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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
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管理番号 | 1327467 |
審判番号 | 不服2015-10376 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-03 |
確定日 | 2017-04-20 |
事件の表示 | 特願2012-548862「被保護対象物質の保護構造体、被保護対象物質の保護方法、酵素反応方法、反応産物の製造方法、酵素反応の速度を調節する方法、及び酵素物質の使用キット」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日国際公開、WO2012/081722〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成23年12月19日(優先権主張 2010年12月17日 日本)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年7月10日付け 拒絶理由通知書 平成26年9月11日 意見書・手続補正書 平成27年2月25日付け 拒絶査定 平成27年6月3日 審判請求書・手続補正書 平成27年7月14日 手続補正書(方式) 平成27年8月21日付け 前置報告書 平成28年5月25日付け 拒絶理由通知 平成28年7月29日 意見書・手続補正書 平成28年9月9日付け 拒絶理由通知 平成28年12月12日 意見書・手続補正書 平成28年12月13日 手続補足書(参考資料) 第2.本願発明の認定 本願の請求項1?7に係る発明は、平成28年12月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 水分散性の被保護対象物質を含有する不連続相を構成する水相と、この水相が分散された油相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体、又は糖ポリマー粒子と、からなり、前記自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体、又は前記糖ポリマー粒子が油水界面に介在し、前記油相が最外相であるW/Oエマルション構造からなる被保護対象物質の保護構造体。」 第3.平成28年9月9日付け拒絶理由 平成28年9月9日付け拒絶理由は、本願の請求項1?5に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(A.理由1及びB.理由1)という理由を含むものである。 第4.当審の判断 1.引用例1?5 (1)引用例1 本願優先日前に頒布された特許第3855203号公報(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。 なお、下線は当審が付与したものである。以下、同様である。 (1-1)「【請求項1 】 自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されて油性基材表面に付着する閉鎖小胞体を主成分とし、前記閉鎖小胞体の平均粒子径がエマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲5?20wt%において200nm?800nmであることを特徴とする乳化分散剤。・・・(略)・・・・ 【請求項7 】 微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1 又は2 以上の単粒子化されたバイオポリマーを主成分とし、前記単粒子の平均粒子径がエマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲0.04?20wt% において50nm?800nmであることを特徴とする乳化分散剤。」(特許請求の範囲) (1-2)「従来の界面活性剤を用いた乳化法では、油と水との界面に界面活性剤が吸着し、その界面エネルギーを低下させることを乳化・分散法の基本としていたので、その界面張力を低下させるために多量の乳化剤を必要とするものであった。これに対して、本発明者らは、新規な乳化技術を開発するために鋭意研究を重ねた結果、油/両親媒性化合物/水系の中で独立相として存在する両親媒性化合物のナノ粒子をファンデルワールス力によって油性基剤表面に付着させることで乳化を行なう三相乳化法を見出し、また、このような乳化法によれば、油性成分の所要HLB値によらず、油性成分/水界面の界面張力の大きさが乳化剤のナノ粒子の付着に重要であることを知見した。さらに、本発明者らは、この三相乳化エマルションは通常のO/W型やW/O 型などの二相乳化エマルションに比べて非常に高い安定性を示すことを見い出し、これらの知見に基づき本発明を完成したものである。」(段落【0006】) (1-3)「ここで、閉鎖小胞体は、平均粒子径を、エマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲5?20wt% において200nm?800nmであることが好ましい。また、上述のような自己組織能を有する両親媒性物質としては、例えば、下記の一般式(化1) で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体のうちエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が5?15である誘導体や、一般式(化2)で表されるようなジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用するとよい。また、リン脂質並びにリン脂質誘導体から作成される粒子を用いてもよい。」(段落【0008】) (1-4)「ここで、バイオポリマーとしては、微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1 又は2 以上のものが考えられる。例えば微生物産生の多糖類として、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からくつかの糖を構成要素として微生物が産生するものがあげられる。特定の構造の多糖類を産生する幾つかの微生物種が知られているが、いずれの多糖類でもまた混合物になっていてもよい。 更に 生物由来の澱粉としては、馬鈴薯、もち米粉、タピオカ粉、昆布粉等があるが、これに限定されるものではなく単体もしくは複合構造で両親媒性を示すものであればよい。」(段落【0014】?【0015】) (1-5)「そこで、本件においては、図1(b)に示されるように、油や水の粒子に対して乳化剤相のナノ粒子を付着させ、これにより、水相? 乳化分散剤相? 油相の三相構造を形成し、従来の界面活性剤と異なって相溶性による界面エネルギーの低下をさせることなく、図2(b)に示されるように、熱衝突による合一を起こりにくくして乳化物の長期安定化を図っている。また、このような機構に基づき、少量の乳化分散剤によってエマルションを形成することが可能な新規な乳化法( 三相乳化法)を採用するようにしている。 このような三相乳化を実現するための乳化分散剤としては、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されて油性基材表面に付着する閉鎖小胞体(ベシクル)を主成分とする乳化分散剤や、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤が考えられている。」(段落【0026】?【0027】) (1-6)「硬化ひまし油の誘導体としては、エチレンオキシドの平均付加モル数(E)が5?15である誘導体が使用可能である。エチレンオキシドの平均付加モル数を5?20に変動させた例を表1に示す。5?15の範囲は安定しているが、20では短時間のエマルション形成は可能だが、安定に保つことができない。」(段落【0033】) (1-7)「【表1】 」(段落【0034】) (1-8)「尚、上述した乳化分散剤を製造する方法としては、自己組織能を有する両親媒性物質を閉鎖小胞体に分散させる(ベシクル化する)工程、あるいは単粒子化させる工程(ステップI)が必要である。これは、使用する材料によってさまざまな工夫が必要であるが、単粒子化又はベシクル化するためには、図6に示されるように、両親媒性物質を水分散及び/又は水膨潤させる工程(ステップI-1)、80℃程度に加温調整する工程(ステップI-2)、水素結合を破壊するために尿素などの切断剤を添加する工程(ステップI-3)、pHを5以下迄に調整する工程(ステップI-4)のいずれか、又は、組み合わせによって達成される。特に、ひまし油誘導体においては、60℃以下の水に、攪拌しながら滴下することで達成される。その後、所定の温度以下(60℃以下)の水中に滴下して設定濃度に調整する工程(ステップII)、粒子を微細化するために攪拌する工程(ステップIII)を経て乳化分散剤を生成する。攪拌は、高速攪拌(?16000rpm)であることが望ましいが、実験装置であれば1,200rpmぐらい迄の攪拌で短時間に処理できる。また、水中滴下と粒子の微細化の工程は、同時に実施した方がよい。バイオポリマーなどは網目構造を壊して単粒子化させるために工程が複雑になるが、これらはそれぞれの実施例の中で個別に記載する(実施例6、実施例8、実施例9、実施例10)。」(段落【0042】?【0043】) (1-9)実施例1?実施例10(段落【0044】?【0082】) (1-10)「さらにまた、上述した三相エマルションは、1)イクラ状の巨大油滴を安定に形成することも可能であり、2)クリーミングは比重の違いによる偏りで、連続の外相を取り除いても乳化状態に変化はなかった。また、3)水相または油相に添加物を加えても三相乳化型エマルションを形成することが可能であった。」(段落【0083】) (1-11)「【産業上の利用可能性】 香粧品、医薬品、食品、農薬、ペイント、燃料エマルション、土壌改良剤など機能性油性基剤や顆粒微粒子を乳化分散させた乳化製剤ならびに分散液などを利用する用途にも適用可能である。」(段落【0084】) (2)引用例2 本願優先日前に頒布された特開2010-110685号公報(以下、「引用例2」という)には、混合エマルション組成物において、三相乳化法によりエマルションを形成すること(段落【0025】?【0043】)、エマルジョンの一番内側の水相に存在させるものとして「酵素」の例(段落【0020】、【0049】?【0052】)が記載されている。 (3)引用例3 本願優先日前に頒布された特開2001-179077号公報(以下、「引用例3」という)には、多相エマルション(段落【0011】?【0012】)が記載されており、当該多相エマルションが医薬品、化粧品、食品等の分野で用いることができること、着色剤、香料等が多相エマルションの用途、形態等に応じて適宜選択され、内水相、油相又は外水相に適宜配合される。或いは、予め多相エマルションを調製し、医薬品、化粧品、食品等に該エマルションを配合できること(段落【0039】?【0040】)、その実施例(段落【0068】?【0083】)及び図1が記載されている。 (4)引用例4 本願優先日前に頒布された特開平10-158152号公報(以下、「引用例4」という)には、W/O型エマルション製剤をさらに水相(外水相)中に分散させたW/O/Wエマルション(請求項1,5、段落【0019】)であって、内水相に抗がん剤含有水溶液を有するものが記載されている(特許請求の範囲の請求項)。 (5)引用例5 本願優先日前に頒布された特公昭58-006530号公報(以下、「引用例5」という)には、水相を分散乳化させた複合エマルション(W/O型エマルションを、分散質として、水相を分散媒としたW/O/Wエマルション(4頁8欄5行?37行))、油成分中に分散される水相に水溶性成分(アスコルビン酸、尿素、香料、着色料等)、少糖類を配合すること(3頁5欄18行?3頁6欄15行)、その実施例(5頁10欄3行?6頁12欄16行)が記載されている。 2.引用発明1及び引用発明2 (1)引用発明1(両親媒性物質の場合) 引用例1には、(1-1)に請求項1、(1-5)に「油や水の粒子に対して乳化剤相のナノ粒子を付着させ、これにより、水相? 乳化分散剤相? 油相の三相構造を形成し、従来の界面活性剤と異なって相溶性による界面エネルギーの低下をさせることなく、図2(b)に示されるように、熱衝突による合一を起こりにくくして乳化物の長期安定化を図っている」こと、(1-7)に表1におけるW/O型エマルション、及び、(1-9)の実施例1におけるW/O型エマルションがそれぞれ記載されている。 これらの記載に基づくと、引用例1には、「自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されて油性基材表面に付着する閉鎖小胞体を主成分とし、前記閉鎖小胞体の平均粒子径がエマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲5?20wt%において200nm?800nmであることを特徴とする乳化分散剤と、油相及び水相を有し、水相?乳化分散剤相?油相の三相構造を形成したW/O型エマルション」の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されているといえる。 (2)引用発明2(糖ポリマーの場合) 引用例1には、(1-1)に請求項7、(1-5)に「油や水の粒子に対して乳化剤相のナノ粒子を付着させ、これにより、水相? 乳化分散剤相? 油相の三相構造を形成し、従来の界面活性剤と異なって相溶性による界面エネルギーの低下をさせることなく、図2(b)に示されるように、熱衝突による合一を起こりにくくして乳化物の長期安定化を図っている」こと、(1-7)に表1におけるW/O型エマルション、及び、(1-9)の実施例1、6、8-10におけるW/O型エマルションがそれぞれ記載されている。 これらの記載に基づくと、引用例1には、「微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1 又は2 以上の単粒子化されたバイオポリマーを主成分とし、前記単粒子の平均粒子径がエマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲0.04?20wt% において50nm?800nmであることを特徴とする乳化分散剤と、油相及び水相を有し、水相?乳化分散剤相?油相の三相構造を形成したW/O型エマルション」の発明(以下、「引用発明2」という)が記載されているといえる。 3.対比 (1)本願発明と引用発明1の対比について 引用発明1の「自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されて油性基材表面に付着する閉鎖小胞体を主成分とし、前記閉鎖小胞体の平均粒子径がエマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲5?20wt%において200nm?800nmであることを特徴とする乳化分散剤」は、本願発明の「自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体」に相当し、引用発明1の「水相?乳化分散剤相?油相の三相構造を形成した」は、本願発明の「前記自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体が油水界面に介在し、」に相当する。 また、引用発明1は、W/O型エマルションであるから、水相が不連続に油相に分散された構造であり、その最外相は油相である。このことは、本願発明の「不連続相を構成する水相」と「この水相が分散された油相」及び「前記油相が最外相である」にそれぞれ相当する。 本願発明と引用発明1とを対比すると、両者は、「不連続相を構成する水相と、この水相が分散された油相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体と、からなり、前記自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体が油水界面に介在し、前記油相が最外相であるW/Oエマルション構造からなる」エマルションである点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本願発明の水相は、「水分散性の被保護対象物質を含有する」ものであるのに対して、引用発明1は、含有するものが特定されていない点。 相違点2:本願発明は、エマルションが「被保護対象物質の保護構造体」であるのに対して、引用発明1は、特定されていない点。 (2)本願発明と引用発明2の対比について 引用発明2の「微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1 又は2 以上の単粒子化されたバイオポリマーを主成分とし、前記単粒子の平均粒子径がエマルション形成時に8nm?500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲0.04?20wt% において50nm?800nmであることを特徴とする乳化分散剤」は、本願発明の「糖ポリマー粒子」に相当し、引用発明2の「水相?乳化分散剤相?油相の三相構造を形成した」は、本願発明の「前記糖ポリマー粒子が油水界面に介在し」に相当する。 また、引用発明2は、W/O型エマルションであるから、水相が不連続に油相に分散された構造であり、その最外相は油相である。このことは、本願発明の「不連続相を構成する水相」と「この水相が分散された油相」及び「前記油相が最外相である」にそれぞれ相当する。 本願発明と引用発明2とを対比すると、両者は、「不連続相を構成する水相と、この水相が分散された油相と、糖ポリマー粒子とからなり、前記糖ポリマー粒子が油水界面に介在し、前記油相が最外相であるW/Oエマルション構造からなる」エマルションである点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3:本願発明の水相は、「水分散性の被保護対象物質を含有する」ものであるのに対して、引用発明2は、含有するものが特定されていない点。 相違点4:本願発明は、エマルションが「被保護対象物質の保護構造体」であるのに対して、引用発明2は、特定されていない点。 4.当審の判断 (1)相違点1?2について 引用例1の上記(1-10)には、「3)水相または油相に添加物を加えても三相乳化型エマルションを形成することが可能であった」ことが記載されており、同(1-11)には、【産業上の利用可能性】として「香粧品、医薬品、食品、農薬、ペイント、燃料エマルション、土壌改良剤など機能性油性基剤や顆粒微粒子を乳化分散させた乳化製剤ならびに分散液などを利用する用途にも適用可能である」ことも記載されている。 これらのことから、引用発明1のW/O型エマルションの水相、油相のいずれか適切な相に、香粧品、医薬品、食品、農薬等の用途に必要な成分を含有させることを当業者が十分理解できると認められる。 さらに、医薬品や化粧品、食品分野などのエマルションを用いる技術分野において、W/O型エマルションの分散質となる水相に、医薬品や酵素、安定剤、染料等の有効成分を含有させることは、例えば、引用例2?5に記載されているとおり、よく知られた技術常識である。 そうすると、引用発明1において、W/O型エマルションの水相に、これら医薬品や酵素等の有効成分を含有させることは、当業者が容易になし得ることである。 そして、上記医薬品や酵素等の有効成分は、本願発明の「被保護対象物質」に相当するものである。 ここで、エマルションとは、液体の分散媒中に液体の分散質を分散させたものであり、一般に、界面活性剤は、分散媒と分散質の界面に存在して、エマルションを安定化する機能を有するが、この安定化は界面活性剤による界面の保護機能によることは当業者に明らかである。 そして、引用発明1の「自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質」は、界面活性剤と同様に閉鎖小胞体内の水相を保護する機能を有するものと認められる。 そうすると、水相中の有効成分は、「保護」されていると認められるから、有効成分を「被保護対象物質」と呼ぶことに格別の困難性はない。 したがって、上記相違点1は、当業者が容易になし得ることである。 また、有効成分を含有させた引用発明1のエマルション構造について、「被保護対象物質の保護構造体」と表現することにも格別の困難性はないから、相違点2も、相違点1と同様に当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明の効果は、引用例1?5の記載から当業者が予測できる範囲のものであり、何ら格別顕著な効果を奏するものではない。 したがって、本願発明は、「自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質で形成された閉鎖小胞体」を「W/Oエマルション構造からなる被保護対象物質の保護構造体」に介在させた場合、引用例1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。 (2)相違点3?4について 上記相違点3及び相違点4は、上記相違点1及び相違点2とそれぞれ同じであるから、相違点3及び相違点4についても、上記4.(1)で検討したとおりである。 したがって、本願発明は、「糖ポリマー粒子」を「W/Oエマルション構造からなる被保護対象物質の保護構造体」に介在させた場合であっても、引用例1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。 5.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成28年12月12日付け意見書及び同年同月13日付けの参考資料を提示して、本願発明において、三相乳化を用いた定法により調製したW/O/Wエマルションの顕微鏡観察した結果、内水相は外水相の変化に影響されないことを示し、本願発明は、引用例1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない旨主張している。 しかし、上記4.で述べたとおり、「両親媒性物質」によって「閉鎖小胞体」が保護されるから、参考資料の結果は、当業者が予測し得るものである。 第5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-02-09 |
結審通知日 | 2017-02-14 |
審決日 | 2017-03-03 |
出願番号 | 特願2012-548862(P2012-548862) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森井 文緒 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
佐々木 秀次 高堀 栄二 |
発明の名称 | 被保護対象物質の保護構造体、被保護対象物質の保護方法、酵素反応方法、反応産物の製造方法、酵素反応の速度を調節する方法、及び酵素物質の使用キット |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |