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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1326466
審判番号 不服2015-5864  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-31 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 特願2012-521945「医療器具に薬剤及び/又はポリマーを搭載する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年2月3日国際公開、WO2011/012045、平成25年1月7日国内公表、特表2013-500088〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)7月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年(平成21年)7月30日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であり、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 1月16日 国内書面提出
同 年 2月15日 翻訳文の提出並びに出願審査の請求及び手 続補正書の提出
平成25年 4月30日付け 拒絶理由の通知
同 年 8月 1日 意見書及び手続補正書の提出
平成26年 2月 7日付け 拒絶理由(最後)の通知
同 年 6月 2日付け 応対記録
同 年 6月10日 意見書の提出
同 年11月25日付け 拒絶査定(謄本の送達 12月1日)
平成27年 3月31日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の 提出
同 年 4月23日 前置審査報告
平成28年 6月10日付け 当審による拒絶理由通知
同 年 9月12日 意見書及び手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年9月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「薬剤及び/又はポリマーを搭載する溝又は穴を一つ又は二つ以上含む医療器具に薬剤及び/又はポリマーを搭載する装置であって、以下を含むことを特徴とする、装置:
医療器具を置くための医療器具置き台(26)と、
前記置き台の上方に位置し、少なくとも一つの前記溝又は穴の全体の図形を含む前記医療器具上の溝又は穴の画像を撮影するための画像撮影装置(23)と、
前記画像撮影装置と接続され、前記撮影した画像にデジタル画像処理を施して前記溝又は穴の図形を取得し、前記溝又は穴の図形の中心位置を計算し、該中心位置に基づいて前記溝又は穴の実際の中心位置を確定する画像処理ユニットと、
薬剤及び/又はポリマーを予め搭載し、出口により前記医療器具上の溝又は穴に搭載する搭載装置(24)と、
前記医療器具と前記画像撮影装置(23)及び/又は前記搭載装置(24)との間の相対位置関係を調整するための位置調節装置(28)。」


第3 当審拒絶理由
平成28年6月10日付けで当審より通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、引用文献1(特開2006-500118号公報)に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
よって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ただし、上記拒絶理由における「特開2006-500118号公報」は、「特表2006-500118号公報」の誤記であることは、「特開2006-500118号公報」なる公報が存在しないこと、公報番号の通番部が50万番台であり、50万番台の公報は公表公報とされていることから、明白である。なお、平成28年9月12日付け意見書に記載された内容は、特表2006-500118号公報の記載事項に拠っていることは明らかであるから、審判請求人も上記の番号が誤記であって、適切に読み替えを実施したものと考えられる。


第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1
当審の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2006-500118号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、理解の便のため、当審で付与した。)

ア 【請求項70】
「前記ディスペンサと前記医療器具とを相対移動させるモータをさらに備え、それにより、前記ディスペンサは、前記医療器具の前記第1の開口との整列状態から移動して、前記医療器具の第2の開口と整列する、請求項65に記載のシステム。」

イ 段落【0026】
「[発明の詳細な説明]
本発明は、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する方法および装置に関する。より詳細には、本発明は、有益な作用物質をステントに充填する方法および装置に関する。」

ウ 段落【0028】
「用語「有益な作用物質」は、本明細書で用いる場合、最大限に広義に解釈されることが意図され、任意の治療薬または薬剤、ならびにバリア層、担体層、治療層、または保護層などの不活性作用物質を含むように用いられる。」

エ 段落【0029】
「用語「薬剤」および「治療薬」は、生物の身体管路に送出されて、所望の通例は有益な効果をもたらす任意の治療活性物質を指すように交換可能に用いられる。本発明は、特に抗腫瘍薬、血管新生因子、免疫抑制薬、抗炎症薬、抗増殖薬(抗再狭窄薬)、例えばパクリタキセルおよびラパマイシンなど、および抗トロンビン薬、例えばヘパリンなどの送出に非常に適している。」

オ 段落【0033】
「用語「開口」は、任意の形状の穴を指し、貫通開口および窪みの両方を含む。」

カ 段落【0034】
「穴を有する埋め込み式医療装置
図1は、大きな非変形支柱12およびリンク14を有するステント構造の形態の、本発明による医療器具10を示し、これは、支柱またはリンクの、または器具全体の機械的特性を損なうことなく、開口(すなわち穴)20を含むことができる。……穴20は、種々の有益な作用物質を器具の埋め込み部位に送出するための、大きな保護槽としての役割を果たし得る。」

キ 段落【0053】
「図4は、圧電マイクロジェットディスペンサ100から有益な作用物質の小滴120を受け取るステント140の形態の、拡張式医療器具を示す。ステント140は、マンドレル160に取り付けられることが好ましい。」

ク 段落【0062】
「図5は、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填するシステム200を示す。システム200は、有益な作用物質を拡張式医療器具の開口に分配するディスペンサ210と、有益な作用物質の槽218と、少なくとも1つの監視システム220と、複数の拡張式医療器具232が取り付けられたマンドレル230とを含む。システム200はまた、回転するマンドレル230を支持する複数の軸受240と、拡張式医療器具232の円筒軸に沿ってマンドレル250を回転および並進させる手段と、モニタ260と、中央処理装置(CPU)270とを含む。」

ケ 段落【0063】?【0064】
「ディスペンサ210は、有益な作用物質を医療器具232の開口に分配する圧電ディスペンサであることが好ましい。ディスペンサ210は、流体出口またはオリフィス212と、流体入口214と、電気ケーブル216とを有する。圧電ディスペンサ200はオリフィス212から流体の小滴を分配する。
少なくとも1つの監視システム220を用いて、小滴の形成および医療器具232の複数の開口に対するディスペンサ210の位置決めが監視される。監視システム220は、電荷結合素子(CCD)カメラを含んでもよい。一実施形態では、充填プロセスのために少なくとも2つのCCDカメラが用いられる。第1のカメラは、マイクロジェットディスペンサ210の上に位置付けられ、医療器具232の充填を監視する。第1のカメラは、以下で説明するように、マンドレル230のマッピングにも用いられる。第2のカメラは、好ましくは、マイクロジェットディスペンサ210の側部に位置付けられ、側部から、すなわち直交する視点からマイクロジェットディスペンサ210を監視する。第2のカメラを用いて、有益な作用物質を医療器具232に充填する前に、ディスペンサの位置決め中にマイクロジェットディスペンサを可視化することが好ましい。しかしながら、監視システム220は、カメラ、顕微鏡、レーザ、マシンビジョンシステム、または当業者に既知の他のデバイスを含む任意の数の可視化システムを含むことができることが理解され得る。例えば、光線の屈折を用いて、ディスペンサからの小滴を計数することができる。モニタの総合倍率は、50?100倍の範囲であるべきである。」

コ 段落【0069】?【0072】
「一実施形態では、マンドレル250および医療器具232は、有益な作用物質を医療器具232の開口に充填するために、第1の位置から第2の位置に移動する。一代替実施形態では、システムはさらに、医療器具232の円筒軸に沿って第1の位置から第2の位置に分配システムを移動させる手段を含む。
・・・
医療器具232は、充填プロセス前にマンドレル230に取り付けられてマッピングされることが好ましい。マッピングプロセスにより、監視システムおよび関連の制御システムは、器具ごとに、またマンドレルへの器具の被嵌が不正確であることによってマンドレルごとにわずかに異なる可能性がある各開口の正確な場所を決定することができる。次に、各開口のこの正確な場所が、その特定のマンドレルに特有のマップとして保存される。マンドレル230のマッピングは、監視システムを用いて、マンドレル230に位置付けられた各医療器具232の開口のサイズ、形状、および配置を確かめることによって行われる。複数の医療器具232を含むマンドレル230がマッピングされると、マッピング結果が製造仕様書と比較され、有益な作用物質を医療器具232の各穴に正確に分配するようにディスペンサが調整される。」

サ 段落【0073】
「一代替実施形態では、マンドレル230のマッピングは、1つの開口に関する開口の比較によって行われる。動作の際には、監視システムは医療器具の第1の開口をマッピングし、マッピング結果を製造仕様書と比較する。第1の開口が製造仕様書で指定されている位置にある場合、調整は必要ない。しかしながら、第1の開口が製造仕様書で指定されている位置にない場合、調整が記録され、分配プロセス中に調整が行われて、製造仕様書で指定されている位置と異なる位置が補正される。マッピングは、各医療器具232がマッピングされるまで医療器具の各開口で繰り返される。さらに、一実施形態では、或る開口がマッピングされて、その開口が製造仕様書に応じた位置にある場合、マッピングプロセスは、本発明から逸脱せずに、他のすべての開口でマッピングを続けるように設計されてもよく、または任意の数の開口をスキップするように設計されてもよい。」

シ 段落【0079】
「医療器具232の開口を充填する際に、マイクロジェットディスペンサ100は複数の小滴を開口に分配する。好ましい一実施形態では、ディスペンサは、約40ミクロンのマイクロジェットディスペンサによって1秒当たり3,000発分配することが可能である。しかしながら、小滴は、必要な充填量に応じて、穴当たり約8?20発で分配することが好ましい。マイクロジェットディスペンサは、医療器具232の水平軸に沿って進むことにより、各穴(または所望の穴)を充填する。CPU270は、ディスペンサ100のオン・オフを切り替えて、医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填する。ディスペンサが医療器具232の端部に到達すると、マンドレルを回転させる手段がマンドレルを回転させ、水平軸に沿った医療器具232の2度目の通過が行われる。」

ス 【図5】の図示及び上記キ、ク、ケの摘記事項によると、図中に232とされた医療器具が取り付けられたマンドレル230と、監視システム220に含まれるCCDカメラは、ディスペンサ210の「上に位置づけられ」るとされており、ディスペンサ210より下方に医療器具232が位置するよう図5では図示されているので、医療器具232が取り付けられたマンドレルの上方にCCDカメラ220は配置されていると見てとれる。
また、CCDカメラ220からの配線と、ディスペンサ210からの配線は、図5ではどちらも290を介して270の中央処理装置に接続されている様が見てとれる。

2 引用発明
上記摘記事項ア?シ及び図面からの認定事項スから、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「穴20を有する医療器具へ、薬剤を充填するシステム200であって、
当該システム200は、以下の
マンドレル230及びマンドレル230を回転及び並進させる手段と、
マンドレルの上方に配置されているCCDカメラと、
CCDカメラ及びディスペンサと接続された中央処理装置270と、
流体出口212を有するディスペンサ210と
からなり、
医療器具232は、充填プロセス前にマンドレル230に取り付けられて、CCDカメラを用いて各開口のサイズ、形状、および配置が確かめられるとするマッピングがなされ、
CPU270は、医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填するよう前記医療器具とディスペンサ300との間の相対位置を移動調整し、ディスペンサをオンさせ薬剤を開口へ充填させる、
医療器具薬剤充填システム。」


第5 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「穴20を有する医療器具」は、図1、4の図示から見て医療器具であるステント10上に複数存在する穴とされかつ薬剤を充填予定とされているので、本願発明における「薬剤」「を搭載する」「穴を」「二つ以上含む医療器具」に相当し、
以下、同様に、
「マンドレル230及びマンドレル230を回転及び並進させる手段」及び「医療器具232は、充填プロセス前にマンドレル230に取り付けられて」は、「医療器具を置くための医療器具置き台(26)」に、
「各開口のサイズ、形状、および配置が確かめられるとするマッピング」に「用い」るとされる「CCDカメラ」は、図5の図示から見てカメラ220はマンドレルの上方に配置されているため、「前記置き台の上方に位置し、少なくとも一つの前記」「穴の全体の図形を含む前記医療器具上の」「穴の画像を撮影するための画像撮影装置(23)」に、
「流体出口212を有するディスペンサ210」は、「薬剤」「を予め搭載し、出口により前記医療器具上の」「穴に搭載する搭載装置(24)」に、
「CCDカメラ及びディスペンサと接続された中央処理装置270」であって、「CCDカメラを用いて各開口のサイズ、形状、および配置が確かめられるとするマッピング」を「医療器具」に対して行うことは、「処理ユニット」が「穴の図形を取得」することに、
「医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填するよう前記医療器具とディスペンサ300との間の相対位置を移動調整」することは、「前記医療器具と」「前記搭載装置(24)との間の相対位置関係を調整するための位置調節装置(28)」によりなされることに各々相当する。

2 一致点及び相違点
上述の対比から、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
〔一致点〕
薬剤を搭載する穴を二つ以上含む医療器具に薬剤を搭載する装置であって、以下を含むことを特徴とする、装置:
医療器具を置くための医療器具置き台と、
前記置き台の上方に位置し、前記穴の全体の図形を含む前記医療器具上の穴の画像を撮影するための画像撮影装置と、
前記画像撮影装置と接続され、前記穴の図形を取得する、画像処理ユニットと、
薬剤を予め搭載し、出口により前記医療器具上の穴に搭載する搭載装置と、
前記医療器具と前記搭載装置との間の相対位置関係を調整するための位置調節装置。

〔相違点〕
医療器具上の穴の撮影画像を用いて薬剤搭載装置の位置を調整する点に関して、本願発明では、穴を撮影した画像に対して、「デジタル画像処理を施して」穴の図形を取得し、「前記(溝又は)穴の図形の中心位置を計算し、該中心位置に基づいて前記(溝又は)穴の実際の中心位置を確定する」との発明特定事項を有するのに対して、引用発明は、CCDカメラを用いて穴の図形を取得するものの、デジタル画像処理の明示はなく、穴の図形の中心位置を計算することで穴の実際の中心位置を確定するとの明示もなされていない点。


第6 判断
1 相違点に関する検討及び判断
上記の相違点について検討する。
まず、引用発明における穴の図形の取得を見ると、引用発明における穴の撮影手段はCCDカメラとされ、当該カメラと接続された中央処理装置では、撮影された医療器具上の穴に関して、「各開口のサイズ、形状、および配置が確かめられるとするマッピング」の処理が行われるとする記載が認められる。
CCDカメラの撮像原理やカメラ出力から形状を取得する一般的な工程を考えた場合、通常CCDカメラによる撮像出力はデジタルデータであり、撮像対象物のサイズや形状、配置等の確認は一般的にデジタル画像処理によってなされることは技術常識であるから、上記相違点で引用発明にデジタル画像処理の明示を伴っていなくとも、システムの構成と取得データを見る限り、デジタル画像処理により穴に関係するサイズや形状、位置は、本願発明と同じくデジタル画像処理によりなされるものであり、両者に実質的な相違は無いと言える。
また、本願発明の発明特定事項とされる、穴の図形の中心位置の計算による穴の実際の中心位置の確定と、引用発明が行うマッピング処理並びにディスペンサの「医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填するよう前記医療器具とディスペンサ300との間の相対位置を移動調整し、ディスペンサをオンさせ薬剤を開口へ充填させる」こととの、両者の異同について検討する。
本願発明で行われる、デジタル画像処理で得た溝又は穴の中心位置を計算により割り出して特定することとは、本願明細書では【0049】に
「本発明はデジタル画像処理技術及び位置決め技術により、各医療器具装置上の薬剤溝又は穴の全てを正確に位置決めし、搭載装置の出口を薬剤溝又は穴の中心の真上に位置決めできるため、薬剤が溝外に分注されるのを防止でき、人体へのリスクを低減することができる。」
とされており、溝又は穴の図形の中心位置を計算することは、搭載装置の出口を薬剤溝又は穴の中心の真上に位置決めできるようにするために行われていることが理解できる。
他方、引用発明の、マッピング処理と、相対位置の移動調整の双方の事項を考えてみる。
前述のとおり、引用発明でもCCDカメラの撮像出力は、実質デジタル画像処理により処理され、すべての各開口のサイズ、形状、および配置を取得するものとされていることから、引用発明の、特に「マッピング」処理の内容は、各開口の撮像されたデータを画像処理して何らかの計算をして製造仕様書に示された各開口のサイズ、形状、位置のデータと比較可能なデータを取得していると、当業者であれば当然に認識できるところである。
さらに、搭載装置に相当するディスペンサに対して、中央処理装置は「医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填するよう前記医療器具とディスペンサ300との間の相対位置を移動調整」するとされている。つまり、ディスペンサ300が医療器具の穴の位置に対してどこに調整されるかは明示されないながらも、ディスペンサ300の移動位置は、開口間を避け、開口を薬剤の液体で充填可能などこかの位置とすることを要件とすることが明らかである。
配置が認識できる穴へ液体を充填する場合、当該穴を外さずにするために常識的に選ばれる注入の位置を考えてみる。一般的には注入の位置の候補は、穴の輪郭全体から見て中心近くに選ばれるのが普通である。そうすると、引用発明も、撮像の結果得られた穴(開口)の位置、サイズ、形状を基にして、薬剤の充填が開口以外にならない位置に搭載装置(ディスペンサ)の出口を配置するとしている以上、注入の位置は、一般常識として穴の輪郭全体から見て中心近くに選ばれるのであれば、何らか公知の手法で中心近くの位置を決めるであろうというべきであり、本願で採用したとする、図形の中心位置の算出の手法を見ても、デジタル画像処理の態様として新規なものでもない。(例えば、特許第3643104号公報の【請求項1】に「前記加工段階より加工された前記加工領域を撮像装置で撮像し、撮像して得られた画像データを基に、前記加工領域に含まれる加工穴の位置の中心点と、・・・」とされている点を必要であれば参照せよ。)
よって、薬剤等の医療器具上の穴への搭載に際し、引用発明が求める開口以外の領域に薬剤の充填がなされないようにするという示唆にしたがって、ディスペンサの位置調整の目標を穴の中心位置とすることは、単なるデジタル画像処理技術上の周知の態様の選択により当業者が十分になし得たと判断できる。
よって、当該相違点は、引用発明及び周知技術の援用により、当業者が容易になし得た範疇に留まると認められ、格別のものではない。


2 請求人の意見
請求人は、平成28年9月12日付け意見書において、
「4)一方、本発明の独立請求項1の識別特徴は、医療器具の溝又は穴の実際の中心位置を得て、溝及び穴の図形の実際の中心位置を計算することによって、搭載装置の出口が、確実に医療器具の溝又は穴の中心の上に垂直に位置しています。かかる識別特徴は、医薬及び/又はポリマーが溝外に配置されるような状況を避けることができるという技術効果をもたらします(段落[0049])。
本発明の独立請求項1の技術的解決策は、搭載装置の出口と医療器具の溝及び穴を正確に調節することによって実現されるので、本発明は引用文献1と完全に異なります。」
「6)ここで、引用文献1について検討すると、上述のとおり引用文献1において「正確に充填」は、マイクロジェットディスペンサにより正確に小滴を分配することによって実現されており、「正確に位置づけ」することを必要としていません。また、CPU270を、医療器具232の開口のサイズ、形状、および配置に関する製造仕様書を用いて最初にプログラムし、マッピング結果を製造仕様書と比較し、比較結果に基づいてディスペンサを調製するために用いており、正確に位置づけするためには用いておりません。したがって、引用文献1には、本発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆は存在しないと思料いたします。」
(「(2)出願人の意見」より抜粋)
と主張しているので、当該意見について検討する。
上述した「第5 対比」及び「第6 判断」の「1 相違点に関する検討及び判断」にて説示したとおり、引用文献1から認定された引用発明と、本願発明とを対比した際に、搭載装置の出口の位置に関する点を相違点であるとしているので、この点では出願人の意見に沿った認定を行っている点でなんら主張に反するものではない。
ただし、引用発明では、ディスペンサの位置を移動調整しつつ、当該調整により「医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填する」ことを特定事項としている点で、『「正確に位置づけ」することを必要としていません。』との意見や、『正確に位置づけするためには用いておりません。』との意見は、移動調整を行うとした引用発明の事項が示す内容と整合するとは考えにくい。なぜなら、移動調整を実行するためにはなんらかの目標位置の定めが一般的に必要とされることに加えて、開口以外の箇所に充填を行わないようにするとの引用発明における条件設定は、開口のサイズと液滴のサイズを比較して、開口の縁から十分中心よりにディスペンサの出口を位置決めすることを最低でも示唆すると判断できるからである。そして、周知技術の存在を加味すれば、ディスペンサ出口の位置決めを数学的に中心点とするような態様を選ぶことが殊更困難なことであるとは認められない。
よって出願人の主張は、相違点にかかる判断の点で公知文献の記載内容に反する主張を含んだものとされているので、これを妥当と扱うことができない。

3 小括
以上より、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-26 
結審通知日 2016-10-27 
審決日 2016-11-08 
出願番号 特願2012-521945(P2012-521945)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 洋昭  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 西村 泰英
栗田 雅弘
発明の名称 医療器具に薬剤及び/又はポリマーを搭載する方法及び装置  
代理人 堀内 真  
代理人 松田 一弘  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 山村 昭裕  
代理人 山内 正子  
代理人 園元 修一  
代理人 小澤 誠次  
代理人 東海 裕作  

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