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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1326953
異議申立番号 異議2016-700349  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-22 
確定日 2017-03-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5816337号発明「呈味改善剤及びこれを含む茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5816337号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5816337号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5816337号の請求項1ないし5に係る特許(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2014-117298号)は、平成21年(2009年)3月17日(先の出願に基づく優先権主張:平成20年3月17日、特願2008-68184号)を国際出願日とする特願2010-503885号の一部を、平成26年6月6日に特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は概ね以下のとおりである。
平成27年10月 2日 特許権の設定登録
平成28年 4月22日 特許異議申立書(異議申立人 花崎健一)
平成28年 7月15日 取消理由通知書
平成28年 9月16日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
平成28年 9月27日 通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成28年10月25日 意見書(異議申立人)
平成28年11月15日 訂正拒絶理由通知書
平成28年12月16日 手続補正書(訂正請求書)及び意見書(特許
権者)
なお、以下、平成28年9月16日けの訂正請求書について「本件訂正請求書」というとともに、これに係る訂正を「本件訂正」といい、平成28年12月16日付け手続補正書(訂正請求書)に係る補正を「本件補正」という。

第2 本件訂正の適否について
1 本件補正について
本件補正の内容は、補正前の訂正事項3ないし5を削除するというものであるから、請求の要旨を変更するものではない。
よって、特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定に違反するものではないから、本件補正を認める。

2 本件訂正の適否について
(1) 前記1のとおり本件補正は認められるから、本件訂正の内容は、本件補正によりに補正された訂正請求書に添付した訂正明細書に記載されたとおり、請求項1ないし5について訂正することを求めるものであって、その訂正内容は次のとおりである。
ア 訂正事項1
特許明細書の【0086】に記載された「10以上ろなる」を「10以上となる」と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。

イ 訂正事項2
特許明細書の【0087】の【表4】及び【0092】の【表6】について、「カテキン類」を「カテキン類(μg/ml)」と訂正する。

(2) 判断
ア 訂正事項1は、特許明細書の【0086】の「10以上ろなる」なる記載を「10以上となる」と訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2は、取消理由に対応するために、特許明細書の【0087】の【表4】及び【0092】の【表6】における「カテキン類」欄の単位を明示したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、特許明細書には、「したがって、カテキン類を高濃度に含有するカテキン高含有茶飲料は、本発明の茶飲料の好ましい態様の一つである。ここで、カテキン類高含有茶飲料とは、カテキン類を0.10?5.0mg/ml、好ましくは0.20?4mg/ml、より好ましくは0.25?3mg/ml、さらに好ましくは0.30?2mg/ml、特に好ましくは0.35?1mg/ml含有する茶飲料をいう。」(【0036】)と記載されているところ、ここに列記された数値と、【表4】及び【表6】における「カテキン類」の欄の数値との大小関係に照らせば、当該欄の「カテキン類」の単位は「μg/ml」であることがわかる。
また、同表中の「GDG/カテキン類」欄は、請求項1の「カテキン類1重量部に対してグリセロ糖脂質を0.002?0.020重量部含有する」点に対応するところ(後記第3・1)、同表中の「総グリセロ糖脂質」欄の単位が「μg/ml」であることからしても、当該欄の「カテキン類」の単位は「μg/ml」であることは明らかである。
よって、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ さらに、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3) 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書2号及び3号に掲げる事項を目的とするものであって、同条9項において準用する同法126条4項ないし6項の規定に適合するので、訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 取消理由について
1 本件発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」いう。
【請求項1】
茶葉を平均粒子径1?100μmの大きさに粉砕した粉砕茶葉と茶抽出液を含有する茶飲料であって、
グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含み、カテキン類1重量部に対してグリセロ糖脂質を0.002?0.020重量部含有する、上記茶飲料。
【請求項2】
茶飲料のグリセロ糖脂質含量(μg/ml)/(茶飲料の680nmにおける吸光度)が、7以上である、請求項1に記載の茶飲料。
【請求項3】
茶飲料の680nmにおける吸光度が0.25以下である、請求項1または2に記載の茶飲料。
【請求項4】
カテキン類を0.10?5.0mg/ml含有する、請求項1?3のいずれかに記載の茶飲料。
【請求項5】
容器に充填された容器詰飲料である、請求項1?4のいずれかに記載の茶飲料。

2 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し、平成28年7月15日付けで通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。
すなわち、本件特許は、次の点で不備のため、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(1) 特許明細書の【0087】の【表4】及び【0092】の【表6】において、「カテキン類」の値の単位が不明であるから、各試料の「カテキン類」の量が具体的にどの程度であるのか不明である。
(2) 特許明細書の【0087】の【表4】の各試料の「GDG/OD680」の値、【0092】の【表6】の各試料の「GDG/カテキン類」の値が不明確であるから、本件発明が課題を解決し得るものであるか不明確である。
(3) 特許明細書の【0087】の【表4】及び【0088】の【表5】の内容と、【0085】及び図4の記載内容が整合しないから、本件発明が課題を解決し得るものであるか不明確である。

3 取消理由についての判断
(1) 「カテキン類」の値の単位について
前記訂正事項2に係る本件訂正により、【表4】及び【表6】において、「カテキン類」の値の単位が、「μg/ml」であることが明確になった。

(2) 【表4】の「GDG/OD680」の値及び【表6】の「GDG/カテキン類」の値について
ア 本件発明の課題
訂正明細書によれば、「容器詰茶飲料・・・は、保存中における沈殿抑制の観点から、茶葉抽出液から、茶葉由来の粒子や茶葉組織の微細片を除去する工程を経て製造され、また室温以下の温度(例えば、冷蔵温度)で飲用されることが多い。そのため、茶特有のおいしさ(呈味、嗜好性)という観点からは物足りず、茶のもつコク味、旨味が不足し薄くて水っぽい、コク味、旨味とカテキン類の苦味、渋味とのバランスが悪いという欠点を有する。」(【0007】)ところ、「本発明者らは、・・・ある茶抽出物に含まれうる、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分がコク味と相関のある成分であることを見出し・・・」(【0008】)、「この・・・可溶性高分子画分をさらに分画し、コク味改善に有効な成分を探索した結果、グリセロ糖脂質であることを明らかにした。そして、・・・グリセロ糖脂質が1.0μg/ml以上となるように調整した茶飲料は、豊かなコク味を有し、濃厚感のある茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0009】)ものである。
そして、本件発明は、「コク味が改善された茶飲料を製造することが可能である。」(【0010】)、「室温以下の温度、具体的には冷蔵の温度(0?20℃程度)で飲用した場合にも、高級茶が有している、まったりとした自然な甘さを感じさせる、高級感あふれる茶飲料として提供される。」(【0011】)、「異味の発生や喉越しの悪さという問題を発生させることなく、旨味やコク味(特に、コク味)を改善することができる。」(【0012】)、「コク味が増すという粉末茶葉を多く含む飲料の利点を有しつつ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料が提供される。本発明の茶飲料は、従来のものより、さらに長期保存安定性に優れている。」(【0013】)、「カテキン類等の不快味(例えば、カテキン類の苦味、渋味)がマスキングされた茶飲料を製造することが可能である。」(【0014】)、といった効果を奏するものである。
また、本件発明は、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含むことにより、「室温以下、例えば冷蔵状態で保存して冷蔵状態で飲用するような場合にも、豊かなコク味を有する茶飲料となる。」(【0032】)、「渋味や苦味は増強せずに、旨味やコク味(特に、コク味)を増強したことを特徴とする。」(【0034】)、「粉末茶飲料で生じがちな長期保存における沈殿を抑制できる。・・・・グリセロ糖脂質がコロイド分散系として存在するので、茶飲料の長期保存における凝集沈殿や不溶性固形分の沈殿などを抑制することができ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料となる。」(【0035】)、「カテキン類に固有の苦味、渋味をマスクできる。・・・両親媒性であるグリセロ糖脂質がカテキン類を包摂するように作用してコロイド分散系を形成するので、・・・カテキン類の苦味、渋味をマスクでき、カテキン類を高濃度に配合できる。」(【0036】)ものである。
そして、カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002?0.020重量部含有することにより、「室温以下の温度で飲用しても、茶が持つコク味、旨味とカテキン類の苦味、渋味との調和がとれた、適度な渋味を有しながらも、旨味やコク味をより一層強く感じる茶飲料(緑茶飲料)となる。」(【0036】)ものである。
そうすると、本件発明は、コク味の改善された茶飲料とする、カテキン類の苦味、渋味との調和がとれた、適度な渋味を有しながらも、旨味やコク味をより一層強く感じる茶飲料とする、といった点を課題とし、請求項1に特定された事項により、当該課題を解決したものであることがわかる(以下、当該課題を「本件課題」という。)。
イ 本件発明は、「グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含(む)」こと、「カテキン類1重量部に対してグリセロ糖脂質が0.002?0.020重量部含有する」ことを、発明を特定するために必要な事項とするものである。
訂正明細書の記載によれば、ゲル濾過クロマトグラフィーによるpeak1成分の量がコク味と相関を有し(【0047】?【0052】)、当該peak1成分がグリセロ糖脂質であって(【0062】?【0075】)、両親媒性であるグリセロ糖脂質がカテキン類を包摂するように作用してコロイド分散系を形成するので、カテキン類の苦味、渋味をマスクすることができるものである(【0036】)。
そして、総グリセロ糖脂質の量、カテキン類1重量部に対するグリセロ糖脂質の量に照らすと、実施例2、3に係る試料3ないし12が本件発明の実施例であると認められるところ、グリセロ糖脂質の量とコク味との間に相関があることや、カテキン類に対し所定量のグリセロ糖脂質の含むことで適度の苦味、渋味となることがわかる(【0079】?【0092】、【表4】ないし【表6】、図12、13)。
そうすると、本件課題との関係では、グリセロ糖脂質が所定量以上含まれることが重要であって、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上であり、カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質が0.002?0.020重量部の範囲内であれば、コク味を感じ、カテキン類の苦味、渋味が適度であって、コク味が改善されるとともに、カテキン類の苦味、渋味をマスクできることが理解できる。
なお、【表6】において、「総グリセロ糖脂質」の数値及び「カテキン類」の数値と「GDG/カテキン類」の数値との整合性について不明確なところはあるが、このような理解を妨げるものではない。
よって、本件発明は、「グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含(む)」こと、「カテキン類1重量部に対してグリセロ糖脂質が0.002?0.020重量部含有する」ことによって、本件課題を解決し得るものである。
ウ 本件発明2は、さらに、「グリセロ糖脂質含量(μg/ml)/(茶飲料の680nmにおける吸光度)が、7以上である」ことを特定したもので、「グリセロ糖脂質含量(μg/ml)」と「茶飲料の680nmにおける吸光度」について所望の値に限定したものであると解することができる。
訂正明細書には「不溶性成分に対するグリセロ糖脂質の割合〔(グリセロ糖脂質量(μg/ml))/(OD680nmにおける吸光度)〕が7以上・・・となる茶飲料が粉砕茶葉固有の収斂味や不溶性成分由来のざらつきのない茶飲料である。」(【0035】)旨の記載があるところ、【表4】において、「総グリセロ糖脂質」欄の数値及び「OD680」欄の数値と「GDG/OD680」欄の数値との整合性について不明確なところがあって、本件発明2が収斂味に係る効果を奏するものであるのか定かではないが、この点は、本件発明が本件課題を解決し得るものであることに影響するものではない。
エ よって、本件発明は本件課題を解決し得るものであって、本件発明と本件課題との関係を理解することができる。

(3) 【表4】及び【表5】の内容と、【0085】及び図4の記載内容について
ア 本件発明3は、さらに、「680nmにおける吸光度が0.25以下である」ことを特定したもので、「680nmにおける吸光度」について所望の値に限定したものであると解することができる。
訂正明細書には「680nmにおける吸光度は、官能評価ですっきり感と負の相関があった(図14)。吸光度が0.30程度であるとすっきり感が感じられず、0.25以下ですっきり感が得られた。」(【0085】)と記載されているところ、【表4】及び【表5】の内容からこのような評価が可能であるのか定かではないが、この点は、本件発明が本件課題を解決し得るものであることに影響するものではない。
イ よって、本件発明は本件課題を解決し得るものであって、本件発明と課題との関係を理解することができる。

(4) 以上のとおりであるから、訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をできる程度に明確かつ十分に記載されていると認める。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 明確性要件違反(36条6項2号)について
(1) 異議申立人は、本件発明1ないし3に関し、数値に上限及び下限の特定がないから、数値の範囲が不明確である旨主張している(特許異議申立書11?12頁)。
しかしながら、請求項に記載された数値に上限及び下限がないことが、当然に発明を不明確にするものではない。
請求項1において「グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含(む)」ことが明確に特定され、請求項2において「茶飲料のグリセロ糖脂質含量(μg/ml)/(茶飲料の680nmにおける吸光度)が、7以上である」ことが明確に特定され、請求項3において「茶飲料の680nmにおける吸光度が0.25以下である」ことが明確に特定されているとおり、本件発明1が「グリセロ糖脂質」については「1.0μg/ml以上含(む)」こと、本件発明2が「茶飲料のグリセロ糖脂質含量(μg/ml)/(茶飲料の680nmにおける吸光度)」については「7以上である」こと、本件発明3が「茶飲料の680nmにおける吸光度」については「0.25以下である」ことで、それぞれ十分であることが、その記載から明確に理解できる。
なお、茶飲料におけるカテキン類の含有量や吸光度には自ずと常識的な範囲があると解される。
そして、請求項1において、カテキン類の含有量に対するグリセロ糖脂質の含有量の上限が特定されているから、本件発明におけるグリセロ糖脂質の含有量には技術常識的な値があるものと解される。

(2) また、異議申立人は、本件発明1ないし3の発明特定事項の「コク味」及び「すっきり感」に係る技術的意義が理解することができないことや、「GDG/カテキン類」、「GDG/OD680」及び「カテキン類」に関する発明の詳細な説明の記載を理由に、発明が不明確である旨主張しているが(同12?18頁)、発明特定事項の技術的意義は発明の明確性に関係する事項ではなく、発明の詳細な説明の記載に不明確なところがあるとしても、請求項1ないし5の記載は明確であると認められる。

2 サポート要件違反(36条6項1号)について
異議申立人は、本件発明1ないし4に関し、発明の詳細な説明には、限られた範囲の数値に関する記載しかないから、これらの事項によって、課題を解決できることを認識することができない旨主張している(同19?26頁)。
しかしながら、既に述べたとおり、訂正明細書の記載によれば、課題との関係ではグリセロ糖脂質が所定量以上含まれることが重要であって、本件発明1ないし3は課題を解決し得るものであり(前記3(2))、この点は、本件発明4も同様である。
よって、本件発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

3 実施可能要件違反(36条4項1号)
異議申立人は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、同程度のカテキン類を含有させたまま、OD680を調整する方法が認識できないから、実施例2を再現することが困難である旨主張しているが(同30頁)、発明の詳細な説明には、遠心分離処理により不溶性固形分を分離し吸光度を調整することが記載されており(【0043】、【0080】)、カテキン類は可溶性の成分であるから、遠心分離処理により、同程度のカテキン類を含有させたまま、OD680を調整することができるものと認められる。

4 進歩性の欠如(29条2項)
(1) 異議申立人は、本件発明は、下記の甲第2ないし6号証(以下、それぞれ「甲2」などという。)に基いて、当業者が容易に想到できる旨主張している(同34?40頁)。
甲2 国際公開第2004/110161号
甲3 特開2008-35869号公報
甲4 阿南豊正 外1、“茶葉の脂質に関する研究(第1報) 茶期・熟度による脂質含量および脂肪酸組成の変化”、日本食品工業学会誌、日本食品工業学会、1977年6月、第24巻、第6号、p.305-310
甲5 Suntory News Release No.8626、“「サントリー 健康系カテキン式」新発売 -ムリせずスッキリ、新しい味わいの“健康系緑茶”が新登場!”、2003年12月16日、[2016年4月13日検索]、インターネット、<URL:http://www.suntory.co.jp/news/2003/8626.html>
甲6 特開2004-180574号公報

(2) 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項(特に、特許請求の範囲、[0016]、[0020]、[0024]?[0026]、[0033]、[0034])からすると、甲2には、次の発明が記載されているといえる(以下「甲2発明」という。)。
(甲2発明)
「粒子径が約1μm以上の粒子の大部分を除去された粉砕茶葉と茶抽出液を含有する茶飲料」

(3) 検討
ア 本件発明1と甲2発明とを、その有する機能に照らして対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点)
本件発明1は「グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含み、カテキン類1重量部に対してグリセロ糖脂質を0.002?0.020重量部含有する」のに対し、甲2発明においては不明である点。
イ 異議申立人は、甲4に、主に抹茶の原料となる「やぶきた」種の一番茶の茶葉を、クロロホルム:メタノール(2:1)で抽出し、分画したところ、MGDG及びDGDGの合計で297.2?462.3mg/100g含有されていたことが記載されていることに基づいて(306頁Table2)、このような一般的な一番茶の茶葉を粉砕し、甲2の実施例4、5([0033]、[0034])に用いた場合、グリセロ糖脂質を2.972?4.623μg/ml含有する緑茶飲料が得られることは、当業者が容易に予測し得た旨主張している。
しかしながら、甲4に記載されたものは、茶葉(粉砕されたものであるかも不明である。)を特定の溶媒により抽出した結果であって、甲2発明のような茶飲料にそのまま当てはまるものではないから、当業者が容易に予測し得るものとは認められない。
たとえ、茶飲料におけるカテキン量が0.2?5mg/mlであることが周知であっても(甲3、5、6)、甲2発明において、上記相違点に係る本件発明1の構成が容易に想到できるものとは認められない。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成を備えることによって、コク味の改善され、カテキン類の苦味、渋味との調和がとれた、適度な渋味を有しながらも、旨味やコク味をより一層強く感じる、といった格別の効果を奏するもので、いずれの証拠にも、グリセロ糖脂質とこのような効果の関係について記載されておらず、当業者が予測し得る範囲内のものとは認められない。
この点は、本件発明2ないし5についても、同様である。
ウ よって、本件発明1ないし5は、甲2発明及び甲3ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、前記取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件特許(請求項1ないし5に係る特許)を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
呈味改善剤及びこれを含む茶飲料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶飲料の呈味の改善に関する。より詳細には、茶葉の溶媒抽出物に含まれうるグリセロ糖脂質を有効成分として用いる、茶飲料の呈味の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、缶やペットボトル等の容器に充填された容器詰茶飲料が多く開発、市販されており、茶飲料のなかでも、特に緑茶飲料の市場が拡大している。このような茶飲料に対する消費者の嗜好は高まっており、玉露や新茶など、茶葉中の全窒素含量が高い、いわゆる高級茶を急須で淹れたような、適度な渋味を有しながらも、旨味やコク味をより一層強く感じる容器詰緑茶飲料の開発が望まれている。
【0003】
茶飲料に関しては、テアニン等のアミノ酸の含有量の高い茶葉を選択して、茶飲料を製造することや(特許文献1)、茶類原料にプロテアーゼを作用させることにより、茶類原料に含まれているタンパク質を加水分解してグルタミン酸等の旨味のもととなるアミノ酸を遊離させて旨味やコク味の強い茶類エキスとする方法が開示されている(特許文献2,3)。また、茶の抽出物を高極性溶剤に溶解し、HPLCに供して得られる保持時間25?50分の画分が呈味増強剤として利用でき、飲食品の旨味やコク味を増強できることが記載されている(特許文献4)。さらに、微粉末茶を水又は温水で抽出し、この抽出液を遠心分離して微粉末茶由来の大粒子成分を分離除去して香味、滋味ともに優れた茶飲料を得る方法(特許文献5)や、緑茶抽出液から微粒子を除去して透明緑茶抽出液を調製し、これに緑茶粉末を添加することにより、コクがあり、深い味わいのある緑茶飲料を得る方法(特許文献6)が開示されている。
【0004】
一方、茶の溶媒抽出物に含まれる高分子成分については、茶の水又は熱水抽出物から分画分子量が40万以上の限外濾過膜を用いて得られる茶多糖類が食事由来の過剰な脂質の吸収を抑制すること(特許文献7)が報告されている。また茶葉等に由来する水溶性高分子については、非エピ体及びエピ体カテキン類と水溶性高分子を含有させた飲料が、カテキン類の苦味、渋味が緩和された飲料として提案されている(特許文献8)。
【0005】
他方、グリセロ糖脂質は、微生物により生産される(特許文献9、10)ほか、茶を含む植物の膜画分にも広く含まれることが知られている成分であるが(非特許文献1)、近年、種々の生理活性が見いだされおり、食品、化粧品及び医薬品の素材とするために、安全性の高い天然物を利用して効率よく安価に製造する方法(特許文献11)等が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-238458号公報
【特許文献2】特開2003-144049号公報
【特許文献3】特開2006-61125号公報
【特許文献4】特開2005-137286号公報
【特許文献5】特開平11-276074号公報
【特許文献6】特許第2981137号公報
【特許文献7】特開2005-176743号公報
【特許文献8】特許第3360073号
【特許文献9】特開2001-247593号公報
【特許文献10】特許第3796539号公報
【特許文献11】特開2005-343814号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
急須で淹れた茶は、通常、温かい温度で飲用するものであり、湯気とともに茶の香気が強く感じられ、適度な渋味と、旨味やコク味が感じられる。しかし、容器詰茶飲料、特にペットボトルやガラス瓶等の透明容器に充填された茶飲料は、保存中における沈殿抑制の観点から、茶葉抽出液から、茶葉由来の粒子や茶葉組織の微細片を除去する工程を経て製造され、また室温以下の温度(例えば、冷蔵温度)で飲用されることが多い。そのため、茶特有のおいしさ(呈味、嗜好性)という観点からは物足りず、茶のもつコク味、旨味が不足し薄くて水っぽい、コク味、旨味とカテキン類の苦味、渋味とのバランスが悪いという欠点を有する。
【0008】
本発明者らは、茶飲料について、コク味成分となる画分を分取することを検討した。その結果、ある茶抽出物に含まれうる、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分がコク味と相関のある成分であることを見出した。そして、この可溶性高分子画分は、通常の茶葉の水又は熱水抽出物には含まれず、石臼で微粉砕された茶葉など細胞壁が破壊された茶葉の溶媒抽出物中に存在する成分であることを明らかにした。
【0009】
また、このゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分をさらに分画し、コク味改善に有効な成分を探索した結果、グリセロ糖脂質であることを明らかにした。そして、400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分が0.30μg/ml(色素換算量)以上、すなわちグリセロ糖脂質が1.0μg/ml以上となるように調整した茶飲料は、豊かなコク味を有し、濃厚感のある茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1) 粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含み、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下である、茶飲料。
2) カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含む、1)記載の茶飲料。
3) 不溶性固形分に対するグリセロ糖脂質の割合((グリセロ糖脂質量(μg/ml))/(680nmにおける吸光度))が、7以上である、1)又は2)記載の茶飲料。
4) グリセロ糖脂質の一以上を有効成分として含有する、茶飲料の呈味改善剤。
5) 有効成分が、モノガラクトシルジグリセリド又はジガラクトシルジグリセリドである、4)に記載の剤。
6) コク味増強用であり、渋味マスキング用であり、かつ沈殿防止用である、4)又は5)に記載の剤。
7) 茶飲料が、粉砕茶葉の湿式粉砕処理物を含むものである、6)記載の剤。
8) グリセロ糖脂質を含む茶飲料の製造方法であって、
茶葉を、平均粒子径1?100μm(好ましくは1?50μm、より好ましくは1?20μm)の大きさに粉砕し、
粉砕茶葉を、グリセロ糖脂質抽出上有効な温度の水に混合してグリセロ糖脂質を水に溶出させる工程を含む、製造方法。
9) 粉末茶葉を水に混合した後、中性(pH5?7、好ましくは5.5?7、特に好ましくは6?7)条件下で、高圧ホモジナイザーで湿式粉砕処理する工程を含む、8)記載の製造方法。
10) グリセロ糖脂質を用いる、茶飲料の呈味改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、コク味が改善された茶飲料を製造することが可能である。
【0011】
本発明の茶飲料の呈味改善剤に含まれる可溶性高分子画分、すなわちグリセロ糖脂質は、高級茶葉に僅かに含まれる成分であり、この呈味改善剤を配合して得られる茶飲料は、室温以下の温度、具体的には冷蔵の温度(0?20℃程度)で飲用した場合にも、高級茶が有している、まったりとした自然な甘さを感じさせる、高級感あふれる茶飲料として提供される。
【0012】
本発明の茶飲料の呈味改善剤は、茶葉由来の可溶性高分子画分であるので、茶飲料に配合しても異味の発生や喉越しの悪さという問題を発生させることなく、旨味やコク味(特に、コク味)を改善することができる。
【0013】
また本発明によると、コク味が増すという粉末茶葉を多く含む飲料の利点を有しつつ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料が提供される。本発明の茶飲料は、従来のものより、さらに長期保存安定性に優れている。
【0014】
また本発明によると、カテキン類等の不快味(例えば、カテキン類の苦味、渋味)がマスキングされた茶飲料を製造することが可能である。
【0015】
本発明の呈味改善剤として、茶葉から水で抽出されたグリセロ糖脂質を高濃度に含有する茶抽出物を用いた場合には有機溶剤を含まないので、抽出物そのものを飲料(特に非アルコール飲料)に添加して用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】茶飲料中のコク味を与える有効成分を示すゲル濾過クロマトグラフィーによるチャートである。
【図2】各種の茶抽出液における、ゲル濾過クロマトグラフィーによるピーク1成分の面積を示すグラフである。
【図3】粉砕条件の異なる粉砕茶葉から得た茶抽出液における、ゲル濾過クロマトグラフィーによるピーク1成分の面積を示すグラフである。
【図4】ゲル濾過クロマトグラフィーによって得られるピーク1成分面積と官能評価との相関性を示すグラフである。
【図5】高圧ホモジナイザーによる、ピーク1成分の溶出の影響を示すグラフである。
【図6】抽出温度、高圧ホモジナイザーの圧力による、ピーク1成分の溶出の影響を示すグラフである。
【図7】ピーク1成分のTLC分析の結果を示す図である。
【図8】ピーク1成分のHPLC分析の結果を示すチャートである。
【図9】呈味(コク味)改善組成物の分画物のHPLCチャートを示す図である。
【図10】茶葉の温水抽出物と抹茶の温水抽出物に含まれるグリセロ糖脂質量を示す図である
【図11】高圧ホモジナイザー処理によるグリセロ糖脂質の溶出の影響を示す図である。
【図12】ピーク1成分とコク味の官能評価点との相関性を示す図である。
【図13】グリセロ糖脂質とコク味の官能評価点との相関性を示す図である。
【図14】680nmにおける吸光度とすっきり感の官能評価点との相関性を示す図である。
【図15】グリセロ糖脂質と濁度との好ましい範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(呈味改善剤)
本発明の茶飲料の呈味改善剤は、茶葉の溶媒抽出物で、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分を有効成分として含有する。本明細書における可溶性高分子画分とは、メンブレンフィルター(孔径0.45μm、十慈フィールド株式会社)にて茶葉の溶媒抽出物又は茶飲料を濾過したときにメンブレンフィルターを通過した通過液を、ゲル濾過クロマトグラフィーに供し、400nmの吸収で保持時間約6分に検出されるボイド成分をいう(図1参照)。
【0018】
この可溶性高分子画分は、茶葉の温水抽出物にはほとんど含まれないが、茶葉のうち、玉露、釜煎り玉緑茶、深蒸し茶などの高級茶葉の温水抽出物に僅かに含まれる(図3参照)。
【0019】
本発明の茶飲料の呈味改善剤は、茶葉の溶媒抽出物で、グリセロ糖脂質を有効成分として含有する。本発明におけるグリセロ糖脂質とは、1?3個の単糖類で構成される糖鎖がジアシルグリセロールにエステル結合した糖脂質をいう。グリセロ糖脂質に含まれる糖鎖を構成する単糖類としては、ガラクトース、グルコース、マンノース、フラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、キノボース、ラムノース、スルフォキノボース(Sulfoquinovose)等が挙げられ、アシル基は、飽和又は不飽和の炭素数6?24個の直鎖、又は分岐鎖状の脂肪酸残基が挙げられ、具体的にはリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが挙げられる。
【0020】
本発明のグリセロ糖脂質には、少なくともモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、及びジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)が含まれる。飲料中において、グリセロ糖脂質は、コロイド分散系として存在していると考えられる。
【0021】
本発明の剤は、茶飲料のコク味の増強のために用いることができ、また茶飲料の苦味や渋味、特にカテキン類の苦味や渋味をマスキングするために用いることができ、さらに茶飲料の沈殿の防止のために用いることができる。本発明の剤は特に、粉砕茶葉(抹茶やその粉砕物を含む)を含有する茶飲料の呈味改善のために有効である。ここで本発明でいう「コク味」とは、口当たりの良い濃厚さを意味する。具体的には、粘度増加の目的等に使用される親水コロイドガム(高分子ガム)や水溶性澱粉のような、「ぬるぬる」や「ねばねば」などという不快な口当たりや食感を与えることのない、滑らかな口当たりの濃厚さをいう。
【0022】
本発明においては、カテキン類は、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートをいい、カテキン類の含量をいうときは、これらの総量を指す。本発明の茶飲料においては、カテキン類は、0.20?5.0mg/ml含まれる。
【0023】
抹茶とは、遮光処理を施した茶葉の覆下茶を蒸したのち、冷却し、その茶葉を揉捻せずに乾燥用の碾茶機内でそのまま乾燥して製造した乾燥葉を、小片にし、茎を除いて、更に乾燥して製造した碾茶を、臼で挽いて粉にしたものである。この石臼挽きのような、茶葉の細胞壁を破壊しうる粉砕工程を経ることで、細胞膜成分である、グリセロ糖脂質を含む可溶性高分子画分が溶出される。したがって、本発明の呈味改善剤の製造方法は、茶葉に細胞壁を破壊できる程度の粉砕処理を施して粉砕茶葉を得、これを溶媒抽出して細胞膜成分(グリセロ糖脂質を含む可溶性高分子画分)を溶出させることができる方法であれば、原料となる茶葉の種類、茶葉の粉砕処理方法、粉砕サイズ等、何ら限定されるものではない(図4参照)。粉砕サイズは、例えば、平均粒子径(メジアン径)が、1?100μmであり、好ましくは1?50μmであり、より好ましくは1?20μmである。
【0024】
粉砕茶葉の溶媒抽出方法も特に限定されず、通常、粉砕茶葉に対し、5?100重量部、好ましくは10?90重量部の溶媒を用いて抽出を行う。通常、粉砕茶葉を適量の溶媒に分散、撹拌することにより、抽出を行う。抽出溶媒は、食品として利用可能なものであれば特に限定されず、蒸留水、脱塩水、水道水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水等の水や、含水アルコール、アルコール、ヘキサン等の有機溶媒などを用いることができるが、非アルコール飲料である茶飲料に用いる簡便さから、特に水を用いることが好ましい。抽出温度は、適宜設定すればよいが、低温で抽出する方がカテキン等の苦渋み成分の抽出を抑制でき、コク味を増強する目的で用いる剤として利用しやすい。また、高温で抽出した場合には、凝集の原因となるペクチンやヘミセルロース等の高分子成分などの水溶性成分が多量に溶出し、冷却した際にこれら成分と共にグリセロ糖脂質が沈殿する可能性がある。グリセロ糖脂質を高収率で得る目的からも低温で抽出することが好ましい。低温とは、5?50℃、好ましくは10?40℃程度である。
【0025】
抽出時間は溶媒の温度、溶媒の使用量、撹拌の程度によって変化するが、通常、30秒?30分、好ましくは1?10分である。なお、抽出の際又は抽出後には、L-アスコルビン酸等の酸化防止剤や、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤を添加してもよいが、抽出は好ましくは中性付近で、例えばpH5?7、好ましくは5.5?7、特に好ましくは6?7で行う。酸性条件では、グリセロ糖脂質が溶出しにくい、グリセロ糖脂質が沈殿する、グリセロ糖脂質が分解する等の可能性から、グリセロ糖脂質の収量が低下するからである。
【0026】
粉砕茶葉が抽出溶媒に懸濁された状態の溶媒抽出物に、さらに高圧ホモジナイザーで微粉砕処理を施すと、グリセロ糖脂質を含む高分子画分の溶出量が増加する(図5、図6参照)。したがって、粉砕茶葉の溶媒抽出処理と同時又は溶媒抽出処理の後に、高圧ホモジナイザーによる湿式粉砕処理工程を行うことが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、微細な隙間から抽出液を高圧下に高速で噴出することにより発生するせん断、キャビテーション等により、乳濁液滴や懸濁粒子を超微細化する装置をいう。本発明の呈味改善剤においては、高圧ホモジナイザーでなくても、粉砕茶葉から可溶性高分子画分を多く溶出しうる装置であれば、どのようなものでも使用できる。高圧ホモジナイザーを使用する場合、その圧力は高いほど可溶性画分の溶出量が増加する傾向にあるが、圧力が高過ぎると溶出したグリセロ糖脂質が分解する、他の溶出成分と共に沈殿する等の可能性から収量があることから、高圧ホモジナイザーの圧力は50?1000kg/cm^(2)、好ましくは100?500kg/cm^(2)以上、より好ましくは100?300kg/cm^(2)である。
【0027】
高圧ホモジナイザーによる処理は、中性付近で、例えばpH5?7、好ましくは5.5?7、特に好ましくは6?7で行う。酸性条件では、グリセロ糖脂質が溶出しにくい、グリセロ糖脂質が沈殿する、グリセロ糖脂質が分解する等の可能性から、グリセロ糖脂質の収率が低下するからである。
【0028】
本発明の呈味改善剤は可溶性成分であるから、上記の粉砕茶葉の溶媒抽出物又は湿式粉砕処理物に遠心分離や濾過処理のような分離清澄化処理を施し、不溶性固形分を除去することが好ましい。具体的には、粒子径が1μmを越える不溶性固形分の粒子の大部分が除去されるような分離清澄化処理を施すことが好ましい。ここで大部分とは、50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上を表す。このような微粉砕、清澄化処理を行うと通常、茶葉の平均粒子径は0.1μm?1μm、好ましくは0.3μm?1μm程度となる。
【0029】
本発明の呈味増強剤の有効成分である可溶性高分子画分は、その成分解析の結果、グリセロ糖脂質及びクロロフィルを含有することが明らかとなった。グリセロ糖脂質とは、グリセロール分子を骨格として、糖残基と、脂肪酸などのアシル基が結合した糖脂質の一種であり、分子内に親水性の糖残基と疎水性のアシル基を持つ両親媒性物質である。可溶性高分子画分中、本発明の呈味改善剤の作用機構についてはいまだ明らかではないが、コロイド分散系として存在するグリセロ糖脂質が、茶葉中の他の成分と弱い会合を形成し、濃厚感を与え、コク味を付与していると推察される。茶葉からのグリセロ糖脂質の製造については、茶殻から有機溶媒で抽出する方法が知られている(特開2005-343814号公報)。グリセロ糖脂質について、その生理活性は知られているが、茶飲料に与える呈味については何ら知られておらず、細胞壁を破壊する粉砕後の抽出により、グリセロ糖脂質を含む成分が多く得られることも知られておらず、本発明により初めて見出された知見である。なお、本発明によると、有機溶媒を用いなくても高濃度にグリセロ糖脂質を含有する茶抽出物が得られるという利点もある。
【0030】
本発明の呈味改善剤は、所定量のグリセロ糖脂質を含むものであればどのような形態として利用しても構わない。具体的には、粉砕茶葉の溶媒抽出物をそのまま或いは水又は茶抽出液で希釈して茶飲料に配合して利用する方法、溶媒抽出物を濃縮して、場合によりさらに乾燥してエキス又は粉体として茶飲料に配合して利用する方法等が挙げられる。エキスや乾燥粉体の製造は、公知の方法により行うことができる。また、粉砕茶葉の溶媒抽出物から有効成分である可溶性高分子画分やグリセロ糖脂質をゲル濾過クロマトグラフィーやその他公知の単離方法によって、さらに高純度に精製した精製物の形態(液体状又は粉体)で利用することもできる。
【0031】
本発明の剤は、茶飲料の飲用温度に依らず、「ぬるぬる」や「ねばねば」などという不快な口当たりや食感を与えることなく、茶飲料にコク味を付与できる。本発明の剤は、茶葉から水で抽出した成分であり、自然な濃厚感を付与できる。
【0032】
本発明の剤の使用量は所望により適宜選択すればよいが、茶飲料のコク味の増強のために用いる場合、グリセロ糖脂質が茶飲料中、1.0μg/ml以上となるようにグリセロ糖脂質又はこれを含む茶抽出物を配合すると、室温以下、例えば冷蔵状態で保存して冷蔵状態で飲用するような場合にも、豊かなコク味を有する茶飲料となる。コク味の増強のために用いる場合、本発明の剤の配合の上限は特に制限されないが、通常、1000μg/ml以下、好ましくは、500μg/ml以下、より好ましくは400μg/ml以下、特に好ましくは350μg/ml以下程度である。
【0033】
(茶飲料)
本明細書における茶飲料とは、ツバキ属植物(学名:Camellia sinensis)に属する樹木の生葉、もしくは、それを加工して得られる不発酵茶、及び半発酵茶の溶媒抽出物をいい、特に、コク味が呈味の重要因子となる緑茶飲料(不発酵茶)を対象とする。
【0034】
本発明の茶飲料は、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分を色素換算量で0.30μg/ml以上、好ましくは0.50μg/ml以上含有させることにより、すなわちグリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上、好ましくは1.5μg/ml以上含有させることにより、渋味や苦味は増強せずに、旨味やコク味(特に、コク味)を増強したことを特徴とする。本明細書における可溶性高分子画分の濃度は、食用黄色4号で換算した値を表す。ここで、食用黄色4号とは、別名タートラジンとも呼ばれる化合物(化学式:C_(16)H_(9)N_(4)Na_(3)O_(9)S_(2))である。また、本明細書におけるグリセロ糖脂質の濃度は、特に示した場合を除き、MGDG、DGDGの合計値として表す。測定は、当業者であれば既存の手段を用いて適宜行うことができるが、詳細な条件は、本明細書の実施例の項を参照することができる。
【0035】
また、本発明の茶飲料は、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上、好ましくは1.5μg/ml以上含有させることにより、粉末茶飲料で生じがちな長期保存における沈殿を抑制できる。したがって、粉末茶含有飲料は、本発明の茶飲料の好ましい態様の一つである。ここで、粉末茶含有飲料とは、粉砕された茶葉を含有する飲料、具体的には粉砕された茶葉(例えば抹茶等)を配合して得られる茶飲料で、粉砕茶葉組織の微細片や緑茶粒子等の不溶性固形分を含有する茶飲料をいう。平均粒子径が1μm未満の不溶性固形分を含有する粉末茶飲料は、平均粒子径が1μm以上のものと比較すると沈殿の発生が抑制されるが、常温で3ヶ月以上保存されるような長期保存を伴う容器詰茶飲料では、沈殿の発生を完全に解決するに至っていない。しかし、本発明の特定量以上のグリセロ糖脂質を含有する茶飲料では、グリセロ糖脂質がコロイド分散系として存在するので、茶飲料の長期保存における凝集沈殿や不溶性固形分の沈殿などを抑制することができ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料となる。茶飲料に配合する粉砕茶葉の割合は、通常、0.02?0.5重量%、好ましくは0.03?0.4重量%程度である。なお、この粉末茶含有飲料は、680nmにおける吸光度が0.02?0.25、好ましくは0.02?0.20、より好ましくは0.02?0.15となるように調整する。このような特定範囲の吸光度に調整された粉末茶含有飲料は、コク味が増すという粉末茶葉を多く含む飲料の利点を有しつつ、粉砕茶葉固有の収斂味や不溶性成分由来のざらつきのない後味のすっきりとした茶飲料で、上述の沈殿抑制作用が顕著に発揮される茶飲料である。具体的には、不溶性成分に対するグリセロ糖脂質の割合〔(グリセロ糖脂質量(μg/ml))/(OD680nmにおける吸光度)〕が7以上、好ましくは10以上、より好ましくは12以上となる茶飲料が粉砕茶葉固有の収斂味や不溶性成分由来のざらつきのない茶飲料である。
【0036】
さらに、本発明の茶飲料は、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上、好ましくは1.5μg/ml以上含有させることにより、カテキン類に固有の苦味、渋味をマスクできる。したがって、カテキン類を高濃度に含有するカテキン高含有茶飲料は、本発明の茶飲料の好ましい態様の一つである。ここで、カテキン類高含有茶飲料とは、カテキン類を0.10?5.0mg/ml、好ましくは0.20?4mg/ml、より好ましくは0.25?3mg/ml、さらに好ましくは0.30?2mg/ml、特に好ましくは0.35?1mg/ml含有する茶飲料をいう。カテキン類は、コレステロール上昇抑制作用、α-アミラーゼ阻害作用などの生理効果を有するものであるが、このような生理効果を発現させるためには、成人一日あたり4?5杯のお茶を飲むことが必要であり、より簡便に大量のカテキン類を摂取するため、飲料にカテキン類を高濃度配合する技術、すなわち茶本来の味を損なわずにカテキン類に固有の苦味、渋味をマスクする技術が望まれていた。両親媒性であるグリセロ糖脂質がカテキン類を包摂するように作用してコロイド分散系を形成するので、本発明の特定量以上のグリセロ糖脂質を含有する茶飲料は、カテキン類の苦味、渋味をマスクでき、カテキン類を高濃度に配合できる。苦味、渋味のマスキングという観点からは、本発明の茶飲料は、カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002?0.025重量部、好ましくは0.002?0.020重量部、より好ましくは0.003?0.015重量部含む。この範囲内の濃度のグリセロ糖脂質及びカテキン類を含有する茶飲料は、室温以下の温度で飲用しても、茶が持つコク味、旨味とカテキン類の苦味、渋味との調和がとれた、適度な渋味を有しながらも、旨味やコク味をより一層強く感じる茶飲料(緑茶飲料)となる。
【0037】
本発明のカテキン類高含有茶飲料が粉末茶含有飲料である場合、粉砕茶葉固有の収斂味がカテキン類の苦味、渋味のマスキング作用を阻害する可能性がある。したがって、粉末茶含有飲料である場合には、茶飲料が上述の吸光度、すなわち680nmにおける吸光度が0.02?0.25、好ましくは0.02?0.20、より好ましくは0.02?0.15となるように調整する。
【0038】
茶飲料中のグリセロ糖脂質は、その含量が高いほど、茶飲料のコク味を増強し、カテキン類の苦味や渋味をマスキングし、沈殿を抑制する効果を発揮する。グリセロ糖脂質の含量は所望する効果の大きさによって選択すればよいが、茶飲料としての香味の観点から、1000μg/ml以下、好ましくは、500μg/ml以下、より好ましくは400μg/ml以下、特に好ましくは350μg/ml以下程度が至適である。
【0039】
本発明の茶飲料は、本発明の呈味改善剤をそのまま或いは水で希釈して茶飲料としてもよいが、コク味のみが感じられる茶飲料となることもある。したがって、茶飲料として適度な渋味を有し、かつ旨味及びコク味を増強した茶飲料を得るためには、茶抽出液に呈味改善剤を添加して、茶飲料を製造することが好ましい。すなわち、本発明の茶飲料は、以下の工程;
1)茶葉の細胞壁を破壊して粉砕茶葉を得る工程、
2)前記粉砕茶葉の溶媒抽出物を得る工程、及び
3)茶飲料のゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分を色素換算量で0.30μg/ml以上(色素換算量)含有するように、すなわちグリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含有するように、前記溶媒抽出物を配合して茶飲料を得る工程、
により製造されるものであるが、好ましくは、上記工程3)において、前記粉砕茶葉の溶媒抽出物を、別途調製した茶葉の溶媒抽出液(以下、茶抽出液という)に混合して所定濃度の可溶性高分子画分となるように茶飲料を製造するのが好ましい。
【0040】
本発明の呈味改善剤を添加するベースとなる茶抽出液とは、粉砕されていない通常の茶葉を用いて溶媒(好ましくは水)で抽出し、茶葉を濾別して得られる、所謂通常の茶飲料をいう。茶抽出液は、所望する茶飲料の香味に合わせて、原料となる茶葉や抽出条件を適宜設定すればよいが、茶飲料に適度な渋味を付与するために、高温(約60?90℃)で抽出した茶抽出液を用いることが好ましい。なお、茶抽出液には、抽出時又は抽出後に、L-アスコルビン酸等の酸化防止剤や炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤を添加してもよい。
【0041】
上記工程1)において、茶葉の細胞壁を破壊して粉砕茶葉を得るのは、上述のとおり、コク味増強成分である細胞膜内の可溶性高分子画分を溶出させるためである。具体的な粉砕方法は、呈味改善剤と同様に、細胞壁を破壊しうる粉砕であれば、その粉砕方法、粉砕サイズ等、何ら制限されるものではないが、石臼挽きが好ましい。抽出条件も呈味改善剤の製造と同様である。
【0042】
本発明の茶飲料は、上記の1)?3)の工程に加えて、2)の工程の後に、遠心分離及び/又は濾過等の清澄化処理を行う工程(工程4)、を含むことが好ましい。遠心分離や濾過等の清澄化処理を施すことにより、粉砕茶葉組織の微細片や緑茶粒子等の不溶性固形分によるざらつきや後味の悪さを改善することができ、保存中の沈殿を抑制することもできる。なお、上述のとおり、本発明の呈味改善成分は可溶性高分子であるから、この清澄化処理によって、呈味改善成分が減少することはない。
【0043】
遠心分離や濾過等の分離清澄化処理条件は、適宜設定すればよいが、茶飲料の680nmにおける吸光度が0.25以下となるような清澄化処理条件とすることで、ざらつきのない後味のすっきりとした茶飲料となり、本発明による作用、すなわちコク味の増強をより一層感じられる茶飲料となる。遠心分離条件としては、具体的には、粒子径1μm以上の不溶性固形分の粒子の大部分が除去されるような清澄化処理である。ここで大部分とは、50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上を表す。
【0044】
本発明により茶飲料特有の適度な渋味を有しながらも旨味・コク味が増強された容器詰茶飲料(特に、緑茶飲料)が提供される。本発明の茶飲料は、上述の工程1)?3)、好ましくは1)?4)を含む工程により製造されるが、さらに、この得られた茶飲料を殺菌して容器に充填する、又は容器に充填した後に加熱殺菌(レトルト殺菌等)を行うことで、容器詰茶飲料とすることができる。例えば缶飲料とする場合には、上記茶飲料を缶に所定量充填し、レトルト殺菌(例えば、1.2mmHg、121℃、7分)を行う。ペットボトルや紙パック、瓶飲料とする場合には、例えば120?150℃で1?数十秒保持するUHT殺菌等を行い、所定量をホットパック充填或いは低温で無菌充填する。本発明の容器詰茶飲料は、呈味の良好な茶飲料を提供するものであるから、低温で無菌充填を行う態様が好ましい。
【0045】
なお、本発明の茶飲料を充填する容器としては、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、ガラス瓶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。このように製造される本発明の容器詰茶飲料は、コロイド分散系に存在するグリセロ糖脂質を含有する。このコロイド分散系の存在により、コク味が付与されるばかりか、保存中における風味や色、沈殿等の変化も抑制することができるので、特に、透明容器(例えばPETボトル、ガラス瓶)を充填容器として使用する場合、好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実験例及び実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
試験例1.呈味(コク味)増強成分の分析
ペットボトル飲料として市販されている容器詰茶飲料(8種)を用いて、コク味を与える有効成分の解析を行った。20℃の茶飲料を均一となるよう十分に撹拌した後、開封し、室温にてメンブレンフィルター(孔径0.45μm、十慈フィールド株式会社 水系未滅菌13A)にて濾過し、通過した液を回収し、これをゲル濾過クロマトグラフィー(Agilent社 1100 series)に供した。分析方法は以下のとおりである。
【0048】
ゲル濾過カラム:Shodex Asahipak GS520 HQ(会社名、内径7.6mm×長さ300mm、排除限界300,000)
サンプル注入量:10μl
流量:0.5ml/min.
UV-VIS検出器:Agilent社 1100 series G1315B DAD
検出設定波長:400nm
溶離液:水
温度:40℃
得られた測定結果の一例を図1に示す。緑茶飲料では、大きく分けて4つのピークが検出された。この4つのピークは、保持時間が、それぞれ6分において40%溶出する画分(ボイド画分;以下、peak1という)、7分において35%溶出する画分(peak2)、10分において20%溶出する画分(peak3)、及び13分において5%溶出する画分(peak4)であった。
【0049】
次に、これらの市販の茶飲料(20℃)のコク味について官能評価した。評価方法はシェッフェの一対比較法を用い、評価点数は、+2:先が後よりも強い、+1:先が後よりもいくぶん強い、±0:先と後とで差がない、-1:先が後よりいくぶん弱い、-2:先が後より弱い、の5段階とした。ゲル濾過クロマトグラフィーによるpeak1?4の4つのピークの面積と、官能評価結果とを図示し、その相関を検討したところ、peak1にのみ相関が得られた。この結果より、緑茶飲料においてコク味を与える成分は、ゲル濾過クロマトグラフィーで400nmの吸収で検出されるボイド画分であることが判明した。なお、peak1に相当するプルラン換算による分子量は、30万以上であった。また、peak1成分(色素換算量)は市販の茶飲料のほとんどが、0?0.2μg/mlであった。
【0050】
試験例2.茶葉の種類
種々の茶葉を用いて、peak1に示される可溶性高分子成分の含有量を比較した。具体的には、玉露2番茶(a)、被せ2番茶(b)、煎茶3番茶(c)、釜煎り玉緑茶(d)、深蒸し2番茶(e)、碾茶1番茶(f)、焙じ茶(g)の7種類の茶葉1.4gに200mLの温水(70℃)を加えて5分間抽出し、茶葉を除去し、これを20℃に冷却した。冷却後の茶抽出液について、試験例1と同様にゲル濾過クロマトグラフィーの測定を行うとともに、各茶葉の抽出液(20℃)の官能評価を行った。
【0051】
また、碾茶(f)を石臼で挽いて石臼挽き茶葉(h)(平均粒子径15μm)を得、この石臼挽き茶葉0.4gに200mlの温水(35℃)を加えて5分間保持した後、遠心分離により粒径の大きい固形分を分離、除去して20℃に冷却し、石臼挽き茶葉の懸濁液を得、同様に評価した。
【0052】
ゲル濾過クロマトグラフィーによるpeak1面積の測定結果を図2に示す。peak1成分は、茶葉の抽出液ではほとんど溶出せず、茶葉を粉砕することにより多量に溶出することがわかった。茶葉の抽出液の中では、玉露(a)、釜煎り玉緑茶(d)、深蒸し茶(e)などの高級茶葉に僅かに含まれている程度であった。官能評価を行ったところ、このpeak1成分の量と、コク味との相関が確認され、石臼挽き茶葉(h)には、室温以下(20℃)で飲用した場合にも豊かなコク味で濃厚な呈味だった。この呈味は、高級茶を急須で淹れて熱いうちに飲用する場合に感じられる、まったりとした自然な甘さであった。なお、滑らかな口当たり、まったりとした甘さであり、べとべとやぬるぬるという不快な口当たりや食感はなかった。
【0053】
試験例3.粉砕条件
碾茶を以下の条件にて粉砕し、粉砕茶葉を製造した。すなわち、石臼挽きしたもの(i;平均粒子径:15μm)、石臼挽き碾茶(i)をさらに石臼で微粉砕したもの(石臼挽き(粒度細)、平均粒子径:11μm)(j)、機械(ジェットミル)挽きしたもの(k;平均粒子径:16μm)という、3種類の粉砕茶葉を製造した。
【0054】
この粉砕茶葉について、試験例2と同様にして茶懸濁液を得、試験例1と同様にゲル濾過クロマトグラフィーの測定を行いpeak1成分の面積を求めるとともに、官能評価を行った。
【0055】
図3に、結果を示す。粉砕サイズや粉砕方法に依存せず、同程度のpeak1成分が溶出しており、官能評価しても同程度のコク味が感じられた。特に、石臼挽き(粒度細)は、peak1成分のコク味がより一層感じられた。なお、いずれの粉砕茶葉も細胞壁が破壊されていることを確認している。
【0056】
試験例4.粉砕茶葉の種類
試験例2において、高級茶葉に僅かにpeak1成分の溶出が認められたことから、種々の茶葉(玉露1番茶、煎茶3番茶、被せ2番茶、焙じ4番茶、番茶3番茶など計8種類)を原料とし、同程度の粒度となるように粉砕して、粉砕茶葉を得た。これより、試験例2と同様の方法で粉砕茶葉の懸濁液を得、同様に評価した。
【0057】
図4に結果を示す。試験例1と同様に、peak1成分の面積と官能評価(20℃)のコク味には強い相関があり、緑茶飲料においてコク味を与える成分は、ゲル濾過クロマトグラフィーで400nmの吸収で検出されるボイド画分であることが確認された。
【0058】
試験例5.高圧ホモジナイザー処理
試験例2の石臼挽き茶葉(h)の懸濁液(20℃)に、15MPaの圧力で高圧ホモジナイザー処理し、茶抽出液を得た。試験例1と同様にゲル濾過クロマトグラフィーの測定を行いpeak1成分の面積を求めるとともに、官能評価を行った。
【0059】
結果を図5に示す。ホモジナイザー処理により、peak1成分が一層溶出されたことが確認された。官能評価でも、高圧ホモジナイザー処理した茶抽出液のほうに、より一層のコク味が感じられた。
【0060】
試験例6.抽出温度
試験例2の石臼挽き茶葉(h)について、抽出温度を変えて茶懸濁液を調製した。また、高圧ホモジナイザーの圧力も変えて茶懸濁液を調製した。得られた茶懸濁液について、試験例1と同様にゲル濾過クロマトグラフィーの測定を行いpeak1成分の面積を求めるとともに、官能評価を行った。
【0061】
結果を図6に示す。抽出温度は、peak1成分の溶出にほとんど影響を与えないが、ホモジナイザーの圧力は圧力に応じて溶出量が増加した。飲用してもコク味を評価しても同様の傾向を示したことから、粉砕茶葉に高圧ホモジナイザー処理を施すことが、コク味増強成分の抽出には有用であることが示唆された。
【0062】
試験例7.peak1成分
試験例5で調製した高圧ホモジナイザー処理を施した粉砕茶葉抽出液(懸濁液)を凍結した。この凍結サンプル2gを、20mlの蒸留水に溶解した後、遠心分離(8000rpm、5min)を行った。その上清液をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、ピーク1成分(ボイド画分)を分画し凍結乾燥を行った。分画されたボイド画分は168mgであった。これを100mlの蒸留水に溶解し、5%硫酸10mlで酸性にして100ml酢酸エチルで2回抽出を行った。酢酸エチル可溶画分を濃縮・乾固して52mgを得た。これをTLCで展開させ(展開液;CH_(3)Cl/MeOH/水=65/25/4)、5%硫酸で発色させた。
【0063】
結果を図7に示す。クロロフィル及び3種類のグリセロ糖脂質が確認された。
【0064】
さらに、この酢酸エチル層をHPLCに供した。HPLCの測定条件は以下のとおり。
【0065】
カラム:シリカゲルカラム(Cosmosil 5C18AR、4.6×150mm)
溶離液:A 50%MeOH、 B 100%MeOH
グラジエント: 0-10分 A100%-B 0%
10-20分 A 0%-B100%
20-20.5分 A 0%-B100%
20.5-25分 A100%-B 0%
流速:1mL/min.
検出:210nm
結果を図8に示す。グリセロ糖脂質は、以下の式
【0066】
【化1】

【0067】
(ここで、R1,R2は脂肪酸を、RはH又はガラクトースを示す。)
で表される成分である。上記HPLCで分取されたピーク成分をNMR解析した結果、このピーク成分がグリセロ糖脂質を含有することが判明した。
【0068】
試験例8.呈味(コク味)増強成分の確認
抹茶抽出液の分子量30万以上の画分をさらに分画し、得られた画分の官能評価、及び逆相クロマトグラフィーによる分析を行った。
【0069】
石臼挽き茶葉0.4gに200mlの温水(35℃)を加えて5分間保持した後、遠心分離により粒径の大きい固形分を分離、除去した。さらに室温にてメンブレンフィルター(孔径0.45μm、十慈フィールド株式会社 水系未滅菌13A)にて不溶性の固形分を除去した後、限外濾過膜(Millipore社 バイオマックスPBMK限外濾過ディスク、ポリエーテルスルホン、300,000NMWL)にて加圧濾過し、膜上の成分を回収して分子量30万以上の呈味(コク味)増強組成物を得た。これを水に溶解し、HClにて酸性とした後、酢酸エチルにて液-液分配を行った。このうち酢酸エチル層をODS固相抽出カートリッジ(Waters社 セップパックプラスC18)に吸着させ、水-エタノール混合溶媒にて、エタノール濃度を順次変化させながら分画・溶出した。
【0070】
液-液分配時の水層、及びODS分画画分の官能評価結果を下表に示す。これらのうち、ODS分画の100%エタノール画分にのみ、抹茶特有の濃厚なコク味が感じられた。
【0071】
【表1】

【0072】
さらに得られた各画分を、逆相クロマトグラフィーに供し、グリセロ糖脂質の定量分析を行った。分析条件は以下の通りである。
【0073】
逆相カラム:TSK-GEL(TOSOH社、内径4.6mm×長さ150mm)
サンプル注入量:10μl
流量:1.0ml/min.
RI検出器:SHIMADZU社 RIA-10A
溶離液:95%メタノール
温度:40℃
定量分析の標品としては、Lipid Products社のMGDG、DGDGを使用した。標品のこのうち、MGDGは大きく二つのピークに分かれるがため、茶飲料中にみられるピークが後ろのピークだったので、標品はピーク面積の比率に基づいて濃度を比例配分し、分析濃度とした。なお、本明細書におけるグリセロ糖脂質の濃度は、特に示した場合を除き、MGDG、DGDGの合計値として表した。
【0074】
得られた分析結果を図9に示す。その結果、ODS分画の100%エタノール画分にのみグリセロ糖脂質を検出した。これにより、呈味(コク味)増強成分がグリセロ糖脂質であると確認した。
【0075】
【表2】

【0076】
試験例9.使用する茶葉とその処理条件
普通煎茶の茶葉1.4gに200mlの温水(70℃)を加えて5分間抽出し、茶葉を除去し、これを20℃に冷却した。また抹茶0.4gに200mlの温水(35℃)を加えて5分間保持し、抹茶懸濁液を得た。これらを試験例2と同様の方法にて逆相クロマトグラフィーに供し、グリセロ糖脂質量を測定した。その結果、グリセロ糖脂質は茶葉の温水抽出物にはほとんど含まれないが、抹茶の温水抽出物に多量に含まれていることが確認された(下表及び図10参照)。
【0077】
【表3】

【0078】
また、上記の抹茶懸濁液(20℃)に、15MPaの圧力で高圧ホモジナイザー処理し、茶抽出液を得て、上記と同様の方法にて逆相クロマトグラフィーに供し、グリセロ糖脂質量を測定した。その結果、高圧ホモジナイザーで微粉砕処理を施すと、グリセロ糖脂質の溶出量が増加することが確認された(図11参照)。官能評価でも、高圧ホモジナイザー処理した茶抽出液のほうに、より一層のコク味が感じられた。
【0079】
実施例1.呈味改善剤の製造
碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶(微粉砕茶葉)を約80倍の水に懸濁させ、この懸濁液を高圧ホモジナイザーにより15MPaの圧力で処理し、遠心分離処理(6000rpm、10分)して、粒子径1μm以上の固形分の99%以上を分離、除去して平均粒子径が1μm未満となる不溶性固形分(砕茶茶葉)を含有する、粉砕茶葉の分散液を得た。これを試験例1と同様にゲル濾過クロマトグラフィーで分析した。また、黄色色素4号を同様に分析して検量線を作成し、そのpeak1面積の値から超微粉砕茶葉分散液におけるpeak1成分の濃度(μg/ml;色素換算量)を算出した。その結果、peak1成分は、およそ50μg/ml含有されていた。また、これを試験例8と同様に逆相クロマトグラフィーで分析した。その結果、グリセロ糖脂質は、およそ20μg/ml含有されていた。
【0080】
実施例2.茶飲料の製造(1)
実施例1で製造したおよそ50μg/mlのpeak1成分を含有する呈味改善剤(20μg/mlのグリセロ糖脂質を含有する呈味改善剤)を、種々の濃度(呈味改善剤:緑茶抽出液=0?5:10?5)で緑茶抽出液に添加して茶飲料を製造した。茶飲料のベースとなる緑茶抽出液は、茶葉(普通煎茶)1.4gに200mlの温水(70℃)を加えて5分間抽出した後、茶葉を濾別して製造した。得られた茶飲料に種々の条件にて遠心分離処理を施し、吸光度の異なる茶飲料を製造した。
【0081】
得られた茶飲料(10種類)について、実施例1と同様の方法でpeak1成分量(色素換算量)及びグリセロ糖脂質量を求めた。また、分光光度計(島津製作所 分光光度計UV-1600)を用い、680nmにおける吸光度を測定した。さらに、カテキン類含量を測定した。カテキン類は、試料となる茶飲料をメンブレンフィルター(孔径0.45μm、十慈フィールド株式会社 水系未滅菌13A)で固形分を除去した後、HPLC分析に供して測定した。HPLCの分析条件は以下のとおり。
【0082】
(HPLC分析条件)
分析装置:東ソー株式会社、TOSOH HPLCシステム LC8020 model II[マルチステーション:LC-8020、ポンプ:CCMC-II、オートサンプラ:AS-8021、検出器:UV-8020、カラムオーブン:CO-8020、オンラインデガッサ:SD-8023]
分析条件:[カラム:TSKgel ODS-80Ts QA、溶離液A:10%アセトニトリル/水 0.05%TFA、溶離液B:80%アセトニトリル/水 0.05%TFA、流速:1.0ml/min、温度40℃、検出:UV275nm]
上記の茶飲料を5℃に冷却し、専門パネラーで官能評価した。評価は、飲用時のコク味、飲用直後(後味)のすっきり感を5段階(5点:強く感じる、4点:感じる、3点:少し感じる、2点:ほとんど感じない、1点:感じない)で行い、平均値を求めた。また、カテキン類に起因する苦味、渋味と、粉砕茶葉に起因する収斂味の有無についても評価した。
【0083】
さらに、茶飲料を500mlペットボトルに充填し、殺菌(130℃、1分)を行った後、常温で1ヶ月間保存して、沈殿の発生の有無を目視で確認した。
【0084】
結果を表4及び5に示す。官能評価によるコク味は、peak1成分及びグリセロ糖脂質含量と相関があった(図12,13)。peak1成分が色素換算で0.30μg/ml以上(グリセロ糖脂質1.0μg/ml以上)含有する茶飲料に、従来の容器詰茶飲料にはなかった急須で淹れた茶と同様の濃厚なコク味が感じられ、特に0.50μg/ml以上(グリセロ糖脂質1.5μg/ml以上)で顕著なコク味が感じられた。カテキンあたりのグリセロ糖脂質(GDG/カテキン類)が0.001以下であるとカテキンの苦味、渋味が顕著に感じられたが、0.001を超えるとカテキンの苦味、渋味がややマスクされた。0.003では、適度な渋味を有しながらも旨味やコク味が感じられる飲料であった。これより、カテキンあたりのグリセロ糖脂質(GDG/カテキン類)が0.002以上、好ましくは0.003以上となるようにグリセロ糖脂質とカテキン類とを調整することで、冷蔵温度で飲用してもカテキン類の苦味や渋味がマスクされ、コク味とバランスのとれたドリンカビリティの高い茶飲料となることが示唆された。
【0085】
また、680nmにおける吸光度は、官能評価ですっきり感と負の相関があった(図14)。吸光度が0.30程度であるとすっきり感が感じられず、0.25以下ですっきり感が得られた。不溶解固形分に対するグリセロ糖脂質の割合(GDG/OD680)が、5程度であると、不溶解固形分、すなわち粉砕茶葉固有の収斂味が感じられたが、GDG/OD680が7以上になるとほとんど感じられないレベルとなり、10以上では感じられなかった。
【0086】
以上より、冷蔵温度で飲用した場合にも、適度な渋味を有し、かつ濃厚なコク味を有する茶飲料は、図15に示す範囲であり、より好ましくはカテキンあたりのグリセロ糖脂質(GDG/カテキン類)が0.002以上、好ましくは0.003以上であり、及び/又は不溶解固形分に対するグリセロ糖脂質の割合(GDG/OD680)が7以上、好ましくは10以上となる茶飲料であることが示唆された。なお、市販の容器詰茶飲料の分析評価を行ったが、図15に示す範囲を満たす茶飲料は存在しておらず、官能評価を行っても、本発明の図15の範囲の従来の茶飲料と比較して総合的な美味しさで上回る茶飲料であった。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
実施例3.茶飲料の製造(2)
グリセロ糖脂質を含まない緑茶抽出液に、抽出液全量に対して0.07重量%の抹茶を加えて高圧ホモジナイザー処理を行い、図15の吸光度の範囲となるように遠心分離処理を行った。
【0090】
実施例2と同様に、分析及び官能評価した結果を表6に示す。グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含有する本発明の茶飲料は、高級茶葉で淹れたような豊かなコク味を有し、濃厚感の感じられる茶飲料で、かつすっきり感を有する飲料であった。
【0091】
なお、この好ましい範囲の茶飲料の殺菌(130℃、1分)を行ったが、豊かなコク味は保持されていた。
【0092】
【表6】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-20 
出願番号 特願2014-117298(P2014-117298)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23F)
P 1 651・ 536- YAA (A23F)
P 1 651・ 537- YAA (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 窪田 治彦
山崎 勝司
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5816337号(P5816337)
権利者 サントリー食品インターナショナル株式会社
発明の名称 呈味改善剤及びこれを含む茶飲料  
代理人 早川 裕司  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中村 充利  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 田岡 洋  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 中村 充利  
代理人 村雨 圭介  
代理人 小林 泰  
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