと、下アームゲート端子TULGが、枠体190の側壁に設けられているものである。

・上記エによれば、各アームは、並列接続された4個の半導体スイッチング素子を有しており、スイッチング素子のエミッタ電極は、リード状導体LCに接続されるものである。

・上記オによれば、上アーム100UHは、4個の半導体スイッチング素子SWUH1,SWUH2,SWUH3,SWUH4を有しており、4個のスイッチング素子のコレクタ電極が銅配線182である配線層に並列に配置、接続され、銅配線182は、アームコレクタ端子TUHCに樹脂製の枠体190の内部で電気的につながっており、銅配線182には、上アーム100UHを構成する4個のダイオードDUH1,DUH2,DUH3,DUH4が並列に配置、接続されるものである。

・上記カによれば、板状導体186は、アームエミッタ端子TUHEと樹脂製の枠体190の内部で電気的に接続されており、並列接続されたスイッチング素子SWUH1?SWUH4の上面にそれぞれ設けられたエミッタ電極EE及びダイオードDUH1?DUH4のアノード極(陽極)と、板状導体186とは、リード状導体LCによって接続されており、リード状導体LCは、板状導体186との接続部側は一体的に形成され、4個のスイッチング素子SWUHとの接続部側は、スイッチング素子SWUHのそれぞれに対応して先端が分割され、分割された先端部毎に個別にスイッチング素子SWUH1、SWUH2、SWUH3、SWUH4と接続されているものである。また、ハンダの溶融により、スイッチング素子SWUHの上面に設けられたエミッタ電極及びダイオードDUHの上側電極と、導体186とは、板形状のリード状導体LCによって接続されるものである。

・上記キによれば、アームモジュール100ULの共通電極182には4個の半導体スイッチング素子のコレクタ側が固定されており、この共通電極182は2個の端子TULC1とTULC2とにそれぞれ電気的に接続されており、アームモジュール100ULの共通電極186は、板状導体であるリード状導体LCによりアームモジュール100ULの半導体スイッチング素子のエミッタ側に電気的に接続されるとともに、端子TULEに接続されているものである。

・上記クによれば、パワーモジュールの配線盤が枠体190の上面を覆うように配置され、配線LHとアームの端子TUHCが溶接で接続され、また、アームの端子TULEと配線LLが溶接で接続され、さらに、配線612Uが端子TUHEとTULC1と溶接により固定され、端子TULC1とTULC2とは共通電極182で電気的に互いに接続され、TULC2が端子TUに電気的につながっており、端子TUは配線盤に固定され、インバータの出力である電力がモータ300に供給されるものである。

・上記カ、ケ、コによれば、リード状導体LCは素子側が素子に対応して分割され、導体186側も素子毎に分割されてもよく、リード状導体LCによって、スイッチング素子とダイオードのペアを接続するものである。

以上の点を踏まえて、上記記載事項及び図面を総合的に勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「樹脂製の枠体190の内部に、上アームと下アームが配置され、上アームのコレクタ端子TUHCと、下アームコレクタ端子TULCと、上アームのエミッタ端子TUHEと、下アームエミッタ端子TULEが、枠体190の側壁に設けられ、
上アーム100UHは、4個の半導体スイッチング素子SWUH1,SWUH2,SWUH3,SWUH4を有しており、4個のスイッチング素子のコレクタ電極が銅配線182である配線層に並列に配置、接続され、銅配線182は、コレクタ端子TUHCに電気的につながっており、銅配線182には、上アーム100UHを構成する4個のダイオードDUH1,DUH2,DUH3,DUH4が並列に配置、接続され、上アームのコレクタ端子TUHCは、直流電源の正極側の配線LHに接続され、
アームモジュール100ULの共通電極182には4個の半導体スイッチング素子のコレクタ側が固定され、4個のダイオードが並列に配置、接続され、共通電極182は2個の端子TULC1とTULC2とにそれぞれ電気的に接続され、配線612Uが端子TUHEとTULC1と溶接により固定され、板状導体186は、アームエミッタ端子TUHEと電気的に接続され、端子TULC1とTULC2とは共通電極182で電気的に互いに接続され、TULC2が端子TUに電気的につながっており、端子TUはインバータの出力であるモータ300に供給され、
アームモジュール100ULの共通電極186は、端子TULEに接続され、下アームのエミッタ端子TULEは、直流電源の負極側の配線LLに接続され、
並列接続されたスイッチング素子SWUH1?SWUH4の上面にそれぞれ設けられたエミッタ電極EE及びダイオードDUH1?DUH4のアノード極と、板状導体186とは、リード状導体LCによって接続されており、
アームモジュール100ULの共通電極186は、板状導体であるリード状導体LCによりアームモジュール100ULの半導体スイッチング素子のエミッタ側に電気的に接続され、また、ダイオードのアノード極と接続され、
リード状導体LCは素子側が素子に対応して分割され、導体186側も素子毎に分割されるものであり、リード状導体LCによって、スイッチング素子とダイオードのペアを接続する
インバータ装置。」

4.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「スイッチング素子」は、IGBTであることから、本願補正発明の「パワー素子」に相当する。また、引用発明の「ダイオード」は、本願補正発明の「整流素子」に相当する。

b.引用発明の「上アーム100UH」は、本願補正発明の「上アーム」に相当する。引用発明の「銅配線182」に「4個のスイッチング素子」および「4個のダイオード」が並列に配置接続されていること、および、引用発明の「銅配線182」が「コレクタ端子TUHC」に電気的に接続され、「コレクタ端子TUHC」は直流電源の正極側の「配線LH」に接続されていることを鑑みれば、引用発明の「銅配線182」、「コレクタ端子TUHC」および「配線LH」が、第1パワー素子と第1整流素子が配置される本願補正発明の「正極側導体パターン」に相当する。
したがって、引用発明の「上アーム100UHは、4個の半導体スイッチング素子SWUH1,SWUH2,SWUH3,SWUH4を有しており、4個のスイッチング素子のコレクタ電極が銅配線182である配線層に並列に配置、接続され、銅配線182は、コレクタ端子TUHCに電気的につながっており、銅配線182には、上アーム100UHを構成する4個のダイオードDUH1,DUH2,DUH3,DUH4が並列に配置、接続され、上アームのコレクタ端子TUHCは、直流電源の正極側の配線LHに接続され」ることは、本願補正発明の「上アームにおける複数の第1パワー素子及び複数の第1整流素子と、前記第1パワー素子と前記第1整流素子が配置された正極側導体パターン」を有することに相当する。
ただし、本願補正発明が、第1パワー素子と第1整流素子が「交互一列」に配置されたものであるのに対して、引用発明は、スイッチング素子とダイオードが「交互一列」に配置されたものであることについて特定されていない点で相違する。

c.引用発明の「アームモジュール100UL」は、本願補正発明の「下アーム」に相当する。引用発明の「共通電極182」には、「4個のスイッチング素子」および「4個のダイオード」が並列に配置接続されており、また、「共通電極182」は「TULC1」、「TULC2」に電気的に接続され、「配線612U」が「TUHE」と「TULC1」と溶接により固定され、「板状導体186」と「TUHE」が接続され、「TULC2」が「端子TU」に電気的につながっており、「端子TU」がインバータの出力であるモータに供給されることを鑑みれば、引用発明の「共通電極182」、「TULC1」、「TULC2」、「板状導体186」、「TUHE」および「端子TU」が、本願の「出力極側導体パターン」に相当する。
したがって、引用発明の「アームモジュール100ULの共通電極182には4個の半導体スイッチング素子のコレクタ側が固定され、4個のダイオードが並列に配置、接続され、共通電極182は2個の端子TULC1とTULC2とにそれぞれ電気的に接続され、配線612Uが端子TUHEとTULC1と溶接により固定され、板状導体186は、アームエミッタ端子TUHEと電気的に接続され、端子TULC1とTULC2とは共通電極182で電気的に互いに接続され、TULC2が端子TUに電気的につながっており、端子TUはインバータの出力であるモータ300に供給され」ることは、本願補正発明の「下アームにおける複数の第2パワー素子及び複数の第2整流素子と、前記第2パワー素子と前記第2整流素子が配置された出力極側導体パターン」を有することに相当する。
ただし、本願補正発明が、第2パワー素子と第2整流素子が「交互一列」に配置されたものであるのに対して、引用発明は、スイッチング素子とダイオードが「交互一列」に配置されたものであることについて特定されていない点で相違する。

d.引用発明の「共通電極186」には、エミッタ端子「TULE」が接続され、「TULE」は、直流電源の負極側の「配線LL」が接続されることを鑑みれば、引用発明の「共通電極186」、「TULE」及び「配線LL」が、本願補正発明の「負極側導体パターン」に相当する。
したがって、引用発明の「アームモジュール100ULの共通電極186は、端子TULEに接続され、下アームのエミッタ端子TULEは、直流電源の負極側の配線LLに接続され」ることは、本願補正発明の「負極側導体パターン」を有することに相当する。

e.引用発明の「リード状導体LC」は、「素子側が素子に対応して分割され、導体186側も素子毎に分割されるものであり、リード状導体LCによって、スイッチング素子とダイオードのペアを接続する」ものであることを勘案すると、引用発明の「リード状導体LC」は、本願補正発明のパワー素子と整流素子のペアごとに導体パターンに接続した「ビームリード」といえる。
また、引用発明の「並列接続されたスイッチング素子SWUH1?SWUH」のエミッタ電極EEおよび「ダイオードDUH1?DUH4」のアノード極が「リード状導体LC」によって「板状導体186」に接続されている。ここで、上記c.に記載したとおり、「板状導体186」が「出力極側導体パターン」の一部を構成することを鑑みれば、引用発明の「並列接続されたスイッチング素子SWUH1?SWUH4の上面にそれぞれ設けられたエミッタ電極EE及びダイオードDUH1?DUH4のアノード極と、板状導体186とは、リード状導体LCによって接続され」ることは、「前記第1パワー素子と前記第1整流素子のペアごとに前記出力極側導体パターンに接続した複数の第1ビームリード」を有することに相当する。
さらに、引用発明の「半導体スイッチング素子」のエミッタ側及び「ダイオード」のアノード側が板状導体である「リード状導体LC」によりアームモジュール100ULの「共通電極186」に接続されている。ここで、上記d.に記載したとおり、「共通電極186」が、「負極側導体パターン」の一部を構成することを鑑みれば、引用発明の「アームモジュール100ULの共通電極186は、板状導体であるリード状導体LCによりアームモジュール100ULの半導体スイッチング素子のエミッタ側に電気的に接続され、また、ダイオードのアノード極と接続され」ることは、本願補正発明の「前記第2パワー素子と前記第2整流素子のペアごとに前記負極側導体パターンに接続した複数の第2ビームリード」を有することに相当する。
ただし、本願補正発明は、パワー素子と整流素子が隣り合う配置であるのに対して、引用発明は、スイッチング素子とダイオードが隣り合う配置であることについて特定されていない点で相違する。

f.引用発明の「インバータ装置」は、上記a.ないしe.を鑑みれば、本願補正発明の「半導体装置」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「上アームにおける複数の第1パワー素子及び複数の第1整流素子と、
前記第1パワー素子と前記第1整流素子が交互一列に配置された正極側導体パターンと、
下アームにおける複数の第2パワー素子及び複数の第2整流素子と、
前記第2パワー素子と前記第2整流素子が交互一列に配置された出力極側導体パターンと、
負極側導体パターンと、
前記第1パワー素子と前記第1整流素子のペアごとに前記出力極側導体パターンに接続した複数の第1ビームリードと、
前記第2パワー素子と前記第2整流素子のペアごとに前記負極側導体パターンに接続した複数の第2ビームリードと、備えた、
ことを特徴とする半導体装置。」

<相違点1>
本願補正発明は、「第1パワー素子と第1整流素子が交互一列に配置された」ものであるのに対して、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

<相違点2>
本願補正発明は、「第2パワー素子と第2整流素子が交互一列に配置された」ものであるのに対して、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

<相違点3>
本願補正発明は、「第1パワー素子と第1整流素子が隣り合う」ものであるのに対して、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

<相違点4>
本願補正発明は、「第2パワー素子と第2整流素子が隣り合う」ものであるのに対して、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

5.判断
以下、上記相違点1ないし4について検討する。

発熱の影響を緩和して温度上昇を抑えるために、導体パターン上のパワー素子と整流素子を交互一列に配置することは、例えば、特開平11-103012号公報(特に、図2、段落【0007】ないし【0009】、【0012】、【0026】 参照)、特開2008-306872号公報(特に、図4、段落【0010】、【0063】ないし【0073】 参照)に記載のように周知であり、引用発明において、発熱の影響を緩和するために、半導体スイッチング素子とダイオードを交互一列に配置させることは当業者であれば容易に想到し得ることである。半導体スイッチング素子とダイオードを交互一列に配置した際には、半導体スイッチング素子とダイオードが隣接することになることは明らかである。
したがって、引用発明に周知の技術事項を採用することで相違点1ないし4の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。

なお、平成28年5月11日付けの審判請求書において、審判請求人は、「補正後の特許請求の範囲における “パワー素子と整流素子が交互一列に配置されている”点については、拒絶査定において指摘された特開2006-109576において開示されておりません。
すなわち、引用文献に記載された発明では、同文献の図5に示されているように、スイッチング素子が一列に、それに隣接してダイオードが一列に配置されております。このような構成では、同じタイミングで通電し発熱する、同一アームにおけるスイッチング素子が隣接して配置されるため、隣接したスイッチング素子同士が互いに熱の影響を受ける可能があることに加えて、冷却効率も十分に向上させることができません。
これに対し、本願発明のように、同一アームにおけるパワー素子と整流素子を交互一列に配置させると、同じタイミングで通電し発熱するパワー素子同士の間に整流素子が介在することになるため、上述した問題点を緩和することを可能とします。
さらに、このように配置したパワー素子と整流素子をペアとしてビームリードに接続させることで、ビームリードの過熱防止、ひいては、半導体装置の温度上昇を抑制するものです。
以上のように、拒絶査定において提示された引用文献では、本願発明の一部構成が記載されておりません。これに対し、本願発明は、この相違点に基づいた優位な効果もございます。従いまして、本願発明の進歩性違反は解消したものと思料致します。 」と主張している。
しかしながら、上記判断において検討したとおり、引用発明において、発熱の影響を緩和するために、半導体スイッチング素子とダイオードを交互一列に配置する周知の技術事項を採用することは当業者であれば容易に想到し得たことであり、また、温度上昇を抑制する効果についても引用発明に周知の技術事項を適用した際に当業者が予測できる範囲の事項であり、審判請求人の主張を採用することはできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明および周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成28年5月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成28年1月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1.補正後の本願発明」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例およびその記載事項は、上記「第2 3.引用例」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明におけるパワー素子と整流素子の配置について「交互一列」であるという限定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 4.対比」および「第2 5.判断」に記載したとおり、引用例1に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明および周知の技術事項により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明および周知の技術事項により当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-13 
結審通知日 2017-01-19 
審決日 2017-01-31 
出願番号 特願2012-200305(P2012-200305)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 直哉平林 雅行豊島 洋介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
安藤 一道
発明の名称 半導体装置  

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