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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1327001
異議申立番号 異議2016-700490  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-30 
確定日 2017-03-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第5826435号発明「銅粉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5826435号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5826435号(請求項の数5)に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2015-515066号)は、2015年 1月21日(優先権主張 2014年 2月14日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月23日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、本件特許に対し、平成28年 5月30日に特許異議申立人 藤江 桂子(以下、「申立人1」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年 6月 2日に特許異議申立人 村野 親(以下、「申立人2」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年10月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月22日に意見書が提出されたものである。

第2 本件発明

特許第5826435号の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.20μm?0.70μmであり、且つ、当該D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)であり、且つ、比表面積に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))であることを特徴とする銅粉。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.20μm?0.70μmであり、且つ、当該D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)であり、且つ、体積累積粒径D10が0.08μm?0.30μmであることを特徴とする銅粉。
【請求項3】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.20μm?0.70μmであり、且つ、当該D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)であり、且つ、前記D90、D10及びD50によって表される式(D90-D10)/D50(単位:μm/μm)が1.0?7.0であることを特徴とする銅粉。
【請求項4】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D90が0.35μm?12.0μmであることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の銅粉。
【請求項5】
銅粉を構成する銅粉粒子の50個数%以上が球状若しくは略球状であることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の銅粉。」

第3 申立理由の概要

(ア)
申立人1は、以下の申立理由1-1?1-6によって請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1-1
本件発明1は、甲第1-1号証?甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

申立理由1-2
本件発明2は、甲第1-2号証?甲第1-4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

申立理由1-3
本件発明3は、甲第1-2号証?甲第1-4号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

申立理由1-4
本件発明4は、甲第1-2号証?甲第1-4号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

申立理由1-5
本件発明5は、甲第1-1号証?甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

申立理由1-6
本件発明5は、甲第1-2号証?甲第1-4号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[申立人1が提出した証拠方法]
甲第1-1号証:特開平11-152506号公報
甲第1-2号証:特開2001-89803号公報
甲第1-3号証:特開2010-18880号公報
甲第1-4号証:特開2007-84906号公報
甲第1-5号証:特開2005-154861号公報
甲第1-6号証:特開2005-133119号公報
甲第1-7号証:特開2010-144197号公報
甲第1-8号証:特開2012-233222号公報

(イ)
申立人2は、以下の申立理由2-1?2-7によって請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由2-1
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(当審注:当該申立理由において、申立人2は甲第2-15号証?甲第2-23号証を引用している。)。

申立理由2-2
本件発明1は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証?甲第2-6号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-3
本件発明2は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-8号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-4
本件発明3は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-5
本件発明4は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-6
本件発明5は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証?甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2-7
本件発明1?5は、甲第2-8号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-9号証?甲第2-14号証に記載された発明、甲第2-21号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[申立人2が提出した証拠方法]
甲第2-1号証 :特開2012-162807号公報
甲第2-2号証 :特開2004-124257号公報
甲第2-3号証 :特開平3-100109号公報
甲第2-4号証 :特開昭62-99406号公報
甲第2-5号証 :特開2001-220607号公報
甲第2-6号証 :特開2009-79269号公報
甲第2-7号証 :特開2012-92432号公報
甲第2-8号証 :特開2010-18880号公報
(甲第1-3号証と同一の文献)
甲第2-9号証 :特開2008-50661号公報
甲第2-10号証:特開平2-57623号公報
甲第2-11号証:特許第4868716号公報
甲第2-12号証:特開2001-89803号公報
(甲第1-2号証と同一の文献)
甲第2-13号証:特開2005-154861号公報
(甲第1-5号証と同一の文献)
甲第2-14号証:特開2005-133119号公報
(甲第1-6号証と同一の文献)
甲第2-15号証:「熱プラズマによるナノ粒子の合成」
J.Plasma Fusion Res.
Vol.82,No.8(2006)484-487
甲第2-16号証:「CVD,粒子合成への応用」
J.Plasma Fusion Res.
Vol.85,No.2(2009)83-87
甲第2-17号証:「熱プラズマによるナノ粒子合成?合金と金属間化合物
を中心として?」
表面技術 Vol.59,No.11,2008,
p.718?723
甲第2-18号証:「プラズマを用いた材料プロセッシングの開発」
Journal of the Society of
Inorganic Materials,Japan
13,118-125(2006)
甲第2-19号証:「熱プラズマによるナノ粒子の合成とその機能発現」
Journal of the Society of
Powder Technology Japan
Vol.48 No.9 PP632?640
2011年
甲第2-20号証:「熱プラズマを用いる材料プロセッシング?非平衡プラ
ズマとの違い?」
表面技術 Vol.60,No.6,2009,
p.365?370
甲第2-21号証:「プラズマプロセスによるナノ粒子合成と応用」
Earozoru kenkyu ,29(2),
98-103(2014)
甲第2-22号証:「熱プラズマプロセシング」
真空ジャーナル 2004年3月 93号,p.3?9
甲第2-23号証:「高周波熱プラズマによる球状銅系サブミクロン粒子の
作製」
粉末および粉末冶金 第54巻第1号 p39-43
2007年1月
甲第2-24号証:特許第5826435号公報(本件特許公報)

第4 取消理由について

第4-1 取消理由の概要

本件発明1?5のそれぞれに対して、平成28年10月21日付けで当審より通知した取消理由の概要は、次のとおりのものである。

取消理由(申立理由2-1に基づく取消理由)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?5のそれぞれについて、申立人2による特許異議申立書における、「4.申立ての理由」の「4-5.理由1により本件特許発明が特許を受けることができないことについて」(第107頁下から第2行目?第126頁下から第2行目)に記載された理由により、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。

第4-2 甲号証に記載された事項

(ア)甲第2-15号証の記載

(アa)
「原料粒子がRFプラズマの温度分布や流線に与える影響をFig.1[9]に示す。」(p485左欄下から第10?11行)

(アb)
「プラズマによって蒸発した原料の気体は下流に輸送され,ここでは温度が急激に減少するため,原料の飽和蒸気圧も急激に降下する。それによって原料の蒸気は過飽和に達し,均一核生成が起きる。」(p485右欄下から第3?6行)

(アc)
「RFプラズマにモリブデン粒子とシリコン粒子を供給し,下流でナノ粒子が生成する領域におけるモリブデンとシリコンのそれぞれの蒸気消費率と温度の軸方向分布をFig.2に示す。」(p486左欄第20?23行)

(アd)
「プラズマの高温領域で原料は原子あるいはイオンにまで分解され,境界層での急冷過程による非平衡反応が材料の特性を決定する。」(p486左欄最下行?同頁右欄第2行)

(イ)甲第2-16号証の記載

(イa)
「大気圧で発生する熱プラズマが本質的に非平衡プラズマと異なる点は,高温から一挙に常温までの冷却過程をプロセスとして活用できることである。熱プラズマを反応場として材料合成に用いる場合には,プラズマが有する1万度以上の高温を利用して原料を蒸発させ,目的物質を得るための各種の反応を起こさせるが,このときにプラズマの流れの状態による加熱や冷却過程が重要な役割を果たしている。」(p83左欄下から第2行?同頁右欄上から第6行)

(イb)
「高周波熱プラズマを発生するための基本的な周波数は数MHzであるが,このコイル電流をミリ秒オーダの周期で振幅変調すると,熱プラズマの特徴である高温反応場と,低温場の遷移過程含んだ新しい反応場を意図的に繰り返すことができる。」(p85右欄第14?18行)

(ウ)甲第2-17号証の記載

(ウa)
「熱プラズマを用いるナノ粒子合成のプロセシングでは,2つのプロセスを制御することが重要である。つまり,10,000℃程度のプラズマの高温領域における原料の蒸発プロセスと,下流の低温領域で1000℃程度まで急冷することによって起きる均一核生成プロセスである。ナノ粒子合成プロセスは,図1^(1))にその概念図を示すように,急冷過程においてマイクロ秒オーダーで起こる核生成や凝縮,クラスター間の凝集が重要であり,このプロセスを制御することが熱プラズマプロセシングの利点を活かすことになる。ナノ粒子の組成や結晶系を制御するのは,気相から凝縮相へ相変化する均一核生成と不均一凝縮の段階であり,最終的な生成物の特性を決めるのに重要なプロセスである。」(p718左欄第2?13行)

(ウb)


」(図1)

(ウc)
「特にプラズマジェットは流速が速いので,高温領域中での原料の滞留時間が短いことが欠点である。」(p718右欄第10?11行)

(ウd)
「2.熱プラズマを利用したナノ粒子合成方法の特徴
2.1 直流アークを利用したナノ粒子合成
水素アークを用いるナノ粒子合成法は活性プラズマ-溶融金属反応法^(2))と呼ばれ,…(略)…陽極上にナノ粒子の原料となる金属塊を置き,プラズマ中で解離した水素が溶融金属中に溶け込むことにより,金属の蒸発が促進される作用を利用している。…(略)…このようなアークの高温によって陽極上の原料を蒸発させることにより,ナノ粒子を合成できる。
…(略)…
2.2 高周波プラズマを利用したナノ粒子合成
RF熱プラズマを用いるナノ粒子製造方法は,高温のプラズマ中に原料を吹き込み,プラズマの高温領域における10ms程度の滞留時間内で原料を蒸発させ,下流の低温領域で凝集相としてナノ粒子を合成する方法である。」(p718右欄第15行?p719左欄第15行)

(ウe)
「熱プラズマを利用したナノ粒子の合成方法には,制御性があまり良くないという欠点があり,工業的な応用は進んでいない。これは直流アークによる金属の蒸発機構が解明されていないだけではなく,蒸発した成分が低温領域で均一核生成や不均一凝縮によってナノ粒子を生成するプロセスや,ナノ粒子同士の凝縮プロセスなどを定量的に捉えることが困難であることが理由である。」(p721左欄第33?39行)

(エ)甲第2-18号証の記載

(エa)
「熱プラズマを反応場として材料合成に用いる場合には,プラズマが有する10000℃以上の高温を利用して原料を蒸発あるいは反応させるが,このときにプラズマの流れの状態による加熱や冷却過程が重要な役割を果たしている。」(p118右欄第15?19行)

(エb)
「プラズマジェットは陽極部と陰極部の間で発生したアークをノズルから噴出させ,ノズル出口近傍に存在する12000K以上の高温領域を材料プロセッシングに用いる。移送式アークのようにトーチ外部に陽極が存在しないので,プラズマ中に粉体等を供給するようなプロセスとして利用される。プラズマジェットの温度や速度には半径方向および軸方向に急激な勾配が存在しているので,プラズマジェット内で均質な化学反応を進行させることは本質的に困難である。
…(略)…
原料として粉体を用いる場合には,プロセスの制御性から考えると,高温領域が小さく,流速が速いプラズマジェットは材料プロセッシングには適していないと考えられる。」(p119右欄第5?24行)

(エc)
「4 ナノ粒子合成
…(略)…
4・1 直流アークによるナノ粒子合成
アークを用いるナノ粒子製造方法には,活性プラズマ-溶融金属反応法がある。これは,陽極上にナノ粒子の原料となる金属塊を置き,プラズマアーク中で原子状に解離した活性種により溶融金属からナノ粒子を合成する方法である。
…(略)…
4・2 RF熱プラズマによるナノ粒子合成
RF熱プラズマを用いてナノ粒子を合成するには,粉体原料を供給してプラズマ中で蒸発させ,その蒸気を気相中で単に冷却凝縮する方法,及びプラズマで得られる高温蒸気の冷却過程において化学反応を起こさせる方法がある。」(p121右欄第10行?p123左欄第6行)

(オ)甲第2-19号証の記載

(オa)
「2.1 直流放電アークによるナノ粒子合成
直流放電アークを用いるナノ粒子合成法の代表例として,活性プラズマ-溶融金属反応法^(3))がある。活性プラズマ-溶融金属反応法は,Fig.1に示すように,陽極上にナノ粒子の原料となる金属塊を置き,アーク中で原子状に解離した活性種によって溶融金属からナノ粒子を合成する方法である。」(p633左欄第18?24行)

(オb)
「2.2 高周波熱プラズマによるナノ粒子合成
高周波(RF)熱プラズマを用いるナノ粒子合成方法は,高温のプラズマ中に原料を吹き込み,プラズマの高温領域における10ms程度の滞留時間内で原料を蒸発させ,原料の蒸気は対流や拡散によって熱プラズマの領域を抜け,急激な温度降下に伴い過飽和状態に達し,ナノ粒子へと変換される。」(p634左欄第18?24行)

(オc)
「熱プラズマを用いると数?数十ナノメートルの粒子が生成されやすく,100nmを越えるような粒子は生成しにくいが,プラズマガス組成,粉体供給量,雰囲気圧力の制御に加えて,Cuが低融点金属であるため粒成長しやすいことを利用して,100nm以上のCuナノ粒子が大量に生成されている^(51))。」(p638左欄第7?12行)

(カ)甲第2-20号証の記載

(カa)
「しかしDCアークには,数kHzでアークが変動しているという本質的な欠点がある。この変動は電極上の陰極点や陽極点の周期的な変動に起因しており,DCアークでは避けることができないものである^(5))。この変動によって,DCアーク中に供給した原料はその飛行中にDCアークの高温領域だけではなく,低温領域も通過することになる。これは処理物質の加熱履歴が均一にならないことを意味している。
電極での変動が顕著に現れるプロセッシングとして,ワイヤアーク溶射がある。ワイヤアーク溶射は電極そのものを高温のアークで溶融させ,高速のガスでそれらを吹き飛ばすことによって溶射皮膜を形成する。」(p366左欄下から第2行?右欄上から第9行)

(カb)
「2.1 非移行式アーク
DCアークの発生方式には非移行式と移行式がある。…(略)…プラズマジェットのような非移行式で得られる熱効率は30%程度と低いが,移行式アークのようにトーチ外部に陽極が存在しないので,処理する物質の制限がないことから,多くの材料プロセシングで利用されている。
プラズマ溶射は非移行式アークを用いる材料プロセッシングの代表である。…(略)…プラズマジェットの乱流構造は図4^(7))に示すように特有の構造を有し,ノズル出口において,プラズマジェットが周囲からの低温の空気を渦状に巻き込む。」(p366右欄下から第6行?p367左欄上から第12行)

(キ)甲第2-21号証の記載

(キa)
「この熱プラズマの発生方式は,直流アーク放電型,高周波誘導結合(Radio-Frequency:以下RFと略)型,両者を併せたハイブリッド型などに分類され,それぞれ長短所があるが,本稿では筆者らが検討しているRF熱プラズマ法を利用したナノ粒子の作製及び応用について紹介する。」(p98右欄第1?6行)

(キb)
「2. RF熱プラズマの特徴
RF熱プラズマ装置の概略図およびプラズマトーチ部の概略図をFig.1(a),(b)に示す。装置は高周波電源,トーチ,チャンバーおよび製品回収フィルターから構成されている。トーチ部はおもに,水冷構造の石英管,原料を供給するプローブおよび高周波電流が流れるコイルから構成されており,コイルに高周波電流を印加すると,高周波誘導により内部のArガスが放電・加熱され熱プラズマが発生する。…(略)…ナノ粒子は,原料を高温のプラズマ内で完全に蒸発させた後に,下流の低温領域で蒸気を急冷・凝縮することで得られるが,このようにRF熱プラズマ法ではさまざまな雰囲気の超高温反応場を利用することができるため,さまざまなナノ粒子を得ることが可能である。」(p98右欄第7行?p99左欄第10行)

(キc)


」(Fig.1)

(キd)
「Zrを添加した場合には粒子径が小さくなり結晶化が促進されているが,これは原料蒸気の冷却過程で,沸点が高く核生成速度の速いZrが存在すると液滴の蒸気圧が低下し,より高温から凝縮相を形成するために,液滴状態(液滴が固化する融点まで)の時間が長くなり,結晶化が進行したと考えられる。凝縮過程を考慮するとプラズマ法では,一段階で結晶性の高いナノ粒子を得ることも可能であり,通常結晶化を進行させるために後処理工程で必要な焼成などのプロセスを省略できる。」(p100左欄第12?21行)

(キe)
「また微細化により表面積が増加すると,場合によっては回収時に急激に酸化(発火)することがある。」(p100左欄第30?31行)

(ク)甲第2-22号証の記載

(クa)
「粉体、液体、気体に関する処理量で各々1Kg/h,10Kg/h,100Kg/h程度で経済性を有し且つ産業に有益な応用分野があれば100kWレベルのプラズマ出力の熱プラズマシステムの適用が可能であり、既存技術を基に熱プラズマシステムを開発・完備することは可能であると言える。」(p3右欄第9?14行)

(クb)
「(1)プラズマ溶射
…(略)…注意すべきは直流放電特性によりmsオーダーの周期的変動が必ず生ずることである。問題はこの時間スケールが注入粒子の加熱・溶融に要する時間と同程度であることで、たとえ粉末注入に関わる分布を制御できたとしても直流プラズマトーチにより加熱履歴を制御することは何らかの緩和過程を付加しない限り本質的に困難であり、減圧直流プラズマ溶射はその流れにあることを留意しておく必要がある。」(p4左欄下から第8行?p5左欄最下行)

(ケ)甲第2-23号証の記載

(ケa)
「高周波熱プラズマによる球状銅系サブミクロン粒子の作製」(表題)

(ケb)
「2 実験方法
プラズマ粉末処理装置はプラズマトーチ(MODEL PL-50,TEKNA Plasma System Inc.),2MHz高周波電源(日本高周波),水冷構造反応容器とステンレス製フィルタで構成されている^(4))。Ar-H_(2)プラズマを高周波電源に接続されたトーチ内に発生した。高純度Arを誘導コイルに垂直方向からセントラルガスとして供給し,Ar-H_(2)混合ガスをシースガスとしてセントラルガスの周囲に供給した。原料粉末として銅粉末(電解銅粉、平均粒径40μm、三井金属鉱業)をキャリアガスと共にトーチ上部から粉体導入ノズルを通してプラズマ中に注入した。Cu微粉末作製時のプラズマ発生条件,原料粉末供給条件をTable1(a)に示す。」(p40左欄第8?19行)

(ケc)
「Table 1 Experimental condition

」(p40左下)

第4-3 当審の判断

(ア)本件発明1について
申立人2は、特許異議申立書において、本件発明1を下記1A?1Dに分節する。

・分節1A
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.20μm?0.70μmであり、
・分節1B
且つ、当該D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)であり、
・分節1C
且つ、比表面積に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))である
・分節1D
ことを特徴とする銅粉。

そして、甲第2-15号証?甲第2-23号証を提示しつつ、以下のとおり主張する(下線部は当審にて付与した。以下同様。)。

(ア1)
「しかしながら、本件特許発明では、その製造方法の中に、プラズマによって達成される高温の温度条件及びその温度条件下で材料が滞在する時間、冷却時の温度条件及び高温から低温に冷却するまでの時間等の記載が一切ない。」(第115頁第3?5行)

(ア2)
「本件特許発明の明細書には、原料、プラズマ出力(A)、Ar流量(B)、N_(2)流量(C)、プラズマフレームのフレームアスペクト比について記載されているものの、使用する装置が明らかでないばかりでなく、得られる銅粉の『特性(例えば、粒度分布、結晶子径)』に影響する『均一にプラズマアークへ原料を供給する方法、プラズマアークへの原料の供給量、プラズマアークの温度、プラズマ装置のチャンバー内の雰囲気圧力、冷却の条件等』について記載されておらず、これら条件が周知な事項である理由もない。
また、本件特許発明の明細書には、『このようにして得られた銅粉は、回収ポットに蓄積され、作製バッチを緩やかに大気開放した後、銅粉(サンプル)を回収した。』と記載されているものの、得られる銅粉の酸素量に影響する『銅粉の回収時の大気暴露の方法』についての条件が明確に記載されておらず、これら条件が周知な事項である理由もない。」(第122頁第11?22行)

(イ)
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、以下の記載がある。

(イ1)
「【発明を実施するための形態】
…(略)…
【0018】
<本銅粉>
本実施形態に係る銅粉(以下、「本銅粉」と称する)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.20μm?0.70μmであり、且つ、当該D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)であることを特徴とする銅粉である。
【0019】
(D50)
本銅粉のD50、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50は、上述のように0.20μm?0.70μmであるのが好ましい。
…(略)…
【0024】
(結晶子径)
本銅粉の結晶子径に関しては、前記D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)であるのが好ましい。
…(略)…
【0026】
本銅粉の粒度及び結晶子径を上記のように調製するには、後述するように、直流熱プラズマ(「DCプラズマ」と称する)装置を使用して原料銅粉を加熱噴射する際、プラズマガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用すると共に、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整する方法を採用すればよい。但し、このような製法に限定するものではない。
…(略)…
【0027】
(酸素量)
本銅粉に関しては、比表面積(SSA)に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))であるのが好ましい。
…(略)…
【0028】
本銅粉に関して、比表面積に対する酸素量(O量)の割合を上記範囲に調整するには、上述のように、DCプラズマ装置を使用して原料銅粉を加熱噴射する際、プラズマガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用すると共に、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整するようにすればよい。但し、このような製法に限定するものではない。

(イ2)
「【0035】
<製法>
次に、本銅粉の好ましい製造方法について説明する。
【0036】
本銅粉は、DCプラズマ装置を使用して原料銅粉を加熱噴射する際、プラズマガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用すると共に、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整することで、製造することができる。但し、このような製法に限定するものではない。
【0037】
ここで、プラズマフレームが層流状態であるか否かは、プラズマフレームを、フレーム幅が最も太く観察される側面から観察した際に、フレーム幅に対するフレーム長さの縦横比(以下、フレームアスペクト比)が3以上であるか否かによって判断することができ、フレームアスペクト比が3以上であれば層流状態、3未満であれば乱流状態と判断することができる。
…(略)…
【0039】
DCプラズマ装置としては、例えば図1に示すように、粉末供給装置2、チャンバー3、DCプラズマトーチ4、回収ポット5、粉末供給ノズル6、ガス供給装置7及び圧力調整装置8を備えたプラズマ装置1を挙げることができる。
この装置においては、原料粉末は、粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通してDCプラズマトーチ4内部を通ることになる。プラズマトーチ4には、ガス供給装置7よりアルゴンと窒素の混合ガスが供給されプラズマフレームが発生することになる。
また、DCプラズマトーチ4で発生させたプラズマフレーム内で、原料粉末はガス化され、チャンバー3に放出された後、冷却され微粉末となって回収ポット5内に蓄積回収される。
チャンバー3の内部は、圧力調整装置8によって粉末供給ノズル6よりも相対的に陰圧が保持されるように制御され、プラズマフレームを安定して発生する構造をとっている。
…(略)…
【0041】
DCプラズマ装置を使用して原料銅粉を加熱噴射する際、プラズマガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用すると共に、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整するのが好ましい。このように調整すれば、投入した原料銅粉は、プラズマ炎中で瞬時に蒸発気化し、プラズマフレーム内で十分なエネルギーを供給することができるため、プラズマ尾炎部に向って核形成、凝集及び凝縮が生じて微粒子、中でもサブミクロンオーダーの微粒子を形成することができる。
【0042】
上述のように、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように、プラズマ出力とガス流量を調整することが好ましい。かかる観点から、直流熱プラズマ装置のプラズマ出力は2kW?30kWであるのが好ましく、中でも4kW以上或いは15kW以下であるのがさらに好ましい。また、プラズマガスのガス流量は、上述の観点から、0.1L/min?20L/minであるのが好ましく、中でも0.5L/min以上或いは18L/min以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
さらには、プラズマフレームを層流状態に安定的に保つには、上述のプラズマ出力、ガス流量の範囲を保ち、かつプラズマ出力(A)に対する、Arガス流量(B)とN_(2)ガス流量(C)の和の比、計算式(B+C)/Aで算出した値(単位:L/(min・kW))が、0.50以上2.00以下とするのがより好ましい。原料粉体のガス化に必要な流速を得るためには(B+C)/A値が0.50以上とするのが好ましく、プラズマフレームを層流で安定した状態を保持するには2.00以下とするのが好ましい。
かかる加点から、(B+C)/Aが、0.70以上或いは1.70以下となるように調整するのが特に好ましく、その中でも0.75以上或いは1.50以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0044】
熱プラズマを発生させる動作ガスとしてのプラズマガスは、上述のようにアルゴンと窒素の混合ガスを使用するのが好ましい。
ここで、アルゴンガスと窒素ガスとを混合したガスを使用すると、窒素(2原子分子)ガスにより、より大きな振動エネルギー(熱エネルギー)を銅粉粒子に付与することができ、凝集状態を均一にできるため、粒度分布がよりシャープなナノ微粒子を得ることができる。
但し、窒素の含有量が多すぎるとプラズマフレームが減退してしまい、粒度分布のシャープな粉体を得られない。
かかる観点から、プラズマガスにおけるアルゴンと窒素の割合は流量比で99:1?10:90であるのが好ましく、中でも95:5?60:40、その中でも95:5?80:20であるのがさらに好ましい。また、粒度分布をシャープなものとする、言い換えれば(D90-D10)/D50をより小さくする観点からは、アルゴンと窒素の割合は、流量比で99:1?50:50、中でも95:5?50:50のように、窒素よりもアルゴンの流量の方が多い比率内で調整するのが好ましい。」

(イ3)
「【実施例】
【0051】
以下、本発明を下記実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
【0052】
<実施例1>
本実施例では、DCプラズマ微粉製造装置を用いて下記に従い銅粉を製造した。
原料粉末供給口から、原料粉として銅粉(粒径10μm、球状粒子)を導入して、10g/分の原料供給量で、Ar流量13.0L/分及びN_(2)流量0.7L/分をプラズマガスとしてプラズマフレーム(言い換えればプラズマ炎)の内部に供給した。この際、Ar流量(B)とN_(2)流量(C)との比は95:5であった。また、プラズマ出力は10.0kWであり、プラズマ出力(A)、Ar流量(B)及びN_(2)流量を調整して、(B+C)/A=1.37(L/(min・kW))とした。
このようにして得られた銅粉は、回収ポットに蓄積され、作製バッチを緩やかに大気開放した後、銅粉(サンプル)を回収した。
【0053】
上記製造方法において、生成されたプラズマフレーム(言い換えればプラズマ炎)に関し、フレーム幅が最も太く観察される側面から該プラズマフレームを写真撮影し、二値化して、フレーム幅に対するフレーム長さの縦横比(フレームアスペクト比)を測定した(後述する実施例・比較例も同様。その結果、生成されたプラズマフレームのフレームアスペクト比が4であり、層流であることが確認された。
…(略)…
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】



(ウ)
上記(イ1)?(イ3)の記載から、以下の(ウ1)?(ウ6)に示すとおりのことがわかる。

(ウ1)
上記分節1A?1Dのそれぞれにおける特定を満足する銅粉は、「DCプラズマ装置を使用して原料銅粉を加熱噴射する際、プラズマガスとして、アルゴンと窒素の混合ガスを使用すると共に、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整する」(【0028】)ことで製造できること、
(ウ2)
上記(ウ1)における「プラズマフレーム」が「層流状態」か否かは、「フレーム幅に対するフレーム長さの縦横比(以下、フレームアスペクト比)」が「3以上」(【0037】)か否かで判断できること、
(ウ3)
上記(ウ1)で使用する「DCプラズマ装置」は「粉末供給装置2、チャンバー3、DCプラズマトーチ4、回収ポット5、粉末供給ノズル6、ガス供給装置7及び圧力調整装置8を備えたプラズマ装置1」(【0039】)であること、
(ウ4)
上記(ウ1)で使用する「原料銅粉の粒度(D50)」を「3.0μm?30μm」(【0040】)とすること、
(ウ5)
上記(ウ1)における「プラズマフレーム」を「層流状態」で「太く長く」「安定的に保つ」には、「直流熱プラズマ装置のプラズマ出力」を「2kW?30kW」、「プラズマガスのガス流量」を「0.1L/min?20L/min」(【0042】)、「プラズマ出力(A)に対する、Arガス流量(B)とN_(2)ガス流量(C)の和の比、計算式(B+C)/Aで算出した値(単位:L/(min・kW))」を「0.50以上2.00以下」(【0043】)とすること、
(ウ6)
上記(ウ1)?(ウ6)のそれぞれに記載された各規定を満足する条件にて銅粉を製造した実施例1?8において、分節1A?1Dのそれぞれにおける特定を満足する銅粉が得られていること(【0051】?【0080】)。

(エ)
そうすると、上記(イ1)?(イ3)の記載を参考にすれば、当業者に過度な試行錯誤を強いることなく、本件発明1に係る銅粉を製造することができるといえる。

(オ)
ここで、本件発明1に係る微粉の製造方法は、上記(イ)(イ2)の【0039】及び【0041】の記載からみて、DCプラズマ装置を使用し、DCプラズマトーチでプラズマフレームを発生させ、DCプラズマトーチ内部を通ってプラズマフレーム内に供給された原料銅粉を、プラズマフレーム内で蒸発気化、核生成、凝集、凝縮せしめてナノ粒子を合成する方法(以下、「本件方法」という。)であることがわかる。

(カ)
これに対して、例えば甲第2-21号証には「RF熱プラズマ法」と称するナノ粒子の製造方法が記載されており、上記第4-2(キ)の(キb)?(キc)の記載からみて、当該「RF熱プラズマ法」は、トーチ部のコイルに高周波電流を印加してコイル内部のガスを熱プラズマ化し、この熱プラズマにプローブを通して原料を供給してプラズマ内で完全に蒸発させ、下流の低温領域で原料蒸気を急冷・凝縮せしめてナノ粒子を合成する方法であることがわかる。

(キ)
また、例えば甲第2-19号証には「活性プラズマ-溶融金属反応法」と称するナノ粒子の製造方法が記載されており、上記第4-2(ウ)の(ウa)、(ウb)、及び(ウd)の記載からみて、当該「活性プラズマ-溶融金属反応法」は、陽極上にナノ粒子の原料となる金属塊を置き、アークの高温によって陽極上の原料を蒸発させることで生じた金属蒸気をアークの外で凝縮、凝集せしめてナノ粒子を合成する方法であることがわかる。

(ク)
そして、甲第2-15号証(上記第4-2(ア)の(アa)参照)、甲第2-16号証(上記第4-2(イ)の(イb)参照)、甲第2-21号証(上記(第4-2(キ)の(キa)参照)、甲第2-23号証(上記第4-2(ケ)の(ケa)?(ケb)参照)は、上記「RF熱プラズマ法」に係る微粉の製造方法が記載されているものの、本件方法に係る微粉の製造方法は記載されていない。

また、甲第2-17号証(上記第4-2(ウ)の(ウd)参照)、甲第2-18号証(上記第4-2(エ)の(エb)、(エc)参照)、及び、甲第2-19号証(上記第4-2(オ)の(オa)、(オb)参照)は、上記「RF熱プラズマ法」、及び上記「活性プラズマ-溶融金属反応法」に係る微粉の製造方法が記載されているものの、本件方法に係る微粉の製造方法は記載されていない。

そして、甲第2-20号証(上記第4-2(カ)の(カa)?(カb)参照)、甲第2-22号証(上記第4-2(ク)の(クa)?(クb)参照)は、それぞれ「溶射」技術に係るものであって、本件方法に係る微粉の製造方法は記載されていない。

(ケ)
そうすると、甲第2-15号証?甲第2-23号証を提示しつつ「本件特許発明の明細書(発明の詳細な説明)からでは、本件特許発明の請求項1における各分節を満たす銅粉を製造する条件が記載されていない。」とする請求人2の主張は、本件方法と互いに相違している微粉の製造方法における知見に基づくものであり、採用できない。

(コ)
してみると、発明の詳細な説明が、本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない、とはいえない。
また、本件発明2?5のそれぞれについても、同様である。

第4-4 まとめ

以上のとおりであるから、本件特許1?5は、それぞれ特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

第5-1 甲号証に記載された事項

第5-1-1 申立人1が提出した証拠方法について

(ア)甲第1-1号証の記載
甲第1-1号証には、次の記載がある。

(1-1a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子回路の形成や集電用電極として使用される微細な銅粉の製造方法に関する。」

(1-1b)
「【0002】
【従来の技術】電子回路の形成や集電用電極として使用される銅粉は、粒径の揃った微粒子であり、凝集体を含まないこと、単分散性がよいこと、耐酸化性が優れていることが必要とされている。」

(1-1c)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来の事情に鑑み、ヒドラジンのような有害な還元剤や、アスコルビン酸のような高価な還元剤を使用することなく、粒径が微細且つ均一であり、耐酸化性及び球形性に優れた銅粉を、簡単且つ安価に製造する方法を提供することを目的とする。」

(1-1d)
「【0023】
【実施例】実施例1
6.6kgのトリエチレングリコール(沸点285℃)に、0.33kgの酸化銅粉(酸化銅中の酸素量0.066kg)と、0.79kgのブドウ糖(酸化銅中の酸素量に対して重量比で12倍)を添加し、撹拌しながら200℃に加熱して120分間保持した。得られた銅粉を遠心分離し、洗浄乾燥した。」

(1-1e)
「【0024】得られた銅粉は、マイクロトラック法により粒度分布を測定したところ累積頻度50%に相当する粒径が0.6μmであり、単分散性の良好な銅粉であった。また、SEM観察の結果、この銅粉の粒子形状はほぼ球形であった。更に、この銅粉を大気中で1ケ月間放置した後、酸化の程度を調べるために銅粉中の酸素を分析したところ、0.6重量%であった。この酸素量は銅粉製造直後の0.3重量%よりも若干上昇しているが、従来に比べ十分な耐酸化性を有する銅粉であることが分かった。」

(イ)甲第1-3号証の記載
甲第1-3号証には、次の記載がある。

(1-3a)
「【請求項10】
レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D_(50))が0.1?0.5μm、検出の最大粒径(D_(max))が1.5μm以下であり、10?10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含むことを特徴とする、導電性ペースト用銅粉。」

(1-3b)
「【請求項12】
SEMによって観測された銅粒子の中で単一の略球状の銅粒子の個数の割合が90%以上であることを特徴とする、請求項10または11に記載の導電性ペースト用銅粉。」

(1-3c)
「【0001】
本発明は、導電性ペースト用銅粉およびその製造方法に関し、特に、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極や、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極を形成するための導電性ペーストに使用する銅粉およびその製造方法に関する。」

(1-3d)
「【0016】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、単分散した微粒子で、粒度分布がシャープで、粗粒を含まず、形状が真球に近いなどの特性を有する銅微粒子であり、電気的特性への悪影響を回避しながら、電極の薄膜化を可能にする導電性ペースト用銅粉およびそのような導電性ペースト用銅粉を安定して製造することができる方法を提供することを目的とする。」

(1-3e)
「【0019】
また、本発明による導電性ペースト用銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D_(50))が0.1?0.5μm、検出の最大粒径(D_(max))が1.5μm以下であり、10?10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含むことを特徴とする。この導電性ペースト用銅粉において、SEMによって観測された銅単体粒子の平均粒径(単体粒子径)に対する、レーザー回折式粒度分布測定装置によって観測された凝集粒子の50%粒径(凝集粒子径)の比(二次粒子径/一次粒子径)が2.0以下であるのが好ましい。また、SEMによって観測された銅粒子の中で単一の略球状の銅粒子の個数の割合が90%以上であるのが好ましい。さらに、導電性ペースト用銅粉の表面にAl、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物を被着させてもよく、導電性ペースト用銅粉の表面をAl、Ba、TiおよびSiからなる群から選ばれる一種以上を含む化合物で被覆してもよい。」

(1-3f)
「【0048】
また、本発明による導電性ペースト用銅粉の製造方法の実施の形態によって製造した導電性ペースト用銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D_(50))が0.1?0.5μm、検出の最大粒径(D_(max))が1.5μm以下であり、10?10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含む。レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された50%粒径(D_(50))が0.1?0.5μmであれば、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化のために必要な内部電極の薄層化(近年では層の厚さ1.5μm以下)を実現することができる。また、検出の最大粒径(D_(max))が1.5μm以下であれば、内部電極と誘電体セラミックグリーンシートを積層させた際に、内部電極の薄層における粗粒の存在により誘電体層を突き破って絶縁不良を引き起こすおそれがない。さらに、10?10000ppmのAgおよびPdの少なくとも一方を含むのは、上記の粒径の銅微粒子を得るために必要な反応促進剤に含まれるためである。10ppm未満では、上記の粒径の銅微粒子を得る上で困難になり、10000ppmより多いと、コスト高になり、品質に悪影響を及ぼす可能性がある。」

(1-3g)
「【0086】
[実施例23]
実施例16で得られた銅粒子10gとイソプロピルアルコール100gとを200mLビーカー中で十分に攪拌して混合した溶液に、テトラエトキシシラン(コルコート株式会社製のエチルシリケート28)0.62gを添加して、5分間攪拌した後、28%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)1.3gを45分間で添加した。アンモニア水の添加が終了した後、さらに1時間攪拌し、ろ過、乾燥して、誘電体に使用される金属化合物としてSi化合物が被着した銅粉(またはてSi化合物で被覆された銅粉)を得た。」

(1-3h)
「【表1】



(ウ)甲第1-4号証の記載
甲第1-4号証には、次の記載がある。

(1-4a)
「【請求項2】
50%径が0.1?5μm、球形度が0.6?0.9、5%径と95%径間における粒度分布の広がり相対値を表す粒度幅指数が1以下、単位表面積当りの酸素量を表す比酸素量が0.5?7mg/m^(2)、単位表面積当りの水分量を表す比水分量が1mg/m^(2)以下であるCu系金属粉末。」

(1-4b)
「【0001】
本発明は、回路設計用や電子材料用の導電ペースト、マイクロMIM、微細な形状を有する部品の造形用及びダイヤモンド工具用バインダー等に用いられるAg系(Ag又はAgベース合金)の金属粉末及びCu系(Cu又はCuベース合金)の金属粉末並びにその製造方法に関するものである。」

(1-4c)
「【0041】
前記各金属粉末の5%径、50%径及び95%径は日機装株式会社製のマイクロトラックを使用してレーザー回折散乱法(体積%)を採用して測定した。また、比表面積はBET法による測定結果を採用した。球形度は50%径から計算できる真球の比表面積とBET法による比表面積との比により算出した。粒度幅指数はlog(95%径)-log(5%径)により算出した。例えば、実施例1では、粒度幅指数=log(0.78)-log(0.13)=-0.108-(-0.886)=0.778となり、粒度幅指数が小さいほど粒度の広がりが小さいこと、即ち、粒度幅が狭いことを示す。また、酸素量は高温でCと反応することで発生したCOガスの赤外線検出法に従って測定した。水分量はカールフィッシャー法により測定した数値によった。なお、分級は粉末毎に目標に応じた分級機で粉末毎に行った。」

(1-4d)
「【表3】



第5-1-2 申立人2が提出した証拠方法について

(ア)甲第2-1号証の記載
甲第2-1号証には、次の記載がある。

(2-1a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、銅微粒子及びその製造方法に関し、特に積層セラミックスコンデンサーの電極や、プリント配線基板の回路等を製造する際に好適に用いられる銅微粒子及びその製造方法に関する。」

(2-1b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では微細な金属銅粒子が得られるものの、金属銅の一次粒子が単分散ではなく著しく凝集した状態で生成したり、二次粒子の形状が粒塊状で、大きさも形状も不揃いになったりするため、流動性組成物への分散性が十分でなく、回路、電極等を形成した際に充填性が悪く、欠陥が生じ易いという問題があり、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の薄層化や、プリント配線板の回路の極細化にも対応でき難い。このため、金属銅微粒子としては、微細であるにもかかわらず、凝集粒子がほとんどなく、粒子形状が整い、分散性に優れた銅微粒子が要望されている。
また、金属銅微粒子を製造する際に、保護コロイドを分散安定化剤として用いると、銅微粒子表面に保護コロイドが被着または吸着し、銅微粒子を凝集させずに単分散の状態で得られ易いが、保護コロイドの存在により、生成した銅微粒子が高度に分散しているため、凝集剤を添加したとしても、原料の銅化合物、還元剤の残分、保護コロイドのほかpH調整剤などの添加剤に由来する陰イオンや陽イオンが多量に存在する媒液から銅微粒子を固液分離し難く、大量生産に不向きな限外濾過を行わなければならないという問題もある。」

(2-1c)
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく原料の銅化合物や保護コロイド等の添加剤を中心に鋭意研究を重ねた結果、前記の特許文献2、3のように原料の銅化合物として1価の銅酸化物を用いたり、2価の銅酸化物から還元によって1価の銅酸化物を生成した後に1価の銅酸化物を再度還元する2段階の反応で金属銅微粒子を生成すると、1価の銅酸化物が非常に還元され易いので還元反応が非常に速く進行すること、しかも、銅酸化物と錯体を形成して還元剤との反応速度を制御する錯化剤を用いても反応速度の制御が困難であること、このため、反応液中に多量の金属銅の微結晶が不均一な濃度分布で生成するので、粒子成長も不均一になり、銅微粒子の形状が不揃いになったり、凝集粒子の生成を抑制できなくなること、しかも、生成した銅微粒子の表面に被着または吸着して銅微粒子の凝集を抑制する保護コロイドが存在しても凝集粒子の生成を抑制できないことを見出した。一方、2価の銅酸化物は1価の銅酸化物に比べて還元速度が遅く、しかも、反応液に錯化剤を添加すると少量の金属銅の微結晶が生成し、この微結晶が核となって、還元反応の進行に従って均一に粒子成長すること、さらに、保護コロイドを添加すると微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散の、しかも粒子形状の整った銅微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
次に、本発明者らは、保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、反応液に保護コロイド除去剤を添加すると銅微粒子を凝集させることができ、通常の手段でも銅微粒子を濾過できることを見出し、本発明を完成した。」

(2-1d)
「【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により得られる銅微粒子は、微細で、凝集粒子をほとんど含まず、粒子形状が整っており、分散性に優れている。このものは、電子機器の電極材料等として有用であり、この銅微粒子を流動性組成物にして、例えば、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に用いると、薄膜で高密度の電極等が得られる。
しかも、保護コロイド除去剤を用いると濾過漏れも少なく、銅微粒子の収率が向上し、濾過・洗浄時間を短縮できる。」

(2-1e)
「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は銅微粒子の製造方法であって、錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合し、還元して金属銅微粒子を生成させる。本発明においては、原料として2価の銅酸化物を用いることが重要であって、亜酸化銅(酸化第一銅)の1価の銅酸化物は使用しない。しかも、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成しない条件で還元して1段階の反応で金属微粒子を生成するのが好ましい。本発明の「2価の銅酸化物」は、銅の原子価が2価(Cu^(2+))であり、酸化第二銅、水酸化第二銅及びこれらの混合物を包含する。2価の銅酸化物は、その他の金属、金属化合物や非金属化合物などの不純物を適宜含んでいても良いが、1価の銅酸化物は不可避の量以外は実質的に含有しないものが好ましい。また、2価の銅酸化物として酸化第二銅に帰属するX線回折ピークを有するものが好ましく用いられ、酸化第二銅の(110)面のX線回折ピークから下式1を用いて算出した平均結晶子径が20?500nmの範囲にあるものを用いるのがより好ましく、50?200nmの範囲が更に好ましい。2価の銅酸化物の平均結晶子径が少なくとも前記の範囲であれば所望の金属銅微粒子が生成できるが、前記の範囲より小さいと、粒子径が小さく結晶性も低いので、酸化第二銅の溶解速度が速くなり、多量の錯化剤を用いないと、還元反応速度が制御し難くなるため好ましくなく、一方、前記の範囲より大きいと、粒子径が大きく結晶性が良好となり、溶解速度が遅くなって、還元反応時間を長くしないと、銅微粒子中に未反応の酸化第二銅が残存し易くなるため好ましくない。2価の銅酸化物の製造方法には制限はなく、例えば、電解法、化成法、加熱酸化法、熱分解法、間接湿式法等で工業的に製造されたものを用いることができる。
式1:D_(HKL)=K*λ/βcosθ
D_(HKL) :平均結晶子径(Å)
λ :X線の波長
β :回折ピークの半価幅
θ :Bragg’s角
K :定数(=0.9)」

(2-1f)
「【0023】
次に、本発明は金属銅微粒子であって、少なくとも金属銅を含有した金属質を有するものであり、用途に差し支えない程度に銅微粒子の表面やその内部に不純物、銅酸化物や酸化安定化剤等を含んでいても良い。本発明の金属銅微粒子は微細で、凝集粒子をほとんど含まず、粒子形状が整っている。これらの指標として、電子顕微鏡法による平均粒子径(累積50%径)、すなわち平均一次粒子径を(D)、動的光散乱法による平均粒子径(累積50%径)、すなわち平均二次粒子径を(d)で表した際に、(D)が0.005?2.0μmの範囲にあり、(d)が0.005?2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7?2の範囲にある。(D)、(d)が前記範囲の微細なものであり、d/Dが前記範囲の非常に1に近似していることから凝集の程度が低いので、流動性組成物への分散性が優れており、このような金属銅微粒子は前記の製造方法によって得られる。尚、d/Dは、通常は1以上の値をとるが、(D)、(d)の測定方法がそれぞれ異なるため、d/Dが1より小さくなる場合もある。本発明の金属銅微粒子の形状は、電子顕微鏡により観察することができ、多面体構造の整った粒子形状を有している。」

(2-1g)
「【0031】
1.銅微粒子の調製と評価
【0032】
実施例1?16
平均結晶子径が90.2nmの工業用酸化第二銅(N-120:エヌシーテック社製)24g、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤(用いた錯化剤の種類及び添加量を表1に示す)の溶液と、80%のヒドラジン一水和物28gとを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを試料A?Pとする。」

(2-1h)
「【0043】
評価1:平均粒子径の測定
実施例1?28、比較例1?4で得られた試料A?V、a?iの平均一次粒子径(D)を電子顕微鏡法により測定し、平均二次粒子径(d)を動的光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定した。平均二次粒子径(d)の測定には、試料を超音波分散機を用いて水中に十分に分散させ、レーザーの信号強度が0.6?0.8になるように濃度調整した水系スラリーを用いた。結果を表2に示す。本発明より得られた銅微粒子は、平均粒子径(D)が、すなわち、一次粒子径が微細であることが判る。また、平均粒子径(d)、すなわち、二次粒子径も微細であり、同じにd/Dが1に近似しており、ほとんど凝集粒子を含まないことが判る。
【0044】
【表2】



(2-1i)
「【0046】
評価3:酸化第一銅生成の確認
実施例14において、還元剤を添加してから25分後、35分後、55分後に還元反応途中の媒液を分取し、蒸発乾固した。これらを試料j?lとする。試料j?l及び出発物質として用いた酸化第二銅(N-120)のX線回折を測定し比較した。結果を図10に示す。試料j?lには、酸化第一銅に由来するピークが認められず、酸化第二銅から酸化第一銅を経由せず金属銅に還元されたことが判る。尚、他の実施例についても同様の評価を行ったところ、還元反応中に酸化第一銅が生成していないことが確認された。また、比較例3において、得られた中間生成物を含む媒液を濾別、乾燥し、この乾燥物(試料m)のX線回折を測定した。その結果を図11に示す。中間生成物が酸化第一銅であることが判る。」

(2-1j)
「【0050】
実施例29、比較例4、5
実施例11、比較例1、3で得られた銅微粒子(試料K、T、V)を、表4に示す処方で、3本ロール(ロール径65mmΦ)を用い、3パス(ロールクリアランス:1パス目30μm、2及び3パス目1μm)して混練して、本発明及び比較対象の銅ペーストを得た。それぞれを試料n?pとする。
…(略)…
【0053】
評価6:導電性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n?p)を、4ミルアプリケーターを用い、アルミニウム板上に塗布し、80℃の温度で2時間予備乾燥した。その後、窒素雰囲気中(窒素流量:500cc/分)で300℃の温度で1時間焼き付けて塗膜化し、更に、濃度2%の水素雰囲気下で500℃の温度で1時間焼成し還元した。得られた塗膜を空冷した後、塗膜の体積抵抗率を、ロレスタ-GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。その結果を表5に示す。体積抵抗率が小さい程導電性が高いことを表すことから、本発明の銅微粒子を配合した銅ペーストは導電性が高いことが判る。
【0054】
【表5】



(2-1k)
「【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の銅微粒子は、電子機器の電極材料等として有用であり、特に銅ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物にして用いると、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に有用である。」

(2-1l)
「 【図7】



(2-1m)
「【図10】



(イ)甲第2-8号証(甲第1-3号証と同一の文献)の記載
上記第5-1-1の(イ)を参照されたい。

第5-2 当審の判断

第5-2-1 申立理由1-1?1-6について

(ア)申立理由1-1、1-5について

申立人1は、特許異議申立書において、
「一方、甲2には、…(略)…結晶子の大きさが243Åである球状の金属銅粉末を、700℃で3時間の熱処理を行い、…(略)…結晶子の大きさが790Åである球状の金属銅粉末を得たことが開示されている。
ここで、…(略)…甲5及び甲6には、…(略)…湿式製造法で製造した金属粉は、…(略)…その結晶子径が一般的に35nm以下であって比較的小さく、焼成時の耐酸化性及び耐熱収縮性に劣ることが開示されている…(略)…。そして、耐酸化性及び耐熱収縮性を改善することのできるレベルに結晶子径を大きくしようとするには、銅粉を加熱して、粉粒の内部のグレインサイズを成長させることが必要であることが開示されている…(略)…。
このように、導電性ペースト用銅粉においては、耐酸化性及び耐熱収縮性を改善するために、熱処理を施すことによって結晶子径を大きくすることは、本件特許発明の出願時において、当業者に周知の事項である。
上述したように、甲5及び甲6には、湿式法で得られた銅粉は、その結晶子径が一般的に35nm以下であることが開示されており…(略)…、このことからすると、甲1に記載されている銅粉も35nm以下の結晶子径を有しているものであると言える。
そして、耐酸化性及び耐熱収縮性を改善するために熱処理を施して結晶子径を大きくすることは周知の事項であるから、甲1に記載の銅粉を、甲2に記載の方法に基づいて、耐酸化性及び耐熱収縮性に優れた結晶子径の大きさとすることは、当業者であれば容易に想到することができることである。」(第25頁第5行?第26頁第5行)と主張する。

しかし、本件発明1と、甲第1-1号証に記載された発明とを対比すると、当該甲第1-1号証においては銅粉の「結晶子径」について記載されていないから、本件発明1の「D50に対する結晶子径の比率(結晶子径/D50)が0.15?0.60(μm/μm)」であるとの発明特定事項(以下、「発明特定事項A」という。)が記載されているとはいえない。

そして、本件発明1のように、「結晶子径/D50」が0.15?0.60という範囲内になるよう結晶子径を制御することで、「粒子形状を略球状に保」ちつつ「圧粉抵抗をより一層低くする」(本件特許明細書【0024】を参照。)という本件発明の課題を解決することについても、甲第1-1号証、甲第1-2号証、周知技術を開示する甲第1-5号証、甲第1-6号証、及び甲第1-3号証、甲第1-4号証、甲第1-7号証のいずれにおいても、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明1は、甲第1-1号証に記載された発明、及び、甲第1-2号証?甲第1-7号証に記載された事項から、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、請求項1を引用する本件発明5についても同様である。

(イ)申立理由1-2?1-4、1-6について

本件発明2と、甲第1-3号証に記載された発明とを対比すると、甲第1-3号証においては、銅粉の「結晶子径」について記載されていないから、発明特定事項Aが記載されているとはいえない。

そうすると、上記(ア)に示したのと同様の理由で、本件発明2は、それぞれ甲第1-3号証に記載された発明、及び、甲第1-1号証?甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-7号証に記載された事項から、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、請求項2を引用する本件発明3?5のそれぞれについても同様である。

さらに、本件発明2と、甲第1-4号証に記載された発明とを対比すると、甲第1-4号証においては、銅粉の「結晶子径」について記載されていないから、発明特定事項Aが記載されているとはいえない。

そうすると、上記(ア)に示したのと同様の理由で、本件発明2は、それぞれ甲第1-4号証に記載された発明、及び、甲第1-1号証?甲第1-3号証、甲第1-5号証?甲第1-7号証に記載された事項から、当業者が容易になし得たものとはいえない。
また、請求項2を引用する本件発明3?5のそれぞれについても同様である。

第5-2-2 申立理由2-2?2-7について

(ア)申立理由2-2について

a.
まず、本件発明1が、甲第2-1号証に記載された発明であるか否かについて検討する。

申立人2は特許異議申立書の「4-6-1-1-3.文節1C」において、
「…甲第1号証には、比表面積(SSA)に対する酸素量(O量)の割合について、直接記載されてはいない。
しかし、甲第1号証には、下記の記載がある。
『【0053】
評価6:導電性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n?p)を、4ミルアプリケーターを用い、アルミニウム板上に塗布し、80℃の温度で2時間予備乾燥した。その後、窒素雰囲気中(窒素流量:500cc/分)で300℃の温度で1時間焼き付けて塗膜化し、更に、濃度2%の水素雰囲気下で500℃の温度で1時間焼成し還元した。得られた塗膜を空冷した後、塗膜の体積抵抗率を、ロレスタ-GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。その結果を表5に示す。体積抵抗率が小さい程導電性が高いことを表すことから、本発明の銅微粒子を配合した銅ペーストは導電性が高いことが判る。』
【0054】
【表5】


つまり、甲第1号証には、実施例28の銅粉を含む導電性ペーストと同様に、実施例14の銅粉を含む導電性ペーストにより形成した塗膜の体積抵抗率は、3.9×10^(-6)Ω・cm程度に低くなることが示されている。
このことからすると、実施例14の銅粉は、粉体抵抗も低く優れているため、比表面積に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))の範囲である蓋然性が極めて高い。

よって、甲第1号証には、実質的に、実施例14の銅粉として、比表面積に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))の範囲である銅粉が記載されているといえる。」(第137頁第6行?第138頁第9行)と主張する。

b.
ここで、上記第5-1-2の(3)(2-1j)(特に【0053】を参照。)から、【表5】及び申立人2の上記主張における「実施例28」は「実施例29」の誤記と認められるので、以下そのように読み替えて検討する。

c.
上記第5-1-2の(3)(2-1j)(特に【0050】を参照。)から、「実施例29」の銅ペーストは、「実施例11」の銅微粒子を使用したものであることがわかる。
すると、「実施例29」の銅ペーストは、「実施例14」の銅微粒子を使用したものではないから、「甲第1号証には、実施例28の銅粉を含む導電性ペーストと同様に、実施例14の銅粉を含む導電性ペーストにより形成した塗膜の体積抵抗率は、3.9×10^(-6)Ω・cm程度に低くなることが示されている。」とはいえない。

d.
さらに、申立人2は「実施例14の銅粉は、粉体抵抗も低く優れている」ことから、実施例14の銅粉における「比表面積に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))の範囲である蓋然性が極めて高い」と主張するにとどまり、上記「比表面積に対する酸素量(O量)の割合」が「0.10?0.40(wt%・g/m^(2))」であることを、何等立証していない。

e.
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。

f.
次に、本件発明1が、甲第2-1号証?甲第2-6号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明になし得た発明であるか否かについて検討する。

g.
申立人2は特許異議申立書の「4-6-1-2.相違点1」において、
「以上説明したように、本件特許発明の請求項1と甲第1号証との相違点1である『分節1C.且つ、比表面積に対する酸素量(O量)の割合が0.10?0.40(wt%・g/m^(2))である』については、甲第2号証?甲第6号証によれば、甲第2号証?甲第6号証に記載されている事項であると共に、周知技術であるともいえる。
よって、本件特許発明の請求項1は、甲第1号証記載の発明に、甲第2号証?甲第6号証のいずれかの発明を組み合わせることにより容易到達し、かつその組み合わせが容易であるといえる。
また、本件特許発明の請求項1は、第1号証記載の発明に周知技術を組み合わせたものであり、組み合わせは容易であるといえる。」(第145頁下から第3行?第146頁第7行)
と主張する。

h.
しかし、仮に、銅粉における「比表面積に対する酸素量(O量)の割合」を「0.10?0.40(wt%・g/m^(2))」とすることが甲第2-2号証?甲第2-6号証に記載されている事項や周知技術であるとしても、申立人2は、甲第2-1号証記載の発明に甲第2-2号証?甲第2-6号証のそれぞれに記載された技術を組み合わせる理由について何等説明しておらず、また、甲第2-1号証記載の発明において甲第2-2号証?甲第2-6号証のそれぞれに記載された技術を組み合わせる動機付けがあるともいえないから、申立人2の上記主張は採用できない。

i.
したがって、本件発明1は、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえず、甲第2-1号証?甲第2-6号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得るものであるとはいえない。

(イ)申立理由2-3について

a.
まず、本件発明2が、甲第2-1号証に記載された発明であるか否かについて検討する。

申立人2は特許異議申立書の「4-6-2-1-3.文節2C」において、
「…甲第1号証には、体積累積粒径D10について、直接記載されてはいない。
しかし、甲第1号証には、下記の記載がある。
…(略)…
よって、甲第1号証には、実施例14の銅粉として、『レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.2?0.25μm程度の銅粉』が記載されているといえる。

さらに、甲第1号証の実施例14の銅粉は、均一に粒子成長し、微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散(平均二次粒子径0.21μm/平均一次粒子径0.2μmの値が1に近似)の、しかも粒子形状の整った、極めて粒度分布がシャープな銅粉であるから、…(略)…体積累積粒径D10が0.08μm以上である蓋然性が極めて高い。そして、甲第1号証の実施例14の銅粉の体積累積粒径D10は、体積累積粒径D50『0.2?0.25μm程度』よりも小さい粒径となる。

よって、甲第1号証には、実施例14の銅粉として、『レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D10が0.08μm?0.25μm程度の銅粉』が記載されているといえる。」(第152頁第2行?第154頁第16行)と主張する。

b.
しかし、申立人2は「実施例14の銅粉は、均一に粒子成長し、微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散(平均二次粒子径0.21μm/平均一次粒子径0.2μmの値が1に近似)の、しかも粒子形状の整った、極めて粒度分布がシャープな銅粉である」ことから、実施例14の銅粉における「体積累積粒径D10が0.08μm以上である蓋然性が極めて高い」と主張するにとどまり、上記「D10」が「0.08μm」以上であることを、何等立証していない。

c.
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。

d.
次に、本件発明2が、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-8号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明になし得た発明であるか否かについて検討する。

e.
申立人2は特許異議申立書の「4-6-2-2.相違点2」において、
「以上説明したように、本件特許発明の請求項2の『分節2C.且つ、体積累積粒径D10が0.08μm?0.30μmである』については、甲第6号証?甲第8号証によれば、甲第6号証?甲第8号証に記載されている事項であると共に、周知技術であるともいえる。
よって、本件特許発明の請求項2は、甲第1号証記載の発明に、甲第6号証?甲第8号証のいずれかの発明を組み合わせることにより容易到達し、かつその組み合わせが容易であるといえる。
また、本件特許発明の請求項2は、第1号証記載の発明に周知技術を組み合わせたものであり、組み合わせは容易であるといえる。」(第159頁第1?9行)と主張する。

f.
しかし、仮に、銅粉における「D10」を「0.08μm?0.30μm」とすることが甲第2-6号証?甲第2-8号証に記載されている事項や周知技術であるとしても、申立人2は、甲第2-1号証記載の発明に甲第2-3号証、甲第2-6号証?甲第2-8号証のそれぞれに記載された技術を組み合わせる理由について何等説明しておらず、また、甲第2-1号証記載の発明において、甲第2-6号証?甲第2-8号証のそれぞれに記載された技術を組み合わせる動機付けがあるともいえないから、申立人2の上記主張は採用できない。

g.
したがって、本件発明2は、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえず、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-8号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得るものであるとはいえない。

(ウ)申立理由2-4について

a.
まず、本件発明3が、甲第2-1号証に記載された発明であるか否かについて検討する。

申立人2は特許異議申立書の「4-6-3-1-3.文節3C」において、
「…甲第1号証には、体積累積粒径D90、D10及びD50によって表される式(D90-D10)/D50(単位:μm/μm)について、直接記載されてはいない。
しかし、甲第1号証には、下記の記載がある。
…(略)…
以上の記載から、甲第1号証には、次のことが記載されているといえる。
1)甲第1号証の実施例14の銅粉は、均一に粒子成長し、微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散(平均二次粒子径0.21μm/平均一次粒子径0.2μmの値が1に近似)の、しかも粒子形状の整った、極めて粒度分布がシャープな銅粉である。

そのため、甲第1号証の実施例14の銅粉の『レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D90、D10及びD50によって表される式(D90-D10)/D50(単位:μm/μm)』は、1.0?7.0の範囲内である蓋然性が極めて高い。
よって、甲第1号証には、実施例14の銅粉として、『レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D90、D10及びD50によって表される式(D90-D10)/D50(単位:μm/μm)が1.0?7.0の銅粉』が記載されているといえる。」(第164頁第21行?第166頁第16行)と主張する。

b.
しかし、申立人2は「実施例14の銅粉は、均一に粒子成長し、微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散(平均二次粒子径0.21μm/平均一次粒子径0.2μmの値が1に近似)の、しかも粒子形状の整った、極めて粒度分布がシャープな銅粉である」ことから、実施例14の銅粉における「『レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D90、D10及びD50によって表される式(D90-D10)/D50(単位:μm/μm)』は、1.0?7.0の範囲内である蓋然性が極めて高い」と主張するにとどまり、上記「(D90-D10)/D50」が「1.0?7.0」であることを、何等立証していない。

c.
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。

d.
次に、本件発明3が、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明になし得た発明であるか否かについて検討する。

e.
申立人2は特許異議申立書の「4-6-3-2.相違点3」において、
「以上説明したように、本件特許発明の請求項3の『且つ、前記D90、D10及びD50によって表される式(D90-D10)/D50(単位:μm/μm)が1.0?7.0である』については、甲第6号証?甲第8号証によれば、甲第6号証?甲第8号証に記載されている事項であると共に、周知技術であるともいえる。
よって、本件特許発明の請求項3は、甲第1号証記載の発明に、甲第6号証?甲第8号証のいずれかの発明を組み合わせることにより容易到達し、かつその組み合わせが容易であるといえる。
また、本件特許発明の請求項3は、第1号証記載の発明に周知技術を組み合わせたものであり、組み合わせは容易であるといえる。」(第171頁下から第12?5行)と主張する。

f.
しかし、仮に、「(D90-D10)/D50」が「1.0?7.0」を満たす銅粉が甲第2-6号証?甲第2-8号証に記載されている事項や周知技術であるとしても、申立人2は、甲第2-1号証記載の発明に甲第2-3号証、甲第2-6号証?甲第2-11号証のそれぞれに記載された技術を組み合わせる理由について何等説明しておらず、また、甲第2-1号証記載の発明において、甲第2-3号証、甲第2-6号証?甲第2-11号証のそれぞれに記載された技術を組み合わせる動機付けがあるともいえないから、申立人2の上記主張は採用できない。

g.
したがって、本件発明3は、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえず、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得るものであるとはいえない。

(エ)申立理由2-5について
本件発明4は、本件発明1?3のそれぞれを引用するものであるから、上記(ア)?(ウ)のそれぞれに示したのと同様の理由で、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2-1号証に記載された発明、甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得るものであるとはいえない。

(オ)申立理由2-6について
本件発明5は本件発明1?4のそれぞれを引用するものであるから、上記(ア)?(エ)のそれぞれに示したのと同様の理由で、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2-1号証?甲第2-3号証に記載された発明、甲第2-6号証?甲第2-11号証に記載された発明、及び周知技術に基づき当業者が容易になし得るものであるとはいえない。

(カ)申立理由2-7について
甲第2-8号証は甲第1-3号証と同一の文献であり、甲第2-12号証は甲第1-2号証と同一の文献であり、甲第2-13号証は甲第1-5号証と同一の文献であり、甲第2-14号証は甲第1-6号証と同一の文献であるから、上記第5-2-1(ア)で検討したように、本件発明1のように、「結晶子径/D50」が0.15?0.60という範囲内になるよう結晶子径を制御することで、「粒子形状を略球状に保」ちつつ「圧粉抵抗をより一層低くする」という本件発明の課題を解決することについては、甲第2-3号証、甲第2-8号証?甲第2-14号証、及び、甲第2-21号証のいずれにおいても、記載も示唆もされていない。

そうすると、上記第5-2-1(ア)において示したのと同様の理由で、本件発明1は、甲第2-8号証に記載された発明、甲第2-3号証の記載、甲第2-9号証?甲第2-14号証の記載、及び、甲第2-21号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件発明2?5は、本件発明1と同様に、銅粉の「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が0.20μm?0.70μm」であることを発明特定事項として含むものであるから、上記と同じ理由により、これらの発明は、甲第2-8号証に記載された発明、甲第2-3号証の記載、甲第2-9号証?甲第2-14号証の記載、及び、甲第2-21号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-22 
出願番号 特願2015-515066(P2015-515066)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B22F)
P 1 651・ 121- Y (B22F)
P 1 651・ 536- Y (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一川口 由紀子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河野 一夫
河本 充雄
登録日 2015-10-23 
登録番号 特許第5826435号(P5826435)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 銅粉  
代理人 北口 智英  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  

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