• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1326809
審判番号 不服2016-10510  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-12 
確定日 2017-04-25 
事件の表示 特願2012- 91024「超音波診断装置及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-215524、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月12日を出願日とする出願であって、平成28年1月18日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月18日に意見書が提出されたが、同年4月7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
これに対して、同年7月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出され、当審において平成29年1月11日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月8日に意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願発明
本願の請求項1-7に係る発明は、平成29年3月8日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して、造影剤を投与された被検体内部を超音波で走査する走査部と、
前記走査部から出力される受信信号に基づいて直交検波信号を生成し、複数の前記直交検波信号からなるパケット信号を出力する信号生成部と、
前記パケット信号に含まれる血流成分に対応する通過帯域を有する、非線形信号に対してのバンドパスフィルタと、
前記パケット信号に含まれる組織灌流成分及び血流成分に対応する通過帯域を有する、前記非線形信号に対してのローパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力に対応する画像に対して最大値保持演算処理をかけることにより第1表示画像を生成する最大値保持演算処理部と、
前記第1表示画像、及び前記ローパスフィルタの出力に対応する第2表示画像を表示する表示部と
を具備する超音波診断装置。」


第3 原査定及び当審拒絶理由の概要
1 原査定の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献A:特開2005-177338号公報
引用文献B:特開2002-153462号公報
引用文献C:特開平06-154216号公報
引用文献D:特開2006-247122号公報
引用文献E:特開2006-110360号公報
引用文献F:特開平04-307041号公報
引用文献G:特表2003-528668号公報

引用文献Aには、複数の振動子からなるアレイ振動子が設けられており、アレイ振動子によって形成された超音波ビームが電子的に走査される超音波探触子、直交検波部、異なるフィルタ特性が設定されている高域通過やバンドパスフィルタからなるウォールフィルタが設けられている複数のフィルタ部、パワー演算部、加算器、表示処理部、表示部、操作パネルが設けられている制御部を備え、直交検波部で生成された複素信号を、複数のフィルタ部のそれぞれでフィルタリングし、異なる周波数特性を持つ複数のパワードプラ画像を演算し、各パワードプラ画像に重みをつけて合成したパワードプラ画像を表示する、超音波診断装置の発明が記載されている。
引用文献Aに記載されている発明において、血流信号の増強と、フレームレートを低下させずにモーションアーチファクトを除去するということを目的として、引用文献B、Cに記載されている発明と周知技術を参酌して、本願発明のごとく構成することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、本願発明は、引用文献Aに記載された発明及び引用文献B-Gに記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

2 当審拒絶理由の概要
(1) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明には、血管血流の微細構造の視認性を向上させる画像を表示するという課題(段落[0017])を解決するために、「セカンドハーモニック(2次高調波)成分」に対して(段落[0058])、血流成分に対応する通過帯域を有する「バンドパスフィルタ(Bandpassフィルタ)」としての第1ウォールフィルタを使用し、かつ、組織灌流及び血流成分に対応する通過帯域を有する「ローパスフィルタ(Lowpassフィルタ)」としての第2ウォールフィルタを使用して、それぞれ画像を得ることしか記載されていない(段落[0060]、[0068])。
しかしながら、請求項1-7には、第1ウォールフィルタ及び第2ウォールフィルタについて、「セカンドハーモニック(2次高調波)成分」に対しての「バンドパスフィルタ」及び「ローパスフィルタ」であるという上記事項が特定されていない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

(2) 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2006/126684号(当審において新たに引用された文献)
引用文献2:特開2005-177338号公報(原査定の引用文献A)
引用文献3:特開2006-247122号公報(原査定の引用文献D)
引用文献4:特開2006-110360号公報(原査定の引用文献E)
引用文献5:特開平04-307041号公報(原査定の引用文献F)
引用文献6:特表2003-528668号公報(原査定の引用文献G)

引用文献1には、超音波診断装置において、造影剤由来の信号を強調するために、造影剤の信号強度が大となる高調波3F0近傍の周波数帯域持つ周波数帯域分離手段を通した画像(段落[0032]、C≒1、A≒B≒0とした時の画像)を表示すること、及び、生体由来の信号を強調するために、生体及び造影剤の信号強度が大となる基本波F0近傍の周波数帯域を持つ周波数帯域分離手段を通した画像(段落[0032]、A≒B≒0.5、C≒0とした時の画像)を表示することが記載されている。
ここで、引用文献1の背景技術として段落[0003]で引用された特開平11-76231号公報には、造影剤を注入して血流を観察することが記載されているから、引用文献1に記載された造影剤由来の信号が、血流を示すものであることは明らかである。
また、引用文献1の基本波F0は高調波3F0と比べて低周波であって、F0近傍の周波数帯域分離手段を通した画像には、静的生体や動的生体の比較的緩慢な成分が抽出されることになるから(段落[0029]、[表2])、同様に組織灌流等の比較的緩慢な成分も抽出されることになるのは明らかである。
一方、血流を造影する超音波診断装置において、受信信号に基づいて「直交検波信号」を生成する技術は従来周知であるし(例えば引用文献2の直交検波部13を参照。)、造影剤から生じる血流を示す高周波成分にのみ「最大値保持演算」を行うことも従来周知である(例えば引用文献3の段落[0007]、[0043]、[0050]-[0052]を参照。)。
引用文献1に記載された発明において、血流を造影するために、上記周知技術をそれぞれ採用することはことは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。


第4 当審拒絶理由(上記第3の2(2))についての判断
本願発明の進歩性の判断について、当審拒絶理由(上記第3の2(2))の引用文献1が、本願発明に最も関連する先行技術文献であるため、まず当審拒絶理由(上記第3の2(2))について判断し、その後、第5で原査定について判断する。

1 引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は参考のため当審が付与した。)。
(1) 「技術分野
[0001]
本発明は、被検体の診断画像として超音波像を撮像する装置及び表示する方法に関する。
背景技術
[0002]
被検体の診断画像として超音波像を撮像する超音波診断装置は、超音波探触子を介して被検体との間で超音波を送受し、超音波探触子から出力される受信信号に基づき超音波像を再構成するものである。
[0003]
このような超音波診断装置においては、超音波造影剤(以下、造影剤という)の染影効果を画像化するいわゆるハーモニックイメージング法が知られている。例えば、被検体に造影剤を投与して診断部位に拡散させる。拡散した造影剤に超音波を照射すると、造影剤の非線形性に由来する高調波が発生する。発生した高調波を検出して画像化することにより、血管形状の診断や、組織を鑑別することが行われる(例えば、特許文献1)。
特許文献1:特開平11-76231号公報
[0004]
ところで、造影剤を投与した被検体に超音波を照射すると、造影剤由来の高調波のほか、臓器などの生体組織からも高調波が拡散する。それら高調波を検出して画像化すると、造影剤由来の高調波に生体由来の高調波がブラインドノイズとして重畳して表示される。したがって、例えば造影剤由来の信号を超音波像上で的確に視認することが困難になり、造影剤の染影状態を把握できない場合がある。特許文献1のような方式は、このような点について配慮していない。また、2次高調波成分を除去する局所フィルタを用いているため、必要になるコントラストエコー信号も削除されてしまい、コントラストエコー信号の信号強度が落ちてしまう。したがって、その分、画質が悪くなってしまう恐れがある。
[0005]
そこで、造影剤由来の信号と生体由来の信号をより鮮明に画像化することが求められている。本発明の課題は、造影剤由来の信号と生体由来の信号をより鮮明に画像化するのに好適な超音波診断装置及び超音波画像表示方法を実現することにある。」

(2) 「[0009]
本発明を適用した超音波診断装置の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、超音波診断装置は、被検体との間で超音波を送受する超音波探触子としての広帯域探触子10(以下、探触子10という)と、探触子10に駆動信号を送受分離手段11を介して供給する送信手段12と、探触子10から送受分離手段11を介して出力される受信信号を受信処理する受信手段14と、受信手段14から出力される信号に処理を施す信号処理手段16と、信号処理手段16から出力される受信信号に基づき超音波像を再構成する画像処理手段18と、画像処理手段18から出力される超音波像を表示する表示手段20と、各部に制御指令を出力する制御手段21を備えている。なお、図示の便宜上、制御手段21から出力する制御指令の流れを示す線図を省略する。
[0010]
ここで本実施形態の超音波診断装置に適用する信号処理手段16は、受信信号の信号強度を周波数帯域ごとに検出する複数の信号強度検出手段36-1?36-mと、信号強度検出手段36-1?36-mから出力される信号強度と受信信号に基づき時間変化量を検出する経時変化検出手段22-1?22-mを有する。そして、画像処理手段18は、信号強度検出手段36-1?36-mから出力される信号強度と経時変化検出手段22-1?22-mから出力される時間変化量に基づき、超音波像の造影剤由来の信号と生体由来の信号とを強調する強調表示用演算手段24を備えている。」

(3) 「[0013]
信号処理手段16は、受信手段14から出力される受信信号を周波数帯域ごとに分けて抽出する複数の周波数帯域分離手段32-1?32-mと、各周波数帯域分離手段32-1?32-mから出力される信号に所定の係数を乗算して超音波伝播時間に応じた補正を施す複数の乗算手段34-1?34-mと、各乗算手段34-1?34-mから出力される信号の強度を検出する複数の信号強度検出手段36-1?36-mと、各乗算手段34-1?34-m及び信号強度検出手段36-1?36-mから出力される信号の時間変化量を検出する複数の経時変化検出手段22-1?22-mとを備えている。また、各周波数帯域分離手段32-1?32-mに付与する抽出帯域の制御係数を設定する帯域制御係数設定手段38と、各乗算手段34-1?34-mに付与する乗算係数を設定する乗算係数設定手段40を有する。なお、自然数mは、抽出すべき周波数帯域の数に対応している。
[0014]
周波数帯域分離手段32-1?32-mは、それぞれが帯域通過フィルタ(BPF)を有する。信号強度検出手段36-1?36-mは、絶対値演算手段や搬送波の除去処理手段などを有する。経時変化検出手段22-1?22-mは、高域通過フィルタや積算手段を有する。接続形態としては、例えば、周波数帯域分離手段32-1は、乗算手段34-1を介して、信号強度検出手段36-1と経時変化検出手段22-1との双方に接続されている。周波数帯域分離手段32-1を代表して説明したが、他の周波数帯域分離手段32-2?32-mも同様に、乗算手段34-2?34-mを介して、信号強度検出手段36-2?36-mと経時変化検出手段22-2?22-mに接続されている。
[0015]
経時変化検出手段22-1は、乗算手段34-1から出力される受信信号と信号強度検出手段36-1から入力される信号強度に基づき、経時変化パラメータを検出する。ここでの経時変化パラメータとは、超音波繰り返し間隔での単位時間変化量と、超音波繰り返し間隔での所定時間変化総和量と、フレーム間隔での所定時間変化総和量である。ここでいう超音波繰り返し間隔とは、探触子10から同一走査ラインに対して超音波パルスを繰り返して送波する周期(PRF)に対応し、走査線繰り返し間隔と称してもよい。フレーム間隔とは、超音波像の1フレーム分に対応する超音波パルスの送波を開始してから、次のフレームに対応する超音波パルスの送波を開始するまでの間隔に対応する。経時変化検出手段22-1を代表して説明したが、他の経時変化検出手段22-2?22-mも同様である。
[0016]
画像処理手段18は、信号強度検出手段36-1?36-mにより検出された信号強度と経時変化検出手段22-1?22-mにより検出された経時変化パラメータを周波数帯域ごとに記憶する複数のバッファメモリ42-1?42-mを備えている。また、各バッファメモリ42-1?42-mから読み出された信号強度や経時変化パラメータに基づいて、超音波像の各ピクセルの情報が生体由来のものか、造影剤由来のものかを判別する判定手段としての強調表示用演算手段24と、強調表示用演算手段24の判定結果に基づき、超音波像の各ピクセルの情報に彩度、明度、色相を割り当てるカラーエンコードテーブル44と、カラーエンコードテーブル44から出力される信号を合成して超音波像を構成するフレーム合成手段46とが設けられている。また、カラーエンコードテーブル44のカラーマップの切替えや、カラーマップの色相を調整するテーブル設定手段48が配設されている。」

(4) 「[0021]
まず、被検体に超音波造影剤(以下、造影剤という)を投与して診断部位に拡散させる。また被検体の体表に探触子10を接触させる。撮像開始指令に応じ、送信手段12により駆動信号が生成される。生成された駆動信号が送受分離手段11を介して探触子10に供給されると、探触子10から超音波が被検体に送波される。この送波において、探触子10からは探触子10の帯域幅をほぼn分割した分割点(内部点)の最も低い周波数(CF0)で超音波を送波する。なお、同一走査ラインに対して単数又は複数(例えば2個)のパルス波が超音波繰り返し間隔(PRF)で送波される。各走査ラインについても同様にパルス波が送波される。なお、走査ライン数については、超音波像の撮像視野の大きさと方位方向分解能に対応して設定されている。」

(5) 「[0024]
信号処理手段16に入力した受信信号は、周波数帯域分離手段32-1?32-mのそれぞれに入力され、ここにおいてm種類の設定周波数帯域ごとに分離抽出された受信信号になる。例えば、図2に示すように、受信信号に含まれる基本波(F0)に対応する信号は、周波数帯域分離手段32-1により抽出される。受信信号に含まれる二次高調波(2F0に対応する信号は、周波数帯域分離手段32-2により抽出される。受信信号に含まれる三次高調波(3F0対応する信号は、周波数帯域分離手段32-3により抽出される。なお、この形態に限らず、高次高調波成分を抽出することに加えて、中間周波(例えば、Sub Harmonic、1.5 Harmonic、3rd Harmonic)を抽出してもよい。
[0025]
各周波数帯域分離手段32-1?32-mから出力される信号は、図3に示すように、乗算手段34-1?34-mにより信号強度が補正される。例えば、周波数帯域分離手段32-1から出力された受信信号は、乗算手段34-1に入力され、ここで所定の乗算係数が乗算されて信号強度が補正される。同様に、周波数帯域分離手段32-2から出力された受信信号は乗算手段34-2により、また周波数帯域分離手段32-3から出力された受信信号は乗算手段34-3によりそれぞれ補正される。」

(6) 「[0029]
ここでの経時変化パラメータについて補足する。単位時間変化量については、信号強度が大きくかつ急激な変化のときに大きくなるが、信号強度が小さくかつ変化が緩やかなときに小さくなる。所定時間変化総和量は、所定時間における単位時間変化量の総和であり、所定時間の単位時間変化が大きくかつ継続するときに大きくなるが、単位時間変化が小さくかつ単発なときに小さくなる。より具体的に言えば、造影剤、静的生体組織(例えば腎臓)、動的生体組織(例えば心臓や血管)、血球に関しては、超音波周波数帯域および時間変化量には表2に示すような特徴がある。表2に示すように、造影剤の特徴は、生体との音響インピダンスの差が大きいために信号強度が大きなものになる点や、超音波の照射による体積変化が非線形に振動するために基本波、二次高調波、三次高調波ともに大きなものになる点や、比較的移動しやすいために単位時間変化量、所定時間変化総和量ともに大きなものになる点にある。生体組織の特徴は、造影剤よりも体積が変化しないために比較的三次高調波が小さい点にある。例えば、静的生体組織の特徴は、信号強度は大きいものとなるが、動きが少ないために単位時間変化量及び所定時間変化量がともに小さなものになる。動的生体組織の特徴は、信号強度は大きいものになるが、ゆっくり移動するために超音波繰り返し間隔の単位時間変化量は比較的小さなものに、フレーム間隔の所定時間変化総和量は大きいものになる。血球の特徴は、生体組織よりも信号強度が小さなものになるが、体内を自由に移動するために単位時間変化量および所定時間変化総和量は静的生体組織よりも大きいものになる。
[表2]



(7) 「[0031]
より詳細に強調表示用演算手段24の処理内容を説明する。まず、信号処理手段16により各周波数帯域に分離された信号のそれぞれは、造影剤由来の信号と生体由来の信号が重畳している。このことは基本波(F0)の信号Sig(F0)、二次高調波(2F0)の信号Sig(2F0)、三次高調波(3F0)の信号Sig(3F0)についても同様である。
[0032]
そして強調表示用演算手段24により造影剤由来の信号と生体由来の信号とを強調するための演算式として数式(1)が与えられている。数式(1)のA、B、Cは各信号に乗算される重み係数である。
A・Sig(F0)+B・Sig(2F0)+C・Sig(3F0) (1)
数式(1)に基づき、造影剤由来信号強調係数による演算や、生体由来信号強調係数による演算や、強調処理しない演算が強調表示用演算手段24により実行される。より具体的には、造影剤は、弾性体を超音波が伝播する非線形現象に加え、造影剤の元の半径に応じて、硬さと慣性の結果から共振周波数を有する(例えばIEEE Ultrasonics Symposium 1996 P1451)。このため造影剤由来の信号は比較的高次の高調波もある程度の信号強度を有するが、生体由来の信号は比較的高次の高調波の信号強度は小さなものになる。したがって、造影剤由来の信号を強調したいときは、重み係数を“C≒1、A≒B≒0”として数式(1)を演算する。生体由来の信号を強調したいときは、重み係数を“A≒0.5?1.0、B≒0.5?1.0、C≒0?-1.0”として数式(1)を演算する。ここでのA、B、Cの総和は一定値(例えば、「1」)に設定される。また強調処理をしない場合は、重み係数を“C≒A≒B≒1/3”として数式(1)を演算する。」

(8) 図1には、以下の図面が示されている。


(9) 図3には、以下の図面が示されている。


2 引用文献1に記載された発明の認定
引用文献1の上記1(1)-(9)の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、上記1(5)に記載された「二次高調波(2F0」及び「三次高調波(3F0」は、それぞれ、「二次高調波(2F0)」及び「三次高調波(3F0)」の誤記であることが明らかであるから、当該誤記を訂正して引用発明を認定した。

「超音波診断装置であって、
被検体との間で超音波を送受する超音波探触子としての広帯域探触子10(以下、探触子10という)と、探触子10に駆動信号を送受分離手段11を介して供給する送信手段12と、探触子10から送受分離手段11を介して出力される受信信号を受信処理する受信手段14と、受信手段14から出力される信号に処理を施す信号処理手段16と、信号処理手段16から出力される受信信号に基づき超音波像を再構成する画像処理手段18と、画像処理手段18から出力される超音波像を表示する表示手段20と、各部に制御指令を出力する制御手段21を備え、
信号処理手段16は、受信手段14から出力される受信信号を周波数帯域ごとに分けて抽出する複数の周波数帯域分離手段32-1?32-mと、各周波数帯域分離手段32-1?32-mから出力される信号に所定の係数を乗算して超音波伝播時間に応じた補正を施す複数の乗算手段34-1?34-mと、各乗算手段34-1?34-mから出力される信号の強度を検出する複数の信号強度検出手段36-1?36-mと、各乗算手段34-1?34-m及び信号強度検出手段36-1?36-mから出力される信号の時間変化量を検出する複数の経時変化検出手段22-1?22-mとを備えており、周波数帯域分離手段32-1?32-mは、それぞれが帯域通過フィルタ(BPF)を有するものであり、
画像処理手段18は、信号強度検出手段36-1?36-mにより検出された信号強度と経時変化検出手段22-1?22-mにより検出された経時変化パラメータを周波数帯域ごとに記憶する複数のバッファメモリ42-1?42-mを備えており、各バッファメモリ42-1?42-mから読み出された信号強度や経時変化パラメータに基づいて、超音波像の各ピクセルの情報が生体由来のものか、造影剤由来のものかを判別する判定手段としての強調表示用演算手段24が設けられており、
まず、被検体に超音波造影剤を投与して診断部位に拡散させ、また被検体の体表に探触子10を接触させ、撮像開始指令に応じ、送信手段12により駆動信号が生成され、生成された駆動信号が送受分離手段11を介して探触子10に供給されると、探触子10から超音波が被検体に送波され、同一走査ラインに対して単数又は複数のパルス波が超音波繰り返し間隔で送波され、各走査ラインについても同様にパルス波が送波され、走査ライン数については、超音波像の撮像視野の大きさと方位方向分解能に対応して設定されており、
信号処理手段16に入力した受信信号は、周波数帯域分離手段32-1?32-mのそれぞれに入力され、受信信号に含まれる基本波(F0)に対応する信号は、周波数帯域分離手段32-1により抽出され、受信信号に含まれる二次高調波(2F0)に対応する信号は、周波数帯域分離手段32-2により抽出され、受信信号に含まれる三次高調波(3F0)対応する信号は、周波数帯域分離手段32-3により抽出され、
強調表示用演算手段24により造影剤由来の信号と生体由来の信号とを強調するための演算式として数式(1)が与えられており、数式(1)のA、B、Cは各信号に乗算される重み係数であり、
A・Sig(F0)+B・Sig(2F0)+C・Sig(3F0) (1)
造影剤由来の信号は比較的高次の高調波もある程度の信号強度を有するが、生体由来の信号は比較的高次の高調波の信号強度は小さなものになり、造影剤由来の信号を強調したいときは、重み係数を“C≒1、A≒B≒0”として数式(1)を演算し、生体由来の信号を強調したいときは、重み係数を“A≒0.5?1.0、B≒0.5?1.0、C≒0?-1.0”として数式(1)を演算し、ここでのA、B、Cの総和は一定値(例えば、「1」)に設定されるものである、
超音波診断装置。」

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「広帯域探触子10」は、本願発明の「超音波プローブ」に相当する。

(2) 引用発明の「超音波造影剤を投与」された「被検体」は、本願発明の「造影剤を投与された被検体」に相当し、引用発明の「被検体の体表に探触子10を接触させ、撮像開始指令に応じ、送信手段12により駆動信号が生成され、生成された駆動信号が送受分離手段11を介して探触子10に供給されると、探触子10から超音波が被検体に送波され、同一走査ラインに対して単数又は複数のパルス波が超音波繰り返し間隔で送波され、各走査ラインについても同様にパルス波が送波され、走査ライン数については、超音波像の撮像視野の大きさと方位方向分解能に対応して設定」するための走査に関する構成が、本願発明の「前記超音波プローブを介して、造影剤を投与された被検体内部を超音波で走査する走査部」に相当する。

(3) 引用発明の上記走査に関する構成である「送受分離手段11」は、「受信信号」を「出力」するものであり、この「受信信号」は、「受信手段14」によって「受信処理」され、「受信手段14から出力される信号」となるから、引用発明1の当該「受信手段14」と、本願発明の「前記走査部から出力される受信信号に基づいて直交検波信号を生成し、複数の前記直交検波信号からなるパケット信号を出力する信号生成部」とは、「前記走査部から出力される受信信号に基づいて信号を出力する信号生成部」という点で共通する。

(4) 引用発明は、「受信手段14から出力される信号」に対して、「造影剤由来の信号を強調したいときは、重み係数を“C≒1、A≒B≒0”として数式(1)を演算」するものであり、このとき、「A・Sig(F0)+B・Sig(2F0)+C・Sig(3F0)」は、ほぼ「三次高調波(3F0)」の信号成分となる。この引用発明の「三次高調波(3F0)」が、本願発明の「非線形信号」に相当する。
ここで、引用発明の「造影剤由来の信号」が血流を示すものであることは、上記第4の1(1)の段落[0003]及び超音波診断の技術常識より明らかであるから、引用発明の「三次高調波(3F0)」を「抽出」する「帯域通過フィルタ(BPF)」を持つ「周波数帯域分離手段32-3」と、本願発明の「前記パケット信号に含まれる血流成分に対応する通過帯域を有する、非線形信号に対してのバンドパスフィルタ」とは、「前記信号に含まれる血流成分に対応する通過帯域を有する、非線形信号に対してのバンドパスフィルタ」という点で共通する。

(5) 引用発明は、「受信手段14から出力される信号」に対して、「生体由来の信号を強調したいときは、重み係数を“A≒0.5?1.0、B≒0.5?1.0、C≒0?-1.0”として数式(1)を演算」するものであり、この数値範囲に含まれる「A≒0.5、B≒0.5、C≒0」では、「A・Sig(F0)+B・Sig(2F0)+C・Sig(3F0)」は、ほぼ「基本波(F0)」及び「二次高調波(2F0)」の信号成分となる。
ここで、引用発明の「生体由来の信号」は、上記第4の1(6)より、静的生体や動的生体の比較的緩慢な成分を示すものであって、この信号中に組織灌流等の比較的緩慢な成分が含まれるのは明らかである。また、上記第4の1(6)の記載より、「基本波(F0)」及び「二次高調波(2F0)」には、「造影剤」由来の信号も含まれることが明らかであるから、引用発明の「基本波(F0)」及び「二次高調波(2F0)」を「抽出」する「帯域通過フィルタ(BPF)」を持つ「周波数帯域分離手段32-1」及び「周波数帯域分離手段32-2」と、本願発明の「前記パケット信号に含まれる組織灌流成分及び血流成分に対応する通過帯域を有する、前記非線形信号に対してのローパスフィルタ」とは、「前記信号に含まれる組織灌流成分及び血流成分に対応する通過帯域を有するフィルタ」という点で共通する。

(6) 引用発明の「周波数帯域分離手段32-3」で「抽出」された「造影剤由来の信号を強調」した「画像」と、本願発明の「前記バンドパスフィルタの出力に対応する画像に対して最大値保持演算処理をかけ」て「生成」された「第1表示画像」とは、「前記バンドパスフィルタの出力に対応する第1表示画像」という点で共通する。

(7) 引用発明の「周波数帯域分離手段32-1」及び「周波数帯域分離手段32-2」で「抽出」された「生体由来の信号を強調」した「画像」と、本願発明の「前記ローパスフィルタの出力に対応する第2表示画像」とは、「前記フィルタの出力に対応する第2表示画像」という点で共通する。
そして、引用発明は、「造影剤由来の信号を強調」した「画像」及び「生体由来の信号を強調」した「画像」が、「画像処理手段18から出力される超音波像を表示する表示手段20」により表示されるものであるから、引用発明の当該「表示手段20」と、本願発明の「前記第1表示画像、及び前記ローパスフィルタの出力に対応する第2表示画像を表示する表示部」とは、「前記第1表示画像、及び前記フィルタの出力に対応する第2表示画像を表示する表示部」という点で共通する。

(8) 引用発明の「超音波診断装置」は、本願発明の「超音波診断装置」に相当する。

(9) したがって、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して、造影剤を投与された被検体内部を超音波で走査する走査部と、
前記走査部から出力される受信信号に基づいて信号を出力する信号生成部と、
前記信号に含まれる血流成分に対応する通過帯域を有する、非線形信号に対してのバンドパスフィルタと、
前記信号に含まれる組織灌流成分及び血流成分に対応する通過帯域を有するフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力に対応する第1表示画像、及び前記フィルタの出力に対応する第2表示画像を表示する表示部と
を具備する超音波診断装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
画像を生成するための「信号生成部」について、本願発明は、「直交検波信号を生成し、複数の前記直交検波信号からなるパケット信号を出力」し、この「パケット信号」を処理して画像を生成するものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を有しない点。

(相違点2)
「組織灌流成分及び血流成分に対応する通過帯域を有するフィルタ」について、本願発明は、「前記非線形信号に対してのローパスフィルタ」であるのに対して、引用発明は、「基本波(F0)」及び「二次高調波(2F0)」の通過帯域を有する「帯域通過フィルタ(BPF)」を持つ「周波数帯域分離手段32-1」及び「周波数帯域分離手段32-2」である点。

(相違点3)
「第1表示画像」を生成する構成について、本願発明は、「最大値保持演算処理部」により「最大値保持演算処理をかけ」て、第1表示画像を生成するものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を有しない点。

4 当審の判断
(1) 上記(相違点2)を検討する。
本願発明の「ローパスフィルタ」で通過させる「前記非線形信号」は、「バンドパスフィルタ」を通過させる「非線形信号」と同じ信号を示すものであるところ、引用発明の「周波数帯域分離手段32-1」及び「周波数帯域分離手段32-2」で通過させる信号は、「基本波(F0)」及び「二次高調波(F0)」であって、「周波数帯域分離手段32-3」を通過させる「三次高調波(3F0)」とは重複しない周波数帯域の信号である。そして、引用発明はこのように周波数帯域を複数に分離することによって、造影剤由来の信号と生体由来の信号を識別しようとするものであるから、引用発明において、複数のフィルタに同じ非線形信号を通過させることはなく、そのようにする動機もない。
さらに、引用発明の「周波数帯域分離手段32-1」及び「周波数帯域分離手段32-2」は、「基本波(F0)」及び「二次高調波(F0)」の周波数帯域を抽出するための「帯域通過フィルタ(BPF)」(バンドパスフィルタ)であって、所定の周波数以下の周波数帯域を通過させる「ローパスフィルタ」とはいえない。
したがって、引用発明において、上記(相違点2)に関する構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、引用文献2(直交検波部13)には、血流を造影する超音波診断装置において、受信信号に基づいて「直交検波信号」を生成する技術が記載されており、引用文献3(段落[0007]、[0043]、[0050]-[0052])には、造影剤から生じる血流を示す高周波成分にのみ「最大値保持演算」を行うことが記載されており、引用文献4(段落[0030])、引用文献5(段落[0003]-[0008])及び引用文献6(段落[0004]-[0006])には、モーションアーチファクトのあるフレームを検出し、当該フレームを除去した画像を用いる技術が記載されているが、いずれの文献にも、上記(相違点2)に関する構成は記載されていない。
したがって、引用発明において、引用文献2-6に記載された事項を採用しても、上記(相違点2)に関する構成とはならない。

(2) 小括
よって、本願発明は、他の相違点について検討するまでもなく、当業者が引用発明及び引用文献2-6に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願請求項2-6に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであり、本願請求項7に係る発明は、本願発明をプログラムの発明として表現したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2-6に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、当審拒絶理由(上記第3の2(2))によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 原査定についての判断
1 引用文献A(段落[0002]、[0010]、[0027]、[0032]-[0033]、図1-2)には、複数のフィルタ通過信号を重み付け加算して血流を明瞭に観察する超音波診断装置が記載されており、本願発明と引用文献Aに記載された発明を対比すると、その相違点として、上記(相違点2)を含むことが明らかである。
一方、引用文献B-Gのいずれの文献にも、上記(相違点2)に関する構成は記載されていない。
したがって、引用文献Aに記載された発明において、引用文献B-Gに記載された事項を採用しても、上記(相違点2)に関する構成とはならない。

2 よって、本願発明は、他の相違点について検討するまでもなく、当業者が引用文献Aに記載された発明及び引用文献B-Gに記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願請求項2-6に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであり、本願請求項7に係る発明は、本願発明をプログラムの発明として表現したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用文献Aに記載された発明及び引用文献B-Gに記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第6 当審拒絶理由(上記第3の2(1))についての判断
平成29年3月8日付けの手続補正書によって、請求項1及び7において、「血流成分に対応する通過帯域を有する、非線形信号に対してのバンドパスフィルタ」、及び、「組織灌流成分及び血流成分に対応する通過帯域を有する、前記非線形信号に対してのローパスフィルタ」を用いることが特定された。この「非線形信号」は、発明の詳細な説明の段落[0058]に記載されているように、「セカンドハーモニック(2次高調波)」に代表されるものであり、「基本波成分」とは異なるものである。
したがって、当審拒絶理由(上記第3の2(1))は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-10 
出願番号 特願2012-91024(P2012-91024)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 永田 浩司門田 宏  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 田中 洋介
信田 昌男
発明の名称 超音波診断装置及びプログラム  
代理人 野河 信久  
代理人 峰 隆司  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 直樹  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ