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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1326712
審判番号 不服2016-9578  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-28 
確定日 2017-04-18 
事件の表示 特願2012-113503「配線基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日出願公開、特開2013-239680、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年5月17日の出願であって、平成27年7月3日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年3月31日付け(発送日:同年4月5日)で拒絶査定され、これに対し、同年6月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成27年9月3日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
「【請求項1】
絶縁基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン及び分散媒を含有する導電性高分子分散液を塗布して導電性高分子塗膜を形成する導電性高分子塗膜形成工程と、
前記導電性高分子塗膜の表面に、スクリーン印刷により所定のパターンで、レジスト膜形成用樹脂及びレジスト膜形成用溶媒を含有するレジストペーストを印刷してレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜で被覆されていない導電性高分子塗膜を、該導電性高分子塗膜を不活性化するエッチング液で処理する不活性化工程と、
不活性化工程後に、除去用溶剤により前記レジスト膜を溶解または膨潤させて除去するレジスト膜除去工程とを有し、
前記除去用溶剤として、レジスト膜形成用溶媒の比誘電率との差が30以下のものを用いることを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング液が、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、臭素酸、臭素酸塩、過マンガン酸塩、アルカリ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の不活性化剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の配線基板の製造方法。
【請求項3】
除去用溶剤として、比誘電率が50以下のものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
平成27年9月3日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2010-161013号公報
刊行物2:特開2003-331662号公報
刊行物3:特開2008-205144号公報(周知技術を示す文献)
刊行物4:特開平3-119015号公報

備考
本願発明1について
刊行物1には、絶縁性の透明基体20の一方の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン及び分散媒を含有する導電性高分子分散液を塗布して導電性樹脂組成物層10を形成する工程と、導電性樹脂組成物層10の表面に、露光・現像やインクジェットにより所定のパターンのレジスト膜30を形成する工程と、レジスト膜30で被覆されていない導電性樹脂組成物層10を、エッチング液で処理する工程と、エッチング後に、除去用溶剤によりレジスト膜を剥離させて除去する工程とを有する積層体の製造方法が記載されている(段落【0017】-【0057】及び【図1】参照)。
刊行物2には、絶縁性の基板1の一方の面に、共役系高分子により導電性膜2を形成する工程と、導電性膜2の表面に、所定のパターンで脱ドープする作用を奏するインク3を印刷する工程と、を有する回路基板の製造方法が記載されている(段落【0028】-【0033】及び【図1】参照)。
また、レジスト膜形成用樹脂及びレジスト膜形成用溶媒を含有するレジストペーストをスクリーン印刷により印刷して塗布することは、従来周知である(例えば、刊行物3参照)。
刊行物1-2に記載された発明は、導電性樹脂に所定のパターンを形成する点で共通し、刊行物1に記載された発明と周知の事項は、基体にレジスト膜を形成する点において共通することから、刊行物2に記載された発明及び周知の事項を、刊行物1に記載された発明に適用し、導電性樹脂組成物層10をエッチング液で除去することに換えて、脱ドープする作用を奏するインク3により不活性化すること、及び、レジスト膜30において、露光・現像やインクジェットにより所定のパターンを形成することに換えて、スクリーン印刷により所定のパターンを形成することは、当業者が容易になし得たことである。

刊行物4には、ポジ型ドライフィルムフォトレジストに係る発明ではある
が、レジスト層形成用溶媒が、アセトンと酢酸エチルの同重量比混合溶剤である旨記載されているとともに(8頁右下欄参照)、レジスト層を、市販のストリッピング液(メタノールとジクロロメタンの10対90重量比混合溶剤)を用いて溶解・除去した点が記載されている(9頁左上欄参照)。
ここで、メタノールとジクロロメタンの比誘電率と混合比を勘案すれば、ストリッピング液(除去用溶剤)の比誘電率は50以下であると認められる。
また、アセトンと酢酸エチルの比誘電率と混合比を勘案すれば、ストリッピング液(除去用溶剤)とレジスト層形成用溶媒(レジスト膜形成用溶媒)との比誘電率の差は30以下であると認められる。
刊行物1、4に記載された発明は、レジスト膜を除去する点で共通することから、刊行物4に記載された発明を、刊行物1に記載された発明に適用し、除去用溶剤として、比誘電率が50以下のものを用いることともに、レジスト膜形成用溶媒の比誘電率との差が30以下のものを用いることは、当業者が容易になし得たことである。

出願人は、平成27年9月3日付け意見書において、刊行物4について「溶剤の比誘電率について一切記載はありませんし、示唆もありません。」「フォトレジスト組成物に対して、除去用溶剤として、メタノールとジクロロメタンの10対90重量比混合溶剤を用い、レジスト膜形成用溶媒として、アセトンと酢酸エチルの同重量比混合溶剤を用いた例にすぎず、比誘電率を勘案して溶剤を選択することではありません。」と主張している。
しかしながら、刊行物4のレジスト層形成用溶媒を形成するアセトンの比誘電率が大凡20前後であり、酢酸エチルの比誘電率が大凡6前後であり、同重量比混合されていることと、レジスト層を溶解・除去するストリッピング液を形成するメタノールの比誘電率が大凡33前後であり、ジクロロメタンの比誘電率が大凡9前後であり、10対90重量比で混合されていることから、レジスト層形成用溶媒とストリッピング液の比誘電率の差は30以下であると解される。


2 原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア 刊行物1(特開2010-161013号公報)
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物1には、「導電性樹脂パターンを有する積層体の製造方法、および、積層体」に関し、図面(特に【図1】)と共に以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下同様。

(ア)「【0001】
本発明は、導電性樹脂パターンを有する積層体の製造方法、および、積層体に関する。」

(イ)「【0012】
本発明の目的は、エッチング後の導電性能、および、信頼性に優れた、導電性樹脂パターンを有する積層体の製造方法を提供することである。さらに、本発明は前記製造方法により得られる積層体を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0014】
本発明によれば、エッチング後の導電性能、および、信頼性に優れた、導電性樹脂パターンを有する積層体の製造方法を提供することができた。さらに、本発明によれば、前記製造方法により得られる積層体を提供することができた。
本発明によれば、他のパターニング方法と比べ導電性樹脂組成物の表面抵抗の上昇が少なく、導電性に優れた導電性積層体を供給できる。なおかつ、本発明によってパターニングした導電性積層体は耐熱性に優れた特徴を持つ。」

(エ)「【0063】
以下に図を参照して詳述する。なお、以下の図において、同一の符号は、同一の対象を指すものである。
図1は、導電性樹脂組成物層上に直接形成したレジストパターンを剥離する方法を示す工程図である。
図1(a)において、透明基体20上に導電性樹脂組成物層10を形成する。次いで、導電性樹脂組成物層10上にレジスト膜30を成膜する(図1(b))。マスクパターン40を介してレジスト膜30を露光し(図1(c))、パターン様に現像する(図1(d))。なお、図1では、レジスト膜30としてポジ型レジストを使用しており、露光された部分が可溶性となる。なお、露光に使用する光源は特に限定されないが、紫外線を好適に使用することができる。
次いで、導電性樹脂組成物層10をエッチングし(図1(e))、さらに導電性樹脂組成物層10上のレジスト膜30を剥離する(図1(f))。本発明において、剥離剤および剥離方法は、前記図1(f)に示す導電性樹脂組成物層10上のレジスト膜30の剥離剤および前記レジスト膜の剥離方法として好適に使用することができる。」

(オ)「【0071】
[実施例1]
(導電性樹脂組成物の調製)
20.8部のポリスチレンスルホン酸を含む1,887部の水溶液中に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、8.8部の3,4-エチレンジオキシチオフェン、および117部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。この反応混合物を18℃で、23時間撹拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間撹拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,041部:固形分1.32%)を得た(以下、水分散体(A)と表記)。
【0072】
上記の水分散体(A)10.4部に、3.0部のポリエステル樹脂水分散体(ナガセケムテックス(株)製:ガブセンES-210)、1.0部のメラミン系架橋剤(住友化学(株)製:SumitexResinM-3)、20部のN-メチルホルムアミド、少量の界面活性剤、少量のレベリング剤、適量の水、および変性エタノールを加え、1時間撹拌したのち、400meshのSUSにてろ過し、導電性樹脂組成物を得た。
【0073】
透明ガラス基体として青板丸ガラス(JIS-R3202)を使用し、ミカサ(株)製ミカサコーターで、700rpm、30秒の条件にて、上記導電性樹脂組成物を塗布し、115℃のホットプレートで15分乾燥させ、導電性積層体を得た。
次いで、ポジ形フォトレジストとして、ナフトキノンジアジド化合物とクレゾールノボラック樹脂を含むレジスト(東亞合成(株)製、TRP-43)をスピンコーターを用いてコーティングし、90℃で15分間プリベークを行って、膜厚1μmのレジスト層を形成した。
このレジスト層付のテスト基板の中央に、遮光部分が50mm角のフォトマスクを置き、露光装置((株)ハイテック製)を用いて100mJ/cm2で露光し、0.5重量%水酸化カリウム(KOH)水溶液にて現像し、水洗後、乾燥してレジストパターンを形成した。
【0074】
レジストパターン付のテスト基板に対して、レジストパターンをマスクとして、10重量%の硝酸セリウムアンモニウムと10重量%の硝酸との混合物であるエッチング剤を用いて、30℃にて1分間導電性樹脂組成物層をエッチング処理し、水洗して導電性樹脂組成物のパターンを形成した。
最後に、導電性樹脂組成物上のレジストパターンを、剥離剤として700mlのγ‐ブチロラクトンを1リットルのビーカーに入れ撹拌羽で400回転/分で撹拌しながら10℃にて1分間浸漬して剥離した。その後洗浄液として700mlのイオン交換水を1リットルのビーカーに入れ撹拌羽で400回転/分で撹拌しながら10℃にて1分間浸漬して洗浄した。洗浄した基板を冷風で乾燥させた。
これによりテスト基板中央に50mm角にパターニングした導電性高分子を有するテスト基板Aを1枚得た。
該テスト基板Aについて、以下の測定と試験を行った。
【0075】
<全光線透過率測定>
テスト基板中央に存在する50mm角の導電性樹脂パターン部分に対してヘイズメーター(スガ試験機(株)製、ヘイズコンピューターHGM-2B)でガラス基体を含む全光線透過率を測定した。全光線透過率は、JIS K7150に従い測定した。
【0076】
<耐熱性試験>
テスト基板中央に存在する50mm角の導電性樹脂パターンの表面抵抗を表面抵抗計((株)ダイアインスツルメント製、ロレスターGP MCP-T600)で測定しパターニング直後の表面抵抗率とした。次にテスト基板に対して乾燥炉にて80℃で240時間の耐熱試験を行った耐熱試験後に表面抵抗計で表面抵抗率を測定し、耐熱試験後の表面抵抗率とした。
これらの結果を表1に記載した。」

(カ)上記記載事項(エ)の「図1(a)において、透明基体20上に導電性樹脂組成物層10を形成する。次いで、導電性樹脂組成物層10上にレジスト膜30を成膜する(図1(b))。」及び「次いで、導電性樹脂組成物層10をエッチングし(図1(e))、」(段落【0063】)との記載に照らせば、【図1】(e)の図示内容からは、レジスト膜30によりマスクされていない導電性樹脂組成物層10が、エッチングにより除去されている状態が見て取れる。

上記記載事項及び図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「透明ガラス基体の一方の面に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリスチレンスルホン酸及び水を含有する導電性樹脂組成物を塗布して導電性樹脂組成物の塗膜を形成する導電性樹脂組成物の塗膜の形成工程と、
前記導電性樹脂組成物の塗膜の表面に、ポジ形フォトレジストのレジスト膜を形成するポジ形フォトレジストのレジスト膜形成工程と、
前記レジスト膜で被覆されていない導電性樹脂組成物の塗膜を、除去するエッチング処理の工程と、
除去するエッチング処理の工程後に、γ-ブチロラクトンにより前記レジスト膜を剥離するレジスト膜の剥離の工程とを有するテスト基板Aの製造方法。」

イ 刊行物2(特開2003-331662号公報)
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物2には、「薄膜のパターニング方法、有機エレクトロルミネッセンス装置、回路基板及び電子機器」について、【図1】とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板に導電性の膜をパターニングする薄膜のパターニング方法、有機エレクトロルミネッセンス装置、回路基板及び電子機器に関する。」

(イ)「【0028】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る薄膜のパターニング方法について、図面を参照して説明する。本パターニング方法は、基板上に共役系高分子によって導電性膜を形成し、これに所望のパターンに対応するように共役を切る又は脱ドープする作用のある材料を塗布することにより、基板上に導電層をパターニングするものである。下記実施形態では、共役を切る作用のある材料を塗布してパターニングする方法について説明しているが、この方法と同様にして、脱ドープ作用のある材料を塗布してパターニングする方法も実施することができる。
【0029】(第1実施形態)本発明の第1実施形態に係る薄膜のパターニング方法について図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る薄膜のパターニング方法を用いた回路基板の製造方法を示す模式概念図である。
【0030】本図においては、(a)、(b)、(c)、(d)の順序で回路基板の製造工程が進んで行く。この回路基板は、各種電子機器の構成部品となるものである。先ず、図1(a)に示すように、絶縁性の基板1上に共役系高分子を用いて導電性膜2を形成する。基板1としては、紙エポキシ、ガラスエポキシ、ガラス又はプラスチックなどの材料からなるものを用いることができる。共役系高分子は導電性ポリマーであることが好ましい。導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン誘導体であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン、ポリピロール、その他の誘導体を用いる。また、導電性膜2は、スピンコート法などで形成する。
【0031】そして、導電性膜2の表面全体に所定の撥水性処理を施して、撥水性を制御する。この撥水性の制御は、図1(b)に示す工程で導電性膜2の表面に塗布されるアルカリ性のインク3が導電性膜2の表面上で濡れ広がらないようにするための処理である。また、撥水性の制御は、酸素プラズマ又はフッ素プラズマを用いて行う。
【0032】上記撥水性の制御が行われた後、図1(b)に示すように、導電性膜2の表面上に、共役を切る作用のある材料であるアルカリ性のインク3を塗布する。このアルカリインク3は、例えば、インクジェット法によって塗布することとし、インクジェットヘッド10から吐出させる。インクジェット法の代わりに、印刷法でアルカリ性のインク3を塗布してもよい。また、共役を切る作用のある材料としては、アルカリ性のインク3の代わりに還元剤又は酸化剤を用いてもよい。
【0033】また、アルカリ性のインク3の塗布は、所望の導電パターンに対して逆パターンとなるように塗布する。これは、導電性膜2において、アルカリ性のインク3が塗布された部位が図1(c)に示す高抵抗4となるからである。アルカリ性のインク3を塗布した後、所定時間だけ基板1の処理について放置し、その後、洗浄する。これらにより、図1(c)に示すように、導電性膜2におけるアルカリ性のインク3が塗布された部位が高抵抗4となる。」

ウ 刊行物3(特開2008-205144号公報)
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物3には、「パターン形成方法および半導体装置の製造方法」について、【図1】とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、パターン形成方法および半導体装置の製造方法に関し、さらに詳しくは、有機半導体層を有する薄膜トランジスタの電極パターン形成方法およびこれを用いた半導体装置の製造方法に関する。」

(イ)「【0018】
上記基板11としては、上述したガラス基板の他に、石英基板、プラスチック基板、絶縁性被膜のコートされた金属シートが用いられる。また、導電性膜12’としては、上述したAg以外に、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、チタン(Ti)、クロム(Cr)またはニッケル(Ni)等の金属、またはその合金もしくはITO(Indium Thin Oxide)が用いられ、膜厚は20nm?1μmの範囲であることとする。」

(ウ)「【0024】
そして、図1(b)に示すように、上述したようなスクリーン印刷版20の一主面側を、撥液層A_(1)の表面に接触させて、スクレッパー(図示省略)により、スクリーン印刷版20の乳剤22の非形成領域23にレジストインクR_(1)’を充填する。その後、スキージ24を一定圧力で掃引することで、余剰なレジストインクR_(1)’を除去する。
【0025】
ここで、上記レジストインクR_(1)’は、ノボラック樹脂、ポリビニルフェノール樹脂などのフェノール樹脂、マレイン酸樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂を主成分として構成される。
【0026】
続いて、図1(c)に示すように、上記スクリーン印刷版20(前記図1(b)参照)を基板11から離間させることで、撥液層A_(1)上にレジストインクR_(1)’(前記図1(b)参照)が印刷され、レジストパターンR_(1)が形成される。この際、撥液層A_(1)上にレジストインクR_(1)’が印刷されることで、スクリーン印刷版20を被印刷面から離間した後も撥液状態が維持され、撥液層A_(1)のレジストインクR_(1)’に対する撥液性が維持された状態となり、インクの滲みや裏周りが確実に防止され、レジストパターンR_(1)が寸法制御性よく、安定して形成される。
【0027】
次いで、図1(d)に示すように、レジストパターンR_(1)をマスクに用いて、上記撥液層A_(1)と導電性膜12’(前記図1(c)参照)をエッチングすることで、ソース・ドレイン電極12(導電性パターン)を形成する。この場合には、レジストパターンR_(1)が設けられた状態の基板11をAgのエッチング液(例えば関東化学社製 混酸SEA-1)に浸漬させることにより、レジストパターンR_(1)から露出された撥液層A_(1)および導電性膜12’を除去することで、ソース・ドレイン電極12が形成される。なお、このエッチングにより、上記撥液層A_(1)もパターニングされるが、上述したように、撥液層A_(1)は5nm以下の薄膜で形成されるため、導電性膜12’のエッチングの障害になることはない。」

エ 刊行物4(特開平3-119015号公報)
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物4には、「ポジ型ドライフィルムフォトレジスト組成物」について、以下の事項が記載されている。

(ア)「本発明は、蝕刻によって印刷回路や画像を形成する際に用いられるラミネートタイプのポジ型ドライフィルムフォトレジスト組成物に関する。」(第2ページ左上欄第2行ないし第4行)

(イ)「合成例1又は2で得られたブロック共重合体65部(重量部、以下同様)、合成例Aで得られたポリフェノール35部及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン-ビス-〔ナフトキノン-(1,2)-ジアジド-(2)-5-スルホネート〕5部を、アセトンと酢酸エチルの同重量比混合溶剤160部に溶解させた。
得られた各溶液を、25μのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ドクターブレードを用いてそれぞれ塗布し、100℃で5分間乾燥させて、厚さ25μの塗膜を形成させた。さらにその上に保護フィルムとして25μのポリエチレンフィルムをそれぞれのせて、ドライフィルムフォトレジストを製造した。
次いで、この各ドライフィルムフォトレジストのポリエチレンフィルムを剥離して、各銅張り積層板の銅箔面に重ねてから、110℃に加熱したロールを用いて、ポリエチレンテレフタレート支持フィルムの上から押えて、銅箔上にレジストを密着させた。次いで、支持フィルムを剥がした各フォトレジスト面に、ポジ型パターンを描いたマスクフィルムを重ねて、500Wの高圧水銀灯の光を40cmの上方から3分間照射して露光した。露光後、5%の水性トリソジウムフォスフェート溶液で現像して、露光した部分を溶解して除いて、パターンを形成させた。次いで、その積層板を45°ボーメの塩化第二鉄エッチング液でエッチングし、回路パターンを得た。レジスト層は、市販のストリッピング液(メタノールとジクロロメタンの10対90重量比混合溶剤)を用いて溶解・除去した。」(第8ページ右下欄第1行ないし第9ページ左上欄第11行)

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「透明ガラス基体」は本願発明1の「絶縁基材」に相当し、以下同様に、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」は「π共役系導電性高分子」に、「ポリスチレンスルホン酸」は「ポリアニオン」に、「水」は「分散媒」に、「導電性樹脂組成物」は「導電性高分子分散液」に、「導電性樹脂組成物の塗膜」は「導電性高分子塗膜」に、「導電性樹脂組成物の塗膜の形成工程」は「導電性高分子塗膜形成工程」に、「ポジ形フォトレジストのレジスト膜」は「レジスト膜」に、「ポジ形フォトレジストのレジスト膜の形成工程」は「レジスト膜形成工程」に、「γ-ブチロラクトン」は「除去用溶剤」に、「剥離」することは「溶解または膨潤させて除去」することに、「レジスト膜の剥離の工程」は「レジスト膜除去工程」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

[一致点]
「絶縁基材の一方の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン及び分散媒を含有する導電性高分子分散液を塗布して導電性高分子塗膜を形成する導電性高分子塗膜形成工程と、
前記導電性高分子塗膜の表面に、レジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、
除去用溶剤により前記レジスト膜を溶解または膨潤させて除去するレジスト膜除去工程とを有する、配線基板の製造方法。」

[相違点]
本願発明1は、
レジスト膜を形成する工程において、「レジスト膜形成用樹脂及びレジスト膜形成用溶媒を含有するレジストペースト」を採用して「スクリーン印刷により所定のパターンで、」「レジストペーストを印刷してレジスト膜を形成」し、
エッチングの工程において「前記レジスト膜で被覆されていない導電性高分子塗膜を、該導電性高分子塗膜を不活性化するエッチング液で処理する不活性化工程」を採用し、
「不活性化工程後」のレジスト膜を除去する工程において、「除去用溶剤」として「レジスト膜形成用溶媒の比誘電率との差が30以下のものを用い」ているのに対し、
引用発明は、
レジスト膜を形成する工程においてレジストの溶媒についての特定がなく、フォトレジストであるためにスクリーン印刷によりレジスト膜を形成することもなく、
エッチング処理の工程において「不活性化」ではなく「除去」を採用し、
エッチング処理の工程後のレジスト膜の剥離の工程において、除去用溶剤である「γ-ブチロラクトン」の比誘電率とレジストの溶媒との比誘電率の差が30以下であるか不明である点。

イ 判断
上記相違点について検討する。

引用発明は、エッチング後の導電性能及び信頼性に優れた、導電性樹脂パターンを有する積層体の製造方法の提供を課題とするものである(刊行物1の段落【0012】、【0014】)が、刊行物1の記載からは、レジスト膜形性用溶媒が明らかでなく、本願発明1のように、レジスト膜形性用溶媒と除去用溶剤の比誘電率との差に着目する動機付けはない。

刊行物2には、共役を切る又は脱ドープする作用のある材料(本願発明1の「不活性化するエッチング液」に相当する。)をインクジェット法又は印刷法で塗布する工程が記載されているものの、レジスト膜を形成した後に共役を切る又は脱ドープする作用のある材料を塗布する工程や、レジスト膜を除去する工程について、記載も示唆もされていない。

刊行物3には、引用発明のエッチングに相当する「パターニング」の工程において、スクリーン印刷法によりレジストインクを塗布し、金属、合金又はITOをエッチング除去することが記載されているものの、導電性高分子塗膜を不活性化する工程や、導電高分子膜を不活性化しない部分にレジストインクを塗布することについて、記載も示唆もされていない。

刊行物4には、銅張り積層板をエッチング除去するパターニングの工程を前提として、レジスト層を形成する工程における溶媒である「アセトン及び酢酸エチルの同重量比混合溶剤」と、レジスト層を除去する工程における「ストリッピング液(メタノール及びジクロロメタンの10対90重量比混合溶剤)」が記載されているものの、これに留まり、導電性高分子塗膜を不活性化する工程を前提としたレジスト層の形成用溶媒や除去用溶剤について、記載も示唆もされていない。

結局、刊行物2ないし4には、エッチングの工程に不活性化工程を採用することを前提としてレジスト膜形成用溶媒を含有するレジストペーストをスクリーン印刷により所定のパターンで印刷してレジスト膜を形成することも、レジスト膜の除去用溶剤とレジスト膜形成用溶媒の比誘電率との差が30以下とすることも、記載も示唆もされていない。

そして、本願発明1は、エッチングの工程に不活性化工程を採用し、レジスト膜形成用溶媒を含有するレジストペーストをスクリーン印刷により所定のパターンで印刷してレジスト膜を形成し、レジスト膜の除去用溶剤とレジスト膜形成用溶媒の比誘電率との差が30以下とすることにより、「π共役系導電性高分子を含有する配線を絶縁基材の表面に簡便に且つ高精細に形成でき、しかも得られる配線の」「透明性を高くできる。」(明細書段落【0007】)との格別顕著な効果を奏するものと認められる。

そうであれば、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて上記相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2及び本願発明3について
本願発明2及び本願発明3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-04 
出願番号 特願2012-113503(P2012-113503)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
発明の名称 配線基板の製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 高橋 詔男  

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