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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1326556
審判番号 不服2016-2058  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-10 
確定日 2017-04-11 
事件の表示 特願2014-11891「磁性材料、インダクタ素子、磁性インク及びアンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月10日出願公開、特開2014-131054、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月31日(優先権主張 平成23年8月31日)の出願である特願2012-190873号の一部を平成26年1月24日に新たな特許出願としたものであって、同年11月18日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月26日付けで意見書が提出され、同年6月8日付けで拒絶理由が通知され、同年8月7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年2月10日付けで拒絶査定不服の審判が請求され、その後、当審において同年12月20日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年2月21日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

審判請求人は、審判請求書において、「請求項1に係る金属ナノ粒子は、本願明細書図7及び参考図1のように、金属ナノ粒子が一体に結合しておらず、一つ一つの金属ナノ粒子が分離したものです。」及び「本願発明に係る磁性粒子においては、引用文献1記載の複合磁性粒子と異なり、1個1個の金属ナノ粒子が明確に分散されています。」と述べている。
そこで、請求項1の記載について検討すると、請求項1の「・・・金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子間に存在し、・・・第1の介在相」という記載では、「金属ナノ粒子が一体に結合しておらず、一つ一つの金属ナノ粒子が分離したもの」であることが明確に把握できない。
また、請求項1を引用する請求項6及び7には、「複数の前記金属ナノ粒子が点または面で接したナノ粒子集合組織を形成」することが記載されているから、「金属ナノ粒子が一体に結合しておらず、一つ一つの金属ナノ粒子が分離したもの」であるとすると、請求項1の記載と請求項6及び7の記載は整合しない。
したがって、請求項1に係る発明とその従属請求項である請求項2ないし18に係る発明は明確でない。

2.当審拒絶理由についての判断
平成29年2月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)によって、下記(1)に示す補正前の特許請求の範囲の記載は、下記(2)に示す補正後の特許請求の範囲の記載へと補正された。(なお、下記(2)における下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし18
「 【請求項1】
平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第1の介在相を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下で、平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体であり、前記金属ナノ粒子の体積充填率が、前記粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を有することを特徴とする磁性材料。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有することを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と、前記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属をさらに含有し、前記磁性金属と前記非磁性金属と前記添加金属の合計量に対していずれも0.001原子%以上25原子%以下含まれ、前記磁性金属、前記非磁性金属、または前記添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子の結晶構造が六方晶構造であることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子が平均2以上のアスペクト比を有する扁平状、もしくは棒状の粒子であることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項6】
複数の前記金属ナノ粒子が点または面で接したナノ粒子集合組織を形成し、前記ナノ粒子集合組織が前記粒子集合体の中で配向していることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項7】
前記粒子集合体が扁平形状を有し、前記ナノ粒子集合組織が棒状であり、前記ナノ粒子集合組織が、前記粒子集合体の扁平面内において、配向していることを特徴とする請求項6記載の磁性材料。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子の平均粒子間距離が、0.1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項9】
前記磁性粒子の電気抵抗率が100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項10】
前記磁性粒子間に、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含む金属相と、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第2の介在相との複合相が存在することを特徴とする請求項1ないし請求項9いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項11】
前記複合相が、前記金属相に対応する磁性金属粒子と、前記磁性金属粒子の少なくとも一部の表面を被覆する前記第2の介在相に対応する被覆層を含むコアシェル型磁性粒子で、前記磁性金属粒子が、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含み、前記被覆層が前記非磁性金属の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項10記載の磁性材料。
【請求項12】
前記粒子集合体の少なくとも一部を被覆し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、炭化物、窒化物、いずれかの被覆層を有することを特徴とする請求項1ないし11いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項13】
前記粒子集合体の少なくとも一部を被覆する第1の樹脂からなる被覆層を有することを特徴とする請求項1ないし11いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項14】
前記被覆層と異なるMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、炭化物、窒化物、いずれかのバインダー相をさらに有することを特徴とする請求項12または請求項13記載の磁性材料。
【請求項15】
前記被覆層と異なる第2の樹脂を備えるバインダー相をさらに有することを特徴とする請求項12ないし請求項14いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項16】
前記第1の樹脂および前記第2の樹脂のいずれもが、シランカップリング剤、シリコーン樹脂、ポリシラザン、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、ポリブタジエン系、テフロン(登録商標)系、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル-ブタジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン系ゴム、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、或いはそれらの共重合体のいずれかから選ばれることを特徴とする請求項13または請求項15記載の磁性材料。
【請求項17】
平均短寸法が10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項16いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項18】
請求項1ないし請求項17いずれか一項記載の磁性材料を用いたことを特徴とするインダクタ素子、磁性インク又はアンテナ装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし16
「 【請求項1】
平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第1の介在相を含有し、平均短寸法が10nm以上2μm以下で、平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体であり、複数の前記金属ナノ粒子の体積充填率が、前記粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を有し、複数の前記金属ナノ粒子は互いに分離していることを特徴とする磁性材料。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含有することを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と、前記非磁性金属と異なるB、Si、C、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Cr、Cu、Wから選ばれる少なくとも1つの添加金属をさらに含有し、前記磁性金属と前記非磁性金属と前記添加金属の合計量に対していずれも0.001原子%以上25原子%以下含まれ、前記磁性金属、前記非磁性金属、または前記添加金属のうちの少なくとも2つは互いに固溶していることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子の結晶構造が六方晶構造であることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子が平均2以上のアスペクト比を有する扁平状、もしくは棒状の粒子であることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子の平均粒子間距離が、0.1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項7】
前記磁性粒子の電気抵抗率が100μΩ・cm以上100mΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項8】
前記磁性粒子間に、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含む金属相と、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第2の介在相との複合相が存在することを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項9】
前記複合相が、前記金属相に対応する磁性金属粒子と、前記磁性金属粒子の少なくとも一部の表面を被覆する前記第2の介在相に対応する被覆層を含むコアシェル型磁性粒子で、前記磁性金属粒子が、Fe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属とMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属とを含み、前記被覆層が前記非磁性金属の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8記載の磁性材料。
【請求項10】
前記粒子集合体の少なくとも一部を被覆し、Mg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、炭化物、窒化物、いずれかの被覆層を有することを特徴とする請求項1ないし9いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項11】
前記粒子集合体の少なくとも一部を被覆する第1の樹脂からなる被覆層を有することを特徴とする請求項1ないし9いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項12】
前記被覆層と異なるMg、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、Zn、Mn、Ba、Sr、Cr、Mo、Ag、Ga、Sc、V、Y、Nb、Pb、Cu、In、Sn、希土類元素から選ばれる少なくとも1つの非磁性金属を含む酸化物、炭化物、窒化物、いずれかのバインダー相をさらに有することを特徴とする請求項10または請求項11記載の磁性材料。
【請求項13】
前記被覆層と異なる第2の樹脂を備えるバインダー相をさらに有することを特徴とする請求項10ないし請求項12いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項14】
前記第1の樹脂および前記第2の樹脂のいずれもが、シランカップリング剤、シリコーン樹脂、ポリシラザン、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、ポリブタジエン系、テフロン(登録商標)系、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、ニトリル-ブタジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン系ゴム、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、或いはそれらの共重合体のいずれかから選ばれることを特徴とする請求項11または請求項13記載の磁性材料。
【請求項15】
平均短寸法が10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項14いずれか一項記載の磁性材料。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15いずれか一項記載の磁性材料を用いたことを特徴とするインダクタ素子、磁性インク又はアンテナ装置。」

そして、本件補正により、請求項1において、磁性粒子は金属ナノ粒子を「複数」含有することを明示した上で「複数の前記金属ナノ粒子は互いに分離している」という発明特定事項が加えられたため、「金属ナノ粒子が一体に結合しておらず、一つ一つの金属ナノ粒子が分離したもの」であることが明確になった。
また、「金属ナノ粒子が一体に結合しておらず、一つ一つの金属ナノ粒子が分離したもの」という事項と整合しない記載を含んでいた請求項6及び7は、本件補正により削除された。

したがって、当審拒絶理由は解消した。
よって、当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第3 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものである(上記第2の2.(2)参照。)。

第4 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
[理由1]平成27年8月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2、6ないし9、12ないし16に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]平成27年8月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2、6ないし9、12ないし16に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る発明は、下記引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4に係る発明は、下記引用文献1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項5に係る発明は、下記引用文献1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項10及び11に係る発明は、下記引用文献1及び5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:特開2001-358493号公報
引用文献2:特開2010-87462号公報
引用文献3:特開2005-251647号公報
引用文献4:国際公開第2008/133172号
引用文献5:特開2006-179621号公報

2.原査定の理由についての判断
(1)引用発明
原査定で引用された引用文献1には、電磁波吸収材の複合磁性粒子に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

ア.「【0022】
【課題を解決するための手段】本発明は、磁性金属粒子とセラミックスとが一体となった複合磁性粒子を有し、好ましくは磁性金属粒子と体積比で10%以上、より好ましくは20%以上のセラミックスとが一体となった粒径10μm以下、より好ましくは5μm以下の複合磁性粒子を有すること、複数の微細な磁性金属粒子がセラミックスによって囲まれて一体となった複合磁性粒子を有すること、更に磁性金属粒子内に好ましくは棒状のセラミックスが埋め込めれて一体となった複合磁性粒子を有し、大半は磁性金属粒子を囲むように形成されていることのいずれかよりなることを特徴とする電磁波吸収材にある。」
イ.「【0023】即ち、本発明は、好ましくは粒径0.1μm以下、より好ましくは50nmの微細な多数の磁性金属粒子、及び10体積%以上、好ましくは20?70体積%のセラミックスとが一体となった複合磁性粒子を有することを特徴とする電磁波吸収材にある。特に、磁性金属とセラミックスとは、一つの粒子内で互いに層状に形成されており、磁性金属は粒径の大半が100nm以下の複雑な形状の粒子となっており、その周りをセラミックスが囲む様子を有するものである。その複雑な形状の粒子は粒径が20nm以下の微細な粒子が集合して出来たものである。又、セラミックスはほとんどが磁性粒子を囲むように形成され、棒状に少量形成されている。」
ウ.「【0024】前記磁性金属が鉄、コバルト及びニッケルの少なくとも一つの金属又は合金であること、前記セラミックスが鉄、コバルト、ニッケル、チタン、バリウム、マンガン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、シリコンまたは銅の酸化物、窒化物及び炭化物のうちの少なくとも一つであること、前記セラミックス粒子が前記複合磁性粒子表面に一体に結合していること、及び前記セラミックス粒子の大部分が前記磁性金属粒子の結晶粒内及び粒界に存在することのいずれかであることが好ましい。前記磁性金属は軟磁性金属が好ましい。」
エ.「【0040】前記複合磁性粒子の表面が該複合磁性粒子より高電気抵抗率を有する材料で被覆されていること、前記複合磁性粒子の形状がアスペクト比で2以上の扁平形状であること、前記複合磁性粒子が、該複合磁性粒子より高い電気抵抗率を有する材料に均一分散していること、扁平形状の複合磁性粒子が、該扁平形状の複合磁性粒子より高電気抵抗率を有する材料中で配向していること、前記複合磁性粒子より高電気抵抗率を有する材料が少なくとも絶縁性高分子材料又はセラミックス焼結体のいずれかを含むことを特徴とする電磁波吸収材である。(以下、省略。)」

そして、
(a)複合磁性粒子は、上記アによれば、複数の磁性金属粒子がセラミックスによって囲まれて一体となったものであって、その粒径は5μm以下であり、さらに、上記エによれば、アスペクト比が2以上の扁平形状である。
(b)上記磁性金属粒子は、上記イによれば、粒径が0.1μm(100nm)以下であって、粒径が20nm以下の微細な粒子が集合してできた複雑な形状をしている。
(c)上記イによれば、上記複合磁性粒子には、セラミックスが20?70体積%含まれており、そうすると、上記磁性金属粒子は30?80体積%含まれることになる。
(d)上記ウによれば、上記磁性金属は、鉄、コバルト及びニッケルの少なくとも一つの金属又は合金であり、上記セラミックスは、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、バリウム、マンガン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、シリコンまたは銅の酸化物、窒化物及び炭化物のうちの少なくとも一つである。

したがって、上記アないしエの記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「粒径が0.1μm以下であり、粒径が20nm以下の微細な粒子が集合してできた複雑な形状をしており、鉄、コバルト及びニッケルの少なくとも一つの金属又は合金である複数の磁性金属粒子と、
前記磁性金属粒子を囲み、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、バリウム、マンガン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、シリコンまたは銅の酸化物、窒化物及び炭化物のうちの少なくとも一つであるセラミックスと
が一体となった複合磁性粒子であって、
粒径が5μm以下で、アスペクト比が2以上の扁平形状で、複数の前記磁性金属粒子が30?80体積%含まれる複合磁性粒子
を有する電磁波吸収材。」

(2)請求項1に係る発明について
(2-1)対比
請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「磁性金属粒子」を構成する「微細な粒子」は、粒径が20nm以下であるから、本願発明における「金属ナノ粒子」の平均粒径の範囲(1nm以上20nm以下)に含まれる大きさを有する粒子であり、かつ、上記「微細な粒子」は、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)のうちの少なくとも一つであってよいから、本願発明における「金属ナノ粒子」と同じ磁性金属を含有しているといえる。したがって、引用発明における上記「微細な粒子」は、本願発明における「金属ナノ粒子」に相当する。ただし、引用発明においては、上記「微細な粒子」が集合して複雑な形状の「磁性金属粒子」となっているのに対して、本願発明においては、複数の上記「金属ナノ粒子」は互いに分離している点で相違する。
イ.引用発明における「セラミックス」は、上記「微細な粒子」が集合してできた複数の「磁性金属粒子」を囲んでいるから、上記「微細な粒子」又は上記「磁性金属粒子」の間に存在するものであるということができ、そうすると、上記「セラミックス」は本願発明における「第1の介在相」に相当する。また、上記「セラミックス」は、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)または銅(Cu)の酸化物、窒化物及び炭化物の一つであってもよいから、「Mg、Al、Si、Ti、Zn、Mn、Ba、Cuから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む」点で、本願発明における「第1の介在相」と共通する。
ウ.引用発明における「複合磁性粒子」は、本願発明の「金属ナノ粒子」に相当する「微細な粒子」と本願発明の「第1の介在相」に相当する「セラミックス」とを含むものであるから、本願発明の「粒子集合体」に相当する。そして、引用発明における「複合磁性粒子」は、アスペクト比が2以上であり、その上限は特に定められていないから、本願発明の「粒子集合体」のように平均アスペクト比が5以上のものも含むことは明らかである。ただし、本願発明の「粒子集合体」は、「平均短寸法が10nm以上2μm以下」であるのに対して、引用発明における「複合磁性粒子」は「粒径が5μm以下」ではあるが、その平均短寸法の値は明確に特定されていない。
エ.引用発明における「複合磁性粒子」は、「磁性粒子」ということもでき、当該「複合磁性粒子」を有する引用発明の「電磁波吸収材」は、「磁性材料」であるということができる。また、本願発明の「磁性粒子」における金属ナノ粒子の体積充填率の範囲(40vol%以上80vol%以下)は、引用発明における範囲(30?80体積%)に含まれている。

したがって、上記アないしエを総合すると、本願発明と引用発明は、
「平均粒径が1nm以上20nm以下でFe、Co、Niからなる群から選ばれる少なくとも1つの磁性金属を含有する複数の金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子間に存在し、Mg、Al、Si、Ti、Zn、Mn、Ba、Cuから選ばれる少なくとも1つの非磁性金属と酸素(O)、窒素(N)または炭素(C)のいずれかを含む第1の介在相を含有し、平均アスペクト比が5以上の形状の粒子集合体であり、複数の前記金属ナノ粒子の体積充填率が、前記粒子集合体全体に対して40vol%以上80vol%以下である磁性粒子を有している磁性材料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
粒子集合体が、本願発明においては「平均短寸法が10nm以上2μm以下」であるのに対して、引用発明においては平均短寸法についての特定がない点。
<相違点2>
本願発明においては、「複数の前記金属ナノ粒子は互いに分離している」のに対して、引用発明においては、「金属ナノ粒子」に相当する「微細な粒子」が集合して複雑な形状の「磁性金属粒子」となっていることからみて、上記「金属ナノ粒子」(「微細な粒子」)は互いに分離していない点。

(2-2)判断
まず、相違点2について検討する。
引用文献1には、「金属ナノ粒子」に相当する「微細な粒子」を集合させずに、互いに分離させるようにすることを示唆する記載はない。
また、そのようにすることは、磁性材料の分野における技術常識又は周知技術であるとは認められず、かつ、そのようにすることを記載又は示唆した他の公知文献等も見いだせない(なお、原査定で、請求項1の従属請求項に対して引用された引用文献2ないし5のいずれにも、そのような技術事項は記載も示唆もされていない。)。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は引用発明であるということはできず、また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)請求項2ないし8に係る発明について
請求項2ないし16に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項の全てを含むものであるから、請求項1に係る発明と同様の理由で、請求項2、6ないし9、12ないし16に係る発明は、引用発明であるということはできず、また、請求項2ないし16に係る発明は、引用文献2ないし5の技術内容を参酌しても、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、請求項1、2、6ないし9、12ないし16に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。
また、請求項1ないし16に係る発明は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、当審で通知した拒絶理由、及び、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-27 
出願番号 特願2014-11891(P2014-11891)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01F)
P 1 8・ 121- WY (H01F)
P 1 8・ 537- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 堀 拓也田中 純一  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 國分 直樹
関谷 隆一
発明の名称 磁性材料、インダクタ素子、磁性インク及びアンテナ装置  
代理人 須藤 章  
代理人 松山 允之  
代理人 池上 徹真  

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