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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66C |
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管理番号 | 1326883 |
審判番号 | 不服2016-8767 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-13 |
確定日 | 2017-04-06 |
事件の表示 | 特願2012- 42487「クレーンの荷重検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-177230〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成24年2月28日の出願であって、平成27年8月17日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成27年10月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年3月15日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年6月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年6月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年6月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 〔1〕本件補正の内容 平成28年6月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年10月23日に提出された手続補正書により補正された)下記の(A)に示す請求項1を、下記の(B)に示す請求項1とする補正を含むものである。 (A)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「 【請求項1】 ブームの先端部に作用する荷重を検出する荷重検出部と、 荷重検出部に電源の電力を供給する1本のケーブルと、 ケーブルに接続され、荷重検出部に電力を供給するとともに、ケーブルに流れる電流値が荷重検出部からの出力電圧に応じた電流値となるように調整する電流変換器と、 ケーブルに流れる電流値に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段と、を備えた ことを特徴とするクレーンの荷重検出装置。」 (B)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「 【請求項1】 ブームの先端部に作用する荷重を検出する荷重検出部と、 荷重検出部に電源の電力を供給する1本のケーブルと、 ケーブルに接続され、荷重検出部に電力を供給するとともに、ケーブルに流れる電流値が荷重検出部からの出力電圧に応じた電流値となるように調整する電流変換器と、 ケーブルに流れる電流値に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段と、 ブームの先端側から垂下されるワイヤロープと、 ワイヤロープが巻き掛けられるドラムとドラムを回転させるウインチモータとを有するウインチと、を備え、 ウインチモータは、可変容量形の油圧モータであって、所定の流量の作動油に対して回転数が可変であり、 ウインチモータの所定の流量の作動油に対する回転数は、ケーブルに流れる電流値に基づいて設定される ことを特徴とするクレーンの荷重検出装置。」 (なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。) 〔2〕本件補正の目的要件について 本件補正は、本件補正前の請求項1において、「ブームの先端側から垂下されるワイヤロープと、ワイヤロープが巻き掛けられるドラムとドラムを回転させるウインチモータとを有するウインチと、を備え、ウインチモータは、可変容量形の油圧モータであって、所定の流量の作動油に対して回転数が可変であり、ウインチモータの所定の流量の作動油に対する回転数は、ケーブルに流れる電流値に基づいて設定される」という事項を加えるものであり、本件補正前の請求項1に係る「クレーンの荷重検出装置」について、適用されるクレーンの構成を限定するものといえる。 よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 〔3〕本願補正発明の独立特許要件について 1 本願補正発明 本願補正発明は、平成28年6月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、上記〔1〕(B)に示したとおりのものである。 2 引用刊行物 (1)刊行物1 ア 刊行物1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特許第4298056号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、クレーンの吊り上げ荷重を荷重検出部で検出し、この検出荷重を荷重表示部で表示可能であり、かつ、クレーンのフックが巻過警報位置に達したときに接点が開状態となる巻過検出スイッチを備えたクレーンの荷重表示装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 通常のクレーンは、図3に示すように、クレーンベース1上に旋回自在にコラム2が設けられ、このコラム2の先端部に伸縮ブーム装置3が起伏用シリンダ4により起伏自在に枢支されている。伸縮ブーム装置3は、複数個のブームを伸縮自在に嵌挿されたものである。 【0003】 この種のクレーンにおいては、ワイヤロープ5に取付けられたフック6が所定の巻過警報位置に達したときにその接点が開状態となる巻過検出スイッチ7が、伸縮ブーム装置3を構成する最先側の先端ブーム8に設けられている。また、フック6に吊るされる物の吊り上げ荷重を検出するロードセル等からなる荷重検出部9が、ワイヤロープ5の張力を利用して求めるために、その先端ブーム8の先端部に設けられている。さらに、クレーンベース1の所定位置には、荷重検出部9が検出した検出荷重を表示する荷重表示部10が配置されている。 【0004】 次に、荷重検出部9の検出荷重を荷重表示部10に表示するとともに、巻過検出スイッチ7の検出巻過信号により巻過警報を出力するようにしたクレーンの荷重表示装置の従来例について図4を参照して説明する。 この従来装置では、巻過検出スイッチ7は、図4に示すように、その一端側が接地(アース)されるとともに、その他端側が巻過信号線11の一端側に接続されている。巻過信号線11は、コードリール12により巻き取りと巻き戻しが自在であるとともに、スリップリング13により緊張状態を維持するようになっており、その他端側がリレー14の励磁コイルを介して電源15に接続されている。なお、コードリール12は、図3に示すように伸縮ブーム装置3の所定位置に設けられ、スリップリング13はコラム2の所定位置に設けられている。 【0005】 荷重検出部9は、図示しないアース端子、電源端子、および荷重信号端子を有している。同様に、荷重表示部10は、図示しないアース端子、電源端子、および荷重信号端子を有している。 荷重検出部9と荷重表示部10の各アース端子は、それぞれ接地されている。荷重検出部9の電源端子は電源線16の一端に接続され、その電源線16は、コードリール12により巻き取りと巻き戻しが自在であるとともに、スリップリング13により緊張状態を維持するようになっている。さらに、電源線16の他端側は、荷重表示部10の電源端子と電源15にそれぞれ接続されている。 【0006】 荷重検出部9の荷重信号端子は荷重信号線17の一端に接続され、その荷重信号線17は、コードリール12により巻き取りと巻き戻しが自在であるとともに、スリップリング13により緊張状態を維持するようになっている。さらに、荷重信号線17の他端側が荷重表示部10の荷重信号端子に接続されている 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、図4に示すような従来装置では、荷重検出部9と荷重表示部10とからなる荷重計に使用する電源線16および荷重信号線17の他に、巻過検出スイッチ7と接続する巻過信号線11の合計3本の配線が必要となるので、配線数が多くなるという不都合があり、その解決が望まれていた。」(段落【0001】ないし【0007】) (イ)「【0014】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。 本発明のクレーンの荷重表示装置の第1実施形態の構成について、図1を参照して説明する。 この第1実施形態は、図4に示す従来装置とその構成が共通する部分を有するので、その共通する部分について同一符号を付してその説明を適宜簡略または省略するものとする。 【0015】 すなわち、この第1実施形態に係る装置は、図1に示すように、巻過検出スイッチ7の一端が接地され、その他端がアース線19を介して荷重検出部9のアース端子、またはそのアース端子に直接接続されている。荷重検出部9の電源端子は電源線16の一端に接続され、その電源線16は、コードリール12およびスリップリング13を経て、その他端側が荷重表示部10Aの電源端子(図示せず)と電源15にそれぞれ接続されている。 【0016】 荷重検出部9の荷重信号端子は荷重信号線17の一端に接続され、その荷重信号線17は、コードリール12およびスリップリング13を経て、その他端側が荷重表示部10Aの荷重信号端子(図示せず)に接続されている。荷重表示部10Aのアース端子(図示せず)は、接地されている。 荷重表示部10Aは、荷重信号線17により伝送される荷重検出部9からの検出荷重信号に基づき、その検出荷重信号が固定値である0〔V〕か否かの判定を行い、その判定結果に応じて巻過検出スイッチ7の検出巻過信号に対応する信号を出力し、これによりリレー14の励磁コイルを励磁状態または非励磁状態にさせるようになっている。 【0017】 なお、荷重表示部10Aは、上記のように判定手段としての機能を一部に含んでいるが、その判定手段を独立に構成するようにしても良い。 次に、このような構成からなるこの第1実施形態に係る装置の動作例について図面を参照して説明する。 いま、図3に示すクレーンのフック6に荷が吊り下げられ、フック6が図3に示すように巻過警報位置に達しない場合には、巻過検出スイッチ7の接点は図1に示すように閉状態にある。このため、電源15、電源線16、荷重検出部9、アース線19、巻過検出スイッチ7、およびアースにより閉回路が形成される。このため、電源15からの電流が電源線16を経由して荷重検出部9に流れて動作できるので、荷重検出部9はフック6の吊り上げ荷重を検出する。この検出荷重信号は、荷重信号線17を経由して荷重表示部10Aに伝送されるので、荷重表示部10Aは、その検出荷重信号に応じた荷重を表示する。 【0018】 ここで、荷重表示部10Aは、荷重検出部9から荷重信号線17を経由して伝送される検出荷重信号に基づき、その検出荷重信号が0〔V〕か否かの判定を行う。このとき、荷重検出部9は動作状態にあり、検出荷重信号は0〔V〕ではないので、荷重表示部10Aは、リレー14の励磁コイルが励磁状態となる信号を出力し、その接点は図1に示すように開状態であるので、リレー14に接続される警報器(図示せず)による巻過警報は行われない。 【0019】 その後、フック6が上昇していき巻過警報位置に達したことを巻過検出スイッチ7が検出すると、その接点が図1とは反対に開状態になるので、上述の閉回路が開くことになる。このため、荷重検出部9に対する電源15からの電流供給が停止してその荷重検出動作が停止するので、検出荷重信号は0〔V〕になってこの状態が荷重表示部10Aに伝送される。すると、荷重表示部10Aは、その検出荷重信号が0〔V〕になったことを判定し、これによりリレー14の励磁コイルは励磁が解かれ、その接点は図1とは反対に閉状態となるので、リレー14による巻過警報が行われる。 【0020】 以上説明したように、この第1実施形態に係る装置では、巻過検出スイッチ7を、荷重検出部9のアース端子またはアース線19とアースとの間に接続させ、かつ、荷重表示部10Aが、荷重信号線17により伝送される荷重検出部9からの検出荷重信号に基づき、その検出荷重信号が0〔V〕か否かの判定を行い、その判定結果に応じて巻過検出スイッチ7の検出巻過信号に対応する信号を出力し、これによりリレー14の励磁コイルを励磁状態または非励磁状態にさせるようにした。このため、巻過検出スイッチ7の接点の開状態を荷重信号線17を使用して荷重表示部10Aに伝送できるので、従来、必要であった図4に示すような巻過信号線11を省略でき、省配線化を実現できる。 【0021】 また、この第1実施形態に係る装置では、荷重検出部9については従来からのものを変更することなくそのまま使用でき、荷重表示部10Aについては従来から表示機能の他に、比較的構成が簡易な上記のような判定機能を追加するだけで良いので、図5に示すように多重信号通信ユニットを使用した場合に比べて全体の構成が簡易な上に、その制作費用の低廉化が実現できる。 【0022】 さらに、この第1実施形態に係る装置では、電源線16または荷重信号線17が何らかの原因により断線した場合に、荷重検出部9からの検出荷重信号が0〔V〕となり、上記のようにリレー14に接続する警報器よる巻過警報が行われるので、断線による安全を確保できる。 次に、本発明の第2実施形態に係る装置の構成について、図2を参照して説明する。 【0023】 この第2実施形態に係る装置は、第1実施形態に係る装置の巻過検出スイッチ7を、図2に示すように、電源線16の荷重検出部9側の所定位置に介在させ、これに伴い、荷重検出部9のアース端子をアース線19を介して接地するようにし、第1実施形態に係る装置と同様な効果が得られるようにしたものである。 なお、この第2実施形態に係る装置の他の部分の構成は、図1に示す第1実施形態に係る装置の構成と同様であるので、同一の構成要素には同一符号を付してその説明は省略する。 【0024】 このような構成からなる第2実施形態に係る装置では、フック6が図3に示すように巻過警報位置に達しない場合には、巻過検出スイッチ7の接点は図2に示すように閉状態になる。このため、電源15、電源線16、巻過検出スイッチ7、荷重検出部9、アース線19、およびアースにより閉回路が形成される。このため、電源15からの電流が電源線16、および巻過検出スイッチ7を経由して荷重検出部9に流れて動作できるので、荷重検出部9はフック6の吊り上げ荷重を検出する。このときの荷重表示部10Aの動作は、第1実施形態と同様であるので、その説明は省略する。 【0025】 一方、巻過検出スイッチ7がフックが巻過検出位置に達したことを検出すると、その接点が開状態になるので、上述の閉回路が開くことになる。このため、荷重検出部9に対する電源15からの電力供給が停止してその荷重検出動作が停止する。このときの荷重表示部10Aの動作は、第1実施形態と同様であるので、その説明は省略する。 【0026】 次に、本発明の第3実施形態に係る装置の構成について、図2を参照して説明する。 この第3実施形態に係る装置は、図2の実線で示す巻過検出スイッチ7を、同図の破線で示すように、荷重信号線17の荷重検出部9側の所定位置に置き換えるようにし、第1実施形態に係る装置と同様な効果が得られるようにしたものである。 【0027】 このような構成からなる第3実施形態に係る装置では、巻過検出スイッチ7がフックが巻過警報位置に達しない場合には、破線で示す巻過検出スイッチ7の接点は、図2に示すように閉状態にある。このため、荷重検出部9の検出荷重信号が荷重信号線17を経由して荷重表示部10Aに伝送される。このときの荷重表示部10Aの動作は、第1実施形態と同様であるので、その説明は省略する。 【0028】 一方、巻過検出スイッチ7がフックが巻過検出位置に達したことを検出すると、その接点が開状態になって荷重信号線17は断線状態になる。このため、荷重検出部9の検出荷重信号は、荷重信号線17を経由して荷重表示部10Aに伝送されずに0〔V〕となる。このときの荷重表示部10Aの動作は、第1実施形態と同様であるので、その説明は省略する。」(段落【0014】ないし【0028】) イ 上記ア及び図面の記載から分かること (ア)上記ア(ア)及び(イ)並びに図1ないし3の記載によれば、刊行物1には、クレーンの荷重表示装置が記載されていることが分かる。 ここで、図3に示す通常のクレーン、図1に示す第1実施形態及び図2に示す第2実施形態を前提とした、図2に示す第3実施形態に基づいて、以下に検討することとする。 (イ)上記ア(ア)及び(イ)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0003】、【0015】及び【0026】並びに図2及び3の記載)によれば、クレーンの荷重表示装置は、先端ブーム8の先端部に作用する荷重を検出する荷重検出部9を備えることが分かる。 (ウ)上記ア(イ)並びに図1及び2の記載(特に、段落【0015】ないし【0017】、【0023】及び【0026】並びに図2の記載)によれば、クレーンの荷重表示装置は、荷重検出部9に電源の電力を供給する電源線16を備えることが分かる。 (エ)上記ア(イ)並びに図1及び2の記載(特に、段落【0016】ないし【0020】及び【0026】並びに図2の記載)によれば、クレーンの荷重表示装置は、荷重検出部9の検出荷重信号を伝送する荷重信号線17を備えることが分かる。 (オ)上記ア(ア)及び(イ)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0004】ないし【0006】、【0016】、【0017】、【0026】及び【0027】並びに図2および3の記載)によれば、クレーンの荷重表示装置は、荷重信号線17により伝送される検出荷重信号に基づいて先端ブーム8の先端部に作用する荷重を取得する荷重表示部10Aを備えることが分かる。 (カ)上記ア(ア)及び図3の記載(特に、段落【0003】及び図3の記載)によれば、クレーンは、先端ブーム8の先端側から垂下されるワイヤロープ5を備えることが分かる。 ウ 引用発明 上記ア及びイを総合して、本願補正発明の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「先端ブーム8の先端部に作用する荷重を検出する荷重検出部9と、 荷重検出部9に電源15の電力を供給する電源線16と、 荷重検出部9の検出荷重信号を伝送する荷重信号線17と、 荷重信号線17により伝送される検出荷重信号に基づいて先端ブーム8の先端部に作用する荷重を取得する荷重表示部10Aと、 先端ブーム8の先端側から垂下されるワイヤロープ5と、を備えたクレーンの荷重表示装置。」 (2)刊行物2 ア 刊行物2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-303385号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、構築物の構築高さに応じて分割マストを継足すことによりマスト長を増大させる構造を有し、マストの頂部に旋回体を位置させ、該旋回体に過負荷防止装置を備え、該旋回体に取付けたジブより巻上ロープを吊下げて地上構築物と地上との間の荷役作業を行なうクライミングクレーンやジブクレーンにおいて、過負荷防止装置に設定された定格荷重を調整する装置に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0010】 【実施例】図1は本発明による過負荷防止装置の一実施例を示すブロック図である。図1において、11は過負荷防止装置であり、ジブ角度検出器12の出力信号から図5に示した曲線により表わされるジブ角度に対応する定格荷重を得、その定格荷重と荷重検出器13(該荷重検出器は、巻上ロープ9の終端とジブ5との間に設けられるロードセルからなる)により検出される実荷重とを比較し、実荷重が定格荷重を越えると、荷重が増大する方向の動作(ウインチ8をジブ5が倒れる方向に作動させること、ならびにウインチ10を巻上方向に作動させること)が停止されるように、これらのウインチ8、10の停止リレー14を制御するものである。 【0011】15は前記過負荷防止装置11の定格荷重のゼロ点を調整するために地上に備えられる地上ユニットであり、該地上ユニット15は、ゼロ点調整用荷重表示器16と、その表示値を調整して過負荷防止装置11の設定荷重のゼロ点を変える較正ダイヤル17とを有する。18は操作ユニット15と過負荷防止装置11との間に、マスト3に沿って垂下される信号ケーブルである。19は信号ケーブル18の電気抵抗による電圧低下によって信号の誤差が生じることを防止するため、電圧信号を電流信号またはその逆に変換し、信号ケーブル18には電流の形で信号が伝達されるようにするための電圧電流変換器である。 【0012】図2は本発明のゼロ点調整装置の具体例を示す回路図であり、図中、20は前記荷重検出器13からの低域通過フィルタ21を通過した荷重信号を後続処理回路のための信号に増幅する演算増幅器であり、該演算増幅器20は内部ゼロ点調整用の可変抵抗22と、スパン調整用の可変抵抗23とを備えると共に、演算増幅器20の出力、すなわち実荷重信号をケーブル18(前記電圧電流変換器19の図示を省略している)を介して地上の荷重表示器16に表示される回路と、地上の荷重のゼロ点調整用較正ダイヤル17付き可変抵抗24に演算増幅器20の入力部をケーブル18を介して接続する回路を有する。 【0013】この装置を介してゼロ点調整を行なう場合は、作業者が地上において、前記巻上ロープ9の下端のフック25を地面に接触させた状態において、荷重表示器16の表示値を見ながら、その表示値がゼロになるように較正ダイヤル17により可変抵抗24を調整する。 これにより、地上におけるゼロ点調整が可能となる。この調整により、演算増幅器20の出力信号は、ジブ5の頂部から地上までの巻上ロープ9の重量を減じたものとなり、荷そのものの荷重信号が出力されることになる。 その結果、継足されるマストの高さに拘りなく、定格荷重として設定された荷重が吊上げ可能となる。これを図6で説明すると、定格荷重曲線の荷重のゼロレベルが0から0’に移行し、定格荷重曲線は点線bに示す通りになり、巻上ロープ9の重量分がゼロにである場合と同様の荷重が吊上げ可能となる。」(段落【0010】及び【0013】) イ 刊行物2記載の技術 上記ア(ア)及び(イ)並びに図1及び2の記載によれば、刊行物2には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されていると認める。 「クレーンの過負荷防止装置において、荷重検出器13により検出される実荷重の電圧信号を電流信号またはその逆に変換する電圧電流変換器19を設け、信号ケーブル18に電流の形で信号が伝達されるようにする技術。」 3 対比 本願補正発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・後者における「先端ブーム8」は、前者における「ブーム」に相当し、以下同様に、「荷重検出部9」は「荷重検出部」に、「電源15」は「電源」に、「ワイヤロープ5」は「ワイヤロープ」に、それぞれ相当する。 ・後者における「荷重表示部10A」は、先端ブーム8の先端部に作用する荷重を取得するものであるから、前者における「荷重取得手段」に相当する。 そして、後者における「クレーンの荷重表示装置」は、前者における「クレーンの荷重検出装置」に相当する。 ・後者における「荷重検出部9に電源15の電力を供給する電源線16」及び「荷重検出部9から検出荷重信号を伝送する荷重信号線17」は、前者における「荷重検出部に電源の電力を供給する1本のケーブル」に、「荷重検出部に電源の電力を供給するとともに、荷重検出部の荷重に応じた信号を伝送する所定のケーブル」という限りにおいて一致する。 ・後者における「荷重信号線17により伝送される検出荷重信号に基づいて先端ブーム8の先端部に作用する荷重を取得する荷重表示部10A」は、前者における「ケーブルに流れる電流値に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段」に、「所定のケーブルから伝送される荷重に応じた信号に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、 「ブームの先端部に作用する荷重を検出する荷重検出部と、 荷重検出部に電源の電力を供給するとともに、荷重検出部の荷重に応じた信号を伝送する所定のケーブルと、 所定のケーブルから伝送される荷重に応じた信号に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段と、 ブームの先端側から垂下されるワイヤロープと、を備えたクレーンの荷重検出装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。 (1)相違点1 「荷重検出部に電源の電力を供給するとともに、荷重検出部の荷重に応じた信号を伝送する所定のケーブル」を備えることに関し、本願補正発明においては、「荷重検出部に電源の電力を供給する1本のケーブル」を備えるのに対して、引用発明においては、「荷重検出部9に電源15の電力を供給する電源線16」及び「荷重検出部9から検出荷重信号を伝送する荷重信号線17」を備える点(以下、「相違点1」という。)。 (2)相違点2 本願補正発明においては、「ケーブルに接続され、荷重検出部に電力を供給するとともに、ケーブルに流れる電流値が荷重検出部からの出力電圧に応じた電流値となるように調整する電流変換器」を備えるのに対して、引用発明においては、そのような構成を有していない点(以下、「相違点2」という。)。 (3)相違点3 「所定のケーブルから伝送される荷重に応じた信号に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段」に関し、本願補正発明においては、「ケーブルに流れる電流値に基づいてブームの先端部に作用する荷重を取得する荷重取得手段」であるのに対して、引用発明においては、「荷重信号線17により伝送される検出荷重信号に基づいて先端ブーム8の先端部に作用する荷重を取得する荷重表示部10A」である点(以下、「相違点3」という。)。 (4)相違点4 本願補正発明においては、「ワイヤロープが巻き掛けられるドラムとドラムを回転させるウインチモータとを有するウインチ」を備え、「ウインチモータは、可変容量形の油圧モータであって、所定の流量の作動油に対して回転数が可変であり、ウインチモータの所定の流量の作動油に対する回転数は、ケーブルに流れる電流値に基づいて設定される」のに対して、引用発明においては、そのような構成を有しているか否か不明である点(以下、「相違点4」という。)。 4 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1ないし3について 刊行物2記載の技術は、「荷重検出器13により検出される実荷重の電圧信号を電流信号またはその逆に変換する電圧電流変換器19」を設けるところ、これにより、信号ケーブル18に流れる電流値が荷重検出器18からの出力電圧に応じた電流値となるように調整されることは明らかである。 そして、刊行物2記載の技術にみられるように、検出装置において、ケーブルに流れる電流値が検出器からの出力電圧に応じた電流値となるように調整する送信側の電流変換器と、ケーブルに流れる電流値に基づいて検出器の出力電圧に応じた電圧値の信号を出力する受信側の電圧変換器とを設け、ケーブルに電流値の信号を伝送することは、本件出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。他に必要であれば、特開昭50-160064号公報(特に、1ページ左下欄17行ないし同ページ右下欄末行及び第1図)を参照。)である。 一方、引用発明においては、荷重検出部9(荷重検出部)の検出荷重信号(荷重に応じた信号)を電圧値の信号として荷重信号線17(所定のケーブル)により伝送するところ、検出荷重信号を確実に伝送することは当然に考慮されることであって、ケーブルを用いた信号の伝送において、電圧信号に比べて電流信号の方が、ノイズやケーブルの電気抵抗による信号の減衰等の影響を受け難く、信号の確実な伝送が可能であることは、本件出願の出願前において、ごく普通に知られていること(必要であれば、刊行物2の段落【0011】を参照。)であるから、引用発明において、周知技術1を適用することは、当業者が容易に着想できたことである。 また、ケーブルの本数を削減するために、電力供給用のケーブルを、信号伝送用として共用することは、本件出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要であれば、特開昭58-104890号公報(特に、2ページ左上欄13行ないし同ページ左下欄13行及び4ページ左下欄19行ないし同ページ右下欄6行並びに第1図)、特開2005-104705号公報(特に、段落【0006】及び【0019】ないし【0021】並びに図1及び2)及び、特開昭50-160064号公報(特に、1ページ左下欄17行ないし同ページ右下欄末行及び第1図)を参照。)である。 そして、クレーンに限らず、ケーブル(配線)の本数を削減することは、本件出願の出願前において、普遍的な課題である以上、引用発明においても当然に内在する課題である(必要であれば、刊行物1の段落【0007】を参照。)から、引用発明において、周知技術2を適用することは、当業者が容易に着想できたことである。 そうすると、引用発明において、周知技術1及び2を適用することにより、荷重検出部9(荷重検出部)に電源15(電源)の電力を供給する1本の電源線16(ケーブル)と、電源線16に接続され、荷重検出部9に電力を供給するとともに、電源線16に流れる電流値が荷重検出部9からの出力電圧に応じた電流値となるように調整する電流変換器と、電源線16に流れる電流値に基づいて先端ブーム8(ブーム)の先端部に作用する荷重を取得する荷重表示部10A(荷重取得手段)とを備えたものとし、上記相違点1ないし3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点4について クレーンにおいて、ワイヤロープが巻き掛けられるドラムとドラムを回転させるウインチモータとを有するウインチを備え、ウインチモータは、可変容量形の油圧モータであって、所定の流量の作動油に対して回転数が可変であり、ウインチモータの所定の流量の作動油に対する回転数は、荷重に応じた信号に基づいて設定されるようにすることは、本件出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術3」という。必要であれば、特開平8-319095号公報(特に、段落【0017】ないし【0051】並びに図1及び2)及び特開平7-187585号公報(特に、段落【0013】ないし【0015】並びに図1及び2)を参照。)である。 一方、引用発明は、荷重に応じた信号である検出荷重信号を得ることができるものであるから、引用発明において、適用対象であるクレーンの構成として、荷重に応じた信号を入力信号とする周知技術3を採用することにより、ワイヤロープ5(ワイヤロープ)が巻き掛けられるドラムとドラムを回転させるウインチモータとを有するウインチを備え、ウインチモータは、可変容量形の油圧モータであって、所定の流量の作動油に対して回転数が可変であり、ウインチモータの所定の流量の作動油に対する回転数は、ケーブルに流れる電流値に基づいて設定されるようにし、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 〔4〕むすび 上記〔3〕のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、本件出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、前記第2[理由]〔1〕(A)に示したとおりのものである。 2 引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項、並びに、引用発明は、前記第2[理由]〔3〕2(1)に記載したとおりであり、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2及びその記載事項並びに刊行物2記載の技術は、前記第2[理由]〔3〕2(2)に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、前記第2[理由]〔3〕で検討した本願補正発明の発明特定事項のうち、「ブームの先端側から垂下されるワイヤロープと、ワイヤロープが巻き掛けられるドラムとドラムを回転させるウインチモータとを有するウインチと、を備え、ウインチモータは、可変容量形の油圧モータであって、所定の流量の作動油に対して回転数が可変であり、ウインチモータの所定の流量の作動油に対する回転数は、ケーブルに流れる電流値に基づいて設定される」という発明特定事項を省いたものに相当する。 そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2[理由][3]に記載したとおり、引用発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は実質的に、前記第2[理由]〔3〕3の対比で示した相違点1ないし3の点でのみ相違するのであるから、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-02-06 |
結審通知日 | 2017-02-07 |
審決日 | 2017-02-20 |
出願番号 | 特願2012-42487(P2012-42487) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B66C)
P 1 8・ 121- Z (B66C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今野 聖一、加藤 昌人、八板 直人 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
松下 聡 槙原 進 |
発明の名称 | クレーンの荷重検出装置 |
代理人 | 特許業務法人 エビス国際特許事務所 |