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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1326723
審判番号 不服2014-21177  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-20 
確定日 2017-03-27 
事件の表示 特願2011-119771「自己T細胞ワクチン材料および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開、特開2011-168618〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [第1]手続の経緯
本願は、平成14年9月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年9月14日 米国)を国際出願日とする特願2003-528491号の一部を平成19年6月28日に新たな特許出願である特願2007-171303号とし、さらにその一部を平成23年5月27日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の概要は次のとおりである。
・平成23年 5月27日付 上申書
・平成25年 1月 7日付 拒絶理由通知書
・ 同 年 4月 2日付 意見書・手続補正書
・ 同 年 8月 2日付 拒絶理由通知書(最後)
・ 同 年12月25日付 意見書
・平成26年 6月18日付 拒絶査定
・ 同 年10月20日 審判請求書・手続補正書
・ 同 年11月27日付 手続補正書(方式)[審判請求の理由補充書]
・平成27年 1月29日付 前置報告書
・平成28年 2月 5日付 拒絶理由通知書(最後)
・平成28年 7月 7日付 意見書

[第2]本願発明
本願の請求項1に係る発明、ならびに請求項9に係る発明は、平成26年10月20日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ならびに9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
『 【請求項1】 多発性硬化症の処置のための自己T細胞ワクチンを調製する方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)該ワクチンで処置すべき患者由来のT細胞を、1つ以上の多発性硬化症関連抗原の免疫優性フラグメントの組合せを用いてインビトロで一次刺激する工程;
(b)工程(a)において得られたT細胞を、抗原提示細胞(APC)および該免疫優性フラグメントの組合せで刺激する工程;ならびに
(c)工程(b)を、1回以上繰り返す工程、
を包含し、該多発性硬化症関連抗原が、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドタンパク質、およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質からなる群より選択される、方法。 』
『 【請求項9】 患者における多発性硬化症を処置するための、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法に従って調製した自己T細胞ワクチン。 』

ここで、請求項1を引用する請求項9に係る発明は、請求項9の「患者における多発性硬化症を処置するための」と請求項1の「多発性硬化症の処置のための」が重複するので請求項9の記載に統一すると、以下のようになる。これを以下単に「本願発明」ということがある。
『 患者における多発性硬化症を処置するための、
以下の工程:
(a)該ワクチンで処置すべき患者由来のT細胞を、1つ以上の多発性硬化症関連抗原の免疫優性フラグメントの組合せを用いてインビトロで一次刺激する工程;
(b)工程(a)において得られたT細胞を、抗原提示細胞(APC)および該免疫優性フラグメントの組合せで刺激する工程;ならびに
(c)工程(b)を、1回以上繰り返す工程、
を包含し、該多発性硬化症関連抗原が、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドタンパク質、およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質からなる群より選択される、方法
に従って調製した自己T細胞ワクチン。 』

また、請求項1に係る方法を、以下単に「本願発明の調製方法」ということがある。

[第3]当審の判断

1.本願発明に包含される自己T細胞ワクチンの範囲について
(1) 「本願発明の調製方法」により製造されてなる、本願発明の自己T細胞ワクチンの有効成分(主要構成成分)である自己T細胞(以下、単に「本願発明の自己T細胞」」ということがある)が具備していると解される構造、特性等について、以下検討する。

(2) まず、「本願発明の自己T細胞」は、工程(a)?(c)の「1つ以上の多発性硬化症関連抗原の免疫優性フラグメントの組合せ」、即ち、当該「免疫優性フラグメント」を複数種組み合わせたもの、を用いた刺激工程を経てなるものであることから、当該「組合せ」を構成する複数種の「免疫優性フラグメント」の少なくともいずれか一種に対し反応性を有する、という性質を当然に有するものである。
しかしながら、本願発明では、当該複数種の「免疫優性フラグメント」については、「ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドタンパク質、およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質からなる群より選択される」いずれかの「多発性硬化症関連抗原」ポリペプチド由来のものであることが規定されているのみで、それら複数種の「免疫優性フラグメント」の各々が特定の化学構造(例えばアミノ酸配列)からなるものに限定されているわけではない。
また、「本願発明の自己T細胞」自体についても、その反応に関与する当該細胞上のT細胞受容体(TCR)の化学構造等について特段の規定はなく、上述のいずれかの「免疫優性フラグメント」に対し如何なる特異性を以て反応するのか(例えば、同自己T細胞が有するTCRが当該「免疫優性フラグメント」中の如何なるエピトープ部位に対し如何なる程度の親和性を以て結合するのか、や、当該「免疫優性フラグメント」中に「フラグメント」化に伴い顕在化する「隠蔽エピトープ」(請求人による平成25年12月25日付意見書、同平成28年7月7日付意見書)が存在する場合、当該「隠蔽エピトープ」に対し特異的反応性を有するのか否か、そうであるとすれば如何なる程度の親和性を以て結合するのか)等といった性質/機能についても、特段の限定はない。

そうすると、「本願発明の自己T細胞」には、上記いずれかの「免疫優性フラグメント」のみに対して特異的に反応するものだけではなく、例えば、それらいずれかの「免疫優性フラグメント」及び同「免疫優性フラグメント」の由来である全長の多発性硬化症関連抗原ポリペプチド中に存在する形態の当該「免疫優性フラグメント」領域の双方に対し反応性を示す自己T細胞もまた、包含されるものと解される。

(3)(3-1) そして、本願発明では、「本願発明の自己T細胞」が、必ず「1つ以上の多発性硬化症関連抗原の免疫優性フラグメントの組合せ」を構成する複数種の「免疫優性フラグメント」の各々に反応性の各単一自己T細胞クローンを複数種併せて含む、複数種のT細胞クローン集団の混合物(当該混合物は、単一のT細胞クローン由来ではないことから、「非均質」なT細胞集団といえる)で構成されてなるものである旨の明確な限定はない。また、そもそも、当該「本願発明の自己T細胞」が複数種のT細胞クローンの集団混合物で構成されているということ自体、本願発明中で要件とされているわけでもないから、例えば、「本願発明の自己T細胞」が複数種の「免疫優性フラグメント」中のいずれか一種にのみ反応する単一のT細胞クローン由来のT細胞のみで構成されている(この場合、単一のクローン由来であることから、「均質」なT細胞集団といえる)態様の発明も、本願発明から明確に除外されているとは解されない。

(3-2) また、「本願発明の自己T細胞」の具体的な調製方法について、本願明細書中には以下のような記載がある。[下線は当審による]
(ア)『 【0007】 本発明の好ましい実施形態は、直接増大法(direct expansion method;DEM)と呼ばれる方法によって調製される自己T細胞ワクチンを含む。・・・。この直接増大法は、ミエリンタンパク質またはそのフラグメントに反応性であると同定されたT細胞が、5以上の刺激指数(S.I.)を有する場合、ワクチン産生のための好ましい方法である。この直接増大法は、処置されるべきMS患者から、末梢血単核細胞(PBMC)または患者の脳脊髄液由来の単核細胞(CSFMC)を得る工程を含む。次いで、・・・PBMCまたはCSFMCは、多発性硬化症関連抗原(例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)またはMBPの1以上の免疫原性フラグメント)の存在下でインキュベートされる。・・・。より好ましい実施形態では、この免疫原性フラグメントまたはMBPのフラグメントは、免疫優性フラグメントである。最も好ましいMBPフラグメントとしては、MBPのアミノ酸83?99に対応するフラグメントおよびMBPのアミノ酸151?170に対応するフラグメントが挙げられる。・・・。次いで、PBMCまたはCSFMCは、MBPおよび/またはそのフラグメントとともに、抗原提示細胞(APC)の存在下で再度インキュベートされる。・・・。交互の刺激サイクルは、1回以上繰り返され得る。
・・・
【0010】 本発明の別の実施形態は、自己T細胞ワクチンおよび「クローニング方法」によってワクチンを産生するための方法を提供する。このクローニング方法は、ミエリン塩基性タンパク質またはそのフラグメントに対して反応性であると同定され、そして5未満の刺激指数を有するT細胞の場合に好ましい。
【0011】 このクローニング方法は、・・・いずれかのフラグメントに対して反応性であるT細胞株を同定する工程を包含する。5未満のS.I.を有するT細胞株は、限界希釈によってクローニングされる。方法は、PBMCまたはCSFMCを、MBPまたはそのフラグメント・・・とともに7日間、培地を交換せずにインキュベートすることによって、・・・反応性のT細胞を入手する工程を包含する。・・・上記のMBPまたはそのフラグメントを入れながら、APC・・・とともに・・・インキュベートされる。この刺激指数(S.I.)は、本明細書中に記載されるとおりの[^(3)H]チミジン取り込み増殖アッセイを用いて決定される。次いで、抗原を含み、5未満のS.I.を有するウェルは、限界希釈を用いてクローニングされ、ここで、T細胞株に対して反応性の各細胞は、プールされ、希釈され、そしてウェル中に、レクチン(好ましくは、フィトヘマグルチニン(PHA))およびAPCを伴った、10%ヒトAB+血清およびインターロイキン(好ましくは、インターロイキン2)を含む培地中に1ウェルあたり約0.3細胞?約20細胞の密度で播種される。・・・、細胞は、MBP(またはそのフラグメント)およびPHAを用いた交互の刺激サイクルによって増大される。 』
(イ)『 【0018】 本明細書に記載される実施例は、MSの処置のためにクローン選択法によって調製される自己T細胞ワクチンおよび直接的増大方法によって調製される自己T細胞ワクチンの使用を記載する。・・・ 』
(ウ)『 【0023】 (実施例1:・・・)
・・・、2つの免疫優性領域(アミノ酸残基83?99およびアミノ酸残基151?170,・・・)に対応するヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)の2つの合成ペプチド(それぞれ、20μg/mlの濃度)・・・
・・・
【0026】 (実施例2:T細胞ワクチン接種のためのミエリン反応性T細胞の作製)
(PBMCの調製および一次刺激)
新鮮な血液標本を、収集2時間以内に処理した。あるいは、単核細胞は、MS患者の脳脊髄液(CSFMC)から入手され得る。末梢血単核細胞(PBMC)を・・・全血から単離した。・・・。精製したPBMCを・・・プレート上にプレーティングした。・・・。実施例1で考察したミエリンペプチドを、それぞれ、20μg/mlで・・・添加した。・・・。細胞を、培養培地を交換することなく7日間培養して、ペプチド特異的T細胞を選択的に増殖させた。
【0027】 (MBPペプチド特異的T細胞株の同定および選択)
全てのウェル由来の細胞の約50%を取り出し、そして2つのウェル(抗原ウェルおよびコントロールウェル)に均等に分けた。新鮮なPBMCまたは解凍したPBMCを、・・・照射し、そして供給源の抗原提示細胞(APC)として・・・用いた。上記の実施例1に記載されるミエリンペプチドを、それぞれ、20μg/mlで、この抗原ウェルに対して添加した。・・・
【0028】 次いで、細胞を・・・収集し・・・。対応するミエリンペプチドに対する各T細胞株/ウェルの反応性を、[^(3)H]チミジン取り込み増殖アッセイによって決定した。特に、各ウェル由来の細胞を、・・・ミエリンペプチドの存在下および不存在下で、APCの供給源としての・・・自己PBMCとともに培養した。・・・。この抗原ウェルの1分間あたりのカウント(cpm)/コントロールウェルのcpmの商が、3以上である;およびこの抗原ウェルの総cpmが1,500よりも大きいの両方である場合、T細胞株は、ミエリンペプチド特異的であると定義される。・・・。同定されたミエリン反応性T細胞株の残りの50%の細胞を、照射したPBMCで、増大のために再刺激する。
(エ)『 【0029】 (選択したT細胞株/クローンの増大および確立)
T細胞株が、ミエリンペプチド反応性であると同定され、続いて、1回再刺激された後、これをさらに増殖して、以下の方法のうちの1つを用いて、ワクチン接種のために十分な細胞を産生する:直接増大法およびTクローン化方法。増殖方法の選択は、そのミエリンペプチドに対するT細胞株の特異性および反応性に依存する。これらの特異性は、刺激指数(SI)によって測定される。・・・。SIが5以上である場合、この直接増大法が用いられる。SIが5未満である場合、クローニング方法が用いられる。
【0030】 (直接増大法)
手短に述べると、次いで、5以上のS.I.を有すると同定されたミエリン反応性T細胞を、照射した自己PBMCの存在下で、対応するミエリンペプチドでの刺激サイクルとPHAでの刺激サイクルとを交互に行う、直接増大法(DEM)によって増大させた。各刺激サイクルを、7?10日間実施した。・・・。ミエリン反応性T細胞株を、総細胞数が約2000万個に達するまで、交互刺激サイクルで増殖させた。
・・・
【0032】 ・・・

このクローニング方法において、T細胞株を、限界希釈アッセイを使用してクローニングした。各ミエリンペプチド反応性T細胞株の細胞をプールし、・・・培地中に約0.3?約20細胞/ウェルで播種した。・・・。培養の14日後、増殖陽性ウェルをアッセイして、上記のような対応するミエリンペプチドに対する特異的反応性を決定した。これらのペプチド特異的T細胞株のさらなる増殖を、対応するミエリンペプチドおよびPHAを用いる代替的刺激サイクルにおいて、上記の直接的増殖方法に従って実施した。 』

これらの明細書(ア)?(エ)の記載によれば、本願発明に係るワクチンの有効成分である「本願発明の自己T細胞」を実際に調製するには、工程(a)?(c)のみならず、それら(a)?(c)の刺激工程間もしくはその前/後において、「免疫優性フラグメントの組合せ」による刺激に対し、[^(3)H]チミジン取り込み増殖アッセイを用いて決定される刺激指数(S.I.)((エ)【0011】)を指標とする増殖応答性、即ち反応性、の高い自己T細胞を選択し、当該選択した自己T細胞をさらに増殖させる工程が当然に要されることは明らかである。
そして、その際の選択方法としては、直接増大法の他クローニング法(上記刺激に対しある程度高い反応性を示した(SI:3以上5未満)細胞画分については限界希釈により含有細胞をクローン化し、刺激反応性の高いT細胞クローンを特定する方法)が挙げられることが理解できる((ア)、(イ)、(エ))。また、実際、本願明細書における実際の自己T細胞の調製例(実施例2。(ウ)?(エ))においても、「本願発明の自己T細胞」の選択にクローニング法が用いられていることは、【0032】中の表((エ))で「T細胞株」として「3E5」「2C9」(これらは各々、「本願発明の自己T細胞」のクローン株、即ち上記クローニング法によりクローン化されてなる単一のT細胞株であるものと認められる)が記載されていることからも理解でき、且つ、これら「3E5」「2C9」はいずれも、各々単独で或いは組み合わせて、本願発明のワクチンの有効成分として採用し得るものと解される。

(3-3) これら(3-1)?(3-2)の検討事項を併せ踏まえると、「本願発明の調製方法」における(a)?(c)の刺激工程で用いられる「免疫優性フラグメントの組合せ」は、「組合せ」、即ち複数種の「免疫優性フラグメント」で構成されてはいるものの、当該方法により得られる「本願発明の自己T細胞」は、必ずしも、
(i) 上記複数種の「免疫優性フラグメント」の各々に反応性を示す複数種のT細胞クローン集団の混合物で構成されるもの(この場合、単一クローンに由来するもののみで構成されていないことから、「非均質」なT細胞クローン集団といえる)
のみに限定されているわけではなく、例えば、その選択・増殖条件如何では、
(ii) 複数種の「免疫優性フラグメント」中のいずれか一種のフラグメントのみに対し反応性を示すという点では共通するが、その反応の特異性や程度等において互いに異なる、複数種のT細胞クローン集団の混合物で構成されるもの(この場合も、単一クローンで構成されていないことから、「非均質」なクローン集団といえる)、
や、
(iii) 複数種の「免疫優性フラグメント」中のいずれか一種のフラグメントのみに対し反応性を示す、単一のクローンT細胞集団のみで構成されるもの(この場合、単一クローンで構成されていることから、「均質」なT細胞クローン集団といえる)
もまた、上記態様に包含されているものと解される。

(4) なお、請求人自身、平成28年7月7日付意見書中で
『 例えば、本願請求項に記載されているように、免疫優性フラグメントの組み合わせが、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に由来するものである場合、得られた細胞集団は、MBPおよび/またはMOGに反応性となることは明らかです。』[下線は当審による]
と主張しているところ、ここでいう「MBP」「MOG」がいずれも全長でない「免疫優性フラグメント」に特定されているわけではなく、また、上記下線部の「または」が、MBP、MOGのいずれか一方のみに反応性である細胞集団を意図することを排除するものではないと解されることからみても、上述の(2)末尾の解釈や(3)(3-3)の解釈は、請求人の上記主張と矛盾するものではない。

2.引用文献の記載
他方、原査定の理由で引用され、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である、引用文献1:特表平9-500261号公報 には、以下の事項が記載されている。[下線は当審による]

(1)特許請求の範囲
『 1.ヒトT細胞の特異性の対象である抗原の存在下できわめて増殖性が高く、その後の培養進行の全ての段階において汚染細胞をもたない状態にとどまっているという点で完全な生物学的純度を有することを特徴とするヒトT細胞モノクローン集団。
2.単一のTCR V遺伝子発現を生じさせることを特徴とする、請求の範囲第1項に記載のヒトT細胞モノクローン集団。
3.唯一のTCR V-D-J DNA配列を有することを特徴とする、請求の範囲第1項?第2項に記載のヒトT細胞モノクローン集団。
・・・
6.存在した場合に前記集団に増殖性を与える抗原が自己抗原であることを特徴とする請求の範囲第1項?第5項のいずれか1項に記載のヒトT細胞モノクローン集団。
7.自己抗原がミエリン抗原又はその免疫原性部分であることを特徴とする、請求の範囲第6項に記載のヒトT細胞モノクローン集団。
8.ミエリン抗原が、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン-乏突起膠細胞-糖タンパク質(MOG)及び/又はその混合物であることを特徴とする、請求の範囲第7項に記載のヒトT細胞モノクローン集団。
9.ミエリン抗原が、ミエリン塩基性タンパク質のアミノ酸配列の84?102 領域又は 149?170 領域のエピトープであることを特徴とする、請求の範囲第8項に記載のヒトT細胞モノクローン集団。
・・・
13.請求の範囲第1項?第12項のいずれか1項に記載のヒトT細胞モノクローンに向けて導かれた、ヒトT細胞モノクローン。
14.ミエリン塩基性タンパク質特異的ヒトT細胞モノクローンに向けて導かれた、請求の範囲第13項に記載のヒトT細胞モノクローン。
15.ミエリン塩基性タンパク質のアミノ酸配列の84?102 領域又は 149?170領域のエピトープに対して特異的なヒトT細胞モノクローンに向けて導かれた、請求の範囲第13項に記載のヒトT細胞モノクローン。
16.特異性の対象である抗原及び/又はその他のあらゆるT細胞剌激剤の存在下できわめて増殖性が高く、その後の培養進行の全ての段階において汚染細胞をもたない状態にとどまっているという点で完全な生物学的純度を有することを特徴とするヒトT細胞モノクローン集団の産生方法において、
(1)前記抗原に対して応答性をもつヒトT細胞系を提供する段階、
(2)ヒトT細胞モノクローンの集団を産生するべく、前記T細胞系統を単細胞クローニングし自己由来の又は同種異系の供給細胞の存在下でT細胞剌激剤を用いて結果として得られたT細胞クローンを剌激する段階、
(3)望ましいTCR 特異的特性をもつモノクローン集団を選択する段階、
を含んで成る方法。
17.前記ヒトT細胞系が末梢血リンパ球(PBL)から採取されることを特徴とする、請求の範囲第16項に記載の方法。
18.T細胞剌激剤が、レクチン好ましくはPHA 及び/又はConA、リンフォカイン、好ましくはCD3 及びその他の細胞表面分子に対するインターロイキン-2(IL-2)及び/又は組換え型IL-2(r-IL2)マイトジェン抗体及び/又はその混合物から成るグループの中から選ばれることを特徴とする請求の範囲第16項又は第17項に記載の方法。
・・・
21.請求の範囲第1項?第10項のいずれか1項に記載のT細胞モノクローンの1集団又は選択された複数の集団の混合物を有効量含む、自己免疫疾患の治療のための治療薬。
・・・
23.請求の範囲第1項?第6項のいずれか1項に記載のT細胞モノクローンの1集団又は選択された複数の集団の混合物を有効量含む、感染症及びガンの治療のための治療薬。
・・・
26.その状態に特異的でかつその患者の生体試料から得ることのできる単数又は複数の抗原に関連する状態に苦しむ患者を治療するための方法において、
- 前記状態を少なくとも軽減するべく適切な免疫応答を生成するのに充分な量のヒトT細胞モノクローン集団を前記患者にワクチン接種するか又は養子免疫細胞移入し、かくして前記ヒトT細胞モノクローン集団が前記単数又は複数の抗原に対する応答性をもちかつそれが培養発達の全段階において汚染細胞を含まない状態にとどまるという点で完全な生物学的純度を有することになる、治療方法。
・・・
41.感染症、自己免疫疾患、T細胞媒介アレルギー又はガンの治療を目的とした薬学組成物の産生のための、請求の範囲第1項?第12項のいずれか1項に記載のヒトT細胞モノクローンの1つの集団又は選択された複数の集団の混合物の使用。
・・・ 』

(2)14頁14?24行
『 同様に本発明の範囲内に入るのは、ヒトT細胞が特異性をもつ抗原及び/又はその他のあらゆるT細胞剌激剤の存在下できわめて増殖性が高く、しかもその後の培養発達の全ての段階において汚染細胞をもたない状態にとどまっている点で完全な生物学的純度を有することを特徴とするヒトT細胞モノクローン集団の産生方法である。この方法には、
1)抗原に対して応答性をもつヒトT細胞系統を提供する段階、
2)ヒトT細胞モノクローン集団を産生するべく、T細胞系統を単細胞クローニングし、自己由来の又は同種異系の供給細胞の存在下でT細胞剌激剤を用いて、結果として得られたT細胞クローンを剌激する段階、及び
3)望ましいTCR 特異的特性をもつモノクローン集団を選択する段階、
が含まれる。 』

(3)18頁23行?19頁5行
『 病原性自己反応性T細胞はT細胞媒介自己免疫疾患中に病原として認められるため、照射あるいは圧力及び化学治療により無毒化される場合には、病気を予防し治療するためワクチンとして使用することができる。T細胞ワクチン接種の原理は、感染事態に対する従来の細菌的接種と同様である。ワクチンとして弱毒化した自己反応性T細胞を投与することにより、顕在化する自己反応性T細胞を制御ネットワークが特異的に抑圧することは証明されている(参考文献7)。T細胞接種は多くの実験的な自己免疫性疾患、例えば脳脊髄炎(EAE)・・・の予防及び治療に効果的である。この保護効果は長期間継続し特異的である。なぜなら引き起しうる病気に対し、ワクチン接種のみに使用される自己反応T細胞が保護するからである。 』

(4)21頁26行?23頁23行
『 本発明によるヒトT細胞モノクローン集団の調製方法
A.抗原特異性T細胞系列の発生
一般的に、本発明のモノクローン集団調製のために使用されるT細胞は、治療すべき症状により選択される。例えば免疫性疾患の場合、患者の末梢血リンパ球が、適当なT細胞系列をひきだすために使用される。・・・
・・・
T細胞系列が末梢血から単離される場合、末梢血リンパ球が単離され、5乃至10日間の期間、抗原の存在のもとで培養される。この期間はサンプル中の反応性細胞の数、細胞の活性状態、剌激調製物の力、によって変動する。・・・
得られる培養物は、・・・あらかじめ照射された自己由来の抗原発生細胞と共に再度剌激を加える。再剌激時間は変動してよいが、一般的には5乃至12日間である。・・・
この生きたT細胞系は次いで単離され、5乃至12日間適当な抗原の存在下に自己由来の抗原発生細胞と共に再剌激を受ける。この細胞系列は次いで、増殖アッセイ中に抗原に応動する特異増殖について検査される。
B.抗原特異性T細胞の単一細胞クローニング
真の抗原特異性T細胞クローンをクローン化することは通常困難である。これは、自己由来の抗原発生細胞、低いクローニング効率、及び抗原剌激プロセスにおいてT細胞耐性が導入されること、に通常関係する問題のためである。これらの問題の結果、T細胞をクローン化するために採用される一般的な方法は、ウェルあたり10乃至30個の細胞を使用することである。その結果、クローン調製物は望ましくないT細胞で汚染される。
本発明方法によれば、抗原特異性T細胞は、照射された自己由来もしくは同種異系の抗原発生細胞及び効力あるT細胞剌激剤、例えばPHA 及び/もしくはConA,CD3 に対する分裂性抗体及びその他の表面分子及び/もしくはその混合物、の存在下に極めて低い細胞濃度で平板培養される。・・・IL-2もまたT細胞剌激剤として使用できることが理解されるべきである。 』
[※審決注:摘記(4)中の各「抗原発生細胞」については、それら前後の記載、或いは、引用文献1の対応公報である国際公開第94/26876号中の21頁で「antigen presenting cells」と記されていることから、後の摘記(6)中の「抗原提供細胞(APC)」、即ち抗原提示細胞、に相当するものと解される。]

(5)24頁2?10行
『 本発明T細胞集団の特徴
既に述べたように、本発明方法によれば、治療に使用することのできる十分な量の均質なT細胞モノクローン集団を生育させることができる。勿論本発明の集団は単一性免疫エピトープあるいは抗原を認識する細胞に限定されない。一つの抗原に異なるエピトープを認識する異なるクローンの混合物からなる細胞系列集団を生育させることが可能である。このような場合、最初に平行的に単一細胞クローニング行って、組みあわせて適当な混合物を生成することのできるような単一エピトープを認識する均質な集団を先ず生育させるようにすることが、必要であるかもしれない。 』

(6)24頁24行?26頁1行
『 ヒトT細胞単一クローンの同定、及びヒトT細胞単一クローンの集団調製のためのキット
診断される病気の原因となりうる型の抗原に対して高い増殖性を有するヒトT細胞モノクローンの同定のため、及び同定されるヒトT細胞モノクローンの集団についてその後の調製のため、キットを使用することができる。・・・
・・・
キットに含まれる抗原は、好ましくは、関連する症状で患っている大部分の患者に共通した抗原を含んでいる。それは、関連する免疫優勢なエピトープを含む、分子又はペプチド全体、又はそのフラグメントでよい。そのような抗原の例は、
1)リウマチ様関節炎の場合:
・・・
2)多発性硬化症の場合:
a)ミエリン塩基性蛋白質とその免疫優勢なエピトープ(1992 Ann.Neurol.32,330-338 及び1990 Nature 346,183-187)
b)プロテオリピド蛋白質(1994 J.Exp.Med.Vol.179)
・・・ 』

(7)29頁7?13行
『 本発明の診断キットの例は、多発性硬化症の診断に使われている。MBP の免疫優勢な領域(例えば84-102及び143-168 の残基)に特異的な共有T細胞単クローンレセプターに対するモノクローナル抗体を調製し、適当な担体上に固定する。多発性硬化症を患っていると疑われる患者から生物試料を採取し、担体と接触させる。T細胞レセプターの担体への結合が陽性であることは、生物試料中に免疫優勢なMBP エピトープに対して特異的なT細胞が存在することを示している。 』

(8)29頁14行?33頁15行
『 本発明の好ましい態様の記載
1.MBP 特異T細胞単クローン
a.MBP 特異T細胞系の産生及び特性づけ
末梢血からMBP 特異T細胞を産生するために、静脈穿剌により新鮮な血液試料を得、・・・。末梢血単核細胞(PBMC)を・・・単離した。・・・。次いでPBMCを限界希釈・・・により、・・・細胞を播種する・・・。各々のウェルに、100,000個の照射した(8,000ラド)自己のPBMCを、抗原提供細胞(APC)の源として、40μg/mlのヒトMBPの存在下に加える。
ヒトMBPは、ヒト脳組織の白質から抽出し、カラムクロマトグラフィーにより精製する・・・。・・・。7日後に、MBP でパルスした 100,000個/ウェルの照射した自己PBMCを用いて、培養物を再び剌激した。・・・
MBP特異T細胞系の選択は、増殖分析の12日目及び14日目に行った。・・・MBP でパルスしたか又はパルスしていない(対照)10^(5)細胞の自己PBMCの存在下に、72時間デュプリケートに培養した。培養の最後の16時間は、1μCi/ウェルの^(3)H-チミジンを添加して培養し・・・。トリチウムチミジンの取り込みは・・・で測定した。
MBP 特異T細胞の頻度は、ポアソン統計学により算出した・・・。簡単に言えば、CPM の平均値が 1,000より大きい時、及びCPM が少なくとも対照CPM の3倍より大きい時は培養物を陽性として記載し、陽性のウェルの頻度を各細胞濃度ごとに得た。・・・
選択したMBP 特異T細胞系を・・・播種し、MBP でパルスした照射した自己APC で再剌激した。7日後、これらの細胞系を、増殖分析(前記)において、MBP に対する応答における特異的な増殖について再実験した。・・・
b.MBP 特異T細胞の単個細胞クローニング
・・・、APC 存在下にMBP 剌激を繰り返すことによるMBP 特異T細胞系のクローニングは、通常、ウェル当たり一細胞より多い播種濃度を必要とする。結果として、得られた「クローン」標品には、しばしば希望しないT細胞が混入する。この混入は、TCR Vβ遺伝子使用の発現によって検出することができる。・・・
・・・
これらの問題に対処するため、・・・強力なT細胞剌激剤であるPHA を用いて、非常に低い細胞密度においてMBP 特異T細胞系をクローン化した。MBP 特異T細胞を、自己又は同種の、照射したPBMC及び、 0.2μg/mlないし10μg/mlのPHA の存在下に、ウェル当たり 0.1細胞及び 0.3細胞に播種する。培養物には、3日ごとにrIL-2(5単位/ml)を含んでいる新鮮な培地を与える。・・・
・・・
この方法は、MBP 剌激による従来のクローニング法に対し、(1)より高いクローニング効率、(2)PHA 剌激又はMBP 剌激によるクローンの大規模な拡張を許す改良された増殖特性、・・・を含め、多くの利点を有する。 』

(9)35頁3行?36頁11行
『 d.in vivoにおける、抗クロノタイプT細胞の誘導
表2は、本試験に関与した6人のMS患者の臨床データ及び、ワクシネーションに用いたMBP 特異T細胞クローンの詳細な特異性を示している。

表2は、接種物として用いたMBP 特異T細胞クローンの、ペプチド反応性を表している。MBP 特異T細胞系を、上記のように患者の末梢血から産生させ、限界希釈により、10^(5)個の照射した自己の支持細胞及びPHA(2μg/ml)と共に、ウェル当たり 0.3細胞の濃度でクローン化した。培養物には、5単位/mlのrIL-2を含んでいる培地を、3日ごとに新たに供給する。12日ないし14日後に、増殖しているクローンについて、MBP の1-37領域及び、45-89領域及び、90-170領域にわたるMBP の三つのフラグメント(SH CHOU 博士より供与)に対する反応性を調べ、次いで、MBP の11のペプチド(D.Hafler 博士より供与)について調べた。各クローンの10^(4)細胞を、ウェル当たり10個の、照射した自己APC と共に培養し、これに10μg/mlの各フラグメント又は、2μg/mlの各ペプチドを加えた。細胞を72時間培養し、培養の最後の16時間の間、^(3H)-チミジンでパルスし、収穫し(Betaplate 1295)、トリチウムチミジンの取り込みを測定した。同じ方法を、本特許出願の別の箇所に述べた、他の増殖分析に使用した。
実験は、PHA で誘導した自己のT芽細胞と比較して、接種物に対するT細胞の応答を追跡するよう設計されていた。・・・。図4に示したように、6人の患者すべてが、自己のワクチン標品に対する実質的な増殖応答を、特に2回目の接種の後に展開させた。これらの応答に付随して、T芽細胞の反応性が制限されていた。MBP 特異T細胞の頻度分析は、循環しているMBP 特異T細胞が、2回目の接種の後に著しく減少することを示した。MBP 特異T細胞の頻度の減少は、抗クロノタイプ応答(図4)の大きさと反対の関係にあった。その頻度は、この臨床試験の最後では、6人の患者のうち5人において、本発明者らの分析の検出可能な限界を下回っていた。HM患者においては、MBP 特異T細胞は、3回目の予防接種の後にもまだ検出されたが、予防接種前の値より5倍低い頻度(1.1×10^(-7))であった。
図4は、接種物及び対照T細胞に対する増殖応答及び、各々の接種の前後のMBP 特異T細胞の頻度の変化を示している。・・・ 』

(10)48頁 表II



[※審決注:表II中の患者「RM」は、上の摘記(9)ならびに下の摘記(11)における対応患者が「HM」と記載されてることからみて、「HM」の誤記と解される。]

(11) 59-60頁 図4




これらの摘示事項によれば、引用文献1には、ヒトT細胞の特異性の対象である抗原の存在下できわめて増殖性が高くまた汚染細胞を有さない、単一のTCR V領域を有する均質なヒトT細胞モノクローン1集団、又は選択された複数種のモノクローン集団の混合物、ならびに、それら1集団又は混合物を含む、自己免疫疾患を治療するためのワクチン組成物について記載されており[摘記(1)、(3)、(5)]、前記T細胞クローン集団が単数又は複数の抗原に対する応答性を有するものであることについても記載されている[摘記(1)請求項26]。
また、当該T細胞クローン集団又はその混合物の調製方法として、(1)前記抗原に対して応答性をもつヒトT細胞系を提供する段階、(2)ヒトT細胞モノクローンの集団を産生するべく、前記T細胞系統を単細胞クローニングし抗原提示細胞の存在下でT細胞剌激剤を用いて結果として得られたT細胞クローンを剌激する段階、及び(3)望ましいTCR 特異的特性をもつモノクローン集団を選択する段階、を含む方法が記載されており[摘記(1)請求項16、(2)]、より具体的には、患者から単離された末梢血リンパ球(PBMC)をMBP抗原の存在下で培養する工程、及び、得られた培養物をさらに抗原提示細胞(APC)と共に同MBP抗原で更に複数回刺激する工程と共に、刺激に対し高い反応性を有するT細胞含有培養物をクローニングする工程を組み合わせて、汚染細胞のない均質なT細胞モノクローン集団を得る方法が記載されている[摘記(4)、(8)]。
そして、そのような方法により得られた、ワクチン接種物(ワクチン組成物)として自己投与するために用いたヒトT細胞モノクローンの1集団又は複数種の混合物の例として、6人のMS患者から選択・増殖された、MBP(全長MBP)刺激に対し反応性を示す各患者由来のMBP特異的T細胞クローン接種物、ならびに、それら各接種物を構成する単一T細胞クローン群が記載されており[摘記(9)、(10)]、それら接種物を各対応する患者に自己投与することにより、特に2回目の接種後に各患者中の循環MBP特異的T細胞が著しく減少し、以て各患者のMS症状が改善されたことが記載されている[摘記(9)、(11)]。さらに、表II[摘記(10)]中の、各自己投与用接種物を構成する各MBP特異的単一T細胞クローンの^(3)H-チミジン取込み量を指標とした増殖応答性、即ち反応性のデータ値によれば、
a)患者BC由来の3株のMBP反応性T細胞クローン:BC12、BC-6及び1B7-E4のうち、クローンBC12は全長MBPに対してのみならずMBPフラグメント143-168に対しても反応性(増殖性)を示すものであり、同1B7-E4は全長MBPに対してのみならずMBP84-102に対しても反応性を示すものであり;
b)患者BR由来の3株のMBP反応性T細胞クローン:BR-1、BR-3及び1G7は、そのいずれもが、全長MBPに対してのみならずMBPフラグメント143-168に対しても反応性を示すものであり;
c)患者HM由来の2株のMBP反応性T細胞クローン:1D5及びHM-1は、そのいずれもが、全長MBPに対してのみならずMBPフラグメント143-168に対しても反応性を示すものであり;
d)患者CW由来の3株のMBP反応性T細胞クローン:CW-5、CW-10及び1E4のうち、CW-10及び1E4の二株はいずれも、全長MBPに対してのみならずMBPフラグメント143-168に対しても反応性を示すものであり;
e)患者GE由来の3株のMBP反応性T細胞クローン:GE-2、GE-3及びGE-4は、そのいずれもが、全長MBPに対してのみならずMBPフラグメント84-102に対しても反応性を示すものである。

以上のことを踏まえると、引用文献1には、
「 多発性硬化症(MS)を治療するための自己投与用T細胞ワクチン組成物であって、当該ワクチンは、MS患者由来のT細胞含有末梢血リンパ球を、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)による刺激工程、ならびに抗原提示細胞(APC)及びMBPによる複数回の刺激工程及びクローニング工程を含む方法により選択されてなる、汚染細胞のない均質な自己T細胞モノクローン1集団、又はそれらの選択された複数種の自己T細胞モノクローン集団混合物を有効成分とする、以下のa)?e)の各ワクチン組成物:
a)当該有効成分が、MS患者BC由来のMBP反応性T細胞クローン群中のMBP143-168フラグメント反応性クローンBC12、及びMBP84-102フラグメント反応性クローン1B7-E4のうちいずれか1のクローン集団、もしくはそれらの複数種の混合物である、当該患者BCへの自己投与用のワクチン組成物;
b)当該有効成分が、MS患者BR由来のMBP反応性T細胞クローン群中のMBP143-168フラグメント反応性クローンBR-1、BR-3及び1G7のうちいずれか1のクローン集団、もしくはそれらの複数種の混合物である、当該患者BRへの自己投与用のワクチン組成物;
c)当該有効成分が、MS患者HM由来のMBP反応性T細胞クローン群中のMBP143-168フラグメント反応性1D5及びHM-1のうちいずれか1のクローン集団、もしくはそれらの複数種の混合物である、当該患者HMへの自己投与用のワクチン組成物;
d)当該有効成分が、MS患者CW由来のMBP反応性T細胞クローン群中のMBP143-168フラグメント反応性クローンCW-10及び1E4のうちいずれか1のクローン集団、もしくはそれらの複数種の混合物である、当該患者CWへの自己投与用のワクチン組成物;
e)当該有効成分が、MS患者GE由来のMBP反応性T細胞クローン群中のMBP84-102フラグメント反応性クローンGE-2、GE-3及びGE-4のうちいずれか1のクローン集団、もしくはそれらの複数種の混合物である、当該患者GEへの自己投与用のワクチン組成物 」
の発明が記載されているといえる(以下、上のa)?e)を順に「引用発明a」?「引用発明e」ということがあり、これらをまとめて単に「引用発明」ということがある)。

3.対比・判断
(1) 本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「MS患者由来のT細胞含有末梢血リンパ球を、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)による刺激工程、ならびに抗原提示細胞(APC)及びMBPによる複数回の刺激工程及びクローニング工程を含む方法」は、「本願発明の調製方法」、即ち「以下の工程: (a)該ワクチンで処置すべき患者由来のT細胞を、1つ以上の多発性硬化症関連抗原の免疫優性フラグメントの組合せを用いてインビトロで一次刺激する工程; (b)工程(a)において得られたT細胞を、抗原提示細胞(APC)および該免疫優性フラグメントの組合せで刺激する工程;ならびに (c)工程(b)を、1回以上繰り返す工程、 を包含」する方法に相当する。また、引用発明の刺激工程で用いられる「ミエリン塩基性タンパク質(MBP)」は全長のMBPであって、「免疫優勢な領域」であるMBP84-102領域及び143-163領域[摘記(7)]を含むところ、当該MBP84-102領域及び143-163領域はいずれも本願発明における「免疫優性フラグメント」の領域[1.(3)(3-2)(ア)及び(ウ)参照]と区別し得ない。
以上の点を踏まえると、両者は
「 患者における多発性硬化症を処置するための、
以下の工程:
(a)該ワクチンで処置すべき患者由来のT細胞を、1つ以上の多発性硬化症関連抗原又はその免疫優性フラグメントの組合せを用いてインビトロで一次刺激する工程;
(b)工程(a)において得られたT細胞を、抗原提示細胞(APC)および該抗原又はその免疫優性フラグメントの組合せで刺激する工程;ならびに
(c)工程(b)を、1回以上繰り返す工程、
を包含し、該多発性硬化症関連抗原が、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)である、
方法
に従って調製した自己T細胞ワクチン 」
の点で一致するが、
(a)?(c)の刺激工程で用いるMBP又はその免疫優性フラグメントが、本願発明では「免疫優性フラグメントの組合せ」、即ち複数種の免疫優性フラグメントの組合せ、であるのに対し、引用発明では全長のMBPである
という点において、相違する。

(2) 以下、上記相違点に関し検討する。

(2-1) 引用発明a?eの具体的な各T細胞クローン、即ち:
・引用発明aにおける、T細胞クローンBC12ならびに1B7-E4;
・引用発明bにおける、T細胞クローンBR-1、BR-3ならびに1G7;
・引用発明cにおける、T細胞クローン1D5ならびにHM-1;
・引用発明dにおける、T細胞クローンCW-10ならびに1E4;
・引用発明eにおける、T細胞クローンGE-2、GE-3ならびにGE-4;
の各単一クローンT細胞1集団は、いずれも、全長MBPに対してのみならず、本願発明の「免疫優性フラグメント」に該当するMBP143-168フラグメント又はMBP84-102フラグメントのいずれかに対し反応性(増殖応答性)を示すものであり[摘記(10)]、上述の1.での検討結果[1.(2)]によれば、「免疫優性フラグメントの組合せ」を構成する複数種の「免疫優性フラグメント」の少なくともいずれか一種に対し反応性を有する、という点において、本願発明の有効成分である「本願発明の自己T細胞」と区別し得ない。
そして、1.で述べたとおり、「本願発明の自己T細胞」としては、単一クローン由来のT細胞のみで構成されるもの(即ち、「均質な」T細胞集団)が除外されているものとは解されない(1.(3)(3-3)(iii))。
そうすると、引用発明a?eのうち、上記各単一T細胞クローン1集団のみで構成される自己T細胞を有効成分とする自己T細胞ワクチンの各態様は、有効成分である自己T細胞それ自体において、本願発明に係る自己T細胞ワクチンのそれと区別し得ない。

また、引用発明aのうち、T細胞クローンBC12及び1B7-E4を共に含む複数種のクローン混合物(即ち「不均質」なT細胞集団)を有効成分とする態様については、有効成分が別異の免疫優性フラグメントに対し反応性を有する複数種のクローンで構成されているところ、これは上述の1.(3)(3-3)の(i)の態様に相当し、本願発明における、「免疫優性フラグメント」としてMBP143-168フラグメント及びMBP84-102フラグメントの組合せを用いた刺激工程(a)?(c)を経て選択・増殖される自己T細胞を有効成分とする態様中に含まれるものといえる。
さらに、引用発明b?eのうち、上記各単一T細胞クローンを共に含む複数種のクローン混合物を有効成分とする各態様(例えば、引用発明bにおける、T細胞クローンBR-1、BR-3及び1G7の各単一T細胞クローンを共に含む細胞集団混合物を有効成分とする態様)についても、それらはいずれもMBP84-102フラグメント及びMBP143-168フラグメントのうちいずれか一方の共通のフラグメントのみに対して反応性を有するものであるが(引用発明b?dでは各混合物を構成するクローンはいずれもMBP143-168フラグメントに対して反応性を有するものであり、引用発明eでは混合物を構成するクローンはいずれもMBP84-102フラグメントに対して反応性を有するものである。なお、これら混合物も「非均質」な細胞集団といえる)、これも1.で述べたとおり、「本願発明の自己T細胞」として、「免疫優性フラグメントの組合せ」を構成する複数種の「免疫優性フラグメント」のいずれか一種のみに対し反応性を示す複数種のT細胞クローン集団混合物を由来のT細胞のみで構成されるもの(即ち「不均質な」T細胞集団)(1.(3)(3-3)(ii))を採用する態様が除外されているものとも解されない。
そうすると、引用発明a?eのうち、各引用発明における上記各単一T細胞クローン1集団を併せて複数種含むクローン混合物を有効成分とする自己T細部ワクチンの各態様もまた、有効成分である自己T細胞それ自体において、本願発明に係る自己T細胞ワクチンのそれと区別し得ない。

以上のとおり、本願発明に係る自己T細胞ワクチンは、その有効成分である自己T細胞の調製方法において引用発明に係る自己T細胞ワクチンと異なるものの、当該調製方法により得られる自己T細胞それ自体は引用発明のワクチンの有効成分である自己T細胞と区別し得ないのであるから、結局、本願発明に係る自己T細胞ワクチンは引用発明に係る自己T細胞ワクチンと区別し得ない。

したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。

(2-2) なお、請求人は、平成28年7月7日付意見書中で、平成28年2月5日付拒絶理由通知書中の審尋に対し、甲第2,4,5号証を引用しつつ、
『 したがいまして、上述した種々の文献の記載に鑑み、全長タンパク質(例えば、MBP)を用いるT細胞の選択と、ペプチド/その断片(例えば、MBPの免疫優性フラグメント)による選択とは、別個のT細胞クローン集団をもたらします。・・・。言い換えれば、本願発明の方法によって得られたT細胞集団はより不均質なものであって、・・・。かかる不均質な細胞集団は、全長MBPに由来する複数のT細胞クローン集団であって、例えば、MBPの異なる領域に対して特異性を示すT細胞クローン集団を単純に混合することによって達成することができるというようなものではありません。・・・引用文献1に記載されるような全長MBPで刺激したT細胞集団の混合物は、本願発明のT細胞集団とは異なるものです。
本願明細書においては、本願発明の方法に従って得られたT細胞クローンの不均質性に関する他の機能的側面の観点からの実験的データは開示されていないものの、当業者にとっては、上記で記載した種々の文献に鑑み、当該T細胞集団においてかかる不均質性が本来的に内在していることが明確であるものと思料します。したがって、本願発明の方法によって調製されたT細胞ワクチンは、引用文献1に記載されるように調製することができるものとは明確に区別されるものです・・・ 』
と主張している。
しかしながら、それら各甲号証(特に甲第2号証)は、本願発明のMS関連抗原の「免疫優性フラグメントの組合せ」での刺激に対し反応性を示すT細胞クローン群のレパトアが、全長MS関連抗原での刺激に対し反応性を示すT細胞クローン群のレパトアに比してより「不均質」であることを示すに過ぎず、また、かかる甲号証に基づく上記主張を踏まえても、本願発明に包含されるワクチンの有効成分である任意の自己T細胞が、引用発明のような全長MBPでの刺激工程では選択し得ない自己T細胞集団を常に含むことが、本願発明の規定から明確に把握できるわけでもない。よって、上記請求人の主張は、上述の1.における本願発明に包含されると解釈される自己T細胞ワクチンの態様についての検討結果に影響するものではない。
即ち、請求人は、引用文献1記載の引用発明a?eにおけるような、(全長MBPに対してのみならず)MBP84-102フラグメント、MBP143-168フラグメントのいずれか一方の免疫優性フラグメントに対して反応性を示す単一T細胞クローン集団(「均質」な細胞集団)、もしくはその複数種のクローン集団混合物(「不均質」な細胞集団)が、いずれも本願発明の調製方法により得られる自己T細胞ワクチンの有効成分に該当するものでないことを、何ら合理的に説明し得ていない。
したがって、請求人の上述の主張は採用できない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項9に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、他の請求項について論及するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-31 
結審通知日 2016-11-01 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2011-119771(P2011-119771)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 亜子  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 齋藤 恵
大久保 元浩
発明の名称 自己T細胞ワクチン材料および方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  

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