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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1327554
審判番号 不服2016-2219  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-15 
確定日 2017-04-27 
事件の表示 特願2011-242896「膜構造物、およびその組立方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月20日出願公開、特開2013- 96202〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成23年11月 4日 出願
平成27年 4月30日 拒絶理由通知(同年5月7日発送)
平成27年 7月 3日 意見書・手続補正書
平成27年11月12日 拒絶査定(同年11月17日発送)
平成28年 2月15日 審判請求書・手続補正書


第2 平成28年2月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年2月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容・目的
平成28年2月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成27年7月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである(下線は補正箇所を示す。)。
(補正前)
「構造物本体側に取り付けられて膜体の端縁部を支持可能とする長尺の支持体を設け、この支持体が、その長手方向に延びるよう形成された掛止孔と、この掛止孔の長手方向の各部の内外を連通させるよう形成されたスリットとを有し、上記膜体の端縁部の厚さをこの膜体の一般部の厚さよりも大きくし、上記膜体の端縁部を上記スリットを通して上記掛止孔に挿入可能とし、上記スリットの最小幅よりも外径が大きくされ、上記膜体の端縁部よりも上記スリット側における上記掛止孔の部分にこの掛止孔の長手方向の端部から挿入される長尺体を設けた膜構造物において、
上記長尺体が可撓性を有し、
上記掛止孔に挿入された上記膜体の端縁部と上記長尺体とのそれぞれ自由状態で、上記膜体の端縁部の近傍部分を挟み互いに対面する上記掛止孔の内面の部分と上記長尺体の外面の部分との間の最大隙間幅が上記膜体の端縁部の厚さよりも小さく、上記掛止孔内への上記長尺体の挿入時に、上記膜体の端縁部が上記長尺体よりもスリット側に入れ替わるのが防止されていることを特徴とする膜構造物。」
(補正後)
「構造物本体側に取り付けられて膜体の端縁部を支持可能とする長尺の支持体が設けられ、この支持体が、その長手方向に延びるよう形成された掛止孔と、この掛止孔の長手方向の各部の内外を連通させるよう形成されたスリットとを有し、上記膜体の端縁部の厚さがこの膜体の一般部の厚さよりも大きく且つ上記スリットの最小幅よりも小さく形成され、上記膜体の端縁部が上記スリットを通して上記掛止孔に挿入可能であり、上記スリットの最小幅よりも外径が大きくされ、上記膜体の端縁部よりも上記スリット側における上記掛止孔の部分にこの掛止孔の長手方向の端部から挿入される長尺体が設けられた膜構造物において、
上記長尺体が可撓性を有し、
上記掛止孔に挿入された上記膜体の端縁部と上記長尺体とのそれぞれ自由状態で、上記膜体の端縁部の近傍部分を挟み互いに対面する上記掛止孔の内面の部分と上記長尺体の外面の部分との間の最大隙間幅が上記膜体の端縁部の厚さよりも小さく、上記掛止孔内への上記長尺体の挿入時に、上記膜体の端縁部が上記長尺体よりもスリット側に入れ替わるのが防止されていることを特徴とする膜構造物。」

上記補正事項は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「膜体の端縁部の厚さ」について、「且つ上記スリットの最小幅よりも小さく形成され」という事項を付加して限定したものであり、かつ補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。
また、新規事項を追加するものではないから、同法第17条の2第3項の規定を満たしている。
そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第1項第3号第29条第2項違反)
(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である、欧州特許第470024号明細書(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある(原文のアクセント記号は省略されている。審決にて仮訳及び下線を付した。)。

ア 「En fait, plus generalement, les profiles tubulaires 3, composant cette structure demontable 2, sont de section parallelepipedique et comportent au niveau d'au moins un de leurs angles 12 une gorge a profil 13, 14 dans laquelle peut coulisser une ralingue 15 equipant l'un des bords lateraux 16, 16A des baches 5 a 7. 」(6欄13?18行)
(仮訳)
「実際、一般的には、この組立構造2を構成する管状押出形材3は、平行六面体を形成し、そのコーナー部12のうちの少なくとも一つに、キャンバスシート5?7の縁16,16Aに取付けられたボルトロープ15をスライドさせることができる異形溝13,14を有する。」

イ 「De plus, au moins une gorge a profil 13,14 d'un tel profile tubulaire 3, d'une part, est determinee de section 19 suffisante pour lui permettre d'accueillir au moins deux ralingues 15, 20 ou une ralingue 15 et un jonc de verrouillage 21. D'autre part, cette gorge a profil 13, 14 presente une ouverture laterale 22 de largeur 23 ajustee 25 a la section d'une ralingue 15 pour en autoriser l'engagement lateral tout en lui interdisant de s'extraire lateralement de ladite gorge a profil 13, 14 en cas de presence de la seconde ralingue 20 ou du jonc de verrouillage 21 . 」(6欄19?29行)

(仮訳)
「加えて、管状押出形材3の少なくとも1つの異形溝13,14は、2つのボルトロープ15,20、または、一つのボルトロープ15と一つのロッド21を収容するのに十分な断面部分19によって画定される。その一方で、異形溝13,14は、横方向の連結を可能とし、かつ、第2のボルトロープ20又はロッキングロッド21が存在する場合には、該ボルトロープ15が前記異形溝13,14から横方向へ引き抜かれるのを防止する、ボルトロープ15の断面に調整された幅23を有する側面開口部22を備える。」

ウ 「Plus particulierement, il est illustre dans la figure 4, un chapiteau 1 muni d'une bache 5 constituant la toiture a pentes multiples. Cette bache 5 est, en fait, disposee sur la structure demontable 2 apres assemblage de cette derniere et ses bords lateraux 16, 16A, munis de ralingues 15, sont alors introduits, au travers de l'ouverture laterale 22, dans la gorge a profil 13 des profiles tubulaires 3.」(6欄34?41行)

(仮訳)
「より詳細には、図4に、屋根の複数の斜面を構成するキャンバスシート5を備えたテント1が示されている。このキャンバスシート5は、実際、組立構造2とその縁16,16Aが組み立てられた後、組立構造2の上に配置され、ボルトロープ15が備えられ、側面開口部22を通じて、管状押出形材3の異形溝13に導入される。」

エ 「Il est important de noter que l'introduction de la seconde ralingue 20 ou du jonc 21 s'effectue, necessairement, longitudinalement et depuis une extremite des profiles 3. Par ailleurs, une fois la manoeuvre debutee, on constate qu'au cours de la progression longitudinale de cette seconde ralingue 20 ou de ce jonc 21 , la ralingue 15 correspondant a un bord lateral 16, 16A de la bache 5 vient a s'introduire, tel une fermeture a glissiere, automatiquement et lateralement dans la gorge a profil 13.
Tel qu'illustre dans la figure 3, la seule surepaisseur 24 que procure la toile d'une bache 6, 7, au niveau de l'ouverture laterale 22 de la gorge a profil 13 permet d'eviter que l'une des ralingues 15, 20 ne s'echappe, lateralement, de cette gorge a profil 13. Toutefois, en cas d'utilisation d'un simple jonc 21 , tel que represente dans la figure 5, il peut etre necessaire d'eviter que la ralingue 1 5 correspondant au bord 1 6 d'une bache vienne a passer a l'avant du jonc 21 et se presente, ainsi, au droit de l'ouverture laterale 22 de la gorge a profil 13,14.
Aussi, il est preconise, selon un premier mode de realisation, de choisir le jonc 21 de diametre accru de maniere a empecher, precisement, la ralingue 15 correspondant a la bache a s'echapper au travers de cette ouverture laterale 22 de ladite gorge a profil 13, 14.
Il peut encore etre confere a la gorge a profil 13, tel que represente dans les figures 2 et 3, une section de forme optimisee et, eventuellement, ellipsoidale, apte a accueillir au moins deux ralingues 15, 20 juxtaposees ou une ralingue 15 et un jonc 21 . 」(6欄55行?7欄23行)

(仮訳)
「第2のボルトロープ20またはロッド21は、必ず、管状押出形材3の一端から、長手方向に導入されることに注意すべきである。さらに、この作業が一旦開始されれば、第2のボルトロープ20またはロッド21の長手方向への進行動作において、キャンバスシート5の縁16,16Aに対応するボルトロープ15が、異形溝13の横方向に導入され、ジッパーのように自動的に閉鎖されることが理解される。
図3に示すように、キャンバスシート6,7の布を保持する、余分な厚さ24が、異形溝13の側面開口部22において、ボルトロープ15,20のいずれかが、異形溝13の横方向に逃げるのを防ぐ。
しかしながら、図5に示されるように、単純なロッド21を使う場合は、キャンバスシートの縁16に繋がったボルトロープ15が、ロッド21の前を通過して、異形溝13,14の側面開口部22の右側に現れることを防止する必要がある。
第1の実施形態によると、 ロッド21の直径を大きくして、キャンバスシートに繋がったボルトロープ15が異形溝13,14の側面開口部22を通じて抜けることを防止することが好ましい。
図2,3に示すように、異形溝13は、並置された少なくとも2つのボルトロープ15,20、又は、1つのボルトロープ15とロッド21を収容するのに適した形状、場合によっては楕円形状を有する。」


オ 図1?図5として、




















カ 上記摘記事項ア及びイを参照しつつ、上記図2をみると、「キャンバスシート5の縁16,16Aに取付けられたボルトロープ15の断面はキャンバスシート5の一般部の厚さより大きい」こと、「異形溝13の側面開口部22は、異形溝13の長手方向の内外を連通している」ことが看て取れる。また、異形溝13の側面開口部22は、横方向の連結を可能とするよう、ボルトロープ15の断面に調整された幅23を有するのであるから、「ボルトロープ15の断面は側面開口部22の幅23より小さく形成され、ボルトロープ15が側面開口部22を通して異形溝13に挿入可能である」ことが図2から看て取れる。

キ 上記摘記事項アないしウを参照しつつ、上記図3及び図4をみると、「第2のボルトロープ20は、その外径が側面開口部22の幅23より大きい」こと、及び、「第2のボルトロープ20は、ボルトロープ15よりも側面開口部22側における異形溝13の部分に管状押出形材3の長手方向の一端から挿入される」ことが看て取れる。
また、摘記事項エの「第2のボルトロープ20またはロッド21の長手方向への進行動作において、キャンバスシート5の縁16,16Aに対応するボルトロープ15が、異形溝13の横方向に導入され、ジッパーのように自動的に閉鎖される」に関して、上記図3をみると、「ジッパーのように自動的に閉鎖される」とは、「異形溝13の側面開口部22において、ボルトロープ15,20のいずれかが、異形溝13の横方向(図3の左方向、側面開口部22側へ)に逃げるのを防ぐ」ことを意味するから、「第2のボルトロープ20の管状押出形材3の長手方向への進行動作が開始されると、ボルトロープ15が、異形溝13の横方向、すなわち、側面開口部22から離れる方向(図3の右方向)に導入され、自動的に閉鎖される」といえる。

ク 上記アないしキを総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「テント1の組立構造2の上に配置される管状押出形材3のコーナー12には、キャンバスシート5の縁16,16Aに取付けられたボルトロープ15をスライドすることができる異形溝13が設けられ、異形溝13の側面開口部22は、異形溝13の長手方向の内外を連通しており、ボルトロープ15の断面はキャンバスシート5の一般部の厚さより大きく、異形溝13の側面開口部22の幅23より小さく形成され、ボルトロープ15が側面開口部22を通して異形溝13に挿入可能であり、その外径が側面開口部22の幅23より大きく、ボルトロープ15よりも側面開口部22側における異形溝13の部分に管状押出形材3の長手方向の一端から異形溝13に挿入される第2のボルトロープ20が設けられており、
上記異形溝13は、2つのボルトロープ15、20を十分収容可能な断面部分19を備えており、第2のボルトロープ20の管状押出形材3の長手方向への進行動作が開始されると、ボルトロープ15が、異形溝13の横方向、すなわち、側面開口部22から離れる方向に導入され、自動的に閉鎖されるテント1。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 刊行物1発明の「キャンバスシート5、6」は、本願補正発明の「膜体」に相当し、同様に、
「(テント1の組立構造2の上に配置され)(2つのボルトロープ15、20を十分収容可能な断面部分19を備えた)管状押出形材3」は「(構造物本体側に取り付けられて膜体の端縁部を支持可能とする長尺の)支持体」に、
「(キャンバスシート5の縁16,16Aに取付けられた)ボルトロープ15」は「膜体の端縁部」に、
「(ボルトロープ15をスライドすることができる)異形溝13」は「(その(支持体の)長手方向に延びるよう形成された)掛止孔」に、
「(異形溝13の)側面開口部22」は「(この掛止孔の長手方向の各部の内外を連通させるよう形成された)スリット」に、
「(その外径が側面開口部22の幅23より大きく、ボルトロープ15よりも側面開口部22側における異形溝13の部分に管状押出形材3の長手方向の一端から異形溝13に挿入される)第2のボルトロープ20」は「(上記膜体の端縁部よりも上記スリット側における上記掛止孔の部分にこの掛止孔の長手方向の端部から挿入される)長尺体」に、
「テント1」は「膜構造物」に、相当する。

イ 刊行物1発明の「ボルトロープ15の断面はキャンバスシート5の一般部の厚さより大きく、異形溝13の側面開口部22の幅23より小さく形成され、ボルトロープ15が側面開口部22を通して異形溝13に挿入可能」である構成は、本願補正発明の「膜体の端縁部の厚さがこの膜体の一般部の厚さよりも大きく且つ上記スリットの最小幅よりも小さく形成され、上記膜体の端縁部が上記スリットを通して上記掛止孔に挿入可能」である構成に相当する。

ウ 刊行物1発明の「異形溝13は、少なくとも2つのボルトロープ15、20を十分収容可能な断面部分19を備えて」いる構成は、本願補正発明の「掛止孔に挿入された上記膜体の端縁部と上記長尺体とのそれぞれ自由状態」である構成に相当する。

エ 刊行物1発明の「第2のボルトロープ20」(長尺体)が可撓性を有することは、構成上明らかな事項である。

オ 上記アないしエを踏まえると、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「構造物本体側に取り付けられて膜体の端縁部を支持可能とする長尺の支持体が設けられ、この支持体が、その長手方向に延びるよう形成された掛止孔と、この掛止孔の長手方向の各部の内外を連通させるよう形成されたスリットとを有し、上記膜体の端縁部の厚さがこの膜体の一般部の厚さよりも大きく且つ上記スリットの最小幅よりも小さく形成され、上記膜体の端縁部が上記スリットを通して上記掛止孔に挿入可能であり、上記スリットの最小幅よりも外径が大きくされ、上記膜体の端縁部よりも上記スリット側における上記掛止孔の部分にこの掛止孔の長手方向の端部から挿入される長尺体が設けられた膜構造物において、
上記長尺体が可撓性を有する、膜構造物。」で一致し、
下記の点で一応相違する。

(相違点)
本願補正発明は、「上記掛止孔に挿入された上記膜体の端縁部と上記長尺体とのそれぞれ自由状態で、上記膜体の端縁部の近傍部分を挟み互いに対面する上記掛止孔の内面の部分と上記長尺体の外面の部分との間の最大隙間幅が上記膜体の端縁部の厚さよりも小さく、上記掛止孔内への上記長尺体の挿入時に、上記膜体の端縁部が上記長尺体よりもスリット側に入れ替わるのが防止されている」のに対し、
刊行物1発明は、「長尺体(第2のボルトロープ20)の支持体(管状押出形材3)の長手方向への進行動作が開始されると、膜体の端縁部(ボルトロープ15)が、係止孔(異形溝13)の横方向、すなわち、スリット(側面開口部22)から離れる方向に導入され、自動的に閉鎖される」ものの、上記構成の特定がない点。

(3) 判断
ア 刊行物1発明における「長尺体(第2のボルトロープ20)の支持体(管状押出形材3)の長手方向への進行動作が開始されると、膜体の端縁部(ボルトロープ15)が、係止孔(異形溝13)の横方向、すなわち、スリット(側面開口部22)から離れる方向に導入され、自動的に閉鎖される」構成は、「上記掛止孔内への上記長尺体の挿入時に、上記膜体の端縁部が上記長尺体よりもスリット側に入れ替わるのが防止されている」構成に相当する。

イ また、刊行物1には、「図5に示されるように、単純なロッド21を使う場合は、キャンバスシートの縁16に繋がったボルトロープ15が、ロッド21の前を通過して、異形溝13,14の側面開口部22の右側に現れることを防止する必要がある。第1の実施形態によると、 ロッド21の直径を大きくして、キャンバスシートに繋がったボルトロープ15が異形溝13,14の側面開口部22を通じて抜けることを防止することが好ましい。」(前記(1)エ参照。)との記載があるとおり、「膜体の端縁部」と「長尺体」の位置が入れ替わることを防止するために、「ロッド21の直径を大きく」するなど、「掛止孔の内面の部分と長尺体の外面の部分との間の最大隙間幅」を狭くすることが示唆されている。
そして、長尺体(第2のボルトロープ20)を支持体(管状押出形材3)の長手方向への進行・挿入する過程において、掛止孔に挿入された膜体の端縁部と上記長尺体とが、それぞれ自由状態であることは、当然の事項である。

ウ 上記ア及びイから、相違点に係る「上記掛止孔に挿入された上記膜体の端縁部と上記長尺体とのそれぞれ自由状態で、上記膜体の端縁部の近傍部分を挟み互いに対面する上記掛止孔の内面の部分と上記長尺体の外面の部分との間の最大隙間幅が上記膜体の端縁部の厚さよりも小さく、上記掛止孔内への上記長尺体の挿入時に、上記膜体の端縁部が上記長尺体よりもスリット側に入れ替わるのが防止されている」との構成は、刊行物1に記載されているに等しい事項というべきである。

エ 請求人は、請求書において「ロープ15が抜けでないことを意味しているだけであって、第2ロープ20の挿入時にロープ15が開口22側に入れ替わるのが防止されていることまで意味するものではない。」「引用文献1には、図5を参照しつつ、単一リング21を用いるときには、ロープ15がリング21の前を通って溝14の右側に位置することを防止することが必要であることも記載されている。しかしながら、この記載も、ロープ15が開口22から抜けでない(つまり、開口22の外側に位置することを防止する)ことを示唆しているだけであって、第2ロープ20の挿入時において、溝13,14の中で、ロープ15が開口22側に入れ替わるのが防止されることまで意味するものではない。」などと、ロープ15が開口22の外側に位置することを防止する示唆があるだけで、掛止孔内への長尺体の挿入時に入れ替わることを防止することを意味しない旨、主張する。
しかしながら、「第2のボルトロープ20(長尺体)の長手方向の導入(挿入)」後に、位置が入れ替わることがなく、ボルトロープ15(端縁部)の抜けが防止されている以上、「第2のボルトロープ20を、管状押出形材3の一端から、長手方向に導入される」との作業が一旦開始されれば、その第2のボルトロープ20の挿入時に、位置が入れ替わることがないことは、当然の構成とみるべきである。このことは、刊行物1の図3の異形溝13の形状からも明らかである。
また、刊行物1(上記(1)エ参照。)には、「第2のボルトロープ20またはロッド21は、必ず、管状押出形材3の一端から、長手方向に導入される」と、最初に「第2のボルトロープ20(長尺体)の長手方向の導入(挿入)」について記載され、次に、「この作業が一旦開始されれば」「ボルトロープ15が、異形溝13の横方向に導入され、ジッパーのように自動的に閉鎖される」と記載されていることから、「第2のボルトロープ20(長尺体)の長手方向の導入(挿入)」作業において、「ボルトロープ15(端縁部)が、異形溝13(係止孔)の横方向、すなわち、側面開口部22(スリット)から離れる方向に導入され、自動的に閉鎖され」、位置の入れ替わりが防止されていると理解できるから、請求人が主張するように、「自動的に閉鎖される」状態が、単に抜け止めを意味するだけで、「長尺体の挿入時」を除外したものと解釈することは妥当ではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

オ 以上のとおり、上記相違点に係る構成は、刊行物1に記載されているに等しい事項というべきである。
仮に、上記構成が、刊行物1に記載されているに等しい事項ではなかったとしても、刊行物1発明において上記構成を採用することは、ボルトロープ15が異形溝13から抜け出ることを防ぐという当然の目的を達成するために、当業者が必然的に採用すべき設計的事項にすぎない。

(4) まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1発明と実質的に同一であるか、または、当業者が刊行物1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、拒絶査定時の平成27年7月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 [理由] 1」において、本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物1の記載事項は、上記「第2 [理由] 2(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「膜体の端縁部の厚さ」について、「且つ上記スリットの最小幅よりも小さく形成され」という事項を付加して限定したものが本願補正発明であるから、本願発明と刊行物1発明とを対比すると、両者は、上記相違点で一応相違し、その余の点で一致する。
そして、上記相違点については、上記「第2 [理由] 2(3)」において検討したとおりであるから、本願発明は、刊行物1発明と実質的に同一であるか、または、当業者が刊行物1発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明と実質的に同一であるか、または、当業者が刊行物1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
したがって、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、特許を受けることができないものであるから、請求項2ないし5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-27 
結審通知日 2017-02-28 
審決日 2017-03-13 
出願番号 特願2011-242896(P2011-242896)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04H)
P 1 8・ 113- Z (E04H)
P 1 8・ 121- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 聡志土屋 真理子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
発明の名称 膜構造物、およびその組立方法  
代理人 玉串 幸久  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  

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