• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C12M
管理番号 1327472
審判番号 不服2015-21528  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-03 
確定日 2017-04-20 
事件の表示 特願2013-534925「組織の作成のための、デバイス、システム、および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月26日国際公開、WO2012/054195、平成25年11月28日国内公表、特表2013-542728〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成23年9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年10月21日 米国)を国際出願日とする特願2013-534925号であって,手続の経緯は次のとおりである。

平成25年 5月31日 翻訳文提出
平成26年11月19日付け 拒絶理由通知書
平成27年 3月24日 意見書・手続補正書
平成27年 7月28日付け 拒絶査定
平成27年12月 3日 審判請求書,手続補正書
平成28年 1月14日 手続補正書(方式)

第2 平成27年12月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[結論]

平成27年12月3日にされた手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

(1)補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
平成27年12月3日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおり補正された。(下線部は,本件補正において審判請求人が付した補正箇所である。)

「【請求項1】
バイオプリンターであって、該バイオプリンターは、
a. 1つ以上のプリンターヘッドを含み、ここで、プリンターヘッドは、少なくとも1つのカートリッジを受け保持するための手段を含み、
前記カートリッジは、少なくとも1つの分注オリフィスと、コンテンツであって、3次元で1又は2以上のプリンターヘッドを位置づけ、前記少なくとも1つのカートリッジのコンテンツの押し出しを調節するためにコンピュータモジュールからなる群から選択されるコンピュータプロセッサをプログラムによる圧力印加を介して押し出されるコンテンツとを含み、
前記コンテンツはバイオインクを含み、
該バイオプリンターはさらに、
b. 複雑な構造を作成することができるように前記バイオインク及び/又は前記支持物質を所定の反復可能な精度で分注し、これによって前記バイオインクが、前記少なくとも1つのカートリッジの押し出されたコンテンツを受け取るための受け面及び/又は以前に堆積した物質に対して堆積されるようにするため、かつカートリッジの除去及び挿入による組織構成物に対する前記1つ以上のプリンターヘッドの位置の変化に対処するために、カートリッジ又は前記コンピュータプロセッサを介してレーザー及びレーザーセンサーを利用する前記少なくとも1つの分注オリフィスの空間内の位置を較正するための手段、および
c. 少なくとも1つのカートリッジのコンテンツを押し出すための手段を含むことを特徴とするバイオプリンター。」

(2)補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の,平成27年3月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
バイオプリンターであって、該バイオプリンターは、
a. 1つ以上のプリンターヘッドを含み、ここで、プリンターヘッドは、少なくとも1つのカートリッジを受け保持するための手段を含み、および前記カートリッジは、
i. バイオインク、および
ii. 支持物質、の1つ以上から選択されるコンテンツを含み、該バイオプリンターはさらに、
b. 複雑な構造を作成することができるように前記バイオインク及び/又は前記支持物質を反復可能な精度で分注し、これによって前記バイオインクが受け面及び/又は以前に堆積した物質に対して堆積されるようにするため、かつカートリッジの除去及び挿入による組織構成物に対する前記1つ以上のプリンターヘッドの位置の変化に対処するために、カートリッジの位置を較正するための手段、および
c. 少なくとも1つのカートリッジのコンテンツを分注するための手段を含むことを特徴とするバイオプリンター。」

(3)補正による特許請求の範囲の請求項1の変更箇所
上記(1)及び(2)に示した本件補正の前後の特許請求の範囲の請求項1の記載を比較すると,本件補正による変更点は次のとおりである。

変更点(a):「少なくとも1つの分注オリフィスと、コンテンツであって
、3次元で1又は2以上のプリンターヘッドを位置づけ、前記少なくとも1つのカートリッジのコンテンツの押し出しを調節するためにコンピュータモジュールからなる群から選択されるコンピュータプロセッサをプログラムによる圧力印加を介して押し出されるコンテンツとを含み、」との記載を追加。

変更点(b):「前記カートリッジは、
i. バイオインク、および
ii. 支持物質、の1つ以上から選択されるコンテンツを含み」との記載から,「前記コンテンツはバイオインクを含み」との記載への変更。

変更点(c):「所定の」との記載を追加。

変更点(d):「、前記少なくとも1つのカートリッジの押し出されたコンテンツを受け取るための」との記載を追加。

変更点(e):「カートリッジの位置を較正するための手段」との記載から,「カートリッジ又は前記コンピュータプロセッサを介してレーザー及びレーザーセンサーを利用する前記少なくとも1つの分注オリフィスの空間内の位置を較正するための手段」との記載への変更。

変更点(f):「分注する」との記載から,「押し出す」との記載への変更。

2 請求項1の補正の適否

(1)「コンピュータプロセッサ」に関する記載
変更点(a)の「コンピュータモジュールからなる群から選択されるコンピュータプロセッサをプログラムによる圧力印加を介して押し出される」との本件補正後の記載,及び,変更点(e)の「前記コンピュータプロセッサを介してレーザー及びレーザーセンサーを利用する」との本件補正後の記載の根拠について検討すると,平成25年5月31日に提出された外国語出願の翻訳文には,そもそも,「コンピュータプロセッサ」との用語が記載されていない。
また,当該翻訳文には,「コンピュータプロセッサ」と「コンピュータモジュール」との関係についても何ら記載されておらず,当該翻訳文において,「コンピュータプロセッサ」が「コンピュータモジュールからなる群から選択される」と記載されていたと言うことはできない。
さらに,「コンピュータプロセッサをプログラムによる圧力印可を介して押し出される」ことについては,そもそも,「コンピュータプロセッサを」に対応する述語がどこに存在するのか理解することができず,日本語の文章構造が不明確であるものの,いずれにしても当該翻訳文には,「コンピュータプロセッサ」と「プログラムによる圧力印可」との関係性について記載されていない。同様に,「コンピュータプロセッサを介してレーザー及びレーザーセンサーを利用する」ことについても,当該翻訳文には,少なからず「コンピュータプロセッサ」と「レーザー及びレーザーセンサー」との関係性について記載されていない。
そして,これらの変更について,技術常識を参酌したとしても,当該翻訳文において,記載されていたに等しいと解釈できる記載も存在しない。
したがって,変更点(a)及び変更点(e)の「コンピュータプロセッサ」に関する記載については,外国語出願の翻訳文において補正の根拠となる記載は存在していない。

(2)審判請求人の主張
審判請求人は,平成27年12月3日付けの審判請求書の請求の理由を変更する平成28年1月14日付けの手続補正書(方式)において,変更点(a)の根拠が,外国語出願の翻訳文の段落【0005】,【0008】,【0010】及び【0071】に存在すること,及び,変更点(e)の根拠が翻訳文の段落【0192】に存在することの主張を行っている。
しかしながら,変更点(a)については,当該手続補正書(方式)に示されたいずれの摘記箇所を見ても,「コンピュータプロセッサ」との文言は含まれておらず,まして,「コンピュータモジュール」や「プログラムによる圧力印可」との関係性についても記載されていない。
同様に,変更点(e)についても,当該手続補正書(方式)に示された摘記箇所には,「コンピュータプロセッサ」との文言は存在しておらず,「レーザー及びレーザーセンサ」との関係性についても記載されていない。
そして,技術常識を参酌すれば記載されていたに等しいとする具体的な説明もなされていない。
したがって,審判請求人の主張は,本件補正の根拠を十分に示したと言うことはできず,これを採用することはできない。

3 まとめ

以上の検討結果を踏まえると,変更点(a)及び変更点(e)の「コンピュータプロセッサ」に関する記載については,外国語出願の翻訳文に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。
したがって,平成27年12月3日にされた手続補正は,他の変更点について検討するまでもなく,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の新規性及び進歩性

1 本願発明

平成27年12月3日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたため,本願の請求項1?9に係る発明は,平成27年3月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
バイオプリンターであって、該バイオプリンターは、
a. 1つ以上のプリンターヘッドを含み、ここで、プリンターヘッドは、少なくとも1つのカートリッジを受け保持するための手段を含み、および前記カートリッジは、
i. バイオインク、および
ii. 支持物質、の1つ以上から選択されるコンテンツを含み、該バイオプリンターはさらに、
b. 複雑な構造を作成することができるように前記バイオインク及び/又は前記支持物質を反復可能な精度で分注し、これによって前記バイオインクが受け面及び/又は以前に堆積した物質に対して堆積されるようにするため、かつカートリッジの除去及び挿入による組織構成物に対する前記1つ以上のプリンターヘッドの位置の変化に対処するために、カートリッジの位置を較正するための手段、および
c. 少なくとも1つのカートリッジのコンテンツを分注するための手段を含むことを特徴とするバイオプリンター。」

2 引用刊行物

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された米国特許出願公開第2003/0175410号明細書(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(1-a)「本開示は,立体的な生体模倣の骨格構造を構築することを目的として,選択的にバイオインク溶液を堆積させるための方法及び装置を提供する。一態様において,本開示は,バイオインク溶液の1つ以上を共に堆積させることによってそのような生体模倣の骨格構造を用意するための方法を提供する。別の一態様において,本開示は,バイオインクのパターン化された立体的な濃度勾配を生ずるようにバイオインク溶液を堆積する方法を提供する。」(段落[0008])

(1-b)「ある実施形態においては,バイオインク溶液は,生体模倣の骨格構造の製造に使用される目的で提供される。バイオインクは,本質的に生体適合性であってもよい。バイオインクは,必要に応じて,生分解性及び/または生体吸収性であってもよい。概して,バイオインクは,構造的,機能的,及び/または,治療的バイオインクとして特徴付けられる。構造的バイオインクは,他の特性のうち,機械的特性,多孔性,及び,表面積の増加をもたらす。このような構造的バイオインクの例としては,これらに限定されるものではないが,ヒドロゲル溶液,フィブリノゲン,トロンピン,キトサン,コラーゲン,アルギン酸塩,ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド),ヒアルロン酸,ポリ乳酸(PLA),ポリグリコール酸(PGA),及び,PLA-PGA共重合体がある。」(段落[0009])

(1-c)「治療的バイオインクは,生体内での生物学的効果を生ずる多くの用途,たとえば,免疫応答の調節,創傷治癒の促進,細胞増殖の促進,細胞分化の促進,血管新生と血管透過性の促進等の用途において機能することができる。治療的バイオインクの例としては,限定されないが,成長因子,サイトカイン,ホルモンを含む,細胞応答を誘発する薬剤を含む。治療用バイオインクの他の例としては,限定されないが,神経栄養因子,小分子,シグナル伝達分子,抗体,抗生物質,鎮痛剤,抗毒素,核酸,及び,組織前駆細胞がある。」(段落[0011])

(1-d)「本明細書に開示される固体の自由形状製作(SFF)の方法と装置は,コンピュータ制御された微小分注装置を用いて生体模倣構造を製造するために,バイオインクを使用してもよい。生体適合性または生分解性である任意の材料が,本開示によるバイオインクとしての使用に適している。概して,バイオインクは,構造的,機能的または治療的として特徴付けることができる。構造的バイオインクは,生体模倣構造の立体的な足場を形成することができる。生体模倣足場の特徴(例えば,pH,多孔性,表面接着性等)を変更,維持または向上するバイオインクは,機能的として特徴付けられる。治療的バイオインクは,生体内での生物学的効果を生ずることができる(例えば,細胞分裂,遊走,アポトーシスの刺激,免疫反応の刺激または抑制,抗細菌活性,抗毒素,鎮痛剤等)。」(段落[0081])

(1-e)「さらに別の実施態様においては,治療的バイオインクは細胞であってもよい。」(段落[0127])

(1-f)「第1図は,表面上にバイオインクを分注するための装置の例示的な実施態様を示している。この例示的な装置10は,第1のバイオインク源14に流体接続され,第1のバイオインクのある量を分注するように設計された第1の微小分注装置12,及び,第2のバイオインク源18に流体接続され,第2のバイオインクのある量を分注するように設計された第2の微小分注装置16を含む。可動ステージ20は,第1の微小分注装置12と第2の微小分注装置16を支持している。例示的な実施態様において,この可動ステージ20は,第1の微小分注装置12と第2の微小分注装置16を表面22に対して相対的に移動させるように設計されている。作動中において,ステージ20が,第1の微小分注装置12と第2の微小分注装置16を表面22に対して相対的に移動させ,表面22の多数の分注箇所に選択的に第1のバイオインクのある量と第2のバイオインクのある量を分注することもできる。」(段落[0137])

(1-g)「

」(第1図)

(1-h)「第1の微小分注装置12と第2の微小分注装置16は少量の液体を分注するのに適した任意の装置であってよい。例示的な微小分注装置は,微小分注電磁弁,例えばドロップオンデマンド型のピエゾ電子インクジェットプリントヘッド等のインクジェットプリントヘッド,精密シリンジポンプを含むことができる。適切な微小分注弁は,コネチカット州ウェストブルックのLee Companyから入手可能であり,適切なピエゾ電子ヘッドは,テキサス州プラノのMicrofab, Inc.から入手可能である。代替手段として,カリフォルニア州サンノゼのInk Jet Technology Inc.から入手可能なModel LT-8110インクジェットプリントヘッド等,64群のジェットアレイのようなインクジェットプリントのアレイを用いることもできる。」(段落[0139])

(1-i)「第1図に示される例示的な実施態様において,第1の微小分注装置12と第2の微小分注装置16は,それぞれ,その微小分注装置に近接して位置する各バイオインク源14,18に流体接合されている。この例示的な実施態様における各バイオインク源14,18は,流体を保持するのに適したリザーバまたは他の容器であってよい。各バイオインク源14,18は,バイオインクを供給するため,それぞれの微小分注装置に対してパイプや導管によって流体接合されている。バイオインクはバイオインク源から微小分注装置まで重力によって供給されてよく,代替的に,圧縮気体またはシリンジのようなポンプ装置を含む,流体移動の技術分野において公知の他の機構によって,バイオインクを移動させてもよい。」(段落[0140])

(1-j)「可動ステージ20は,第1の微小分注装置12と第2の微小分注装置16がX軸,Y軸及びZ軸に沿って表面と相対的に移動することを許容するように,電子的及び/または手動で制御可能なX-Y-Zステージのシステムを含んでもよい。例えば,Xステージ26はX軸に沿って微小分注装置を移動させることが可能であり,Yステージ28はY軸に沿って微小分注装置を移動させることが可能であり,ZステージはZ軸に沿って微小分注装置を移動させることが可能である。適切な電子制御のX-Y-Zステージは,オハイオ州ウォッズワースのParker Hnnifinから入手可能である。当業者であれば,例えば,各軸に沿ったフィードバック制御動作が可能なサーボ機構を含む,微小距離の正確な移動が可能である他の可動ステージ装置が代替的に利用できることが理解できるだろう。」(段落[0144])

(1-k)「符号化手段または位置センサは,バイオインク及び/またはその他の溶液の分注を,表面22に相対的な微小分注装置の動作と同期させるために,分注制御モジュール116に対してライン120を通じて位置のフィードバックを提供することができる。」(段落[0156])

(1-l)「分注装置は,30ピコリットル程度の小さな液滴を形成可能な,Microfab, Inc.(テキサス州プラノ)が製造するドロップオンデマンド型のピエゾ電子インクジェットプリントヘッド(PIJPs)を含む。PIJPsは,高解像度のFGF-2の勾配とトロンビン,tTG及び緩衝剤の正確な量を分注するために用いられる。高濃度のフィブリノゲンインクを分注するために,微小分注電磁弁を用いることもできるが(第9図),低解像度である。約1ナノリットルまで印刷解像度を高め,粘性力を向上するために,この弁に対して直列に精密シリンジポンプを追加することができる。低粘度のFGF-2,tTGまたはトロンビンのインクを高解像度で印刷する性能は影響を受けない。分注装置は,プリントヘッドに相対的に基板(すなわち,スライド,動物等)を移動させるコンピュータ制御のX-Yステージ(Parker Hannifin,オハイオ州ウォッズワース)に,取り付けられている。Z軸は,基板からプリントヘッドまでの離間高さを設定するように手動で調整される。また,サーボ制御のZ軸を用いてもよい。」(段落[0216])

したがって,上記記載事項(1-a)?(1-i)を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「選択的にバイオインク溶液を分注して堆積させるための装置であって,該装置は,
a.第1及び第2のバイオインク源を含み,前記バイオインク源は,
i.構造的バイオインク,及び/または,
ii.治療的バイオインクであるバイオインクを含み,該装置はさらに, c.第1及び第2の微小分注装置を含む装置」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用されたSmith et al.,Tissue Engineering,Vol.10, No.9/10,p.1566-1576(2004)(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(2-a)「再生医療の主要な注目点は,非機能的組織の代替物の構築の設計と製造である。組織は,高度に組織化された細胞と細胞外基質との相互作用を示すことから,組織の代替物の製造は,この空間的な組織を模倣するべきである。本稿は,空間的に組織化された生存可能な構造を構築するための立体的で,直接記載方式の細胞分注システムの利用を評価する詳細な研究を報告する。」(第1566頁要約)

(2-b)「立体的なバイオアッセンブリー手段の記述
天然の組織の特徴(微小環境,立体的組織,及び,細胞間接着)を示す人工的な構造物を製造するため,我々はデジタル印刷技術と再生医療の融合を行った。バイオアッセンブリー手段(BAT)は,立体的な異成分からなる組織モデルを構築するため,コンピュータ支援設計・コンピュータ支援製造(CAD/CAM)手段を活用する。BATは,細胞生物学や再生医療における実験のための代替組織や一時的なプラットフォームを形成するために,生物材料,細胞,及び,補助因子を様々な支持表面に対して設計どおりに分注すると考えられている,多くのヘッドを備え,ノズル通過方式の分注装置である。この装置は,ステージと共にXY調整システム,個々の制御ビデオカメラを備えた多くのZ移動の分注ヘッド(現在は4つまで),分注領域の照射及びインラインでの感光性重合体の効果を行う光ファイバー光源,各分注ヘッドのための個別の強誘電の温度制御手段,ステージのためのウォータージャケットの温度制御手段,及び,ピエゾ電子の加湿器を有する。」(第1567頁左欄第47行?右欄第12行)

(2-c)「分注材料の機構
分注工程は,分注進路の立体配置,分注の直線速度,空気圧作動ヘッドの空気圧,または,容積式ヘッドのシリンジとプランジャーの割合等のパラメータの自由度の高い調整を許容する特定のソフトウェアによって制御される。BATは,5μmよりも高い解像度を有する吐出ノズルのXYZ位置の再現性を特徴とする。各ノズルの相互の空間配置の較正は,同様に5μmの正確性でのインラインでのノズル交換を可能にする。」(第1567頁右欄第14?28行)

3 対比

本願発明と引用発明とを対比するに際して,各用語の対応関係を次のとおり整理する。

(1)本願発明の「支持物質」との用語について,本願明細書には明確な定義がなされていないものの,段落【0128】には,「支持物質は、生物学的な構成物(例えば細胞の構成物、組織、器官など)を構成するための成形ユニット(building units)として使用される。」と記載されている。
他方,引用発明の「構造的バイオインク」は,引用例1の記載事項(1-d)に記載されているように,生体模倣構造の立体的な足場を形成するという機能を担っている。また,引用例1の記載事項(1-b)において「構造的バイオインク」として例示される化合物の多くが,本願明細書の段落【0126】に「支持物質」として例示される化合物と一致している。
このように,引用発明の「構造的バイオインク」は,その機能や用いる化合物が一致していることから,本願発明の「支持物質」に相当する。

(2)本願発明の「バイオインク」との用語について,本願明細書の段落【0024】には,「本明細書で使用されるように『バイオインク』は、液体、半固形、または複数の細胞を含む固形組成物を意味する。幾つかの実施形態において、バイオインクは、細胞溶液、細胞集合体、細胞を含むゲル剤、多細胞体、または組織を含む。幾つかの実施形態において、バイオインクは、支持物質をさらに含む。幾つかの実施形態において、バイオインクは、バイオ印刷を可能にする特異的な生体力学的特性を提供する、細胞構造がない物質をさらに含む。」と記載されている。
他方,引用例1の記載事項(1-c)には,「治療的バイオインク」が生体内での生物学的効果を生ずる多くの用途において機能するものであることが記載され,記載事項(1-e)には,細胞であってもよいことが示されていることから,引用発明の「治療的バイオインク」は,本願発明の「バイオインク」に相当する。

(3)本願発明の「カートリッジ」について,本願明細書の段落【0026】には,「本明細書で使用されるように、『カートリッジ』は、バイオインクまたは支持物質を受ける(且つ保持する)ことができる任意の対象を意味する。」と記載されている。
他方,引用例1の記載事項(1-i)には,「バイオインク源」が流体を保持するのに適したリザーバまたは他の容器でよいことが示されているから,引用発明の「バイオインク源」は,本願発明の「カートリッジ」に相当する。
また,引用発明には「コンテンツ」との記載は存在しないものの,バイオインク源に保持される「バイオインク」は,バイオインク源の内容物であることから,本願発明の「コンテンツ」に相当する。

(4)引用発明の「微小分注装置」について,引用例1の記載事項(1-f)には,バイオインク源に流体接続していることが記載され,また,記載事項(1-i)には,バイオインクがバイオインク源から微小分注装置まで供給されることが記載されている。これらの記載を参酌すれば,微小分注装置において分注されるバイオインクがバイオインク源のものであることは明らかであるから,引用発明の「微小分注装置」は,本願発明の「少なくとも1つのカートリッジのコンテンツを分注するための手段」に相当する。

(5)本願発明の「バイオプリンター」との用語について,本願明細書には明確な定義が記載されている訳ではないが,段落【0054】には,「様々な実施形態において、バイオプリンターは、二次元または三次元での所定の幾何学的構造(例えば、位置、パターンなど)において、バイオインク及び/又は支持物質を分注する。幾つかの実施形態において、バイオプリンターは、プリンターヘッドを、プリンターステージまたはバイオ印刷された物質を受けるように適合された受け面に対して動かすことによって、特定の幾何学的構造を達成する。他の実施形態において、バイオプリンターは、プリンターステージまたは受け面を、プリンターヘッドに対して動かすことによって、特定の幾何学的構造を達成する。」と記載されている。
ここで,引用発明の「選択的にバイオインク溶液を分注して堆積させるための装置」は,上記(1)?(4)で検討したとおり,本願発明の「バイオプリンター」と同様にカートリッジや分注するための手段を有することに加え,用いるバイオインクや支持物質においても相違するものではなく,さらに,引用例1の記載事項(1-f)及び(1-j)に記載されているように,微小分注装置を表面に対して相対的に移動させる可動ステージも備えている点においても本願発明と共通している。つまり,引用発明の「選択的にバイオインク溶液を分注して堆積させるための装置」は,その主要な構成や用途において一致していることから,本願発明の「バイオプリンター」に相当する。

以上の検討を踏まえると,本願発明と引用発明とは,

「バイオプリンターであって,該バイオプリンターは,
a.1つ以上のカートリッジを含み,前記カートリッジは,
i.バイオインク,および
ii.支持物質,の1つ以上から選択されるコンテンツを含み,該バイオプリンターはさらに,
c.少なくとも1つのカートリッジのコンテンツを分注するための手段を含むことを特徴とするバイオプリンター。」

である点で一致し,以下の点で一応相違する。

相違点1:本願発明においては,バイオプリンターがプリンターヘッドを
含むこと,及び,プリンターヘッドがカートリッジを受け保持する手段を含むことが特定されているのに対し,引用発明にはそのような特定がなされていない点。

相違点2:本願発明においては,バイオプリンターがカートリッジの位置を較正するための手段を含み,その手段を含む理由が「複雑な構造を作成することができるように前記バイオインク及び/又は前記支持物質を反復可能な精度で分注し、これによって前記バイオインクが受け面及び/又は以前に堆積した物質に対して堆積されるようにするため、かつカートリッジの除去及び挿入による組織構成物に対する前記1つ以上のプリンターヘッドの位置の変化に対処するため」であるのに対し,引用発明にはそのような特定がなされていない点。

4 当審の判断

(1)相違点1について
引用例1の記載事項(1-h)及び(1-l)には,微小分注装置としてインクジェットプリントヘッドを用いることが記載されている。
また,引用例1の記載事項(1-i)及び(1-g)を参照すると,引用発明の微小分注装置は,本願発明の「カートリッジ」に相当する「バイオインク源」に近接して配置されていることから,引用発明において微小分注装置としてインクジェットプリントヘッドを用いた場合には,インクジェットプリントヘッドとカートリッジとが近接し,かつ,流体接合されているものと認められる。
このような状況からすると,たとえ引用例1に文言上の記載がなかったとしても,実際上は,引用発明のプリンターヘッドは,カートリッジと近接して流体結合できるように,カートリッジを受け保持できるような手段を設けていることは明らかである。
したがって,相違点1においては,引用発明と本願発明とが実質的に相違するものではない。

(2)相違点2について
引用例1の記載事項(1-k)には,微小分注装置の動作をバイオインクの分注と同期させるために,位置センサーが位置のフィードバックを提供することが記載されている。また,引用例1の記載事項(1-j)には,各軸に沿ったフィードバック制御動作が可能なサーボ機構を用いることが記載され,記載事項(1-l)にも,サーボ制御を行うことが記載されていることから,引用発明の微小分注装置を動作させる際には,微小分注装置の位置を較正する手段が採用されていたと認められる。なお,「サーボ機構」とは,装置の動作が精密に行われるように位置をフィードバック制御する手段を意味することは技術常識である。
そして,引用例1の記載事項(1-f),(1-g),及び,(1-i)を参酌すると,引用発明においては,微小分注装置とバイオインク源は可動ステージと一体的に移動することが明らかであって,仮にバイオインク源の着脱時において多少の誤差を生じるとしても,装置の作動開始後においては,微小分注装置とバイオインク源の相対的な位置に変化が生じることはないと考えられるため,微小分注装置の位置を較正することは,結果として,バイオインク源の位置を較正することと同義である。
また,引用例1においては,較正する手段を設ける目的が具体的に示されていないものの,較正する手段が位置のずれを修正するという機能を担うという意味において相違するものではなく,目的の特定の有無によって,装置の構造や機能が区別できるという事情も存在しない。
したがって,相違点2においては,引用発明と本願発明とが実質的に相違するものではない。

また,引用例2には,記載事項(2-a)?(2-c)に示されるとおり,細胞組織を構築するための分注装置において,ノズル位置の較正を行うことによって正確な分注を可能にすることが記載されている。
引用例1の記載事項(1-j)に記載されているように,引用発明においても可動ステージの正確な移動が必要とされていることに加え,生体模倣構造を製造しようとする際に高度の精密性が要求されることは,当業者であれば容易に想定できることであるから,引用発明において引用例2のノズル位置の較正手段を用いることは,当業者が容易に想到できたことである。
また,引用例1及び2には,較正する手段を設ける目的について本願と一致する記載は存在しないものの,較正する手段が位置のずれを修正するという機能を担うという意味において相違するものではなく,目的の特定の有無によって,装置の構造や機能が区別できるという事情も存在しない。
そして,本願発明の効果を検討しても,本願明細書には相違点2に起因する効果が具体的に示されている訳ではなく,また,技術常識を参酌しても,本願発明が,当業者の予測を上回る効果を奏するものではない。

(3)まとめ
上記(1)及び(2)の検討結果を踏まえると,本願発明は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。また,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

5 審判請求人の主張

審判請求人は,平成27年12月3日付けの審判請求書の請求の理由を変更する平成28年1月14日付けの手続補正書(方式)において,本願発明が新規性及び進歩性を有するとの主張を行っているものの,本願発明と引用発明との技術内容を具体的に比較して検討したものではなく,審判請求人の当該主張を採用することはできない。

第4 むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,また,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-22 
結審通知日 2016-11-24 
審決日 2016-12-06 
出願番号 特願2013-534925(P2013-534925)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C12M)
P 1 8・ 113- Z (C12M)
P 1 8・ 121- Z (C12M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵櫛引 明佳  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 高堀 栄二
山崎 利直
発明の名称 組織の作成のための、デバイス、システム、および方法  
代理人 清原 義博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ