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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E04B
管理番号 1326567
審判番号 無効2015-800134  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-10 
確定日 2017-03-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第4027278号発明「接合金具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成15年 7月14日:出願(特願2003-196408号)
(特願平10-121042号の分割出願
遡及日:平成10年 4月30日)
平成19年10月19日:設定登録(特許第4027278号)
平成27年 6月10日:本件審判請求
平成27年 8月20日:被請求人より答弁書提出
平成27年10月15日:審理事項通知
平成27年10月29日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年11月17日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年12月 1日:口頭審理
平成27年12月 1日:請求人より上申書提出(口頭審理終了後)
平成27年12月14日:被請求人より上申書提出
平成27年12月17日:請求人より上申書提出

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1,2,5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,2,5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる(AないしHの分説は請求人の主張に基づく。)。

[請求項1]
(A)第1構造材と第2構造材とを互いに垂直に接合する接合金具であって、
(B)第1構造材が垂直材であり、第2構造材が横架材であり、
(C)固定用孔を有し該固定用孔を介して固定材で上記垂直材の側面に当接固定される縦長の平板体と、
(D)該平板体に突出固定され、該平板体の平板部に対して垂直な方向に縦長の係合孔部を有する係合体とを具備し、
(E)上記係合孔部は、矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した該プレートの両端部を該平板体の平板部に固定して形成されており、
(F)該係合孔部は、上記垂直材に上記横架材を引き寄せ接合させるのに用いられる引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能であり、
(G)上記引き寄せボルトを上記係合孔部に挿通し、その引き寄せボルトの両側に位置する、該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより、上記垂直材と上記横架材とを緊結するようになされており、
(H)上記係合孔部は、相対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向に2本並べて挿通可能な内寸を有していることを特徴とする、接合金具。

[請求項2]
(I)上記矩形状のプレートは、断面U字型に折曲されていることを特徴とする、請求項1に記載の接合金具。

[請求項5]
(J)上記平板体は、上記係合体の突出固定部に、該平板体補強用のリブ又はプレートを備えており、
(K)該リブ又は該プレートの下端は、上記平板体の下端よりも上方に位置していることを特徴とする、請求項1?4の何れかに記載の接合金具。

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2及び5に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第13号証を提出し、以下の無効理由を主張した。

<主張の概要>
無効理由1
本件特許の請求項1及び請求項2に記載の発明は、当業者が、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

無効理由2
本件特許の請求項5に記載の発明は、当業者が、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載の発明ならびに周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

<具体的理由>
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には,下記の記載が図面と共になされている。

イ 本考案に成る羽子板ボルトの横架材相互仕口ヘの取付けは、第2図、のように、ボルト8_(1),を係合していない羽子板2,を横架材15,にボルト8_(2),をもって取付け、横架材16,に明けられたボルト穴17_(1),に横架材16,の外側からボルト8_(1),を座金板18_(1),と共に通しながら,補強係合具10a,又は10b,を軸ボルト4,を中心に回動せしめがなら、ボルト8_(1),を係合条孔9_(1),又は9_(2),に挿入し、座金板18_(2),を通し、ナット7_(1),を持ってボルト8_(1),を十分に締め付け緊結するものである。(4頁16行?5頁6行)

ロ 本考案の羽子板ボルトを,図によって詳細に説明すれば,第1図,において,ボルト穴1,を有する羽子板2,に固着した筒状軸受3,に挿入し回転自在とした軸ボルト4,を,一端に頭部5,を有し他端に雄ねじ6,と,これに螺合するナット7_(1),を有するボルト8_(1),を摺動自在に係合すべき係合条孔9_(1),を形成した補強係合具10,に固着させたことを特徴とする羽子板ボルトである。(3頁18?4頁6行)

ハ ボルト穴の位置が安全側に多少ずれても,各ボルトが引張抵抗,剪断抵抗の本来の目的に合致するようにした羽子板ボルトを提供する(3頁14?17行)

ニ 第3図に示すように,補強係合具10,をU形折曲板13,に形成し,U字形の凹所14,を係合条孔9_(2),とする補強係合具10b,となした羽子板ボルトである。(4頁12?15行)

(2)本件発明1と甲第1号証に記載された発明との対比
[構成要件Bについて]
上記イの記載中「羽子板2,を横架材15,にボルト8_(2),をもって取付け、横架材16,に明けられたボルト穴17_(1),に横架材16,の外側からボルト8_(1),を座金板18_(1),と共に通しながら」及び第2図により、甲第1号証には「第2構造材が横架材であり」の構成が記載され、第1構造材が横架材である点で相違(相違点1)する。

[構成要件Eについて]
上記ニの記載中「第3図に示すように,補強係合具10,をU形折曲板13,に形成し,U字形の凹所14,を係合条孔9_(2),とする補強係合具10,となした」,上記ロの記載中「羽子板2,に固着した筒状軸受3,に挿入し回転自在とした軸ボルト4,を,一端に頭部5,を有し他端に雄ねじ6,と,これに螺合するナット7_(1),を有するボルト8_(1),を摺動自在に係合すべき係合条孔9_(1),を形成した補強係合具10,に固着させた」及び第3図から,甲第1号証には,「上記係合孔部は,矩形状のプレートを折曲し,折曲により互いに接近した該プレートの両端部を該平板体の平板部に設けた軸ボルトに固定して形成されており」なる構成が記載され,本件特許発明の「プレートの両端部を該平板体の平板部に固定」に対して,ボルト穴を有する羽子板に固着した筒状軸受に挿入し回転自在とした軸ボルトに,プレートの両端部を固定した点で相違(相違点2)する。

(3)相違点1に関して
甲第3号証の「柱」「土台梁」は本件特許発明の「垂直材」「横架材」に相当する。上記垂直材に係わる相違点1について、甲第3号証には羽子板ボルトを柱(垂直材)と土台梁(横架材)との接合に用いることが記載されているから、甲第1号証の羽子板ボルトを垂直材と横架材との接合に用いることは当業者であれば容易になし得るものである。

(4)相違点2に関して
ア 甲第2号証の「羽子板部」「ボルト挿入部」は本件特許発明の「平板体」「係合体」に相当する。上記プレートの固定に係わる相違点2について、甲第2号証には、・・・「羽子板部3の一端部には、ボルト挿入部4をそのフランジ部5において点溶接して固定している」構成が記載されているから、甲第1号証の補強係合具を平板体の平板部に固定することは当業者であれば容易になし得るものである。

イ 適用の容易性について(陳述要領書3?5頁)
甲1発明と甲2発明は、構造材の接合金具であって、甲1発明は本件第1発明と技術分野、技術課題、解決手段及び効果が同一であり、甲2発明は本件第1発明と技術分野、解決手段及び効果が同一であり、同一技術分野において技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、当業者がその適用を容易に着想し得るものであり、甲1発明と甲2発明とを組み合わせる動機付けがある。

ウ 「横架材」と「垂直材」の接合について(陳述要領書5頁)
甲第3号証に記載の発明(以下「甲3発明」という)には、構造材である「横架材」「垂直材」を接合する羽子板ボルトが記載されており、・・・
甲1発明及び甲2号証の接合金具を甲3発明の「横架材」「垂直材」の接合に用いることは、当業者が容易になし得ることである。

[証拠方法]
甲第1号証:実願昭54-18967号(実開昭55-119412号)のマイクロフイルム
甲第2号証:実願昭49-11403号(実開昭50-103768号)のマイクロフイルム
甲第3号証:実願昭51-68627号(実開昭52-159020号)のマイクロフイルム
甲第4号証:実願昭63-69963号(実開平1-173209号)のマイクロフイルム
甲第5号証:意匠登録第706476号の類似1公報
甲第6号証:意匠登録第706476号公報
甲第7号証:特開平8-312003号公報
甲第8号証:意匠登録第871865号の類似2公報
甲第9号証:特開平8-302859号公報
甲第10号証:特開平6-26273号公報
甲第11号証:特開平9-137505号公報
甲第12号証:特開平8-120789号公報
甲第13号証:実願昭58-82202号(実開昭59-186305号)のマイクロフイルム

2 被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。

<主張の概要>
(無効理由に関して)
請求人の主張には根拠がなく、本件特許の請求項1,2及び5に係る発明は、いずれも特許を受けることができるものである。

<具体的主張>
(1)相違点1について
ア 甲第1号証の羽子板ボルトを、甲第3号証の羽子板ボルトのように柱と土台梁との接合に用いることは、以下に示す理由1?3から当業者が到底なし得ることではない。

イ 理由1
甲第1号証においては、「羽子板ボルト」が、横架材相互の仕口の取付けに使用されるものとして記載されている。

ウ 理由2
甲第1号証の実用新案登録請求の範囲に記載の通り、係合条孔を形成した補強係合具を、羽子板に固着した筒状軸受に挿入し回転自在とした軸ボルトに固着させたものであるが、そのような構成の羽子板ボルトを、横架材どうしの接合部に比して格段に大きな引き抜き力が加わる垂直材と横架材との接合部に使用することは強度的に不可能である。

エ 理由3
甲第3号証においては、羽子板にボルトを溶接により一体的に固定した構成を有し、土台梁と、この土台梁上に直立される柱とを固定するために必要な強度を有するものを羽子板ボルトと称している。これに対して、甲第1号証の羽子板ボルトは、全く異なる構成を有し、前述した通り、地震時に加わる強大な引き抜き力に耐え得る強度を有しないことは当業者に明らかである。従って、甲第3号証の記載をもって、甲第1号証の羽子板ボルトを、構造材である垂直材と構造材である横架材との接合に用いることはあり得ない。

(2)相違点2について
ア 甲第1号証の羽子板ボルトにおける補強係合具を平板体の平板部に固定することは、下記理由4及び5に示すとおり技術的にあり得ないことであるから、当業者であれば容易になし得るものであるとはいえない。

イ 理由4
甲第1号証に記載の考案の羽子板ボルトにおいては、補強係合具の係合条孔内に挿通されたボルトが軸ボルトに直交する方向に摺動自在であると共に、軸ボルトを介して補強係合具自体が羽子板に対して回動自在に固定されていることによって初めてその効果が奏されるのである。これに対して、甲第1号証における補強係合具を平板部に固定すると、補強係合具が完全に回動不可能となり、甲第1号証に記載の考案の本質的な特徴部分を失わせることになるため、当業者が、甲第2号証の記載を根拠に甲第1号証における補強係合具を平板体の平板部に固定することはあり得ない。
甲第1号証における、曲げモーメントを負担することを前提としない結合を、結合部に加わる応力等の考え方が全く異なる、甲第2号証における、曲げモーメントを負担することを前提とする結合に変更すること自体、当業者が適宜なし得るようなことではない。

ウ 理由5
甲第1号証に記載の考案は、補強係合具を羽子板に対して回動自在に固定することによって、ボルト8_(2)に曲げ応力が生じないようにするものであり、甲第1号証に記載の羽子板ボルトにおいては、実用新案登録請求の範囲の記載に加えて、前記の課題を解決する観点からも、補強係合具を羽子板に対して回動自在に固定することが必須である。甲第1号証における補強係合具を平板部に固定して回動不可能とすることは、斯かる課題の解決も不可能とするため、当業者が甲第1号証における補強係合具を平板体の平板部に固定することはあり得ない。

エ 阻害要因について
甲1発明に対して甲2発明を適用することは、補強係合具が羽子板に対して回転自在に固定されることを必須とする甲1発明の補強係合具を回転しないようにすることを意味するため、甲1発明と甲2発明とを組み合わせることについては阻害要因がある。


第3 当審の判断
1 甲第1号証ないし甲第13号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第1号証(実願昭54-18967号(実開昭55-119412号)のマイクロフイルム)には以下の記載がある。

ア 「本考案は、施工簡便でかつ強力な抵抗力を付与した羽子板ボルトに関する。従来、在来工法や木質プレハブ建築などにおいては、横架材相互の仕口の取付けは、現場において羽子板ボルトをもって相互に緊結しなければならないが、従来用いられている手法は、第4図、のように、・・・・ボルト8_(1),が極端に折曲されて施工され、ために、本来引張力に抵抗すべきボルト8_(1),がその本来の目的を果しえない結果となっている。」(2頁2?13行)

イ 「本考案は、・・・ボルト穴の位置が安全側に多少ずれても、各ボルトが引張抵抗、剪断抵抗の本来の目的に合致するようにした羽子板ボルトを提供するものである。」(3頁13?17行)

ウ 「本考案の羽子板ボルトを、図によって詳細に説明すれば、第1図、において、ボルト穴1,を有する羽子板2,に固着した筒状軸受3,に挿入し回転自在とした軸ボルト4,を、一端に頭部5,を有し他端に雄ねじ6,と、これに螺合するナット7_(1),を有するボルト8_(1),を摺動自在に係合すべき係合条孔9,を形成した補強係合具10,に固着させたことを特徴とする羽子板ボルトである。」(3頁17行?4頁6行)

エ 「また、その他の実施例としては、第3図に示すように、補強係合具10,をU形折曲板13,に形成し、U字形の凹所14,を係合条孔9_(2),とする補強係合具10b,となした羽子板ボルトである。」(4頁12?15行)

オ 「本考案に成る羽子板ボルトの横架材相互仕ロヘの取付けは,第2図,のように,ボルト8_(1),を係合していない羽子板2,を横架材15,にボルト8_(2),をもって取付け,横架材16,に明けられたボルト穴17_(1),に横架材16,の外側からボルト8_(1),を座金板18_(1),と共に通しながら,補強係合具10a,又は10b,を軸ボルト4,を中心に回動せしめながら,ボルト8_(1),を係合条孔9_(1),又は9_(2),に挿入し,座金板18_(2),を通し,ナット7_(1),をもってボルト8_(1),を十分に締め付け緊結するものである。」(4頁16行?5頁6行)

カ 「更に、第2図、に示すように、補強係合具10a,及び10b,が軸ボルト4,を中心に回動し得る横架材16,面上の扇形面積部分(斜線部分)19,内のいずれの部分に、横架材16,のボルト穴17_(1),を明けられても、補強係合具10a,又は10b,を回動することによって、ボルト8_(1),を挿入することができる。
更に加えて、本考案に成る羽子板ボルトが、最大の効果を発揮する点は、引張抵抗を目的とするボルト8_(1),には引張効力を、剪断抵抗を負担すべきボルト8_(2),には剪断応力を完全に無理なく伝達し得る点にあり、かくして、木造建物の横架材相互の仕口を強固にし、建築物全体の構造耐力を強固に向上せしめる効果を有するものである。」(5頁12行?6頁6行参照。)。

キ 第3図として、




上記アないしキの記載を総合すると、甲第1号証には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「横架材相互の仕口を取付ける、羽子板ボルトであって、
ボルト穴1を有する羽子板2と、
前記羽子板2に固着した筒状軸受3に挿入し回転自在とした軸ボルト4と、
U形折曲板13にて形成し、U字形の凹所14を係合条孔9_(2)とし、前記軸ボルト4に固着した、補強係合具10bと、
一端に頭部5を有し他端に雄ねじ6と、これに螺合するナット7_(1)を有するボルト8_(1)と、
を備え、
前記ボルト8_(1)を、前記補強係合具10bの前記係合条孔9_(2)に摺動自在に係合した、
羽子板ボルト。」

(2)甲第2号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第2号証(実願昭49-11403号(実開昭50-103768号)のマイクロフイルム)には以下の記載がある。

ア 「羽子板片の一端部にボルトが嵌合しうる大きさのボルト挿入部を設け、平板部に任意数の孔を設けて羽子板部とし、前記ボルト挿入部にボルトを挿入し、ボルトの先端にナットを螺合してなる羽子板ボルト。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「羽子板部3の一端部には、ボルト挿入部4をそのフランジ部5において点溶接して固定してある。このボルト挿入部4は断面がほぼかまぼこ型をしており、その中空部はボルト挿入穴6となつている。そしてこのボルト挿入穴6の高さD_(1)と巾D_(2)は前記ボルト1の直径Dよりも若干大きくしてある。」(2頁18行?3頁4行)

ウ 「羽子板部3に設けたボルト挿入穴6をボルトの直径Dより大きくしておけば、柱に設けたボルトの通し穴とボルト挿入穴6との間に多少のずれがあつてもボルト挿入穴に設けた遊びによつてそのずれを調節できる。」(5頁2?6行)

エ 第1図として、




上記アないしエから、甲第2号証には、「羽子板ボルト」に関して、「矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した該プレートの両端部(フランジ部5)を、平板体の平板部(羽子板部3)に固定して係合孔部(ボルト挿入穴6)を形成する」という技術的事項が記載されているといえる。

(3)甲第3号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第3号証(実願昭51-68627号(実開昭52-159020号)のマイクロフイルム)には、「一般に木造建築では、コンクリート基礎上に載置固定した土台梁と、この土台梁上に直立される柱とを固定するために羽子板ボルトが用いられている。」(1頁15?18行)との記載がある。
したがって、甲第3号証には、「垂直材」(柱)と「横架材」(土台梁)とを接合する「羽子板ボルト」が記載されているといえる。

(4)甲第4号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第4号証(実願昭63-69963号(実開平1-173209号)のマイクロフイルム)には以下の記載がある。

ア 「通し柱を挾んで連結する2部材に固定する一対の取付金具を設け、両取付金具間を通し柱を貫通する連結ボルトで連結し、連結ボルトの外端を取付金具に設けた挿通部に通し、連結ボルトの一端はボルト頭を挿通部の外側に当接させて係止し、他端は連結ボルトの他端に設けたネジ部にナットをねじ込んで締め付ける通し柱を挾む2部材間の連結金具。(実用新案登録請求の範囲)

イ 第1図に示すように通し柱Aを挾む2部材B、Cの上下両面に、4個の受け金具1を、両部材B、Cの厚さ方向に貫通する固定ボルト2により固定する。」(3頁20行?4頁3行)

ウ 「受け金具1は、第2?3図に示すように長方形の金属板3の先端部両側を、長さ方向に沿って直角に折曲げて、立上り部4を立設する。切り込まないため、金属板3は少し延びながらねじれて立上る。両側の立上り部4、4間に、金属パイプ6を梢持ち上げた状態で挾持して、挿通部7を形成する。金属パイプ6と立上り部4の接触面を溶着8して、金属パイプ6を金属板3に固着する。・・・・金属板3の外端寄りに固定ボルト2を通す通し穴9をあける。(4頁4?15行)

エ まず上下の取付金具1、1を通し穴9を介して、固定ボルト2により共締めする。つぎに部材BとCに固定した取付金具1、1間を、両者の挿通部7、7に通した連結ボルト5で連結する。連結ボルト5の一端は、ボルト頭51を金属パイプ6の外側に当接して止め、他端はここに設けたネジ部52にナット53を外側よりねじ込んで、両受け金具1、1を連結する。」(4頁18行?5頁5行)

(5)甲第5号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第5号証(意匠登録第706476号の類似1公報)には、「本物品は木造建物の横架材を結合するために用いるものである。」(説明の欄)との記載がある。

(6)甲第6号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第6号証(意匠登録第706476号公報)は「建築用接合金具」(意匠に係る物品の欄)に関するものである。

(7)甲第7号証ないし甲第13号証に記載された事項
本件特許の遡及日前に頒布された刊行物である甲第7号証ないし甲第13号証は、請求人が「平板体にリブを設けて屈曲に対する耐力を補強し、そのリブの下端が平板体の下端よりも上方に位置すること」が慣用手段であると主張する根拠として提示されたものである。

2 本件発明1に関する無効理由1について
(1)甲1発明
甲1発明は、前記1(1)で認定した以下のとおりのものである。

「横架材相互の仕口を取付ける、羽子板ボルトであって、
ボルト穴1を有する羽子板2と、
前記羽子板2に固着した筒状軸受3に挿入し回転自在とした軸ボルト4と、
U形折曲板13にて形成し、U字形の凹所14を係合条孔9_(2)とし、前記軸ボルト4に固着した、補強係合具10bと、
一端に頭部5を有し他端に雄ねじ6と、これに螺合するナット7_(1)を有するボルト8_(1)と、
を備え、
前記ボルト8_(1)を、前記補強係合具10bの前記係合条孔9_(2)に摺動自在に係合した、
羽子板ボルト。」

(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「羽子板ボルト」は、本件発明1の「接合金具」に相当し、
以下同様に、
「ボルト穴1」は「固定用孔」に、
「(ボルト穴1を有する)羽子板2」は「(固定用孔を有し該固定用孔を介して固定材で上記垂直材(構造材)の側面に当接固定される)縦長の平板体」に、
「U形折曲板13」は「(矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した)プレート」に、
「補強係合具10b」は「係合体」に、
「係合条孔9_(2)」は「係合孔部」に、
「(一端に頭部5,を有し他端に雄ねじ6と、これに螺合するナット7_(1)を有する)ボルト8_(1)」は「(対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する)引き寄せボルト」に、
「ナット7_(1)」は「ナット」に、相当する。

イ 甲1発明の「横架材相互の仕口を取付ける、羽子板ボルト」と、本件発明1の「第1構造材と第2構造材とを互いに垂直に接合する接合金具であって、第1構造材が垂直材であり、第2構造材が横架材であ」る構成とは、
「2本の構造材を互いに垂直に接合する接合金具」で共通する。

ウ 甲1発明の「U形折曲板13にて形成し、U字形の凹所14を係合条孔9_(2)とし」と、
本件発明1の「上記係合孔部は、矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した該プレートの両端部を該平板体の平板部に固定して形成されており、」とは、
「上記係合孔部は、矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した該プレートの両端部を、上記平板体側に固定して形成されており、」で共通する。

エ 甲1発明の「係合孔部(係合条孔9_(2))」に関して、上記摘記事項(特に、第3図)を参酌すれば、該「係合孔部(係合条孔9_(2))」が「平板部(羽子板2)に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能」であることは明らかである。
したがって、甲1発明の「係合孔部(係合条孔9_(2))」と、本件発明1の「該係合孔部は、上記垂直材に上記横架材を引き寄せ接合させるのに用いられる引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能であ」る構成とは、「該係合孔部は、上記構造材を引き寄せ接合させるのに用いられる引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能であり」の点で共通する。

オ 甲1発明の「係合孔部(係合条孔9_(2))」は、「(ナットを螺合させる)引き寄せボルト(一端に頭部5を有し他端に雄ねじ6と、これに螺合するナット7_(1)を有するボルト8_(1))」を「摺動自在に係合」するものであるから、「引き寄せボルト(ボルト8_(1))を上記係合孔部に挿通し、その引き寄せボルトの両側に位置する、該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより、上記構造材同士を緊結する」ものであることは明らかである。
したがって、甲1発明の「係合孔部(係合条孔9_(2))」と、本件発明1の「上記引き寄せボルトを上記係合孔部に挿通し、その引き寄せボルトの両側に位置する、該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより、上記垂直材と上記横架材とを緊結するようになされており」とは、「上記引き寄せボルトを上記係合孔部に挿通し、その引き寄せボルトの両側に位置する、該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより、上記構造材同士を緊結するようになされており」の点で共通する。

カ 甲1発明の「係合孔部(係合条孔9_(2))」に関して、上記摘記事項(特に、第3図)を参酌すれば、該「係合孔部(係合条孔9_(2))」が「対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する引き寄せボルト(ボルト8_(1))を、上記平板部に対して垂直な方向に2本並べて挿通可能な内寸」を有していることは明らかである。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「上記係合孔部は、相対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向に2本並べて挿通可能な内寸を有している」との構成を備えている。

キ 上記アないしカを踏まえれば、両者は、
「2本の構造材を互いに垂直に接合する接合金具であって、
固定用孔を有し該固定用孔を介して固定材で上記構造材の側面に当接固定される縦長の平板体と、
該平板体に突出固定され、該平板体の平板部に対して垂直な方向に縦長の係合孔部を有する係合体とを具備し、
上記係合孔部は、矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した該プレートの両端部を、上記平板体側に固定して形成されており、
該係合孔部は、上記構造材を引き寄せ接合させるのに用いられる引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能であり、
上記引き寄せボルトを上記係合孔部に挿通し、その引き寄せボルトの両側に位置する、該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより、上記構造材を緊結するようになされており、
上記係合孔部は、相対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する引き寄せボルトを、上記平板部に対して垂直な方向に2本並べて挿通可能な内寸を有している、接合金具。」で一致し、
下記の2点で相違する。

相違点1:「接合金具」が接合する対象である「2本の構造材」に関して、
本件発明1は、「構造材」の一方が「垂直材」であり、「構造材」の他方が「横架材」であるのに対して、甲1発明は、「2本の構造材」がともに「横架材」である点。

相違点2:「(プレートの両端部を、上記平板体側に固定して形成される)係合孔部」に関して、
本件発明1は、「プレートの両端部を該平板体の平板部に固定」して形成されているのに対して、甲1発明は、「プレートの両端部を、ボルト穴を有する羽子板に固着した筒状軸受に挿入し回転自在とした軸ボルトに固定」して形成されている点。

(3)判断
前記相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1について
(ア)甲第3号証に記載の「羽子板ボルト」は、「垂直材」と「横架材」とを接合するものである(前記1(3)参照。)。
そして、甲第1号証に記載の「羽子板ボルト」と、甲第3号証に記載の「羽子板ボルト」とは、同じ名称の物品であること、「横架材」同士の接合金具(甲第1号証に記載のもの)と、「垂直材」と「横架材」との接合金具(甲第3号証に記載のもの)とは、ともに、建築構造物の構造材同士を接合する金具であること、建築構造物においては、筋交い等の補強部材が用いられること(「垂直材」と「横架材」との接合金具のみで水平方向の力に対抗するものではないこと)などを考慮すれば、甲第1号証に記載のものと、甲第3号証に記載のものとで、強度上、格段の差異があるとは考えられない。
そうすると、「羽子板ボルト」が接合する対象を、「横架材」同士とするか、それとも、「垂直材」と「横架材」とするかは、当業者が適宜選択できる設計的事項にすぎないというべきである。
したがって、「羽子板ボルト」等の「接合金具」を、「垂直材」と「横架材」との接合に用いること、すなわち、甲1発明において相違点1に係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)相違点1について、被請求人は、「甲第1号証の羽子板ボルト」を「垂直材と横架材との接合部に使用することは強度的に不可能である」などと主張する。
しかしながら、甲第1号証には「本考案は、施工簡便でかつ強力な抵抗力を付与した羽子板ボルトに関する」(前記1(1)ア参照。)、「建築物全体の構造耐力を強固に向上せしめる効果を有する」(前記1(1)カ参照。)との記載があるように、甲第1号証に記載の「羽子板ボルト」が、「横架材」同士を接合するものであったとしても、十分な強度を有していることから、「垂直材」と「横架材」との接合に適用することが不可能又は困難であるとはいえないから、被請求人の主張は採用できない。

ウ 相違点2について
(ア)請求人は、甲第2号証の「羽子板部」「ボルト挿入部」は本件特許発明の「平板体」「係合体」に相当し、プレートの固定に係わる相違点2について、甲第2号証には、「羽子板部3の一端部には、ボルト挿入部4をそのフランジ部5において点溶接して固定している」構成が記載されているから、甲第1号証の補強係合具を平板体の平板部に固定することは当業者であれば容易になし得るものである旨主張する。
まず、甲第1号証には、「更に、第2図、に示すように、補強係合具10a,及び10b,が軸ボルト4,を中心に回動し得る横架材16,面上の扇形面積部分(斜線部分)19,内のいずれの部分に、横架材16,のボルト穴17_(1),を明けられても、補強係合具10a,又は10b,を回動することによって、ボルト8_(1),を挿入することができる。」(前記1(1)カ参照。)との記載があるとおり、係合体(補強係合具)が回動自在であることによって、(ボルト穴17_(1),の位置がずれていても)「ボルト8_(1),を挿入することができる」との利点(技術的意義)を有するものである。
してみると、甲1発明において、回動自在に代えて、回動不能の構成を採用することは、甲1発明の技術的意義を損なうこととなる。
また、そのような技術的特徴部分に代えて、甲第2号証に係る「矩形状のプレートを折曲し、折曲により互いに接近した該プレートの両端部を該平板体の平板部に固定して係合孔部を形成する」構成(前記1(2)参照。)を採用することには、動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る構成を採用することは困難であり、かつ、阻害要因があるというべきである。

(イ)適用の容易性に関して、請求人は、「甲1発明と甲2発明は、構造材の接合金具であって、甲1発明は本件第1発明と技術分野、技術課題、解決手段及び効果が同一であり、甲2発明は本件第1発明と技術分野、解決手段及び効果が同一であり、同一技術分野において技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、当業者がその適用を容易に着想し得るものであり、甲1発明と甲2発明とを組み合わせる動機付けがある。」などと主張する。
しかしながら、上記(ア)で検討したとおり、甲1発明は、係合体(補強係合具)が回動自在であることによって、(ボルト穴17_(1),の位置がずれていても)「ボルト8_(1),を挿入することができる」との技術的意義を有するものである。一方、甲第2号証には、「ボルト挿入穴6の高さD_(1)と巾D_(2)は前記ボルト1の直径Dよりも若干大きくしてある」との記載(前記1(2)イ参照。)はあるものの、「柱に設けたボルトの通し穴とボルト挿入穴6との間に多少のずれがあつてもボルト挿入穴に設けた遊びによつてそのずれを調節できる」(前記1(2)ウ参照。)」、すなわち、多少のずれを調節する程度のものにすぎないから、課題や効果が同一とはいえない。
また、仮に課題や効果が同じであったとしても、穴のずれに対する課題解決手段が、甲1発明は「係合体(補強係合具)が回動自在であること」であり、甲第2号証に記載のものは「ボルト挿入穴6を若干大きくすること」であるから、課題解決手段も同一ではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 本件発明1が奏する効果について
「係合体(補強係合具)が回動自在である」との構成を有していない「垂直材と横架材とを互いに垂直に接合する接合金具」に関して、本件発明1が奏する「アンカーボルト5の配設位置が、柱2の側面2aから遠くなる方向にずれた場合・・・であっても、柱2を土台3に容易且つ確実に接合することができる。」「引き寄せボルトの配設位置の精度に拘わらず、容易且つ確実に構造材同士を接合することのできる」との効果は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載のものから予測できるものではない。

オ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲1発明及び甲第2号証ないし甲第3号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明2に関する無効理由1及び本件発明5に関する無効理由2について
本件発明2及び本件発明5は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、前記2(3)と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第3号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
また、甲第4号証ないし甲第13号証は、本件発明5に係る「補強用のリブ」に関して提示された文献であって、上記相違点2に係る構成についての記載はないから、本件発明2及び本件発明5は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第13号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、請求人が主張する無効理由1及び2は理由がない。

第4 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を、無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-05 
結審通知日 2016-02-09 
審決日 2016-02-22 
出願番号 特願2003-196408(P2003-196408)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 赤木 啓二
住田 秀弘
登録日 2007-10-19 
登録番号 特許第4027278号(P4027278)
発明の名称 接合金具  
代理人 岩本 昭久  
代理人 羽鳥 修  
代理人 高橋 知之  
代理人 前田 秀一  
代理人 加藤 裕介  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 前田 秀一  
代理人 羽鳥 修  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 牛木 護  
代理人 岩本 昭久  

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