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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W
管理番号 1327235
審判番号 不服2016-2228  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-15 
確定日 2017-05-02 
事件の表示 特願2013-551249「音声情報提供装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/099245、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2012年12月26日(優先権主張2011年12月26日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年6月24日に国内書面が提出され、平成27年6月22日付けで拒絶理由が通知され、平成27年8月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年11月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年2月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成28年12月1日付けで、平成28年2月15日付けの手続補正について補正の却下の決定がされ、平成28年12月14日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月16日に意見書と共に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年2月16日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに国際出願日における図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のものと認める。
「【請求項1】
カーブを曲がる際に車体がカーブの中心方向に傾斜する車両の操縦技量の評価結果を音声により操縦者に提供する音声情報提供装置であって、
前記車両の車両状態を検出する車両状態検出部と、
前記車両状態検出部の検出結果を基に前記車両が旋回中であるか否かを判定する旋回判定部と、
操縦者のカーブ走行に対する操縦技量を評価する操縦技量評価部と、
前記操縦技量評価部による操縦技量の評価結果を基に予め定められた閾値を基準として操縦技量の高低を判定する技量判定部と、
複数の音声案内を記録した音声案内記録部と、
前記操縦技量の評価結果に応じて前記音声案内を選択する音声案内選択部と、
選択された前記音声案内を出力するタイミングを判定する音声出力タイミング判定部とを備え,
前記旋回判定部が旋回中でないと判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は選択された前記音声案内を出力し、
前記旋回判定部が旋回中であると判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は旋回中でないと判定されるまで選択された前記音声案内の出力タイミングを遅延し、
前記操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する
音声情報提供装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音声情報提供装置において、
前記車両状態検出部はさらに前記車両の車速を検出し、
前記車速の検出結果を基に前記車両の走行状態を判定する走行状態判定部を備え,
前記音声出力タイミング判定部は、前記走行状態判定部の判定結果に応じて選択された前記音声案内の出力タイミングを変更する
音声情報提供装置。
【請求項3】
請求項1に記載の音声情報提供装置において、
前記車両状態検出部はさらに前記車両の加速度を検出し、
前記加速度の検出結果を基に前記車両の走行状態を判定する走行状態判定部を備え, 前記音声出力タイミング判定部は、前記走行状態判定部の判定結果に応じて選択された
前記音声案内の出力タイミングを変更する
音声情報提供装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の音声情報提供装置おいて、
前記音声出力タイミング判定部は、前記操縦技量に応じて選択された前記音声案内の出力タイミングを変更する
音声情報提供装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の音声情報提供装置おいて、
操縦者の音声を検出する音声検出部と、
予め登録された音声認識候補となる語彙が記録された認識語彙記録部と、
検出された音声を基に前記音声認識候補をリストアップする音声認識部と、
前記旋回判定部または前記操縦技量評価部から得られる信号によりリストアップされた前記音声認識候補の優先順位を変更して操縦者の前記音声を判定する音声判定部とを備え、
前記音声案内選択部は、前記判定された音声に対応する前記操縦技量の前記音声案内を選択する
音声情報提供装置。
【請求項6】
請求項2または3に記載の音声情報提供装置おいて、
操縦者の音声を検出する音声検出部と、
予め登録された音声認識候補となる語彙が記録された認識語彙記録部と、
検出された音声を基に前記音声認識候補をリストアップする音声認識部と、
前記旋回判定部または前記走行状態判定部または前記操縦技量評価部から得られる信号によりリストアップされた前記音声認識候補の優先順位を変更して操縦者の前記音声を判定する音声判定部とを備え、
前記音声案内選択部は、前記判定された音声に対応する前記操縦技量の前記音声案内を選択する
音声情報提供装置。」

第3 原審拒絶査定の理由について
1 原審拒絶査定の理由の内容
(1)原審拒絶理由の内容
「この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。

理由

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-3
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献1には、車両の車両安定特性又は旋回特性の判定結果を音声によりライダーに提供するライダー特性判定装置が記載されている(例えば段落[0107],[0122],[0159],図1,2,5,8等参照)。
引用文献2には、ある走行状態(急旋回、急制動等)中である場合、その走行状態が解除されるまで情報提供を延期するナビゲーション装置が記載されている(例えば段落[0011]-[0013],[0046]-[0047],図1-3,26等参照)。
そして、引用文献1記載のライダー特性判定装置と、引用文献2に記載のナビゲーション装置とは、互いに密接に関連した技術分野に属するものであるので、引用文献1に記載の車両安定特性又は旋回特性の判定結果について、引用文献2に記載の事項を適用して、請求項1-3に係る発明の発明特定事項をなすことに格別の困難性があるとは認められない。
よって、請求項1-3に係る発明は、引用文献1,2に記載の事項から当業者が容易になし得たものである。

・請求項 4
・引用文献等 1-3
・備考
引用文献1,2の認定については、上記記載を参照のこと。
引用文献3には、運転技量に応じて情報通知のタイミングを調節することが記載されている(例えば段落[0060]等参照)。
そして、引用文献1記載のライダー特性判定装置と、引用文献3に記載の車両制御装置とは、互いに密接に関連した技術分野に属するものであるので、引用文献1に記載の車両安定特性又は旋回特性の判定結果について、引用文献3に記載の事項を適用して、請求項4に係る発明の発明特定事項をなすことに格別の困難性があるとは認められない。

なお、国際公開第2013/099245号の国際調査報告もあわせて参照してください。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項(5,6)に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

<引用文献等一覧>

1.国際公開第2011/077638号
2.特開平10-104009号公報
3.特開2011-221620号公報」

(2)原審拒絶査定の内容
「この出願については、平成27年 6月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項 1-4
・引用文献等 1-3
上記拒絶理由通知書で通知したように、引用文献1には、車両の車両安定特性又は旋回特性の判定結果を音声によりライダーに提供するライダー特性判定装置が開示若しくは示唆されている(例えば段落[0107],[0122],[0159],図1,2,5,8等参照)。
上記拒絶理由通知書で通知したように、引用文献2には、ある走行状態(急旋回、急制動等)中である場合、その走行状態が解除されるまで情報提供を延期するナビゲーション装置が開示若しくは示唆されている(例えば段落[0011]-[0013],[0046]-[0047],図1-3,26等参照)。
引用文献3の段落[0060]には、「ECU7は、ST4にて運転者のフリーラン操作に関する運転技量が所定以下であると判定した場合(ST4:No)、通知装置6を介し運転技量に応じた情報量、情報先だし(情報通知タイミングの調節)をして、フリーラン操作に関する情報の通知を行って、運転者のフリーラン操作に応じたフリーラン移行をアシストする。この場合、ECU7は、著しく運転技量が低く、フリーラン操作に関する情報の通知により運転者が情報過多になる可能性がある場合には、上記情報量を減らす、または、情報の通知自体を行わず(ST8)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。これにより、車両制御システム1、ECU7は、運転者の運転技量に応じて適正にフリーラン状態に移行し燃費向上効果を増加させることができると共に、運転技量が相対的に低い運転者に対して過剰な情報が付与されることを抑制することができる。」と記載されている。この記載事項から、引用文献3には、運転技量に応じて情報通知のタイミングを調節すること、及び、運転技量が著しく低い場合に情報の提供に遅延することが開示若しくは示唆されているといえる。
そして、引用文献1-3記載のものは、運転者に走行に関する情報を提供する点で共通するものであるから、引用文献1に記載の車両安定特性又は旋回特性の判定結果について、引用文献2,3に記載の事項を適用して、請求項1-4に係る発明の発明特定事項をなすことに格別の困難性があるとは認められない。
ところで、出願人は、上記意見書において、要するに「引用例3では、操縦技量が低い場合、情報を先に提供することが記載されていますが、本願発明は逆に遅延させていますので、本願の構成を示唆することは何ら記載されていません。したがって、本願発明は、引用例1-3とは構成が異なり、引用例1-3には本願発明の課題が記載されていませんので、本願発明を引用例1-3から容易に想到できるものではありません。」と述べている。確かに、引用文献3には「操縦技量が低い場合、情報を先に提供する」ことは記載されているが、引用文献3には、さらに、上記のとおり、運転技量が著しく低い場合に情報の提供に遅延し得ることも開示若しくは示唆されている。したがって、出願人の上記意見書による主張は適切ではなく採用することができない。
よって、請求項1-4に係る発明は、引用文献1-3に記載の事項から当業者が容易になし得たものである。また請求項1-4に係る発明が奏する作用効果も、引用文献1-3に記載の事項から容易に予測し得る範囲内である。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
平成27年8月28日付け手続補正書による補正後の請求項(5,6)に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。

<引用文献等一覧>

1.国際公開第2011/077638号
2.特開平10-104009号公報
3.特開2011-221620号公報」

2 原審拒絶査定の理由に対する当審の判断
(1)引用文献
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、原審拒絶査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2011/077638号(2011年6月30日国際公開。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「[0001] 本発明は、ライダーが鞍乗り型車両を操縦する特性を判定するライダー特性判定装置およびそれを備えた鞍乗り型車両に関する。」(段落[0001])

b 「[0064] 以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
ここでは、実施例に係るライダー特性判定装置を備える鞍乗り型車両として、自動二輪車を例に挙げて説明する。・・・(後略)・・・」(段落[0064])

c 「[0069] 2.ライダー特性判定装置の構成
次に図1および図2を参照しながらライダー特性判定装置31の構成を説明する。図2は、ライダー特性判定装置の構成を示す機能ブロック図である。ライダー特性判定装置31は、判定制御部32と、ジャイロスコープ33と、ステアリング角度センサ34と、ストロークセンサ35と、前輪8に設けられた車輪速センサ36と、ヘルメット37に設けられたジャイロスコープ38および無線発信機39と、無線受信機40と、モニタ41と、カーブサイズ推定部43と、路面状態推定部47とを有する。
[0070] 判定制御部32は、ライダーの操縦特性を判定する。詳細については、後述する。・・・(中略)・・・ジャイロスコープ33は自動二輪車1のヨー、ロール、およびピッチの3軸方向の角速度および角度を検出する。すなわち、自動二輪車1のヨーレート、ヨー角度、ロールレート、ロール角度、ピッチレート、およびピッチ角度を検出する。これら3軸の角速度および角度の検出値は、ジャイロスコープ33から判定制御部32へ送られる。・・・(中略)・・・
[0071] ステアリング角度センサ34は、フロントフォーク7の上端に設けられ、ステアリングシャフト4の回転角であるステアリング角度を検出する。ステアリング角度の検出値はステアリング角度センサ34より判定制御部32へ送られる。
[0072] ストロークセンサ35は、フロントフォーク7に設けられ、フロントフォーク7の伸縮量を検出する。さらにこの伸縮量を基にフロントフォーク7のキャスタ角を算出する。算出されたキャスタ角はストロークセンサ35より判定制御部32へ出力する。フロントフォーク7が油圧式のサスペンションで伸縮する場合は、ストロークセンサ7は、サスペンションの油圧を検出することでキャスタ角を算出してもよい。・・・(後略)・・・」(段落[0069]ないし[0072])

d 「[0076] ジャイロスコープ38は、ヘルメット37のピッチレートを検出する。つまり、ライダーの頭部のピッチレートを検出することで、ライダーの操縦中の頭部位置の変動を検出することができる。ライダーの頭部のピッチレートの検出値は、ジャイロスコープ38から無線発信機39に送られ、無線発信機39により自動二輪車1に発信される。発信されたライダーの頭部のピッチレートの検出値は、自動二輪車1に設けられた無線受信器40に受信され、無線受信器40から判定制御部32へ送られる。本実施例では、ライダーの頭部のピッチレートを検出するが、ピッチ角度、ヨーレート、ヨー角度でもよい。・・・(中略)・・・
[0077] モニタ41は、メインフレーム2の前端部に設けられ、判定制御部32により判定されたライダーの操縦特性をライダーに表示するものである。モニタ41は、操縦特性以外にも、道路情報やECU25からの自動二輪車1に関する様々な情報がライダーに提供される。・・・(中略)・・・」(段落[0076]及び[0077])

e 「[0082] 3.判定制御部の構成
次に、判定制御部32の構成について詳細に説明する。
[0083] 図2に示すように、判定制御部32の入力には、ジャイロスコープ33、ステアリング角度センサ34、ストロークセンサ35、車輪速センサ36、無線発信機39および無線受信機40を介してジャイロスコープ38、カーブサイズ推定部43、路面状態推定部47が接続される。判定制御部32の出力には、モニタ41が接続される。
[0084] 判定制御部32は、メモリ51、旋回運動判別部52、成分分離部53、車両安定特性判定部54、旋回特性判定部55、頭部安定特性判定部56、総合特性判定部57、特性分類部58、データベース部59、特性推移算出部60、上達度分類部61とを有する。」(段落[0082]ないし[0084])

f 「[0086] 3.1 旋回運動判別
旋回運動判別部52では、自動二輪車1がライダーの特性判定の対象となる旋回運動を実施したかどうかを判別する。・・・(中略)・・・
[0087] 図3を参照する。図3は、旋回運動判別部52が旋回運動を判別する説明図である。旋回運動判別部52は、ジャイロスコープ33より入力されるヨーレートの検出値の絶対値から、旋回運動区間Yを判別する。すなわち、旋回運動判別部52は、自動二輪車1のヨーレートの検出値の絶対値が閾値Xを超えた時点から再び閾値Xを下回る時点までの区間であり、かつ、その区間の持続時間が最低持続時間Y _(min) 以上であれば、その区間を旋回運動区間Yと判別する。」(段落[0086]及び[0087])

g 「[0108] 3.3 旋回特性判定
図8を参照する。図8は旋回特性判定部およびその周辺の構成を示す機能ブロック図である。旋回特性判定部55は、旋回性得点算出部81とカーブサイズ補正部82と路面状態補正部83と旋回性得点比較部84とを有する。
[0109] 旋回性得点算出部81には、ローパスフィルタ65によりフィルタ処理された自動二輪車1の旋回運動区間Yにおける各検出値が入力される。ここでは、ステアリング角度と、ロール角度と、ピッチ角度またはキャスタ角度とが入力される場合を例として挙げる。また、メモリ51から旋回性得点算出部81に自動二輪車1の旋回運動区間Yにおける車速が入力される。
[0110] 図9を参照する。図9は、検出角度の低周波数帯域成分を示すグラフ図である。各角度の低周波数帯域g(t)は、ライダーがカーブを旋回する予測成分と解釈する。カーブに対して、滑らかなハンドル操作をライダーがすると低周波数帯域g(t)の絶対値量が大きい。なお、各レートの周波数分離に用いる閾値周波数fc1は、各種角度ごとに異なる値を用いてもよい。
[0111]・・・(中略)・・・
[0112] 上記(3)式により、旋回区間Yにおける予測成分の単位時間あたりの積分値の平均値をステアリング角度と、ロール角度と、ピッチまたはキャスタ角度とのそれぞれの角度について算出する。算出された値を、ステアリング角度、ロール角度、ピッチまたはキャスタ角度の旋回性指標T_(steer)、 T_(roll)、 T_(pitch(caster)) とする。
[0113] また、入力された旋回区間Yの車速から旋回区間Yにおける平均車速T _(speed) を算出する。これら、3つの旋回性指標と平均車速の重み付け線形和を旋回性得点T _(v) として下記(4)式のように算出する。(4)式において、k _(4) 、k _(5) 、k _(6) 、k _(7) は重み係数である。また、旋回性得点T _(v) は重み付け線形和の他に、積、積和または条件付き確率等により算出してもよい。」(段落[0108]ないし[0113])

h 「[0122] 旋回性得点比較部84は、カーブサイズおよび路面状態に応じて補正された旋回性得点T _(v) を、予め定められた旋回特性の基準値と比較する。これより、ライダーの旋回特性をレベル別に判定することができる。判定された結果は、モニタ41に出力され、ライダーに表示される。ライダーは、レベル別に判定された旋回特性を知ることで、自分の旋回運動の旋回特性を直感的に確認することができる。(段落[0122])」

i 「[0125] 2輪車がカーブを旋回する場合、2輪車自体がカーブ中心方向に傾斜するので、ライダーの頭部が動揺する。・・・(後略)・・・」(段落[0125])

j 「[0159] (5)上述した実施例では、特性結果をモニタ41にて表示してライダーへ提示しているが、これに限らず、他の方法によりライダーに提示してもよい。例えば、ヘルメット37の内部にスピーカを備えて、音声によりライダーへ特性結果を伝えてもよい。また、シート16内にバイブレータを備えて、振動によってライダーへ特性結果を提示してもよい。このように、視覚に限らず聴覚や触覚のうち少なくとも1つ以上の感覚器に対して提示してもよい。」(段落[0159])

(イ)引用文献1記載の事項
上記(ア)aないしj並びに図1ないし3及び8から、次のことが分かる。

m 上記(ア)a、b、d及びiから、引用文献1には、カーブを曲がる際に二輪車自体がカーブ中心方向に傾斜する自動二輪車に備えられるライダー特性判定装置が記載されていることが分かる。

n 上記(ア)h及びjから、引用文献1記載のライダー特性判定装置は、音声によりライダーへ特性結果を提示してもよいことが分かる。

o 上記(ア)hから、引用文献1記載のライダー特性判定装置における特性結果とは、旋回性得点T _(v) を予め定められた旋回特性の基準値と比較してレベル別に判定されたライダーの旋回特性であることが分かる。

p 上記(ア)cから、引用文献1記載のライダー特性判定装置は、判定制御部32、ジャイロスコープ33、ステアリング角度センサ34、ストロークセンサ35、前輪8に設けられた車輪速センサ36、ヘルメット37に設けられたジャイロスコープ38および無線発信機39、無線受信機40、モニタ41、カーブサイズ推定部43並びに路面状態推定部47を有することが分かる。

q 上記(ア)eから、引用文献1記載のライダー特性判定装置の備える判定制御部32は、メモリ51、旋回運動判別部52、成分分離部53、車両安定特性判定部54、旋回特性判定部55、頭部安定特性判定部56、総合特性判定部57、特性分類部58、データベース部59、特性推移算出部60及び上達度分類部61を有することが分かる。

r 上記(ア)fから、判定制御部32の旋回運動判定部52は、ジャイロスコープ33より入力されるヨーレートの検出値の絶対値から、旋回運動区間Yを判別することが分かる。

s 上記(ア)gから、旋回特性判定部55は、旋回性得点算出部81、カーブサイズ補正部82、路面状態補正部83及び旋回性得点比較部84を有し、旋回性得点算出部81は、入力されたステアリング角度、ロール角度及びピッチ角度若しくはキャスタ角度に基づいて旋回性得点T _(v) を算出することが分かる。

t 上記(ア)hから、旋回性得点比較部84は、カーブサイズおよび路面状態に応じて補正された旋回性得点T _(v) を、予め定められた旋回特性の基準値と比較し、これより、ライダーの旋回特性をレベル別に判定できることが分かる。

(ウ)引用文献1発明
上記(ア)aないしj及び上記(イ)mないしtから、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認める。
「カーブを曲がる際に二輪車自体がカーブの中心方向に傾斜する自動二輪車の旋回特性の評価結果を音声によりライダーに提示するライダー特性判定装置であって、
前記自動二輪車の状態を検出するジャイロスコープ33と、
前記ジャイロスコープ33の検出結果を基に前記自動二輪車が旋回中であるか否かを判定する旋回運動判定部52と、
ライダーのカーブ走行に対する運転特性を評価する旋回性得点算出部81と、
前記旋回性得点算出部81による旋回性得点T _(v) を基に予め定められた閾値を基準としてライダーの旋回特性をレベル別に判定する旋回性得点比較部84と、
を備えたライダー特性判定装置。」

イ 引用文献2
本願の優先日前に頒布され、原審拒絶査定の拒絶の理由に引用された特開平10-104009号公報(以下、「引用文献2」という。)には、特に段落【0001】、【0011】ないし【0013】、【0046】及び【0047】並びに図1ないし3及び26の記載からみて、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認める。
「ナビゲーション装置において、ある走行状態中に発生した情報について、その走行状態が解除されるまで情報提供を延期する技術。」

ウ 引用文献3
本願の優先日前に頒布され、原審拒絶査定の拒絶の理由に引用された特開2011-221620号公報(2011年11月4日出願公開。以下、「引用文献3」という。)には、特に段落【0001】ないし【0005】、【0022】及び【0060】の記載からみて、次の技術(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認める。
「運転者の操作に応じて車両をフリーラン状態とする車両制御装置において、運転者の運転技量が所定以下である場合に、運転者の技量に応じた情報量の情報を先出しして、フリーラン操作に関する情報の通知を行って、運転者のフリーラン操作に応じたフリーラン移行をアシストするとともに、著しく運転技量が低くフリーラン操作に関する情報の通知により運転者が情報過多になる可能性がある場合には、上記情報量を減らす、又は情報の通知自体を行わない技術。」

エ 引用文献4
本願の優先日前に頒布された特開2003-44983号公報(以下、「引用文献4」という。)には、特に段落【0001】、【0011】、【0015】、【0025】ないし【0037】の記載からみて、次の技術(以下、「引用文献4記載技術」という。)が記載されていると認める。
「交差点に近づいてくる他車両の情報を乗員に提供する車両用情報処理装置において、運転技量の高い運転者の場合、運転負荷を検出する車速の閾値を高い値に設定し、運転技量の低い運転者の場合運転負荷を検出する車速の閾値を低い値に設定し、自車両の車速が前記閾値以上の場合、運転負荷が大きいとして、他車両の情報を、簡潔で認識しやすい表示で提示し、自車両が交差点に接近して車速が前閾値より小さくなったとき、運転負荷が小さいと判断して他車両の詳細な情報を提示する技術。」

(2)対比・判断
ア 本願発明1との対比
本願発明1と引用文献1発明とを対比すると、引用文献1発明における「自動二輪車自体」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明1の「車体」に相当し、以下同様に、「自動二輪車」は「車両」に、「旋回特性」は「操縦技量」に、「評価結果」は「評価結果」に、「ライダー」は「操縦者」に、「提示」は「提供」に、「ライダー特性判定装置」は「音声情報提供装置」に、「ジャイロスコープ33」は「車両状態検出部」に、「旋回運動判定部52」は「旋回判定部」に、「旋回性得点算出部81」は「操縦技量評価部」に、「旋回性得点Tv」は「操縦技量の評価結果」に、「旋回性得点比較部84」は「技量判定部」に、相当する。
また、引用文献1発明において、「前記旋回性得点算出部81による旋回性得点T _(v) を基に予め定められた閾値を基準としてライダーの旋回特性をレベル別に判定する」ことは、本願発明1において、「前記操縦技量評価部による操縦技量の評価結果を基に予め定められた閾値を基準として操縦技量の高低を判定する」ことに相当する。
そうすると、本願発明1と引用文献1発明とは、
「カーブを曲がる際に車体がカーブの中心方向に傾斜する車両の操縦技量の評価結果を音声により操縦者に提供する音声情報提供装置であって、
前記車両の車両状態を検出する車両状態検出部と、
前記車両状態検出部の検出結果を基に前記車両が旋回中であるか否かを判定する旋回判定部と、
操縦者のカーブ走行に対する操縦技量を評価する操縦技量評価部と、
前記操縦技量評価部による操縦技量の評価結果を基に予め定められた閾値を基準として操縦技量の高低を判定する技量判定部と、
を備えた
音声情報提供装置。」
という点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1においては、「複数の音声案内を記録した音声案内記録部」を備えるのに対し、引用文献1発明においては、音声案内記録部を備えるか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本願発明1においては、「前記操縦技量の評価結果に応じて前記音声案内を選択する音声案内選択部」を備えるのに対し、引用文献1発明においては、音声案内選択部を備えるか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
本願発明1においては、「選択された前記音声案内を出力するタイミングを判定する音声出力タイミング判定部」を備えるのに対し、引用文献1発明においては、音声案内選択部を備えるか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

<相違点4>
本願発明1においては、「前記旋回判定部が旋回中でないと判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は選択された前記音声案内を出力」するのに対し、引用文献1発明においては、音声案内の出力タイミングが不明である点(以下、「相違点4」という。)。

<相違点5>
本願発明1においては、「前記旋回判定部が旋回中であると判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は旋回中でないと判定されるまで選択された前記音声案内の出力タイミングを遅延」するのに対し、引用文献1発明においては、「音声案内の出力タイミングが不明である点(以下、「相違点5」という。)。

<相違点6>
本願発明1においては、「前記操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」のに対し、引用文献1発明においては、音声の出力タイミングが不明である点(以下、「相違点6」という。)。

イ 本願発明1に対する判断
事案に鑑み、まず相違点6について検討する。
引用文献2記載技術ないし引用文献4記載技術のいずれも、「前記操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」ことを開示又は示唆するものではない。すなわち、引用文献2記載技術は、ある走行状態中に発生した情報について、その走行状態が解除されるまで情報提供を延期する技術であり、「操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」ことを開示又は示唆するものではない。引用文献3記載技術は、運転技量が所定以下である場合に情報の先出しをし、著しく運転技量が低い場合に、情報量を減らす、又は情報の通知自体を行わない技術であり、引用文献3記載技術における「情報量を減らす」とは、提示する情報の量を減らすことであるから、タイミングを遅延させるものとは異なり、また、引用文献3記載技術における「情報の通知自体を行わない」とは、情報の出力を行わないことであるから、タイミングを遅延させるものとは異なる。結局、引用文献3記載技術は、「操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」ことを開示又は示唆するものではない。引用文献4記載技術は、運転技量の低い運転者の場合、運転負荷を検出する車速の閾値を低い値に設定し、自車両が右左折を行う交差点に接近して車速が前記閾値以上の場合、運転負荷が高いと判断して閾値未満となったときに運転負荷が低いと判断して他車両の詳細な情報を提供する技術であり、運転技量の高低にかかわらず、運転負荷が高い場合にも情報の提示は行われるから、「前記操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」ことを開示又は示唆するものではない。
したがって、引用文献1発明及び引用文献2記載技術ないし引用文献4記載技術から相違点6に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本願発明1は、相違点6に係る発明特定事項を備えることにより、車体の傾斜を伴うカーブ走行を終えたばかりの操縦技量が低い操縦者が、音声案内を落ち着いて聞くことができるという作用効果を奏するものである。
そうすると、相違点1ないし5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1発明及び引用文献2記載技術ないし引用文献4記載技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本願発明2ないし4に対する判断
本願発明2ないし4は、本願発明1を置換えることなく直接又は間接的に引用するものであって、本願発明1をさらに限定した発明である。
そうすると、本願発明2ないし4も、引用文献1発明及び引用文献2記載技術ないし引用文献4記載技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)まとめ
本願発明1ないし4は、引用文献1発明及び引用文献2記載技術ないし引用文献4記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえず、したがって、原審拒絶査定の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の内容
「この審判事件に関する出願は、合議の結果、以下の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。

理 由

平成27年8月28日提出の手続補正書でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


本願の平成28年2月15日提出の手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものとして、すでに却下されている。
平成27年8月28日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、本件補正前の(すなわち国内書面における)特許請求の範囲の請求項1の下記(1)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(2)の記載へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「車両の操縦技量の判定結果を音声により操縦者に提供する音声情報提供装置であって、
前記車両の車両状態を検出する車両状態検出部と、
前記車両状態検出部の検出結果を基に前記車両が旋回中であるか否かを判定する旋回判定部と、
操縦者の操縦技量を評価する操縦技量評価部と、
複数の音声案内を記録した音声案内記録部と、
前記操縦技量に応じて前記音声案内を選択する音声案内選択部と、
選択された前記音声案内を出力するタイミングを判定する音声出力タイミング判定部とを備え,
前記旋回判定部が旋回中でないと判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は選択された前記音声案内を出力し、
前記旋回判定部が旋回中であると判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は旋回中でないと判定されるまで選択された前記音声案内の出力タイミングを遅延する
音声情報提供装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「カーブを曲がる際に車体がカーブの中心方向に傾斜する車両の操縦技量の判定結果を音声により操縦者に提供する音声情報提供装置であって、
前記車両の車両状態を検出する車両状態検出部と、
前記車両状態検出部の検出結果を基に前記車両が旋回中であるか否かを判定する旋回判定部と、
操縦者のカーブ走行に対する操縦技量の相対的な高低を評価する操縦技量評価部と、
複数の音声案内を記録した音声案内記録部と、
前記操縦技量に応じて前記音声案内を選択する音声案内選択部と、
選択された前記音声案内を出力するタイミングを判定する音声出力タイミング判定部とを備え,
前記旋回判定部が旋回中でないと判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は選択された前記音声案内を出力し、
前記旋回判定部が旋回中であると判定した場合、前記音声出力タイミング判定部は旋回中でないと判定されるまで選択された前記音声案内の出力タイミングを遅延し、
前記操縦技量が相対的に低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する
音声情報提供装置。」(なお、下線は補正箇所を示すために出願人が付したものである。)。

本件補正により、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「操縦技量評価部」について、本件補正前の「操縦者の操縦技量を評価する操縦技量評価部」が本件補正後に「操縦者のカーブ走行に対する操縦技量の相対的な高低を評価する操縦技量評価部」とされた(以下、「補正事項」という。)。
そこで、本件補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でしたものであるかどうか検討する。
出願人は平成27年8月28日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、本件補正の根拠として、段落【0040】、【0044】及び【0048】を挙げている。しかし、当初明細書等では、段落【0048】に「技量判定部50は、車両安定特性評価部54、旋回特性評価部55、および総合特性評価部57から入力される車両安定性得点Sv、旋回性得点Tv、および、総合特性得点Gに対して予め定められた閾値を基準としてそれぞれの特性が「高」または「低」のいずれであるかを判定する。」と記載されるように、操縦技量の高低は「技量判定部50」が判定しており、「操縦技量評価部32」は行っていない。「操縦技量評価部32」に関し、当初明細書等では、段落【0032】に「操縦技量評価部32は、操縦者の操縦技量を評価する。操縦技量評価部32は、成分分離部53と、車両安定特性評価部54と、旋回特性評価部55と、総合特性評価部57とを有する。」とは記載されているものの、「操縦技量評価部32」が「技量判定部50」を有するものとは記載されていない。さらに、「車両安定特性評価部54」「旋回特性評価部55」及び「総合特性評価部57」に関し、当初明細書等では、段落【0042】に「低周波数帯域の絶対値の積分量と高周波数帯域の絶対値の積分量との比率を指標とすることで、カーブ走行中の操縦者の特性を得点化することができる。」と、段落【0043】に「さらに、上記3つの安定性指標(Syaw,Sroll,Spitch)の重みづけ線形和である車両安定性得点Svを算出する。」と、段落【0046】に「3つの旋回性指標と平均車速の重み付け線形和を旋回性得点Tvとして算出する。」と、段落【0047】に「総合特性評価部57は、車両安定性得点Svおよび旋回性得点Tvの重み付け線形和を算出することで旋回区間Yにおける操縦者の総合特性得点Gを得る。総合特性得点Gは、操縦者の車両安定特性および旋回特性を基に操縦者の特性を総合的に評価するものである。」と、それぞれ記載されているものの、各得点の算出は、操縦技量の高低の評価を行うものではない。段落【0047】には、他に「総合特性得点G、車両安定性得点Svおよび旋回性得点Tvと3つの指標により操縦者の操縦技量を評価することができる。」とも記載されているものの、結局「操縦技量評価部」が操縦技量の高低の評価を行うことは記載されていない。
また、当初明細書等に、他に根拠となる記載は見当たらない。

さらに、出願人は上記意見書において、段落【0048】を根拠として、「すなわち、操縦技量の相対的な高低を評価しています。」と述べている。
しかし、段落【0048】には、「技量判定部50は、車両安定特性評価部54、旋回特性評価部55、および総合特性評価部57から入力される車両安定性得点Sv、旋回性得点Tv、および、総合特性得点Gに対して予め定められた閾値を基準としてそれぞれの特性が「高」または「低」のいずれであるかを判定する。判定基準となる閾値は適切な値を任意に設定し、それぞれの特性で異なる値を用いてもよい。」と記載されており、予め定められた基準と比較して高低を判定する手法は、一般的には「絶対評価」に属する評価手法である(必要であれば、「絶対評価」という用語について、広辞苑第6版「ぜったい‐ひょうか【絶対評価】教育評価の一つ。一定の基準に照らして個人の変化・発達を測定・評価する方法。」参照。また、必要であれば、「相対評価」という用語について、広辞苑第6版「そうたい‐ひょうか【相対評価】教育評価の一つ。ある一定の集団の中の相対的な位置によって、個人の能力や学力を判断・評価する方法。」参照。)。単に基準値を任意に設定し得るというのみで、評価手法が相対評価となるものでもない。そして、本件出願において、当初明細書等には「相対」又は「相対的」という用語が一切用いられていないため、当該用語に特別な定義をして用いているものでもない。
そうすると、補正事項は、当初明細書等には記載されておらず、またそれらから自明でもない。
したがって、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6も同様である。

なお、当該補正がなされた特許請求の範囲における請求項1ないし6に記載した事項は願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから、当該発明については新規性進歩性等の特許要件についての審査を行っていない。 」

2 当審拒絶理由に対する判断
(1) 平成29年2月16日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)によって、本願の請求項1は「操縦者のカーブ走行に対する操縦技量の相対的な高低を評価する操縦技量評価部」という事項が「操縦者のカーブ走行に対する操縦技量を評価する操縦技量評価部」と補正された。これにより「相対的な高低」という特定が削除され、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとなった。

(2)本件補正によって、本願の請求項1においては「前記操縦技量評価部による操縦技量の評価結果を基に予め定められた閾値を基準として操縦技量の高低を判定する技量判定部と、」という事項が追加された。これにより、技量判定部において操縦技量の高低の判定が行われることが特定され、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとなった。

(3)本件補正によって、本願の請求項1は「前記操縦技量が相対的に低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」という事項が「前記操縦技量が低い場合、前記音声出力タイミング判定部は前記音声案内の出力タイミングをさらに遅延する」と補正された。これにより、相対的な高低ではないことが明らかとなり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとなった。

よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原審拒絶査定及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-19 
出願番号 特願2013-551249(P2013-551249)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 三島木 英宏
金澤 俊郎
発明の名称 音声情報提供装置  
代理人 杉谷 勉  

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