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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1327503
審判番号 不服2016-2698  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-23 
確定日 2017-05-09 
事件の表示 特願2011-186585「配線構造及びその製造方法並びに電子装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 7日出願公開、特開2013- 48195、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月29日の出願であって、平成27年3月16日付け拒絶理由通知に対して同年5月22日付けで意見書が提出されたが、同年11月17日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成28年2月23日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、更に同年4月28日付けで上申書が提出され、同年11月28日付け当審の拒絶理由通知に対して平成29年1月20日付けで手続補正がなされた。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、平成29年1月20日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基体上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成された複数の配線と、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜上に形成され、前記配線の構成原子の拡散を誘導する誘導層と、
前記配線の上面及び側面に形成され、前記配線の構成原子の拡散を防止するバリア膜と、
前記複数の配線を覆うように形成された他の絶縁膜とを有し、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に凹部が形成されており、
前記誘導層は、前記凹部に沿って前記凹部の底部及び側部に形成され、前記複数の配線に接している
ことを特徴とする配線構造。
【請求項2】
請求項1記載の配線構造において、
前記誘導層は、前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜の表層部に形成されており、前記絶縁膜のうちの粗化された部分である
ことを特徴とする配線構造。
【請求項3】
請求項1記載の配線構造において、
前記誘導層は、前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜の表層部に形成されており、前記絶縁膜のうちのダメージが与えられた部分である
ことを特徴とする配線構造。
【請求項4】
請求項1記載の配線構造において、
前記誘導層は、ハロゲンイオンを含む
ことを特徴とする配線構造。
【請求項5】
請求項1記載の配線構造において、
前記誘導層は、ポリアクリル酸を含む
ことを特徴とする配線構造。
【請求項6】
基体上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に複数の配線を形成する工程と、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に凹部を形成する工程と、
前記配線の構成原子の拡散を誘導する誘導層を、前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に形成された前記凹部に沿って前記凹部の底部及び側部に、前記複数の配線に接するように形成する工程と
前記配線の上面及び側面に、前記配線の構成原子の拡散を防止するバリア膜を形成する工程と、
前記複数の配線を覆うように他の絶縁膜を形成する工程と
を有することを特徴とする配線構造の製造方法。
【請求項7】
基体上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成された複数の配線と、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜上に形成され、前記配線の構成原子の拡散を誘導する誘導層と、
前記配線の上面及び側面に形成され、前記配線の構成原子の拡散を防止するバリア膜と、
前記複数の配線を覆うように形成された他の絶縁膜とを有し、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に凹部が形成されており、
前記誘導層は、前記凹部に沿って前記凹部の底部及び側部に形成され、前記複数の配線に接している
ことを特徴とする電子装置。
【請求項8】
基体上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に複数の配線を形成する工程と、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に凹部を形成する工程と、
前記配線の構成原子の拡散を誘導する誘導層を、前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に形成された前記凹部に沿って前記凹部の底部及び側部に、前記複数の配線に接するように形成する工程と
前記配線の上面及び側面に、前記配線の構成原子の拡散を防止するバリア膜を形成する工程と、
前記複数の配線を覆うように他の絶縁膜を形成する工程と
を有することを特徴とする電子装置の製造方法。」


第3 当審の拒絶理由通知について
1.平成28年11月28日付け当審の拒絶理由の概要

本件出願の請求項1-3,7,8,9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・引用例1:特開平10-233579号公報

2.当審の拒絶理由通知に対する判断
(1)引用例1の記載事項
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、多層プリント配線板およびその製造方法に関し、とくに、導体回路間のショートが少ない多層プリント配線板とその製造方法について提案する。」

イ.「【0030】次に、本発明の多層プリント配線板を製造する一方法について説明する。
(1)まず、コア基板の表面に内層銅パターンを形成した配線基板を作製する。・・・(中略)・・・
【0033】(2)前記(1)で作製した配線基板の上に、層間樹脂絶縁層を形成する。特に本発明では、層間樹脂絶縁材として前述した無電解めっき用接着剤を用いることが望ましい(図1(a)参照)。
【0034】(3)次に、硬化した前記接着剤層の表面に存在するエポキシ樹脂粒子を酸あるいは酸化剤によって溶解除去し、接着剤層表面を粗化処理する(図1(b)参照)。ここで、上記酸としては、リン酸、塩酸、硫酸、あるいは蟻酸や酢酸などの有機酸があるが、特に有機酸を用いることが望ましい。粗化処理した場合に、バイアホールから露出する金属導体層を腐食させにくいからである。一方、上記酸化剤としては、クロム酸、過マンガン酸塩(過マンガン酸カリウムなど)を用いることが望ましい。」

ウ.「【0036】(5)次に、接着剤層表面に無電解めっきを施し、接着剤層の粗化面全面に無電解めっき膜を形成する(図1(c)参照)。このときの無電解めっき膜の厚みは、1?5μmとする。
【0037】(6)次に、無電解めっき膜上にめっきレジストを形成する(図1(d)参照)。めっきレジスト組成物としては、特にクレゾールノボラックやフェノールノボラック型エポキシ樹脂のアクリレートとイミダゾール硬化剤からなる組成物を用いることが望ましいが、他に市販品を使用することもできる。
【0038】(7)次に、めっきレジスト非形成部に電解めっきを施し、導体回路、ならびにバイアホールを形成する(図1(e)参照)。ここで、上記電解めっきとしては、銅めっきを用いることが望ましい。
【0039】(8)さらに、めっきレジストを除去した後、めっきレジスト下の無電解めっき膜を、過酸化水素と硫酸の混合液、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどのエッチング液で溶解除去して、独立した導体回路とする(図1(f)参照)。」

エ.「【0040】(9)次に、導体回路非形成部分に位置する接着剤層の表面をクロム酸でエッチング処理し、その部分の接着剤層表面を 0.1?10μm、好ましくは1?6μm、より好ましくは3?5μm溶解させ、窪みを形成する(図1(g)参照)。

オ.「【0041】(10)そして、導体回路の表面に粗化層を形成する(図1(h)参照)。粗化層の形成方法としては、銅-ニッケル-リン合金層による粗化層を無電解めっきにより析出させる方法がある。・・・(中略)・・・
【0042】(10)そしてさらに、前記(2)?(8)を繰り返すことにより、層間樹脂絶縁層と上層の導体回路を形成する(図1(i)参照)。」

カ.「【0077】また、PCT試験(pressure cooker test)を2気圧、湿度100%、温度121℃、1000時間実施したところ、比較例では、導体回路とその上に形成された無電解めっき用接着層との間に剥離が観察されたが、実施例1、2では剥離は観察されなかった。実施例1では、窪み18の底面だけでなく壁面も粗化されており、樹脂絶縁層2と導体回路上に形成される無電解めっき用接着層2′との密着性に優れているため、導体回路とその上に形成される無電解めっき用接着層2′との密着性にも優れると考えられる。

引用例1には、上記アないしカの記載および図1によれば、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。なお、上記アないしカにおいて、「層間樹脂絶縁層」と「接着剤層」は同じ構成であるから、以下「層間樹脂絶縁層」に統一する。

「配線基板の上に形成された粗化された層間樹脂絶縁層と、
層間樹脂絶縁層の上に形成された導体回路と、
導体回路非形成部分に形成された底面と壁面が粗化された窪みと、
導体回路の上に形成された層間樹脂絶縁層とを有している
ことを特徴とする多層プリント配線板。」

(2)対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「配線基板」及び「層間樹脂絶縁層」は、本願発明1の「基体」及び「絶縁膜」に相当する。
よって、引用発明の「配線基板の上に形成された粗化された層間樹脂絶縁層」は、本願発明1の「基体上に形成された絶縁膜」に相当する。

b.引用発明の「導体回路」は、上記ウおよび引用例1の図1(f)を参照すると、複数形成されているから、本願発明1の「複数の配線」に相当する。
よって、引用発明の「層間樹脂絶縁層の上に形成された導体回路」は、本願発明1の「前記絶縁膜上に形成された複数の配線」に相当する。

c.引用発明の「導体回路非形成部分」は、複数の導体回路の間の部分をいうから、本願発明1の「複数の配線の間の領域」に相当する。
また、引用発明の「窪み」は、導体回路の間の層間樹脂絶縁層を溶解させた部分であるから(上記エ、引用例1の図1(g)を参照。)、本願発明1の「絶縁膜」に形成された「凹部」に相当する。そして、引用発明の「窪み」は、底面と壁面が粗化されているので(上記カ、引用例1の図1(g)を参照。)、導電回路の構成原子が拡散する場合は当然に粗化されている「窪み」に入り込むものであるから、本願発明1の「誘導層」にも相当するものである。
よって、引用発明の「導体回路非形成部分に形成された底面と壁面が粗化された窪み」は、本願発明1の「前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜上に形成され、前記配線の構成原子の拡散を誘導する誘導層」に相当し、また、「前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に凹部が形成されており、前記誘導層は、前記凹部に沿って前記凹部の底部及び側部に形成され、前記複数の配線に接している」ことにも相当する。

d.引用発明の「導体回路の上に形成された層間樹脂絶縁層」は、上記オおよび引用例1の図1(i)を参照すると、導体回路は層間絶縁樹脂層に覆われているから、本願発明1の「前記複数の配線を覆うように形成された他の絶縁膜」に相当する。
但し、本願発明1は「前記配線の上面及び側面に形成され、前記配線の構成原子の拡散を防止するバリア膜」を備えているのに対し、引用発明は「バリア膜」についての特定がない。

e.引用発明の「多層プリント配線板」は、複数の導体回路を有した構造であるから、本願発明1の「配線構造」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「基体上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成された複数の配線と、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜上に形成され、前記配線の構成原子の拡散を誘導する誘導層と、
前記複数の配線を覆うように形成された他の絶縁膜とを有し、
前記複数の配線の間の領域における前記絶縁膜に凹部が形成されており、
前記誘導層は、前記凹部に沿って前記凹部の底部及び側部に形成され、前記複数の配線に接している
ことを特徴とする配線構造。」

<相違点>
本願発明1は「前記配線の上面及び側面に形成され、前記配線の構成原子の拡散を防止するバリア膜」を備えているのに対し、引用発明は「バリア膜」についての特定がない。

上記<相違点>について判断すると、引用発明は、上記オに記載されたとおり、導体回路(本願発明1の「配線」に相当。)の表面に粗化層を形成し、層間絶縁層を形成するものであるから、わざわざ粗化層を覆うような別の層を設ける動機付けはない。よって、引用発明の導体回路上に、本願発明1の「バリア膜」に相当する構成が形成されることはない。
よって、本願発明1は、引用発明と同一ではない。

そして、本願発明1は、バリア膜を備えることにより、配線の構成原子が絶縁膜中に拡散するのを防止することができるという効果を奏するものである。

また、本願発明2ないし5は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、本願発明1と同様に、引用発明と同一ではない。
更に、本願発明6ないし8は、本願発明1とカテゴリーが相違するものであって、上記相違点が発明特定事項とされているから、本願発明1と同様に、引用発明と同一ではない。
よって、当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 原査定の理由について
原査定において、「引用文献1には、表面が絶縁処理された基材10の表面に、受容層12を形成し、受容層12上に導電性金属部14を形成する点が記載されており、引用文献1記載の発明の「導電性金属部14」の間の「受容層12」は、請求項1、8-10に係る発明の「誘導層」に相当する(特に段落0053、0066、図4を参照。)。」とされた。ここで、引用文献1とは、特開2010-87107号公報であり、以下「引用例2」という。
そこで、本願発明1と引用例2に記載された発明とを比較すると、引用例2に記載された発明は、本願発明1の「(基体上に形成された)絶縁膜に凹部が形成」されていること、「バリア層」が形成されていることの特定がない点で相違する。
原査定で引用された引用例1には、絶縁膜に凹部が形成されており、同様に引用された特開2010-16061号公報(以下「引用例3」という。)には、複数の配線の上にバリア膜と絶縁膜を形成することが記載されている。
しかしながら、引用例2に記載された発明は、受容層12(本願発明1の「絶縁膜」に相当。)にわざわざ凹部を設ける動機付けはなく、導電性金属部14(本願発明1の「複数の配線」に相当。)は撥水処理部18で覆われているため、導電性金属部14の上にバリア膜と絶縁膜を形成する動機付けもない。よって、引用例2に記載された発明に、引用例1および引用例3に記載された技術事項を組み合わせることはできない。
よって、本願発明1は、引用例2、引用例1および引用例3に記載された発明から当業者が容易になし得たものではない。
同様に、本願発明2ないし8も、引用例2、引用例1および引用例3に記載された発明から当業者が容易になし得たものではない。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし8に係る発明は、引用例1に記載された発明と同一ではなく、また、引用例2、引用例1および引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-24 
出願番号 特願2011-186585(P2011-186585)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅本 章子深沢 正志  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 井上 信一
酒井 朋広
発明の名称 配線構造及びその製造方法並びに電子装置及びその製造方法  
代理人 北野 好人  

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