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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1326879
審判番号 不服2016-3877  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-14 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 特願2014- 75312「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日出願公開、特開2014-143435〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年10月21日を出願日とする出願である特願2010-236389号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成26年4月1日に新たな出願としたものであって、同日付で審査請求がなされ、平成27年1月23日付で拒絶理由が通知され、同年3月26日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年12月16日付で拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成28年3月14日付で拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成28年3月14日付の手続補正についての却下の決定
[補正却下の結論]
平成28年3月14日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
平成28年3月14日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る記載は次のとおりである。(なお、下線は、補正の箇所を示すものとして審判請求人が付加したものである。)

「第1導電型半導体基板の一方の主面に、格子状の平面パターンの第2導電型拡散層を備え、他方の主面に、前記格子状の平面パターンと同ピッチの格子状の平面パターンを備え、該他方の主面に平行であって前記第2導電型拡散層が露出する底面と該底面から立ち上がるテーパー状の側辺面とで構成されるV字溝を有し、該テーパー状の側辺面に囲まれる前記他方の主面に第2導電型半導体層を備え、前記側辺面に沿って、前記一方の主面の前記第2導電型拡散層と前記他方の主面の前記第2導電型半導体層とを導電接続する第2導電型分離層を備え、前記V字溝の、半田で接合されるテーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り形状を有していることを特徴とする半導体装置。」

(2)補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る記載は次のとおりである。

「第1導電型半導体基板の一方の主面に、格子状の平面パターンの第2導電型拡散層を備え、他方の主面に、前記格子状の平面パターンと同ピッチの格子状の平面パターンを備え、該他方の主面に平行であって前記第2導電型拡散層が露出する底面と該底面から立ち上がるテーパー状の側辺面とで構成されるV字溝を有し、該テーパー状の側辺面に囲まれる前記他方の主面に第2導電型半導体層を備え、前記側辺面に沿って、前記一方の主面の前記第2導電型拡散層と前記他方の主面の前記第2導電型半導体層とを導電接続する第2導電型分離層を備え、前記V字溝の、テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り形状を有していることを特徴とする半導体装置。」

2 補正の適否について
(1)補正の目的について
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、補正前の請求項1に係る発明に対応し、本件補正発明は、補正前の請求項1に係る発明に次の補正がなされたものである。

(a)補正前の請求項1の「テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅」を「半田で接合されるテーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅」とする補正。

補正事項(a)について検討すると、補正事項(a)により加えられた部分は、当初明細書等に記載されているものと認められるから、補正事項(a)は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項(a)は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また、補正事項(a)は、補正前の「テーパー状の前記側辺面」について、「半田で接合される」との限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そうすると、補正事項(a)は、特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり、また、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)進歩性について
a.引用例1について
ア.引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2009/139417号(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。(なお、下線は、当審において付与した。以下、同じ。)

(ア)「[0052] 図1は、この発明の第1実施例の半導体装置の断面図であり、同図(a)はp分離層近傍の要部断面図、同図(b)は活性領域の要部断面図である。この半導体装置は逆阻止IGBTを例として挙げた。この逆阻止IGBTは、n半導体基板1と、n半導体基板1の第1主面2の表面の外周部に形成されるp拡散層4と、p拡散層4に囲まれp拡散層4と離してn半導体基板1の第1主面2(表面)の活性領域5(主電流が流れる領域)の表面層に形成されるデバイス表面構造6と第2主面3の表面層に形成されるpコレクタ層8と、pコレクタ層8上に形成されるコレクタ電極18と、p拡散層4とpコレクタ層8に接して半導体基板1の第2側壁7の表面層に形成されるp分離層9で構成される。
[0053] 半導体基板1の側壁は第1主面2に垂直にダイシング切断された第1側壁10とこの第1側壁10と接し第2主面3と接する第2側壁7で構成される。第2側壁7は第1側壁10と接続する第1箇所aとこの第1箇所aと第2主面3と接続しp分離層9が形成される第2箇所bで構成される。
[0054] 第1主面2と第1側壁10の角度は90°であり、第1側壁10と第2側壁7の第1箇所aとの角度θ1は90°である。第2箇所7の第1箇所aと第2箇所bとの角度θ2は90°超であり、第2箇所bと第2主面3との角度θ3は第1主面2と第1箇所aが平行であるためθ2と等しい。
[0055] なお、第1側壁10はダイシング面であり凹凸が存在するため角度を表す場合は、凹凸を平均化した平面(図では上下の直線)を第1側壁10の面とした。図示するように、θ1、θ3は半導体基板1が存在する側、θ2は半導体基板1が存在しない側での角度である。また、θ1は第1側壁10を基準とした角度であり、θ2は第1箇所aを基準とした角度であり、θ3は第2主面3を基準とした角度である。
[0056] 前記のp拡散層4の深さは、耐圧クラスが1200Vの逆阻止IGBTの場合、30μm?170μm(好ましくは70μm程度)であり、第1側壁10の厚さはこのp拡散層4が露出するように形成されるため、p拡散層4の深さより小さくなる。つまり、第1側壁10の厚みは10μm?150μm(好ましくは50μm程度)である。また、第1側壁10は、ダイシング刃もしくはレーザー光で切断された後述の残膜43の側壁であり、その表面はダイシング面もしくはレーザー面である。レーザー面とは、レーザーダイシングによるダイシング面をいう。一方、第2側壁7は、後述の溝41の内壁でありエッチング面である。
[0057] 活性領域5に形成されるデバイス表面構造6は、図1に示すように、n半導体基板1の表面層に形成されたpウエル領域11と、pウエル領域11の表面層に形成されるnエミッタ領域12と、nエミッタ領域12とn半導体基板1に挟まれるpウエル領域11上にゲート絶縁膜13を介して形成されるゲート電極14とを備えている。
[0058] なお、ここではゲート絶縁膜13およびゲート電極14はnエミッタ領域12の一部上、pウエル領域11上およびn半導体基板1上に形成されている。また、ゲート絶縁膜13とゲート電極14を合わせたゲート構造の集合体を以後便宜的にMOSゲート構造19と称す。この例では、ゲート絶縁膜13を図1(b)に示すように、平坦に形成したが、n半導体基板1の表面に溝を形成し、この溝の表面にゲート絶縁膜13を形成して、所謂、トレンチゲート構造としてもよい。
[0059] また、ゲート電極14が被覆される層間絶縁膜15と、nエミッタ領域12とpウエル領域11に接して前記層間絶縁膜15上に形成されるエミッタ電極16と、エミッタ電極16上とp拡散層4上などの表面全域に形成されるパッシベーション膜17とを備えている。
[0060] 図2は、形状の異なるダイシング刃とそれで加工された半導体基板の要部断面図であり、同図(a)?同図(c)はダイシング刃の断面図であり、同図(a)はV字状の場合、同図(b)は逆台形状の場合、同図(c)はU字状の場合であり、同図(d)?同図(f)は半導体基板の断面図であり、同図(d)はV字状の場合、同図(e)は逆台形状の場合、同図(f)はU字状の場合である。
[0061] ダイシング刃31、32、33の断面形状は、それぞれV字状、逆台形状およびU字状をしている。また、図2(d)?(f)の半導体基板1の断面図は、図示の都合上第1主面2を下に第2主面3を上に示し上下が逆転している。
[0062]同図(d)において、第2側壁7は直線であり、第1側壁10と第2側壁7の接続部での角度θ11は90°超である(好ましくは140°?160°程度がよい)。また、第2主面2と第2側壁7の接続部での角度θ31は90°超である(好ましくは110°?130°程度がよい)。
[0063]同図(e)において、前記したように第2側壁7は折れ線であり、第1側壁10との接続部での角度θ12は90°である。また、第2主面3との接続部での角度θ32は90°超(好ましくは110°?130°程度がよい)である。
[0064] 同図(f)において、第2側壁7は曲線であり、第1側壁10と第2側壁7の接触部での角度θ13はほぼ90°である。また、第2主面3と第2側壁7の接触部の角度θ33はほぼ90°である。
[0065] 前記の第2主面3と第2側壁7の接続部での角度θ31?θ33が90°に近くなると、p分離層9を形成するためのイオン注入において、第2側壁7に打ち込まれるボロンのドーズ量が低下して高濃度のp分離層9を得ることが困難になる。そのため、第2主面3と第2側壁7の接続部での角度θ31?θ33は110°?130°程度が望ましい。
[0066] また、この角度θ31?θ33が140°以上に大きくなると溝の開口部の幅が半導体基板1の厚さ程度に広がり、チップサイズが小さい場合は、第2主面3に形成されるpコレクタ層8の面積が減少するので好ましくない。なお、この第1実施例で使用したダイシング刃の形状は逆台形の場合(図2(b))である。
[0067] さらに、前述の内容を製造方法も交えて詳しく図3を用いて説明する。図3は、ウェハの裏面から未貫通の逆台形溝を形成した裏面の溝形状であり、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のX1?X1線で切断した要部断面図、同図(c)は同図(a)のX2?X2線で切断した要部断面図である。ここでは図1で用いた符号の2および3をウェハ40の第1主面(おもて面)および第2主面(裏面)としても用いた。また、図3で示す残膜43の厚さは、例えば50μmであり、逆台形の溝41の開口部の幅は、例えば200μmである。
[0068] 実施例1において、ウェハ40に形成された溝41の深さは、図3(b)、(c)に示すようにチップ形成領域42(多数のチップが形成される領域)とウェハ40の外周部44(チップが形成されない領域)で同じ深さであり、すべての溝41はウェハ40の外周端45まで達している。
[0069] ここでは、ウェハ40とは、ダイシング領域(溝41の箇所と重なる)に沿って切断する前の状態の半導体基板をいう。したがって、本実施例では符号1で示す半導体基板はウェハ40をダイシング領域で切断して半導体チップとなったときの基板をいう。
[0070] 予めダイシング領域表面(溝41が形成される側と反対側の面で第1主面2)から深さ30μm?170μmの範囲の図1で示すp拡散層4を熱拡散により形成しておき、表面IGBTセル構造作成工程、およびウェハ薄化工程を終了後、裏面(第2主面3)よりダイシング刃(ブレード)によるハーフカット(ダイサーによるハーフカット、あるいは切削ブレードによるハーフカット:ハーフカットとは完全にウェハ40を切断しないこと)により、図3(b)、(c)に示すように、ウェハ40を貫通しないように溝41を形成する。熱拡散層の深さは、残膜43の厚さよりも20μmほど深くしておくと望ましい。これは、ハーフカットダイシングのブレード切り込み深さのバラツキを考慮したり、ダイシングによる機械的ダメージをエッチング等で除去する分を考慮するためである。
[0071] つまり、溝41でウェハ40が分断されずに一体として保持できる程度に残膜43としてウェハ40の一部を残す。この残膜43の厚さは、前記したように、p拡散層4の深さに合わせて10μm?150μmとし、p拡散層4に溝41の先端が達するように溝41を形成する。
[0072] このとき、図3(b)、(c)で示すように、ウェハ40の外周部44の溝41の深さは同じにする。形成された溝41の側壁(第2側壁7)にハーフカットに伴って形成されるダメージ層47(図7参照)は、1μm?20μm(好ましくは、1μm?15μm)である。このダメージ層47を、酸エッチングあるいはドライエッチングによって除去する。除去する量は2μm?50μm(好ましくは、3μm?30μm)である。
[0073] ダメージ層47が除去された溝41の第2側壁7とウェハ40の裏面(第2主面3)に、イオン注入とレーザーアニールによりp分離層9とpコレクタ層8をそれぞれ形成し、pコレクタ層8上にコレクタ電極18を形成し、このコレクタ電極18をp分離層9上に延在させる。溝41の形成で残した残膜43は、コレクタ電極18を形成した後、垂直にダイシング刃によって切断され、逆阻止IGBTチップが出来上がる。
[0074] また、イオン注入による不純物量やアニールによるドーパント量や、ダイシングおよびダイシング後のプロセス工程におけるウェハの割れ・欠けを抑制することを目的として、ダイシング刃の形状をV字状(図2の符号31)、逆台形状(図2の符号32)、U字状(図2の符号33)と変える。」

(イ)図2

(ウ)図3

上記(ア)ないし(ウ)の記載から次のことが言える。

(あ)上記(ア)[0052]の記載から、引用例1に記載された発明は、逆阻止IGBTに関する発明であることがわかる。
また、逆阻止IGBTは、n半導体基板1と、n半導体基板1の第1主面2の表面の外周部に形成されるp拡散層4と、第2主面3の表面層に形成されるpコレクタ層8と、p拡散層4とpコレクタ層8に接して半導体基板1の第2側壁7の表面層に形成されるp分離層9を有していることがわかる。
(い)上記(ア)[0060],[0066]および(イ)の記載から、引用例1に記載された発明では、ダイシングに使われるダイシング刃の形状は逆台形状が使われており、ダイシングされた基板の断面は逆台形となることがわかる。
(う)上記(ア)[0067],[0069]および(ウ)の記載から、引用例1に記載された発明である、ダイシング領域(溝41の箇所と重なる)に沿って切断される前の半導体であるウェハ40は、格子状の溝41を有し、第1主面(おもて面)2および第2主面(裏面)3を有していることがわかる。
(え)上記(ア)[0070]の記載から、引用例1に記載された発明は、予めダイシング領域表面(溝41が形成される側と反対側の面で第1主面2)からp拡散層4を形成していることがわかる。
そして、上記(う)から、このウェハ40に形成されたp拡散層4は、格子状に形成されていることがわかる。
(お)上記(ア)[0070],[0071]の記載から、引用例1に記載された発明であるウェハ40は、裏面(第2主面3)よりダイシング刃(ブレード)によるハーフカットにより、ウェハ40のp拡散層4に溝41の先端が達するように溝41を形成されていることがわかる。
(か)上記(ア)[0072]の記載から、引用例1に記載された発明は、ハーフカットに伴って形成されるダメージ層を酸エッチングあるいはドライエッチングによって除去することがわかる。
(き)上記(ア)[0073]の記載から、引用例1に記載された発明は、ダメージ層が除去された溝41の第2側壁7とウェハ40の裏面(第2主面3)にp分離層9とpコレクタ層8をそれぞれ形成していることがわかる。
(く)上記(ア)[0074]の記載から、引用例1では、イオン注入による不純物量やアニールによるドーパント量や、ダイシングおよびダイシング後のプロセス工程におけるウェハの割れ・欠けを抑制することを目的として、ダイシング刃の形状をU字状とすることがわかる。

イ.引用例1発明および引用例1記載事項について
(ア)引用例1発明
上記ア.(あ)ないし(き)の事項を踏まえると、引用例1には、実質的に次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「n半導体基板1の第1主面(おもて面)2に、格子状のp拡散層4を形成し、
裏面(第2主面3)より逆台形状のダイシング刃(ブレード)によりウェハ40をハーフカットし、ウェハ40のp拡散層4に逆台形の溝41の先端が達するように格子状の逆台形の溝41を形成し、
ハーフカットに伴って形成されるダメージ層を酸エッチングあるいはドライエッチングによって除去し、
ダメージ層が除去された溝41の第2側壁7とウェハ40の裏面(第2主面3)にp分離層9とpコレクタ層8をそれぞれ形成する、
逆阻止IGBTを作製する為のウェハ。」

(イ)引用例1記載事項
上記ア.(く)の事項を踏まえると、引用例1には、実質的に次の事項(以下、「引用例1記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
「イオン注入による不純物量やアニールによるドーパント量や、ダイシングおよびダイシング後のプロセス工程におけるウェハの割れ・欠けを抑制することを目的として、ダイシング刃の形状をU字状とすること。」

b.対比・判断
b-1.本件補正発明と引用例1発明とを対比する。
(ア)引用例1発明の「n半導体基板1」,「第1主面(おもて面)2」,格子状のダイシング領域表面に形成された「p拡散層4」,「逆阻止IGBTを作製する為のウェハ」は、本件補正発明の「第1導電型半導体基板」,「一方の主面」,「格子状の平面パターンの第2導電型拡散層」,「半導体装置」に相当する。
(イ)引用例1発明は、「裏面(第2主面3)より逆台形状のダイシング刃(ブレード)によりウェハ40をハーフカットし、ウェハ40のp拡散層4に溝41の先端が達するように格子状の逆台形の溝41を形成し」ているから、「逆台形の溝41」の先端は、本件補正発明の「前記格子状の平面パターンと同ピッチの格子状の平面パターン」に相当する。
また、「逆台形の溝41」のウェハ40のp拡散層4に溝41の先端が達する部分は、本件補正発明の「該他方の主面に平行であって前記第2導電型拡散層が露出する底面」に相当し、さらに、引用例1発明の「逆台形の溝41」のウェハ40のp拡散層4に溝41の先端が達する部分から立ち上がるテーパー状の側壁面が、本件補正発明の「該底面から立ち上がるテーパー状の側辺面」に相当すると認められるから、引用例1発明は、本件補正発明の「該他方の主面に平行であって前記第2導電型拡散層が露出する底面と該底面から立ち上がるテーパー状の側辺面とで構成されるV字溝」を有していると認められる。
(ウ)引用例1発明の「pコレクタ層8」は、裏面(第2主面3)の逆台形状のダイシング刃(ブレード)によりウェハ40をハーフカットすることにより残った層であるから、本件補正発明の「該テーパー状の側辺面に囲まれる前記他方の主面」の「第2導電型半導体層」に相当すると認められる。
(エ)引用例1発明の「第2側壁7」は、逆台形状のダイシング刃(ブレード)によりウェハ40をハーフカットすることにより形成された壁であるから、引用例1発明の「p拡散層4」および「pコレクタ層8」と接続しており、また、「第2側壁7」には「p分離層9」が形成されているから、「第2側壁7」に形成された「p分離層9」は、「p拡散層4」と「pコレクタ層8」を導通接続していると言える。
そうすると、引用例1発明の「p分離層9」は、本件補正発明の「前記側辺面に沿って、前記一方の主面の前記第2導電型拡散層と前記他方の主面の前記第2導電型半導体層とを導電接続する第2導電型分離層」に相当すると認められる。

b-2.以上(ア)ないし(エ)のことから、本件補正発明と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「第1導電型半導体基板の一方の主面に、格子状の平面パターンの第2導電型拡散層を備え、
他方の主面に、前記格子状の平面パターンと同ピッチの格子状の平面パターンを備え、
該他方の主面に平行であって前記第2導電型拡散層が露出する底面と該底面から立ち上がるテーパー状の側辺面とで構成されるV字溝を有し、
該テーパー状の側辺面に囲まれる前記他方の主面に第2導電型半導体層を備え、
前記側辺面に沿って、前記一方の主面の前記第2導電型拡散層と前記他方の主面の前記第2導電型半導体層とを導電接続する第2導電型分離層を備ることを特徴とする半導体装置。」

[相違点1]
本件補正発明は、「前記V字溝の、」「テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り形状を有している」のに対して、引用例1発明は対応する部分が面取り形状を有しているのか不明である点。
[相違点2]
本件補正発明の「側辺面」は半田で接合されるのに対して、引用例1発明は対応する記載が無い点。

b-3.以下、上記相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例1発明では、「ハーフカットに伴って形成されるダメージ層を酸エッチングあるいはドライエッチングによって除去し」ているから、引用例1発明でも「前記V字溝の、」「テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り」されると認められるので、相違点1は実質的相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、引用例1記載事項にあるように、「イオン注入による不純物量やアニールによるドーパント量や、ダイシングおよびダイシング後のプロセス工程におけるウェハの割れ・欠けを抑制することを目的として、ダイシング刃の形状をU字状とすること。」は公知の技術である。
引用例1発明において、ダイシング後のプロセス工程におけるウェハの割れ・欠けを抑制することは、自明の課題であるから、この課題を解決するために、上記公知技術を採用し、ダイシング刃の形状をU字状とすることは、当業者が容易に為し得たことであると認められる。
そして、ダイシング刃の形状をU字状とした際に、引用例1発明において「前記V字溝の、」「テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り形状」となることは、当業者に明らかであると認められる。
そうすると、引用例1発明において、「前記V字溝の、」「テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り形状」とすることは、当業者が適宜為し得た事項であると認められる。
[相違点2]について
「逆阻止IGBT」の利用に際して、チップ裏面を基板に半田付けすることは、適宜行われている周知技術である。
そうすると、引用例1発明の「逆阻止IGBTを作製する為のウェハ」において、作製されたウェハを切断し個片化し逆阻止IGBTチップとした際に、その利用の為に、チップ裏面、すなわち、本件補正発明の「側辺面」に相当する面に、半田を用いて基板に接合することは、当業者が普通に行い得る事項である。

c.進歩性についての結論
したがって、本件補正発明は、引用例1発明及び引用例1に記載された技術もしくは周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
「2 補正の適否について」で検討したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 補正却下の決定を踏まえた検討
(1)本願発明
平成28年3月14日付の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年3月26日付の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「第1導電型半導体基板の一方の主面に、格子状の平面パターンの第2導電型拡散層を備え、他方の主面に、前記格子状の平面パターンと同ピッチの格子状の平面パターンを備え、該他方の主面に平行であって前記第2導電型拡散層が露出する底面と該底面から立ち上がるテーパー状の側辺面とで構成されるV字溝を有し、該テーパー状の側辺面に囲まれる前記他方の主面に第2導電型半導体層を備え、前記側辺面に沿って、前記一方の主面の前記第2導電型拡散層と前記他方の主面の前記第2導電型半導体層とを導電接続する第2導電型分離層を備え、前記V字溝の、テーパー状の前記側辺面と前記底面との交差部およびテーパー状の前記側辺面同士が交差するコーナー部の4隅が面取り形状を有していることを特徴とする半導体装置。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、上記「第2 [理由]2(2)a.」に記載したとおりの事項が記載されている。

(3)対比・判断
本願発明は、上記「第2 [理由]」で検討した本件補正発明から、上記「第2 [理由]2(1)」に記載した補正事項(a)に係る限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 [理由]2(2)」に記載したとおり、引用例1発明及び引用例1記載の公知技術もしくは周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1発明および引用例1記載の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明および引用例1記載の公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-03 
結審通知日 2017-02-07 
審決日 2017-02-21 
出願番号 特願2014-75312(P2014-75312)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 朋一  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
深沢 正志
発明の名称 半導体装置  
代理人 阪本 朗  

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