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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1326956 |
異議申立番号 | 異議2016-700130 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-02-17 |
確定日 | 2017-02-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5765331号発明「微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、セルロースフィルムならびに積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5765331号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕、〔14?18〕について訂正することを認める。 特許第5765331号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許の請求項1?18に係る特許についての出願は、平成23年3月3日(優先権主張 平成22年9月27日(1件)、同年7月12日(2件)、同年3月9日(1件))を国際出願日とする出願であって、平成27年6月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年2月17日付け(受理日:同年同月18日)で特許異議申立人 山本 美映子(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において同年5月24日付けで取消理由が通知され、同年7月25日付け(受理日:同年同月26日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年9月29日付け(受理日:同年同月30日)で特許異議申立人により意見書が提出され、さらに当審において同年10月18日付けで取消理由が通知され、同年12月19日付け(受理日:同年同月20日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、平成29年2月3日付け(受理日:同年同月6日)で特許異議申立人により意見書が提出されたものである。 なお、平成28年7月25日付け(受理日:同年同月26日)でされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項(以下、法令名省略)の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示すものである。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維と、有機アルカリとを含むpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、 前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかであることを特徴とする微細セルロース繊維分散液。」とあるのを、「少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、 前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液。」に訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0013】に「上記課題を解決するために、本発明における請求項1に記載した発明は、少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維と、有機アルカリとを含むpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかであることを特徴とする微細セルロース繊維分散液である。」とあるのを、「上記課題を解決するために、本発明における請求項1に記載した発明は、少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、 前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液である。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に「前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。」とあるのを、「前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0015】に「次に、請求項2に記載した発明は、前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。」とあるのを、「次に、請求項2に記載した発明は、前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項14に「セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースを得る酸化工程と、 前記酸化工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、 を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。」とあるのを、「セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、 前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、 を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0027】に「次に、請求項14に記載した発明は、セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースを得る酸化工程と、前記酸化工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法である。」とあるのを、「次に、請求項14に記載した発明は、セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法である」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項ごとに訂正の請求を行っているか否か、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、請求項ごとに訂正の請求をするときに、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて訂正の請求を行っているか否か、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項1は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項2?13は、訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項1?13は一群の請求項であるから、訂正事項1は、一群の請求項ごとの訂正である。 さらに、訂正事項1は、訂正前の明細書の段落【0040】、【0041】、【0051】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正事項1による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であるが、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて、訂正の請求を行うものである。 さらに、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項11?13は、訂正前の請求項2を引用するものであり、訂正前の請求項2、11?13は一群の請求項であるから、訂正事項3は、一群の請求項ごとの訂正である。 さらに、訂正事項3は、訂正前の明細書の段落【0051】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、訂正事項3による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項4は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であるが、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて、訂正の請求を行うものである。 さらに、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5 訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項5は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項15?18は、訂正前の請求項14を引用するものであり、訂正前の請求項14?18は一群の請求項であるから、訂正事項5は、一群の請求項ごとの訂正である。 さらに、訂正事項5は、訂正前の明細書の段落【0040】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6 訂正事項6は、訂正事項5による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項6は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であるが、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて、訂正の請求を行うものである。 さらに、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する第126条第4項?第6項の規定に適合するので、本件訂正の請求による訂正後の請求項1?18について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正の請求により訂正された請求項1?18に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明18」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、 前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液。 【請求項2】 前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項3】 前記微細セルロース繊維が、セルロースを、水系媒体中で、分散処理して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項4】 前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項5】 さらに、水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項6】 前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項5に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項7】 前記水溶性有機溶剤の量が、微細セルロース繊維分散液全体に対して0.1重量%以上であることを特徴とする請求項6に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項8】 さらに、反応性官能基を有する化合物からなる添加剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項9】 前記微細セルロース繊維のカルボキシル基の含有量が、0.1mmol/g以上2mmol/g以下である特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項10】 前記微細セルロース繊維の数平均繊維径が、0.003μm以上0.050μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を乾燥して形成したことを特徴とするセルロースフィルム。 【請求項12】 請求項1?10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を、基材上の少なくとも片面に塗布して、被膜を形成したことを特徴とする積層体。 【請求項13】 前記被膜が、アンダーコート層であることを特徴とする請求項12に記載の積層体。 【請求項14】 セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、 前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、 を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項15】 前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項16】 前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項17】 前記水系媒体が、水溶性有機溶剤を含み、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項18】 前記分散工程の後、得られた微細セルロース繊維分散液に水溶性有機溶剤を加える調製工程を備え、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。」 第4 平成28年10月18日付けの取消理由の概要 1 請求項1?18に係る特許は、第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してされたものではないから、第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2 請求項1?13に係る特許は、第36条第6項第2号の規定に適合する特許出願に対してされたものではないから、第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第5 平成28年10月18日付けの取消理由についての判断 1 第36条第6項第1号 (1)請求項1?13 請求項1には「微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって」と記載されており、該記載は、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であることを意味している。 一方、発明の詳細な説明の段落【0041】においても、酸化セルロース中、言い換えると、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%であることが記載されている。 そうしてみると、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載が一致しており、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。 また、請求項1に係る発明を直接的または間接的に引用する請求項2?13に係る発明についても同様である。 したがって、請求項1?13に係る特許は、第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してされたものであり、第36条第6項に規定する要件を満たしており、第113条第4号に該当しない。 (2)請求項14?18 請求項14には「セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程」と記載されており、該記載は、セルロースをTEMPO酸化処理し、反応液に酸を添加することによって、カルボン酸に変換した酸化セルロースを回収することを意味している。 一方、発明の詳細な説明の段落【0035】?【0040】においても、セルロースをTEMPO酸化処理することによって酸化セルロースを得て、得られた当該酸化セルロースを含む反応液に酸を添加して酸化セルロースを回収することが記載されている。 そうしてみると、請求項14の記載と発明の詳細な説明の記載が一致しており、請求項14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。 また、請求項14に係る発明を直接的または間接的に引用する請求項15?18に係る発明についても同様である。 したがって、請求項14?18に係る特許は、第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してされたものであり、第36条第6項に規定する要件を満たしており、第113条第4号に該当しない。 2 第36条第6項第2号 請求項1?13 請求項1には「前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類」と記載されているところ、当該技術分野の技術常識からみて、イオン化したアミン類はカルボキシル基の対イオンになり得るものである。 よって、請求項1の記載は明確である。 また、請求項1に従属する請求項2?13の記載についても同様である。 したがって、請求項1?13に係る特許は、第36条第6項第2号の規定に適合する特許出願に対してされたものであり、第36条第6項に規定する要件を満たしており、第113条第4号に該当しない。 なお、平成29年2月3日付け(受理日:同年同月6日)で特許異議申立人が提出した意見書も検討したが、請求項1?18に係る特許を取り消すことはできない。 第6 平成28年5月24日付けの取消理由の概要 1 本件発明1、3、4は、いずれも甲1号証に記載された発明であって、第29条第1項第3号の規定に該当するものであるから、本件発明1、3、4に係る特許は、第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 本件発明1?7、9、10、14?16は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願である甲4出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一であって、第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?7、9、10、14?16に係る特許は、第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 甲1号証:Langmuir, Vol. 17, No. 1, p.21-27 の写し及び部分翻訳 甲4出願:特願2010-269128号(特開2011-140738号) 第7 平成28年5月24日付けの取消理由についての判断 1 第29条第1項第3号 (1)本件特許発明1 ア 甲1号証に記載された発明 甲1号証には「酸化反応により1級水酸基のみをカルボキシル基に変換したセルロース微結晶とPEG-NH_(2)を含むpH7.5以上8.0以下のセルロース微結晶混合物」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ 甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明1では、カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類またはカルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンを含むのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点で、両者は相違するところ、甲1号証にはカルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類またはカルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンを含ませることは記載も示唆もされておらず、両者は実質的に相違している。 よって、本件特許発明1は、甲1発明に対して、新規性を有する。 (2)本件特許発明3、4 本件特許の訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項3、4に係る本件特許発明3、4は、本件特許発明1と同様に、甲1発明に対して、新規性を有する。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、訂正後の請求項1、3、4に係る特許は、第29条の規定に違反してされたものとはいえず、第113条第2号に該当するものではない。 2 第29条の2 (1)本件特許発明1 ア 甲4出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲及び明細書に記載された発明 甲4出願には「天然セルロース繊維100gにイオン交換水9900gを加えて十分に攪拌してスラリーを得、該スラリーに、TEMPOを対パルプ1.25質量%、臭化ナトリウムを対パルプ14.2質量%、次亜塩素酸ナトリウムを対パルプ28.4質量%、それぞれこの順で添加し、更にpHスタッドを用い、0.5Mの水酸化ナトリウムの滴下にてスラリーのpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行い、120分間の酸化時間で水酸化ナトリウムの滴下を停止し、イオン交換水にて十分に洗浄し、脱水処理を行い、反応物繊維(酸化パルプ)を得て、次いで、前記反応物繊維を固形分換算で2gとイオン交換水400gとを混合し、界面活性剤として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH、和光純薬工業(株)製)を10.8g添加して24時間撹拌したもの」(以下、「甲4発明1」という。)及び「天然セルロース繊維100gにイオン交換水9900gを加えて十分に攪拌してスラリーを得、該スラリーに、TEMPOを対パルプ1.25質量%、臭化ナトリウムを対パルプ14.2質量%、次亜塩素酸ナトリウムを対パルプ28.4質量%、それぞれこの順で添加し、更にpHスタッドを用い、0.5Mの水酸化ナトリウムの滴下にてスラリーのpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行い、120分間の酸化時間で水酸化ナトリウムの滴下を停止し、イオン交換水にて十分に洗浄し、脱水処理を行い、反応物繊維(酸化パルプ)を得て、次いで、前記反応物繊維を固形分換算で2gとイオン交換水400gとを混合し、界面活性剤として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH、和光純薬工業(株)製)を10.8g添加して24時間撹拌する方法」(以下、「甲4発明2」という。)が記載されているといえる。 イ 甲4発明1との対比 本件特許発明1と甲4発明1とを対比すると、本件特許発明1では、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるのに対して、甲4発明1では、そのような特定がされていない点で、両者は相違する。 そして、甲4出願には、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量については一切記載されていない。 また、本件特許発明1において、当該金属イオン含有量が1wt%以下となるのは、反応液に酸を添加してカルボン酸に変換し回収することにより得られるものであると認められる(本件特許の明細書の段落【0040】、【0041】)ところ、甲4出願には酸を添加してカルボン酸に変換することは記載も示唆もされていない以上、甲4発明1の微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるとまでは認められず、両者は実質的に相違している。 よって、本件特許発明1は、甲4発明1と同一であるとはいえない。 (2)本件特許発明2?7、9、10 本件特許の訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項2?7、9、10に係る本件特許発明2?7、9、10は、本件特許発明1と同様に、甲4発明1と同一であるとはいえない。 (3)本件特許発明14 甲4発明2との対比 本件特許発明14と甲4発明2とを対比すると、本件特許発明14では「酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する」のに対して、甲4発明2では、そのような特定がされていない点で、両者は相違するところ、甲4出願には酸を添加してカルボン酸に変換することは記載も示唆もされておらず、両者は実質的に相違している。 よって、本件特許発明14は、甲4発明2と同一であるとはいえない。 (4)本件特許発明15、16 本件特許の訂正後の請求項14を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項15、16に係る本件特許発明15、16は、本件特許発明14と同様に、甲4発明2と同一であるとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、訂正後の請求項1?7、9、10、14?16に係る特許は、第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、第113条第2号に該当するものではない。 第8 結語 上記第5及び第7のとおりであるから、平成28年10月18日付けの取消理由及び平成28年5月24日付けの取消理由によっては、訂正後の請求項1?18に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に訂正後の請求項1?18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、セルロースフィルムならびに積層体 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、機能性フィルム基材、コーティング剤、または各種添加剤として使用可能なセルロースの微細繊維に係る技術に関し、セルロースの微細繊維を含む分散液およびその製造方法ならびにセルロースの微細繊維を含む分散液を用いたセルロースフィルムおよび積層体に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、環境問題への関心が高まる中、従来の石油系樹脂に対し、天然由来の澱粉やセルロース、キチンキトサンなどの各種天然多糖類とその誘導体が、バイオマス材料として注目されている。また、環境中で水と二酸化炭素にまで分解される生分解性樹脂からなる基材も注目され、市販されている。具体的には、微生物によって産生される脂肪族ポリエステルや、天然由来の澱粉やセルロース、キチンキトサンなどの各種多糖類とその誘導体、完全に化学合成により得られる生分解性樹脂、澱粉などを原料として得られた乳酸を重合してえられるポリ乳酸などが挙げられる。 【0003】 これらの中でも、地球上で最も多量に生産されているセルロースは、繊維状で高い結晶性を有し、高強度、低線膨張率であり、化学的安定性や生体への安全性に優れることから、機能性材料として注目されている。特に、微細セルロース繊維は、近年、紙力増強剤、ろ過補助剤、食品添加物などに利用され、盛んに開発が進められている。 微細セルロース繊維の製造方法として、例えば、特許文献1には、セルロース懸濁液を100MPa以上の高圧雰囲気下から噴出させて減圧することにより解繊(微細化)する方法が記載されている。 【0004】 また、特許文献2には、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル)触媒を用い水酸基の一部をカルボキシル基に酸化させたセルロースを媒体中に分散させ微細セルロース繊維を得る方法が記載されている。この方法によれば、負の電荷を有するカルボキシル基の電気的反発作用を利用し、セルロースI型の結晶構造を有する微細セルロース繊維を比較的容易に得ることが可能である。 【0005】 また、特許文献3には、TEMPO触媒を用い水酸基の一部をカルボキシル基に酸化させたセルロースを媒体中に分散させ微細セルロース繊維を得た後、有機オニウム化合物で処理して得られる微細修飾セルロース繊維をエポキシ樹脂に加えてエポキシ樹脂コンポジットを得る方法が記載されている。 【0006】 また、特許文献4には、TEMPO酸化処理により得た酸化セルロースを水中に分散させて平均繊維径200nm以下の微細セルロース繊維を含むガスバリア用材料を調製し、これを、PETフィルムやポリ乳酸等の基材上に塗工し、乾燥させてガスバリア性複合成形体を得る方法が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特開2009-155772号公報 【特許文献2】特開2008-1728号公報 【特許文献3】特開2010-59304号公報 【特許文献4】特開2009-57552号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 特許文献1には、平均繊維径4?200nm微細セルロース繊維を得ることができると記載されているが、解繊には非常に高い圧力で複数回の処理が必要であり、使用できる装置が限られる。また、均一な微細セルロース繊維を、機械的処理のみによって効率よく得ることは困難である。また、得られた微細セルロース繊維の用途についても、合成高分子との複合化について記載されているのみであり、微細セルロース繊維単体については示されていない。 【0009】 また、特許文献2の方法では、その実施例に記載のように、カルボキシル基は対イオンとしてナトリウムイオンなどの金属イオンを有する。微細セルロース繊維を半導体や燃料電池などの電子部材に利用しようとした場合、これらの金属イオンが混入すると電気特性に悪影響を与えるため、金属イオンを含んでいることは好ましくない。また、これらの微細セルロース繊維をキャストし自立膜を形成することが記載されているが、対イオンとして金属イオンを含んだ微細セルロース繊維膜は、耐水性が弱く水に容易に膨潤し強度が低下してしまうという問題がある。 【0010】 また、特許文献3の方法では、カルボキシル基の対イオンとして存在している金属イオンを有機オニウム処理により有機オニウムにイオン交換することで、樹脂に分散しやすい微細セルロース繊維が得られるとしている。しかしながら、イオン交換の過程で、微細セルロース繊維は凝集体となり、有機オニウム処理の前工程でセルロースを分散させ微細化させた効果が失われている。一旦凝集した微細セスロース繊維を樹脂中に添加しても、分散が不十分かつ繊維径は不均一となり、高強度で透明性の高い均一な複合材料を得ることはできない。 【0011】 また、特許文献4のような微細セルロース繊維の水系分散液を用いて形成された膜は、微細セルロース繊維の剛直な形状と低い反応性のため、PETフィルム等の基材への密着性が低い問題があった。例えば、フィルム基材、特に、ポリ乳酸等の天然由来材料からなる基材のアンダーコートを従来の微細セルロース繊維の水系分散液を用いて形成した場合、前記基材とアンダーコートとの層間剥離が生じることがあった。 これは、紙やポリ乳酸等の材料が天然物であるため、PET等の石油由来の合成樹脂に比べ、化学的不安定性や低分子量分子のブリード、結晶化、表面劣化のために、基材として塗工の際の濡れ性や密着性が低いことに起因する。したがって、微細セルロース繊維の水系分散液からなる膜(アンダーコート)と、ポリ乳酸等の天然由来材料からなる基材との密着性を向上させるのは困難であった。 【0012】 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、均一に有機溶剤や樹脂に分散可能で、かつ電子部材用途にも応用可能な微細セルロース繊維を含む分散液を提供することを目的とする。 また、耐水性の向上された微細セルロース繊維から得られるセルロースフィルムおよび積層体を提供することを目的とする。 また、フィルム基材、特にポリ乳酸等の天然由来材料からなる基材のアンダーコートとして、該基材との密着性を向上させた膜を形成する微細セルロース繊維分散液およびそれを用いた積層体を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 上記課題を解決するために、本発明における請求項1に記載した発明は、少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、 前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液である。 【0015】 次に、請求項2に記載した発明は、前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0016】 次に、請求項3に記載した発明は、前記微細セルロース繊維が、セルロースを、水系媒体中で、分散処理して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0017】 次に、請求項4に記載した発明は、前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0018】 次に、請求項5に記載した発明は、さらに、水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0019】 次に、請求項6に記載した発明は、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項5に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0020】 次に、請求項7に記載した発明は、前記水溶性有機溶剤の量が、微細セルロース繊維分散液全体に対して0.1重量%以上であることを特徴とする請求項6に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0021】 次に、請求項8に記載した発明は、さらに、反応性官能基を有する化合物からなる添加剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0022】 次に、請求項9に記載した発明は、前記微細セルロース繊維のカルボキシル基の含有量が、0.1mmol/g以上2mmol/g以下である特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0023】 次に、請求項10に記載した発明は、前記微細セルロース繊維の数平均繊維径が、0.003μm以上0.050μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の微細セルロース繊維分散液である。 【0024】 次に、請求項11に記載した発明は、請求項1?10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を乾燥して形成したことを特徴とするセルロースフィルムである。 【0025】 次に、請求項12に記載した発明は、請求項1?10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を、基材上の少なくとも片面に塗布して、被膜を形成したことを特徴とする積層体である。 【0026】 次に、請求項13に記載した発明は、前記被膜が、アンダーコート層であることを特徴とする請求項12に記載の積層体である。 【0027】 次に、請求項14に記載した発明は、セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法である。 【0029】 次に、請求項15に記載した発明は、前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法である。 【0030】 次に、請求項16に記載した発明は、前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法である。 【0031】 次に、請求項17に記載した発明は、前記水系媒体が、水溶性有機溶剤を含み、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法である。 【0032】 次に、請求項18に記載した発明は、前記分散工程の後、得られた微細セルロース繊維分散液に水溶性有機溶剤を加える調製工程を備え、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法である。 【発明の効果】 【0033】 本発明によれば、生分解性もあり廃棄処理における環境負荷が小さい天然資源であるセルロースを有効に利用し、均一な微細セルロース繊維分散液を得ることができる。 この本発明によって得られる微細セルロース繊維分散液からは、高耐熱性、低線膨張率、高弾性率、高強度かつ高い透明性を有し、耐水性の向上したセルロースフィルムが作製できる。これは、包装材料(特に、ガスバリア材)、構造体、表示用部材などに利用可能である。また、分散処理の際、従来用いられていた無機アルカリを使用しないため、ナトリウムなどの金属イオンの混入を好まない電子部材用途にも好適である。さらに、微細セルロース繊維分散液をコーティング剤や添加剤として用い、各種樹脂と均一に複合化させることも可能である。 また、本発明によれば、フィルム基材、特にポリ乳酸等の天然由来材料からなる基材のアンダーコートとして、該基材との密着性を向上させた膜を形成する微細セルロース繊維分散液を提供することができる。すなわち、ガスバリア層、水蒸気バリア層等の各種機能性材料被膜を塗工性、密着性良く基材上に形成でき、該機能性材料被膜を備える積層体を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0034】 以下、本発明に係る微細セルロース繊維分散液の実施形態について説明する。 本実施形態の微細セルロース繊維分散液は、例えば次の方法で製造する。まず、原料となるセルロースにカルボキシル基を導入する。 (原料) 原料としては、セルロースIの結晶構造を有する天然由来のセルロースを用いることができる。原料となる天然由来のセルロースとしては、木材パルプ、非木材パルプ、綿セルロース、バクテリアセルロース、ホヤセルロースなどがある。 【0035】 (酸化工程) セルロースの酸化方法としては、原料となるセルロースにカルボキシル基を導入する方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。例えば、一般的に知られている水酸基からアルデヒドを経てカルボン酸に酸化する方法から適宜選択することができる。その中でも、ニトロキシラジカル誘導体を触媒とし、次亜ハロゲン酸塩や亜ハロゲン酸塩などを共酸化剤として用いる手法が好ましい。特にTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル)を触媒とし、アルカリ条件下、好ましくはpH9以上pH11以下の範囲で、次亜塩素酸ナトリウムと臭化ナトリウムを含む水系媒体中で行われるTEMPO酸化法が、試薬の入手しやすさ、コスト、反応の安定性、ミクロフィブリル表面への選択性および効率の良いカルボキシル基の導入という観点から好適である。上記のTEMPO酸化法においては、反応の進行に伴いアルカリが消費されるため、随時アルカリ水溶液を添加して、系内のpHを一定に保つとよい。 【0036】 TEMPO酸化においては、セルロース分子のピラノース環(グルコース)の第6位水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基を経てカルボキシル基を導入することができる。また、天然セルロースを用いたTEMPO酸化においては、セルロースの構成単位である結晶性のミクロフィブリル表面にのみ酸化が起こり、結晶内部には酸化が起こらない。このため、セルロースIの結晶構造を維持したまま、微細セルロース繊維を得ることができ、生成する微細セルロース繊維は、高耐熱性、低線膨張率、高弾性率、高強度、ガスバリア性などの特性を有する。 【0037】 TEMPO酸化に用いる試薬類は、市販のものを容易に用いることができる。反応温度は0℃以上60℃以下が好適であり、1?12時間程度で微細繊維となり分散性を示すのに十分な量のカルボキシル基を導入できる。 TEMPO類および臭化ナトリウムは、反応の際に触媒としての量だけ用いればよく、反応後に回収することも可能である。また、上記の反応系では理論上の副生成物は塩化ナトリウムのみであり、廃液の処理も容易で環境への負荷が小さい。 【0038】 カルボキシル基の含有量は、TEMPO酸化の条件を適宜設定することにより調整可能である。セルロース繊維は、カルボキシル基の電気的反発力により水系媒体中に分散することから、カルボキシル基の含有量が少なすぎると安定的に水系媒体中に分散させることができないうえ、分散液をコーティング剤や添加剤として用いる際に、各樹脂と均一に複合化させることが困難になり、また、塗工性も悪く、ガスバリア性能も低い。また、多すぎると水への親和性が増し耐水性が低下、または結晶性が低下し、強度が弱くなる上、ガスバリア性能も低下する。この観点から、カルボキシル基の含有量は、好ましくは、0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下であり、更に好ましくは0.1mmol/g以上2mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.6mmol/g以上2mmol/g以下である。カルボキシル基を導入する過程では、酸化反応の中間体であるアルデヒド基が生成し、最終生成物中にもアルデヒド基は残存する。アルデヒド基の含有量が多すぎると水系媒体中への分散性が低下するため、アルデヒド基の含有量は、好ましくは0.01mmol/g以上0.3mmol/g以下である。 【0039】 酸化反応は、他のアルコールを過剰量添加し系内の共酸化剤を完全に消費させることにより停止する。添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるため、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量アルコールを用いるのが望ましい。この中でも、安全性や酸化により生成する副生成物を考慮し、エタノールが好ましい。 【0040】 (酸化セルロースの回収) 酸化反応停止後、生成した酸化セルロースは、ろ過により反応液中から回収することができる。反応停止後の酸化セルロースにおいて、カルボキシル基は共酸化剤やpH調整用の無機アルカリに由来する金属イオンを対イオンとした塩を形成している。回収の方法としては、カルボキシル基が塩を形成したまま濾別する方法、反応液に酸を添加しpH3以下に調整しカルボン酸としてから濾別する方法、有機溶剤を添加し凝集させた後に濾別する方法があるが、一旦カルボン酸に変換することで、酸化セルロース中の対イオン(金属イオン)の大部分を除くため、カルボン酸としてから濾別する。また、ハンドリング性や収率、廃液処理の点からもカルボン酸に変換し回収する方法が好適である。カルボン酸に変換することで、水による洗浄の効率化、含有金属イオン量の低減、洗浄回数の低減ができる。 【0041】 なお、酸化セルロース中に含まれる金属イオン含有量は、様々な分析方法で調べることができるが、例えば、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素分析によって簡易的に調べることができる。塩を形成したまま濾別する方法により回収した場合、金属イオンの含有率は5wt%以上であるのに対し、カルボン酸としてから濾別する方法により回収した場合、金属イオン含有量は1wt%以下となる。 【0042】 (洗浄) 回収した酸化セルロースは、洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や塩、イオンなどの残渣を取り除くことができる。このとき、洗浄液としては水が好ましく、さらに塩酸などを用いpH3以下、より好ましくはpH1.8以下の酸性条件に調整し洗浄を行った後、水による洗浄を行うと、金属イオンを上記分析方法における検出限界量以下とすることができる。または、残存する金属イオン量をより低減させるため、酸性条件での洗浄を複数回行ってもよい。また、セルロース中に塩等が残留していると、後述の分散工程にて分散しにくくなるため、水洗浄は複数回洗浄を行うことが好ましい。 【0043】 次に、上記工程で得られた酸化セルロースを用いて微細セルロース繊維分散液を調製する工程を説明する。 (分散工程) 洗浄した酸化セルロースを微細化する工程としては、まず、酸化セルロースを分散媒である水系媒体に浸漬する。ここで、水系媒体としては、水または水とアルコールとの混合液であることが好ましい。用いられるアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどが挙げられる。混合する有機溶剤は1種類または2種類以上でもよい。 この際、媒体にアルコール系の物が含まれていると、分散後に更に有機溶媒を加える際により均一な分散ができる。更には分散液の経時安定性を高めることができる。この際添加するアルコールの添加量は、特に限定しないが、水に対し1%以上60%以下であると好ましい。より好ましくは1%以上50%以下、更に好ましくは1%以上20%以下である。また、ここでアルコールを含むことで、分散液をコーティング剤や添加剤として用いる際の塗工性を高め、乾燥エネルギーを水単体より少なくすることができる。 この時、浸漬した液のpHは例えば4以下となる。酸化セルロースは水系媒体に不溶であり、浸漬した時点では不均一な懸濁液となっている。 また、水を含まずに、アルコールのみを分散媒として、微細セルロース繊維分散液を調製することも可能である。 【0044】 水系媒体としては、上記の水または水とアルコールとの混合液の他に、水と均一に混和可能な水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。ここで用いられる水溶性有機溶剤としては、上記アルコールとして挙げたメタノール、エタノール、2-プロパノール(IPA)などのアルコール類のほかに、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。これらのいずれか1種単独でも、2種以上の混合溶媒でもよい。水系媒体として、水と水溶性有機溶剤との混合溶剤を用いる場合、その配合比は、水溶性有機溶剤の種類や、水と水溶性有機溶剤との親和性などを考慮して適宜決定される。 【0045】 次に、アルカリを用いて懸濁液のpHをpH4以上pH12以下の範囲に調整する。特に、pHをpH7以上pH12以下のアルカリ性とし、カルボン酸塩を形成する。これにより、カルボキシル基同士の電気的反発が起こりやすくなるため、分散性が向上し微細セルロース繊維を得やすくなる。ここで、pH4未満でも機械的分散処理によりセルロースを微細繊維化することは可能であるが、分散処理により長時間・高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径も本発明のものより大きくなり、得られる微細セルロース繊維分散液の透明性が劣る。 【0046】 アルカリとしては、微細セルロース繊維分散液に金属イオンが同伴されるのを避けるため、アンモニア水または有機アルカリを用いてpHを調整する。添加するアルカリの量は、カルボキシル基の含有量に対しモル比で等量以下で十分であり、3分の2以下でも分散可能である。添加するアルカリの量が多いと分散液の着色の原因となるため好ましくない。有機アルカリとしては、各種脂肪族アミン、芳香族アミン、ジアミンなどのアミン類や水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラn-ブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、などNR_(4)OH(Rはアルキル基、またはベンジル基、またはフェニル基、またはヒドロキシアルキル基で、4つのRが同一でも異なっていてもよい。)で表される水酸化アンモニウム化合物、水酸化テトラエチルホスホニウムなどの水酸化ホスホニウム化合物、水酸化オキソニウム化合物、水酸化スルホニウム化合物などの水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物が挙げられる。有機アルカリを用いた場合も、アルカリの種類によらず、無機アルカリを用いた場合と同程度か、それ以下の分散処理により繊維を微細化することが可能である。特に、有機アルカリを用いた場合、その嵩の大きさが、セルロースのミクロフィブリルの反発により分散するのを促進する効果がある。また、分散液の粘度を下げる効果がある場合があり、効率の良い分散を可能にする。 【0047】 また、有機アルカリを用いて得られた微細セルロース繊維は、有機アルカリの疎水性により、後述するセルロースフィルム及びセルロース被膜の耐水性を向上させる効果がある。 【0048】 また、有機アルカリを用いると、水系媒体としてアルコールなどを用いた際にも、アルコールに対する親和性が高いため、均一に分散された微細セルロース繊維分散液を調製することができる。さらに、有機アルカリを用いると、水系媒体中で分散処理した微細セルロース繊維分散液に、後述する水溶性有機溶剤を加えても、分散させた微細セルロース繊維が凝集し、微細セルロース繊維分散液の凝集白濁、不均一化を起こすことがないため有効である。 【0049】 また、アルカリとして有機アルカリを用いる場合、アルカリとして金属イオンを対イオンとする無機アルカリを用いた場合よりも低エネルギー、短時間で分散処理を行うことができる。また、最終的に到達する微細セルロース繊維分散液の透明性を向上させることができる。これは、有機アルカリを用いた方が対イオンのイオン径が大きいため分散媒中で微細セルロース繊維同士をより引き離す効果が大きいためと考えられる。 【0050】 さらに、通常、微細セルロース繊維分散液はゲル状となり、高濃度化するに従い粘度が上昇するため、分散処理において大きなエネルギーが必要となり、分散処理が困難になってくる。これに対し、有機アルカリを用いる場合、無機アルカリを用いる場合と比べ、分散液の粘度とチキソ性を低下させることができ、分散処理のし易さと、後述する塗工工程での塗り易さの点で有利である。通常、微細セルロース繊維分散液はゲル状となり、高濃度化するに従い粘度が上昇するため、分散処理において大きなエネルギーが必要となり、分散処理が困難になってくるが、有機アルカリを用いると、分散液の粘度が低下するため、分散処理が容易になる。さらに、有機アルカリと後述する水溶性有機溶剤の組み合わせにより、分散液の粘度特性を調整することが可能であり、塗工性も高めることができる。 【0051】 このようにして調整した微細セルロース繊維分散液には、カルボキシル基を有する微細セルロース繊維と、有機アルカリ由来のアミン類または有機オニウムイオンが含まれている。微細セルロース繊維分散液を公知の手法により単離・乾燥・濾別などすることで、アミン類や有機オニウムイオンを対イオンとするカルボキシル基を有する微細セルロース繊維を得ることができる。 有機オニウムイオンとしては、上記の有機アルカリのカチオンである、4級アンモニウムイオン、4級ホスホニウムイオン、3級オキソニウムイオン、3級スルホニウムイオンなどのオニウムイオンなどが挙げられる。ホスホニウムイオンが対イオンの場合、耐熱性の向上に効果があり、また、オニウムイオン種による樹脂との相溶性を制御することができる。 【0052】 一方、水酸化ナトリウム等の無機アルカリを用いると、溶剤中での微細化や溶剤との混合は困難である。金属イオンを含んだ無機アルカリによる微細セルロース繊維分散液では、水溶性有機溶剤を加えると、分散させた微細セルロース繊維が凝集し、微細セルロース繊維分散液の凝集白濁、不均一化を起してしまう。このことは、例えば、微細セルロース繊維分散液を用いてフィルムや積層材料を形成する際、微細セルロース繊維分散液を所望の粘度や固形分濃度に調整するために、後述する水溶性有機溶剤を加える場合に問題となり、分散液をコーティング剤として用いる際の塗工性の低下や、形成されるフィルムや積層材料の機械的強度や透明性およびバリア性も低下してしまう。 【0053】 水系媒体への分散処理の方法としては、既に知られている各種分散処理が可能である。例えば、ホモミキサー処理、回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理、ナノジナイザー処理、ディスク型レファイナー処理、コニカル型レファイナー処理、ダブルディスク型レファイナー処理、グラインダー処理、ボールミル処理、水中対向処理などがある。この中でも、微細化効率の面から回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理が好適である。なお、これらの処理のうち二つ以上の処理方法を組み合わせて分散を行うことも可能である。 【0054】 上記分散処理を行うと、懸濁液は目視上均一な透明分散液となる。分散処理により酸化セルロースは微細化し、微細セルロース繊維となる。 分散処理後の微細セルロース繊維は、好ましくは数平均繊維径(繊維の短軸方向の幅)が0.001μm以上0.200μm以下であり、より好ましくは0.001μm以上0.050μm以下である。微細セルロース繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により確認することができる。分散が不十分・不均一で、一部に繊維径の大きいもの(数平均繊維径が0.200μmを超えるもの)が含まれていると、微細セルロース繊維を含む分散液の塗工性が低下し、を製膜した際、膜の透明性や平滑性、ガスバリア性が著しく低下してしまう問題がある。更に、添加剤として他の材料と混ぜる際にも均一に分散することが困難になる。 【0055】 アルカリとして有機アルカリを用いる場合、得られる微細セルロース繊維分散液の透過率は、固形分濃度0.5%において90%以上であることが好ましい。得られる微細セルロース繊維分散液の透過率が90%以上である場合、その微細セルロース繊維分散液を用いて形成したセルロースフィルムや積層材料が、十分な透明性を有することができる。特に、得られる微細セルロース繊維分散液の透過率は、固形分濃度0.5%において97%以上であることがより好ましい。 【0056】 (調製工程) 分散処理して得られた微細セルロース繊維分散液に、さらに水溶性有機溶剤を加えてもよい。微細セルロース繊維分散液に加える水溶性有機溶剤としては、水に可溶性のものならよく、具体的には、前述の分散工程において水系媒体に含まれる水溶性有機溶剤として挙げた、メタノール、エタノールまたは2-プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。これは、樹脂の溶解性を高めるという点で樹脂との複合材料形成の際に有効である。 また、用いる水溶性有機溶剤は、上記で挙げた水溶性有機溶剤を単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。また、上記で挙げた水溶性有機溶剤と水とを組み合わせて用いてもよい。 【0057】 加える水溶性有機溶剤の量は、用いる水溶性有機溶剤の種類にもよるが、微細セルロース繊維分散液全体に対して、下限値は0.1重量%以上が好ましく、上限値はおおよそ60重量%以下であることが好ましい。ただし、水溶性有機溶剤のうち、アルコール類やアセトンなどの水との親和性が比較的大きい水溶性有機溶剤については、必要に応じて、例えば、上限値をおおよそ99.9重量%以下とする。一方、水との親和性が比較的小さい水溶性有機溶剤については、必要に応じて、例えば、上限値をおおよそ50重量%以下とする。 なお、加える水溶性有機溶剤の量が0.1重量%より少ない場合、樹脂の溶解性を高める効果、後述する乾燥効率の向上、微細セルロース繊維分散液の塗工性改善の点で不十分である。一方、加える水溶性有機溶剤の量が、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上であると、樹脂の溶解性を高める効果、後述する乾燥効率の向上、微細セルロース繊維分散液の塗工性改善の点で十分な効果が得られる。 また、水溶性有機溶剤を複数組み合わせて用いる場合や水溶性有機溶剤と水とを組み合わせて用いる場合、その配合比は、微細セルロース繊維分散液の固形分や粘度、微細セルロース繊維分散液を用いて形成されるフィルムや積層材料に要求される特性などを考慮して適宜決定される。 【0058】 水溶性有機溶剤は、前述の通り、分散工程において、酸化セルロースの分散媒すなわち水系媒体として用いてもよく、また、水系媒体として用いず、分散工程で得られた微細セルロース繊維分散液に加える有機溶剤として用いてもよい。 具体例としては、(1)水系媒体として水のみを用いて、酸化セルロース懸濁液を分散処理し、微細セルロース繊維分散液を調整し、その後、得られた微細セルロース繊維分散液に水溶性有機溶剤を加える方法や、(2)水系媒体として水と水溶性有機溶剤との混合溶剤を用いて、酸化セルロース懸濁液を分散処理し、微細セルロース繊維分散液を調整する方法などが挙げられる。(2)の方法は、さらに、得られた微細セルロース繊維分散液に、水系媒体として用いた同一の水溶性有機溶剤や他の水溶性有機溶剤を加えてもよい。なお、上記(1)および(2)の方法は本発明の実施形態の一例であり、本発明の実施形態はこれに限定されない。 【0059】 分散処理して得られた微細セルロース繊維分散液に、水溶性有機溶剤を加えることにより、微細セルロース繊維分散液の表面張力を下げ、基材に対する濡れ性を向上させることができる。特に、上記水溶性有機溶剤としては、基材の溶解性が高い溶剤を用いるのが好ましい。例えば、基材としてポリ乳酸を採用した場合、塗工後、基材表面がわずかに侵食され密着性が向上するが、溶解性が低いメタノール、エタノール、2-プロパノール(IPA)等が好ましく、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等がより好ましい。密着のメカニズムについては、有機溶剤が基材表面を侵食し、そこへ微細セルロース繊維分散液の塗液が食いこむように密着しているものと考えられる。 【0060】 また、微細セルロース繊維は、結晶性が高く線膨張率が小さいため、基材上に被膜として形成した際、基材の熱収縮を抑制する効果がある。後述する積層体を構成した場合、基材と機能性材料で線膨張率に差があると、乾燥時や成形加工時に加熱した際、に層間で界面剥離を起こす問題があるが、基材上に微細セルロース繊維を含む被膜が形成されることで、基材の収縮を抑え、結果として基材からの剥離を防止することができる。 【0061】 微細セルロース繊維分散液には、添加剤としてアミノ基、エポキシ基、水酸基、カルボジイミド基、ポリエチレンイミン、イソシアネート、アルコキシ基、シラノール基、オキサゾリン基などの反応性官能基を有する化合物を、微細セルロース繊維分散液に添加しても良い。これらの添加剤は、酸化セルロース中の水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基と反応し被膜の各性能、特に膜強度、耐水性、耐湿性、または基材との密着性向上に効果がある。 シラノール基を有する化合物に該当するものとしては、シランカップリング剤、アルコキシシラン、それらの加水分解物等が挙げられる。シランカップリング剤は、ケイ素原子に結合した加水分解性基を少なくとも2個有するシラン化合物である。 加水分解性基は、加水分解により水酸基となり得る基である。この加水分解が生じると、シランカップリング剤中にシラノール基(Si-OH)が生成する。 加水分解性基としては、たとえばアルコキシ基、アセトキシ基、塩素原子等が挙げられ、これらの中でもアルコキシ基が好ましい。すなわち、シランカップリング剤としては、アルコキシシランが好ましい。上記アルコキシ基におけるアルキル基は、炭素数1?5のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。 シランカップリング剤中の加水分解性基の数が2または3個である場合、シランカップリング剤は、さらに、反応性官能基を有することが好ましい。 上記反応性官能基としては、一般的にシランカップリング剤にてSi原子に結合する有機基が有する官能基として用いられているものの中から、セルロースナノファイバー表面や基材表面に存在する官能基(カルボキシ基、水酸基等)と反応して化学結合(共有結合)を形成し得るもの、又は相互作用(水素結合)し得るものを適宜選択できる。具体例として、たとえばビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、塩素原子、イソシアネート基等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基が好ましく、特にアミノ基が好ましい。 これらの反応性化合物、特にアルコキシ基、シラノール基を有する化合物を用いて被膜の各性能、特に、膜強度、耐水性、耐湿性、または基材との密着性向上の効果を高める場合、いかに均一に混合するかが重要になる。特に本発明の微細セルロース繊維分散液は、その粘度の低さや、アルコールと混合することができる点、ナトリウムなどの金属イオンがなく、これらの反応性の凝集や不均一な反応を抑えることができるため、好ましい。 さらに、添加剤として、無機層状化合物を添加して使用してもよい。無機層状化合物とは、層状構造を有する結晶性の無機化合物をいい、例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等に代表される粘土鉱物をあげることができる。無機層状化合物である限り、その種類、合成または天然由来、産地、粒径、アスペクト比等は、その要求特性に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。一般的には、スメクタイト族の無機層状化合物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等をあげることができ、これらの中でも、塗液中の安定性や、塗工性等の点から好ましいものとしてモンモリロナイトをあげることができる。無機層状化合物の添加は、特にガスバリア性の向上に効果がある。 【0062】 また、得られた微細セルロース繊維は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂と混合して複合組成物とすることができる。さらに、その複合組成物を用いて、均一かつ透明な複合材料を形成することができる。複合組成物は、得られる複合材料の機械的強度向上、低線膨張率化、高弾性率化に効果がある。 特に、水系の上記樹脂を用いて複合組成物を形成する場合、より均一な組成物となり、成形物中の繊維分散性も高く、上記の効果も高い。また、エマルジョン系の上記の樹脂を用いて複合組成物を形成する場合、乾燥エネルギーが低く押さえられる上、エマルジョンの分散性や安定性も高く、再凝集・沈殿などが起こらず、かつ多様な樹脂との複合化が可能となる。 複合組成物は、微細セルロース繊維と樹脂のほかに、必要に応じて、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、分散剤、発泡剤、充填剤などの各種添加剤等を含んでもよい。 複合組成物を用いて形成される複合材料としては、塗料、インキ、透明基材、フィルム基材、成形体、容器、筐体、電子部材などが挙げられる。その中でも、複合組成物を用いて形成される複合材料としては、複合組成物を用いることによる機械的強度向上、低線膨張率化、高弾性率化の点から、透明基材としての用途が好ましい。 【0063】 本発明の微細セルロース繊維分散液は、水系樹脂のほか無溶剤や溶剤系樹脂に添加しても凝集や沈殿を生じることなく均一に分散し複合化することが可能である。 【0064】 次に、本発明に係る微細セルロース繊維分散液を用いて形成されるセルロースフィルム、積層体について説明する。 【0065】 (セルロースフィルム) 本発明の微細セルロース繊維分散液は、キャスト法または基材上にコーティング、押出しにより製膜した後、乾燥させ剥離するなどの方法により、セルロースフィルムの自立膜を形成するための材料として用いることが可能である。本発明の微細セルロース繊維分散液は、有機アルカリを用いているため、微細セルロース繊維分散液の粘度を低下させ、固形分濃度が2%以上に上げることができる。これにより、高濃度の微細セルロース繊維分散液を用いることができるため、厚膜のフィルム基材も容易に形成することができる。 【0066】 この際、乾燥エネルギーを低下させるという点で、微細セルロース繊維分散液が前述の水と水溶性有機溶剤との混合溶剤を含むと好適である。このとき用いられる水溶性有機溶剤は、特にコストや沸点の面から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、などの低分子量アルコールやアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、が好ましい。形成されたセルロースフィルムは、燃料電池の絶縁膜や電解質膜、表示部材への応用が期待できる。 【0067】 さらに、微細セルロース繊維分散液が、水とアルコールとの混合溶剤を含む場合、乾燥後の塗膜に分散媒が残りにくく緻密な膜が形成できるため、フィルムの機械的強度と耐水性を向上させることができる。 【0068】 (積層体) また、微細セルロース繊維分散液は、例えば、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、エアナイフコート法、バーコート法、メイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法など公知の塗工方法によって基材上に塗工し、積層体とすることができる。 【0069】 基材としては、特に限定されず、一般的に使用されている種々のシート状の基材(フィルム状のものを含む)の中から、用途に応じて適宜選択して使用することができる。このような基材の材質としては、例えば、紙、板紙、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネート等の生分解性プラスチック、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、これらの高分子を構成するモノマーのいずれか2種以上の共重合体等が挙げられる。基材は、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を含有してもよい。 ここで、基材として、特に、紙やポリ乳酸、ポリブチルサクシネート等の生分解性プラスチック、バイオポリエチレン等、バイオマス由来材料からできた基材を用いると、環境負荷の少ない天然物由来材料である微細セルロース繊維の利点を最大限に生かすことができるため、好ましい。 【0070】 基材は、表面に、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理等の表面処理が施されていてもよい。表面処理を施すことで、表面に積層される層(微細セルロース繊維分散液を有する層)との濡れ性や密着性がさらに向上する。これらの表面処理は公知の方法により実施できる。 【0071】 基材の厚さは、積層体の用途に応じて適宜設定できる。例えば、包装材料として用いられる場合、通常、10μm以上200μm以下の範囲内であり、10μm以上100μm以下が好ましい。 【0072】 微細セルロース繊維分散液の塗膜をオーブン等によって乾燥させることにより、基材上に微細セルロース繊維の被膜が形成できる。この際、塗膜の表面張力を低下させて、塗工の際のはじきを抑えて濡れ性を向上させるため、かつ乾燥エネルギーを低下させるため、微細セルロース繊維分散液が、水とアルコールなどの混合溶剤であると好適である。また、上記と同様の理由により、塗膜の機械的強度やガスバリア性も向上させることができる。アルコールは、上記の様な低分子量アルコールが好ましい。 【0073】 また、微細セルロース繊維分散液は、微細セルロース繊維と有機溶剤を含む接着用、アンカーコート用、又はプライマー用組成物として用いることができる。特に、微細セルロース繊維分散液は、ポリ乳酸等の基材上に塗工することにより使用し、基材への塗工性に優れ、密着性も高いバイオマス由来の膜を形成するものである。 例えば、アンダーコート層(第一被膜層)として微細セルロース繊維分散液の膜を形成した後、後述するガスバリア性材料やインク等の機能性材料からなる機能性材料層(第二被膜層)を積層して積層体とすることで、基材との密着性の高い機能性積層体を提供することができる。機能性材料層は、微細セルロース繊維の膜上に、上述した公知の塗工方法や印刷方法により形成することができる。 特に、機能性材料層が微細セルロース繊維を含む塗液からなる場合、微細セルロース繊維分散液からなるアンダーコート層と親和性が高く、はじきを抑え、密着性よく形成することが可能となる。 【0074】 さらに、必要に応じて、上述のセルロースフィルムや積層体に、さらに、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層、印刷層、接着層、帯電防止層、反射防止層、防眩層、偏光層、位相差層、傷防止や防汚のための保護層、蒸着層、酸素等のガスバリア層、水蒸気バリア層、薬剤バリア層、吸着層、触媒層などの各種機能性材料層を設けてもよい。 【0075】 上記機能性材料層のうち、蒸着層は、特にガスバリア性の向上に効果がある。 蒸着層を構成する無機化合物としては、特に限定されず、従来、ガスバリア材等において蒸着膜を形成するために用いられているものが利用できる。具体例として、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化スズ等の無機酸化物が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。 【0076】 蒸着層の厚さは、用いられる無機化合物の種類・構成により最適条件が異なるが、一般的には数nm?500nmの範囲内、好ましくは5?300nmの範囲内で、所望のガスバリア性等を考慮して適宜選択される。この蒸着層の厚さが薄すぎると蒸着膜の連続性が維持されず、反対に厚すぎると可撓性が低下し、クラックが発生しやすくなって、蒸着層のガスバリア性が充分に発揮されないおそれがある。 蒸着層は、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)等の公知の方法により形成できるほか、基材として、蒸着層が形成された市販のフィルム又はシートを用いることもできる。 【0077】 また、上記機能性材料層のうち、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層は、ヒートシールによる加工、密封等が可能であることから、包装材料として有用である。熱溶着可能な熱可塑性樹脂層としては、例えば、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)等のポリプロピレンフィルム、低密度ポリエチレンフィルム(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE)等のポリエチレンフィルム等が挙げられる。 熱可塑性樹脂層は、通常、押し出し成形によって、又は接着剤層を介して、セルロースフィルムや積層体上に積層される。 【実施例】 【0078】 以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。 【0079】 (酸化セルロースの調製) セルロースとして汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。 セルロース30g(絶乾質量換算)を蒸留水600gに加え撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。ここに蒸留水1200gと、予め蒸留水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、臭化ナトリウム3gの溶液を加え、2mol/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液86gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に20℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5NのNaOH水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。そして、3時間反応させた時点で、エタノール30gを添加し、反応を停止した。続いて反応液に0.5NのHClを滴下しpHを1.8まで低下させた。ナイロンメッシュを用いてこの反応液をろ過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分濃度7%の水を含有した酸化セルロースを得た。 【0080】 (官能基の導入量の測定) 絶乾質量換算で0.2gの湿潤酸化セルロースをビーカーに量りとり、蒸留水を加えて60gとした。0.1MのNaCl水溶液を0.5mL加え、0.5Mの塩酸でpHを1.8とした後、0.5MのNaOH水溶液を滴下して伝導度測定を行った。測定は、pHが11程度になるまで続けた。弱酸の中和段階に相当する部分がカルボキシル基の含有量となるので、得られた伝導度曲線からNaOHの添加量を読み取ると、カルボキシル基の含有量は、1.6mmol/gであった。 【0081】 次に、絶乾質量換算で2g湿潤酸化セルロースに、0.5Mの酢酸20mLと蒸留水60mLと亜塩素酸ナトリウム1.8gを加え、pH4に調整し48時間反応させた。この後、上記と同様の手法でカルボキシル基の含有量を測定したところ、1.8mmol/gであった。これより、アルデヒド基の含有量は、0.2mmol/gと算出できた。 【0082】 <実施例1> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水を加え400gの酸化セルロース懸濁液とした。10wt%水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH、関東化学社製)を用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0083】 <実施例2> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)にエタノール(EtOH)199gと蒸留水を加え、全体で400gの酸化セルロース懸濁液とした。10wt%水酸化テトラエチルアンモニウムを用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0084】 <比較例1> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水を加え400gの酸化セルロース懸濁液とした。水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0085】 <比較例2> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)にエタノール199gと蒸留水を加え、全体で400gの酸化セルロース懸濁液とした。水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて60分間処理した。 【0086】 (微細セルロース繊維分散液の透過率測定) 実施例1、2および比較例1、2の微細セルロース繊維分散液の透明性を、分光光度計にて660nmの透過率測定を行うことで比較した。 【0087】 (セルロースフィルム) 実施例1、2および比較例1、2の微細セルロース繊維分散液を、角型プラスチック容器に流し込み、50℃で一晩乾燥させ、続いて120度で1時間乾燥させることによりセルロースフィルムを得た。 【0088】 (ナトリウムイオン含有量の測定) X線マイクロアナライザーを用いたEPMA法により、セルロースフィルム中のナトリウムイオン量を測定した。 【0089】 (膨潤性試験) セルロースフィルムを蒸留水に1分間浸漬し、浸漬前後での重量を比較することにより、セルロースフィルムの膨潤性試験(N=2)を行った。 【0090】 実施例1、2および比較例1、2の微細セルロース繊維分散液の透過率、およびセルロースフィルムのナトリウムイオン含有量と膨潤性試験の結果を表1に示す。 【0091】 【表1】 【0092】 実施例1、2および比較例1の微細セルロース繊維分散液は透過率70%以上であったのに対し、比較例2の微細セルロース繊維分散液は、ほとんど分散せず白濁したままであった。 有機アルカリを用いて分散処理を行った実施例1、2のセルロースフィルムはナトリウムイオンが検出されなかった。 【0093】 実施例1および2のセルロースフィルムは比較例のセルロースフィルムに対し、水に対して膨潤しにくく、耐水性に優れていた。特に、分散媒としてエタノールを混合した実施例2は、膨潤時の重量変化をより小さく抑えることができた。 【0094】 <実施例3> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH、関東化学社製)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0095】 <実施例4> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラエチルアンモニウムを加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0096】 <実施例5> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)に蒸留水と、0.4mol/l水酸化テトラn-ブチルアンモニウム(TBAH、関東化学社製)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0097】 <実施例6> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース114.29g(固形分8g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラエチルアンモニウムを加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0098】 <実施例7> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)にエタノール199gと蒸留水と、10wt%水酸化テトラエチルアンモニウムを加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0099】 <比較例3> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)に蒸留水と、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0100】 <比較例4> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース114.29g(固形分8g)に蒸留水と、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0101】 <比較例5> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース28.57g(固形分2g)にエタノール199gと蒸留水と、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。 【0102】 (微細セルロース繊維分散液の透過率測定) 実施例3?7および比較例3?5の微細セルロース繊維分散液の透明性を、分光光度計にて660nmの透過率測定を行うことで比較した。 【0103】 (微細セルロース繊維分散液の粘度測定) 実施例3?7および比較例3?5の微細セルロース繊維分散液のせん断粘度を、レオメータ(HAAKE社 MARS)にて傾斜角1°、コーン直径35mmのコーンプレートを用いて測定した。測定部を23℃に温調し、せん断速度0.01?100s^(-1)について連続的にせん断粘度を測定し、せん断速度1s^(-1)のときの値を求めた。また、実施例3?5および比較例3の微細セルロース繊維分散液のせん断速度1s^(-1)のときとせん断速度10s^(-1)の時のせん断粘度の比η1s^(-1)/η10s^(-1)よりTI値を求めた。 【0104】 (微細セルロース繊維分散液の接触角測定) 実施例3?7および比較例3?5の微細セルロース繊維分散液の、PETフィルム基材(12μm厚、コロナ処理面)に対する接触角を、自動接触角計(協和界面科学 CA-V)にて測定した。測定は液滴法にて行い、着滴から20秒後の接触角を測定した。 【0105】 (セルロースフィルム) 実施例3?7および比較例3?5の微細セルロース繊維分散液を、角型プラスチック容器に流し込み、50℃で一晩乾燥させ、続いて120度で1時間乾燥させることによりセルロースフィルムを得た。 【0106】 (ナトリウムイオン含有量の測定) X線マイクロアナライザーを用いたEPMA法により、セルロースフィルム中のナトリウムイオン量を測定した。 【0107】 実施例3?7および比較例3?5の微細セルロース繊維分散液の透過率、せん断粘度、TI値、接触角、およびセルロースフィルムのナトリウム含有量を表2に示す。 【0108】 【表2】 【0109】 実施例3?7の微細セルロース繊維分散液は比較例3?5の微細セルロース繊維分散液に対し高い透過率であった。一方、比較例4、5の微細セルロース繊維分散液は、十分に分散せず白濁したままであった。また、有機アルカリにより調製した微細セルロース繊維分散液は、微細セルロース繊維分散液の粘度とチキソ性が低下した。分散媒にアルコールを用いると、基材に対する接触角が小さくなり、濡れ性が向上した。さらに、有機アルカリを用いて分散処理を行った実施例3?7のセルロースフィルムはナトリウムイオンが検出されなかった。 【0110】 次に、実施例8?11および比較例6?9について説明する。 【0111】 (酸化セルロースの調製) セルロースとして汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。 セルロース60g(絶乾質量換算)を蒸留水1000gに加え撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。ここに蒸留水2200gと、予め蒸留水400gに溶解させたTEMPOを0.6g、臭化ナトリウム6gの溶液を加え、2mol/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液172gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に30℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5NのNaOH水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。NaOH水溶液の添加量をモニタリングをしながら反応を続け、4時間反応させた時点で、エタノール60gを添加し、反応を停止した。続いて反応液に0.5NのHClを滴下しpHを1.8まで低下させた。ナイロンメッシュを用いてこの反応液をろ過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分濃度7%の水を含有した酸化セルロースを得た。 【0112】 (官能基の導入量の測定) 絶乾質量換算で0.2gの湿潤酸化セルロースをビーカーに量りとり、蒸留水を加えて60gとした。0.1MのNaCl水溶液を0.5mL加え、0.5Mの塩酸でpHを1.8とした後、0.5MのNaOH水溶液を滴下して伝導度測定を行った。測定は、pHが11程度になるまで続けた。弱酸の中和段階に相当する部分がカルボキシル基の含有量となるので、得られた伝導度曲線からNaOHの添加量を読み取ると、カルボキシル基の含有量は、2.0mmol/gであった。 【0113】 次に、絶乾質量換算で2g湿潤酸化セルロースに、0.5Mの酢酸20mLと蒸留水60mLと亜塩素酸ナトリウム1.8gを加え、pH4に調整し48時間反応させた。この後、上記と同様の手法でカルボキシル基の含有量を測定したところ、2.1mmol/gであった。これより、アルデヒド基の含有量は、0.1mmol/gと算出できた。 【0114】 <実施例8> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH、関東化学社製)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへメタノール9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0115】 <実施例9> 実施例8で用いたメタノールをエタノールに変更したほかは、実施例8と同様にして微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0116】 <実施例10> 実施例8で用いたメタノールを2-プロパノール(IPA)に変更したほかは、実施例8と同様にして微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0117】 <実施例11> 実施例8で用いたメタノールをアセトンに変更したほかは、実施例8と同様にして微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0118】 <比較例6> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、0.5N水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへメタノール9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0119】 <比較例7> 比較例6で用いたメタノールをエタノールに変更したほかは、比較例6と同様にして微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0120】 <比較例8> 比較例6で用いたメタノールを2-プロパノール(IPA)に変更したほかは、比較例6と同様にして微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0121】 <比較例9> 比較例6で用いたメタノールをアセトンに変更したほかは、比較例6と同様にして微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0122】 (微細セルロース繊維分散液の透過率測定) 実施例8?11および比較例6?9の微細セルロース繊維分散液の透明性を、分光光度計にて660nmの透過率測定を行うことで比較した。測定結果を表3に示す。 【0123】 【表3】 【0124】 実施例8?11の微細セルロース繊維分散液は、いずれの溶剤を添加しても目視上分散液の白濁や凝集が無く、透過率も低下しなかった。一方、比較例6?9の微細セルロース繊維分散液では、エタノール、2-プロパノール、アセトンを添加すると、目視上液が白濁し不均一となり、透過率も低下した。すなわち、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合、得られた微細セルロース繊維分散液に水溶性有機溶剤加えると、分散させた微細セルロース繊維が凝集し、微細セルロース繊維分散液の凝集白濁、不均一化を起こすことがわかった。 【0125】 次に、実施例12?15および比較例10、11について説明する。 【0126】 (酸化セルロースの調製) セルロースとして汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。 セルロース60g(絶乾質量換算)を蒸留水1000gに加え撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。ここに蒸留水2200gと、予め蒸留水400gに溶解させたTEMPOを0.6g、臭化ナトリウム6gの溶液を加え、2mol/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液172gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に20℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5NのNaOH水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。NaOH水溶液の添加量をモニタリングをしながら反応を続け、4時間反応させた時点で、エタノール60gを添加し、反応を停止した。続いて反応液に0.5NのHClを滴下しpHを1.8まで低下させた。ナイロンメッシュを用いてこの反応液をろ過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分濃度7%の水を含有した酸化セルロースを得た。 【0127】 (官能基の導入量の測定) 絶乾質量換算で0.2gの湿潤酸化セルロースをビーカーに量りとり、蒸留水を加えて60gとした。0.1MのNaCl水溶液を0.5mL加え、0.5Mの塩酸でpHを1.8とした後、0.5MのNaOH水溶液を滴下して伝導度測定を行った。測定は、pHが11程度になるまで続けた。弱酸の中和段階に相当する部分がカルボキシル基の含有量となるので、得られた伝導度曲線からNaOHの添加量を読み取ると、カルボキシル基の含有量は、2.0mmol/gであった。 【0128】 次に、絶乾質量換算で2g湿潤酸化セルロースに、0.5Mの酢酸20mLと蒸留水60mLと亜塩素酸ナトリウム1.8gを加え、pH4に調整し48時間反応させた。この後、上記と同様の手法でカルボキシル基の含有量を測定したところ、2.1mmol/gであった。これより、アルデヒド基の含有量は、0.1mmol/gと算出できた。 【0129】 <実施例12> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH、関東化学社製)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへアセトン9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0130】 <実施例13> 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラブチルホスホニウム(TBPH、関東化学社製)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへアセトン9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0131】 <実施例14> 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、0.1Nアンモニア水溶液を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへ水溶性ポリカルボジイミドSV-02(日清紡製)を0.1g添加した。アセトン9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0132】 <実施例15> 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、0.1Nアンモニア水溶液を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへエポクロスWS-500(日本触媒製)を0.05g添加した。アセトン9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0133】 (積層体の作製) 基材として、表面をプラズマ処理した膜厚25μmのポリ乳酸(PLA)フィルム用意した。基材のプラズマ処理面上に、得られた実施例12?15の微細セルロース繊維分散液を、バーコーターを用いて塗布した後、70℃で20分間乾燥処理することにより膜厚約200nmの膜(第一被膜層)を形成した。この第一被膜層をアンダーコート層とし、該第一被膜層上にガスバリア性材料をバーコーターにより塗工した。ガスバリア性材料としては、公知の微細セルロース繊維を含む塗液を用いた。塗工後、70℃で30分間乾燥することにより、膜厚約0.5μmのガスバリア層(第二の被膜層)を形成した。 さらに、ガスバリア層上にウレタンポリオール系接着剤を用いて、ドライラミネートにより膜厚70μmのポリプロピレン(PP)フィルムを貼り合わせることにより、微細セルロース繊維分散液により形成される第一被膜層と、ガスバリア性材料を有する第二被膜層を含む4層積層体を得た。 【0134】 <比較例10> (微細セルロース繊維分散液の調製) 上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、0.5N水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。得られた微細セルロース繊維分散液を10g量りとり、そこへアセトン9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細セルロース繊維分散液を調製した。 【0135】 (積層体の作製) 得られた微細セルロース繊維分散液を用いて、実施例12?15と同様に、微細セルロース繊維分散液により形成される第一被膜層と、ガスバリア性材料を有する第二被膜層を含む4層積層体を作製した。 【0136】 <比較例11> (積層体の作製) 基材として、表面をプラズマ処理した膜厚25μmのポリ乳酸(PLA)フィルム用意した。基材のプラズマ処理面上に、上記実施例12と同様のガスバリア性材料をバーコーターにより塗工し、70℃で30分間乾燥することにより、膜厚約0.5μmのガスバリア層を形成した。 さらに、ガスバリア層上にウレタンポリオール系接着剤を用いて、ドライラミネートにより膜厚70μmのポリプロピレン(PP)フィルムを貼り合わせることにより、ガスバリア層を含む3層の積層体を得た。 【0137】 <透過率測定> 実施例12?15および比較例10の微細セルロース繊維分散液の透明性を、分光光度計にて660nmの透過率測定を行うことで比較した。測定結果を表4に示す。 <ぬれ性の評価> 実施例12?15、比較例10の各積層体について、PLA基材上へ微細セルロース繊維分散液を塗工したときのぬれ性を、実施例12?15、比較例10、11の各積層体について、アンダーコート層上へガスバリア性材料を塗工したときのぬれ性を、それぞれ目視により評価した。評価結果を表4に示す。 【0138】 <密着性評価> 実施例12?15、比較例10の各積層体について、基材上の微細セルロース繊維分散液により形成された膜を、クロスカットガイド「CCJ-1」(コーテック社製)を用い、縦×横にそれぞれ10本×10本の碁盤目(間隔1mm、計100カット)に切り、その上にセロテープ(登録商標)(ニチバン社製「CT24」)を貼り付けて剥離試験を行った。剥離後、基材表面に、剥離せず残った残存碁盤目数(残った碁盤目の数/100)を数えた。評価結果を表4に示す。 【0139】 <密着強度の測定> 実施例12?15、比較例10、11の各積層体を、幅15mm×長さ10cmの短冊状に切り抜き、試験片とした。該試験片について、JIS-K-7127に準拠して、引張り速度300mm/minでT字剥離を行って、基材とPPフィルムの間の密着強度(N/15mm)を測定した。測定結果を表4に示す。 【0140】 【表4】 【0141】 表4に示すように、実施例12?15は、微細セルロース繊維分散液と有機溶剤が均一に混合し、透明性の高い微細セルロース繊維分散液を調製することができた。そして、この微細セルロース繊維分散液によって基材上に形成されたアンダーコート層(第一被膜層)は、基材に対するぬれ性も高く、はじきの発生がなかった。また、基材に対するアンダーコート層の密着性の向上も確認された。さらに、ガスバリア性材料を含む機能性材料層(第二被膜層)も、アンダーコート層に対するぬれ性が高く、密着強度も高いため、塗工性の向上が確認された。 【0142】 一方、比較例10、11は、基材へのぬれ性が低く、均一な塗膜を形成することができなかった。このように、本発明の微細セルロース繊維分散液は、透過率、ぬれ性、密着性評価、密着強度に優れ、ガスバリア層、水蒸気バリア層等の各種機能性材料被膜として塗工性、密着性よく基材上に形成できることが実証された。したがって、本発明の微細セルロース繊維分散液の製造方法によって作製された微細セルロース繊維分散液を用いることで、基材との密着性が向上し、機械的に安定した積層体を提供することができる。 【0143】 なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、 前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液。 【請求項2】 前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項3】 前記微細セルロース繊維が、セルロースを、水系媒体中で、分散処理して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項4】 前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項5】 さらに、水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項6】 前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項5に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項7】 前記水溶性有機溶剤の量が、微細セルロース繊維分散液全体に対して0.1重量%以上であることを特徴とする請求項6に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項8】 さらに、反応性官能基を有する化合物からなる添加剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項9】 前記微細セルロース繊維のカルボキシル基の含有量が、0.1mmol/g以上2mmol/g以下である特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項10】 前記微細セルロース繊維の数平均繊維径が、0.003μm以上0.050μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の微細セルロース繊維分散液。 【請求項11】 請求項1?10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を乾燥して形成したことを特徴とするセルロースフィルム。 【請求項12】 請求項1?10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を、基材上の少なくとも片面に塗布して、被膜を形成したことを特徴とする積層体。 【請求項13】 前記被膜が、アンダーコート層であることを特徴とする請求項12に記載の積層体。 【請求項14】 セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、 前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、 を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項15】 前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項16】 前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項17】 前記水系媒体が、水溶性有機溶剤を含み、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 【請求項18】 前記分散工程の後、得られた微細セルロース繊維分散液に水溶性有機溶剤を加える調製工程を備え、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-02-16 |
出願番号 | 特願2012-504426(P2012-504426) |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L) P 1 651・ 113- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
前田 寛之 大島 祥吾 |
登録日 | 2015-06-26 |
登録番号 | 特許第5765331号(P5765331) |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | 微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、セルロースフィルムならびに積層体 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 鈴木 史朗 |
代理人 | 鈴木 史朗 |
代理人 | 伏見 俊介 |