• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1326629
審判番号 不服2016-4322  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-04 
確定日 2017-03-29 
事件の表示 特願2015-84560号「管体固定用の支持具」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-191464号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月30日の出願であって、平成27年7月21日付けで拒絶の理由が通知され、平成27年8月4日付けの意見書及び手続補正書が提出され、平成27年9月10日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、平成27年11月6日付けの意見書及び手続補正書が提出され、平成27年12月18日付けで、平成27年11月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされた。
これに対して、平成28年3月4日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正書が提出された。


第2 平成28年3月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年3月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
平成28年3月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。
なお、下線部は本件補正による補正箇所を示す。
「 【請求項1】
建物などに設けられた固定部材に、配管用などの管体を取付けて固定保持する管体固定用の支持具であって、
断面が円形状または多角形状を呈すると共に、軸方向に長尺に形成された管体と、
所定範囲の外周に外嵌されると共に、軸方向に沿う複数のストッパー用凸条が条設され、かつ樹脂部材によって成形され上記管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる絶縁部材層を介して形成される回動防止具と、
上記管体および上記回動防止具を外嵌すると共に、上記回動防止具のストッパー用凹溝に嵌合されるストッパー用凸条を内面側に有し、かつ建物などの上記固定部材を挿通して掛り止められる開口部を有し、挟持する上記回動防止具の直径に適合したU字状とされる固定用の取付け具と、
よりなることを特徴とする管体固定用の支持具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成27年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
建物などに設けられた固定部材に、配管用などの管体を取付けて固定保持する管体固定用の支持具であって、
断面が円形状または多角形状を呈すると共に、軸方向に長尺に形成された管体と、
所定範囲の外周に外嵌されると共に、軸方向に沿う複数のストッパー用凸条が条設され、かつ上記管体との回転阻止力は射出成型時に400Pa以上で押圧されている回動防止具と、
上記管体および上記回動防止具を外嵌すると共に、上記回動防止具のストッパー用凹溝に嵌合されるストッパー用凸条を内面側に有し、かつ建物などの上記固定部材を挿通して掛り止められる開口部を有する固定用の取付け具と、
よりなることを特徴とする管体固定用の支持具。
【請求項2】
上記取付け具は、挟持する上記回動防止具の直径に適合したU字状とされることを特徴とする請求項1記載の管体固定用の支持具。
【請求項3】
上記回動防止具は、樹脂部材などによって成形された絶縁部材よりなることを特徴とする請求項1または2記載の管体固定用の支持具。」

2.新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「回動防止具」について、「樹脂部材によって成形され上記管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる絶縁部材層を介して形成される」という事項を追加する補正を含むものであるが、当該事項に関しては、「絶縁部材」と「樹脂部材」とが別々の物を意味していると解し、樹脂部材によって成形された回動防止具と管体との間に絶縁部材層が介在しているとする解釈、又は、「樹脂部材によって成形され」た「絶縁部材層」であると解し、回動防止具と管体との間に樹脂部材によって成形された絶縁部材層が介在しているとする解釈が考えられるが、いずれの解釈であっても、「回動防止具」に係る「絶縁部材層を介して形成される」という事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されておらず、また、それらの記載から自明な事項でもない。
したがって、上記事項を含む本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとはいえない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、上記事項の「樹脂部材」と「絶縁部材」との関係が、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項4に記載のように、実質的に同じ物を意味していると解され、「回動防止具」について追加された上記事項が、「樹脂部材によって成形され上記管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる、絶縁部材よりなる」ものであると解釈する余地がないともいえないことから、本件補正が新規事項の追加でないとした場合についても、念のため、当該解釈を前提に、以下の3.?5.において検討しておくこととする。

3.補正の目的の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「回動防止具」について、「樹脂部材(絶縁部材)によって成形され」るという事項を追加して材質を限定し、さらに、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「固定用の取付け具」について、「挟持する上記回動防止具の直径に適合したU字状とされる」という事項を追加して形状等を限定する補正を含むものであり、当該補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)刊行物に記載の事項及び発明
ア 刊行物1に記載の事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平8-182772号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図1?4とともに、次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で加筆した。以下、同様である。
(1a)
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、特に管本体の回動を防止して管本体を堅牢に固定保持することが可能なスプリンクラー巻出し配管の固定構造に関するものである。」
(1b)
「【0009】
【作用】この発明によれば、管本体の外周に固着されている回動防止具のストッパー用凹溝内に、管本体を挟持する取付け金具の挟持部におけるストッパー用凸条が嵌合される状態となり、同時に取付け金具は、建物などの固定部材に取付けられるので、管本体に振動や加圧などの回動力が加わった場合でも、管本体の回動が防止されてスプリンクラー巻出し配管系に捻れが生じない。」
(1c)
「【0010】
【実施例】以下、この発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は、この発明に係るスプリンクラー巻出し配管の一例を示す説明図であり、同図に示すように、天井Aの裏面側には、消火配管10が配設されており、また、この天井Aの表側には、スプリンクラーヘッドが適宜配置されている。【0011】消火配管10とスプリンクラーヘッド11とは、スプリンクラー巻出し配管12によって連結されており、この実施例におけるスプリンクラー巻出し配管12は、所定箇所に蛇腹部12bを設けたステンレス製のフレキシブルな管本体12aによって形成されている。」
(1d)
「【0013】固定部材15cは、図1に例示したように、天井Aの裏面側には、野縁15aや野縁受け15bなどにより構成される支持部材15が敷設され、この野受け15b,15b間に固定部材15cが懸け渡された構成とされている。」
(1e)
「【0014】一方、管本体12aには、管本体12aの外周に固着される所定長さのリング体として形成された回動防止具16が固着されている。また、この回動防止具16の外周面には、管本体12aの長手方向に沿って条設されるストッパー用凹溝16aが一定間隔で穿設されている(図2参照)。
【0015】すなわち、この実施例による回動防止具16の断面は、図3に示すように、一定の厚みを以って形成された回動防止具16の外周面に、所定幅の16個の凹凸が全周にわたって繰り返される形状となっており、これにより取付け金具17に対する管本体12aの取付けは、360度のいずれの角度でもよく、取付けの際の使い勝手に優れるものである。」
(1f)
「【0016】取付け金具17は、回動防止具16に嵌合されるU字状の挟持部18と、建物などの固定部材15c(図2参照)に掛り止められる取付け部19と、この取付け部19に設けられ挟持部18に嵌合された回動防止具16と、取付け部19に掛り止められた固定部材15cとを締結する締結部20とが一体的に構成されている。
【0017】挟持部18は、その内面に回動防止具16のストッパー用凹溝16aに嵌合されるストッパー用凸条18aが突設されている。取付け部19は、固定部材15cを挿通することができるようにコ字状の開口部19aが開設されている。
【0018】締結部20は、取付け部19の開口部19aにおける上下縁辺に設けられたネジ通し孔19bに、図中下方側からネジ体21を螺合させて構成されている。このため、ネジ体21を螺合していくことにより、回動防止具16は取付け金具17と固定部材15cにより締め付けられていくため固定化される。」
(1g)
「【0020】一方、回動防止具16は、滑り止め作用と絶縁作用とを果たすものであればよいが、この実施例においては、管本体12aの外周面に予め凹凸(図示略)を形成し、この部分にポリプロピレン樹脂により成形された回動防止具16が取付け形成されている。
【0021】したがって、溶融状態にある樹脂部材が、管本体12aの外周面に形成された凹凸部分に付着して固化されるため、回動防止具16は、管本体12aの外周に不動状態で固着されることとなる。尚、管本体12aと回動防止具16との固着は、適宜設計変更が可能であり、接着剤を介して固着させてもよいし、管本体12a側からの突出部などにより回動防止具16を規制するようにしてもよい。」
(1h)
「【0022】このように、この実施例によれば、スプリンクラー巻出し配管12を形成する管本体12aの外周に回動防止具16が不動状態で固着されると共に、この回動防止具16の外周面に管本体12aの長手方向に沿うようにストッパー用溝16aが形成されている。
【0023】さらに、このストッパー用凹溝16a内に管本体12aを挟持しつつ固定部材15cに掛り止められる取付け金具17の挟持部18に形成されたストッパー用凸条18aが嵌合されるように構成されている。」
(1i)
「【0024】このため、管本体12aに取付け,取はずし時に異常な回動力が加わった場合でも管本体12aの回動が防止されて捻れが防止され、管本体12aの破損を防止すると共に、管本体12aと取付け金具17との絶縁を確保して電蝕を防止する。」
(1j)
「【0025】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、管本体の絶縁性を確保すると共に、管本体の回動を防止して管本体を堅牢に固定保持し、巻出し配管の破損や劣化を防止することができ、スプリンクラー巻出し配管における安全性の向上を図り、その長寿命化を図ることができる。」

イ 刊行物1に記載された発明
(ア)
刊行物1の「管本体12a」は、その用途が、「スプリンクラー」の「配管」であること(上記ア(1c)を参照)、「回動防止具16の外周面には、管本体12aの長手方向に沿って条設されるストッパー用凹溝16aが一定間隔で穿設されている(図2参照)」(上記ア(1e)の段落【0014】を参照)という事項から、「管本体12a」は、「長手方向」を備えており、長尺といえること、及び、刊行物1の図3から、管本体12aは、断面が円形状であることが看取できることから、刊行物1の「管本体12a」は、「断面が円形状であり軸方向に長尺に形成されている」といえる。
(イ)
上記(ア)、上記のア(1a)?(1j)及び図1?3から、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「断面が円形状であり軸方向に長尺に形成された、ステンレス製の管本体12aと、
管本体12aの外周に固着される所定長さのリング体として形成され、外周面には、管本体12aの長手方向に沿って条設されるストッパー用凹溝16aが一定間隔で穿設され、外周面に、所定幅の16個の凹凸が全周にわたって繰り返される形状となっており、ポリプロピレン樹脂により成形された回動防止具16と、
内面に回動防止具16のストッパー用凹溝16aに嵌合されるストッパー用凸条18aが突設されている、回動防止具16に嵌合されるU字状の挟持部18と、固定部材15cを挿通することができるようにコ字状の開口部19aが開設され、建物などの固定部材15cに掛り止められる取付け部19と、締結部20とが一体的に構成されている、取付け金具17と
を備える配管の固定構造。」

ウ 刊行物2に記載の事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開昭61-92381号公報(以下、「刊行物2」という。)には、第1?12図とともに、次の事項が記載されている。
(2a)
「[問題点を解決するための手段]
本発明の中間保持具は、他部品に対して取りつけるための取りつけ部と該取りつけ部と共に合成樹脂から一体に形成されたホース固着部とを有し、該ホース固着部の内面が実質的にその全面でホースの外周面上に押圧されて成形され、かつその状態でホースの外周面上に固着されていることを構成上の特徴としている。」(2頁右上欄18行?同頁左下欄5行)
(2b)
「[作用および効果]
本発明の中間保持具は、たとえば、第1図に示されるように、ホース(1)と接触しているホース固着部(以下、固着部という)(2)の内周面(3)全体がホース(1)を半径方向内側に押圧している。すなわち中間保持具(4)の成形時にホース(1)の表面を押圧し、圧縮しながら成形するため、ホースの弾力性に基づく面圧が固着部の内周面とホースの外周面の間に働いている。したがって固着部の外側に剛性の高い取りつけ部を形成するばあいでも、固着部の内周面全体がホースの表面に喰い込み、ホースに確実に固着されることになる。そのため中間保持具全体の長さを固着部の長さと同じ長ざまで短くすることかでき、かつ取りつけ部の位置や形状を任意に選択しうる。」(2頁左下欄6行?同頁右下欄1行)
(2c)
「・・・中間保持具(4)は、後述するような射出成形法によりホース(1)の外周面(8)上に成形するのが好ましい・・・」(3頁左下欄15?17行)
(2d)
「本発明の中間保持具は後述するように射出成形などの方法によって形成されるが、その材料としては、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリカーボネート、PPSなどの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル、CPレジン、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂など、種々の合成樹脂が用いられる。」(4頁右上欄10?16行)
(2e)
「さらにホース(1)は、射出成形時に成形品に偏肉が生ずるのを防止するため、両端方向(図中矢印(X)方向)に適切な力で引張って、射出圧力によってホース(1)が撓まないようにしておくことが好ましい。」(4頁右下欄13?18行)
(2f)
「・・・自動車用液圧ブレーキホース(JIS1種B)に対し、・・・中間保持具・・・を射出成形し、実施例1の中間保持具つきゴムホースを製造した。」(5頁右下欄3?9行)

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)
引用発明の「断面が円形状であり軸方向に長尺に形成された、ステンレス製の管本体12a」は、本願補正発明の「断面が円形状または多角形状を呈すると共に、軸方向に長尺に形成された管体」に相当する。
(イ)
引用発明の「回動防止具16」は、「管本体12aの長手方向に沿って条設されるストッパー用凹溝16aが一定間隔で穿設され、外周面に、所定幅の16個の凹凸が全周にわたって繰り返される形状となって」いるところ、図2及び3を併せ見ると、この「凸」部は、「一定間隔で穿設され」た「管本体12aの長手方向に沿って条設されるストッパー用凹溝16a」の間に「ストッパー用凹溝16a」と同様に、管本体12aの長手方向に沿って条設されており、「凹凸」によってストッパーとなっているといえるから、引用発明の前記「凸」部は、本願補正発明の「軸方向に沿う複数のストッパー用凸条」に相当する。
(ウ)
引用発明の「ポリプロピレン樹脂」は、本願補正発明の「樹脂部材」及び「絶縁部材層」に相当すること、上記2.の「なお書き」、及び、上記(イ)から、引用発明の「管本体12aの外周に固着される所定長さのリング体として形成され、外周面には、管本体12aの長手方向に沿って条設されるストッパー用凹溝16aが一定間隔で穿設され、外周面に、所定幅の16個の凹凸が全周にわたって繰り返される形状となっており、ポリプロピレン樹脂により成形された回動防止具16」と、本願補正発明の「所定範囲の外周に外嵌されると共に、軸方向に沿う複数のストッパー用凸条が条設され、かつ樹脂部材によって成形され上記管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる絶縁部材層を介して形成される回動防止具」とは、「所定範囲の外周に外嵌されると共に、軸方向に沿う複数のストッパー用凸条が条設され、かつ樹脂部材によって成形され、絶縁部材層を介して形成される回動防止具」の限りで共通しているといえる。
(エ)
引用発明の「回動防止具16」は「管本体12aの外周に固着され」ているから、引用発明の「回動防止具16に嵌合されるU字状の挟持部18」は管本体12aおよび回動防止具16を外嵌し、「U字状」は、回動防止具16の直径に適合したU字状であるといえる。
(オ)
上記(エ)から、引用発明の「内面に回動防止具16のストッパー用凹溝16aに嵌合されるストッパー用凸条18aが突設されている、回動防止具16に嵌合されるU字状の挟持部18と、固定部材15cを挿通することができるようにコ字状の開口部19aが開設され、建物などの固定部材15cに掛り止められる取付け部19と、締結部20とが一体的に構成されている、取付け金具17」は、本願補正発明の「上記管体および上記回動防止具を外嵌すると共に、上記回動防止具のストッパー用凹溝に嵌合されるストッパー用凸条を内面側に有し、かつ建物などの上記固定部材を挿通して掛り止められる開口部を有し、挟持する上記回動防止具の直径に適合したU字状とされる固定用の取付け具」を充足しているといえる。
(カ)
上記(エ)から、引用発明の「・・・管本体12aと、・・・回動防止具16と、・・・建物などの固定部材15cに掛り止められる取付け部19・・・とが一体的に構成されている、取付け金具17とを備える配管の固定構造」は、「管本体12a」を取付けて固定保持する構造であり、管体固定用の支持具を構成しているといえる。
このことから、引用発明の「・・・管本体12aと、・・・回動防止具16と、・・・建物などの固定部材15cに掛り止められる取付け部19・・・とが一体的に構成されている、取付け金具17とを備える配管の固定構造」と、本願補正発明の「建物などに設けられた固定部材に、配管用などの管体を取付けて固定保持する管体固定用の支持具」とは、「建物などに設けられた固定部材に、配管用などの管体を取付けて固定保持する管体固定用の支持具」で共通しているといえる。

イ 以上より、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「建物などに設けられた固定部材に、配管用などの管体を取付けて固定保持する管体固定用の支持具であって、
断面が円形状または多角形状を呈すると共に、軸方向に長尺に形成された管体と、
所定範囲の外周に外嵌されると共に、軸方向に沿う複数のストッパー用凸条が条設され、かつ樹脂部材によって成形され、絶縁部材層を介して形成される回動防止具と、
上記管体および上記回動防止具を外嵌すると共に、上記回動防止具のストッパー用凹溝に嵌合されるストッパー用凸条を内面側に有し、かつ建物などの上記固定部材を挿通して掛り止められる開口部を有し、挟持する上記回動防止具の直径に適合したU字状とされる固定用の取付け具と、
よりなる管体固定用の支持具。」
<相違点>
「回動防止具」が、本願補正発明では、「上記管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる」のに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

(4)判断
ア 以下、相違点について検討する。
(ア)
刊行物1の「回動防止具16は、滑り止め作用と絶縁作用とを果たすものであればよい」、「溶融状態にある樹脂部材が、管本体12aの外周面に形成された凹凸部分に付着して固化されるため、回動防止具16は、管本体12aの外周に不動状態で固着されることとなる」及び「管本体12aと回動防止具16との固着は、適宜設計変更が可能であ」るという記載(上記(2)ア(1g)参照)、並びに、「回動防止」という用語の意味のとおり、回動を防止できる程度の機能を備えていればよいといえることから、引用発明の「回動防止具16」は、「管本体12aの外周面に形成された凹凸部分」の有無にかかわらず、取付け作業時などの回転力が加わる状態においても、管本体12aとの間で容易に相対回動しない程度に回動阻止されることが想定されているといえる。
(イ)
刊行物2の「中間保持具は、・・・取りつけ部と共に合成樹脂から一体に形成されたホース固着部とを有し、該ホース固着部の内面が実質的にその全面でホースの外周面上に押圧されて成形され、かつその状態でホースの外周面上に固着されている」(上記(2)ウ(2a)参照)、「中間保持具(4)の成形時にホース(1)の表面を押圧し、圧縮しながら成形するため、ホースの弾力性に基づく面圧が固着部の内周面とホースの外周面の間に働いている。・・・固着部の内周面全体がホースの表面に喰い込み、ホースに確実に固着されることになる。」(上記(2)ウ(2b)参照)、「中間保持具(4)は、・・・射出成形法によりホース(1)の外周面(8)上に成形するのが好ましい」(上記(2)ウ(2c)参照)、「射出圧力によってホース(1)が撓まないようにしておくことが好ましい。」(上記(2)ウ(2e)参照)、及び、刊行物2の実施例としている「自動車用液圧ブレーキホース」(上記(2)ウ(2j)参照)は、ブレーキを作動させる液圧に耐えられる程度に丈夫なものであるといえることから、刊行物2の「中間保持具」は、射出成形時に、ホースをある程度強く押圧した状態でホースの外周面上に成形されているといえるから、刊行物2には、当該射出成形時の押圧の作用によって、中間保持具とホースとの回動阻止力が得られていることが示唆されているといえる。
(ウ)
刊行物2の「中間保持具は・・・射出成形などの方法によって形成されるが、その材料としては、・・・ポリプロピレン・・・など、種々の合成樹脂が用いられる。」(上記(2)ウ(2d)参照)という記載、及び、上記(イ)から、刊行物2には、「ポリプロピレン樹脂により成形された中間保持具とホースとの回動阻止力が、ポリプロピレン樹脂の射出成形時の押圧の作用によって得られている」技術事項が示唆されているところ、刊行物2に記載の「ホース」及び「中間保持具」と、本願補正発明の「管体」及び「回動防止具」とは、それぞれ、「管体」及び「回動防止具」の限りで共通しているといえること、及び、刊行物2の「射出成形」と本願補正発明の「射出成型」とは同じ意味であるといえることから、刊行物2には、「ポリプロピレン樹脂により成型された回動防止具と管体との回動阻止力が、ポリプロピレン樹脂の射出成型時の押圧の作用によって得られている」技術事項(以下、「刊行物2に記載された技術事項」という。)が示唆されているといえる。
ここで、樹脂を射出成型する場合は、樹脂が溶融している状態で射出されることは技術常識である。
(エ)
引用発明と刊行物2に記載された技術事項とは、いずれも、ポリプロピレン樹脂により成形(成型)された回動防止具と管体とが回動阻止されているという技術分野が共通している上に、このポリプロピレン樹脂は、上記(2)ア(1g)及び上記(ウ)から、いずれも、成形時には「溶融」させた状態であり、同じ材料(ポリプロピレン樹脂)を溶融させて成形するということが共通するから、製造手法も一部共通しているといえる。
そうすると、刊行物2に記載された技術事項を引用発明に適用する動機付けは充分にあるといえる。
(オ)
上記(ア)で述べたとおり、引用発明の回動防止具16は、管本体12aとの間で容易に相対回動しない程度に回動阻止されることが想定されていることに加え、回動阻止するための回動阻止力をどの程度の強さにするかは、当業者が、回動防止具の適用態様に応じて適宜に設定し得るものであり、本願補正発明の400Pa以上の圧力については、ポリプロピレン等の樹脂の射出成型時の押圧として特別な圧力であるともいえないところ、上記(ウ)で述べたとおり、刊行物2には、回動防止具と管体との回動阻止力が、射出成型時の押圧の作用によって得られていることが示唆されているのであるから、刊行物2に記載された技術事項を引用発明に適用して、引用発明の回動阻止が射出成型時の押圧の作用によって得られるように、具体的に射出成型時の押圧の圧力を400Pa以上に適宜に設定することで、「回動防止具」が「管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる」ように構成して、上記相違点に係る本願補正発明の構成を想到することは、当業者が容易になし得たといえる。
(カ)
そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別に顕著なものということはできない。

イ 上申書について
平成28年7月7日付けの上申書において、審判請求人は、本願発明が「管体が、ステンレス鋼管であり、管体外表面が平滑でつるりとしている」旨を前提とした主張をしているが、当該旨は、特許請求の範囲に発明特定事項として記載されていないから、当該主張は採用できない。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本願補正発明は、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成28年3月4日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成27年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1.(2)の請求項1に記載のとおりのものである。

2.刊行物に記載の事項及び発明
(1)刊行物1に記載の事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、刊行物1の記載事項は、上記第2 4.(2)アに示したとおりである。

(2)刊行物1に記載された発明
上記刊行物1に記載された発明は、上記第2 4.(2)イ(イ)に示した「引用発明」のとおりである。

(3)刊行物2に記載の事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、刊行物2の記載事項は、上記第2 4.(2)ウに示したとおりである。

3.対比
ア 本願発明と引用発明と対比する。
(ア)
本願発明は、本願補正発明から、上記第2 3.で述べた「回動防止具」についての「樹脂部材によって成形され」るという限定事項、「固定用の取付け具」についての「挟持する上記回動防止具の直径に適合したU字状とされる」という限定事項、並びに、上記第2 2.で述べた「回動防止具」についての「絶縁部材層を介して形成される」という事項を省いたものであり、その他の部分についての引用発明との対比は、上記第2 4.(3)アで述べたとおりである。
(イ)
本願発明の「上記管体との回転阻止力は射出成型時に400Pa以上で押圧されている」ことと、本願補正発明の「上記管体との回転阻止力が射出成型時に400Pa以上で押圧してなる」こととは、表現は異なるものの、同じことを意味しているといえる。

イ 以上より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「建物などに設けられた固定部材に、配管用などの管体を取付けて固定保持する管体固定用の支持具であって、
断面が円形状または多角形状を呈すると共に、軸方向に長尺に形成された管体と、
所定範囲の外周に外嵌されると共に、軸方向に沿う複数のストッパー用凸条が条設される回動防止具と、
上記管体および上記回動防止具を外嵌すると共に、上記回動防止具のストッパー用凹溝に嵌合されるストッパー用凸条を内面側に有し、かつ建物などの上記固定部材を挿通して掛り止められる開口部を有する固定用の取付け具と、
よりなる管体固定用の支持具。」
<相違点>
「回動防止具」が、本願発明は、「上記管体との回転阻止力は射出成型時に400Pa以上で押圧されている」のに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

4.判断
上記相違点についての判断は、上記第2 4.(4)で述べたとおりであり、当該相違点に係る本願発明の構成は、刊行物2に記載された技術事項を引用発明に適用することで、当業者が容易になし得えたといえる。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-29 
結審通知日 2016-12-20 
審決日 2017-01-19 
出願番号 特願2015-84560(P2015-84560)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
P 1 8・ 121- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正木 裕也黒田 正法吉村 俊厚  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
和田 雄二
発明の名称 管体固定用の支持具  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ