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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
管理番号 1326443
審判番号 不服2014-25426  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-11 
確定日 2017-03-22 
事件の表示 特願2011-532268「遺伝子発現を抑制する治療におけるリポソームによる効率的な送達のプロセスおよび組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月22日国際公開、WO2010/045512、平成24年 3月 8日国内公表、特表2012-505913〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成21年10月16日(パリ条約に基づく優先権主張 平成20年10月16日及び平成21年4月7日,いずれもアメリカ合衆国)にされたとみなされる特許出願(特願2011-532268号)であって,平成26年8月5日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年12月11日に拒絶査定不服審判が請求され,平成28年3月17日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。

第2 本願発明及び本件拒絶理由について
本願の請求項1?15に係る発明は,平成26年6月17日に補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
また,本件拒絶理由の内容は,本審決末尾に掲記のとおりである。

第3 むすび
請求人は,本件拒絶理由に対して,指定期間内に特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,本件拒絶理由を覆すに足りる根拠は見いだせず,本願は本件拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

以下,本件拒絶理由の内容を掲記する。

1)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



1.本願発明
この出願の請求項1?15に係る発明は,平成26年6月17日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(以下,「本願発明1?15」という。)。

2.理由1/本願発明1? 15
(1)本願発明1?15
本願発明1は活性薬剤を含む組成物を作製するためのプロセスであって,当該プロセスはa)?d)工程及び反応停止工程を必須の工程として含むと解されるところ,b)工程において,「水と混合できる有機溶媒」を「リポソーム形成化合物の非水性溶液」を形成する成分の選択肢の一つとして特定する一方で,c)工程及び反応停止工程において,「前記有機溶媒」を必須の成分として特定しているから,不明確である。[a)工程で「活性薬剤の水性緩衝溶液を含む第1の流れを提供すること」と特定されていること及び本願明細書【0060】?【0065】の記載からみて,b)工程では「1つ以上のリポソーム形成化合物の非水性溶液を含む第2の流れを提供する」と解され,「水と混合できる有機溶媒・・・組み合わせ」は,「1つ以上のリポソーム形成化合物の非水性溶液」を形成する成分と解される。b)工程の「中に」は,「中の」などの誤記か。]
また,本願発明1のb)工程において,「水と混合できる」という機能で特定される「水と混合できる有機溶媒」と,当該機能を有するとはいえないもの(例えば,「ケトン」は,特定の構造を有する有機化合物の総称である。)とが選択的に記載されているから不明確であり,「水と混合できる有機溶媒」と「アルカノール・・・洗浄用溶液」との関係が不明である。さらに,「アルカノール」,「ケトン」,「アセトニトリル」,「アルカノール水」,「界面活性剤溶液」及び「洗浄用溶液」については,何が含まれるのかが不明であり,「アルカノール」と「(C1-6)アルカノール,エタノール,イソプロパノール,イソブタノール,secブタノール,t-ブタノール」との関係,「アルカノール水」と「エタノール」との関係,「アセトン」と「ケトン」との関係も不明である。
よって,本願発明1及び本願発明1を引用する本願発明2?15は不明確である。

(2)本願発明14
本願発明14の「非治療的方法」の意味するところが不明である。
また,本願発明14は「生体細胞に治療核酸を送達するための非治療的方法であって,請求項1?11のうちのいずれか1項に記載のプロセスに従って組成物を調製することと,前記組成物で前記細胞を処置することと,を含む,方法」であるが,引用する請求項1?11の「活性薬剤」と本願発明14の「治療核酸」との関係が不明である。
よって,本願発明14は不明確である。

(3)本願発明9,13?15
本願発明9の「接線流濾過後」と,本願発明9が引用する本願発明1のa)?d)工程及び反応停止工程との関係が不明である。(本願発明1は接線流濾過工程を有していない。)
よって,本願発明9及び本願発明9を引用する本願発明13?15は不明確である。

(4)本願発明13,15
本願発明13,15は,それぞれ「薬学的組成物」,「疾患を治療するための組成物」という物の発明であるが,それぞれの「請求項1?12のうちのいずれか1項に記載のプロセスによって作製される」,「請求項1?12のうちのいずれか1項に記載のプロセスに従って作製される」との記載は,製造方法の発明を引用する場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号)。
しかしながら,本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。
よって,本願発明13,15は不明確である。

3.理由2,3/本願発明1?15
(1)本願発明1
ア.理由2
(ア)本願発明1の解決しようとする課題は,【0001】,【0009】及び【0010】等の記載からみて,選択された細胞,組織,器官,または対象への治療用薬剤の送達に有用な活性薬剤を含む組成物を提供することにあるものと認められる。
(イ)本願明細書には,実施例1?14が記載されている。
そして,本願発明1の実施例といえる実施例3の第4の実施例(【0645】?【0646】)において,安定した「Z平均粒径(nm)」及び高い「%カプセル化率」が得られたことが示されている。また,本願発明1の実施例といえる実施例6(【0657】?【0660】)において,a)?d)工程及び反応停止工程後の濾過工程で種々の「濃縮率」が得られ,安定した「Z平均(nm)」,「PdI」及び「カプセル化率」が得られたことが示されている。(実施例1?3(第1?3の実施例),5,7は,本願発明1の反応停止工程等の特定を満たしていないから,本願発明1の実施例とはいえない。また,実施例8?14は,製法が不明であるから,本願発明1の実施例とはいえない。)
しかし,実施例3の第4の実施例及び実施例6は,いずれも,活性薬剤として特定のもの(それぞれ【0637】の「ApoBを発現抑制するためのdsRNA」,詳細の不明な「RNAi」)を使用し,リポソーム形成化合物として特定のもの(いずれも【0645】の「C18-ノルArg-C16/CHEMS/chol/DMPE-PEG2k」(「C18-ノルArg-C16」は,【0621】によれば,「C18:1-ノルArg-C16」と解される。))を使用し,非水性溶液の成分[工程c)及び反応停止工程における有機溶媒]として特定のもの(いずれもエタノール)を使用しており,かつ,工程c)の衝突流のpHだけでなく,工程d)の培養pHも7.4である。(本願発明1の実施例とはいえない実施例3の第1の実施例の表7で示される「Z平均」,「PdI平均」及び「カプセル化率」について,例えば,本願発明1の反応停止工程を備えることで安定化されることが推論できるとしても,実施例3の第1の実施例も,実施例3の第4の実施例及び実施例6と同様に,特定のものを使用し,かつ,培養pHが7.4である。また,本願発明1の実施例とはいえない実施例3の第2の実施例で示される「生体内のApoBノックダウン(%)」及び「血清コレステロール中の還元(%)」も同様である。)
(ウ)そこで,本願明細書の他の記載をみると,種々の活性薬剤(【0587】?【0590】),リポソーム形成化合物(DILA2アミノ酸化合物について【0256】?【0374】,コレステリルヘミサクシネート(CHEMS)について【0268】?【0269】,脂質について【0375】?【0403】)及び非水性溶液の成分(【0064】,【0065】)が記載されており,また,種々の工程c)の衝突流及び工程d)の培養pH(【0083】,【0103】)が記載されている。
しかし,本願明細書の全記載をみても,特定の活性薬剤,リポソーム形成化合物及び非水性溶液の成分を使用し,かつ,特定の培養pHである上記実施例3の第4の実施例及び実施例6を,そのような特定のない本願発明1にまで拡張乃至一般化することができることについて,合理的に技術的に説明した記載は見いだせない。
(エ)ここで,活性薬剤,リポソーム形成化合物及び非水性溶液の成分の種類が異なれば,電荷の種類(正又は負等)等の性質が異なるのが技術常識であり,また,そのような性質は,活性薬剤及びリポソーム形成化合物が含まれる溶液(衝突流及び培養液)のpHにより影響されるのも技術常識である。
上記技術常識に照らせば,例えば,リポソーム形成化合物の種類が異なれば,リポソームの性質も異なることになるから,リポソームの「Z平均」及び「PdI平均」等が異なることになるのは明らかである。(仮に,個々のリポソームの荷電が正であれば,個々のリポソームは正の荷電により反発し合って,リポソームの合一,凝集等が防止される。そして,その防止はリポソームの分散度及び平均粒径等に影響を及ぼす。そうすると,リポソーム形成化合物(リポソーム)の性質は,「Z平均」及び「PdI平均」等に影響を及ぼす。)
また,上記技術常識に照らせば,例えば,活性薬剤及びリポソーム形成化合物の種類が異なれば,活性薬剤及びリポソームの性質も異なることになるから,「カプセル化率」等が異なるのは明らかである。(仮に,活性薬剤の荷電が負で,リポソームの荷電が正であれば,正負の荷電により引き合って,活性薬剤はリポソームにカプセル化されやすくなる。そうすると,活性薬剤及びリポソーム形成化合物(リポソーム)の性質は,「カプセル化率」等に影響を及ぼす。)
さらに,上記技術常識に照らせば,培養のpHが異なれば,「Z平均」,「PdI平均」及び「カプセル化率」等が異なることになるのも明らかである。
そうすると,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6を,本願発明1にまで拡張乃至一般化することはできない。
反応停止工程について付言する。
反応停止工程によって,活性薬剤をカプセル化したリポソームの「Z平均」,「PdI平均」及び「カプセル化率」等が安定化されるとしても,活性薬剤等の種類や培養のpHが異なれば,安定化前後の「Z平均」,「PdI平均」及び「カプセル化率」等の値は,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6で示された値と同程度のものとはならないから,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6を,本願発明1にまで拡張乃至一般化することはできない。
そして,本願発明1のようなプロセスで製造された活性薬剤を含む組成物が,選択された細胞,組織,器官,または対象への治療用薬剤の送達に有用であるというような技術常識は存在しない。
以上から,本願発明1によって,当業者が上記課題を解決できると認識することはできない。
(オ)よって,本願発明1は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

イ.理由3
上記ア.参照。
本願明細書には,上記ア.(ウ)で指摘したように種々の活性薬剤等が記載されているが,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6で使用されている特定の活性薬剤等,活性薬剤をカプセル化するリポソーム及び活性薬剤をカプセル化したリポソームの荷電等の性質が不明であり,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6の培養pHが7.4であることが,上記性質にどのような影響を及ぼすのかも不明である。
そうすると,本願発明1によって,当業者が上記実施例3の第4の実施例及び実施例6で示される「Z平均」,「PdI平均」及び「カプセル化率」等と同程度の値を有する活性薬剤を含む組成物を製造するのには過度の試行錯誤を要するといえる。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

ウ.審判請求書における請求人の主張
請求人は,リポソーム形成化合物は親油性尾部と極性頭部とを有する化合物である点で共通性を有すると述べているが,当該共通性からは,リポソーム形成化合物からリポソームが形成され,形成されたリポソームに活性薬剤がカプセル化され得ることが理解できるだけである。(当該共通性からは,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6で示された安定化前後の「Z平均」,「PdI平均」及び「カプセル化率」等が得られることまでは理解できない。)
また,請求人は,上記共通性から,反応停止工程によりリポソームが表面に荷電キャリアを有することになって,リポソームの凝集が防がれ,リポソームが安定化される旨を述べているが,上記実施例3の第4の実施例及び実施例6において,反応停止工程前後の活性薬剤がカプセル化されたリポソーム(表面)の荷電が不明であり,反応停止工程後の活性薬剤がカプセル化されたリポソームが,反応停止工程前の荷電によらず,表面に荷電キャリアを有することになる技術的理由が不明である。そして,請求人の上記主張は,本願明細書に記載されていないし,本願出願時における技術常識であるとも認められない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(2)本願発明2?15/理由2,3
上記(1)参照。
本願発明3について付言すると,本願明細書には,リポソーム形成化合物を「C18:1-ノルArg-C16である」「PONA」だけで行った実施例が記載されていない。(上記実施例3の第4の実施例及び実施例6は,リポソーム形成化合物として「C18:1-ノルArg-C16である」「PONA」以外のものも使用しており,活性薬剤及び培養pHも特定のものである。)
よって,本願発明2?15は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明2?15を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
 
審理終結日 2016-10-19 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2011-532268(P2011-532268)
審決分類 P 1 8・ 536- WZF (A61K)
P 1 8・ 537- WZF (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 須藤 康洋
関 美祝
発明の名称 遺伝子発現を抑制する治療におけるリポソームによる効率的な送達のプロセスおよび組成物  
代理人 山崎 宏  
代理人 佐藤 剛  
代理人 田中 光雄  

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