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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23G
管理番号 1326228
審判番号 不服2015-17560  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-28 
確定日 2017-03-15 
事件の表示 特願2013-91921号「複数領域菓子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年8月29日出願公開、特開2013-165727号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年2月27日、米国)を国際出願日とする特願2010-548861号の一部を平成25年4月25日に新たな特許出願としたものであって、平成26年9月16日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成26年12月24日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成27年5月20日付けで拒絶査定され、これに対して、平成27年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。また、平成27年12月16日に上申書が提出された。

第2 平成27年9月28日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年9月28日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、補正前の請求項7の
「(a)第1の領域であって、前記第1の領域は微粒子物質を含み、前記微粒子物質は負の溶解熱を有し、前記微粒子物質は、0.5?2.5のかさ密度に対するタップ密度を有する第1の領域と、
(b)第2の領域であって、前記第2の領域は可溶性のチュワブルマトリクスを含み、前記第2の領域は前記第1の領域を少なくとも部分的に囲む第2の領域と、
(c)前記第2の領域を少なくとも部分的に囲む第3の領域であって、前記第3の領域はコーティングを含む第3の領域と
を含む、菓子組成物であって、
前記第1の領域は、前記菓子組成物の5重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)である、菓子組成物。」
という記載を、対応する補正後の請求項6の
「(a)第1の領域であって、前記第1の領域は、微粒子物質を含むフィリング組成物を含み、前記微粒子物質は負の溶解熱を有し、前記微粒子物質は、0.4g/ml?0.8g/mlのタップ密度を有し、0.5?2.5のかさ密度に対するタップ密度を有する第1の領域と、
(b)第2の領域であって、前記第2の領域は可溶性のチュワブルマトリクスを含み、前記第2の領域は、前記第1の領域を収容する空洞を有し、前記空洞に収容される前記第1の領域を少なくとも部分的に囲む第2の領域と、
(c)前記第2の領域を少なくとも部分的に囲む第3の領域であって、前記第3の領域はコーティングを含む第3の領域と
を含む、複数領域チューイー菓子組成物であって、
前記フィリング組成物は、前記第2の領域の前記空洞の容積の90%以上収容され、
前記第1の領域は、前記菓子組成物の12重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)である、複数領域チューイー菓子組成物。」
という記載へと変更する補正事項を含むものである(下線部は、本件補正により変更された箇所を示す。)。

2 補正の目的
上記補正事項は、補正前の請求項7に係る発明を特定する事項である「第1の領域」について、「微粒子物質を含むフィリング組成物を含」むこと、「前記微粒子物質は、0.4g/ml?0.8g/mlのタップ密度を有」すること及び「菓子組成物の12重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)」という範囲に限定するものであり、「第2の領域」について、「前記第1の領域を収容する空洞を有し、前記空洞に収容される前記第1の領域を少なくとも部分的に囲む」ことに限定するものであり、「前記フィリング組成物」が「前記第2の領域の前記空洞の容積の90%以上収容され」ることに限定するものであり、「菓子組成物」が「複数領域チューイー菓子組成物」であることに限定するものであって、補正前の請求項7に記載された発明と補正後の請求項6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項6に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、本件補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項(上記「第2 1 補正の内容」の補正後の請求項6参照。)により特定されたとおりのものと認める。

(2)引用文献の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/022069号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(日本語翻訳文を記載する。なお、翻訳は、対応する日本国公表特許公報[特表2009-504163号公報]によるものである。また、下線は当審において付与したものである。)
ア 「[0016] ある実施態様により、水溶性のチュワブル基材、水不溶性のチュワブル基材、及びこれらの組み合わせより選択されるチュワブル基材と、糖と甘味抑制剤との混合物と、リンゴ酸を含む食品用の酸組成物と、清涼剤とを含む組成物と、香味料とを含むチュワブル食品が提供される。」(日本国公表特許公報【0016】参照)

イ 「[0056] ある実施態様において、1種類の清涼剤又は清涼剤の組み合わせを含んでいてよい。種々の周知の清涼剤を、口腔用組成物に用いることができる。例えば、有用な清涼剤のうち、特に、キシリトール、エリスリトール、デキストロース、ソルビトール、メンタン、メントン、ケタール、メントンケタール、メントングリセロールケタール、置換p-メンタン、非環状カルボキサミド、グルタル酸モノメンチル、置換シクロヘキサナミド、置換シクロヘキサンカルボキサミド、置換尿素及びスルホンアミド、置換メンタノール、ヒドロキシメチルp-メンタン及びp-メンタンのヒドロキシメチル誘導体、2-メルカプト-シクロデカノン、炭素数2?6のヒドロキシカルボン酸、シクロヘキサナミド、酢酸メンチル、サリチル酸メンチル、・・・」(同【0046】参照)

ウ 「送達システム
[0060] ある実施態様により、上述の口腔湿潤組成物のための送達システム又は送達手段が提供される。通常、送達システム(「食品」とも呼ばれる)には、食品及び飲料等の、任意の食用又は消耗品組成物が含まれる。より具体的には、食品は、ハードキャンディー、ソフトキャンディー、綿あめ、センターフィル型キャンディー、圧縮タブレット、チューインガム、センターフィル型チューインガム、フィルム、トローチ、液体飲料、粉末飲料等が挙げられるがこれらに限定されない形態より選択することができる。このような食品は、口腔湿潤組成物、香味料を含んでいてよく、担体を任意に含んでいてもよい。」(同【0050】参照)

エ 「[00100] ある実施態様は、センターフィル型キャンディー又はセンターフィル型チューインガム等のセンターフィル型の製品を対象とする。通常、このような製品は、センターフィル領域と、センターフィル領域の少なくとも一部を取り囲む領域とを含んでいる。センターフィル領域の少なくとも一部を取り囲む領域は、センターフィル型キャンディーに係る実施態様においては、キャンディー組成物であってよく、センターフィル型チューインガムに係る実施態様においては、ガム組成物であってよい。好適なキャンディー、又は菓子組成物は、上述のとおりである。チューインガム組成物については、以下に詳述する。
[00101] ある実施態様において、センターフィル領域は、液体、固体又は半固体、気体等であってよい。例えば、ある実施態様において、センターフィル領域は粉末状の菓子組成物であってよい。センターフィル領域は、上述のような任意の甘味料、香味料、清涼剤、着色料等を含んでいてもよい。
[00102] ある実施態様において、センターフィル領域は、液体、固体、半固体、又は気体状のセンターフィル組成物によってほぼ、又は完全に満たされていてもよい。他のいくつかの実施態様において、センターフィル領域は、液体、固体、半固体、又は気体状のセンターフィル組成物によって部分的にのみ満たされていてもよい。
・・・
[00104] ある実施態様において、口腔湿潤組成物は、センターフィル領域、センターフィル領域の少なくとも一部を取り囲むキャンディー若しくはガム領域、又は両者に含まれていてもよい。ある実施態様において、第1の口腔湿潤組成物がセンターフィル領域に含まれ、第2の口腔湿潤組成物が、キャンディー又はガム領域に含まれていてもよい。第2の口腔湿潤組成物は、第1の口腔湿潤組成物と同一であっても異なっていてもよい。
[00105] センターフィル型の製品に係るある実施態様において、第3の領域又はコーティング領域を任意に含んでいてもよい。ある実施態様において、コーティングは、製品の「最外領域」とも呼ばれる。コーティングは、キャンディー又はガム領域の少なくとも一部を取り囲んでいてよい。コーティングは、センターフィル型製品の外表面を形成する、任意の従来の糖の、又はシュガーレスのコーティングであってよい。」(同【0090】?【0096】参照)

オ 「[0114] ソフトキャンディー、綿あめ、圧縮タブレット、フィルム、液体及び粉末飲料等を含む他の食品の調製方法についても、当業者に周知であり、本明細書において詳細に議論する必要はない。」(同【0118】参照)

カ 「実施例4
表4及び5:センターフィル型ハードボイルドキャンディー中の口腔湿潤組成物
表4:ハードキャンディーのシェルの組成(80%)
(表省略)
表5:液体/ゲルセンターの組成(20%)
(表省略)
[0126] 上記の表4及び5に示した調合により、中央に液体を含むハードボイルドキャンディーを調製した。」(同【0135】?【0139】参照)

キ 「実施例9
表11、12、13、及び14:センターフィル型ハードボイルドキャンディー中の口腔湿潤組成物
表11:ハードキャンディーのシェル組成物(93.5%)
成分 重量%
キャンディ-基材(糖、グルコースシロップ42DE、及び水)88.23
イソマルト(50%水溶液) 10.00
クエン酸 1.20
オレンジ香料 0.17
色素溶液 0.40

表12:粉末状のセンター組成物(6.5%)
成分 重量%
エリスリトール 100

表13:粉末状のセンター組成物(6.5%)
成分 重量%
エリスリトール 95.5-100.0
清涼剤化合物(粉末/封入物) 0.0- 2.0
香料 0.0- 2.5

表14:粉末状のセンター組成物(6.5%)
成分 重量%
エリスリトール 50.0-100.0
キシリトール(又は他のポリオール及び/又は糖)50.0-100.0
清涼剤化合物(粉末/封入物) 0.0- 2.0
香料 0.0- 2.5

[0142] 表11?14に示した調合により、粉末状のセンターを含むハードボイルドキャンディーを調製した。それぞれ、上記の表11に示したハードキャンディーのシェル組成物と、表12?14のうちの1つに示した粉末状のセンター組成物を含む、3種類の異なる粉末状のセンターを含むハードボイルドキャンディーを調製する。
[0143] 上述の実施例2にしたがい、シェル材料を調製する。要約すると、高温のイソマルト溶液を、予め水に溶解し146℃で調理した砂糖/グルコースシロップに加える。クエン酸、色素及び香料を、調理された砂糖塊に加える。バッチを混練し、成形可能な均一な非晶質の塊状物とする。
[0144] 粉末状のセンターのために、エリスリトール又は他の粉末状のポリオール及び/又はこれらの組み合わせを、糖(スクロース、ガラクトース、ラクトース等)と共に、自由に流動するように加熱した台上に置く。
[0145] まず、菓子用の抜き型を用いて非晶質の調理済みシェル材料を打ち抜き、トローチ又はキャンディーの下側のシェルを形成する。小さなさじを用いて、所定の重量の粉末状のセンター材料を下側のシェルの内部に注入した。他の非晶質の層状のキャンディー塊を打ち抜いて、上側のシェルを形成し、トローチの周囲を密封した。」(同【0165】?【0177】参照)

ク 「請求の範囲:
・・・
42. (a)センターフィル領域と、
(b)センターフィル領域を取り囲む菓子領域とを含み、
前記菓子領域が担体を含み、前記領域のうち少なくとも一方が、
(i)糖及び甘味抑制剤を含む甘味料組成物と、
(ii)食品用の酸組成物とを含む、センターフィル型菓子組成物。
43. 前記センターフィル領域が、粉末状のセンターフィル組成物を含む、請求項42に記載の菓子組成物。
44. 口腔湿潤組成物が前記センターフィル領域中に含まれる、請求項42に記載の菓子組成物。
・・・
49. 前記口腔湿潤組成物が更に清涼剤を含む、請求項42に記載の菓子組成物。」(同【請求項41】?【請求項43】、【請求項48】参照)

(3) 引用文献1に記載された発明
上記記載事項クの「請求項42」に記載された発明に着目すると、上記「請求項43」、「請求項44」及び「請求項49」は、いずれも「請求項42」を引用していること、また、上記記載事項エの「例えば、ある実施態様において、センターフィル領域は粉末状の菓子組成物であってよい。」との記載とともに、上記記載事項イには「清涼剤」についてエリスリトール、キシリトールなど具体例が示され、上記記載事項キには当該清涼剤が「粉末状」としてセンターフィル組成物として用いられていること、そして、上記記載事項エの「センターフィル領域は、・・・センターフィル組成物によってほぼ、又は完全に満たされていてもよい」との記載及び「センターフィル型の製品に係るある実施態様において、第3の領域又はコーティング領域を任意に含んでいてもよい。・・・コーティングは、センターフィル型製品の外表面を形成する」との記載を加味すると、引用文献1には、
「(a)粉末状の清涼剤を含むセンターフィル組成物を含むセンターフィル領域と、
(b)センターフィル領域を取り囲む菓子領域とを含み、
センターフィル領域は、センターフィル組成物によってほぼ、又は完全に満たされており、
前記菓子領域が担体を含み、前記領域のうち少なくとも一方が、
(i)糖及び甘味抑制剤を含む甘味料組成物と、
(ii)食品用の酸組成物とを含み、
(c)外表面を形成するコーティング領域(第3の領域)を含む、
センターフィル型菓子組成物。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(4) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「センターフィル組成物」、「センターフィル領域」及び「菓子領域」は、それぞれ、本願補正発明の「フィリング組成物」、「第1の領域」及び「第2の領域」に相当する。また、引用発明の「外表面を形成するコーティング領域(第3の領域)」は、菓子領域を少なくとも部分的に囲むものであるから、本願補正発明の「前記第2の領域を少なくとも部分的に囲む第3の領域であって、前記第3の領域はコーティングを含む第3の領域」に相当する。

イ 引用発明の「清涼剤」に関し、上記記載事項イの「ある実施態様において、1種類の清涼剤又は清涼剤の組み合わせを含んでいてよい。種々の周知の清涼剤を、口腔用組成物に用いることができる。例えば、有用な清涼剤のうち、特に、キシリトール、エリスリトール、デキストロース、ソルビトール、・・・」という記載によれば、引用発明の清涼剤として、「キシリトール、エリスリトール、デキストロース、ソルビトール」を使用する場合があるところ、これらが負の溶解熱を呈することは、当技術分野では周知の事項である。
(負の溶解熱を呈する清涼剤について、例えば下記文献を参照のこと。
・特開平11-75762号公報
「【0012】結晶の状態で存在する糖アルコールは、何れも、溶解にエネルギーを必要とする。これらの中で、エリスリトール及びキシリトールは、他の糖アルコールに比し、溶解に多くのエネルギーを必要とする結果、清涼作用が著しく大きい。マルチトールの清涼作用はエリスリトールに比して少ないが蔗糖より大きい。因に、エリスリトールの溶解熱は180(J/g)であり(特開昭63-258565号公報参照)、キシリトールの溶解熱は153(J/g)である(食品化学新聞社「糖アルコールの新知識」参照)。」
・特開平8-99904号公報
「【0007】溶解熱とは溶質を溶媒(水)に溶かすときに吸収又は発生する熱量で,吸収する場合を-,発生する場合を+であらわす。溶解熱が-60kJ/kg以下とは60kJ/kgよりも吸収熱量が大きいことをいう。本発明で用いられる糖アルコールとしては溶解熱が-60KJ/kg以下のものであれば特に制限はなく,-100KJ/kg以下であればより好ましい,例としては,キシリトール,ソルビトール,マンニトール,エリスリトールなどが挙げられる。糖アルコールの溶解熱が-60KJ/kg以下でない場合には,清涼感よりも糖アルコールの甘味が重たく感じられ,H_(2)ブロッカーの苦味と相まって複雑な味となり,良好な服用感を得ることができない。例えば溶解熱が-60kJ/kg以下でないマルチトール,ラクチトール等では苦味改善効果は得られなかった。しかし、溶解熱が-60KJ/kg以下好ましくは-100KJ/kg以下の糖アルコールを用いることにより,苦味が改善され,清涼感があり,口中ですみやかに溶解,崩解しうる易服用性のH_(2)ブロッカー固形製剤が提供し得た。」
・特表2004-508809号公報
「【0008】
本発明の粉末フィリングを作るポリオールは高い負の溶解熱を有するものである。溶解熱は熱力学的表現であり、溶質1gを溶解するのに必要な溶解熱の量として規定される。冷却効果を有するポリオールの場合、エネルギーは溶液により消費され、溶解熱を負とする。本発明のポリオールは一般に-25cal/g、望ましくは-30cal/g未満の溶解熱を有する。比較として、シュクロースはわずか-4cal/gだけの溶解熱を有することが知られている。
・・・
【0010】
単糖類ポリオールはキシリトール、エリスリトール、ソルビトール及びそれらの混合物からなる群から選ぶのが望ましい。」)
このことは、本願の発明の詳細な説明【0169】の「冷却感覚は、負の溶解熱を呈する物質(キシリトール、エリスリトール、デキストロース、およびソルビトールなどのポリオール、ならびにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)によってもたらされてもよい。」という記載とも整合する。
そして、本願補正発明に係る「微粒子物質」は、本願の発明の詳細な説明【0032】中の「用語「微粒子物質」は、本願明細書で使用する場合、固体物質(粉末、顆粒、結晶などおよびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない)の複数の粒子を指す。いくつかの実施形態では、この微粒子物質は結晶性である。」との記載に照らし、「粉末」状を含むものである。
よって、引用発明の「粉末状の清涼剤」は、本願補正発明の「負の溶解熱を有」する「微粒子物質」に相当する。

ウ 引用発明の「センターフィル領域を取り囲む菓子領域」の材料に関し、上記記載事項ウの「より具体的には、食品は、ハードキャンディー、ソフトキャンディー、綿あめ、センターフィル型キャンディー、・・・等が挙げられるがこれらに限定されない形態より選択することができる。」との記載及び上記記載事項エの「センターフィル領域の少なくとも一部を取り囲む領域は、センターフィル型キャンディーに係る実施態様においては、キャンディー組成物であってよく」との記載によれば、上記「センターフィル領域を取り囲む菓子領域」は「キャンディー組成物」でよいことが分かる。そして、上記記載事項オの「ソフトキャンディー・・・の調製方法についても、当業者に周知であり」との記載に照らして、上記「キャンディー組成物」は、周知のソフトキャンディーでよいことが理解されるし、上記記載事項アの「ある実施態様により、水溶性のチュワブル基材・・・を含むチュワブル食品が提供される。」との記載にある、水溶性のチュワブル基材に該当することは明らかである。
一方、本願補正発明に係る「第2の領域」の「可溶性のチュワブルマトリクス」は、本願の発明の詳細な説明【0093】中の「本願明細書で使用する場合の用語『チュワブルマトリクス』は、チューイーな食感をもたらす増量甘味料、ゲル化剤、および脂肪を含む組成物を指す。このようなチュワブルマトリクス組成物は、一般に菓子の技術分野でソフトチューインキャンディー(soft chewy candy)、ロー・ボイルド・キャンディー(low boiled candy)、ソフト・ボイルド・キャンディー(soft boiled candy)などと呼ばれる。適切なチュワブルマトリクス組成物としては、タフィー(taffy)、キャラメル、ヌガー、ファッジ、タフィー(toffee)、およびマシュマロを挙げることができるが、これらに限定されない。このチュワブルマトリクスは可溶性であり、不溶性の構成成分をもつ組成物、例えばチューインガムを含む意図はない。」との記載に照らし、「ソフトキャンディー」を含む。
そして、引用発明の「センターフィル領域を取り囲む菓子領域」の、そのセンターフィル領域を取り囲む構造は、当該センターフィル領域を収容する空洞を有する構造であるともいい得るものである。
そうすると、引用発明の「センターフィル領域を取り囲む菓子領域」は、本願補正発明の「可溶性のチュワブルマトリクスを含み」、「前記第1の領域を収容する空洞を有し」、「前記空洞に収容される前記第1の領域を少なくとも部分的に囲む第2の領域」に相当する。

エ 引用発明の「センターフィル組成物」は、「センターフィル領域」を「ほぼ、又は完全に満た」していることは、本願補正発明の「前記フィリング組成物は、前記第2の領域の前記空洞の容積の90%以上収容され」ていることに相当する。

オ 引用発明の「センターフィル型菓子組成物」は、上記のとおり水溶性のチュワブル基材を含むチュワブル食品ということができ、センターフィル領域、センターフィル領域を取り囲む菓子領域、外表面を形成するコーティング領域(第3の領域)を含むものであるから、本願補正発明の「複数領域チューイー菓子組成物」に相当する。

カ そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「(a)第1の領域であって、前記第1の領域は、微粒子物質を含むフィリング組成物を含み、前記微粒子物質は負の溶解熱を有する第1の領域と、
(b)第2の領域であって、前記第2の領域は可溶性のチュワブルマトリクスを含み、前記第2の領域は、前記第1の領域を収容する空洞を有し、前記空洞に収容される前記第1の領域を少なくとも部分的に囲む第2の領域と、
(c)前記第2の領域を少なくとも部分的に囲む第3の領域であって、前記第3の領域はコーティングを含む第3の領域と
を含む、複数領域チューイー菓子組成物であって、
前記フィリング組成物は、前記第2の領域の前記空洞の容積の90%以上収容される、
複数領域チューイー菓子組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明では、第1の領域の微粒子物質が0.4g/ml?0.8g/mlのタップ密度を有し、0.5?2.5のかさ密度に対するタップ密度を有し、菓子組成物に対する第1の領域の重量比が12重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)であるのに対して、引用発明では、その点は明らかでない点。

(5) 判断
ア まず、菓子組成物に対する第1の領域(フィリング組成物)の配合比をどの程度にするかは、菓子組成物の味の調整にあたり、消費者の嗜好に応じて当業者が適宜に設定し得る設計的事項であるといえ、その具体的な配合比についても、引用文献1には、センターフィル型キャンディーにおいて、シェルに対するセンターフィルの配合量を20重量%とする例(上記記載事項カ参照)や、例えば特表2004-508809号公報には、同様のセンターフィル型のキャンディーにおいて、フィリング部がケーシング部を含めて全体の糖菓製品の6?30重量%である例(【0014】)が示されている。
よって、引用発明において、第1の領域の菓子組成物に対する重量比を12重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)とすること、すなわち、上記相違点に係る本願補正発明のようにすることに格段の困難性は認められない。

イ 次に、微粒子物質のかさ密度に対するタップ密度の比は、ハウスナー比と称し、その比が「<1.25」の場合は、良好な流動特性を示すことは、粉体を使用する技術分野では周知の事項であり、粉体を多用する菓子分野も、当該技術分野に含まれるといえる。
(ハウスナー比について、例えば下記文献を参照のこと。
・特表2001-508061号公報
「当該微粒子の流動性は当業者に周知の方法で測定することができる。可能な方法の1つはハウスナー比(Hausner Ratio)の測定を含む。ハウスナー比の場合は、既知の重さの物質を測定シリンダーに注入し、その容積を記録する。続いてシリンダーを指定された回数だけ面に対して軽く打ちつけ、さらに再び容積を記録する。注入時の密度および打ちつけ後の密度を続いて求め、ハウスナー比=打ちつけ後密度/注入時密度を計算する。比が<1.25の場合は自由流動性物質であることを示し、一方比が>1.5の場合は低流動性(粘着性)物質であることを示す。」(12頁24行?13頁4行)
・特表2003-535861号公報
「【0017】
本明細書中に特定の化合物について用いる場合の「良好な流動特性」なる語は、適当には、1.5以下の、特に1.25以下のハウスナー(Hausner)比率を有する化合物により特徴付けられる。
「ハウスナー比率」は当該分野にて了解されている用語である。」)
そして技術常識から、通常は「かさ密度」≦「タップ密度」、すなわち、1≦(「タップ密度」/「かさ密度」)であることを考慮すれば、上記相違点における本願補正発明の「0.5?2.5」という範囲は、通常に考え得る最小値より小さい値から、上記のように低流動性(粘着性)物質であることを示す領域(1.5<)までも含む、きわめて広範な数値範囲であるといえる。
そうすると、引用発明の粉末状の清涼剤についても「かさ密度に対するタップ密度の比」がきわめて広範な「0.5?2.5」の範囲内にある蓋然性は高いといえるし、また、引用発明の粉末状の清涼剤については好適な食感を与える流動性が求められることは明らかである。
よって、引用発明において、微粒子物質のかさ密度に対するタップ密度の比を0.5?2.5の範囲に設定すること、すなわち、上記相違点に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が容易になし得る設計的事項にすぎない。

ウ 本願補正発明に係る微粒子物質のタップ密度を「0.4g/ml?0.8g/ml」の範囲に特定する点について、本願の発明の詳細な説明の記載によると、「大量のフィリング組成物が複数領域チューイー糖菓の中へと組み込まれるのを可能に」(【0046】)し、「大量の微粒子物質が当該フィリング組成物の中で使用され・・・ることを可能にする」(【0047】)ものとされる。
しかしながら、本願補正発明においては、第1の領域(フィリング組成物)中の微粒子物質の配合比について格別規定されておらず、また、菓子組成物中の第1の領域の重量比も12?50重量%という範囲に設定されるものであるから、本願補正発明は、微粒子物質を必ずしも大量に使用するものに限られてはいないし、大量のフィリング組成物が複数領域チューイー糖菓の中へと組み込まれたものに限られたものでもない。
一方、菓子組成物に用いられる粉末状の負の溶解熱を有するポリオールについて、そのタップ密度が0.4g/ml?0.8g/mlの範囲であることは、例えば特表2005-531323号公報(【0001】?【0014】、【0116】?【0119】、【表2】「バルク密度-軽い叩き、g/L」)、特表2008-502611号公報(【0001】、【0025】、【0049】?【0058】、【表1】「詰込み密度」)にみられるように、本願優先日前より普通に知られていることである。
そうすると、引用発明の粉末状の清涼剤を具体的に選択するにあたり、その粉末の特性として普通に知られたタップ密度のものを選択する程度のこと、すなわち、上記相違点に係る本願補正発明のように「0.4g/ml?0.8g/mlのタップ密度」の範囲のものを用いることは、当業者が実施に際して容易になし得ることにすぎない。

エ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願の発明の詳細な説明の記載から、
(a)「【0042】
かさ密度測定値とタップ密度測定値との間で比較的小さい差を呈する微粒子物質は、より大きい差を呈する微粒子物質よりも良好な流動特性および圧縮率を一般に有する。良好な流動特性および圧縮率をもつ微粒子物質は、当該シェル領域に存在する空洞の容積のより大きい百分率を充填するフィリング組成物を生じる。このような微粒子物質はまた、大量のフィリング組成物が複数領域チューイー糖菓の中へと組み込まれることを可能にすることもできる。」
あるいは、
(b)「【0046】
いくつかの実施形態では、約0.4g/ml?約0.8g/mlのタップ密度をもつ微粒子物質は、大量のフィリング組成物が複数領域チューイー糖菓の中へと組み込まれるのを可能にする。いくつかの実施形態では、このフィリング組成物は当該複数領域菓子組成物の約5重量%(重量/重量)?約50重量%(重量/重量)の量で存在する。他の実施形態では、この第1の領域またはフィリング組成物は当該複数領域菓子組成物の約12重量%(重量/重量)?約35重量%(重量/重量)の量で存在するが、他方でさらなる他の実施形態では、第1の領域またはフィリング組成物は当該複数領域菓子組成物の約15重量%(重量/重量)?約25重量%(重量/重量)の量で存在する。
【0047】
加えて、約0.4g/ml?約0.8g/mlのタップ密度をもつ微粒子物質は、大量の微粒子物質が当該フィリング組成物の中で使用されて、より強烈な冷感感覚を与えることができるフィリング組成物を生じることを可能にする。」
であると解される。
しかし、上記(a)の効果に係る「かさ密度測定値とタップ密度測定値との間で比較的小さい差を呈する微粒子物質は、より大きい差を呈する微粒子物質よりも良好な流動特性および圧縮率を一般に有する。」ことは、上記イで検討したように、当技術分野では周知の事項であって格別なことではない。
また、上記(b)の効果について、上記ウで検討したように、本願補正発明は、微粒子物質を必ずしも大量に使用するものに限られてはいないし、大量のフィリング組成物が複数領域チューイー糖菓の中へと組み込まれたものに限られたものでもないから、本願補正発明で奏される効果を正しく反映したものではなく、結局、上記(b)の効果が格別なものということはできない。
そして、本願の発明の詳細な説明において、具体的に「タップ密度」と「かさ密度」が開示されている(実施例E?S - 粉末フィリング)の記載(【0210】?【0214】)を参照しても、本願補正発明に格別顕著な効果が奏されているとは認められない。
したがって、本願補正発明が奏する効果は、引用文献1に記載された事項及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものというほかない。

(6) 小括
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年12月24日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載された事項(上記「第2 1 補正の内容」の補正前の請求項7参照。)により特定されるとおりのものと認める。

第4 引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1及びその記載事項並びに引用発明は、前記「第2 3(2)及び(3)」に記載したとおりである。
同じく原査定に引用された引用文献2(特開2007-222161号公報【0035】?【0036】)、引用文献3(特開2007-028951号公報【0020】-【0021】)及び引用文献4(国際公開第2006/127481号【0076】)には、20?200ミクロンの平均粒径を有するポリオールを菓子組成物に添加することが記載されており、菓子組成物には20?200μmの平均粒径を有するポリオールが通常用いられていることが理解される。

第5 対比・判断
1 対比
本願発明は、本願補正発明の「第1の領域」について、「微粒子物質を含むフィリング組成物を含」むこと、「前記微粒子物質は、0.4g/ml?0.8g/mlのタップ密度を有」することの限定を省き、「菓子組成物の12重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)」という範囲を「菓子組成物の5重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)」に広げるものであり、また、「第2の領域」について、「前記第1の領域を収容する空洞を有し、前記空洞に収容される前記第1の領域を少なくとも部分的に囲む」ことの限定を省き、「前記フィリング組成物」が「前記第2の領域の前記空洞の容積の90%以上収容され」ることの限定を省き、「菓子組成物」が「複数領域チューイー菓子組成物」であることの限定を省くものである。
したがって、本願発明と引用発明との対比にあたり、上記「第2 3(4)」での検討を踏まえると、本願発明は、引用発明とは以下の点で相違し、その余の点で一致するものと認められる。

[相違点]
本願発明では、第1の領域の微粒子物質が、0.5?2.5のかさ密度に対するタップ密度を有し、菓子組成物に対する第1の領域の重量比が5重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)であるのに対して、引用発明では、その点は明らかでない点。

2 判断
上記相違点について検討する。
まず、菓子組成物に対する第1の領域の配合比をどの程度にするかは、菓子組成物の味の調整にあたり、消費者の嗜好に応じて当業者が適宜に設定し得る設計的事項であるといえ、その具体的な配合比についても、引用文献1には、粉末状のセンター組成物がセンターフィル型ハードボイルドキャンディーの6.5重量%である例が示されている(上記「第2 3(2)キ」参照)。よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明のように、菓子組成物に対する第1の領域の重量比を5重量%(重量/重量)?50重量%(重量/重量)とすることに格段の困難性は認められない。
また、上記「第2 3(5)イ」に示したとおり、微粒子物質のかさ密度に対するタップ密度の比は、ハウスナー比と称し、その比が「<1.25」の場合は、良好な流動特性を示すことは、粉体を使用する技術分野では周知の事項であり、技術常識を踏まえれば、上記相違点における本願発明の「0.5?2.5」という範囲は、通常に考え得る最小値より小さい値から、上記のように低流動性(粘着性)物質であることを示す領域(1.5<)までも含む、きわめて広範な数値範囲である。そうすると、引用発明の粉末状の清涼剤や菓子組成物に通常用いられている20?200μmの平均粒径を有するポリオール(引用文献2?4参照)についても「かさ密度に対するタップ密度の比」がきわめて広範な「0.5?2.5」の範囲内にある蓋然性は高いといえる。
よって、引用発明の粉末状の清涼剤を具体的に選択するにあたり、好適な食感を与える流動性を考慮して、引用文献2?4にみられるような通常用いられている平均粒径のものを適宜選択するなどして微粒子物質のかさ密度に対するタップ密度の比を0.5?2.5の範囲に設定する程度のこと、すなわち上記相違点に係る本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得る設計的事項にすぎない。

そして、本願発明の効果についても、上記「第2 3(5)エ」で検討したとおり、当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2?4記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2?4記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-12 
結審通知日 2016-10-18 
審決日 2016-10-31 
出願番号 特願2013-91921(P2013-91921)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23G)
P 1 8・ 121- Z (A23G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 千壽 哲郎
窪田 治彦
発明の名称 複数領域菓子  
代理人 藤田 和子  

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