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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B21D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B21D |
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管理番号 | 1326937 |
異議申立番号 | 異議2016-700440 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-05-17 |
確定日 | 2017-02-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5816460号発明「ダイ工具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5816460号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5816460号の請求項1、4に係る特許を維持する。 特許第5816460号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5816460号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成23年5月17日に特許出願され、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 株式会社アマダホールディングス(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年8月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年10月3日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年11月10日付けで意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のアないしキのとおりである。 ア 請求項1に係る「打ち抜き方向の一軸に沿ってダイ孔と該ダイ孔に連通する排出孔を備えたダイ工具であって、」を「打ち抜き方向の一軸に沿ってダイ孔と該ダイ孔に連通して前記ダイ孔の径から徐々に拡径される拡径部を経由して拡径された排出孔とを備えたダイ工具であって、」に訂正する。 イ 請求項1に係る「前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心軸を通る基準線に対して傾斜した軸線に沿って延設されており、前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°である」を「前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対称に複数配備されており、前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°であり、前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜している」に訂正する。 ウ 請求項2を削除する。 エ 請求項3を削除する。 オ 請求項4に係る「請求項1?3のいずれかに記載された」を「請求項1に記載された」に訂正する。 カ 発明の詳細な説明の段落【0008】の「前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心軸を通る基準線に対して傾斜した軸線に沿って延設されており、前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°である」という記載を「前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対称に複数配備されており、前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°であり、前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜している」に訂正する。 キ 発明の詳細な説明の段落【0015】の「前述した基準線」という記載を「前述した基準軸」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記アの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には「排出孔3はダイ孔2からやや拡径した一次拡径部3aとそこから更に大きく拡径した二次拡径部3bを備えている。」と記載されており、図2(a)も併せると、「ダイ孔に連通して前記ダイ孔の径から徐々に拡径される拡径部を経由して拡径された排出孔」は特許明細書等に記載されているものと認められる。 そして、上記アの訂正は、特許明細書等に記載された事項の範囲内において「排出孔」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記イの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】には「パンチ12は、軸O1に沿って下降してダイ孔2及び排出孔3(一次拡径部3a)内に先端が進入する。この際、パンチ12の先端にはワークWの打ち抜き片W1が一体になっているが、エア流路4からエア流(空気流)を排出孔3内に流入させることで、排出孔3内の負圧で打ち抜き片W1をパンチ12の先端から引き離すことができる。」と記載されており、図2(b)において、軸線P1ないしP3の延長線がダイ孔2の円周の接線方向を向いていることが看取できることから、訂正事項のうち「前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され、」は特許明細書等に記載されているものと認められる。 さらに、上記イの訂正事項のうち「前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対象に複数配備されており」は訂正前の請求項2に記載されており、上記イの訂正事項のうち「前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜している」は訂正前の請求項3に記載されていることから、上記イの訂正事項は特許明細書等に記載されているものと認められる。 そして、上記イの訂正は、特許明細書等に記載された事項の範囲内において「エア流路」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記ウ及びエの訂正は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記オの訂正は、請求項の削除に伴い、引用先を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記カの訂正は、上記イの訂正に伴い発明の詳細な説明の記載を整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記キの訂正は、誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び4に係る発明(以下「本件発明1及び4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件発明1「打ち抜き方向の一軸に沿ってダイ孔と該ダイ孔に連通して前記ダイ孔の径から徐々に拡径される拡径部を経由して拡径された排出孔とを備えたダイ工具であって、 当該ダイ工具の外側面に開口するエア流入口と、該エア流入口から前記排出孔に連通するエア流路を備え、 前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対称に複数配備されており、 前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°であり、 前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜していることを特徴とするダイ工具。」 本件発明4「前記エア流入口は、前記外側面の周方向に沿って形成された溝内に開口していることを特徴とする請求項1に記載されたダイ工具。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して平成28年8月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 請求項1ないし4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 請求項1に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 ウ 請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、請求項3及び4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし4に係る特許は、取り消されるべきものである。 (3)甲号証の記載 ア 甲第1号証(米国特許第3710666号明細書)には、図面とともに、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「打ち抜き方向の一軸に沿って穴26と穴26に連通して前記穴26の径から拡径された座ぐり27とを備えたダイボタン25であって、 当該ダイボタン25の外側面に開口するエア流入口と、該エア流入口から前記座ぐり27に連通する通路30を備え、 前記通路30は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記座ぐり27の接線方向に向いた軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイボタン25の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対象に複数配備されており、 前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜していることを特徴とするダイボタン25」 イ 甲第2号証(特開2002-361338号公報)には、パンチにより打ち抜かれた板材の抜きカスを、吸引力で裏逃げ孔12内に円滑に導くために、大気に連通させるバイパス孔14を、裏逃げ孔12の軸線に対して45°?60°程度の角度で交わるように形成する技術が記載されている。 (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)特許法第36条第6項第1号について 訂正後の特許明細書には次の記載が認められる。 「【0014】 このエア流路4は、図2(b)に示すように、打ち抜き方向の上からみて、エア流入口4aの中心と打ち抜き方向の一軸(軸O1)を通る基準軸L1,L2,L3に対して傾斜した軸線P1,P2,P3に沿って延設されている。図示の例では、図2(b)に示すように、基準軸L1,L2,L3は平面視でそれぞれ120°の交差角度を有しており、基準軸L1と軸線P1,基準軸L2と軸線P2,基準軸L3と軸線P3は、角度θ1の傾斜角度を有している。この角度θ1は、10°の傾斜角度に設定する。」 「【0016】 図示の例では、軸O1は、略円柱状のダイ工具1の中心軸であり、エア流路4は、中心軸(軸O1)に対して軸対称に複数配備されている。また、図示の例では、エア流路4が延設される軸線P1?P3は下向きに傾斜しており、軸線P1(P2,P3)と中心軸(軸O1)とは、図2(a)に示すように、中心軸(軸O1)と基準軸L1を含む断面内で、角度θ2の鋭角で傾斜している。角度θ2は45°以上の鋭角に設定することができる。ダイ工具1には、外周面1aの周方向にエア導入用の溝5が設けられている。エア流入口4aは溝5内に開口している。」 この段落【0014】の「この角度θ1は、10°の傾斜角度に設定する。」との記載、及び、図2(b)において「θ1」が10°程度と認められることから、具体的実施例として「θ1」が10°であることを認識したものと当業者であれば理解できる。 また、段落【0016】の「角度θ2は45°以上の鋭角に設定することができる。」との記載、及び、図2(a)において「θ2」が45°程度と認められることから、具体的実施例として「θ2」が45°であることを認識した上で、「θ2」が45°以上であることを記載したものと当業者であれば理解できる。 したがって、具体的実施例として、「θ1」が10°であり、「θ2」が45°であることが認識され、この角度の組み合わせによって、図1に示された従来技術と比較して、段落【0009】に記載された「このような特徴を有するダイ工具によると、エア流路から排出孔に流入するエア流が打ち抜き方向の一軸周りに旋回流を形成することになり、この旋回流により効果的にパンチから打ち抜き片を引き離すことができる。また、複数のエア流路を形成する場合に、各エア流路から排出孔内に流入するエア流が互いに干渉するのを抑止できるので、エア流路の延設方向を過剰に下向きに傾斜させる必要がない。これによって、ダイ工具にエア流路を形成する加工が比較的容易になる。」との効果を奏するものと理解できる。 したがって、特許発明1が、明細書に記載されていなかったものとすることはできない。また、特許発明1を引用する特許発明4も同様である。 (イ)特許法第36条第6項第2号について 取消理由通知においては、文言が不明瞭である点を指摘したが、訂正により解消された。 (ウ)特許法第29条第2項について 引用発明の「穴26」、「座ぐり27」、「ダイボタン25」、「通路30」は、本件発明の「ダイ孔」、「排出孔」、「ダイ工具」、「エア流路」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明とを対比すると、一致点、相違点は次のとおりである。 一致点 打ち抜き方向の一軸に沿ってダイ孔と該ダイ孔に連通した排出孔とを備えたダイ工具であって、 当該ダイ工具の外側面に開口するエア流入口と、該エア流入口から前記排出孔に連通するエア流路を備え、 前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜した軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対称に複数配備されており、 前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜しているダイ工具。 相違点1 本件発明1は、「ダイ孔の径から徐々に拡径される拡径部を経由して拡径された排出孔」を有するのに対し、引用発明はそのような「拡径部」を有していない点。 相違点2 本件発明1は、「エア流路」が「ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され」ているのに対し、引用発明は「エア流路」が、「排出孔」の接線方向に沿って延設されている点。 相違点3 本件発明1は、「前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°」であるのに対し、引用発明は、「傾斜角度」について明記されず、図面においては10°よりかなり大きいものと認められる点。 相違点1は、本件明細書において従来技術として記載している図1にも示されている事項であり、前提とする構成としての相違である。そして、引用発明において、「座ぐり27」に対して、「穴26」をある程度小さくして徐々に拡径される拡径部を設ける動機付けがあるものとは認められない。 仮に、「拡径部」を設けることが周知であって、引用発明において、「穴26」を「座ぐり27」に対して小さくすることが容易であったとしても、引用発明においては「通路30」は「座ぐり27」の接線方向であることが記載されていることからして、「通路30」を「座ぐり27」の接線方向ではなく、小さくした「穴26」の接線方向とするには阻害要因が存在するのであるから、相違点2が容易であったものとは認められない。 また、同様に、引用発明において、「通路30」を「座ぐり27」の接線方向でなくして、相違点3のような角度とすることも動機付けが認められない。 したがって、本件発明1は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明1を引用する本件発明4も同様である。 (エ)特許異議申立人の意見について 特許異議申立は、特許異議申立書において「本件発明は、パンチから打ち抜き片を引き離すのに有効なエア流をダイ工具の排出孔内に生じさせることを課題としているが、本件発明3は、エア流路の軸線と中心軸との角度が90°に近い89°程度のものを含むと解されるところ、本件明細書の記載あるいは当業者の技術常識を参酌しても、エア流路の軸線と基準軸との角度を10°にした場合に、エア流路の軸線と中心軸との角度が89°程度であっても、有効なエア流を生じさせることができるとの課題が解決できるとは認識できない。」と主張している。 「θ2」を大きくしていくと、有効なエア流が減少することは当業者であれば想定できるところではあるが、具体的に89°の場合にエア流がどの程度であるかが記載されていないことをもって直ちに、特許発明1が明細書に記載されていなかったと言うことにはならないのであるからこれを是とすることはできない。 また、他に取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項2及び3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2及び3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ダイ工具 【技術分野】 【0001】 本発明は、ワークの打ち抜き加工に使用されるダイ工具に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来のダイ工具は、一般に、パンチと協働して板状ワークに打ち抜き加工を施すダイ孔と、このダイ孔の下方に連通して打ち抜き片を排出する排出孔を備えている。また、ダイ工具には、パンチと打ち抜き片が一体になってワークの上に上昇するのを防止するために、排出孔内に下向きのエア流を生じさせるエア流路が設けられている(下記特許文献1)。 【0003】 図1は、従来のダイ工具を示した説明図であり、同図(a)が断面図、同図(b)が平面図である。ダイ工具J10は、ダイ孔J1とそれに連通する排出孔J2を備えており、ダイ工具J10の外側面には周方向に沿ってエア導入用の溝J3が設けられている。そして、ダイ工具J10には溝J3と排出孔J2とを連通するように下向きのエア流路J4が設けられている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開平5-57687号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 このような従来技術によると、ダイ工具J10に形成されるエア流路J4は、通常、ダイ工具J10の中心軸J11に向かって形成されている。この場合、中心軸J11の周りに複数形成されたエア流路J4から排出孔J2内に流入するエア流は、中心軸J11付近で互いに干渉し合うことになる。この際、エア流路J4の方向と中心軸J11との鋭角が大きいと、複数のエア流が互いに干渉し合うことで、パンチから打ち抜き片を引き離すのに有効な下向きの負圧を得難くなる。エア流路J4と中心軸J11との鋭角をより小さくすることで、パンチから打ち抜き片を引き離すのに有効な下向きの負圧を得ることは可能になるが、その場合には、エア流路J4の加工が困難になる。 【0006】 また、従来のダイ工具J10は、エア流路J4から排出孔J2内に流入する複数のエア流が中心軸J11付近に集中することになり、排出孔J2内の中心軸J11から離れたところではエア流の淀みが生じ易くなる。これによって、パンチから離れた打ち抜き片が排出孔J2内に滞留し易くなる問題が生じる。 【0007】 本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、ダイ工具に打ち抜き片排出用のエア流路を設けるに際して、エア流路の加工が容易であること、また、パンチから打ち抜き片を引き離すのに有効なエア流をダイ工具の排出孔内に生じさせることができること、パンチから離れた打ち抜き片を円滑に排出孔から排出することができること、等が本発明の目的である。 【課題を解決するための手段】 【0008】 このような目的を達成するために、本発明によるダイ工具は、以下の構成を少なくとも具備するものである。 打ち抜き方向の一軸に沿ってダイ孔と該ダイ孔に連通して前記ダイ孔の径から徐々に拡径される拡径部を経由して拡径された排出孔とを備えたダイ工具であって、当該ダイ工具の外側面に開口するエア流入口と、該エア流入口から前記排出孔に連通するエア流路を備え、前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対称に複数配備されており、前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°であり、前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜していることを特徴とするダイ工具。 【発明の効果】 【0009】 このような特徴を有するダイ工具によると、エア流路から排出孔に流入するエア流が打ち抜き方向の一軸周りに旋回流を形成することになり、この旋回流により効果的にパンチから打ち抜き片を引き離すことができる。また、複数のエア流路を形成する場合に、各エア流路から排出孔内に流入するエア流が互いに干渉するのを抑止できるので、エア流路の延設方向を過剰に下向きに傾斜させる必要がない。これによって、ダイ工具にエア流路を形成する加工が比較的容易になる。 【0010】 また、排出孔に流入するエア流が形成する旋回流によって、排出孔内にはエア流の淀みが生じ難くなる。これによって、パンチから離れた打ち抜き片を円滑に排出孔から排出することができる。 【図面の簡単な説明】 【0011】 【図1】従来技術の説明図である。 【図2】本発明の実施形態に係るダイ工具を示した説明図である。 【図3】本発明の実施形態に係るダイ工具の使用状態を示した説明図である。 【発明を実施するための形態】 【0012】 以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図2は本発明の一実施形態に係るダイ工具を示した説明図であり、同図(a)が断面図、同図(b)が平面図を示している。 【0013】 ダイ工具1は、打ち抜き方向の一軸(軸O1)に沿ってダイ孔2と、ダイ孔2に連通する排出孔3を備えている。排出孔3はダイ孔2からやや拡径した一次拡径部3aとそこから更に大きく拡径した二次拡径部3bを備えている。図示の例におけるダイ工具1は、円柱状の本体を備え、上面1bにダイ孔2が開口し、内部には下面に開口する排出孔3が形成されている。また、ダイ工具1は、その外周面1aに開口するエア流入口4aと、このエア流入口4aから排出孔3に連通するエア流路4を備えている。 【0014】 このエア流路4は、図2(b)に示すように、打ち抜き方向の上からみて、エア流入口4aの中心と打ち抜き方向の一軸(軸O1)を通る基準軸L1,L2,L3に対して傾斜した軸線P1,P2,P3に沿って延設されている。図示の例では、図2(b)に示すように、基準軸L1,L2,L3は平面視でそれぞれ120°の交差角度を有しており、基準軸L1と軸線P1,基準軸L2と軸線P2,基準軸L3と軸線P3は、角度θ1の傾斜角度を有している。この角度θ1は、10°の傾斜角度に設定する。 【0015】 エア流路4は、図示の例では3本設けているが、これに限らず、1本又は2本、或いは4本以上の複数本設けることができる。エア流路4を複数本設ける場合は、前述した基準軸とエア流路4の軸線の角度が各エア流路4で異なっていてもよい。また、一本又は複数本設けたエア流路4の少なくとも1本が、前述した基準軸に対して傾斜した軸線に沿って延設されていればよい。 【0016】 図示の例では、軸O1は、略円柱状のダイ工具1の中心軸であり、エア流路4は、中心軸(軸O1)に対して軸対称に複数配備されている。また、図示の例では、エア流路4が延設される軸線P1?P3は下向きに傾斜しており、軸線P1(P2,P3)と中心軸(軸O1)とは、図2(a)に示すように、中心軸(軸O1)と基準軸L1を含む断面内で、角度θ2の鋭角で傾斜している。角度θ2は45°以上の鋭角に設定することができる。ダイ工具1には、外周面1aの周方向にエア導入用の溝5が設けられている。エア流入口4aは溝5内に開口している。 【0017】 図3は、本発明の実施形態に係るダイ工具の使用状態を示した説明図である。図示するように、このようなダイ工具1をダイホルダ11に設置することで、ダイ工具1の上面1bに沿って配置された板状のワークWに対して、パンチ12と協働して打ち抜き加工を行うことができる。パンチ12は、軸O1に沿って下降してダイ孔2及び排出孔3(一次拡径部3a)内に先端が進入する。この際、パンチ12の先端にはワークWの打ち抜き片W1が一体になっているが、エア流路4からエア流(空気流)を排出孔3内に流入させることで、排出孔3内の負圧で打ち抜き片W1をパンチ12の先端から引き離すことができる。 【0018】 図2(b)に示すように、エア流路4は軸線P1(P2,P3)に沿って延設されている。軸線P1(P2,P3)が基準軸L1(L2,L3)に対して角度θ1だけ傾斜している。これにより、エア流路4から排出孔3内に流入するエア流によって、排出孔3内では軸O1の周りにエアの旋回流が生じる。エア流路4を複数本設け、複数のエア流路4を軸O1に対して軸対称に配備することで、排出孔3内にエアの旋回流をより効率的に生じさせることができる。 【0019】 パンチ12の先端がワークWの打ち抜き片W1と一体に排出孔3(一次拡径部3a)内に進入して、その後パンチ12の先端が引き上げられる際に、パンチ12の先端と一体の打ち抜き片W1には、エア流路4から排出孔3内に流入したエア流によって生じる負圧に加えて、エア流の旋回流によって生じる旋回力(剪断力)が加わる。したがって、エア流の方向を過剰に下向きにして排出孔3内の負圧を大きくしなくても、旋回力が加わることで効果的にパンチ12の先端と打ち抜き片W1との引き離しが可能になる。これによって、前述した角度θ2を比較的大きく設定できることになり、ダイ工具1の外側面1aから穿孔加工によってエア流路4を形成する場合に、穿孔の角度をダイ工具1の外側面1aに対してより立たせることができ、エア流路4の穿孔加工が比較的容易になる。 【0020】 また、エア流路4から排出孔3内に流入するエア流によって、排出孔3内でエアの旋回流が生じると、排出孔3内におけるエア流の淀みが少なくなる。これによって、排出孔3内でパンチ12から引き離された打ち抜き片W1は、旋回流の勢いで排出孔3からより下流の排出経路に導かれ、パンチ12から離れた打ち抜き片W1を円滑に排出孔3から排出することができる。 【0021】 以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。 【符号の説明】 【0022】 1:ダイ工具, 2:ダイ孔, 3:排出孔, 4:エア流路, 4a:エア流入口, O1:軸(一軸,中心軸), L1?L3:基準軸, P1?P3:軸線 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 打ち抜き方向の一軸に沿ってダイ孔と該ダイ孔に連通して前記ダイ孔の径から徐々に拡径される拡径部を経由して拡径された排出孔とを備えたダイ工具であって、 当該ダイ工具の外側面に開口するエア流入口と、該エア流入口から前記排出孔に連通するエア流路を備え、 前記エア流路は、前記打ち抜き方向の上からみて、前記エア流入口の中心と前記一軸を通る基準軸に対して傾斜し且つ前記ダイ孔方向に向いた軸線に沿って延設され、前記一軸が当該ダイ工具の中心軸であり、前記中心軸に対して軸対称に複数配備されており、 前記基準軸と前記軸線との傾斜角度が10°であり、 前記軸線と前記中心軸とは、前記中心軸と前記基準軸を含む断面内で、45°以上の鋭角で傾斜していることを特徴とするダイ工具。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 前記エア流入口は、前記外側面の周方向に沿って形成された溝内に開口していることを特徴とする請求項1に記載されたダイ工具。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-02-10 |
出願番号 | 特願2011-110738(P2011-110738) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B21D)
P 1 651・ 537- YAA (B21D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 福島 和幸 |
特許庁審判長 |
西村 泰英 |
特許庁審判官 |
平岩 正一 刈間 宏信 |
登録日 | 2015-10-02 |
登録番号 | 特許第5816460号(P5816460) |
権利者 | 株式会社コニック |
発明の名称 | ダイ工具 |
代理人 | 特許業務法人英知国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 英知国際特許事務所 |
代理人 | 豊岡 静男 |