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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1326886
審判番号 不服2014-12710  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-02 
確定日 2017-04-03 
事件の表示 特願2013-125829「強誘電性PZT材料」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-243133〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年(平成12年) 2月18日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1999年(平成11年) 2月19日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2000-600296号の一部を平成24年12月20日に新たな特許出願とした特願2012-278476号の一部を平成25年 6月14日にさらに新たな特許出願としたものであって、平成26年 2月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年 7月 2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審から平成27年 6月12日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年10月13日に意見書(以下、「意見書1」という。)及び手続補正書が提出され、平成28年 1月20日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年 5月20日に意見書(以下、「意見書2」という。)が提出されたものである。

第2 平成27年10月13日付け手続補正について
平成27年10月13日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲の記載について、
「【請求項1】
寸法的にスケーラブルで、パルス長スケーラブルで、および/または電界スケーラブルであり、
1平方センチメートルあたり20μCより大きい強誘電性分極P_(SW)、
前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J、
J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和、および
10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労
の特性を有する強誘電性PZT材料。」とあるのを、
「【請求項1】
寸法的にスケーラブル、パルス長スケーラブル、および電界スケーラブルの少なくとも1つを備え、
1平方センチメートルあたり20μCより大きい強誘電性分極P_(SW)、
前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J、
J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和、および
イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定される、10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労
の特性を有する強誘電性PZT材料。」とするものである。
本件手続補正は、請求項1の「サイクル疲労」について、「イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定される」ことを新たな発明特定事項として追加することを含むものであるところ、当審拒絶理由通知2は、「サイクル疲労」について、「イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定される」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではないから、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものであり、これに対して、意見書2が提出された。
そこで、意見書2の主張を踏まえて、本件手続補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているかについて検討する。
本願明細書の【0065】の【表3】には表Aが記載され、【0066】には「表Aのプロセスパラメータに関連して用いられうる例示的な特定のプロセス実施形態を、『プロセスセットA』として以下に記載する。」と記載され、【0067】の【表4】にはプロセスセットAについて
「下部電極:基板上のTiAlNバリア層上のIr下部電極
・・・
上部電極:上部電極についてIrおよびIrO_(x)を含有する構造体」(当審注:「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)
と記載されている。
これらの記載からみて、本願明細書には、表Aの「Irベースの電極の使用」の例示的な特定のプロセス実施形態として、イリジウムの下部電極及びイリジウム/酸化イリジウムの上部電極を用いることが記載されているといえる。
してみると、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

第3 本願発明
前記第2に記載したとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年10月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
寸法的にスケーラブル、パルス長スケーラブル、および電界スケーラブルの少なくとも1つを備え、
1平方センチメートルあたり20μCより大きい強誘電性分極P_(SW)、
前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J、
J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和、および
イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定される、10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労
の特性を有する強誘電性PZT材料。

なお、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J」との記載において、この記載以前に「材料」は記載されていないが、請求項1全体において「材料」についての記載は、「強誘電性PZT材料」のみであるから、「前記材料」は「強誘電性PZT材料」を意味すると認める。

第3 当審拒絶理由1の概要
当審拒絶理由2において判断を留保した当審拒絶理由1は、次の(1)?(3)の理由を含むものである。

(1)本願発明は、その「強誘電性PZT材料」が、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J」という特性について、「寸法的にスケーラブル」であることを特定するものであるが、この「強誘電性PZT材料」の製造方法は不明であるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、本願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)本願発明は、その「強誘電性PZT材料」が、「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」を有することを特定するものであるが、この「強誘電性PZT材料」の製造方法は不明であるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、本願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)本願発明は、「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」という発明特定事項を有しているが、この「J^(-n)log(時間)」は、発明の詳細な説明において、「J^(-n)∝log(時間)」と記載されており、両者は整合しておらず、本願発明は明確でない。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない。

第4 判断
1 発明の詳細な説明の記載事項
本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(本-ア)「【0016】
以下に用いるように、以下の用語は以下の定義を有する。
【0017】
「残留分極」、すなわち、P_(r)は、V_(op)を通過後のゼロボルトにおける分極である。
【0018】
「強誘電性の反転分極」、すなわち、P_(SW)=P^(*)-P^(∧)であり、ここで、P^(*)は、キャパシタがP_(r)(-V_(op))で開始する場合にゼロボルトからV_(op)ボルトに横断するキャパシタから出る(transfer out)分極であり、P^(∧)は、キャパシタがP_(r)(V_(op))から開始する場合にゼロボルトからV_(op)ボルトに横断するキャパシタから出る(transfer out)分極である。パルス長は0.23ミリ秒である。これらの値を決定するために用いた後述する測定器具はラジアント(Radient)6000ユニットであった。
【0019】
「抗電界」、すなわち、E_(c)は、分極対電圧のヒステリシスループ中に分極がゼロである電界である。この目的のために電界周波数は50ヘルツである。
【0020】
「E_(max)」は、E_(max)=3E_(c)で測定されたヒステリシスループの最大電界である。
【0021】
「漏れ電流密度」、すなわち、Jは、動作電圧V_(op)、および、5秒のステップ電圧応答において測定される。
【0022】
「保持」は、Integrated Ferroelectrics、Vol.16[669]、No. 3、63頁(1997)に記載される方法によって測定される残留分極である。
【0023】
「サイクル疲労P_(SW)」は、50%のデューティサイクルにおける0.5メガヘルツ以下の方形パルスの周波数、および<10^(-4)cm^(2)のキャパシタ面積で測定された強誘電性分極である。
【0024】
「寸法的にスケーラブルなPZT」材料とは、ドープされておらず、かつ、約20から約150ナノメートルの厚さの範囲に亘ってPZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性を有し、かつ、0.15μmまで低く延在する横寸法と約10^(4)から約10^(-2)μm^(2)の対応キャパシタ面積を有するPZT材料を意味する。
【0025】
「電界スケーラブルPZT」材料とは、ドープされておらず、かつ、3ボルト未満の電圧において、20から150ナノメートルの膜厚の範囲に亘ってPZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性を有するPZT材料を意味する。
【0026】
「パルス長スケーラブルPZT」材料とは、ドープされておらず、かつ、5ナノ秒から200マイクロ秒の励起(電圧)パルス長の範囲に亘って有用な強誘電特性を有するPZT材料を意味する。
【0027】
「強誘電体動作電圧」は、キャパシタ内のPZT薄膜に印加される場合に、材料にその配向極性状態の1つ状態から別の1つ状態に誘電的に反転させる電圧を意味する。
【0028】
「プラトー(Plateau)効果決定」とは、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比(A/B比はPb対(Zr+Ti)の比率)のそれぞれの関数として、強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率のぞれぞれを示すプロットの相関実験的マトリクスを確立して、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の独立プロセス変数に対して動作の領域を定義する各プロットの「ニー(knee)」、すなわち、変曲点を特定して、後述するように、そのような動作の領域から選択される温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の対応値においてMOCVDプロセスを行うことを意味する。
【0029】
「タイプ1特性」とは、集合的に、1平方センチメートルあたり20マイクロクーロン(μC)より大きい強誘電性分極P_(SW)、動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度(J)、J^(-n)log(時間)により定義される誘電緩和(ただし、nは0.5より大きい)、および、10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労を意味する。
【0030】
「タイプ2特性」とは、集合的に、強誘電性分極、抗電界、漏れ電流密度、保持、およびサイクル疲労の、以下の寸法的にスケーリングされる特性を意味する。
【表1】

【0031】
PZT膜材料に関連しての「ドープされていない」とは、ドーパントおよび改質剤(PZT材料の結晶構造に加えられる異種原子種であって、材料の観察されるまたは高められた強誘電特性を左右する)が1原子百分率未満の濃度で材料中に存在することを意味する。」

(本-イ)「【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、前駆体濃度に対する化学量論の非感受性を示す、PZT薄膜材料についての気相組成(A/B)_(g)の関数としての膜組成(A/B)_(f)を示すグラフである。
【図2】図2は、圧力(P)、温度(T)、および溶液A/B比の関数として示す、漏れ電流密度の対数(Log J)、強誘電性分極(P_(SW))、および膜におけるPbの原子%の実験的に決定された値について得られるモデルデータマトリクスである。
【図3】図3は、スタックキャパシタ構造を用いる半導体デバイスの略断面図である。
【図4】図4は、PbおよびTi化合物をZr(thd)_(4)およびZr(O-i-Pr)_(2)(thd)_(2)と比較したTGAデータのプロットである。
【図5】図5は、電流密度が?125nmより上の膜厚にわずかにしか依存しないことを示す、様々な厚さのPZT膜についての電流密度対電界のプロットをである。(当審注:「・・・プロットである。」の誤記と認める。)
【図6】図6は、抗電界(E_(c))が膜厚とほぼ無関係であることを示すEc対膜厚のプロットである。
【図7】図7は、a)P_(SW)対電圧と、b)P_(SW)対電界のプロットである。
【図8】図8は、疲労が膜厚とほぼ無関係であることを示すPZT膜についてのP^(*)-P^(へ)対サイクル数のプロットである。
【図9】図9は、様々な厚さのPZT膜についてのインプリント挙動のプロットである。
【図10】図10は、強誘電性パルス試験のシャント方法のための試験構造を示す。
【図11】図11は、1μsパルスで試験された10μm×10μmキャパシタについての試験信号および応答信号対時間のプロットである。
【図12】図12は、調べた範囲に亘ってQ_(SW)がパルス長と無関係であることを示す、様々な印加電圧についてのQ_(SW)対パルス長のプロットである。
【図13】図13は、調べた範囲に亘ってQ_(SW)が面積と無関係であることを示す、Q_(SW)対キャパシタ寸法のプロットである。」

(本-ウ)「【0064】
主要な態様では、本発明は、優れた特性を有するPZT膜をもたらすCVD条件の選択のための方法論に関する。この方法論は、「A/Bプラトー効果」を利用して、その電気特性が、強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)といった強誘電体不揮発性(NV)メモリの最適要件と合致する容量性PZT膜の製作を実現する。この「A/Bプラトー効果」は後述するが、平滑度と粒径は、特定の核形成および成長現象を修正することによって制御可能であるという概念に基づいている。後述するように、堆積条件と処理パラメータを選択するための原理の完全なる集合によって、当該技術分野において実現不可能と前は考えられていたPZT膜特性、特に、非ドープPZTに対する低インプリント、および、低厚(例えば、20nmまでの厚さ)への電界スケーリングがもたらされる。
【0065】
このような特性を実現するためのPZT特性と相関材料または処理要件のマトリクスを下記の表Aに記載する。
【表3】

【0066】
表Aのプロセスパラメータに関連して用いられうる例示的な特定のプロセス実施形態を、「プロセスセットA」として以下に記載する。図示するように、プロセスセットAは、前駆体試薬および溶媒組成を含む特定の前駆体化学的性質、基板およびバリア層材料(バリア層は基板とPZT材料層との間に堆積されるかまたはそうでなければ設けられる)を用いて、PZT材料の最適な電気特性および性能特性、構造物の電極材料、キャリアガス種、および酸化剤種の実現に適した電気環境を提供する。
【0067】
【表4】

【0068】
プロセスセットAの要素は、例示に過ぎず、特定の前駆体の化学的性質、キャリアガス種、デバイス構造層等は、本発明の範囲においてスケーラブルなPZT膜材料を実現する本発明の幅広い実施において様々に異なりうることは理解されよう。」

(本-エ)「【0071】
図2は、圧力(P)、温度(T)、および溶液A/B比の関数として示す、漏れ電流密度の対数(Log J)、強誘電性分極(P_(SW))、および膜におけるPbの原子%の経験的に決定された値について得られるモデルデータマトリクスである。
【0072】
マトリクスからのモデルデータは、従属変数:膜におけるPbの原子%、強誘電性分極(P_(SW))、および漏れ電流密度(log J)に対する独立(プロセス変数)P、T、および(A/B)_(solution)の基本的な関係を示す。これらの独立変数のうち、(A/B)_(solution)は、前駆体液体試薬溶液が前駆体の溶液中にあるように同じ気相組成を実現するように蒸発させられるので、(A/B)_(gas)に等しい。
【0073】
従属変数(図2のモデルデータマトリクスにおける強誘電性膜の中心領域および端領域の平均値を含む)に対して生成された様々な曲線を見てみると、「ニー(knee)」または変曲点が示され、この点以降は、曲線は、所与の独立プロセス変数P、T、(A/B)_(solution)の値が増加する方向において平らになる。このニー点またはその付近において動作させることによって、本発明の優れたPZT材料が生成される。ニー点の「付近」とは、独立プロセス変数に応じて異なる。溶液A/B比および圧力の場合、付近は、好適にはニー点の±25%内にあり、また、温度については、付近は、好適にはニー点の±5%内にある。
【0074】
図2に示す具体的なデータについて、この「ニー」点は、溶液A/B比では1.02であり、堆積圧では1750ミリトールであり、堆積温度では575℃である。これらの独立変数値を選択することによって、かかるA/B溶液比、圧力、および温度で生成される、本発明の優れたPZT材料を生成する対応する従属値が容易に決定されうる。この従属値には、動作電圧において1平方センチメートルあたり-4.35アンペアであるLog J_(ave)中心値、動作電圧において1平方センチメートルあたり-6.77アンペアであるLog J_(ave)端値、1平方センチメートルあたり35.1μCであるP_(SW)端値、1平方センチメートルあたり33.7μCであるP_(SW)中心値、および52.3%であるPbの原子%が含まれる。
【0075】
したがって、本発明は「プラトー効果決定」を包含し、この「プラトー効果決定」は、後述するように、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比(A/B比はPb対(Zr+Ti)の比率である)のそれぞれの関数として、強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率のそれぞれを示すプロットの相関実験的マトリクスを確立するステップと、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の独立プロセス変数に対して動作の領域を定義する各プロットの「ニー(knee)」、すなわち、変曲点を特定するステップと、後述するように、そのような動作の領域から選択される温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の対応値においてMOCVDプロセスを行うステップを含む。」

(本-オ)「【0114】
例4
・・・
【0116】
MOCVD PZT堆積が、200℃に設定された気化器温度で、新規のZr(O-i-Pr)_(2)(thd)_(2)(Zr-2-2)化合物を用いて標準的なIr/TiAlN下部電極(BE)上に行われた。追加の堆積が、203℃の気化器温度において、標準的なZr(thd)_(4)(Zr-0-4)化合物を用いて処理された。他のすべての堆積条件は一定にされた。PZT堆積後、Pt上部電極(TE)が電子ビーム蒸発され、サンプルは、30分間の間、流動アルゴン中で650℃においてアニールされた。」


(本-カ)「【0120】
例5
本発明に従って形成されたPZT材料を用いて多数のサンプルが作成された。これらのサンプルは、スパッタリング技術によって下部電極を形成し、これらの電極上に本発明に従ってPZT材料を堆積し、その後、電子ビーム堆積によってシャドウマスクを介して上部電極を堆積することを含む。PZT堆積時間は、10nmから260nmの膜厚を目標に165秒から4065秒の間で変化させられた。
【0121】
これらのサンプルの電気試験によって、厚さ、パルス長、および、本発明の強誘電性PZT材料の強誘電性分極、サイクル疲労等を含む面積スケーリング特性を立証するキャパシタ構造の電気的特徴が提供される。
【0122】
図5に、漏れ電流密度対電界を示す。77nmの膜に対する高い「漏れ」が直ぐに確認された。厚さ閾値未満の膜についての定性的に異なる電気的挙動は、高い相対ラフネス(ラフネス/厚さ)に因るものであってよく、これは、薄い膜において非常に薄い領域がもたらされる。このような場合、局所的に高い電界が予期される。セット(>77nm)のうちのより厚い膜に対する電流密度は、際立って安定した電界依存性が示された。両極性における漏れは、150kV/cmに対して10^(-6)?10^(-7)A/cm^(2)の範囲であった(150kV/cmは、例えば、125nmの膜では1.9Vに対応する)。
【0123】
漏れは、電界の関数としてプロットされた場合に、厚さに反応しない4つの特性のうちの1つであった。他の特性は、抗電圧(V_(c))、分極飽和(P_(SW)対V_(OP))、および疲労耐性であった。
【0124】
各サンプルに対する抗電圧は、関係3V_(c)(測定済み)=V_(op)から決定され、その方法に基づくE_(c)の計算された値を図6に示す。厚さが77nmより大きいPZT膜については、E_(c)は約50kV/cmであった。
【0125】
パルス測定を用いて分極飽和を調べた。図7は、電圧および電界への反転分極の依存を示す。データは、高い電圧に対しては分極が増加することが予期されることを示す。高い電界に耐えることのできる厚い膜について明らかな飽和挙動が観察される。125nmまたはそれよりも厚い膜では、飽和P_(SW)>40μC/cm^(2)である。飽和に近いP_(SW)(300kV/cm)に正規化されて、P_(SW)対Eは、膜厚とほぼ無関係となる。すべてのサンプルで、P_(SW)は、3E_(c)(?150kV/cm)においてその最大値の約90%に到達する。
【0126】
このサンプルセットの疲労特性も、電界スケーリングについて安定した特性を示した(図8)。疲労測定は、3E_(c)に対応する150kV/cmにおいて行われた。疲労波形は、10^(-5)秒の期間を有する方形波であった。疲労は、PZT厚さにほぼ無関係で、10^(9)回のサイクルにおいて?50%でP_(SW)が減少する。」

(本-キ)「【図2】



(本-ク)「【図5】

」(前記(本-イ)及び前記(本-カ)の記載を踏まえると、図5は様々な厚さのPZT膜についての漏れ電流密度対電界を示すグラフであり、その縦軸が漏れ電流密度、その横軸が電界であり、■、▲、◆、■、●の各プロットは、それぞれ、本発明に従って形成されたPZT材料を用いて多数のサンプルの、PZT材料の膜の厚さが77nm、98nm、125nm、210nm、260nmであるものである。ここで、PZT材料の膜の厚さが77nmのものと、210nmものが、ともに■のプロットであるが、上記(本願-イ)の記載を踏まえると、同一の電界の値に対して高い電流密度の値であるものが、PZT膜の厚さが77nmのものであるといえる。)

(本-ケ)「【図6】



(本-コ)「【図8】



2 拒絶理由(1)について

ア 本願発明は、「寸法的にスケーラブル、パルス長スケーラブル、および電界スケーラブルの少なくとも1つを備え」る「強誘電性PZT材料」であるから、本願発明は、その「強誘電性PZT材料」が「寸法的にスケーラブル」を備える場合を含む。
また、本願発明は、「 1平方センチメートルあたり20μCより大きい強誘電性分極P_(SW)、
前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J、
J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和、および
イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定される、10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労
の特性を有する強電性PZT材料」であるから、本願発明の「寸法的にスケーラブル」を備える「強誘電性PZT材料」は、少なくとも、上記特性の一つである「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J」の特性を有するものである。
そこで、本願発明に含まれる、その「強誘電性PZT材料」が、「寸法的にスケーラブル」を備え、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J」の特性を有するものについて、当業者が実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されているかについて検討する。

イ まず、本願発明の「強誘電性PZT材料」が「寸法的にスケーラブル」を備えることは、前記(本-ア)の【0024】の記載からみて、「強誘電性PZT材料」が「ドープされておらず、かつ、約20から約150ナノメートルの厚さの範囲に亘ってPZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性を有し、かつ、0.15μmまで低く延在する横寸法と約10^(4)から約10^(-2)μm^(2)の対応キャパシタ面積を有するPZT材料」であることといえ、少なくとも、「約20から約150ナノメートルの厚さの範囲に亘ってPZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性を有」することが必要である。
そして、この「PZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性」は、前記(本-ウ)の【表3】に、PZT特性が列挙されており、漏れ電流密度、すなわち、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J」の特性を含むものと認められる。

ウ してみると、本願発明の「強誘電性PZT材料」が、「寸法的にスケーラブル」を備え、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度J」の特性を有するとは、少なくとも、「強誘電性PZT材料」が「約20から約150ナノメートルの厚さの範囲に亘って」「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」を有することといえるから、このことについて、本願の発明の詳細な説明の記載をみていく。

エ 前記(本-カ)には、本発明に従って形成されたPZT材料を用いて多数のサンプルを作成し(【0120】)、これらのサンプルの電気試験によりキャパシタ構造の電気的特徴を提供したこと(【0121】)が記載され、図5に漏れ電流密度対電界が示され、77nmの膜に対する高い「漏れ」が直ぐに確認されたこと(【0122】)が記載されている。

オ そこで、高い漏れ電流が確認された77nmの膜が、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」を有するかについて、様々な厚さのPZT膜についての電流密度対電界のプロットである前記(本-ク)の【図5】を見てみる。ここで、前記(本-ク)の【図5】の横軸は、電圧ではなく電界であるから、膜の厚さが77nmのサンプルについての強誘電体動作電圧における電界(以下、「E_(op)」又は「動作電界」ということがある。)を求め、その電界における電流密度から、77nmの膜の漏れ電流密度を読み取ることになる。

カ ここで、「強誘電体動作電圧」について、前記(本-ア)の【0027】には、「キャパシタ内のPZT薄膜に印加される場合に、材料にその配向極性状態の1つ状態から別の1つ状態に誘電的に反転させる電圧を意味する」との定義が記載され、前記(本-カ)の【0124】には、3V_(c)(抗電圧)=V_(op)(動作電圧)であることが記載されている。
そして、前記(本-カ)の【0124】には、厚さが77nmより大きいPZT膜については、E_(c)(抗電界)は約50kV/cmであったことが記載されており、前記(本-ケ)の【図6】からも、厚さが77nmのPZT膜について、そのE_(c)の値が約50kV/cmであることが読み取れる。
してみると、電圧は2点間の電位差、電界は単位長さ当たりの電位変化であるという技術常識を踏まえると、E_(op)(動作電界)は、3E_(c)=E_(op)の関係にあるといえ、厚さが77nmのPZT膜における動作電圧における電位E_(op)は、そのE_(c)(抗電界)の値が約50kV/cmであって、3E_(c)=E_(op)の関係にあるから、約150kV/cm(=約50×3)であるといえる。

キ そこで、この厚さが77nmのPZT膜における動作電圧における電位E_(op)(動作電位)の値である約150kV/cmを用いて、前記(本-ク)の【図5】から、厚さが77nmのPZT膜の動作電圧における漏れ電流値を読み取ると、その値が10^(-5)アンペアよりも高いことは明らかである。

ク すると、本発明に従って形成されたPZT材料を用いて作成された、前記(本-ク)の【図5】に示される厚さが77nmのPZT膜は、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」を有しないといえる。
そして、PZT膜の厚さが薄くなるほど、漏れ電流密度が大きくなることは、技術常識からして明らかであるから、厚さが77nm以下のPZT膜が「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」を有しないといえる。

ケ してみると、発明の詳細な説明には、厚さが77nm以下のPZT膜の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性を有するものが、製造できることについて具体的に示されているとはいえない。

コ ここで、前記(本-ク)の【図5】に示される厚さが77nmのPZT膜について、前記(本-カ)の【0122】には「厚さ閾値未満の膜についての定性的に異なる電気的挙動は、高い相対ラフネス(ラフネス/厚さ)に因るものであってよく、これは、薄い膜において非常に薄い領域がもたらされる。このような場合、局所的に高い電界が予期される。」と記載されているから、仮に、厚さが77nm以下のPZT膜について、高い相対ラフネス(ラフネス/厚さ)による極めて薄い領域又は膜が存在しない領域が形成されないように製造することができれば、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」を有する可能性は否定できない。
そこで、厚さが77nm以下のPZT膜について高い相対ラフネス(ラフネス/厚さ)による極めて薄い領域又は膜が存在しない領域が形成されないように製造することにより、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」の厚さが77nm以下のPZT膜を製造することについて、明細書及び図面の記載と出願時の技術常識とに基づいて当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているかについてさらに検討する。

サ 本願の発明の詳細な説明には、PZT膜の製造方法について、前記(本-ア)の【0028】には、『プラトー(Plateau)効果決定』とは、MOCVDプロセスにおける条件のうち、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比について、これらの変数と強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率との相関を実験的に関数として求め、そこから、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の対応値を定めるものであることが記載されている。
そして、前記(本-エ)の【0071】?【0075】及び前記(本-キ)の【図2】には、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の対応値を定めることは、「従属変数(図2のモデルデータマトリクスにおける強誘電性膜の中心領域および端領域の平均値を含む)に対して生成された様々な曲線において「ニー(knee)」または変曲点が示され、この点以降は、曲線は、所与の独立プロセス変数P、T、(A/B)_(solution)の値が増加する方向において平らになるから、このニー点またはその付近(好適にはニー点の±25%内にあり、また、温度については、付近は、好適にはニー点の±5%内)とすることであり、これにより、本発明の優れたPZT材料が生成され、具体的には、動作電圧において1平方センチメートルあたり-4.35アンペアであるLog J_(ave)中心値、動作電圧において1平方センチメートルあたり-6.77アンペアであるLog J_(ave)端値、1平方センチメートルあたり35.1μCであるP_(SW)端値、1平方センチメートルあたり33.7μCであるP_(SW)中心値、および52.3%であるPbの原子%が含まれることが達成されることが記載されている。

シ ここで、前記(本-ウ)の「このような特性を実現するためのPZT特性と相関材料または処理要件のマトリクス」である表Aには、PZT膜のラフネスに関する特性として「表面平滑度」という「PZT特性」について、「上で決められたP、T、および気相A/B濃度比の範囲内での膜形成時の核形成成長条件」と記載されている。

ス してみると、発明の詳細な説明には、MOCVDプロセスにおける条件のうち、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の決定方法は、強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率を所定の値となるように決定する方法が記載され、表面平滑度については、これにより決められたP、T、および気相A/B濃度比の範囲内での膜形成時の核形成成長条件とすることが記載されているといえる。

セ しかしながら、前記(本-カ)の例5をみると、本願発明に従って形成されたPZT材料であっても、77nmより薄い膜厚の範囲において、均一な厚さの膜が得られていないから、より薄い膜厚の範囲において、均一な厚さの膜を形成するためには、発明の詳細な説明に記載される『プラトー(Plateau)効果決定』による、MOCVDプロセスにおける温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の条件のみではなく、その他のMOCVDプロセスにおける条件についても、さらなる最適化が必要であるといえる。
そして、MOCVDプロセスにおける条件は、例えば、前記(本-ウ)の【0067】のプロセスセットAの表に示されるように、前駆体、溶媒、電極及びバリア、キャリアガス、酸化剤、体積条件(適切なガス供給、酸化剤成分、比率、流速、液体供給、混合および体積時間との組み合わせ)、気化器(そのパラメータの例として、背圧、供給管、フリット多孔率、気化器温度、ガス共注入、供給管/フリット組成、および管/フリット設置手順)等、多岐にわたるものであるとともに、発明の詳細な説明には、プロセスを正確に制御するためにこれらのパラメータをどのように調整すべきであるかその指針も示されていない。したがって、プロセスを正確に制御し、より薄い膜厚の範囲において、均一な厚さの膜を形成することは、過度の試行錯誤を要するものといえる。

ソ してみると、発明の詳細な説明は、「前記材料の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性」の厚さが77nm以下のPZT膜を製造することについて、明細書及び図面の記載と出願時の技術常識とに基づいて当業者が実施することができる程度に記載されているとはいえない。

タ したがって、発明の詳細な説明には、厚さが77nm以下のPZT膜の強誘電体動作電圧において1平方センチメートルあたり10^(-5)アンペア未満の漏れ電流密度Jの特性を有するものが、製造できることについて具体的に示されていないし、技術常識に基づいても、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物が製造できるともいえないから、本願の発明の詳細な説明は、本願発明の「強誘電性PZT材料」が、上記77nm以下の厚さの範囲を含む、20nmから150nmの範囲において「漏れ電流密度J特性」を有することについて、当業者が実施できるように記載されていない。

チ なお、審判請求人は、前記(本-ク)の【図5】に示される漏れ電流密度対電界のグラフについて、意見書1、及び、意見書2において、以下の主張をしている。

(ア)意見書1における主張
審判請求人は、意見書1において、前記(本-カ)の【0122】の記載を根拠として、次の主張をしている。
(ア-1)「図5に示すように、98nm、125nm、210nm、260nmの膜厚の各強誘電薄膜漏れ電流密度Jは10^(-5)A/cm^(2)を下回っている。本願明細書の段落0122で主張しているように、77nmの厚さの薄膜のデータは異常値である。
・・・
このように、本出願人は、本願明細書において77nmの厚さの薄膜のデータが異常値となった理由を説明している。」(3.拒絶理由に対する意見 (1)拒絶理由通知書の(1)について)
また、本件出願の優先日(1999年2月19日)の直後の1999年3月7-10日に米国コロラド・スプリングズにて開催された第11回集積強誘電体国際シンポジウムにおける、本件発明の発表( “Issues for Scaling of MOCVD Electric Thin Films for Low Voltage Operation” (Paper 157I), S. Bilodeau, et al. )の発表スライドを根拠に、さらに以下の主張をしている。
(ア-2)「

この発表スライドは、58nm、74nm,94nm、158nm,195nmの厚さの強誘電性薄膜のデータを示している。この発表スライドにおいては、厚さ60nm以下では高いラフネスのために漏れ電流が増加してしまったことに言及しているが、74nmの厚さの薄膜の漏れ電流密度Jは10^(-5)A/cm^(2)を下回っている。
このように、本願明細書の図5における77nmの厚さの強誘電性薄膜の漏れ電流は異常値であり、本件出願の優先日直後の国際シンポジウムにおいて発表されたように、本件発明によれば、74nmの厚さの強誘電性薄膜においても10^(-5)A/cm^(2)を下回の漏れ電流密度が得られるものである。
なお、本出願人による同シンポジウムにおける発表内容は、「S. Bilodeau, et al., “Voltage Scaling of Ferroelectric Thin Films Deposited by CVD,” Integrated Ferroelectrics, 26, 119-135 (1999).」においても開示されている。
上述した全ての事情を考慮すれば、本願明細書には、実質的に20nm?150nmの範囲において寸法的にスケーラブルな強誘電性PZT材料が記載されているといえる。極端に薄い膜の表面ラフネスが強誘電性材料に影響を与えるという事実は、当業者に対して本発明の実施可能性に影響を与えるものではない。」(3.拒絶理由に対する意見 (1)拒絶理由通知書の(1)について)

(イ)意見書2における主張
審判請求人は、意見書2において、前記(本-カ)の【0122】、【0123】の記載を根拠に、次の主張をしている。
(イ-1)「すなわち、77nmの膜に対する特異な結果は、膜厚の不均一(高いラフネス)によるものであり、これにより、極めて薄い領域又は膜が存在しない領域が形成されてしまったことによるものである。これは単なる実験異常であり、他の全ての膜は電界依存性が低い漏れ電流密度を示すことが得られている。」(3.審尋に対する意見 (1)漏れ電流密度について)
また、本件出願の優先日(1999年2月19日)の直後の1999年3月7-10日に米国コロラド・スプリングズにて開催された第11回集積強誘電体国際シンポジウムにおける、本件発明の発表( “Issues for Scaling of MOCVD Electric Thin Films for Low Voltage Operation” (Paper 157I), S. Bilodeau, et al. )の発表スライドを根拠に、さらに以下の主張をしている。
(イ-2)「

このデータによれば、厚さ58nmでは均一な厚さの膜が作製できず高いラフネスのために漏れ電流が増加してしまっているが、74nmの厚さの薄膜の漏れ電流密度Jは10^(-5)A/cm^(2)を下回っている。
上記を考慮すれば、本願明細書に記載された堆積プロセスを正確に制御して均一な薄膜を形成すれば、請求項1で規定した、10^(-5)A/cm^(2)未満の漏れ電流密度Jを十分達成できることがわかる。」(3.審尋に対する意見 (1)漏れ電流密度について)

ツ 上記(ア)及び上記(イ)の主張は、図5に示される77nmの厚さの薄膜のデータは、膜厚の不均一(高いラフネス)により、極めて薄い領域又は膜が存在しない領域が形成されてしまったことによる異常値であり、上記発表スライドに示されるように、本願明細書の図5における77nmの厚さを下回る74nmの厚さの強誘電性薄膜においても10^(-5)A/cm^(2)を下回の漏れ電流密度が得られることが示されているから、本願明細書には、実質的に20nm?150nmの範囲において寸法的にスケーラブルな強誘電性PZT材料が記載されているといえ(以下、「主張a」という。)、これは、本願明細書に記載された堆積プロセスを正確に制御して均一な薄膜を形成すれば、請求項1で規定した、10^(-5)A/cm^(2)未満の漏れ電流密度Jを十分達成できる(以下、「主張b」という。)というものである。

テ 主張aについて検討するに、上記発表スライドには、「Abrupt increase in J below 60nm likely related to the high roughness.(当審訳:厚さ60nm以下では高いラフネスのために漏れ電流が急激に増加する。)」と記載され、また、そのグラフには、58nmの厚さの薄膜の漏れ電流密度が、10^(-5)A/cm^(2)を上回っていることが示されているから、この発表スライドには、20nm?150nmの厚さの範囲にわたって10^(-5)A/cm^(2)を下回の漏れ電流密度が得られることが示されているとはいえない。
してみると、仮にこの発表スライドを参酌したとしても、本願明細書に、実質的に20nm?150nmの厚さの範囲にわたって寸法的にスケーラブルな強誘電性PZT材料が記載されているとはいえないから、主張aは採用することができない。また、図5に示される77nmの厚さの薄膜のデータが異常値であるか否かは、この判断に影響を与えるものではない。

ト 主張bについて検討するに、上記サ?ソで検討したとおり、本願の発明の詳細な説明には、厚さが77nm以下のPZT膜の製造にあたって、本願明細書に記載された堆積プロセスにより、均一な薄膜を形成することにより10^(-5)A/cm^(2)未満の漏れ電流密度Jを達成することについて、当業者が実施できるように記載されていないから、主張bは採用することができない。

ナ したがって、審判請求人の主張を踏まえても、本願発明について、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

3 拒絶理由(2)について

ア 本願発明は、その「強誘電性PZT材料」が、「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」を有することを特定するものである。

イ 一方、発明の詳細な説明には、前記(本-カ)の例5に「サイクル疲労の特性」を具体的に測定した結果が記載されており、「このサンプルセットの疲労特性も、電界スケーリングについて安定した特性を示した(図8)。・・・強誘電性PZT材料は、10^(9)回のサイクルにおいて?50%でP_(SW)が減少する」(【0126】)と記載されており、このサンプルセットの疲労特性が示された前記(本-コ)の【図8】には、サイクル数が10^(5)回において約25?35であったP^(*)-P^(∧)の値が、サイクル数が10^(9)回において約15?20に低下することが示されていると認められ、「強誘電性PZT材料は、10^(9)回のサイクルにおいて?50%でP_(SW)が減少する」(【0126】)との記載と整合している。ここで、10^(9)回よりさらに回数の多い10^(10)回のサイクル後に、P_(SW)の値が更に低下することは、技術常識からして明らかであるから、発明の詳細な説明において、「サイクル疲労の特性」を具体的に測定した結果を示している例5の「強誘電性PZT材料」が「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」を満たしていないことは明らかである。
また、発明の詳細な説明には、例5の他に、「サイクル疲労の特性」を具体的に測定した結果は示されていない。
よって、発明の詳細な説明には、「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」であることが測定された「強誘電性PZT材料」は記載されていない。

ウ また、発明の詳細な説明には、「サイクル疲労の特性」を得ることについて、上記(本-ウ)の【表3】に、PZT特性と相関材料または処理要件の表Aとして、「PZT特性」が「サイクル疲労の回避 10^(10)回のサイクル後、P_(sw)<10%の減少」に対して、「相関材料又は処理要件」が「Irベース電極の使用」と記載され、また、上記(本-ウ)の【表4】には、表Aのプロセスパラメータに関連して用いられうる例示的な特定のプロセス実施形態の「プロセスセットA」として、「プロセス条件/材料」が「電極及びバリア 下部電極:基板上のTiAlNバリア層上のIr下部電極 コリメータおよび堆積-エッチ処理を用いるスパッタリングを介する堆積 上部電極:上部電極についてIrおよびIrO_(x)を含有する構造体」と記載されているから、発明の詳細な説明には、「Irベース電極の使用」即ち、「イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いて」、「サイクル疲労の回避」により「10^(10)回のサイクル後、P_(sw)<10%の減少」という特性を得ることが文言上記載されている。

エ しかしながら、上記イで述べたとおり、発明の詳細な説明には、「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」であることが測定された「強誘電性PZT材料」は記載されていないし、イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いることにより、10^(10)回のサイクル後、P_(sw)<10%の減少という特性が得られることが技術常識であるともいえない。してみると、本願の発明の詳細な説明には、10^(10)回のサイクル後、P_(sw)<10%の減少という特性を得ることについて、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

オ したがって、本願発明について、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

カ なお、審判請求人は、意見書1において、以下の主張をしている。

「本願明細書の図8に示すサイクル疲労のデータは、段落0116に記載されているように、イリジウム下部電極及び白金上部電極を備える強誘電性PZT薄膜についてのものである。
上述したように、本願発明者らは、本件出願の優先日(1999年2月19日)の直後の1999年3月7-10日に米国コロラド・スプリングズにて開催された第11回集積強誘電体国際シンポジウムにおいて、本件発明を発表している( “Issues for Scaling of MOCVD Electric Thin Films for Low Voltage Operation” (Paper 157I), S. Bilodeau, et al. )。この発表スライドの13頁において、下記に示す疲労データのグラフを開示している。

なお、上述したように、本出願人による同シンポジウムにおける発表内容は、「S. Bilodeau, et al., “Voltage Scaling of Ferroelectric Thin Films Deposited by CVD,” Integrated Ferroelectrics, 26, 119-135 (1999).」においても開示されている。
上記サイクル疲労のグラフは、本発明における強誘電体材料であって、白金上部電極を備えるものについてのものであり、上記スライドにおいても、白金電極の場合中程度の疲労レートが観察されたことが記載されている(”A moderate fatigue rate is observed with Pt top electrode”)。ただし、イリジウムベースの上部電極を使用した場合には低い疲労が観察されたことが記載されており(“Low fatigue is observed for the Ir/IrO_(2) top electrode (10% loss at 10^(10) cycles)”)、その場合のグラフも併記されている。
このように、本願明細書の図8に示した特性のPZT材料は、イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定した場合には、本願の請求項1における「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」を満たすものである。今般の補正では、この点を明確にすべく補正した。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願の請求項1における「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」を満たす「強誘電性PZT材料」及びその製造方法を開示するものであり、この発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものである。」(3.拒絶理由に対する意見 (1)拒絶理由通知書の(1)について)

キ 上記主張は、「本願明細書の【図8】に示すサイクル疲労のデータは、イリジウム下部電極及び白金上部電極を備える強誘電性PZT薄膜についてのもの」であり、「上記発表スライドに示すように本願明細書の【図8】に示した特性のPZT材料は、イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定した場合には、本願の請求項1における「10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労の特性」を満たすものである」から、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるというものである。

ク 上記主張について検討すると、前記(本-コ)の【図8】に示すサイクル疲労のデータは、前記(本-ク)の「例5」のものであり、「これらのサンプルは、スパッタリング技術によって下部電極を形成し、これらの電極上に本発明に従ってPZT材料を堆積し、その後、電子ビーム堆積によってシャドウマスクを介して上部電極を堆積することを含む。」(【0120】)と記載されているのみであるから、そのPZT材料の上部電極及び下部電極は不明であるが、前記(本-オ)の「例4」には、「標準的なIr/TiAlN下部電極(BE)」、「PZT堆積後、Pt上部電極(TE)が電子ビーム蒸発」と記載されているから、例5がイリジウム下部電極及び白金上部電極であるとの主張には、一応の合理性があるといえる。

ケ 次に、上記発表スライドをみると、「Low fatigue is observed for the Ir/Ir O_(2) top electrode (10% loss at 10^(10) cycles)」(当審訳:Ir/IrO_(2)上部電極のために低い疲労が観察された(10^(10)サイクルにおいて10%の減少))と記載されており、Ir/Ir O_(2) top electrode(当審訳:Ir/IrO_(2)上部電極)についてのプロットを追記したグラフが示されている。

コ しかしながら、上記発表スライドのイリジウムベースの上部電極を使用した場合が、具体的にどのような製造条件により製造されたものであるか不明であるから、前記(本-コ)の【図8】に示した特性のPZT材料についてイリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定したものであるか否かについて断定することができない。

サ また、仮に、上記発表スライドに記載されたものが、本願明細書の【図8】に示した特性のPZT材料についてイリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定したものであるとしても、Ir/IrO_(2)上部電極のために低い疲労が観察された(10^(10)サイクルにおいて10%の減少と示されるのみであるから、「10%未満」であることは示されていない。さらに、上記発表スライドに記載されたものは、その膜厚などの特性が不明であるから、上記発表スライドの記載からみても、イリジウムベースの上部電極及び下部電極を用いた強誘電性PZT材料において測定される、10^(10)回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP_(SW)により定義されるサイクル疲労が、寸法的にスケーラブル、パルス長スケーラブル、及び、電界スケーラブルであるとはいえない。

シ よって、上記主張は採用することができない。

ス したがって、出願人の主張を踏まえても、本願発明について、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

4 拒絶理由(3)について

ア 本願発明は「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」という発明特定事項を有している。この発明特定事項について検討すると、「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)」は、数値を示す式であって、時間の単位及び範囲が特定されていないから、この数値を特定することができず、さらに、当該数値により定義される誘電緩和がどのように定義されるのか明確ではない。

イ 一方、発明の詳細な説明には、この「誘電緩和」について、前記(本-ア)の【0029】には「J^(-n)log(時間)により定義される誘電緩和(ただし、nは0.5より大きい)」(注:【0048】、【0070】)、前記(本-ウ)の【0065】の【表3】には「誘電緩和 特徴J^(-n)∝log(時間)についてn>0.5、・・・」と記載されており、「J^(-n)log(時間)」と「J^(-n)∝log(時間)」との複数の記載がなされている。

ウ ここで、「J^(-n)log(時間)」と「J^(-n)∝log(時間)」とは、「J^(-n)」と「log(時間)」との間に比例記号(∝)を含まないか含むかで相違する。そして、「J^(-n)log(時間)」は、電流(J)と時間(t)とを変数として含む式でありその計算結果は数値を示すものであり、「J^(-n)∝log(時間)」は、J^(-n)(電流(J)の-n乗の値)とlog(時間)(時間(t)の対数)とが比例関係にあるという電流(J)と時間(t)との関係を示す式であるから、これらの式の意味が異なることは明らかであって、両者が整合するものではない。してみると、発明の詳細な説明をみても、「誘電緩和」がどのように定義されるのか明確ではない。

エ してみると、本願発明の「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」という発明特定事項は明確ではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、その特許を受けようとする発明が明確でない。

オ なお、審判請求人は、本願発明の「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」という発明特定事項について、意見書1及び意見書2において、それぞれ、以下の主張をしている。

(ア)意見書1における主張
「(3)拒絶理由通知書の(3)について
審判官殿は、拒絶理由通知書の(3)において、「本願の請求項1は、「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」という発明特定事項を有しているが、この「J^(-n)log(時間)」は、発明の詳細な説明において、「J^(-n)∝log(時間)」と記載されており、両者は整合していない。」と認定する。しかしながら、両者は矛盾しておらず、当業者であれば、誘電緩和の用語を十分に理解できるものである。強誘電材料の誘電緩和現象は、外界から場が印加されるとき、強誘電材料の双極子の周波数応答における時間遅延に反映される。
審判官殿の指摘は、米国のアルゴンヌ国立研究所のStephen Streifferによる下記指導書で論じられている。
(http://my.ece.ucsb.edu/York/Yorklab/Projects/Ferroelectrics/General%20Info/SKSFETutorialptB.pdf).
上記現象についての議論は、「E. von Schweidler, Ann. Phys. 24, 711 (1907) and A.K. Jonscher, Dielectric Relaxation in Solids (London: Chelsea Dielectrics Press, 1983)」においてもなされている。
Stephenの指導書の1頁によれば、誘電緩和は材料の活性分極メカニズムの時間依存の結果であり、分極電荷の時間依存電流フローとして測定されるものである。該指導書の6頁には、分極電流は、べき乗時間依存に従うものであり、近似的にt^(-n)(n<1)で示されることが記載されている。また、指導書の4頁には、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)の電流-時間のグラフが示されており、このグラフには、緩和応答(relaxation response)におけるlog(J)対log(t)が示されている。このグラフを下記に示す。

以上のような技術常識の下で、本出願人は、本発明の強誘電性PZT材料の誘電緩和特性について、「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」と規定している。このため、当業者であれは、そのような誘電緩和特性の意義を理解できるはずである。」(3.拒絶理由に対する意見 (3)拒絶理由通知書の(3)について)

(イ)意見書2における主張
「本発明の発明特定事項「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」は、誘電緩和は漏れ電流密度と時間の関数であることを示すものである。このことは、本願明細書の段落0029にも記載されている。
平成27年10月13日付け意見書において主張したように、誘電緩和は材料の活性分極メカニズムの時間依存の結果である。緩和電流は有限の損失(tanθ)を示す全ての誘電体において生じるものであり、分極電荷の流れは時間依存の電流として測定される。このため、平成27年10月13日付け意見書において、米国のアルゴンヌ国立研究所のStephen Streifferによる下記指導書を用いて論じたように、Log(J)がlog(t)の関数としてプロット可能であり、その一例として下記グラフを示したものである。

上記グラフには、log(J)がlog(t)の関数として示されている。上記グラフによれば、過渡的緩和相(Transitory Relaxation)において、分極電流は概して時間のべき乗t^(-n)(n<1)に従っている。本出願人による誘電緩和の定義は、これと整合するものであり、本出願人は、本発明の強誘電性PZT材料の誘電緩和特性について、「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」と規定している。本願明細書における誘電緩和の定義は当業者にとって十分に明確であり、上記発明特定事項は、本発明に係る強誘電性PZT材料の分極電流の挙動が時間のべき乗に従う(nは0.5より大きい)ことを示すものである。」(3.審尋に対する意見 (3)誘電緩和について)

カ 上記オの(ア)及び(イ)によれば、審判請求人は、「J^(-n)log(時間)」と「J^(-n)∝log(時間)」とは、矛盾する記載ではなく、また、「誘電緩和」とは、誘電緩和は材料の活性分極メカニズムの時間依存の結果であり、分極電荷の時間依存電流フローとして測定されるものであり、Log(J)がlog(t)の関数としてプロット可能であって、本発明の発明特定事項「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」は、誘電緩和は漏れ電流密度と時間の関数であることを示すものであると主張しているといえる。

キ この主張について検討すると、「J^(-n)log(時間)」と「J^(-n)∝log(時間)」とは、上記ウで述べたように、これらの式の意味が異なることは明らかであって、両者が整合するものではない。

ク また、本願発明の「誘電緩和」の定義である「J^(-n)log(時間)」という式は、等号(=)や比例記号(∝)を含むものではなく、上記エで検討したように、電流(J)と時間(t)とを変数として値が計算される式であって、電流(J)と時間(t)との関係を示す式(関数)ではないから、誘電緩和が、漏れ電流密度と時間の関数であることを示すものとはいえない。

ケ よって、上記主張は採用することができない。

コ してみると、上記主張を踏まえても、本願発明の「J^(-n)log(時間)(nは0.5より大きい)により定義される誘電緩和」という発明特定事項は明確ではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、その特許を受けようとする発明が明確でない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第2項に規定する要件を満たしていない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-09 
結審通知日 2016-11-10 
審決日 2016-11-22 
出願番号 特願2013-125829(P2013-125829)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01B)
P 1 8・ 121- WZ (H01B)
P 1 8・ 113- WZ (H01B)
P 1 8・ 55- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 裕久  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 小川 進
富永 泰規
発明の名称 強誘電性PZT材料  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  

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