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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1326974
異議申立番号 異議2016-700681  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-03 
確定日 2017-03-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5856299号発明「ポリエステル樹脂組成物及びそれを利用するポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5856299号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 請求項2についての申立てを却下する。 特許第5856299号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5856299号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2012年9月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月30日及び2012年9月25日、何れも(KR)韓国)を国際出願日として出願され、平成27年12月18日に特許権の設定登録がされ、平成28年2月9日にその特許公報が発行され、その後、同年8月3日に特許異議申立人東レ株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1?4に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 8月 3日付け 特許異議申立書
同 年 9月30日付け 取消理由通知
同 年12月20日付け 意見書・訂正請求書(特許権者)
平成29年 1月25日付け 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成28年12月20日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
その内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1が
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含むか又は含まず、
前記触媒がアンチモン化合物であり、
前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、
前記触媒内のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記静電ピンニング剤内のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、前記リン化合物内のリンの含量が24ppm以下であるポリエステル樹脂組成物。」
であるところ、訂正後の請求項1である
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含むか又は含まず、
前記触媒がアンチモン化合物であり、
前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、
前記触媒内のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記静電ピンニング剤内のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、前記リン化合物内のリンの含量が24ppm以下であり、
前記リン化合物を、下記式1を満たす範囲内で含む、ポリエステル樹脂組成物。
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、リン化合物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物内の金属の総当量を意味する。)」
と訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

2 訂正の適否

(1)訂正事項1及び2に係る請求項1?10からなる一群の請求項についての訂正について

ア 一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正事項1及び2に係る訂正前の、請求項1?10について、請求項2?5は請求項1を引用し、請求項6は請求項5を引用し、請求項7は請求項1?6を引用し、請求項8及び9は請求項7を引用し、請求項10は請求項8を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1及び訂正事項2によって削除される請求項2に連動して、訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
上記1の(1)の訂正事項1及び同(2)の訂正事項2は、上記一群の請求項がある特許請求の範囲について、当該一群の請求項である請求項1?10について訂正を請求するものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

イ 訂正の目的及び新規事項の追加の有無について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1において、ポリエステル樹脂組成物に含まれる、リン化合物内のリンの当量と、ピンニング剤として使われる金属化合物内の金属の総当量との比率の関係を、限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そして、この関係については、訂正前の請求項2に記載されていたから、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項を追加するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項及び同法同条第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項1及び2に係る訂正は、事実上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正後の発明の独立特許要件について

(ア)請求項1?4に係る特許については特許異議の申立てがされているので、請求項1?4については検討を要しない。

(イ)請求項5?10に係る特許については特許異議の申立てがされていない。そして、請求項5?10は、訂正事項1に係る訂正により請求項1が限定されるのに連動して同様に限定され、訂正事項1に係る訂正は、請求項5?10において、特許請求の範囲の減縮を目的としている。そこで、訂正後における特許請求の範囲の請求項5?10に記載されている事項により特定される発明が、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に適合するものであるかを検討する。
この点を検討したところ、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項5?10に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする新たな理由は見当たらない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおり、訂正事項1及び2は、何れも、特許法第120条の5第2項及び第4項の規定に適合するとともに、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。また、訂正事項1について、同法同条第9項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項1?10に係る本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2の項で示したように、平成28年12月20日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項1、3、4に係る発明は、本件の訂正特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1、3、4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明4」という。)。また、削除された請求項2については、「【請求項2】(削除)」として併せて示す。
「【請求項1】触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含むか又は含まず、
前記触媒がアンチモン化合物であり、
前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、
前記触媒内のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記静電ピンニング剤内のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、前記リン化合物内のリンの含量が24ppm以下であり、
前記リン化合物を、下記式1を満たす範囲内で含む、ポリエステル樹脂組成物。
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、リン化合物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物内の金属の総当量を意味する。)
【請求項2】(削除)
【請求項3】前記静電ピンニング剤が、酢酸マグネシウムであるか、酢酸マグネシウムと酢酸ナトリウムとの組み合わせである請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】前記ポリエステル樹脂組成物は、補助難燃剤、顔料、染料、ガラス繊維、充填剤、耐熱剤、衝撃補助剤、蛍光増白剤、色相改善剤から選択されるいずれか一つ又は二つ以上の添加剤をさらに含む請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。」

第4 取消理由

1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
訂正前の請求項1?4に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2008-231442号公報
甲第2号証:特開2011-26484号公報
(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)

(2)特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
訂正前の請求項1に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
訂正前の請求項2に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
訂正前の請求項3に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
訂正前の請求項4に係る発明は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2008-231442号公報
甲第2号証:特開2011-26484号公報
甲第3号証:特開昭59-64628号公報
(以下、上記(1)と同じく、それぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」という。)

2 平成28年9月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由
訂正前の請求項1及び3に係る発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、訂正前の請求項1及び3に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2010-18781号公報(原審における引用文献1)

第5 当審の判断

1 上記第2及び第3に示したとおり、請求項2は訂正請求により削除されたので、請求項2についての申立てを却下する。

2 平成28年9月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由について
平成28年9月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由は、訂正前の請求項1及び3に係る発明について、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないことを理由としていた。訂正前の請求項2及び4に係る発明については取消理由を通知していない。そして、本件発明1は、訂正前の請求項1に係る発明が訂正前の請求項2に記載されていた事項により限定されたものである。また、本件発明3は、本件発明1を引用するものであるので、結果として、訂正前の請求項3に係る発明が訂正前の請求項2に記載されていた事項により限定されたものである。したがって、本件発明1及び3は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1及び3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、平成28年9月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由によって取り消されるべきものではない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由について

(1)理由1について

ア 甲号各証の記載

(ア)甲1
(1a)「【請求項1】芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であり、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Sb/P)が、5.6?30であり、かつポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子(P)としての含有量が、0.1?20重量ppmであることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】ポリエステル樹脂がマグネシウム化合物の共存下に重縮合され、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が、0.1?100重量ppmである請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1?3.0である請求項2に記載のポリエステル樹脂。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項5】芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であり、ポリエステル樹脂がマグネシウム化合物の共存下に重縮合され、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が0.1?100重量ppmあり、かつポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1?3.0であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項6】ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存下に重縮合され、ポリエステル樹脂中のチタン成分のチタン原子(Ti)としての含有量が、0.25?10重量ppmである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。」(特許請求の範囲の請求項1?3、5?7)
(1b)「【0001】本発明は、アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂に関し、更に詳しくは、重縮合後の後処理工程、及び繊維加工後の染色工程等の、水や溶剤等との接触時におけるアンチモンの溶出量が抑制されたポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】従来より、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、衛生性等に優れ、又、比較的安価で軽量であるために、容器やフィルム等の各種包装資材、或いは繊維等として広く用いられており、主としてアンチモン化合物を重縮合触媒として製造されているが、樹脂中に残存したアンチモン成分が、例えば、重縮合後の冷却等の水と接触する工程、或いは、繊維加工後の染色等の溶剤と接触する工程等において、溶出して環境汚染を引き起こす等の問題が懸念されている。
【0003】一方、重縮合触媒としてアンチモン化合物に代えてチタン化合物を用いるとか、或いはチタン化合物を併用する等により製造されたポリエステル樹脂が種々提案されているが、いずれも、色調が低下するとか、アセトアルデヒドやジエチレングリコール等の副生成物が増加して溶融熱安定性が低下する等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】本発明は、前述の従来技術に鑑みてなされたもので、アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂であって、アンチモンの溶出量が抑制され、且つ、色調も良好で、副生成物の発生も低減化されたポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
更に、本発明は、かかるポリエステル樹脂の製造方法を提供することを目的とする。」
(1c)「【0005】本発明は、前記目的を達成すべくなされたものであって、次の[1]?[12]、を要旨とする。・・・
【0006】[10]芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを重縮合させることによるポリエステル樹脂の製造方法であって、下記の重合触媒由来の各原子を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
0<T≦50(重量ppm)
10≦Sb≦250(重量ppm)
0.1≦P≦20(重量ppm)
6.0≦Sb/P≦30
(上式において、Tは樹脂中のチタン原子、ハフニウム原子及び、ジルコニウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子の濃度の合計(ppm)、Sbは樹脂中のアンチモン原子濃度(ppm)、Pは樹脂中のリン原子濃度(ppm))
[11]下記の重合触媒由来の各原子を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とする[10]に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
0.1≦M≦200(重量ppm)
1.1≦M/P≦15
(Mは樹脂中のIA族金属原子、IIA族金属原子、マンガン原子、鉄原子及び、コバルト原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子の合計含有量(ppm))」
(1d)「【0007】本発明によれば、アンチモン化合物の存在下に重縮合されたポリエステル樹脂であって、アンチモンの溶出量が抑制され、且つ、色調も良好で、副生成物の発生も低減化されたポリエステル樹脂を提供することができる。
又、本発明のポリエステル樹脂の製造方法によれば、上記ポリエステル樹脂を重合性、生産性良く製造することができる。」
(1e)「【0009】本発明において、その芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては・・・テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、或いはそれらのアルキルエステルが好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。」
(1f)「【0014】そして、本発明においては、その重縮合は少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下になされたものであり、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には少なくともアンチモン成分及び燐成分が含有される。
【0015】ここで、そのアンチモン化合物としては、具体的には、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン、トリフェニルアンチモン、アンチモングリコレート等が挙げられ、中で、三酸化アンチモンが好ましい。
【0016】又、その燐化合物としては、具体的には、例えば、正燐酸、ポリ燐酸、及び、それらのエステル類、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等、の5価の燐化合物、次亜燐酸、亜燐酸、及び、それらのエステル類、例えば、ジメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト等、並びに、それらのリチウム、ナトリウム、或いはカリウム等の金属塩類等、の3価の燐化合物等が挙げられ、中で、エチルアシッドホスフェート等の正燐酸エステル類等の5価の燐化合物、次亜燐酸、亜燐酸、及び、ジエチルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の亜燐酸エステル類等の3価の燐化合物が好ましく、亜燐酸、及び亜燐酸エステル類等の3価の燐化合物が特に好ましい。
【0017】本発明において、前記アンチモン化合物、及び前記燐化合物の重縮合時の各使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における各含有量は、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmであるのが好ましく、30?150重量ppmであるのが更に好ましく、50?110重量ppmであるのが特に好ましい。アンチモン原子としての含有量が前記範囲未満では、重縮合性が不足して生産性の低下を招くと共に、色調も低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる。
【0018】又、ポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子(P)としての含有量が、0.1?20重量ppmであるのが好ましく、1.0?15重量ppmであるのが更に好ましく、2.0?10重量ppmであるのが特に好ましい。燐原子としての含有量が前記範囲未満では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる。
【0019】又、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Sb/P)が、6.0?30であるのが好ましく、8.0?20であるのが更に好ましく、9.0?15であるのが特に好ましい。アンチモン原子としての含有量と燐原子としての含有量との比が前記範囲未満では、重縮合性が不足して生産性の低下を招くと共に、色調も低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる。
【0020】又、重縮合は、周期律表第1A族、同第IIA族、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素の化合物の共存下になされたものであるのが好ましく、それに伴い本発明のポリエステル樹脂には、その周期律表第1A族、同第IIA族、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有されるのが好ましい。
【0021】そして、本発明において、これらの金属化合物の重縮合時の合計使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における合計含有量は、ポリエステル樹脂中のそれらの金属元素成分の金属原子(M)としての合計含有量が0.1?100重量ppmであるのが好ましい。
【0022】前記の共存金属化合物としては、例えば、周期律表第1A族のリチウム、ナトリウム、カリウム等、同第IIA族のベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等、及び、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトの、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0023】これらの共存金属化合物の中で、本発明においては、周期律表第1A族、同第IIA族の金属化合物、就中、同第IIA族のマグネシウム化合物が好ましく、そのマグネシウム化合物としては、具体的には、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、中で、酢酸マグネシウムが好ましい。
【0024】又、マグネシウム化合物の重縮合時の使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における含有量は、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が、0.1?30重量ppmであるのが好ましく、1.0?20重量ppmであるのが更に好ましく、3.0?15重量ppmであるのが特に好ましい。マグネシウム原子としての含有量が前記範囲未満では、溶出量を抑制することが困難な傾向となり、一方、前記範囲超過では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となる。
【0025】又、共存金属化合物がマグネシウム化合物である場合、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1?3.0であるのが好ましく、1.3?2.5重量ppmであるのが更に好ましく、1.5?2.0であるのが特に好ましい。マグネシウム原子としての含有量と燐原子としての含有量との比が前記範囲未満では、溶出量を抑制することが困難な傾向となり、一方、前記範囲超過では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となる。
【0026】又、これらの共存金属化合物の中で、チタン化合物も好ましく、特に周期律表第1A族、同第IIA族の金属化合物、就中、同第IIA族の前記マグネシウム化合物との併用が好ましく、そのチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートテトラマー、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、チタンアセチルアセトナート、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸-水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン-塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等が挙げられ、中で、テトラ-n-プロピルチタネート、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
【0027】又、チタン化合物の重縮合時の使用量、及びそれに伴うポリエステル樹脂における含有量は、ポリエステル樹脂中のチタン成分のチタン原子(Ti)としての含有量が、0.25?10重量ppmであるのが好ましく、0.75?5.0重量ppmであるのが更に好ましく、1.5?4.0重量ppmであるのが特に好ましい。チタン原子としての含有量が前記範囲未満では、溶出量の抑制の程度が低下する傾向となり、一方、前記範囲超過では、色調が低下し、副生成物も増加する傾向となる。
【0028】尚、その他の共存金属化合物としては、代表的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の周期律表第1A族の金属の化合物、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等の周期律表第IIA族の金属の化合物、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、亜鉛メトキサイド、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛等の亜鉛化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、蓚酸ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酸化マンガン、水酸化マンガン、マンガンメトキサイド、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、塩化マンガン等のマンガン化合物、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、安息香酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、蓚酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等のコバルト化合物等が挙げられる。」
(1g)「【0029】本発明のポリエステル樹脂は、前記芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化又はエステル交換反応を経て、少なくとも前記アンチモン化合物と前記燐化合物の存在下、好ましくは前記金属化合物、就中、マグネシウム化合物、及び/又は、チタン化合物の共存下に重縮合させることにより製造されるが、基本的には、ポリエステル樹脂の慣用の製造方法による。即ち、前記芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、必要に応じて用いられる共重合成分等と共に、スラリー調製槽に投入して攪拌下に混合して原料スラリーとなし、エステル化反応槽で常圧?加圧下、加熱下で、エステル化反応させ、或いは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物或いはエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、前記化合物の存在下に、常圧から漸次減圧としての減圧下、加熱下で、溶融重縮合させることにより製造される。
【0030】アンチモンの溶出量が特定範囲の本発明のポリエステル樹脂を得ることが出来る製造方法は特に限定されないが、アンチモン、リン等の原子を、得られるポリエステル樹脂に対して前述の如き特定範囲、特定量比で添加することが挙げられ、よって本発明は、そのようなポリエステル樹脂の製造方法にも関する。
すなわち、本発明のポリエステル樹脂を製造するための好適な方法としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを重縮合させることによるポリエステル樹脂の製造方法であって、重合触媒由来の各原子を得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように、触媒を反応系に添加することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法があげられる。
0<T≦50ppm
10≦Sb≦250ppm
0.1≦P≦20ppm
6.0≦Sb/P≦30
(上式において、Tは樹脂中のチタン原子、ハフニウム原子及びジルコニウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子または複数の濃度の合計(ppm)、Sbは樹脂中のアンチモン原子濃度(ppm)、Pは樹脂中のリン原子濃度(ppm))
尚、ppmは特に断りのない限り、重量ppmを意味する。
【0031】更に、該製造方法におけるジカルボン酸成分、ジオール成分、T、Sb、Pなどの好ましい範囲は、本発明のポリエステル樹脂の成分について前述されるものである。
また、上記本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、好ましくは、上記重合触媒に加えて、更に下記の重合触媒を、得られるポリエステル樹脂に対して、下記濃度範囲で含有するように触媒を反応系に添加する。
0.1≦M≦200ppm
1.1≦M/P≦15
(Mは樹脂中のIA族金属原子、IIA族金属原子、マンガン原子、鉄原子及び、コバルト原子から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属原子の合計の含有量(ppm))
該製造方法における、M、Pなどの好ましい範囲は、本発明のポリエステル樹脂の成分について前述されるものである。」
(1h)「【0046】又、本発明において、ポリエステル樹脂には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、核剤、可塑剤、着色剤、充填材等が含有されていてもよい。」
(1i)「【0047】本発明のポリエステル樹脂は、例えば、射出成形によってプリフォームに成形された後、延伸ブロー成形することによって、或いは、押出成形によって成形されたパリソンをブロー成形することによって、ボトル等に成形され、又、押出成形によってシートに成形された後、熱成形することによってトレイや容器等に成形され、或いは、該シートを二軸延伸してフィルム等とされ、又、繊維状に成形されて各種繊維加工体とされる。」
(1j)「【0048】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】実施例1
スラリー調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で865:485の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートの0.3重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対して燐原子(P)としての含有量が9.0重量ppmとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力50kPa(0.5kg/cm^(2)G)、平均滞留時間4時間に設定された第1段目のエステル化反応槽、次いで、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力5kPa(0.05kg/cm^(2)G)、平均滞留時間1.5時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、エステル化反応させた。そのとき、以下に示す方法により測定した平均エステル化率は、第1段目においては85%、第2段目においては95%であった。
【0050】<平均エステル化率> ・・・
【0051】又、その際、第2段目に設けた上部配管を通じて、酢酸マグネシウム4水和物の0.6重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してマグネシウム原子(Mg)としての含有量が15重量ppmとなる量、及び、三酸化アンチモンの1.9重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してアンチモン原子(Sb)としての含有量が90重量ppmとなる量で連続的に添加した。
【0052】引き続いて、前記で得られたエステル化反応生成物を溶融重縮合槽に移送する際、その移送配管に、テトラブチルチタネートの0.2重量%エチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してチタン原子(Ti)としての含有量が2.0重量ppmとなる量で連続的に添加しつつ、270℃、絶対圧力2.6kPa(20Torr)、平均滞留時間1.2時間に設定された第1段目の溶融重縮合槽、次いで、278℃、絶対圧力0.5kPa(4Torr)、平均滞留時間1.2時間に設定された第2段目の溶融重縮合槽、次いで、280℃、絶対圧力0.3kPa(2Torr)、平均滞留時間1.2時間に設定された第3段目の溶融重縮合槽に連続的に移送して、溶融重縮合させ、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断して、数平均粒重が24mgのチップ状粒状体としたポリエステル樹脂を製造した。得られた樹脂の固有粘度は0.60dl/gであった。
【0053】引き続いて、前記で得られたポリエステル樹脂チップを、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下で205℃で加熱することにより固相重縮合させた。
【0054】得られた固相重縮合樹脂チップについて、95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0055】<アンチモンの溶出量>
数平均粒重24mgとしたポリエステル樹脂粒状体50gを、120℃で10時間加熱して結晶化させた後、95℃の熱水150g中に60分間浸漬し、そのとき水中に抽出されたアンチモンを、アンチモン原子濃度C(ppb)として誘導結合プラズマ質量分析装置(ヒューレットパッカード社製「HP4500」)を用いて測定し、下記式により、ポリエステル樹脂1g当たりのアンチモン原子としての溶出量D(μg)を算出した。
D(μg)=(C/10^(9)) ×(150/50)×10^(6)
【0056】又、得られた固相重縮合樹脂チップについて、燐成分、マグネシウム成分、アンチモン成分、及びチタン成分の各燐原子(P)、マグネシウム原子(Mg)、アンチモン原子(Sb)、及びチタン原子(Ti)としての含有量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0057】<金属原子含有量>
樹脂試料2.5gを、硫酸存在下に過酸化水素で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて50mlに定容したものについて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製「JY46P型」)を用いて、プラズマ発光分光分析法により定量した。
【0058】更に、得られた固相重縮合樹脂チップについて、ジエチレングリコール共重合量、固有粘度、色調としての色座標b値、及びアセトアルデヒド含有量を以下に示す方法で測定し、結果を表1に示した。
【0059】<ジエチレングリコール共重合量> ・・・
【0060】<固有粘度> ・・・
【0061】<色座標b値> ・・・
【0062】<アセトアルデヒド含有量> ・・・
【0063】更に、得られたポリエステル樹脂チップを真空乾燥機にて130℃で10時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「FE-80S」)にて、シリンダー温度280℃、背圧5×10^(5)Pa、射出率45cc/秒、保圧力30×10^(5)Pa、金型温度20℃、成形サイクル約40秒で、外径約29mm、高さ約165mm、平均肉厚約3.7mm、重量約60gの試験官状の予備成形体(プリフォーム)を射出成形した。得られた予備成形体を、石英ヒーターを備えた近赤外線照射炉内で70秒間加熱し、25秒間室温で放置した後、160℃に設定したブロー金型内に装入し、延伸ロッドで高さ方向に延伸しながら、ブロー圧力7×10^(5)Paで1秒間、更に30×10^(5)Paで40秒間ブロー成形し、ヒートセットし、空冷することにより、外径約95mm、高さ約305mm、胴部平均肉厚約0.37mm、重量約60g、内容積約1.5リットル、比表面積約0.7cm^(-1) のボトルを成形した。
【0064】得られたボトルについて、アンチモンの熱水溶出量、色調、及びアセトアルデヒド臭を、以下に示す方法で測定、評価し、結果を表1に示した。
【0065】<ボトルの熱水溶出量> ・・・
【0066】<ボトルの色調> ・・・
【0067】<ボトルのアセトアルデヒド臭> ・・・
【0068】実施例2?14
燐化合物として表1に示す化合物(但し、表1中、「EAP」はエチルアシッドホスフェートを、「H_(3)PO_(4)」は燐酸を、「H_(3)PO_(3)」は亜燐酸を、それぞれ示す。)を用い、生成ポリエステル樹脂に対して燐原子(P)としての含有量が表1に示す量となる量で添加し、又、生成ポリエステル樹脂に対して、マグネシウム原子(Mg)、アンチモン原子(Sb)、及びチタン原子(Ti)としての含有量が表1に示す量となる量で添加して、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0069】比較例1
燐化合物として燐酸の溶液を用い、第2段目のエステル化反応槽の上部配管を通じて添加したこと、酢酸マグネシウムの溶液を第1段目のエステル化反応槽の上部配管を通じて添加したこと、三酸化アンチモンの溶液とテトラブチルチタネートの溶液を第2段目のエステル化反応槽から第1段目の溶融重縮合槽への移送配管に添加したこと、及び、各化合物を、生成ポリエステル樹脂に対して各金属原子含有量が表1に示す量となる量で添加したこと、の外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0070】比較例2
テトラブチルチタネートを添加しなかったこと、三酸化アンチモンの溶液と酢酸マグネシウム4水和物の溶液を第2段目のエステル化反応槽から第1段目の溶融重縮合槽への移送配管に添加したこと、及び、各化合物を、生成ポリエステル樹脂に対して各金属原子含有量が表1に示す量となる量で添加したこと、の外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0071】比較例3
ジメチルテレフタレート100重量部とエチレングリコール70重量部とを、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1水塩及び酢酸マグネシウム4水塩を表1に示す各金属原子含有量となる量で用いて、常法に従ってエステル交換反応を開始させ、メタノールの留出開始より20分後、三酸化アンチモンを表1に示す金属原子含有量となる量で添加して、エステル交換反応を継続させた後、トリメチルホスフェートを表1に示す金属原子含有量となる量で添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。引き続き、更にテトラブチルチタネートを表1に示す金属原子含有量となる量で添加した後、高温高真空下で常法に従って重縮合させることによりポリエステル樹脂を製造し、得られたポリエステル樹脂について、実施例1と同様にして測定、評価し、結果を表1に示した。
【0072】

【0073】



(イ)甲2
(2a)「【請求項1】重縮合触媒とマグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を含むポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムの275℃での溶融比抵抗が0.15?0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)?(3)の条件を満たすポリエステルフィルム。
(1)Mg含有量:当該ポリエステルフィルムに対して15?35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?15ppm」(特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「【0001】本発明はポリエステルフィルムに関する。詳しくは、良好な静電密着性を有し、高度の清澄度を有するポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】ポリエステルフィルムは、優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性の点から、各種光学機能性フィルムの基材として広く使用されている。また、近年、耐候性をそなえたポリエステルフィルムは太陽電池パネル用のバックシートとしても多用されるようになってきている。
【0003】通常、ポリエステルフィルムは、ポリエステルを溶融押出した後、2軸延伸して得られる。すなわち、押出機により溶融押出されたシート状物を回転する冷却ドラムの表面に密着させて引き取り、次いで、該シート状物を冷却ドラムの後段に配置された延伸ロールへと導いて縦延伸し、さらに、テンターで横延伸した後、熱固定処理(熱セット)される。ここで、フィルムの厚みの均一性を高め、また、キャスティングの速度を高めるには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム表面で冷却する際に、該シート状物とドラム表面とが十分に高い付着力で密着していなければならない。このため、シート状物と回転ドラムの表面との付着力を高めるための方法として、押出口金と冷却回転ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物の表面に静電気を析出させて、該シート状物を冷却ドラムの表面に静電付着させて、急冷する、所謂、静電密着キャスト法が多く使用されている。すなわち、冷却ドラムにシート状物を静電密着させることで、ドラムの表面にシート状物が該表面との間に隙間を形成することなく高い付着力で密着し、冷却回転ドラムの回転速度を速めてもシート状物が位置ずれすることなく引き取られて一様にキャスティングされ、厚みの均一性に優れたフィルムが効率良く製造される。近年、低コスト化のために厚さ50μm以上の比較的厚いフィルムの製造においても前記静電密着性が求められるようになってきている。
【0004】静電密着キャスト法において、シート状物の冷却ドラムへの静電密着性を向上させるにはシート状物表面における電荷量を多くすることが有効であり、該電荷量を多くするには、原料となるポリエステル(以下、原料ポリエステルと称す)を改質してその溶融比抵抗を低くすることが有効であることが知られている。そして、この溶融比抵抗を低くする方法として、原料ポリエステルの製造段階において、エステル化またはエステル交換反応中、または反応完了後、重縮合反応前にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物をリン化合物とともに添加することが行われている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】しかし、特許文献1、2では溶融比抵抗を低くすると言う点では改良されているものの、ポリエステル中に添加されたアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物、リン化合物が凝集した異物が生じやすくなる傾向にあった。そのため、ポリマー中の異物抑制という点において、用途によっては不十分であり、ポリエステルを合成後、あるいは、溶融・押し出し工程後のフィルターの孔径を小さくする必要があり、生産性の低下やコストの上昇になっていた。
【0006】特に、光学用フィルムにおいてはフィルム中の異物量を少なくして、フィッシュ・アイ等の欠陥を極力少なくする必要がある。すなわち、ポリエステルフィルムには清澄度が要求される。そのために、原料ポリエステルにも高度の清澄度が必要となり、清澄度を高めるための対策がとられている(特許文献3)。しかしながら、近年では40インチを越えるディスプレイはフルハイビジョンが主流となり、さらなる高精細化が進みつつある。そのため、今後、さらにポリエステルフィルムの高度な清澄度の要求がますます強まることが予想される。
【0007】さらに、太陽電池用バックシートにおいては高度な防湿性が要求されている(特許文献4)。しかし、バックシートに用いるポリエステルフィルムに異物による突起が存在すると、積層される水蒸気バリア層である金属系薄膜層や高耐久防湿層にキズや凹みが生じる。そのため、局所的に耐防湿性が低下し、高度な防湿性を要求されるバックシートにおいて、このような突起の多いポリエステルフィルムを用いると、その時々の防湿性低下による太陽電池素子の劣化はわずかであっても、10年を越える使用においては太陽電池の寿命に大きな影響を与える場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
・・・・・・・・・・・・・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】本発明は、上記事情に鑑み、良好な静電密着性を有し、しかも、異物の存在量が極めて少なく、従来よりも高度の清澄度を有するポリエステルフィルムを提供することを目的としている。」
(2c)「【0010】本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意研究した結果、良好な静電密着性を達成するには、重縮合触媒に加え、抵抗調整剤(低抵抗化剤)としてマグネシウム化合物を使用するだけでなく、カリウム化合物とリン化合物の3種類の化合物を所定量添加・併用することにより、ポリエステル組成物の溶融比抵抗が充分に低く、かつ、フィルム中に不溶性の異物が極めて少ないポリエステルフィルムが得られること見出した。さらには抵抗調整剤の添加の方法がポリエステルフィルムの性能に大きく影響することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】本発明は以下の構成を特徴とする。
本願の第1の発明は、重縮合触媒とマグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を含むポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムの275℃での溶融比抵抗が0.15?0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)?(3)の条件を満たすポリエステルフィルムである。
(1)Mg含有量:当該ポリエステルフィルムに対して15?35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?15ppm」
(2d)「【0012】本発明によれば、低い溶融比抵抗と高い清澄度を有するポリエステルフィルムが得られる。さらに、本発明のポリエステルフィルムは低い溶融比抵抗を有しながら高い耐熱性を有する。そのため。高度な清澄度を要求される光学用ポリエステルフィルムや、異物による突起生成の少ない太陽電池用ポリエステルフィルムとして好適に用いることができる。」
(2e)「【0018】本発明のポリエステルフィルムは、目的の高度の清澄度を有する観点から、主たるエステル単位(繰り返し単位)がエチレンテレフタレートからなるものが好適であり・・・」
(2f)「【0016】本発明に用いるポリエステル組成物の重縮合時に用いられるポリエステル重縮合触媒はアンチモン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物から選ぶことができる。また、重縮合触媒は1種でもよく、2種以上の触媒を併用しても良い。
【0017】本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステル組成物は、前記重縮合触媒の他、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を同一の反応缶に添加することによって製造される。その詳細についは後述する。なお、以下には重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いた場合を例に挙げ説明するが当然これに限定されるものではない。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0019】本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステル組成物の重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用する場合、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に三酸化アンチモンが好ましい。
【0020】当該アンチモン化合物は、最終的に得られるポリエステル組成物質量に対するアンチモン原子の含有量が100?200ppmとなる量添加するのが好ましく、100ppm未満であると重合生産性が低下し、逆に、200ppmを超えると、不溶性の異物を生じやすくなる。より好ましいアンチモン原子の含有量は130?170ppmである。
【0021】本発明では、抵抗調整剤としてマグネシウム化合物を用いる。本発明で使用するマグネシウム化合物としては、例えば、酢酸マグネシウムのような低級脂肪酸塩や、マグネシウムメトキサイドのようなアルコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に酢酸マグネシウムが好ましい。
【0022】当該マグネシウム化合物は、最終的に得られるポリエステルフィルム質量に対するマグネシウム原子の含有量が15?35ppmとなる量添加する必要がある。マグネシウム原子の含有量が15ppm未満であると、そのようなポリエステルフィルムは溶融比抵抗が十分に低下せず、製膜時に十分な静電密着性が得られにくく、逆に、35ppmを超えると、そのようなポリエステルフィルムは、不溶性の異物(Mg塩)の生成量が多くなる。また、マグネシウム化合物がポリエステル中に存在すると、ポリエステルの分解反応が促進されやすくなる。そのため、マグネシウム原子の含有量が35ppmを越えると、耐熱性の低下を招きフィルムの着色が酷くなり好ましくない場合がある。より好ましいマグネシウム原子の含有量は20?30ppmである。
【0023】本発明では、抵抗調整剤としてカリウム化合物を用いることを特徴とする。従来、アルカリ金属化合物として、一般的に使用されるナトリウム化合物が用いられていたが、本発明では、カリウム化合物を特定の組成比で使用することで、前記マグネシウム化合物の含有量を上記範囲にしながら、低い溶融比抵抗を実現するに至ったのである。なぜ、カリウム化合物を用いることでこのような効果を生じるのか良くわからないが、特定の金属イオン種を特定の濃度比で含有させることで、ポリエステル中により安定的な錯体状態を形成するのではないかと考えている。
【0024】本発明で使用するカリウム化合物としては、例えば、酢酸カリウムのような低級脂肪酸塩や、カリウムメトキサイドのようなアルコキサイド等が挙げられ、これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。特に酢酸カリウムが好ましい。
【0025】当該カリウム化合物は、最終的に得られるポリエステルフィルム物質量に対するカリウム原子の含有量が5?20ppmとなる量添加する必要がある。カリウム原子の含有量が5ppm未満であると、そのようなポリエステル組成物は溶融比抵抗が十分に低下せず、製膜時に十分な静電密着性が得られにくく、逆に、20ppmを超えると、そのようなポリエステル組成物は、不溶性の異物(K塩)の生成量が多くなり、また耐熱性の低下を招きフィルムの着色が酷く好ましくない。より好ましいカリウム原子の含有量は7?15ppmである。
【0026】本発明で使用するリン化合物は、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられ、具体例としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル、フェニールホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジエチル、フェニールホスホン酸ジフェニール等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらのうちでもジエチルホスホノ酢酸エチル、リン酸トリメチルおよびリン酸が好ましく、飛散のしにくさと溶融比抵抗の低下のしやすさから、ジエチルホスホノ酢酸エチルが特に好ましい。
【0027】本発明では、主たるリン化合物として、ジエチルホスホノ酢酸エチルを添加することが好ましいが、この場合、ジエチルホスホノ酢酸エチルが全リン化合物の70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることがさらに好ましい。
【0028】当該リン化合物は、最終的に得られるポリエステルフィルム質量に対するリン原子の含有量が5?15ppmとなる量添加する必要があり、5ppm未満であると、そのようなポリエステルフィルムは耐熱性が低下する。逆に、15ppmを超えると、溶融比抵抗の低下が不十分であり、不溶性の異物(Mg塩およびK塩)の生成量が多くなり、好ましくない。より好ましいリン原子の含有量は7?12ppmである。
い。
【0029】不溶性の異物(Mg塩およびK塩)の生成量を低く抑える効果を向上させるためには、最終的に得られるポリエステルフィルム質量に対するマグネシウム原子の含有量、カリウム原子の含有量、およびリン原子の含有量の合計が、60ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。」
(2g)「【0031】本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステル組成物は、前記重縮合触媒を使用し、かつ、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して製造できる。ポリエステル中でこれら金属イオンが安定な状態で存在するためには、これら3種類の化合物の添加方法も重要である。マグネシウム原子の含有量、カリウム原子の含有量、およびリン原子の含有量が上記規定の範囲のとき、ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15?0.30×108Ω・cmを満たすためには、その製造時に次の(a)?(b)の条件を満たすことが望ましい。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶を用いてエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第3番目以降のエステル化反応缶の同一反応缶に全量を添加する。
【0032】すなわち、上記(a)?(b)の条件を満足することは、以下の技術内容を意味する。
エステル化反応缶の缶内を減圧状態にすると、リン化合物だけでなく、マグネシウム化合物やカリウム化合物が飛散してしまう恐れがあり、残存量管理が困難になる。従って、これを避けるためにエステル化反応缶の圧力を常圧以上にする。圧力の上限は29.4kPaが好ましい。29.4kPaを超えると、ジエチレングリコール(DEG)の副生量が増加し、ポリエステルの軟化点を低下させ、フィルムの製膜時にフィルムの破断等を生じて、製膜作業性を悪化させてしまう。
【0033】エステル化反応缶内に、ジカルボン酸(またはそのジアルキルエステル)とグリコールを供給すると、エステル化反応によって、ジカルボン酸-グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する(例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを供給した場合、ビス-(β-ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを生成する。)が、第1および第2エステル化反応缶では生成するオリゴマーの酸価がまだ大きく、この段階でマグネシウム化合物やカリウム化合物を添加すると、マグネシウム化合物やカリウム化合物とジカルボン酸の間で不溶性の異物(Mg塩およびK塩)が生成しやすくなる。従って、マグネシウム化合物やカリウム化合物は3缶目以降のオリゴマーの酸価が小さいエステル化反応缶に供給する。
【0034】また、リン化合物は液状のものが多くて特に飛散しやすく、リン化合物をマグネシウム化合物やカリウム化合物が存在しない反応缶に添加すると、リン化合物の系外飛散量が多くなり、反応系に有効に取り込まれなくなって目標の品質のポリエステル組成物が得られない。従って、マグネシウム化合物やカリウム化合物の存在下に添加するのが好ましく、そのために、リン化合物を、マグネシウム化合物、カリウム化合物を添加する反応缶と同じ反応缶に添加することが好ましい。
【0035】なお、かかる本発明のポリエステルフィルムに用いるポリエステル組成物の製造方法において、重縮合触媒の添加時期は特に制限されない。すなわち、エステル化反応における初期段階で添加しておいても、その後に添加してもよい。また、マグネシウム化合物、カリウム化合物およびリン化合物は、供給精度の点からエチレングリコール溶液として添加するのが好ましい。また。エステル化反応缶における缶内(反応系)温度は通常240?280℃、好ましくは255?265℃である。240℃未満では、オリゴマーが固化しやすくなり、反応速度が低下するので、好ましくなく、逆に、280℃を超えるとDEGの副生量が増大し、また、生成ポリマーの色相が悪化する傾向を示すので好ましくない。また、エステル化反応缶はポリエステルの製造効率の観点からは、5缶以下とするのが好ましい。
【0036】また、最終生成物(ポリマー)はろ過してから、チップ化されるのが好ましい。かかるろ過には、通常、目開き3?20μm程度のフィルターが使用される。」
(2h)「【0037】本発明のポリエステルフィルムは、単層のポリエステルフィルムであっても良いし、最外層と中心層を有する、少なくとも3層からなるポリエステルフィルムであっても良い。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0041】これらの各層には、必要に応じて、ポリエステル中に各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などが挙げられる。」
(2i)「【0056】本発明のポリエステルフィルムは、清澄度が高くディスプレイなどの光学用フィルムとして好適に使用できる。・・・
【0057】また、本発明のポリエステルフィルムは、粗大粒子に起因する異物突起が少なく、高度な防湿性の保持が求められる太陽電池用ポリエステルフィルムとして好適に使用できる。・・・
【0058】本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、単独または2枚以上を貼り合わせて、太陽電池バックシートとして使用することができる。」
(2j)「【0059】・・・以下の実施例、比較例においてTPAはテレフタル酸、EGはエチレングリコール、DEPAはジエチルホスホノ酢酸エチル、TMPAはリン酸トリメチルを意味する。また、各特性、物性値は下記の試験方法で測定した。
【0060】(1)ポリエステルフィルムの酸価 ・・・
【0061】(2)極限粘度 ・・・
【0062】(3)275℃での溶融比抵抗 ・・・
【0063】(4)フィルム中Mg(マグネシウム),K(カリウム),Na(ナトリウム)、P(リン)の含有量
ポリエステルフィルムを平滑な金属板上で約5mmの厚みで円板状に成型し、平滑面を蛍光X線分析装置で測定した。なお、接着性改質層がある場合は、予め除去し、試料に供した。また、検量線は予め発光プラズマ分析法で濃度を確認した、標準サンプルを使用して作成したものである。
【0064】(5)ポリエステルフィルム中の粗大粒子数(粒径5μm以上の粒子数) ・・・
【0065】(6)ポリマーの耐熱性
ポリエステルフィルムを粉砕し、ガラスアンプルに投入して窒素置換後、13.3kPaの減圧下(窒素雰囲気)でガラスアンプルの封を実施し、300℃で2時間加熱処理した時の極限粘度の変化を測定する。耐熱性は、加熱処理による極限粘度低下(ΔIV)で表示する。ΔIVが小さいほど耐熱性は良好である。
【0066】(7)ヘーズ、全光線透過率 ・・・
【0067】(8)密着性 ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
【0069】(9)ピンナーバブルの検出
・・・観察して欠点部(局所的に輝く点)を検出しマーキングした。・・・
【0070】実施例1
(ポリエステル組成物の重合)
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で、255℃で反応させた。
【0071】次に、上第1エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成PETに対し8重量%添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で、260℃で反応させた。
【0072】次に、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、生成PETに対してMg原子が25ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してK原子が10ppmとなる量の酢酸カリウムを含むEG溶液、および生成PETに対してP原子が9ppmとなる量のDEPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で、260℃で反応させた。なお、添加剤の歩留まりはすべて100%として添加量を決定した。
【0073】上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、目開き5μmの焼結繊維フィルターで濾過後に、極限粘度0.620dl/gのペレット状PET(A)(ポリエステル組成物A)を得た。
【0074】(ポリエステルフィルムの製膜)
基材フィルムの原料としてペレット状PET(A)を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機に供給し、285℃で溶解した。ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。次にこの未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後、周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。
【0075】次いで一軸延伸ポリエステルフィルムの片面に下記に示す塗布液を最終塗布層膜厚が0.08g/m^(2) となるように塗布した後、135℃で乾燥させた。
【0076】引き続き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.3倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、最高温度235℃で熱固定処理した後、150℃で幅方向に3%の緩和処理を行ない、両端をトリミングし、巻き取り装置にて巻き取り、フィルム厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
【0077】(塗布液の調整)
常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%、イソフタル酸46モル%および5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで、水51.4重量部、イソプロピルアルコール38重量部、n-ブチルセルソルブ5重量部、ノニオン系界面活性剤0.06重量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5重量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0重量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに、平均粒径2.5μmのシリカ粒子3重量部を水50重量部に分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46重量部に前記シリカ粒子の水分散液0.54重量部を加えて、撹拌しながら水20重量部を加えて、塗布液(A)を得た。
【0078】実施例2
実施例1において、リン化合物の種類をDEPAからTMPAに変更し、リン化合物の添加量を歩留まり85%としてリン原子として生成ポリエステル組成物に対して10.6ppmに変更したペレット状PET(B)を用いた以外は実施例1と同様にポリエステルフィルムを得た。
【0079】実施例3
ペレット状PETの製造において、エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する4段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、DEPAの添加場所を第4エステル化反応缶に変更する以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(C)を得た。ペレット状PET(C)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0080】実施例4
実施例1のペレット状PETの製造において、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、およびDEPAの添加量が表1に記載の量になるように変更する以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(D)を得た。ペレット状PET(D)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0081】実施例5
実施例1のペレット状PETの製造において、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、およびDEPAの添加量が表1に記載の量になるように変更する以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(E)を得た。ペレット状PET(E)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0082】実施例6
実施例1のペレット状PETの製造における第3エステル化反応缶において、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、DEPAに加え、平均粒径2.5μmのシリカ粒子のEG分散液を生成PETに対して20000ppmとなる量を添加した以外は実施例1と同様にし
てペレット状PET(F)を得た。
【0083】基材フィルムの中間層用原料としてペレット状PET(A)を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層B層用)に、ペレット状PET(A)とペレット状PET(F)を平均粒径2.5μmのシリカ粒子濃度が0.06質量%になるように配合し、押出機1(外層A層用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2つのポリエステル樹脂を、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、A層、B層、A層の厚さの比は1.5:7:1.5となるように各押し出し機の吐出量を調整した。次にこの未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後、周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。次いで、実施例1と同様に塗布層を設け、幅方向の延伸、熱固定、緩和処理を行い、ポリエステルフィルムを得た。
【0084】実施例7
実施例1で得られたペレット状PET(A)を回転型真空重合装置を用い、0.5mmHgの減圧下、220℃で固相重合を行い、固有粘度0.73dl/gのペレット状PET(G)を得た。
次いでペレット状PET(G)を用い、接着性改質層は設けず、コロナ処理を行った以外は実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。
【0085】実施例8
実施例1において、下記塗布液(B)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
(塗布液Bの調製)
ポリウレタン樹脂(三井武田ケミカル株式会社製:商品名 タケラックW511)と前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して再生イソシアネート含有量が5.4質量%であるブロックイソシアネート化合物20質量部になるように混合し、全樹脂固形分濃度が3.8質量%、粒子としてシリカ粒子平均粒径1.0μmのものを全樹脂に対し0.44質量%および平均粒径0.1μmのシリカ粒子を全樹脂に対して10質量%含有するように、水/イソプルピルアルコールの混合溶媒(=65/35:質量比)で希釈して塗布液(B)とした。
【0086】比較例1
実施例1のペレット状PETの製造において、マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物の添加量をそれぞれ65ppm、30ppm、30ppmに変更する以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(H)を得た。ペレット状PET(H)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0087】比較例2
実施例1のペレット状PETの製造において、カリウム化合物の添加を止める以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(I)を得た。ペレット状PET(I)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0088】比較例3
実施例1のペレット状PETの製造において、酢酸カリウムの添加を止めて、酢酸ナトリウムをナトリウム原子として生成ポリエステル組成物に対して10ppm添加する以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(J)を得た。ペレット状PET(J)を用い
た以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0089】比較例4
実施例1のペレット状PETの製造において、エステル化反応缶を2缶とし、第2エステル化反応缶に、第1エステル化反応缶から留去されるEGを、生成PETに対し8重量%添加するとともに、実施例1と同量の酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、DEPAを添加する以外は実施例1と同様にしてペレット状PET(K)を得た。ペレット状PET(K)を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0090】【表1】


(2k)「【0091】以上の説明により明らかなように、本発明によれば、低い溶融比抵抗と高い清澄度および高い耐熱性を有するポリエステルフィルムを提供することができる。」

イ 甲1及び甲2に記載された発明

(ア)甲1に記載された発明
甲1は、アンチモンの溶出量が抑制されたポリエステル樹脂について記載した特許文献であり(摘示(1a)?(1c))、請求項1には、ポリエステル樹脂からのアンチモンの溶出量の上限を特定するとともに、ポリエステル樹脂中の、アンチモン成分と燐成分のそれぞれアンチモン原子及び燐原子としての含有量の重量比(Sb/P)及びポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子としての含有量を特定した、ポリエステル樹脂の発明が記載されており、請求項2には、さらに、マグネシウム成分のマグネシウム原子としての含有量を特定した発明が記載され、請求項3には、さらに、マグネシウム成分と燐成分のそれぞれマグネシウム原子及び燐原子としての含有量の重量比(Mg/P)を特定した発明が記載されている。さらに、請求項6及び7には、請求項1?5において、チタン成分のチタン原子としての含有量及びアンチモン成分のアンチモン原子としての含有量をそれぞれ特定した発明が記載されている(摘示(1a))。
そして、ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分が説明され(摘示(1e))、ポリエステル樹脂に含まれるアンチモン成分、燐成分、重縮合時に共存させる金属元素の化合物に由来する金属元素成分であるチタン成分、マグネシウム成分等が説明され、チタン化合物が好ましいとされている(摘示(1f))。また、製造方法について記載され、チタン原子が重合触媒由来の原子であることが記載されている(摘示(1g))。
また、実施例として、請求項1?3、5?7の何れかに係る発明を具体化したものに相当する実施例1?14と、相当しない比較例1?3が記載され、その表1には、ポリエステル樹脂に対する、燐原子としての含有量(P含有量、ppm)、マグネシウム原子としての含有量(Mg含有量、ppm)、上記Mg/P、アンチモン原子としての含有量(Sb含有量、ppm)、上記Sb/P、チタン原子としての含有量(Ti含有量、ppm)が記載されるとともに、ポリエステル樹脂の物性が記載されている(摘示(1j))。実施例は、14例中12例はポリエステル樹脂にマグネシウム化合物及びチタン化合物が所定量含まれるものであり(実施例1?6、8?13)、マグネシウム化合物を含むがチタン化合物を含まない例が1例ある(実施例14)。
以上によれば、甲1には、その請求項3又は請求項6に係る発明としての、以下の
「芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であり、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Sb/P)が、5.6?30であり、かつポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子(P)としての含有量が、0.1?20重量ppmであり、ポリエステル樹脂がマグネシウム化合物の共存下に重縮合され、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が、0.1?100重量ppmであり、かつポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1?3.0であるポリエステル樹脂であって、
ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存下又は非共存下に重縮合され、
ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存化に重縮合されるときは、ポリエステル樹脂中のチタン成分のチタン原子(Ti)としての含有量が、0.25?10重量ppmである、ポリエステル樹脂。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

(イ)甲2に記載された発明
甲2は、静電密着性と清澄度に優れたポリエステルフィルムについて記載した特許文献であり(摘示(2a)?(2d)、(2k))、請求項1には、
「重縮合触媒とマグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を含むポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムの275℃での溶融比抵抗が0.15?0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)?(3)の条件を満たすポリエステルフィルム。
(1)Mg含有量:当該ポリエステルフィルムに対して15?35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?15ppm」
の発明が記載されている(摘示(2a))。
そして、ポリエステルの繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるものが好適なことが説明され(摘示(2e))、ポリエステルフィルムに含まれる重縮合触媒のアンチモン化合物、抵抗調整剤としてのマグネシウム化合物及びカリウム化合物、耐熱性の観点で用いられるリン化合物について説明されている(摘示(2f))。また、ポリエステルフィルムに用いるポリエステル組成物の製造方法について記載されている(摘示(2g))。
また、実施例として、請求項1に係る発明を具体化したものに相当する実施例1?8と、相当しない比較例1?4が記載され、その表1には、ポリエステル組成物の重合時に添加する、酢酸マグネシウムのMgとしての添加量、酢酸カリウムのKとしての添加量、リン化合物(DEPA(ジエチルホスホノ酢酸エチル)又はTMPA(リン酸トリメチル))のPとしての添加量、及びフィルム中のそれらの含有量(Mg含有量、K含有量、P量含有量、何れもppm)が記載されるとともに、ポリエステル及びポリエステルフィルムの物性が記載されている(摘示(2j))。そのうちの比較例2及び3は、カリウム化合物を含まない例であり、PET(ポリエチレンテレフタレート。ポリエステル樹脂である。)に対してSb原子が160ppmであるものである(摘示(2j)段落【0070】【0087】【0088】)。
以上によれば、甲2には、その請求項1に係る発明としての、以下の
「重縮合触媒とマグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を含むポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムの275℃での溶融比抵抗が0.15?0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)?(3)の条件を満たすポリエステルフィルム。
(1)Mg含有量:当該ポリエステルフィルムに対して15?35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?15ppm」
の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されているということができる。
また、比較例2に係る発明として、以下の
「比較例2により製造された、Sb含有量160ppm、Mg含有量25ppm、P含有量9ppmである、ポリエステルフィルム」
の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されているということができる。
また、比較例3に係る発明として、以下の
「比較例3により製造された、Sb含有量160ppm、Mg含有量25ppm、Na含有量10ppm、P含有量9ppmである、ポリエステルフィルム」
の発明(以下「甲2発明3」という。)が記載されているということができる。

ウ 本件発明1について

(ア)甲1発明との対比

a 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
本件発明1において、「リン化合物を含むか又は含まず」は、式I(0.5≦[P]/[Me]≦1.5)の特定が加わったことに伴い「リン化合物を含み」である。
また、本件発明1においては、「前記触媒内のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記静電ピンニング剤内のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、前記リン化合物内のリンの含量が24ppm以下である」と特定されているが、これらの含量は、本件明細書の段落【0046】に「前記触媒内の金属含量は、ポリエステル樹脂組成物内150ppm以下、より具体的には50?150ppmになるように使用することが好ましい」、同段落【0048】に「前記静電ピンニング剤は、金属の総含量がポリエステル樹脂組成物内50ppm以下、より具体的には10?50ppm使用する範囲でドライバビリティだけでなく、内部欠点を解消することができ、ヘイズが低い光学フィルムを製造することができる」、同段落【0049】に「リン化合物を添加する場合は、ポリエステル樹脂組成物内50ppm以下、より具体的には、10?50ppm使用することが好ましく」と記載され、同段落【0145】の実施例及び比較例の結果をまとめた表1において「P含量(ppm)」が「24」のものが含まれている。これらの記載によれば、本件発明1における「前記触媒内のアンチモン含量」、「前記静電ピンニング剤内のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量」、「前記リン化合物内のリンの含量」とは、「ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量」、「ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量の合計量」、「ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量」をそれぞれ意味するものと認められる。
以下、この前提で対比する。
甲1発明における「ポリエステル樹脂」は、本件発明1における「ポリエステル樹脂組成物」に相当する。
甲1発明のポリエステル樹脂に含まれる「アンチモン成分」及び「チタン成分」は、摘示(1g)の段落【0030】によれば、重合触媒由来の成分である。
甲1発明のポリエステル樹脂に含まれる「燐成分」は、本件発明1の「リン化合物」には相当するが、この「燐成分」は、これが少ないと「色調が低下し、副生成物も増加する傾向」となるものであり、本件発明1の「熱安定剤」に相当すると一概にはいえない。
甲1発明のポリエステル樹脂に含まれる「マグネシウム成分」は、これが少ないと「溶出量を抑制することが困難な傾向」となるものであり(摘示(1f)段落【0024】)、本件発明1の「静電ピンニング剤」であるとまではいえない。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様と対比するとき、両者は、
「触媒を含み、前記触媒がアンチモン化合物である、ポリエステル樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのように特定されたものではない点

b 相違点についての検討
相違点1について検討する。

(a)甲1には、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子としての含有量について、請求項7に「ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂」(摘示(1a))と記載され、「ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmであるのが好ましく、30?150重量ppmであるのが更に好ましく、50?110重量ppmであるのが特に好ましい。アンチモン原子としての含有量が前記範囲未満では、重縮合性が不足して生産性の低下を招くと共に、色調も低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる」(摘示(1f)段落【0017】)との記載がある。

(b)ここで、実施例(摘示(1j))を参照すると、Sb含有量が90ppmである実施例が多数(実施例1?9、ただし、実施例7はマグネシウム化合物を含まないので甲1発明の実施例に当たらない。)を占めているが、それらはTi含有量が2.0ppmであるもの、つまり「ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存下に重縮合され」の態様のものである。チタン化合物の量を増減した実施例(実施例10?13)も記載され、Ti含有量6.0ppmではSb含有量50ppm、Ti含有量3.0ppmではSb含有量70ppm、Ti含有量1.0ppmではSb含有量110ppm、Ti含有量0.5ppmではSb含有量150ppmで、所望の物性を有するポリエステル樹脂を製造したことが記載され、これらの例では、Ti含有量が少なくなるほどSb含有量を増大させているものといえる。
一方、実施例のうち、触媒が、Ti含有量が0であるもの、つまり「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様では、Sb含有量は、200ppmの量とした例が1例(実施例14)あるだけである。

(c)そうすると、上記(a)の一般記載に「ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmであるのが好ましく、30?150重量ppmであるのが更に好ましく、50?110重量ppmであるのが特に好ましい」との記載があるとしても、本件発明1の50?150ppmの含量に当たるものについて裏付けられているといえるのは、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の存在下に重縮合され」の態様であって、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非存在下に重縮合され」の態様については、本件発明1に相当する50?150ppmの範囲のアンチモン含量は、裏付けられているとはいえない。
したがって、本件発明1との上記一致点が導ける、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様につき、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモンとしての含有量につき、相違点1に係る「ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり」に相当する量とすることは、甲1には開示されているとはいえない。

(d)したがって、相違点1は、その余を検討するまでもなく、実質的な相違点である。

c したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

d 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「甲1には、たまたまチタン触媒も記載されているが・・・チタン触媒以外の金属の配合によって、本願記載の効果が全てもたらされていると思量いたします」と主張し、「チタン触媒を併用することによりアンチモン量を増やさずに良好な重縮合性を得ている・・・ただし、重縮合性は重合設備にも大きく起因しており、特開2007-177228号公報の実施例1に記載の通り、アンチモン量65ppmおよびリン量21ppmにおいても『溶液重合段階での十分な反応速度および適切な反応時間内に色調が良好なポリマーを得ること』が可能なことから、甲1において、チタン触媒は必須要件ではなく、本願請求項1の請求の範囲と甲1は同一であると思料いたします」と主張している。
しかし、相違点1が実質的な相違点であることは、上記bで述べたとおりである。特許異議申立人の主張は、根拠のない推測であり、採用できない。

(イ)甲2発明1との対比

a 本件発明1と甲2発明1との対比
本件発明1と甲2発明1とを、上記(ア)aと同じ前提で対比する。
甲2発明1における「ポリエステルフィルム」は、ポリエステル樹脂組成物がフィルム状に成形されているものであるから、本件発明1における「ポリエステル樹脂組成物」に相当する。
甲2発明1のポリエステルフィルムに含まれる「マグネシウム化合物」および「カリウム化合物」は、「抵抗調整剤」であり(摘示(2f)段落【0021】【0023】)、本件発明1の「静電ピンニング剤」に相当する。
甲2発明1のポリエステルフィルムに含まれる「リン化合物」は、これが少ないと「耐熱性が低下する」ものであり(摘示(2f)段落【0028】)、本件発明1の「熱安定剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含む、ポリエステル樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、触媒がアンチモン化合物であり、静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1 [式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲2発明1においては、そのように特定されたものではない点

b 相違点についての検討
相違点2について検討する。
甲2発明1は、本件発明1の静電ピンニング剤に相当する抵抗調整剤として、マグネシウム化合物とカリウム化合物を併用することを必須とする発明であり、カリウム化合物は従来技術のナトリウム化合物より低い溶融比抵抗が実現できるというものである(摘示(2a)(2f))。
したがって、甲2発明1は、相違点2に係る「静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり」との構成を備えたものではないから、相違点2は、実質的な相違点である。

c したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

d 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「甲2には、アンチモンの含有量が160ppmと本願記載の発明より10ppm多い」とし、それでも本件発明1で上限とする150ppmと「効果の差異がない」旨を主張しているが、仮に効果に差異が生じないとしても、明確に添加量が相違している以上、この10ppmの差が実質的な相違点でないとはいえない。そして、相違点2が実質的な相違点であることは、上記bで述べたとおりである。特許異議申立人の主張は、採用できない。

(ウ)甲2発明2との対比
本件発明1と甲2発明2とを、上記(イ)aと同様に対比すると、両者は、
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、触媒がアンチモン化合物であり、静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下である、ポリエステル樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲2発明2においては、上記アンチモン含量が160ppmであり、上記式1の[P]/[Me]は、0.42と計算されるものであって、上記式1を満足しない点
(計算)
リンとマグネシウムの重量比は9/25であり、当量比に換算すると、原子量はリン31、マグネシウム24.3であるから、
{(9/31)×3}/{(25/24.3)×2}=0.42
この相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(エ)甲2発明3との対比
本件発明1と甲2発明3とを、上記(イ)aと同様に対比すると、両者は、
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、触媒がアンチモン化合物であり、静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下である、ポリエステル樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4)
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲2発明3においては、上記アンチモン含量が160ppmであり、上記式1の[P]/[Me]は、0.35と計算されるものであって、上記式1を満足しない点
(計算)
リンと、マグネシウム及びナトリウムとの重量比は9/(25+10)であり、当量比に換算すると、原子量はリン31、マグネシウム24.3、ナトリウム23であるから、
{(9/31)×3}/{(25/24.3)×2+(10/23)×1}=0.35
この相違点4は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

エ 本件発明3及び4について
本件発明3は、本件発明1のポリエステル樹脂組成物において静電ピンニング剤を特定したものであり、本件発明4は、本件発明1のポリエステル樹脂組成物において特定の添加剤をさらに含むことを特定したものであるから、本件発明1と同様に、本件優先日前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえない。

オ 理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4は、本件優先日前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1、3、4についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由1によって取り消されるべきものではない。

(2)理由2について

ア 甲号各証の記載

(ア)甲1の記載事項は、上記1(1)アに記載したとおりである。

(イ)甲2の記載事項は、上記1(1)イに記載したとおりである。

(ウ)甲3
(3a)「主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルを直接重合法で製造するに際し、ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよび/またはその低重合体に、テレフタル酸とエチレングリコールとを連続的または間けつ的に供給して1.0Kg/cm^(2) 以下の圧力下にてエステル化反応を行ないついで重縮合を行なう方法において、(1)エステル化率が20?80%の時点でMg化合物をMg原子としてポリエステルに対して30?40ppm、(2)初期縮合反応が終了するまでの間の任意の段階で下記(I)式を満足する量のNaおよびK化合物より選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属化合物および(3)エステル化率が91%以上進行した時点から初期縮合反応が終了するまでの間に下記(II)式を満足する量のP化合物を添加することを特徴とするポリエステルの製造法。
3.0≦M≦50 ……(I)
1.2≦Mg/P≦20 ……(II)
〔式中Mはアルカリ金属化合物のポリエステルに対する金属原子としての添加量(ppm)、Mg/PはMg原子とP原子との原子比を示す。〕」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明は重合工程の操業性が良好で、かつ静電密着性、透明性および清澄性が高度に改良され、さらに軟化点が高く耐熱性の良好な主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルを直接重合法で製造する方法に関するものである。
ポリエチレンテレフタレートで代表される飽和線状ポリエステルは、すぐれた力学特性、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、耐薬品性等を有するため包装用途、写真用途、電気用途、磁気テープ等の広い分野において多く使用されている。通常ポリエステルフィルムは、ポリエステルを溶融押出したのち2軸延伸して得られる。この場合、フィルムの厚みの均一性やキャスティングの速度を高めるには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム表面で急冷する際に、該シート状物とドラム表面との密着性を高めなければならない。該シート状物とドラム表面との密着性を高める方法として、押出口金と回転冷却ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物上面に静電気を析出させて、該シートを冷却体表面に密着させながら急冷する方法(以下静電密着キャスト法という)が有効であることが知られている。
フィルムの厚みの均一性はフィルム品質の中で極めて重要な特性であり、またフィルムの生産性はキャスティング速度に直接依存するため生産性を向上させるにはキャスティング速度を高めることが極めて重要となるため、静電密着性の向上に多大の努力がはかられている。
静電密着性は、シート状物表面の電荷量を多くすることが有効な手段であることが知られている。また静電密着キャスト法においてシート状物表面の電荷量を多くするには、ポリエステルフィルムの製膜において用いられるポリエステル原料を改質してその比抵抗を低くすることが有効であることが知られている。このポリエステル原料の比抵抗を低くする方法として、エステル化またはエステル交換反応終了後にアルカリ金属またはアルカリ土類金属化合物を添加することが知られている。確かにこの方法でポリエステル原料の比抵抗が下げられ、静電密着性は一応のレベルに到達するが、ポリエステル原料の製造工程において反応中間体の低重合体(以下オリゴマーという)の濾過性(注:原文は「濾」はさんずいに戸であるがフォントの都合により「濾」で表記する。以下も同じ。)が悪く、ポリエステル原料製造の操業性が低下し、経済的に不利であるという重大な欠陥を有している。
またポリエステルフィルムは厚みの均一性が高いのみでは十分な品質特性を有しているとはいえず、フィルム中の異物量を少なくし、フイシュ アイ等の製品欠点を極力少くする必要がある。すなわちポリエステルフィルムは高度な清澄度が要求される。そのためポリエステル原料においても高度な清澄度が必要となり、清澄度を高めるための対策がとられている。その一つとして、ポリエステル原料の反応中間体であるオリゴマーを濾過することによつて清澄度を高める方法が一般に採用されている。特にテレフタル酸(以下TPAという)とエチレングリコール(以下EGという)からエステル化反応によりビス-(β-ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを得、しかる後重縮合を行なういわゆる直接重合法では、ジメチルテレフタレートとEGからオリゴマーを得、しかる後重縮合を行なういわゆるエステル交換法に比較して高度な濾過を行なう必要がある。従ってオリゴマーの濾過性が悪いということは、高度な清澄度が要求される分野へ用いられるポリエステルフィルムの原料を直接重合法で製造する場合には致命的な欠陥となる。
さらにポリエステル原料はジエチレングリコール(以下DEGという)含有量が低く、かつ耐熱性にすぐれたものでなければならない。DEG含有量が高くなると、ポリエステルの軟化点が低下してフィルムの製膜時にフィルムの破断が起り易くなり、製膜操業性が悪化するので好ましくない。
また耐熱性が悪くなると、延伸工程で生ずるフィルムの耳の部分や規格外のフィルムを溶融して再使用することが難かしくなるので好ましくない。
本発明者らは前記した欠点を改善し、直接重合法により反応中間体のオリゴマーの濾過性が良好で重合工程の操業性にすぐれ、かつ静電密着性、透明性および清澄性が高度に改良され、さらに軟化点が高く耐熱性の良好なポリエステルの製造法につき鋭意検討を行なつた結果、本発明に到達したものである。」(1頁右下欄7行?2頁右下欄11行)
(3c)「すなわち本発明は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルを直接重合法で製造するに際し、ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよび/またはその低重合体に、TPAとEGとを連続的または間けつ的に供給して1.0Kg/cm^(2) 以下の圧力下にてエステル化反応を行ないついで重縮合を行なう方法において、(1)エステル化率が20?80%の時点でMg化合物をMg原子としてポリエステルに対して30?400ppm、(2)初期縮合反応が終了するまでの間の任意の段階で下記(I)式を満足する量のNaおよびK化合物より選ばれた少くとも1種のアルカリ金属化合物および(3)エステル化率が91%以上進行した時点から初期縮合反応が終了するまでの間に下記(II)式を満足する量のP化合物を添加することを特徴とするポリエステルの製造法である。
3.0≦M≦50 ……(I)
1.2≦Mg/P≦20 ……(II)
〔式中Mはアルカリ金属化合物のポリエステルに対する金属原子としての添加量(ppm)、Mg/PはMg原子とP原子との原子比を示す。〕」(2頁右下欄12行?3頁左上欄13行)
(3d)「本発明のポリエステルはその繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートからなるものであり・・・」(2頁左上欄14?16行)
(3e)「本発明方法において、重縮合触媒は格別制約を受けるものでないが、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物の中から選択使用するのが好ましい。
また本発明において、無機微粒子あるいは有機微粒子からなる滑剤を添加してエステル化および重縮合反応を行なつてもよい。
本発明で用いられるMg化合物は、反応系へ可溶なものであればすべて使用できる。たとえば水素化マグネシウム、酢酸マグネシウムのような低級脂肪酸塩、マグネシウムメトキサイドのようなアルコキサイド等があげられる。
Mg化合物の添加量は、最終的に得られるポリエステルに対してMg原子として30?400ppmで、50?200ppmが特に好ましい。
30ppm未満では得られるポリエステル原料の比抵抗の低下が少なく、その結果静電密着性の向上が満足できなくなるので好ましくない。逆に400ppmを越えると静電密着性の向上が頭打ちとなるうえに、DEG副生量が増加したりポリエステルの耐熱性が低下する等の品質低下をひき起すので好ましくない。
該Mg化合物の反応系への添加は、反応系のエステル化率が20?80%の時点、特に好ましくは50?70%時点で行なう必要がある。・・・
本発明で用いられるアルカリ金属化合物は、反応系へ可溶なものであればすべて使用できる。たとえばNaおよびKのカルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、水素化物およびアルコキサイド等で、具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、カリウムエトキサイド等があげられるが、カルボン酸塩の使用が特に好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
これらのアルカリ金属化合物の添加量は、一般式(I)で示されるごとく生成するポリエステルに対して金属原子として3.0?50ppmの範囲、特に5.0?30ppmの範囲が好ましい。
この範囲で添加して始めて高度な静電密着性が付与される。
アルカリ金属化合物の添加量が3.0ppm未満では静電密着性が低くなるうえに、DEG副生量が大巾に増大するので好ましくない。逆に50ppmを越すと静電密着性が低下するばかりでなく、粗大粒子の増加、耐熱性の低下、レジンカラーの悪化等が起るので好ましくない。
これらのアルカリ金属化合物の反応系への添加は、初期縮合反応が終了するまでの間に任意の段階で適宜選ぶことができる。・・・
本発明で用いられるP化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体等があげられ、具体例としてはリン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸モノブチルエステル、リン酸ジブチルエステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチルエステル、亜リン酸トリメチルエステル、亜リン酸トリブチルエステル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、フェニールホスホン酸ジメチルエステル、フェニールホスホン酸ジエチルエステル、フェニールホスホン酸ジフェニールエステル等であり、これらは単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
これらのP化合物の添加は、一般式(II)で示したようにMg/Pの原子数比として1.2?20の範囲、好ましくは1.6?10に設定するのが好ましい。この範囲に設定することにより、P化合物の添加効果が有効に発揮される。
1.2未満では得られるポリエステル原料の比抵抗の低下が少なく、その結果静電密着生の向上が不充分となるので好ましくない。逆に20を越えると、静電密着性が低下するうえに耐熱性やレジンカラーが悪化するので好ましくない。
これらのP化合物の反応系への添加は、エステル化率が91%以上進行した時点から初期縮合反応が終了するまでの間に行なう必要がある。」(3頁右下欄10行?5頁右上欄7行)
(3f)「次に本発明の実施例および比較例を示す。実施例中の部は、特にことわらないかぎりすべて重量部を意味する。
また用いた測定法を以下に示す。
(1) エステル化反応率 ・・・
(2) 固有粘度 ・・・
(3) ポリマー中の粗大粒子数 ・・・
(4) ポリマーの溶融比抵抗
275℃で溶融したポリエステル中・・・
(5) 静電密着性
・・・ピンナーバブルの発生が起り始めるキャスティング速度で評価する。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好である。
(6) フィルムヘイズ ・・・
(7) ポリマーの耐熱性
・・・加熱処理による固有粘度低下(ΔIV)で表示する。ΔIVが小さい程耐熱性は良好である。
(8) オリゴマーのフィルター通過性
3Kg/cm^(2) 以下の背圧上昇で通過させることのできるオリゴマーの通過量で示す。オリゴマーの濾過性の尺度であるこの値は大きい程、フィルターの交換頻度やフィルター面積を下げることができるので経済的に有利となる。通常100Ton/m^(2) 以上が実用的である。
実施例1
撹拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を設けた2段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を用い、その第1エステル化反応缶のエステル化反応生成物が存在する系へTPAに対するEGのモル比1.7に調整し、かつ三酸化アンチモンをアンチモン原子としてTPA単位当り289ppmを含むTPAのEGスラリーを連続的に供給した。
同時にTPAのEGスラリー供給口とは別の供給口より酢酸マグネシウム四水塩のEG溶液と酢酸ナトリウムのEG溶液を反応缶内を通過する反応生成物中のポリエステル単位ユニツト当りそれぞれMg原子およびNa原子として100ppmおよび10ppmとなるように連続的に供給し、常圧にて平均滞留時間4.5時間、温度255℃で反応させた。
この反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給した。第2エステル化反応缶内を通過する反応生成物中のポリエステル単位ユニツトに対して0.5重量部のEGおよびトリメチルホスフェートのEG溶液をP原子として64ppmとなるようにそれぞれ別個の供給口より連続的に供給し、常圧にて平均滞留時間5.0時間、温度260℃で反応させた。第1エステル化反応缶の反応生成物のエステル化率は70%であり、第2エステル化反応缶の反応生成物のエステル化率は98%であつた。
該エステル化反応生成物を目開き600メッシュのステンレス金網製のフィルターで連続的に濾過し、ついで撹拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を設けた2段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行ない、固有粘度0.620のポリエステルを得た。このポリマーの品質および該ポリマーを290℃で溶融押出しし、90℃で縦方向に3.5倍、130℃で横方向に3.5倍延伸した後、220℃で熱処理して得られた12μのフィルムのフィルムヘイズを表1に示した。
表1より明らかなごとく、本発明方法で得たポリエステルは静電密着性や透明性が高度に高く、かつ粗大粒子およびDEG含有量が低く、耐熱性に優れており極めて好品質であることがわかる。また、オリゴマーの濾過性も良好であり、操業性にもすぐれており、経済性も高いことがわかる。
比較例1
実施例1の方法において、酢酸マグネシウム四水塩、酢酸ナトリウムおよびトリメチルホスフェートのそれぞれのEG溶液の添加を取りやめる以外、実施例1と同じ方法により得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、透明性、DEG含有量、耐熱性およびオリゴマーの濾過性は良好であるが、静電密着性が極めて悪い。
比較例2
実施例1の方法において、酢酸ナトリウムおよびトリメチルホスフエートのEG溶液の添加を取りやめる以外、実施例1と同じ方法により得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、DEG含有量およびオリゴマーの濾過性は良好であり、また静電密着性も比較的良好であるが、耐熱性および透明性が悪い。
比較例3
実施例1の方法において、酢酸マグネシウム四水塩およびトリメチルホスフェートのEG溶液の添加を取りやめる以外、実施例1と同じ方法により得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、透明性、DEG含有量、耐熱性およびオリゴマーの濾過性は良好であるが、静電密着性が極めて悪い。
比較例4
実施例1の方法において、酢酸マグネシウム四水塩および酢酸ナトリウムのEG溶液の添加を第1エステル化反応缶から第2エステル化反応缶へ移す以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、静電密着性、透明性および耐熱性は良好であるが、オリゴマーの濾過性が極端に悪い。また、DEG含有量も高い。
比較例5
実施例1の方法において、第1エステル化反応缶へ添加する酢酸マグネシウム四水塩および酢酸ナトリウムのEG溶液をTPAのスラリーへ添加するように変更する以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、透明性、耐熱性およびDEG含有量は良好であるが、静電密着性およびオリゴマーの濾過性が悪い。
比較例6
実施例1の方法において、トリメチルホスフェートのEG溶液の添加を第2エステル化反応缶から第1エステル化反応缶へ移す以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、透明性、耐熱性およびオリゴマーの濾過性は良好であるが、静電密着性が悪いし、DEG含有量も高い。また重合活性の低下が起るために、固有粘度0.620のポリマーを得るためには実施例1の方法よりも重合温度を高くしなければならないという点も劣つている。
比較例7
実施例1の方法において、トリメチルホスフェートのEG添加量をP原子として64ppmから129ppmに増加し、Mg/Pを2.0から1.0に下げる以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、透明性、耐熱性、DEG含有量およびオリゴマーの濾過性は良好であるが、静電密着性が非常に悪い。
比較例8
実施例1の方法において、酢酸ナトリウムのEG溶液の添加を取りやめる以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、透明性およびオリゴマーの濾過性は良好であるが、DEG含有量が極端に高い。また静電密着性や耐熱性も悪い。
比較例9
実施例1の方法において、酢酸ナトリウムのEG溶液の添加をNa金属原子として10ppmから100ppmに増す以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
本比較例の方法は、DEG含有量およびオリゴマーの濾過性は良好であるが、静電密着性、透明性および耐熱性が劣っている。
実施例2?9
実施例1の方法において、P化合物およびアルカリ金属化合物の種類および添加量あるいはアルカリ金属化合物の添加場所を種々変更する以外、実施例1と同じ方法で得たポリマーの品質およびフィルムヘイズを表1に示した。
これらの実施例で得たポリエステルは、いずれも静電密着性や透明性が高度に高く、かつ粗大粒子およびDEG含有量が低く、耐熱性に優れており、極めて好品質であることがわかる。またオリゴマーの濾過性も良好であり、操業性にもすぐれており、経済性も高いことがわかる。

」(5頁右下欄1行?9頁右上欄)

イ 甲1及び甲2に記載された発明

(ア)甲1に記載された発明は、上記(1)イ(ア)に記載したとおりである。甲1発明を再掲する。
甲1発明:
「芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応又はエステル交換反応を経て、少なくともアンチモン化合物と燐化合物の存在下に重縮合させることにより製造されたポリエステル樹脂であって、数平均粒重24mgの粒状体として95℃の熱水中に60分間浸漬させたときのアンチモンの溶出量が、アンチモン原子(Sb)として、ポリエステル樹脂1g当たり1μg以下であり、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Sb/P)が、5.6?30であり、かつポリエステル樹脂中の燐成分の燐原子(P)としての含有量が、0.1?20重量ppmであり、ポリエステル樹脂がマグネシウム化合物の共存下に重縮合され、ポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量が、0.1?100重量ppmであり、かつポリエステル樹脂中のマグネシウム成分のマグネシウム原子(Mg)としての含有量(重量ppm)と燐成分の燐原子(P)としての含有量(重量ppm)との比(Mg/P)が、1.1?3.0であるポリエステル樹脂であって、
ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存下又は非共存下に重縮合され、
ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存化に重縮合されるときは、ポリエステル樹脂中のチタン成分のチタン原子(Ti)としての含有量が、0.25?10重量ppmである、ポリエステル樹脂。」

(イ)甲2に記載された発明は、上記(1)イ(イ)?(エ)に記載したとおりである。甲2発明1?甲2発明3を再掲する。
甲2発明1:
「重縮合触媒とマグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を含むポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムの275℃での溶融比抵抗が0.15?0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)?(3)の条件を満たすポリエステルフィルム。
(1)Mg含有量:当該ポリエステルフィルムに対して15?35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステルフィルムに対して5?15ppm」
甲2発明2:
「比較例2により製造された、Sb含有量160ppm、Mg含有量25ppm、P含有量9ppmである、ポリエステルフィルム」
甲2発明3:
「比較例3により製造された、Sb含有量160ppm、Mg含有量25ppm、Na含有量10ppm、P含有量9ppmである、ポリエステルフィルム」

ウ 本件発明1について
本件発明1は、訂正前の請求項1に係る発明が訂正前の請求項2に記載されていた事項により限定されたものであり、理由2は、訂正前の請求項2に係る発明について甲1?甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを理由としていたので、ここでは、本件発明1が甲1?甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるかを検討する。

(ア)甲1発明との対比・判断

a 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記(1)ウ(ア)aに記載したとおりである。一致点及び相違点1を再掲する。
一致点:
「触媒を含み、前記触媒がアンチモン化合物である、ポリエステル樹脂組成物」
相違点1:
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのように特定されたものではない点」

b 相違点についての検討
相違点1について検討する。

(a)甲1には、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子としての含有量について、請求項7に「ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂」(摘示(1a))と記載され、「ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmであるのが好ましく、30?150重量ppmであるのが更に好ましく、50?110重量ppmであるのが特に好ましい。アンチモン原子としての含有量が前記範囲未満では、重縮合性が不足して生産性の低下を招くと共に、色調も低下し、副生成物も増加する傾向となり、一方、前記範囲超過では、溶出量を抑制することが困難な傾向となる」(摘示(1f)段落【0017】)との記載がある。

(b)ここで、甲1の実施例(摘示(1j))を参照すると、Sb含有量が90ppmである実施例が多数(実施例1?9、ただし、実施例7はマグネシウム化合物を含まないので甲1発明の実施例に当たらない。)を占めているが、それらはTi含有量が2.0ppmであるもの、つまり「ポリエステル樹脂がチタン化合物の共存下に重縮合され」の態様のものである。チタン化合物の量を増減した実施例(実施例10?13)も記載され、Ti含有量6.0ppmではSb含有量50ppm、Ti含有量3.0ppmではSb含有量70ppm、Ti含有量1.0ppmではSb含有量110ppm、Ti含有量0.5ppmではSb含有量150ppmで、所望の物性を有するポリエステル樹脂を製造したことが記載され、これらの例では、Ti含有量が少なくなるほどSb含有量を増大させているものといえる。
一方、実施例のうち、触媒が、Ti含有量が0であるもの、つまり「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様では、Sb含有量は、200ppmの量とした例が1例(実施例14)あるだけである。

(c)そうすると、甲1に、上記(a)の一般記載に「ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモン原子(Sb)としての含有量が、10?250重量ppmであるのが好ましく、30?150重量ppmであるのが更に好ましく、50?110重量ppmであるのが特に好ましい」との記載があるとしても、本件発明1の50?150ppmの含量に当たるものについて裏付けられているといえるのは、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の存在下に重縮合され」の態様であって、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非存在下に重縮合され」の態様については、本件発明1に相当する50?150ppmの範囲のアンチモン含量は、裏付けられているとはいえない。
そして、甲1の実施例には、Ti含有量6.0ppmではSb含有量50ppm、Ti含有量3.0ppmではSb含有量70ppm、Ti含有量1.0ppmではSb含有量110ppm、Ti含有量0.5ppmではSb含有量150ppmなどと、Ti含有量が少なくなるほどSb含有量を増大させることが記載され、「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様の唯一の実施例(実施例14)ではSb含有量を200ppmとした例が記載されているのであるから、この「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様につき、200ppmであるSb含有量を、150ppm以下にまで少なくする動機付けとなるものがあるとはいえない。

(d)したがって、本件発明1との上記一致点が導ける、甲1発明のうちの「ポリエステル樹脂がチタン化合物の非共存下に重縮合され」の態様につき、ポリエステル樹脂中のアンチモン成分のアンチモンとしての含有量につき、相違点1に係る「ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり」に相当する量とすることは、甲1には開示されているとはいえない。

(d)したがって、甲1からは、相違点1に係る「ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり」とすることが動機付けられるとはいえない。

(e)次に甲2について検討すると、甲2発明1は、上記(1)ウ(イ)bにおいて相違点2について検討したとおり、本件発明1の静電ピンニング剤に相当する抵抗調整剤として、マグネシウム化合物とカリウム化合物を併用することを必須とする発明であるうえ、実施例を参照すると、重縮合触媒由来のアンチモン含有量は何れも「生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量」である。
甲2の比較例2はマグネシウム化合物単独、比較例3はマグネシウム化合物とナトリウム化合物の併用であるが(甲2発明2及び甲2発明3)、重縮合触媒由来のアンチモン含有量は何れも「生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量」である。
したがって、甲1発明に、甲2に記載された事項を組み合わせても、相違点1に係る「ポリエステル樹脂組成物が、静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む」との構成は導かれない。

(f)次に甲3について検討すると、甲3には、その特許請求の範囲に、
「主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルを直接重合法で製造するに際し、ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよび/またはその低重合体に、テレフタル酸とエチレングリコールとを連続的または間けつ的に供給して1.0Kg/cm^(2) 以下の圧力下にてエステル化反応を行ないついで重縮合を行なう方法において、(1)エステル化率が20?80%の時点でMg化合物をMg原子としてポリエステルに対して30?40ppm、(2)初期縮合反応が終了するまでの間の任意の段階で下記(I)式を満足する量のNaおよびK化合物より選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属化合物および(3)エステル化率が91%以上進行した時点から初期縮合反応が終了するまでの間に下記(II)式を満足する量のP化合物を添加することを特徴とするポリエステルの製造法。
3.0≦M≦50 ……(I)
1.2≦Mg/P≦20 ……(II)
〔式中Mはアルカリ金属化合物のポリエステルに対する金属原子としての添加量(ppm)、Mg/PはMg原子とP原子との原子比を示す。〕」
の発明が記載されている(摘示(3a))。
しかし、上記式(II)のように、リンに対するマグネシウムの量が多く、実施例(摘示(3f))を参照すると、酢酸マグネシウム四水塩の添加量がMg原子として100ppm及び酢酸ナトリウムの添加量がNa原子として10ppmなどと、相違点1に係る本件発明1の「マグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppm」と比べて、何れも多い。
リン化合物の添加量も、実施例を参照すると、P原子として64ppmなどと、相違点1に係る本件発明1の「リンの含量が24ppm以下」と比べて、何れも多い。
アンチモン化合物の添加量も、実施例を参照すると、アンチモン原子としてTPA単位当たり289ppmであり、相違点1に係る本件発明1の「アンチモン含量が50?150ppm」と比べて、何れも多い。
したがって、甲1発明に、甲3に記載された事項を組み合わせても、相違点1に係る「ポリエステル樹脂組成物が、静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む」との構成は導かれない。

c 発明の効果について
本件特許明細書の段落【0022】には、発明の効果として
「本発明によるポリエステル樹脂組成物は、金属成分の含量を制御することで、フィルム製造の際、内部欠点の個数を減らし、且つヘイズが低いフィルムを製造することができる。また、フィルム製造の際、ドライバビリティが安定的であるため、フィルム製膜が可能である。」
と記載され、同段落【0080】?【0151】の実施例1?16及び比較例1?4において、ポリエステル樹脂組成物を、Sb含量、ピンニング剤金属の総含量、P含量、[P]/[Me]当量比を本件発明1の範囲内及び範囲外で変動させて、複数製造し、その物性(メルト抵抗、樹脂色相、欠点個数、ヘイズ)を評価した結果が記載されている。
これらの記載によれば、本件発明1の効果は、金属成分の含量を制御し、請求項1に記載されるように、アンチモン含量を50?150ppm、マグネシウム含量とナトリウム含量との合計量を10?50ppm、そしてリンの含量を24ppm以下とすることで、フィルム製造の際、内部欠点の個数を減らし、且つヘイズが低いフィルムを製造することができる、ポリエステル樹脂組成物を提供できることであると認められる。
このような効果は、アンチモン含量がそれぞれ200ppm、160ppm、289ppmのポリエステル樹脂組成物の具体例しか開示していない甲1?甲3の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲1(主引用例)に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲3の目的・効果が本件発明1の目的・効果と一致することなどを理由に、甲1、甲2、甲3を組み合わせる動機付けがあり、本件発明1は、甲1、甲2、甲3を組み合わせることによって容易に想到する旨主張している。
しかし、甲1?甲3を組み合わせても本件発明1に想到できないことは、上記a?dで述べたとおりであり、特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)甲2発明1との対比・判断

a 本件発明1と甲2発明1との一致点及び相違点は、上記(1)ウ(イ)bに記載したとおりである。一致点及び相違点2を再掲する。
一致点:
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含む、ポリエステル樹脂組成物」
相違点2:
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、触媒がアンチモン化合物であり、静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1 [式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのように特定されたものではない点

b 相違点についての検討
相違点2について検討する。

(a)甲2発明1は、上記(1)ウ(イ)bにおいて相違点2について検討したとおり、本件発明1の静電ピンニング剤に相当する抵抗調整剤として、マグネシウム化合物とカリウム化合物を併用することを必須とする発明であり、カリウム化合物は従来技術のナトリウム化合物より低い溶融比抵抗が実現できるというものである(摘示(2a)(2f))。
したがって、甲2発明1においてカリウム化合物を用いないこととして、相違点2に係る「静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり」との構成とすることは、甲2からは動機付けられない。

(b)次に、甲1からは「ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり」とすることが動機付けられないことは上記(ア)b(a)?(d)で示したとおりである。
また、甲3からは「ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり」とすることが導かれないことは上記(ア)b(f)で示したとおりである。
したがって、甲2発明1に、甲1及び甲3に記載された事項を組み合わせても、相違点2に係る「ポリエステル樹脂組成物が、静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下であり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む」との構成は導かれない。

c 発明の効果について
上記(ア)cで述べたのと同様である。

d したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲2(主引用例)に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

e 特許異議申立人の主張について
上記(ア)eで述べたのと同様である。

(ウ)甲2発明2との対比・判断

a 本件発明1と甲2発明2との一致点及び相違点は、上記(1)ウ(ウ)に記載したとおりである。一致点及び相違点3を再掲する。
一致点:
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、触媒がアンチモン化合物であり、静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下である、ポリエステル樹脂組成物」
相違点3:
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲2発明2においては、上記アンチモン含量が160ppmであり、上記式1の[P]/[Me]は、0.42と計算されるものであって、上記式1を満足しない点

b 相違点についての検討
相違点3について検討する。
甲2発明2は、甲2の特許請求の範囲に記載された発明の比較例として記載された発明であり、そもそも、160ppmであるアンチモン含量を、ポリエステル樹脂組成物の物性を変えるなどのために変動させてみる動機付けとなるものがない。また、同様に、甲1又は甲3に記載された事項を組み合わせてアンチモン含量を変動させてみる動機付けとなるものがない。
したがって、甲2発明2において、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
上記(ア)cで述べたのと同様である。

d したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲2(主引用例)に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

e 特許異議申立人の主張について
上記(ア)eで述べたのと同様である。

(エ)甲2発明3との対比・判断

a 本件発明1と甲2発明3との一致点及び相違点は、上記(1)ウ(エ)に記載したとおりである。一致点及び相違点4を再掲する。
一致点:
「触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含み、触媒がアンチモン化合物であり、静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、ポリエステル樹脂組成物内の静電ピンニング剤のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、ポリエステル樹脂組成物内のリンの含量が24ppm以下である、ポリエステル樹脂組成物」
相違点4:
本件発明1においては、ポリエステル樹脂組成物が、ポリエステル樹脂組成物内の触媒のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記リン化合物を、下記式1
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、ポリエステル樹脂組成物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物の金属のポリエステル樹脂組成物内の総当量を意味する。)
を満たす範囲内で含む、と特定されているのに対し、甲2発明3においては、上記アンチモン含量が160ppmであり、上記式1の[P]/[Me]は、0.35と計算されるものであって、上記式1を満足しない点

b 相違点についての検討
相違点4について検討する。
甲2発明3は、甲2の特許請求の範囲に記載された発明の比較例として記載された発明であり、そもそも、160ppmであるアンチモン含量を、ポリエステル樹脂組成物の物性を変えるなどのために変動させてみる動機付けとなるものがない。また、同様に、甲1又は甲3に記載された事項を組み合わせてアンチモン含量を変動させてみる動機付けとなるものがない。
したがって、甲2発明3において、相違点4に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
上記(ア)cで述べたのと同様である。

d したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲2(主引用例)に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

e 特許異議申立人の主張について
上記(ア)eで述べたのと同様である。

エ 本件発明3及び4について
本件発明3は、本件発明1のポリエステル樹脂組成物において静電ピンニング剤を特定したものであり、本件発明4は、本件発明1のポリエステル樹脂組成物において特定の添加剤をさらに含むことを特定したものであるから、本件発明1と同様に、本件優先日前に頒布された甲1?甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4は、本件優先日前に頒布された甲1?甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1、3、4についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由2によって取り消されるべきものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠並びに平成28年9月30日付けの取消理由通知で通知した取消理由によっては、本件発明1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒及び静電ピンニング剤を含み、且つ熱安定剤としてリン化合物を含むか又は含まず、
前記触媒がアンチモン化合物であり、
前記静電ピンニング剤がマグネシウム化合物であるか、マグネシウム化合物とナトリウム化合物との組み合わせであり、
前記触媒内のアンチモン含量が50?150ppmであり、前記静電ピンニング剤内のマグネシウム含量とナトリウム含量との合計量が10?50ppmであり、前記リン化合物内のリンの含量が24ppm以下であり、
前記リン化合物を、下記式1を満たす範囲内で含む、ポリエステル樹脂組成物。
[式1]
0.5≦[P]/[Me]≦1.5
(前記式1において、[P]は、リン化合物内のリンの当量を意味し、[Me]は、ピンニング剤として使われる金属化合物内の金属の総当量を意味する。)
【請求項2】
削除
【請求項3】
前記静電ピンニング剤が、酢酸マグネシウムであるか、酢酸マグネシウムと酢酸ナトリウムとの組み合わせである請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂組成物は、補助難燃剤、顔料、染料、ガラス繊維、充填剤、耐熱剤、衝撃補助剤、蛍光増白剤、色相改善剤から選択されるいずれか一つ又は二つ以上の添加剤をさらに含む請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂組成物は、無機粒子をさらに含む請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機粒子は、金属化合物でコーティングされたものである請求項5に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂組成物は、448μm×336μm面積内の長軸の長さが1.5μm以上である大きさの欠点個数が4個以下である請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂組成物は、メルト抵抗性が2?8MΩであり、樹脂色相(b値)が4.0以下であり、
前記メルト抵抗性は、0.5gの前記ポリエステル樹脂組成物のチップ(Chip)をテフロン(登録商標)で製作されたフレームの中央溝(1.5cm×1.5cm)に置き、前記チップ(Chip)の上下に両端の長さが一定なアルミニウム電極(ホイル)を連結させてサンプルを製造し、285℃で5分間溶融させた後、0.7?1.0mPaの圧力をかけ、13分後の前記サンプルの電気抵抗値を測定して得られた抵抗値である請求項7に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7に記載のポリエステル樹脂組成物を利用して溶融押出及び延伸して製造されたポリエステルフィルム。
【請求項10】
請求項8に記載のポリエステル樹脂組成物を利用して溶融押出及び延伸して製造されたポリエステルフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-06 
出願番号 特願2014-528311(P2014-528311)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細井 龍史新留 豊  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 中田 とし子
冨永 保
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5856299号(P5856299)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 ポリエステル樹脂組成物及びそれを利用するポリエステルフィルム  
代理人 藤田 和子  
代理人 藤田 和子  

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