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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1326944
異議申立番号 異議2016-700335  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-21 
確定日 2017-02-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5798404号発明「極板保護用粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5798404号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5798404号の請求項1、2、5、6に係る特許を維持する。 特許第5798404号の請求項3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議の申立てに係る特許

本件特許異議の申立てに係る特許第5798404号は、特許権者である日東電工株式会社より、平成23年8月9日(優先権主張 平成22年8月31日、日本国)、特願2011-173725号として出願され、平成27年8月28日、発明の名称を「極板保護用粘着テープ」、請求項の数を「6」として特許権の設定登録を受けたものである(以下、請求項1に係る特許を項番に対応して「本件特許1」などといい、併せて「本件特許」という)。

2 手続の経緯

本件特許に対して、平成28年4月21日、特許異議申立人である秋山満より特許異議の申立てがなされ、同年8月24日付けで取消理由が通知され、同年10月20日、特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、同年12月5日、特許異議申立人の秋山満より意見書が提出され、平成29年1月12日付けで訂正請求書に対する手続補正指令(方式)が通知され、同年1月19日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成29年1月19日提出の手続補正書(方式)により補正された平成28年10月20日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1?6について訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「ポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドから選択されるプラスチック系基材であって」とあるのを、「ポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドから選択されるプラスチック系基材であって、厚さが12?25μm、」と訂正する(請求項1の記載を引用する以降の全ての請求項も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「前記粘着剤層を構成する粘着剤」とあるのを、「前記粘着剤層の厚さが2?15μmであり、当該粘着剤層を構成する粘着剤」と訂正する(請求項1の記載を引用する以降の全ての請求項も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3、及び4を削除し、特許請求の範囲の請求項5、6に「請求項1?4の何れか1項に記載」とあるのを、「請求項1又は2に記載」と訂正する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項1に「基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する極板保護用粘着テープであって、」とあるのを、「基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着テープであって、」と訂正し、「電解液が封入された電池内部に貼り合わせて使用する極板保護用粘着テープ」とあるのを、「電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ」と訂正する(請求項1の記載を引用する以降の全ての請求項も同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1?3について

訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0042】の記載に基づいて、訂正前の厚みの特定されていなかったプラスチック系基材の厚みを規定するものである。
また、訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0039】の記載に基づいて、訂正前の厚みの特定されていなかった粘着剤層の厚みを規定するものである。
さらに、訂正事項3は、請求項を削除するものであると共に、訂正事項3の請求項5及び6の訂正は、請求項3及び4が削除されたことに伴い引用請求項数を減少させるものである。
したがって、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(2)訂正事項4について

訂正事項4は、その記載から意図する内容が不明瞭である「極板保護用」との記載を、「基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する極板保護用粘着テープであって、」からは削除し、「電解液が封入された電池内部に貼り合わせて使用する極板保護用粘着テープ」の「極板保護用」については、段落【0055】の記載に基づいて、「極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる」と訂正し、意図する内容を明確にしたものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし6について訂正を求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」などどいい、併せて「本件発明」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着テープであって、前記基材がポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドから選択されるプラスチック系基材であって、厚さが12?25μm、260℃、1時間加熱した際の収縮率が、TD(巾)方向収縮率、MD(長さ)方向収縮率共に、1.0%以下である基材であり、前記粘着剤層の厚さが2?15μmであり、当該粘着剤層を構成する粘着剤のベースポリマーがポリイソプレン及びポリイソブチレンから選択される少なくとも1種を含む、重量平均分子量が20万?300万のゴム系ポリマーであり、下記方法により算出される突き刺し耐性が300gf・mm以上であり、且つ、260℃、1時間加熱した際の収縮率が、TD(巾)方向収縮率、MD(長さ)方向収縮率共に、1.0%以下であることを特徴とする、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。
突き刺し耐性算出方法
23±2℃条件下で、直径11.28mmの円形に穴を開けた固定板に粘着テープを固定して、先端の曲率半径が0.5mmφの針を速度2mm/sで突き刺し、針が粘着テープを貫通する時の最大荷重(gf)、及び粘着テープの最大伸び(mm)を測定し、下記式(1)により求める。
突き刺し耐性=最大荷重(gf)×粘着テープの最大伸び(mm)×1/2 (1)

【請求項2】
粘着剤層を構成する粘着剤のヨウ素価(JIS K 0070:1992)が5以下、及び/又は不飽和度(NMR法による)が0.1[10^(-2)モル/g]以下である請求項1に記載の、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。

【請求項3】(削除)

【請求項4】(削除)

【請求項5】
短絡防止用として電極端子及び/又は極板端部に貼付して使用する請求項1又は2に記載の、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。

【請求項6】
短絡防止用としてセパレータにおける極板端部が接触する部分に貼付して使用する請求項1又は2に記載の、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。」

第4 取消理由の概要

訂正前の本件発明1ないし6に対して平成28年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件発明1ないし6は、いずれも甲第2号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1ないし6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。

甲第1号証:特開平9-165557号公報
甲第2号証:特開平10-247489号公報
甲第3号証:特開平7-142089号公報
甲第4号証:特開平10-330701号公報
甲第5号証:特開平10-12277号公報
甲第6号証:特開2004-363048号公報
甲第7号証:特開平11-349402号公報
以下、甲第1号証を「甲1」などという。

(2)本件特許の特許請求の範囲の記載が、明確でなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

第5 当審の判断

1 取消理由1(特許法第29条第2項)について

(1)刊行物に記載の事項

ア 甲1(特開平9-165557号公報)

(ア-1)
「【請求項1】厚さ30?300μmのポリプロピレンフィルム基材面に、ポリイソブチレンゴムを主成分とするゴム成分と飽和炭化水素樹脂成分とを主成分とする乾燥時厚さ10?50μmの粘着剤層を有することを特徴とする電池用粘着テープ。」

(ア-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二次電池用に適した粘着テープに関し、特にリチウムイオン電池の電解液に浸漬される箇所、又は電解液に接触する可能性のある箇所への使用に適した粘着テープに関する。
【0002】
【従来の技術】
鉛蓄電池、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などのような電解液が封入されている二次電池にはコア止め用、電極取り出し口の絶縁用、端末止め用、絶縁スペーサー用などの目的で、種々の粘着テープが電池ケース内への電極の詰め込み適性を改善するために使用されている。」

(ア-3)
「【0003】
そのような粘着テープとしては、従来、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム(PPS)などの基材フィルムに、アクリル系粘着剤層や天然ゴム系粘着剤層を設けた粘着テープなどが使用されている。これらの粘着テープのうち、二次電池用として最も多く使用されている粘着フィルムは、ポリエチレンテレフタレートにアクリル系粘着剤や天然ゴム系粘着剤の層を設けた粘着フィルムである。」

(ア-4)
「【0014】
【実施例】
以下に、実施例にしたがって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
基材フィルムとして、厚さ30μmの二軸延伸ポリプロピレン(OPP) を使用し、粘着材としてポリイソブチレンゴム(商品名「ビスタネックスMML-100」、エクソン化学(株)製)100重量部と、水添石油樹脂(商品名「アルコンP100」荒川化学(株)製)40重量部とをトルエンで希釈して調製した炭化水素系粘着剤(HC_(1)系という)を20μmの厚さで該基材面に塗布して粘着テープを製造した。」

(ア-5)
「【0022】
【発明の効果】
上記表に示された結果から明らかなように、通常の使用では安定なPETフィルムでさえも電解液に接触した状態では劣化を避けられないし、同様に通常安定な粘着剤として使用されているアクリル系、天然ゴム系の粘着剤もリチウムイオン電池内では電解質に溶出したり変質するものである。これに対して、フィルム基材及び粘着剤の双方に飽和炭化水素系材料を使用している本願発明の実施例1?実施例3の粘着テープは、粘着力、特にリチウムイオン電池の多孔性セパレータとして使用されているポリエチレン(PE)に対する粘着力にすぐれており、かつ有機溶剤系の電解液を使用しているリチウムイオン電池での使用にも十分に耐え得る電解安定性を備えているものである。」

イ 甲2(特開平10-247489号公報)

(イ-1)
「【請求項1】電池内部において内部短絡を防止するための粘着テープ又はシートであって、該粘着剤がその不飽和度としてヨウ素価が10以下、又は/及びNMR法による不飽和度が0.5[10^(-2)mol/g]以下であることを特徴とする電池内部の短絡防止用粘着テープ又はシート。」

(イ-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電池内部において内部短絡(例えばリードの接触、リード溶接バリ及びリードエッジによるセパレータ貫通などによる短絡)を防止するための粘着テープ又はシート(以下、単に粘着テープということがある。)に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
電池内部においては、例えばリードの接触、リード溶接バリ及びリードエッジによるセパレータ貫通などによる内部短絡が発生すると発火事故などの原因となるため、これら内部を絶縁して内部短絡を防止するために、図1の如く種々の部位に短絡防止用粘着テープが使用されている。ここで使用されている粘着剤の構成材料は、主に被着体との接着性などを考慮して選択されているが、かかる粘着剤を電池内部に使用した場合、たとえ上記の点を考慮して選択しても未だ電池特性が低下するという問題があった。これは、電池内部で電解液中の電解質(各種塩類)と粘着剤成分が反応して、他の成分との結合もしくは各種塩類の自己分解促進が発生して、電解質の機能が低下し、その結果電池特性に悪影響を及ぼしていると考えられる。しかし、従来、内部短絡の防止に使用する粘着テープの粘着剤を選択する際、かかる電池電解液の電解質(各種塩類)に対しての反応性を考慮して選択することはなされていなかった。」

(イ-3)
「【0009】
本発明の短絡防止用粘着テープ又はシートは、かかる粘着剤を適宜基材の少なくとも片面に設けてなる。 かかる基材としては、特に限定されないが、例えばOPP(延伸ポリプロピレン)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドなどのフィルム、これらとガラス繊維との複合物などが挙げられる。なお、これらの基材中に電解液の自己分解や他成分との結合を促すような不純物を含まず、電解液に容易に溶出しないものを選択することが好ましい。」

(イ-4)
「【0010】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
実施例1?7、比較例1?2
表1に示す配合組成の粘着剤を、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(厚さ30μm)に、30μm厚で塗布して粘着テープを得、これらの接着力、また粘着剤の不飽和度、電解液変色性を以下の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0011】
【表1】



(イ-5)
「【0012】
〔接着力〕
得られた粘着テープを、被着体標準としてのステンレス板に貼り合わせ、テープを180°ピールにて引き剥がした時の荷重を測定した。
〔短絡防止性能〕
図1に示す如く、リード1のエッジ及びバリ、リード1と集電体2との溶接部の溶接バリ及びエッジ、集電体2のエッジ及びバリを上記粘着テープ4で被覆したところ、この粘着テープの十分な機械的強度や耐熱性などの基本物性により、内部短絡を良好に防止することができた。・・・(略)・・・
なお、発色は電解液中の電解質であるリチウム塩が自己分解又は他の成分との結合等で変質して起こると考えられる。」

(イ-6)【図1】




ウ 甲3(特開平7-142089号公報)

(ウ-1)
「【請求項1】リチウムの吸蔵-放出が可能な炭素及び黒鉛を負極材料とする負極板と、正極板とを、渦巻状に巻いた渦巻状電極巻取体を有するリチウムイオン電池であって、
前記渦巻状電極巻取体を巻き止めする巻止用粘着テープとして、ポリプロピレンを基材とするテープを用いることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】前記リチウムイオン電池において、前記負極板及び前記正極板と、各電池端子とを内部接続する金属リード板を絶縁する絶縁用粘着テープとして、ポリフェニレンサルファイドを基材とするテープを用いることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池。」

(ウ-2)
「【0008】
【作用】
電極巻取体の巻止用粘着テープは、常に電解液と接触する状態に置かれる。PP基材は、電池の保存あるいは充放電時に、電解液と接触した状態に置かれていても溶解しにくい。従って、電極巻取体の巻止用粘着テープとして、PP基材のテープを用いると、負極、正極、電解液の劣化を引き起こしにくい。
【0009】
一方、負極板及び正極板と、各電池端子とを内部接続する金属リード板を絶縁する絶縁用粘着テープとしては、上記と同様の電解液に対する不溶解性と共に、耐熱性を必要とする。絶縁用粘着テープは、電解液と接触すると共に、金属リード板に流れる電流によって、熱を受ける可能性もあるからである。従って、PP基材のテープは、絶縁用粘着テープとしては適さない。例えば、UL-1642による加熱試験で、電池を150℃まで加熱すると、PP基材が収縮して内部短絡する危険がある。」

(ウ-3)
「【0018】
(実施例2)
リチウムイオン電池21・22・23・24は、実施例1のリチウムイオン電池20において、PPSを基材とする絶縁用粘着テープ2a及び絶縁用粘着テープ2bの代わりに、PP・PET・ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと称する)・ポリイミドを基材とする絶縁用粘着テープをそれぞれ用いる以外は、リチウムイオン電池20と同様の構成である。」

エ 甲4(特開平10-330701号公報)

(エ-1)
「【請求項1】フツ素系樹脂または熱変形温度(JIS K 7207による)が200℃以上の樹脂からなる基材の片面にシリコ─ン粘着剤が塗布され、もう一方の面に上記のシリコ─ン粘着剤と相溶性の悪い弱極性樹脂が塗布されてなることを特徴とするリチウム電池用粘着テ?プ。」

(エ-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウム電極板の端末止めやリ?ド線を電極板に固定する際などに用いられるリチウム電池用粘着テ?プに関する。」

(エ-3)
「【0008】
【発明の実施の形態】本発明において基材には、フツ素系樹脂または熱変形温度(JIS K 7207による)が200℃以上の樹脂を使用し、これを公知の方法にてフイルム、シ?ト、織布または不織布として、粘着テ?プ用の基材とする。この基材の厚さは、リチウム電池用粘着テ?プの使用目的に応じて任意に設定でき、たとえば、0.025mm程度までの薄さとすることも可能である。
【0009】
上記のフツ素系樹脂には・・・(略)・・・などがある。また、上記の熱変形温度(JIS K 7207)が200℃以上の樹脂には、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどの樹脂がある。これらの樹脂は、いずれも、耐熱性にすぐれ、また耐電解液性にもすぐれており、リチウム電池用の材料として、なんら不都合をきたさない。」

(エ-4)
「【0017】
実施例2
厚さが0.025mmのポリイミドフイルム(DUPONT社製の「カプトンフイルム」、熱変形温度330℃)を基材として使用した。この基材の片面に、ジメチルシロキサン系シリコ─ンワニス〔東芝シリコ─ン(株)製の「TRS127B」〕を、乾燥状態での塗布量が4g/m^(2)となるように塗布したのち、150℃で10分間加熱乾燥した。・・・(略)・・・リチウム電池用粘着テ?プを作製した。」

オ 甲5(特開平10-12277号公報)

(オ-1)
「【請求項1】電池内部の絶縁部材又は固定部材として粘着テープを用いた非水電解液電池であって、前記粘着テープは基材がポリイミド又はポリオレフィンを主体とし、粘着剤がアクリル系粘着剤を主体とするものであり、前記非水電解液は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートのうち少なくとも1種を含み、且つジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートのうち少なくとも2種類を含むものであることを特徴とする非水電解液電池。」

カ 甲6(特開2004-363048号公報)

(カ-1)
「【請求項1】耐熱性バリア層フィルムと、保液層フィルムとが接着されてなり、突き刺し強度が400gf以上であることを特徴とするセパレータ。」

(カ-2)
「【請求項5】上記耐熱性バリア層フィルムが、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニルサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドからなる群から選ばれる有機高分子化合物及びその誘導体、又は電気化学的に安定な無機化合物を含む有機高分子化合物及びその誘導体からなることを特徴とする請求項1記載のセパレータ。」

(カ-3)
「【請求項7】 上記耐熱性バリア層フィルムの、150℃、30分雰囲気下における熱収縮率が、10%未満であることを特徴とする請求項1記載のセパレータ。」

キ 甲7(特開平11-349402号公報)

(キ-1)
「【請求項1】(A)液状ゴム、(B)その液状ゴムに可溶で、かつ粘度平均分子量が10000?2500000のゴム状有機高分子化合物、および(C)エチレン系重合体セグメントとビニル系重合体セグメントが結合しているグラフト共重合体を含有する有害小動物捕獲用粘着剤組成物。」

(キ-2)
「【0044】
・・・(略)・・・
m:エクソン化学(株)製、ビスタネックスMML-100、重量平均分子量 937000」

(2)甲2に記載の発明

甲2の上記(イ-1)には、「電池内部において内部短絡を防止するための粘着テープであって、該粘着剤がその不飽和度としてヨウ素価が10以下、又は/及びNMR法による不飽和度が0.5[10^(-2)mol/g]以下である電池内部の短絡防止用粘着テープ。」が記載されているといえる。
ここで、上記(イ-3)の記載によれば、上記「粘着テープ」は、粘着剤を基材の少なくとも片面に設けたものである。そして、基材の少なくとも片面に設けられた粘着剤が粘着剤層を形成していることは、技術的な常識であるといえる。
また、上記(イ-2)、(イ-5)及び(イ-6)の記載によれば、上記「粘着テープ」は、電池内部で貼り合わせて使用されるものであると共に、上記「電池内部の短絡防止」とは、上記(イ-5)に記載されるように、「リード1のエッジ及びバリ、リード1と集電体2との溶接部の溶接バリ及びエッジ、集電体2のエッジ及びバリによるセパレータ貫通による短絡防止」であるといえる。
さらに、上記(イ-2)の記載によれば、電池内部には、電解液が存在している。そして、電池内部に存在する電解液が、電池に「封入」された状態にあることは、技術的な常識であるといえる。
これらの甲2の記載事項をまとめると、甲2には、

「基材の少なくとも片面に粘着剤層を有する粘着テープであって、該粘着剤がその不飽和度としてヨウ素価が10以下、又は/及びNMR法による不飽和度が0.5[10^(-2)mol/g]以下である、電解液が封入された電池内部に貼り合わせる、リード1のエッジ及びバリ、リード1と集電体2との溶接部の溶接バリ及びエッジ、集電体2のエッジ及びバリによるセパレータ貫通による短絡防止用粘着テープ。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「片面」は、本件発明1の「一方の面」に相当する。
また、甲2発明の「集電体2」とは、上記(イ-6)で「2」で表される活物質層に接触するもので、本件図面の【図6】の活物質11と接触する(正)極板8に対応するものであるから、甲2発明の「集電体2」は、本件発明1の「極板」に相当する。
そうすると、甲2発明の「電池内部に貼り合わせる、リード1のエッジ及びバリ、リード1と集電体2との溶接部の溶接バリ及びエッジ、集電体2のエッジ及びバリによるセパレータ貫通による短絡防止用」は、本件発明1の「電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる」と、「電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる」点で一致する。

以上の点を踏まえると、本件発明1と甲2発明は、
「基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着テープであって、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

(相違点1)
粘着テープの基材に関し、本件発明1では、ポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドから選択されるプラスチック系基材であって、厚さが12?25μm、260℃、1時間加熱した際の収縮率が、TD(巾)方向収縮率、MD(長さ)方向収縮率共に、1.0%以下であるのに対し、甲2発明では、その様な特定がなされていない点。

(相違点2)
粘着テープの粘着剤層に関し、本件発明1では、厚さが2?15μmであり、粘着剤層を構成する粘着剤のベースポリマーがポリイソプレン及びポリイソブチレンから選択される少なくとも1種を含む、重量平均分子量が20万?300万のゴム系ポリマーであるのに対し、甲2発明では、その様な特定がなされていない点。

(相違点3)
粘着テープについて、本件発明1では、下記[突き刺し耐性算出方法](これ以降の記載では省略する)により算出される突き刺し耐性が300gf・mm以上であり、且つ、260℃、1時間加熱した際の収縮率が、TD(巾)方向収縮率、MD(長さ)方向収縮率共に、1.0%以下であるのに対し、甲2発明では、その様な特定がなされていない点。
[突き刺し耐性算出方法]
23±2℃条件下で、直径11.28mmの円形に穴を開けた固定板に粘着テープを固定して、先端の曲率半径が0.5mmφの針を速度2mm/sで突き刺し、針が粘着テープを貫通する時の最大荷重(gf)、及び粘着テープの最大伸び(mm)を測定し、下記式(1)により求める。
突き刺し耐性=最大荷重(gf)×粘着テープの最大伸び(mm)×1/2(1)

事案に鑑み、上記(相違点2)について、以下検討する。

甲2の上記(イ-4)の記載によれば、実施例3において、粘着剤として、重量平均分子量は明らかではないものの「ポリイソブチレン」が使用されている。
しかしながら、粘着剤層の厚みは、「30μm」とされ、本件発明1の「2?15μm」の範囲に含まれる粘着剤層の厚みは、甲2には記載されていない。また、「ポリイソブチレン」の重量平均分子量に関する記載もない。

ここで、本件発明1で「ポリイソプレン又はポリイソブチレン」の重量平均分子量を「20万?300万」とするのは、本件明細書の段落【0033】の「本発明における粘着剤層を構成するベースポリマーの重量平均分子量(Mw)としては、例えば、20万?300万程度が好ましく、なかでも、電解液に溶出しにくく、電解液の劣化を抑制することができる点で、100万?300万程度が好ましい。ベースポリマーの重量平均分子量(Mw)が上記範囲を下回ると凝集力が劣り、電池内部に使用する場合等、高い圧力がかかる環境下では粘着剤層が変形して基材から糊がはみ出し易く、電解液へ溶出し易くなり、電解液の劣化の原因となる傾向がある。一方、ベースポリマーの重量平均分子量(Mw)が上記範囲を上回ると、粘着剤層が硬くなり過ぎて粘着力が不十分となり、極板等への貼着が困難となる傾向がある。」との記載によれば、電池内部に使用する場合等、高い圧力がかかる環境下では粘着剤層が変形して基材から糊がはみ出し、電解液へ溶出し易くなることを防ぐと共に、粘着剤層が硬くなり過ぎて粘着力が不十分になることを防ぐためであるといえる。
一方、本件発明1で粘着剤層の厚みを「2?15μm」とするのは、同明細書の段落【0039】の「本発明における粘着剤層の厚さとしては、例えば、2?20μm(特に4?15μm)の範囲内であることが好ましい。厚さが2μmを下回ると、極板やセパレータ等に貼り合わせるのに必要な接着力を得ることが困難となり、異物や極板等に存在するバリがセパレータを貫通して電極間の短絡を引き起こすことを防止することが困難となる傾向がある。一方、厚さが20μmを超えると、粘着テープの変形や、基材から糊のはみ出しが起き易くなり、電解質の劣化を引き起こしやすくなる傾向がある。」との記載によれば、極板やセパレータ等に貼り合わせるのに必要な接着力を得、極板等に存在するバリがセパレータを貫通して電極間の短絡を防止すると共に、粘着テープの変形や基材から糊のはみ出しを防ぐことであるといえる。
ここで、本件発明1の「電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ」との特定によれば、粘着テープは、セパレータの存在する正の電極板と負の電極板との間に配置されているといえることを考慮すると、基材からの糊のはみ出しに関し、本件発明1は、「セパレータの存在する正の電極板と負の電極板との間」という、高い圧力がかかる環境下で用いられる粘着テープを前提として、この様な環境下で生じる糊のはみ出しを、「ポリイソプレン又はポリイソブチレン」の重量平均分子量を「20万?300万」とすると共に、粘着剤層の厚みを「2?15μm」とすることにより防止しているといえる。

そして、甲1には、上記(ア-1)の記載によれば、甲1の電池用粘着テープにおいて、ポリイソブチレンゴムを含む粘着剤層の厚みが10?50μmであることは記載されているが、この厚さに対応するポリイソブチレンゴムの重量平均分子量は記載されていない。
また、上記(ア-4)には、「実施例1」で、ポリイソブチレンゴムとして、商品名が「ビスタネックスMML-100」(エクソン化学(株)製)である「ポリイソブチレン」が用いられることが記載され、この「ビスタネックスMML-100」は、甲7の上記(キ-2)の記載によれば、重量平均分子量は、本件発明1の重量平均分子量の範囲に含まれる、937000である。
しかしながら、上記「実施例1」での粘着剤層の厚みは20μmであり、本件発明1の粘着剤層の厚みの範囲を満たしていない。
しかも、甲1には、上記(ア-5)の記載によれば、電池のセパレータに対する粘着力はすぐれている旨の記載はされているものの、上記(ア-2)に記載される電池内での粘着テープの用途を考慮したとしても、粘着テープが、セパレータの存在する正の電極板と負の電極板との間に配置されるものであることまで記載されているとはいえない。

そうすると、甲1には、セパレータの存在する正の電極板と負の電極板との間に配置されているという粘着テープにおいて、「ポリイソプレン又はポリイソブチレン」の重量平均分子量を「20万?300万」の範囲内にすると共に、粘着剤層の厚みを「2?15μm」の範囲内にすることが記載ないし示唆されているとはいえない。
さらに、上記の点は、甲3?甲7、及び異議申立人が平成28年12月5日付けで提出した参考資料1?3にも記載ないし示唆されているとはいえない。
そして、上記(相違点2)により、本件発明1は、前述したような、セパレータの存在する正の電極板と負の電極板との間という、高い圧力がかかる環境下で用いられる粘着テープにおいて、この様な環境下で生じる糊のはみ出しを防止するという、顕著な効果を奏している。

よって、上記(相違点1)及び(相違点3)を検討するまでもなく、上記(相違点2)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲2発明及び甲1、甲3ないし甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

イ 本件発明2、5、6

本件発明2、5、6は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、5、6も、甲2発明及び甲1、甲3ないし甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明2、5、6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について

訂正前の本件発明1には、「極板保護用粘着テープ」との記載があり、この「極板保護」がどの様なことを意図しているのか明らかでなかったが、「極板保護」が、「極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる」と訂正されることにより、粘着テープが、「極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する」ものであることが明らかになった。

よって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、明確でないとはいえないから、本件発明1、2、5、6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(1)申立理由1(特許法第29条第2項)について

申立理由1は、甲1を主引用例として、これに甲2?甲7の記載事項を組み合わせるものであるが、甲1には、上記(アー1)?(ア-5)を見ても、粘着テープは、本件発明1で特定される「極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる」ものであるとはいえない。
さらに、上記「1」「対比・判断」で述べたように、甲1には、セパレータの存在する正の電極板と負の電極板との間に配置されているという粘着テープにおいて、「ポリイソプレン又はポリイソブチレン」の重量平均分子量を「20万?300万」の範囲内にすると共に、粘着剤層の厚みを「2?15μm」の範囲内にすることが記載されていないし、この点は、甲2?甲7にも記載されていないから、甲1を主引用例としたとしても、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、上記「申立理由1」によっても、本件発明1、2、5、6は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1、2、5、6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

(2)申立理由2(特許法第36条第4項1号及び第6項第1号)について

申立理由2は、『本件発明1における基材は「ポリアミド、ポリイミド及びポリアミドイミドから選択されるプラスチック基材」である。一方、本件実施例において基材として実際に使用されたのは「ポリイミドフィルム」(カプトン50H、カプトン100H、カプトン200H)のみであり、「ポリアミド」及び「ポリアミドイミド」の基材に関する実施例は無い。また本件発明1の熱収縮率及び突き刺し耐性を満たす「ポリアミド」及び「ポリアミドイミド」とはどのようなものであるのか、明細書中に何の記載もない。
それゆえに、本件発明1は明細書の開示範囲を逸脱するものであり、出願時の技術常識に照らしても「ポリアミド」及び「ポリアミドイミド」の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また同時に、当業者は本件発明1の熱収縮率及び突き刺し耐性を満たすような「ポリアミド」及び「ポリアミドイミド」を得るために、過度な試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があることになる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていない。』というものである。

しかしながら、ポリアミド及びポリアミドイミドは、「ポリイミド」と同様に、熱安定性及び強度を有する樹脂として良く知られたものである(例えば、甲3では、熱変形温度が200℃以上の樹脂として、「ポリイミド」と共に、「ポリアミド」及び「ポリアミドイミド」が挙げられている(上記「1」「(1)」「エ」の(エ-3))。また、甲6では、突き刺し強度が400gf以上で、150℃、30分雰囲気下における熱収縮率が、10%未満であるセパレータに用いるバリア層フィルムに用いる材料として、「ポリイミド」と共に、「アラミド」(「ポリアミド」の一種である。)及び「ポリアミドイミド」が挙げられている(上記「1」「(1)」「カ」の(カ-1)、(カ-2)及び(カ-3))。
そうすると、本件の実施例で、「ポリイミド」のみが、本件発明1の熱収縮率及び突き刺し耐性を満たすものとして示されていたとしても、当業者ならば、ポリアミド及びポリアミドイミドでも、ポリイミドと同様の特性が得られるものと、理解するものといえる。
さらに、上記の「申立理由2」には、「ポリアミド」及び「ポリアミドイミド」が、本件発明1の熱収縮率及び突き刺し耐性を満たすものではないことを示す具体的な根拠も示されていない。

よって、上記の「申立理由2」では、本件発明1、2、5、6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえないし、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていないといとはいえない。

第6 むすび

上記「第5」で検討したとおり、本件特許1、2、5、6は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許1、2、5、6を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2、5、6を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許3、4は、本件訂正請求により削除されたので、本件特許3、4に対する申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着テープであって、前記基材がポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドから選択されるプラスチック系基材であって、厚さが12?25μm、260℃、1時間加熱した際の収縮率が、TD(巾)方向収縮率、MD(長さ)方向収縮率共に、1.0%以下である基材であり、前記粘着剤層の厚さが2?15μmであり、当該粘着剤層を構成する粘着剤のベースポリマーがポリイソプレン及びポリイソブチレンから選択される少なくとも1種を含む、重量平均分子量が20万?300万のゴム系ポリマーであり、下記方法により算出される突き刺し耐性が300gf・mm以上であり、且つ、260℃、1時間加熱した際の収縮率が、TD(巾)方向収縮率、MD(長さ)方向収縮率共に、1.0%以下であることを特徴とする、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。
突き刺し耐性算出方法
23±2℃条件下で、直径11.28mmの円形に穴を開けた固定板に粘着テープを固定して、先端の曲率半径が0.5mmφの針を速度2mm/sで突き刺し、針が粘着テープを貫通する時の最大荷重(gf)、及び粘着テープの最大伸び(mm)を測定し、下記式(1)により求める。
突き刺し耐性=最大荷重(gf)×粘着テープの最大伸び(mm)×1/2 (1)
【請求項2】
粘着剤層を構成する粘着剤のヨウ素価(JIS K 0070:1992)が5以下、及び/又は不飽和度(NMR法による)が0.1[10^(-2)モル/g]以下である請求項1に記載の、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
短絡防止用として電極端子及び/又は極板端部に貼付して使用する請求項1又は2に記載の、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。
【請求項6】
短絡防止用としてセパレータにおける極板端部が接触する部分に貼付して使用する請求項1又は2に記載の、電解液が封入された電池内部に貼り合わせることで、極板に存在するバリによりセパレータに穴があき、正の電極板と負の電極板とが短絡することを防止する用途に用いる粘着テープ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-13 
出願番号 特願2011-173725(P2011-173725)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西澤 龍彦内藤 康彰松波 由美子澤村 茂実  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 岩田 行剛
原 賢一
登録日 2015-08-28 
登録番号 特許第5798404号(P5798404)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 極板保護用粘着テープ  
代理人 後藤 幸久  
代理人 羽明 由木  
代理人 後藤 幸久  
代理人 羽明 由木  

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