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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q
管理番号 1326506
審判番号 不服2016-10047  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-04 
確定日 2017-04-11 
事件の表示 特願2014-536779「偏波共用アンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日国際公開,WO2014/045966,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年9月11日(優先権主張 2012年9月21日)を国際出願日とする特許出願であって,平成27年11月4日付けで拒絶理由通知がされ,平成28年1月8日付けで手続補正がされ,同年3月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年7月4日に拒絶査定不服審判の請求がされ,その後,同年12月6日付けで当審より拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,平成29年2月10日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年3月30日付け拒絶査定)の概要は,次のとおりである。

[理由a]
原査定時における請求項1及び2に係る発明は,引用文献Aに記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
[理由b]
原査定時における請求項1及び2に係る発明は,引用文献Aに記載された発明に基いて,請求項3に係る発明は,引用文献A及びBに記載された発明に基いて,請求項4に係る発明は,引用文献A及びCに記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平05-129825号公報
B.特開2001-267833号公報
C.特開2006-279785号公報

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は,次のとおりである。

当審拒絶理由通知時の請求項1ないし4に係る発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平5-129825号公報(原査定時の引用文献A)
2.特開2003-78338号公報(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,平成29年2月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 内部接地層と,
該内部接地層の上面に絶縁層を介して積層され,互いに直交するX軸方向の長さ寸法とY軸方向の長さ寸法を有する略四角形状に形成された放射素子と,
該放射素子の上面に絶縁層を介して積層された無給電素子とを有し,
前記無給電素子は,X軸方向に延びる第1のパッチとY軸方向に延びる第2のパッチとが交差してなり,
前記放射素子のうち前記第1のパッチに対応したX軸方向に電流が流れるように導体を介して給電する第1の給電線路と,前記放射素子のうち前記第2のパッチに対応したY軸方向に電流が流れるように導体を介して給電する第2の給電線路とが設けられ,
前記放射素子および前記無給電素子は,X軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状で,かつ,Y軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状に形成され,
前記第1の給電線路に接続された前記導体は,X軸方向に延びる対称軸上に位置して前記放射素子に接続され,
前記第2の給電線路に接続された前記導体は,Y軸方向に延びる対称軸上に位置して前記放射素子に接続された偏波共用アンテナ。」

なお,本願発明2ないし本願発明4は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の技術的特徴をすべて包含するものである。
また,本願発明1は,原査定時の請求項1に係る発明を減縮したものである。

第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平5-129825号公報;原査定時の引用文献Aと同じ。)には,「マイクロストリツプアンテナ」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,マイクロストリップアンテナにおける高次モードの低減に関するものである。」(第2ページ)

イ 「【0002】
【従来の技術】図6は,例えば,1989 IEEE ANTENNA ANDPROPAGATION SOCIETY Digest,PP.640?643 “CIRCULAR POLARIZATION OPERATION OF DOUBLE-SLOT FEED MICROSTRIP ANTENNA”の中に示された従来のアンテナ装置を示す概略構成図である。この従来例ではマイクロストリップアンテナの放射導体として方形を用いている。図において,1は第一の誘導体基板,2は第二の誘導体基板,3は略方形の放射導体,4は第一の誘導体基板と第二の誘導体基板の間に設けられた地導体,5は地導体4に設けられた第一の細隙,6は地導体4に設けられた第二の細隙,7は第一のストリップ導体であり,8は第二のストリップ導体であり,放射導体3と地導体4でマイクロストリップアンテナ9を構成し,地導体4と第一のストリップ導体7および第二のストリップ導体8で,それぞれ第一および第二のマイクロストリップ線路10,11を構成している。
【0003】次に,動作について説明する。マイクロストリップアンテナ9は,放射導体3の長さに応じた特定の周波数f_(0)において近似的にTM_(10)モードの共振器として働く。第一のマイクロストリップ線路10の入力端12から入射した電波は第一の細隙5を介して,マイクロストリップアンテナ9に電磁的に結合する。また,第二のマイクロストリップ線路13の入力端12から入射した電波は細隙6を介して,マイクロストリップアンテナ9に電磁的に結合する。ここで第一と第二のマイクロストリップ線路10,11の入射電波の振幅を等しく,位相差を90度とするように設定すると,給電された電波はマイクロストリップアンテナ9で共振し円偏波を空間に放射する。」(第2ページ)

ウ 「【0014】
【実施例】実施例1.図1はこの発明の一実施例を示す概略構成図であり,図1(a)は斜視図,図1(b)はその上面図である。図中,1?14は図6,図9に示す従来例と同様のものであり,15は高次モードの電流が流れる放射導体3の長さを短く形成するための切り欠き部である。この実施例では,第一の細隙5をとる円形の放射導体3の対称軸A-Aと円形の放射導体3の中心を通り対称軸A-Aと直交する対称軸をB-Bとするとき,この二つの対称軸に対し,それぞれ45度の方向で円形の放射導体3の端部と交わる部分を切り欠いた切り欠き部15を有する構造である。
【0015】次の動作について説明する。このマイクロストリップアンテナにおいては,第一の細隙5の結合孔には結合孔の長手方向に直角に電界が誘起され,これにより電界の方向に放射導体板に電流が励振される。したがって,同軸線路のピンで一点給電された場合と異なり,この結合孔による電磁結合給電では電流が方向性を持って励振される。このように励振された電流は,当然,結合孔のところで強く励振され電流分布に非対称を生ずる。これを対称成分と非対称成分に分けると,図8(b)のように分解でき,対称成分は切り欠き部15の影響をあまり受けず,非対称成分は電流が分布する長さが短縮されるように影響を受ける。
【0016】したがって切り欠き部15を施すことにより基本モードの共振周波数は変化せず,図8(c)に示した高次モードであるTM21モードの共振周波数を高くすることができる。共振周波数では共振モードは強く励振され放射も多くなるが,共振周波数からはなれるにしたがって励振される量は少なくなり,放射も少なくなる。
【0017】このように,図1に示したマイクロストリップアンテナは,中心からずれた位置で励振した場合でも,高次モードの発生が少なく,パターンに凹凸の無い単方向放射特性を得ることができる。」(第3-4ページ)

エ 「【0019】実施例3.図3はこの発明のさらに他の実施例を示す概略構成図であり,図3(a)は斜視図,図3(b)は上面図である。この実施例は第一の細隙5を励振する第一のマイクロストリップ線路10と第二の細隙6を励振する第二のマイクロストリップ線路11の位相差を90度とし,円偏波を発生させるマイクロストリップアンテナの例である。この場合は,図9,図10の従来例において説明したように,放射導体3の中心からずれた位置に配置された第一の細隙5を通る対称軸A-Aと,同じく放射導体3の中心からずれた位置に配置された第二の細隙6を通る対称軸B-Bに対し45度の角度の方向の放射導体3にもTM21モードの電流は流れるから,この方向の長さを短縮することによりTM21モードの共振周波数を高めることができる。これに対し,基本モードの電流が流れる方向の放射導体面の長さは変化しないから基本モードの共振周波数は変化しない。したがって,高次モードであるTM21モードの発生の少ない基本モード励振が可能になる。」(第4ページ)

オ 「【0021】実施例5.図5はさらに他の実施例を示す概略構成図であり,図5(a)は斜視図,図5(b)は上面図である。図中,19は放射導体3の上方に配置された無給電素子である。無給電素子19は第三の誘電体基板20に被着した金属箔で構成できる。この第三の誘電体基板20は発泡材料でも良い。なお,ここでは励振する細隙が1個の場合を例示して説明するが,この発明は細隙の数によらないのは上述のとおりである。無給電素子19は従来,広帯域な放射特性を得るための手段として用いられているが,この発明では,無給電素子19の形状を励振する細隙の位置関係で決まる特定の形状とすることにより,高次モードを抑圧する効果を得るものである。この特定の形状とは,高次モードの電流が流れる方向の無給電素子の長さを基本モードの電流が流れる方向の無給電素子の長さより短く形成し,高次モードに対する共振周波数をより高めるようにしたものである。また,放射導体3の形状は切り欠き部15を設けた場合は,上記無給電素子19と相俟って高次モードを抑圧する効果はよりいっそう高くなる。
【0022】放射導体3を励振する第一の細隙5を通る対称軸A-Aと,第二の細隙6を通る対称軸B-Bに対し45度の角度の方向の放射導体面にもTM21モードの電流は流れる。しかし,この放射導体3に電磁的に結合し,実質的に放射を起こす無給電素子19は第一の細隙5を通る対称軸A-Aと,第二の細隙6を通る対称軸B-Bに対し45度の角度の方向の端部に切り欠き部20を設けているため,TM21モードの電流を流そうとする方向の長さが短縮されているため,TM21モードの共振周波数は高くなる。これに対し,基本モードの電流が流れる方向の放射導体面の長さは変化しないから基本モードの共振周波数は変化しない。したがって,高次モードであるTM21モードの発生の少ない基本モードを無給電素子19に励振することが可能になる。
【0023】ここで,以上の実施例では結合孔として細隙の場合を示したが,この発明はこれに限らず結合孔の形状としては円,楕円や任意形状の開口でも所定の結合量が得られさえすれば有効である。マイクロストリップ線路のようなストリップ導体を有する線路で励振する場合,ストリップ導体を流れる電流により結合孔に生じる電界の向きは決まり放射導体に流れる電流の向きは結合孔の形状に存在しないからである。なお,この発明は,放射導体が円形に限らず,方形の場合も同様に適用できることは言うまでもない。」(第4ページ)

カ 「

」(第6ページ)

キ 「【図2】

」(第6ページ)

ク 「

」(第7ページ)

ケ 「

」(第7ページ)

コ 「

」(第5ページ)

サ 「

」(第5ページ)

前記アないしサ及び本願の優先日における技術常識を参酌して,引用文献1に記載された技術的事項について検討する。

a.前記アより,引用文献1には,高次モードを低減する「マイクロストリップアンテナ」が記載されているといえる。

b.前記ウ(【0014】ないし【0017】)及び前記カ(図1)には,基本的な実施例である実施例1が記載されており,前記オ(【0021】ないし【0023】)及び前記ケ(図5)に係る実施例5は,実施例1にさらに第三の誘電体基板(20)と無給電素子(19)とを付加したものと認められるから,実施例5における基本的な機能・作用は,実施例1と同じであると解される。

c.前記オ及び前記ケ(図5)より,実施例5に係る「マイクロストリップアンテナ」は,「第二の誘電体基板(2)と,前記第二の誘電体基板(2)の上面に積層され,長手方向がA軸方向となりB軸上に位置する細隙(5)が設けられた地導体(4)と,該地導体(4)の上面に,第一の誘電体基板(1)を介して積層された放射導体(3)と,前記放射導体(3)の上面に第三の誘電体基板(20)を介して積層された無給電素子(19)と,前記細隙(5)を介して前記放射素子(3)のB軸方向に電流が励振されるように給電する第一のマイクロストリップ線路(10)と」を有したものである。

d.そして,前記ウ及び前記カより,実施例5においては,放射導体(3)と無給電素子(19)とは同形状(円に,互いに直交するA軸及びB軸から45度の方向に4つの切り欠き部(15)を設けた形状)で対向しているが,前記オの【0021】の末文には,「また,放射導体3の形状は切り欠き部15を設けた場合は,上記無給電素子19と相俟って高次モードを抑圧する効果はよりいっそう高くなる。」と記載されていることから,「切り欠き部15」を設けない場合を含むものと解される。
さらに,前記オの【0023】の末文には,「なお,この発明は,放射導体が円形に限らず,方形の場合も同様に適用できることは言うまでもない。」と記載があるから,放射導体(3)の形状は,互いに直交するA軸方向の長さ寸法と,B軸方向の長さ寸法を有する「方形」に形成された態様を含んでいる。そして,「方形」に,A軸及びB軸から45度の方向に4つの切り欠き部(15)を設けた形状は,前記キ(図2(c))に記載されているように,A軸及びB軸のそれぞれに対称の十字形状となることは自明であるから,引用文献1には,「無給電素子(19)」が,A軸及びB軸のそれぞれに対称の十字形状である態様を実質的に含んでいる。
また,実施例5において,放射導体(3)と無給電素子(19)とは対向していることから,放射導体(3)を「方形」とした場合には,当該放射導体(3)もまた,A軸及びB軸のそれぞれに対称であることは自明である。

前記a.ないしd.の検討から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 第二の誘電体基板(2)と,
前記第二の誘電体基板(2)の上面に積層され,長手方向がA軸方向となりB軸上に位置する細隙(5)が設けられた地導体(4)と,
該地導体(4)の上面に,第一の誘電体基板(1)を介して積層され,互いに直交するA軸方向の長さ寸法とB軸方向の長さ寸法を有する方形に形成され,A軸及びB軸のそれぞれに対称な放射導体(3)と,
前記放射導体(3)の上面に第三の誘電体基板(20)を介して積層され,A軸及びB軸のそれぞれに対称な十字形状の無給電素子(19)と,
前記細隙(5)を介して前記放射素子(3)のB軸方向に電流が励振されるように給電する第一のマイクロストリップ線路(10)とを有した,マイクロストリップアンテナ。」

さらに,前記イ,前記コ(図6)及び前記サ(図9)(従来例),並びに,前記エ及び前記ク(図3)(実施例3)より,引用文献1には,次の事項(以下,「技術事項」という。)も記載されていると認める。

「 第二の誘電体基板(2)と,
前記第二の誘電体基板(2)の上面に積層され,長手方向がA軸方向となりB軸上に位置する間隙(5)と,長手方向がB軸方向となりA軸上に位置する間隙(6)が設けられた地導体(4)と,
該地導体(4)の上面に,第一の誘電体基板(1)を介して積層された放射導体(3)と,
前記細隙(5)を介して前記放射素子(3)のB軸方向に電流が励振されるように給電する第一のマイクロストリップ線路(10)と,前記細隙(6)を介して前記放射素子(3)のA軸方向に電流が励振されるように給電する第二のマイクロストリップ線路(11)とを有し,
前記第一のマイクロストリップ線路(10)と前記第二のマイクロストリップ線路(11)の入射電波の振幅を等しく,位相差を90度とするように設定すると円偏波を放射するマイクロストリップアンテナ。」

2.引用文献2について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2003-78338号公報)には,「低交差偏波2重偏波平面アンテナ及び給電法」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

シ 「【0003】
【従来の技術】マイクロ波により離れた場所や,移動体に対して電力を伝送することができるようにマイクロ波送電用のアンテナとして円形パッチを用いた円形マイクロストリップアンテナが従来から用いられている。その場合の給電法として2点ピン給電と,スロット結合給電という2つの方法があり,それぞれ図11,図12を用いて以下に説明する。」(第2ページ)

ス 「【0008】図12のアンテナの場合も,一方のマイクロストリップライン88の端部に設けられた給電点90から信号を0度の位相で給電し,他方のマイクロストリップライン89の端部に設けられた給電点91から同じ信号を90度の位相で給電することで,スロット結合により円偏波を発生するようにしている。そのために2つの給電点が必要であるが,このアンテナの構造では,スロット92,93は何れも円形パッチ84の中心からずれているため,本来の共振周波数より高い周波数である高次モードが発生するという問題があった。
【0009】以上の従来例は円偏波発生に関するものであるが,各モデルが有している2つの給電点のそれぞれに水平偏波および垂直偏波の2種類の信号を入力することで,2重偏波用アンテナとしても機能するものである。」(第3ページ)

前記シ及び本願の優先日における技術常識を参酌すれば,引用文献2には,次の事項(以下,「周知事項1」という。)が記載されていると認める。

「 マイクロストリップアンテナの給電方法として,
スロット結合給電に替えてピン給電を採用し得ること,及び,ピン給電が,放射導体の給電ピンと,マイクロストリップラインとを導体を介して接続するものであること。」

また,前記ス及び本願の優先日における技術常識を参酌すれば,引用文献2には,次の事項(以下,「周知事項2」という。)が記載されていると認める。

「 2つの給電線路を設けたマイクロストリップアンテナにおいて,
2つの給電点から位相が90度異なる同じ信号を給電することにより円偏波を放射する手法と,2つの給電点から水平偏波及び垂直偏波の2種類の信号を入力することで,2重偏波用アンテナ,すなわち,偏波共用アンテナしても機能させる手法とが,適宜に置換又は選択可能なことであること。」

第6 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
引用発明における「地導体(4)」は,「誘電体基板(2)」と「誘電体基板(1)」の間,すなわち「内部」にあるものであり,「地導体」は「接地」のためのものであることは自明であるから,本願発明1における「内部接地層」に相当する。
「誘電体」は,絶縁体であるから,引用発明における「第一の誘電体基板(1)」及び「第三の誘電体基板(20)」は,本願発明における「絶縁層」に相当する。
引用発明における「A軸」及び「B軸」はそれぞれ,本願発明における「X軸」及び「Y軸」に対応するといえる。
引用発明における「方形」は,本願発明の「略四角形状」に含まれる概念である。また,引用発明において,(放射導体(3)が)「A軸及びB軸のそれぞれに対称」であることは,本願発明1において,(放射素子が)「X軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状で,かつ,Y軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状」であることに相当する。よって,引用発明における「放射導体(3)」は,本願発明1における「放射素子」に相当する。
引用発明における「無給電素子(19)」と,本願発明1における「無給電素子」とは,「放射素子の上面に絶縁層を介して積層された無給電素子」である点において一致する。また,引用発明における「A軸及びB軸のそれぞれに対称な十字形状」は,本願発明1における「X軸方向に延びる第1のパッチ」と本願発明1における「Y軸方向に延びる第2のパッチ」とを互いの重心近辺で「交差」してなる形状に相当し,さらに,引用発明において,(無給電素子(19)が)「A軸及びB軸のそれぞれに対称」であることは,本願発明1において,(無給電素子が)「X軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状で,かつ,Y軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状」であることに相当する。よって,引用発明の「無給電素子(19)」は,本願発明1の「無給電素子」に相当する。
引用発明において,「電流が励振される」とは,「電流が流れる」ことと同義であり,また,励振される方向である「B軸方向」は,「第2のパッチ」の長手方向に「対応」したものといえる。よって,引用発明における「第一のマイクロストリップ線路(10)」は,「放射素子のうち前記第2のパッチに対応したY軸方向に電流が流れるように」「給電する第二の給電線路」を備える点において,本願発明1と共通する。
引用発明の「マイクロストリップアンテナ」と,本願発明の「偏波共用アンテナ」とは,「アンテナ」である点において共通する。

(2)一致点・相違点
したがって,本願発明1と引用発明とは,次の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 内部接地層と,
該内部接地層の上面に絶縁層を介して積層され,互いに直交するX軸方向の長さ寸法とY軸方向の長さ寸法を有する略四角形状に形成された放射素子と,
該放射素子の上面に絶縁層を介して積層された無給電素子とを有し,
前記無給電素子は,X軸方向に延びる第1のパッチとY軸方向に延びる第2のパッチとが交差してなり,
前記放射素子のうち前記第2のパッチに対応したY軸方向に電流が流れるように給電する第2の給電線路が設けられ,
前記放射素子および前記無給電素子は,X軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状で,かつ,Y軸方向に延びる対称軸を中心に対称な形状に形成された,
アンテナ。」

[相違点1]
本願発明1は,「第2の給電線路」に加え,「第1のパッチに対応したX軸方向に電流が流れるように給電する」「第1の給電線路」を備える点。

[相違点2]
本願発明1は,「導体」を介して「給電」するのに対して,引用発明は,「細隙(5)」を介して「給電」する点。

[相違点3]
前記[相違点1]及び[相違点2]に関連して,本願発明1においては,「第1の給電線路」は,X軸方向に延びる対称軸の上に位置する導体を介してX軸方向に電流が流れるように給電し,「第2の給電線路」は,X軸方向に延びる対称軸の上に位置する導体を介してX軸方向に電流が流れるように給電するのに対して,引用発明においては,「第一のストリップ線路」は,B軸(Y軸)上に位置する細隙(5)を介してA軸(X軸)方向に電流が流れるように給電するものである点。
すなわち,X軸方向に電流が流れるように給電するための構造(本願発明1においては「導体」,引用発明においては「細隙」)が,本願発明1においては,「X軸」(方向に延びる対称軸)の上に位置するのに対し,引用発明においては,「Y軸」の上に位置する点。

[相違点4]
「アンテナ」が,本願発明1においては,「偏波共用アンテナ」であるのに対し,引用発明においては「マイクロストリップアンテナ」であって,「偏波共用アンテナ」ではない点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑みて,先ず[相違点3]について判断する。
[相違点3]に係る本願発明1の構成は,引用文献1の他の実施例(技術事項)及び引用文献2(周知事項1及び周知事項2)にも記載されておらず,かつ,本願の優先日における技術常識でもない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし本願発明4について
本願発明2ないし本願発明4も,[相違点3]に係る本願発明1の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成29年2月10日付けの手続補正により,補正後の請求項1ないし4は,[相違点3]に係る本願発明1の構成を備えるものとなり,当該構成は,原査定における引用文献Aには記載されていない。
よって,本願発明1ないし4のいずれも,引用文献Aに記載された発明ではない。
また,前記構成は,本願の優先日前における周知技術でもないので,本願発明1ないし4は,当業者であっても,原査定における引用文献AないしCに記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-28 
出願番号 特願2014-536779(P2014-536779)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 米倉 秀明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
林 毅
発明の名称 偏波共用アンテナ  
代理人 特許業務法人広和特許事務所  
代理人 広瀬 和彦  

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