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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01Q 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01Q |
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管理番号 | 1326989 |
異議申立番号 | 異議2016-700811 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-02 |
確定日 | 2017-04-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5876863号発明「複合アンテナ装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5876863号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5876863号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は,平成25年12月11日に特許出願され,平成28年1月29日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 吉田 愛 により特許異議の申立てがされ,当審において同年12月27日付けで取消理由を通知し,平成29年3月7日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 特許第5876863号の請求項1ないし8の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし8記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 複数の周波数帯の信号を受信可能な複合アンテナ装置であって,該複合アンテナ装置は, 一方の端部が共通給電部に接続される第1同調コイル部であって,第1周波数帯用のエレメントの一部として機能する第1同調コイル部と, 一方の端部が共通給電部に接続される第2同調コイル部であって,第1周波数帯よりも高い第2周波数帯用のエレメントの一部として機能する第2同調コイル部と, 前記第1同調コイル部と第2同調コイル部が共通給電部に接続される一方の端部側と反対側の他方の端部に接続され,第1周波数帯及び第2周波数帯用のエレメントの一部として機能すると共に,第1周波数帯よりも低い第3周波数帯用のエレメントとしても機能する共通トップ容量部と, を具備することを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項2】 請求項1に記載の複合アンテナ装置において,前記第1同調コイル部は,第1周波数帯以外の周波数帯を減衰させるフィルタとしても機能することを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項3】 請求項1に記載の複合アンテナ装置において,前記第2同調コイル部は,第2周波数帯以外の周波数帯を減衰させるフィルタとしても機能することを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項4】 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の複合アンテナ装置であって,さらに,共通給電部とは異なる給電部に接続され,第2周波数帯よりも高い第4周波数帯用のエレメントを具備することを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項5】 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の複合アンテナ装置において,第1同調コイル部又は第2同調コイル部の一部は,第2周波数帯よりも高い第4周波数帯用のエレメントとしても機能することを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項6】 請求項1乃至請求項5の何れかに記載の複合アンテナ装置において,前記第1同調コイル部及び/又は第2同調コイル部は,コイルとコンデンサの直列接続回路又は並列接続回路からなることを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項7】 請求項1乃至請求項6の何れかに記載の複合アンテナ装置において,前記第1同調コイル部及び/又は第2同調コイル部の軸方向が,シャークフィン形状のカバーの稜線に沿って配置されることを特徴とする複合アンテナ装置。 【請求項8】 請求項1乃至請求項7の何れかに記載の複合アンテナ装置において,前記第1同調コイル部と第2同調コイル部が,所定のコイルを介して共通トップ容量部に接続されることを特徴とする複合アンテナ装置。」 第3 取消理由の概要 当審において通知した取消理由の要旨は,以下のとおりである。 「本件特許は,明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (前略) 本件特許1に係る複合アンテナ装置は,2つの周波数帯で同調することができないと解されるから,前記【0023】に記載されているように,「第1同調コイル部10と共通トップ容量部30とで,共振アンテナとしてFM周波数帯を受信するように構成されている。また,第2同調コイル部20と共通トップ容量部30とで,共振アンテナとしてBand-IIIの周波数帯を受信するように構成されている。」といえる技術的理由が不明である。すなわち,前記第1同調コイル部10と前記第2同調コイル部20とが並列接続されているにもかかわらず,各々独立に動作する合理的理由が不明である。」 第4 取消理由に対する判断 特許権者は,平成29年3月7日付け意見書において,以下のとおり釈明している。 「本件特許では,第1同調コイル部10と第2同調コイル部20のように異なる周波数用のコイルは,トラップコイル(チョークコイル)として働くことになる。ここで,トラップコイルとは,コイルの周波数特性が自己共振周波数より低い周波数ではインダクタ成分となり,高い周波数ではキャパシタ成分となることを利用して,所定の周波数の信号を遮断したり通したりすることが可能なものである。」及び, 「また,第1同調コイル部10と第2同調コイル部20のように異なる周波数用のコイルは,異なる周波数用であるが故,コイルの長さ,即ち,アンテナ長も異なるものである。アンテナ長が異なるということは,コイルの長さや巻数も異なるということである。したがって,第1同調コイル部10と第2同調コイル部20は,それぞれのインダクタンス値や線間容量も異なるものとなる。これにより,トラップコイルとして働く。具体的には,本件特許の【0024】段落にも記載されているように,第1同調コイル部10は,第1周波数帯以外の周波数帯を減衰させるフィルタとしても機能するようになる。即ち,第1同調コイル部10は,FM周波数帯のみを通すように構成されている。そして,第2同調コイル部20は,第2周波数帯以外の周波数帯を減衰させるフィルタとしても機能するようになる。即ち,第2同調コイル部20は,Band-IIIの周波数帯のみを通すように構成されている。換言すると,第1周波数帯を受信時には,第2同調コイル部はフィルタとして機能し,第1周波数帯を減衰させる。また,第2周波数帯を受信時には,第1同調コイル部10はフィルタとして機能し,第2周波数帯を減衰させる。 一方,アンテナ素子としてみた場合には,第1同調コイル部10と共通トップ容量部30とで,共振アンテナとしてFM周波数帯を受信するように構成されている。また,第2同調コイル部20と共通容量トップ部30とで,共振アンテナとしてBand-IIIの周波数帯を受信するように構成されている。そして,共通容量トップ部30が,容量アンテナとしてAM周波数帯を受信するように構成されている。 このように,本件特許では,第1同調コイル部10と第2同調コイル部20を並列接続することにより,第1周波数帯や第2周波数帯のそれぞれの周波数帯に対して,同調コイル機能,アンテナ素子機能,トラップ機能,フィルタ機能といった複数の機能を持たせつつ,複数の周波数帯で同調する複合アンテナとしている。」 以上の釈明により,「前記第1同調コイル部10と前記第2同調コイル部20とが並列接続されているにもかかわらず,各々独立に動作する」ことの理由が明らかとなり,前記取消理由は解消した。 第5 申立理由の概要 特許異議申立人は,主たる証拠として特許第5654917号公報(甲第1号証),従たる証拠として特開2001-217626号公報(甲第2号証),特開2002-368536号公報(甲第3号証),特開2002-064329号公報(甲第4号証),特開平7-221529号公報(甲第5号証),特許第4101804号公報(甲第6号証)及び中国特許出願公開第101000977号公報(甲第7号証)を提出し,請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり,請求項1に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,請求項1ないし8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 第6 甲各号証の記載 甲第1号証(特に,【0021】-【0023】,図5,図6)には,以下の発明が記載されている。 「AMラジオ帯とFMラジオ帯とを受信できるアンテナ装置であって, 下端がリード線を介して給電ターミナル15に接続されるコイル14であって,前記FMラジオ帯用のエレメントの一部として機能するコイル14と, 前記コイル14の上端がリード線を介して接続され,前記FMラジオ帯用のエレメントの一部として機能すると共に,前記AMラジオ帯用のエレメントとしても機能する傘型エレメント13と, を具備するアンテナ装置。」 甲第2号証(特に,図1及びその説明箇所)には,以下の発明が記載されている。 「複数の周波数帯域で使用することができるアンテナ装置1であって, 一方の端部が同軸ケーブル21に接続され,トロイダルコア15と,一次コイルL3と,二次コイルL4とから形成される高インダクタンス回路15及びローパスフィルタ14からなる第1の部分であって,MF帯用のエレメントの一部として機能する第1の部分と, 一方の端部が同軸ケーブル21に接続され,キャパシタC1とインダクタL1とを含む複数周波数選択回路12及びハイパスフィルタ13からなる第2の部分であって,MF帯よりも高いVHF帯及び/又はUHF帯のエレメントの一部として機能する第2の部分と, 前記第1の部分と前記第2の部分とが前記同軸ケーブル21に接続される一方の端部側と反対の端部に接続され,MF帯及びVHF帯及び/又はUHF帯のエレメントの一部として機能するアンテナ素子11と, を具備するアンテナ装置。」 第7 申立理由に対する判断 1.特許法第29条第2項について (1)請求項1に係る発明ついて 請求項1に係る発明は,申立理由において,甲第1号証に記載された甲1発明と甲第2号証に記載された甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであると主張しているので,以下検討する。 請求項1に係る発明と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「傘型エレメント13」は請求項1に係る発明の「共通容量トップ部」に相当し,甲1発明の「コイル14」が請求項1に係る発明の「第1同調コイル部」に相当するから,両発明は,以下の相違点を有する。 <相違点> 請求項1に係る発明は,さらに,「一方の端部が共通給電部に接続される第2同調コイル部であって,第1周波数帯よりも高い第2周波数帯用のエレメントの一部として機能する第2同調コイル部」を備え,前記第2周波数帯は,「第3周波数帯用のエレメントとしても機能する共通トップ容量部」の「第3周波数帯」よりも高い周波数帯であるのに対し,甲1発明は,前記「第2同調コイル部」に対応する構成を有しない点。 上記相違点について検討する。 甲2発明は,「VHF帯あるいはUHF帯の他に,AMラジオ放送のような,MF帯の高周波信号をも高感度で送受信可能な,複数バンド送受信のアンテナ装置を提供することを目的」(【0009】)としており,そのために,甲2発明では,VHF帯及び/又はUHF帯を受信する第2の部分と並列する第1の部分に高いインダクタンス値を示す高インダクタンス回路15を設け,アンテナ素子11の電気長を長くすることで,前記MF帯での使用を可能とする(【0024】)ものである。 そうすると,甲1発明に甲2発明を適用したとしても,甲1発明のコイル14と並列に配置されることになる高インダクタンス回路は,前記傘型エレメント13の電気長を長くするためのものとなり,その場合,前記傘型エレメントが単体で機能する第3周波数帯よりも低い周波数帯で機能することとなり,前記第2周波数帯が前記第3周波数帯よりも高い周波数帯であるとする前記相違点に係る請求項1に係る発明の構成を充足することはできない。 さらに,甲第3号証ないし甲第7号証に記載された事項を勘案しても,前記相違点に係る請求項1に係る発明の構成を充足することはできないことは,明らかである。 よって,請求項1に係る発明は,甲1発明と甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)請求項2ないし8に係る発明について 請求項2ないし8に係る発明は,請求項1に係る発明を限縮した発明であって,上記甲1発明に対して上記相違点を有するから,請求項1に係る発明と同様の理由により,甲1発明及び甲2発明に基づいて,甲第3号証ないし甲第7号証に記載された事項を勘案しても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.特許法第36条第4項第1号について 申立理由は,「第3 取消理由の概要」の項に記載した取消理由と同じ理由であり,「第4 取消理由に対する判断」の項に記載した理由と同じ理由により解消した。 第8 むすび したがって,請求項1ないし8に係る特許は,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,取り消すことができない。 また,他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-03-30 |
出願番号 | 特願2013-255825(P2013-255825) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(H01Q)
P 1 651・ 121- Y (H01Q) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 当秀 |
特許庁審判長 |
大塚 良平 |
特許庁審判官 |
林 毅 中野 浩昌 |
登録日 | 2016-01-29 |
登録番号 | 特許第5876863号(P5876863) |
権利者 | 原田工業株式会社 |
発明の名称 | 複合アンテナ装置 |
代理人 | 生井 和平 |