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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
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管理番号 | 1327000 |
異議申立番号 | 異議2016-700763 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-22 |
確定日 | 2017-04-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5880306号発明「オーステナイト系耐熱鋼管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5880306号の請求項1?3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5880306号(請求項の数3)に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2012-138759号)は、平成24年 6月20日を出願日とする出願であって、平成28年 2月12日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、本件特許に対し、平成28年 8月22日に特許異議申立人 中西 恒裕(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年12月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 2月28日に意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 特許第5880306号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 溶接して用いられる鋼管であって、質量%で、C:0.03?0.15%、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Ni:7?13.5%、Cr:16?20%、Nb:0.2?1.2%、Al:0.05%以下、N:0.01?0.20%およびO:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ下記の[1]式を満足する化学組成を有し、さらに、被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さが20μm以下であることを特徴とするオーステナイト系耐熱鋼管。 Cr+2×Si-0.5×Mn≧17.5・・・[1] [1]式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。 【請求項2】 Feの一部に代えて、質量%で、下記の第1群から第3群までのいずれかに属する1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系耐熱鋼管。 第1群:Mo:1%以下、W:1%以下、Co:1%以下、Cu:4%以下およびB:0.012%以下 第2群:Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.06%以下 第3群:V:0.5%以下およびTi:0.5%以下。 【請求項3】 排熱回収ボイラおよび太陽熱発電プラントの過熱器管として用いることを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系耐熱鋼管。」 第3 申立理由の概要 申立人は、以下の申立理由1?3によって請求項1?3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 申立理由1 本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるか、甲第1号証に記載の発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (「(4-3)甲第1号証に記載の発明に対する新規性及び進歩性」(特許異議申立書第9頁第23行?第14頁第22行)を参照。) 申立理由2 本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明、甲第1、10?12号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (「(4-4)甲第2号証に記載の発明に対する進歩性」(特許異議申立書第14頁第23行?第17頁第8行)を参照。) 申立理由3 本件発明1?3は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、10?12号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (「(4-5)甲第3号証に記載の発明に対する進歩性」(特許異議申立書第17頁第9行?第19頁第1行)を参照。) [申立人が提出した証拠方法] 甲第1号証:特開2003-268503号公報 甲第2号証:国際公開第2008/023410号 甲第3号証:国際公開第95/028239号 甲第4号証:「ステンレス鋼便覧」、日刊工業新聞社、 昭和63年6月30日、p.841 甲第5号証:「新日鐵のステンレスシームレス鋼管」、 新日本製鐵株式會社、2010年8月、p4?5 甲第6号証:特開2001-11584号公報 甲第7号証:国際公開第2009/119540号 甲第8号証:特開平11-320413号公報 甲第9号証:特開2002-332582号公報 甲第10号証:特開2000-328198号公報 甲第11号証:特開平8-13102号公報 甲第12号証:特開2001-49400号公報 第4 取消理由について 第4-1 取消理由の概要 本件発明2に対して、平成28年12月20日付けで当審より通知した取消理由の概要は、次のとおりのものである。 取消理由(申立理由1に基づく取消理由) 本件発明2は、特許異議申立書の「(4)具体的理由」の「(4-3)甲第1号証に記載の発明に対する新規性及び進歩性」における、「(4-3-1)本件請求項1に係る発明」の「(4-3-1-1)甲第1号証に記載の発明と本件請求項1に係る発明との対比」(第9頁下から第4行?第12頁第20行)に記載の理由、及び、同じく「(4-3)甲第1号証に記載の発明に対する新規性及び進歩性」における、「(4-3-2)本件請求項2に係る発明」の「(4-3-2-1)甲第1号証に記載の発明と本件請求項2に係る発明との対比」?「(4-3-2-2)新規性」(第13頁下から第8行?第14頁第2行)に記載の理由により、上記甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。 第4-2 甲号証に記載された事項 (ア)甲第1号証の記載 甲第1号証には、以下の(ア1)?(ア7)が記載されている(下線部は当審にて付与した。以下同様。)。 (ア1) 「 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、ボイラの過熱器管や再熱蒸気管、化学工業用の加熱炉管等に用いられる耐水蒸気酸化性と高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管とその製造方法に関する。」 (ア2) 「 【0009】 また、NbやTiの炭窒化物は、高温での安定性に欠け、ボイラの組立施工等に際して行われる溶接や高温曲げ加工時に再固溶しやすく、再固溶した場合はそのピン留め効果を失うため、異常な粒成長が起こり、細粒組織が消失する。つまり、(5) の方法では、均質な整粒の細粒組織で、しかも細粒組織が施工中においても安定なオーステナイト系ステンレス鋼管を得ることはできない。」 (ア3) 「 【0012】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の第1の課題は、全体が均質な整粒の細粒組織で、この細粒組織が施工中の溶接や高温曲げ加工によっても変化することがない耐水蒸気酸化性に優れた安価なオーステナイト系ステンレス鋼管を提供することにある。また、第2の課題は、細粒組織が施工中の溶接や高温曲げ加工によっても変化することがないだけでなく、クリープ強度をも高めることが可能な耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法を提供することにある。」 (ア4) 「 【0038】 Ti:0.002?0.05% Tiは、後述するO(酸素)と同様に、本発明の鋼管の大きな特徴の一つである前記の複合析出物の核となるTi_(2)O_(3)を均一に分散生成させるために欠くことのできない元素である。その含有量が0.002%未満では、Ti_(2)O_(3)が生成せず、仮に生成しても均一に分散生成する量が少なすぎ、効果が得られない。一方、その含有量が0.05%を超えると、粗大なTiNが生成してNb炭窒化物の微細分散析出を阻害し、Ti_(2)O_(3)を核とする微細分散した複合析出物が生成しなくなる。よって、Ti含有量は0.002?0.05%とした。好ましいのは0.002?0.03%である。」 (ア5) 「 【0059】 【表1】 」 (当審注:上記【表1】からは、「本発明例」として、以下の合金組成(質量%)を有する鋼No.2?3が記載されていることが見て取れる。 ・鋼No.2 C:0.05%、Si:0.25%、Mn:1.89%、P:0.024%、S:0.001%、Cr:18.78%、Ni:12.75%、Ti:0.005%、Nb:0.80%、sol.Al:0.001%、N:0.065%、O:0.0036%、残部:Fe及び不純物 ・鋼No.3 C:0.06%、Si:0.90%、Mn:1.98%、P:0.003%、S:0.001%、Cr:18.98%、Ni:12.37%、Ti:0.015%、Nb:0.52%、sol.Al:0.016%、N:0.108%、O:0.0021%、Mg:0.0010%、残部:Fe及び不純物) (ア6) 「 【0060】 仕上げた板材と鋼管は、オーステナイト結晶粒度番号と混粒率を調べた後、ボイラ組立施工時の熱処理を模擬して1200℃に30分間保持後水冷する再熱処理を施した。次いで、再度、オーステナイト結晶粒度番号と混粒率を調べた後、下記条件の水蒸気酸化試験に供し、その耐水蒸気酸化性を調べた。なお、オーステナイト結晶粒度番号はASTMに規定される方法に従って測定し、混粒率は前述した方法により求めた。その際、いずれの場合も20視野観察した。 【0061】 水蒸気酸化試験条件と評価方法; 試験条件; 蒸気温度:700℃ 暴露時間:1000時間 評価方法; 試験後の供試材の断面を倍率100の顕微鏡で観察し、生成したスケールのうち、ポーラスで剥離しやすい外層スケールを無視し、緻密な内層スケールのみの厚さを任意の10視野について測定し、その平均値を、供試材の水蒸気酸化スケール厚さとした。 【0062】 以上の結果を、再熱処理前後のオーステナイト結晶粒度番号と混粒率と併せて表2に示す。」 (ア7) 「 【0063】 【表2】 」 (当審注:上記【表2】からは、鋼No.2?3について、以下の事項が記載されていることが見て取れる。 ・鋼No.2 「水蒸気酸化スケール」の「平均厚さ」が12(μm)である。 ・鋼No.3 「水蒸気酸化スケール」の「平均厚さ」が17(μm)である。) 第4-3 当審の判断 (ア) 記載事項(ア1)?(ア7)の内容(特に、記載事項(ア5)の【表1】においては鋼No.1?3を参照されたい。)を、各合金組成より導出した、本件発明2における「[1]式」左辺の値と共に、本件発明2の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次の2つの発明(以下、それぞれ「甲1-1発明」、及び、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。 ・甲1-1発明 施工中に溶接される鋼管であって、質量%で、C:0.05%、Si:0.25%、Mn:1.89%、P:0.024%、S:0.001%、Ni:12.75%、Cr:18.78%、Nb:0.80%、sol.Al:0.001%、N:0.065%およびO:0.0036%を含有し、さらにTi:0.005%、残部がFeおよび不純物からなり、[1]式左辺の値が18.335である化学組成を有し、ボイラ組立施工時の熱処理を模擬した再熱処理を施し、次いで、蒸気温度:700℃、暴露時間:1000時間の試験条件にて水蒸気酸化試験に供し、試験後の供試材の断面を倍率100の顕微鏡で観察し、生成したスケールのうち、ポーラスで剥離しやすい外層スケールを無視し、緻密な内層スケールのみの厚さを任意の10視野について測定し、その平均値として得た「水蒸気酸化スケール厚さ」が12μmである、高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管。 ・甲1-2発明 施工中に溶接される鋼管であって、質量%で、C:0.06%、Si:0.90%、Mn:1.98%、P:0.003%、S:0.001%、Ni:12.37%、Cr:18.98%、Nb:0.52%、sol.Al:0.016%、N:0.108%およびO:0.0021%を含有し、さらにMg:0.0010%、Ti:0.015%、残部がFeおよび不純物からなり、[1]式左辺の値が19.790である化学組成を有し、ボイラ組立施工時の熱処理を模擬した再熱処理を施し、次いで、蒸気温度:700℃、暴露時間:1000時間の試験条件にて水蒸気酸化試験に供し、試験後の供試材の断面を倍率100の顕微鏡で観察し、生成したスケールのうち、ポーラスで剥離しやすい外層スケールを無視し、緻密な内層スケールのみの厚さを任意の10視野について測定し、その平均値として得た「水蒸気酸化スケール厚さ」が17μmである、高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管。 (イ)甲1-1発明について 本件発明2と甲1-1発明とを対比する。 甲1-1発明の「施工中に溶接される鋼管」は本件発明2の「溶接して用いられる鋼管」に相当し、甲1-1発明の「高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管」は本件発明2の「オーステナイト系耐熱鋼管」に相当する。 また、甲1-1発明の「C:0.05%」は本件発明2の「C:0.03?0.15%」に含まれ、甲1-1発明の「Si:0.25%」は本件発明2の「Si:1%以下」に含まれ、甲1-1発明の「Mn:1.89%」は本件発明2の「Mn:2%以下」に含まれ、甲1-1発明の「P:0.024%」は本件発明2の「P:0.04%以下」に含まれ、甲1-1発明の「S:0.001%」は本件発明2の「S:0.01%以下」に含まれ、甲1-1発明の「Ni:12.75%」は本件発明2の「Ni:7?13.5%」に含まれ、甲1-1発明の「Cr:18.78%」は本件発明2の「Cr:16?20%」に含まれ、甲1-1発明の「Nb:0.80%」は本件発明2の「Nb:0.2?1.2%」に含まれ、甲1-1発明の「N:0.065%」は本件発明2の「N:0.01?0.20%」に含まれ、、甲1-1発明の「O:0.0036%」は本件発明2の「O:0.01%以下」に含まれ、、甲1-1発明の「Ti:0.005%」は本件発明2の「Ti:0.5%以下」に含まれる。 そして、甲1-1発明の[1]式左辺の値「18.335」は17.5より大きいから、甲1-1発明は[1]式を満足する化学組成を有している。 してみると、両者は、 「溶接して用いられる鋼管であって、質量%で、C:0.05%、Si:0.25%、Mn:1.89%、P:0.024%、S:0.001%、Ni:12.75%、Cr:18.78%、Nb:0.80%、N:0.065%およびO:0.0036%を含有し、さらにTi:0.005%、残部がFeおよび不純物からなり、[1]式左辺の値が18.335である化学組成を有する、オーステナイト系耐熱鋼管。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1: 本件発明2においては、「被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さが20μm以下」であるのに対して、甲1-1発明においては、ボイラ組立施工時の熱処理を模擬した再熱処理を施し、次いで、蒸気温度:700℃、暴露時間:1000時間の試験条件にて水蒸気酸化試験に供し、試験後の供試材の断面を倍率100の顕微鏡で観察し、生成したスケールのうち、ポーラスで剥離しやすい外層スケールを無視し、緻密な内層スケールのみの厚さを任意の10視野について測定し、その平均値として得た「水蒸気酸化スケール厚さ」が12μmである点。 相違点2: 鋼管に含有されるAlの量が、本件発明2においては「Al:0.05%以下」であるのに対して、甲1-1発明においては、「sol.Al:0.001%」である点。 そこで、上記相違点について検討する。 (ウ)相違点1について 請求項1の「被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さが20μm以下」という記載から、本件発明2は、「溶接」される前のオーステナイト系耐熱鋼管における「酸化物層の厚さ」を特定するものであることがわかる。 (エ) これに対し、甲1-1発明においては、前記(ア6)?(ア7)に、「水蒸気酸化スケール厚さ」を、鋼管に「ボイラ組立施工時の熱処理を模擬した再熱処理」を施し、次いで、「水蒸気酸化試験」に供し、生成したスケールのうち、外層スケールを無視し、内層スケールのみの厚さの平均値として得ることが記載されているところ、前記(ア2)の「ボイラの組立施工等に際して行われる溶接や高温曲げ加工時」という記載から、上記「ボイラ組立施工時の熱処理を模擬した再熱処理」は、溶接を含めて模擬したものであるから、甲1-1発明における「水蒸気酸化スケール厚さ」は、「溶接」された後の高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管における酸化スケールの厚さを特定するものであることがわかる。 (オ) そうすると、本件発明2における上記「酸化物層の厚さ」と、甲1-1発明における「水蒸気酸化スケール厚さ」とは、それぞれ測定対象が相違している。 (カ) また、外層スケールを無視し、内層スケールのみの厚さを測定して得た上記「水蒸気スケール厚さ」から、溶接前の上記高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管における酸化スケールの厚さが「20μm以下」であることが当業者において自明であるともいえない。 (キ) そうすると、相違点1は、実質的な相違点であるといえる。 (ク)甲1-2発明について 本件発明1と甲1-2発明とを対比する。 甲1-2発明の「施工中に溶接される鋼管」は本件発明2の「溶接して用いられる鋼管」に相当し、甲1-2発明の「高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管」は本件発明2の「オーステナイト系耐熱鋼管」に相当する。 また、甲1-2発明の「C:0.06%」は本件発明2の「C:0.03?0.15%」に含まれ、甲1-2発明の「Si:0.90%」は本件発明2の「Si:1%以下」に含まれ、甲1-2発明の「Mn:1.98%」は本件発明2の「Mn:2%以下」に含まれ、甲1-2発明の「P:0.003%」は本件発明2の「P:0.04%以下」に含まれ、甲1-2発明の「S:0.001%」は本件発明2の「S:0.01%以下」に含まれ、甲1-2発明の「Ni:12.37%」は本件発明2の「Ni:7?13.5%」に含まれ、甲1-2発明の「Cr:18.98%」は本件発明2の「Cr:16?20%」に含まれ、甲1-2発明の「Nb:0.52%」は本件発明2の「Nb:0.2?1.2%」に含まれ、甲1-2発明の「N:0.108%」は本件発明2の「N:0.01?0.20%」に含まれ、、甲1-3発明の「O:0.0021%」は本件発明2の「O:0.01%以下」に含まれ、、甲1-2発明の「Mg:0.0010%」は本件発明2の「Mg:0.01%以下」に含まれ、甲1-2発明の「Ti:0.015%」は本件発明2の「Ti:0.5%以下」に含まれる。 そして、甲1-2発明の[1]式左辺の値「19.790」は17.5より大きいから、甲1-2発明は[1]式を満足する化学組成を有している。 してみると、両者は、 「溶接して用いられる鋼管であって、質量%で、C:0.06%、Si:0.90%、Mn:1.98%、P:0.003%、S:0.001%、Ni:12.37%、Cr:18.98%、Nb:0.52%、N:0.108%およびO:0.0021%を含有し、さらにMg:0.0010%、Ti:0.015%、残部がFeおよび不純物からなり、[1]式左辺の値が19.790である化学組成を有し、オーステナイト系耐熱鋼管。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点3: 本件発明2においては、「被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さが20μm以下」であるのに対して、甲1-2発明においては、ボイラ組立施工時の熱処理を模擬した再熱処理を施し、次いで、蒸気温度:700℃、暴露時間:1000時間の試験条件にて水蒸気酸化試験に供し、試験後の供試材の断面を倍率100の顕微鏡で観察し、生成したスケールのうち、ポーラスで剥離しやすい外層スケールを無視し、緻密な内層スケールのみの厚さを任意の10視野について測定し、その平均値として得た「水蒸気酸化スケール厚さ」が17μmである点。 相違点4: 本件発明2においては、鋼管に含有されるAlの量が「Al:0.05%以下」であるのに対して、甲1-2発明においては、「sol.Al:0.016%」である点。 (ケ)相違点3について 上記(ウ)?(オ)にて示したのと同様の理由で、本件発明2における上記「酸化物層の厚さ」と、甲1-2発明における「水蒸気酸化スケール厚さ」とは、それぞれ測定対象が相違している。 (コ) また、外層スケールを無視し、内層スケールのみの厚さを測定して得た上記「水蒸気スケール厚さ」から、溶接前の上記高温強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管における酸化スケールの厚さが「20μm以下」であることが当業者において自明であるともいえない。 (サ) そうすると、相違点3は、実質的な相違点であるといえる。 (シ) なお、申立人は特許異議申立書において、以下のとおり主張する。 ・主張1 「(III)構成要件C 甲第1号証の実施例には、水蒸気酸化試験後の水蒸気酸化スケールの平均厚さが、上記鋼No.2は12μm、鋼No.3は17μmであることが記載されている。このように、これらの鋼においては、水蒸気酸化試験を行った後のスケール、すなわち酸化物層の厚さが20μm以下であるので、水蒸気酸化試験前の鋼表面の酸化物の厚さが20μm以下であることは明らかである。」(第12頁第1?6行) ・主張2 「さらに、ステンレス鋼管には仕上げ段階で酸洗等の脱スケール処理がなされており、最終製品におけるステンレス鋼管の外表面及び内表面においては、酸化物層が実質的に存在しないことは自明な事項である(甲第2-9号証、特に甲第4-6号証参照)。甲第4号証には、熱的加工により生じるスケールは『完全に』除去しなければならないと記載されており、また、甲第5号証に記載されているように、熱処理後の酸洗による脱スケールは、鋼管を酸液に浸漬することによることが一般的である。このように鋼管を酸液に浸漬することで、鋼管の内表面及び外表面のスケール(酸化物層)は完全に除去される。甲第5号証には、最後の酸洗処理後は検査工程を経て最終製品となることが示されており、甲第6号証には『一般に、ステンレス鋼材は、酸洗による脱スケール処理を経て最終製品とされる』と明記されている。 すなわち、甲第1号証には、本件発明の構成要件C(被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さが20μm以下であること)の記載があると判断できる。」(第12頁第7?20行) しかし、上記主張1について検討すると、「水蒸気酸化スケールの平均厚さ」が外層スケールを無視した厚さである(記載事項(ア5))一方で、当該外層スケールの厚さについては甲第1号証に記載されていないから、「水蒸気酸化試験を行った後のスケール、すなわち酸化物層の厚さ」が「20μm以下」であるとはいえず、申立人の主張1は採用できない。 また、上記主張2について検討すると、甲第2?9号証のそれぞれに記載されたステンレス鋼において「最終製品におけるステンレス鋼管の外表面及び内表面においては、酸化物層が実質的に存在しない」ことから、甲1発明に係るオーステナイト系耐熱鋼管において、溶接前の時点で「被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さ」が「20μm以下」であることを導出できることについて、申立人は何等立証しておらず、申立人の主張2は採用できない。 (ス) よって、本件発明2は、相違点2、4を検討するまでもなく、甲1-1発明?甲1-2発明のいずれとも相違しており、甲第1号証に記載された発明ではない。 第5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について 以下、甲1-1発明と甲1-2発明とを纏めて「甲1発明」という。 (ア)申立理由1について (ア-1)本件発明1、3について (特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項) 本件発明1と甲1発明と対比すると、両者は、既に述べた点に加えて、以下の点で相違している。 相違点5: 本件発明1においては、Tiの含有量が特定されていないのに対して、甲1発明においては、特定量のTiを含有する点。 ここで、請求項1を引用する請求項2において初めてTiのさらなる添加について規定されていることからも、本件発明1においては、Tiは存在するとしても不純物であることがわかる。 一方、甲1発明において、Tiは、記載事項(ア4)にあるとおり「本発明の鋼管の大きな特徴の一つである前記の複合析出物の核となるTi_(2)O_(3)を均一に分散生成させるために欠くことのできない元素」であって「Ti含有量は0.002?0.05%」と規定されており、甲1発明においてTiの添加が不可欠であることがわかる。 そうすると、上記相違点5は実質的な相違点であるといえ、また技術常識を踏まえても、甲1発明からTi成分を除くことは、甲1発明の技術的意義を損なうものであるといえるから、甲1発明においてTiを添加しないものとすることはできない。 よって、本件発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、上記相違点5において甲1発明と相違しており、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載の発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件発明1を引用する本件発明3についても同様である。 (ア-2)本件発明2を引用する本件発明3について (特許法第29条第1項第3号) 請求項2を引用する本件発明3は、上記「第4-3 当審の判断」で示したのと同様の理由で甲1発明と相違しており、甲第1号証に記載された発明ではない。 (ア-3)本件発明2、3について(特許法第29条第2項) 甲第2?9号証のいずれをみても、高温加熱と冷却が繰り返される機器の部材として用いられるオーステナイト系耐熱鋼管において「被溶接端からの距離が5mmの範囲にある領域の管の外表面および内表面における酸化物層の厚さ」を「20μm以下」とすることで、「フェライト系耐熱鋼部材と異材溶接しても優れた耐熱疲労特性を有するオーステナイト系耐熱鋼管を提供する」(【0019】)という、本件発明が解決しようとする課題を解決できることについて記載も示唆もされていない。 また、「良好な耐熱疲労特性、なかでも異材溶接部近傍における熱疲労損傷に対して十分な抵抗性を備えている」(【0037】)溶接構造体を製造できるという本件発明1の効果は、甲第1号証及び甲第2?9号証の記載からは予測し得ないものであることがわかる。 そうすると、上記相違点1?4のそれぞれは実質的な相違点であるといえ、また技術常識を踏まえても、甲第1号証の記載に基づいて同相違点に係る本件特許発明2の発明特定事項を導出することはできない。 よって、本件発明2は、甲第1号証に記載の発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件発明2を引用する、本件発明3についても同様である。 (イ)申立理由2について(特許法第29条第2項) 甲第2号証には、以下の(イ1)?(イ3)の記載がある。 (イ1) 「請求の範囲 [1] 16?20重量%のCr量を含有し、鋼管内面が冷間加工されたオーステナイト系ステンレス鋼管であって、鋼管内表面近傍位置でのCr濃度が14重量%以上であり、鋼管内表面100μm位置の硬さが母材の平均硬度の1.5倍以上またはHv300以上の硬度を有する、ボイラ用オーステナイト系ステンレス鋼管。 …(略)…」 (イ2) 「発明の開示 発明が解決しようとする課題 [0009] 本発明は、593℃以上の高温蒸気に対して優れた耐高温水蒸気酸化性を有するボイラ用オーステナイトステンレス鋼管を提供することを目的とする。」 (イ3) 「実施例 [0029] 以下に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 [0030] 熱間押出素管を用い、冷間引抜加工、溶体化熱処理、常温の10%硝酸+2%フッ酸溶液による脱スケール処理を経る公知の工程の後、鋼管内面をショットブラスト加工して、過熱器、再熱器用の18-8オーステナイト系ステンレス鋼管(No.A?G)を製造した。…(略)… [0034] 」 また、申立人は特許異議申立書において、以下のとおり主張する。 「(4-4-1-2)進歩性 上述のように、甲第2号証に記載の発明は、本件発明の構成要件Bを備えるものではない。一方、甲第1号証には、上述のように、構成要件Bを有するオーステナイト系ステンレス鋼管の発明が記載されている。 ここで、甲第2号証に記載の発明は、優れた耐高温水蒸気酸化性を有することを課題とするものである。甲第1号証に記載の発明も、耐水蒸気酸化性と高温強度に優れることを課題とするものであり、甲第1号証の発明と、甲第2号証の発明とは課題が共通する。従って、甲第2号証の発明において、より耐水蒸気酸化性を高めるために、甲第1号証に記載の組成のオーステナイトステンレス鋼を用いること、すなわち構成要件Bを採用することは、当業者が容易に想到することである。」(第15頁第22行?第16頁第7行) しかし、甲第2号証の記載をみても、「16?20重量%のCr量を含有」(請求項1)する、[表1]に記載されたグレードのオーステナイト系ステンレス鋼を、敢えて甲1発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼に置換してさらに耐水蒸気酸化性と高温強度を改善する動機付けが存在せず、「甲第2号証の発明において、より耐水蒸気酸化性を高めるために、甲第1号証に記載の組成のオーステナイトステンレス鋼を用いること、すなわち構成要件Bを採用することは、当業者が容易に想到することである」とまではいえない。 さらに、請求人は特許異議申立書において、以下のとおり主張する。 「また、上記表1(甲第1、10-12号証)に示されるように、構成要件Bを備えるオーステナイト系ステンレス鋼は、周知な組成、即ち周知技術である。…(略)…従って、甲第2号証の発明において、周知技術である構成要件Bを採用することも、当業者が容易に想到することである。」(第15頁第22行?第16頁第7行) しかし、「構成要件Bを備えるオーステナイト系ステンレス鋼」が甲第1、10-12号証に記載されている事項や周知技術であるからといって、それが直ちに、甲第2号証において用いるオーステナイトステンレス鋼を「構成要件Bを備えるオーステナイト系ステンレス鋼」とすることが、当業者が容易になし得るものであることを導くものではない。 したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第1、10?12号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。 また、本件発明2?3についても、同様である。 (ウ)申立理由3について(特許法第29条第2項) 申立人は特許異議申立書において、以下のとおり主張する。 「(4-5-1-2)進歩性 上述のように、甲第3号証に記載の発明は、本件発明の構成要件A及びCを備えるものの、構成要件Bを備えるものではない。一方、上記表1(甲第1、10-12号証)に示されるように、構成要件Bを備えるオーステナイト系ステンレス鋼は、周知な組成、即ち周知技術である。従って、甲第3号証の発明において、周知技術である構成要件Bを採用することも、当業者が容易に想到することである。」(第18頁第4?10行) しかし、「構成要件Bを備えるオーステナイト系ステンレス鋼」が甲第1、10-12号証に記載されている事項や周知技術であるからといって、それが直ちに、甲第3号証において用いるオーステナイトステンレス鋼を「構成要件Bを備えるオーステナイト系ステンレス鋼」とすることが、当業者が容易になし得るものであることを導くものではない。 したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、10?12号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。 また、本件発明2?3についても、同様である。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-03-24 |
出願番号 | 特願2012-138759(P2012-138759) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 太田 一平 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
河野 一夫 土屋 知久 |
登録日 | 2016-02-12 |
登録番号 | 特許第5880306号(P5880306) |
権利者 | 新日鐵住金株式会社 |
発明の名称 | オーステナイト系耐熱鋼管 |
代理人 | 千原 清誠 |
代理人 | 杉岡 幹二 |
代理人 | 特許業務法人ブライタス |