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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1327292
審判番号 不服2016-3431  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-04 
確定日 2017-04-12 
事件の表示 特願2011-187945「医療情報管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月14日出願公開、特開2013- 50823〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年8月30日を出願日とする出願であって,平成27年5月28日付けで拒絶理由が通知され,平成27年6月30日に手続補正されたが,平成27年12月2日付けで拒絶査定され,平成28年3月4日に本件審判の請求と同時に手続補正され,平成28年10月25日付けで前記手続補正に対する補正却下の決定がされ,同日付で拒絶理由(最後)が通知され,平成28年12月26日に手続補正(以下「本件補正」という。)されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

1 [補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

2 [理由]
(1) 本件補正の内容

本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。

ア <補正前>

「 電子化した情報を読み取りならびに読み出しが可能なRFID通信機器を内蔵する患者が保有するスマートフォンと、前記スマートフォンに備えたRFID通信機器の読み書き機器、前記読み書き機器に接続して前記読み書き機器を作動させるとともに前記読み書き機器からRFID通信機器へ送信する医療情報および前記読み書き機器を介してRFID通信機器から読み取った情報を記憶しておく記憶手段、前記医療情報の入力手段、前記医療情報の表示手段、前記各手段の制御手段を有する医療関係機関に配置される医療情報処理装置とからなり、前記RFID通信機器を用いて各医療機関と患者とが個人情報および医療に関する情報を互いに送受信することが可能である医療情報管理システムにおいて、前記RFID通信機器の記憶装置に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶されているとともに各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報が、前記RFID通信機器の記憶装置に記憶されている複数の個人情報および医療に関する情報の内で患者個人により、或いは医療関係機関により予め定めた情報に制限されることを特徴とする医療情報管理システム。」

イ <補正後>

「 電子化した情報を読み取りならびに読み出しが可能なRFID通信機器を内蔵する患者が保有するスマートフォンと、前記スマートフォンに備えたRFID通信機器の読み書き機器、前記読み書き機器に接続して前記読み書き機器を作動させるとともに前記読み書き機器からRFID通信機器へ送信する医療情報および前記読み書き機器を介してRFID通信機器から読み取った情報を記憶しておく記憶手段、前記医療情報の入力手段、前記医療情報の表示手段、前記各手段の制御手段を有する医療関係機関に配置される医療情報処理装置とからなり、前記RFID通信機器を用いて各医療機関と患者とが個人情報および医療に関する情報を互いに送受信することが可能である医療情報管理システムにおいて、前記RFID通信機器の記憶装置および前記スマートフォンの記憶装置に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶されているとともに各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報が、前記RFID通信機器の記憶装置および前記スマートフォンの記憶装置に記憶されている複数の個人情報および医療に関する情報の内で患者個人により、或いは医療関係機関により予め定めた前記医療関係機関に関する情報に制限され、且つ前記RFID通信機器と前記読み書き機器との間で送受信される医療に関する情報が文字、音声、映像、更には接続したバイタル測定機器による情報、GPSによる位置情報であるとともに前記スマートフォンの記憶手段に記録されている前記医療に関する情報が前記RFID通信機器と前記読み書き機器との間で送信されるとともに前記医療情報処理装置から前記RFID通信機器に送信される前記医療に関する情報が前記スマートフォンの記憶手段に記録されることを特徴とする医療情報管理システム。」

(2) 補正の目的

補正前の請求項1は,発明を特定するために必要な事項(以下「発明特定事項」という。)である「スマートフォン」について,「RFID通信機器」を内蔵すること,また,その「RFID通信機器」の「記憶装置」を備えることを特徴とするが,スマートフォン自体の記憶装置は,発明特定事項としていない。
本件補正は,補正前の請求項1の構成に,「スマートフォンの記憶装置」を追加し,「前記スマートフォンの記憶手段」(スマートフォンの記憶手段は前記されていないので,「スマートフォンの記憶装置」の誤記であるものと思われる)について,その技術的特徴を限定するものである。よって,本件補正は,補正前の請求項1にない「スマートフォンの記憶装置」という発明特定事項を追加し,それをさらに限定するものであるから,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について限定するものではない。したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

また,本件補正は,請求項の削除や誤記の訂正を目的とするものでないから,特許法第17条の2第5項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものでもない。そして,補正前の請求項1に対して,明りょうな記載でないという拒絶の理由は通知されていないから,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる事項を目的とするものでもない。

以上のことから,本件補正は,特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものであるといえず,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3) 請求人の主張等

平成28年10月25日付けの補正の却下の決定「第2(1)」において,「補正事項2は,RFID通信機器と読み書き機器との間で送受信される情報とスマートフォンの記憶手段との関係を特定するものであるが,補正前の請求項1には,スマートフォンの記憶手段は記載されていないから,補正事項2は,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。よって,本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また,請求項の削除,明りょうでない記載の釈明,または,誤記の訂正を目的としないことも明らかである。」とし,特許法第17条の2第5項に違反すると説示した。これに対し,請求人は,平成28年12月26日に提出した意見書において,「本件の平成28年3月4日付けの手続補正の却下については承服致します。」と述べている。

また,請求人は,同意見書において,「また、本件補正は補正前の記憶装置は「RFID通信機器の記憶装置」であったところ、補正後は「RFID通信機器の記憶装置および前記スマートフォンの記憶装置」と限定することにより特許請求の範囲の減縮を目的とするものであ」ると主張している。しかしながら,「RFID通信機器の記憶装置」と「スマートフォンの記憶装置」とは,異なる装置(ハードウェア)であることは明らかである。よって,「RFID通信機器の記憶装置および前記スマートフォンの記憶装置」との記載は,「RFID通信機器の記憶装置」という発明特定事項を限定したものではない。よって,この主張を採用することはできない。

第3 本願発明について

本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記「第2.2.(1)ア.<補正前>」に記載したとおりである。

第4 引用例

1 引用例1
平成28年10月25日付けの拒絶理由通知で引用された特開2004-252535号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

(1)【0005】から【0006】まで
「【0005】
【発明の実施の形態】
[実施形態1]
この発明の実施形態1を、図1及び図2に示す。
この実施形態では、ICカードを利用した電子診察券1を用いる。このICカードは、接触式、非接触式のどちらでもよく、カードに内蔵されたICチップ3が、データ処理や暗号処理などの演算処理を行うCPU、データを一時的に保存するRAM、OS(オペレーションシステム)を格納したりアプリケーションファイルを保存したりするROM、などを有する。処方箋内容などのデータを処理するには、専用リーダーライター装置5を必要とする。
【0006】
また、この電子診察券1には、クレジットカードの機能が付加されている。患者がクレジット会社と契約を行っていれば、この機能を使える。
この専用リーダーライター装置5は、パソコン7に外付けするもの、またはパソコン7と一体のものであっても良い。専用リーダーライター装置5は、各病院や各薬局に備えられ、暗号を処理する方式は、共通のものが用いられるとする。
次に、これら電子診察券1や専用リーダーライター装置5を用いて行う、この実施形態の手順を説明する。
まず、病院(この明細書では処方箋発行基医療機関をいう)8では、処方箋の作成を行う。そして、専用リーダーライター装置5(以下専用装置5という)を用いて電子診察券1(電子診察券1と称す)に処方箋の内容を書き込む。この書き込む内容には、
処方箋の内容を構成する
・処方データー(実際の薬剤名と量と服用方法)
・基礎データー(保険番号・生年月日・性別・電話番号や住所)
・アレルギーなどの体質経歴データー
の他に、
・患者の通院歴
・投薬歴
・かかった病気
・過去の完治までの日数
・受診した医師名
・受診した日時
・検査データー
などの健康データ、
さらには
・受診料
などの医療費データ
が含まれ、これらを同時に更新し、あるいは新規に追加して書き込む(図2中、S1)。」

(2) 【0009】
「【0009】
調剤が終わると、薬局11は、薬剤を患者9に渡す。薬剤の代金として、患者9は料金を直接に支払うか、電子診察券1と提携されているクレジットカードにより支払う。また薬局11は、電子診察券1に、投薬の完了を書き込む。のみならず、薬剤の説明データー、服薬指導メモ、薬剤料、調剤料などの医療費データを電子診察券1に書き込む。そして、薬剤の説明データー、服薬指導メモ、領収書をプリントアウトしたものなどを、電子診察券1とともに薬剤と一緒に患者9に渡す(同図中、S5)。」

(3) 【0011】から【0012】まで
「【0011】
(実施形態1の作用効果)
(1)以上の実施形態1によれば、患者9は転院しても、自分の現在まで全ての処方箋の内容を電子診察券1の中に有し紛失することがない。よって、自分の手で、この内容を一元的に管理できる。必要があるときは、病院8や薬局11の専用装置で読み出してもらって、場合によってはプリントアウトしてもらい、自分で知ることができ、薬歴や治療経過を認識でき、病気予防に役立てることができる。
【0012】
(2)病院8や薬局11は事務処理に際して、処方箋の内容に含まれる事項、たとえば保険番号・生年月日・性別・電話番号や住所を、改めてキーボードなどにより入力する必要がなく、既に入力してあるものを使えるので、迅速な事務処理が可能になる。」

ここで,「たとえば保険番号・生年月日・性別・電話番号や住所を、改めてキーボードなどにより入力する必要がなく、既に入力してあるものを使える」とあることから,保険番号などの最初の入力は,キーボードなどにより入力されるといえる。

(4) 【0023】から【0024】まで
「【0023】
以上の実施形態では、電子診察券1などへの書き込みの範囲は、病院8や薬局11で限定することに言及しなかったが、他の実施形態では、暗号の種類と領域を複数用意し、暗号を解く専用ソフトを複数用意することで、以下のことが出来る。
すなわち、データーを書き込み・読み出せる施設とその範囲を、たとえば以下のように定める。
(A)全てのデーターを読み込める施設や人:病院8・本人・支払い負担者・市町村や消防署。
(B)一部のデーターを読み込める施設:薬局11(調剤と請求に必要なデーターのみ)。
(C)治療・介護にかかるデーターを書き込める施設:病院8・本人・家族(但し、家族はコメントのみ)。なお、食事療法など本人の申告を必要とする場合は、その範囲に限り本人も書込が出来る。
【0024】
(D)投薬にかかるデーターを書き込める施設:介護施設(投薬援助者)、薬局11(薬剤師若しくはその事務員)、病院8(医師若しくは、その事務員)。
(E)一部のデーターを読み出せる施設:薬局11。
以上の実施形態では、処方箋のデータは、患者9、医師、薬剤師などが扱うものであったが、他の実施形態では、電子化したデータを他の研究職員にも扱わせることで、これらのデーターを複数の患者データーと照らし合わせることにより、季節的な病気の流行や地域的な病気の傾向や年代的病状などの傾向を統計し易くなり、投薬薬剤・使用材料・使用薬剤の統計がとれ、病気予防の観点から、重要な研究資料が提供されうる。」

(5) 【図面の簡単な説明】
「【図1】(A)は、この発明の実施形態1を示す全体概念図
(B)は、(A)に用いられる電子診察券の概観図、
(C)は、(B)の電子診察券を読み書きする専用のリーダーライター装置を示す外観図である。」

(6) 【図1】(C)


【図1】(C)からは,リーダーライター装置5は,パソコン7に外付けされ,パソコン7は,表示装置,キーボードなどを備える一般的なものであることが見て取れる。

(7) 上記(1)?(6)によれば,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「接触式または非接触式のICカードを利用した電子診察券と,
各病院や各薬局に備えられたパソコンと,
前記パソコンに外付けされるものであって,前記電子診察券に対し処方箋や投薬,薬剤の説明データなどの情報を読み書きする専用リーダーライター装置と
からなる電子診療券システムであって,
前記パソコンは,表示装置と,保険番号などを入力するキーボードを備えており,
前記電子診察券は,前記処方箋として,保険番号,生年月日,性別,電話番号,住所などの基礎データと,処方データを,他に,検査データなどの健康データを,更新あるいは新規に追加して書き込むことができるため,現在まで全ての処方箋の内容を有しており,電子診察券のデータを書き込み・読み出せる施設とその範囲を定めること
を特徴とする電子診察券システム。」

2 引用例2(周知技術の例)
本審決で新たに引用する下記の文献(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

引用例2:
上田充彦他,「モバイルFeliCaの要素技術 「おサイフケータイ」はこうして動く」,mobileRF magazine,株式会社シーメディア, 第12巻第5号Vol.94,平成16年9月15日,79?83ページ

(1) 81ページ「【2】携帯電話へのFelica搭載」
「2004年8月現在、NTTドコモからFeliCa対応携帯電話が発売されると同時に多くのサービス事業者がiモードFeliCa対応サービスの提供を開始した。」

(2) 81ページ「(1)モバイルFelica ICチップ」
「モバイルFeliCaICチップは、携帯端末に非接触ICカードの機能を搭載するために開発されたLSIである。モバイルFelicaICチップを携帯端末に搭載することによって、

・外部のリーダライタから携帯端末を非接触lCカードとして利用する
・携帯端末の画面にモバイルFeliCaICチップ内のデータを表示する
・携帯端末からパスワードを入力することでモバイルFeliCaICチップ内のデータに対するアクセス制限を解除する
・専用サーバから携帯電話網を介してモバイルFeliCaICチップ内のデータに対してアクセスする
・外部のリーダライタからモバイルFeliCaICチップを経由して携帯端末のコントローラにデータを送信することで携帯端末の特定機能(アプリケーションなど)を起動する

といったことが可能となり、Felicaと携帯端末を融合させた新しいアプリケーションが期待できる。
モバイルFelicaICチップには、通信インターフェースとして、外部リーダライタと通信を行うための無線通信インターフェースと、携帯端末のコントローラと通信を行うためのシリアル通信インターフェースの2つが備わっている。サービス事業者は、アプリケーションに応じてこれらのインターフェースを使い分け、モバイルFeliCaICチップのメモリヘのアクセスを行うことができる(図5参照)。」

(3) 82ページ「(2)共通領域とフリー領域」
「NTTドコモのFelica対応携帯電話に搭載されたモバイルFeliCaICチップのメモリには、「共通領域」とよばれる領域と、「フリー領域」とよばれる領域が作成されている。サービス事業者は、実現するアプリケーションの性質に応じて、共通領域またはフリー領域を選択して利用することができる(表1参照)。
共通領域には、複数のサービス事業者が各々に割り当てられたメモリの範囲内で独自のファイル構造を構築することができる。また、共通領域を利用するサービス事業者は、フェリカネットワークスが提供するリモート発行サービスを利用することにより、携帯電話網を介したメモリアクセスが可能となり、リアル利用とサイバー利用が融合した、柔軟で拡張性の高いシステムを構築することが可能となっている。」

(4) 上記(1)?(3)によれば,本願の出願当時において,以下の事項は周知であったといえる。

・本願出願前にFelica対応携帯電話が発売されており,すでに多くの業者がサービスを提供していたこと。
・モバイルFelicaICチップは,携帯電話に非接触ICカードの機能を搭載するためのLSIであること。
・外部のリーダライタからは,モバイルFelicaICチップは非接触ICカードとして利用されること。
・モバイルFelicaICチップはICチップ内にメモリ領域を備えてサービスに応じて利用されること。

3 引用例3(周知技術の例)
本審決で新たに引用する特開2007-324839号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

(1) 【0002】
「【背景技術】
【0002】
近年、この種の非接触通信デバイスとして、非接触ICカード(電子マネー)の機能を内蔵した「おサイフケータイ」と称される携帯電話機(iDクレジット)が供されてきている。この携帯電話機は、例えば二つ折り式の本体ケースのうち、キー操作部を有する側のケース内に、リーダライタとの間で電磁波による通信を行うためのアンテナコイルと、このアンテナコイルに接続され前記リーダライタに対するデータ通信処理やデータの保持等を行うためのICチップとを組込んで構成されている(例えば特許文献1参照)。前記ICチップは、リーダライタの給電用信号から動作電源を得るための整流・平滑回路、通信等の制御を行うCPU、送受信信号の変調,復調を行う変復調回路、ID情報や電子マネー情報を記憶したメモリなどをワンチップ化して構成されている。」

4 引用例4(周知技術の例)

本審決で新たに引用する特開2008-123457号公報(以下,「引用例4」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されており,電子マネー機能付き(RFID付)の携帯電話を電子診察券として用いることは周知技術である。(なお,下線は当審において付加したものである。)

「【0019】
パソコン12a,12bは、患者に応対する受付窓口が設けられた事務室Aと、医師が診察を行う診察室Bとにそれぞれ設置され、LAN10に接続されている。ここで、図1においては、診察室が1つしか図示されていないが、病院の規模に応じて複数あってもよい。また、図1に示すパソコン12a,12bは、複数の端末装置に相当する。パソコン12a,12bは、いずれもCPU、RAM、ハードディスクドライブ、キーボード、マウス、モニタなど、通常のパソコンが備えているハードウェアを有している他、LANを介したデータ通信を可能とする通信用基板を備えており、LAN10を介して病院1内の各機器と情報の授受を行う。また、パソコン12aには、患者の指紋を読み取るための指紋読取装置122aが接続されている。この指紋読取装置122aは、読み取った指紋の特徴をデータ化してパソコン12aへ出力する。さらにパソコン12a,12bには、患者が所有する診察券に埋設されたICチップに記憶されているデータを読み取るためのリーダ/ライタ121a,121bが各々接続されている。この診察券は、非接触型のICカードになっており、図2に示すように、埋設されているICチップには、患者(所有者)の個人情報や診察番号などの各種情報が記憶されている。
【0020】
すなわち、診察券のICチップには、まず図2(a)に示すように、電子マネー発行機関4において登録されたユーザIDと、ユーザの氏名と、現在のチャージ金額のデータが記憶されている。また、本診察券は、複数の医療機関(病院・医院など)で使用可能となっており、これを実現するために、図2(b)に示すように、各医療機関に固有に付されている医療機関コード(図1に示す病院1には、「0011-aaa」が付与されている)と、各医療機関において各診察券に付与された診察券No.とが対応付けられて、医療機関ごとにICチップに記憶されている。このように、図2に示すデータを記憶した診察券または携帯電話は、患者の識別情報を記憶した携帯可能な記憶媒体に相当する。
なお、診察券は、非接触型ICカードに限らず、例えば電子マネー機能付きの携帯電話に上述した各種情報を記憶させておき、当該携帯電話を診察券の代わりとして用いるようにしてもよい。」

なお,特開2009-3927号公報の【0011】-【0012】にも,RFIDインターフェースを有する携帯電話を診察券として用いることが開示されている。

5 引用例5(RFIDの用語について)
本審決で新たに引用する下記の文献(以下,「引用例5」という。)には,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

引用例5:Klaus Finkenzeller,ソフト工学研究所訳,「RFIDハンドブック」,日刊工業新聞社,平成13年2月26日,1ページ

(1) 1ページ 1行目から16行目まで
「近年,個体の自動認識(自動ID識別)は,多くのサービス産業,販売業,流通業,生産業,製造業,および物流などの分野で,非常に一般的になってきている。これらの個体の自動認識技術は,人間,動物,商品,そして,製造物の移動時における情報交換を実現する。
現在,いたる所に存在するバーコード・ラベルは,識別システムとして一時代を築いた。しかし,増えつづける要求の中,機能的に不充分なケースも発生してきている。バーコードは非常に安価であるが,それらの欠点は記憶容量が低いことと,再度プログラムが不可能なことである。
技術的に最も好ましい記憶媒体はシリコンチップであり,これは現在,最も一般的に使用されている電子式データキャリアである,ICカード(公衆電話用ICカード,銀行カード,=スマートカード)でもシリコンチップが使用されている。しかし,機械的な接触が必要なICカードは,ある意味,実用性に劣る。それと比較して,非接触技術を使用した場合,データキャリア装置とそのリーダとの間のデータ転送には,距離に対して柔軟性を持たせることができる。また,理想的なケースでは電子式データキャリア装置を稼働させるために必要な電力を,非接触技術を用いてリーダから転送することもできる。このように電力とデータの転送が非接触で行われる認識システムは,世界的にはRFIDシステム(Radio Frequency Identification)と呼ばれている。日本においては,非接触型ID識別システム,非接触型ICカードという名称の方が一般的である。」

第5 対比・判断

1 本願発明と引用発明1との対比

そこで,本願発明と引用発明1とを比較する。

(1) 引用発明1の「電子診察券」は,「接触式または非接触式のICカードを利用」したものである。また,電子診察券は,病院等に備えられたパソコンに外付けされた専用リーダーライター装置との間で情報を読み書きするものであるから,電子化された情報を読み取り・書き込みが可能な非接触式のICカードである。

一方,本願発明の医療情報管理システムは,「電子化した情報を読み取りならびに読み出しが可能なRFID通信機器を内蔵する患者が保有するスマートフォン」を構成要素としている。ここで,RFID技術のハンドブックである引用例5の1ページ12行目から16行目には,以下のような記載がある。

「また,理想的なケースでは電子式データキャリア装置を稼働させるために必要な電力を,非接触技術を用いてリーダから転送することもできる。このように電力とデータの転送が非接触で行われる認識システムは,世界的にはRFIDシステム(Radio Frequency Identification)と呼ばれている。日本においては,非接触型ID識別システム,非接触型ICカードという名称の方が一般的である。」

このことから,RFID通信機器と非接触ICカードとは当業者にとって同義で用いられているといえる。

したがって,引用発明1の「非接触式のICカードを利用した電子診察券」は,本願発明の「電子化した情報を読み取りならびに読み出しが可能なRFID通信機器」に相当する。一方,本願発明は,前記RFID通信機器を内蔵する患者が所有するスマートフォンをそのシステムの構成要素とするのに対し,引用発明1は,RFID通信機器に相当する電子診察券を構成要素とするものの,スマートフォンを構成要素としない点で相違する。

(2) 引用発明1の「各病院や各薬局に備えられたパソコン」は,電子診察券に処方箋として基礎データや,検査データなどの健康データを追加して書き込むことができ,また読み出すことができる。したがって,引用発明1の「パソコン」と「電子診察券」との関係は,本願発明の「前記RFID通信機器を用いて各医療機関と患者とが個人情報および医療に関する情報を互いに送受信することが可能である医療情報管理システム」の「RFID通信機器」と「医療関係機関に配置される医療情報処理装置」との関係に相当する。

そこで,引用発明1の「パソコン」と本願発明の「医療情報処理装置」とを対比する。

ア 引用発明1のパソコンは,電子診察券に対して処方箋や投薬,薬剤の説明データなどの情報を読み書きする専用リーダーライター装置を外付けしている。したがって,引用発明1の「専用リーダーライター装置」は,本願発明の「スマートフォンに備えたRFID通信機器の読み書き機器」と,上記第5.1.(1)で述べた相違点を除き一致する。また,引用発明1の「パソコン」と本願発明の「医療情報処理装置」とは,「読み書き機器に接続して前記読み書き機器を作動させる」ものである点で一致する。

イ 引用例1において,引用発明1のパソコンが記憶手段を有するか,また,有するとしてどのような情報を記憶するかは特定されていない。したがって,本願発明の「医療情報処理装置」が,「前記読み書き機器に接続して前記読み書き機器を作動させるとともに前記読み書き機器からRFID通信機器へ送信する医療情報および前記読み書き機器を介してRFID通信機器から読み取った情報を記憶しておく記憶手段」を有しているのに対して,引用発明1のパソコンがそのような記憶手段を有しているかは不明である点で相違する。

ウ 引用発明1のパソコンは,表示装置とキーボードを備えている。また,前記パソコンは,電子診察券に処方箋として基礎データや,検査データなどの健康データを追加して書き込むためのものであることからみて,前記表示装置は医療情報を表示し,前記キーボードは,医療情報を入力するためのものであるといえる。
したがって,本願発明の「医療情報処理装置」と,引用発明1の「パソコン」とは,「医療情報の入力手段」「医療情報の表示手段」を有する点で一致する。

エ 本願発明の「医療情報処理装置」が「前記各手段の制御手段」を有するのに対し,引用発明1の「パソコン」は,制御手段について特定がない。しかしながら,パソコンが制御部(例えば,CPUなど)により各手段を制御することは一般的な構成であって,本願発明の「制御手段」も前記一般的な構成以外の特徴を有さない。
したがって,本願発明の「医療情報処理装置」と,引用発明1の「パソコン」とは,「前記各手段の制御手段」を有する点で一致する。

(3) 引用発明1の「電子診察券」は,処方箋として,保険番号,生年月日,性別,電話番号,住所などの基礎データと,処方データを,他に,検査データなどの健康データを書き込むことができる。また,引用発明1の電子診察券は,現在まで全ての処方箋の内容を有するものである。

一方,本願発明は,「RFID通信機器の記憶装置」を有し,「RFID通信機器の記憶装置に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶されているとともに各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報が、前記RFID通信機器の記憶装置に記憶されている複数の個人情報および医療に関する情報の内で患者個人により、或いは医療関係機関により予め定めた情報に制限される」という特徴を有する。

ここで,引用発明1の「電子診察券」と本願発明の「RFID通信機器の記憶装置」は,患者が保有する記憶手段であるから,両者を対比する。

ア 記憶されるデータの内容
本願発明の「RFID通信機器の記憶装置」と,引用発明1の「電子診察券」とにそれぞれ記憶されるデータの内容について比較する。本願発明は,「RFID通信機器の記憶装置に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶」されている。ここで,引用発明1の「電子診察券」に書き込む「処方箋」には,「保険番号,生年月日,性別,電話番号,住所などの基礎データ」があり,これは,本願発明の「個人情報」に対応する。また,「電子診察券」には「処方データ」や「検査データなどの健康データ」が書き込まれ,これは,本願発明の「医療に関する情報」に対応する。また,引用発明1の「電子診察券」は,「現在まで全ての処方箋の内容を有する」ことから,処方箋のデータは複数書き込まれる。
したがって,本願発明の「RFID通信機器の記憶装置」と,引用発明1の「電子診察券」とにそれぞれ記憶されるデータの内容に差異はない。

イ 記憶されるデータに対する制限
本願発明は,「各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報が、前記RFID通信機器の記憶装置に記憶されている複数の個人情報および医療に関する情報の内で患者個人により、或いは医療関係機関により予め定めた情報に制限される」ものである。
引用発明1の「電子診察券」に書き込まれる「処方箋」や「健康データ」は,各病院や各薬局の医療関係機関と,電子診察券との間で書き込み・読み出させる情報であるから,これらのデータは,本願発明の「各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報」に対応する。また,引用発明1は,「電子診察券」のデータを書き込み・読み出せる施設とその範囲を定めており,このことは,本願発明の「各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報」が「医療関係機関により予め定めた情報に制限される」ことに相当する。

ウ 上記ア及びイから,引用発明1の「電子診察券」と本願発明の「RFID通信機器の記憶装置」とは,「RFID通信機器の記憶装置に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶されているとともに各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報が、前記RFID通信機器の記憶装置に記憶されている複数の個人情報および医療に関する情報の内で患者個人により、或いは医療関係機関により予め定めた情報に制限される」点で一致する。

(4) 上記(1)?(3)から,本願発明と引用発明1との一致点,相違点は以下のとおりである。

ア 一致点
「 電子化した情報を読み取りならびに読み出しが可能なRFID通信機器と、
前記RFID通信機器の読み書き機器、
前記読み書き機器に接続して前記読み書き機器を作動させるとともに,
前記読み書き機器からRFID通信機器へ送信する医療情報の入力手段、
前記医療情報の表示手段、
前記各手段の制御手段
を有する医療関係機関に配置される医療情報処理装置
とからなり、
前記RFID通信機器を用いて各医療機関と患者とが個人情報および医療に関する情報を互いに送受信することが可能である医療情報管理システムにおいて、
前記RFID通信機器の記憶装置に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶されているとともに各医療機関と患者とが互いに送受信する個人情報および医療に関する情報が、前記RFID通信機器の記憶装置に記憶されている複数の個人情報および医療に関する情報の内で患者個人により、或いは医療関係機関により予め定めた情報に制限されること
を特徴とする医療情報管理システム。」

イ 相違点1
本願発明は,前記RFID通信機器を内蔵する患者が所有するスマートフォンをそのシステムの構成要素とするのに対し,引用発明1は,RFID通信機器に相当する電子診察券を構成要素とするものの,スマートフォンを構成要素としない点。

ウ 相違点2
本願発明の「医療情報処理装置」が,「前記読み書き機器からRFID通信機器へ送信する医療情報および前記読み書き機器を介してRFID通信機器から読み取った情報を記憶しておく記憶手段」を有しているのに対して,引用発明1のパソコンがそのような記憶手段を有しているかは不明である点。

2 判断
(1) 相違点1について

非接触型ICカードの有する機能を,RFID通信機器を内蔵するスマートフォンで利用可能とする技術は,本願の出願当時において周知技術である。

上記周知技術の例として,まず,東日本旅客鉄道株式会社が提供する「モバイルSuica」がある。「モバイルSuica」は,NTTドコモなどから発売されているFelica対応携帯電話のサービスであることはよく知られる。そして,Felica対応携帯電話について,第4.2.(4)で述べたとおり,以下の点が知られている。

・本願出願前にFelica対応携帯電話が発売されており,すでに多くの業者がサービスを提供していたこと。
・モバイルFelicaICチップは,携帯電話に非接触ICカードの機能を搭載するためのLSIであること。
・外部のリーダライタからは,モバイルFelicaICチップは非接触ICカードとして利用されること。
・モバイルFelicaICチップはICチップ内にメモリ領域を備えてサービスに応じて利用されること。

また,第4.3で示したとおり,引用例3にも,非接触ICカードの機能を内蔵した「おサイフケータイ」と称される携帯電話機が供され,そのケース内にリーダライタとの間で通信を行うアンテナコイルと,前記アンテナコイルに接続されたICチップを組み込んでおり,前記ICチップは,リーダライタの給電用信号から動作電源を得る回路,制御を行うCPU,ID情報等を記憶したメモリをワンチップ化して構成することが,背景技術として記載されている。

以上のことから,本願の出願当時,ICカードを携帯電話等に内蔵するためのICチップはすでに周知技術であって,ICチップは,そのサービスに応じたデータをそのチップ内のメモリ領域に記憶することも周知技術であったといえる。

そして,ICカードの機能を,普段携帯する携帯電話に搭載して,利便性を向上させるということは一般的な課題であり,また,第4.4で示したとおり,電子マネー機能付きの携帯電話をICカードを用いた電子診察券の代わりとすることは出願当時周知技術であるから,引用発明1に上記周知技術を適用しようとする動機はあるといえる。
ここで,「スマートフォン」は,インターネットに接続可能な「携帯電話」であるが,携帯電話をスマートフォンとして利用することは一般的であり,本願発明はインターネットに接続可能なことに起因する発明特定事項は「スマートフォン」であること以外にはない。
したがって,相違点1に係る構成は,引用発明1に接した当業者であれば容易に想到するものである。

なお,本願明細書の【0024】にも,次のように記載されている。
「このRFID通信機器11は、従来から一般にスマートフォン1などに採用されている無線電波を介して非接触で文字や映像などの電子化した情報を読み取りならびに読み出しが可能なものでよく、・・・」

(2) 相違点2について

パソコンがメモリやハードディスクなどの記憶手段を備えることは一般的な構成である。そして,外付けされた機器である専用リーダーライター装置を介して電子診察券に情報を書き込むにあたり,キーボードによって入力した情報を事前に前記記憶手段に記憶することや,電子診察券の情報を表示するにあたり,電子診察券から読み取った情報を事前に前記記憶手段に記憶することは,当然行うことである。

(3) 小括

上記(1)及び(2)から、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について

請求人は,平成28年12月26日に提出した意見書において,補正発明と引用発明1とを比較して以下のように述べている。

「確かに本願の出願当時に「モバイルSuica」が運用されていたとは思います。
しかしながら、補正発明は「非接触型ICカードの有する機能を,RFID通信機器を内蔵するスマートフォンで利用可能とする技術」そのものではありません。
例えば、補正発明は「RFID通信機器の記憶装置および前記スマートフォンの記憶手段に複数の個人情報および医療に関する情報が記憶されている」ことから、RFID通信機器に備えた記憶手段に記憶させておいてもよく、この場合にはRFID通信機器の読み書き機器により外部からの電源によりスマートフォンの稼働に拘わらず通信が可能となり、きわめて便利である、などの本願出願時においてスマートフォンが有していない構成も有しているものです。
これに対して本願出願時における「モバイルSuica」がこのような機能を有しているかが不明です。」

しかしながら,上記第4.2で示したとおり,出願当時採用されていたモバイルFelicaICチップは,内部にメモリ領域を備えており,「RFID通信機器に備えた記憶手段に記憶させてお」くという点において差異がない。また,上記第5.2.(1)で述べたとおり,ICカードを携帯端末に内蔵するICチップにメモリ領域を持つことは周知技術である。したがって,上記主張は採用できない。また,他の主張は,却下された補正発明の構成に係る主張であるので採用できない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明1及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-16 
結審通知日 2017-02-17 
審決日 2017-03-01 
出願番号 特願2011-187945(P2011-187945)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
P 1 8・ 57- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿部 潤  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 石川 正二
星野 昌幸
発明の名称 医療情報管理システム  
代理人 橋本 京子  
代理人 橋本 克彦  

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