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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2018700078 審決 特許
異議2017700366 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特174条1項  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1326998
異議申立番号 異議2017-700054  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-20 
確定日 2017-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5955367号発明「モノマー溶液の液滴の重合による、高い透過性を有する吸水性ポリマー粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5955367号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5955367号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、国際出願日である2007年7月11日(パリ条約による優先権主張 2006年7月19日 欧州特許庁)にされたとみなされる特許出願(特願2009-519936号)の一部を新たに特許出願したものであって、平成28年6月24日に設定登録がされ、平成28年7月20日に特許掲載公報が発行され、平成29年1月20日に特許異議申立人株式会社日本触媒(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであって、次のとおりのものである。

「【請求項1】
吸水性ポリマー粒子であって、
少なくとも一部が、重合された、酸基を有するモノマーa)からなり、ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり、かつ、前記の重合されたモノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されており、
少なくとも0.84の平均球形度を有するとともに、250?600μmの平均直径を有し、かつ、0.005質量%未満の疎水性溶剤の含有率を有し、ここで、該疎水性溶剤は、水中での溶解度が5g/100g未満であり、かつ、少なくとも5×10^(-7)cm^(3)s/gの透過性を有し、かつ、
該ポリマー粒子は、その少なくとも0.5質量%の範囲が、重合導入された架橋剤b)で構成されている
吸水性ポリマー粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のポリマー粒子であって、該ポリマー粒子が少なくとも10g/gの遠心保持能力を有することを特徴とするポリマー粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリマー粒子であって、該ポリマー粒子の少なくとも90質量%が、100?800μmの直径を有することを特徴とするポリマー粒子。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のポリマー粒子であって、該ポリマー粒子が、300?500μmの平均直径を有することを特徴とするポリマー粒子。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のポリマー粒子であって、該ポリマー粒子は、その少なくとも0.6質量%の範囲が、重合導入された架橋剤b)で構成されていることを特徴とするポリマー粒子。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のポリマー粒子であって、該ポリマー粒子が、少なくとも30g/gの遠心保持能力を有することを特徴とするポリマー粒子。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のポリマー粒子の使用であって、衛生製品の製造のための使用。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のポリマー粒子を含有する衛生製品。」
(請求項1ないし8に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。

1 取消理由1(特許法第17条の2第3項:新規事項の追加)
本件特許の請求項1ないし8に係る各特許発明について、平成27年12月24日付け手続補正書によりされた補正(以下「本件補正」という。)が、本願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下併せて「本願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でされたものでなく、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正がされた特許出願であるから、その特許は同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(特許法第29条第2項:進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る各発明は、甲第1号証、甲第4号証、甲第7号証、または甲第9号証を主たる引用文献とした場合に、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

3 取消理由3(特許法第36条第4項第1号:委任省令要件及び実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る各特許発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

4 取消理由4(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る各特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

5 取消理由5(特許法第36条第6項第2号:明確性)
本件特許の請求項1ないし8に係る各特許発明について、本件特許の請求項1ないし8の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

・異議申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2000-302876号公報
甲第2号証:実験成績証明書(作成者:鳥井一司(株式会社日本触媒 吸水性樹脂研究所))
甲第3号証:実験成績証明書(作成者:石崎邦彦(株式会社日本触媒 吸水性樹脂研究所))
甲第4号証:特開2005-288265号公報
甲第5号証:特開2003-183326号公報
甲第6号証:特開2004-290960号公報
甲第7号証:特表2008-521952号公報
甲第8号証:特開平2-138306号公報
甲第9号証:特開2005-111474号公報
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第9号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲9」と略していう。)

第4 当審の判断
1 取消理由1(新規事項の追加)について
(1)異議申立人の主張の内容
本件発明1に係る吸水性ポリマー粒子について、「該ポリマー粒子は、その少なくとも0.5質量%の範囲が重合導入された架橋剤b)で構成されている」という技術的事項を含むが、当該技術的事項は平成26年19月30日付け手続補正書による補正における請求項4の新設に伴って特許請求の範囲に新たに導入されたものであり、平成27年12月24日付け手続補正書による補正により請求項1に付加されたものである。
ここで、本件特許の出願時の請求項1及び明細書の発明の詳細な説明では、ポリマー粒子を製造する際の「モノマー溶液がモノマーa)に対して少なくとも0.5質量%の架橋剤b)を含有する」と規定されていたのに対して、本件発明1の「該ポリマー粒子は、その少なくとも0.5質量%の範囲が、重合導入された架橋剤b)で構成されている」という技術的事項は「ポリマー粒子の全質量の0.5質量%以上が『重合導入された架橋剤b)』で構成されている」ことを意味するものと解されるところ、本件明細書にはそのような技術的事項に関する記載は存在しない。
そして、「重合導入された架橋剤b)」の量を規定するための基準を本件特許の当初明細書に記載されていた「モノマーa)」かとは異なる「ポリマー粒子」へ変更することは、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件補正は新規事項を追加するものに該当する。

(2)当審の判断
本件出願当初の特許請求の範囲には次の記載がある。
「【請求項12】
少なくとも0.84の平均球形度を有し、0.005質量%未満の疎水性溶剤の含有率を有し、かつ少なくとも5×10^(-7)cm^(3)s/gの透過性を有する吸水性ポリマー粒子。
・・・
【請求項19】
請求項11から18までのいずれか1項に記載のポリマー粒子であって、該ポリマー粒子の少なくとも0.5質量%が、重合導入された架橋剤b)からなることを特徴とするポリマー粒子。」
そうすると、本件出願当初の請求項12を引用する請求項19に係る発明の「ポリマー粒子」においては、「該ポリマー粒子の少なくとも0.5質量%が、重合導入された架橋剤b)からなること」が規定されているから、上記異議申立人が新たな技術的事項として主張する事項は、本願当初明細書等に記載されおり、本願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと認められる。

したがって、本件補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであって、特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たしている。

よって、取消理由1には、理由がない。

2 取消理由2(進歩性)について
(1)甲各号証の記載事項
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。
(a-1)「【請求項1】嵩比重が0.74(g/ml)以上であり、かつ、0.9重量%生理食塩水に対する0.7psi(4.83kPa)加圧下の吸水倍率が20(g/g)以上である、不定形破砕状吸水性樹脂粉末。
【請求項5】水溶液重合工程を経て吸水性の架橋重合体粒子を得る吸水性樹脂粉末の製造方法において、前記架橋重合体粒子を嵩比重が0.72(g/ml)以上に増大するまで研磨する工程を含むことを特徴とする、不定形破砕状吸水性樹脂粉末の製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1、5)

(a-2)「【0005】従って、本発明の目的は、加圧下において高い通液性を有し、かつ、加圧下においても無加圧下においても吸水性の高い吸水性樹脂粉末の製造方法と、該吸水性樹脂粉末、それを用いた吸収体および吸収性物品を提供することにある。また、本発明の目的は、製造プロセスや製造後、(空気)輸送や、吸収性物品に組み込む際に物性低下の少ない耐衝撃性に優れた吸水性樹脂粉末を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った。その結果、吸水性樹脂の通液性が不十分である原因は、該樹脂粒子が不定形破砕状であり、表面に角ばった部分やヒダヒダの部分があるために、通常、数万から数十万粒以上の該樹脂粒子を含む吸収体や吸収性物品において粒子間の通液可能な空間が不均一となっていることであると考えた。また、粒子表面の角ばった部分やヒダヒダの部分が弱いために、耐衝撃性が低下していると考えた。そして、上記原因を解消するための手段として、樹脂粒子の表面を研磨した後に表面架橋することを着想し、実際に研磨した後に樹脂粒子を表面架橋したところ、吸水性は従来のレベルを保持したまま、加圧下通液性が従来に比べて顕著に向上することを見いだした。また、表面を研磨した吸水性樹脂粉末は、製造プロセスや製造後、(空気)輸送や、吸収性物品に組み込む際に物性低下の少ない耐衝撃性に優れた吸水性樹脂粉末であることを見い出した。さらに、上記方法を用いると、高吸水性を有し、かつ、嵩比重が高い、新規な吸水性樹脂粉末が得られることも見つけた。また、不定形破砕状で嵩比重が高い吸水性樹脂粉末は、充填した際の空間が少ないことにもかかわらず、驚くべきことに、粒子間の加圧下の通液性がかえって向上することを見い出した。」(段落【0005】、【0006】)

(a-3)「このような架橋重合体としては、ポリアクリル酸部分中和物架橋体、デンプン-アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、デンプン-アクリル酸グラフト重合体の加水分解物、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体のケン化物、アクリロニトリル共重合体もしくはアクリルアミド共重合体の加水分解物又はこれらの架橋体、カルボキシル基含有架橋ポリビニルアルコール変性物、架橋イソブチレンー無水マレイン酸共重合体等の1種または2種以上を挙げることができる。これらの架橋重合体は、1種または混合物でも用いられるが、中でもカルボキシル基を有するものの1種またはその混合物が好ましく、典型的にはアクリル酸及び/又はその塩(中和物)を主成分とする単量体を重合・架橋することにより得られる重合体が主成分とされる。」(段落【0010】)

(a-4)「本発明に用いられる架橋重合体を得るために上述の単量体を重合するに際しては、バルク重合や沈殿重合を行うことが可能であるが、性能面や重合の制御の容易さ、さらに膨潤ゲルの通液性の観点から、上記単量体を水溶液とすることによる水溶液重合が好ましい。」(段落【0013】)

(a-5)「これら内部架橋剤の具体例としては、例えば、N,N-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0018】これら内部架橋剤は、単独で用いてもよく、適宜2種類以上を混合して用いてもよい。また、これら内部架橋剤は、反応系に一括添加してもよく、分割添加してもよい。少なくとも1種または2種類以上の内部架橋剤を使用する場合には、最終的に得られる吸水性樹脂粉末の吸収特性等を考慮して、2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を重合時に必須に用いることが好ましい。これら内部架橋剤の使用量は、前記単量体に対して、0.005モル%?2モル%の範囲内であることが好ましく、0.02モル%?0.5モル%の範囲内とすることがより好ましく、0.04モル%?0.2モル%の範囲内とすることがさらに好ましい。」(段落【0017】、【0018】)

(a-6)「【0065】-参考例1-
シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5500g(単量体濃度33重量%)にポリエチレングリコールジアクリレート2.50gを溶解した反応液に、過硫酸アンモニウム2.4gおよびL-アスコルビン酸0.12gを攪拌しながら添加したところ、およそ1分後に重合が開始した。そして、生成したゲルを粉砕しながら、30?80°Cで重合を行い、重合が開始して60分後に含水ゲル状架橋重合体(1)を取り出した。
【0066】得られた含水ゲル状架橋重合体(1)は、その径が約5mm以下に細分化されていた。この細分化された含水ゲル状架橋重合体(1)を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、150°Cで90分間熱風乾燥することによって架橋重合体である吸水性樹脂(A)を得た。」(段落【0065】、【0066】)

(a-7)「-実施例1-
参考例1で得られた架橋重合体である吸水性樹脂(A)をハンマーミル(ロストル:穴の径3mm)で粉砕した後、吸水性樹脂150gをホモジナイザー(日本精機社製、高速ホモジナイザー、Model:MX-7)に入れ、回転数6000rpmで約1時間研磨した。得られた吸水性樹脂をJIS標準ふるい(目開き850,212μm)でふるい、850?212μmの粒度に分級した。得られた不定形破砕状の吸水性樹脂粉末(1)の無加圧下吸水倍率、可溶分量、嵩比重、平均粒径を測定した結果を表1に示した。また、得られた不定形破砕状の吸水性樹脂粉末(1)の粒子構造を示す電子顕微鏡写真を図8に示した。」(段落【0068】)

(a-8)「

」(段落【0075】 表1)

(a-9)「-実施例6-
実施例1で得られた不定形破砕状吸水性樹脂粉末(1)100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03重量部、プロピレングリコール1重量部、水3重量部、2-プロパノール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記混合物を185°Cで30分間加熱処理して、不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)を得た。得られた不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)の無加圧下吸水倍率、加圧下吸水倍率、加圧下通液量、固形分、嵩比重を測定した結果を表2に示した。」(段落【0076】)

(a-10)「

」(段落【0083】 表2)

イ 甲2には以下の事項が記載されている。
(b-1)「甲1号証の図8に記載された不定形破片状吸水性樹脂粉末(1)の平均球形度は『0.90』であった。」

ウ 甲3には以下の事項が記載されている。
(c-1)「甲1号証の段落「0065」?「0066」(参考例1)、段落「0068」(実施例1)、および段落「0076」(実施例6)の記載に従い、「不定形破片状吸水性樹脂粉末(6)」を得た。
・・・
このようにして得られた、「不定形破片状吸水性樹脂粉末(6)」について、本件特許明細書の段落「0111」?「0112」(液体通過性(SFC食塩水の流れの誘導))の記載及び当該段落「0111」が参照しているEP-A0640330(欧州特許出願公開第0640330号明細書)の記載に従い、いわゆる通液性の指標である「SFC(食塩水流れ誘導性)」を測定した。

6.結果
不定形破片状吸水性樹脂粉末(6)について測定されたSFCの値は『38[×10^(-7)cm^(3)s/g]』であった。」

エ 甲4には、以下の事項が記載されている。
(d-1)「【請求項1】
水溶性エチレン性不飽和モノマーを重合して得られ内部に架橋構造を有する吸水性樹脂粒子を必須とする水性液吸収剤であって、該水性液吸収剤は、吸収速度(FSR)が0.2g/g/s以上、吸水倍率(CRC)が5?25g/g、生理食塩水流れ誘導性(SFC)が400×10^(-7)cm^(3)・s/g以上、そして、湿潤下粒子間間隙率(Wet Porosity)が20%以上である、ことを特徴とする水性液吸収剤。
【請求項6】
水溶性エチレン性不飽和モノマーと該モノマーに対して0.2モル%以上の内部架橋剤を含むモノマー水溶液を調製する工程、前記モノマー水溶液中の水溶性エチレン性不飽和モノマーを重合させるとともに内部架橋させて含水ゲルを形成する工程、前記含水ゲルを孔径0.3?6.4mmの多孔構造から押し出すことにより粉砕して粉砕ゲル粒子を得る工程、および、前記粉砕ゲル粒子を乾燥して吸水性樹脂粒子を得る工程を含む、吸水性樹脂粒子を必須として含む水性液吸収剤の製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1、6)

(d-2)「本発明によれば、例えば、おむつなどの衛生材料中の吸収体を本発明にかかる水性液吸収剤を含んで構成することで、水性液をすばやく吸収することができ、また、水性液をより広い範囲に拡散することができ、さらに、水性液吸収剤が吸収した水性液以上の量の水性液を保持できるので、衛生材料を薄型化できるなど、衛生材料用途その他の用途において顕著な働きをすることができる。」(段落【0007】)

(d-3)「水溶性エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有水溶性モノマー、スルホン酸基含有水溶性モノマー、アミド基含有水溶性モノマーなどが挙げられ、好ましくは、カルボキシル基含有水溶性モノマー、特に好ましくはアクリル酸および/またはその塩である。
本発明で用いることができる吸水性樹脂粒子は、アクリル酸および/またはその塩を含む単量体を重合して得られるポリアクリル酸(塩)系架橋重合体からなる吸水性樹脂粒子であることが好ましい。」(段落【0013】)

(d-4)「本発明において用いることができる吸水性樹脂粒子は、本発明の効果を十分に発揮させるために、高架橋の重合体であることが好ましい。内部架橋剤の使用量としては、全単量体(内部架橋剤以外の水溶性エチレン性不飽和モノマー)に対して0.005?3モル%が好ましく、より好ましくは0.01?2モル%、さらに好ましくは0.2?2モル%、特に好ましくは0.4?1.5モル%である。特に、全単量体(水溶性エチレン性不飽和モノマー)に対して0.2モル%以上の内部架橋剤を用いると、本発明の効果がより一層発揮できるために好ましい。」(段落【0017】)

(d-5)「本発明に用いることができる吸水性樹脂粒子を得るために、上記した水溶性エチレン性不飽和モノマー、好ましくは、アクリル酸および/またはその塩を主成分とする単量体を重合するに際しては、バルク重合、逆相懸濁重合、沈澱重合を行うことも可能であるが、性能面や重合の制御の容易さから、単量体を水溶液として、水溶液重合を行うことが好ましい。」(段落【0019】)

(d-6)「含水ゲルまたは粉砕ゲル粒子を、好ましくは乾燥した後に、粉砕する条件は、特に限定されないが、例えば、ロールミル、ハンマーミル等、従来から知られている粉砕機を使用することができる。粉砕によって得られる形状は、不定形破砕状であることが好ましく、一部、表面積が大きくて造粒された形状の粒子を含んでいることがより好ましい。
本発明において用いることができる吸水性樹脂粒子は、例えば、さらに分級することなどによって、重量平均粒子径を好ましくは150?500μm、より好ましくは200?400μm、さらに好ましくは250?380μmに調整する。」(段落【0027】)

(d-7)「本発明にかかる水性液吸収剤は、生理食塩水流れ誘導性(SFC)が400×10^(-7)cm^(3)・s/g以上であり、より好ましくは500×10^(-7)cm^(3)・s/g以上、さらに好ましくは700×10^(-7)cm^(3)・s/g以上、特に好ましくは1000×10^(-7)cm^(3)・s/g以上である。」(段落【0038】)

(d-8)「〔実施例1〕
(操作1-1)
断熱材である発泡スチロールで覆われた、内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸190.18g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)6.9g(0.5モル%)、および1.0重量%ジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム水溶液1.13gを混合した溶液(A)と、48.5重量%水酸化ナトリウム水溶液130.60gと50℃に調温したイオン交換水166.80gを混合した溶液(B)を作成した。マグネチックスターラーで攪拌した溶液(A)に、溶液(B)をすばやく加え混合することで単量体水溶液(C)を得た。単量体水溶液(C)は、中和熱と溶解熱により、液温が約100℃まで上昇した。
【0059】
次に、この単量体水溶液(C)に3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液4.4gを加え、数秒間攪拌した後すぐに、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000、(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注いだ。ステンレス製バット型容器は、そのサイズが底面250×250mm、上面640×640mm、高さ50mmであり、中心断面が台形で、上面が開放されている。
単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始した。水蒸気を発生し上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮した。この膨張収縮は約1分以内に終了し、4分間重合容器中に保持した後、含水重合体(含水ゲル)を取り出した。なお、これら一連の操作は大気中に開放された系で行った。
【0060】
(操作1-2)
得られた含水重合体(含水ゲル)を幅3cmの短冊状に切った後、球面状ダイを有する前押し出し式スクリュー型押し出し造粒機(ドームグラン、不二パウダル株式会社製、MODEL:DG-L1、ダイ孔径=1.2mm、ダイ厚み1.2mm、押し出し作用部とダイの隙間=1mm)により粉砕および造粒し、細分化された含水重合体(粉砕ゲル粒子)を得た。押し出し造粒機で粉砕および造粒する際、含水重合体を300g/分で供給し、同時に純水を90g/分で添加しながら粉砕および造粒を行った。なお、スクリューの回転数は50rpmで行った。
【0061】
(操作1-3)
この細分化された粉砕ゲル粒子を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、180℃で40min間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmと目開き150μmのJIS標準篩で分級することにより、重量平均粒子径324μm、対数標準偏差(σζ)0.32の不定形破砕状の吸水性樹脂(固形分96重量%)を得た。
(操作1-4)
得られた吸水性樹脂100重量部に1,4-ブタンジオール0.3重量部、プロピレングリコール0.6重量部、純水3.0重量部、イソプロピルアルコール1.0重量部の混合液からなる表面処理剤溶液を均一に混合した。表面架橋剤溶液を混合した吸水性樹脂をステンレス製の容器(幅約22cm、奥行き約28cm、高さ約5cm)に均一に広げ、200℃に調温した熱風乾燥器(ETAC社、MODEL:HISPEC HT320)で30分間加熱処理した。加熱処理後、得られた吸水性樹脂を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕することで、表面が架橋された吸水性樹脂を得た。
【0062】
(操作1-5)
得られた表面が架橋された吸水性樹脂100重量部に硫酸アルミニウム水和物(13?14水和物、住友化学工業株式会社より入手)1重量部を均一に混合し、水性液吸収剤(1)を得た。水性液吸収剤(1)の諸物性を表1に示す。 」(段落【0058】?【0062】)

(d-9)「

」(段落【0088】 表1)

オ 甲5には、以下の事項が記載されている。
(e-1)「カルボキシル基を有する親水性不飽和単量体を架橋剤(A)の存在下に重合する吸水性樹脂の製造方法であって、該架橋剤(A)が重合性不飽和結合を2個以上有しかつヒドロキシル基を含まない架橋剤(a1)、および重合性不飽和結合を2個以上有しかつヒドロキシル基を有する架橋剤(a2)よりなり、該架橋剤(a1)と該架橋剤(a2)の割合(重量比)が95?50/5?50であり、重合後さらに150?220℃で加熱処理することで平均粒子径300?600μmの粒子状粉体とすることを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1)

(e-2)「目的とする吸水性樹脂が高いゲル強度を有し、液の拡散性にも優れたものである場合には、一般に架橋剤の使用量を増加させる必要がある。」(段落【0007】)

(e-3)「好ましくは架橋剤(a1)と架橋剤(a2)の割合が90?60/10?40である。またその使用量はカルボキシル基を有する親水性不飽和単量体に対して架橋剤(A)として0.05?1モル%程度である事が好ましい。」(段落【0032】)

(e-4)「(実施例1)アクリル酸414gに、参考例1で得られた、架橋剤(a1)としてのトリメチロールプロパントリアクリレートと、架橋剤(a2)としてのトリメチロールプロパンジアクリレートの割合が、重量比で88/12である架橋剤(A-1)4.77gを溶解させ、アクリル酸ナトリウムの37重量%水溶液4382gさらにイオン交換水669gを加えて、内容積10Lでシグマ型羽根を2本有するジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋をつけた反応器に供給し、単量体を30℃の温度に保ち窒素ガスで系を窒素置換した。系を30℃の温度に保ち、撹拌下過硫酸ナトリウム2.40gとl-アスコルビン酸0.12gを添加して重合を開始させた。重合を開始して60分後に含水ゲル状重合体を取り出した。得られた含水ゲル状重合体の細分化物を、50メッシュの金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥した。乾燥物を振動ミルを用いて粉砕し、更に20メッシュで分級し、含水率8%の不定形破砕状で、平均粒子径が370μmの吸水性樹脂(1)を得た。」(段落【0057】)

カ 甲6には、以下の事項が記載されている。
(f-1)「【請求項1】
水溶性不飽和単量体の架橋重合体である吸水性樹脂を含有する粒子状吸水剤であって、
106μm以上850μm未満の粒子径を有する粒子状の吸水性樹脂が、吸水性樹脂の全質量に対して90質量%以上含まれており、下記(式1)
(塩濃度吸収指数)=(一定塩濃度水溶液に対する4.83kPaでの加圧下吸収倍率)/(一定塩濃度水溶液に対する無荷重下吸収倍率) ・・(式1)
(式中、上記加圧下吸収倍率は、4.83kPaの加圧下にて、一定塩濃度水溶液に60分間浸漬した場合の吸収倍率であり、上記無荷重下吸収倍率は、無加圧下にて、一定塩濃度水溶液に60分間浸漬した場合の吸収倍率である)にて、上記一定塩濃度水溶液がイオン交換水である場合の塩濃度吸収指数である第一塩濃度吸収指数が、0.60以上であることを特徴とする粒子状吸水剤。
【請求項2】
水溶性不飽和単量体の架橋重合体である吸水性樹脂を含有する粒子状吸水剤であって、
106μm以上850μm未満の粒子径を有する粒子状の吸水性樹脂が、吸水性樹脂の全質量に対して90質量%以上含まれており、
4.83kPaの加圧下にて、イオン交換水に60分間浸漬した場合の吸収倍率である加圧下吸収倍率が、50g/g以上であることを特徴とする粒子状吸水剤。」(特許請求の範囲 請求項1、2)

(f-2)「これら内部架橋剤の使用量は、吸水性樹脂や吸水剤の良好な物性を得る観点から、前記水溶性不飽和単量体(内部架橋剤を除く)に対して、好ましくは0.001?2モル%であり、より好ましくは0.005?1モル%であり、さらに好ましくは0.005?0.7モル%であり、よりさらに好ましくは0.01?0.5モル%であり、このうち、特に好ましくは0.01?0.2モル%であり、最も好ましくは0.03?0.15モル%の範囲内である。」(段落【0053】)

(f-3)「<参考例1>
プロトアネモネンおよびフルフラールがND(non-Detactable/1ppm未満)で、且つ、p-メトキシフェノール50ppm(対アクリル酸の重量)を含有するアクリル酸を、苛性ソーダで中和して得られた、71.3モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液4500g(単量体濃度39重量%)に、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)14.6gを溶解し、反応液(1)とした。
次に、この反応液(1)を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した。続いて、シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器に、脱気した上記反応液(1)を供給し、該反応液(1)を30℃に保ちながら、窒素ガス置換した。その後、窒素ガス置換した反応液(1)を撹拌しながら、過硫酸ナトリウム2.46gおよびL-アスコルビン酸0.10gを水溶液で添加したところ、約1分後に重合が開始された。そして、30℃?90℃で重合を行い、重合を開始して60分後に、含水ゲル状架橋重合体(1)を得た。
得られた含水ゲル状架橋重合体(1)は、その径が約5mmに細分化されていた。この細分化された含水ゲル状架橋重合体(1)を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥した。得られた乾燥重合体(1)を、振動ミルを用いて粉砕し、さらに20メッシュ(目開き850μm)の金網で分級および調合することにより、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(a)を得た。」(段落【0145】?【0147】)

キ 甲7には、以下の事項が記載されている。なお、甲7の発行日は平成20(2008)年6月26日であって、本件特許の優先日である2006年7月19日よりも後であるから、甲7は本件特許の優先日前に公知の文献ではないが、念のため検討する。

(g-1)「【請求項1】
吸水性ポリマーを、
a)少なくとも部分的に中和されていてよい酸基を有するエチレン性不飽和モノマー少なくとも1種、
b)架橋剤少なくとも1種、
c)場合により、a)と共重合可能なエチレン性及び/又はアリル性不飽和モノマー1種以上、及び
d)場合により、モノマーa)、b)及び場合によりc)が少なくとも部分的にグラフトされていてよい水溶性ポリマー1種以上
からの混合物の重合により製造し、
その際得られたベースポリマーAを、
e)後架橋剤少なくとも1種
を用いて後処理する方法において、この重合前に又は重合の間に少なくとも1種の水不溶性の金属硫酸塩を添加することを特徴とする方法。
【請求項9】
a)重合導入された、少なくとも部分的に中和されていてよい酸基を有するエチレン性不飽和モノマー少なくとも1種、
b)重合導入された架橋剤少なくとも1種、
c)場合により、重合導入された、a)と共重合可能なエチレン性及び/又はアリル性不飽和モノマー1種以上、
d)場合により、モノマーa)、b)及び場合によりc)が少なくとも部分的にグラフトされた水溶性ポリマー1種以上、
e)反応した後架橋剤少なくとも1種、及び
f)重合導入された水不溶性の金属硫酸塩少なくとも1種
を含有し、この金属硫酸塩少なくとも1種がポリマー粒子中に分布した吸水性ポリマー粒子。」(特許請求の範囲 請求項1、9)

(g-2)「本発明の課題は、飛散せず、製造の際にリン酸層の使用のための特殊な装置が必要でなく、並びに高価な助剤を必要としない、膨潤状態において大きい液体移送性(浸透性)を有する吸水性ポリマー粒子を提供することであった。」(段落【0010】)

(g-3)「前記の膨潤可能なヒドロゲル形成性ポリマーの製造に適した親水性モノマーは、例えば重合能を有する酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、無水マレイン酸を含めてマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸並びにそのアミド、ヒドロキシアルキルエステル及びアミノ基含有エステル又はアンモニウム基含有エステル及びアミド並びに酸基を含有するモノマーのアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩である。」(段落【0023】)

(g-4)「特に好ましい親水性モノマーは、アクリル酸及びメタクリル酸、並びにこれらのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、例えばナトリウムアクリレート、カリウムアクリレート又はアンモニウムアクリレートである。」(段落【0025】)

(g-5)「吸水性ポリマーは、好ましくはポリマーのアクリル酸又はポリアクリレートである。この吸水性ポリマーの製造は、文献から公知の方法により行うことができる。好ましくは、架橋コモノマーを0.001?10モル%、好ましくは0.01?1モル%の量で含有するポリマーであるが、しかし、殊に好ましくは、ラジカル重合によって得られ、かつ付加的に更に少なくとも1個の遊離ヒドロキシル基を有していてよい多官能性のエチレン系不飽和ラジカル架橋剤が使用されたポリマーである(例えば、ペンタエリトリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアクリレート)。」(段落【0032】)

(g-6)「膨潤可能なヒドロゲル形成性ポリマーは、自体公知の重合法によって製造することができる。好ましいのは、いわゆるゲル重合法による水溶液中での重合である。」(段落【0033】)

(g-7)「噴霧重合法を使用することもできる。」(段落【0037】)

(g-8)「本発明により後架橋した吸水性ポリマーのSFC値[10^(-7)cm^(3)s/g]は詳細な説明中に記載されている方法により測定することができ、かつ好ましくは少なくとも30、特に少なくとも45、特に好ましくは少なくとも60であり、とりわけ少なくとも70、とりわけ好ましくは少なくとも80であり、多くとも1000である。」(段落【0057】)

(g-9)「実施例
例1
Loedigeプローシェア型混練機 タイプVT 5R-MK(5リットル容量)中に、脱イオン水416g、アクリル酸189.5g、37.3質量%のアクリル酸ナトリウム溶液(100モル%中和された)1990.2g並びに架橋剤のトリメチロールプロパン-15EO-トリアクリレート4.45g(=アクリル酸モノマーに対して0.60質量%)を装入し、窒素をバブリングさせながら20分にわたって不活性化した。次いで、過硫酸ナトリウム2.123g、アスコルビン酸0.045g、並びに過酸化水素0.126gの(希釈された水溶液の)添加により約23℃で開始させた。この開始後に、加熱ジャケットの温度を、調節器を用いて反応器中で反応温度にもたらした。混練機中で撹拌及び良好に混合しつつ重合させた。最終的に得られた砕けやすいゲルを180℃で約3時間空気循環乾燥室中で乾燥させた。次いでこれを微粉砕し、そして200?850μmに篩別した。
【0071】
このバッチを、数回繰り返し、そして得られた個々のバッチの粉末を混合し、そして均質化した。
【0072】
得られたベースポリマーAを、最後に特性決定した。このベースポリマーA(200?850μm)の特性は、以下のとおりであった;
CRC=35.6g/g
AUL0.3psi=14.3g/g
【0073】
このベースポリマーAの粒度分布
>850μm=12.75質量%
600?850μm=51.85質量%
300?600μm=30.46質量%
<300μm=4.95質量%
【0074】
Loedige実験室混合機中に、ベースポリマーA1000g、それぞれベースポリマーAに対して2.898質量%のイソプロパノール/水(質量比30.8:69.2)及び0.085質量%の2-オキサリジノン(水/プロピレングリコール2:1混合物中の25質量%溶液)を溶解状態で噴霧し、そしてこのポリマーを既に予熱された第2のLoedige実験室混合機中に供給し、そして120分にわたって175℃の生成物温度で後架橋した。次いで、得られたポリマーを850μmで篩別して、場合により存在する塊を分離する。
【0075】
この後架橋溶液は、以下の組成を有していた:2-オキサゾリドン0.85g、プロピレングリコール0.85g、イソプロパノール8.88g及び水21.8g。
【0076】
後架橋された吸水性ポリマーは、以下の特性を有していた:
【表1】

【0077】
120分後の粒度分布
>850μm=0.96質量%
600?850μm=36.16質量%
300?600μm=51.39質量%
<300μm=11.49質量%。」(段落【0070】?【0077】)

ク 甲8には、以下の事項が記載されている。
(h-1)「1.水溶性エチレン性不飽和モノマーを主成分とするモノマー濃度が少なくとも20重量%の溶液を、水蒸気又は水蒸気と他の少なくとも一種の重合に実質的に不活性性を示す気体との混合物からなる気相を収容する重合器に供給し、該気相中、気相の相対湿度30%以上の条件下で重合させることを特徴とする、吸水性樹脂の製造法。
2.水溶性エチレン性不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸及び/又はその塩であることを特徴とする、請求項1に記載の吸水性樹脂の製造法。
3.水溶性エチレン性不飽和モノマーがアクリル酸の部分中和塩であることを特徴とする、請求項1に記載の吸水性樹脂の製造法。
」(特許請求の範囲 請求項1?3)

(h-2)「本発明の方法を用いると、簡単な構造の反応器で粒状の重合物が得られ、しかも溶剤を用いないので、従来の重合法の問題の解決に大きく貢献するものと言えよう。」(第3頁右下欄第11行?第14行)

(h-3)「更には、これらモノマーに吸水性能向上のため架橋剤や添加剤を加えることも可能である。架橋剤としては、前記モノマーと共重合可能な、例えばN,N′-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート類等のジビニル化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリオール、及びエチレンジアミン等のポリアミンなどカルボン酸、リン酸、スルホン酸等の官能基と反応しうる2個以上の官能基を有する水溶性の化合物等が好適に使用しうる。このうち特に好ましいのはN,N′-メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。架橋剤の使用量は、モノマーの仕込み量に対して0.001?1.0重量%、好ましくは、0.01?0.5重量%である。」(第4頁左下欄最下行?右下欄下から第5行)

(h-4)「参考例1
攪拌機およびジャケットを備えたSUS304製の攪拌槽中に80重量%のアクリル酸水溶液37.5重量部を取り、外部より冷却しつつ、25.4重量%の苛性ソーダ水溶液49.3重量部を滴下して75モル%の中和を行った後、N,N′-メチレンビスアクリルアミド0.021重量部を加えて溶解して、モノマー濃度42.5重量%のアクリル酸部分中和塩水溶液を原料モノマーとした。」(第8頁左下欄第5行?下から3行)」

(h-5)「実施例1
参考例1の原料モノマー100重量部に開始剤としてL-アスコルビン酸0.75重量部を混合/溶解し、A液とした。次に、同じ参考例1の原料モノマー100重量部に開始剤として濃度31重量%の過酸化水素水2.5重量部を混合/均一化し、B液とした。A液とB液は、第1図の重合器(300cmφ×900cm)に供給され、重合された。重合器の気相流れ条件は、窒素及び水蒸気雰囲気下、重合器入口の気相温度40℃、気相の相対湿度70%、重合部の気流平均流速0.9M/秒であった。原料であるA液とB液の供給条件は、供給圧力2kg/cm2、供給速度0.1リットル/分で、供給ラインの先端には供給ノズルとして(株)イケウチ製のLumina PR-8を設置した。重合は、約1秒後に、すでに液滴として供給された気相流中で開始し、開始後約20秒で重合器より系外へ流出させた。原料モノマーの供給、及び得られた重合物の固気分離は、連続的に実施された。重合物は、乾燥後の純水に対する吸水量が自重の860倍であるものであり、平均粒径は130μm、粒子形状は擬似球形であった。
実施例2
重合器の気相流れ条件を、重合器入口の気相温度60℃、重合部の気流平均流速1.9M/秒、原料であるA液とB液の供給条件を、供給圧力2kg/cm2、供給速度0.2リットル/分に変更した以外は実施例1と同1条件で実施した。重合物は、乾燥後の純水に対する吸水量が自重の800倍であるものであり、平均粒径は290μm、粒子形状は擬似球形であった。」(第8頁右下欄下から第4行?第9頁右上欄第7行)

ケ 甲9には、以下の事項が記載されている。
(i-1)「【請求項1】
アクリル酸およびその塩を含む単量体を重合して得られる架橋構造を有する吸水性樹脂が表面架橋された吸水性樹脂粒子を主成分とする吸水剤であって、
該吸水剤が、下記(a)?(e)の要件を満たす吸水剤。
(a)850μm未満で150μm以上の粒子が全体の90重量%以上
(b)粒度分布の対数標準偏差(σζ)が0.25?0.45
(c)0.9重量%食塩水の加圧下吸収倍率(AAPs)が20g/g以上
(d)0.9重量%食塩水の吸収倍率(CRCs)が29g/g以上、39g/g未満の範囲
(e)以下の式1で表される化学架橋指数が160以上
化学架橋指数=(CRCs)/(CRCdw)×1000 (式1)
CRCs(g/g):0.9重量%食塩水の吸収倍率
CRCdw(g/g):純水の吸収倍率
【請求項7】
前記吸水剤の食塩水流れ誘導性(SFC)が100?250(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))である請求項1?6のいずれか一つに記載の吸水剤。」(特許請求の範囲 請求項1、7)

(i-2)「従って、本発明の目的は、上述した問題点を解決し、優れたゲル特性(すなわち特定の粒度分布、特定の0.9重量%食塩水の吸収倍率(CRCs)、特定の0.9重量%食塩水の加圧下吸収倍率(AAPs)、特定の化学架橋指数または加圧下化学架橋指数)を有し、紙おむつ等の衛生材料の吸水体に使用された場合、優れた性能を示す吸水剤およびその製法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上述した問題を解決し、吸水性樹脂含有量の多い薄型の衛生材料・吸収性物品に用いられるのに適した、高い吸収倍率を有し、かつ本質的なゲル安定性が高く、より高い液透過特性を有し、かつ安全性に優れた吸水剤及びその製法を提供することにある。」(段落【0015】)

(i-3)「CRCs(Centrifuge Retention Capacity saline/CRCs)は、0.9重量%食塩水の吸収倍率のことを示す。
・・・
SFC(Saline Flow Conductivity/SFC)は、0.69重量%食塩水流れ誘導性のことを示す。」(段落【0032】)

(i-4)「本発明にかかる吸水剤の製法は、ある特定の吸水性樹脂を合成し、この吸水性樹脂を特定の粒度分布とし、さらに特定の表面処理剤で表面処理する製法である。また、本発明にかかる吸水剤は、必要に応じて、通液性向上剤を添加する製法である。
・・・
本発明で用いる単量体(A)は、アクリル酸および/またはその塩を主成分として含有してなっている。上記単量体(A)中におけるアクリル酸および/またはその塩の含有率は、吸水剤の吸収特性およびゲル特性をさらに向上させるために、70?100モル%であるのが好ましく、80?100モル%であるのがより好ましく、90?100モル%であるのが最も好ましい。
・・・
上記単量体(A)は、その構成単位としてアクリル酸0?50モル%およびアクリル酸塩100?50モル%(但し、両者の合計量は100モル%以下とする)の範囲にあるものが好ましく、アクリル酸10?40モル%およびアクリル酸塩90?60モル%(但し、両者の合計量は100モル%以下とする)の範囲にあるものがより好ましい。」(段落【0035】、【0036】)

(i-5)「これら内部架橋剤(B)の使用量は前記単量体(A)(内部架橋剤を除く)に対して、好ましくは0.005?5モル%、より好ましくは0.02?1.0モル%、さらに好ましくは0.06?0.30モル%、最も好ましくは0.08?0.20モル%の範囲内とされる。上記内部架橋剤(B)の使用量が0.005モル%よりも少ない場合、並びに、5モル%よりも多い場合には、充分な吸収特性が得られないおそれがある。」(段落【0040】)

(i-6)「本発明の吸水性樹脂粒子(E)は、重量平均粒子径が好ましくは100?600μmの粒子状であり、より好ましく重量平均粒子径が200?500μmの粒子状であり、最も好ましくは250?450μmである。重量平均粒子径が100μm未満の場合は、得られる吸水剤の取り扱い性が悪く、またダストが多く、通液・拡散性が悪くなってしまう恐れがある。重量平均粒子径が600μmよりも大きい場合には、得られる吸水剤がダメージを受けやすくなり、物性の低下を招く恐れがある。」(段落【0078】)

(i-7)「本発明の吸水剤は、0.69重量%食塩水流れ誘導性(SFC)が30?3000(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))を示す物が好ましく、50?2000(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))を示す物がより好ましく、70?1000(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))を示す物がより好ましく、80?300(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))を示す物が特に好ましく、100?250(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))を示す物が特に好ましく、100?200(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))を示す物が最も好ましい。0.69重量%食塩水流れ誘導性(SFC)は通常3000を上限とする。0.69重量%食塩水流れ誘導性(SFC)は通液・拡散性を示す数値であり、高い吸水剤ほど通液・拡散性に優れる。」(段落【0100】)

(i-8)「(実施例1)
シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、71モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5432g(単量体濃度39重量%)にポリエチレングリコールジアクリレート11.9g(0.1モル%)、および亜燐酸水素2ナトリウム5水和物3.65gを溶解させて反応液とした。次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、30分間脱気した。続いて、反応液に10重量%過硫酸ナトリウム水溶液29.36gおよび0.1重量%L-アスコルビン酸水溶液24.47gを攪拌しながら添加したところ、およそ1分後に重合が開始した。そして、生成したゲルを粉砕しながら、20?95℃で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出した。
【0194】
得られた含水ゲル状架橋重合体は、その径が約5mm以下に細分化されていた。この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥した。得られた吸水性樹脂をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmおよび150μmのJIS標準篩で分級し、粒度分布を調整することにより、吸水性樹脂(D1)を得た。得られた吸水性樹脂(D1)のCRCsは35.2g/gであった。この吸水性樹脂(D1)100gにエチレングリコール1.0g、純水2.5gからなる水溶液を混合した。上記の混合物を210℃で20分間加熱処理し、60℃まで冷却した後に、目開き600μmのJIS標準篩を通過させて吸水性樹脂粒子(E1)を得た。得られた吸水性樹脂粒子(E1)を吸水剤(1)とした。」(段落【0193】、【0194】)

(2)甲1、4、7及び9に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
上記摘示(a-6)ないし(a-8)、特に実施例6に関する記載より、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5500g(単量体濃度33重量%)にポリエチレングリコールジアクリレート2.50gを溶解した反応液に、過硫酸アンモニウム2.4gおよびL-アスコルビン酸0.12gを攪拌しながら添加して重合を行い、生成したゲルを粉砕しながら、30?80°Cで重合を行い、重合が開始して60分後に含水ゲル状架橋重合体(1)を取り出し、得られた含水ゲル状架橋重合体(1)は、その径が約5mm以下に細分化されており、この細分化された含水ゲル状架橋重合体(1)を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、150°Cで90分間熱風乾燥することによって架橋重合体である吸水性樹脂(A)を得、次いで、得られた架橋重合体である吸水性樹脂(A)をハンマーミル(ロストル:穴の径3mm)で粉砕した後、吸水性樹脂150gをホモジナイザー(日本精機社製、高速ホモジナイザー、Model:MX-7)に入れ、回転数6000rpmで約1時間研磨し、得られた吸水性樹脂をJIS標準ふるい(目開き850,212μm)でふるい、850?212μmの粒度に分級して得られた不定形破砕状吸水性樹脂粉末(1)100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03重量部、プロピレングリコール1重量部、水3重量部、2-プロパノール1重量部からなる表面架橋剤を混合し、上記混合物を185°Cで30分間加熱処理して得た、不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)。」

イ 甲4に記載された発明
上記摘示(d-8)および(d-9)、特に実施例1に関する記載より、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

「下記(操作1-1)から(操作1-5)を行うことにより得られた、生理食塩水流れ誘導性(SFC)が800(×10^(-7)cm^(3)・s/g)、重量平均粒子径(D50)が331μmである、水溶液吸水剤(1)
(操作1-1)
断熱材である発泡スチロールで覆われた、内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸190.18g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)6.9g(0.5モル%)、および1.0重量%ジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム水溶液1.13gを混合した溶液(A)と、48.5重量%水酸化ナトリウム水溶液130.60gと50℃に調温したイオン交換水166.80gを混合した溶液(B)を作成した。マグネチックスターラーで攪拌した溶液(A)に、溶液(B)をすばやく加え混合することで単量体水溶液(C)を得た。単量体水溶液(C)は、中和熱と溶解熱により、液温が約100℃まで上昇した。
次に、この単量体水溶液(C)に3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液4.4gを加え、数秒間攪拌した後すぐに、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000、(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注いだ。ステンレス製バット型容器は、そのサイズが底面250×250mm、上面640×640mm、高さ50mmであり、中心断面が台形で、上面が開放されている。
単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始した。水蒸気を発生し上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮した。この膨張収縮は約1分以内に終了し、4分間重合容器中に保持した後、含水重合体(含水ゲル)を取り出した。なお、これら一連の操作は大気中に開放された系で行った。
(操作1-2)
得られた含水重合体(含水ゲル)を幅3cmの短冊状に切った後、球面状ダイを有する前押し出し式スクリュー型押し出し造粒機(ドームグラン、不二パウダル株式会社製、MODEL:DG-L1、ダイ孔径=1.2mm、ダイ厚み1.2mm、押し出し作用部とダイの隙間=1mm)により粉砕および造粒し、細分化された含水重合体(粉砕ゲル粒子)を得た。押し出し造粒機で粉砕および造粒する際、含水重合体を300g/分で供給し、同時に純水を90g/分で添加しながら粉砕および造粒を行った。なお、スクリューの回転数は50rpmで行った。
(操作1-3)
この細分化された粉砕ゲル粒子を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、180℃で40min間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmと目開き150μmのJIS標準篩で分級することにより、重量平均粒子径324μm、対数標準偏差(σζ)0.32の不定形破砕状の吸水性樹脂(固形分96重量%)を得た。
(操作1-4)
得られた吸水性樹脂100重量部に1,4-ブタンジオール0.3重量部、プロピレングリコール0.6重量部、純水3.0重量部、イソプロピルアルコール1.0重量部の混合液からなる表面処理剤溶液を均一に混合した。表面架橋剤溶液を混合した吸水性樹脂をステンレス製の容器(幅約22cm、奥行き約28cm、高さ約5cm)に均一に広げ、200℃に調温した熱風乾燥器(ETAC社、MODEL:HISPEC HT320)で30分間加熱処理した。加熱処理後、得られた吸水性樹脂を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕することで、表面が架橋された吸水性樹脂を得た。
(操作1-5)
得られた表面が架橋された吸水性樹脂100重量部に硫酸アルミニウム水和物(13?14水和物、住友化学工業株式会社より入手)1重量部を均一に混合し、水性液吸収剤(1)を得た。」

ウ 甲7に記載された発明
上記摘示(g-9)、特に例1に関する記載より、甲7には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているものと認められる。

「Loedigeプローシェア型混練機 タイプVT 5R-MK(5リットル容量)中に、脱イオン水416g、アクリル酸189.5g、37.3質量%のアクリル酸ナトリウム溶液(100モル%中和された)1990.2g並びに架橋剤のトリメチロールプロパン-15EO-トリアクリレート4.45g(=アクリル酸モノマーに対して0.60質量%)を装入し、窒素をバブリングさせながら20分にわたって不活性化し、次いで、過硫酸ナトリウム2.123g、アスコルビン酸0.045g、並びに過酸化水素0.126gの(希釈された水溶液の)添加により約23℃で開始させ、この開始後に、加熱ジャケットの温度を、調節器を用いて反応器中で反応温度にもたらし、混練機中で撹拌及び良好に混合しつつ重合させ、最終的に得られた砕けやすいゲルを180℃で約3時間空気循環乾燥室中で乾燥させ、次いでこれを微粉砕し、そして200?850μmに篩別し、このバッチを、数回繰り返し、そして得られた個々のバッチの粉末を混合し、そして均質化してベースポリマーAを得、Loedige実験室混合機中に、ベースポリマーA1000g、それぞれベースポリマーAに対して2.898質量%のイソプロパノール/水(質量比30.8:69.2)及び0.085質量%の2-オキサリジノン(水/プロピレングリコール2:1混合物中の25質量%溶液)を溶解状態で噴霧し、そしてこのポリマーを既に予熱された第2のLoedige実験室混合機中に供給し、そして120分にわたって175℃の生成物温度で後架橋し、次いで、得られたポリマーを850μmで篩別して、場合により存在する塊を分離した、以下の特性を有している、後架橋された吸水性ポリマー。

120分後の粒度分布
>850μm=0.96質量%
600?850μm=36.16質量%
300?600μm=51.39質量%
<300μm=11.49質量%。」

エ 甲9に記載された発明
上記摘示(i-8)、特に実施例1に関する記載より、甲9には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されているものと認められる。

「シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、71モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5432g(単量体濃度39重量%)にポリエチレングリコールジアクリレート11.9g(0.1モル%)、および亜燐酸水素2ナトリウム5水和物3.65gを溶解させて反応液とし、次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、30分間脱気し、続いて、反応液に10重量%過硫酸ナトリウム水溶液29.36gおよび0.1重量%L-アスコルビン酸水溶液24.47gを攪拌しながら添加し、およそ1分後に重合が開始し、生成したゲルを粉砕しながら、20?95℃で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出し、得られた細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥し、得られた吸水性樹脂をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmおよび150μmのJIS標準篩で分級し、粒度分布を調整することにより、吸水性樹脂(D1)を得、吸水性樹脂(D1)100gにエチレングリコール1.0g、純水2.5gからなる水溶液を混合し、混合物を210℃で20分間加熱処理し、60℃まで冷却した後に、目開き600μmのJIS標準篩を通過させて得た吸水性樹脂粒子(E1)を吸水剤(1)とする、0.69重量%食塩水流れ誘導性(SFC)が35(10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))、重量平均粒子径(D50)が315μmである、吸水剤(1)。」

(3)甲1発明との対比判断
ア 本件発明1の進歩性について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)」の基となる重合性のモノマーは「75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム」のみであるから、甲1発明の「75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム」は、本件発明1の「酸基を有するモノマーa)」であって、「ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり」、かつ、「モノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されて」いるものに相当する。
甲1発明の「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件明細書の段落【0031】に架橋剤b)として例示されているから、本件発明1の「重合導入された架橋剤b)」に相当する。
甲1発明の「不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)」は、本件発明1の「吸水性ポリマー粒子」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と甲1発明とは、

[一致点]
「吸水性ポリマー粒子であって、
少なくとも一部が、重合された、酸基を有するモノマーa)からなり、ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり、かつ、前記の重合されたモノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されている、
吸水性ポリマー粒子。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
平均球形度に関し、本件発明1は「少なくとも0.84」と特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
平均直径に関し、本件発明1は「250?600μm」と特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点3]
水中での溶解度が5g/100g未満の疎水性溶剤の含有率に関し、本件発明1は「0.005質量%未満」と特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点4]
透過性に関し、本件発明1は「少なくとも5×10^(-7)cm^(3)s/g」と特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

[相違点5]
架橋剤b)の含有量に関し、本件発明1はポリマー粒子の「少なくとも0.5質量%の範囲」と特定するのに対し、甲1発明では重合させる反応液が75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5500g(単量体濃度33重量%)にポリエチレングリコールジアクリレート2.50gを溶解したものとする点。

(イ)判断
事案に鑑みて、はじめに上記相違点5について検討する。
甲1の実施例1における内部架橋剤であるポリエチレングリコールジアクリレートの使用量は、申立書第32頁第6行?第14行に記載のとおり、アクリル酸に換算した全モノマーに対して0.17質量%である。
そして、甲1発明の不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)は、そのほとんどの部分がモノマーの重合体から構成されているから、不定形破砕状吸水性樹脂粉末(6)における内部架橋剤の含有量は0.17質量%近傍の値と認められる。
ここで、甲1には上記摘示(a-5)に、内部架橋剤の使用量を単量体に対して0.04モル%?0.2モル%の範囲内にすることが好ましいことが記載されるものの、甲1発明の内部架橋剤の分子量は不明であるから、単量体に対するモル%の値は不明であって、好ましいとされる範囲内に変更するとしても、その使用量をポリマー粒子の0.5質量%以上とする動機付けは何ら見いだせない。

また、甲4には、上記摘示(d-4)に、高架橋の重合体とし、全単量体(水溶性エチレン性不飽和モノマー)に対して0.2モル%以上の内部架橋剤を用いることが記載され、上記摘示(d-8)の実施例1では、アクリル酸190.18gに対して6.9g、すなわち、モノマー(アクリル酸)に対して3.6質量%の内部架橋剤が用いられるものが記載されるものの、内部架橋剤の使用量の好ましい範囲に関し、甲1の記載事項と甲4の記載事項とは重ならず、また、甲4には、上記摘示(d-6)に、粉砕によって得られる形状は、不定形破砕状が好ましく、一部、表面積が大きくて造粒された形状の粒子を含んでいることが好ましいことが記載され、粒子の好ましい形態が異なるから、適用に対する阻害要因が存在する。
さらに、甲5には、上記摘示(e-2)に、架橋剤の使用量を増加させると吸水性樹脂における拡散性を優れたものとすることができること、上記摘示(e-3)に、使用量はカルボキシル基を有する親水性不飽和単量体に対して架橋剤(A)として0.05?1モル%程度である事が好ましいことが記載され、甲6には、上記摘示(f-2)に、内部架橋剤の使用量は、吸水性樹脂や吸水剤の良好な物性を得る観点から、前記水溶性不飽和単量体(内部架橋剤を除く)に対して、好ましくは0.001?2モル%であり、最も好ましくは0.03?0.15モル%の範囲内であることが記載され、上記摘示(f-3)の参考例1において、申立書第33頁第27行?第30行に記載のとおり、モノマー(アクリル酸)に対して1.0質量%の内部架橋剤が用いられたものが記載され、甲7には、上記摘示(g-5)に、吸水性ポリマーが架橋コモノマーを0.001?10モル%、好ましくは0.01?1モル%の量で含有すること、上記摘示(g-9)の例1において、架橋剤をアクリル酸モノマーに対して0.6質量%用いたものが記載され、甲8には、上記摘示(h-3)に、架橋剤の使用量は、モノマーの仕込み量に対して0.001?1.0重量%、好ましくは、0.01?0.5重量%であることが記載され、甲9には、上記摘示(i-5)に、内部架橋剤(B)の使用量は前記単量体(A)(内部架橋剤を除く)に対して、好ましくは0.005?5モル%、最も好ましくは0.08?0.20モル%の範囲内とされること、上記摘示(i-8)の実施例1において、申立書第35頁第1行?第9行に記載のとおり、モノマー(アクリル酸)に対して0.68質量%の内部架橋剤が用いられたものが記載されている。
しかしながら、甲1発明において、甲5?9に記載される架橋剤の使用量に変更することの動機付けは何ら見いだせない。

したがって、甲1発明において、架橋剤の使用量をポリマー粒子の0.5質量%以上として、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点1ないし4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1、甲4ないし甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲1、甲4ないし甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲4発明との対比判断
ア 本件発明1の進歩性について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明の「水性性吸水剤(1)」の基となる重合性のモノマーは「アクリル酸」のみであり、「アクリル酸」は(操作1-1)で水酸化ナトリウムを含む溶液(B)と混合することで中和されるから、甲4発明の「単量体水溶液(C)」中の単量体は、本件発明1の「酸基を有するモノマーa)」であって、「ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり」、かつ、「モノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されて」いるものに相当する。
甲4発明の「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件明細書の段落【0031】に架橋剤b)として例示されているから、本件発明1の「重合導入された架橋剤b)」に相当する。
甲4発明の「生理食塩水流れ誘導性(SFC)」は、本件発明1の「透過性」に相当し、その値は重複一致する。
甲4発明の「水性液吸水剤(1)」は、本件発明1の「吸水性ポリマー粒子」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と甲4発明とは、

[一致点]
「吸水性ポリマー粒子であって、
少なくとも一部が、重合された、酸基を有するモノマーa)からなり、ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり、かつ、前記の重合されたモノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されており、
少なくとも5×10^(-7)cm^(3)s/gの透過性を有する、
吸水性ポリマー粒子。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点6]
平均球形度に関し、本件発明1は「少なくとも0.84」と特定するのに対して、甲4発明ではそのような特定がない点。

[相違点7]
本件発明1は「250?600μmの平均直径」と特定するのに対して、甲4発明は「重量平均粒子径(D50)が331μm」である点。

[相違点8]
水中での溶解度が5g/100g未満の疎水性溶剤の含有率に関し、本件発明1は「0.005質量%未満」と特定するのに対して、甲4発明ではそのような特定がない点。

[相違点9]
架橋剤b)の含有量に関し、本件発明1はポリマー粒子の「少なくとも0.5質量%の範囲」と特定するのに対し、甲4発明では、水性液吸水剤の製造において、「アクリル酸190.18g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)6.9g(0.5モル%)」が用いられている点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点6について検討する。
甲4発明の水性液吸水剤は、(操作1-2)で含水重合体を粉砕および造粒し、(操作1-3)で乾燥、粉砕、分級し、(操作1-4)で表面架橋し、(操作1-5)で硫酸アルミニウム水和物を混合しており、本件明細書段落【0077】には、粉砕、分級された粒子の平均球形度は、約0.72?約0.78であることが記載されていることからみて、甲4発明の水性液吸水剤の平均球形度は0.84未満であると解される。
そして、甲4には、上記摘示(d-6)に、粉砕によって得られる形状は、不定形破砕状が好ましく、一部、表面積が大きくて造粒された形状の粒子を含んでいることが好ましいことが記載されているから、表面積を小さくする、すなわち、本件発明1で定義される平均球形度を大きくすることへは阻害要因が存在する。
ここで、甲1には、加圧下での通液性を向上させるために、不定形破砕状の樹脂粒子の表面を研磨することが記載されるものの、上記のとおり、甲4発明において、不定形破砕状のものの表面積を小さくすることには阻害要因が存在するから、甲1に記載された事項を適用することはできない。

また、甲8には気相重合法(噴霧液滴重合法)により擬似球形の粒子径状を有する吸水性樹脂が得られたことが記載されているものの、甲4発明の水溶液重合法を、甲8に記載の気相重合法に換えようとする動機付けは見いだせず、仮に重合法を換えたとしても、その重合条件によって得られる重合体の外形、粒径を含めた形状、性状が異なるから、必ずしも所定の平均球形度が得られるともいえない。

したがって、甲4発明において、平均球形度を「少なくとも0.84」として、相違点6に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点7ないし9について詳細検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1、甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲4発明及び甲1、甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲7発明との対比判断
ア 本件発明1の進歩性について
(ア)対比
本件発明1と甲7発明を対比する。
甲7発明の「吸水性ポリマー」の基となるベースポリマーAの重合性のモノマーは「アクリル酸」及び「37.3質量%のアクリル酸ナトリウム溶液(100モル%中和された)」中のアクリル酸ナトリウムのみであるから、甲7発明の「アクリル酸」及び「37.3質量%のアクリル酸ナトリウム溶液(100モル%中和された)」中のアクリル酸ナトリウムは、本件発明1の「酸基を有するモノマーa)」であって、「ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり」、かつ、「モノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されて」いるものに相当する。
甲7発明の「架橋剤のトリメチロールプロパン-15EO-トリアクリレート」は、本件明細書の段落【0032】に架橋剤b)として例示されているから、本件発明1の「重合導入された架橋剤b)」に相当する。
甲7発明の「SFC」は、本件発明1の「透過性」に相当し、その値は重複一致する。
甲7発明の「吸水性ポリマー」は、本件発明1の「吸水性ポリマー粒子」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と甲7発明とは、

[一致点]
「吸水性ポリマー粒子であって、
少なくとも一部が、重合された、酸基を有するモノマーa)からなり、ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり、かつ、前記の重合されたモノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されており、
少なくとも5×10^(-7)cm^(3)s/gの透過性を有する、
吸水性ポリマー粒子。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点10]
平均球形度に関し、本件発明1は「少なくとも0.84」と特定するのに対して、甲7発明ではそのような特定がない点。

[相違点11]
平均直径に関し、本件発明1は「250?600μm」と特定するのに対して、甲7発明はそのような特定がない点。

[相違点12]
水中での溶解度が5g/100g未満の疎水性溶剤の含有率に関し、本件発明1は「0.005質量%未満」と特定するのに対して、甲7発明ではそのような特定がない点。

[相違点13]
架橋剤b)の含有量に関し、本件発明1はポリマー粒子の「少なくとも0.5質量%の範囲」と特定するのに対し、甲7発明では、吸水性ポリマーの製造において、「架橋剤のトリメチロールプロパン-15EO-トリアクリレート4.45g(=アクリル酸モノマーに対して0.60質量%)」が用いられている点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点10について検討する。
甲7発明の吸水性ポリマーは、重合して得られたゲルと乾燥、微粉砕し、篩別し、後架橋し、さらに篩別して得ており、本件明細書段落【0077】には、粉砕、分級された粒子の平均球形度は、約0.72?約0.78であることが記載されていることからみて、甲7発明の吸水性ポリマーの平均球形度は0.84未満であると解される。
そして、甲7には吸水性ポリマーの平均球形度を調整することに関する記載も示唆もない。
また、甲7には上記摘示(f-7)に噴霧重合法を使用することもできることが記載されるものの、甲7発明において、水溶液重合法を噴霧重合法に換えた場合に、その重合条件によって得られる重合体の外形、粒径を含めた形状、性状が異なるから、必ずしも所定の平均球形度が得られるともいえない。
さらに、甲8には気相重合法(噴霧液滴重合法)により擬似球形の粒子径状を有する吸水性樹脂が得られたことが記載されているものの、甲7発明の水溶液重合法を、甲8に記載の気相重合法に換えようとする動機付けは見いだせず、仮に重合法を換えたとしても、その重合条件によって得られる重合体の外形、粒径を含めた形状、性状が異なるから、必ずしも所定の平均球形度が得られるともいえない。

さらにまた、甲1には、加圧下での通液性を向上させるために、不定形破砕状の樹脂粒子の表面を研磨することが記載されるものの、甲7発明において、微粉砕した後の架橋前の粒子に対し、甲1に記載される研磨処理を加えることへの動機付けは見いだせない。

したがって、甲7発明において、平均球形度を「少なくとも0.84」として、相違点10に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点11ないし13について詳細検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明及び甲7、甲8、甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲7発明及び甲7、甲8、甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)甲9発明との対比判断
ア 本件発明1の進歩性について
(ア)対比
本件発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明の「水性性吸水剤(1)」の基となる重合性のモノマーは「71モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム」のみであるから、甲1発明の「71モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム」は、本件発明1の「酸基を有するモノマーa)」であって、「ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり」、かつ、「モノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されて」いるものに相当する。
甲9発明の「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件明細書の段落【0031】に架橋剤b)として例示されているから、本件発明1の「重合導入された架橋剤b)」に相当する。
甲9発明の「0.69重量%食塩水流れ誘導性(SFC)」は、本件発明1の「透過性」に相当し、その値は重複一致する。
甲9発明の「吸水剤(1)」は、本件発明1の「吸水性ポリマー粒子」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と甲9発明とは、

[一致点]
「吸水性ポリマー粒子であって、
少なくとも一部が、重合された、酸基を有するモノマーa)からなり、ここで、当該モノマーa)が少なくとも90モル%の範囲でアクリル酸であり、かつ、前記の重合されたモノマーa)の酸基が、少なくとも部分的に中和されており、
少なくとも5×10^(-7)cm^(3)s/gの透過性を有する、
吸水性ポリマー粒子。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点14]
平均球形度に関し、本件発明1は「少なくとも0.84」と特定するのに対して、甲9発明ではそのような特定がない点。

[相違点15]
本件発明1は「250?600μmの平均直径」と特定するのに対して、甲9発明は「重量平均粒子径(D50)が315μm」である点。

[相違点16]
水中での溶解度が5g/100g未満の疎水性溶剤の含有率に関し、本件発明1は「0.005質量%未満」と特定するのに対して、甲9発明ではそのような特定がない点。

[相違点17]
架橋剤b)の含有量に関し、本件発明1はポリマー粒子の「少なくとも0.5質量%の範囲」と特定するのに対し、甲9発明では、吸水剤の製造において、「71モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5432g(単量体濃度39重量%)にポリエチレングリコールジアクリレート11.9g(0.1モル%)」が用いられている点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点14について検討する。
甲9発明の吸水性ポリマーは、重合して得られた含水ゲル状架橋重合体を乾燥、粉砕、分級し、後架橋し、さらに篩別して得ており、本件明細書段落【0077】には、粉砕、分級された粒子の平均球形度は、約0.72?約0.78であることが記載されていることからみて、甲9発明の水性液吸水剤の平均球形度は0.84未満であると解される。
そして、甲9には吸水性ポリマーの平均球形度を調整することに関する記載、示唆がない。

また、甲7には噴霧重合法を使用することもできることが記載されるものの、甲9発明の水溶液重合法を、甲7に記載される噴霧重合法に換えようとする動機付けは見いだせず、仮に重合法を換えたとしても、その重合条件によって得られる重合体の外形、粒径を含めた形状、性状が異なるから、必ずしも所定の平均球形度が得られるともいえない。
さらに、甲8には気相重合法(噴霧液滴重合法)により擬似球形の粒子径状を有する吸水性樹脂が得られたことが記載されているものの、甲9発明の水溶液重合法を、甲8に記載の気相重合法に換えようとする動機付けは見いだせず、仮に重合法を換えたとしても、その重合条件によって得られる重合体の外形、粒径を含めた形状、性状が異なるから、必ずしも所定の平均球形度が得られるともいえない。

さらにまた、甲1には、加圧下での通液性を向上させるために、不定形破砕状の樹脂粒子の表面を研磨することが記載されるものの、甲9発明において、粉砕した後の架橋前の粒子に対し、甲1に記載される研磨処理を加えることへの動機付けは見いだせない。

したがって、甲9発明において、平均球形度を「少なくとも0.84」として、相違点14に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点15ないし17について詳細検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明及び甲7、甲8、甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲9発明及び甲7、甲8、甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8は、甲1発明及び甲1、甲4ないし甲9に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明1ないし8は、甲4発明及び甲1、甲8に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1ないし8は、甲7発明、甲9発明及び甲7、甲8、甲1に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、取消理由2には理由がない。

3 取消理由3(委任省令要件及び実施可能要件)について
(1)異議申立人の主張の内容
本件発明1の吸水性ポリマー粒子が要件1B「少なくとも0.84の平均球形度を有する」に関連して、本件特許明細書には、上記構成を採用することによる技術的意義に関して明示的な記載はなく、上記要件1Bを満たす実施例と満たさない比較例の対比もなく、実施例1?8において得られているポリマー粒子が上記要件1Bを満たすかの記載がないから、実施例の欄に記載された実験例が本件発明の実施例に相当するものであるのか否かも不明である。さらに、本件特許明細書の記載の全体を参酌しても、上記要件1Bを採用することによる技術的意義を理解することはできない。
そうすると、本件特許明細書の記載は、本件発明1の上記要件1Bに関する限り、委任省令要件を満足しているとは言い難い。また、委任省令要件の趣旨より、委任省令要件を満たさない本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件も満たさないことが明らかである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?8について委任省令要件および実施可能要件を満たしていない。

(2)当審の判断
本件特許明細書には、段落【0039】?【0066】に吸水性ポリマー粒子の製造方法が記載され、段落【0067】には、「本発明の更なる1つの対象は、本発明による方法により得られる吸水性ポリマー粒子である。」と記載された上で、段落【0072】に「本発明による吸水性ポリマー粒子は、ほぼ円形である。すなわち該ポリマー粒子は、一般に少なくとも0.84の、好ましくは少なくとも0.86の、特に有利には少なくとも0.88の、殊に有利には少なくとも0.9の平均球形度を有する。」と記載され、また、段落【0077】に「通常の溶液重合(ゲル重合)によって製造される吸水性ポリマー粒子は、乾燥後に粉砕され、分級される。その際、不規則なポリマー粒子が得られる。このポリマー粒子の平均球形度は、約0.72?約0.78である。」と記載されている。
以上より、本件特許明細書に記載される製造方法によって得られる吸水性ポリマー粒子がほぼ円形であり、粉砕により得られる不規則な形状の粒子と区別されることが読み取れるから、技術的意義が理解できないとまではいえない。

よって、本件特許明細書の記載は、委任省令要件を満たしていないとはいえず、また、それに関連して実施可能要件を満たしていないともいえない。

したがって、取消理由3には理由がない。

4 理由4(サポート要件)について
(1)異議申立人の主張の内容
本件発明1においては吸水性ポリマー粒子の製造方法が「通常の溶液重合(ゲル)重合」以外の方法に特定されているわけではない。
一方、本件特許明細書において、本件発明1ないし8に係る吸水性ポリマー粒子の製造するための手法として実質的に開示されているのは、気相重合法(噴霧液滴重合法)を用いた方法のみである。また、この点に関連して、本件特許明細書の段落【0006】には「噴霧重合によって、重合と乾燥という方法工程を統合することができた。加えて、粒度は、好適な方法操作によって、ある特定の範囲に調整することができた。」との記載があり、段落【0077】には、「通常の溶液重合(ゲル重合)によって製造される吸水性ポリマー粒子は、乾燥後に粉砕され、分級される。その際、不規則なポリマー粒子が得られる。このポリマー粒子の平均球形度は、約0.72?約0.78である。」との記載が存在する。
そうすると、本件発明1ないし8に係る吸水性ポリマー粒子を製造するための手法として実質的に開示されている「気相重合法(噴霧液滴重合法)」について何ら特定がなされていない本件発明1ないし8が、本件発明の課題を認識出来る範囲のものであるということはできない。
よって、本件発明1ないし8について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。

(2)当審の判断
本件発明1が解決しようとする課題は、高い透過性、すなわち膨潤ゲルベッド中での高い液体通過性を有する吸水性ポリマー粒子の製造方法を提供することである(段落【0011】)。

そして、本件特許明細書の段落【0012】?【0016】、【0030】?【0033】、【0039】?【0062】、【0067】、【0072】?【0077】の各記載を総合すると、本件発明1は、平均球形度を一定以上とすることで吸水性ポリマー粒子間の間隔を保持した上で、架橋剤b)の含有量を一定以上とすることで吸水性ポリマー粒子の膨潤の程度を抑制することで、膨潤ゲルベッド中での高い液体通過性を有するものとすることが理解できるし、表1の実施例1ないし8の実験データにおいてもその点が具体的に確認されている。
また、「気相重合法(噴霧液滴重合法)」について特定しないと上記課題が解決できないとする技術常識が存在するとも認められない。

以上を総合すると、本件発明1が、上記課題を解決できない態様を包含するとは認められない。
また、本件発明2ないし8についても同様である。

したがって、取消理由4には理由がない。

5 取消理由5(明確性)について
(1)異議申立人の主張の内容
本件発明1における「重合導入された架橋剤b)」と言う記載は、本件発明1に係る物(吸水性ポリマー粒子)をその物の製造方法(経時的な要素を含む発明特定事項)によって特定しようとするものであり、上記記載は本件発明1に係る物(吸水性ポリマー)のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であるから、当該発明の内容を正確に理解できないこととなっている。
以上より、本件発明1ないし8は、明確性要件を満たしてない。

(2)当審の判断
本件特許の請求項1には「重合導入された架橋剤b)で構成されている吸水性ポリマー。」と記載されているところ、当該「重合導入された架橋剤b)」との記載は、架橋剤がモノマーの重合体に導入されている状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎず、製造に関して経時的な要素の記載がある場合/製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合/製造方法の発明を引用する場合のいずれにも該当しない。

よって、請求項1には、その物の製造方法が記載されているとはいえず、請求項1に係る発明は明確である。
また、請求項2ないし8に係る発明についても同様である。

したがって、取消理由5には理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-29 
出願番号 特願2014-201239(P2014-201239)
審決分類 P 1 651・ 55- Y (C08F)
P 1 651・ 537- Y (C08F)
P 1 651・ 536- Y (C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
橋本 栄和
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5955367号(P5955367)
権利者 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
発明の名称 モノマー溶液の液滴の重合による、高い透過性を有する吸水性ポリマー粒子の製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 久野 琢也  

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