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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1326731
審判番号 不服2016-3152  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-01 
確定日 2017-03-28 
事件の表示 特願2012-548309号「鎮静下内視鏡手技を受ける患者に使用するマスク」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月21日国際公開、WO2011/085427、平成25年 5月16日国内公表、特表2013-517016号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成22年11月25日(パリ条約による優先権主張 2010年1月13日 オーストラリア連邦)を国際出願日とする出願であって、平成27年5月29日付けの拒絶理由通知に対し、同年9月7日付けで手続補正がされたが、同年10月23日付けで拒絶査定がされ、その後、平成28年3月1日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。


II.平成28年3月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年3月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)。
「【請求項1】
鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスクであって、
前記フェイスマスクが、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の鼻および口を被覆するように適合された本体を含み、
前記本体は、
鼻への気道陽圧供給手段と、
咬合阻止器であって、当該咬合阻止器の中に、内視鏡装置を挿入するための孔を有する前記咬合阻止器と、
前記咬合阻止器内に配置された一方向弁であって、内視鏡装置が当該一方向弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ前記一方向弁と
を含む、フェイスマスク。」

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無等
請求項1についての本件補正は、
i)請求項1に「前記フェイスマスクが、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の鼻および口を被覆するように適合された本体を含み、」なる記載を追加することで、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「フェイスマスク」が、「患者の皮膚との関係で・・・適合された本体」を含むものであると技術的に限定する補正、
ii)本件補正前の「鼻への気道陽圧供給手段と、・・・を含む、フェイスマスク」の直前に「前記本体は、」なる記載を追加することにより、「鼻への気道陽圧供給手段と、・・・」を含むとする主体を、「フェイスマスク」から「フェイスマスク」に含まれる「本体」へと技術的に限定する補正、
及び
iii)本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「咬合阻止器」に関し、「咬合阻止器の中に孔を有する前記咬合阻止器」を「咬合阻止器の中に、内視鏡装置を挿入するための孔を有する前記咬合阻止器」と技術的に限定する補正
であって、しかも、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するところはない。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。

3-1 刊行物の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許第5431158号明細書(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(括弧内に付記した邦訳は当審による。)。
1a:第3欄第53行?第4欄第2行
「SUMMARY OF THE INVENTION
Briefly, the present invention provides an improved face mask for assisting spontaneous patient respiration, where oxygen can be quickly and controllably administered to the patient in an easy and effective way, during a medical procedure involving intravenous sedation, such as endoscopy, without interfering with the procedure.・・・ An opening is provided in the mask to receive the oxygen or other respiratory gases. This opening is located near the nose of a patient and is integral with a flexible tube connected to a controllable supply of oxygen so that oxygen may be continuously supplied as needed to the patient in a controlled manner without removing the mask from the patient.」
(発明の要旨
簡潔にいえば、本発明は、患者の自発呼吸を支援するための改良されたフェイスマスクを提供するものであって、例えば、内視鏡検査のような、静脈内鎮静を伴う医療手技中にその手技を妨げることなく、患者に対して迅速かつ制御良く行われる酸素投与を、簡便かつ効果的になし得るものである。・・・マスクは、酸素又はその他の呼吸ガスを導入する開口を備える。この開口は患者の鼻の近くに位置する。また、マスクを患者から取り外すことなく、患者の必要に応じて酸素が連続的にかつ制御良く供給されるよう、この開口は、酸素制御供給源に接続された可撓性チューブと一体化される。)

1b:第4欄第44?46行
「An additional object is to provide a face mask having an external rib to serve as a seal and to facilitate patient comfort.」
(本発明における追加の目的は、シールとして機能すると共に患者の快適性を高めるための外部リブを有する、フェイスマスクの提供である。)

1c:第5欄第42?45行
「As shown in FIGS. 1 and 2, an external rib 40 surrounds the entire peripheral edge of the mask 10 and serves to seal the mask 10 from entry of undesired outside air and facilitates patient comfort. ・・・」
(図1及び2に示されるように、外部リブ40は、マスク10の周縁全体を取り囲むと共に、マスク10を不要な外気の侵入から封止し、患者の快適性を高めている。・・・)

1d:第6欄第24?30行
「As shown in FIGS. 1, 2, 3 and 4, a flexible tube 36 has an end thereof attached to the mask 10 to cover an opening 38 therein. The tube 36 is connected to suitable means (not shown) for controllably and continuously introducing oxygen or other respiratory gases into the mask 10 in accord with spontaneous patient respiratory techniques.」
(図1、2、3、4に示されるように、可撓性チューブ36の一端は、開口38を覆うようにマスク10に取り付けられる。患者の行う自発呼吸のやり方に応じて、制御良くかつ連続的に酸素又はその他の呼吸ガスをマスク10へと導入するために、該チューブ36は適宜の手段(図示せず)に連結される。)

1e:第6欄第31?37行
「As shown on FIGS. 1 and 3, a bite-block 26 of hard plastic is permanently or temporarily attached to the mask 10 for engagement by the teeth of a patient P so as to retain the mouth of the patient P in an open condition. The bite-block 26 has a central opening 30 therein adapted to receive a scope therein (not shown) for use in endoscopy. ・・・」
(図1、3に示されるように、硬質プラスチック製のバイトブロック26は、患者Pの歯と係合し、患者Pの口を開状態に保持するよう、恒久的に又は一時的にマスク10に取り付けられる。バイトブロック26は、内視鏡検査時に使用するスコープ(図示せず)の受け入れに適合する中央開口30を有する。・・・)

1f:第7欄第20行?第8欄第32行
「I Claim:
1. A respiratory mask comprising:
a concave shaped body adapted to fit over the mouth and nose of a patient, said concave shaped body having at least a surrounding peripheral edge, an internal surface and an external surface, said concave shaped body ・・・;
a monitor port connected to said concave shaped body, said monitor port・・・;
a respiratory gas inlet connected to said concave shaped body, said respiratory gas inlet・・・;
respiratory gas outlets formed in said concave shaped body and defining・・・;
and means for receiving an endoscope, said means comprising a bite block fixed to said concave shaped body, said bite block・・・.
・・・
6. The endoscopic respiratory mask of claim 1, further comprising a peripheral seal, said peripheral seal being attached to said peripheral edge of said concave shaped body.」
(特許請求の範囲
1.呼吸マスクであって、前記呼吸マスクが、
患者の口と鼻を覆うように適合された凹型本体であって、前記凹型本体は、少なくとも囲まれた周縁と内側表面と外側表面とを有し、また、前記凹型本体は・・・である、凹型本体と;
前記凹型本体に接続された監視ポートであって、前記監視ポートは・・・である、監視ポートと;
前記凹型本体に取り付けられた呼吸ガス吸入口であって、前記呼吸ガス吸入口は・・・である呼吸ガス吸入口と;
呼吸ガス吐出口であって、前記凹型本体に形成されると共に・・・である呼吸ガス吐出口と;
さらに、内視鏡を受け入れるための手段であって、前記手段は前記凹型本体に固定されたバイトブロックから成り、また、・・・である手段と、
を含むことを特徴とする呼吸マスク。
・・・
6.さらに、周囲シールであって、前記周囲シールは前記凹型本体の前記周縁に取り付けられた周囲シールを含むことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡用呼吸マスク。)

続いて図面を参照しつつ、上記の各記載について検討する。
1A)摘記事項1aの「本発明は、患者の自発呼吸を支援するための改良されたフェイスマスクを提供するものであって、例えば、内視鏡検査のような、静脈内鎮静を伴う医療手技中にその手技を妨げることなく、患者に対して迅速かつ制御良く行われる酸素投与を、簡便かつ効果的になし得るものである。」、摘記事項1fの「請求項1に記載の内視鏡用呼吸マスク」の記載からみて、摘記事項1fの「呼吸マスクであって」の「呼吸マスク」は、“内視鏡検査のような静脈内鎮静を伴う医療手技中に用いられる、患者の自発呼吸を支援するための呼吸マスク”といえる。

1B)摘記事項1bの「外部リブを有する、フェイスマスク」、摘記事項1cの「図1及び2に示されるように、外部リブ40は、マスク10の周縁全体を取り囲むと共に、マスク10を不要な外気の侵入から封止し、患者の快適性を高めている。」の各記載及び図1の図示内容からみて、摘記事項1fの「周囲シール」に対応する部材は「外部リブ40」といえるので、「周囲シール」はマスクを外気の侵入から封止するものといえる。

1C)摘記事項1aの「この開口は患者の鼻の近くに位置する。」、摘記事項1dの「可撓性チューブ36の一端は、開口38を覆うようにマスク10に取り付けられる。患者の行う自発呼吸のやり方に応じて、制御良くかつ連続的に酸素又はその他の呼吸ガスをマスク10へと導入する」の各記載によれば、摘記事項1fの「呼吸ガス吸入口」は、患者の鼻の近くに位置し、患者の行う自発呼吸のやり方に応じて、制御良くかつ連続的に酸素又はその他の呼吸ガスをマスクへと導入するためのものと分かる。

1D)摘記事項1eの「バイトブロック26は、内視鏡検査時に使用するスコープ(図示せず)の受け入れに適合する中央開口30を有する。」の記載によれば、摘記事項1fの「バイトブロック」は、その中に内視鏡検査時に使用するスコープの受け入れに適合する中央開口を有するものといえる。

よって、以上の記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「内視鏡検査のような静脈内鎮静を伴う医療手技中に用いられる、患者の自発呼吸を支援するための呼吸マスクであって、
前記呼吸マスクが、
患者の口と鼻を覆うように適合された凹型本体と、
前記凹型本体に取り付けられた呼吸ガス吸入口であって、前記呼吸ガス吸入口は、患者の鼻の近くに位置し、患者の行う自発呼吸のやり方に応じて、制御良くかつ連続的に酸素又はその他の呼吸ガスをマスクへと導入する呼吸ガス吸入口と、
内視鏡を受け入れるための手段であって、前記手段は前記凹型本体に固定されたバイトブロックから成り、前記バイトブロックは、その中に内視鏡検査時に使用するスコープの受け入れに適合する中央開口を有するものである手段と、
周囲シールであって、前記周囲シールは前記凹型本体の前記周縁に取り付けられ、マスクを外気の侵入から封止する周囲シールと
を含む呼吸マスク。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2003/0047189号明細書(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(括弧内に付記した邦訳は当審による。)。
2a:「[0035] Mask 200 also has an instrument port 214 having a tubular wall 224 thereabout and an inflatable cuff 218 therein. Inflatable cuff 218 is coupled to an inflation valve 216 which may be seen extending from the side of instrument port wall 224. Instrument port 214 includes a lumen or central aperture 220 therethrough, the inside diameter which may be varied through the inflation or deflation of cuff 218.・・・
[0036] Referring now to FIG.5, mask 200 may be seen in cross-section, disposed again on the face of the patient 202. Mask 200 is as described with respect to FIG.4. Breathing circuit port 208 may be seen coupled to breathing circuit tube 212. A fiber optic laryngoscope 250 may be seen disposed through instrument port 214, through an airtight seal formed between fiber optic tube 250 and inflated cuff 218. Fiber optic tube 250 may be slide through a tightly sealed and partially inflated cuff 218. Fiber optic tube 250 may be seen to have a distal end 252, disposed within a larynx 290. Fiber optic laryngoscope distal tip 252, in other medical procedures, may be inserted within the esophagus 292 or nasal cavity 294.
[0037]・・・It should be noted, with respect to FIG.4, that general anesthesia and positive pressure ventilation may already have begun for the patient illustrated in FIG. 4 , reducing the concern about the possibility of anesthesia induced cessation of spontaneous breathing. ・・・」
(マスク200は、また、器具ポート214を有し、この器具ポート214は、その周囲に筒状壁224を、その内部に膨張カフ218を備える。膨張カフ218は、器具ポート壁224の側部から延びる膨張用バルブ216と接続されている。器具ポート214は、ルーメン又は中央開口220を含み、その内径は、カフ218の膨縮により変化する。・・・
ここで図5を参照すると、断面として見られるマスク200は、患者202の顔面上に配置されている。マスク200は、図4に関連して既述したものである。図5に見られるように、呼吸回路チューブ212は呼吸回路ポート208に接続され、光ファイバ喉頭鏡250は器具ポート214を通して配置され、光ファイバ管250と膨張カフ218の間は気密シールされる。光ファイバ管250は、部分的に膨張して密閉するカフ218を通って滑動できる。光ファイバ管250の遠位端252は喉頭290内に位置しているが、他の医療手技においては、光ファイバ喉頭鏡の遠位チップ252を、食道292や鼻腔294内に挿入することができる。
・・・図4に関し、留意すべきは、同図に示す患者に対し、全身麻酔及び陽圧換気を既に開始済みとし得ることであり、この開始により、麻酔誘導される自発呼吸停止の可能性についての懸念が低減される。・・・)

2b:「Experimental Results
[0044] Methods: An aperture 1.5 inches in diameter was created over the dome of an anesthesia face mask. An inflatable diaphragm, made of polyvinylchloride, was soldered to the periphery of the aperture. Inflation of the diaphragm with 10-15 cc of air completely closed the aperture and deflation opened the diaphragm. A bronchoscope was introduced through the mask aperture and the diaphragm inflated to provide an air tight seal around the bronchoscope. ・・・The results are summarized in Table 1. Using the mask, fiberoptic intubation was accomplished without difficulty at varying degrees of positive pressure ventilation. Even at high airway pressures, air leak was minimal and minute ventilation adequate.」
(実験結果
方法:麻酔フェイスマスクのドーム上に、直径1.5インチの開口を形成した。この開口の周囲に、ポリ塩化ビニル製の膨張ダイヤフラムを接合した。ダイヤフラムを10-15ccの空気により膨張させると開口は完全に閉鎖し、収縮させるとダイヤフラムが開いた。気管支内視鏡がマスク開口に挿入され、膨張したダイヤフラムによって気密シールが内視鏡の周囲に形成された。・・・結果を表1に示す。このマスクを用いると、光ファイバの挿管が、陽圧換気の様々なレベルで無理なく達成された。気道内圧が高くても、空気漏れは最小限であり、分時換気量は十分であった。)

2c:「What is claimed is:
・・・
19. A face mask for placement on the face of a patient, the face mask comprising:
a mask wall having a generally concave interior shape, the mask wall having a first aperture therethrough and a second aperture therethrough, wherein the first aperture has an adjustable inside diameter.
・・・
23. A face mask as in claim 19 , wherein the first aperture has an inner wall defined by a plurality of members, wherein the members have an open position and a closed position, wherein the members are movable between the open and the closed position for decreasing the first aperture inside diameter.
・・・」
(特許請求の範囲:
19.患者の顔面に装着するためのフェイスマスクであって、
前記マスクは、概ね凹型の内部形状を有するマスク壁を含み、
前記マスク壁は、第1開口及び第2開口を有し、
前記第1開口の内径は、調整可能であるフェイスマスク。
・・・
23.請求項19に記載のフェイスマスクであって、
前記第1開口は、多部材から成る内壁を有し、
前記多部材は、開位置と閉位置を持ち、
前記多部材は、第1開口の内径を縮小させるために、開位置と閉位置との間で移動可能であるフェイスマスク。
・・・)

続いて図面を参照しつつ、上記の各記載について検討する。
2A)摘記事項2aの「図4に関し、留意すべきは、同図に示す患者に対し、全身麻酔及び陽圧換気を既に開始済み」の記載によれば、摘記事項2cの「フェイスマスク」は、患者に陽圧換気を提供する「マスク」といえる。

2B)摘記事項2aの「光ファイバ喉頭鏡250は器具ポート214を通して配置され、光ファイバ管250と膨張カフ218の間は気密シールされる。光ファイバ管250は、部分的に膨張して密閉するカフ218を通って滑動できる。」の記載によれば、摘記事項2cの「第1開口」とは、光ファイバ管250がその中を通って、開口内を滑動できる「開口」であり、また、摘記事項2cの「開位置」とは、光ファイバ管250が通された際に、光ファイバ管250が気密シールされて滑動できる「位置」と把握できる。
さらに、摘記事項2bの「膨張したダイヤフラムによって気密シールが内視鏡の周囲に形成された。・・・このマスクを用いると、光ファイバの挿管が、陽圧換気の様々なレベルで無理なく達成された。気道内圧が高くても、空気漏れは最小限であり、」の記載を併せみると、摘記事項2cの「フェイスマスク」において、第1開口内での気密シールにより、光ファイバ周囲からの空気漏れが最小限となることも分かる。

2C)摘記事項2bの「ダイヤフラムを10-15ccの空気により膨張させると開口は完全に閉鎖し、収縮させるとダイヤフラムが開いた。」の記載によれば、摘記事項2cの「閉位置」は、完全に閉鎖する位置を含む「位置」といえる。

よって、以上の各記載及び図面の図示内容を総合すれば、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「患者に陽圧換気を提供するフェイスマスクであって、
前記マスクは、マスク壁を含み、
前記マスク壁は、第1開口及び第2開口を有し、
前記第1開口は、多部材から成る内壁を有し、
前記多部材は、光ファイバ管がその中を通って開口内を気密シールされて滑動できる開位置と、完全に閉鎖する位置を含む閉位置とを持ち、
前記多部材は、開位置と閉位置との間で移動可能であり、
前記第1開口の内径は、調整可能であり、
前記気密シールにより、光ファイバ管周囲からの空気漏れが最小限となる
フェイスマスク。」

3-2 対比
本願補正発明と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「内視鏡検査のような静脈内鎮静を伴う医療手技」、「呼吸マスク」は、文言の意味、形状、機能等からみて、それぞれ本願補正発明の「鎮静下内視鏡手技」、「フェイスマスク」に相当する。
引用発明1の「呼吸マスク」は、「患者の自発呼吸を支援するための呼吸マスク」であるから、患者用の「呼吸マスク」であることは明らかである。
また、引用発明1の「呼吸マスク」は、「内視鏡検査のような静脈内鎮静を伴う医療手技中に用いられる」ものであるところ、当該「手技」が患者の受ける「手技」であることも明らかである。
してみると、引用発明1は、「鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスク」である点で本願補正発明と一致する。
(イ)引用発明1の「患者の口と鼻を覆うように適合された」、「凹型本体」は、文言の意味、形状、機能等からみて、それぞれ本願補正発明の「患者の鼻および口を被覆するように適合された」、「本体」に相当する。
また、引用発明1は、「凹型本体の前記周縁に取り付けられ、マスクを外気の侵入から封止する周囲シール」を含むところ、引用発明1の「凹型本体」が、「患者の口と鼻を覆うように適合され」ていることを踏まえれば、引用発明1の当該「封止」とは、マスクと患者の顔面との間の「封止」であるものと把握できる。
よって、患者の顔面に皮膚が存在することが自明であることを考慮すると、引用発明1は、「フェイスマスクが、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の鼻および口を被覆するように適合された本体を含み、」なる事項を具備する点で本願補正発明と一致する。
(ウ)引用発明1の「呼吸ガス吸入口」は、「凹型本体に取り付けられ」ているのであるから、引用発明1の「凹型本体」は、「呼吸ガス吸入口」を含むものである。
また、引用発明1では、「呼吸ガス吸入口」が、「患者の行う自発呼吸のやり方に応じて、制御良くかつ連続的に酸素又はその他の呼吸ガスをマスクへと導入」して、「患者の自発呼吸を支援する」というのであるから、「呼吸ガス吸入口」により導入された酸素又はその他の呼吸ガスは、患者の体内に取り込まれて、気道の陽圧化に寄与していることは明らかである。
さらに、引用発明1の「呼吸ガス吸入口」が、「患者の鼻の近くに位置し」ていること及び引用発明1の「呼吸マスク」の全体構造からみて、引用発明1では、「呼吸ガス吸入口」により導入された酸素又はその他の呼吸ガスは、主として患者の鼻を経由して体内に取り込まれるものといえる。
そうすると、引用発明1の「患者の鼻の近くに位置し、患者の行う自発呼吸のやり方に応じて、制御良くかつ連続的に酸素又はその他の呼吸ガスをマスクへと導入する呼吸ガス吸入口」は、本願補正発明の「鼻への気道陽圧供給手段」に相当するものといえるので、引用発明1は、「本体は、鼻への気道陽圧供給手段」を含む点で、本願補正発明と一致する。
(エ)引用発明1の「バイトブロックから成」る「内視鏡を受け入れるための手段」は、その機能、形状等からみて、本願補正発明の「咬合阻止器」に相当する。
同様に、引用発明1の「その中に内視鏡検査時に使用するスコープの受け入れに適合する中央開口」は、本願補正発明の「咬合阻止器の中に、内視鏡装置を挿入するための孔」に相当する。
また、引用発明1の「バイトブロック」は、「凹型本体に固定され」ているのであるから、引用発明1の「凹型本体」は、「バイトブロックから成」る「内視鏡を受け入れるための手段」を含むものである。
よって、引用発明1は、「本体は、」「咬合阻止器であって、当該咬合阻止器の中に、内視鏡装置を挿入するための孔を有する前記咬合阻止器」を含む点で、本願補正発明と一致する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスクであって、
前記フェイスマスクが、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の鼻および口を被覆するように適合された本体を含み、
前記本体は、
鼻への気道陽圧供給手段と、
咬合阻止器であって、当該咬合阻止器の中に、内視鏡装置を挿入するための孔を有する前記咬合阻止器と、
を含む、フェイスマスク。

(相違点)
本願補正発明が、「咬合阻止器内に配置された一方向弁であって、内視鏡装置が当該一方向弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ前記一方向弁」を含むのに対し、引用発明1は、このような一方向弁を含むものではない点。

3-3 判断
(1)本願補正発明における「一方向弁」について
本願明細書における「一方向弁は、好ましくは、実質的に円形のドーナツ状バルーンを含む。あるいは、一方向弁は、内視鏡が入るように寸法決めされた中央の円形の孔を備えたゴム膜でよい。ゴム膜の孔は、好ましくは、内視鏡よりも僅かに小さい寸法のものである。ゴム膜の孔はまた、より大きい器具、例えば拡張が必要な食道構造を有する患者用の60フレンチブギーまたは拡張器に合わせて寸法決めすることができる。・・・」(段落【0021】)の記載を参酌すれば、本願補正発明における「一方向弁」は、請求項1に記載された「内視鏡装置が当該一方向弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ」という機能を備える弁状部材の総称と解され、“特別の逆止構造を有する弁”とのみに限定して解すべき根拠は見当たらない。
このことは、本件補正後の特許請求の範囲において、上位概念の技術思想が記載された請求項1を引用する請求項16に「前記一方向弁が、実質的に円形のドーナツ状バルーンを含む、・・・」と、同じく請求項1を引用する請求項17に「前記一方向弁が、内視鏡が入るように寸法決めされた中央の円形の孔を備えたゴム膜である・・・」と記載されていることとも整合するところである。

(2)引用発明2について
引用発明2においては、「多部材」が、第1開口内に内壁を成すよう配置され、「移動可能」なため、「第1開口の内径は、調整」されて、フェイスマスク内外での「空気の漏れ」量が定まるものといえるので、引用発明2の「多部材」は、「空気の漏れ」量を定める弁として機能していることは明らかである。
また、引用発明2の「第1開口」、「光ファイバ管がその中を通って開口内を気密シールされて滑動できる開位置」、「完全に閉鎖する位置を含む閉位置」は、それぞれ“孔”、“内視鏡装置が当該弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置”、“孔を実質的に封止する閉位置”と言い換えることができる。
そうすると、引用発明2は、“フェイスマスクの孔内に配置された弁であって、内視鏡装置が当該弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ前記弁”なる事項を実質的に具備する発明といえるし、しかも、この「フェイスマスクの孔内に配置された弁」は、上記(1)の検討を踏まえると、本願補正発明における「一方向弁」なる概念に包含される「弁」といえる。

(3)相違点の判断
引用例1に「本発明における追加の目的は、シール」(摘記事項1b)、「マスク10を不要な外気の侵入から封止」(摘記事項1c)と記載されるように、引用発明1は、顔面に装着したマスクの内外で不要な流体連通が生じることのないシールを目的とするものである。
そして、引用発明1の「マスク」では、「バイトブロック」が、「内視鏡検査時に使用するスコープの受け入れに適合する中央開口を」を有するというのであるから、マスクのこのような構造からして、引用発明1の「中央開口」が、不要な流体連通が生じる経路となり得ることは、引用例1の記載に接した当業者であれば、容易に認識できる技術課題といえる。
引用発明1及び2は、いずれも発明の属する技術分野が、内視鏡装置が通過する孔を含み、陽圧換気を患者に提供するマスクという技術分野において共通することから、引用発明1において、上記の技術課題を解決し、「シール」の強化を図るために、その孔(中央開口)に引用発明2の上記弁を適用して、相違点における本願補正発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、本願補正発明の効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし39に係る発明は、平成27年9月7日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし39に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスクであって、
鼻への気道陽圧供給手段と、
咬合阻止器であって、当該咬合阻止器の中に孔を有する前記咬合阻止器と、
前記咬合阻止器内に配置された一方向弁であって、内視鏡装置が当該一方向弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ前記一方向弁と
を含む、フェイスマスク。」


IV.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。


V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、前記II.2で指摘した限定事項を省いたものに相当する発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2、3-3に示したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲

 
審理終結日 2016-10-27 
結審通知日 2016-10-31 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2012-548309(P2012-548309)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 将彦上田 真誠  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 関谷 一夫
橘 均憲
発明の名称 鎮静下内視鏡手技を受ける患者に使用するマスク  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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