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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1326416
審判番号 不服2015-17303  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-24 
確定日 2017-03-23 
事件の表示 特願2013-260370「水硬性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 51433〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年3月10日に出願した特願2010-52508号の一部を平成25年12月17日に新たな特許出願としたものであって、平成26年11月21日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成27年1月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、そして、当審において、平成28年8月2日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年10月3日に意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成28年10月3日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
ZnO含有量が0.5?1.2質量%で、SO_(3)含有量が0.6?1.0質量%である普通ポルトランドセメントクリンカーの粉砕物と、石膏を含むことを特徴とする水硬性組成物。

3 引用文献
(1) 引用文献1
当審拒絶理由で引用し、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である、特開2006-1796号公報(「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0040】
[ セメント組成物の調製 ]
石灰石、珪石の天然原料と、高炉スラグ、石炭灰および鉄精鉱から選ばれる廃棄物類の所要量を使用し、(株)モトヤマ製超高速昇温電気炉にて、セメントクリンカーを試製した。表2に、各セメントクリンカーの鉱物組成およびSO_(3)、アルカリ含有量を示す。ここで、SO_(3)量及びアルカリ量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」により測定した。アルカリ量は、Na_(2)O量とK_(2)O量の合計をNa_(2)O当量で表したものであり、次式により算出した。
Na_(2)O当量(質量%)=Na_(2)O(質量%)+0.658K_(2)O(質量%)
【0041】
表2中のNo.1?3は間隙相量が18質量%である普通ポルトランドセメントクリンカーに相当する。これらのセメントクリンカーに、セメント組成物のSO_(3)量が2.0質量%となるよう二水石膏および半水石膏を添加し、ブレーン比表面積で320±10m^(2)/kgに粉砕した。…」

イ 【0043】の【表2】には、セメントクリンカーNo.2として、C_(3)S:58%、C_(2)S:21%、C_(3)A:9%、C_(4)AF:9%、SO_(3):0.64%、アルカリ:0.49%であるものが記載されている。

(2) 引用文献2
当審拒絶理由で引用し、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である、特開昭54-99125号公報(「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「ポルトランドセメントクリンカーの製造において、石灰及び粘土を含む適当な原料物質からなる原料は炉(通常、ロータリーキルン)中で1400℃?1500℃の温度にゆつくり加熱され、次に急速に冷却される。この焼成工程の間に原料中で溶融及び焼結が起り、同時に一連の反応が起つて所謂クリンカー鉱物が形成される。この冷却したクリンカーを粉砕することによつてセメントが得られる。
高温を必要とし、通常の炉は限られた場合しか断熱及び熱の保持をしないので、焼成工程は極めて多量のエネルギーを消費する。このため焼成工程のエネルギー消費を減少させる幾つかの試みが行なわれた。」(1頁右欄6行目?19行目)

イ 「本発明の目的はフツ化力ルシユウムのようなエネルギー節約が出来てしかも上記有害な効果のない鉱化剤を提供することである。この目的は焼成工程前に亜鉱化合物を原料に添加することにより達成される。
原料への亜鉛化合物の添加は温度を約1300℃及びしばしばそれ以下に低下させること、及びクリンカー鉱物の本質的な形成を妨げたり焼成工程の技術及び最終生成物の性質に有害な影響を及ぼすことがない。従つて、亜鉛化合物は有効で且つ全く実用的な鉱化剤であつて、制限なく大規模に利用出来る。
特に好適な亜鉛化合物は酸化物ZnOである。」(2頁左上欄17行目?右上欄9行目)

ウ 「本発明の方法に使用される亜鉛化合物の量は0.1?1重量%の範囲である。好ましい範囲は0.1?0.3重量%であつて、一層好ましい効果が充分に得られる。
この量での亜鉛化合物の添加は得られたセメントの強度又は硬化特性に認めうる悪影響を与えないことは極めて注目すべきである。セメントを作るために使用する水にZnSO_(4)のような亜鉛化合物を添加することがセメントの開放時間を増すというよく知られた事実にもとづいて、本発明の方法から類似の遅延効果が予期される。しかし驚くべきことに、約0.3重量%以下の量のZnOの使用はセメントの硬化の遅延を起さないこと、及び0.3重量%以上の量のZnOの使用でさえも硬化時間を極めてわずかに増加させるのみであることがわかつた。この硬化時間の増加は緩硬化セメントの製造に簡単に利用でき、その場合欠点とならない。強度に関しては、やはり驚くべきことであるが、クリンカー中のZnOの存在がセメントの強度をかなり改良する結果となつた。7日又はそれ以上のテストにおいて、ZnOを添加しないサンプルに比較して30%以上の強度の向上が観察された。
本方法で使用する原料は総称的な意味でのポルトランドセメントクリンカーを製造する任意の物質であつてよい。」(2頁左下欄16行目?3頁左上欄1行目)

エ 「各実施例において、原料はいずれも同じであり、ロータリーキルンでポルトランドセメントクリンカーを製造するための通常の市販の原料粉を使用した。この原料は1部は更に鉱化剤を添加せず(標準)及び1部は本発明により特定される亜鉛化合物を添加して、同じ1300℃の最終温度で且つ同じ温度カーブに従つて回転炉中で焼成された。クリンカー鉱物の形成を測定するためにクリンカー中の遊離石灰の量を定量した。この定量は焼成時間の長さをかえて行なつた。
最終温度1300℃の焼成工程後にクリンカーに含まれる遊離石灰の量(重量%)を下表に示した。

上表の結果から明らかなように、単に0.1重量%のZnOの添加でも無添加よりクリンカー中の遊離石灰の量が明白に減少している。この差異は炉での焼成時間に従つて増大する。クリンカー中の遊離石灰の減少は亜鉛化合物の使用量が増えるに従つて大きくなる。」(3頁左上欄9?左下欄6行目)

4 引用発明
上記3(1)ア、イに記載された事項によれば、引用文献1には、
「SO_(3)量が0.64質量%である普通ポルトランドセメントクリンカーに、セメント組成物のSO_(3)量が2.0質量%となるよう二水石膏および半水石膏を添加し、ブレーン比表面積で320±10m^(2)/kgに粉砕した、セメント組成物」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

5 対比・判断
(1) 一致点及び相違点
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「粉砕した」状態にある「SO_(3)量が0.64質量%である普通ポルトランドセメントクリンカー」は、本願発明1の「SO_(3)含有量が0.6?1.0質量%である普通ポルトランドセメントクリンカーの粉砕物」に相当する。
また、引用発明1の「二水石膏および半水石膏を添加し」た点は、本願発明1の「石膏を含む」に相当する。
さらに、引用発明1の「セメント組成物」は、本願発明1の「水硬性組成物」に相当する。
すると、両者は、
「SO_(3)含有量が0.6?1.0質量%である普通ポルトランドセメントクリンカーの粉砕物と、石膏を含むことを特徴とする水硬性組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願発明1は、普通ポルトランドセメントクリンカーの「ZnO含有量が0.5?1.2質量%」であるのに対し、引用発明1は、普通ポルトランドセメントクリンカーに、意図的にZnOを含有させておらず、その含有量が不明な点。

(2) 相違点の検討
引用文献2の上記3(2)イ?エの記載によれば、ZnOを0.1?1.0重量%の含有量でポルトランドセメントクリンカーの原料に添加することで、エネルギー節約ができる鉱化剤として機能することは、公知の技術的事項である。
また、硬化時間を極めてわずかに増加させるものの、遊離石灰の減少によって評価される鉱化剤としての機能は、ZnOの使用量が増えるに従って高くなる。
してみると、引用文献2の上記3(2)アに記載されるように、セメントクリンカーの焼成では多量のエネルギーが消費されており、その減少が求められていることは周知の技術的課題といえることを考慮すると、引用発明1において、引用文献2に記載された公知技術を適用し、普通ポルトランドセメントクリンカー原料中のZnO含有量を、0.5?1.0重量%として、セメントクリンカー焼成時のエネルギー消費量の減少を図り、普通ポルトランドセメントクリンカーのZnO含有量を0.5?1.0質量%とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3) 作用効果についての検討
ア 本願発明1は、本願明細書の【0007】に記載された「本発明の水硬性組成物の製造に使用するセメントクリンカーは、ポルトランドセメントクリンカーよりも低温で焼成することができるので、燃料原単位の低減により炭酸ガスの発生量を抑制することも可能である。」との効果を有するものと認められる。
しかし、引用文献2の上記3(2)イに、鉱化剤としてのZnOの添加による、焼成工程の温度の低下と、エネルギー節約とが記載されており、さらに、エネルギー節約により使用する燃料を削減でき、炭酸ガスの発生量を抑制し得ることは技術常識であるから、当該効果は、当業者が予測し得るものである。

イ また、本願発明1は、本願明細書の【0007】に記載された「また、該セメントクリンカーは、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用できるので、廃棄物の有効利用の促進にも貢献することができるうえ、原料としての石灰石の使用量を低減できるので、製造の際の炭酸ガスの発生量を抑制することが可能である。このように、本発明の水硬性組成物は、製造時の環境負荷を小さくすることができる。」との効果を有するものと認められる。
しかし、上記3(1)アに記載されるように、引用発明1は、廃棄物を原料として使用するものであって、当該廃棄物により石灰石の使用量が低減されることは当業者に自明なことにすぎない。

ウ さらに、本願発明1は、本願明細書の【0007】に記載された「また、本発明の水硬性組成物は、普通ポルトランドセメントや高炉セメント等の慣用のセメントと同等の流動特性および硬化特性を有するものである。」との効果を有するものと認められる。
しかし、引用文献2の上記3(2)イ、ウの記載によれば、「原料への亜鉛化合物の添加は…最終生成物の性質に有害な影響を及ぼすことがない。」、「この量での亜鉛化合物の添加は得られたセメントの強度又は硬化特性に認めうる悪影響を与えない…」とされている。そして、引用発明1は、普通ポルトランドセメントクリンカーを用いたセメント組成物である。してみると、引用発明1においてクリンカー原料中のZnOを調整してセメントクリンカー焼成時のエネルギー消費量の減少を図ったセメント組成物において、ZnOを調整せずセメントクリンカー焼成時のエネルギー消費量の低減を図っていない場合と同等の「流動特性」や「硬化特性」を有することは、当業者にとって予測可能なことである。

(4) 請求人の主張の検討
請求人は、平成28年10月3日付け意見書において、参考資料を示し、引用文献2に記載される技術が、Na_(2)O当量で0.53質量%を超えるアルカリ量のポルトランドセメントクリンカーに関するものであるとして、セメントクリンカーに占めるアルカリ量がNa_(2)O当量で0.53質量%以下である引用文献1に記載の発明に適用することは動機付けがない旨主張している。
しかしながら、上記(2)に記載のとおり、セメントクリンカーの焼成で消費されるエネルギーの減少は周知の技術的課題であることから、引用発明1において、引用文献2に記載された技術的事項に基いたZnOの添加には、動機があるといえる。
また、引用文献2には、アルカリ量に関する言及がなく、引用文献2に記載された技術的事項が、何らかのクリンカー中のアルカリ量を前提としたものといえず、たとえ、引用文献2の実施例が、請求人が参考資料から導き出したとおり、Na_(2)O当量で0.53質量%を超えるアルカリ量のポルトランドセメントクリンカーを製造していたとしても、そのことをもって、引用発明1への適用を阻害する事由があるものと認めることはできない。
したがって、上記主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-17 
結審通知日 2017-01-24 
審決日 2017-02-07 
出願番号 特願2013-260370(P2013-260370)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 大橋 賢一
瀧口 博史
発明の名称 水硬性組成物  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
代理人 飯野 智史  

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