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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08B |
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管理番号 | 1327565 |
審判番号 | 不服2016-10920 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-20 |
確定日 | 2017-04-27 |
事件の表示 | 特願2012-49470「受信機および自動火災報知システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月19日出願公開、特開2013-186566〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月6日の出願であって、平成27年9月29日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年12月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年4月21日付けで拒絶査定(発送日:同年4月26日)がなされ、これに対し、同年7月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 平成28年7月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成28年7月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本願補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成27年12月4日の手続補正書)の請求項1に、 「【請求項1】 感知器回線のそれぞれに対応させて複数の発報ランプを備え、火災時には、発報した感知器回線に対応した発報ランプが点灯する受信機において、 感知器回線の発報情報を時系列的に記憶する記憶部と、 所定の操作を受け付けると履歴表示モードが起動して、前記複数の発報ランプのいずれかを、前記記憶部に発報情報を記憶させた順序、またはその逆順序で点灯させることによって、感知器回線の発報履歴を通知する表示制御部とを備えており、この発報履歴の通知では、履歴の区切り毎に前記複数の発報ランプを一旦全消灯させることを特徴とする、受信機。」 とあったものを、 「【請求項1】 感知器回線のそれぞれに対応させて複数の発報ランプを備え、火災時には、発報した感知器回線に対応した発報ランプが点灯する受信機において、 感知器回線の発報情報を時系列として、予め用意された所定数のスロットに循環的に記憶する記憶部と、 所定の操作を受け付けると履歴表示モードが起動して、前記複数の発報ランプのいずれかを、前記記憶部に発報情報を記憶させた順序、またはその逆順序で点灯させることによって、感知器回線の発報履歴を通知する表示制御部とを備えており、この発報履歴の通知では、履歴の区切り毎に前記複数の発報ランプを一旦全消灯させることを特徴とする、受信機。」 と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。)。 上記補正は、発明を特定するために必要な事項である「記憶部」について「予め用意された所定数のスロットに循環的に記憶する」との限定を付するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。 2 刊行物 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2002-92753号公報(以下「刊行物1」という。)には、「火災受信機」に関して、図面(特に、図1?図3)と共に次の事項が記載されている。下線は当審で付した。以下同様。 ア 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、小規模向けのP型火災受信機は、プリンターやCRT等の周辺機器が設けられていないため、試験発報により発報した感知器回線の試験結果を点検後にチェックすることができず、火災感知器を発報させる担当者と、受信機で実際に正常に作動したかを確認する担当者の2人が必要であった。 【0008】本発明は、プリンターやCRT等の周辺機器を持たくとも、一人による火災試験を可能とする火災受信機を提供することを目的とする。」 イ 「【0013】 【発明の実施の形態】図1は本発明による火災受信機の実施形態を示したブロック図である。図1において、本発明の火災受信機1は受信制御部として1チップCPU2を設けている。1チップCPU2はCPU部3、入出力部4、メモリ5及び電源部6を一体化している。 【0014】このような1チップCPUとしては、例えばNEC製78Kシリーズ8ビットワンチップマイコン(μPD78078)等を使用することができる。1チップCPU2の入出力部4に対しては、操作部11、表示部12、ブザー鳴動部13、地区ベル制御部14、火災受信回路16-1?16-10、電話回路部20、移報出力部24及び移報入力部(各種入力部)25が設けられている。 【0015】地区ベル制御部14から引き出された制御線には地区ベル15が接続されている。火災受信回路16-1?16-10のそれぞれからは感知器回線17-1?17-10が引き出され、それぞれ火災感知器18を接続しており、終端には断線監視用の終端抵抗19が接続されている。 【0016】火災感知器18としては、火災による熱を検出するものは自己非保持型の火災感知器を使用し、火災による煙を検出するものは自己保持型の火災感知器を使用しており、火災による熱、煙などを検出すると、感知器回線を低インピーダンスに短絡し、発報電流を流すことで火災受信回路16-1?16-10側で火災感知器の作動による回線発報を受信検出することができる。」 ウ 「【0020】このような本発明の火災受信機1にあっては、1チップCPU2に設けたCPU部3のプログラム制御による機能として、履歴作成部8と履歴確認部9が設けられている。 【0021】履歴作成部8は、火災受信機1における履歴モードの設定状態で、例えば操作部11に設けている火災試験モード設定スイッチとして機能する試験復旧スイッチ26の操作で設定した火災試験モードの状態、直接、熱や煙を加えることで試験発報した火災感知器18に対応する感知器回線17-1?17-10の発報回線発報データをメモリ5に履歴データ10として順次保存する。 【0022】履歴確認部9は、火災試験によって履歴作成部8が試験発報した感知器回線のデータをメモリ5に履歴データ10として格納した後に、操作部11の履歴確認スイッチ27を操作して履歴確認モードを設定すると、メモリ5の履歴データ10から発報回線データを発報順に読み出して、表示部12に設けている感知器回線に対応した地区灯を点滅又は点灯する。 【0023】履歴確認スイッチ27としては、火災受信機1に専用のスイッチを設けてもよ図2は図1の火災受信機1に設けた操作部11と表示部12を含む操作表示部1aの説明図である。図2において、操作表示部1aの上部には火災代表灯28が設けられる。操作表示部1aの左側には地区灯30-1?30-10が配置され、火災受信時に対応する感知器回線の地区灯を点灯する。また地区灯30-1?30-10は、図1の履歴確認部9による発報回線データの識別表示にも使用される。」 エ 「【0027】本発明の火災受信機1にあっては、点検時に火災試験モード設定スイッチとして機能する図2の試験復旧スイッチ26を操作すると、CPU部3の履歴作成部8が試験モードの設定状態となり、火災感知器18の試験による発報を受信し、発報した感知器回線の発報回線データを発報順にメモリ5に履歴データ10として格納する履歴作成処理を行う。 【0028】試験が終了したならば、操作部11に設けている履歴確認スイッチ27を操作すると、履歴確認モードの設定によりCPU3の履歴確認部9が動作し、メモリ5から履歴データ10としの発報回線データを読み出し、発報順に対応する図2の地区灯30-1?30-10のいずれかを点滅または点灯する。」 オ 「【0031】図3は図1の火災受信機1における制御処理のフローチャートである。図3において、まずステップS1で試験モードを設定する試験復旧スイッチ26のオン操作をチェックしており、オン操作を判別すると、ステップS2に進み、試験モードに遷移する。 【0032】試験モードに入ると、ステップS3で火災感知器の発報をチェックしている。火災感知器の設置場所で直接、熱や煙を加えることで火災感知器が発報すると、この感知器発報がステップS3で判別され、ステップS4に進み、発報した感知器回線の地区灯を点滅し、またステップS5で主音響装置及び地区響装置を鳴動し、更にステップS6で各種移報出力をオンし、更にステップS7で図1の履歴作成部8が作動した感知器回線の回線情報をメモリ5に履歴データ10として格納する。」 カ 「【0037】火災感知器の試験が終了し、図2の試験復旧スイッチ26を操作すると、試験モードが終了となり、この試験モード終了がステップS12で判別され、ステップS1に戻る。このとき試験モードはオフであることから、ステップS13に進み、履歴確認スイッチ27がオンで且つメモリ5に履歴データ10があるか否かチェックする。 【0038】履歴確認スイッチ27がオンし且つメモリ5に履歴データ10があれば、ステップS14で、メモリ5から最初に発報した感知器回線のデータを読み出し、対応する地区灯を一定時間点滅する。続いてステップS15で、2番目に発報した感知器回線の地区灯を同じく一定時間点滅する。 【0039】以下同様にして、ステップS16で最後に作動した感知器回線の地区灯を一定時間点滅する。このようなステップS14?S16による試験により発報した感知器回線の履歴データに基づく地区灯の発報順に従った順次点滅により、火災感知器の試験結果が正常か異常かを火災受信機1で確認することができる。 【0040】ここで図2のように、火災受信機1の回線数は地区灯30-1?30-10に対応して10回線であり、10回線程度であれば点検要員は火災感知器の試験を行う地区の順番を簡単なメモや頭で覚えておくことができ、この火災感知器の試験を行った順番に地区灯30-1?30-10が点滅するか否かで、点滅すればその感知器回線の試験発報による受信機動作は正常であり、もし点滅しなかった場合には何番目の試験発報かで試験結果が異常となった感知器回線を容易に知ることができる。」 キ 「【0042】なお上記の実施形態にあっては、火災試験の履歴データの読出表示の際に地区灯を一定時間点滅しているが、一定時間点灯するようにしても良い。また火災受信機1に音声メッセージを出力する音声合成部が設けられている場合には、メモリから読み出した発報回線の情報を音声メッセージによって出力するようにしてもよい。この音声メッセージは、例えば「感知器回線○○番が発報しました」というように、感知器回線の番号と発報メッセージを出す。」 上記記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「感知器回線17-1?17-10のそれぞれに対応させて複数の地区灯30-1?30-10を備え、火災受信時には、発報した感知器回線17-1?17-10に対応した地区灯30-1?30-10が点灯する火災受信機1において、 感知器回線17-1?17-10の発報回線データを発報順に、記憶するメモリ5と、 履歴確認スイッチ27がオンすると履歴確認モードが起動して、前記複数の地区灯30-1?30-10のいずれかを、前記メモリ5に発報回線データを記憶させた発報順に点灯させることによって、感知器回線17-1?17-10の発報した履歴を表示するCPU部3とを備えており、この発報した履歴の表示では、地区灯30-1?30-10を一定時間点灯する、火災受信機1。」 (2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2000-137880号公報(以下「刊行物2」という。)には、「火災報知設備の表示装置」に関して、図面(特に、図1、図10)と共に次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、火災報知設備の表示装置に関し、特に、火災報知設備におけるいわゆる総合操作盤(CRTによる表示装置)において、警報画面等を効率的に区画して表示したり、また、過去の履歴を取り出して保存したりすることができる火災報知設備の表示装置に関するものである。」 イ 「【0013】 【発明の実施の形態】以下、この発明の一実施の形態を図について説明する。図1はこの発明の実施の形態による火災報知設備の表示装置の全体を示す構成図である。図において、1は表示装置、2は表示装置1が接続された火災受信機である。また、この火災受信機2には、信号線を介して複数の端末機器が接続されており、ここでは、例えば煙感知器20や熱感知器21の火災感知器(自動で火災を検出する装置)、発信機22(火災発見者が操作する装置)、地区ベル装置23による地区音響装置(建物の各部で火災の発生を警報する装置)、防火戸24の防排煙装置(発生した煙を制御排出する装置、火災に基づき制御される装置一般を指す)、ガス漏れ検知器25(自動で漏れたガスを検出する装置)等が接続されている。これらの構成要素によって、実質的に火災報知設備を構成している。」 ウ 「【0016】13は制御部11により映出すべき画像を出力する画像出力部、14は画像出力部13に接続されて画像をCRTに表示する表示手段としてのCRT表示部、15はCRTにポインタを表示させてそれを移動させると共に、入力を判別するマウス16が接続される操作入力部、17は制御部11の動作をプログラミングしたデータや映出する画像データなどが記憶される記憶手段としての記憶部(ハードディスクドライバ)、18は記憶媒体3に制御部11からの制御によりデータの書き込みや読み出しを行うFD駆動部(フロッピーディスクドライバ)である。CRT表示部14の画像は、必ずしもCRTでなくともよく、LCDやプラズマディスプレイ等であってよく、さらに、表示装置1全体を火災受信機2に組み込んで、CRT表示部14を火災受信機2自体の図示しない表示部に使用してもよい。」 エ 「【0041】次に、履歴機能について説明する。この機能は、過去に発生した警報や操作、システム異常、等の状態変化情報をリスト表示や印字して、事後の解析等に役立てるものである。最大例えば1024報までの情報を例えば記憶部17や記憶媒体3に記憶することができる。また、情報が1024報を超えると古い情報から上書きする。先ず、履歴リスト画面の映出・確認方法は、CRT表示部14の画面上のメニューバーにある「画面選択」を操作してサブメニューを開き、「履歴リスト」を選択する。すると、図10に示すような履歴リストの画面に切り換わる。履歴リストは時系列に(上が新しい情報)表示され、最新情報の前には[最新]と表示される。画面内に表示できる情報量を超えると、画面右のスクロールバーが小さくなり、スクロール可能なことを示す。履歴リストの続きはスクロールさせて確認する。次いで、印刷画面内の「画面印刷」スイッチを操作し、画面内に表示されている範囲の情報を印字する。印字中にキャンセルする場合には「印刷中止」を操作する。」 3 対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「感知器回線17-1?17-10」は前者の「感知器回線」に相当し、以下同様に、「複数の地区灯30-1?30-10」は「複数の発報ランプ」に、「火災受信時」は「火災時」に、「火災受信機1」は「受信機」に、「感知器回線17-1?17-10の発報回線データ」は「感知器回線の発報情報」に、「メモリ5」は「記憶部」に、「履歴確認スイッチ27がオンする」ことは「所定の操作を受け付ける」ことに、「履歴確認モード」は「履歴表示モード」に、「メモリ5に発報回線データを記憶させた発報順に点灯させる」ことは「記憶部に発報情報を記憶させた順序で点灯させる」ことに、「CPU部3」は「表示制御部」に、「発報した履歴を表示する」ことは「発報履歴を通知する」ことにそれぞれ相当する。 また、後者の「発報回線データを発報順に記憶する」ことと前者の「発報情報を時系列として、予め用意された所定数のスロットに循環的に記憶する」とは、「発報情報を時系列として、記憶する」という限りで共通する。 したがって、両者は、 「感知器回線のそれぞれに対応させて複数の発報ランプを備え、火災時には、発報した感知器回線に対応した発報ランプが点灯する受信機において、 感知器回線の発報情報を時系列として、記憶する記憶部と、 所定の操作を受け付けると履歴表示モードが起動して、前記複数の発報ランプのいずれかを、前記記憶部に発報情報を記憶させた順序で点灯させることによって、感知器回線の発報履歴を通知する表示制御部とを備える、受信機。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 本願補正発明は、記憶部が「予め用意された所定数のスロットに循環的に」記憶するのに対し、 引用発明は、メモリ5がかかる構成を備えているか不明である点。 〔相違点2〕 本願補正発明は、「発報履歴の通知では、履歴の区切り毎に前記複数の発報ランプを一旦全消灯させる」のに対し、 引用発明は、「発報した履歴の表示では、地区灯30-1?30-10を一定時間点灯する」点。 4 当審の判断 そこで、各相違点を検討する。 (1)相違点1について 本願明細書には、本願補正発明の記憶部が「予め用意された所定数のスロットに循環的に」記憶することに関して、「図6のフローチャートは、発報情報の記録手順の一例を示している。記憶部14には、1?M番目のスロットが準備されており、最大Mステップの発報履歴が記録できる。またnはスロットのいずれかを示すポインタである。ステップ100は、感知器回線2および発信機22の発報を監視する処理である。発報がなければこの処理が繰り返される。ステップ101、102は、発報した感知器回線2または発信機22を特定して、その感知器回線2または発信機22の発報情報を記録する処理である。このとき発報情報は、その時点でポインタnが指定しているスロット、つまりn番目のスロットに書き込まれる。ステップ103?105は、ポインタnの更新処理である。まずポインタnの値がMと一致しているか否かを判断し、一致していればポインタnの値を「1」に戻す。一致していなければ、ポインタnの値をプラス1する。その結果、感知器回線2や発信機22の発報情報は昇順で各スロットに書き込まれ、M番目スロットまで進むと、最初のスロットに戻って書き込まれる。」(段落【0032】?段落【0035】)との記載がある。 この記載及び図6によれば、本願補正発明の「所定数のスロットに循環的に」記憶するとは、記憶部14が備えるM個のスロットに対し、1番目のスロットから順にM番目スロットまで発報情報を書き込み、M番目スロットまで進むと最初のスロット、すなわち1番目のスロットに戻って書き込むことと解される。 他方、刊行物2には、火災報知設備の表示装置において、過去の警報等の履歴機能として記憶部17が備える1024個の領域に対し過去に発生した状態変化情報を記憶し、情報が1024個を超えると古い情報から上書きすることが記載されている(以下「刊行物2に記載された事項」という。)。 そして、引用発明と刊行物2に記載された事項とは、ともに火災報知装置に関し、報知履歴等を記憶するものであり、引用発明のメモリ5に容量の上限があることは明らかであるから、メモリ5が発報回線データを発報順に記憶するにあたって、当該上限内で記憶するために、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用して、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 刊行物1には、「試験モードが終了となり、この試験モードはオフであることから、ステップS13に進み、履歴確認スイッチ27がオンで且つメモリ5に履歴データ10があるか否かチェックする。履歴確認スイッチ27がオンし且つメモリ5に履歴データ10があれば、ステップS14で、メモリ5から最初に発報した感知器回線のデータを読み出し、対応する地区灯を一定時間点滅する。続いてステップS15で、2番目に発報した感知器回線の地区灯を同じく一定時間点滅する。以下同様にして、ステップS16で最後に作動した感知器回線の地区灯を一定時間点滅する。このようなステップS14?S16による試験により発報した感知器回線の履歴データに基づく地区灯の発報順に従った順次点滅により、火災感知器の試験結果が正常か異常かを火災受信機1で確認することができる」(段落【0037】ないし段落【0039】)との記載、及び「火災試験の履歴データの読出表示の際に地区灯を一定時間点滅しているが、一定時間点灯するようにしても良い」(段落【0042】)との記載がある。 これらの記載によれば、図3のステップS14?S16において地区灯の順次点滅又は点灯により火災感知器の試験結果の正常か異常かを確認するためには、ステップS14の開始前においては全ての地区灯は消灯していることは明らかである。 また、刊行物1には、「火災感知器の試験を行った順番に地区灯30-1?30-10が点滅するか否かで、点滅すればその感知器回線の試験発報による受信機動作は正常であり、もし点滅しなかった場合には何番目の試験発報かで試験結果が異常となった感知器回線を容易に知ることができる」(段落【0040】)との記載がある。 この記載によれば、図3のステップS14?S16において何番目の試験発報かで試験結果が異常であることを容易に知り得ることが要請されることが理解できる。 引用発明は、発報した履歴の表示では地区灯30-1?30-10を「一定時間点灯する」ものであるが(刊行物1の段落【0042】)、その他の態様として前記段落【0037】ないし段落【0039】に記載されているように「一定時間点滅する」ことも許容している。刊行物1には、ステップS14?S16の各回の発報の間に地区灯がどのような状態になっているかについて明示的記載はない。 しかしながら、各回において地区灯を「一定時間点灯」させることにより、発報の履歴データが正常か否かを知らせるものであるので、各回毎に「一定時間点灯」したことの確認として、各発報の間は「一定時間点灯」でない状態である必要があり、「一定時間点灯」でない状態を表す態様としては「消灯」又は「点滅」しかなく、当業者において「消灯」を選択することは、必要に応じて容易に想到し得るものと認められる。 また、各回において地区灯を「一定時間点滅」する場合には、その確認のために、各発報の間は「一定時間点滅」でない状態、すなわち「消灯」又は「点灯」しかなく、同様に、「消灯」を選択することは容易に想到し得るものと認められる。 また、本願出願前において、点灯による履歴の通知において、履歴の区切り毎に複数のランプを一旦全消灯させることは、周知技術である(例えば、拒絶査定において引用された特開2002-304217号公報の「直近に発生した故障内容を認識するために、整備員等は故障呼び出しスイッチ35をオン状態に保持する。CPU30aは、故障呼び出しスイッチ35による入力を認識し、初回履歴表示タイミングと認識して、適切な時間(例えば0.5秒)経過後に全ての故障検出ランプを消灯する。その後、CPU30aは、不揮発性メモリ30cに格納されている情報に基づいて、直近に発生した故障の内容を故障検出ランプに反映する。具体的には、適切な時間(例えば1?2秒)、これを点灯する。これにより、整備員等は直近に発生した故障内容を認識することができる。これより更に古い故障内容を知ろうとする場合は、整備員等は故障呼び出しスイッチ35を押しつづける。CPU30aは、これを表示更新タイミングと認識して、適切な時間(例えば0.5秒)、全ての故障検出ランプを消灯した後、ひとつ遡った故障状態を故障検出ランプに反映させる。具体的には、適切な時間(例えば1?2秒)、これを点灯する。これにより、整備員等はひとつ遡った故障内容を認識することができる。整備員等は、必要に応じて故障呼び出しスイッチ35を押し続け、CPU30aは、これに応じて過去の故障情報についてのランプ表示を順番に行なう。記憶された故障情報の全ての点灯表示が完了し、遡って表示する情報が無くなった場合、CPU30aは、最後の故障情報を点灯表示した状態に保って、整備員等に、これ以上遡る故障情報が存在しないことを認識させる」(段落【0028】ないし段落【0030】)との記載参照。)。 これを踏まえると、引用発明の「発報した履歴の表示」において「地区灯30-1?30-10を一定時間点灯する」際に、何番目の試験発報の試験結果であるかを区別するために、上記周知技術も参酌し、地区灯を一定時間点灯する毎に、ステップS14の開始前と同様に、全ての地区灯が消灯している状態として、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3)効果について 本願補正発明が奏する効果は、全体としてみて、引用発明、刊行物2に記載された事項及び上記周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 (4)まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年12月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。 3 対比及び当審の判断 本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明における「記憶部」について「予め用意された所定数のスロットに循環的に記憶する」との限定を省いたものである。 そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、引用発明、刊行物2に記載された事項及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-02-21 |
結審通知日 | 2017-02-28 |
審決日 | 2017-03-14 |
出願番号 | 特願2012-49470(P2012-49470) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G08B)
P 1 8・ 575- Z (G08B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 信也、松原 徳久 |
特許庁審判長 |
阿部 利英 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 内田 博之 |
発明の名称 | 受信機および自動火災報知システム |
代理人 | 沖本 周子 |
代理人 | 奥村 公敏 |
代理人 | 中井 宏行 |