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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1326305
審判番号 不服2015-16271  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-03 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 特願2014-520103「無線LANシステムにおけるパワーセーブモード基盤通信方法及びこれを支援する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日国際公開、WO2013/008989、平成26年 9月 8日国内公表、特表2014-523202、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年7月14日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年4月1日 手続補正書の提出
平成26年12月11日付け 拒絶理由の通知
平成27年2月19日 意見書、手続補正書の提出
平成27年4月30日付け 拒絶査定
平成27年9月3日 審判請求書、手続補正書の提出
平成27年10月22日 前置報告
平成28年5月23日付け 当審における拒絶理由の通知
平成28年8月23日 意見書、手続補正書の提出
平成28年9月9日付け 当審における拒絶理由の通知
平成28年12月8日 意見書、手続補正書の提出
平成29年1月31日付け 当審における拒絶理由の通知
平成29年2月21日 手続補正書の提出

第2 特許請求の範囲の請求項1-6に係る発明
本願の請求項1-6に係る発明は、平成29年2月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、以下のとおりである(以下、本願の請求項1に係る発明を、「本願発明」という。なお、下線は、平成29年2月21日付け手続補正書で審判請求人により付されたものである。)。

「【請求項1】
ワイヤレスローカルエリアネットワークにおいて、ステーションがアウェイク状態とドーズ状態との間で転換するパワーセーブモードを提供する方法であって、前記方法は、
前記ステーションによって、アクセスポイントからTIM(traffic indication map)を含むビーコンフレームを受信するために前記アウェイク状態にウェイクアップすることと、
前記ステーションに伝達されるバッファされたトラフィックが存在することを前記TIMが示す場合に、前記ステーションによって、前記アウェイク状態にウェイクアップした後にウェイクアップポールフレームをアクセスポイントに転送することであって、前記ウェイクアップポールフレームは、前記ステーションが変更することを要請する聴取インターバルを指示する要請聴取インターバルフィールドを含み、前記聴取インターバルは、前記ステーションのドーズ状態/アウェイク状態転換周期を示す、ことと、
前記ウェイクアップポールフレームに応答して、ウェイクアップ確認フレームを受信し、現在のTXOP(transmission opportunity)の最後まで前記アウェイク状態に残っていることと、
前記現在のTXOP中に、前記ステーションと前記アクセスポイントとの間で複数のデータフレームを交換することであって、前記現在のTXOP内において前記アクセスポイントから終了フレームを受信すると、前記ステーションは、前記アウェイク状態から前記ドーズ状態に転換し、前記終了フレームは、転送の終了を示すために使用される値に設定されるビットを有する、ことと
を含む、方法。
【請求項2】
前記ステーションと前記アクセスポイントとの間で前記複数のデータフレームを交換するステップは、
前記ステーションによって、前記現在のTXOP内において前記アクセスポイントから少なくとも1つのダウンリンクデータフレームを受信することと、
前記ステーションによって、前記現在のTXOP内において少なくとも1つのアップリンクデータフレームを前記アクセスポイントに転送することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のデータフレームは、複数のPhysical layer convergence PPDU(procedure Protocol Data Unit)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
デバイスであって、前記デバイスは、ワイヤレスローカルエリアネットワークにおいて前記デバイスがアウェイク状態とドーズ状態との間で転換するパワーセーブモードを提供し、前記デバイスは、
プロセッサと、
前記プロセッサに動作可能に結合され、かつ、命令を格納するメモリと
を含み、
前記命令は、前記プロセッサによって実行される場合、前記デバイスに、
アクセスポイントからTIM(traffic indication map)を含むビーコンフレームを受信するために前記アウェイク状態にウェイクアップすることと、
前記デバイスに伝達されるバッファされたトラフィックが存在することを前記TIMが示す場合に、前記アウェイク状態にウェイクアップした後にウェイクアップポールフレームをアクセスポイントに転送することであって、前記ウェイクアップポールフレームは、前記デバイスが変更することを要請する聴取インターバルを指示する要請聴取インターバルフィールドを含み、前記聴取インターバルは、前記デバイスのドーズ状態/アウェイク状態転換周期を示す、ことと、
前記ウェイクアップポールフレームに応答して、ウェイクアップ確認フレームを受信し、現在のTXOP(transmission opportunity)の最後まで前記アウェイク状態に残っていることと、
前記現在のTXOP中に、前記デバイスと前記アクセスポイントとの間で複数のデータフレームを交換することであって、前記現在のTXOP内において前記アクセスポイントから終了フレームを受信すると、前記デバイスは、前記アウェイク状態から前記ドーズ状態に転換し、前記終了フレームは、転送の終了を示すために使用される値に設定されるビットを有する、ことと
を行わせる、デバイス。
【請求項5】
前記メモリは、命令を格納し、前記命令は、前記プロセッサによって実行される場合、
前記現在のTXOP内において前記アクセスポイントから少なくとも1つのダウンリンクデータフレームを受信することと、
前記現在のTXOP内において少なくとも1つのアップリンクデータフレームを前記アクセスポイントに転送することと
によって、前記デバイスに、前記デバイスと前記アクセスポイントとの間で前記複数のデータフレームを交換させる、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記複数のデータフレームは、複数のPhysical layer convergence PPDU(procedure Protocol Data Unit)を含む、請求項4に記載のデバイス。」

第3 当審における拒絶理由及び原査定の理由の概要
1 当審における拒絶理由の概要
(1)当審における平成28年9月9日付け及び平成29年1月31日付け拒絶理由の概要は、本件出願は、特許請求の範囲の請求項1及び4の「ウェイクアップポールフレーム」をさらに特定するための記載が明確でなく、発明の詳細な説明に記載されたものでもないため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないというものである。

(2)当審における平成28年5月23日付け拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
理由1 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1について
1.請求項1-6に対して、引用文献1
2.請求項1-6に対して、引用文献2

●理由2について
・請求項:1-6
・引用文献等:1又は2

<引用文献等一覧>
1.欧州特許出願公開第1734698号明細書
2.特表2009-523372号公報

<参考文献>
IEEE Standard for Information technology - Telecommuninations and information exchange between systems - Local and metropolitan area networks - Specific requirements, Part 11:Wireless LAN Medium Access Control(MAC) and Physical Layer(PHY) specifications, Amendment 8:Medium Access Control(MAC) Quality of Service Enhancement,IEEE Computer Society, IEEE Std 802.11e-2005, 11 November 2005, pages 1-7, pages 79-80, pages 136-141[平成28年5月12日検索]<URL:http://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=arnumber=1541572>

2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。

この出願の請求項1-6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.欧州特許出願公開第1734698号明細書
2.米国特許出願公開第2011/0122780号明細書(周知技術 を示す文献)
3.特表2006-518141号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2009-523372号公報(周知技術を示す文献;新たに 引用された文献)

第4 当審の判断
1 当審における拒絶理由について
(1)平成28年9月9日付け及び平成29年1月31日付け拒絶理由について
平成29年2月21日付け手続補正により、請求項1及び4の「ウェイクアップポールフレーム」は、「前記デバイスが変更することを要請する聴取インターバルを指示する要請聴取インターバルフィールドを含み、前記聴取インターバルは、前記デバイスのドーズ状態/アウェイク状態転換周期を示す」ものであることが明確になり、発明の詳細な説明(特に、段落104参照)に記載されたものといえるから、当審における平成28年9月9日付け及び平成29年1月31日付け拒絶理由は解消した。

(2)平成28年5月23日付け拒絶理由について
ア 引用例の記載事項
(ア)当審における平成28年5月23日付け拒絶理由で引用された欧州特許出願公開第1734698号明細書(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1。以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付したものである。)。

a 「[0002]The present invention relates generally to an apparatus and method for a power-saving mode operation, and in particular, to an apparatus and method for enabling a station to wake up periodically or non-periodically, to carry out data transmission and reception for a time, and then to transition to a sleep mode.」
(当審訳:「[0002]本発明は、パワーセーブモード動作のための装置及び方法に関し、詳細には、ステーションが定期的又は非定期的にウェイクアップし、その時にデータを送受信し、それからスリープモードに移行することを可能にするための装置及び方法に関する。」)

b 「[0045]FIG.6 is a flowchart illustrating a power-saving mode operation in the STA in the wireless communication system according to the second embodiment of the present invention. As stated earlier, the second embodiment is applicable to 802.11 TGn Sync.」
(当審訳:「[0045]図6は、本発明の第2実施例に係るワイヤレス通信システムにおけるSTAのパワーセーブモード動作のフローチャートである。上述のとおり、第2実施例は、802.11TGn Syncに適用することができる。」)

c 「[0046]Referring to FIG.6, the STA checks whether it has woken up from the sleep mode in step 601. Upon wakeup, the STA creates an Initiator Aggregation Control (IAC) frame and sends it to the AP in step 603. The IAC frame contains a Reverse Direction Limit (RDL) indicating a transmission duration limit for the AP. The reverse direction is from the responder to the initiator. In step 605, the STA then monitors receipt of an RAC frame from the AP. The RAC frame contains a Reverse Direction Request (RDR) Size indicating a transmission duration requested by the AP.
[0047]Upon receipt of the RAC frame, the STA determines whether the AP has buffered data for the STA by analyzing the RDR, that is, whether the AP has requested a transmission duration in step 607. If the AP has requested the transmission duration, the STA generates an IAC frame containing a Reverse Direction Grant (RDG) in step 609. In step 611, the STA aggregates the IAC frame and buffered transmission frames to one PPDU and sends the aggregation PPDU to the AP.
[0048]After sending the aggregation PPDU, the STA monitors receipt of an aggregation PPDU from the AP in step 613. Upon receipt of an aggregation PPDU, the STA determines whether the AP still has buffered data for the STA by analyzing an RAC frame in the aggregation PPDU in step 615. If the RDR Size is '0' or the RDR bits of an RAC mask is '0', the STA determines that no buffered data for the STA exists in the AP.」
(当審訳:[0046]図6を参照すると、ステップ601で、STAは、スリープモードからウェイクアップしたかどうかを確認する。ウェイクアップすると、STAは、インジケーター・アグリゲーション・コントロール(IAC)フレームを作成し、ステップ603でそれをAPに送信する。IACフレームは、APのための送信期間リミットを示すリバース・ディレクション・リミット(RDL)を含む。リバース・ディレクションは、応答者から送信者への期間である。それから、ステップ605において、STAは、APからのRACフレームの受信をモニターする。RACフレームは、APによって要求される送信期間を示すリバース・ディレクション・リクエスト(RDR)サイズを含む。
[0047]RACフレームを受信すると、ステップ607において、STAは、RDRを解析することによりAPがSTAのためのバッファされたデータを有するかどうか、すなわち、APが送信期間を要求しているかどうかを決定する。APが送信期間を要求している場合には、ステップ609において、STAは、リバース・ディレクション・グラント(RDG)を含むIACフレームを生成する。ステップ611において、STAは、IACフレームとバッファされた送信フレームを1つのPPDUにアグリゲートし、そのアグリゲーションPPDUをAPに送る。
[0048]アグリゲーションPPDUを送信後、ステップ613において、STAは、APからのアグリゲーションPPDUの受信をモニターする。アグリゲーションPPDUを受信すると、ステップ615において、STAは、アグリゲーションPPDUのRACフレームを解析してAPがまだSTAのためにバッファされたデータを有しているかを決定する。RDRサイズが‘0’又はRACマスクのRDRビットが‘0’ならば、STAは、APにはSTAのためのバッファされたデータが無いと決定する。」)

d 「[0049]In the presence of remaining buffered data for the STA, the STA returns to step 609. In the absence of buffered data for the STA in the AP, the STA sends a BA frame to the AP, notifying the AP of transition to the sleep mode in step 617. The PS bit of the header in the BA frame is set to '1'.
[0050]In step 619, the STA checks whether a TX Opportunity (TXOP) period still lasts. If the TXOP period has expired, the STA immediately transitions to the sleep mode in step 623 and returns to step 601. If the TXOP period still lasts, the STA sends a Contention-Free End (CF-End) frame in step 621 and proceeds to step 623.」
(当審訳:「[0049]STAのための残りのバッファされたデータが有る場合には、STAは、ステップ609に戻る。APにSTAのためのバッファされたデータが無い場合には、ステップ617において、APにスリープモードへの移行を知らせるために、STAは、APにBAフレームを送信する。BAフレームのヘッダーのPSビットは、‘1’にセットされる。
[0050]ステップ619において、STAは、TX機会(TXOP)期間がまだ残っているかどうか確認する。もしTXOP期間が満了していれば、ステップ623においてSTAは直ちにスリープモードに移行し、ステップ601に戻る。もしTXOP期間がまだ残っていれば、ステップ621において、コンテンション・フリー・エンド(CF-End)フレームを送り、ステップ623に進む。」)

e 「[0065]Referring to FIG.14, the RAC frame includes a MAC Header, an RAC Mask, an RDR Size, a Next PPDU Default MCS, an MCS Feedback, and an FCS. The RAC Mask identifies information included in the RAC frame. The RDR Size indicates a requested transmission duration determined within an RDL. The Next PPDU Default MCS indicates an MCS for the next PPDU. The MCS Feedback indicates a recommended MCS level.
[0066]The RAC Mask is illustrated in detail in FIG15.(中略)If the RDR is '1', it indicates provisioning of an RDR size.」
(当審訳:[0065]図14を参照すると、RACフレームは、MACヘッダ、RACマスク、RDRサイズ、ネクストPPDUデフォルトMCS、MCSフィードバック及びFCSを含む。RACマスクは、RACフレームに含まれる情報を特定する。RDRサイズは、RDL内で決定された要求される送信期間を示す。ネクストPPDUデフォルトMCSは、ネクストPPDUのためのMCSを示す。MCSフィードバックは、推奨されるMCSレベルを示す。
[0066]RACマスクは、図15に詳細に図示されている。(中略)もしRDRが‘1’ならば、RDRサイズが与えられていることを示す。」)

また、図6は次のとおりである。

図6


そうすると、引用例1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「802.11TGn Syncに適用することができ、ワイヤレス通信システムにおいて、ステーションが定期的又は非定期的にウェイクアップし、その時にデータを送受信し、それからスリープモードに移行することを可能にするためのパワーセーブモード動作のための方法であって、
STAは、ウェイクアップすると、IACフレームを作成し、ステップ603でそれをAPに送信し、
ステップ605において、APによって要求される送信期間を示すリバース・ディレクション・リクエスト(RDR)サイズを含むRACフレームの受信をモニターし、
RACフレームを受信すると、ステップ607において、RDRを解析することによりAPがSTAのためのバッファされたデータを有するかどうかを決定し、すなわち、APが送信期間を要求しているかどうかを決定し、
APが送信期間を要求している場合には、ステップ611において、IACフレームとバッファされた送信フレームを1つのPPDUにアグリゲートし、そのアグリゲーションPPDUをAPに送り、ステップ613において、APからのアグリゲーションPPDUの受信をモニターし、
ステップ615において、アグリゲーションPPDUのRACフレームを解析してAPがまだSTAのためにバッファされたデータを有しているかを決定し、
STAのための残りのバッファされたデータが有る場合には、ステップ609に戻り、
RACフレームはRACマスク及びRDRサイズを含み、RACマスクのRDRが‘1’ならば、RDRサイズが与えられていることを示すものであり、
RDRサイズが‘0’又はRACマスクのRDRビットが‘0’ならば、APにはSTAのためのバッファされたデータが無いと決定して、ステップ617において、APにスリープモードへの移行を知らせるために、APにBAフレームを送信し、
ステップ619において、TX機会(TXOP)期間がまだ残っているかどうか確認し、
もしTXOP期間がまだ残っていれば、ステップ621においてCF-Endフレームを送ってからステップ623に進み、
もしTXOP期間が満了していれば、ステップ623において直ちにスリープモードに移行する、
方法。」

(イ)当審における平成28年5月23日付け拒絶理由で引用された特表2009-523372号公報(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4と同じ。以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付したものである。)。

「【0022】図3は、1つのSTAのスケジュールされていないAPSD動作を示している。STAは、サービス時間T1を選択する。サービス時間T1において、STAは、IEEE802.11によって定義された拡張自律分散チャネルアクセス(EDCA)手順を実行して、無線媒体にアクセスする。チャネルアクセスには不定量の時間TSTAがかかり、これは、チャネルがビジーであるか否か、および使用されるEDCAのアクセスカテゴリ(AC)に左右される。チャネルへのアクセスを取得すると、STAはアップリンク(UL)でトリガフレームを送信する。このトリガフレームは、データフレーム(例えば、VoIPフレーム)、QoSヌルフレーム、またはこれがトリガフレームであるという表示を有する何か他のフレームであってもよい。種々のタイプのフレームのフレームフォーマットはIEEE802.11の文書に記載されている。
【0023】APは、STAからのトリガ/データフレームの受信に応答して、ダウンリンク(DL)で確認応答(Ack)を送信してもよい。一般的に、APは、単一のデータフレームに対する確認応答、または複数のデータフレームに対するブロック確認応答を送信することができる。したがって、「Ack」は単一の確認応答か、または任意のタイプのブロック確認応答であり得る。APは、AckとともにデータをSTAに送信してもよく、これは図3には示されていない。応答(Ackまたはデータ)は、サービス周期の開始を確認するためにSTAによって使用される。STAは、サービス周期がAPによって終了されるかビーコンが受信されるまで、そのサービス周期においてアウェイク(awake)のままである。APがダウンリンクデータを準備できていない場合、図3に示すように、APは、トリガの受信およびサービス周期の開始を確認するAckを送信した後で、データを検索し、チャネルアクセスを実行し、後続のダウンリンクデータフレームにおいてデータをSTAに送信してもよい。STAは、次いでダウンリンクデータフレームに対するAckを送信してもよい。APは、図3に示すように、STAのサービス周期の終了を示す「1」に設定されたサービス周期終了(end-of-service-period, EOSP)ビットを有するフレームを送信してもよい。STAは、スケジュールされていないサービス周期の終了までアウェイクし続け、APによって送信されたデータフレームに確認応答する。図3に示す例では、スケジュールされていないサービス周期において、STAは、2つのフレーム(1つのトリガ/データフレームおよび1つのAckフレーム)の期間は送信状態にあり、TSTA+TAP+2つのフレーム(1つのAckフレームおよび1つのデータフレーム)の期間は受信状態にある。簡潔にするため、図3では、すべてのダウンリンクフレームは等しい期間を有し、すべてのアップリンクフレームも等しい期間を有する。一般的には、フレームは異なる期間を有してもよく、各フレームの期間は、送信されるデータ量およびそのフレームに使用されているレートに左右される。」

そうすると、引用例2に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)は、以下のとおりのものである。
「IEEE802.11に関連し、1つのSTAのスケジュールされていないAPSD動作を行う方法であって、
サービス時間T1において、IEEE802.11によって定義された拡張自律分散チャネルアクセス(EDCA)手順を実行してチャネルへのアクセスを取得すると、アップリンク(UL)でトリガフレームを送信し、
APは、STAからのトリガ/データフレームの受信に応答して、ダウンリンク(DL)で確認応答(Ack)を送信し、STAは、応答(Ackまたはデータ)を、サービス周期の開始を確認するために使用し、
スケジュールされていないサービス周期の終了までアウェイクし続け、APによって送信されたデータフレームに確認応答し、
スケジュールされていないサービス周期において、STAは、2つのフレーム(1つのトリガ/データフレームおよび1つのAckフレーム)の期間は送信状態にあり、TSTA+TAP+2つのフレーム(1つのAckフレームおよび1つのデータフレーム)の期間は受信状態にあり、
APは、STAのサービス周期の終了を示す「1」に設定されたサービス周期終了(end-of-service-period, EOSP)ビットを有するフレームを送信することができ、STAは、サービス周期がAPによって終了されるかビーコンが受信されるまで、そのサービス周期においてアウェイク(awake)のままである、方法。」

イ 本願発明と引用発明1との対比、判断
(ア)対比
a 引用発明1は、「802.11TGn Syncに適用することができ、ワイヤレス通信システムにおいて、ステーションが定期的又は非定期的にウェイクアップし、その時にデータを送受信し、それからスリープモードに移行することを可能にするためのパワーセーブモード動作のための方法」であるから、引用発明1の「ウェイクアップ」した状態と「スリープモード」の状態とは、それぞれ本願発明の「アウェイク状態」と「ドーズ状態」に相当し、引用発明1は、「ワイヤレスローカルエリアネットワークにおいて、ステーションがアウェイク状態とドーズ状態との間で転換するパワーセーブモードを提供する方法」であるといえる。

b 引用発明1の「STA」及び「AP」は、それぞれ本願発明の「ステーション」及び「アクセスポイント」に相当する。

c 引用発明1において、STAは、ウェイクアップすると、IACフレームを作成してAPに送信しているから、本願発明にいう「ウェイクアップポールフレーム」を送信するかどうかは別として、本願発明と引用発明1とは、いずれもウェイクアップ後に「フレーム」を送信するものといえ、「アウェイク状態にウェイクアップした後にフレームをアクセスポイントに転送する」点で共通する。

d 引用発明1において、STAは、IACフレームの送信後にAPから送られてくるRACフレームを受信(ステップ605)しているから、ステップ605で受信した「RACフレーム」は、本願発明にいう「ウェイクアップ確認フレーム」に相当する。
また、引用発明1は、ステップ615で、受信したアグリゲーションPPDUのRACフレームを解析し、APがまだSTAのためにバッファされたデータを有している場合には、ステップ609に戻って、ステップ609からステップ615までを繰り返すことで、APとSTAとの間で複数のアグリゲーションPPDUを交換している。
そして、STAのためのバッファされたデータが無い場合には、ステップ617、619へと進み、TX機会(TXOP)期間が満了していれば、ステップ623で直ちにスリープモードに移行することから、STAは、現在のTXOPの最後までアウェイク状態を維持していることが認められる。
したがって、引用発明1は、ウェイクアップ後に転送したフレームに応答して、「ウェイクアップ確認フレームを受信し、現在のTXOP(transmission opportunity)の最後まで前記アウェイク状態に残っている」といえる。

e 引用発明1は、上記Iイ(ア)cのとおり、ステップ609からステップ615までを繰り返すことで、APとSTAとの間で複数のアグリゲーションPPDUを交換している。
また、ステップ615で、APから送られたRACフレーム中のRDRサイズが‘0’又はRACマスクのRDRビットが‘0’のときに、STAのためのバッファされたデータが無いと判断し、まだTX機会(TXOP)期間が残っていても、TX機会を早期終了してスリープモードに移行することが認められる(ステップ617、619、621)。
そうすると、APとSTAとの間の上記複数のアグリゲーションPPDUの交換は、「現在のTXOP中に」行われているといえ、引用発明1のRDRサイズを表すビット又はRACマスクのRDRビットは、本願発明の「転送の終了を示すために使用される値に設定されるビット」に相当し、引用発明1において、RDRサイズが‘0’又はRACマスクのRDRビットが‘0’に設定されたRACフレームは、本願発明の「終了フレーム」に相当し、引用発明1においても、「前記現在のTXOP中に、前記ステーションと前記アクセスポイントとの間で複数のデータフレームを交換することであって、前記現在のTXOP内において前記アクセスポイントから終了フレームを受信すると、前記ステーションは、前記アウェイク状態から前記ドーズ状態に転換し、前記終了フレームは、転送の終了を示すために使用される値に設定されるビットを有する」といえる。

したがって、本願発明と引用発明1との一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
ワイヤレスローカルエリアネットワークにおいて、ステーションがアウェイク状態とドーズ状態との間で転換するパワーセーブモードを提供する方法であって、前記方法は、
前記ステーションによって、前記アウェイク状態にウェイクアップした後にフレームをアクセスポイントに転送することと、
前記フレームに応答して、ウェイクアップ確認フレームを受信し、現在のTXOP(transmission opportunity)の最後まで前記アウェイク状態に残っていることと、
前記現在のTXOP中に、前記ステーションと前記アクセスポイントとの間で複数のデータフレームを交換することであって、前記現在のTXOP内において前記アクセスポイントから終了フレームを受信すると、前記ステーションは、前記アウェイク状態から前記ドーズ状態に転換し、前記終了フレームは、転送の終了を示すために使用される値に設定されるビットを有する、ことと
を含む、方法。

[相違点1]
「ステーション」は、本願発明では、「アクセスポイントからTIM(traffic indication map)を含むビーコンフレームを受信するために」アウェイク状態にウェイクアップし、「前記ステーションに伝達されるバッファされたトラフィックが存在することを前記TIMが示す場合に」、フレームを転送するのに対し、引用発明1では、そのような特定がない点。

[相違点2]
ウェイクアップした後に転送する「フレーム」が、本願発明では、「前記ステーションが変更することを要請する聴取インターバルを指示する要請聴取インターバルフィールドを含み、前記聴取インターバルは、前記ステーションのドーズ状態/アウェイク状態転換周期を示す」「ウェイクアップポールフレーム」であるのに対し、引用発明1では、そのような特定がない点。

(イ)請求項1に係る発明について
a 上記(ア)のとおり、本願発明と引用発明1とは、上記相違点1及び2の各点で相違し、上記各相違点は実質的なものであるから、本願発明は、引用発明1と同一であるとはいえない。

b 次に、上記相違点2について検討する。

平成23年6月6日に公知となった "IEEE Draft P802.11-REVmb/D9.0, May 2011- IEEE Draft Standard for Information Technology - Telecommunications and Information Exchange Between Systems - Local and Metropolitan Area Networks - Specific Requirements - Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications"[平成28年9月7日検索]<URL:http://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?arnumber=5871257>(特に、116-117ページ、406-407ページ、482-484ページ、958-960ページ及び969ページ参照。以下、「公知文献」という。)の表10-1には、次の記載がある。

"STA listens to selected Beacon frames (based upon the ListenInterval parameter of the MLME-ASSOCIATE.request primitive) and sends PS-Poll frames to the AP if the TIM element in the most recent Beacon frame indicates an individually addressed BU is buffered for the STA."(p959、表10-1の右下欄第1行?第4行)
(当審訳:「STAは、(MLME-ASSOCIATE.request プリミティブのListenInterval パラメータに基づいて)選択されたビーコンフレームを聴取し、もし最新のビーコンフレームのTIM要素が、該STAのために個別にアドレスされたBUがバッファされていることを示す場合には、APにPS-Pollフレームを送信する。」)

上記公知文献に記載された「PS-Pollフレーム」は、ウェイクアップした後に転送する「フレーム」とは言いうるものの、上記公知文献には、相違点2に係る構成については、記載も示唆もなく、上記相違点2に係る構成は、引用発明1及び上記公知文献に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

そして、本願発明は、上記相違点2に係る構成を有することにより、ステーションは、ドーズ状態で動作する時間をさらに長くしても問題がないと判断される場合、電力消耗を減らすために、聴取インターバル変更を要請することができる(本願明細書の段落105)という効果を奏するものである。

したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は、当業者が引用発明1及び上記公知文献に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたということはできない。

(ウ)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、上記(ア)の相違点1及び2に係る構成と同様の構成を備えた発明であるから、上記(イ)aと同様の理由により、引用発明1と同一であるとはいえないし、上記(イ)bと同様の理由により、当業者が引用発明1及び上記公知文献に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたともいえない。

(エ)請求項2-3、請求項5-6に係る発明について
上記(ア)?(ウ)のとおりであるから、請求項1を引用する請求項2-3に係る発明及び請求項4を引用する請求項5-6に係る発明についても、引用発明1と同一であるとはいえないし、当業者が引用発明1及び上記公知文献に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 本願発明と引用発明2との対比、判断
(ア)対比
引用発明2の「STA」は、スケジュールされていないAPSD動作のサービス時間T1において、IEEE802.11によって定義された拡張自律分散チャネルアクセス(EDCA)手順を実行してチャネルへのアクセスを取得すると、アップリンク(UL)でトリガフレームを送信している。

そうすると、引用発明2の「STA」は、本願発明の「ステーション」に相当し、本願発明と引用発明2とは、ウェイクアップ後に「フレーム」を送信する点で共通するものの、本願発明のように、「アクセスポイントからTIM(traffic indication map)を含むビーコンフレームを受信するために」アウェイク状態にウェイクアップし、「前記ステーションに伝達されるバッファされたトラフィックが存在することを前記TIMが示す場合に」、フレームを転送するものとはいえず、かつ、ウェイクアップした後に転送するフレームが、「前記ステーションが変更することを要請する聴取インターバルを指示する要請聴取インターバルフィールドを含み、前記聴取インターバルは、前記ステーションのドーズ状態/アウェイク状態転換周期を示す」「ウェイクアップポールフレーム」であるともいえない。

したがって、本願発明と引用発明2とは、少なくとも、本願発明と引用発明1との相違点1及び2(上記イ(ア)参照)と同様の以下の各点で相違する。

[相違点1]
「ステーション」は、本願発明では、「アクセスポイントからTIM(traffic indication map)を含むビーコンフレームを受信するために」アウェイク状態にウェイクアップし、「前記ステーションに伝達されるバッファされたトラフィックが存在することを前記TIMが示す場合に」、フレームを転送するのに対し、引用発明2では、そのような特定がない点。

[相違点2]
ウェイクアップした後に転送する「フレーム」が、本願発明では、「前記ステーションが変更することを要請する聴取インターバルを指示する要請聴取インターバルフィールドを含み、前記聴取インターバルは、前記ステーションのドーズ状態/アウェイク状態転換周期を示す」「ウェイクアップポールフレーム」であるのに対し、引用発明2では、そのような特定がない点。

(イ)請求項1に係る発明について
a 上記(ア)のとおり、本願発明と引用発明2とは、少なくとも上記相違点1及び2の各点で相違し、該相違点は、実質的なものであるから、本願発明は、引用発明2と同一であるとはいえない。

b 上記イ(イ)と同様に、本願発明は、当業者が引用発明2及び上記公知文献に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたということはできない。

(ウ)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、上記(ア)の相違点1及び2に係る構成と同様の構成を備えた発明であるから、上記(イ)aと同様の理由により、引用発明2と同一であるとはいえないし、上記(イ)bと同様の理由により、当業者が引用発明2及び上記公知文献に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたともいえない。

(エ)請求項2-3、請求項5-6に係る発明について
上記(ア)?(ウ)のとおりであるから、請求項1を引用する請求項2-3に係る発明及び請求項4を引用する請求項5-6に係る発明についても、引用発明2と同一であるとはいえないし、当業者が引用発明2及び上記公知文献に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたともいえない。

エ 小括
上記イ(イ)?(エ)及びウ(イ)?(エ)のとおりであるから、平成28年5月23日付け拒絶理由の理由1及び2のいずれによっても、本願を拒絶することはできない。

2 原査定の理由について
本願発明と原査定の引用文献1(上記引用例1と同じ。)に記載された発明とは、上記1(2)イ(ア)の相違点1及び2の各点で相違するところ、少なくとも上記相違点2に係る構成は、原査定の引用文献2-4のいずれにも記載も示唆もなく、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

上記相違点1及び2に係る構成と同様の構成を備える請求項4に係る発明についても同様である。

また、請求項1を引用する請求項2-3に係る発明及び請求項4を引用する請求項5-6に係る発明についても同様である。

よって、請求項1-6に係る発明は、原査定の引用文献1に記載された発明及び周知技術(原査定の引用文献2-4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

したがって、原査定の理由によっても、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、当審における拒絶理由又は原査定の理由のいずれによっても、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-27 
出願番号 特願2014-520103(P2014-520103)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H04W)
P 1 8・ 121- WY (H04W)
P 1 8・ 537- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 紀之  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 水野 恵雄
北岡 浩
発明の名称 無線LANシステムにおけるパワーセーブモード基盤通信方法及びこれを支援する装置  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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