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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1326271
審判番号 不服2015-19954  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-06 
確定日 2017-04-04 
事件の表示 特願2013-256689「電流センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 81384、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年2月17日(優先権主張 2010年(平成22年)3月12日(以下、「優先日」という。))を国際出願日とする特願2012-504384号の一部を平成25年12月12日に新たな特許出願としたものであって、平成26年8月29日付けの拒絶理由通知に対して平成26年10月22日付けで手続補正がなされ、平成27年3月5日付けの最後の拒絶理由通知に対して平成27年4月7日付けで手続補正がなされたが、平成27年8月3日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年11月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、

「【請求項1】
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成され、2つの磁気抵抗効果素子間の出力を備える磁界検出ブリッジ回路を有する電流センサであって、
前記4つの磁気抵抗効果素子は、抵抗変化率が同じであり、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、前記出力を与える2つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であり、前記磁気検出ブリッジ回路は、電源供給点に対して対称である配線を有しており、
それぞれの前記磁気抵抗効果素子は、帯状の長尺パターンが折り返されたミアンダ形状で、前記軟磁性自由層が帯状の長尺パターンに沿って形成されており、全ての前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性自由層の前記長尺パターンの長手方向が、直線的に流れる被測定電流の向きと平行に配置され、前記軟磁性自由層は、前記長尺パターンの長手方向に誘導磁気異方性が付与されており、前記強磁性固定層の磁化方向が前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向けられていることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
直線的に流れる被測定電流の流れ方向に沿って、前記4つの磁気抵抗効果素子が一列に配列していることを特徴とする請求項1記載の電流センサ。
【請求項3】
直線的に流れる被測定電流の流れ方向に沿って、前記磁気抵抗効果素子が2列に配列していることを特徴とする請求項1記載の電流センサ。
【請求項4】
被測定電流が流れる導体は、一方向へ直線的にのみ延びている請求項1ないし3のいずれかに1項に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子の近傍に配置され、前記誘導磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイルをさらに具備し、前記磁気検出ブリッジ回路で得られる電圧差により前記フィードバックコイルに通電して前記誘導磁界と前記キャンセル磁界とが相殺される平衡状態となったときの前記フィードバックコイルに流れる電流に基づいて前記被測定電流を測定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項6】
前記誘導磁界及び前記キャンセル磁界が前記長尺パターンの延びる方向に直交する方向に沿うように印加されることを特徴とする請求項5記載の電流センサ。
【請求項7】
前記磁界検出ブリッジ回路により、前記誘導磁界に比例した前記4つの磁気抵抗効果素子の出力により前記被測定電流を測定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項8】
前記第1の強磁性膜が40原子%?80原子%のFeを含むCoFe合金で構成され、前記第2の強磁性膜が0原子%より多くかつ40原子%以下のFeを含むCoFe合金で構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項9】
被測定電流が流れる導体と、前記4つの磁気抵抗効果素子との間に、磁気シールドが設けられたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の電流センサ。」
とあったところを、

「【請求項1】
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成され、2つの磁気抵抗効果素子間の出力を備える磁界検出ブリッジ回路を有する電流センサの製造方法であって、
前記4つの磁気抵抗効果素子は、抵抗変化率が同じであり、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、前記出力を与える2つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であり、前記磁気検出ブリッジ回路は、電源供給点に対して対称である配線を有しており、
それぞれの前記磁気抵抗効果素子は、帯状の長尺パターンが折り返されたミアンダ形状で、前記軟磁性自由層を帯状の長尺パターンに沿って形成し、全ての前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性自由層の前記長尺パターンの長手方向を、直線的に流れる被測定電流の向きと平行に配置し、前記軟磁性自由層は、その成膜中に磁場を印加して前記長尺パターンの長手方向に誘導磁気異方性を付与しており、前記強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向けることを特徴とする電流センサの製造方法。
【請求項2】
直線的に流れる被測定電流の流れ方向に沿って、前記4つの磁気抵抗効果素子を一列に配列することを特徴とする請求項1記載の電流センサの製造方法。
【請求項3】
直線的に流れる被測定電流の流れ方向に沿って、前記磁気抵抗効果素子を2列に配列することを特徴とする請求項1記載の電流センサの製造方法。
【請求項4】
被測定電流が流れる導体は、一方向へ直線的にのみ延びている請求項1ないし3のいずれかに記載の電流センサの製造方法。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子の近傍に配置し、前記誘導磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイルをさらに具備させて、前記磁気検出ブリッジ回路で得られる電圧差により前記フィードバックコイルに通電して前記誘導磁界と前記キャンセル磁界とが相殺される平衡状態となったときの前記フィードバックコイルに流れる電流に基づいて前記被測定電流を測定できるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電流センサの製造方法。
【請求項6】
前記誘導磁界及び前記キャンセル磁界が前記長尺パターンの延びる方向に直交する方向に沿うように印加されることを特徴とする請求項5記載の電流センサの製造方法。
【請求項7】
前記磁界検出ブリッジ回路により、前記誘導磁界に比例した前記4つの磁気抵抗効果素子の出力により前記被測定電流を測定できるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電流センサの製造方法。
【請求項8】
前記第1の強磁性膜を40原子%?80原子%のFeを含むCoFe合金で構成し、前記第2の強磁性膜を0原子%より多くかつ40原子%以下のFeを含むCoFe合金で構成することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電流センサの製造方法。
【請求項9】
被測定電流が流れる導体と、前記4つの磁気抵抗効果素子との間に、被測定電流から生じて磁気抵抗効果素子に印加される前記誘導磁界を減衰させる磁気シールドを設けたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の電流センサの製造方法。」
とすることを含むものである(下線は、本件補正による補正箇所である。)。

本件補正について検討する。

請求項1についてする本件補正は、「軟磁性自由層」について「その成膜中に磁場を印加」するとの限定を付加するとともに、このような限定にあわせて、本件補正前に「電流センサ」であったものを「電流センサの製造方法」に補正し、請求項9については、本件補正前の「磁気シールド」について、「被測定電流から生じて磁気抵抗効果素子に印加される前記誘導磁界を減衰させる磁気シールド」と限定を付加するものである。
そして、請求項1ないし9についてする、その余の補正については、前記限定にあわせて表現を補正するものである。


よって、本件補正は、特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。

2 独立特許要件

そこで、補正後の請求項1ないし9に記載されている事項により特定される発明(それぞれを、以下、「本件補正発明1」等という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について、以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
ア 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-101252号公報(本引用例は、原査定の拒絶の理由における引用文献3に対応するので、以下、これを「引用例3」という。また、以下の引用例1、2、4ないし11についても同様である。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審で付した。以下、同様。)。

a「【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の変化を高感度に検出可能な磁気センサおよびその製造方法、ならびに導体を流れる電流の変化を高感度に検出可能な電流センサに関する。」

b「【0008】
本発明の第1の電流センサは、検出対象電流が供給されることにより電流磁界を発生する導体と、その電流磁界に応じて自らの抵抗値が変化するように導体に沿って配置された磁気抵抗効果素子を有する素子基板と、この素子基板の一方の面と貼り合わされて磁気抵抗効果素子に対してバイアス磁界を印加する磁性基板とを備えるようにしたものである。」

c「【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
最初に、図1,図2を参照して、本発明における第1の実施の形態としての電流センサの構成について説明する。図1は、本実施の形態における電流センサ10の斜視構成を表す概略図であり、図2は、図1の電流センサ10における回路構成を表したものである。なお、図2における検出対象電流Im、補償電流Id、電流磁界Hm、補償電流磁界Hd、バイアス磁界Hb1,Hb2および電流I0のすべての矢印の方向は、第1および第2の磁気抵抗効果素子3A,3B(後出)との相対的な方向を示している。
【0021】
電流センサ10は、基体1上に形成された導体2に供給される検出対象電流Imを測定する電流計であり、第1および第2の磁気抵抗効果素子3A,3B(以下、単にMR素子3A,3Bと記す。)を含む磁気センサ7A,7Bを備えている。MR素子3A,3Bは、第1の接続点P1において互いに接続されており、互いを結ぶ仮想直線上の中間点を通る中心線CLを対称軸として線対称に配置されている(図2参照)。」

d「【0025】
電流センサ10は、さらに、互いの一端同士が第2の接続点P2において接続された、定電流源CG1(第1の定電流源)および定電流源CG2(第2の定電流源)を備えている(図2)。定電流源CG1は、第3の接続点P3において、MR素子3Aにおける第1の接続点P1とは反対側の端部と接続されており、一方の定電流源CG2は、第4の接続
点P4において、MR素子3Bにおける第1の接続点P1とは反対側の端部と接続されている。すなわち、MR素子3Aと定電流源CG1とが直列接続されていると共に、MR素子3Bと定電流源CG2とが直列接続されており、それらが中心線CLを対称軸として線対称となるように互いに並列接続された状態となっている。ここで、定電流源CG1および定電流源CG2は、互いに等しい値の定電流I0をMR素子3AおよびMR素子3Bにそれぞれ供給するように構成されている。なお、定電流源CG1,CG2は、基体1の上に設けられた回路基板9の内部に形成されている(図1では図示せず)。」

e「【0028】
図3に示したように、MR素子3A,3BにおけるGMR膜は、磁性層を含む複数の機能膜が積層されたスピンバルブ構造をなしており、具体的には一定方向に固着された磁化方向J11を有する固着層11と、特定の磁化方向を示さない中間層12と、合成磁界Hm1,Hm2をはじめとする外部磁界Hに応じて磁化方向J13が変化する自由層13とを順に含んでいる。なお、図3は、合成磁界Hm1,Hm2が零(Hm1,Hm2=0)であり、かつ、磁性基板6A,6Bによるバイアス磁界Hb1,Hb2を印加しない無負荷状態(すなわち、外部磁界Hが零の状態)を示している。この場合には、自由層13の磁化方向J13は、自らの磁化容易軸方向AE13と平行をなし、かつ、固着層11の磁化方向J11と直交した状態となっている。
【0029】
自由層13は、ニッケル鉄合金(NiFe)などの軟磁性材料により構成されている。中間層12は、銅(Cu)により構成され、上面が固着層11と接すると共に下面が自由層13と接している。中間層12は、銅のほか、金(Au)などの導電率の高い非磁性金属により構成することができる。なお、固着層11の上面(中間層12と反対側の面)および自由層13の下面(中間層12と反対側の面)は、それぞれ図示しない保護膜によって保護されている。また、固着層11と自由層13との間には磁化方向J11における交換バイアス磁界Hinが生じており、中間層12を介して互いに作用し合っている。交換バイアス磁界Hinの強度は、固着層11と自由層13との相互間隔(すなわち中間層12の厚み)に応じて自由層13のスピン方向が回転することにより変化する。なお、図3では、下から自由層13、中間層12、固着層11の順に積層された場合の構成例を示しているが、これに限定されず、反対の順序で構成するようにしてもよい。」

f「【0050】
<変形例1>
ここで、図9を参照して、本実施の形態の電流センサにおける変形例について説明する。
【0051】
上記第1の実施の形態では、図4(A),(B)に示したように、外部磁界Hが零のとき、自由層13の磁化方向J13A,J13Bが固着層11の磁化方向J11A,J11Bと直交するように構成している。しかしながら、本発明では、図9(A),(B)に示した変形例のように、外部磁界Hが零のとき、自由層13の磁化方向J13A0,J13B0と固着層11の磁化方向J11A,J11Bとが互いに平行をなすように構成してもよい。具体的には、図9(A)では、MR素子3Aの磁化方向J11Aおよび磁化方向J13A0が共に合成磁界Hm1と直交する+X3方向となっており、MR素子3Bの磁化方向J11Bおよび磁化方向J13B0が共に合成磁界Hm2と直交する+Y3方向となっている。また、図9(B)では、MR素子3Aの磁化方向J11Aおよび磁化方向J13A0が共に合成磁界Hm1と直交する+X3方向となっており、MR素子3Bの磁化方向J11Bおよび磁化方向J13B0が共に合成磁界Hm2と直交する-Y3方向となっている。ただし、これらの場合には、バイアス磁界Hb1,Hb2を磁化方向J11A,J11Bに対して斜め方向に印加することが望ましい。すなわち、磁化方向J11A,J11Bに平行な平行成分と、この平行成分に直交する直交成分とを有するバイアス磁界Hb1,Hb2を印加することが望ましい。具体的には、図9(A)では、MR素子3Aに対して-Y3方向のバイアス磁界Hb1を印加すると共にMR素子3Bに対して+Y2方向のバイアス磁界Hb2を印加するとよい。また、図9(B)では、MR素子3Aに対して-Y3方向のバイアス磁界Hb1を印加すると共にMR素子3Bに対して+X3方向のバイアス磁界Hb2を印加するとよい。ここで、バイアス磁界Hb1,Hb2の平行成分は、上記第1の実施の形態で述べたように、異方性磁界に相当するものとして自由層13の一軸異方性を強め、MR素子3A,3Bにおける磁界検出動作の安定化に寄与する成分である。一方、この平行成分と直交する直交成分は以下の理由により必要となるものである。」

g「【0060】
[第3の実施の形態]
次に、本発明における第3の実施の形態としての電流センサについて説明する。上記第1の実施の形態では、導体2の直線部分2A,2Bに対して2つのMR素子3A,3Bを配置するようにした例について説明した。これに対し本実施の形態では、1つの導体2に対して4つのMR素子3A?3Dを配置するようにした。以下、図13を参照して説明する。なお、4つのMR素子3A?3Dを配置するようにした点以外の部分については実質的に上記第1の実施の形態と同様であるので、適宜説明を省略する。」

h「【0064】
また、図14に示したように、本実施の形態の電流センサでは、MR素子3A,3Bの一端同士が第1の接続点P1において接続され、MR素子3C,3Dの一端同士が第2の接続点P2において接続され、MR素子3Aの他端とMR素子3Dの他端とが第3の接続点P3において接続され、MR素子3Bの他端とMR素子3Cの他端とが第4の接続点P4において接続されることによりブリッジ回路が形成されている。なお図14は、本実施の形態の電流センサにおける回路構成を表したものである。」
【0065】
以下、図14を参照して、検出対象電流Imによって形成される電流磁界Hmを測定する方法について説明する。
【0066】
図14において、まず、外部磁界Hが印加されていない状態を考える。ここで読出電流i0を流したときのMR素子3A?3Dの各抵抗値をr1?r4とする。電源Vccからの読出電流i0は、第2の接続点P2で読出電流i1および読出電流i2の2つに分流される。そののち、MR素子3CおよびMR素子3Bを通過した読出電流i1と、MR素子3DおよびMR素子3Aを通過した読出電流i2とが第1の接続点P1において合流する。この場合、第2の接続点P2と第1の接続点P1との間の電位差Vは、
V=i1r3+i1r2=i2r4+i2r1
=i1(r3+r2)=i2(r4+r1) ……(5)
と表すことができる。
また、第4の接続点P4における電位V3および第3の接続点P3における電位V4は、それぞれ、
V3=V-i1r3
V4=V-i2r4
と表せる。よって、第4の接続点P4と第3の接続点P3との電位差V0は、
V0=V4-V3
=(V-i2r4)-(V-i1r3)
=i1r3-i2r4 ……(6)
ここで、(5)式から、
V0=r3/(r3+r2)・V-r4/(r4+r1)・V
={r3/(r3+r2)-r4/(r4+r1)}・V ……(7)
となる。このブリッジ回路では、外部磁界である電流磁界Hmが印加されたときに、上記の式(7)で表された第4の接続点P4と第3の接続点P3との電位差V0を測定することにより、抵抗変化量が得られる。ここで、電流磁界Hmが印加されたときに、抵抗値R1?R4がそれぞれ変化量ΔR1?ΔR4だけ変化したとすると、すなわち、電流磁界Hmを印加後の抵抗値R1?R4が、それぞれ
R1=r1+ΔR1
R2=r2+ΔR2
R3=r3+ΔR3
R4=r4+ΔR4
であるとすると、電流磁界Hmの印加時における電位差V0は、式(7)より、
V0={(r3+ΔR3)/(r3+ΔR3+r2+ΔR2)-(r4+ΔR4)/(r4+ΔR4+r1+ΔR1)}・V ……(8)
となる。この電流センサでは、MR素子3A,3Cの抵抗値R1,R3と、MR素子3B,3Dの抵抗値R2,R4とは互いに逆方向の変化を示すように構成されているので、変化量ΔR4と変化量ΔR1とが打ち消し合うと共に、変化量ΔR3と変化量ΔR2とが打ち消し合うこととなる。このため、電流磁界Hmの印加前後を比較した場合、式(8)の各項における分母の増加はほとんど無い。一方、各項の分子については、変化量ΔR3と変化量ΔR1とが必ず反対の符号を有するので増減が現れることとなる。
【0067】
仮に、MR素子3A?3Dの全てが完全に同一の特性を有するものとした場合、すなわち、r1=r2=r3=r4=R、かつ、ΔR1=-ΔR2=ΔR3=-ΔR4=ΔRであるとした場合、式(8)は、
V0={(R+ΔR)/(2・R)-(R-ΔR)/(2・R)}・V
=(ΔR/R)・V
となる。
【0068】
このように、予めΔR/R等の特性値を把握したMR素子3A?3Dを用いるようにすれば、電流磁界Hmの大きさを測定することができ、その電流磁界Hmを発生する検出対象電流Imの大きさを推定することができる。特に、4つのMR素子3A?3Dを用いてセンシングを行っているので、2つのMR素子3A,3Bのみを用いてセンシングを行う場合と比べ、より高精度な測定を行うことができる。
【0069】
なお、本実施の形態ではV字状の平面形状をなす導体2を用いた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば第2の実施の形態で説明した直線状の導体21に沿って4つのMR素子3A?3Dを配置するようにしてもよい。」

i 図14には、図13を参酌すると、2つの磁気抵抗効果素子間の出力を与える2つの磁気抵抗効果素子((3C、3B)、(3D、3A))の固着層の磁化方向J11が互いに180度異なる方向である(J11C(下向き)、J11B(上向き))、(J11D(上向き)、J11A(下向き))であることが示されている。

j 図14には、ブリッジ回路は、電源供給点に対し、対称な回路配置であることが示されている。


(A)引用例3の「【技術分野】【0001】本発明は、磁界の変化を高感度に検出可能な磁気センサおよびその製造方法、ならびに導体を流れる電流の変化を高感度に検出可能な電流センサに関する。」との記載、及び「【0008】本発明の第1の電流センサは、検出対象電流が供給されることにより電流磁界を発生する導体と、その電流磁界に応じて自らの抵抗値が変化するように導体に沿って配置された磁気抵抗効果素子を有する素子基板と、‥‥‥を備えるようにしたものである。」との記載から、「磁気センサ」は、導体を流れる電流磁界を検出するものであって、「電流センサ」と捉えることができるから、引用例3には、「検出対象電流が供給されることにより電流磁界を発生する導体と、その電流磁界に応じて自らの抵抗値が変化するように導体に沿って配置された磁気抵抗効果素子を有する電流センサの製造方法」が記載されているということができる。

(B)引用例3記載の[第3の実施の形態]に着目すると、上記gに「【0060】[第3の実施の形態]次に、本発明における第3の実施の形態としての電流センサについて説明する。‥‥‥本実施の形態では、1つの導体2に対して4つのMR素子3A?3Dを配置するようにした。‥‥‥なお、4つのMR素子3A?3Dを配置するようにした点以外の部分については実質的に上記第1の実施の形態と同様であるので、適宜説明を省略する。」と記載されていることから、第3の実施の形態部分と同様の形態部分を有する第1の実施の形態についても摘記する。

(C)上記cの「【0021】‥‥‥第1および第2の磁気抵抗効果素子3A,3B(以下、単にMR素子3A,3Bと記す。)‥‥‥」との記載から、引用例3には、磁気抵抗効果素子をMR素子と記すことが記載されており、以下、引用例3に記載の「MR素子」を「磁気抵抗効果素子」と表現する。

(D)上記eの段落【0028】の記載において、「MR素子3A,3B」は、各磁気抵抗効果素子と表現できるから、同段落【0028】には、「各磁気抵抗効果素子におけるGMR膜は、磁性層を含む複数の機能膜が積層されたスピンバルブ構造をなしており、具体的には一定方向に固着された磁化方向J11を有する固着層11と、特定の磁化方向を示さない中間層12と、外部磁界Hに応じて磁化方向J13が変化する自由層13とを順に含み、無負荷状態(すなわち、外部磁界Hが零の状態)の場合には、自由層13の磁化方向J13は、自らの磁化容易軸方向AE13と平行をなし、かつ、固着層11の磁化方向J11と直交した状態となっている」ことが記載されているということができる。

(E)上記eの段落【0029】の記載から、引用例3には、「自由層13は、軟磁性材料により構成され、中間層12は、上面が固着層11と接すると共に下面が自由層13と接し、中間層12は、非磁性金属により構成する」ことが記載されているということができる。

(F)上記gの「段落【0060】[第3の実施の形態]‥‥‥1つの導体2に対して4つのMR素子3A?3Dを配置する‥‥‥」との記載において、導体2についてみるに、上記hの段落【0069】に「なお、本実施の形態ではV字状の平面形状をなす導体2を用いた例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば第2の実施の形態で説明した直線状の導体21に沿って4つのMR素子3A?3Dを配置するようにしてもよい。」と記載されていることから、導体2の変形例である導体21について、「直線状の導体21に沿って4つのMR素子3A?3Dを配置する」ことが記載されているということができる。
したがって、上記記載、及び上記hの段落【0064】の記載から、引用例3には、「直線状の導体21に沿って4つの磁気抵抗効果素子3A?3Dを配置するようにし、磁気抵抗効果素子3A,3Bの一端同士が第1の接続点P1において接続され、磁気抵抗効果素子3C,3Dの一端同士が第2の接続点P2において接続され、磁気抵抗効果素子3Aの他端と磁気抵抗効果素子3Dの他端とが第3の接続点P3において接続され、磁気抵抗効果素子3Bの他端と磁気抵抗効果素子3Cの他端とが第4の接続点P4において接続されることによりブリッジ回路が形成されている」ことが記載されているということができる。

(G)上記hの「【0066】 図14において、‥‥‥電流磁界Hmが印加されたときに、抵抗値R1?R4がそれぞれ変化量ΔR1?ΔR4だけ変化したとする‥‥‥【0067】仮に、MR素子3A?3Dの全てが完全に同一の特性を有するものとした場合、‥‥‥V0=‥‥‥(ΔR/R)・Vとなる。【0068】このように、予めΔR/R等の特性値を把握したMR素子3A?3Dを用いるようにすれば、電流磁界Hmの大きさを測定することができ、その電流磁界Hmを発生する検出対象電流Imの大きさを推定することができる。」との記載において、図14には、ブリッジ回路が示されていることから、引用例3には、「ブリッジ回路において、磁気抵抗素子3A?3Dの全てが完全に同一の特性を有するものとした場合、電流磁界Hmの大きさを測定することができ、その電流磁界Hmを発生する検出対象電流Imの大きさを推定することができる」ことが記載されているということができる。

(H)上記iから、「2つの磁気抵抗効果素子間の出力を与える2つの磁気抵抗効果素子((3C、3B)、(3D、3A))の固着層の磁化方向J11が互いに180度異なる方向である(J11C(下向き)、J11B(上向き))、(J11D(上向き)、J11A(下向き))である」ことが記載されているということができる。

(I)上記jから、「ブリッジ回路は、電源供給点に対し、対称な回路である」ことが示されているということができる。


上記記載から、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「検出対象電流が供給されることにより電流磁界を発生する導体と、その電流磁界に応じて自らの抵抗値が変化するように導体に沿って配置された磁気抵抗効果素子を有する電流センサの製造方法において、
直線状の導体21に沿って4つの磁気抵抗効果素子3A?3Dを配置するようにし、磁気抵抗効果素子3A,3Bの一端同士が第1の接続点P1において接続され、磁気抵抗効果素子3C,3Dの一端同士が第2の接続点P2において接続され、磁気抵抗効果素子3Aの他端と磁気抵抗効果素子3Dの他端とが第3の接続点P3において接続され、磁気抵抗効果素子3Bの他端と磁気抵抗効果素子3Cの他端とが第4の接続点P4において接続されることによりブリッジ回路が形成され、
各磁気抵抗効果素子におけるGMR膜は、磁性層を含む複数の機能膜が積層されたスピンバルブ構造をなしており、具体的には一定方向に固着された磁化方向J11を有する固着層11と、特定の磁化方向を示さない中間層12と、外部磁界Hに応じて磁化方向J13が変化する自由層13とを順に含み、無負荷状態(すなわち、外部磁界Hが零の状態)の場合には、自由層13の磁化方向J13は、自らの磁化容易軸方向AE13と平行をなし、かつ、固着層11の磁化方向J11と直交した状態となり、
自由層13は、軟磁性材料により構成され、中間層12は、上面が固着層11と接すると共に下面が自由層13と接し、中間層12は、非磁性金属により構成し、
ブリッジ回路において、磁気抵抗素子3A?3Dの全てが完全に同一の特性を有するものとした場合、電流磁界Hmの大きさを測定することができ、その電流磁界Hmを発生する検出対象電流Imの大きさを推定することができ、
2つの磁気抵抗効果素子間の出力を与える2つの磁気抵抗効果素子((3C、3B)、(3D、3A))の固着層の磁化方向J11が互いに180度異なる方向である(J11C(下向き)、J11B(上向き))、(J11D(上向き)、J11A(下向き))であり、
ブリッジ回路は、電源供給点に対し、対称な回路配置である、
磁気センサの製造方法。」

イ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-291647号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審で付した。)。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は被検出電流の通電により生じる磁界を強磁性磁気抵抗膜により検出する電流センサに関する。」

「【0007】
【実施例】この発明の実施例である電流センサの構造を図1?図11に示す。その内図2?図8は製造途中の状態を示す図であり、これらの図に基づき以下その作成手順を示す。
【0008】まず、図2において1は熱酸化シリコン基板であり、その絶縁面上にNi19%Fe合金を磁場中蒸着法により膜厚300Å成膜し、次いでフォトリソグラフィにより同図に示すように4つのミアンダライン状の強磁性磁気抵抗膜パターン2,3,4,5を形成する。その内2,3は感磁部として作用し、4,5は後述するブリッジ回路の対辺抵抗であるダミー抵抗として、また後述するように温度補償抵抗として作用する。各強磁性磁気抵抗膜パターンは、磁気容易軸を長手方向として、線幅を30μm、間隙を10μmとして、またパターン2,3の両端間の長さを500μm、パターン4,5の長さをそれぞれ175μmとして形成する。」

「【0017】図10は図1に示した電流センサにおける強磁性磁気抵抗膜パターンによる回路を簡略化した図、図11はこれを電気回路として示した図である。このように一方の対辺を感磁部としての強磁性磁気抵抗膜パターン2,3、他方の対辺をダミー抵抗としての強磁性磁気抵抗膜パターン4,5とするブリッジ回路が構成される。したがって、たとえば端子6a-8a間に定電圧を印加すれば、端子9a-7a間に強磁性磁気抵抗膜パターン2,3の抵抗値変化に応じた電圧が現れる。ここで抵抗膜パターン2,3,4,5の抵抗値をそれぞれR2,R3,R4,R5と表せば、導体膜パターンに通電される被検出電流が0のとき、平衡状態すなわちR2・R3=R4・R5の関係とすれば、被検出電流が0のとき端子9a-7a間の出力電圧は最低(ほぼ0)となり、被検出電流がいずれかの方向に通電されれば、出力電圧が大きく上昇することになる。なお、強磁性磁気抵抗膜パターン2,3と強磁性磁気抵抗膜パターン4,5は同一材料であり、その抵抗温度係数が同一(約2500ppm/℃)であるため、強磁性磁気抵抗膜パターン4,5は図11に示したブリッジ回路を構成することによって、温度補償抵抗としても作用する。」

したがって、引用例1には次の発明が記載されているということができる。

「被検出電流の通電により生じる磁界を強磁性磁気抵抗膜により検出する電流センサにおいて、
4つのミアンダライン状の強磁性磁気抵抗膜パターン2,3,4,5を形成し、その内2,3は感磁部として作用し、4,5はブリッジ回路の対辺抵抗であるダミー抵抗として、また温度補償抵抗として作用する、
電流センサ。」

ウ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-306112号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審で付した。)。

「【0001】
本発明は、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果膜とそれを用いた磁気センサ及び回転角度検出装置に関するものである。」

「【0018】
(実施形態1)
図1に磁気抵抗効果膜の構成の1例を示す。ただし、積層関係を図示しており、相対的な層の厚さを示すものではない。ガラスやSi、もしくはこれらの材料の上にAl2O3やSiO2などの絶縁層を形成してなる基体10上に下地層11を形成し、その上に第一の強磁性層121、反平行結合層122、第二の強磁性層123を形成する。この3層で固定層12が形成される。その上に非磁性の中間層13を介し、第一の強磁性層141、第二の強磁性層142を形成する。2つの強磁性層141,142は強磁性的に結合し、外部磁界に対して磁化方向が自由に変化する自由層14として振舞う。最上面に保護層15を形成して磁気抵抗効果膜を構成する。」

「【0035】
図10は磁気抵抗効果素子を構成する、パターニングした磁気抵抗効果膜をブリッジ接続した回路図を示している。この回路は磁気センサ21中に形成したものである。太い矢印の方向は固定層の磁化方向を表す。磁気抵抗効果素子31a?31dのうち、磁気抵抗効果素子31a及び31bを接続し、磁気抵抗効果素子31c及び31dを接続してホイートストンブリッジを構成した。ここで、磁気抵抗効果素子31a及び31dのピン方向が同一で(基準軸に対して0°方向)、磁気抵抗効果素子31b及び31cのピン方向が同一(基準軸に対して180°方向)である。所定の電源電圧Vccを印加することで中点電位Vx1及びVx2を検出した。これらの対を90°回転させて形成した磁気抵抗効果素子32a?32dを用いて、同様のホイートストンブリッジを構成し、中点電位Vy1及びVy2を検出した。それぞれの中点電位から出力電圧Vx,Vyを得た。図9に示した永久磁石23が回転して正弦波状の磁界変化が生じると、図11で示すように出力電圧Vx及びVyは夫々サイン波,コサイン波の関係になった。これらの信号から逆正接(tan-1)演算を行うことで外部磁界角度θcalcを得ることができた。この外部磁界角度θcalcは、永久磁石23の回転角度θappと同一となることが望ましいが、磁気抵抗効果素子に起因する信号歪が発生すると、必ずしも同一とはならない。図11の外部磁界角度θはθappに相当する。」

ここで、段落【0018】の記載から、引用例2の「磁気抵抗効果膜」は、「反平行結合層を介して第1の強磁性層と第2の強磁性層とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層からなる」ものということができる。

したがって、引用例2には次の発明が記載されているということができる。

「スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果膜を用いた磁気センサであって、
磁気抵抗効果膜は、反平行結合層を介して第1の強磁性層と第2の強磁性層とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層からなり、
磁気抵抗効果素子31a?31dのうち、磁気抵抗効果素子31a及び31bを接続し、磁気抵抗効果素子31c及び31dを接続してホイートストンブリッジを構成し、ここで、磁気抵抗効果素子31a及び31dのピン方向が同一で(基準軸に対して0°方向)、磁気抵抗効果素子31b及び31cのピン方向が同一(基準軸に対して180°方向)であり、所定の電源電圧Vccを印加することで中点電位Vx1及びVx2を検出し、これらの対を90°回転させて形成した磁気抵抗効果素子32a?32dを用いて、同様のホイートストンブリッジを構成し、中点電位Vy1及びVy2を検出する、
磁気センサ。」

エ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平10-506193号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「図1は、本発明の測定装置の一部を空間的に示した回路略図である。
図2は、平行に、且つ電流ループによって形成される平面に対して上方に位置する共通な平面内の測定ブリッジの装置を有する図1の回路略図である。
図3は、ただ1つの測定ブリッジを有する実施形態である。
測定すべき電流Ioが流れており、電流導体Liとして用いられる電流レールは電力用電流回路の構成部分であり、図において、そのような電流レールの1つの短くて水平な部材が示されている。電流Ioの向きを、矢印Pによって示す。
それぞれ1つの測定ブリッジBo、Buが適当に、電流導体Liの上方および下方の直接周囲Zにおいて共通な対称軸Asに関して定置して設けられる。前記測定ブリッジBo、Buは、それぞれ4つの、ホイートストンブリッジの形で接続される磁気抵抗性測定抵抗Mから成り、測定ブリッジBo、Buにブリッジ電圧Ubが印加される。測定装置のこのような部分は、それぞれ1つの補償導線Lkと共に測定素子Aを形成する。
それぞれの測定ブリッジBo、Buで取り出される測定電圧Umは、各1つの差動増幅器Vdに供給される。差動増幅器Vdは、測定電圧Umが零になるように、それぞれの補償導体Lkの補償電流Ikを制御する。
それぞれの補償導体Lkに各1つの測定抵抗Rmが接続されており、この測定抵抗Rmを介して電圧降下が測定される。これらの電圧は演算増幅器Voに供給され、演算増幅器Voにより電圧は加算される。演算増幅器Voの出力電圧Usは、測定すべき電流Ioに比例する。」(7頁16行ないし8頁8行)

オ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2000-516714号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「本発明は、比較的大きな磁気抵抗特性を示す強磁性薄膜構造に関する。特に、磁場を感知するために使用されるこのような構造に関する。」(7頁4行ないし5行)

「センサ54および55内の各磁気抵抗部材17および17’は、互いに良く一致するように製造されており、結果的に、コイル25’’中の電流に起因する部材17’の抵抗の変化が、コイル25において導入される入力電流に起因して部材17において生じる変化と丁度等しくなることが意図されている。従って、このように抵抗変化のバランスをとることによって、コイル25’’に供給されるその出力における電流が端子26を通して導入されたものに丁度等しい場合、演算増幅器58の差動入力端子間には有意な電位差が全く残らないはずである。従って、演算増幅器58の出力においてコイル25’’に出力電流が供給されるが、この電流は、磁気抵抗部材17および17’がコイル部材25および25’に流れる電流の必要な一次関数(necessary linear functions)ではないにも関わらず、端子26を通して確立される電流に実質的に等しくなる。これらの場合において、出力端子60に供給される演算増幅器58の出力電圧は、入力端子26に流れる電流の尺度の1つである。」(21頁3行ないし15行)

「さらに別の可能性の1つは、図5に示す回路において使用されているようなフルブリッジ回路とすることである。ここでは、図4の電流源56および57の代わりに、2つのさらなる磁気抵抗効果型電流センサ構成56’および57’を使用しており、無論、センサ54および55に対しても電流を供給する。端子26に供給される、図5の回路における入力電流は、磁気抵抗部材17および磁気抵抗部材17’’’の両方を通過し、増幅器58からの出力電流は磁気抵抗部材17’および磁気抵抗部材17’’の両方を通過する。このように2つのさらなる磁気抵抗部材17’’および17’’’を、それぞれセンサ56’および57’において使用することによって、端子26に供給される入力電流に対する演算増幅器58の入力における信号電圧が2倍になる。この増加は、磁気抵抗部材の不一致に起因するあらゆるオフセット電流を低減し、そして、このように低減されたオフセットに起因してより厳密に一致した電流で動作するために線形性を向上する。」(24頁12行ないし24行)

カ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2001-516031号公報(以下、「引用例6」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
(発明の背景)
本発明は、広義には磁界センサに関し、より詳しくは、単一の半導体チップ上に形成され、ドメイン設定、バイアス又はオフセット磁界の形成、フィードバック磁界の供給、センサ伝達特性の測定のような機能、あるいは磁界を必要とする他の機能のために磁界の利用が必要な集積型磁界センサに関する。」

「【0012】
(好ましい実施形態の説明)
本発明の磁界を検出するためのデバイスは、添付図面に全体として符号10で示されている。図1は、本発明の磁界センサ用の集積回路パターンを示したものである。磁界センサ10は、集積回路技術を用いて半導体基板22上に形成される。「バーバーポール」バイアス方式を採用した4つの磁気抵抗素子24、26、28及び30は、ホイートストンブリッジ回路構成で配置されている。各磁気抵抗素子24、26、28及び30は、互い電気的に直列に接続された9本の互いに平行に配置されれた磁気抵抗ストリップ32のアレイよりなる。個々の磁気抵抗ストリップ32は、相互配線(図示省略)によって磁気抵抗素子24、26、28及び30の内部で接続されている。各アレイの外側の10番目のストリップは電気的には接続されていない。基板22は、通常、二酸化ケイ素及び/または窒化ケイ素の絶縁層24を有する。磁気抵抗センサについての背景情報及び基板22上に平行配置された磁気ストリップ32を形成して磁気抵抗素子24、26、28と30を得る技術の詳細は、1989年7月11日付けでバーラット・ビー・パント(BharatB.Pant)に対して許可され、本願と同じ譲受人に譲渡された米国特許第4,847,584号に記載されている。この米国特許第4,847,584号は参照によって本願に援用される。1993年9月21日付け発行で、本発明と同じ譲受人に譲渡された米国特許号5,247,278号は、集積型磁界検出デバイスの利用に関する背景情報が記載されており、参照によって本願に援用される。」

「【0020】
導体70は、既存の外部磁界を相殺する、あるいはうち消す目的で磁気抵抗素子の位置に磁界を生じさせるために用いることもできる。例えば、デバイス10が一方向に1.0ガウスの外部磁界が検出されている位置に置かれていて、デバイス10にかかる磁界が基本的に「0」磁界となるようにこの外部磁界を相殺してゼロにする、すなわち中和することが望ましい場合が考えられる。そのような場合は、逆方向に1.0ガウスの磁界を発生させ、外部磁界をゼロに相殺するように導体70に通電すればよい。
【0021】
フィードバック用途においては、例えば、導体70はデバイス10を「0」出力状態に保つような形態で使用することができる。その場合は、導体70に変動外部磁界に抗するのに十分な可変電流を流すことになろう。そして、導体70に流すことが必要な電流を測定すれば、その電流が変動外部磁界を表すはずである。フィードバック回路に必要な電子回路は、デバイス10の外部に設けることもできるし、あるいはデバイス10に集積した形で設けることも可能である。」

キ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-203238号公報(以下、「引用例7」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
この発明は、近接した被測定電流線に流れる微弱な電流を精度良く測定する小型の電流検知デバイスに関するものである。」

「【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による電流検知デバイス20の一部の斜視模式図を示すもので、図2は図1におけるAA断面(XZ面)を示す断面図、図3は図2の拡大断面図、図4は被測定電流検出部14の平面図(XY面)である。図において、磁気検知デバイス20は、4つの磁気抵抗効果素子1によるブリッジ回路18にて構成された被測定電流検出部14と被測定電流線6により構成される。
まず、被測定電流検出部14の構成について説明する。
図4は被測定電流検出部14の平面図を示すもので、中心線15によって2つの領域に分けられ、それぞれの領域に磁気抵抗効果素子1a、1b、磁気抵抗効果素子1c、1dが線対称に等しく配置される。4つの磁気抵抗効果素子1a?1dは、設置基板7の中心線15に対して相互に平行方向に配置され、磁気抵抗効果素子1a、1dは、互いに逆方向の磁界の増加に応じて抵抗値が共に増加する磁気抵抗効果特性を有するように、また、磁気抵抗効果素子1b、1cは、互いに逆方向の磁界の増加に応じて抵抗値が共に減少する磁気抵抗効果特性を有するように、図には省略したが、磁気抵抗効果素子上にはバーバーポール電極構造が形成されている。なお、4つの磁気抵抗効果素子1はそれぞれ1本で構成したが、クランク形状に複数の磁気抵抗効果素子を接続し、線路長を長く構成してもよい。また、4つの磁気抵抗効果素子1は中心線15上の中心点に対して点対称に構成してもよい。接続電流線2は、4つの磁気抵抗効果素子1間を接続することにより、ブリッジ回路18を構成するものであり、接続エリア16は、外部とブリッジ回路18の入出力端子として用いる。」

上記記載から、引用例7には、次の発明が記載されているということができる(括弧の段落番号は、記載の参照箇所を示す。)。

「近接した被測定電流線に流れる微弱な電流を精度良く測定する電流検知デバイスにおいて、(【0001】)
磁気検知デバイス20は、4つの磁気抵抗効果素子1によるブリッジ回路18にて構成された被測定電流検出部14と被測定電流線6により構成され、
中心線15によって2つの領域に分けられ、それぞれの領域に磁気抵抗効果素子1a、1b、磁気抵抗効果素子1c、1dが線対称に等しく配置され、4つの磁気抵抗効果素子1a?1dは、設置基板7の中心線15に対して相互に平行方向に配置され、磁気抵抗効果素子1a、1dは、互いに逆方向の磁界の増加に応じて抵抗値が共に増加する磁気抵抗効果特性を有するように、また、磁気抵抗効果素子1b、1cは、互いに逆方向の磁界の増加に応じて抵抗値が共に減少する磁気抵抗効果特性を有し、
4つの磁気抵抗効果素子1は、クランク形状に複数の磁気抵抗効果素子を接続し、線路長を長く構成してもよい、(【0008】)
電流検知デバイス。」

ク 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-76092号公報(以下、「引用例8」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
本発明は、反磁界を低減した幅の狭い磁気抵抗効果センサを用いた磁気エンコーダ装置に関するものである。」

「【0011】
本発明の磁気エンコーダ装置の磁気センサの巨大磁気抵抗効果積層膜を構成する薄膜は、DCマグネトロンスパッタリング装置により以下のように作製した。アルゴン0.027?0.40(Pa)[0.2?3(mTorr)]の雰囲気中にて、セラミックス基板に以下の材料を順次積層して作製した。スパッタリングターゲットとしてタンタル(Ta),ニッケル-鉄-クロム(NiFeCr)合金,ニッケル-鉄(NiFe)合金,銅(Cu),コバルト-鉄(CoFe)合金,マンガン-白金(MnPt)合金,ルテニウム(Ru)の各ターゲットを用いた。積層膜は、各ターゲットを配置したカソードに各々DC電力を印加して装置内にプラズマを発生させておき、各カソードに配置されたシャッターを一つずつ開閉して順次各層を形成した。
【0012】
膜形成時には、永久磁石を用いて基板に平行におよそ6.37(KA/m)[80(Oe)]の磁界を印加して、誘導磁気異方性を付与した。形成した膜を、真空中、磁場中で270℃、3時間の熱処理を行ってMnPt反強磁性膜を相変態させた。この熱処理で、軟磁性自由層の誘導磁気異方性の容易軸の方向は、強磁性固定層の磁化の着磁方向と平行になっている。この方向からさらに軟磁性自由層の誘導磁気異方性を90°方向に変えるため、250℃、3時間の熱処理を最初の熱処理の磁界と直交する方向の磁界中で行った。基体上の素子の形成にあたっては、フォトレジスト工程によるパターニングを行った。」

「【0014】
図2に、本発明の代表的な磁気抵抗効果型再生センサの詳細な構造例を示す。センサユニット55、磁気抵抗効果積層膜10、基体50、下地膜14、反強磁性膜11、強磁性固定層15、非磁性中間層12、軟磁性自由層13、第一の軟磁性膜131、反平行結合層132、第二の軟磁性膜133及び保護膜17については、図1の説明と同様の構成、機能を有する。強磁性固定層15は、第一の強磁性膜151、反平行結合層154、第二の強磁性膜152を積層してなる。第一の強磁性膜151は反平行結合層154を介して、第二の強磁性膜152と互いの磁化が反平行に磁気的に結合してなる、いわゆる積層フェリ構造をとっている。この構成により、強磁性固定層15の磁気的安定性が向上するとともに、強磁性固定層15からセンサユニット55の側面端部に漏洩する磁界の量が低減し、軟磁性自由層13の磁気的な安定性を向上する効果が得られて望ましい。第一の軟磁性膜131は、第一の軟磁性層1311及び第二の軟磁性層1312からなっているが、第一の軟磁性層1311及び第二の軟磁性層1312は互いの磁化が強く結合していて一体の軟磁性膜として機能する。第一の軟磁性膜131を第一の軟磁性層1311及び第二の軟磁性層1312の積層体とするのは、磁気抵抗効果を増大させる効果があるからである。磁気抵抗効果積層膜10を構成するそれぞれの層の具体的な例を図2に示した。反強磁性膜11、第一の強磁性膜151、反平行結合層154、第二の強磁性膜152、非磁性中間層12、第一の軟磁性層1311、第二の軟磁性層1312、反平行結合層132、第二の軟磁性膜133は、それぞれ、MnPt,CoFe,Ru,CoFe,Cu,CoFe,NiFe,Ru,NiFeを用いると高い出力と良好な磁気特性を兼ね備えることが出来る。」

ケ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-183614号公報(以下、「引用例9」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
本発明は、磁気センサ等に利用されるスピンバルブ型の磁気抵抗効果膜を製造する方法に関する。」

「【0002】
従来より、巨大磁気抵抗素子(以下、GMR素子とも称する)が用いられた磁気センサが提案され、実用に供されている。
GMR素子は、磁化の向きが所定の方向にピン止めされたピンド層と、磁化の向きが外部磁場に対応して変化するフリー層とを備えた磁気抵抗効果膜から構成され、外部磁場が加わった際、ピンド層の磁化の向きとフリー層の磁化の向きとの相対関係に応じた抵抗値を呈するようになっている。
磁気センサでは、前記GMR素子の抵抗値を測定することで外部磁場の強さを測定できるようになっている。
【0003】
磁気センサ内のGMR素子は、複数回つづら折り状に折り返した細線パターンとなるように形成されており、これにより微小面積内においても経路長を長くしてインピーダンスを高くすることができ、消費電流を低減できるようになっている。
しかし、このつづら折り状のGMR素子では、その折り曲がり部分(以下、屈曲部とも言う。)が磁気抵抗効果膜で形成されているため、GMR素子の感度方向が不均一となり、これにより磁気抵抗効果膜の抵抗値と外部磁場の強さとの直線関係(線形性)が損われて精度良く磁場の強さを測定できない場合があった。」

「【0022】
また、フリー層Fの一軸異方性の向きが、磁気抵抗効果膜5の長手方向と永久磁石膜6の着磁後の磁化の向きと同じとすることによって、フリー層Fの一軸異方性の向きを、形状磁気異方性と永久磁石膜6の磁化とによって維持(保持)でき、優れた再現性で外部磁場の強さを測定できる。」

引用例9には、次の発明が記載されているということができる(括弧の段落番号は、記載の参照箇所を示す。)。

「磁気センサ等に利用されるスピンバルブ型の磁気抵抗効果膜を製造する方法であって、(【0001】)
GMR素子は、磁化の向きが所定の方向にピン止めされたピンド層と、磁化の向きが外部磁場に対応して変化するフリー層とを備えた磁気抵抗効果膜から構成され、外部磁場が加わった際、ピンド層の磁化の向きとフリー層の磁化の向きとの相対関係に応じた抵抗値を呈し、(【0002】)
磁気センサ内のGMR素子は、複数回つづら折り状に折り返した細線パターンとなるように形成されており、(【0003】)
フリー層Fの一軸異方性の向きが、磁気抵抗効果膜5の長手方向と同じとする、(【0022】)
磁気抵抗効果膜を製造する方法。」

コ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-111294号公報(以下、「引用例10」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
本発明は、薄膜コイルと磁気抵抗効果素子とを備え、互いに絶縁された複数の電気回路間の信号伝達を非接触で行う磁気カプラに関する。」

「【0022】
図1および図2に示したように、第1のMR素子31は、一対の端子31S,31Eの間において互いに直列接続された複数の帯状パターン311を有している。帯状パターン311は、薄膜コイル20の径方向(Y軸方向)に延在すると共に薄膜コイル20の巻回方向(X軸方向)において互いに隣在し合うように配設されている。すなわち、第1のMR素子31は、端子31Sと端子31Eとの間で長手方向が径方向となるように互いに平行配置された複数の帯状パターン311が、接続部分312を介してつづら折り状に連なって構成されている。第2?第4のMR素子32?34についてもこれと同様の構成である。すなわち、第2?第4のMR素子32?34は、それぞれ、一対の端子32S,32E、一対の端子33S,33Eまたは一対の端子34S,34Eの間において帯状パターン321,331,341が接続部分(図示せず)を介してつづら折り状に連なるように直列接続された構成となっている。なお、図1および図2では、第1?第4のMR素子31?34がそれぞれ9つの帯状パターンを有する場合を示しているが、その数はそれに限定されるものではない。」

「【0025】
帯状パターン311,321,331,341はスピンバルブ構造をなすものであり、図3(A)に示したように、例えば+Y方向に固着された磁化J61を有する固着層61と、特定の磁化を示さない中間層62と、誘導磁界Hmの大きさや向きに応じて磁化J63が変化する自由層63とが順に積層された構造となっている。自由層63の磁化容易軸AE63はY軸と平行である。なお、図3(A)は、誘導磁界Hmを印加しない無負荷状態(すなわち、外部磁界が零の状態)を示している。この場合には、自由層63の磁化方向J63は、自らの磁化容易軸AE63と平行をなし、かつ、固着層61の磁化J61とほぼ平行な状態となっている。」

「【0042】
[第2の実施の形態]
次に、図5および図6を参照して、本発明における第2の実施の形態としての磁気カプラについて説明する。図5(A)は、本実施の形態の磁気カプラの要部(第1のMR素子31の周辺)の平面構成を表しており、上記第1の実施の形態の図2(A)に対応するものである。また、図5(B)は、図5(A)のVB-VB線に沿った矢視方向の断面図であり、上記第1の実施の形態の図2(B)に対応するものである。
【0043】
この磁気カプラでは、上記第1の実施の形態の磁気カプラと異なり、第1?第4のMR素子31?34に含まれる帯状パターン311,321,331,341がY軸方向ではなくX軸方向に延在している。帯状パターン311,321,331,341では、図6に示したように、それぞれ、固着層61の磁化J61が+Y方向を向き、無負荷状態での自由層63の磁化J63は-X方向に向いている。
【0044】
本実施の形態の磁気カプラにおいても、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。特に、ヨーク41?44の存在により、複数の帯状パターン311,321,331,341の各々に及ぶ誘導磁界Hmの強度が高まるだけでなく偏りも小さくなるので、隣り合う帯状パターン311,321,331,341同士の抵抗値のばらつきが低減される。よって、より正確な信号伝達を行うことができる。」

上記記載において、第2の実施の形態(【0042】)に着目し、第1の実施の形態と同様の構成については、第1の実施の形態の記載(【0043】)を参酌すると、引用例10には、次の発明が記載されているということができる(括弧の段落番号は、記載の参照箇所を示す。)。

「薄膜コイルと磁気抵抗効果素子とを備えた磁気カプラにおいて、(【0001】)
第1のMR素子31は、互いに平行配置された複数の帯状パターン311が、接続部分312を介してつづら折り状に連なって構成され、第2?第4のMR素子32?34は、それぞれ、帯状パターン321,331,341が接続部分を介してつづら折り状に連なるように直列接続された構成であり、(【0022】)
帯状パターン311,321,331,341はスピンバルブ構造をなすものであり、(【0025】)
第1?第4のMR素子31?34に含まれる帯状パターン311,321,331,341がX軸方向に延在し、帯状パターン311,321,331,341では、それぞれ、固着層61の磁化J61が+Y方向を向き、無負荷状態での自由層63の磁化J63は-X方向に向いている、(【0043】)
磁気カプラ。」

サ 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-85980号公報(以下、「引用例11」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
この発明は、磁気抵抗素子を用いた磁界検出装置およびその製造方法とに関するものである。」

「【0055】
実施の形態4.
図14は実施の形態4の磁界検出装置の構成を示した斜視図である。実施の形態4では実施の形態2の構成に、図14に示すように磁束ガイド14を磁石と検出用磁気抵抗素子との間に、検出用磁気抵抗素子1および参照用磁気抵抗素子2、5をカバーするように設けた。磁束ガイド14は、透磁率の高い材料でできた磁束の方向をそろえるためのものであり、ここでは透磁率の高い材料としてパーマロイ合金を用いた。磁束ガイド14と配線基板6との間には絶縁材料7が有り、磁束ガイド14と配線基板6とは電気的に絶縁されている。図14において参照用磁気抵抗素子2、5の位置を結ぶ方向をY方向として、基板3に平行でY方向に垂直方向をX方向とすると、検出する外部磁界41の方向はY方向である。」

シ 平成27年8月3日付け補正の却下の決定で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-20926号公報(以下、「引用例12」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気ディスク装置に用いられる磁気抵抗効果ヘッドに関する。」

「【0011】本発明はこのような従来技術の問題点に対処してなされたものであって、GMR素子を用いたMR膜の磁化自由層の熱処理による磁気異方性付与が容易であって、かつ磁化自由層には余計なバイアス磁界を生じてバイアスポイントの設定を困難にすることなく、また静電気に対して強く、静電気発生による製造歩留まり低下を招かない磁気抵抗効果ヘッドを提供することを目的とする。」

「【0043】このMR膜において、Co80Pt20(5nm) /Ru(1nm) /Co90Fe10(3nm)はそれぞれ、強磁性層A11/結合層12/強磁性層B13からなる磁化固着層であり、上下の強磁性層は組成及び保磁力が異なる。そして上下の強磁性層は反強磁性的に交換結合するようにRu層の膜厚が設定されている。この結合層12にはRuだけでなく、例えばCr、Rh、Irなどが使用できる。」

「【0061】なお実施例1では、磁化自由層および磁化固着層の強磁性層BとしてCoFe合金層を用いた。また繁雑を避けるために、以下の実施例もCoFe合金層を用いた例を述べるが、本発明に用いる磁性層はCoFe合金層に限定されるものではなく、例えばCo層、NiFe合金層、NiFeCo合金層、あるいはCoFe/NiFeの積層など、さまざまな構成が可能である。」

ス 平成27年8月3日付け補正の却下の決定で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-156357号公報(以下、「引用例13」という。)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は強磁性二重トンネル接合を有する磁気抵抗効果素子、およびそれを用いた磁気記録素子に関する。」

「【0034】次に、本発明の磁気抵抗効果素子を構成する各層に用いられる材料について説明する。フリー層(磁気記録層)には、上述したようにCo基合金(Co-Fe,Co-Fe-Ni等)またはCo基合金/Ni-Fe合金/Co基合金の三層膜が用いられる。また、これらの合金にAg,Cu,Au,Al,Mg,Si,Bi,Ta,B,C,O,N,Si,Pd,Pt,Zr,Ir,W,Mo,Nbなどの非磁性元素を多少添加してもよい。本発明の磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果型磁気ヘッド、磁気記録素子、磁界センサー等に適用することができ、これらの用途ではフリー層に一軸異方性を付与することが好ましい。」

「【0037】なお、反強磁性層によってピン層を強く固定したい場合、ピン層として強磁性層/非磁性層/強磁性層の三層膜を用い、非磁性層を介して積層された2層の強磁性層を反強磁性結合させてもよい。非磁性層の材料は特に限定されず、Ru,Ir,Cr,Cuなどの金属を用いることができる。非磁性層の膜厚を調整することによって、磁性層間に反強磁性結合が生じる。非磁性層の膜厚は0.5?2.5nmであることが好ましい。耐熱性および反強磁性結合の強さなどを考慮すると、非磁性層の膜厚は0.7?1.3nmであることがより好ましい。具体的には、Co(またはCo-Fe)/Ru/Co(またはCo-Fe),Co(またはCo-Fe)/Ir/Co(またはCo-Fe)などの三層膜が挙げられる。」

「【0072】磁気抵抗効果ヘッドの用途では、第1、第2および第4の強磁性二重トンネル接合素子(図1,図2および図4)を用いることが好ましく、第1の強磁性二重トンネル接合素子を用いることがより好ましい。また、磁気抵抗効果ヘッドの用途では、磁場中成膜または磁場中熱処理により、隣り合うピン層とフリー層のスピンをほぼ直交させることが好ましい。このようにすれば、磁気ディスクからの漏れ磁場に対して線形応答が得られ、どのようなヘッド構造でも使用できる。」


(2)対比
本件補正発明1と、引用発明3とを対比する。

ア 引用発明3の「検出対象電流が供給されることにより電流磁界を発生する導体と、その電流磁界に応じて自らの抵抗値が変化するように導体に沿って配置された磁気抵抗効果素子を有する電流センサの製造方法」は、本件補正発明1の「電流センサの製造方法」に相当する。

イ 引用発明3において、「検出対象電流が供給されることにより電流磁界を発生する」、「その電流磁界に応じて自らの抵抗値が変化するように導体に沿って配置された磁気抵抗効果素子」は、「4つの磁気抵抗効果素子3A?3D」からなるから、本件補正発明1の「被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子」に相当する。

ウ 引用発明3の「磁気センサ」において、「4つの磁気抵抗効果素子3A?3Dを配置するようにし、磁気抵抗効果素子3A,3Bの一端同士が第1の接続点P1において接続され、磁気抵抗効果素子3C,3Dの一端同士が第2の接続点P2において接続され、磁気抵抗効果素子3Aの他端と磁気抵抗効果素子3Dの他端とが第3の接続点P3において接続され、磁気抵抗効果素子3Bの他端と磁気抵抗効果素子3Cの他端とが第4の接続点P4において接続されることにより」「形成され」る「ブリッジ回路」は、2つの磁気抵抗効果素子間の出力を備えるものであるから、本件補正発明1の「2つの磁気抵抗効果素子間の出力を備える磁界検出ブリッジ回路を有する電流センサ」に相当する。

エ 引用発明3は、「4つの磁気抵抗効果素子3A?3D」からなる「ブリッジ回路が形成され」るものであって、「ブリッジ回路において、磁気抵抗素子3A?3Dの全てが完全に同一の特性を有するものとした場合、電流磁界Hmの大きさを測定することができ」るものであるから、それぞれの磁気抵抗効果素子について、同じ抵抗変化率のものを備えているということができる。
したがって、引用発明3の「4つの」「磁気抵抗効果素子3A?3Dの全てが完全に同一の特性を有する」ことは、本件補正発明1の「前記4つの磁気抵抗効果素子は、抵抗変化率が同じであ」ることに相当する。

オ 引用発明3において、「各磁気抵抗効果素子におけるGMR膜は、磁性層を含む複数の機能膜が積層されたスピンバルブ構造をなしており、具体的には一定方向に固着された磁化方向J11を有する固着層11」を有するものであって、「固着層11」は、「一定方向に固着された磁化方向J11を有」し、また、スピンバルブ構造の下位概念として、セルフピン止め型のものがあるから、引用発明3の「固着層11」と、本件補正発明1の「反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層」とは、「スピンバルブ構造の強磁性固定層」である点で共通する。

カ 引用発明3の「特定の磁化方向を示さない中間層12」は、本件補正発明1の「非磁性中間層」に相当する。

キ 引用発明3の「外部磁界Hに応じて磁化方向J13が変化する自由層13」は、本件補正発明1の「軟磁性自由層」に相当する。

ク 引用発明3の「2つの磁気抵抗効果素子間の出力を与える2つの磁気抵抗効果素子((3C、3B)、(3D、3A))の固着層の磁化方向J11が互いに180度異なる方向である(J11C(下向き)、J11B(上向き))、(J11D(上向き)、J11A(下向き))である」ことは、「固着層」が、本件補正発明1の「強磁性固定層」に対応するから、本件補正発明1の「前記出力を与える2つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であ」ることと、「前記出力を与える2つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であ」る点で共通する。

ケ 引用発明3において、「ブリッジ回路は、電源供給点に対し、対称な回路である」ことと、本件補正発明1の「前記磁気検出ブリッジ回路は、電源供給点に対して対称である配線を有して」いることとは、「前記磁気検出ブリッジ回路は、電源供給点に対して対称な回路」である点で共通する。

以上のことから、本件補正発明1と引用発明3との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成され、2つの磁気抵抗効果素子間の出力を備える磁界検出ブリッジ回路を有する電流センサの製造方法であって、
前記4つの磁気抵抗効果素子は、抵抗変化率が同じであり、スピンバルブ構造の強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、前記出力を与える2つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であり、前記磁気検出ブリッジ回路は、電源供給点に対して対称である回路である、
電流センサの製造方法。」

(相違点1)
スピンバルブ構造について、本件補正発明1は、「反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型」であるのに対し、引用発明3では、このような特定はない点。

(相違点2)
磁気検出ブリッジ回路について、本件補正発明1は、「電源供給点に対して対称である配線を有して」いるのに対し、引用発明3では、電源供給点に対して対称な回路であるものの、配線について明示的には記載されていない点。

(相違点3)
本件補正発明1は、「それぞれの前記磁気抵抗効果素子は、帯状の長尺パターンが折り返されたミアンダ形状で、前記軟磁性自由層を帯状の長尺パターンに沿って形成し、全ての前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性自由層の前記長尺パターンの長手方向を、直線的に流れる被測定電流の向きと平行に配置し、」「前記強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向ける」のに対し、引用発明3では、このような特定がない点。

(相違点4)
本件補正発明1は、「前記軟磁性自由層は、その成膜中に磁場を印加して前記長尺パターンの長手方向に誘導磁気異方性を付与して」いるのに対し、引用発明3では、このような特定がない点。

(3)判断
事案に鑑み、技術的に関連を有する(相違点1)、(相違点3)についてまとめて検討する。

a 引用例1には、「被検出電流の通電により生じる磁界を強磁性磁気抵抗膜により検出する電流センサにおいて、4つのミアンダライン状の強磁性磁気抵抗膜パターン2,3,4,5を形成し、その内2,3は感磁部として作用し、4,5はブリッジ回路の対辺抵抗であるダミー抵抗として、また温度補償抵抗として作用する、電流センサ。」が記載されているものの(上記(1)イ)、本願発明のように、「反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型」の構造を有し、「軟磁性自由層を帯状の長尺パターンに沿って形成」したり、「強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向け」たりすることについて、記載も示唆もない。

b また、引用例2には、「スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果膜を用いた磁気センサであって、磁気抵抗効果膜は、反平行結合層を介して第1の強磁性層と第2の強磁性層とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層からなり、磁気抵抗効果素子31a?31dのうち、磁気抵抗効果素子31a及び31bを接続し、磁気抵抗効果素子31c及び31dを接続してホイートストンブリッジを構成し、ここで、磁気抵抗効果素子31a及び31dのピン方向が同一で(基準軸に対して0°方向)、磁気抵抗効果素子31b及び31cのピン方向が同一(基準軸に対して180°方向)であり、所定の電源電圧Vccを印加することで中点電位Vx1及びVx2を検出し、これらの対を90°回転させて形成した磁気抵抗効果素子32a?32dを用いて、同様のホイートストンブリッジを構成し、中点電位Vy1及びVy2を検出する、磁気センサ。」が記載され(上記(1)ウ)、磁気抵抗効果膜としてセルフピン止め型の強磁性固定層からなり、磁気抵抗効果素子のピン方向について記載されているものの、「帯状の長尺パターンが折り返されたミアンダ形状」との関係において、「軟磁性自由層を帯状の長尺パターンに沿って形成」したり、「強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向け」たりすることについて、記載も示唆もない。

c 引用例7には、「近接した被測定電流線に流れる微弱な電流を精度良く測定する電流検知デバイスにおいて、」「磁気検知デバイス20は、4つの磁気抵抗効果素子1によるブリッジ回路18にて構成された被測定電流検出部14と被測定電流線6により構成され、」「4つの磁気抵抗効果素子1は、クランク形状に複数の磁気抵抗効果素子を接続し、線路長を長く構成してもよい」ことが記載されているものの、「磁気抵抗効果素子」は「反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層」を有し、「軟磁性自由層を帯状の長尺パターンに沿って形成」したり、「強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向け」たりすることについて、記載も示唆もない。

d さらに、引用例9には、「磁気センサ等に利用されるスピンバルブ型の磁気抵抗効果膜を製造する方法」において、「GMR素子は、磁化の向きが所定の方向にピン止めされたピンド層と、磁化の向きが外部磁場に対応して変化するフリー層とを備えた磁気抵抗効果膜から構成され」、「磁気センサ内のGMR素子は、複数回つづら折り状に折り返した細線パターンとなるように形成されており、フリー層Fの一軸異方性の向きが、磁気抵抗効果膜5の長手方向と同じとする」ことが記載されているものの、「磁気抵抗効果素子」は「反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層」を有し、「前記強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向けること」について記載も示唆もない。

e また、引用例10には、「薄膜コイルと磁気抵抗効果素子とを備えた磁気カプラ」において、「帯状パターン311,321,331,341はスピンバルブ構造」を有し、「第1?第4のMR素子31?34に含まれる帯状パターン311,321,331,341がX軸方向に延在し、帯状パターン311,321,331,341では、それぞれ、固着層61の磁化J61が+Y方向を向き、無負荷状態での自由層63の磁化J63は-X方向に向いている」ものの((上記(1)コ))、磁気カプラであって、「帯状パターン311,321,331,341」が「接続部分を介してつづら折り状に連な」るものであって、本件補正発明1のように、「電流センサ」において、「磁気抵抗効果素子」は「反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層」を有し、さらに「磁気抵抗効果素子」が、「帯状の長尺パターンが折り返されたミアンダライン形状」であることについて記載も示唆もない。

f また、引用例4ないし6、8、11ないし13に記載された事項を考慮しても、本件補正発明1の(相違点1)に係る構成としたうえで、さらに(相違点3)に係る構成について、記載も示唆もされていない。

したがって、本件補正発明1の(相違点1)及び(相違点3)に係る構成は容易に想到し得るものとはいえない。

(4)小括
よって、本件補正発明1は、(相違点2)及び(相違点4)について判断するまでもなく、引用発明3及び引用例1ないし2及び引用例4ないし13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件補正発明2ないし9は、本件補正発明1を直接又は間接的に引用する請求項に係る発明であって、本件補正発明1をさらに限定したものであるから、本件補正発明1と同様に、引用発明3及び引用例1ないし2及び引用例4ないし13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件補正発明1ないし9について、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないものというべき理由を発見しない。
よって、本件補正発明1ないし9は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記「第2」のとおり特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されたとおりのものである。

2 原査定の理由の概要

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-9
・引用文献等 1-11
・備考
軟磁性自由層の磁気異方性は、引用文献3(【0029】の「自由層13は・・・軟磁性材料」、【0032】,【0044】及び【0051】の「異方性」等)に記載又は示唆されている。また、この種の磁気抵抗効果素子において、誘導磁気異方性の付与は周知技術である(例えば引用文献8【0012】等)。
そして、長尺パターンの長手方向(例えば引用文献1、引用文献7、引用文献9【0022】、引用文献10【0025】「自由層63の磁化容易軸」、【0042】-【0044】,図5-図6)に磁気異方性を付与するとともに、固定層の磁化方向が前記長手方向に対して垂直(例えば引用文献3の図2,11-14等、引用文献9【0017】、引用文献10図5-図6)に向けられている構成をとることに、格別の困難性はない。
また、導体との磁気抵抗効果素子との間に、磁気シールドを設けることは当業者が適宜なし得る設計的事項である(引用文献7【0026】「この集磁部材35は、・・・。被測定電流に起因した測定磁界、および補償電流に起因した補償磁界を共に効率よく磁気抵抗効果素子1に導く構成であればこれに限るものではなく、他の絶縁層に複数の集磁部材35を設置するのも良い。」、引用文献11【0055】の「磁束ガイド」など)。
<最後の拒絶理由通知とする理由>
この拒絶理由通知は、最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するものである。
<引用文献等一覧>
1.特開平5-291647号公報
2.特開2008-306112号公報
3.特開2007-101252号公報
4.特表平10-506193号公報
5.特表2000-516714号公報
6.特表2001-516031号公報
7.特開2008-203238号公報
8.特開2008-76092号公報
9.特開2005-183614号公報
10.特開2009-111294号公報
11.特開2007-85980号公報 」

3 原査定の理由についての判断

本願発明1ないし9は、上記「第2」の「3 独立特許要件」に記載のとおり、引用発明3及び引用例1ないし2及び引用例4ないし13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、引用発明3及び引用例1ないし2及び引用例4ないし11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-22 
出願番号 特願2013-256689(P2013-256689)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
酒井 伸芳
発明の名称 電流センサ  
代理人 野▲崎▼ 照夫  

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