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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録(定型) G04G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) G04G
管理番号 1327367
審判番号 不服2016-655  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-14 
確定日 2017-05-09 
事件の表示 特願2011-248517「フレーム伝送装置及び同期方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月30日出願公開、特開2013-104772、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 5月15日付け:拒絶理由の通知
平成27年 6月18日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年11月20日付け:拒絶査定
平成28年 1月14日 :審判請求書の提出
平成28年 8月 3日付け:当審拒絶理由の通知
平成28年10月 3日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年12月20日付け:当審拒絶理由の通知(最後)
平成29年 2月16日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年2月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項5】
フレーム伝送装置の同期方法であって、
基準時刻を測定するノード装置との間で交換される遅延測定フレームの伝送経路を、伝送網で定められた複数の経路の間で切り替え、
前記複数の経路のそれぞれにおいて前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係に基づいて揺らぎ推定値を算出し、
前記複数の経路から選択される前記揺らぎ推定値が最も小さい経路で交換される遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させることを特徴とする同期方法。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:国際公開第2009/034984号
刊行物2:特開2011-23788号公報
刊行物3:特開2008-118270号公報
刊行物4:特開2007-104569号公報
刊行物5:特開2011-82858号公報
刊行物6:国際公開第2006/106921号

刊行物1に記載される発明は、遅延ジッタ(伝送遅延の揺らぎ)が最小となっている経路を選択するものである。刊行物1には、遅延ジッタを平均して得られる推定値を用いているかどうかは明示されていない。しかしながら、通信の技術分野において、遅延ジッタの平均値を求めることは、刊行物4の段落【0011】、刊行物5の段落【0069】-【0070】及び刊行物6の段落【0017】に例示されるように周知の技術である。
刊行物1記載の発明において、遅延ジッタが最小となる経路を選択するに際し、各経路の遅延ジッタの平均値を求め、当該平均値から経路の選択を行うことは、当業者であれば容易になし得たことである。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
ア 刊行物1(国際公開第2009/034984号)の記載事項
刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「[0001] 本発明は、パケットネットワークを介して、マスタノードとスレーブノードの間のクロックを同期させるためのシステム、その方法及びそのプログラムに関する。」

(b)「[0010] より詳細には、このタイムスタンプは位相同期ループ(PLL)の制御信号を生成するために使われる。すなわち、PLLは、自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現する。」

(c)「[0021] そこで、本発明はネットワークの遅延変動の影響を低減することにより、PLLが不安定な自走状態に陥ることなく、正確なクロック同期を実現することが可能な、パケットネットワークにおけるクロック同期システム、その方法及びそのプログラムを提供することを目的とする。」

(d)「[0040] 一方、遅延ジッタ算出部304は、受信したタイムスタンプの転送遅延時間から固定遅延を差し引くことで、各タイムスタンプの遅延ジッタを算出している。そして、タイムスタンプと遅延ジッタ情報を遅延ジッタ比較部305に渡している。」

(e)「[0063] 転送遅延時間
=受信パケットのタイムスタンプ値
-スレーブノードのPLLで再生されたタイムスタンプ値
ここで、転送遅延時間には図8に示されるように、固定遅延成分Dfixと、遅延ジッタ成分Dvarの2つの成分が存在し、2つの成分を足しあわしたものが転送遅延時間となる。」

(f)「[0073] スレーブノード30のPLL部307の動作は従来のタイムスタンプ方式と全く同じなので説明を省略する。」

(g)「[0084] <構成> 図12を参照すると、本発明の第2の実施形態は、パケットネットワーク21と、マスタノード10とスレーブノード30とを備える。
[0085] <マスタノード> マスタノード10はクロック同期のためのタイムスタンプが付加されたパケットをスレーブノード30に定期的に送信する。ここで、マスタノード10は、図12のように、2つ以上の異なる経路でスレーブノード30にタイムスタンプを送信する。
[0086] <スレーブノード> スレーブノード30は、図5で示すスレーブノード30と同様に、経路分別部301と、最小遅延計測部302と、固定遅延差吸収部303と、遅延ジッタ算出部304と、遅延ジッタ比較部305と、パケットフィルタ部306と、PLL部307とを備える。
[0087] スレーブノード30はタイムスタンプが付いたパケットをマスタノード10から複数の経路を経由して受信する。」

(h)「[0089] なお、スレーブノード30における最小遅延計測部302と、固定遅延差吸収部303と、遅延ジッタ算出部304と、遅延ジッタ比較部305と、パケットフィルタ部306と、PLL部307の構成・動作は第1の実施形態と全く同じであるため、説明を省略する。」

(i)「[0093] マスタノード10からは、マルチパス送信部101において、VLAN識別子=1のパケットと、VLAN識別子=2のタイムスタンプパケットが生成され、ネットワークに送信される。これらのパケットはそのVLAN識別子に応じた経路でネットワーク中を転送される。」

(j)「[0106] また、スレーブノード30は、図5で示される構成と同様であり、その動作は第1の実施形態と全く同じである。すなわち、複数の経路からタイムスタンプを受信するが、ある経路から受信したタイムスタンプが大きな遅延ジッタを含んでいたとしても、受信したタイムスタンプのうち、遅延ジッタが最小となっているものをクロック同期に利用することで、遅延ジッタが閾値を越えてしまう確率を低減し、不安定な自走状態に長時間陥る危険性を排除できる。」

(ア)刊行物1には、「パケットネットワークを介して、マスタノードとスレーブノードの間のクロックを同期させるための方法」([0001])が記載されている。

(イ)刊行物1の「マスタノード10は、・・・(略)・・・2つ以上の異なる経路でスレーブノード30にタイムスタンプを送信する」([0085])との記載について、「マスタノード10はクロック同期のためのタイムスタンプが付加されたパケットをスレーブノード30に定期的に送信する」([0085])ものであるから、刊行物1には、「マスタノード10は、2つ以上の異なる経路でスレーブノード30にタイムスタンプが付加されたパケットを送信する」ことが記載されている。

(ウ)刊行物1の第2の実施形態に関する「スレーブノード30における・・・(略)・・・PLL部307の構成・動作は第1の実施形態と全く同じであるため、説明を省略する」([0089])との記載について、第1の実施形態のPLL部に関して、刊行物1に「スレーブノード30のPLL部307の動作は従来のタイムスタンプ方式と全く同じなので説明を省略する」([0073])と記載され、従来のタイムスタンプ方式のPLLに関して、刊行物1に「PLLは、自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現する」([0010])と記載されていることを踏まえれば、第2の実施形態のスレーブノード30におけるPLL部は、「自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現する」ものといえ、刊行物1には、「スレーブノード30は、自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現する」ことが記載されているといえる。

(エ)刊行物1の「スレーブノード30は、図5で示される構成と同様であり、その動作は第1の実施形態と全く同じである。すなわち、複数の経路からタイムスタンプを受信するが、・・・(略)・・・受信したタイムスタンプのうち、遅延ジッタが最小となっているものをクロック同期に利用する」([0106])との記載について、「マスタノード10はクロック同期のためのタイムスタンプが付加されたパケットをスレーブノード30に定期的に送信」([0085])し、「スレーブノード30はタイムスタンプが付いたパケットをマスタノード10から複数の経路を経由して受信する」([0087])ものであって、スレーブノード30が受信するものは、「タイムスタンプが付加されたパケット」であり、「受信したタイムスタンプの転送遅延時間から固定遅延を差し引くことで、各タイムスタンプの遅延ジッタを算出し」([0040])、「転送遅延時間 =受信パケットのタイムスタンプ値 -スレーブノードのPLLで再生されたタイムスタンプ値」([0063])であるから、刊行物1には、「スレーブノード30は、複数の経路からタイムスタンプが付加されたパケットを受信するが、受信したタイムスタンプが付加されたパケットのうち、遅延ジッタが最小となっているものをクロック同期に利用し、その際、タイムスタンプが付加されたパケットの遅延ジッタは、パケットのタイムスタンプ値からスレーブノード30のタイムスタンプ値を差し引いて算出された転送遅延時間から固定遅延を差し引くことで算出する」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物1に記載された事項と上記(ア)ないし(エ)とを総合すると、刊行物1には以下の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

「マスタノード10は、2つ以上の異なる経路でスレーブノード30にタイムスタンプが付加されたパケットを送信し、
スレーブノード30は、自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現するものであって、
複数の経路からタイムスタンプが付加されたパケットを受信するが、受信したタイムスタンプが付加されたパケットのうち、遅延ジッタが最小となっているものをクロック同期に利用し、
その際、タイムスタンプが付加されたパケットの遅延ジッタは、パケットのタイムスタンプ値からスレーブノード30のタイムスタンプ値を差し引いて算出された転送遅延時間から固定遅延を差し引くことで算出される、
パケットネットワークを介して、マスタノードとスレーブノードの間のクロックを同期させるための方法。」

イ 刊行物2(特開2011-23788号公報)の記載事項
刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、「カウン値」との記載は「カウンタ値」との誤記と認める。)。

(a)「【請求項1】
ネットワークを介して受信された同期パケットのマスタカウンタ値と、上記同期パケットの受信タイミングでのスレーブカウンタ値の差分に対応した経路ジッタを算出する第1手順と、
上記第1演算部で形成され、直近のものを含めた複数個の経路ジッタを第1履歴部に記憶する第2手順と、
上記第1履歴部に記憶されている複数個の経路ジッタのうち最小経路ジッタを抽出する第3手順と、
上記第1演算部で形成された経路ジッタと上記最小経路ジッタとの差分に対応した予測経路ジッタを算出する第4手順と、
上記スレーブカウンタ値と上記予測経路ジッタとの差分に対応した補正後スレーブカウンタ値を算出する第5手順と、
直近のものを含めた複数個の上記補正後スレーブカウンタ値を第2履歴部に記憶する第6手順と、
上記スレーブカウンタ値に対応し、上記直近のものを含めた複数個の同期パケットのマスタカウンタ値を第3履歴部に記憶する第7手順と、
上記第2履歴部から取り出した2つの補正後スレーブカウンタ値の差分と、それに対応し上記第3履歴部から取り出した2つのマスタカウンタ値の差分との比から周波数偏差を算出する第8手順と、
上記算出された周波数偏差を用いて上記スレーブカウンタ値の補正を行う第9手順とを有する、
ネットワーク同期方法。」

したがって、刊行物2には以下の発明が記載されている(以下、「刊行物2に記載の技術」という。)。

「ネットワークを介して受信された同期パケットのマスタカウンタ値と、上記同期パケットの受信タイミングでのスレーブカウンタ値の差分に対応した経路ジッタを算出する第1手順と、
上記第1演算部で形成され、直近のものを含めた複数個の経路ジッタを第1履歴部に記憶する第2手順と、
上記第1履歴部に記憶されている複数個の経路ジッタのうち最小経路ジッタを抽出する第3手順と、
上記第1演算部で形成された経路ジッタと上記最小経路ジッタとの差分に対応した予測経路ジッタを算出する第4手順と、
上記スレーブカウンタ値と上記予測経路ジッタとの差分に対応した補正後スレーブカウンタ値を算出する第5手順と、
直近のものを含めた複数個の上記補正後スレーブカウンタ値を第2履歴部に記憶する第6手順と、
上記スレーブカウンタ値に対応し、上記直近のものを含めた複数個の同期パケットのマスタカウンタ値を第3履歴部に記憶する第7手順と、
上記第2履歴部から取り出した2つの補正後スレーブカウンタ値の差分と、それに対応し上記第3履歴部から取り出した2つのマスタカウンタ値の差分との比から周波数偏差を算出する第8手順と、
上記算出された周波数偏差を用いて上記スレーブカウンタ値の補正を行う第9手順とを有する、
ネットワーク同期方法。」

ウ 刊行物3(特開2008-118270号公報)の記載事項
刊行物3には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。【0045】の「一時関数」との記載は「一次関数」の誤記と認める。【0048】の「外部時刻ゆらぎ値FOT」および「外部時刻ゆらぎ値FOT」との記載は、「外部時刻ゆらぎ値FOT」との記載に統一した。)。

(a)「【0040】
時刻補正部314は、外部時刻と一定内部経過時間とを送信側外部時計データ補正記憶部113から読み出し、横軸を読み出した一定内部経過時間とし、縦軸を読み出した外部時刻として、外部時刻から所定の高周波成分を除去することにより補正後外部時刻を算出し、読み出した一定内部経過時間と補正後外部時刻とを関連付けて、送信側外部時刻補正データ記憶部114に登録する。
時刻補正部314で実行される処理の詳細については、後述する。」

(b)「【0045】
次に、図4から図7を用いて、時刻補正部314が実行する処理について説明する。
まず、送信側外部時計データ補正記憶部113から、関連付けられている内部経過時間ITと、外部時刻OTとを読み出す(ステップS401)。
次に、横軸を内部経過時間ITとし、縦軸を外部時刻OTとし(図5(a)の波形P1参照)、測定開始(図5(a)のS1)と測定終了(図5(a)のS2)との2点を通る一次関数(図5(a)の直線P2)を算出する(ステップS402)。
【0046】
次に、算出した線形関数に内部経過時間ITのそれぞれの値を代入した値である算出外部時刻COTを算出する(ステップS403)。
次に、外部時刻OTから、外部時刻OTに関連付けられている内部経過時間ITを求めた線形関数に代入して算出した算出外部時刻COTを減算し、外部時刻ゆらぎ値FOT(図5(a)では、FOT1,2,3の3点のみ例示している)(つまり誤差変動)を算出する(ステップS404)。」

(c)「【0048】
次に、図4の説明に戻り、外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズを除去し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを算出する(ステップS405)。
具体的には、外部時刻ゆらぎ値FOTに対し、中央値または平均値フィルタをかける。これにより、外部時刻ゆらぎ値FOT中で、近傍の平均的な値より値が大きく離れているデータを除去することが可能となる。なお、中央値または平均値フィルタは、予め定められたフィルタである。
なお、ここでいうスパイクノイズの除去とは、外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズとして検出されたデータを削除することではなく、スパイクノイズとして検出されたデータを中央値または平均値フィルタの値に置き換えることである。」

(d)「【0051】
図4の説明に戻り、次に、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを補正処理し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTを算出する(ステップS406)。
ここでいう補正処理とは、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTに、低域通過フィルタを適応する、直線近似処理をする、折れ線近似の処理をする、等の処理である。」

(e)「【0054】
次に、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTに、算出外部時刻COTを加算し、補正後外部時刻MOTを算出する(ステップS407)。
次に、補正後外部時刻MOTと、補正後外部時刻MOTと関連付けられている内部経過時間ITと、を関連付けて送信側外部時計補正データ記憶部に登録する(ステップS408)。」

(ア)
a 刊行物3の「時刻補正部314が実行する処理について説明する」(【0045】)、「横軸を内部経過時間ITとし、縦軸を外部時刻OTとし・・・(略)・・・、測定開始・・・(略)・・・と測定終了・・・(略)・・・との2点を通る一次関数・・・(略)・・・を算出する」(【0045】)、「算出した線形関数に内部経過時間ITのそれぞれの値を代入した値である算出外部時刻COTを算出する」(【0046】)、「外部時刻OTから、外部時刻OTに関連付けられている内部経過時間ITを求めた線形関数に代入して算出した算出外部時刻COTを減算し、外部時刻ゆらぎ値FOT・・・(略)・・・を算出する」(【0046】)、「外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズを除去し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを算出する」(【0048】)、「スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを補正処理し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTを算出する」(【0051】)、「補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTに、算出外部時刻COTを加算し、補正後外部時刻MOTを算出する」(【0054】)との記載より、刊行物3には、「時刻補正部は、横軸を内部経過時間ITとし、縦軸を外部時刻OTとし、測定開始と測定終了との2点を通る一次関数を算出し、算出した線形関数に内部経過時間ITのそれぞれの値を代入した値である算出外部時刻COTを算出し、外部時刻OTから、外部時刻OTに関連付けられている内部経過時間ITを求めた線形関数に代入して算出した算出外部時刻COTを減算し、外部時刻ゆらぎ値FOTを算出し、外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズを除去し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを算出し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを補正処理し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTを算出し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTに、算出外部時刻COTを加算し、補正後外部時刻MOTを算出する」ことが記載されているといえる。

b 刊行物3の「時刻補正部314は、・・・(略)・・・横軸を読み出した一定内部経過時間とし、縦軸を読み出した外部時刻として、外部時刻から所定の高周波成分を除去することにより補正後外部時刻を算出し、・・・(略)・・・時刻補正部314で実行される処理の詳細については、後述する」(【0040】)との記載を踏まえれば、上記aの「横軸を内部経過時間ITとし、縦軸を外部時刻OTとし、測定開始と測定終了との2点を通る一次関数を算出し、算出した線形関数に内部経過時間ITのそれぞれの値を代入した値である算出外部時刻COTを算出し、外部時刻OTから、外部時刻OTに関連付けられている内部経過時間ITを求めた線形関数に代入して算出した算出外部時刻COTを減算し、外部時刻ゆらぎ値FOTを算出し、外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズを除去し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを算出し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを補正処理し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTを算出し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTに、算出外部時刻COTを加算し、補正後外部時刻MOTを算出する」との処理は、「外部時刻OTから所定の高周波成分を除去することにより補正後外部時刻MOTを算出する」処理でもあるといえる。

c 上記aおよびbより、刊行物3には、「時刻補正部314は、外部時刻OTから所定の高周波成分を除去することにより補正後外部時刻MOTを算出する処理であって、横軸を内部経過時間ITとし、縦軸を外部時刻OTとし、測定開始と測定終了との2点を通る一次関数を算出し、算出した線形関数に内部経過時間ITのそれぞれの値を代入した値である算出外部時刻COTを算出し、外部時刻OTから、外部時刻OTに関連付けられている内部経過時間ITを求めた線形関数に代入して算出した算出外部時刻COTを減算し、外部時刻ゆらぎ値FOTを算出し、外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズを除去し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを算出し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを補正処理し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTを算出し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTに、算出外部時刻COTを加算し、補正後外部時刻MOTを算出する処理を行う」ことが記載されているといえる。

(イ)刊行物3の「補正処理とは、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTに、低域通過フィルタを適応する、直線近似処理をする、折れ線近似の処理をする、等の処理である」(【0051】)との記載より、「補正処理とは、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTに、低域通過フィルタを適応する、直線近似処理をする、または、折れ線近似の処理をすることである」ことが記載されている。

したがって、上記の刊行物3に記載された事項と上記(ア)および(イ)とを総合すると、刊行物3には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物3に記載の技術」という。)。

「時刻補正部314は、
外部時刻OTから所定の高周波成分を除去することにより補正後外部時刻MOTを算出する処理であって、
横軸を内部経過時間ITとし、縦軸を外部時刻OTとし、測定開始と測定終了との2点を通る一次関数を算出し、
算出した線形関数に内部経過時間ITのそれぞれの値を代入した値である算出外部時刻COTを算出し、
外部時刻OTから、外部時刻OTに関連付けられている内部経過時間ITを求めた線形関数に代入して算出した算出外部時刻COTを減算し、外部時刻ゆらぎ値FOTを算出し、
外部時刻ゆらぎ値FOTからスパイクノイズを除去し、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを算出し、
スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTを補正処理し、補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTを算出し、
補正後外部時刻ゆらぎ値MSFOTに、算出外部時刻COTを加算し、補正後外部時刻MOTを算出する、
処理を行い、
前記補正処理とは、スパイクノイズ除去外部時刻ゆらぎ値SFOTに、低域通過フィルタを適応する、直線近似処理をする、または、折れ線近似の処理をすることである、
技術。」

エ 刊行物4(特開2007-104569号公報)の記載事項
刊行物4には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【0011】
(2)前記読み出し蓄積量算出部は、パケット受信部で受信した符号化ストリームに挿入された再生時間情報と、符号化ストリームを受信した時の受信装置内のシステムクロックから、時間幅Tにおける平均遅延ジッタ量を算出し、最大遅延ジッタ量と該平均遅延ジッタ量の差分を読み出し蓄積量とし、該読み出し蓄積量を蓄積量監視部に通知する処理を行う蓄積量算出部を有することを特徴とするデータ受信装置である。」

したがって、刊行物4には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物4に記載の技術」という。)。

「符号化ストリームを受信した時の受信装置内のシステムクロックから、時間幅Tにおける平均遅延ジッタ量を算出し、最大遅延ジッタ量と該平均遅延ジッタ量の差分を読み出し蓄積量とする技術。」

オ 刊行物5(特開2011-82858号公報)の記載事項
刊行物5には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【請求項5】
パケットネットワークに配備された複数のトラフィックの計測装置またはトラフィック計測機能を備える複数のネットワークノード装置が、トラフィック観測データを中央局に通知するステップを実行し、
上記中央局の観測データ収集装置が、上記トラフィック観測データを収集して解析するステップを実行し、
時刻情報配信装置が、時刻情報を複数の上記計測装置または複数の上記ネットワークノード装置に配信するステップを実行し、
複数の上記計測装置または複数の上記ネットワークノード装置が、上記時刻情報配信装置から時刻情報を配信されて複数の上記計測装置間または複数の上記ネットワークノード装置間の時刻を同期するステップを実行し、
上記中央局のネットワークノード制御装置が、リンクに対するトラフィック量またはパケットロス量または特定のフローに対するネットワーク遅延量または遅延ジッタ量を含むネットワーク品質の解析結果およびフロー毎の経路情報を基に、フロー毎に最適経路を探索し、該当する上記ネットワークノード装置に対して経路設定を行うステップを実行する、
ことを特徴とするネットワーク制御方法。」

(b)「【0020】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、複数階層のレイヤに対して、IPトラフィック品質をモニタすることができると共に、設備コストを増大させることなく、IPネットワーク内に閉じた高い時間分解能によりIPパケット単位でのトラフィックモニタを行い、IPネットワークが最適な状態で運用されるように経路選択をフロー単位で実現することができるネットワーク制御システムおよびネットワーク制御方法を実現することを目的とする。」

(c)「【0023】
ネットワークノード制御装置は、たとえばネットワークの遅延、遅延ジッタに対して高品質を要求する特定のフローの設定に際し、当該フローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量から最適経路として当該遅延ジッタ量が最少となる経路を選択し、該当するネットワークノード装置に対して経路設定を行うことができる。」

(d)「【0028】
・・・(略)・・・
【図5】図1の時刻情報配信装置と計測装置との間の時刻同期の動作を説明するための図であって、時刻情報配信装置と計測装置の内部構成を示す図である。」

(e)「【0030】
ネットワーク制御システム1は、パケットネットワーク20内のネットワークノード装置10-1?10-4(ネットワークノード装置10-1?10-4をまとめて説明する際にはネットワークノード装置10とする)にそれぞれ備えられる計測装置30-1?30-12(計測装置30-1?30-12をまとめて説明する際には計測装置30とする)および中央局50内に備えられる観測データ収集装置51、観測データ蓄積装置52、ネットワークノード制御装置53および時刻情報配信装置54により構成される。」

(f)「【0046】
ここで、時刻情報配信装置54および計測装置30の動作についてさらに詳細に説明する。時刻情報配信装置54および計測装置30を用いた時刻同期の構成を図5に示す。計測装置30は、同期要求パケット送信部32から送信時刻T1を書き込んだ同期要求パケットを時刻情報配信装置54に送信する。
【0047】
時刻情報配信装置54は、同期要求パケット受信部62で同期要求パケットを受信し、同期応答パケット送信部61から同期応答パケットを計測装置30に送信する。
【0048】
同期応答パケットには前述のT1の他、同期要求パケット受信部62が同期要求パケットを受信した時刻T2と同期応答パケット送信部61が同期応答パケットを送信した時刻T3とが書き込まれている。
【0049】
計測装置30が同期応答パケット受信部33で同期応答パケットを受信した時刻をT4とする。ここで、T1およびT4はクライアント時刻発生部31で発生させた時刻であり、T2およびT3はサーバ時刻発生部60で発生させた時刻である。
【0050】
クライアント時刻制御部34はT1、T2、T3、T4に基づき、以前の往復遅延時間の平均値RTT_meanを算出し、予め設定したジッタ許容値をδとして、
RTTlim1=RTTmean+δ
RTTlim2=RTTmean-δ
RTTlim2<RTT<RTTlim1
の条件を満足する同期応答信号の時刻差dTだけを透過させ、この時刻差dTに限定して同期クライアントの周波数または時刻の設定に適用するためのRTTフィルタリング処理を行う。」

(g)「【0053】
クライアント時刻制御部34はdTの値が目標値に近づくようにクライアント時刻発生部31の位相および周波数を制御する。
【0054】
なお、dTの目標値としては0(時刻同期の場合)も有り得るし、0以外の値(周波数同期の場合)も有り得る。これは、以下の実施例においても同様である。」

(h)「【0069】
図9に示すようにフローID♯1の新設フローに対し、観測データ収集装置51のリンク毎のネットワークの品質解析結果(A#1、A#2、A#3、B#4、B#5、B#6)を基に、ネットワークノード制御装置53は、ルート#AにおけるA#1からA#3までのパケットロス、遅延量、遅延ジッタ量の各平均値、各最悪値を算出し、ルート#BにおけるB#4からB#6までのパケットロス、遅延量、遅延ジッタ量の各平均値、各最悪値を算出する。
【0070】
ネットワークノード制御装置53における第一の経路割当論理は、ルート#Aおよび#Bでのパケットロスの平均値を比較することで、より優れた経路を選択する第一の経路探索判定と、遅延量の平均値を比較することで、より優れた経路を選択する第二の経路探索判定と、遅延ジッタ量の平均値を比較することで、より優れた経路を選択する第三の経路探索判定とを用い、最適経路を判定するというものである。」

(i)図5には、「計測装置30がクライアント時刻発生部31を備えている」ことが見てとれる。

(ア)刊行物5の「ネットワークノード装置10-1?10-4(ネットワークノード装置10-1?10-4をまとめて説明する際にはネットワークノード装置10とする)にそれぞれ備えられる計測装置30-1?30-12(計測装置30-1?30-12をまとめて説明する際には計測装置30とする)」(【0030】)との記載を踏まえれば、ネットワークノード装置は、計測装置(計測機能)を備えるものであるといえるから、刊行物5の【請求項5】の「パケットネットワークに配備された複数のトラフィックの計測装置またはトラフィック計測機能を備える複数のネットワークノード装置」および「複数の上記計測装置または複数の上記ネットワークノード装置」との記載は、「パケットネットワークに配備されたトラフィック計測機能を備える複数のネットワークノード装置」および「複数の上記ネットワークノード装置」という記載であるといえる。

(イ)刊行物5には、「時刻情報配信装置と計測装置との間の時刻同期の動作」(【0028】,図5)について、「クライアント時刻制御部34はdTの値が目標値に近づくようにクライアント時刻発生部31の位相および周波数を制御する」(【0053】)との記載から、クライアント時刻発生部の位相および周波数を制御することによって、時刻情報配信装置と計測装置との間の時刻を同期させること、すなわち、時刻情報配信装置と「クライアント時刻発生部の時刻を同期させる」ことが記載されているといえ、また、ネットワークノード装置が計測装置を備え(上記(ア))、計測装置がクライアント時刻発生部を備えること(上記(i))から、刊行物5の【請求項5】の「複数の上記計測装置間または複数の上記ネットワークノード装置間の時刻を同期する」との記載は、「複数の上記ネットワークノード装置の計測装置のクライアント時刻発生部間の時刻を同期する」との記載であるといえる。

(ウ)刊行物5には、「時刻情報配信装置と計測装置との間の時刻同期の動作」(【0028】,図5)について、「計測装置30は、同期要求パケット送信部32から送信時刻T1を書き込んだ同期要求パケットを時刻情報配信装置54に送信する」(【0046】)、「時刻情報配信装置54は、同期要求パケット受信部62で同期要求パケットを受信し、同期応答パケット送信部61から同期応答パケットを計測装置30に送信する」(【0047】)、「同期応答パケットには前述のT1の他、同期要求パケット受信部62が同期要求パケットを受信した時刻T2と同期応答パケット送信部61が同期応答パケットを送信した時刻T3とが書き込まれている」(【0048】)、「計測装置30が同期応答パケット受信部33で同期応答パケットを受信した時刻をT4とする」(【0049】)との記載から、「時刻情報が書き込まれたパケット」を送信および受信することによって時刻同期を行うことが記載されているといえるから、刊行物5の【請求項5】の「時刻情報配信装置が、時刻情報を・・・(略)・・・配信する」および「上記時刻情報配信装置から時刻情報を配信されて」との記載は、「時刻情報配信装置が、時刻情報が書き込まれたパケットを・・・(略)・・・配信する」および「上記時刻情報配信装置から時刻情報が書き込まれたパケットを配信されて」との記載であるといえる。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、刊行物5の請求項5(上記(a))には、次の事項が記載されているといえる。

「パケットネットワークに配備されたトラフィック計測機能を備える複数のネットワークノード装置が、トラフィック観測データを中央局に通知するステップを実行し、
上記中央局の観測データ収集装置が、上記トラフィック観測データを収集して解析するステップを実行し、
時刻情報配信装置が、時刻情報が書き込まれたパケットを複数の上記ネットワークノード装置に配信するステップを実行し、
複数の上記ネットワークノード装置が、上記時刻情報配信装置から時刻情報が書き込まれたパケットを配信されて複数の上記ネットワークノード装置の計測装置のクライアント時刻発生部間の時刻を同期するステップを実行し、
上記中央局のネットワークノード制御装置が、リンクに対するトラフィック量またはパケットロス量または特定のフローに対するネットワーク遅延量または遅延ジッタ量を含むネットワーク品質の解析結果およびフロー毎の経路情報を基に、フロー毎に最適経路を探索し、該当する上記ネットワークノード装置に対して経路設定を行うステップを実行する、
ネットワーク制御方法。」

(オ)刊行物5の「ネットワークノード制御装置53は、ルート#AにおけるA#1からA#3までのパケットロス、遅延量、遅延ジッタ量の各平均値、各最悪値を算出し」(【0069】)との記載を踏まえれば、刊行物5の「ネットワークノード制御装置は、たとえばネットワークの遅延、遅延ジッタに対して高品質を要求する特定のフローの設定に際し、当該フローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量から最適経路として当該遅延ジッタ量が最少となる経路を選択し、該当するネットワークノード装置に対して経路設定を行うことができる」(【0023】)との記載における遅延ジッタ量はネットワークノード制御装置が算出するものであり、また、当該記載の「当該フローの取り得る経路」とは、「特定のフローの取り得る経路」のことであるといえるから、刊行物5には、「ネットワークノード制御装置は、ネットワークの遅延、遅延ジッタに対して高品質を要求する特定のフローの設定に際し、特定のフローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量を算出し、最適経路として当該遅延ジッタ量が最少となる経路を選択し、該当するネットワークノード装置に対して経路設定を行う」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物5に記載された事項と上記(ア)ないし(オ)とを総合すると、刊行物5には以下の発明が記載されている(以下、「引用発明2」という。)。

「パケットネットワークに配備されたトラフィック計測機能を備える複数のネットワークノード装置が、トラフィック観測データを中央局に通知するステップを実行し、
上記中央局の観測データ収集装置が、上記トラフィック観測データを収集して解析するステップを実行し、
時刻情報配信装置が、時刻情報が書き込まれたパケットを複数の上記ネットワークノード装置に配信するステップを実行し、
複数の上記ネットワークノード装置が、上記時刻情報配信装置から時刻情報が書き込まれたパケットを配信されて複数の上記ネットワークノード装置の計測装置のクライアント時刻発生部間の時刻を同期するステップを実行し、
上記中央局のネットワークノード制御装置が、リンクに対するトラフィック量またはパケットロス量または特定のフローに対するネットワーク遅延量または遅延ジッタ量を含むネットワーク品質の解析結果およびフロー毎の経路情報を基に、フロー毎に最適経路を探索し、該当する上記ネットワークノード装置に対して経路設定を行うステップを実行し、
ネットワークの遅延、遅延ジッタに対して高品質を要求する特定のフローの設定に際し、特定のフローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量を算出し、最適経路として当該遅延ジッタ量が最少となる経路を選択し、該当するネットワークノード装置に対して経路設定を行うステップを実行する、
ネットワーク制御方法。」

カ 刊行物6(国際公開第2006/106921号)の記載事項
刊行物6には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「[0017] また、サービスレベル管理システムの移動端末において、移動端末の自己位置が予め定められたエリア内に在る場合にのみ、移動端末が所定の測定期間中に利用した通信サービス毎に、呼接続要求回数、または呼接続成功回数、または平均呼設定所要時間、または通信正常完了回数、または通信異常完了回数、または平均転送レート、または平均転送遅延量、または平均転送遅延ジッタ、または平均フレーム損失率、のうち一つ以上を含む通信サービス品質を測定する手段を有する。」

したがって、刊行物6には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物6に記載の技術」という。)。

「移動端末が所定の測定期間中に利用した通信サービス毎に、平均転送遅延量、または平均転送遅延ジッタのうち一つ以上を含む通信サービス品質を測定する手段を有する技術。」

(2)対比
ア 引用発明1の「マスタノード10」、「スレーブノード30」、「経路」、「タイムスタンプが付加されたパケット」、「転送遅延時間」および「クロック」は、それぞれ、本願発明の「基準時刻を測定するノード装置」、「フレーム伝送装置」、「経路」、「遅延測定フレーム」、「遅延時間」および「時計」に相当する。

イ 引用発明1は「スレーブノード30は、自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現するものであ」って、上記アを踏まえれば、「フレーム伝送装置」の同期方法ということができるから、本願発明の「フレーム伝送装置の同期方法」を含むものである。

ウ 引用発明1において、「マスタノード10は、2つ以上の異なる経路でスレーブノード30にタイムスタンプが付加されたパケットを送信し」、スレーブノード30は、「複数の経路からタイムスタンプが付加されたパケットを受信する」ことは、複数のタイムスタンプが付加されたパケットの経路を複数の異なる経路で切り替えることであり、本願発明の「基準時刻を測定するノード装置との間で交換される遅延測定フレームの伝送経路を、伝送網で定められた複数の経路の間で切り替え」ることに相当する。

エ 引用発明1の「タイムスタンプが付加されたパケットの遅延ジッタは、パケットのタイムスタンプ値からスレーブノード30のタイムスタンプ値を差し引いて算出された転送遅延時間から固定遅延を差し引くことで算出される」ことと、本願発明の「前記複数の経路のそれぞれにおいて前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係に基づいて揺らぎ推定値を算出」することとは、上記アを踏まえれば、「遅延測定フレームの遅延時間に基づいて所定の値を算出」する点で共通する。

オ 引用発明1の「スレーブノード30は、自身のクロックと新たに到着したタイムスタンプとの差分を計算し、その差分を基に自身のクロックを調節することで、クロック同期を実現するものであ」ることは、上記アを踏まえれば、本願発明の「フレーム伝送装置の時計を基準時刻に同期させる」ことに相当する。また、引用発明1の「新たに到着したタイムスタンプ」は、「タイムスタンプが付加されたパケット」によってもたらされることは明らかであるから、「タイムスタンプが付加されたパケットに従って、」「クロック同期を実現する」ことと捉えることができ、これは、上記アを踏まえれば、本願発明の「遅延測定フレームに従って、」「基準時刻に同期させること」に相当する。
したがって、引用発明の「クロック同期を実現する」ことと、本願発明1の「前記複数の経路から選択される前記揺らぎ推定値が最も小さい経路で交換される遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させること」とは、「遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させる」点で共通する。

カ すると、本願発明と引用発明1とは、次の一致点および相違点を有する。

<一致点>
「フレーム伝送装置の同期方法であって、
基準時刻を測定するノード装置との間で交換される遅延測定フレームの伝送経路を、伝送網で定められた複数の経路の間で切り替え、
前記遅延測定フレームの遅延時間に基づいて所定の値を算出し、
遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させる、
同期方法。」

<相違点>
(相違点1-1)
本願発明は、「前記複数の経路のそれぞれにおいて前記遅延測定フレームを交換した時刻と」前記遅延測定フレームの遅延時間「との関係」に基づいて「揺らぎ推定値」を算出するのに対し、引用発明1は、「タイムスタンプが付加されたパケット」において「転送遅延時間から固定遅延を差し引くこと」で遅延ジッタを算出する点。

(相違点1-2)
本願発明は、「前記複数の経路から選択される前記揺らぎ推定値が最も小さい経路で交換される」遅延測定フレームに従って、同期させるのに対し、引用発明1は、「受信したタイムスタンプが付加されたパケットのうち、遅延ジッタが最小となっている」タイムスタンプが付加されたパケットをクロック同期に利用する点。

(3)判断
ア 相違点1-1について検討する。

イ 刊行物1には、「複数の経路のそれぞれ」において「タイムスタンプが付加されたパケットを交換した時刻と転送遅延時間との関係」に基づいて遅延ジッタを算出することは、開示されていない。
また、引用発明2、刊行物2ないし4に記載の技術、刊行物6に記載の技術は、いずれも、「前記複数の経路のそれぞれ」において「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係」に基づいて揺らぎ推定値を算出する点を開示するものではなく、その点は周知技術であるともいえない。
よって、相違点1-1に係る本願発明の構成は、当業者が引用発明1、引用発明2、刊行物2ないし4に記載された事項、刊行物6に記載された事項および周知技術から、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明1、引用発明2、刊行物2ないし4に記載された事項、刊行物6に記載された事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(4)小括
上記「(3)判断」において示したとおり、本願発明は、当業者が引用発明1、引用発明2、刊行物2ないし4に記載された事項、刊行物6に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願の請求項1に係る発明は、本願発明を「物の発明」として記載し、「時計部」、「経路制御部」、「揺らぎ推定部」および「時刻同期部」という構成を追加して限定したものである。加えて、「揺らぎ推定値を算出」するとの事項を「揺らぎ推定値を決定」するとしたものであって、揺らぎ推定値を決定するために、揺らぎ推定値を算出するものであるから、両者は同様の機能を有するものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、本願発明をさらに限定したものといえるから、本願の請求項1に係る発明は、当業者が引用発明1、引用発明2、刊行物2ないし4に記載された事項、刊行物6に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願の請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明および本願の請求項1に係る発明と同様に、当業者が引用発明1、引用発明2、刊行物2ないし4に記載された事項、刊行物6に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 平成28年8月3日付け当審拒絶理由について
1 平成28年8月3日付け当審拒絶理由の概要
[理由1]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1および5に記載された揺らぎ推定値の決定方法について
請求項1の「前記遅延測定フレームの伝送遅延の揺らぎを所定時間平均して得られる揺らぎ推定値を決定する」との記載について、「前記遅延測定フレームの伝送遅延の揺らぎ」が具体的には何を意味しているのかが理解できず、また、当該記載によれば、揺らぎによって揺らぎを推定しているとも読めるため、請求項1に記載された発明においてどのようにして揺らぎ推定値を決定するのかが把握できない。
よって、請求項1に記載された発明は明確でない。請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2-4に記載された発明および請求項5に記載された発明についても同様である。

(2)請求項3に記載された揺らぎ推定値の決定方法について
請求項3の「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間と関係を一次近似の近似誤差に応じて揺らぎ推定値を決定する」との記載について、当該記載は言葉の係り受けが不自然であって日本語として意味不明であり、また、請求項1の「前記遅延測定フレームの伝送遅延の揺らぎを所定時間平均して得られる揺らぎ推定値を決定する」との記載との関係も不明であるため、請求項3に記載された発明においてどのようにして揺らぎ推定値を決定するのかが把握できない。
よって、請求項3に記載された発明は明確でない。請求項3を引用する請求項4に記載された発明についても同様である。

[理由2]
請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物5:特開2011-82858号公報
刊行物1:国際公開第2009/034984号
刊行物7:特開2009-55327号公報
刊行物8:藤川 冬樹,杉浦 秀昌、電力用通信網への高精度時刻同期方
式(IEEE1588)の適用と基礎評価、映像情報メディア
学会技術報告、日本、2010.11.11発行、Vol.34,No.
46、第73頁?第78頁

なお、刊行物の項番号については、上記「第3」の「1」との整合を図ったため、平成28年8月3日付け当審拒絶理由における引用文献の項番号とは異なる。

(1)刊行物5には、時刻同期の動作のためにネットワーク品質を解析して最適経路を探索することは記載されていないものの、高い時間分解能を実現すること(例えば、刊行物5の段落【0020】参照)や、正確なクロック同期を実現すること(例えば、刊行物1の段落[0021]参照)という課題は一般的なものであるから、刊行物5に記載された発明において、高い時間分解能または正確なクロック同期を実現すべく、時刻同期の動作のためにネットワーク品質を解析して最適経路を探索することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)刊行物5には、遅延ジッタ量の定義が明記されていないものの、刊行物7の段落【0137】-【0142】には、ネットワークにおけるQoSに関する測定値であるジッターについて、パケットの送信時刻と受信時刻との差によって求められる遅延時間の標準偏差、すなわち、遅延時間の平均と各遅延時間の差の二乗(揺らぎ)の平均の平方根、を計算することによって得られることが記載されており、刊行物5に記載された発明における遅延ジッタ量(当審注:当審拒絶理由中の「遅延ジッター量」は「遅延ジッタ量」の誤記であるため、修正した。)として、パケットの送信時刻と受信時刻との差によって求められる遅延時間の標準偏差を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)刊行物5に記載された発明において、トラフィック観測データを収集して解析し、ネットワーク品質の解析結果およびフロー毎の経路情報を基に、フロー毎に最適経路を探索し、経路設定を行うという動作は、ネットワークノード装置ではなく中央局が実施しているが、サーバの処理を適宜クライアントに分散して処理させる技術は周知である。

2 平成28年8月3日付け当審拒絶理由の判断
[理由1]
(1)請求項1および5に記載された揺らぎ推定値の決定方法について
平成28年10月3日付けの手続補正により、請求項1の「前記遅延測定フレームの伝送遅延の揺らぎを所定時間平均して得られる揺らぎ推定値を決定する」との記載は、「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係に基づいて揺らぎ推定値を決定する」と補正され、補正前の「前記遅延測定フレームの伝送遅延の揺らぎ」との不明確な記載が削除され、揺らぎ推定値が「遅延測定フレームを交換した時刻と遅延測定フレームの遅延時間との関係に基づいて」決定されるものであることが明確となった。
請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2-4に記載された発明および請求項5に記載された発明についても同様である。

(2)請求項3に記載された揺らぎ推定値の決定方法について
平成28年10月3日付けの手続補正により、請求項3の「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間と関係を一次近似の近似誤差に応じて揺らぎ推定値を決定する」との記載は、「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係を一次近似した近似直線と、前記遅延時間との近似誤差に応じて揺らぎ推定値を決定する」と、言葉の係り受けが自然なものであって、日本語として明確な記載に補正され、「揺らぎ推定値を決定する」ことに関する請求項3と請求項1の記載の関係も明確となった。
請求項3を引用する請求項4に記載された発明についても同様である。

(3)小括
上記「(1)」および「(2)」で述べたとおり、平成28年10月3日付けの手続補正により、当審拒絶理由の[理由1]は解消した。
そうすると、もはや、平成28年8月3日付け当審拒絶理由の[理由1]によって本願を拒絶することはできない。

[理由2]
(1)刊行物の記載事項
平成28年8月3日付け当審拒絶理由で引用された刊行物5および刊行物1の記載事項は、上記「第3」の「2(1)」の「オ 刊行物5(特開2011-82858号公報)の記載事項」および「ア 刊行物1(国際公開第2009/034984号)の記載事項」に記載したとおりである。

ア 刊行物7(特開2009-55327号公報)の記載事項
刊行物7には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【0002】
従来、インターネット等のネットワークシステムにおいては、端点間のQoS(すなわち、端末間や、サーバと端末との間における遅延及びジッター等)に関する通信品質を保証することは困難であった。しかし、ITU-TやETSIにおいて標準化がすすめられているNGN(Next Generation Networks)によると、インターネット・プロトコルに基づく新しいネットワークにおいて、端点間のQoSを保証することが目標とされている。」

(b)「【0137】
REPメッセージ461は図3Cに示す形式であるが、このなかでQoS Measured328は図2Cに示す形式をし、QoSに関する測定値を表している。QoSに関する測定値は、主に、遅延時間、ジッター及びパケット損失率があり、各々、以下のように求めることができる。」

(c)「【0139】
すなわち、RTCPのSR(Sender Report)パケットを受信する毎に、SRパケットに含まれる送信時刻を記録する。RTPパケットが到着する毎に、RTPパケットに含まれるタイムスタンプと前述したSRパケットの送信時刻とから、RTPパケットの送信時刻を求める。そして、RTPパケットの送信時刻と受信時刻との差を求めることによって、当該パケットの遅延時間を求めることができる。」

(d)「【0141】
第2に、ジッター226は、前述したように求められた遅延時間を蓄積し、蓄積された遅延時間の標準偏差を計算することによって得ることができる。但し、この方法によって、ジッターを精度よく求めることができない場合は、以下の方法を用いることができる。」

(ア)刊行物7の「端点間のQoS(すなわち、端末間・・・(略)・・・における遅延及びジッター等)」(【0002】)、「QoSに関する測定値は、・・・(略)・・・遅延時間、ジッター・・・(略)・・・があり、各々、以下のように求めることができる」(【0137】)、「RTPパケットの送信時刻と受信時刻との差を求めることによって、当該パケットの遅延時間を求めることができる」(【0139】)、「ジッター226は、・・・(略)・・・遅延時間の標準偏差を計算することによって得ることができる」(【0141】)との記載より、刊行物7には、「RTPパケットの送信時刻と受信時刻との差を求めることによって、当該パケットの遅延時間を求め、遅延時間の標準偏差を計算することによって、端末間のQoSに関する測定値であるジッターを得る」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物7に記載された事項と上記(ア)とを総合すると、刊行物7には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物7に記載の技術」という。)。

「RTPパケットの送信時刻と受信時刻との差を求めることによって、当該パケットの遅延時間を求め、遅延時間の標準偏差を計算することによって端点間のQoSに関する測定値であるジッターを得る技術。」

イ 刊行物8(藤川 冬樹,杉浦 秀昌、電力用通信網への高精度時刻同期方式(IEEE1588)の適用と基礎評価、映像情報メディア学会技術報告、日本、2010.11.11発行、Vol.34,No.46、第73頁?第78頁)の記載事項
刊行物8には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(a)「PTPとは、インターネット上でコンピュータやルータなどのネットワーク機器同士で時刻同期をとる技術である。」(第73頁左欄第25行?右欄第1行)

(b)「電力用通信網のアプリケーション(系統監視、事故除去、系統安定化など、以下AP)」(第74頁左欄第12行および第13行)

(c)「VLAN機能により、PTPパケットとAPデータを論理的かつ物理回線も分離する。これにより、PTPパケットとAPデータの衝突が避けられ、同期精度の向上が期待できる。」(第77頁左欄第15行?第18行)

(ア)「PTPとは、インターネット上でコンピュータやルータなどのネットワーク機器同士で時刻同期をとる技術である」(第73頁左欄第25行?右欄第1行)、「電力用通信網のアプリケーション(系統監視、事故除去、系統安定化など、以下AP)」(第74頁左欄第12行および第13行)との記載を踏まえれば、刊行物8の「VLAN機能により、PTPパケットとAPデータを論理的かつ物理回線も分離する。これにより、PTPパケットとAPデータの衝突が避けられ、同期精度の向上が期待できる」(第77頁左欄第15行?第18行)との記載における「PTPパケット」および「APデータ」とは、「ネットワーク機器同士で時刻同期をとるためのPTPパケット」および「電力用通信網のアプリケーションのAPデータ」であるといえる。

したがって、上記の刊行物8に記載された事項と上記(ア)とを総合すると、刊行物8には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物8に記載の技術」という。)。

「VLAN機能により、ネットワーク機器同士で時刻同期をとるためのPTPパケットと電力用通信網のアプリケーションのAPデータを論理的かつ物理回線も分離することにより、PTPパケットとAPデータの衝突が避けられ、同期精度の向上が期待できる技術。」

(2)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。

ア 同期方法について対比すると、引用発明2の「時刻情報配信装置」、「ネットワークノード装置」、「時刻情報が書き込まれたパケット」および「クライアント時刻発生部」は、それぞれ、本願発明の「基準時刻を測定するノード装置」、「フレーム伝送装置」、「遅延測定フレーム」および「時計」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、引用発明2の「時刻情報配信装置が、時刻情報が書き込まれたパケットを複数の上記ネットワークノード装置に配信するステップを実行し、複数の上記ネットワークノード装置が、上記時刻情報配信装置から時刻情報が書き込まれたパケットを配信されて複数の上記ネットワークノード装置の計測装置のクライアント時刻発生部間の時刻を同期するステップ」は、本願発明の「フレーム伝送装置の同期方法であって、基準時刻を測定するノード装置との間で交換される遅延測定フレームの伝送経路を、伝送網で定められた複数の経路の間で切り替え、」また、「遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させること」と、「フレーム伝送装置の同期方法であって、基準時刻を測定するノード装置との間で交換される遅延測定フレーム」を有し、「遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させる」ことを有する点で共通する。

ウ 経路の切り替えおよび選択方法について対比する。
a 引用発明2の「経路」および「特定のフローの取り得る経路」は、それぞれ、本願発明の「経路」および「伝送網で定められた複数の経路」に相当する。

b 上記aを踏まえると、引用発明2の「ネットワークの遅延、遅延ジッタに対して高品質を要求する特定のフローの設定に際し、特定のフローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量を算出」することと、本願発明の「伝送網で定められた複数の経路の間で切り替え、前記複数の経路のそれぞれにおいて前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係に基づいて揺らぎ推定値を算出」することとは、「伝送網で定められた複数の経路のそれぞれにおいて所定の値を算出」する点で共通する。

d 上記aを踏まえると、引用発明2の「ネットワークの遅延、遅延ジッタに対して高品質を要求する特定のフローの設定に際し、特定のフローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量を算出し、最適経路として当該遅延ジッタ量が最少となる経路を選択し、該当するネットワークノード装置に対して経路設定を行う」ことと、本願発明の「前記複数の経路から選択される前記揺らぎ推定値が最も小さい経路」を備えることとは、「前記複数の経路から選択される前記所定の値が最も小さい経路」を備える点で共通する。

エ すると、本願発明と引用発明2とは、次の一致点および相違点を有する。

<一致点>
「フレーム伝送装置の同期方法であって、
基準時刻を測定するノード装置との間で交換される遅延測定フレームを有し、
伝送網で定められた複数の経路のそれぞれにおいて所定の値を算出し、
前記複数の経路から選択される前記所定の値が最も小さい経路を備え、遅延測定フレームに従って、前記フレーム伝送装置の時計を前記基準時刻に同期させることを特徴とする同期方法。」

<相違点>
(相違点2-1)
本願発明は、「遅延測定フレームの伝送経路を、伝送網で定められた複数の経路の間で切り替え」るのに対して、引用発明2は、その点が特定されていない点。

(相違点2-2)
本願発明は、前記複数の経路のそれぞれにおいて「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係に基づいて揺らぎ推定値」を算出するのに対し、引用発明2は、その点が特定されていない点。

(相違点2-3)
本願発明は、「前記揺らぎ推定値が最も小さい経路で交換される遅延測定フレーム」に従って、同期させるのに対し、引用発明2は、その点が特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点2-2について検討する。

イ 引用発明2は、特定のフローの取り得る経路におけるフローの遅延ジッタ量、すなわち「経路の遅延ジッタ」を算出するものであるものの、刊行物5には、その具体的な算出方法は明記されていない。
そこで、引用発明2の「経路の遅延ジッタ量」の算出方法として、公知または周知の「経路の遅延ジッタ量」の算出方法を採用し、相違点2-2に係る本願発明の構成とすることを検討するに、引用発明1、刊行物8に記載の技術は、いずれも、「前記複数の経路のそれぞれ」において「前記遅延測定フレームを交換した時刻と前記遅延測定フレームの遅延時間との関係」に基づいて揺らぎ推定値を算出する点を開示するものではなく、また、刊行物7に記載の技術は、「遅延時間の標準偏差」を計算して、端末間やサーバと端末との間のQoSに関する測定値であるジッター、すなわち「経路のジッター」を得るものであるが、遅延時間のみに基づくものに過ぎず、本願発明のように「遅延測定フレームを交換した時刻と遅延測定フレームの遅延時間との関係」に基づいて揺らぎ推定値を算出するものとは異なり、さらに、上記の点は周知技術ともいえない。
よって、相違点2-2に係る本願発明の構成は、当業者が引用発明2、引用発明1、刊行物7および8に記載された事項および周知技術から、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ したがって、相違点2-1および2-3について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明2、引用発明1、刊行物7および8に記載された事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(4)小括
上記「(3)判断」において示したとおり、本願発明は、当業者が引用発明2、引用発明1、刊行物7および8に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項1に係る発明は、本願発明を「物の発明」である「フレーム伝送装置」として記載し、「時計部」、「経路制御部」、「揺らぎ推定部」および「時刻同期部」という構成を追加するとともに、「算出」を「決定」としたものであって、本願の請求項1に係る発明は、本願発明をさらに限定したものといえるから、本願の請求項1に係る発明は、当業者が引用発明2、引用発明1、刊行物7および8に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願の請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明および本願の請求項1に係る発明と同様に、当業者が引用発明2、引用発明1、刊行物7および8に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
そうすると、もはや、平成28年8月3日付け当審拒絶理由の[理由2]によって本願を拒絶することはできない。


第5 平成28年12月20日付け当審拒絶理由について
1 平成28年12月20日付け当審拒絶理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項 5
・備考
請求項5の「前記揺らぎ推定値」との記載について、「推定値」との語は前記されているものの、当該記載に対応する「揺らぎ推定値」との語は前記されていない(平成28年10月3日の手続補正前の請求項5の記載を踏まえれば、請求項5の「推定値を算出し」との記載は「揺らぎ推定値を算出し」の誤記ではないか。)。

2 平成28年12月20日付け当審拒絶理由の判断
平成29年2月16日付けの手続補正で、請求項5の「推定値を算出し」との記載は「揺らぎ推定値を算出し」に補正され、以下に続く請求項5の「前記揺らぎ推定値」に対応する「前記」の内容が記載された。このことにより、補正後の請求項5に係る発明は明確になった。

そうすると、もはや、平成28年12月20日付け当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由および当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-18 
出願番号 特願2011-248517(P2011-248517)
審決分類 P 1 8・ 537- WYF (G04G)
P 1 8・ 121- WYF (G04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤田 憲二  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 酒井 伸芳
須原 宏光
発明の名称 フレーム伝送装置及び同期方法  
代理人 伊坪 公一  
代理人 河野 努  
代理人 宮本 哲夫  
代理人 青木 篤  

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